Contract
組合契約における構成員課税の在り方
-組合員に係る帰属損益額の計算方法の検討を中心に-
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税 務 大 学 校研 究 部 教 育 官
要 約
1 研究の目的(問題の所在)
民法上の組合を含む任意組合等は法人格を有さず、それ自体が権利能力を有していないことから、現行の税制上、組合それ自体は納税義務の主体となるものではなく、各組合員を直接の納税義務者としている(いわゆる構成員課税)。
この組合事業に係る組合員に対する課税上の取扱いについては、法令上具体的な規定が存在せず、法人税基本通達や所得税基本通達において、①組合事業に係る損益が各組合員に直接帰属すること、②損益分配額の帰属の時期、
③分配を受ける利益等の額の計算方法(総額方式、中間方式、純額方式)などを定めている。
ところで、平成 17 年の有限責任事業組合法の成立により、出資割合にとら われない柔軟な損益分配を行うことを可能とする新たな組合制度が創設され、これを契機として、従来の任意組合をも含めた組合事業における組合員の課 税上の問題点として、出資割合と異なる損益分配割合が定められた場合にお いて、
① いかなる場合にその損益分配割合が経済的合理性を有するものであるといえるか
② 損益分配割合が出資割合と異なるとき(その損益分配割合に経済的合理性を有することが前提)における組合員に係る帰属損益額の計算をいかに行うか
といったことが顕在化したといえる。
上記の問題点を踏まえつつ、平成 17 年の通達改正時において所要の見直しを行ったところであるが、①については事例の集積を図りながら今後も検討していく事柄であると考えられる一方で、②については、基本通達においてその異なる損益分配割合が経済的合理性を有するものでなければならないと示した上で、その場合の組合員の帰属損益額の計算について、出資の価額を
基礎とした割合を用いて計算する方法が例示的に示されているにとどまり、その詳細は必ずしも明らかにされていない。
このため、現状では出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合において、課税当局として、適正な所得金額算定のための具体的な帰属損益額の計算方法(ルール)が示せていない状況にあるといえる(加えて、この問題については筆者の知る限りにおいて、学者、実務家において論述した文献、資料も見受けられない。)。
本研究では、上述のような状況を踏まえ、まず、損益分配割合が出資割合と異なる場合に(その損益分配割合が経済的合理性を有することが前提)における組合員に係る帰属損益額の計算をいかに行うかにつき、適正な所得金額算定のための具体的な帰属損益額の計算方法(ルール)の定立の一助となるよう、B/S法、P/L法という具体的な計算方法について検討を行うものである。
2 研究の概要
(1)柔軟な損益分配割合と組合員の帰属損益額の計算方法イ 企業会計の取扱い
企業会計においては、任意組合等に対する出資の会計処理について、日本公認会計士協会より公表された実務指針により出資金(又は有価証券)として処理すること、組合等の営業により獲得した損益の持分相当額を当期の損益として計上する処理方法(いわゆる純額方式)等が示されており、企業会計基準委員会が公表した実務対応報告においてもこれと同様としている。しかしながら、いずれの指針等においても組合契約において出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合の組合事業に係る帰属損益額の計算方法については具体的に示されてはいない。
ロ 学説の動向
組合契約において出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合の組合事業に係る帰属損益額の計算方法について、一部に提案されるもの
もxxxxx内容が限定的であったり、組合員の所得計算方法の法制化を指摘する見解や損益分配割合に合理性がない場合に組合員間において寄附金又は贈与課税が生じうることを指摘する見解はあるものの、出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合の組合事業に係る帰属損益額の計算方法に関する先行研究が存在しない状況である。
ハ 現行の税務上の取扱い
法人税基本通達においては、出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合においてその割合に経済的合理性を求めつつ、組合員の組合事業に係る帰属損益額の計算方法について合理的な方法であることを求めている。当該通達においては、出資割合により計算した損益額(出資割損益額)に、損益分配割合による損益額と出資割損益額との差額に相当する額を加減算する方法が例示的に示されてはいるがその詳細は明らかではない。
ニ 組合員の帰属損益額の計算方法の検討の必要性
上記の検討の結果、出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合における組合事業に係る組合員の帰属損益額の計算について、税制及びその周辺領域において何らその計算方法(ル-ル)が示されていないことが明らかになる。そこで、まずこの場合における帰属損益額の具体的な計算方法を検討していく。
(2)帰属損益額の具体的な計算方法(いわゆる総額方式を前提とする)イ B/S法とP/L法の考え方
出資割合と異なる損益分配割合が採用される場合には、組合事業から生ずる損益項目を各組合員へ配賦するにあたり、組合員が組合財産として個人財産を出資した際の出資割合と、組合員間で合意した損益分配割合の2つの割合のいずれかで配賦することが考えられる。このうち出資割合により配賦する方法がB/S法であり、損益分配割合により配賦する方法がP/L法である。
ロ B/S法による配賦
B/S法とは、組合事業から生ずる損益項目を出資割合により配賦し、いったん各組合員の損益額を確定させた上で、損益分配割合による損益額に合致するように各構成員間で利益を調整(利益調整額の損益計上)する方法と観念されるものである。
この方法においては、資産の費用化に伴う処理(例えば、棚卸資産の原価算入や資産の減価償却)を出資割合により計算するため、資産の持分割合は損益分配割合に影響されず、出資財産の持分割合と事業遂行により獲得した財産の持分割合が常に出資割合に合致することになる。また、損益分配割合に応じた損益額に合致させるための利益の調整が簡便であるという利点もある。
ハ P/L法による配賦
P/L法とは組合事業から生ずる資産、負債、収益及び費用を損益分配割合により配賦し、期末時の資産、負債の持分割合が出資割合に合致するように資産・負債勘定を組合員間で調整する方法として観念されるものである。
この方法においては、損益分配割合より各損益項目が配賦されるため、組合事業に係る財産は各組合員に直接帰属するという考え方にも沿うものであり、また、損益分配割合により課税売上高等が配賦されることにもなるため、消費税法の取扱いにも沿った計算方法であると思われる。
(3)各計算方法の課題の検討イ B/S法の課題の検討
(イ)組合事業に係る所得計算を行う上での別段の定めの適用について B/S法においては、各損益項目の当初配賦額は出資割合に応じた金
額となっており、利益調整額の計上により帰属損益額は損益分配割合に応じた金額となるものの、この当初配賦額をもって各税法の別段の定めを適用することには疑義が生ずる。また、この利益調整額は各損益項目の損益分配割合に応じた金額との差額を合計したものと考えることができることから、組合事業に係る所得金額を計算する際の別段
の定めを適用するにあたっては損益分配割合に応じた金額の算定方法を検討する必要がある。
(ロ)利益調整額の計上による個別B/Sに生ずる借方差異又は貸方差異この利益調整額は出資割合により当初配賦された各損益項目と合算
されて組合員の帰属損益額となり、各組合員の出資持分額(出資金と累計利益金又は累計損失金の合計額から累計分配金を控除した金額)を構成することから、将来の利益分配額に反映されるものである。この帰属損益額が損益分配割合により配賦される一方で、各組合員に帰属する資産及び負債の価額は出資割合により配賦されるため、各組合員に帰属する資産・負債の純資産額と出資持分額が不一致となる。したがって、損益分配割合が出資割合より大きい組合員は、出資持分額に比して帰属する資産・負債の純資産額が過少となり、個別B/Sに借方差異が生ずる。逆に損益分配割合が出資割合より小さい組合員は、出資持分額に比して帰属する資産・負債の純資産額が過大となり、個別B/Sに貸方差異が生ずることとなる。
この個別B/Sに生ずる借方差異は利益分配額が決定されることにより、自己に帰属した資産・負債の純資産額以上の組合財産の持分額を請求できる権利(利益分配請求権の一部)となり、貸方差異は自己に帰属した資産・負債の純資産額の一部を引き渡す義務となる。この利益分配請求権は組合員の組合に対する債権であるから、利益調整額の計上により生ずる借方差異(又は貸方差異)について債権(又は債務)として認識することにも合理性があるものと考える(税務上もこれと同様と考える)。
ロ P/L法の課題の検討
(イ)損益分配割合に応じた償却費の額を資産の持分額から控除することについて
損益分配割合による減価償却費の配賦額をもって資産の持分額から控除した場合には、出資割合と損益分配割合に大きな階差がある場合
には、出資割合が小さく損益分配割合がその割合より大きい組合員においては、資産の期首持分額以上の減価償却費が配賦される可能もある。また、損益分配割合により減価償却費を配賦することで資産の期末持分額が出資割合に応じた金額にならず、仮に期末持分額の調整を行わなかったとしたならば、資産の持分額がその後においてマイナスになるといった事象も生じうる。
したがって、損益分配割合により配賦された償却費の額を資産の持分額から控除することを前提とするP/L法については減価償却資産と減価償却費の関連性が断たれてしまうという不合理が生ずる計算方法であると考えざるを得ない。
(ロ)各組合員における資産の譲渡の認識について
減価償却資産の償却計算において資産の期末持分額を出資割合に応じた金額に調整することも含め、P/L法においては、組合事業により獲得した資産及び負債を各組合員にxx的に損益分配割合に応じて帰属させるため、期末時において出資割合に応じた金額となるように組合員間において資産の持分額を移転させる必要が生じる。ここでこの資産の移転を資産の譲渡として認識すべきか否かが問題となる。資産の譲渡とは「有償無償を問わず資産を移転させるいっさいの行為をいうものと解すべき」とされており、売買や交換その他の権利の移転を広く含む概念であるとされる点を考慮すると、組合員間の資産の持分額の移転も資産の譲渡と認識せざるを得ないとも考えられる。
しかしながら、この資産の移転は組合財産の配賦計算上においてのみ認識されるものであり、このような資産の移転に対してまで資産の譲渡を認識することは相当ではないが、財産の出資時においては他の組合員の持分について譲渡損益が認識するところであるから、組合員間の資産の移転には常に譲渡の有無の問題が生じうる。
ハ 小括
組合財産については各組合員の合有とされ、財産の出資時においては、
自己の持分以外の他の組合員の持分については譲渡損益が認識された上で、出資財産として各組合員の持分額が厳格に管理されることになる。そして、これを前提とした上で、組合事業に対する出資財産と組合事業から生じた果実を適切に区分し、組合事業に係る適正な所得計算を行うことが求められる。こうした観点からすれば、B/S法を採用した場合には、資産・負債を常に出資割合で管理することが徹底され、かつ、組合員間の利益の調整が簡便であるため、帰属損益額を計算する方法として合理的なものであると考えられる。一方、P/L法を採用した場合には、
①減価償却計算において資産の持分額以上の償却費が計上されたり、資産の持分額がマイナスにもかかわらず償却費が計上されるといった不合理を生じうること、②組合員間の資産の移転による調整を前提とするので、資産の譲渡を認識するかどうかといった問題が常に付きまとうことから、適正な所得計算の基本となる帰属損益額を計算する上において、このような不合理などを抱えることを前提とする方法は妥当ではないと考えられる。したがって、組合員の所得計算の基本となる帰属損益額の計算においてはB/S法を基本により計算するのが相当であると考える。
(4)B/S法を基本とした場合の所得金額計算上の問題とその対応イ 別段の定めの適用と利益調整額の再配賦について
B/S法を採用した場合には、組合員の帰属損益額は損益分配割合に応じた金額となるものの、各損益項目の当初配賦額は出資割合に応じた金額となることから、組合事業に係る所得計算を行う際の各税法の別段の定めを適用するにあたっては、各損益項目の損益分配割合に応じた金額を基礎として計算することが妥当と考えられる。例えば、各組合員が減価償却費の償却限度額を計算する場合には、出資割合で配賦された資産の価額を基礎として計算することが妥当と考えられることから、減価償却費についても上記のように損益分配割合に応じた金額を再計算して限度超過額を計算した場合には各組合員には償却超過額又は償却不足額が生じることになるものと考えられる。この点については貸倒引当金の設
定等の資産の価額を基礎として損金算入の限度額計算を行う項目について同様である。
ロ 個人組合員の利益調整額の所得区分の問題
個人の組合員の所得計算においては組合事業から生じた所得を所得税法所定の 10 種類の所得に区分する必要があるが、B/S法を採用した場合には収入及び必要経費がxx的には出資割合により配賦されるため、適正な所得区分による所得計算ができない可能性がある。特に、B/S法を採用した場合に生ずる利益調整額の所得区分が問題になると考える。この利益調整額は組合事業から生じた収益及び費用を損益分配割合でなく出資割合により配賦することに起因して生ずるものであるから、当初配賦された収入及び必要経費の額を基礎として計算される各種の所得に対し、この利益調整額は独立して存在するものではなく、組合事業の種類に応じて生ずる所得(又は損失)であると考えられる。したがって、この利益調整額を各種の所得に帰属させることが望ましいが、所得区分ごとの損益分配割合が異なる場合や同じ所得区分であっても事業ごとの利益率が異なるといった場合には各種の所得の金額を適正に計算できないことも考えられる。
