Contract
労働法の概要
第1章 労働法の役割
労働契約は私法上の契約であるから、契約自由の原則により、その契約内容を労働者と使用者の合意により自由に決定できるはずである。しかし、一般に労働者は使用者に比べて交渉力や情報量の面で大きく劣位するため、労働契約について契約自由の原則を貫徹すると、労働者が不利な契約内容を押し付けられることになりがちである。そこで、労働法は、実質的な意味での契約の自由(さらには、市場機能)を回復させるために、労働基準法や労働契約法、労働組合法などにより特別な法的規律を設けている。
労働法は、対象領域に着目して、雇用関係法、集団的労働法、雇用保障法に分類することができる。以下では、雇用関係法と集団的労働法の概要を取り上げる。
第2章 雇用関係法
雇用関係法とは、個々の労働者と使用者との間の雇用関係を規律する法律の総称である。代表的なものとしては、労働基準法、労働契約法が挙げられる。これらは、労働条件の最低水準を定めるとともに、基本的人権に関する規律や労働契約に関する基本的ルールを定めている。
1.労働契約の内容の規律(形成/補充)
労働条件は、労働契約の内容により決せられる。
労働契約の内容を規律する代表的なものとしては、労使間の合意(労働契約法 3 条 1 項・8 条)、就業規則(労働契約法 7 条本文・10 条本文)・労働協約(労働組合法 14 条以下)・強行法規の一部(労働基準法 32 条等)が挙げられる。
労使間合意
就業規則
労働協約
強行法規の一部
これらの間には、優劣がある。
①労使間合意・就業規則・労働協約は強行法規を下回ってはならないから、
「労使間合意・就業規則・労働協約 ≧ 強行法規」となる。
②労使間合意は就業規則の水準を下回ってはならないから、「労使間合意 ≧就業規則 ≧ 強行法規」となる。
③労使間合意・就業規則は労働協約を下回ることも上回ることもできないから、労働協約は、労使間合意・就業規則に優先して、労働条件を労働者にとっ
て有利にも不利にも規律する(有利原則否定説)。
労働条件に関する労働契約の内容
[図解]
A
A
ほかにも、労使慣行(民 92 条)と
xxx(民 1 条 2 項、労契 3 条 4
項)がある。
厳密には、外部規律説からは、労働協約は労働契約を外部から規律するにとどまる(契約内容の修正は伴わない、速修 332 頁・1(2)イ)。
速修 332 頁 1(3)イ
(具体例)
case1:Y 社では、就業規則においてアルバイトの時給について定めておらず、採用面接の際に、その都度、アルバイトの時給について合意をしていた。
➡X が Y 社との間で「X の 1 年目の時給を 1000 円とする」旨の合意をしていれば、X の 1 年目の時給に関する契約内容は、上記合意により、「Xの 1 年目の時給を 1000 円とする」という内容になる(合意による契約
内容の確定)。その結果、X の 1 年目の時給は 1000 円になる。1)
case2:Y 社では、就業規則で「1 年目のアルバイト従業員の時給を 1000 円とする」旨を定めていた。
➡1 年目のアルバイト X の時給に関する契約内容は、原則として、就業規則により、「1 年目の時給を 1000 円とする」という内容になる(合意原則に対する例外)。2)3)
case3:Y 社には、同社従業員によって組織される Z 労働組合があり、Z 労働組合と Y 社との間で、「来期は、Z 労働組合の組合員全員の基本給を 10%アップする」旨の労働協約を締結した。
➡基本給 10%アップを内容とする労働協約の規範的効力が Z 労働組合の組合員 X にも及ぶことにより、X の基本給に関する契約内容が「来期は、基本給を 10%アップする」という内容に規律される。その結果、X の今期の基本給が月額 30 万円であれば、来期の基本給が月額 33 万円まで上がる。
case4:Y 社は、従業員 X との間で、「1 日 8 時間を超える法定時間外労働をしても、X には残業代を一切支払わない」旨の合意をした。
➡労基法では、1 日 8 時間を超える法定時間外労働に対しては、一定額の残業代(割増賃金)を支払わなければならないとされている(労基 37 条
1 項)。そうすると、X・Y 社間における「1 日 8 時間を超える法定時間外労働をしても、X には残業代を一切支払わない」旨の合意は、労基法 37 条 1 項違反により無効となる(労基 13 条前段)。その結果、X・Y 社間における労働契約のうち、「1 日 8 時間を超える法定時間外労働に対する残業代の支払い」に関する部分について、空白が生じる(何も定められていないことになる)。この空白部分を労基法上のルール通りに規律するのが、労基法の直律的効力である(労基 13 条後段)。労基法の直律的
この原則ルールに対する例外である労xx 7 条但書については基礎編で説明する。
1 日 8 時間労働の原則(労基 32 条
2 項)。
1) 労働協約は、労使間合意に優先して、労働条件を労働者にとって有利にも不利にも規律する。したがって、Y 社とZ 労働組合との間で「アルバイト 1 年目の時給を 1200 円とする」旨の労働協約を締結していた場合には、X が Z 労働組合の組合員であれば、X の 1 年目の時給は 1200 円となる。反対に、労働協約が
「アルバイト 1 年目の時給を 900 円とする」という内容である場合には、X の 1 年目の時給は 900 円となる(ルール③、不利益変更の限界については速修 335 頁[論点 1])。
2) 労働協約は、就業規則にも優先するから、「アルバイト 1 年目の時給を 1200 円とする」旨の労働協約が
ある場合には、組合員である X の 1 年目の時給は 1200 円となり、「アルバイト 1 年目の時給を 900 円とする」旨の労働協約がある場合には、X の年目の時給は 900 円となる(ルール③)。
3) 労使間合意は就業規則の水準を下回ってはならない。したがって、X が Y 社との間で「X については、アルバイト 1 年目の時給を 900 円とする」旨の合意をしていた場合であっても、X のアルバイト 1 年目の
時給は 1000 円となる(ルール②)。理論構成としては、就業規則の最低基準効を定める労xx 12 条を用い
ることになる(同条の適用態様については基礎編[速修 27 頁]で説明する)。
効力により、「1 日 8 時間を超える法定時間外労働に対する残業代の支払い」に関する契約内容は、「1 日 8 時間を超える法定時間外労働に対して、労基法 37 条 1 項所定の額による残業代を支払う」という内容に修
正される。
2.雇用関係法における労働者・使用者の概念
(1) 労働者
例えば、労働基準法における労働者は、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」をいい(労基 9 条)、これに当たるかは、契約の形式・名称ではなく、就労の実態(使用従属関係の有無)を基準として判断される。
case1:X は、Y 社との間で「業務委託契約」という名称・形式の契約を締結し、 Y 社の工場内において、Y 社の従業員の指揮監督の下で、作業に従事していた。X・Y 社間にも労働基準法が適用されるか、X・Y 社間の契約の名称・形式が「業務委託契約」であることから問題となる。
労働基準法の適用の有無?
