静岡銀行(頭取 八木 稔)では、SDGs への取り組みの一環として、株式会社明光電化工業所(社長 吉牟禮勝人)と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(※)」契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
2024.3.29
㈱xx電化工業所と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の契約を締結
静岡銀行(xx xx x)では、SDGs への取り組みの一環として、株式会社xx電化工業所(社長 xxxxx)と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(※)」契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
※企業活動が環境・社会・経済のいずれかの側面において与えるインパクトを包括的に分析し、特定されたポジティブインパクトの向上とネガティブインパクトの低減に向けた取り組みを支援する融資
1.契約日 3 月 29 日(金)
2.融資金額 2 億円
3.資金使途 設備資金
4.㈱xx電化工業所の取り組みについて(詳細は「評価書」をご参照ください)
〇同社は、電気めっき事業者として、地域の自動車部品メーカーに対して、防錆や防食を目的とした亜鉛めっきや亜鉛₋ニッケルめっきなどを取り扱うとともに、大量生産に特化した自動化および業務標準化を進め、高品質なめっき処理を迅速かつ安価に提供しています。
今回、同社の企業活動が社会・環境・経済に与えるインパクトを、以下のとおり評価しました。
環境面 | ・電気めっき処理による母材の耐食性向上(主に防錆や防食などを目的としためっき処理など) ・気候変動対策(生産ラインの刷新に伴う省エネ設備への切り替えなど) ・設備面と管理面から環境汚染リスク低減(PRTR法などの環境関連法規等の遵守) ・廃棄物の適切な処理、資源の有効活用(マニフェスト確認の徹底、汚泥の減容化、産業廃棄物処理業者への適正な処理委託など) |
|
社会面 | ・従業員の成長促進(徹底したOJT、スキルマップによる従業員一人ひとりの力量管理など) ・多様性の推進(継続的な外国人技能実習生の受け入れなど) ・3Kの払拭、安全・安心な職場づくり(労働災害ゼロ、労働安全衛生に関する社員ミーティングの実施、5S活動、健康診断の徹底など) |
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経済 面 | ・自動車産業のサプライチェーンを支える高品質と低コスト化の実現(積極的な設備投資による全自動化および業務標準化、ISO9001の取得、上流メーカーによる調査、製品全般に関する高度な検査体制、サプライヤー等との技術連携) |
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5.その他
(1)インパクト評価/国連環境計画金融イニシアティブが提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」およびポジティブインパクトファイナンスタスクフォースが提唱した「インパクトファイナンスの基本的考え方」に基づき、一般財団法人静岡経済研究所が㈱日本格付研究所の協力を得て評価を実施
(2)モニタリング体制/一般財団法人静岡経済研究所とともに「ポジティブ・インパクト金融原則」に従い構築した内部管理体制のもと、インパクト評価で特定した KPI について、融資期間中における借入人のインパクトパフォーマンスのモニタリングを実施
【ご参考】㈱xx電化工業所の概要
所 在 地 | xxxxxxx00-00 | x 業 | 1965 年 |
従 業 員 | 33 名 | 売 上 高 | 596 百万円(2023 年 9 月期) |
ポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書
評価対象企業:株式会社xx電化工業所
2024 年 3 月 29 日
一般財団法人 静岡経済研究所
目 次
3-1 UNEP FI のコーポレートインパクト分析ツールを用いた分析 17
3-2 個別要因を加味したインパクトエリア/トピックの特定 17
3-3 特定されたインパクトエリア/トピックとサステナビリティ活動の関連性 18
静岡経済研究所は、静岡銀行が、株式会社xx電化工業所(以下、xx電化工業所)に対してポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施するに当たって、xx電化工業所の企業活動が、環境・社会・経済に及ぼすインパクト(ポジティブな影響およびネガティブな影響)を分析・評価しました。
分析・評価に当たっては、株式会社日本格付研究所の協力を得て、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」および ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に則った上で、中小企業※1に対するファイナンスに適用しています。
※1 IFC(国際金融公社)または中小企業基本法の定義する中小企業、会社法の定義する大会社以外の企業
xx電化工業所は 1965 年創業の電気めっき事業者である。顧客の大半が地場の自動車部品メーカーであるため、主に防錆や防食を目的とした亜鉛めっきや亜鉛-ニッケルめっきなどを取り扱っている。また、大量生産向けに特化して自動化および業務標準化を進め、高品質なめっき処理を迅速かつ安価に提供している。
同社の企業活動をみると、環境面においては、電気めっき処理による母材の耐食性向上が社会全体における資源効率の向上や廃棄物の削減に貢献している。加えて、気候変動対策や廃棄物の適切な処理、資源の有効活用、設備面と管理面から環境汚染リスク低減など、事業活動から生じるさまざまな環境負荷の軽減に取り組んでいる。社会面においては、徹底した OJT を軸に従業員の成長促進に注力している。さらに、多様性を推進しているほか、3K の払拭、安全・安心な職場づくりにも余念がない。経済面においては、積極的な設備投資などにより、高品質と低コスト化を実現し、自動車産業のサプライチェーンを支えている。
このようなサステナビリティ活動等を分析した結果、ポジティブ面では「教育」、「雇用」、「賃金」、
「零細・中小企業の繁栄」、「資源強度」、「廃棄物」が、ネガティブ面では、「健康および安全性」、
「社会的保護」、「ジェンダー平等」、「民族・人種平等」、「気候の安定性」、「水域」、「大気」、「資源強度」、「廃棄物」がインパクトエリア/トピックとして特定され、そのうち環境・社会・経済に対して一定の影響が想定され、xx電化工業所の持続可能性を高める 8 つの活動について、KPI が設定された。
<今回実施予定の「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の概要>
金額 | 200,000,000 円 |
資金使途 | 設備資金 |
モニタリング期間 | 10 年 0 ヵ月 |
企業名 | 株式会社xx電化工業所 |
本社所在地 | xxxxxxxxxx 00-00 |
xx所 | ・本社工場:xxxxxxxxxx 00-00 xxx 1,800 ㎡、工場面積 1,200 ㎡ ・第2工場:静岡県駿東xxx町xx 498-10 敷地面 1,800 ㎡、工場面積 1,600 ㎡ |
関連会社 | ・株式会社炭xxxxネジ:xxxxxxxxx 000 ・キンヤ金物株式会社 :xxxxxxxxxxxx 00 |
従業員数 | 33 名(男性 26 名、女性 7 名) |
資本金 | 1,600 万円 |
業種 | 電気めっき業 |
保有設備 | <本社工場> ・自動亜鉛めっきバレルライン 2 ライン ・自動アルマイトライン 1 ライン ・自動銅めっきバレルライン 1 ライン ・自動ニッケルめっきバレルライン 1 ライン ・自動スズめっきライン 1 ライン <第2工場> ・自動亜鉛めっきバレルライン 1 ライン ・自動亜鉛-ニッケルめっきバレルライン 1 ライン ・自動コンポジット(亜鉛・亜鉛-ニッケル・ニッケル)静止ライン 1 ライン |
