Contract
第3章 3PL契約ガイドライン
3PL契約書ガイドライン
国土交通省
目 次
Ⅰ.はじめに 19
Ⅱ.ガイドライン策定の背景 20
Ⅲ.ガイドラインの目的 20
Ⅳ.本ガイドラインの構成(盛り込む内容の概要) 21
Ⅴ.3PL契約書ガイドライン 22
Ⅵ.おわりに 32
Ⅶ.参考資料 33
Ⅰ.はじめに
平成16年度から国土交通省では「3PL人材育成研修」を行い、3PLを担う物流事業者の育成を図っているところである。しかしながら、3PLが新たな事業形態であることもあり、実務においては付帯費用の負担やコスト削減の効果の帰属先等をあいまいにしたまま契約がなされるケースも多く、物流事業者が不利益を被ること例が散見される。また一方で、荷主企業においても物流コストに関する不透明性を訴える声も多く、契約に関する重要性を否むことができない。
こうした現状に対応するため、2006 年 11 月から「3PL事業促進のための環境整備に関する調査検討委員会」を開催し、物流事業者および荷主企業双方の実態を踏まえながら、3PL契約書ガイドラインを重要テーマの一つと位置づけ、検討を行った。
Ⅱ.ガイドライン策定の背景
現状の3PL事業では、新たに仕事を追加されてもそれに見合った料金をもらえないケースや、物流事業者と荷主企業がxxとなって改善施策を推進したにも係らず、その改善効果を物流事業者と配分することを荷主企業が事前認識していなかったが為に、物流事業者が効果配分を享受できないというケースがある。これを解決するためには、物流事業者および荷主企業が充分にコミュニケーションを取り、契約書を充実させることが必要である。それは国土交通省が物流事業者に対して行ったアンケートでも、3PL事業の拡大にあたって必要な条件整備事項に「標準的な3PL契約の書式の作成や標準約款」と回答した者が32%にものぼることから伺う事ができる。
しかし、物流事業者の主張を担保する契約書を作成するには、物流事業者の立場、更に作成にかかる費用を考慮すると非常に困難なことであり、今後も自律的な変革が見込めない状況である。
このため、本委員会にて契約ガイドラインを策定し、3PL契約書ガイドラインを公表するに至ったものである。
Ⅲ.ガイドラインの目的
本ガイドラインは、物流事業者が荷主との取引のために契約書を作成する段階で、物流事業者が荷主企業との関係において、荷主企業からの一方的な要求を是正し契約上対等な地位を確保するために、現状の実態を踏まえた契約項目に加え、3PL事業の課題を解決する礎となる項目についても定めている。なお契約書そのものの雛型については、各物流事業者および各荷主企業の業種や業態、更には個々の事業環境に応じて契約内容および様式が異なることから本ガイドラインでの提示は差し控えるものの、契約書作成に係る物流事業者および荷主企業に参照いただくことで、受託業務の確実な実施および管理、適切な効果配分の享受等、3PL事業拡大のための礎となることを望むものである。
また、荷主企業においても、本ガイドラインを参照いただき、3PL事業の利用を促進いただくとともに、3PL事業活用による一層の価値が享受できるよう望むものである。
Ⅳ.本ガイドラインの構成(盛り込む内容の概要)
本ガイドラインは、物流事業者と荷主企業が3PL契約書を作成するにあたり、「アンケート結果を踏まえた一般的な項目」と「契約書に追記するにあたって物流事業者および荷主企業で検討が必要な項目」の2つに区分し、留意すべき点を示したものである。本ガイドラインに準じた契約書作成にあたっては、物流事業者は、自社の状況にあった対象となる契約の特性を勘案の上、具体的な適用の仕方について適切な方法を検討することを望むものである。
なお、契約書作成にあたっては、各業法の約款を前提とした上で、本ガイドラインと整合性をとるよう、留意いただきたい。
1. 3PLのアンケート結果を踏まえた項目(必要なもの)