業務委託契約
X
Y 社
➡ある契約関係にある当事者間に労働基準法が適用されるかは、契約の名称・形式ではなく、就労の実態を基準として判断される。
A 速修 8~24 頁
(2) 使用者
使用者は、原則として、労働者が労働契約を締結した相手方(雇用主)を意味する。もっとも、黙示の労働契約や法人格否認の法理により、使用者概念が元々の雇用主以外の者にまで拡張されることがある。
case2:X は、Y 社との間で有期労働契約を締結し、Z 社の工場内に派遣され、そこで作業に従事していた。
Y 社は、Z 社との労働者派遣契約が終了することを理由に、X を期間満了前に解雇した。X は、Y 社による解雇は無効であるとして、Z 社に対して労働契約上の地位の確認を求めることができるか。
➡労働契約上の「使用者」は、原則として、X の雇用主であったY 社だけである。
もっとも、X・Z 社間における黙示の労働契約の成立が認められたり、法人格否認の法理によりY 社の独立の法人格(会 3 条)を否定することができる場合には、Z 社も X の「使用者」として、X に対する包括的雇用責任を負いうる。4)
4) 黙示の労働契約の成立が認められた場合、解雇の有効性にかかわらず、X の Z 社に対する地位確認請求が認められる。これに対し、法人格否認の法理により Z 社の X に対する包括的雇用責任を認めるためには、 Y 社が解雇後も X に対する包括的雇用責任を負っていることが必要であるから、解雇が無効であることまで必要とされる(法人格否認の法理は、Y 社のX に対する責任をZ 社に肩代わりさせる法理だからである)。
①労働者派遣契約
Y 社
Z 社
③解雇
②有期労働契約
④労働契約上の地位の確認
X(派遣労働者)
3.就業規則
(1) 意義
労働契約の内容は、労使間合意により設定されるのが原則的な在り方である(合意原則/労契 1 条・3 条 1 項)。
しかし、多数の労働者に共通する労働条件(=集団的労働条件)を統一的に設定する必要性から、一定の手続・要件の下に、使用者が就業規則の新設により労働者たちの労働契約の内容を一方的に規律することが許容されている(労契 7 条本文)。
要件は、①就業規則の実質的「周知」(労働者が知ろうと思えば知り得る状態にしておくこと)と、②就業規則の「合理」性である(労契 7 条本文)。
なお、一旦設けた就業規則を変更することで労働条件を労働者にとって不利益に変更することも、「周知」・「合理」性を要件として、許容される(労契 10 条本文)。この場合の「合理」性は、労xx 7 条本文の「合理」性よりも厳格に判断される。
(2) 効果
就業規則には、①労働契約の内容を規律(修正を含む)する契約内容規律効と、②最低基準効(労契 12 条)がある。②により、就業規則を下回る労使間合意は無効とされ、当該労使間の労働契約の内容が就業規則通りとなる。なお、就業規則と異なる内容の労使間合意のうち、就業規則の内容よりも
労働者に不利益でないものは、就業規則に優先する(労契 7 条但書・8 条)。
4.労働憲章・雇用平等
(1) 労働憲章
労働基準法は、戦前みられた封建的な労働慣行を排除するために、各種の規定を設けている。
(2) 雇用平等
憲法 14 条の平等原則の理念を実効あらしめるために、私人間の労働契約についても、労使間の交渉力格差などにかんがみ、雇用平等を実現するための法的規律が設けられている。
例えば、労働者の国籍・信条・社会的身分を理由とした労働条件の差別を禁止する労働基準法 3 条、女性であることを理由とする賃金の差別を禁止す
A 速修 25~40 頁
具体例は 1 の[図]参照
①は契約内容補充効とも呼ばれる。
労使間合意(個別的労働契約)で定められている労働条件の不利益変更の可否は、速修 29 頁 1(1)参照
C 速修 41~43 頁
B 速修 44~54 頁
る労働基準法 4 条、男女雇用機会均等法などが挙げられる。
セクシャル・ハラスメントに関する問題も、ここで取り上げる。
5.雇用関係の成立
(1) 募集・採用
労働契約は諾成契約であり(民 623 条、労契 6 条)、使用者による募集に対して労働者が応募し、使用者が選考のうえ採用するという形をとることが多い。
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなればならない(労基 15 条 1 項前段)。
(2) 採用内定
大学 4 年生の X は、令和 3 年 5 月にY 社から採用内定の通知を受けた後、同年 8 月に Y 社から採用内定を取り消す旨の通知を受けた。
令和 3 年 5 月に採用内定の通知を受けた時点で X・Y 社間に労働契約が成立しているのであれば、Y 社による採用内定の取消しは(留保解約権の行使による)解雇に当たる。そして、解雇が無効であれば、X・Y 社間の労働契約が存続することになる(X がY 社に対して労働契約上の地位の確認を請求すれば、それが認められる)。
これに対し、令和 3 年 5 月に採用内定の通知を受けた時点では X・Y 社間に労働契約が成立していないのであれば、Y 社による採用内定の取消しは解雇に当たらないし、採用内定の取消しが違法であったとしても X・Y 社間に労働契約が存在しないという法律関係に変化はない。したがって、X がY 社に対して労働契約上の地位の確認を請求してもそれは認められず、労働契約が締結されていた(あるいは、締結される)であるという期待的利益(等)の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求(民 709 条)が認められ得るにとどまる。
(3) 試用期間
入社後に労働者の職務能力・適格性を判断するという試用目的で、労働契約に期間が設けられることがある。試用目的で付された期間は、特段の事情のない限り、契約期間とは区別される試用期間である。
case1:X は、Y 社との間で、「入社後 3 カ月間の勤務状況を見た上で、本採用をするかどうかを判断する」旨の条件が付された労働契約を締結し、期間満了時に「従業員としての適格性を欠く」との理由で本採用を拒否された。
上記でいう「入社後 3 カ月」の期間が有期労働契約における契約期間である場合には、期間満了により X・Y 社間の労働契約が終了するから、本採用拒否は解雇に当たらないし、その適否にかかわらず X・Y 社間の労働契約が終了したという法律関係に影響はない。
これに対し、上記の期間が試用期間である場合には、本採用拒否は(留保解約権の行使による)解雇であると理解されることが多いから、解雇が無効と判断されれば、X・Y 社間の労働契約が存続することになる。
B 速修 55~60 頁
A 速修 61~65 頁
B 速修 66~70 頁
雇止め法理を明文化した労xx 19
条の適用可能性は度外視する。
試用期間の性質の捉え方によっては、本採用拒否は解雇に当たらない
(速修 66 頁[論点 1])。
6.労働契約上の権利義務
(1) 基本的義務
ア.労働者の労働義務
労働者は、「使用者に使用されて」労働に従事する義務を負う(労契 2 条
1 項、6 条)。
労働者の労働義務の内容(「債務の本旨」の内容)は、使用者による適法な指揮命令(労務指揮権の行使)によって形成される。
使用者の指揮命令権(業務命令)は労働契約を根拠とするから、その範囲は労働契約の予定する範囲内に限定される。また、権利濫用法理(労契 3 条 5 項)にも服する。
イ.使用者の賃金支払義務