主要取引先 | <仕入先> ・株式会社コーテック(静岡県xx市) ・株式会社イセヤマ(静岡県静岡市) ・株式会社シブヤ電機(xxxxx区) <販売先> ・株式会社xx製作所(静岡県沼津市) ・xxxx株式会社(静岡県裾野市) ・東海部品工業株式会社(静岡県沼津市) ・株式会社イズラシ(静岡県沼津市) ・株式会社xxxx製作所(静岡県沼津市) ・株式会社xx製作所(静岡県沼津市) ・イワタボルト株式会社(静岡県富士市) ・xxxx工業株式会社(静岡xxx町) |
認証 | ・エコアクション 21 ・ISO9001 |
沿革 | 1965 年 創業 2016 年 第 2 工場取得 2017 年 エコアクション 21 認証登録 2018 年 第 2 工場増築 2023 年 ISO9001 取得 |
<第 2 工場 自動亜鉛めっきバレルライン>
資料:xx電化工業所
1. 事業概要
1-1 事業概況
xx電化工業所は、1965 年創業の電気めっき事業者である。めっきとは、製品(母材)の表面に金属の薄膜をつくる表面処理技術を指す。加工法としては、電気めっきと溶融めっきが主流で あるが、無電解めっきや真空めっきなどもある。同社が営む電気めっき処理は、電気分解による析出を利用して金属の薄膜をつくる。母材を陰極(-極)、めっきしたい金属を陽極(+極)として、両極間を直流電流で接続して電圧を与えることで、陰極で還元反応が起こり、金属が析出してめっき膜を形成する。電気めっきは、比較的安価に加工できるため、産業機械や輸送用機械、xx用電気機械や日用品雑貨など、あらゆる分野で活用されている。
<代表的な工程フロー>
前作業
前処理
電気めっき
後処理
後作業
•治具取り付け
•外観検査
•脱脂
•酸洗い
•電解洗浄
•酸活性化
•中和
•クロメート処理
•取り外し
•ベーキング処理
資料:xx電化工業所
電気めっきの用途としては、装飾や防錆、耐摩耗、電導目的が挙げられ、各用途に応じてさまざまな金属が使用される。同社は、顧客の大半が自動車部品メーカーであるため、自動車部品用ボルトやナットなどに対して、防錆や防食を目的としためっき処理を取り扱う。実際、売上のおよそ 6 割を占めるのが亜鉛めっきである。亜鉛めっきは、主に鉄の錆止めを目的とする。代表的な防錆めっき法であるが、亜鉛自体が腐食しやすいため、通常、後処理としてクロメート処理を行い、亜鉛の腐 食を防ぐことでさらに耐食性を向上させる。同社は、自動亜鉛めっきバレルラインを本社工場に 2 ラインと第 2 工場に 1 ライン、自動コンポジット静止めっきラインを第 2 工場に 1 ライン保有する。次いで、売上の 3 割弱が亜鉛-ニッケル合金めっきである。耐食・耐熱性能が亜鉛めっきの数倍で、硬度も亜鉛めっきの約 4 倍あることから、過酷な環境下で使用される母材に対して用いられる。同社では、特に耐食・耐熱性能に優れる亜鉛-高ニッケル合金めっきを取り扱い、第 2 工場の取得とともに受注が拡大した。そして、売上の残り 1 割程度を、ニッケルめっきやスズめっき、銅めっき、アルマイト処理が占める。
なお、第 2 工場の自動亜鉛めっきバレルラインおよび自動亜鉛-ニッケルめっきバレルラインは、トルク調整用のトップコートをインライン化した生産ラインである。トップコートは、耐食性のほか摩擦係数を安定させる機能があり、同社では、5 種類のトップコートを用意することで、顧客の要望に合わせた摩擦係数を実現している。
<売上高の推移>
本社工場 第2工場
(億円) 6
5
4
3
2
1
0
2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 (事業年度)
資料:xx電化工業所
同社は、1 日当たり約 30tもの母材を加工する。主力となる亜鉛めっきおよび亜鉛-ニッケル合金めっきでは、バレル方式を採用している。バレル方式は、バレル(樽)形状の容器内に母材を入れてめっき処理するため、一度に大量の小型部品を加工することができる。同社では、大量生産向けに特化することで、コストダウンを図り、地場の主要産業である自動車部品メーカーに対応してきた。一方、新分野への展開を企図して、2024 年に、引っ掛け方式の静止ラインを初めて導入し た。引っ掛け方式は、ラックと称する治具に母材を 1 点ずつ引っ掛けてめっき処理するため、幅広い形状の製品に対応が可能である。たとえば、バレル方式では外形寸法の制約があった建築資材等をめっき処理することができる。加えて、一点物からでも受注ができるため、地場の中小零細事業者などとの新規取引も期待される。なお、第 2 工場に新設した自動コンポジット静止めっきラインは、母材を引っ掛ける工程以外は、バレルライン同様に全自動化されている。
<バレル方式と引っ掛け方式の比較>
バレル方式 | 引っ掛け方式 | |
母材 | 自動車部品 | 建築用金物など |
最大外形寸法 | 150 ㎜×φ30 ㎜ | 1,700 ㎜×850 ㎜×350 ㎜ |
生産能力 | 一度に大容量の製品がめっき可能 | 容量的には▲70%減少 |
生産方式 | 大量生産 | 多品種少量生産 |
資料:xx電化工業所
1-2 経営理念等
xx電化工業所は、経営理念として、「地球環境・地域環境の中で事業活動を行っている事を自覚し、将来にわたって持続して品質と環境保全が両立する製品づくりを追求する環境配慮型企業を目指します。」を掲げる。また、基本方針として、「環境法令を含め各種法令を遵守します。」、
「最適な作業を常に考え生産性向上に努めます。」、「適正な品質を追求するとともに不良発生の予防・再発防止のため作業者教育やサポート体制構築を強化します。」、「成果と業績にこだわり持続可能な経営活動で地域社会に貢献していきます。」、「安全な作業を心がけ無事故・無災害を目指します。」の 5 つを示す。これらは、環境・社会・経済の 3 つの側面のバランスがとれた社会を目指す世界共通の目標である“SDGs(持続可能な開発目標)”に通じており、実際、さまざまなサステナビリティ活動(11~16 頁参照)が認められる。
<経営理念>
地球環境・地域環境の中で事業活動を行っている事を自覚し、将来にわたって持続して品質と 環境保全が両立する製品づくりを追求する環境配慮型企業を目指します。 |
資料:xx電化工業所
<基本方針>
環境法令を含め各種法令を遵守します。 |
最適な作業を常に考え生産性向上に努めます。 |
適正な品質を追求するとともに不良発生の予防・再発防止のため作業者教育やサポート体制 構築を強化します。 |
成果と業績にこだわり持続可能な経営活動で地域社会に貢献していきます。 |
安全な作業を心がけ無事故・無災害を目指します。 |
資料:xx電化工業所
1-3 業界動向
xx電化工業所の主たる事業を日本標準産業分類でみると、大分類「製造業」、中分類「金属製品製造業」、小分類「金属被覆・彫刻業,熱処理業(ほうろう鉄器を除く)」のうち、細分類「電気めっき業(表面処理鋼材製造業を除く)」に分類される。全国の電気めっき業の事業所数および製造品出荷額等の推移をみると、事業所数は右肩下がりで、2000 年に 1,724 所あった事業所が、2020 年には 939 所まで減少している。また、製造品出荷額等は 2008 年の 5,394 億円がピークである。2009 年に、xxxx・xxxxによる世界的な需要減退を受けて、
3,729 億円(前年比▲31%)と急落したが、以降は概ね緩やかな回復基調で推移している。もっとも、2020 年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、4,224 億円(前年比▲12%)と落ち込んだ。
同社の売上高の推移(7 頁参照)をみると、全国と同様にリーマン・ショックやコロナ・ショックで急減しており、受注産業の特徴が色濃く表れている。しかし、同社は、大手自動車メーカー向けに独 自の亜鉛-ニッケル合金めっき処理を開発、2016 年には第 2 工場を取得して受注が拡大したことで、近年、売上高が大きく伸びている。
全国、同社ともに、需要は安定しているようにみられるが、楽観視はできない。特に、同社は、顧客の大半が自動車部品メーカーである。その自動車産業では、100 年に一度の大変革“CASE※”が進展している。電動化の影響で、xx引き受けてきた内燃機関やトランスミッション(変速機)に使用するボルトやナット等の締結部品の需要減少が予想される。そのため、2024 年に、自動コンポジット静止めっきラインを導入し、建築資材部品や外形寸法が大きい製品など幅広い形状の母材 に対応できる体制を整え、業容の拡大を目指している。
