Contract
債権譲渡担保権設定契約書(参考例)解説書
使用上の留意点
1 本契約は、設定者として法人を想定しており、自然人を想定しておりません。
2 本契約は、借入人が設定者となることを前提としており、第三者が物上保証人として設定者になることを前提としておりません。また、本契約又は譲渡担保権に関して被担保債権に関する消費貸借契約上規定されている条項と重複する規定があり得るため、その場合の取捨や矛盾のないことの確認が必要になります。
3 本契約は、融資形態として証書貸付(タームローン)を前提としており、貸出基準額(ボロイング・ベース)を設定するタイプの融資(以下、「ボロイング・ベース型融資」という。)を前提としておりません。ボロイング・ベース型融資については、巻末に「参考資料」として解説を掲載するとともに、ボロイング・ベース型融資を前提とする場合に、条文に変更等の影響が想定される箇所については、該当する条項に解説を記載しております。
4 本契約は、相対での貸付を前提としており、シンジケートローンのように貸付金融機関兼担保権者が複数になる場合を前提としておりません。
5 本解説で使用される用語については、経済産業省が発行する借り手向けテキスト「在庫や売掛債権を活用しよう ABLのご案内 在庫や売掛債権を活用した新たな資金調達の方法」(以下、「ABLのご案内」)、貸し手向けテキスト「動産・債権等の活用による資金調達手段 ~ABL(Asset Based Lending)~ テキスト 金融実務編」、 ABLテキスト一般編「動産・債権担保融資(ABL)の普及・インフラ構築に関する調査研究 テキスト編」等の各種テキストを参照してください。
目次
別紙 「譲渡債権一覧」
別表 「第三債務者の表示」
参考資料 「ボロイング・ベース型融資について」
▲▲▲株式会社(以下「甲」という。)と株式会社●●銀行(以下「乙」という。)は,甲が乙に対し負担する債務を担保するため,xが有する債権につき譲渡担保権を設定するべく,以下のとおり取り決める(以下「本契約」という。)。
【趣旨】
譲渡担保権の設定者(甲)と貸付金融機関である担保権者(乙)とが、設定者(甲)が有する債権に対して譲渡担保権を設定するために、本契約を締結することを記載している。
【解説】
本契約では、借入人が譲渡担保権の設定者であることを前提としている。本契約が想定している債権担保融資のスキームを下図に示す。
【留意点:借入人の関係者等が譲渡担保権を設定する場合について】
借入人の関係者等が物上保証人として譲渡担保権を設定する場合には、借入人が設定者であることを前提とした規定 1を修正して用いる必要がある。また、このような場合には、担保権者は、被担保債権に係る貸付契約その他の合意書等において、必要な事項 2を合意しておく必要がある。
図 本契約が想定している債権担保融資のスキーム
1 例えば、被担保債権の表示に関する第 1 条、設定者(甲)の表明・保証に関する第 5 条、設定者(甲)の遵守事項に関する第 10 条、本契約の違反が被担保債権の期限の利益喪失に結び付く旨の第 14 条等がある。
2 例えば、借入人に対する増担保請求の規定、本契約の違反を被担保債権の期限の利益喪失に結び付ける規定等が含まれる。
第1条
(被担保債権の表示)
本契約によって設定される譲渡担保権(以下「本件譲渡担保権」という。)により担保される債
権(以下「本件被担保債権」という。)は,甲乙間の平成●年●月●日付金銭消費貸借契約証書その他これに付帯して甲と乙との間で交わされる合意書等(以下,これらを総称して「貸付契約」という。)に基づき,乙が甲に対して貸し付ける金●●●円の貸付元本債権及びこれに付帯する
利息・損害金その他一切の債権とする。
【趣旨】
本条は、譲渡担保権の被担保債権が、特定の金銭消費貸借証書等に基づく貸付元本債権、付帯する利息・遅延損害金その他の債権(証書貸付による特定債権)であることを規定している。
【留意点1:包括的な被担保債権の定めによる契約の有効性について】
「担保権者(乙)が設定者(甲)に対して現在及び将来有する一切の債権」といった包括的な被担保債権の定めによる契約は有効性に議論があることに留意する必要がある。
【留意点2:根譲渡担保となる場合について】
当座貸越やコミットメントライン 3による取引 4を前提として、融資枠(額)を担保対象物の評価額の変動に連動させる仕組み(ボロイング・ベース型融資)とする場合には、予め貸出基準額
(ボロイング・ベース)等に関する合意書類を作成する必要がある 5。なお、この場合には、いわゆる根譲渡担保として、根抵当権に関する取り扱いに準じて、被担保債権については、①極度額 6、②債権の範囲(債権発生の原因となる契約書等を列挙)を規定するのが通常である。
民法には根譲渡担保について直接xxの規定はないが、根抵当権に関する民法上の確定請求に準じて担保権者による確定請求に関する規定を置くこともある。担保権者がコミットメントライン契約上貸付実行義務を負担しているにもかかわらず、被担保債権について元本の確定が行われた場合には、担保権者は当初想定していた担保権による債権保全を実現できないこととなる。そのため、設定者による確定請求を禁止する規定や確定請求が行われたことを期限の利益の喪失事由とする規定が置かれることもあるが、その有効性については議論がある。
3 コミットメントラインとは、一般に、一定の期間において貸付金額の上限の範囲であれば、借入人が貸付金融機関に対していつでも貸付の実行を求めることができることを約した契約に基づく取引を意味する。
「ABLのご案内」p30 参照のこと。
4 リボルビング型の取引を想定している。
5 ボロイング・ベース型融資については、巻末の「参考資料」を参照のこと。
6 コミットメントライン契約等、被担保債権の発生原因となる契約に明確に極度額、貸出基準額が定められている場合には、②債権の範囲を規定することでこれを兼ねる扱いとすることが多い。極度額については、
「ABLのご案内」p30 参照のこと。貸出基準額については、巻末の「参考資料」を参照のこと。
第2条
(本件譲渡担保権の設定)
1. 甲は,乙に対し,前条に定める債権を担保するため,xが現在有し,将来発生する別紙記載の
債権(以下,これらを総称して「本件譲渡債権」という。)を譲渡した。
2. 本件譲渡債権を被担保債権とする担保物権及び本件譲渡債権についての保証債務履行請求権のうち,乙に当然に移転するものについて,甲は,乙の請求があった場合は,対抗要件の具備
その他当該権利に係る乙の権利保全に必要な一切の行為を行うものとする。
【趣旨】
本条は、第 1 条に規定した被担保債権を担保するために、譲渡担保権を設定したことを規定している。
【解説】
債権譲渡担保の設定は、法形式としては債権譲渡の方式によって行われるが、この場合の債権譲渡は、「被担保債権を担保するため」という経済的な目的のもとに行われるものである 7。
債権譲渡担保を設定する時点で既に発生している債権(既発生債権)はもちろん、債権譲渡担保権を設定する時点では未だ発生していない債権(将来債権)であっても、譲渡債権とすることができる 8。
債権譲渡担保を設定する場合には、譲渡債権を特定する必要があるが、設定者が有する他の債権から識別することができる程度に特定されていれば足りるとするのが判例の考え方である。設定者が有する他の債権から識別するための要素としては、①当事者、②債権の発生原因、③債権の種類及び④債権発生期間等が考えられる。
譲渡債権の特定性は、これらの諸要素を総合的に考慮して判断されるため、個々の要素について、どの程度具体的に規定していれば足りるかは具体的事案によるが、実務上は疑義を挟まないためにも、個々の要素についてできる限り具体的な規定とするのが望ましい。
① 当事者
譲渡債権の第三債務者は特定していることが望ましいが、譲渡債権が第三債務者未確定の将来債権や、第三債務者に変更のおそれのある債権等、第三債務者の特定が困難な場合がある。この点、第三債務者の特定は必須ではないとされ、第三債務者不特定の譲渡債権についても譲渡担保権を設定することが可能である。
② 債権の発生原因
債権の発生原因について、本契約締結時点で将来債権の発生する根拠となる契約の契約締結日やその金額等の内容を具体的に特定することは困難であることが多い。この点、取引の種類や内容により特定することになるが、他の債権と識別ができる程度の特定をすることが必要になる。
③ 債権の種類
債権の種類については、例えば「売買債権」、「請負代金債権」等としてその種類を特定することになる。
7 いわゆる資産流動化・証券化においても債権譲渡という法形式が用いられるが、それらの場合には「真正譲渡」であることが前提とされており、担保目的による債権譲渡の場合とは異なり「被担保債権」は存在しない。
8 将来発生する債権を目的とする債権譲渡担保契約も有効であり、将来債権についても、確定的に譲渡されている、とするのが判例(最判平 11.1.29、最判平 13.11.22)の考え方である。
④ 債権発生期間
債権発生期間については、その始期及び終期を定める。債権発生期間が長期にわたる場合は、公序良俗違反(下記、「留意点2」参照)となるおそれがあるので、通常は被担保債権の償還期間等を考慮しつつ 5 年から 10 年程度で設定する場合が多いと思われる。