使用者は、労働契約に基づき、労働者に対して賃金を支払う義務を負う。もっとも、具体的な賃金支払義務が生じるのは、原則として、労働者が
債務の本旨に従って労働義務を現実に履行したときである(民 624 条 1
項)。例外として、労使間合意・民法 536 条 2 項前段が挙げられる。
(2) 付随義務
労働者は、xxxに基づく労働契約上の付随義務として、労働義務と直接には関わらない領域においても使用者の利益侵害を避けるという義務を負う。特に、秘密保持義務・競業避止義務(在職中・退職後)が重要である。
7.人事
人事とは、企業における労働者の組織づけや管理一般をいい、その内容は、募集、採用、教育訓練、福利厚生、人事異動、懲戒処分、解雇その他の退職管理など、きわめて多岐にわたる。
人事の一環として、①昇格・昇進、降格、配転(企業内における勤務先又は職務内容の変更)、②在籍出向(出向元企業との労働契約関係を維持しつつ、出向先企業の雇用管理に服し、その指揮命令に従い就労すること)、③移籍出向(転籍:出向元企業との労働契約関係を終了させ、出向先企業との間で新たなに労働契約関係に入る)、④休職(労働者に就労させることが適切でない場合に、労働契約を存続させつつ労働義務を一時消滅させること)も重要である。
case1:X は、Y 社がxxから係長に昇進させないことに不満を持っている。
➡仮に昇進させない措置(人事考課権の行使)が違法でも、当然に係長への昇進を求める昇進請求権が認められるわけではない。
case2:X は、Y 社から係長からxxに役職を引き下げられた。
➡役職の引き下げという意味での「降格」であり、降格が違法であるとして無効になれば、X の役職は係長に戻る。
case3:X は、Y 社の「東京本社」で勤務していたところ、Y 社から「福岡支社」での勤務を命じられた。
➡勤務地の変更を命じる転勤命令(配転命令の一種)であり、これが無効であれば X の契約上の勤務地は「東京本社」のままである(したがって、
B 速修 72~73 頁
改正民法 624 条の 2 では、割合的賃金請求権が新設された。
B 速修 74~79 頁
A 速修 81~107 頁
「福岡支社」で就労する義務を負わない)。
case4:X は、Y 社において「営業職」として勤務していたところ、Y 社から「経理職」として勤務するように命じられた。
➡職務内容の変更を命じる職種変更命令(配転命令の一種)であり、これが無効であれば、X の契約上の職務内容は「営業職」のままである(したがって、「経理職」として就労する義務を負わない)。
case5:X は、Y 社の従業員として「Y 社」で勤務していたところ、Y 社から、Y社との労働契約関係を維持したまま「Z 社」で勤務するように命じられた。
➡X が Y 社に在籍したまま Z 社に出向するという意味で在籍出向であり、 Y 社による在籍出向命令が無効であれば、X の契約上の勤務先は「Y 社」のままである(したがって、「Z 社」で就労する義務を負わない)。
case6:X は、Y 社の従業員として「Y 社」で勤務していたところ、Y 社は、X との間における労働契約上の使用者たる地位を Z 社に譲渡した上で、X に対して、以後、Z 社の従業員として「Z 社」で勤務するようにと伝えた。
➡転籍元が転籍先に労働契約上の使用者たる地位を譲渡することによる譲渡型の移籍出向(転籍)であり、転籍の要件について、「労働者の承諾」
(民 625 条 1 項)として転籍時の個別具体的な同意まで必要であるかが問題となる。
case7:X は、Y 社でタクシー運転手として勤務していたところ、業務外で酒に酔って転倒したことにより右足を捻挫した。Y 社は、X に対し、30 日間、休職を命じた。
➡Y 社がX に対して命じたのは、業務外傷病を理由とする傷病休職であり、休職期間中、X の労働義務が消滅する(したがって、労働をしなくても、労働義務違反とはならない)。
休職期間中、X は労働義務を履行していないから、賃金請求権は発生しない(民 624 条 1 項、ノーワーク・ノーペイ原則)。
X が休職期間満了時に原職(タクシー運転手)に復帰できる状態に至っていない場合、Y 社は、復職事由が認められないとして、X を解雇したり、自然退職扱いとすることがある。この場合、X・Y 社間の労働契約の存続の有無等との関係で、解雇や自然退職扱いの適否が問題となる。
8.労働基準法上の賃金
労基法上の「賃金」には、平均賃金(労基 12 条)や割増賃金(労基 37 条)の算定基礎として用いられたり、通貨払いの原則・直接払いの原則・全額払いの原則・毎月一回以上定期払いの原則という労基法上の保護(労基 24 条 1 項)の対象になるといった意味がある。
労基法上の「賃金」の要件は、①支払主体が「使用者」であること、②「労働の対償」として支払われるものであることである。
②は緩やかに解されており、具体的労働に対応しない各種手当等であっても、使用者が労働契約に基づいて支払義務を負うものであれば、②を満たすと解さ
個別合意・就業規則・労働協約で休職期間中も賃金を支払う旨の定めがあればそれに従う。
速修 105 頁[論点 2]
A 速修 108~133 頁
れている。例えば、賞与(ボーナス)や退職金も、就業規則等により支給基準が明確に定められている場合には、②も満たし、労基法上の「賃金」として保護される。
case1:Y 社では、就業規則により「退職金の支給基準」について定める一方で、
「懲戒解雇された場合、退職金を一切支給しない」と定めていた。X は、Y 社の従業員として 25 年間勤務してきた者であり、現時点で退職した場合に支給されるはずの退職金は 1000 万円であった。ところが、X は、Y 社から社内横領を理由として懲戒解雇されるとともに、「懲戒解雇された場合、退職金を一切支給しない」と定める就業規則を適用されて退職金を一切支給してもらえなかった。
➡退職金の発生要件及び労基法上の「賃金」としての要保護性が認められることを前提として、懲戒解雇を理由とする退職金全額不支給を定める就業規則の有効性やその効力の射程が問題となる。
case2:X は、Y 社の社長から、嫌がらせの一環として、1 週間出勤をすることを拒否されたため、出社したくても出社することができなかった。Y 社は、X が出社しなかった 1 週間分については、労働義務の履行がない以上、賃金を支払わないと主張している。
➡賃金請求権の発生には、原則として、労働義務の履行が必要である(民 624条 1 項、ノーワーク・ノーペイ原則)。そうすると、1 週間分については、労働義務の履行を欠く以上、賃金請求権が発生しないのが原則である。しかし、X が出勤しなかった 1 週間については、使用者の「責めに帰すべき事由」によって X の労働義務の履行が不能になっているため、民法 536 条 2 項前段に基づき賃金請求権が発生する。
case3:X は、Y 社から解雇され、再就職することができずにいる。X は、Y 社に対して、解雇が無効であると主張して、労働契約上の地位の確認と解雇期間中(解雇された日から現在に足るまでの期間)の賃金の支払いを求めた。
➡解雇が有効であれば、解雇期間中の労働義務の履行不能は使用者の「責めに帰すべき事由」によるものとはいえないから、民法 536 条 2 項前段に基づく賃金請求権は発生しない。これに対し、解雇が無効であれば、解雇期間中の労働義務の履行不能は使用者の「責めに帰すべき事由」によるものであるといえるから、ノーワーク・ノーペイ原則(民 624 条 1 項)に対す