※CASE:自動車産業の将来を象徴する、コネクテッド(Connected)、自動運転(Autonomous)、カーシェアリング&サービス(Shared&Service)、電動化(Electric)の頭文字をとった言葉
<全国の電気めっき業の事業所数および製造品出荷額等の推移(従業者 4 人以上)>
(億円) (所)
10,000
9,000
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
2,000
製造品出荷額等(左軸)
事業所数(右軸)
1,800
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 (年)
資料:経済産業省「工業統計調査」、「経済センサス‐活動調査」
1-4 地域課題との関連性
静岡県は自動車産業のxx集積地である。2021 年の製造品出荷額等(全事業所)をみると、静岡県の「輸送用機械器具製造業」は 4 兆 873 億円と、製造業計の 23.6%に該当し、産業中分類でトップを誇る。このうち、「自動車部分品・附属品製造業」は 2 兆 2,451 億円と過半を占める。浜松市に本社を置くスズキ株式会社や浜松市が創業地のxx技研工業株式会社など、複数の完成車メーカーが開発・生産拠点を設けており、部品メーカーも特定の系列に偏ることなく幅広く立地する。さらに、自動車産業の裾野はとても広く、協力会社等は多岐にわたる。
そのため、静岡県経済産業部は、自動車産業を静岡県の基幹産業に位置づける。ゆえに、自動車産業が変革期に突入した昨今、「静岡県産業成長戦略」において、本県経済を強力に牽引するリーディング産業の 1 つに「次世代自動車」を掲げた。そして、県内事業者に対して、EV(電気自動車)化や自動運転化へ対応するための試作品開発助成などの支援策を強力に推進してい る。
xx電化工業所が位置する東部地域においても、産業集積がみられる。トヨタ自動車株式会社の東富士研究所や日産自動車株式会社の旧xx工場(現ジヤトコ株式会社)があり、密接な部品メーカーが数多く存在する。系列を問わず、自動車に関連した製造販売を営む事業者も多い。実際、同社の主要取引先をみると、ネジやナット等を手掛ける株式会社xx製作所(沼津 市)やxxxx株式会社(裾野市)、東海部品工業株式会社(沼津市)など、自動車部 品向けに活躍する小物部品メーカー等が目立つ。
同社は、創業来、大量生産向けに特化して自動化および業務標準化を進め、高品質と低コスト化を実現したことで、地場のサプライヤーにとって重要なめっき事業者へと成長、自動車産業の一翼を担ってきた。同社によると、かつては、地域内だけで、競合するめっき事業者 48 社が操業していた。しかし、ものづくりの海外シフトや環境規制の強化などを背景に廃業や撤退が相次ぎ、現在は 10 社程度にとどまる。そのような淘汰の波を乗り越えてきたことからも、同社が不可欠な存在である ことが認められる。
今後は、EV 関連の受注獲得に力を入れていく方針である。完成車メーカーから地場の中小零細サプライヤーまで動向を注視し、EV 部品向けのめっき処理を引き受ける。EV 化によって、自動車部品は大きく変わることが見込まれており、従来のガソリン車では求められることがなかった表面処理需要が生じる可能性もある。そのため、同社は、サプライヤーと活発なコミュニケーションを図り、必要に応じて、開発設計段階から関わるとともに社内の研究開発体制を強化し、新たな母材に対して 最適な表面処理を模索、提案していく。このように、同社は、静岡県経済の発展や脱炭素社会の形成につながる EV 化に対応することで、社会価値創造と企業価値向上の両立を目指していく。
2. サステナビリティ活動
2-1 環境面での活動
(1)電気めっき処理による母材の耐食性向上
めっき処理は、製品(母材)の表面に金属の薄膜をつくる加工技術である。xx電化工業所 は、環境方針⑦「環境にやさしい製品を提供し、高付加価値製品(さびにくい)の開発に務めま す。」に則り、主に防錆や防食などを目的としためっき処理を取り扱っており、本来、母材では持ち得ない高耐食性を付与することで、社会全体における資源効率の向上や廃棄物の削減に貢献している。
同社では、特に耐食性や耐熱性、耐摩耗性が秀でる表面処理にも対応している。売上の 3 割弱を占めるのは、亜鉛-ニッケル合金めっきの中で最も耐食性や耐熱性に優れる亜鉛-高ニッケル合金めっきである。同社は、国内で需要が顕在化する前から先行して設備投資に踏み切り、顧客へ切り替えを提案するなど、亜鉛-高ニッケル合金めっきの黎明期を牽引してきた。また、通常のアルマイト処理より耐摩耗性に優れる硬質アルマイト処理も取り扱っている。
<環境理念>
株式会社xx電化工業所は、金属表面処理業者として、環境に配慮した生産活動を行い、 環境関連法規を順守し、全社員xxとなって、地球環境保全の継続的改善に努めます。 |
資料:xx電化工業所
<環境方針>
① | エコアクション 21 を通じて、環境マインドのもった人材の育成を行います。 |
② | 化学物質使用量を把握し、適正に管理し使用します。 |
③ | 電力・ガス・自動車燃料消費に伴う二酸化炭素の削減を行います。 |
➃ | 節水を心がけ、水使用量の削減に努めます。 |
⑤ | 廃棄物の削減、ゴミの分別を行い、資源のリサイクルを推進します。 |
⑥ | 事務用品、工場備品を検討し、グリーン商品購入を推進します。 |
⑦ | 環境にやさしい製品を提供し、高付加価値製品(さびにくい)の開発に務めます。 |
Ⓑ | 外部とのコミュニケーションをおこないます。 |
資料:xx電化工業所
(2)溶融めっきの代替による環境負荷の軽減
xx電化工業所は、2024 年に自動コンポジット静止めっきラインを導入したことで、金属使用量およびエネルギー使用量の大きい溶融亜鉛めっきの代替を促進していく方針である。溶融亜鉛めっきは、ドブ漬けめっきとも呼ばれ、大量の亜鉛を高温で溶かしためっき槽に、母材を浸漬すること で、均一かつxxな膜厚を形成する加工方法である。一般的に、電気亜鉛めっきによる膜厚が 5
~10 ㎛であるのに対して、溶融亜鉛めっきによる膜厚は 100~200 ㎛であり、めっきが剝がれにくい特長をもつ。ただし、亜鉛の融点は 419.5℃と極めて高く、凝固によるめっき槽の損壊を防ぐためにも、常に高温を維持する必要があり、環境負荷が大きい加工方法ともいえる。なお、電気亜鉛めっきは、最も加熱が必要な工程となる脱脂浴で 60℃程度である。そこで同社は、屋外曝露でも溶融亜鉛めっきと同等の耐食性が確保できるとされる亜鉛-高ニッケル合金めっきの活用を目論んでいる。従来の大型自動バレルめっき装置では、小物かつ量産品のめっき処理にしか対応できなかった が、自動コンポジット静止めっきラインでは、外形寸法が大きい製品など幅広い形状の母材に対応できるため、一般に溶融亜鉛めっきが使用されやすい建築資材向けなどに進出していく方針である。
このように、同社は、亜鉛-高ニッケル合金めっきによる溶融亜鉛めっきの代替を促進することで、社会全体における亜鉛の使用量や CO2 排出量の削減に貢献しようと考えている。
(3)気候変動対策
xx電化工業所は、環境方針③「電力・ガス・自動車燃料消費に伴う二酸化炭素の削減を行います。」に則り、電力や都市ガス、軽油等の使用量をもとに、事業活動から生じる CO2 排出量を管理し、年次で削減目標を策定のうえ、エネルギー使用量の削減に取り組んでいる。特に、近年、生産ラインの刷新を進めており、省エネ設備への切り替えが進んでいる。
まず、同社の CO2 排出量の7割強は電力使用から成るため、生産管理の見直しによる機械 設備の待機時間削減を図っている。また、各部署で担当者を決めて未使用スペースの消灯や空調の適温設定(冷房 28℃、暖房 23℃)も徹底している。照明は本社食堂を除いて、本社工場・第2工場ともに全て LED 化しており、今後は自家消費型xxx発電設備や風力発電設備の導入を検討している。その他、硬質アルマイト処理においては、電気エネルギーの削減が可能な常温 処理技術を用いている。一般的な硬質アルマイト処理は 5℃以下で冷却システムが必要だが、xx製薬工業株式会社(大阪府)の開発技術を活用することで、xx 20℃で実施が可能であ り、冷却に伴う電力使用量を削減している。
