Contract
付録③︓ベンダのプロジェクトマネジメント義務・ユーザの協⼒義務に関する裁判例の概要
■東京地裁平成 16 年 3 月 10 日判決
○ベンダのプロジェクトマネジメント責任
ベンダは、納入期限までに本件電算システムを完成させるように、本件電算システム開発契約の契約書及び本件電算システム提案書において提示した開発手順や開発手法、作業工程等に従って開発作業を進めるとともに、常に進捗状況を管理し、開発作業を阻害する要因の発見に努め、これに適切に対処すべき義務を負うものと解すべきである。
そして、システム開発は注文者と打合せを重ねて、その意向を踏まえながら行うものであるから、被告は、注文者であるユーザのシステム開発へのかかわりについても、適切に管理し、システム開発について専門的知識を有しないユーザによって開発作業を阻害する行為がされることのないようユーザに働きかける義務を負っていたというべきである。
○ユーザの協力義務
本件電算システム開発契約は、いわゆるオーダーメイドのシステム開発契約であるところ、このようなオーダーメイドのシステム開発契約では、受託者(ベンダ)のみではシステムを完成させることはできないのであって、委託者(ユーザ)が開発過程において、内部の意見調整を的確に行って見解を統一した上、どのような機能を要望するのかを明確に受託者に伝え、受託者とともに、要望する機能について検討して、最終的に機能を決定し、さらに、画面や帳票を決定し、成果物の検収をするなどの役割を分担することが必要である。
そして、本件電算システム開発契約の契約書は、4 条 1 項において、「ベンダは、ユーザに対し、委
託業務の遂行に必要な資料、情報、機器等の提供を申し入れることができる。資料等の提供の時期、方法等については、ユーザとベンダが協議して定める。」旨定め、5 条において、「ユーザの協力義務」として、「ベンダは、4 条に定めるほか、委託業務の遂行にユーザの協力が必要な場合、ユーザに対し協力を求めることができる。この協力の時期、方法等については、ユーザとベンダが協議して定める。」旨定めており、xxxが協力義務を負う旨を明記している。
したがって、ユーザは、本件電算システムの開発過程において、資料等の提供その他本件電算システム開発のために必要な協力をベンダから求められた場合、これに応じて必要な協力を行うべき契約上の義務(協力義務)を負っていたというべきである。
■東京高裁平成 25 年 9 月 26 日判決
○ベンダのプロジェクトマネジメント責任
・企画・提案段階
ベンダとしては、企画・提案段階においても、自ら提案するシステムの機能、ユーザのニーズに対する充足度、システムの開発手法、受注後の開発体制等を検討・検証し、そこから想定されるリスクについて、ユーザに説明する義務があるというべきである。このようなベンダの検証、説明等に関する義務は、契約締結に向けた交渉過程におけるxxxに基づく不法行為法上の義務として位置づけられ、控訴人はベンダとしてかかる義務(この段階におけるプロジェクトマネジメントに関する義務)を負うものといえる。
もっとも、ベンダは、システム開発の対象となるユーザの業務内容等に必ずしも精通しているもの
ではない。そのため、プロジェクトが開始され、その後の進行過程で生じてくる事情、要因等について、企画・提案段階において漏れなく予測することはもとより困難であり、この段階における検証、説明等に関する義務も、このような状況における予測可能性を前提とするものである…ユーザにもシステム開発の対象とされる業務の分析とベンダの説明を踏まえ、システム開発について自らリスク分析をすることが求められるものというべきである。
このようなことからすると、企画・提案段階におけるシステム開発構想等は、プロジェクト遂行過程において得られるであろう情報、その過程で直面するであろう事態等に応じて、一定の修正等があることを当然に想定するものといえ、企画・提案段階の計画どおりシステム開発が進行しないこと等をもって、直ちに企画・提案段階におけるベンダのプロジェクトマネジメントに関する義務違反があったということはできない。
・システム開発段階
控訴人は、前記各契約に基づき、本件システム開発を担うベンダとして、被控訴人に対し、本件システム開発過程において、適宜得られた情報を集約・分析して、ベンダとして通常求められる専門的知見を用いてシステム構築を進め、ユーザである被控訴人に必要な説明を行い、その了解を得ながら、適宜必要とされる修正、調整等を行いつつ、本件システム完成に向けた作業を行うこと(プロジェクト・マネジメント)を適切に行うべき義務を負うものというべきである。