る例外として、民法 536 条 2 項前段に基づく賃金請求権が発生する。
case4:Y 社は、X の 5 月分の賃金について、X の借入債務(弁済期到来)と相殺したと主張して、その支払いを拒絶した。
➡労基法上の「賃金」の支払方法については、いくつかのルールが定められており、その一つとして「賃金は、…労働者に、その全額を支払わなければならない」とする賃金全額払の原則(労基 24 条 1 項本文)がある。そして、賃金全額払の原則は使用者からの一方的な相殺にも適用されると解されている。したがって、Y 社による相殺は同原則に反し無効であるから、 X は、Y 社に対して、5 月分の賃金の全額の支払いを求めることができる。
速修 114 頁[論点 1]
速修 121 頁・2
速修 126 頁[論点 1]
9.労働時間
(1) 労働時間規制
1 日の労働時間は 8 時間、1 週間の労働時間は 40 時間までである(労基 32
条 2 項、1 項)。
労働時間の計算は、原則として、実労働時間(使用者が労働者を労働させた時間)を基準として、当該 1 日・1 週間ごとに行われる。もっとも、労働時間の計算を柔軟に行える制度として、変形労働時間制(労基 32 条の 2・4・ 5)、フレックスタイム制(労基 32 条の 3)、みなし労働時間制(労基 38 条の
2・3)がある。
当該事業場の労働者過半数代表(過半数労働組合、これがない場合には過半数労働者)と書面による労使協定を締結し、これを所轄労働基準監督署に届け出ることにより、適法な労使協定の内容の範囲で、時間外労働をさせることができる(労基 36 条)。この意味で、労使協定には、労基法の労働時間規制を解除する例外創設効果(違法性阻却効果)がある。
case1:Y 社の就業規則では、「1 日の所定労働時間は、午前 9 時から午後 6 時までのうち、休憩時間 1 時間を除いた 8 時間までとする」「午前 8 時半か
らの 30 分間は、各自の持ち場の清掃をする」と定め、始業前における 30分間の清掃時間を労働時間外とする扱いをしていた。なお、時間外労働に関する 36 協定は締結されていない。
➡労基法上、1 日の労働時間は 8 時間までとされている(労基 32 条 2 項)。そして、労基法上の労働時間に当たるかは、就業規則等による定めを基準とするのではなく、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かにより客観的に判断されると解される。そうすると、始業前における 30 分間の清掃時間は労基法上の労働時間に当たるから、Y 社では、36 協定を締結することなく、1 日 8 時間半の労働をさせていたことになる。したがって、1 日 8 時間原則を定める労基法 32
条 2 項に違反する。
case2:Y 社では、36 協定(時間外労働に関する労使協定)により、残業事由と残業時間を具体的に定めていたが、労使間の個別合意、就業規則及び労働協約のいずれによっても残業について定めていなかった。
➡36 協定をはじめとする労使協定には、労基法上の規制を解除する効果がある一方で、私法上の権利義務を発生させる効果まではない。したがって、36 協定に従って時間外労働をする義務の発生には、36 協定に従って時間外労働をするべき旨の労使間合意、就業規則又は労働協約が必要である。よって、これらを欠く以上、X は、1 日 8 時間を超えて労働をする義務を負わない。
(2) 割増賃金
法定時間外労働(さらには、法定休日労働・深夜労働)に対しては、労基 37 条、割増賃金令及び規則 21 条所定の割増率による割増賃金を支払わなければならない。その趣旨は、過重労働をした労働者に対して経済的補償をす
A 速修 134~166 頁
速修 135 頁[論点 1]
始業前における 30 分の清掃時間に対する割増賃金支払義務の有無は別途問題となる(速修 135 頁[論点 3])。
速修 153 頁[論点 1]
ることにある。
例えば、1 日 8 時間(労基 32 条 2 項)を超える労働に対しては、原則とし
て 2 割 5 分以上の割増率による割増賃金を支払う必要がある。
(3) 例外
労働時間・休憩・休日・深夜労働に関する労基法の規制の全部又は一部の適用が除外される場合として、適用除外(労基 41 条)、高度プロフェッショ
ナル制度(労基 41 条の 2)、災害・公務の必要による場合(労基 33 条)、恒
常的例外(労基 40 条)がある。
(4) 休憩・休日
休憩とは、「労働時間の途中」に置かれた、労働者が労働から離れることを権利として保障された時間をいう。休憩の趣旨は、労働者の疲労・自由の回復、食事時間を確保することにある。労働時間が 6 時間超 8 時間以内である
場合には 45 分以上、8 時間を超える場合には 60 分以上の休憩を付与する必
要がある(労基 34 条 1 項)。
休日とは、労働者が労働契約において労働義務を負わない日である。労基法上、週休 1 日制が原則ルールである(労基 35 条 1 項)。
10.年次有給休暇
(1) 概要
使用者は、その雇入れの日から起算して 6 箇月間継続勤務し全労働日の 8割以上出勤した労働者に対して、10 労働日の有給休暇(以下「年休」とする)を与えなければならない(労基 39 条 1 項)。
労働者が年休を取得した場合、年休取得期間中、労働義務が消滅するとともに、年休手当請求権が発生する(39 条 9 項)。
(2) 年休取得の方法
労働者は、「一定の日数の年休を取得できる」ことを内容とする年休権(労基 39 条 1 項ないし 4 項)とは別に、「年休を取得する時季を指定できる」こ
とを内容とする時季指定権(労基 39 条 5 項)を有する。
労働者に指定した時機に年休を取得させる必要がある一方で、労働者が休暇をとることで使用者側に事業運営における支障が生じ得ることにも配慮する必要がある。そこで、労基法は、労働者が指定した時季に年休を取得することが「事業の正常な運営を妨げる」ことを要件として、使用者側に時季変更権を認めている(労基 39 条 5 項但書)。
時季指定権と時季変更権の関係については、「労働者による適法な時季指定権の行使があった場合に、使用者による適法な時季変更権の行使がない限り、指定された時季における年休が成立する」と解されている。
case1:X は、Y 社に対して、令和 3 年 5 月 24 日(月)から 28 日(金)までの 5 日間、年休を取得する旨申し出た。Y 社は、X の申し出を放置した。
➡Y 社による時季変更権の行使がないから、X は、指定した時季における年休を取得することができる。
月 60 時間を超える部分には、5 割の割増率による割増賃金の支払いが必要(労基 37 条 1 項但書)。
B 速修 167~179 頁
勤続年数が増えることに伴い、1 年間の年休日数も増える(但し、20 日が上限)。
速修 170 頁[論点 2]
case2:X は、Y 社に対して、令和 3 年 5 月 24 日(月)から 28 日(金)まで
の 5 日間、年休を取得する旨申し出た。Y 社は、その 5 日間は一番忙しいシーズンであるとの理由から、年休の取得を認めないとして、時季変更権を行使した。
➡Y 社の時季変更権の行使が「事業の正常な運営を妨げる場合」という要件を満たす場合には、X は指定した時季における年休を取得することができない。これに対し、「事業の正常な運営を妨げる場合」という要件を満たさない場合には、X は指定した時季における年休を取得することができる。