次に、CO2 排出量の 2 割強を占めるのは、生産ラインにおける各種液槽の温度調整のための都市ガス使用である。同社では、本社工場・第2工場の各ラインで、有限会社xxマシン(xx県)が独自開発・特許取得した高効率の熱交換器を導入しているほか、蒸気配管の保温材の保守等を徹底している。
そして、CO2 排出量の 1 割弱となる軽油やガソリン使用は、社有トラック4台とハイブリッド車2台の燃料消費であり、ドライバーに対してアイドリングストップをはじめとしたエコドライブを厳達している。
(4)設備面と管理面から環境汚染リスク低減
xx電化工業所は、環境方針②「化学物質使用量を把握し、適正に管理し使用します。」に則り、PRTR 法を遵守し、指定化学物質の使用量を厳格に把握、国に届け出ている。また、水質
汚濁防止法や騒音規制法、振動規制法、フロン排出抑制法などの環境関連法規等も厳守し、環境負荷の低減に努めている。
過去に、工場排水の取水等で行政指導歴はない。従来、毎月 1~2 回、株式会社環境計量センター(静岡市)に BOD(生物化学的酸素要求量)測定などを依頼することで、環境汚染が生じていないことを確認してきた。同社は、2024 年に原子吸光分析器を導入したことで、月次の排水分析を内製化し、適時適切な環境測定を継続していく予定である。ただし、外部機関による検査も毎年 1 回以上は実施していく。なお、工場の床面は全てコンクリートで、必要に応じて FRP防水を施しているため、地下浸透の懸念はない。
その他、スクラバー(排ガス洗浄装置)等を完備したり、夜間のシャッター閉鎖による騒音対策を徹底したりと、地域からのクレームは 20 年超にわたって発生させていない。
今後、同社では、機械設備の保全計画・投資計画に基づき、戦略的に維持更新投資を実施することで、事業のグリーン化を進めていく方針である。
(5)廃棄物の適切な処理、資源の有効活用
xx電化工業所は、環境方針➃「節水を心がけ、水使用量の削減に努めます。」や⑤「廃棄物の削減、ゴミの分別を行い、資源のリサイクルを推進します。」、⑥「事務用品、工場備品を検討し、グリーン商品購入を推進します。」に則り、自社の廃棄物の削減や資源効率の向上に努めている。
2017 年にエコアクション 21 認証・登録されたとおり、廃棄物の排出量を管理し、マニフェストの確認を徹底するなど、事業活動から生じる廃棄物を適切に処理している。電気めっき業における主な廃棄物としては、めっき排水の汚泥が挙げられる。同社は、早期から汚泥処理の最適化に注力、排水処理薬品などを用いて中和、脱水、乾燥等させることで汚泥を減容化してきた。その他、段ボールや廃プラスチック類なども産業廃棄物処理業者へ適正に処理委託している。
同社は、めっき処理の最適化に力を入れている。顧客の要求性能を満たす最小限の金属付着に留めることで、金属資源の使用量を削減することを目指す。膜厚の工程能力を算出して、余分な膜厚を付けないよう研究を重ねている。当然、めっき処理の不良件数も低減していく。また、めっき液のxxxにも取り組んでいる。亜鉛-高ニッケル合金めっき槽は、定期的に部分更新が必要となる。同社は、2024 年に原子吸光分析器を導入したことで、適時、精緻な分析・調合を可能にしてお り、めっき液の廃棄量を最小化していく方針である。
さらに、電気めっき業で特に使用量の多い水資源の節約に取り組む。ライン供給水となる地下水の揚水量(使用量)は本社工場で約 500t/日、第 2 工場で約 40t/日に及び、黄xx地域地下水利用対策協議会への報告が求められる。たとえば、第 2 工場の全自動亜鉛めっきライ ン・3 価クロメートでは、水洗工程が 10 回あるが、同社では、可能な範囲で流水を循環させるなど排水処理の低減に向けた工夫がみられる。今後は、稼働時間や使用日数の削減に本腰を入れる方針である。
その他、事務用品のグリーン購入やペーパーレス化を推進するなど、会社を挙げて廃棄物の発生抑制に努めている。
2-2 社会面での活動
(1)従業員の成長促進
xx電化工業所は、徹底した OJT で全ての従業員の能力向上を図っている。各工場のライン ごとに策定した、決まり事を詳細に記載した「標準書」と業務フローを示した「手順書」をもとに、業界に関する知識が全くない新入社員にも現場で着実に指導している。「スキルマップ」による従業員一人ひとりの力量管理も確立している。同社独自の業務スキルと公的資格を 72 項目に細分化し、 各ライン長が各項目を Level1(一人で出来ないが、作業を理解しているレベル)~Level4(作業を熟知し、作業指導をできるレベル)の 4 段階(評価なしを除く)で評価する。なお、従業員 本人または経営陣がレベルを上げたい項目は色分けして管理している。公的資格取得への挑戦は自己申告制であるが、平日受験ならば出勤扱いとし、受験費用に加えて交通費や宿泊費等も全額会社が負担する。さらに、推奨資格とする 22 種類の公的資格に対して個別に支給手当てを設けることで、従業員のスキルアップを後押しする。特に、事業活動に欠かすことができない公害防止 管理者水質 2 種の有資格者数の増加を助長していく。その他、社内で勉強会を開催したり、外部機関のセミナーへ従業員を派遣したりもしている。
<スキルマップの一部>
業務スキル & 資格 NO 氏 名 | 全 社 | 本社工場 | |||||||||||||||||||||||
資 格 | 検査 | 事務 | 亜鉛メッキライン | ||||||||||||||||||||||
フ ォー クリフト | 毒劇物取扱者 | 公害防止管理者 | 小型ボイ ラー 取扱者 | 特定化学物質等取扱者 | 乾燥設備作業xx 者 | 内部監査員 | 検査内容の把握 | 検査作業 | 異常処置 | 納品書 | 請求書 | 支払い申請 ・残高報告 | メ ッキの知識 | 膜厚測定 | ベー キング処理 | 1号機 | 2号機 | ||||||||
亜鉛メ ッキ投入 | 亜鉛メ ッキ排出 | 異常処置 | 機械修理 | 亜鉛メ ッキ投入 | 亜鉛メ ッキ排出 | 異常処置 | 機械修理 | ||||||||||||||||||
1 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 3 | 3 | 3 | 2 | 2 | 4 | 4 | 4 | 3 | 3 | 4 | 4 | 3 | 3 | 4 | 4 | ||
2 | 4 | 4 | 4 | 4 | |||||||||||||||||||||
3 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 3 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | |||||
4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 3 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | ||||||
5 | 4 | 4 | 3 | 4 | 4 | 4 | 3 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | |||||||
6 | 4 | 4 | 3 | 3 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | ||||||||||
7 | 4 | 4 | 4 | 3 | 3 | 3 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 2 | ||||||||||||
8 | 4 | 3 | 2 | 2 | 2 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 3 | 2 | 4 | 4 | 4 | 2 | |||||||||
9 | 4 | 3 | 3 | 3 | 3 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 3 | 4 | 4 | 4 | 3 |
資料:xx電化工業所
(2)多様性の推進
xx電化工業所は、多様な人材を雇用している。継続的に外国人技能実習生を受け入れており、現在は中国人 2 名とベトナム人 5 名が現場作業に従事する。監理団体と密に連携するほか、翻訳ソフトを活用するなど、外国人に対しても正確な教育を心掛けている。また、ジェンダーレス