【留意点1:譲渡禁止特約付債権について】
譲渡債権の存在と内容を確認するために、契約書、債権証書、発注書その他本件譲渡債権の存在を示す書類の原本の提出を受け、内容を確認する必要がある。
譲渡禁止特約付債権については、第三債務者の承諾を得られる例外的な場合を除き原則として譲渡することはできず、かかる譲渡担保権の設定は無効である。そのため、譲渡債権に譲渡禁止特約が付帯していないか確認し、かかる特約がある場合には、第三債務者の承諾を得ることが必要である。なお、譲渡禁止特約の存在について譲受人である担保権者(貸付人)が善意無重過失であれば譲渡は認められるが(民法第 466 条第 2 項)、貸付金融機関である担保権者が善意無重過失であると判断されるためには相当の立証が必要になると思われる。
【留意点2:公序良俗について】
将来債権について譲渡担保権を設定することも認められるが、将来債権の発生期間の長さ等の契約内容が、譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らし相当とされる範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるものであると見られるなどの特段の事情の認められる場合には、公序良俗等に反し無効である旨、判例上示唆されている。
第3条
(債権譲渡登記)
1. 甲と乙は,甲の費用にて本契約締結後直ちに本件譲渡債権について,動産及び債権の譲渡の対
抗要件に関する民法の特例等に関する法律に基づき,存続期間を〔●〕年とする債権譲渡登記を行うものとし,相互にその手続に協力する。登記の任意的記載事項その他の細目的事項については,乙が別途定めるものとする。
2. 甲は,乙に対し,前項に基づき債権譲渡登記手続が完了したときは,速やかに当該債権譲渡の事実が記載された登記事項証明書,及び,甲を債権の譲渡人とする全ての債権の概要が記載さ
れた登記事項概要証明書を提出するものとする。
【趣旨】
本条は、特例法 9上の対抗要件 10を具備するために、債権譲渡登記がなされることを規定している。
【解説】
(第 1 項)
民法において、第三者対抗要件を具備するためには、確定日付のある証書による第三債務者への通知又は第三債務者の承諾(民法第 467 条第 2 項及び第 1 項参照)が必要であるが、ABLにおける債権譲渡担保においては、第三債務者に対して本件譲渡担保権の設定を積極的に知らせることが不適当と考えられるような場合等には、本契約のように債権譲渡登記を行うことによって第三者対抗要件を具備する場合がある。
なお、債権譲渡登記の存続期間は、原則として第三債務者が全て確定している場合は最長 50 年
間、その他の場合は最長 10 年間であるが、例外として特別の事情がある場合(例えば、債権の証券化、被担保債権の返済期間がこれらの期間を超える長期融資の場合等)には、これらの期間を超えて存続期間を定めることができる(特例法第 8 条第 3 項)。そこで、通常は、被担保債権の返済期間等を考慮して必要な存続期間の債権譲渡登記を具備することとなる。
(第 2 項)
登記完了後に登記の内容確認等を行うため、登記事項証明書の提出を義務づけている。設定者を譲渡人とする全ての債権譲渡の概要が記載された登記事項概要証明書を提出するのは、本契約に基づく譲渡担保権以外に第三者への譲渡又は譲渡担保権の設定がなされていないことを確認するためである。担保権者としては、本契約の締結前にこのような確認を行っておくべきであるが、そのような事前確認の後、登記完了時までの間に第三者への譲渡又は譲渡担保権の設定がな
9 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律
10 「対抗要件」とは、当事者間では効力の生じた権利関係を主として第三者に主張するために必要とされる手続、要件のことである。ABLで主に使われるのは譲渡担保であるが、担保権者が、譲渡担保によって移転された動産や債権から優先して債権を回収できる権利を第三者に主張するためには、動産や債権が譲渡担保に関する契約によって設定者から担保権者に移転したことを第三者がわかるようにしておく必要がある。
(このことを、担保のためにされた譲渡について第三者対抗要件を具備する、という。)「ABLのご案内」
p30 参照のこと。
11 p.1「前文」の解説の図を参考のこと。
されていないことを確認するため、事後的にも提出を求めるものである。
【留意点1:第三者による対抗要件への注意について】
担保権者が、債権譲渡登記によって第三者対抗要件を具備しても、同じ譲渡債権について第三者に対して譲渡又は譲渡担保権の設定がなされていて、当該登記に先行して民法上の方法によって第三者対抗要件が具備されていた場合、登記には優先的効力はないことから、担保権者は当該第三者に対して本件譲渡担保権を主張することが出来ないことに注意が必要である。
【留意点2:第三者が登記手続中である場合について】
現在、登記事項証明書等の各種の証明書は、前執務日までの登記の有無・内容を証明するにとどまるため、登記事項証明書等を取得しても、申請時に第三者が登記手続中であり、登記がなされる可能性は否定されない。そのため、申請時若しくは完了後に、登記上に先行する担保権の存在が判明し、劣後する可能性があるため、注意が必要である。
第4条
(取立権限)
1. 甲は,本件譲渡債権を善良なる管理者の注意義務をもって,乙のために無償で管理するものと
する。
2. 乙は,甲に対し,甲が本件譲渡債権の全部又は一部を通常の営業の範囲に限り,直接第三債務者から取り立てることを認める。なお,取立てに要する費用は甲の負担とする。
3. 甲は,前項の定めに基づき本件譲渡債権の全部又は一部を第三債務者から直接取り立てたとき
は,その取立金を乙に開設する甲名義の銀行口座において管理しなければならない。
【趣旨】
本条は、設定者(甲)が事業を継続するため、譲渡債権を通常の営業の範囲で取り立て得ることを規定し、併せて設定者(甲)に対する譲渡債権の管理についての善管注意義務等について規定している。
【解説】
債権譲渡担保においては、法形式としては債権譲渡が用いられることから、担保権者は、譲渡債権の債権者として、自ら譲渡債権を管理し、取り立てることが出来るとも考えられる。しかし、 ABLにおいては、被担保債権の期限の利益が喪失するなどの一定の事由が生じない限り、担保権者が自ら譲渡債権を管理し、取り立てて、被担保債権の弁済に充当することは想定されておらず 12、設定者がその通常の営業を行う中で、譲渡債権を管理し、取立てを行うことを前提としている。そのため、担保権者は設定者に対して譲渡債権の管理及び取立ての権限を付与し、取り立てた金銭の担保権者(乙)への引渡しを要しないことを定めることとなる。これは、集合動産譲渡担保権設定契約書(参考例)第 6 条において、担保権者(乙)が、設定者(甲)に対して、担保対象動産の全部又は一部を通常の営業の範囲に限り、自ら使用し、又は第三者に相当価格で譲渡することを認めるとしていることと同趣旨である。
(第 1 項)
設定者が、善管注意義務をもって無償で譲渡債権を管理し、譲渡債権の取立ての業務を行い、担保権者に代わって譲渡債権の支払いを受領することを規定している。
(第 2 項)
担保価値の毀損を防ぐため、当該取立行為は通常の営業の範囲に限られることを規定している。
(第 3 項)
取立金の散逸防止及びモニタリングのため、取立金を担保権者に開設する設定者名義の銀行口座において管理するものとしている。このような口座の管理は、担保権者にとって、相殺による回収への備えとなるとともに、設定者の財務状況を把握するための一助ともなる。また、このような管理口座に対して質権を設定することもあり得る。
12 ABLにおける債権譲渡担保(「循環型将来債権譲渡担保」といわれることが多い。)とは異なり、譲渡債権の回収金がxx、被担保債権の弁済に充当されていくことが想定されている債権譲渡担保(「累積型将来債権譲渡担保」といわれることが多い。)もある。
第5条 (甲による表明・保証)
1. 甲は,乙に対し,以下の事項が本契約締結日においてxxに相違ないことを表明し,保証する。
(1) 甲は,日本法の下に適法に設立され,かつ現在も有効に存在する〔法人〕である。
(2) 甲は,本契約及び貸付契約に定められている規定を遵守・履行するのに必要な法律上の完全な権利能力及び行為能力を有している。
(3) 本契約及び貸付契約は,適法,有効かつ拘束力のある甲の債務を構成し,その条項に従い,甲に対する強制執行が可能である。
(4) 甲は,法令,定款及び内部規則に従い,本契約及び貸付契約に基づく甲の義務を履行するために必要な全ての手続を完了している。
(5) 本契約及び貸付契約に基づく甲の義務の履行に重大な悪影響を与え,若しくは与えるおそれのある判決,決定若しくは命令は存せず,かつそのような訴訟,裁判,調査その他の法的手続又は行政手続も存しない。
(6) 甲は,本契約及び貸付契約により甲の債権者を害する意図を有するものではない。
(7) 甲は,支払不能,支払停止又は債務超過に陥っておらず,本契約及び貸付契約に基づく取引をすることにより,支払不能,支払停止又は債務超過に陥るおそれはない。