11.年少者・女性の保護
年少者・女性の保護のために、労基法で特別の規制が設けられている。
12.育児・介護休業法
育児・介護休業法は、職業生活と家庭生活との調和(ワークライフバランス)を実現するために、育児・介護のための休業等の措置を定めている。
13.労働災害
(1) 労災補償
労働災害(業務上の負傷・疾病・死亡)の救済を不法行為の規定に委ねた場合における過失の立証責任や民事訴訟提起の負担から労働者を解放し、被災労働者等の実効的な救済を図るために、労基法上の災害補償(労基 75 条以下)、さらには労災保険法上の労災保険制度が設けられている。
補償・給付の対象となる負傷・疾病・死亡は、「業務上」生じたもの、すなわち業務に内在する危険が現実化したものに限られる。
(2) 安全配慮義務
労働契約法 5 条は、労働契約に基づく労務の管理支配という特別な社会的接触関係を実質的根拠として、使用者の労働者に対する安全配慮義務を定めている。
14.懲戒
懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由とする制裁罰である。これには、けん責・戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇がある。
①使用者の懲戒権は当然に法的に根拠づけられるものではなく、そのためには、懲戒の種別・事由を明確に定める(合理的な)就業規則の規定の存在(労基 89 条 9 号)とその周知が必要である(労契 7 条本文)。
②また、(具体的な)懲戒権が発生するためには、懲戒対象とされている労働者の行為が就業規則上の懲戒事由に該当することが必要である。
③さらに、懲戒権の行使は、懲戒権濫用法理(労契 15 条)という厳格な規制に服することになり、この規制をクリアしない懲戒は無効である。
C 速修 180~183 頁
C 速修 184~188 頁
B 速修 189~200 頁
A 速修 201~215 頁
15.雇用関係の終了(解雇以外)
雇用関係の終了原因には、解雇のほかに、合意解約、辞職(労働者の単独行為)、定年制(のうち、定年年齢到達を無期労働契約の終了事由として合意するもの)、当事者の消滅等がある。
16.解雇
(1) 意義
解雇とは、使用者からの一方的な意思表示により労働契約を将来に向けて解約することをいう。
民法上は、無期労働契約においては、使用者側に解雇の自由が認められている(民 627 条 1 項)。もっとも、解雇の自由が労働者に及ぼす不利益が退職の自由が使用者に及ぼす不利益を凌駕するため、解雇には、解雇理由の制限(労基法ほか各種法令)、解雇禁止期間の規制(労基 19 条)、解雇予告制度
(労基 20 条)、解雇理由の証明(労基 22 条)および解雇権濫用法理(労契
16 条)といった規制が設けられている。
有期労働契約の中途解約については「やむを得ない事由」(労契 17 条 1 項、
民 628 条)が要求される。有期契約労働者には定められた期間中の雇用継続
が保障されるから、「やむを得ない事由」は、労契法 16 条の要件よりも厳格に解釈される。
(2) 解雇権濫用法理
解雇の実体的要件は、①就業規則上の解雇事由に該当することと、②解雇権の濫用(労契 16 条)に当たらないことである。5)
17.非正規雇用
以下では、有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者を取り上げる。
(1) 有期雇用労働者
①中途解約の制限
有期労働契約の中途解約には「やむを得ない事由」が必要であり(労契 17
条 1 項、民 628 条)、これは労契法 16 条の要件よりも厳格に解釈される。
case1:X は、令和 3 年 4 月 1 日、Y 社との間で契約期間を 6 か月間とする
有期労働契約を締結した。Y 社は、解雇予告を経た上で、令和 3 年 7 月
1 日付けで、X の勤務成績が悪いことを理由として X を解雇した。
➡X を期間満了前に解雇することについて「やむを得ない事由」(労契 17条)がない場合には、X に対する解雇は無効である。もっとも、解雇の無効によって認められるのは、令和 3 年 7 月 1 日から 9 月 30 日ま
での間、X・Y 社間の有期労働契約が存続することまでだから、同年 9月 30 日を経過することにより、原則として X・Y 社間の有期労働契約が終了する。
B 速修 216~223 頁
A 速修 224~245 頁
A 速修 246~258 頁
5) 整理解雇(余剰人員削減のための解雇)・変更解約告知(労働条件変更の手段としての解雇)については、各々の特殊性を踏まえて解雇権濫用が審査される。
②無期労働契約への転換申込権
複数の有期労働契約の通算契約期間が 5 年を超える労働者は、現に締結している有期労働契約の期間満了日までに転換申込権(形成権)を行使することで、当該満了日の翌日から労務が提供される労働契約を無期労働契約に転換させることができる(平成 24 年改正労契 18 条)。
case2:X は、Y 社との間で、令和 3 年 4 月 1 日から合計 5 回にわたって期
転換申込権が発生
1 回
2 回
3 回
4 回
5 回
R3.4.1
R4.4.1
R5.4.1 R6.4.1
R7.4.1
R8.4.1
R9.3.31
R8.4.1 の時点で転換申込権が発生する。
5 回目の更新に係る有期労働契約の期間満了前に転換申込権を行使する必要がある。
転換申込権を行使することなく、5 回目の更新に係る有期労働契約の期間が満了した場合、 6 回目の更新がなければ R9.3.31 の経過をもって有期労働契約が終了するから、「有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に」転換申込権を行使することができなくなる。
間 1 年間の有期労働契約を更新してきた。X は、令和 8 年 4 月 1 日、Y社に対して、転換申込権を行使した。
同条施行日である平成 25 年 4 月 1日よりも前の日を初日とする有期労働契約の期間は通算契約期間に算入しない。
③雇止めの判例法理の明文化
有期労働契約の期間満了後における黙示の更新の成立(民 629 条 1 項)を妨げるために、使用者が更新拒絶の通知(「異議」)をすることがあり、これを雇止めという。平成 24 年改正労契法 19 条により、従来の雇止めの判例法理が明文化され、①労働者が期間満了日まで又は期間満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、②期間の定めが形骸化して無期契約と実質的に異ならない状態に至っているか、又は契約更新への合理的期待が認められるときには、③更新拒絶について「客観的に合理的な理由」と「社会通念上」の「相当」性がない限り、使用者は従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で①の申込みを承諾したものとみなされることとなった。
case3:X は、Y 社との間で、令和 3 年 4 月 1 日から合計 4 回にわたって期
更新拒絶
1 回
2 回
3 回
4 回
R3.4.1
R4.4.1
R5.4.1
R6.4.1
R7.4.1 R8.2.1 R8.3.31
X は、4 回目の更新に係る有期労働契約の期間間満了前に契約更新の申込みをしているか