ハ 適正な所得計算のための対応
上記イ及びロの問題に対応するため、組合事業に係る所得計算において、B/S法により個別B/S及び個別P/Lを作成することとした場合には、個人の所得区分ごとに特定の項目を、あるいは別段の定めの適用のある項目を抽出して別途計算することが考えられるが、実務上極めて煩雑な作業となる上、このような計算を行うことにより各種の所得計算の合理性が保たれているか疑義がないわけではない。また、これ以外にも、個別B/Sを個別P/Lと連動させずに作成する(個別B/Sは出資割合に応じて、個別P/Lは損益分配割合に応じて作成するもの)、個別P/Lを作成し直す(出資割合で配賦された損益項目の金額を損益分配割合に応じた金額で作成し直すもの)といった方法も考えられるが、xx妥当な
会計処理の観点からは、これらの方法は期間損益及び財務諸表の連動を検証することができなくなると考えられるため不合理なものと言える。組合事業に係る所得計算の方法としては、上述のとおりB/S法が適当 であるとのスタンスに立っているところ、上述のイ及びロの問題点に対するためには、個別P/Lの利益調整額を再配賦する方法が最も合理的で簡便な方法であると考える。すなわち、個人の所得区分にあっては、例えば出資割合で配賦された収入及び必要経費の額を基礎として計算された各種の所得の金額に応じて利益調整額を再配賦し、別段の定めの適用にあっては、各損益項目の金額に応じて利益調整額を再配賦する方法が
適当であると考える。ニ 消費税等の考え方
B/S法を採用して帰属損益額を計算した場合には、消費税等の課税売上高及び課税仕入額についても出資割合により配賦されるため、消費税等の申告額を計算する際には損益分配割合に応じた課税売上高及び課税仕入額を再計算する必要がある。これにより各組合員に帰属した未払消費税額等と納付すべき消費税額等との間に差異が生ずるため、この差異相当額を各組合員の損益として処理した場合には消費税等の取扱いと異なる処理となることから、この差異相当額の現金と未払消費税額等を組合員間で調整することが妥当であると考える。
3 結論
出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合において、組合員の帰属損益額をどのように計算するかについては、組合員間に存在するであろう出資割合と損益分配割合という2つの割合により組合員の帰属損益額を計算する方法をそれぞれ提示し、その計算方法について検討した結果、組合事業から生ずる資産・負債を常に出資割合により管理し、かつ、組合員間の利益の調整が簡便であるB/S法を採用するのが妥当であると考える。
また、このB/S法を基本として計算された帰属損益額を基礎として、組合
員が損益分配割合に応じた所得金額を計算するにあたっては、出資割合に応じて配賦された各損益項目の当初配賦額に対して利益調整額を再配賦した上で、各税法の別段の定めを適用し、個人組合員の所得区分ごとの所得金額を計算し、組合員の課税売上高等を再計算する必要があると考える。
目 次
はじめに 257
第1章 柔軟な損益分配割合と組合員の帰属損益額の計算方法 259
第1節 課税問題の顕在化と組合課税の検討 259
1 有限責任事業組合法の創設と損益分配割合に係る課税問題の
顕在化 259
2 会計上の取扱い 261
3 学説の動向 263
4 小括 266
第2節 現行の税務上の取扱い 267
1 基本通達の内容 267
2 出資割合と異なる損益分配割合が採用される場合の論点 270
3 小括(本研究の必要性) 271
第2章 民法及び税法における組合員の持分の考え方 273
第1節 民法における組合員の持分の考え方 273
1 組合財産と組合員の関係 273
2 組合と各組合員の関係(組合員間の関係) 274
3 組合財産に対する組合員の持分額 275
4 組合の組成数の増加 276
第2節 税法における組合員の持分の考え方 278
1 措置法規定から見る組合員の持分額 278
2 具体的な規定の内容 278
第3章 組合事業から生ずる損益の配賦方法とその課題 280
第1節 なぜB/S法とP/L法なのか 280
1 B/S法の考え方 281
2 P/L法の考え方 281
第2節 帰属損益額の計算方法とその課題 281
1 B/S法の概要とその課題 281
2 P/L法の概要とその課題 283
第3節 B/S法の課題の検討 285
1 利益調整額の計上による影響 285
2 個別B/Sに生ずる借方差異又は貸方差異 286
第4節 P/L法の課題の検討 287
1 資産の持分割合と償却計算の調整 287
2 損益分配割合に応じた償却費の額を資産の持分額から控除する
ことについて 288
3 組合員間の資産の譲渡を認識するか 290
4 小括 291
第4章 B/S法を基本とした場合の所得金額計算上の問題とその対応 292
第1節 利益調整額の再配賦 292
1 当初配賦額による別段の定めの適用について 292
2 利益調整額の再配賦の計算について 293
3 資産の持分額を基礎とした損金算入限度額と利益調整額の
再配賦 294
4 資産の持分額を基礎として費用計算するもの(償却費以外) 295
第2節 個人の組合員の所得計算において検討すべき課題 297
1 個人の組合員の利益調整額の所得区分の問題 297
2 出資額が著しく低く、損益分配割合が高い組合員に対する配賦 297
3 利益調整額の再配賦の計算について 299
第3節 消費税等の考え方 300
1 各組合員の課税売上高、課税仕入額の考え方 300
2 B/S法を基本とした帰属損益額の計算から生ずる課題の検討 300
3 小括 302
第4節 組合員の帰属損益額等の計算についての提言 303
1 出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合の帰属損益額
の計算について 303
2 帰属損益額の計算を踏まえた所得金額等の計算について 304
おわりにあたって 306
はじめに
民法上の任意組合等は法人格を有さず、それ自体が権利能力を有していないことから、現行の税制上、組合それ自体は納税義務の主体となるものではなく、各組合員を直接の納税義務者としている(いわゆる構成員課税)。
この組合事業における組合員の課税上の取扱いについては、法令上具体的な規定が存在せず、法人税基本通達や所得税基本通達において、①組合事業に係る損益が各組合員に直接帰属すること、②損益分配額の帰属の時期、③分配を受ける利益等の額の計算方法(総額方式、中間方式、純額方式)などを定めている。
ところで、平成 17 年に「有限責任事業組合契約に関する法律」(以下「有限責任事業組合法」という。)が成立し、組合契約でありながら組合員の責任を出資金の範囲に制限する有限責任性とし、出資割合にとらわれない柔軟な損益分配を行うことを可能とするなどを内容とする新たな制度が創設された。
上記の制度創設を契機として、従来の任意組合をも含めた組合事業における組合員の課税上の問題点として、出資割合と異なる損益分配割合が定められた場合において、
① いかなる場合にその損益分配割合が経済的合理性を有するものであるといえるか
② 損益分配割合が出資割合と異なるとき(その損益分配割合に経済的合理性を有することが前提)における組合員に係る帰属損益額の計算をいかに行うか
といったことが顕在化したといえる。
上記の問題点はいずれも重要な問題であり、平成 17 年の通達改正時においてもこのような点を踏まえつつ所要の見直しを行ったところであるが、そのうち、
①については、個々の具体的な事例に応じて判断せざるを得ない面があることや、そうした場合に設定することが想定される有限責任事業組合においては根拠法の規定により出資割合と異なる損益分配割合につきその合理性を明らかに
する事由を組合契約書に明記することとされていることなどから、今後、事例の集積を図りながら検討していく事柄であるとも考えられる。
他方、②については、現行の通達上、その異なる損益分配割合が経済的合理性を有するものでなければならないと示した上で(法人税基本通達 14-1-2(注)1)、その場合の組合員の帰属損益額の計算について、出資の価額を基礎とした割合を用いて得た利益の額又は損失の額(出資割損益額)に損益分配割合に応じた損益額と出資割損益額との差額に相当する額を加減算する方法が例示的に示されているにとどまり、その詳細は必ずしも明らかにされていない状況がある。
このため、現状では出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合において、それが個々の実情により経済的合理性があると認められるときの組合員の課税関係につき、課税当局として、適正な所得金額算定のための具体的な帰属損益額の計算方法(ルール)が示せていない状況にあるといえる(加えて、この問題については筆者の知る限りにおいて、学者、実務家において論述した文献、資料も見受けられない。)。
本研究では、上述のような状況を踏まえ、まず、損益分配割合が出資割合と異なる場合(その損益分配割合が経済的合理性を有することが前提)における組合員の帰属損益額の計算をいかに行うかにつき、適正な所得金額算定のための具体的な帰属損益額の計算方法(ルール)の定立の一助となるよう、B/S法、 P/L法という具体的な計算方法について検討を行うものである。
第1章 柔軟な損益分配割合と組合員の帰属損益額の計算方法
第1節 課税問題の顕在化と組合課税の検討
1 有限責任事業組合法の創設と損益分配割合に係る課税問題の顕在化
平成 17 年8月に有限責任事業組合法が施行され、従来から存在する民法上の任意組合の特例として、①出資者の有限責任、②内部自治の徹底、③構成員課税の適用という特徴を併せ持つ有限責任事業組合が組成されることとなった(1)。この有限責任事業組合については、組合契約でありながら、組合員の責任を出資金の範囲に制限し、さらに出資割合にとらわれない柔軟な損益分配を可能とするものである。
この有限責任事業組合の特徴の1つとして取り上げられる出資割合にとらわれない柔軟な損益分配を可能とする点については、従前から民法上の任意組合等(2)においても認められていたもの(3)であるが(民法 674)、この制度の
(1) 経済産業省 HP「LLP に関する 40 の質問と 40 の答え」 xxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxxxx/xxxxx_xxxxxxxxxx/xxxxxxxxxxxx/xxx/xxx
この有限責任、内部自治、構成員課税の3つの効果によって、大企業同士、大企業と中小企業、産学連携、専門人材同士などの様々な共同事業が促されると見込まれている。
(2) 民法上の任意組合の特例として投資事業有限責任組合がある。この組合契約においても出資割合と異なる損益分配割合を採用することができる(投責法 16 条)。この組合は平成 10 年に「中小企業等投資事業有限責任組合に関する法律」が施行され、中小企業等投資事業有限責任組合として組成されたが、平成 16 年に同法が「投資事業有限責任組合に関する法律」に改称されたことを機に、組合の名称も「投資事業有限責任組合」に改称されたものである。同法第 16 条(民法の準用)においては、
「組合については、民法(中略)第六百七十一条から第六百七十四条まで(中略)の規定を準用する。」と規定されており、当該組合においても出資割合と異なる損益分配割合が定められることが予定されている。
(3) 民法 674 条においては、「当事者が損益分配割合を定めなかったときは、その割合は、各組合員の出資の価額に応じて定める。」と規定されており、民法上の任意組合においても出資割合と異なる損益分配割合が定められることも予定されていたと言える。
創設を契機として、従来の任意組合をも含めた組合事業における組合員の課税上の問題として、出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合において、①いかなる場合にその損益分配割合が経済的合理性を有するのか、②損益分配割合が出資割合と異なるとき(その損益分配割合が経済的合理性を有することを前提とする)における組合員の帰属損益額(4)の計算をいかに行うかといったことが顕在化したといえる。
上記の点はいずれも重要な問題であるが、そのうち①については、個々の具体的な事例に応じて判断せざるを得ない面があることや、そうした割合を設定することも想定される有限責任事業組合においては、組合契約書に出資割合と異なる損益分配割合の合理性を明らかにする事由を明記することが義務付けられていることなどから(有責法規 36)、今後も事例の集積を図りながら、検討していく事柄であるとも考えられる。
他方、②については、現行の通達上、その異なる損益分配割合が経済的合理性を有するものでなければならないと示した上で(法人税基本通達 14-1-2(注)1)、その場合の組合員の帰属損益額の計算について、出資の価額を基礎とした割合を用いて得た利益の額又は損失の額(出資割損益額)に損益分配割合に応じた損益額と出資割損益額との差額に相当する額を加減算する方法が例示的に示されているにとどまり、その詳細は必ずしも明らかにされていない状況がある。
そこで、組合事業に係る会計処理について企業会計における取扱いや組合課税に関する学説の動向をも踏まえながら、出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合の、組合員の帰属損益額の計算方法の検討の現状を整理しておく。
(4) 組合事業に係る利益金額又は損失金額のうち分配割合に応じて利益の分配を受けるべき金額又は損失の負担をすべき金額をいう(法人税基本通達 14-1-1 の2(任意組合等の組合事業から受ける利益等の帰属の時期)参照)。