(8) 甲に対し,破産,民事再生,会社更生,特別清算その他の法的整理手続又は私的整理手続は開始されておらず,かつその申立てもなされていない。
(9) 甲が作成する計算書類及び附属明細書等は,日本国において一般にxx妥当と認められている会計基準に適合しており,正確かつ適法に作成されている。
2. 甲は,乙に対し,以下の事項が本契約締結日においてxxに相違ないことを表明し,保証する。
(1) 本件譲渡債権は,適法かつ有効に成立,発生し,第三債務者に対して強制執行が可能であり,無効,取消,相殺の抗弁その他第三債務者又は第三者により,対抗されるべき事由又は法律上のいかなる瑕疵も存在しない。
(2) 本件譲渡債権に関する一切の権利,権限及び利益は,甲に帰属する。
(3) 本件譲渡債権について譲渡担保xxその他本件譲渡担保権を害するような第三者の権利関係は存在せず,また,差押え,仮差押え,滞納処分その他の乙の本件譲渡担保権の行使を阻害する法律関係及び事実関係は存在しない。
(4) 本件譲渡債権について,第三債務者又は第三者との間で発生,帰属,消滅等に関する訴訟,調停,仲裁その他の法的手続又は紛争解決手続は一切存在しない。
(5) 本件譲渡債権について,甲と第三債務者との間に債権譲渡禁止特約は存在しない。
(6) 本件譲渡債権について,手形の発行又は電子記録債権の発生記録はされていない。
(7) 本件譲渡債権が発生するために必要な事業及び契約関係について,適法かつ適正に維持されていること。
(8) 甲が,既に開示した資料の内容はxxかつ正確なものであり,重要なものを欠くものではない。
3. 甲は,乙に対し,前二項に定める表明及び保証のうち,いずれかがxx又は正確でないことが判明したときは,直ちに書面により通知しなければならない。
【趣旨】
本条では、設定者(甲)が表明・保証を行うべき契約締結の前提となる基本的事項について規定している。
【解説】
(表明・保証の意義等)
契約上の表明・保証の性質については議論があるが、一般には契約の前提となる事項を確認することにより、これがxxと異なる、又は不正確であった場合に、それにより生じるリスクを表明・保証を行った当事者に負担させようとするものであると理解されている。したがって、表明・
保証は、対象となる事項がxxでないリスクをいずれの当事者が負担するかという問題であり、当事者のいずれもがそのxx性・正確性を確認することのできない事項であるとしても、表明・保証の対象となり得る。
もっとも、表明・保証を行う当事者は、その対象となる事項がxxでないリスクを負担することになるから、これがxxであり、かつ、正確なものであることを十分に確認しておく必要がある。
本契約においても、表明・保証がxx又は正確でないことが判明した場合には契約違反に該当し、また、損害補償の対象となるから(第 6 条)、挙げられた事項に関してxxに反するものがあれば、表明・保証を行う設定者は、事前にそれを是正したり、また、担保権者に開示し、協議するなどの必要がある。他方、本契約では、前提となる事項がxxに反する場合(例えば、設定者が譲渡債権を保有していないなど)に担保権が無効となることもあり得る。そのため、貸付が実行された後では、表明・保証の違反として契約違反に該当し、損害の補償請求の対象となるだけでは、担保権者としては本来予定していた譲渡担保権による回収を図ることができないなど、表明・保証条項を設けるだけでは不十分である場合もある。そこで担保権者としても、貸付及び担保権の取得に際しては、事前に、必要に応じて前提となる事項について設定者と協議し、確認しておく必要がある。
表明・保証の基準時については、「本契約締結日」に加えて「貸出実行日」等、別の時点を規定することもある。
(第 1 項 設定者に関する事項)
譲渡担保権が有効に設定されるためには、設定者が本契約や貸付契約の締結権限や能力を有していること、設定者による本契約や貸付契約の締結等が詐害行為取消、否認等の対象にならないこと等、設定者が契約を締結する前提となる諸条件を備えていることが必要になるから、設定者に関する事項について表明・保証が行われるのが通例である。そこで、本契約においても設定者に関する基本的な事項を規定している。
なお、本契約は被担保債権の債務者が譲渡担保権の設定者となることを前提としているため、貸付契約に関する表明・保証を合わせて規定しているが、第三者が設定者となる場合には、貸付契約に関する表明・保証を規定するためには別途貸付契約、覚書等において担保権者と設定者との間で合意する必要がある。
(第 2 項 譲渡債権に関する事項)
譲渡担保権の設定を受けるにあたり、担保権者としては、対象となる債権が適法に譲渡担保権を設定できる債権であること、譲渡債権として担保権者が想定する価値を有すること等を必要とする。そこで、本項においても各号において譲渡債権についてこれらに関する以下のような基本的事項を規定している。
⮚ 第(1)号・第(2)号及び第(3)号
譲渡債権の中には、その成立に瑕疵がある場合が考えられる。また、譲渡債権に抗弁権が付着していることも考えられる。そのため、本契約では、譲渡債権が適法かつ有効に成立、発生し、第三債務者に対して強制執行が可能であり、無効、取消、相殺の抗弁その他第三債務者又は第三者により、対抗されるべき事由又は法律上のいかなる瑕疵も存在せず、本件譲渡担保権の設定により、譲渡債権の保有及び処分権限をはじめとした全ての権利が担保権者に帰属すること等の表明・保証を規定している。
⮚ 第(4)号
譲渡債権について訴訟等の紛争手続が係属している場合には、譲渡債権に瑕疵が生じる可能性が高く、譲渡担保権実行時に適法に取立てないし第三者への売却ができないという問題が生じ得る。そこで、本契約では、第三者との間に訴訟等の紛争がないこと等について表明・保証を規定している。
⮚ 第(5)号
第 2 条で解説した通り、譲渡禁止特約付債権については、原則として譲渡することはできず、かかる譲渡担保権の設定は無効である。そのため、譲渡債権に債権譲渡禁止特約が付されていないことについて表明・保証を規定している。
⮚ 第(6)号
譲渡債権について、手形の発行又は電子記録債権の発生記録がされている場合には、それら特有の方法により譲渡ないし対抗要件の具備がなされる必要がある。そのため、譲渡債権について、手形の発行又は電子記録債権の発生記録はされていないことを規定している。
⮚ 第(7)号
譲渡債権の発生原因となる原契約に瑕疵があると譲渡債権自体に瑕疵をもたらす可能性があるため、原契約成立の前提が適法かつ適正に維持されていることが必要である。そのため、譲渡債権が発生するために必要な事業及び契約関係について、適法かつ適正に維持されていることを規定している。
⮚ 第(8)号
担保権者にとっては、対象となる債権が適法に譲渡担保権を設定できる債権であること、譲渡債権として担保権者が想定する価値を有すること等を事前に確認する必要があるが、そのために必要となる事項の多くは、設定者から開示を受けた情報に依拠せざるを得ないのが実情である。そこで、設定者が開示した情報のxx性等について表明・保証が規定されることが多い。第(8)号では、これについて規定しているが、開示された情報のうち些細な事項についての誤りが契約違反となるのは妥当でないことも多いことから、「『重要な点において』xxかつ正確なものであり」等と限定的な規定とすることもある。
第6条
(甲による表明・保証違反の効果)
1. 甲及び乙は,前条に定める表明及び保証のうち,いずれかがxx又は正確でないことが判明し
たときは,xによる本契約に定める条項の違反となることを確認する。
2. 乙は,甲に対し,前条に定める表明及び保証のうち,いずれかがxx又は正確でないことが判明したときは,それにより甲に生じた損失,経費その他一切の損害についての補償を求めるこ
とができる。
【趣旨】
本条は、表明・保証違反が、本契約の違反となること、及び損害補償の原因となることを規定している。
【解説】
契約上の表明・保証の性質については議論があるが、表明・保証された事項に誤りがあり、又は不正確であった場合に、一般的に、直ちに民法上の債務不履行の効果が生じるとは解されていないため、本条にて契約違反となり損害補償の原因となることを規定している。
第7条 (資料の提出)
1. 甲は,乙に対し,毎月●日(銀行休業日の場合は翌営業日とする。)までに,前月末日を基準日とする第三債務者別・支払期別の本件譲渡債権明細表を提出する。
2. 甲は,乙に対し,甲と乙が別途合意する時期に,以下の資料を提出する。
(1) 決算報告書(附属明細書を含む)及び税務申告書
(2) 最新の試算表
(3) 売掛債権に関する資料(合計残高,取引先毎の明細・残高・回収期間・回収方法その他の取引条件,売掛先の正式名称・郵便番号・住所・信用情報等)
(4) 買掛金に関する資料(合計残高,取引先毎の明細・残高・支払期間・支払方法その他の取引条件,買掛先の正式名称・郵便番号・住所・信用情報等)
(5) 前受金に関する資料(合計残高,取引先毎の明細・残高・支払期間・支払方法その他の取引条件,前受先の正式名称・郵便番号・住所・信用情報等)
(6) 棚卸資産に関する資料(資料提出時の簿価,種類・品目,数量,型番形式,保管場所及び保管状況等)