すなわち、システム開発は必ずしも当初の想定どおり進むとは限らず、当初の想定とは異なる要因が生じる等の状況の変化が明らかとなり、想定していた開発費用、開発スコープ、開発期間等について相当程度の修正を要すること、更にはその修正内容がユーザの開発目的等に照らして許容限度を超える事態が生じることもあるから、ベンダとしては、そのような局面に応じて、ユーザのシステム開発に伴うメリット、リスク等を考慮し、適時適切に、開発状況の分析、開発計画の変更の要否とその内容、更には開発計画の中止の要否とその影響等についても説明することが求められ、そのような説明義務を負うものというべきである。(中略)
これらに照らすと、控訴人は、被控訴人と本件最終合意を締結し、本件システム開発を推進する方針を選択する以上、被控訴人に対し、ベンダとしての知識・経験、本件システムに関する状況の分析等に基づき、開発費用、開発スコープ及び開発期間のいずれか、あるいはその全部を抜本的に見直す必要があることについて説明し、適切な見直しを行わなければ、本件システム開発を進めることができないこと、その結果、従来の投入費用、更には今後の費用が無駄になることがあることを具体的に説明し、ユーザである被控訴人の適切な判断を促す義務があったというべきである。また、本件最終合意は、前記のような局面において締結されたものであるから、控訴人は、ベンダとして、この段階以降の本件システム開発の推進を図り、開発進行上の危機を回避するための適時適切な説明と提言をし、仮に回避し得ない場合には本件システム開発の中止をも提言する義務があったというべきである。
(中略)
本件システム開発においては、少なくとも、本件最終合意を締結する段階において、本件システムの抜本的な変更、又は、中止を含めた説明、提言及び具体的リスクの告知をしているとは認めがたいから、控訴人に義務違反(プロジェクトマネジメントに関する義務違反)が認められるというべきである。しかし、ベンダとして果たすべきプロジェクトマネジメントに関する義務違反につき、故意、あるいは故意と同視されるような重過失の程度のものがあったということはできない。控訴人の義務違反は、それに至らない過失の程度のものにとどまるというべきである。
■東京高裁平成 26 年 1 月 15 日判決
○ユーザの協力義務
ユーザは、顧客であって、システム開発等についての専門的知見を備えているとは認められないのに対し、ベンダは、システム開発等の専門的知見や経験を備えた専門業者であって、本件新基幹システムに多数の不具合・障害という瑕疵を発生させたのはベンダであることが認められる。外部設計後に多数の変更を行えば、本件新基幹システムにおける不具合・障害の発生の可能性を増加させ、その検収完了が遅延するおそれが生じ得ることに照らせば、ユーザがベンダに対し本件新基幹システムについて多数の変更を申し入れたことは、本件ソフトウェア開発個別契約の目的を達成できなくなった原因の一つであると認められ、その点においてユーザに過失のあることを否定できない。
○ベンダのプロジェクトマネジメント責任
しかし、本件ソフトウェア開発個別契約においては、ユーザからベンダに対して仕様書等の変更の申入れがあった場合、その申入れから 14 日以内に、ユーザ及びベンダは変更の内容及びその可否 につき協議を行い、変更の可否につき決定するものと約定されており、その期間に協議が調わない場合、ベンダは、従前の仕様書等に基づき本件業務を遂行するものし、控訴人はこれを了承する旨が約定されていることからすれば、ベンダは、ユーザの変更申入れを応諾する契約上の義務を負わず、契約上これを拒絶することができる。そして、ユーザがシステム開発等についての専門的知見を備えているとは認められない顧客であるのに対しベンダは、システム開発等の専門的知見や経験を備えた専門業者であって、ユーザからの変更の申入れに応じることが、本件新基幹システムにおける不具合・障害の発生の可能性を増加させ、そのために検収終了時期を大幅に遅延させ、本件ソフトウェア開発個別契約の目的を達成できなくなる場合においては、本件プロジェクトの業務委託基本契約に基づく善管注意義務及び本件ソフトウェア開発個別契約における付随的義務として、その専門的知見、経験に照らして、これを予見した上、ユーザに対し、これを告知して説明すべき義務を負うものであって、なお、ユーザが変更を求めるときは、これを拒絶する契約上の義務があると認められるのである。そして、ベンダにおいて、これを予見することが困難であったとは認められないのであって、ベンダのこのような義務違反がユーザの上記過失の一因となっていることが否定できないのである。(中略)