2 会計上の取扱い
企業会計においては、日本公認会計士協会より会計制度委員会報告第 14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「実務指針」という。)が公表され、その第 132 項及び第 308 項において、任意組合等への出資の会計処理が示されている。
会計制度委員会報告第 14 号「金融商品会計に関する実務指針」(抄)
平成 19 年 7 月 4 日最終改正
任意組合、匿名組合、パートナーシップ、リミテッド・パートナーシップ等への出資の会計処理
132.第 134 項に定める商品ファンドへの投資を除き、任意組合すなわち民法上の組合、匿名組合、パートナーシップ及びリミテッド・パートナーシップ等(以下「組合等」という。)への出資については、原則として、組合等の財産の持分相当額を出資金(金融商品取引法第2条第2項により有価証券とみなされるものについては有価証券)として計上し、組合等の営業により獲得した損益の持分相当額を当期の損益として計上する。
ただし、任意組合、パートナーシップに関し有限責任の特約がある場合にはその範囲で損益を認識する。
なお、組合等の構成資産が金融資産に該当する場合には金融商品会計基準に従って評価し、組合等への出資者の会計処理を基礎とする。例えば、組合の保有するその他有価証券の評価差額金に対する持分相当額は、その他有価証券評価差額金に計上されることになる。
任意組合、匿名組合、パートナーシップ、リミテッド・パートナーシップ等への出資の会計処理
308.任意組合、パートナーシップについては、法律xxx財産は組合員又
はパートナーの共有とされていることを考慮して、組合財産のうち持分割合に相当する部分を出資者の資産及び負債として貸借対照表に計上し、損益計算書についても同様に処理する実務もある。しかし、出資者が単なる資金運用として考えている場合、又は有限責任の特約が付いている場合など、多くの場合には、匿名組合、リミテッド・パートナーシップと同様に貸借対照表及び損益計算書双方について持分相当額を純額で取り込む方法が適切と考えられることから、その方法を原則とした。特に、投資事業有限責任組合又はそれに類する組合への出資で金融商品取引法第2条第
2項により有価証券とみなされるものについては、これに当てはまる場合が多いと考えられる。また、状況によっては貸借対照表について持分相当額を純額で、損益計算書については損益項目の持分相当額を形状する方法も認められると考える。
他方、匿名組合及びリミテッド・パートナーシップについては、それらが実質的に匿名組合出資者等の計算で営業されている場合もあり得るため、貸借対照表及び損益計算書双方について持分相当額を純額で取り込む方法が妥当しないことも想定される。このような多様な実情を踏まえ、組合等への出資(有価証券とみなされるものを含む。)については、その契約内容の実態及び経営者の意図を考慮して、経済実態を適切に反映する会計処理及び表示を選択することとなる。
この実務指針は、組合員の組合財産に対する持分相当額の処理方法について示したものであり、第 132 項においては、組合財産の持分相当額を出資金
(又は有価証券)として計上し、組合の事業活動により獲得した損益の持分相当額を当期の損益として計上することを原則としている。また、第 308 項
においては、第 132 項による処理を原則としつつも、組合契約の内容の実態及び経営者の意図を考慮して、経済実態を適切に反映する会計処理及び表示を選択することが示されている。つまり、この第 132 項及び第 308 項においては、組合員の組合財産に対する持分相当額の処理について、いわゆる純額
方式を原則としつつも、その契約内容の実態及び経営者の意図を考慮して、総額方式又は中間方式を採用して処理することも認める内容となっている。また、企業会計基準委員会においては、平成 17 年8月の有限責任事業組合
法の施行及び平成 18 年5月の会社法の施行を受けて、平成 18 年9月に実務 対応報告第 21 号「有限責任事業組合及び合同会社に対する出資者の会計処理に関する実務上の取扱い」(5)を公表しており、この中で、有限責任事業組合への出資については民法上の組合等への出資と同様に、上記の実務指針第 132 項及び第308 項により会計処理を行うことが適当であると示されている。さらに、この実務対応報告においては「総組合員の同意により出資割合と 異なる損益分配を行うことを定めた場合(有限責任事業組合法第 33 条)には、当該損益分配の比率を考慮のうえ、損益の持分相当額を調整することになる」旨が示されており、出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合に、損益分配割合を考慮の上、組合員間の損益の持分額を調整することとされているが、各組合員の損益分配割合に応じた損益額の計算方法を具体的に示して
いるわけでない。
以上のことから、これらの指針等以外に組合財産に対する持分相当額についての会計処理を示す基準が見当たらない現状においては、出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合に、組合員の帰属損益額をどのように計算するか、会計xxx方法が具体的に示されてはいないと言えよう。
3 学説の動向
組合の課税関係に関する租税法学者の研究は従来から極めて少なかったものの、近年、少しずつ優れた研究が公表されているとされる(6)。しかしながら、このような研究業績の中にあっても、特に出資割合と損益分配割合が異なる場合の組合員の帰属損益額の計算をいかに行うかについて言及するもの
(5) 平成 18 年9月8日(平成 21 年3月 27 日改正)企業会計基準委員会 実務対応報告第 21 号「有限責任事業組合及び合同会社に対する出資者の会計処理に関する実務上の取扱い」参照
(6) xxx「任意組合の課税関係」税研 21 巻4号 16 頁(税務研究センター、2006)。
は、筆者の知る限りにおいて極めて少ないものと考える。以下、組合員間の損益分配割合並びに組合員の帰属損益額の計算方法について指摘する先行研究について触れておく。
xxxx日本大学教授は、出資割合(財産持分割合)と損益分配割合が異 なる場合の税務会計処理については明らかでなく、組合員間の譲渡所得課税 や消費税の課税問題が発生するために混乱が生ずると指摘する(7)。そして、 同教授は出資割合と損益分配割合が異なる場合の組合事業から生ずる損益項 目の各組合員への配賦については、損益情報(損益科目、金額とも)を正し く反映することが重要であるという理由から、損益分配割合に応じて帰属さ せるのが望ましいとしている。一方、貸借対照表科目のうち累計利益を除く 部分については、譲渡所得課税や消費税の対象とならないよう出資割合で帰 属させることとし、貸借対照表において生じる貸借差額については持分差異 調整勘定を用いて調整する方法により解決することができるとしている(8)。 ここで示されている損益項目の配賦の方法については、損益分配割合に応じ て各組合員へ配賦するのが望ましいとする点で、法人税基本通達が例示する 方法(9)とは異なるものであるが、設定されているモデルにおいては、減価償 却資産の償却計算や貸倒引当金の設定といった資産の価額を基礎として費用 化される項目については取上げられておらず、本稿の後半(第3章及び第4 章)において検討する課題については必ずしも言及されていない(10)ことから、あくまで同教授の設定されたモデルを前提として採用される計算方法を示め しているに過ぎず、具体的な計算方法についての提言までには至っていない。
xxxx東京大学教授は、組合事業から生ずる損益の額の計算方法につい
(7) xxxx「特殊事業体における多様な損益分配-構成員課税と会計問題-」租税研究 725 号 188 頁(2010)。
(8) xx・前掲注(7)189 頁。
(9) 法人税基本通達 14-1-2 注 2 に示す計算方法を指す。
(10) 貸借対照表における組合員の持分を出資割合により配賦し、損益計算書における組合員の持分を損益分配割合により配賦することにより貸借対照表に生ずる貸借差額の調整については、本稿においても検討しており、本稿において検討するすべての項目に関して言及がないということでない。
て、民法において具体的な規定が存在しないこと、組合が法人税の納税義務者でないことにより組合の損益の額の計算方法について法人税法に規定が置かれていないこと、個人組合員に帰属すべき損益の額の計算方法についても、所得税法には何ら規定が存在しないこと、それゆえにどの勘定が組合段階で計算され、どの項目が個人組合員段階で計算されるかといった計算次第の一切が、所得税法等の一般規定の解釈に委ねられている旨指摘する(11)。また、現在の国税庁の解釈として示される所得税基本通達 36・37 共-20 の中で示される3つの方式(総額方式、中間方式及び純額方式の3方式)はもともと立法によって解決すべき問題であり、解釈のみにより手当てしようとするゆえに種々の問題を抱えているとも指摘する(12)。同教授は組合員が契約上定めた損益分配割合が出資割合と異なる場合に、当事者が契約上定めた損益分配の割合を課税上どこまで尊重すべきかという問題の検討を通して、組合課税における基本概念の法制化から始める必要があると提言されているが(13)、あくまで組合事業に係る所得計算について立法化の必要性を指摘するものであり(14)、出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合の組合員の帰属損益額の具体的な計算方法まで提言されているわけではない。
xxxx成蹊大学教授は有限責任事業組合を例として、出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合に、税務上は合理的な理由が必要である旨指摘される(15)。同教授は組合員の損益への貢献度合いがその組合員の拠出した物的資本と提供している人的役務を十分に反映している必要があるとし、も
(11) xxxx「組合損益の出資者への帰属」税務事例研究 49 巻 58 頁(税務研究センター、1999)。
(12) xx・前掲注(11)61 頁~63 頁。
(13) xx・前掲注(11)88 頁。
(14) 組合事業に係る所得計算についてその多くが法の解釈に委ねられていることに対する立法化を指摘する研究として、xxxx「組合による投資と課税」税務事例研究 50 巻(税務研究センター、1999)、xxxx「パートナーシップに対する出資とビルトイン・ゲイン/ロスの配賦について」税法学 537 号(日本税法学会、2007)などがある。
(15) xxxx「有限責任事業組合の税務」税務事例研究 90 巻 35 頁(税務研究センター、2006)
しそのような要素を無視して損益分配割合が決定されている場合には、組合員間での寄附金又は受贈益の課税が行われる可能性あると述べられるが(16)、税務xxx損益分配割合に合理的な理由が必要である点を指摘されるにとどまっている。
xxxx(公認会計士)は、我が国の民法が損益分配割合を組合員の合意により自由に決定できることとしており、その定めがない場合にのみ出資割合に制限しているに過ぎないと述べた上で、出資割合に関わらず損益分配割合を別途定めた場合には、米国税法上の「実質的経済効果」のようなxx上の規定がないことから、税務上、組合員間における寄附金、贈与の問題が発生する可能性があると指摘するが、その発生の可能性を指摘するにとどまる
(17)。
4 小括
出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合(その損益分配割合が経済的合理性を有することが前提)における組合員の帰属損益額の計算をいかに行うかといった課税上の問題について、税制の周辺領域である企業会計や学説の動向について検討を行ってきた。
企業会計上の取扱いについて検討したところでは、任意組合等への出資の会計処理を示した実務指針とこの実務指針により処理する旨を述べる実務対応報告が定められているだけで、企業会計上は出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合の組合員の帰属損益額の計算方法を示した基準等は存在していない状況である。
また、学会の動向についても検討したところ、組合事業において出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合の課税上の問題点については、帰属損益額の計算方法が提案されるものの、その内容は限定的であり、その他は組合員の所得計算方法の法制化並びに損益分配割合の合理性を指摘するにと
(16) xx・前掲注(15)36 頁。
(17) xxx『米国パートナーシップ-事業形態と日米の課税課題』237 頁(中経社、1994)。
どまっている。したがって、学会の動向としては、出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合の組合員の帰属損益額の計算方法について、その先行研究が存在しないということが明らかになった。
以上のことから、本稿において取り上げている、出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合(その割合が経済的合理性を有することが前提)における組合員の帰属損益額の計算方法については、未だその研究が税制以外の周辺領域においてはほとんど進んでいない(18)というのが実情と言えよう。
第2節 現行の税務上の取扱い
1 基本通達の内容
組合事業から生ずる損益に係る税務上の取扱いについては、法令上具体的な規定が存在せず法人税基本通達及び所得税基本通達にその取扱いの定めがある。各組合員の組合事業から生ずる損益額(帰属損益額)をどのように計算するかについては、現行の通達において次のとおり示されている。
〇 所得税基本通達(抄)
(任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の額の計算等)