(7) 受注残高に関する資料(合計残高・取引先毎の明細・残高・種類・品目等)
(8) 甲に賦課される公租公課及び社会保険料等の納付書・領収書等の写し
(9) 甲が取得した手形の手形債務者の経営状況及び財務状況に関する資料
(10) その他,xが提出を求めた経営状況及び財務状況に関する資料
3. 前二項に定めるほか,乙は,必要と認めるときは,甲に対し適宜前項各号に記載の資料及び当該資料の根拠となる証憑等の提出を求めることができる。かかる求めがあった場合,甲は,乙に対し速やかに当該資料の提出を行うものとする。
4. 前三項の資料の提出は,紙又は電子データにより行うものとし,資料の様式は甲の経理システム等を考慮しつつ乙が別途指定するものとする。なお,資料作成に費用を要するときは甲の負担とする。
5. 甲は,本条に基づき開示する資料の内容を,xxかつ正確なものとしなければならない。
【趣旨】
xxは、担保権者(乙)が設定者(甲)の事業を継続的にモニタリングするため、設定者(x)が担保権者(乙)に、譲渡債権に関する各種資料を提出することを規定している。
【解説】
ABLにおける債権譲渡担保は、被担保債務の弁済期が経過し、又は、期限の利益が失われた場合に、担保権者が譲渡債権を取立て又は第三者に売却して被担保債権の回収にあてる機能を有するとともに、担保を通じて、設定者が担保権者に対し、譲渡債権を含む売掛債権、買掛金等に関する情報を含め事業収益資産の情報を全面的に開示することで、担保権者が設定者の事業を継続的にモニタリングすることが企図されることが多い。
本契約では、このような機能に着目し、譲渡債権に関する情報、設定者の決算資料、税務資料に加え、その他の売掛債権、買掛金等、xxな資料の提出を求めることとしている。
【留意点1:提出資料の範囲、及び提出時期について】
個別の案件においては、設定者の通常の事業のあり方によって、本契約に挙げた全ての資料を提示することが適当でない場合もあるから、提出を行う資料の種類、その内容、方法等について担保権者と設定者との間で事前に具体的に協議し、合意することが必要となる。また、本契約においては、各資料の提出時期については、別途定めることとしているが、契約において明示的に提出時期を定めることもあり得る。
【留意点2:ボロイング・ベース型融資の場合について】
提出書類に債務者自身が了承した貸出基準額(ボロイング・ベース)・期限前返済額等を示す資料 13
が追加されることがある。
13 ボロイング・ベース型融資については、巻末の「参考資料」を参照のこと。
第8条
(面談)
1. 甲と乙は,甲と乙が別途合意する時期と場所において,甲の財務及び会計の状況並びに本件譲
渡債権の管理体制等について確認するための面談を行うものとする。
2. 前項に定めるほか,乙は,自ら必要と認めるときは,甲に対し臨時に前項の面談を申し入れることができ,甲はこれに応じるものとする。
3. 前二項に定める面談において,xは,乙に対し,乙が事前に指定する甲の財務及び会計に関する資料並びに本件譲渡債権の管理体制等についての資料を開示し,これを交付するものとする。なお,開示及び交付の方法は,乙が定めるところによるものとし,資料作成に費用を要するときは甲の負担とする。
4. 乙は本条に基づく面談の全部又は一部を,乙が適当と認める第三者に委託することができるものとする。
5. 甲は,本条に基づき開示する資料の内容を,xxかつ正確なものとしなければならない。
6. 甲は,本条に定める面談を行うにあたり,乙の要請に応じ,甲のグループ会社及び関係会社に協力させるものとする。
【趣旨】
本条は、担保権者(乙)が、設定者(甲)の事業を継続的にモニタリングするために、財務及び会計の状況、譲渡債権の管理状況等を確認することを目的として、面談を実施することを規定している。
【解説】
ABLにおいては、担保権者が担保の価値の増減や担保適格性を把握し、遵守事項の履行状況を確認することで、設定者の事業を継続的にモニタリングすることが企図されることが多い 14。
本契約においては、第 7 条において、定期的な情報の開示を求めるとともに、第 8 条において財務及び会計の状況、譲渡債権の管理状況等の確認のために、面談の機会を設定することとしている。
14 リレーションシップバンキングの観点からは、資料の提出(第 7 条)及び実査(第 9 条)と併せて、担保権者として設定者の事業をモニタリングすることに加え、設定者とのコミュニケーションを通じて、経営課題について洗い出し、改善点に関するアドバイスを行ったり、対策を協働で検討したりする機会とすることも考えられる。
第9条
(実査)
1. 乙は,甲が保有する本件譲渡債権を含む売掛債権の状況を把握するため,甲と乙が別途合意す
る時期に,甲の本店,支店若しくは事務所等において,甲が保有する売掛債権の存在を証する契約書,債権証書等の資料並びに甲の会計帳簿その他の経理システムを実査することができるものとし,甲はこれに協力する。
2. 乙は,自ら必要と認めるときは,甲に予め通知の上,臨時に前項に定める実査を行うことができる。
3. 乙は,本条に定める実査の全部又は一部を,乙が適当と認める専門家に委託することができるものとする。
4. 本条に定める実査は,甲の営業の妨げとならぬよう配慮して行わなければならない。
5. 甲は,本条に定める実査を行うにあたり,乙の要請に応じ,甲のグループ会社及び関係会社に協力させるものとする。
【趣旨】
本条は、担保権者(乙)が、設定者(甲)の事業を継続的にモニタリングするため、譲渡債権の状況を把握することを目的として、実査を実施することを規定している。
【解説】
ABLにおいては、担保権者が担保の価値の増減や担保適格性を把握し、遵守事項の履行状況を確認することで、設定者の事業を継続的にモニタリングすることが企図されることが多い。
本契約においては、第 7 条において、定期的な情報の開示を求めるとともに、第 8 条において財務及び会計の状況、譲渡債権の管理状況等の確認のために、面談の機会を設定することとしている。もっとも、譲渡債権等の状況を適切に把握するためには、担保権者が受動的に情報の提供を受け取るだけでは不十分であることが多い。そこで、本条では、担保権者が、譲渡債権の状況を把握するために、設定者の本店その他の事務所に立ち入り、実査を行うことができることを規定している。
① 売掛先、金額等の正確性の確認
設定者から報告された売掛債権の売掛先(企業の業種、企業数等)、金額等の情報が、誤り・虚偽ではないことを確認する。
② 回収可能性の確認
譲渡債権を実際に検分し、その回収可能性等を確認する。専門業者に委託することでより詳細に把握し、担保権者による担保評価額に反映させることも行われている。
③ 回収方法の把握と準備
上記①②がいかに正確に確認されていても、実際に回収するまでを具体的に想定・準備しておかなければ、担保としての実効性が損なわれる。担保権者が訪問し、売掛債権の帳票等を把握し、有事の際の担保権者のアクションや回収方法について予め準備しておくことは重要である。
【留意点:実査に要する費用負担について】
15 リレーションシップバンキングの観点からは、資料の提出(第 7 条)及び実査(本条)を通じて明らかになった経営課題について、面談(第 8 条)において設定者と協議し、アドバイスや対策検討に活用することが考えられる。
実査には交通費・外部委託費用等の実費が伴う。費用負担が理由で貸出人にとって必要な実査を先送りすることのないよう、担保権者・設定者の間で、実査に要する費用負担について、予め明確に取り決めしておくことが望ましい。両者で合意した事象が生じ、担保権者が実査を要すると判断した場合には、実査費用は借入人の負担とする等の取り決めがあり得る。
なお、本契約では第 22 条で設定者が費用を負担することとしている。
第10条 (遵守事項)
1. 甲は,乙に対し,以下の事項を遵守することを確約する。
(1) 本件譲渡担保権の設定により乙から借り受ける貸付金を,甲乙間で定める資金使途以外に使用しないこと。
(2) 甲の計算書類及び付属明細書等について,日本国において一般にxx妥当と認められている会計基準に従って適法かつ正確に作成すること。
(3) 毎決算期末時点での貸借対照xxの純資産の金額を●●●●円以上に維持すること。
(4) 毎決算期末時点での貸借対照xxの棚卸資産残高を当該決算期の平均月間売上高で除した棚卸資産の回転月数を●か月以内に維持すること。
(5) 上記のほか,甲乙間で合意された事項を遵守すること。
2. 甲は,乙に対し,以下の事項を遵守することを確約する。
(1) 本件譲渡債権の発生,帰属,権利行使について,所轄行政機関より許可,認可,承認,確認等を必要とするときは,これらの行政手続を全て履践すること。
(2) 本件譲渡債権の発生,帰属,権利行使等に関して生じる公租公課を含む一切の費用を負担し,支払期限までに適切に支払うこと。
(3) 本件譲渡債権を適切に管理し,無効,取消,相殺の抗弁その他第三債務者又は第三者から本件譲渡債権の発生,帰属,消滅等に関する法律上,事実上の主張をされる事由を生じさせないこと。
(4) 本件譲渡債権の全部又は一部について,乙以外の第三者に対する譲渡,若しくは担保物権の設定その他の処分をせず,手形の発行又は電子記録債権の発生記録の請求をしないこと。