1.1. 目的(業務の範囲)
1.2. 業務の細目(業務の運営方法)
1.3. 秘密保持(業務上知り得た両者の情報の第三者への開示非開示)
1.4. 事故報告(事故発生時の措置等)
1.5. 損害賠償(事故発生時の損害賠償の責)
1.6. 損害保険(保険のxx)
1.7. 料金及び支払方法(業務委託料の発生、請求、支払等)
1.8. 契約期間(契約期間及び自動更新)
1.9. 解約(解約の事前予告)
1.10.解除(有事の一方的解除要求)
1.11.再委託(物流事業者の再委託事項)
1.12.法律の遵守(関連する法律の遵守)
1.13.価格情報の取り扱い
2. 契約書に追記するにあたって物流事業者及び荷主企業で検討が必要な項目(重要なもの)
2.1.荷主の協力
2.2.改善効果の評価項目および管理指標
2.3.利益配分
参考 インセンティブ5と管理指標
5 インセンティブとは、動機付け。さらに、動機付けを機能する報酬(金銭的報酬及びスキルxxx)も含む。
Ⅴ.3PL契約書ガイドライン
1. 3PLのアンケート結果を踏まえた項目(必要なもの)
1.1.目的(業務の範囲)
■荷主が物流事業者に委託する旨を明記しておくこと。
■荷主が物流事業者に委託する業務の範囲を明記しておくこと。
物流事業者が受託(荷主が委託)する業務範囲を明記する。なお、当条項で明記する業務範囲とは、保管業務や輸送業務等の3PLサービス種大綱(参照:Ⅶ参考編3PLサービス業務例)を指し、その詳細については次条項にて明記をする。
本条項の決定にあたっては、物流事業者、荷主企業の双方がその要件、制約事項を出し合い合意しておくことが重要である。
1.2.業務の細目(業務の運営方法)
■「1.1.目的(業務の範囲)」において定めた業務範囲の業務明細とその運営方法を明記しておくこと。
■業務明細に変更が生じた場合の改定方法についても明記しておくこと。
前条項に記載した業務範囲の業務細目を明記する。なお業務細目については運営後の変更が予想されることから、両者協議などのその改定方法についても併せて明記しておく。また、実態として本条項については、覚書などの別紙による締結をしているケースも見受けられる。
業務細目の明記がなかったり、物流事業者と荷主企業間の内容認識が合致していない場合、業務範囲の拡充や料金再設定をする際、両者間の調整に齟齬を来たす可能性がある。これを抑制するために、物流事業者と荷主企業が共同で業務細部について詳しく規定をし、更にはその改定方法についても明記しておくことは重要である。
1.3.秘密保持(業務上知り得た両者の情報の第三者への開示非開示)
■秘密情報の取扱いについて明記しておくこと。
■秘密情報に成り得ない情報の定義を明記しておくこと。
業務の委受託にあたって両者が知り得た相手方に関する秘密情報を第三者に開示しないことを明記しておくとともに、相手方から知得する以前に所有していた情報などの秘密情報に成り得ない情報定義も明記しておく。
秘密情報の取扱いは、企業のライフラインに影響する恐れがあるため、本条項
にて、秘密情報の取扱いを明記することは非常に重要である。
1.4.事故報告(事故発生時の措置等)
■「1.1.目的(業務の範囲)」に明記した業務範疇における事故発生時の連絡とその対処について明記しておくこと。
■事故の定義について明記しておくこと。
「1.1.目的(業務の範囲)」及びその細目である「1.2.業務の細目」にて明記した業務範疇内において発生した事故発生時の両者間の連絡と協議の上、対処を決定することを明記する。
なお、ここでの事故は、貨物の毀損や汚損、紛失に加えて、委受託業務の遅延・不履行も含めることとし、その旨も併せて明記する。
また、連絡が取れない場合が存在するため、その処置方法について、あらかじめ両者間で決定しておくべきである。
1.5.損害賠償(事故発生時の損害賠償の責)