36・37 共―20 36・37 共―19 及び 36・37 共―19 の 2 により任意組合等の組合員の各種所得の金額の計算上総収入金額又は必要経費に算入する利益の額又は損失の額は、次の(1)の方法により計算する。ただし、その者が継続して次の(2)又は(3)の方法により計算している場合には、その計算を認めるものとする。
(18) 実務家における組合事業に係る会計・税務に関する研究については、xxxx『組合事業の会計・税務[第2版]』(中経社、2008)、xxxx『LLC LLP の制度・会計・税務[第2版]』(中経社、2008)東京共同会計事務所『ビークル(事業体)の会計・税務[第2版]』(中経社、2008)などがあるが、損益分配割合が出資割合と異なる場合における組合員の帰属損益額の計算をいかに行うかについて言及するものは皆無である。
(1) 当該組合事業に係る収入金額、支出金額、資産、負債等を、その分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法
(2) 当該組合事業に係る収入金額、その収入金額に係る原価の額及び費用の額並びに損失の額をその分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法
この方法による場合には、各組合員は、当該組合事業に係る取引等について非課税所得、配当控除、確定申告による源泉徴収税額の控除等に関する規定の適用はあるが、引当金、準備金等に関する規定の適用はない。
(3) 当該組合事業について計算される利益の額又は損失の額をその分配割合に応じて各組合員にあん分する方法
この方法による場合には、各組合員は、当該組合事業に係る取引等について、非課税所得、引当金、準備金、配当控除、確定申告による源泉徴収税額の控除等に関する規定の適用はなく、各組合員にあん分される利益の額又は損失の額は、当該組合事業の主たる事業の内容に従い、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得のいずれか一の所得に係る収入又は必要経費とする。
〇 法人税基本通達(抄)
(任意組合等の組合事業から分配を受ける利益等の額の計算)(抜粋)
14-1-2 法人が帰属損益額を 14-1-1 及び 14-1-1 の 2 により各事業年度の益金の額又は損金の額に算入する場合には、次の(1)の方法により計算する。ただし、法人が次の(2)又は(3)の方法により継続して各事業年度の益金の額又は損金の額に算入する金額を計算しているときは、多額の減価償却費の前倒し計上などの課税上弊害がない限り、これを認める。
(1) 当該組合事業の収入金額、支出金額、資産、負債等をその分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法
(2) 当該組合事業の収入金額、その収入金額に係る原価の額及び費用の額並びに損失の額をその分配割合に応じて各組合員のこれらの金額として計算する方法
この方法による場合には、各組合員は、当該組合事業の取引等について受取配当等の益金不算入、所得税額の控除等の規定の適用はあるが、引当金の繰入れ、準備金の積立て等の規定の適用はない。
(3) 当該組合事業について計算される利益の額又は損失の額をその分配割合に応じて各組合員に分配又は負担させることとする方法
この方法による場合には、各組合員は、当該組合事業の取引等について、受取配当等の益金不算入、所得税額の控除、引当金の繰入れ、準備金の積立て等の規定の適用はない。
(注)1 分配割合が各組合員の出資の価額を基礎とした割合と異なる場合は、当該分配割合は各組合員の出資の状況、組合事業への寄与の状況などからみて経済的合理性を有するものでなければならないことに留意する。
2 (1)又は(2)の方法による場合における各組合員間で取り決めた分配割合が各組合員の出資の価額を基礎とした割合と異なるときの計算は、例えば、各組合員の出資の価額を基礎とした割合を用いて得た利益の額又は損失の額(出資割損益額)に、各組合員間で取り決めた分配割合に応じた利益の額又は損失の額と当該出資割損益額との差額に相当する金額を加算又は減算して調整する方法によるほか、合理的な計算方法によるものとする。
3 (1)又は(2)の方法による場合には、減価償却資産の償却方法及び棚卸資産の評価方法は、組合事業を組合員の事業所とは別個の事業所として選定することができる。
4・5 略
上記の通達においては、組合員の組合事業に係る帰属損益額はその組合員
たる個人、法人に係る分配割合に応じて計算されることとされており、損益分配割合の取り決めがなければ出資割合により、出資割合と異なる損益分配割合の取り決めがあれば、損益分配割合(その割合に経済的合理性を求めるが)により帰属損益額を計算することになる。また、組合事業に係る帰属損益額の組合員自らの決算への受け入れ方法として3つの方式(総額方式、中間方式、純額方式)が示されており、これら3つの方式は勘定科目の認識の差を示していると考えられることから、その計算方式に応じて、所得金額を計算する際の申告調整項目が異なることが併せて示されている。
2 出資割合と異なる損益分配割合が採用される場合の論点
上記法人税基本通達においてはその注書き(注1、2)において、出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合の各組合員の所得計算上、考慮されるべき点が示されている。それは各組合員が受ける損益分配割合の経済的合理性と各組合員の帰属損益額の計算方法の合理性である。有限責任事業組合契約においては柔軟な損益分配が可能となっていることが大きな特徴であることは冒頭で触れたが、この柔軟な損益分配は私法上の特約契約であって、税務上それに基づいて分配が行われた場合に、そのすべてが認められるかどうかは別の観点からの検討が必要とされる。つまり、一般に利害関係が相反する第三者同士による契約であれば、その割合は一定程度客観性を有したものと考えることもできようが、例えば、組合員が同族関係者(親子会社や同族会社も含む)のみで占められている場合には、恣意的な損益分配により、財産の贈与や寄附といった行為を容易に行うことができてしまう。そこで、税務上は出資割合と異なる損益分配割合が採用される場合には、その割合が経済的合理性を有する必要があるものとし、その分配割合に経済的合理性があると認められない場合には、原則として、その分配額と各組合員の出資割合により計算した金額との差額を対象として、組合員間の経済的価値の移転
が生じたものとして課税関係を律することになる旨述べられている(19)。
また、仮に組合員間の損益分配割合に経済的合理性があると認められるとしても、組合事業に係る帰属損益額の計算方法については合理的な計算方法
(20)であることが求められている。通達上、損益分配割合が出資割合と異なる
場合における組合事業に係る帰属損益額の計算方法として組合員間損益調整法とされる方法(21)が例示的に示されてはいるものの、その内容として出資割合により計算された損益額に損益分配割合による損益額との差額相当額を加減算して調整する方法として説明される点以外に詳細は必ずしも明らかではない。
3 小括(本研究の必要性)
前節においては、有限責任事業組合法の創設を契機として出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合の、組合員の帰属損益額の計算方法については、会計制度や多数の研究者における検討において何ら明らかにされていないことに言及したところであるが、税務上においても、一部にその計算方法は示されてはいるものの、その詳細は明らかでない。つまり、現状では出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合において、その割合が個々の実情により経済的合理性があると認められたとしても、課税当局として、適正な所得金額算定のための具体的な帰属損益額の計算方法(ルール)が示せていない状況にあると言える。
本研究では、このような状況を踏まえ、まず損益分配割合が出資割合と異なる場合における、組合員の適正な所得金額算定のための具体的な帰属損益
(19) xxxx編『法人税基本通達逐条解説』1238 頁~1239 頁(税務研究会出版局、2008)
(20) 組合事業に係る帰属損益額の合理的な計算方法とは、そもそもどのような計算方法をいうかは必ずしも明らかにされているわけではない。筆者の私見を示せば、各組合員の恣意性に左右されないこと(xx・中立)、計算方法が明確であること、(できるだけ)簡便であることといった点が考慮されるべきであると考える。
(21) xx・前掲注(19)1239 頁。通達立案者による解説の中で、組合員間で取り決めた分配割合と出資割合との差異を組合員間の損益の移転として調整勘定を用いることにより調整する方法をこのように称している。
額の計算方法(ルール)の定立のための一助となるよう、B/S法、P/L法という具体的な計算方法について検討を行うものである。
第2章 民法及び税法における組合員の持分の考え方
具体的な組合員の帰属損益額の計算の検討を行う前に、本章においては、民法及び税法における組合員の組合財産に対する持分の考え方について整理を行っておく。
第1節 民法における組合員の持分の考え方
1 組合財産と組合員の関係
各組合員の出資その他の組合財産は総組合員の共有に属すると規定されているが(民法 668)、この組合契約における共有についてはいわゆる合有(22)とも呼ばれ、普通の共有と異なり、組合員はその持分を処分する権利は制限され、かつ清算前に組合財産の分割を請求することは禁じられている(23)(民法 676①②)。この組合財産には、①組合員によって出資された各種の財産(動産、不動産や特許権など)、②出資請求権(組合員が組合契約で一定の出資をすることを約束してまだそれを履行しない場合にその履行を求める権利)、③組合業務の執行によって取得した財産(すでに支払又は引渡を受けたものだけでなく、債権もこれに含まれる。)、④組合財産から生じた財産(組合財産の果実、収用の対価、その毀損等によって生じた損害賠償請求権など)、⑤組合債務(組合が業務を執行するにあたって負担する債務)が含まれるとされ
(22) 組合財産の帰属関係について、最高裁は「組合財産が理論上合有であるとしても、民法の法条そのものはこれを共有とする建前で規定されており、組合所有の不動産の如きも共有の登記をするほかない。従って解釈論としては、民法の組合財産の合有は、共有持分について民法の定めるような制限を伴うものであり、持分についてかような制限のあることがすなわち民法の組合財産の合有だとみるべきである」との判断を示している(最判昭 33・7・22 民集 12 巻 12 号 1805 頁)。
(23) ただし、組合員全員の合意をもってすれば組合財産を自由に処分したり有効に分割することができると解されている(xxxx『新版注釈民法(17)債権(8)』59 頁(有斐閣、1995))。
る(24)。
これらの組合財産に対する各組合員の持分は数量的に定まった割合的な持分であり、具体的な権利として実質を持つものであって、個々の財産に対しても各組合員が割合的権利=共有持分を有すると解されている(25)。この共有持分については、組合員間における持分の譲渡が行われるならば、その持分割合が変動することになるのは自明であるが、組合契約における出資割合と利益分配割合が異なるときに、各組合員に対する利益の分配を現金で行わず、各組合員の持分額を増加させる方法(26)に拠った場合には、組合財産に対する持分割合は利益分配前の割合と異なるものになると解されている(27)。
2 組合と各組合員の関係(組合員間の関係)
民法上の組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによりその効力が生じるが(民法 667)、この組合契約は売買その他の契約と同様に、民法債権編に規定されていることからも債権契約の一種であるとされている(28)。債権契約として考えた場合に、債権者と債務者との対立関係がまず想定されるが、組合契約とは当事者が共同の事業を営むことを約する契約であるから、相互に対立する関係とはイメージしにくい。すると組合契約のどこに債権契約が存在するのか。それは、各当事者が出資をして共同事業を行う契約を締結するところに存在すると考えられる。つまり、組合契約によりある組合員は財産的価値のある個人財産を組合財産として出資すべきことが義務付けられるが、この義務は組合に対する債務として考えられ、組合の業務執行者(又は他の組合員)はその組合員に対し出資請求権という債権を有することとなる。この場面において両者は債権債務関係にあると考
(24) xxx『債権各論中巻二』798 頁~800 頁(岩波書店、1987)
(25) xx・前掲注(23)68 頁~69 頁
(26) 損失の分担についても、組合存続中に割当額を現実に払い込むべき特約を設けた場合以外は、現実に出損して損失を補填するのではなく、組合財産を処分したり、損失分担者の組合財産上の持分を減少させたりする方法も可能であるとされる。
(27) xx・前掲注(24)同頁
(28) xxx「民法上の組合の本質」法と経済 13 巻4号 493 頁(立命館出版、1940)
えられる。
また、組合財産が組合から個人へ移転する場面、例えば各組合員への利益の分配額が決定した時点や組合員の脱退によりその持分を清算する時点においては、組合員は組合(他の組合員)に対し利益分配額の請求権や持分の払戻請求権という個人財産を取得するものとされる(29)ので、組合員と組合との間では出資時とは逆の債権債務関係が生ずると考えられる。
このことから、個人財産から組合財産へ、あるいは組合財産から個人財産へとある財産の帰属が移転する場面では、組合員と組合(他の組合員)との間では債権債務関係が顕在化するものと考えられる。
3 組合財産に対する組合員の持分額