(5) 本件譲渡債権について,第三債務者から約束手形,為替手形を受領したときは,乙に対し,直ちに当該手形を取立委任のために交付すること。ただし,乙の事前の同意があった場合はこの限りではない。
(6) 本件譲渡債権の価値を,設定時に比して著しく下回らせないこと。
(7) 本件譲渡債権について,通常の営業の範囲を超えて,第三債務者から弁済期日前の支払いを受け,又は弁済期日を延期し,若しくは減額,免除,放棄をしないこと。ただし,乙の事前の同意があった場合はこの限りではない。
(8) 本件譲渡債権について,第三債務者との間の契約書,債権証書その他本件譲渡債権の存在を示す書類の写しを乙に提出すること。
(9) 本件譲渡債権について,第三債務者との間で債権譲渡禁止特約を締結しないこと。ただし,乙の事前の同意があった場合,又は第三債務者との間で本件譲渡債権を甲が乙に譲渡することについての異議なき承諾を得られた場合はこの限りではない。
(10) 本件譲渡債権が発生するために必要な事業及び契約関係について,適法かつ適正に維持すること。ただし,乙の事前の同意があった場合はこの限りではない。
3. 甲は,前二項に定める事項について遵守することができないと判断したときは,直ちに乙に対して通知しなければならない。
4. 乙は,必要と認めるときは,本条に定める事項の遵守の有無について,甲の本店,支店又は事務所等に立ち入り,帳簿その他の書類の閲覧,謄写等の調査等を行うことができ,甲はこれに協力しなければならない。
5. 甲は,本条に基づき開示する資料の内容を,xxかつ正確なものとしなければならない。
【趣旨】
本条は、債務者である設定者(甲)及び譲渡債権の健全性確保のため、設定者(甲)が担保権者(乙)に対し遵守を確約する事項を規定している。
【解説】
表明・保証が融資実行、担保設定の時点等の一定の時点において、それらの前提事実を確認するものであるのに対し、遵守事項は、融資期間にわたり、設定者に対して一定の義務を課すこと
により、被担保債権の健全性を確保しようとするものである。
(第 1 項) 設定者に関する遵守事項
第 1 項は、設定者が借入人であることを前提に、債務者が健全な財務状況、事業サイクルを維持することを求めようとするものである。これらは、基本的には借入人としての遵守事項であり、担保権者と借入人との間の貸付契約あるいは特約書等に規定することもあり得る。他方、第三者が設定者になる場合には、これらの事項は基本的には借入人に遵守させるべき事項であるため、担保契約ではなく、貸付金融機関である担保権者と借入人との間の貸付契約あるいは特約書等に規定する必要がある。
(第 2 項) 譲渡債権に関する遵守事項
ABLにおいて対象となる譲渡債権が、設定者の事業サイクルにおいて発生する売掛債権等である場合、担保権者の優先弁済権を確保するために、一定の範囲で対象債権に対するコントロールを確保することが特に重要となる。そこで、ABLにおける債権譲渡担保契約においては、譲渡債権の管理及び取立て等について設定者に一定の義務を負担させることとなる(この義務を一般に担保価値維持義務という。)。
⮚ 第(1)号 許認可等の取得等に関する事項
譲渡債権の発生、帰属、権利行使等について行政機関の許認可等の取得その他の手続を要する場合に、かかる手続を履践することを規定している。
⮚ 第(2)号 公租公課の支払に関する事項
譲渡債権の発生、帰属、権利行使等について生じる公租公課の納付、費用の支払義務を課している。
⮚ 第(3)号 瑕疵の不作出に関する事項
譲渡債権について、その成立に瑕疵がある場合や、抗弁権が付着している場合には、譲渡債権を行使することができず、実質的には、価値が減少したり無価値なものとなってしまう。そのため、譲渡債権につき法律的な瑕疵を生じさせないことを規定している。
⮚ 第(4)号 譲渡債権の処分の禁止に関する事項
設定者により譲渡債権を第三者等に対して譲渡等の処分をされると、担保権者は、第二譲受人との間において二重譲渡による対抗関係に立つことになる。法的には第三者対抗要件を先に具備している担保権者が優先することになるものの、現実的に譲渡担保権の実行の妨げになってしまう可能性があることから、設定者によるこれらの行為の禁止を規定している。また、譲渡債権について手形が振り出されたり、電子記録債権の登録がなされて、それぞれの方法で決済がなされたりすると、当該譲渡債権が消滅してしまい、担保権者による当該譲渡債権の行使が不可能になることから、設定者がこれらの請求を行うことの禁止を規定している。
⮚ 第(5)号 手形に関する事項
譲渡債権について、設定者が第三債務者から約束手形や為替手形を受領し、当該手形により回収を行った場合、当該譲渡債権は消滅してしまうことから、担保権者による当該譲渡債権の行使が不可能になってしまう。そのため、担保権者の事前の同意がない限り、設定者は担保権者に対し、当該手形を直ちに取立委任のために交付することを規定している。
⮚ 第(6)号 譲渡債権の価値の維持に関する事項
担保権者としては設定者に対して自らが把握する担保価値を維持させる必要があるが、将来債権に係る集合債権譲渡担保権の設定により将来債権についても確定的に譲渡されるとの先述の判例の考え方を前提とし、担保権者がいかなる価値を把握しているかについては様々な議論があり得る。
⮚ 第(7)号 譲渡債権の管理に関する事項
譲渡債権が第 4 条第 2 項に定める「通常の営業の範囲」を超えて取立てをされる場合には、 設定者の事業サイクルの中での管理を逸脱するものであるから、これを禁止する必要がある。そこで、本号では、譲渡債権につき、通常の営業の範囲を超えて、第三債務者から弁済期日 前の支払いを受け、又は弁済期日を延期し、若しくは減額、免除、放棄を禁止している。ま た、個別のケースにおいて、「通常の営業の範囲」を超えた管理であっても、その時々にお ける設定者の状況によっては許容し得る場合があるから、個別に担保権者の同意を得て譲渡 債権の弁済期日前の支払い、弁済期日の延期、減額等を行うことができる規定としている。
⮚ 第(8)号 譲渡債権の証憑書類に関する事項
担保権者としては、本来、譲渡債権についての原因証書をすべからく入手すべきであるが、現実の取引実務においては、設定者と第三債務者との間で何ら契約書等を作成しないケースも多くみられるため、具体的な事情に応じて努力規定とすることも考えられる。
⮚ 第(9)号 譲渡禁止特約の設定の禁止
第 2 条及び第 5 条で解説した通り、譲渡禁止特約付債権については、原則として譲渡することはできず、xxx譲渡担保権の設定は無効である。そのため、譲渡債権に債権譲渡禁止特約をしてはならないことを規定している。
⮚ 第(10)号 事業・契約関係の維持
譲渡債権が、設定者の事業サイクルの中で発生及び回収されることにより、全体として一定の担保価値を維持するためには、設定者が当該譲渡債権に関する事業、契約関係を維持することが前提となるため、そのような維持義務を規定している。
(第 3 項)設定者の通知義務
設定者が第 1 項又は第 2 項に規定された事項を遵守できないと判断した場合には、担保権者に通知することとしている。それにより、担保権者と設定者との間で善後策等を積極的に話し合うなど、コミュニケーションを取ることが実務上期待される。なお、設定者が本条項に定める通知をしたとしても、担保権者との間で合意がなされないまま、第 1 項又は第 2 項に規定された事項が遵守されなかった場合には、契約違反となる。
(第 4 項)担保権者の調査権
特に譲渡債権に関する遵守事項が適切に守られているかという点は、実際に設定者の本店等に立ち入り、帳簿等の調査を実施しないと明らかにされないことも多いため、本店、支店又は事務所への立入りに関する規定を置いている。
(第 5 項)資料の正確性
開示された資料の内容が、虚偽や不正確な場合には、かかる資料に基づき適切な判断をすることはできない。そのため、開示する資料の内容を、xxかつ正確なものとする規定をしている。
【留意点:ボロイング・ベース型融資の場合について】
融資実行時の担保価値を維持するのではなく、「担保価値>融資残高という関係性」を維持するという考え方を取るため、必ずしも第 2 項 第(6)号に規定するように設定時の担保価値を常に維持するという必要があるわけではなく、融資残高に着目した担保価値維持義務を課すことになる 16。
こうした意味で、ボロイング・ベース型融資の場合、本契約とは担保価値維持義務の意味合いが異なるものとなる。
16 ボロイング・ベース型融資については、巻末の「参考資料」を参照のこと。
第11条 (権利主張等がなされた場合の通知)
甲は,乙に対し,以下の事由が生じたときは,直ちにその旨を通知しなければならない。
(1) 本件譲渡債権につき第三者が帰属その他本件譲渡担保権の行使を阻害するような権利主張をしたとき。
(2) 本件譲渡債権につき第三者が仮差押,仮処分,強制執行,滞納処分による差押えを行ったとき。
(3) 本件譲渡債権につき第三債務者の信用悪化その他原因の如何を問わず著しく不良債権化し,又は不良債権化するおそれがあるとき。
(4) 本件譲渡債権が発生するために必要な事業又は契約関係について,事業内容,事業規模,契約条件等に著しい変更が生じるおそれ又は無効,取消その他の終了のおそれがあるとき。