■「1.4.事故報告(事故発生時の措置等)」において定めた事故において、一方の責による事故と規定される範囲の損害を相手方に与えた場合、その損害を賠償することを明記しておくこと。
■賠償の範囲、賠償の算定方法、賠償の限度、賠償請求の期限を明記しておくこと。
■ただし、一方の責に帰しえない理由による場合(天災地変、暴動、法令の制定改廃、公権力による命令処分などの不可抗力による場合)はその責任を免れる旨を明記しておくこと。
「1.4.事故報告(事故発生時の措置等)」の事故により、両者に発生した損害に関する賠償措置について明記する。なお、事故発生の原因および責任範囲については、事故発生を想定した両者間の事前認識があることが望ましく、両者合意の内容を契約書に明記する必要がある。
物流事業者責任による事故としては、委託物品の破損、汚損、未配送、誤配送等の物流事業者(物流事業者が再委託する配下の物流事業者)の故意・過失により発生する事故が想起されるが、運送後、着荷主への引き渡し完了後の事故発見については、物流事業者および荷主企業の両者による原因調査が必要である。
例えば、荷主責任によって発生する事故として、発注や出荷指示のミスなどがある。
よって、物流事業者の責任に帰さない事由でも物流事業者が責任を負わざるを得なくなる事態発生を抑制すべく、本条項は契約書締結の際の充分な注意が必要である。
また、損害賠償についても、1事故あたりの賠償金額の限度を、契約書面に記載しておくことが望ましい。特に庫内業務においては、棚卸資産の差異についての事故発生責任を荷主企業から求められることが多く、その場合は差異についての数値範囲(在庫金額のnパーセントなど)をあらかじめ取り決めておくべきである。また棚卸資産の差異(在庫違算)についての補償金額の算定方法も重要であり、荷主企業の業種・業態によっては、仕入金額ではなく、売価での補償を要求される事もあるため、注意が必要である。ただし、荷物の特性により損害金額が甚大になる可能性がある荷物(例:ある部品自体は非常に安価だが、その部品がないと、高価な製品が完成しないなど)の場合は、業界の取引慣行も考慮して、賠償金額を決める必要がある。
さらに補償範囲は、商品金額以外に、工賃、出張費、運送費なども含まれることがあるので、あらかじめ契約書に範囲を記載しておくことが望ましい。
1.6.損害保険(保険のxx)
■「1.4.事故報告(事故発生時の措置等)」において定めたかかる責任の損害に対して、保険をxxする旨を明記しておくこと。
■誰がxxをするのかを明記しておくこと。
双方安心して業務を遂行するために、保険のxxについては、保険証の写しを交付するなど付保証明の提示や、保険契約を変更、解約する場合は報告するなどの配慮が必要とされる。
1.7.料金及び支払方法(業務委託料の発生、請求、支払等)
■本業務に対しての、料金及び請求、支払方法を明記しておくこと。
■既存料金の改定について明記しておくこと。
「1.1.目的(業務の範囲)」およびその細目である「1.2.業務の細目」にて明記した委受託業務において発生する料金の支払い方法について明記する。
なお、本件については、業務履行実態を踏まえた改定がありうるため、業務に支障なきよう、契約書と同等の効力を発揮する覚書として締結しておくこともある。
1.8. 契約期間(契約期間及び自動更新)
■契約の有効期間及び更新条件を明記しておくこと。
本契約書の有効期間及びその更新について明記する。
契約の有効期間については、年月日での範囲や本契約発効日からの年数などの記述がある。なお、3PL事業は、物流事業者にとって荷主企業向けの個別投資
(倉庫、設備、情報システムなど)が発生する場合が多く、契約期間が投資回収に大きな影響を与えることが想定されるため、契約締結前の両者間の充分な調整が重要である。