民法は任意組合に関する根拠法であり損益分配割合についても規定しているが、その組合財産をどのような基準で各組合員へ配賦すべきか等の具体的な計算規定を設けていない。企業会計においては組合員である企業の民法上の組合等への出資の会計処理については第1章で述べたところであるが、必ずしも組合そのものの会計処理を示してはいない。そこで、民法の特例として創設された有限責任事業組合法及びその規則を参考とするならば、組合の事業年度が終了したときには資産の部、負債の部及び純資産の部の各項目の金額並びに当該金額の組合員別の内訳を記載した会計帳簿を作成する必要があること(有責法 29②、有責規 11①二イ)、資産の部及び負債の部については各細目に区分し、純資産の部については出資金、累計利益金又は累計損失金及び累計分配金の各項目に区分する必要がある旨規定されている(有責規 21、23、25)。
(29) 利益の分配額が決定した時に、組合員は組合に対し個人財産として分配額請求権を取得し、現金による分配ないし持分を増加させる方法により分配される(xx・前掲注(24)821 頁)。また、脱退組合員の持分払戻請求権は脱退組合員の組合に対する債権であり、組合は脱退組合員が包括的な組合財産の上にもっていた合有持分を計算して個人財産として払い戻すことになると考えられている(xx・前掲注 (24)835~836 頁)。
この区分方法及び企業会計における組合への出資の処理を斟酌すれば、組合の会計帳簿を作成することにより、組合財産に対する各組合員の持分額については、資産及び負債に対する持分額として計算されると共に、純資産の部の出資金及び累計の損益金の合計額に対する持分額として計算されることがわかる。
4 組合の組成数の増加
第1章において、有限責任事業組合法の創設が本研究の目的の契機となっていると述べたところであるが、この組合の組成の状況について経済産業省が公表する『有限責任事業組合の設立状況』によれば、有限責任事業組合の登記件数は平成 17 年8月の法律施行後、平成 20 年 12 月末現在で延べ 3405件にも上っている(30)。組合を構成する組合員の数は5名以下が全体の8割以上を占め、その組合せは、個人のみの組合が全体の約 66%、個人と法人の組合が約 22%、法人のみの組合が 12%となっている(31)。
民法上の組合(任意組合)には有限責任事業組合のような登記の義務付けがないことから、現在どの程度の数の任意組合が組成されているのかは明らかではないが、有限責任事業組合の組成数の増加状況から判断したとしても組合形態による共同事業は今後も増加していくものと推測される。特に組合員の有限責任を維持しつつ、構成員課税の適用を受ける有限責任事業組合は損益や権限の分配を自由に決めることができる点が大きな特徴であるから、この組合の組成の増加と共に、その組合員に対する様々な損益分配の在り方が思案されることが予想される。
(30) 経済産業省経済産業政策局産業組織課『有限責任事業組合(LLP)の設立状況』(平成 20 年)、同(平成 21 年)
(31) 経産省・前掲注(30) 平成 20 年5月版
資料:経済産業省産業政策局『有限責任事業組合(LLP)の設立状況 平成 21 年6月』より抜粋
資料:上記と同様
資料:経済産業省産業政策局『有限責任事業組合(LLP)の設立状況 平成 20 年
5月』より抜粋
第2節 税法における組合員の持分の考え方
1 措置法規定から見る組合員の持分額
有限責任事業組合法及びその規則により示されるような組合の純資産の部に係る組合員の持分額(以下「組合員の出資持分額」という。)については、税法上の個別の規定は存在しないのであるが、平成 17 年度の税制改正において創設された、個人組合員に対する有限責任事業組合の事業に係る組合員の事業所得等の所得計算の特例制度(措税法 27 の2、法人組合員にあっては組合事業等による損失がある場合の課税の特例制度(同 67 の 12))の中で示される調整出資金額(法人組合員にあっては調整出資等金額)の規定の中に、税制が念頭に置く組合員の出資持分額の考え方が現れていると考える。
当該制度については、例えば法人組合員にあっては、任意組合等の組合員のうち特定組合員(32)又は特定受益者については、その分担する組合事業に係る損失額のうち調整出資等金額を超える金額については損金の額に算入しないとするものであり、必ずしも組合事業に係る組合員の課税関係をすべて律しているものではないが、組合事業から生ずる損益が各組合員に直接的に帰属するという構成員課税を前提とした上で、組合員に帰属した損失の取込みを制限するのであるから、この調整出資等金額の考え方に税制における組合員の出資持分額の考え方が現れていると考えるのである。
したがって、その規定の内容を確認しておくことは、組合事業から生ずる損益の配賦方法を検討する上でも意義のあることと考える。
2 具体的な規定の内容
個人組合員に適用される調整出資金額の計算方法は次のように規定されている(措税法令 18 の3)。
(32) 特定組合員とは、組合契約に係る組合員のうち、組合事業に係る重要な財産の処分若しくは譲受け又は多額の借財に関する業務の執行の決定に関与し、かつ、契約を締結するための交渉その他の重要な部分を自ら執行する組合員等以外の者をいうとされる(措税法 67 の 12①)。
調整出資金額(一と二の合計額から三を減算した金額)
一 最終組合計算期間終了時の金銭出資額及びその他財産の価額
二 その年の前年に終了する日の到来する計算期間以前の各計算期間において各種所得に係る収入金額とすべき金額等から必要経費に算入すべき金額等を控除した金額の合計額
三 その年に終了する日の到来する計算期間終了時までに金銭及びその他の資産の分配を受けた額
また、法人組合員に適用される調整出資等金額の計算方法は次のように規定されている(措税法令 39 の 31)。
調整出資等金額(一と二の合計額から三を減算した金額)一 最終組合計算期間終了時の金銭出資額及び現物出資額
二 当該法人の当該事業年度前の各事業年度おける利益積立金額のうち組合事業に帰せられる部分の金額
三 最終組合計算期間終了時までに金銭及び現物資産の分配を受けた額
これらの計算方式から読み取れる組合員の出資持分額の税制上の考え方は、組合に対する出資金の額と組合事業から生ずる損益の配賦額の合計額を基本 とし、各組合員への分配が行われた場合には、当該出資持分額の金額が減少 するというものであり、これは前節で検討した有限責任事業組合における組 合員の出資持分額の考え方(資本金と累計利益金又は累計損失金の合計額か ら累計分配金を控除するもの(33))と類似するものと思われる。なお、当該規 定において出資金の額に加算される金額はあくまで所得税法における所得金 額ないし法人税法における利益積立金額であり、組合事業に係る累計利益金 又は累計損失金の合計額とは必ずしも一致するものではないが、一方は税制 上の金額であり、他方は私法上の金額であることによりその差異が生じてい るものと整理できる。
(33) 有限責任事業組合契約に関する法律施行規則 25 条(純資産の部)においては、「純資産の部は、出資金、累計利益金又は累計損失金及び累計分配金の各項目に区分しなければならない」と規定している。
第3章 組合事業から生ずる損益の配賦方法とその課題
第1章においては、出資割合と異なる損益分配割合が採用される場合に、組合員の帰属損益額の計算方法(ルール)が税務上も示されていない点に言及したところであり、本章においてはB/S法とP/L法を取り上げ、それぞれの方法のメリット・デメリットの検討を通して適正な所得計算の基本となる計算方法について検討していく。
なお、計算方法の検討にあたっては次の2点に留意する。①組合事業に係る資産、負債、収益及び費用のすべてを各組合員へ配賦し、各組合員もすべて自己の決算に受け入れる、いわゆる総額方式を基本する(34)、②組合モデルは構成員2名とし、利益と損失の分配(分担)割合は同じもの(出資割合と異なる損益分配割合は1つ)とする(35)。
第1節 なぜB/S法とP/L法なのか
出資割合と異なる損益分配割合が採用される場合には、組合員の帰属損益額を計算するにあたり、組合員が組合財産として個人財産を出資した際の出資割合と、組合員間で合意した損益分配割合の2つの割合のいずれかで配賦することが考えられる。この出資割合により配賦する方法がB/S法であり、損益分配割合により配賦する方法がP/L法である。
(34) 基本通達は組合員における組合財産の受け入れ方に応じた所得計算の方法を示しているのであるが、組合員の受け入れ方如何に関わらず、組合全体の決算内容及び各組合員の持分額については、組合全体のB/S及びP/L並びに組合員ごとの個別 B/S及び個別P/Lにより各組合員へ伝達されるべきと考える(実務上もそのように処理されていると推察する)。
(35) 組合員の数、組合員の属性、損益分配割合の決め方次第によっては、検討すべき課題はさらに複雑化し、新たな課題が生ずる可能性は否定できない。
1 B/S法の考え方
このB/S法については、出資割合と異なる損益分配割合が採用される場合であっても、組合組成時の出資財産は常に出資割合で厳格に管理されることにかんがみ、組合事業から生ずる損益額の帰属に関わらず、組合事業に係る資産、負債を常に出資割合に応じて各組合員に帰属させるという考え方によるものであり、組合員の帰属損益額の計算においては損益分配割合に応じた損益額に合致するように組合員間で利益を調整するものである。
2 P/L法の考え方
このP/L法については、組合員の帰属損益額の計算において、組合事業から生ずる資産、負債、収益及び費用が常の組合員間で合意した損益分配割合に応じて各組合員に帰属するという考え方によるものであり、この結果、出資財産については出資割合に応じて、組合事業により獲得した資産・負債は損益分配割合に応じて組合員に帰属することになるため、それらの期末持分額が出資割合に合致するように調整を行うものである。
第2節 帰属損益額の計算方法とその課題
1 B/S法の概要とその課題
B/S法とは組合事業から生じる各損益項目を出資割合により各組合員へ配賦し、一旦各組合員の損益額を確定させた上で、損益分配割合による損益額に合致するように組合員間で損益を別途調整する(利益調整額を損益として計上する)計算方法として観念されるものである。具体的な計算方法は次頁の図のようなイメージとなる。
(設例)
出資割合 A:B=50%:50%(出資額 50:50)損益分配割合 A:B=70%:30%
組合の会計 組合の組成時 資産 100 / 出資金 100
組合の取引 現預金 50 / 賃料収入 50 利益 30(A21:B9)償却費 20 / 資産 20
組合事業から生ずる収益及び費用を出資割合により配賦し、損
益分配割合による損益額に合致するように別途調整する方法として観念されるもの
B/S法
(P/L)
1収益
賃料収入 25
2費用
償却費 10
3差引利益 15
利益調整額 6
4差引計上利益 21
出資割合により計算した利益
利益調整額 6 の加算(又は減算)により
損益分配割合による利益と一致
(P/L) (B/S) 組合員B
1収益
賃料収入 25 資 産 出資金
2費用 40 50
償却費 10
現預金
3差引利益 15
25
利益15
利益調整額 △6
4差引計上利益 9
利益調整額 調整差異
6 6
組合員A (B/S)
資 産 40 | x x 金 50 |
現預金 25 | |
利益 15 | |
調整差異 6 | 利益調整額 6 |
B/S法を採用した場合の帰属損益額の計算及び所得金額の計算における利点及び検討すべき課題を挙げると次のとおりである(所得金額の計算上の利点等についても言及)。
(利点)
① 組合員間の調整が少なく、組合事業に係る帰属損益額の計算が簡便である。
② 資産、負債、収益及び費用が常に出資割合により配賦され、組合員ごとの財産持分額の管理が容易である。
(検討すべき課題)
① 出資割合により配賦された損益項目により計算された損益額を損益分配割合による損益額に合致するように組合間で利益を移転させるので、その移転した利益とは組合員にとって何なのか明らかにする必要がある
(帰属損益額計算上の課題)。
② 組合員の帰属損益額は利益調整額により損益分配割合に応じたものとなるが、各損益項目の当初配賦額は出資割合に応じたものであるため、組合員の所得金額の計算にあたり、この当初配賦額を基礎として所得税法や法人税法の別段の定め(例えば、交際費等損金不算入制度)を適用してよいか検討する必要がある(所得計算上の課題)。
2 P/L法の概要とその課題
P/L法とは組合事業から生ずる資産、負債、収益及び費用を損益分配割合により配賦し、期末時における資産、負債の持分額が出資割合に応じたものとなるように調整する方法と観念されるものである。具体的な計算方法のイメージは次のようになる。
組合事業から生ずる収益、費用、資産及び負債を損益分配割合
により配賦し、期末時の資産、負債の持分額が出資割合に応じたものとなるように調整する方法として観念されるもの
P/L法
1収益
1収益
賃料収入 35
賃料収入 15 資 産 出 資金
2費用
2費用
44
50
償却費 14 償却費 6
現預金
3差引利益 21 3差引利益 9
15
利益 9
調整差異 資産
損益分配割合により計算した利益
4 4
現預金 調整差異
10 10
資産の期末持分額の調整により出資割合による資産の配賦額と一致
組合員A (B/S)
(P/L) (P/L)
(B/S)
組合員B
資 産 36 | 出 資金 50 |
現預金 35 | |
利益 21 | |
資産 4 | 調整差異 4 |
調整差異 10 | 現預金 10 |
P/L法においては、組合事業から生ずる資産、負債、収益及び費用が損益分配割合により各組合員へ配賦されるため(上記の個別B/S、個別P/L参照)、組合財産については直接的に各組合員に帰属するという民法の考え方にも沿った配賦方法とも考えられる。各組合員の帰属損益額の計算における利点及び検討すべき課題を挙げると次のとおりである(所得金額の計算上の利点等についても言及)。
(利点)