(5) 甲が本契約及び本契約に関連する合意書,覚書等の各条項に違反する行為を行ったとき。
(6) 第 5 条に定める表明及び保証のうち,いずれかがxx又は正確でないことが判明したとき。
(7) 甲が負担する債務のいずれかについて期限の利益喪失事由が生じたとき。
【趣旨】
本条は、譲渡債権に対する第三者の権利主張や保全処分等がなされた場合や、期限の利益喪失事由が生じたなどの場合に、担保権者(乙)が当該事象を速やかに把握するため、設定者(甲)から担保権者(乙)に対し、その旨を通知する義務を規定している。
【解説】
ABLにおいては、担保権者が設定者の売掛債権を担保として把握し、そのモニタリングを通じて設定者の事業内容を把握、理解することで、設定者としても、経営内容を把握した担保権者から適切なサービス、アドバイスを受けることが期待されている(リレーションバンキングの機能)。他方で、ABLにおける債権譲渡担保も被担保債権の保全のための担保としての機能を有するから、譲渡債権が侵害されるなど、債権保全上問題が生じた場合には、担保権者はそれに対応した手段を講じる前提として、当該事象を把握する必要がある。
そこで、本契約では、譲渡債権に対する第三者の権利主張や、保全処分等がなされた場合、期限の利益喪失事由が生じたなどの場合に、設定者に担保権者に対する通知義務を課している。
第12条 (質問に対する回答)
1. 乙は,甲に対し,本件譲渡債権及び第 1 条に定める被担保債権の管理上必要と認める事項につき適宜の時期に質問をすることができる。
2. 前項の質問がなされたときは,甲は,乙に対し,速やかに誠実かつ正確な回答を行わなければならない。
【趣旨】
xxは、担保権者(乙)が、譲渡債権及び設定者(甲)の状況を把握するため、設定者(甲)に対し、任意の時期に質問できる権利を規定している。
【解説】
担保権者が、譲渡債権の状況、設定者の状況を把握するために、本契約では、資料提出、実査、面談等の機会を設けているが、提出された資料や実査、面談の状況を踏まえ、譲渡債権や債務者の信用状況について疑問がある場合には、これを解消し得るべく、任意の時期に質問できる権利を規定している。また、担保権者の質問に対しては、速やかに誠実かつ正確な回答を行うものとしている。
第13条 (増担保)
1. 乙は,甲に対し,以下の事由が生じたと乙が判断したときは,担保の目的となる資産を明示して,増担保を提供するよう求めることができる。
(1) 本件譲渡債権の価値が不良債権化等により,設定時に比して著しく下回り,合理的期間内に回復する見込みがないとき。
(2) 甲が本契約の各条項に違反したとき。
(3) 甲が期限の利益を喪失したとき。
(4) その他本件被担保債権を保全するために相当の事由が生じたとき。
2. 甲は,乙が前項の定めに基づき,増担保の提供を求めたときは,これに応じなければならない。ただし,増担保の提供を拒む合理的な理由があるときはこの限りではない。
3. 前二項の定めに基づき,増担保の提供がなされるときは,甲と乙は,速やかに担保権設定契約の締結,対抗要件具備行為その他担保権の有効な設定に必要な行為を行うものとする。
【趣旨】
本条は、担保価値を維持するため、債権保全の必要が生じた場合に、担保権者(乙)が設定者(甲)に対して増担保を求めることができることを規定している。
【解説】
ABLにおける債権担保においても、担保権者は譲渡債権について一定の担保価値を評価して、それを前提に貸付を行うのが通常である。そこで、担保権者としては、譲渡債権の価値が減少し た場合や、設定者が本契約の条項に違反したことにより担保価値が減少するような場合には、追 加の担保(増担保)提供を求める必要がある。
この点、実務上は、担保権者は債権保全の必要が生じた場合に増担保を求めることができる、とのみ規定し、表面上、広く債権保全の必要がある場合に担保権者の裁量で増担保請求が認められるとも捉えられ得る条項を置くこともある。しかし、本契約では、増担保請求できる事由として、被担保債権を保全するために相当の事由が生じたとき(第 1 項第(4)号)を規定しつつも、譲渡債権が、不良債権化等により、設定時に比して著しく下回り、合理的期間内に回復する見込みがないとき(第 1 項第(1)号)、本契約の違反があったとき(第 1 項第(2)号)、期限の利益が喪
失されたとき(第 1 項第(3)号)との限定的な事由を受けて、第(4)号を規定することで、同号についても第(1)号乃至第(3)号と同等の債権保全の必要がある場合に限定されることを示唆している。
また、増担保の請求が担保権者の判断においてなされることと規定している関係で、設定者に反論の機会を与えるべく、増担保の提供を拒む合理的な理由がある場合にはこれを拒むことができることとしている。
担保権者が増担保を請求できる場合、本契約とは別に担保契約を締結し、対抗要件を具備する必要があるから、担保権者及び設定者がこれらを行うことを規定している(第 3 項)。
【留意点:第三者保証による増担保を想定する場合について】
増担保の提供にあたっては、第三者の保証(人的担保)を求めることもあるから、その場合には、物上担保のみならず、保証(人的担保)をも求めることができることをより明確に規定しておくのがよい。
【留意点:ボロイング・ベース型融資の場合について】
担保適格評価額が融資元本残高を下回る場合、増担保は期限前返済との選択又は組み合わせで対応される 17。
17 ボロイング・ベース型融資については、巻末の「参考資料」を参照のこと。
第14条 (期限の利益の喪失)
1. 甲が本契約の各条項に違反したときは,乙は,甲に対し,相当な期間を定めて,合理的と認められる是正措置を講じるよう要請することができる。
2. 前項に定める乙による是正措置の要請に甲が従わないとき,又は是正措置を講じることが不可能若しくは著しく困難であることが明らかなときは,乙は,甲乙間の平成●年●月●日付金銭消費貸借契約証書第●条●項に定める期限の利益喪失事由とみなすものとし,xはこれに何ら異議を述べない。
3. 前二項に定めるほか,本件被担保債権の期限の利益の喪失については,甲乙間の平成●年●月
●日付銀行取引約定書及び貸付契約により定めるところによるものとする。
【趣旨】
xxは、譲渡担保権の実行の前提として、設定者(甲)が本契約の条項に違反した場合の設定者(甲)に対する是正措置の要請、及び期限の利益の喪失について規定している。
【解説】
設定者が、本契約の条項に違反した場合には、担保権者としては、設定者の通常の営業を許容する段階(通常営業段階)から、被担保債権を保全する段階(保全段階)へと移行する必要が生じる場合がある。この場合、そのような違反をもって直ちに期限の利益喪失事由とすることも考えられるし、実務上もそのような例があるが、それほど重大ではない違反が生じる場合も想定されることから、本契約においては、設定者に対して是正措置による違反状態の解消の機会を与えている。すなわち、設定者による本契約の条項への違反が生じたときには、担保権者は、相当な期間を定めて、合理的と認められる是正措置 18を講じることを要請することができ、それに従わないときには貸付契約における期限の利益喪失事由とみなすこととし 19、設定者に是正の機会を与えている。
もっとも、是正が不可能であり、又は著しく困難である場合には、このような是正の機会を与える意味がないから、直ちに期限の利益喪失事由 20に該当することとしている。このような契約違反を期限の利益喪失に結び付ける仕組みは、第 15 条以下の実行のプロセスと関連して金融機関個別の制度設計の考え方によるところであり、本契約はその一例を示すものである。
本契約で定める第 14 条及び第 15 条以下の実行のプロセスを下図に示す。
18 ここでいう「相当な期間」、「合理的と認められる是正措置」とは、違反を是正するために最小限必要な期間と違反状態を解消する適切な措置を意図しており、違反の内容により必要な期間、是正措置の内容は異なり得る。担保権者としては、期限の利益喪失事由に該当するための手続をとったことを明確にするため、書面等において期間、是正措置の内容を具体的に記載するのが望ましい。なお、違反を是正することが不可能ではないとしても、是正のために長期間を要するような場合には、是正措置を講じることが著しく困難であるとして、直ちに期限の利益喪失事由に該当する場合もあることに留意する必要がある。
19 個別の事例においては、利率上昇等の段階的なサンクションを設けることもあり得る。
20 ここでいう「期限の利益喪失事由」とは、個々の事案において請求失期事由とすることもあり得るが、一度は是正の機会を与えたにもかかわらず是正がなされなかった場合又は是正の機会を与えることが不適当な場合であるから、是正の機会を与える請求失期事由とするのではなく、当然失期事由とすることが多いと思われる。
※当然失期とするか請求失期とするかは、金融機関個別の制度設計による。
図 本契約で定める実行のプロセス