また、契約更新については、期間満了前に有効期間を設け、「その期間内に契約の変更、もしくは解約の申し入れがなければ、同一条件にて、契約が自動更新されるものとする。」などの記述をしているケースも見受けられる。
1.9.解約(解約の事前予告)
■本契約の解約方法及び解約後の措置について明記しておくこと。
物流事業者、あるいは荷主企業の一方の何らかの事情により、相手方に対して解約を申し入れることができる旨や予告期間等の解約方法と措置を明記する。
なお、両者があらかじめ合意した管理指標を達成できない場合、荷主企業が催告後に解約を可能とする条項が追加されることがあるため、管理指標設定にあたっては、両者十分に検討のうえ決定することが必要であるとともに、契約書明記についても充分に留意する必要がある。
更に契約期間内の解約の場合、補償金の問題が発生する場合があるため、補償金の算定の根拠(範囲)と負担区分について、両者間で事前協議・決定しておくことが望ましく、契約条文への記載についても検討することが必要である。また物流事業者が締結したリース契約の荷主企業への引き継ぎや、契約期間中に発生した資産(建物、設備、ソフトウェアなど)の所有権などについては覚書として双方で取り決めておくことが望ましい。
1.10.解除(有事の一方的解除要求)
■本契約の解除について、明記しておくこと。
■本解除に従い、相手方が被った損害の措置について、明記しておくこと。
解除については、物流事業者および荷主企業の一方に、特定の契約解除の事由が生じた場合、相手方は、何等の通知、催告を要せず、契約の全部または一部を解除する場合があるので、それらを両者で取り決め、明記する必要がある。
特定の契約解除の事由の一般的事項としては、以下のものがありうる。
①契約の履行義務違反と一定期間の催告後の是正がない時
②背信行為
③監督官庁からの営業、取引停止処分
④財産に関する差し押さえ、強制執行
⑤破産
⑥合併、解散、減資などの決議と、その信用に不安がある時
⑦その他の不信用
⑧災害などにより契約履行が困難と判断された時
など
是正にあたっては、相手方に対しての是正するための時間を設定することが重要である。
損害賠償に関しては、災害他、やむを得ない理由の場合は除外とする。
1.11.再委託(物流事業者の再委託事項)
■本業務の履行につき、物流事業者が他の物流事業者等に再委託できる旨を明記しておくこと。
■他の物流事業者等への再委託の範囲を明記しておくこと。
■物流事業者は他の物流事業者に再委託した場合であっても、契約に基づき義務と責任を負う旨を明記しておくこと。
「1.1.目的(業務の範囲)」にて明記した業務履行にあたり、物流事業者がその配下の他の物流事業者等に再委託できる旨、およびその業務範囲と責任区分を明記する。
荷主企業によっては、再委託を禁止する条文を望む場合があるが、3PL事業が協力会社への委託によって成り立っている現状を説明し、品質保持上重要な業務について荷主企業の許可を得る、または承諾を得るなどの条文への変更を交渉すべきである。
また荷主企業からは、再委託先を指定される場合もあるが、この場合は物流事業者側の責任を軽減、および再委託先を変更できるような特約条項の検討も必要である。
さらに物流事業者は、再委託先のさらに再委託先の業務についても責任が生じるため、再委託先との契約内容についても、きちんと整備しておくべきである。
1.12.法律の遵守(関連する法律の遵守)
■国内外の関係する法律を遵守する旨を明記しておくこと。
契約については、どこの国の法律に基づくかを明記するとともに、業務を行うにあたり関連する法律を遵守することも明記すること。また、契約に関連して生じた係争については、双方が合意した地方裁判所(例えば、東京地方裁判所)が専属的管轄権を有する旨を明記する。これは、物流事業者と荷主企業の所在地が離れている場合、専属的合意管轄裁判所をどこに設定するかによって、交通費などのコストに影響が出る。そのため、中間地点などに設定する場合もある。