な雇用も図られている。現在、女性従業員は、管理職 1 名、正社員 2 名、パート 4 名が在籍する。過去には、女性従業員を現場に配置したことや、パートから正社員へ雇用転換した実績もあ り、男女平等な教育や評価が浸透している。
(3)3K の払拭、安全・安心な職場づくり
xx電化工業所は、労働災害を 15 年以上連続で発生させていない。同社では、機械化を進めたことで重筋作業はほとんどない。危険作業となる各種薬品補給の際は、保護手袋や保護メガ ネ、保護面の着用を厳守させ、有事の際の応急手当の手順も整備している。もっとも、新しいラインはほぼ自動補給である。基本的に、大きなめっき槽ではなく小さな管理槽に薬品を注入しており、最新ラインでは補給器に注入をするため、液槽への落下懸念などはない。また、機械設備の点検時は電源オフを厳達するなど、危機管理に余念はない。
同社では、労働安全衛生に関する社員ミーティングを各工場で毎月実施している。毎月必ず 5名の従業員が改善提案を発表し、ヒヤリハット事例なども共有する。毎年、全従業員に労働安全 および交通安全に関するスローガンを考案させることなども含めて、安全意識の向上を図っている。 5S 活動(整理・整頓・清掃・清潔・躾)は管理職が主導する。各ライン長が 1 年ごとに計画書を作成し、毎月の管理職会議で進捗を報告する。加えて、管理職が順番に各工場を巡回して指 摘、次の会議で改善報告を求めることで、職場環境の整備に努めている。
従業員の心身の健康にも気を配る。全従業員の健康診断の受診は当然として、会社負担で腫瘍マーカー検査をオプションに加えている。ハラスメントのない職場づくりも重視する。就業規則にセクシュアルハラスメントの防止を明記するだけでなく、社員ミーティングや管理職会議、入社時にあらゆるハラスメントの防止をトップダウンで厳達する。
また、受注産業のため繁閑は伴うが、労働時間を厳密に管理している。従業員一人ひとりに残 業の希望を聴取して配慮する。希望者でも、残業は最大 40 時間/月に抑制することで、オーバーワークに陥らないようにしている。有給休暇の取得も推進する。年間休日 115 日とは別に、有給促進日を 5 日設けている。実際、2022 年度の年次有給休暇の付与日数に対する取得率は 64.8%と、厚生労働省「令和 5 年就労条件総合調査」における平均取得率 62.1%を上回る。なお、冠婚葬祭やxx勤続に対しては通常の給与が支給される特別休暇を制定している。
その他、フレックスタイム制やテレワーク制度も整備するなど、働き方改革を推進している。長靴・前掛けの当たり前を取っ払ったり機械化を進めたりすることも合わせて、めっき工場の 3K(きつい・危険・汚い)のイメージを払拭し、安全・安心な職場づくりを推進、労働災害の根絶とワークライフバランスの実現を目指している。
このように、同社は、従業員の成長促進や多様性の推進、3K の払拭、安全・安心な職場づくりを通じて、全ての従業員のエンゲージメント向上を図っている。
2-3 経済面での活動
(1)自動車産業のサプライチェーンを支える高品質と低コスト化の実現
xx電化工業所は、売上の 9 割以上が自動車部品メーカー向けである。バッテリー端子ボルトやナットは毎月 200 万個ほどめっき処理する。これほどの受注が舞い込むのは、積極的な設備投資による全自動化および業務標準化を実現したためである。大型自動バレルめっき装置にトップコートをインライン化した同社の生産ラインは全国的にも珍しく、大量生産向けに特化することで、コストダウンを実現した。2020 年に手動を全廃し、段取り替えに加えて、電流や浸漬などの各処理時間を自動設定できるようにしたことで、人的エラーを排除して品質の均一化を実現、現場負荷を軽減するとともに生産性を向上している。全て使用するわけではないが、新しいラインには約 1,000 種類のプログラムが組み込まれている。なお、2024 年に、事業再構築補助金を活用して自動コンポジット静止めっきラインを導入したことで、建築資材部品や外形寸法が大きい製品など幅広い形状の母 材に一点物から対応できるようになり、取引先を拡大している。
2023 年には、ISO9001 を取得した。同社では、処理方法ごとに「管理工程図」を策定し、各手順書を整備している。不良については、毎月の管理職会議内の品質会議でラインごとに発表、議論し、再発防止を徹底している。不良を出さない設備づくりにも注力する。同社の生産設備はオー ダーメイド機械であり、蓄積されたノウハウをもとに修繕や改善を繰り返してきた。遠心分離乾燥機の回転制御による打痕対策が一例である。このように、頑健な品質マネジメントシステムが構築されているからこそ、xx、自動車業界の高い要求に応えることができている。また、上流メーカーによる調査もクリアしている。直接取引先による監査は毎年複数回、完成車メーカーや Tier1による監査も不定期で実施され、品質や 5S、購買に関するトレーサビリティなどを確認される。監査とは別に、上流メーカーと品質や環境対策などについて議論する場もある。
めっき処理は部品加工の最終工程となるため、製品全般に関する高度な検査体制も重要とな る。同社では、必ず膜厚計で全ロット検査する。本社の蛍光 X 線式膜厚計では RoHS 測定も行っている。また、各種薬液状態を正確に把握する必要がある。めっき液は独自に調合するため、 2024 年に、めっき事業者では珍しい原子吸光分析器を導入し、精緻な成分分析や薬品調合を可能にした。加えて、近年、薬品メーカー出身者を 2 名雇用、研究専任の生産技術部を新設してさらなる品質安定化を図っている。
同社は、サプライヤー等との技術連携も行う。過去に、大手自動車メーカー用フレアナット向け高耐食めっき処理を薬品メーカーと共同開発した実績がある。当該受注に関しては、現在、同社を含めた 2 社のみで世界全ロットに対応しており、サプライチェーン上の重要な役割を果たしている。他 に、製品化に結び付かなかった案件も経験したが、開発設計段階における相談にも真摯に対応し続けている。また、静岡県工業技術研究所 沼津工業技術支援センターとの共同研究や神奈川県立産業技術総合研究所への分析相談など、公設試験研究機関とも適宜連携している。
3. 包括的分析
3-1 UNEP FI のコーポレートインパクト分析ツールを用いた分析
「UNEP FI コーポレートインパクト分析ツール」を用いて、xx電化工業所の電気めっき事業を中心に、網羅的なインパクト分析を実施した。その結果、ポジティブ・インパクトとして「雇用」、「賃 金」、「インフラ」が、ネガティブ・インパクトとして「健康および安全性」、「賃金」、「社会的保護」、「気候の安定性」、「水域」、「大気」、「資源強度」、「廃棄物」が抽出された。
3-2 個別要因を加味したインパクトエリア/トピックの特定
xx電化工業所の個別要因を加味して、同社のインパクトエリア/トピックを特定した。その結 果、インフラ関連の受注がみられないことから、ポジティブ・インパクトのうち「インフラ」を、適切な賃金水準が確保されていることから、ネガティブ・インパクトのうち「賃金」を削除した。一方で、同社のサステナビリティ活動に関連のあるポジティブ・インパクトとして「教育」、「零細・中小企業の繁栄」、「資源強度」、「廃棄物」を、ネガティブ・インパクトとして「ジェンダー平等」、「民族・人種平等」を追加した。
分析ツールにより抽出された インパクトエリア/トピック | |
ポジティブ | ネガティブ |
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● | |
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個別要因を加味した インパクトエリア/トピック | |
ポジティブ | ネガティブ |
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● | ● |
<特定されたインパクトエリア/トピック>
インパクト カテゴリー | インパクト エリア | インパクト トピック |
社会 | 人格と人の安全保障 | 紛争 |
現代奴隷 | ||
児童労働 | ||
データプライバシー | ||
自然災害 | ||
健康および安全性 | 健康および安全性 | |
資源とサービスの入手可能 性、アクセス可能性、手ごろさ、品質 | 水 | |