しかし、ユーザがシステム開発等についての専門的知見を備えているとは認められない顧客であるのに対し、ベンダは、システム開発等の専門的知見や経験を備えた専門業者であって、ユーザの上記データ移行作業の不適切さが、本件新基幹システムにおける不具合・障害の発生の可能性を増加させ、そのためにその検収終了時期を大幅に遅延させ、本件ソフトウェア開発個別契約の目的を達成できなくなる場合においては、本件プロジェクトの業務委託基本契約に基づく善管注意義務及び本件ソフトウェア開発個別契約における付随的義務として、その専門的知見、経験に照らし、これを予見した上、このような事態を回避するために、ユーザに告知し、ユーザのデータ移行作業に特段の対応が必要であるというのであれば、その旨の指摘・指導をすべき義務を負うと認められる。そして、ベンダにおいて、これを予見することが困難であったとは認められないのであって、ベンダのこのような義務違反がユーザの上記過失の一因となっていることが否定できないのである。
■東京地裁平成 28 年 4 月 28 日判決
○ベンダのプロジェクトマネジメント責任
ベンダは、自らが有する専門的知識と経験に基づき、本件システム開発に係る契約の付随義務として、具体的には、被告は、原告における意思決定が必要な事項や解決すべき必要がある懸案事項等の
発生の徴候が認められた場合には、それが本格的なものとなる前に、その予防や回避について具体的に原告に対して注意喚起をすべきであるし、懸案事項等が発生した場合は、それに対する具体的な対応策及びその実行期限を示し、対応がされない場合に生ずる支障、複数の選択肢から一つを選択すべき場合には、対応策の容易性などそれらの利害得失等を示した上で、必要な時期までに原告において対応することができるように導き、また、原告がシステム機能の追加や変更の要求等をした場合、当該要求が委託料や納入期限、他の機能の内容等に影響を及ぼすときには原告に対して適時にその利害得失等を具体的に説明し、要求の撤回、追加の委託料の負担や納入期限の延期等をも含め適切な判断をすることができるように配慮すべき義務を負っていたということができる。
(結論として、権限設定及び仕様自体の不適合に関するベンダの付随義務違反を肯定、プログラムの品質の問題に関するベンダの付随義務違反を否定。)
■札幌高裁平成 29 年 8 月 31 日判決
○ベンダのプロジェクトマネジメント責任
…以後は、新たな機能の開発要望はもちろん、画面や帳票、操作性に関わるものも含め、一切の追加開発要望を出さないという合意(本件仕様凍結合意)を取り付けたものである。このように、ベンダは、プロジェクトマネジメント義務の履行として、追加開発要望に応じた場合は納期を守ることができないことを明らかにした上で、追加開発要望の拒否(本件仕様凍結合意)を含めた然るべき対応をしたものと認められる。これを越えて、ベンダにおいて、納期を守るためには更なる追加開発要望をしないようユーザを説得したり、ユーザによる不当な追加開発要望を毅然と拒否したりする義務があったということはできず、ベンダにプロジェクトマネジメント義務の違反があったとは認められない。
○ユーザの協力義務
システム開発はベンダの努力のみによってなし得るものではなく、ユーザの協力が必要不可欠で あって、ユーザも、ベンダによる本件システム開発に協力すべき義務を負う。そして、この協力義務は、本件契約上ユーザの責任とされていたもの(マスタの抽出作業など)を円滑に行うというような作為義務はもちろん、本件契約及び本件仕様凍結合意に反して大量の追加開発要望を出し、ベンダにその対応を強いることによって本件システム開発を妨害しないというような不作為義務も含まれているものというべきである。
■東京高裁平成 30 年 3 月 28 日判決
○ベンダのプロジェクトマネジメント責任・ユーザの協力義務
ベンダは、納入期限までにシステムを完成させるように、契約書等において提示した開発手順や開発手法、作業工程等に従って開発作業を進めるとともに、常に進捗状況を管理し、開発作業を阻害する要因の発見に努め、これに適切に対処し、かつ、ユーザのシステム開発へのかかわりについても、適切に管理し、システム開発について専門的知識を有しないユーザによって開発作業を阻害する行為がされることのないよう注文者に働きかける義務を負い、他方、ユーザは、システムの開発過程において、資料等の提供その他システム開発のために必要な協力をベンダから求められた場合、これに応じて必要な協力を行うべき契約上の義務(協力義務)を負っているというべきである。