① 組合事業から生ずる収益及び費用が損益分配割合により各組合員へ配賦されることから、各組合員の課税所得の金額は各組合員に帰属すべき益金(収入)及び損金(必要経費)の額を基礎として計算されるべきという視点に立てば、各組合員(個人・法人)に適用される所得税法又は法人税法の規定について各損益項目の当初配賦額を基礎として計算することができる(所得計算上の利点)。
② 消費税法上の課税売上高及び課税仕入れ等に係る支払対価の額が損益
分配割合により配賦されることから、消費税の申告額を計算する際にも、当初配賦額を基礎として計算することができる(消費税計算上の利点)。
(検討すべき課題)
出資割合で共有する資産の中に減価償却資産が含まれており、この減価償却資産を償却して費用化する場面において、組合全体の減価償却費を計算した後、当該償却費を損益分配割合により各組合員に配賦した場合には、償却後の各組合員の減価償却資産の期末持分額が出資割合に応じたものにならなくなる。これは出資割合で配賦される資産の持分額から損益分配割合で配賦された償却費を控除するからである。期末時においては必然的に出資割合に応じた持分額となるように調整が必要になると考えられるが、この調整額を税務上どのように考えるか検討する必要がある。資産の持分額の増加又は減少を伴うものであるから、組合員間の資産の譲渡(持分の譲渡)として認識するか否か、私法における譲渡の認識の有無も含めて検討する必要がある(帰属損益額計算上の課題)。
第3節 B/S法の課題の検討
1 利益調整額の計上による影響
この利益調整額は、出資割合により配賦された各損益項目を基礎として計算される損益額が、損益分配割合に応じた損益額に合致するように組合員間で利益の調整を行うことにより生ずるものである。
B/S法においては、この利益調整額が組合員に当初配賦された各損益項目 の金額と合算されることにより、損益分配割合に応じた帰属損益額が計算さ れる。この帰属損益額は各組合員の出資持分額(出資金と累計利益金又は累 計損失金の合計額から累計分配金を控除した金額(36))を構成する一方で、各 組合員に帰属する資産及び負債の持分額は出資割合に応じて配賦されるため、
(36) ここでも、前掲注(33)と同様、有限責任事業組合契約に関する法律施行規則 25 条を参考とした。
各組合員に帰属する資産・負債の純資産額と出資持分額が不一致となる。そこで、この組合員の個別B/Sに生ずる不一致を修正するためには、組合員ごとの個別B/Sにこの利益調整額に対応する資産勘定又は負債勘定を設けることが必要となる。
具体的に説明すると、損益分配割合が出資割合より大きい組合員においては、その出資持分額に比して帰属する資産・負債の純資産額が過少となり、個別B/Sに借方差異が生ずる。逆に損益分配割合が出資割合より小さい組合員においては、出資持分額に比して帰属する資産・負債の純資産額が過大となり、個別B/Sに貸方差異が生ずることとなる。
2 個別B/Sに生ずる借方差異又は貸方差異
各組合員の個別B/Sに生ずる借方差異又は貸方差異は何であろうか。借方差異が生じている組合員は利益分配額が決定されることにより、自己に帰属した資産・負債の純資産額を超える組合財産の持分額を組合(他の組合員)に請求できる権利を取得することとなり、この借方差異はその請求額となる。貸方差異が生じている組合員は自己に帰属した資産・負債の純資産額の一部を引き渡す義務が発生し、この貸方差異はその引渡額となる。また、この借方差異又は貸方差異は上記のとおり帰属損益額が損益分配割合により配賦されたことに起因して生じたものであり、組合員への利益分配額に反映されるものである。したがって、個別B/Sに生ずるこの借方差異又は貸方差異については、各組合員に個別に帰属する債権又は債務(ここでは利益分配請求権
(債権又は債務)とする。)として認識することが相当であると考える。 この利益調整額を債権・債務として認識する理由は、民法の規定から説明
ができる。民法における組合の規定は同法第三編「債権」の中に置かれており、組合契約は債権契約の1つであることは第2章でも述べたところである。組合契約は本来共同事業を行う目的を有した組合員の契約形態であるため、通常の組合事業を遂行している状況では債権契約が必ずしも顕在化しているとは言えないが、例えば、組合事業から生ずる利益の分配を受ける場面では、
各組合員は個人財産として確定した利益分配請求権を行使して、組合財産の分配を請求でき、組合(他の組合員)は当該組合員に対し組合財産の分配を行う義務が生ずるのである。
以上のことから、B/S法を採用した場合に、各組合員の個別B/Sに生ずる借方差異又は貸方差異については利益分配請求権(債権又は債務)として認識することが相当であると考えられる。
税制上においても、このような民法の考え方と異なる考え方を採用する特段の理由は見当たらないので、これと同様の考え方で差し支えないと思われる。
第4節 P/L法の課題の検討
1 資産の持分割合と償却計算の調整
P/L法を採用した場合には、組合事業から生ずる各損益項目を損益分配割合により各組合員へ配賦することになるので、その配賦の結果、算出される各組合員ごとの損益額はそのまま損益分配割合に応じたものとなるはずであり、この損益額に対する組合員間の特段の調整は必要としないようにも考えられる。
組合事業から生ずる収益や費用のうち、組合外部の第三者との取引により生じたものについては、損益分配割合に応じて各構成員へ配賦すれば足りるが(37)、組合財産として所有する資産・負債勘定のうち内部計算により費用化されるもの、例えば減価償却資産については第2節においても述べたが、次のような疑問点が生ずると考えられる。
(37) 実際問題としては、各収益又は費用の相手勘定である未決済勘定(売掛金や買掛金)などの資産・負債項目が、いったん損益分配割合により各組合員に帰属するので、これを期末時に出資割合に応じた金額へ修正する必要があると考えるが、ここでは敢えて取り上げない。
期首持分額と償却費の控除(計算上) 期末B/S上の資産の持分額
A(500) B(500) A(250) B(250)
償却費控除
後の持分額
100
組合員BからAへの資産の持
組合全体の減価償却費 500
分の移転?
150
350
100
250
150
350
150
上記の図の前提は組合員A、Bの出資割合は 50%:50%、損益分配割合は 70%:30%とし、期首における組合員A、Bの減価償却資産の持分額は出資割合に応じたものとなっている(いずれも持分額 500)。この場合、当期の減価償却により組合全体の償却費として計算される金額は 500 であるが、当該償却費を損益分配割合に応じて組合員Aに 350、組合員Bに 150 を配賦すると、当該減価償却資産に係る各組合員の計算上の期末持分額は、組合員Aについては 150、組合員Bについては 350 となり、その持分割合は 30%:70%として計算されることとなる。
資産・負債に係る組合員の持分割合は出資割合の 50%:50%であると考えられるので、期末において各組合員へ配賦されるべき減価償却資産の持分額はいずれも 250 となるはずであり、この持分額に合致させるためには、組合員間で資産の持分額の調整を行う必要があるが、この調整処理をどのように考えるか検討する必要がある。
2 損益分配割合に応じた償却費の額を資産の持分額から控除することについて
損益分配割合による減価償却費の配賦額をもって資産の持分額から控除するとした場合には、例えば、出資割合と損益分配割合に大きな階差がある例
(組合員C:Dの出資割合は 10%:90%、損益分配割合は 50%:50%)においては、組合員Cは期首持分額が 10 しかないにもかかわらず、償却費全体額
30 のうち損益分配割合に応じた 15 が配賦されることとなり、期首持分額から控除しきれない償却費が計上されるという事象も生じることになる。
組合員C 組合員D
期首持分類
10
期首持分類 90
償却費3
償却費 27
償却費全体 30
}
償却費全体額 30 を出資割合により配賦すれば、C:D=3:27 となるが、損益分配割合で配賦するとC:D=15:15 となり、組合員Cは期首持分類が 10 しかないのに、15 の償却費を計上することになってしまう。
また、仮に期首持分額から損益分配割合により配賦された償却費を控除することができたとしても、出資割合に応じた金額となっていない資産の期末持分額の調整を行わないまま償却を継続した場合には、次の表のように組合員Aの資産の持分額は出資割合以上の損益分配割合により配賦された償却費を控除していくことになるから、早期に資産の持分額が減少し、いずれ期末持分額がマイナスになることがわかる。したがって、損益分配割合により配賦された償却費の額を資産の持分額から控除することを前提とするP/L法については、減価償却資産と減価償却費の関連性が断たれてしまうという不合理が生ずる計算方法であると考えざるを得ない(38)。
(38) このような不合理は各組合員の資産の持分額を出資割合に応じた金額に調整しない場合において、組合員の帰属損益額の計算上起こりうることであるが、P/L法においても、税制上の減価償却ルールを適用することを前提とするならば、限度額を超える償却費は費用として認識せず、帳簿価額(持分額)に加算することになるため、このような不合理な状況にはならないと考えられる。ただし、法人組合員であって、償却不足が生ずる組合員(出資割合より過少の損益分配割合が適用される組合員)にあっては償却不足額は損金として認められないため、この組合員の税務上の持分額は出資割合に応じた金額とならない。
3 組合員間の資産の譲渡を認識するか
各組合員の減価償却資産の償却計算において、期末持分額の調整を行わなかったとしたならば、少なくとも上記のような不合理を生じさせる結果となるため、組合員間において償却資産の期末持分額の調整が必要と考えられる。また、P/L法を採用した場合には、組合事業により獲得した資産や負債を各組合員に対して損益分配割合に応じて帰属させることになるため、これらの資産及び負債の期末時における持分割合は出資割合に応じたものとなっていないと考えられる。したがって、期末時における組合員間の持分割合が出資割合に応じたものとなるように調整が必要となる。ここで、例えば、287 頁の図の例によれば、組合員Bから組合員Aに対して持分額 100 が移転することになるが、これを資産の譲渡と認識すべきか否かが問題となる。
資産の譲渡とは「有償無償を問わず資産を移転させるいっさいの行為をいうものと解すべき」とされており(39)、売買や交換その他の権利の移転を広く含む概念であるとされる(40)点を考慮すると、組合員間の資産の持分額の移転も資産の譲渡と認識せざるを得ないとも考えられる。
しかしながら、この資産の移転は組合財産の配賦計算上においてのみ認識
(39) 最判昭和 50 年5月 27 日民集 29 巻5号 641 頁
(40) xxx『租税法(第十五版)』212 頁(弘文堂、2010)。
されるものであり、組合員間で資産の譲渡が認識されているかというと、組合員間で合意されているのは、出資割合と異なる損益分配割合だけであり、資産の持分の譲渡が組合員間で認識されているとは必ずしも言えないであろう。このような資産の移転に対してまで資産の譲渡を認識するのは必ずしも妥当ではないと考えるが、例えば、組合契約時の財産出資については、組合員間の譲渡契約の有無に関わらず、他の組合員の持分については譲渡損益を認識するところであるから、組合員間の資産の移転については常に譲渡の認識をするか否か疑義が生じうると言える。
4 小括
組合財産については各組合員の合有とされ、財産の出資時においては、自己の持分以外の他の組合員の持分については譲渡損益が認識された上で、出資財産として各組合員の持分額が厳格に管理されることとなる。そして、これを前提とした上で組合事業に対する出資財産と組合事業から生じた果実を適切に区分し、組合事業に係る適正な所得計算を行うことが求められる。こうした観点からすれば、B/S法を採用した場合には、資産・負債を常に出資割合により管理することが徹底され、かつ、組合員間の利益の調整が簡便であるため、適正な所得計算の基本となる帰属損益額を計算する方法として合理的なものであると考えられる。
一方、P/L法を採用した場合には、①減価償却計算において資産の持分額以上の償却費が計上されたり、資産の持分額がマイナスにも関わらず償却費が計上されるといった不合理が生じうること、②組合員間の資産の移転による調整を前提とするので、資産の譲渡を認識するかどうかといった問題が常に付きまとうことから、適正な所得計算の基本となる帰属損益額を計算する上において、このような不合理などを抱えることを前提とする方法を採用することは妥当ではないと考えられる。したがって、組合員の所得計算の基本となる帰属損益額の計算においてはB/S法により計算するのが相当であると考える。
第4章 B/S法を基本とした場合の所得金額計算上の問題とその対応
前章においては組合員の帰属損益額の計算においては、B/S法を基本とすべきであると結論付けたところであり、この帰属損益額をベースに各組合員が組合事業に係る所得金額を計算していくことになるのであるが、本章においては B/S法による帰属損益額の計算を基本とした上で所得金額を計算する場合の課税上の問題点について検討していく。
第1節 利益調整額の再配賦
1 当初配賦額による別段の定めの適用について
B/S法により組合員の帰属損益額を計算した場合には、組合事業から生ずる各損益項目は出資割合に応じた金額が各組合員へ配賦されることになるので、各税法の別段の定めを適用するにあたっては、この当初配賦された金額を基礎として計算するのか否か疑義の生ずるところである。例えば次のような計算例を挙げる(出資割合 50%:50%、損益分配割合 70%:30%)。
収益 | 100 | ( 40) | 100 | (▲40) | 140 | 60 | ||
原価 | ▲ 50 | (▲20) | ▲ 50 | ( 20) | ▲ | 70 | ▲ | 30 |
交際費 | ▲ 10 | (▲ 4) | ▲ 10 | ( 4) | ▲ | 14 | ▲ | 6 |
利益(調整前) | 40 | ↑ | 40 | ↑ | 56 | 24 | ||
調整額 | 16 | ( 16) | ▲ 16 | (▲16) | - | - | ||