食料 | ||
エネルギー | ||
住居 | ||
健康と衛生 | ||
教育 | ||
移動手段 | ||
情報 | ||
コネクティビティ | ||
文化と伝統 | ||
ファイナンス | ||
生計 | 雇用 | |
賃金 | ||
社会的保護 | ||
平等とxx | ジェンダー平等 | |
民族・人種平等 | ||
年齢差別 | ||
その他の社会的弱者 | ||
社会経済 | 強固な制度・平和・安定 | 法の支配 |
市民的自由 | ||
健全な経済 | セクターの多様性 | |
零細・中小企業の繁栄 | ||
インフラ | インフラ | |
経済収束 | 経済収束 | |
自然環境 | 気候の安定性 | 気候の安定性 |
生物多様性と生態系 | 水域 | |
大気 | ||
土壌 | ||
生物種 | ||
生息地 | ||
サーキュラリティ | 資源強度 | |
廃棄物 |
3-3 特定されたインパクトエリア/トピックとサステナビリティ活動の関連性
xx電化工業所のサステナビリティ活動のうち、環境面においては、電気めっき処理による母材の耐食性向上が、「資源強度」(ポジティブの増大)や「廃棄物」(ポジティブの増大)に該当し、気候変動対策は、「気候の安定性」(ネガティブの低減)に貢献している。また、設備面と管理面から環境汚染リスク低減が、「水域」(ネガティブの低減)や「大気」(ネガティブの低減)に資する取り組みと評価され、廃棄物の適切な処理、資源の有効活用は、「水域」(ネガティブの低減)や
「資源強度」(ネガティブの低減)、「廃棄物」(ネガティブの低減)への寄与が認められる。
社会面においては、従業員の成長促進が、「教育」(ポジティブの増大)や「雇用」(ポジティブの増大)、「賃金」(ポジティブの増大)、「社会的保護」(ネガティブの低減)に該当し、多様性の推進は、「雇用」(ポジティブの増大)や「ジェンダー平等」(ネガティブの低減)、「民族・人種平等」(ネガティブの低減)への寄与が認められる。さらに、3K の払拭、安全・安心な職場づくり は、「健康および安全性」(ネガティブの低減)や「社会的保護」(ネガティブの低減)に資する取り組みと評価される。
経済面においては、自動車産業のサプライチェーンを支える高品質と低コスト化の実現が、「零細・中小企業の繁栄」(ポジティブの増大)に該当する。
3-4 インパクトエリア/トピックの特定方法
「UNEP FI コーポレートインパクト分析ツール」を用いたインパクト分析結果を参考に、xx電化工業所のサステナビリティに関する活動を同社の HP、提供資料、ヒアリングなどから網羅的に分析するとともに、同社を取り巻く外部環境や地域特性などを勘案し、同社が環境・社会・経済に対して 最も強いインパクトを与える活動について検討した。そして、同社の活動が、対象とするエリアやサプライチェーンにおける環境・社会・経済に対して、ポジティブ・インパクトの増大やネガティブ・インパクトの低減に最も貢献すべき活動を、インパクトエリア/トピックとして特定した。
4. KPI の設定
特定されたインパクトエリア/トピックのうち、環境・社会・経済に対して一定の影響が想定され、明光電化工業所の経営の持続可能性を高める項目について、以下の通り KPI が設定された。なお、モニタリング期間内に KPI の設定年度が到来するものは、その年度において再度 KPI を設定し、測定していく。
4-1 環境面
インパクトエリア/トピック | 資源強度(ポジティブの増大) 廃棄物(ポジティブの増大) |
テーマ | 電気めっき処理による母材の耐食性向上 |
取組内容 | 主に防錆や防食などを目的としためっき処理、通常より耐食性/ 耐熱性/耐摩耗性に優れる表面処理への対応 |
SDGs との関連性 | 2030 年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産 業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改 9.4 良や産業改善により、持続可能性を向上 させる。すべての国々は各国の能力に応じた取組を行う。 |
2030 年までに、廃棄物の発生防止、削 12.5 減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。 | |
KPI(指標と目標) | 2027 年度までに、亜鉛-高ニッケル合金めっきの売上高 ① を 2022 年度比+20%以上増加させる。 |
インパクトエリア/トピック | 気候の安定性(ネガティブの低減) |
テーマ | 気候変動対策 |
取組内容 | 生産ラインの刷新に伴う省エネ設備への切り替え、機械設備の待機時間削減などによる電力使用量の削減、高効率の熱交換器導入などによる都市ガス使用量の削減、エコドライブによる 軽油やガソリン使用量の削減 |
SDGs との関連性 | すべての国々において、気候関連災害や 13.1 自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応力を強化する。 |
KPI(指標と目標) | 2030 年度までに、CO2 排出量を 2022 年度比▲ ① 10%以上削減させる。 |
2030 年までに、自家消費型太陽光発電設備または風 ② 力発電設備を導入する。 |
インパクトエリア/トピック | 水域(ネガティブの低減) 大気(ネガティブの低減) |
テーマ | 設備面と管理面から環境汚染リスク低減 |
取組内容 | PRTR 法などの環境関連法規等の遵守、定期的な環境測定 の実施、スクラバー等の完備 |
SDGs との関連性 | 2030 年までに、汚染の減少、投棄廃絶と有害な化学物や物質の放出の最小 6.3 化、未処理の排水の割合半減及び再生 利用と安全な再利用の世界的規模での大幅な増加により、水質を改善する。 |
2020 年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質やすべての廃棄物 12.4 の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削 減する。 | |
KPI(指標と目標) | 2024 年より、自社で、原子吸光分析器による排水分析 ① を毎月 2 回以上実施する。 |
インパクトエリア/トピック | 水域(ネガティブの低減) 資源強度(ネガティブの低減)廃棄物(ネガティブの低減) |
テーマ | 廃棄物の適切な処理、資源の有効活用 |
取組内容 | マニフェスト確認の徹底、汚泥の減容化、産業廃棄物処理業者への適正な処理委託、めっき処理の最適化、めっき液の延命化、水資源の使用量低減、事務用品のグリーン購入やペー パーレス化の推進 |
SDGs との関連性 | 2030 年までに、資源利用効率の向上と クリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改 9.4 良や産業改善により、持続可能性を向上 させる。すべての国々は各国の能力に応じた取組を行う。 |
2030 年までに、廃棄物の発生防止、削 12.5 減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。 | |
KPI(指標と目標) | 2030 年度までに、汚泥の排出量を 2022 年度比▲ ① 5%以上削減させる。 |
2030 年度までに、不良発生件数を 2022 年度比▲ ② 20%以上削減させる。※ | |
2030 年までに、地下水の使用量を 2023 年比▲5% ③ 以上削減させる。 |
※当KPI は経済面で掲げるテーマ「自動車産業のサプライチェーンを支える高品質と低コスト化の実現」とも関連するものであり、両テーマ共通の KPI とする。
4-2 社会面
インパクトエリア/トピック | 教育(ポジティブの増大)雇用(ポジティブの増大)賃金(ポジティブの増大) 社会的保護(ネガティブの低減) |
テーマ | 従業員の成長促進 |
取組内容 | 徹底した OJT、スキルマップによる従業員一人ひとりの力量管理、資格取得に係る受験費用や交通・宿泊費の会社負担、支給手当てなどを通じた従業員の自発的な資格取得への支 援 |
SDGs との関連性 | 2030 年までに、技術的・職業的スキル など、雇用、働きがいのある人間らしい仕 4.4 事及び起業に必要な技能を備えた若者 と成人の割合を大幅に増加させる。 |