【留意点:「是正措置を講じることが不可能若しくは著しく困難であること」の判断について】本条第 2 項に規定する「是正措置を講じることが不可能若しくは著しく困難であることが明 らかなとき」とは、担保価値の維持義務に対する重大な違反(例えば、設定者が行方不明となった場合等、是正措置への協力が得られないことが明らかな場合等)は、具体的な場面においては、是正措置を求めることが著しく困難な場合に該当するとみなされる場合があり得ることに留意する必要がある。このようなケースについて担保権者による恣意的な判断がなされるべ
きでなく、慎重に検討される必要があろう。
第15条 (取立権限の消滅)
1. 本件被担保債権について,弁済期が経過したとき,又は甲が期限の利益を喪失したときは,それと同時に,何らの通知を要せず,第 4 条第 2 項に基づく甲の本件譲渡債権についての取立権限は消滅するものとする。
2. 甲は,前項の定めにより本件譲渡債権についての取立権限が消滅したときは,本件譲渡債権について,第三債務者から支払いを受け,又は弁済期日を延期し,若しくは減額,免除,放棄等の一切の処分行為をしてはならない。
3. 甲は,第 1 項の定めにより本件譲渡債権の取立権限を失ったにもかかわらず,本件譲渡債権について,第三債務者から支払いを受けたときは,乙に対し,直ちに当該取立金の全額を交付しなければならない。
【趣旨】
xxは、譲渡担保権の実行プロセスの一環として、被担保債権について弁済期が経過したとき、又は期限の利益が喪失されたときには、譲渡債権についての取立権限が消滅することを規定している。
【解説】
(第 1 項)
被担保債権について弁済期が経過したとき、又は期限の利益が喪失されたときには、譲渡債権についての取立権限が消滅することを規定している。
(第 2 項)
設定者は、取立権限が消滅した結果として、第三債務者から譲渡債権にかかる弁済の受領及びその他譲渡債権を毀損する可能性のある行為、すなわち一切の処分行為が禁止されることを規定している。
(第 3 項)
設定者に取立権限がないにも関わらず、第三債務者から弁済を受領してしまうこともあり得る。この場合に備え、設定者は当該取立金を担保権者に全額交付することを規定している。
【留意点:債権譲渡担保の効力が及ぶ範囲等について】
本条では、弁済期の経過又は期限の利益喪失と同時に当然に設定者の取立権限が消滅することとしているが、取立権限の消滅後に発生する譲渡債権に譲渡担保の効力が及ぶか、また、その担保価値をどのように評価するか、といった問題について注意が必要である。
第16条 (資料の提出)
1. 乙は,xが前条の定めにより本件譲渡債権についての取立権限を失ったときは,直ちに第 8 条に定める実査を行うことができるものとし,甲はこれに協力しなければならない。
2. xは,前条の定めにより本件譲渡債権の取立権限を失ったときは,乙に対し,直ちに取立権限消滅時点及びそれ以降の乙が定める時点における本件譲渡債権の一覧表を別途乙が定める様式により提出しなければならない。
3. 乙は,甲に対し,必要に応じ,本件譲渡債権の取立権限消滅時点の直近●ヶ月間の本件譲渡債権についての内容,支払時期,回収状況の推移等について記載した資料の提出を求めることができる。
4. 甲につき法的整理手続の開始決定があったとき,又は私的整理手続が開始されたときは,甲又はその管財人は,乙に対し,かかる開始決定時点(私的整理手続の場合は当該手続において基準日とされる時点,又は手続開始日時点)における本件譲渡債権の一覧表を別途乙が定める様式により提出しなければならない。
5. 甲は,本条に基づき開示する資料の内容を,xxかつ正確なものとしなければならない。
【趣旨】
本条は、設定者(甲)の取立権限喪失後に譲渡債権の実態を把握するため、設定者(x)が担保権者(乙)に対して譲渡債権に関する各種資料を提出することを規定している。
【解説】
(第 1 項)
保全段階において担保権者は担保権の実行に備えて譲渡債権の実態を把握する必要がある。そこで、直ちに実査を行うことができるものとしている。
(第 2 項・第 3 項)
第 15 条に基づき取立権限が消滅した時点以降の譲渡債権の一覧(第 2 項)及び取立権限が消
滅した時点の直前の一定期間における回収状況等を含めた資料(第 3 項)の提出を設定者に求めることができる旨規定している。
(第 4 項)
管財人に対して強制力を持つか議論があろうが、別除権の額等を確定するために必要となる資料であることから提出を促す趣旨で規定している。
【留意点:譲渡債権価値の正確な把握の重要性について】
私的整理を含む倒産手続においては、譲渡債権の残高等が担保権者の別除権の額や更生担保権の額を定める重要な資料となるので、正確性は特に吟味される必要がある。
第17条 (乙による本件譲渡債権の取立て)
1. 乙は,第 15 条の定めにより甲の本件譲渡債権についての取立権限が消滅したときは,自ら適当と認める方法,時期,価格,順序等により,本件譲渡債権を取り立て,若しくは第三者に売却することができる。
2. 前項に定める取立て又は売却がなされたときは,乙は,その取立金若しくは売却代金から公租公課その他の諸経費を差し引いた残額を,法定の順序にかかわらず,自ら適当と認める順序,方法により本件被担保債権に対応する債務の弁済の全部又は一部に充当することができるものとする。
3. 前項に定める債務の弁済充当後に残余金を生じたときは,乙は,甲に対し,これを清算金として返還するものとする。ただし,当該清算金には利息又は損害金を付さないものとする。
【趣旨】
xxは、譲渡担保権の実行として、弁済期の経過又は期限の利益喪失後において、担保権者
(乙)が任意のタイミング、方法、価格等により取立て又は売却して、取立金又は売却代金から費用等を控除した金銭を被担保債権の弁済に、任意の順序、方法で充当できることを規定している。
【解説】
本条は、譲渡債権の取立て・譲渡、被担保債権への充当に関する譲渡担保権の実行の中心となる規定である。なお、譲渡債権の取立て、売却及び被担保債権への充当後残額がある場合には、設定者に清算金として返還されるべきものであるから、第 2 項でその旨規定している。
第18条 (甲による本件譲渡債権の取立て)
1. 第 15 条の定めにかかわらず,乙は,甲に対して通知をすることにより,乙が認めた時期,方法その他の条件の範囲内で,甲が本件譲渡債権を取り立て,自己の運転資金として使用することを認めることができる。
2. 前項に基づき甲による本件譲渡債権の取立てが認められたときは,甲は取り立てた本件譲渡債権の明細を適時に記録し,乙の求めがあったときには,速やかにこれを乙に交付しなければならない。
3. 甲は,本条に基づき開示する資料の内容を,xxかつ正確なものとしなければならない。
【趣旨】
本条は、保全段階においても設定者(甲)に一定の範囲で営業を継続させるために、設定者
(甲)による譲渡債権の取立て、自己の運転資金としての使用を認める場合がある旨等を規定している。
【解説】
(第 1 項)
第 15 条の規定により、弁済期の経過又は期限の利益喪失の場合には、設定者の譲渡債権に対する取立権限が喪失される。保全段階に至っては、設定者に通常の営業の範囲での譲渡債権の取立てを許容する必要性が低く、他方、担保権者としては担保権の実行に備えて譲渡債権をコントロールできる必要があることによる。もっとも、保全段階に入った場合においても、担保権者として、設定者に一定の範囲で営業を継続させることが、担保権を実行して回収を図るよりも回収可能性を高めることになると考える場合には、そのような選択肢を排除する必要はないとも思われる。そこで、担保権者がその裁量で、設定者に担保権者が認めた範囲で譲渡債権を取り立て、自己の運転資金として使用することを認めることができるとの規定を置いている。
(第 2 項)
担保権者としては、第 1 項の通知において認めた範囲での取立てが行われていることを確認する必要があるから、取り立てた譲渡債権の明細の記録及びその担保権者への交付義務を規定している。
【留意点:譲渡債権の価値評価方法の規定について】
法的整理手続が開始された場合の法的拘束力について議論はあろうが、譲渡債権の価値をどの ように評価するかは別除権協定等で重要なポイントとなるため、担保権者側の交渉ツールとして、設定者の通常の営業時における譲渡価格等を基準とする趣旨の規定等を置くこともある。
第19条 (地位の譲渡等)
甲は,乙による事前の書面による承諾がある場合を除き,本契約に基づく地位及び権利義務の全部又は一部につき,譲渡,質入その他の処分をしてはならない。
第20条 (守秘義務)
1. 甲と乙は,相手方の事前の書面による承諾なしに,本契約に定める事項を履践するにあたり知り得た営業上又は技術上その他一切の情報(以下「機密情報」という。)を第三者に開示又は漏洩してはならない。ただし,法令,規則,行政庁その他公的機関により開示の義務が課される場合及び本契約に基づき乙が実査,面談業務を委託する第三者に対し,機密保持契約を締結したうえで開示する場合は,この限りではない。
2. 次の各号に該当する情報については,機密情報に該当しないものとする。
(1) 開示の時点ですでに保有しているもの 。
(2) 開示の時点で公知のもの及び開示を受けた後に公知となったもの。
(3) 開示を受けた後に独自に開発したもの 。
(4) 機密保持義務を負うことなく第三者から適法に入手したもの。
(5) その他甲乙協議の上,特に指定したもの。