利益(調整後) | 56 | 24 | 56 | 24 |
出資割合による損益配賦 損益分配割合による損益配賦組合員A 組合員B 組合員A 組合員B
上記の計算例からすると、組合員Aの損益として認識される利益調整額 16については各損益項目の当初配賦額と損益分配割合による各損益項目の配賦
40-20-4
額との差額部分( の部分)の合計額と考えることができよう。
また、費用収益対応の関係から言えば、組合員Aに対して出資割合に応じて配賦された交際費 10 については期間対応費用として収益 100 あるいは利益
40 を獲得するための貢献費用でしかなく、利益調整額 16 に対して期間対応していないとも言える。さらに、各組合員の当初配賦額を基礎として所得計算を行うとした場合には、個人の組合員においては利益調整額の所得区分が、消費税の計算においては、利益調整額の課非判定がそれぞれ検討すべき課題として生じることとなろう。
各損益項目を出資割合によらず、P/L法のように損益分配割合により配賦した場合には、各組合員において利益調整額は生じないわけであるから、出資割合により当初配賦された各損益項目と利益調整額とは全く無関係に独立して存在する損益項目というわけではなく、当初配賦された各損益項目に帰属すべきものと考える。
したがって、組合員Aは調整後利益額 56 に対し交際費 10 として申告調整
するのではなく、付与された利益調整額 16 に含まれていると考えられる4も含めた 14 で申告調整すべきと考える(組合員Bは利益調整額(損失)16 に含まれていると考えられる4を交際費 10 から減算した6で申告調整すべきことになる)。
2 利益調整額の再配賦の計算について
組合事業に係る所得計算において、B/S法により個別B/S及び個別P/ Lを作成することとした場合には、別段の定めの適用のある項目を抽出して、損益分配割合に応じた金額を別途計算することが考えられるが、実務上極めて煩雑な作業となる上、このような計算を行うことにより各別段の定めの規定の合理性が保たれているか疑義がないわけではない。また、個別項目を抽出して損益分配割合に応じた金額を計算する方法以外にも、個別B/Sを個別 P/Lと連動させずに作成する(個別B/Sは出資割合に応じて、個別P/Lは損益分配割合に応じて作成するもの)、個別P/Lを作成し直す(出資割合で
配賦された損益項目の金額を損益分配割合に応じた金額で作成し直すもの)といった方法も考えられるが、xx妥当な会計処理の観点からは、これらの方法は期間損益及び財務諸表の連動を検証することができなくなると考えられるため不合理なものと言える。
組合事業に係る所得計算の方法としては、B/S法が適当であるとのスタン スに立っているところ、上記1のとおり利益調整額が各損益項目の出資割合 による配賦額と損益分配割合による配賦額との差額であるという考え方によ れば、別段の定めの適用にあたっての各損益項目の再計算について、個別P/ Lの利益調整額を再配賦する方法が最も合理的で簡便な方法であると考える。例えば、各損益項目の金額に応じて利益調整額を再配賦する方法(別段の定 めの適用の対象となる損益項目の組合全体額に損益分配割合を乗じて計算す る)が適当であると考える。
3 資産の持分額を基礎とした損金算入限度額と利益調整額の再配賦
1において利益調整額は各損益項目の当初配賦額に応じて再配賦すべきと結論づけたところであるが、この利益調整額の再配賦により再計算される減価償却費の額はP/L法と同じく損益分配割合に応じた金額となる。一方、減価償却資産の持分額は出資割合により配賦されるため、各組合員が償却限度額を計算する場合には出資割合により配賦された資産の価額(持分額)を基礎とするのが妥当と考えられる。したがって、これを前提として償却計算を行えば、組合員ごとに償却超過額又は償却不足額が生ずることになる。
しかしながら、利益調整額の再配賦額を減価償却費とみなし、当初配賦額と合算した上で償却超過額を算出したとしても、法人組合員にあっては税務上の資産(利益積立金額)として認識されるのは、利益分配請求権かあるいはその償却した資産か必ずしも定かでない。償却費の当初配賦額と利益調整額の再配賦額の割合に応じて減価償却資産と利益分配請求権を認識するという考え方もあるが、仮に利益調整額の再配賦額が償却超過額として認識されるのであれば、この再配賦額は他の組合員の償却費の移転を受け、自己の償
却費とみなされたものであるから、自己の償却計算において償却不足額が生じない限り、損金の額に算入することはできない。出資割合より大きい損益分配割合であるが故に、他の組合員の償却費の移転を受けるのであるから、償却不足が生じにくい状況が想定され、そうなると、その組合員の償却計算の過程において損金の額に算入することはできなくなる。
また、組合の決算終了後に実際に利益の分配が行われる際には、個別B/ Sに計上された利益分配請求権が組合員間で清算された上で分配が行われるであろうから、個別B/Sから利益分配請求権が消去された場合であっても、税務上は償却超過額の損金算入事由が生じたわけではないことから、損金の額に算入することができない。
そもそも資産の期末持分額が出資割合に応じて配賦されていることを前提とすれば、この償却超過額はその組合員自身の資産持分額の償却費の過大額とは必ずしも言えないであろうし、減価償却費については課税所得の計算上、備忘価額を除いて通期において全額損金となることからすれば、何らかのタイミングで、この償却超過額(利益調整額の再配賦相当額)を損金の額に算入できる措置を検討する必要があると考える。
4 資産の持分額を基礎として費用計算するもの(償却費以外)
イ 貸倒引当金繰入額
一般事業者(法人・個人)においては貸金等を有している場合には、xx妥当な会計処理として将来の貸倒れを見越して貸倒引当金を設定することが多く、組合事業において組合財産として貸金等を有している場合も例外ではない。組合の決算においては、通常、組合財産である貸金等について組合全体として採用した基準(41)により貸倒引当金の設定を行うことに
(41) 個別評価金銭債権に対する引当金の設定については、所得税法及び法人税法において差異はないが、一括評価金銭債権に対する引当金の設定については、所得税法と法人税法とでは繰入限度額の計算に差異があり、さらに法人税法においても大法人と中小法人とでは繰入限度額の計算に差異があるため、いずれの基準で組合全体額を計算するかにより、各組合員には出資割合による繰入額の配賦であっても繰入
なると考えられるが、B/S法により帰属損益額を計算する場合には、その貸金等の額及び貸倒引当金繰入額のいずれも出資割合に応じて各組合員へ配賦されることとなる。貸倒引当金については、減価償却費と異なり、組合事業に係る貸金等及び引当金勘定を組合員固有の貸金等及び引当金勘定と区分して繰入限度額を計算することが可能か否かは定かではない(基本通達上は特に明記されていない)。そこで組合事業に係る貸金等と組合員固有の貸金等を合算し、貸倒引当金の繰入額についてもこれと同様に合算して限度額計算することを前提としたならば、組合事業に係る貸倒引当金について、利益調整額の再配賦により損益分配割合に応じた繰入額を再計算することで、仮に繰入限度超過額が生じたとしても、組合員固有の貸金等及び貸倒引当金繰入額を合算した上で計算した場合には、その組合員には全体として繰入限度超過額が生じない場合も考えられる(様々なパターンが生じうると考えられる)。
貸倒引当金については、毎期洗替え処理される引当金であり、繰入限度 超過額が生じたとしても翌期において損金の額に算入されるのであるから、仮に利益調整額の再配賦額が繰入限度超過額として認識されたとしても翌 期において損金の額に算入されることになろう。
ロ 受取配当等益金不算入規定
法人税法の受取配当等益金不算入規定(法税法 23)により、連結法人株式及び関係法人株式等に該当しない株式等に係る受取配当等の益金不算入額の計算については、その受取配当等の金額から負債xx等の額を控除することになるが、この負債xx等の額については、当期に支払う負債xxの額に、その法人の前期と当期の総資産の価額に占めるその配当を受ける基となった上記株式等の帳簿価額の割合を乗じて計算することとされている。つまり、控除される負債xx等の額については、総資産の価額に対する株式等の割合により決定されるのであるから、受取配当等の額と負債利
限度超過額が生じうる。
子等の額が、利益調整額の再配賦により損益分配割合に応じた金額に再計算される一方で、組合財産である総資産及びその内訳である株式等が各組合員に出資割合で配賦されたとしても、各資産の出資割合による配賦が益金不算入額に直接影響することなく、各組合員に配賦された受取配当等の額及び負債xx等の額に応じて益金不算入額が計算されると考えられる。
第2節 個人の組合員の所得計算において検討すべき課題
1 個人の組合員の利益調整額の所得区分の問題
個人の組合員については組合事業から生ずる損益について出資割合と異なる損益分配割合により利益の分配を受けるべき金額又は損失を負担すべき金額を組合事業に係る利益又は損失の額とするとされている(所基通 36・37共-19)。
個人の組合員においては組合事業から生じた所得を所得税法所定の 10 種類の所得に区分する必要があるが、B/S法を採用した場合には収入及び必要経費が出資割合により当初配賦された上で、利益調整額を収入又は必要経費として計上することになるため、この利益調整額の所得区分が問題になると考える。この利益調整額は上記で検討したとおり、組合事業から生じた収益及び費用を損益分配割合でなく出資割合により配賦することに起因して生ずるものと考えられることから、当初配賦された収入及び必要経費の額を基礎として計算される各種の所得に対し、この利益調整額は独立して存在するものではなく、組合事業の種類に応じて生ずる所得(又は損失)であると考えられる。したがって、この利益調整額を各種の所得区分に応じて帰属させることが望ましいと言える。
2 出資額が著しく低く、損益分配割合が高い組合員に対する配賦
例えば、特定の専門分野において秀でた研究を行っている個人の研究者(大学教授など)と研究資財を潤沢に有する企業とが組合契約を締結するような
場合で、個人の研究者にあっては金銭的な出資額は著しく低いものの、その有する研究ノウハウ等を組合事業に提供することとし、一方、企業においてはその有する研究資材(機械装置等)を出資するという例を考える(42)。このような組合事業から生ずる損益の分配については、通常、その出資額の割合に応じたものではなく、研究者から提供される研究ノウハウ等と企業から提供される研究資材の価額等の様々な要素を比較考慮の上、損益分配割合が決定されることになると考えられる。
このような組合において、B/S法により帰属損益額を計算した場合には、研究者個人の個別B/S及び個別P/Lにおいては出資割合により著しく過少な資産(機械装置等)、負債等及び各損益項目が配賦され、かつ、個別P/Lに多額の利益調整額(利益)が計上されることとなる。他方、法人の組合員の個別B/S及び個別P/Lにおいては出資割合により著しく過大な資産(機械装置等)、負債等及び各損益項目が配賦され、かつ、個別P/Lに多額の利益調整額(損失)が計上されることになる。仮にそれぞれの組合員に計上された利益調整額を各損益項目の当初配賦額と区分し、その金額に応じて帰属させなかった場合には、多額の利益調整額(利益)を受けた個人の組合員にあっては、当初配賦額を基礎として計算される各種の所得区分に応じた所得金額ないし別段の定めに適用される金額は帰属損益額に比して著しく過少となり、利益調整額を1つの所得と認識することで、損益分配割合により各種の所得金額を計算した場合と比較して、所得の区分の内容及びそれぞれの所得金額が大きく異なる結果になると考えられる。また、多額の利益調整額(損失)を負担した個人の組合員にあっては、当初配賦額を基礎として計算される各種の所得区分に応じた所得金額ないし別段の定めに適用される金額は帰
(42) ここでは必ずしも労務出資を出資財産としていないが、民法上の組合契約において、個人が労務出資をした場合には、組合存続期間における労務を金銭に評価することとなる。これにより、他の組合員の出資額との割合による損益の分配が行われ、組合財産(労務出資者に対する出資請求権を含む。)に対する各組合員の持分もまたこの割合となるものと考えられている(補訂版「xx・xxxxメンタール民法-総則・物権・債権-」1160 頁(日本評論社、2006)。
属損益額に比して著しく過大となる一方で、利益調整額(損失)が当初配賦額を基礎として計算される各種の所得金額から控除できないことも考えられる。したがって、B/S法を採用した場合に生ずる利益調整額については、組合事業に係る各種の所得区分ごとに再配賦すべきものと考える。
3 利益調整額の再配賦の計算について
利益調整額を各種の所得区分ごとに再配賦するとした場合であっても、個人の組合員への配賦にあたっては、例えば、所得区分ごとに損益分配割合が異なる場合や同じ所得区分であっても事業ごとの損益分配割合が異なるといった場合には、その所得区分ごとの所得金額に応じて配賦できない場合も考えられる。
B/S法により個別B/S及び個別P/Lを作成することとした場合には、個人の所得区分ごとに特定の項目について損益分配割合に応じた金額を別途計算することが考えられるが、このような作業が実務上極めて煩雑となることは、別段の定めの適用にあたり述べたところである。組合事業に係る個人組合員の所得計算の方法としては、別段の定めの適用と同様に、個別P/Lの利益調整額を再配賦する方法を前提とするが、所得区分ごとに損益分配割合が異なる場合には、例えば出資割合で当初配賦された収入及び必要経費の額を基礎として各種の所得区分ごとの収入金額及び必要経費の額を計算し、それぞれの金額に応じて利益調整額を再配賦する方法が適当と考える(43)。