2030 年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産 8.5 的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達 成する。 | |
KPI(指標と目標) | 2030 年までに、推奨資格取得者数を延べ 10 名以上 ① 増加させる。 |
2030 年までに、公害防止管理者水質 2 種の有資格者 ② 数を 7 名以上に増加させる。 |
インパクトエリア/トピック | 雇用(ポジティブの増大) ジェンダー平等(ネガティブの低減)民族・人種平等(ネガティブの低減) |
テーマ | 多様性の推進 |
取組内容 | 継続的な外国人技能実習生の受け入れ、ジェンダーレスな雇用 |
SDGs との関連性 | あらゆる場所におけるすべての女性及び 5.1 女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する。 |
2030 年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産 8.5 的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達 成する。 | |
KPI(指標と目標) | ① 2025 年までに、外国人雇用を 9 名以上に増加させる。 |
インパクトエリア/トピック | 健康および安全性(ネガティブの低減) 社会的保護(ネガティブの低減) |
テーマ | 3K の払拭、安全・安心な職場づくり |
取組内容 | 労働災害ゼロ、労働安全衛生に関する社員ミーティングの実施、5S 活動、健康診断の徹底、ハラスメント防止、労働時間の厳密な管理、有給休暇の取得推進、フレックスタイム制やテ レワーク制度の整備 |
SDGs との関連性 | 2030 年までに、非感染性疾患による若 年死亡率を、予防や治療を通じて3 分の 3.4 1 減少させ、精神保健及び福祉を促進 する。 |
移住労働者、特に女性の移住労働者や 不安定な雇用状態にある労働者など、す 8.8 べての労働者の権利を保護し、安全・安 心な労働環境を促進する。 | |
KPI(指標と目標) | ① 労働災害の発生件数ゼロを継続する。 |
② 年次有給休暇の取得率を 65%以上に向上させる。 |
4-3 経済面
インパクトエリア/トピック | 零細・中小企業の繁栄(ポジティブの増大) |
テーマ | 自動車産業のサプライチェーンを支える高品質と低コスト化の実 現 |
取組内容 | 積極的な設備投資による全自動化および業務標準化、 ISO9001 の取得、上流メーカーによる調査、製品全般に関す る高度な検査体制、サプライヤー等との技術連携 |
SDGs との関連性 | 高付加価値セクターや労働集約型セクタ ーに重点を置くことなどにより、多様化、技 8.2 術向上及びイノベーションを通じた高いレ ベルの経済生産性を達成する。 |
さまざまなパートナーシップの経験や資源 戦略を基にした、効果的な公的、官民、 17.17 市民社会のパートナーシップを奨励・推進 する。 | |
KPI(指標と目標) | ① ISO9001 の認証を維持する。 |
2030 年度までに、不良発生件数を 2022 年度比▲ ② 20%以上削減させる。※ | |
③ 2030 年までに、新規取引先を 20 社以上獲得する。 |
※当KPI は、環境面で掲げるテーマ「廃棄物の適切な処理、資源の有効活用」とも関連するものであり、両テーマ共通の KPI とする。
5. 地域経済に与える波及効果の測定
明光電化工業所は、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスの KPI を達成することによって、2030年の売上高を 10 億円に、従業員数を 50 人にすることを目標とする。
「平成 27 年静岡県産業連関表」を用いて、静岡県経済に与える波及効果を試算すると、この目標を達成することによって、明光電化工業所は、静岡県経済全体に年間 15 億円の波及効果を与える企業となることが期待される。
6. マネジメント体制
明光電化工業所では、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスに取り組むにあたり、吉牟禮勝人社長が陣頭指揮を執り、佐々木克俊取締役工場長が中心となって、社内の制度や計画、日々の業務や諸活動などを棚卸しすることで、自社の事業活動とインパクトトピックやSDGsとの関連性、KPIの設定について検討を重ねた。
本ポジティブ・インパクト・ファイナンス実行後においても、吉牟禮勝人社長を統括責任者、佐々木克俊取締役工場長を実施責任者とし、管理職会議を中心として、全従業員が一丸となって、 KPI の達成に向けた活動を実施していく。
統括責任者 | 代表取締役 吉牟禮 勝人 |
実施責任者 | 取締役工場長 佐々木 克俊 |
担当部署 | 管理部 |
7. モニタリングの頻度と方法
本ポジティブ・インパクト・ファイナンスで設定した KPI の達成および進捗状況については、静岡銀行と明光電化工業所の担当者が定期的に会合の場を設け、共有する。会合は少なくとも年に1回実施するほか、日頃の情報交換や営業活動の場などを通じて実施する。
静岡銀行は、KPI 達成に必要な資金およびその他ノウハウの提供、あるいは静岡銀行の持つネットワークから外部資源とマッチングすることで、KPI 達成をサポートする。
モニタリング期間中に達成した KPI に関しては、達成後もその水準を維持・向上していることを確認する。なお、経営環境の変化などにより KPI を変更する必要がある場合は、静岡銀行と明光電化工業所が協議の上、再設定を検討する。
以 上
本評価書に関する重要な説明
1.本評価書は、静岡経済研究所が、静岡銀行から委託を受けて実施したもので、静岡経済研究所が静岡銀行に対して提出するものです。
2.静岡経済研究所は、依頼者である静岡銀行および静岡銀行がポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施する明光電化工業所から供与された情報と、静岡経済研究所が独自に収集した情報に基づく、現時点での計画または状況に対する評価で、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。
3.本評価を実施するに当たっては、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」に適合させるとともに、ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に整合させながら実施しています。なお、株式会社日本格付研究所から、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスに関する第三者意見書の提供を受けています。
<評価書作成者および本件問合せ先>
一般財団法人静岡経済研究所
調査部 研究員 中村 建太
〒420-0853
静岡市葵区追手町 1-13 アゴラ静岡 5 階 TEL:054-250-8750 FAX:054-250-8770
第三者意見書
2024 年 3 月 29 日株式会社 日本格付研究所
評価対象: 株式会社明光電化工業所に対するポジティブ・インパクト・ファイナンス |
貸付人:株式会社静岡銀行 |
評価者:一般財団法人静岡経済研究所 |
第三者意見提供者:株式会社日本格付研究所(JCR) |
結論:
本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省のESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置さ
れたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
I. JCR の確認事項と留意点
JCR は、静岡銀行が株式会社明光電化工業所(「明光電化工業所」)に対して実施する中小企業向けのポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)について、静岡経済研究所による分析・評価を参照し、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)の策定した PIF原則に適合していること、および、環境省のESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項