3. 甲と乙は,相手方から開示された機密情報を本契約に定める事項以外の目的で使用してはならない。
4. 甲と乙は,善良なる管理者の注意をもって前項の機密情報を厳重に管理するとともに,本契約に定める事項に従事する者に対して,本条の機密保持義務と同等の機密保持義務を負わせるものとする。
第21条 (通知)
1. 甲と乙は,本契約に定める通知,報告等の担当者を次のとおり定める。甲
乙
2. 甲又は乙の相手方に対する通知,報告等は,当該通知が相手方の前項の担当者に到達した時点をもってその効力を生ずるものとする。ただし,相手方の責に帰すべき事由により当該通知が延着し,又は到達しなかった場合,当該通知は,当該通知が通常到達すべき時に到達したものとみなす。
3. 甲と乙は,第 1 項に定める通知,報告等の担当者に変更がある場合,速やかに相手方に書面により報告する。
第22条 (費用)
本契約書の作成,変更,修正に係る全ての費用及び本契約に基づく本件譲渡担保権の設定,対抗要件具備,管理に係る費用,本件譲渡担保権の実行に係る費用その他本契約に基づく取引に係る費用は,法令が適法とする範囲内において,甲が負担する。
【趣旨】
本条は、設定者(甲)の費用負担について規定している。
【解説】
本契約書の作成、変更及び修正に係る費用、譲渡担保権の設定及び対抗要件具備、譲渡債権の管理に係る費用、譲渡担保権の実行に係る費用等については、設定者負担とすることが多く、利息制限法等の法令上許容される範囲では、設定者負担として規定している。
【留意点:個別事情に応じた本条の任意性について】
金融機関の個別の制度設計によっては、これと異なる合意をすることが排除されるものではない。
第23条 (準拠法)
本契約は日本法に準拠し,かつこれに従って解釈される。
第24条 (管轄裁判所)
本契約について紛争が生じたときは,●●地方裁判所をもって第xxの専属管轄裁判所とする。
第25条 (xxx)
本契約に定めのない事項又は本契約の解釈に関し当事者に疑義が生じた場合には,当事者双方誠意をもって協議の上,これを決する。
第26条 (xx証書の作成)
甲と乙は,本契約に記載された事項につき,甲の費用にてxx証書を作成することに合意する。
別 紙
譲渡債権一覧
【第三債務者特定の譲渡債権一覧の例】
債権の種別 | 売掛債権(債権種類コード A201) |
第三債務者 | 別表に記載する第三債務者 |
債権発生始期 | 平成【 】年【 】月【 】日 |
債権発生終期 | 平成【 】年【 】月【 】日 |
債権発生原因 (192 文字以内) | 【設定者と第三債務者との間の●●に関する売買取引に基づき,譲渡日である平成【 】年【 】月【 】日において発生済みの売掛債権及び平成 【 】年【 】月【 】日から平成【 】年【 】月【 】日までに将来 発生する売掛債権並びにこれらに付帯する一切の権利】 |
備考 (407 文字以内) |
【第三債務者不特定の譲渡債権一覧の例】
債権の種別 | 売掛債権(債権種類コード A201) | |||
債権発生始期 | 平成【 | 】年【 | 】月【 | 】日 |
債権発生終期 | 平成【 | 】年【 | 】月【 | 】日 |
債権発生原因 (192 文字以内) | 設定者と第三債務者との間の●●に関する売買取引にて平成【 】年【 】 月【 】日から平成【 】年【 】月【 】日までに将来発生する売掛債権並びにこれらに付帯する一切の権利 | |||
備考 (407 文字以内) |
【趣旨】
担保債権一覧の表示様式を提示している。
【解説】
第 2 条のとおり、譲渡債権の範囲を特定する要素のうち、債権の①当事者(第三債務者)、②債権の発生原因、③債権の種類及び④債権発生期間(債権発生始期及び終期)について個々の案件の特性に応じて記載する。
別 表
第三債務者の表示
通番 | 第三債務者名 | 【本店所在地】/【住所】 |
1 | 【 】 | 【 】 |
2 | 【 】 | 【 】 |
【趣旨】
第三債務者の表示様式を提示している。
【解説】
第三債務者特定の場合には、第三債務者が複数存在することが多いことから、第三債務者につき別表に記載することとしている。
参考資料
ボロイング・ベース型融資について
ただし、一般的には、ボロイング・ベース型融資を実施するには、貸付金融機関に、相応のノウハウや事務コストが必要であることに加え、借入人側にも十分な理解と協力体制が求められるため、必ずしも貸出実績が豊富にあるわけではない。
しかし、ボロイング・ベース型融資には、以下のメリット(①~③)があると考えられており、今後、この融資形態を採用する金融機関が増えることも見込まれる。
【メリット】
① 貸付金融機関は、借入人の事業サイクルによって生じる売掛債権・在庫の変動等を柔軟に許容することができる。すなわち、貸付金融機関は、借入人が資金を必要としていないとき(事業利益、季節資金回収、資産売却等によって融資返済を進めているなど)において、借入人の本来の事業サイクルに合わない在庫補充義務等を課すといったことが必要ない。
② 貸付金融機関は、自らの担保価値に対する考え方を反映した貸出基準額(ボロイング・ベース)を、借入人と共有し、借入人とのコミュニケーションツールとして機能させることができる。借入人にとっても、貸付金融機関からのモニタリングを意識した事業運営を行いやすくなる。
③ 貸付金融機関は、貸出基準額(ボロイング・ベース)の変動を通して、借入人の事業が、正常時からどの程度乖離しているかを把握することが可能となり、モニタリングや有事の際の意思決定において、定量面からの判断材料となる。
そこで、参考として、以下にボロイング・ベース型融資の一般的な運用方法について、解説を記載する 22。
【ボロイング・ベース型融資の一般的な運用方法】
① 担保評価を行い、貸出基準額(ボロイング・ベース)を定める
貸付金融機関と借入人の間で、担保の種類(売掛債権や在庫等)毎に評価を行い、担保として適格ではないものを差し引き、残った金額を適格担保とする。次に、担保の種類毎に異なる一定の掛目(アドバンス・レート)を定め、適格担保にこれを乗じた金額を貸出基準額(ボロイング・ベース)として合意する。
その際、貸出基準額(ボロイング・ベース)等に関する合意書類が作成される。これには、適格担保の考え方、金額の確定方法やその基準日(頻度)、貸出基準額(ボロイング・ベース)の算定方法、担保適格評価額が融資元本残高を下回った場合の措置 23、手数料等について、貸付金
21 日本公庫総研レポート No.2008-3「米国における動産・債権担保融資(Asset Based Lending : ABL)の機能と実態」等。
22 冒頭の「使用上の留意点」に記載したとおり、本契約はボロイング・ベース型融資を前提としていない。仮に、ボロイング・ベース型融資を前提とした場合は、被担保債権の表示(第 1 条)、資料の提出(第 7 条)、遵守事項(第 10 条)、増担保(第 13 条)の条文に変更等の影響が想定されることから、本解説書で、各該当箇所にこれに関する解説を記載している。
23 担保適格評価額が融資元本残高を下回った場合の措置に関する合意事項は、遵守事項(第 10 条)、増担保
x機関と借入人の間で合意した内容が記載される。
担保適格の範囲を判断するに当たり、専門性が要求されるときは、専門業者が活用されることがある。専門業者は、在庫等の調査を行い、所有権留保が付された在庫等を適格担保から除外したり、担保の種類に応じ、換価時のシナリオを勘案したりして、適格担保の金額の確定をサポートする。
また、アドバンス・レートを定めるには、評価時点と換価時点の時間差や当初予期できない事象に起因する換価額の低下に備え、一定のリスクを見込むことが必要である。
② ボロイング・ベースをもとに、融資の実行・返済及び期中管理を行う
貸付金融機関は、ボロイング・ベースを上限にして最終的な融資額を決定するとともに、譲渡登記等を行い担保について第三者への対抗要件を具備し、借入人と契約を締結して融資を実行する。原則として、借入人は、ボロイング・ベースの枠内で自由に融資と返済を行うことができる
(リボルビング型)。
融資実行後は、貸出基準額(ボロイング・ベース)等に関する合意書類に基づき、借入人は一定期間毎(毎月が一般的)に貸付金融機関に対し、売掛債権、在庫等の担保の残高、適格/不適格等の数値等のデータを提出する 24。
貸付金融機関は、借入人による報告にもとづき、適格担保の残高と融資残高との関係やバラン スをチェックし、担保価値に見合わない過大なリスクを負わないよう調整することが可能となる。さらに、売掛債権や在庫等の残高の異常な動きから、借入人の事業の異常をいち早く把握するこ とも期待できる。
売掛債権や在庫の残高は日々変動するため、借入人自身から現状を報告してもらうこととなるが、期中管理においては、貸付金融機関が定期的に借入人の実地調査に赴き、借入人からの報告内容が正しいか否か確認する必要がある。
③ 回収・処分
何らかの事由により保全不足やデフォルトが発生した場合には、他の融資形態と同様、貸付金の保全確保や回収を図ることになる。
(第 13 条)の条文と整合させる。
24 資料の提出(第 7 条)の解説に記載したとおり、債務者自身が了承した貸出基準額(ボロイング・ベース)・期限前返済額等を示す資料を提出することもある。