(43) ここでは第3章における組合モデルのように、組合事業から生ずるすべての収益及び必要経費が出資割合により各組合員に帰属することを前提としているが、例えば個人と法人の組合員により構成される組合にあって、複数の所得区分に該当する事業ごとに損益分配割合が異なる場合には、B/S 法により帰属損益額を計算するとしたならば、各所得区分ごとに利益調整額を計算し、その合計額を各組合員の個別 P/Lに計上するといった処理が必要になると考える。
第3節 消費税等の考え方
1 各組合員の課税売上高、課税仕入額の考え方
消費税等の納税義務者は、国内において課税資産の譲渡等を行う事業者であり(消税法5①)、この事業者とは事業を行う個人(個人事業者)及び法人とされていることから(消税法2①三、四)、これらの者が共同事業として資産の譲渡等又は課税仕入れ等を行う場合には、その共同事業を行う各組合員が、共同事業の持分の割合又は利益の分配割合に対応する部分につき、それぞれ資産の譲渡等又は課税仕入れ等を行ったことになるものとされている
(消基通 1-3-1)。例えば、組合契約又は民法 674 条(組合員の損益分配の割合)の規定により損益分配割合を定めて事業を行う場合には、その共同事業への参加者が損益分配割合に応じてその共同事業に係る資産の譲渡等又は課税仕入れ等を行ったものとみて、各組合員が納税義務者になると考えられている(44)。
2 B/S法を基本とした帰属損益額の計算から生ずる課題の検討
イ 損益分配割合に応じた課税売上高及び課税仕入額の再計算
各組合員の帰属損益額の計算において、B/S法により組合事業に係る各損益項目を配賦した場合には、消費税法上の課税売上高及び課税仕入額(45)についても出資割合により配賦されることになるため、上記の消費税法の考え方からすると、各組合員の課税売上高及び課税仕入額について、当初配賦額ではなく損益分配割合に応じた金額を再計算した上で消費税等の申告額(又は還付額)を計算する必要がある。この場合、法人税法や所得税
(44) xxx『平成 19 年版消費税基本通達逐条解説』53 頁~55 頁(xx財協、2007)。ただし、消費税基本通達 1-3-1(共同事業に係る消費税の納税義務)は人格なき社団等及び匿名組合が行う事業には適用されないこととされている。
(45) 消費税法上、課税仕入額という定義はなく、ここでは課税仕入れ等(国内において行う課税仕入れ及び保税地域からの課税貨物の引取りをいう。)に係る支払対価の額を指している。以後、本稿においては「課税仕入額」という。
法における課題の検討においても指摘したとおり、利益調整額の再配賦により各損益項目を損益分配割合に応じた金額に再計算するとしたところであり、上記の消費税法の取扱いに照らしても、課税売上高及び課税仕入額についてもこれと同様に考えるのが相当である。実際の計算については、当初配賦額を基礎として計算された課税売上高及び課税仕入額を損益分配割合に応じた金額へ割り戻す等により再計算することが可能であると考えられる。
ロ 組合全体で税抜経理方式を採用した場合の差異の調整
各組合員ごとに損益分配割合に応じた課税売上高及び課税仕入額を基礎とした消費税等の申告額は上記のように計算することができるかもしれないが、組合における消費税等の処理の仕方によっては、組合員間において資産、負債の移転を検討する必要がある場面も生ずるものと考えられる。すなわち、組合全体で税抜経理方式を採用する場合には、消費税等の額 と当該消費税等に係る取引の対価の額とが区分して経理処理されることから、組合全体のB/Sには仮受消費税等の額及び仮払消費税等の額(あるいは両方を清算した未払消費税等の額又は未収消費税等の額。以下、これらを総じて「未払消費税額等」という。)が計上されることになる。この未払消費税額等についても他の組合財産と異なるところはないことから、B/ S法を採用する場合には各組合員に対して出資割合により配賦されること
となる。
そうすると、各組合員においては損益分配割合に応じた課税売上高及び課税仕入額を基礎として組合事業に係る納付すべき(還付されるべき)消費税等の額を計算することになるが、実際に配賦される未払消費税額等は出資割合に応じて配賦されることになるため、納付すべき消費税等の額と配賦された未払消費税額等との間に差額が生じることになる。この差額については、ある組合員が納付すべき消費税等の額に充てるべき金銭が、B/ S法を採用したことにより他の組合員に配賦されることで生ずるものであり、仮に組合員間においてこの差額を清算しないとしたならば、組合員自
身の決算において収益又は費用として処理する必要が生じることとなる
(46)。消費税等については、そもそも預り金ないし仮払金であることを前提
とするならば、その差額は納付すべき組合員に帰属させることが相当であり、組合員の帰属損益額の計算においてB/S法を採用したことにより、この差額相当の金銭及び未払消費税額等が他の組合員に帰属したと考えるならば、組合員の収益又は費用として処理するのではなく、その納付すべき組合員へ移転させるのが相当であると考える。
したがって、組合全体として税抜経理方式を採用している場合には、法人又は個人の組合員の所得計算において生ずる利益調整額と併せ、納付すべき消費税等の額と帰属した未払消費税額等との差額についても調整すべきと考える。
なお、組合全体で税込経理方式を採用した場合には、税込金額で各損益項目が組合員に配賦され、利益調整額も税込金額であると考えられることから、仮に組合員自身が税抜経理方式を採用している場合であっても、このような問題は生じないと考えられる。
3 小括
B/S法を採用して組合事業に係る帰属損益額を計算した場合には、消費税法の課税売上高及び課税仕入額についても出資割合により配賦されることとなるため、消費税等の申告額(又は還付額)を計算する際には損益分配割合に応じた課税売上高及び課税仕入額を再計算する必要がある。これにより、各組合員に帰属した未払消費税額等と納付すべき消費税額(又は還付を受け
(46) 税抜経理方式を採用した場合の消費税等の納税額(又は還付額)については仮受消費税等の額と仮払消費税等の額との差額により計算されるため、納付差額を除いて原則として消費税額そのものは組合員の損益として認識されないことになるが
(xxx年3月 29 日直所 3-8 ほか「消費税法等の施行に伴う所得税の取扱いについて」6(仮受消費税等及び仮払消費税等の精算)、xxx年3月1日直法 2-1「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」6(仮払消費税等及び仮受消費税等の精算)参照のこと)、上記差額を各組合員自身の収益及び費用として認識するとした場合には、この取扱いと不整合が生ずる結果となる。
るべき消費税額)との間に差異が生ずるため、この差異相当額の現金と未払消費税額等を組合員間で調整するのが妥当と考える。
第4節 組合員の帰属損益額等の計算についての提言
これまでの検討を踏まえ、出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合の組合員の帰属損益額の計算方法及びそれを基礎とした所得金額の計算について提言する。
1 出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合の帰属損益額の計算について
出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合の組合員の帰属損益額の計算にあたり、組合員が組合財産として個人財産を出資した際の出資割合により配賦する方法(B/S法)と、組合員間で合意した損益分配割合により配賦する方法(P/L法)を具体的な計算方法として取り上げ、それぞれの計算方法におけるメリット及びデメリットを抽出して検討を行った。
B/S法においては、組合事業から生じた損益項目を資産及び負債の持分割合と同じ出資割合により各組合員に配賦することになるので、資産の価額(持分額)を基礎として費用化する項目について、その計算に不合理を生じさせず、また、損益分配割合に応じた損益額との調整も簡便であることから、組合員の帰属損益額の計算においては妥当な計算方法であると結論付けた。
一方、P/L法は組合事業から生ずる損益項目が損益分配割合により各組合員へ配賦されることになるので、当初配賦額を基礎として計算された損益額がそのまま損益分配割合に応じた損益額となっている。つまり、個別P/Lを見る限りはB/S法よりも簡便な方法とも言える。しかしながら、出資割合により各組合員に帰属する減価償却資産を有していた場合には、組合員の資産の持分額以上の償却費が配賦されるなどの償却計算上の不合理が生じうる計算方法であるため、組合員の帰属損益額の計算において採用することは妥当
ではないと結論付けた。
以上のことから、本稿においては出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合には、B/S法により組合員の帰属損益額を計算することが妥当であるとした。
2 帰属損益額の計算を踏まえた所得金額等の計算について
組合員の帰属損益額の計算においてB/S法を採用することが妥当であると結論付けたところ、この方法により計算された帰属損益額を基礎として所得金額等を計算する際の問題点についても検討を行った。
B/S法を採用した場合の所得金額等の計算上の問題は、組合員ごとに損益計上される利益調整額の取扱いであると考えられる。この利益調整額の取扱いについて、税法上の別段の定めの適用、個人組合員の所得区分、消費税等の取扱いごとに検討を行い、その処理方法を示すこととする。
イ 税法上の別段の定めの適用
B/S法を採用した場合には帰属損益額は損益分配割合に応じた金額であるが、各損益項目の当初配賦額は出資割合に応じた金額となることから、利益調整額の再配賦を行い、各損益項目の損益分配割合に応じた金額を再計算して各税法の別段の定めを適用するのが妥当と考えられる。ここで、各組合員が減価償却費の償却限度額を計算する際には、出資割合により配賦された資産の価額(持分額)を基礎として計算することが妥当と考えられることから、利益調整額を再配賦して損益分配割合に応じた償却費の金額を計算した場合には、各組合員に償却超過額又は償却不足額が生じることになる。この場合に、利益調整額の再配賦額を償却超過額として認識すると、その組合員はその後の償却計算の過程で償却超過額を損金の額に算入できないことも想定されるので、その是正措置を検討する必要があると考える。
また、この利益調整額を再配賦する方法としては、各損益項目の当初配賦額に応じて利益調整額を再配賦する方法が適当であると考える。
ロ 個人組合員の所得区分ごとの金額の再計算
個人の組合員の所得計算においては組合事業から生じた所得を所得税法所定の 10 種類の所得に区分する必要があるため、利益調整額の所得区分が問題になる。この利益調整額は組合事業から生じた収益及び費用を損益分配割合でなく出資割合により配賦することに起因して生ずるものであるから、当初配賦された収入及び必要経費の額を基礎として計算される各種の所得の金額に応じて生ずる所得(又は損失)であると考えられる。したがって、この利益調整額を各種の所得に再配賦することが望ましいが、その方法としては、例えば、出資割合により当初配賦された収入金額及び必要経費の額を基礎として計算された各種の所得の金額に応じて再配賦する方法が考えられる。
ハ 消費税等の取扱い
B/S法を採用して組合員の帰属損益額を計算した場合には、その課税売上高及び課税仕入額についても出資割合により配賦されることとなるが、消費税等の申告額を計算する際には損益分配割合に応じた課税売上高及び課税仕入額を再計算する必要があるため、各組合員に帰属した未払消費税額等と納付すべき消費税等との間に差異が生ずることとなる。この差異相当額を各組合員の損益として処理した場合には消費税等の取扱いと異なる処理となることから、この差異相当額の現金と未払消費税額等を組合員間で調整するのが妥当であると考える。
おわりにあたって
本稿においては組合事業から生ずる損益をいかに各組合員に配賦するか、その計算方法を中心に検討を行ってきたわけであるが、総組合員の合意により出資割合と異なる損益分配割合が採用された場合に、組合事業から生ずる損益をその損益分配割合に応じて各組合員に配賦するにしても、税務上はその割合について経済的合理性を有することが前提とされている。従って、組合事業から生ずる損益の配賦方法に求められる合理性に先立って、組合員間の損益分配割合の経済的合理性が検討される必要がある。
また、組合員の帰属損益額の計算方法の検討にあたっては、組合員2名による組合契約とし、損益分配割合についても比較的簡易なものを前提としたが、実際の組合を構成する組合員の数も様々であり、組合員間で締結される契約内容も多岐にわたると考えられることから、その契約内容によっては、本稿で取り上げた諸問題の検討だけでは解決できないことも多々生ずる可能性は充分に考えられる。
今後、組合契約による事業がますます増加していくことと併せて、出資割合と異なる損益分配割合が組合事業において採用されるケースは増加していくものと考えられる。しかしながら、組合事業全体に係る損益の会計処理及びその損益の各組合員への配賦方法については必ずしも民法等や企業会計においても明確な基準となるものが存在しない中で、いかに組合事業に係る所得金額を計算するかについて思考錯誤が続いている。組合事業に係る所得金額の計算について、現行の通達の規定のみが存在することに対し法制化の声が叫ばれるところではあるが、本稿で検討したように、出資割合と異なる損益分配割合を採用する組合に属する組合員については、現行の各税法の規定がそのまま適用できない可能性がある。組合事業から生ずる損益は各組合員に直接に帰属するのであるから、各組合員の属性(個人か法人か)に応じて所得税法ないし法人税法を適用すれば足りるという考え方だけでは必ずしも対応できないことは、本稿の検討からも明らかである。
本稿では組合員の帰属損益額の計算方法(ルール)を示すことを目的とし、 B/S法を採用することとしたところであるが、所得計算を行う上では、別途の問題点もあり、確固たるルールの定立には至っていない。
しかし、今後の検討、次のステップの材料を提供できたと思われるので、今後も計算方法(ルール)の定立に向けた更なる検討が進むことに期待したい。