1.13.価格情報の取り扱い
■本業務において、荷主から知り得た価格情報についての取扱いについて明記しておくこと。
■本業務において、本業務の必要上、知り得た第三者(再委託先など)の物流事業者の価格情報についての取扱いを明記しておくこと。
荷主の価格情報は荷主にとって非常に重要な機密情報とされるため、情報セキュリティの観点からも、その取り扱いについては両者間にて充分な打合せを実施し設定しておくことが重要である。
例えば、輸出入における通関業務など、業務によっては価格情報を物流事業者が知りえる場合がある。それら価格情報の開示の範囲、開示対象者、守秘方法、違反措置、監査等について、取り決めておく必要がある
なお本項については「1.3.秘密保持(業務上知り得た両者の情報の第三者への開示非開示)」に包含されるケースもある。
または、荷主の委託を受けて物流事業者が入札を実施する場合、入札に参加した他の物流事業者の価格情報の扱いについて、秘密保持の方針を検討し、決定しておくことが重要である。
2. 契約書に追記するにあたって物流事業者及び荷主企業で検討が必要な項目(重要なもの)
2.1.荷主の協力
■物流事業者が受託業務を履行するにあたって、荷主企業の協力が必要な旨を明記しておくことは重要である。
物流事業者が本業務を円滑に履行するために荷主の協力が必要であること、更にはその内容を可能な限り、両者間で合意しておく必要がある。
「1.1.目的(業務の範囲)」にて明記した一部、あるいは全ての業務の履行時、またその改善を推進・遂行するにあたって、物流事業者単体で対処可能な項目と荷主が対処すべき事項があることを両者が事前認識しておくことは、次項
「2.2.改善効果の評価項目および管理指標」も含めて、3PL事業を成功裡に結びつける重要な要因となる。
物流事業者が認識する「荷主からの一方的コストダウン要求」等の3PL事業履行における課題や、荷主が認識する「目標物流コスト削減額の未達」等の課題解決、および両者間の意識の齟齬を抑制するに効果的であると考えられる。
荷主が対処・協力すべき項目は、以下(例)。
①荷主方針(物流目標、施策、拠点閉鎖・移転など)の物流事業者への提示
②委託物品内容(商品、荷姿、届け先情報など)の物流事業者への提示
③物流改善に関わる荷主側業務の改善の推進
④物流事業者が本業務を履行するために必要な荷主の記録及びその開示時期ならびに取得方法(契約完了から運用開始までも含む)の提示
など
2.2.改善効果の評価項目および管理指標
■本業務の履行の程度を評価するために、評価項目と管理指標、評価方法、評価の報告、管理指標の見直し、評価開始日、評価期間、評価サイクル、評価結果の是正方法、評価未達の場合の対処を明記しておくことは重要である。
物流事業者と荷主企業両者の所期目的達成のためにも、目標設定は重要であるが、両者の信用・信頼構築のためには、現状オペレーションのモニタリングを含め、両者が事前に合意した評価項目と管理指標に則り効果を検証し、改善していくことが重要である。
しかし、「2.1.荷主の協力」にて記載した荷主側の充分な協力を得られたとしても、その改善効果を両者が同等に認知・評価しなければ、3PL事業を成功裡に結びつけることは困難である。
なお、期や年度単位での評価対象期間および評価サイクルについては、物流事業者と荷主企業の両者にて充分な話し合いを実施のうえ決定することが重要である。また初期業務立上げ時は混乱が予想されることもあり、契約開始日と評価開始日をずらす等の配慮も検討すべきと考える。
管理指標としては、以下の事項(例)
①金額効果(コスト削減効果 等)
②輸送品質(指定納期/時間達成度、実輸送時間/輸送計画見込み時間 等)
③保管品質(棚卸の精度、在庫実績値/在庫計画値 等)