ら、①を満たす。
間 1 年間の有期労働契約を更新してきた。Y 社は、令和 8 年 2 月 1 日、 X からの更新の申込みを拒絶した。なお、Y 社は、契約を更新するたびに、「次回も更新する」といった趣旨の発言をしていた。
契約更新の回数は多くないが、Y 社が契約更新をするたびに「次回も更新をする」といった趣旨の発言をしていたことから、少なくとも 4 回目の契約更新の段階で、契約更新に対する合理的期待が認められるとして②を満たす。
Y 社による契約更新の拒絶が「客観的に合理的な理由」や「社会通念上」の「相当」性を
欠くのであれば、③も満たし、5 回目の更新が擬制される。6)
④待遇についての不合理な相違・差別的取扱いの禁止
平成 24 年労契法改正により、有期雇用労働者と無期雇用労働者の間にお
ける不合理な待遇の相違を禁止する規定が新設された(旧労契 20 条)。そ
の後、平成 30 年改正により、パートタイム労働法が短時間・有期雇用労働
法に改題されたことに伴い、労契法 20 条が削除され、有期雇用労働者の労
働条件の不合理な相違の禁止が短時間・有期雇用労働法 8 条に統合された。さらに、通常の労働者と同視すべき有期雇用労働者の待遇についての差別的取扱いも禁止されるに至った(同法 9 条)。
case4:Y 社は、タクシー事業を営んでおり、就業規則において、正社員運転手に対しては無事故手当として月額 2 万円を支給すると定める一方で、契約社員運転手に対する無事故手当の支給については一切定めていなかった。契約社員運転手 X は、無事故手当の支給の有無に関する相違について不満を持っている。
➡まずは、相違自体を禁止している 9 条から検討する。仮に契約社員運転手X が「通常の労働者と同視すべき…有期雇用労働者」に当たり、かつ、無事故手当の支給に関する相違が X が「有期雇用労働者であることを理由とする」ものなのであるならば、その相違は 9 条に違反する。7)
➡仮に、契約社員運転手X が「通常の労働者と同視すべき…有期雇用労働者」に当たらない場合には、9 条違反は認められないから、次に 8 条違反を検討する。無事故手当の支給に関する「相違」が「不合理」なものであれば、8 条違反が成立する。
(2) 短時間労働者
短時間労働者とは、1 週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の 1 週間の所定労働時間よりも短い労働者をいう(平成 30 年改正前の旧パートタイム労働法の下では、パートタイマーとも呼ばれていた)。
短時間・有期雇用労働法 9 条及び 8 条は、短時間労働者と通常の労働者との間における待遇格差についても一定範囲で禁止している。
9 条は均等待遇(同一待遇)の確保を趣旨とする。
8 条は職務内容等の違いがあることを前提とした均衡待遇の確保を趣旨とする。
6) 5 回目の更新が擬制されることにより、X・Y 社間において、契約期間を令和 8 年 4 月 1 日から令和 9 年
3 月 31 日までとする有期労働契約が存続することになる。そうすると、令和 8 年 4 月 1 日の時点で、通算契約期間が 5 年を超えることになるから、労契法 18 条の転換申込権が発生する。そこで、X は、5 回目の更新に係る有期労働契約が期間満了により終了する前に転換申込権を行使することにより、X・Y 社間における有期労働契約を無期労働契約に転換することができる。
7) 9 条や 8 条に違反するからといって、当然に、X・Y 社間における無事故手当の支給に関する労働契約の内容が「X に対しても、月額 2 万円の無事故手当を支給する」という内容に修正されるわけではないから、 X が Y 社に対して労働契約に基づいて無事故手当の支払いを求める請求が認められるとは限らない(速修 260 頁[論点 1][論点 2]、速修 262 頁[論点 1][論点 2])。
(3) 派遣労働者
労働者派遣とは、①自己の使用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、
②他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約するものを含まない(労働者派遣法 2 条 1 号)。
許可制(派遣 5 条)、派遣可能期間(派遣 40 条の 2・3)、派遣元における
不合理な待遇の相違の禁止(派遣 30 条の 3 第 1 項)・差別的取扱いの禁止
(派遣 30 条の 3 第 2 項)、派遣先における直接雇用申込みみなし制度(派遣
40 条の 6)といった規定が重要である。
A 速修 274~282 頁
第3章 労働組合法
1.労働組合法の意義
強行法規・就業規則の最低水準を超える労働条件の実現は、労使間の交渉に委ねられている。
ところが、労働者個人では使用者と対等な交渉を行うことは困難であり、労働者は労働組合を組織して集団的な交渉を行うことで、はじめて使用者と対等な立場での交渉を実現できるようになり、最低水準を超える労働条件の実現への道筋が開かれる。
そこで、憲法 28 条は、団体交渉による労働条件の対等な決定と団体交渉の助成を基本目的として、最低水準を超える労働条件の実現を目指して行われる労働者による団体交渉とそのための団結・団体行動を保障している。
これを受けて労働組合法は、憲法 28 条の保障内容を具体化するために、団体交渉を有利に進める手段である争議行為(団体行動の一部)について、刑事・民事責任の免責(労組 1 条 2 項、8 条)を規定するとともに、使用者による労
働基本権侵害行為を一定の要件の下に不当労働行為として禁止し(労組 7 条)、さらに不当労働行為に対する実効的な救済を図るために労働委員会による救済制度(労組 27 条以下)も設けている。これらに加えて、労働組合法は、使用者と労働組合との団体交渉を経て締結されるに至った合意内容の実効性を確保するために、労働協約に規範的効力という特別の効力を認めている(労組 16 条)。
2.労使関係の当事者
(1) 労働者
労組法の「労働者」(労組 3 条)には、労働契約によって労務を提供する者のみならず、これに準じて団体交渉助成のための労組法の保護を及ぼすべき必要性・適切性が認められる労務提供者も含まれる。
業務委託契約
X
Y 社
団体交渉の申入れ(組合員X の報酬 UP)
X は「労働者」ではないと
Z 労働組合
と理由から団体交渉を拒否
case1:X は、Y 社との間で「業務委託契約」という名称・形式の契約を締結し、 Y 社の工場内において、Y 社の従業員の指揮監督の下で、作業に従事していた。Z 労働組合は、Y 社との業務委託契約に基づいて Y 社の工場内で就労している者らによって組織されており、X もその一員である。Z 労働組合は、Y 社に対して、X の「業務委託報酬を 10%アップする」ことを要求事項とする団体交渉を申し入れたところ、Y 社は、X はY 社との関係で労組法上の「労働者」に当たらないとの理由から、団体交渉を拒否した。
A 速修 284~286 頁
厳密には、団体交渉の手段とはならない団結・団体行動(組合活動の一部)も保障対象に含まれている。
A 速修 287~300 頁
使用者は、「使用者が雇用する労働者の代表者」からの「団体交渉」を「正当な理由」なく拒むことはできない(労組 7 条 2 号)。仮に拒むと、不当労働行為が成立する。
X が Y 社の「労働者」に当たらないのであれば、X を代表する Z 労働組合は「使用者が雇用する労働者の代表者」に当たらないから、Y 社が Z 労働組合からの団体交渉の申入れを拒絶