④物流品質(製品紛失・破損発生の抑制度、物流事故発生の抑制度 等)
⑤取引精度(請求行為の精度 等)
2.3.利益配分
■目標を達成することによって得られる効果を物流事業者と荷主で配分する旨を明記しておくことは重要である。
■目標達成できなかった場合や目標以上の効果が得られた場合の対処に関して明記しておくことは重要である。
両者が合意した目標達成に向け展開する施策は、「2.1.荷主の協力」にて記載したとおり、物流事業者と荷主の両者が協業して合理化改善施策の立案および実行する場合が多い。その場合には、その改善効果は適正な基準を以って物流事業者と荷主の両者に配分されるべきであり、ひいては物流事業者の3PL事業における充分な利益捻出や荷主の物流コスト削減等の課題解決に大きく寄与をすると考えられる。
また利益配分は、物流事業者の目標達成に向けたモチベーション向上にもつながり、結果、所期設定以上のサービス向上やコスト削減効果を得られることも期待される。
なお具体的配分要領について、両者にて十分な話し合いを実施のうえ設定することが重要であるとともに、目標達成できなかった場合の負担や、目標以上の効果が得られた場合の配分に関しても併せて事前に設定しておくことが重要である。
特に、目標を達成できなかった場合の負担に関しては、負担規模、負担者、負担内容等を考慮し、負担の有無も含め双方合意の上、決定することが重要である。
参考 インセンティブと管理指標
物流事業者にとって、3PL事業推進上の課題を解決して行くためには、荷主の協力と、双方にとって明確な管理指標の設定が必要である。
物流事業者と荷主企業がパートナーシップを構築し合理化改善施策を協業して遂行するためには、両者の利害を分かち合う必要がある。そのためには、両者合意の達成目標とその達成度を測る管理指標の設定が重要である。この達成目標と管理指標ができなければ、インセンティブ制度の導入は極めて難しい。
インセンティブは「ゲインシェア」と呼ばれる、荷主の物流コスト削減値の一定割合金額の支払いや、目標達成時のボーナス支払だけに着目されやすいが、それ以外に、両者協業の改善活動を実施する上で、物流事業者が取得した業務ノウハウ、改善ノウハウも、実は物流事業者の新たな付加価値であり、何よりも得難いインセンティブであると考えられる。
まずインセンティブ制度を導入する上では、荷主の物流コスト或いは品質等の評価側面を決定した上で目標値の設定をすることが必要である。そして、達成するための施策、管理指標を定め、物流事業者と荷主企業が協業で目標達成にあたっていく姿勢が最も重要である。
インセンティブ制度は、物流事業者と荷主企業が協業した合理化改善施策を継続させていくためには有効な手段であり、荷主企業はインセンティブ制度導入について、前向きに取り組むことが望ましい。
改善の継続は、企業の競争力強化のため、とても重要な要因である。特に物流業務は、物流事業者と荷主企業との協業がなければ継続することが難しい。何故なら、物流事業者は一定の改善効果を達成するとその維持に終始し、さらなる改善の継続を止めてしまう場合もある。これは改善をすることで、売上収入の低下を招くのではないかという恐れが起因していると想定される。その状況の中で、インセンティブ制度の導入は、物流事業者の業務水準の高度化や改善努力を促す有効な手段の一つなのである。
インセンティブ制度の成功を納めるためには、物流事業者と荷主企業の合意に基づく、業務の管理指標、評価方法の設定が極めて重要である。
管理指標の設定は、下記プロセスにおいて物流事業者及び荷主企業に効果を発揮する。
・改善すべき業務領域の発見
・改善施策の進捗度合いのモニタリング
・改善効果の両者合意の下の定数把握
一般的な物流業務の管理指標の例として、以下の5指標を示す。
①金額効果(コスト削減効果 等)
②輸送品質(指定納期/時間達成度、実輸送時間/輸送計画見込み時間 等)