しても、不当労働行為は成立しない。
(2) 使用者
労組法の「使用者」は、一般に、雇用主を意味するが、不当労働行為制度
(労組 7 条)の目的に照らし、労働契約関係に隣接ないし近似する関係の一方当事者にまで拡張されている。
case2:X は、Y 社との間で有期労働契約を締結し、Z 社の工場内に派遣され、そこで作業に従事していた。
W 労働組合は Z 社で派遣就労している者らによって組織されており、Xもその一員である。
労働者派遣契約
Y 社
Z 社
団体交渉の申入れ
(Z 社の工場内におけるX らの作業環境の改善)
X ら(派遣労働者)
Z 社は X らの「使用者」ではな
いとの理由から団体交渉を拒否
W 労働組合
「使用者」は、「労働者の代表者」からの「団体交渉」を「正当な理由」なく拒むことはでき
ない(労組 7 条 2 号)。仮に拒むと、不当労働行為が成立する。
Z 社は、W 労働組合が代表している X ら(派遣労働者)の雇用主ではないから、仮に労組法上の「使用者」が雇用主に限定されるのであれば、W 労働組合から申入れがあった団体交渉との関係ではZ 社は「使用者」に当たらない。その結果、Z 社が W 労働組合からの団体交渉の申入れを拒絶しても、不当労働行為は成立しない。
W 労働組合は、X らからの要望を受けて、Z 社に対して、「Z 社の工場内におけるX らの作業環境の改善」を要求事項とする団体交渉を申し入れたところ、Z 社は、X ら派遣労働者の使用者ではないとの理由で、団体交渉を拒否した。
(3) 労働組合
労組法の「労働組合」(同法 2 条)は、労働者主体性・自主性・目的(労働
者の経済的地位の向上)・団体性の 4 要件を満たす必要がある。不当労働行為
について労働委員会による救済命令の申立てをするためには、労組法 5 条 2
項の民主性要件も満たす必要がある。
3.労働組合の運営
労働組合は、任意団体である。
労働組合の運営は、組合規約を定め、それに従って行われるのが通常である。組合員は、労働組合の構成員である限り、労働組合の活動の経済的基礎をな
す組合費を納入する義務を負う。もっとも、この義務には一定の限界がある。労働組合は、組合規約に基づき、必要かつ合理的な範囲内で組合員に対する 統制権を有する。統制権に基づく統制処分の適法性は、①組合規約所定の処分事由の存在、②処分の相当性(処分事由と処分内容の均衡)及び③処分手続の
適正さ等から審査される。
case1:Z 労働組合では、組合規約により、組合員が脱退するためには Z 労働組合の承認を要する旨を定めていた。
➡脱退の承認制など、労働組合からの脱退そのものを制限する定めは、脱退の自由を侵害するものとして無効である。
case2:Y 社は、Z 労働組合との間でユニオン・ショップ協定を締結している。従業員X は、Z 労働組合から脱退して、自ら W 労働組合を結成した。Y 社は、 X がZ 労働組合を脱退したことを理由として、ユニオン・ショップ協定に基づいて X を解雇した。
➡ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の労働組合に加入している者や締結組合を脱退して新組合を結成した労働者についても使用者の解雇義務の対象にしている部分は、労働者の組合選択の自由や他の労働組合の団結権を侵害するものとして公序違反(民 90 条)により無効である。したがって、Y 社のユニオン・ショップ協定に基づく解雇義務は X には及ばないから、Y 社の解雇は原則として解雇権濫用(労契 16 条)に当たり無効である。
4.団体交渉
労働組合がその代表者を通じ、使用者との間で組合員の労働条件その他の待遇または集団的労使関係の運営に関する事項について交渉をすることをいう。団体交渉は、強行法規・就業規則の最低基準を超える組合員の待遇の実現を
目指して行われることが多い。
憲法 28 条では「勤労者」の団体交渉権が憲法上の権利として保障されてお
り、これを受けて、労組法 7 条 2 号では、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」を不当労働行為として禁止している。
case1:Y 社には、Y 社従業員によって組織されるZ 労働組合がある。Z 労働組合は、Y 社に対して、「組合員の基本給 10%アップ」を要求事項とする団体交渉を申し入れたところ、Y 社は、「基本給については、就業規則で定められているのだから、交渉の余地はない」との理由から、団体交渉を拒否した。
➡Y 社が団体交渉を拒否した理由は「正当な理由」に当たらないから、団体交渉拒否の不当労働行為が成立する。
B 速修 301~316 頁
速修 302 頁[論点 1]
速修 302 頁[論点 2]
A 速修 317~325 頁
5.労働協約
(1) 意義
労働協約とは、労働組合と使用者(又は使用者団体)との間の労働条件その他に関する合意であって、書面が作成され、両当事者が署名又は記名押印したものである(14 条)。
(2) 効力
ア.規範的効力
協約内容のうち、締結組合の組合員の「労働条件その他の労働者の待遇に関する部分」(=規範的部分)には、規範的効力が認められる(労基 16条)。したがって、組合員・使用者間の労働契約の内容である労働条件は、協約内容通りに規律(修正を含む)される(有利原則肯定説が前提)。
労働協約の性質は契約であるから、本来であれば契約当事者である締結組合にしかその効力が生じないはずであるが、労組法 16 条により政策的に与えられた特別の効力である規範的効力が所属組合員にも及ぶ。
規範的効力の主観的範囲は原則として協約締結組合の所属組合員に限られるが、例外的に拡張されることがある(労組 17 条・18 条)。
case1:Y 社では、従業員の賞与(ボーナス)について、労使間合意や就業規則によっても定めていなかった。Y 社は、Z 労働組合との間で、「年 2 回、基本給 1 か月分の賞与を支給する」旨の労働協約を締結した。
➡労働協約により、Z 労働組合の組合員の労働条件のうち賞与に関する部分が「年 2 回、基本給 1 か月分の賞与を支給する」という内容に規律される。
case2:Y 社では、従業員との間で、「年 2 回、基本給 1 か月分の賞与を支給する」旨の個別合意をしていた。Y 社は、Z 労働組合との間で、「年 2 回、基本給 0.5 か月分の賞与を支給する」旨の労働協約を締結した。
➡労働協約は、労使間合意に優先して、労働条件を労働者にとって有利にも不利にも規律する(有利原則否定説)。そうすると、労働協約により、Z 労働組合の組合員の労働条件のうち賞与に関する部分が、「年 2
回、基本給 1 か月分の賞与を支給する」という内容から「年 2 回、基
本給 0.5 か月分の賞与を支給する」という内容に修正される。
case3:上記 case1 において、Y 社と Z 労働組合との間における賞与に関する労働協約の規範的効力は、Z 労働組合の組合員以外の従業員にも拡張されるか。
➡Z 労働組合が締結した労働協約の規範的効力は、原則として、Z 労働組合の組合員だけに及ぶ。
もっとも、例えば、労組法 17 条の要件を満たす場合には、Z 労働組合の組合員以外の Y 社従業員にも規範的効力が拡張される。しかし、例えば、Y 社には多数派組合(80 名/100 名)である Z 労働組合のほかに少数派組合(10 名/100 名)も存在する場合に、少数派組合の組合員には規範的効力は拡張されないと解するのが一般的である。