③保管品質(棚卸の精度、在庫実績値/在庫計画値 等)
④物流品質(製品紛失・破損発生の抑制度、物流事故発生の抑制度 等)
⑤取引精度(請求行為の精度 等)
実際に、物流事業者と荷主企業の間では、個々の企業毎によるオリジナルの管理指標も採用されているようである。また注意事項としては、管理指標を設定するだけではなく、正確に管理指標を算出する元データを正確にどのような手段で取得するかを、物流事業者、荷主間で調整し、合意しなければならない。正確なデータでなければ取得し、評価をする意味が失われるからである。
管理指標の具体的な設定方法は、事例を交えながら、「3PLの成功要因」に記載しているので、ご参照いただきたい。
また、物流事業者が3PL業務において管理指標を導入した場合の効果について下記に示す。
①物流事業者が正確な物流コストや生産性を把握できることにより、荷主へ効果を提示できる。
②荷主の複数拠点を、同一の比率基準で横並びに数値で比較し、良し悪しが見えるようになる。それまで、感覚的に良し悪しを判断せざるを得なかったが、同一基準による数値比較により、改善活動を実施することが可能になる。
③管理指標の数値分析により、各物流業務の問題点が見えるようになる。
問題点を数値化することで、改善すべき物流業務の優先順位付けが可能となり、早期に改善結果を出すことができる。
④物流コスト・生産性などの標準数値(作業単価)が見えるようになる。
物流事業者は標準数値を改善目的だけではなく、新規物流拠点の設計根拠としての利用や他社荷主への営業活動(提案)におけるコスト単価の設定にも使用できる。
このように、管理指標の導入により、改善活動の推進や業務ノウハウ蓄積と言った大きなメリットが出せる。
Ⅵ.おわりに
本ガイドラインは、物流事業者と荷主企業の両者が3PL事業により適正なメリットを享受できるようになることを目的として策定した。結果として、物流事業者が荷主企業との関係で契約上対等な地位を築くための礎となることを切に望む次第である。
Ⅶ.参考資料
1. 用語解説
3PL事業の定義:
3PL事業とは、荷主企業の物流機能である輸送、保管、在庫、顧客サービス、荷役、情報サービスなどを、荷主企業に代わって一括(フルライン)して提供するか、もしくは、これらの機能を個別にまたはいくつかを組み合わせて、一定期間契約に基づいて提供する事業者のことである。
(出典:xxx「アメリカ物流改革の構造~トラック輸送産業の規制緩和」1999 年 5 月)
【3PLサービス業務例】
以下のサービス業務の内、2 つ以上を組み合わせて実施されている場合を物流事業者とする。
○梱包:物流事業者が、商品(製品)の輸送・保管のために行う梱包作業のこと
○流通加工:物流事業者が、荷主からの仕様に従って商品(製品)を簡易な加工(組立て、詰め替え、包装、商品名の表示、検品、値札貼り等)をすること
○輸送:物流事業者が、荷主に指定された場所へ商品(製品)を移動すること
○保管:商品(製品)を一定期間倉庫に置いておくこと
○在庫管理:在庫商品(製品)の量、鮮度(賞味期限等)を管理すること
○荷役:輸送機器への積み下ろし、倉庫などへの入出庫(含む仕分け作業)を総称した作業のこと
○返品・回収:荷主の顧客から返された商品(製品)の回収輸送及び保管作業のこと
○情報サービス:調達から販売までの「商品(製品)、輸送、拠点運営」を情報システムによって管理すること
○コンサルティング:荷主が抱える物流課題の解決策を提案、実行(支援)すること
○輸出入サービス:商品(製品)の輸入・輸出に関わる処理業務のこと
○据付サービス:納入先における商品(製品)の配送および据付業務のこと
○求貨求車(庫)サービス:荷主からの荷物情報、運送(倉庫)会社からの空車(庫)情報をマッチングさせるサービス
○その他:例として、顧客関連業務代行(受注代行、代金回収など)