A 速修 326~349 頁
厳密には、労働協約による労働条件の不利益変更には一定の限界がある(速修 335 頁[論点 1])。
速修 340 頁[論点 2]
イ.債務的効力
規範的効力とは異なり、協約当事者である労働組合と使用者との間において生じるものであり、これは契約の効力として認められるものである。協約内容のうち、集団的労使関係の運営に関する部分については、規範
的効力は生じないが、債務的効力が認められる。
6.争議行為
集団的労務不提供(ストライキ・怠業)を中心とした概念である。
憲法 28 条により、労使の実質的対等の下で団体交渉を機能させるための手段として、労働者の争議権が保障されている。
これを受けて、労組法では、「労働組合」による「正当」な争議行為について、民事免責(労組 8 条)・刑事免責(労組 1 条 2 項)の対象にするとともに、これを理由とする組合員に対する不利益な取扱いを不当労働行為として禁止している(労組 7 条 1 号本文前段)。
7.組合活動
組合活動とは、争議行為以外の労働組合の諸活動をいう。
労組法では、「労働組合」による「正当」な組合活動について、刑事免責(労組 1 条 2 項)の対象にするとともに、これを理由とする組合員に対する不利益
な取扱いを不当労働行為として禁止している(労組 7 条 1 号本文前段)。労組
法 8 条では民事免責の対象行為として組合活動が挙げられていないが、同条は
憲法 28 条の私人間効力の確認規定であるから、組合活動にも民事免責が及ぶと解される。
組合活動権は、争議権のように使用者の業務を阻害することを認められる権利ではない。したがって、組合活動は、原則として、①労働義務違反、②施設管理権侵害、③誠実義務違反のいずれも伴わない態様で行われる必要がある。
8.不当労働行為制度
(1) 意義
労働組合法は、使用者による労働基本権侵害行為が行われた場合に、これを除去・是正するとともに、そうした侵害行為のない対等・公正な集団的労使関係を将来に向けて形成することを目的として、不当労働行為制度を設け、使用者による一定の労働基本権侵害行為を禁止する(7 条)とともに、労働委員会(行政機関)による特別の救済制度(27 条以下)を定めている。
(2) 不当労働行為の類型
労組法 7 条各号の不当労働行為のうち、不利益取扱い(労組 7 条 1 号本文
前段)、団体交渉拒否(同条 2 号)、支配介入(同条 3 号)が重要である。
ア.不利益取扱い
不利益取扱いの不当労働行為の成立要件は、①不利益取扱いの禁止事由の存在、②「不利益な取扱い」の存在、及び③「故をもって」に対応する
規範的部分にも債務的効力が生じる。
A 速修 350~366 頁
A 速修 367~374 頁
A 速修 375~410 頁
不当労働行為意思の存在(①の「故をもって」②が行われたこと)の 3 つ
である(労組 7 条 1 号本文前段)。
不利益取扱い禁止の趣旨は、組合員個人に対する不利益取扱いが、これを通じて組合活動一般を制圧ないし制約するという効果を伴うことにある。
case1:Y 社は、Z 労働組合が正当な組合活動としてビラ配布を行ったところ、ビラ配布に参加したことを理由として、組合員である従業員 X に対して戒告の懲戒処分をした。
➡X に対する戒告には、不利益取扱いの不当労働行為が成立する。そして、労組法 7 条 1 号又は 3 号の不当労働行為が成立する行為は、それが法律行為であれば当然に無効になると解されているから、戒告は無効である。
イ.団体交渉拒否
要件は、「使用者」が労働組合による「団体交渉」(義務的団交事項を交渉事項とするものに限る)を「正当な理由」なく「拒むこと」である。
ウ.支配介入
支配介入とは、「労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること」(3 号本文前段)であり、これは、労働者・労働組合の自主的活動を妨げ、労働組合を弱体化する行為全般を指す広い概念である。
要件は、①労働組合の結成・運営に対する「支配」又は「介入」となる行為(支配介入行為)と、②使用者の支配介入の意思(反組合的意図又は組弱体化意図)である。
case2:Y 社の社長は、Z 労働組合の組合員を 1 名ずつ社長室に呼び出し、「このまま組合活動を続けるのであれば、君の出世に影響するから、今後はよく考えて行動するように」と述べた。
➡Y 社の社長の発言は、組合活動を止めなければ、人事上不利益な取扱いをすることを示唆するものであるから、Z 労働組合の組合員を動揺させ、Z 労働組合を弱体化するものであるとして、「労働組合」の「運営」に対する「介入」に当たる(①)。
社長の支配介入意思も問題なく認められる(②)から、支配介入の不当労働行為が成立する。
case3:Y 社は、Z 労働組合が職場集会を開催したことに対して、警告書を交付した。
➡職場集会がY 社の企業秩序を侵害するおそれのないものであった場合には、支配介入の不当労働行為が成立する。
case4:上記の case1 における戒告には、不利益取扱いの不当労働行為のほかに支配介入の不当労働行為も成立し得る。1)
速修 286 頁・3(2)②
具体例は、導入 18 頁・4・case1
速修 390 頁[論点 2]
1)不利益取扱いや団体交渉拒否の不当労働行為に該当する行為が、組合弱体化行為として①「支配」「介入」行為にも該当することは少なくない。
(3) 労働委員会の救済命令ア.意義
使用者による不当労働行為(労働基本権侵害行為)が行われた場合、裁判所による司法救済では、救済内容が私法上の法律関係に拘束されるため、実効的な救済とならないことがある。
そこで、労組法は、正常な集団的労使関係(労働基本権侵害行為のない対等・公正な集団的労使関係)を将来に向けて形成するために、労働委員会という専門的行政機関による特別の救済制度(27 条以下)を定めるとともに、救済命令の内容について労働委員会の効果裁量を認めている。これにより、労働委員会は、不当労働行為の制度目的に適った多様で柔軟な救済命令を発することが可能となる。
したがって、労組法 2 条及び 5 条 2 項の要件を満たす法適合組合は、不当労働行為があった場合には、裁判所に対して司法救済を求めるとともに、労働委員会に対して救済命令(行政救済)の申立てをすることになる。
イ.救済命令の内容
労働委員会による救済命令の内容は、不当労働行為の類型及び具体的態様によって様々である。
case5:組合員 X に対する戒告の懲戒処分に不利益取扱いの不当労働行為が成立する場合、戒告の撤回命令を申し立てる。場合によっては、将来同種の行為を繰り返させないために、不当労働行為を行わない旨の文書を会社内に掲示することを命じるポスト・ノーティス命令を申し立てることもある。
case6:組合員 X に対する解雇に不利益取扱いの不当労働行為が成立する場合、原職復帰命令とバックペイの命令(解雇期間中の賃金相当額の支払いの命令)を申し立てる。
case7:団体交渉拒否の不当労働行為が成立する場合、団交応諾命令(当該事項について(誠実に)交渉せよ、使用者の掲げる当該理由によっては団体交渉を拒否してはならない等の命令)を申し立てる。
case8:支配介入の不当労働行為が成立する場合、ポスト・ノーティス命令を申し立てるのが通常である。
一定の場合には組合員個人も救済命令の申立人になることができる
(速修 403 頁・3)。