(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた
「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的であることを確認した。
PIF とは、SDGs の目標達成に向けた企業活動を、金融機関が審査・評価することを通じて促進し、以て持続可能な社会の実現に貢献することを狙いとして、当該企業活動が与えるポジティブなインパクトを特定・評価の上、融資等を実行し、モニタリングする運営のことをいう。
PIF 原則は、4 つの原則からなる。すなわち、第 1 原則は、SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できるかまたはネガティブな影響を特定し対処していること、第 2 原則は、PIF 実施に際し、十分なプロセス、手法、評価ツールを含む評価フレームワークを作成すること、第 3 原則は、ポジティブ・インパクトを測るプロジェクト等の詳細、評価・モニタリングプロセス、ポジティブ・インパクトについての透明性を確保すること、第 4 原則は、PIF 商品が内部組織または第三者によって評価されていることである。
UNEP FI は、ポジティブ・インパクト・ファイナンス・イニシアティブ(PIF イニシアティブ)を組成し、PIF 推進のためのモデル・フレームワーク、インパクト・レーダー、インパクト分析ツールを開発した。静岡銀行は、中小企業向けの PIF の実施体制整備に際し静岡経済研究所と共同でこれらのツールを参照した分析・評価方法とツールを開発している。ただし、PIF イニシアティブが作成したインパクト分析ツールのいくつかのステップは、国内外で大きなマーケットシェアを有し、インパクトが相対的に大きい大企業を想定した分析・評価項目として設定されている。JCR は、PIF イニシアティブ事務局と協議しながら、中小企業の包括分析・評価においては省略すべき事項を特定し、静岡銀行及び静岡経済研究所にそれを提示している。なお、静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、中小企業の定義を、PIF 原則等で参照しているIFC の定義に拠っている。
JCR は、中小企業のインパクト評価に際しては、以下の特性を考慮したうえでPIF 原則との適合性を確認した。
① SDGs の三要素のうちの経済、PIF 原則で参照するインパクト領域における「包括的で健全な経済」、「経済収れん」の観点からポジティブな成果が期待できる事業主体である。ソーシャルボンドのプロジェクト分類では、雇用創出や雇用の維持を目的とした中小企業向けファイナンスそのものが社会的便益を有すると定義されている。
② 日本における企業数では全体の 99.7%を占めるにもかかわらず、付加価値額では 52.9%にとどまることからもわかるとおり、個別の中小企業のインパクトの発現の仕方や影響度は、その事業規模に従い、大企業ほど大きくはない。1
③ サステナビリティ実施体制や開示の度合いも、上場企業ほどの開示義務を有していないことなどから、大企業に比して未整備である。
II. PIF 原則への適合に係る意見
PIF 原則 1
SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できるかまたはネガティブな影響を特定し対処していること。
SDGs に係る包括的な審査によって、PIF は SDGs に対するファイナンスが抱えている諸問題に直接対応している。
静岡銀行及び静岡経済研究所は、本ファイナンスを通じ、明光電化工業所の持ちうるインパクトを、UNEP FI の定めるインパクト領域および SDGs の 169 ターゲットについて包括的な分析を行った。
この結果、明光電化工業所がポジティブな成果を発現するインパクト領域を有し、ネガティブな影響を特定しその低減に努めていることを確認している。
SDGs に対する貢献内容も明らかとなっている。
PIF 原則 2
PIF を実行するため、事業主体(銀行・投資家等)には、投融資先の事業活動・プロジェクト・プログラム・事業主体のポジティブ・インパクトを特定しモニターするための、十分なプロセス・方法・ツールが必要である。
JCR は、静岡銀行がPIF を実施するために適切な実施体制とプロセス、評価方法及び評価ツールを確立したことを確認した。
(1) 静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、以下の実施体制を確立した。
1 経済センサス活動調査(2016 年)。中小企業の定義は、中小企業基本法上の定義。業種によって異なり、製造業は資本金 3 億円以下または従業員 300 人以下、サービス業は資本金 5 千万円以下または従業員 100 人以下などだ。小規模事業者は製造業の場合、従業員 20 人以下の企業をさす。
①PIFの申込み | ②PIF評価依頼 | レビュー依頼 | ||||
③インパクトの | ||||||
包括分析・特定 | ||||||
お客さま | ⑤目標・KPI等の協議 | 当行 | ④インパクトの還元 | 静岡経済研究所 | コメントバック | JCR |
⑥目標・KPI等の報告 | レビュー依頼 | |||||
⑨融資実行 | ⑦目標・KPI等の | |||||
PIF評価書交付 | 評価 | |||||
⑧PIF評価書作成 | コメントバック |
(出所:静岡銀行提供資料)
(2) 実施プロセスについて、静岡銀行では社内規程を整備している。
(3) インパクト分析・評価の方法とツール開発について、静岡銀行からの委託を受けて、静岡経済研究所が分析方法及び分析ツールを、UNEP FI が定めたPIF モデル・フレームワーク、インパクト分析ツールを参考に確立している。
PIF 原則 3 透明性
PIF を提供する事業主体は、以下について透明性の確保と情報開示をすべきである。
・本PIF を通じて借入人が意図するポジティブ・インパクト
・インパクトの適格性の決定、モニター、検証するためのプロセス
・借入人による資金調達後のインパクトレポーティング
PIF 原則 3 で求められる情報は、全て静岡経済研究所が作成した評価書を通して銀行及び一般に開示される予定であることを確認した。
PIF 原則 4 評価
事業主体(銀行・投資家等)の提供する PIF は、実現するインパクトに基づいて内部の専門性を有した機関または外部の評価機関によって評価されていること。
本ファイナンスでは、静岡経済研究所が、JCR の協力を得て、インパクトの包括分析、特定、評価を行った。JCR は、本ファイナンスにおけるポジティブ・ネガティブ両側面のインパクトが適切に特定され、評価されていることを第三者として確認した。
III. 「インパクトファイナンスの基本的考え方」との整合に係る意見
インパクトファイナンスの基本的考え方は、インパクトファイナンスを ESG 金融の発展形として環境・社会・経済へのインパクトを追求するものと位置づけ、大規模な民間資金を巻き込みインパクトファイナンスを主流化することを目的としている。当該目的のため、国内外で発展している様々な投融資におけるインパクトファイナンスの考え方を参照しなが
ら、基本的な考え方をとりまとめているものであり、インパクトファイナンスに係る原則・ガイドライン・規制等ではないため、JCR は本基本的考え方に対する適合性の確認は行わない。ただし、国内でインパクトファイナンスを主流化するための環境省及びESG 金融ハイレベル・パネルの重要なメッセージとして、本ファイナンス実施に際しては本基本的考え方に整合的であるか否かを確認することとした。
本基本的考え方におけるインパクトファイナンスは、以下の 4 要素を満たすものとして定義されている。本ファイナンスは、以下の 4 要素と基本的には整合している。ただし、要素③について、モニタリング結果は基本的には借入人である明光電化工業所から貸付人である静岡銀行及び評価者である静岡経済研究所に対して開示がなされることとし、可能な範囲で対外公表も検討していくこととしている。
要素① 投融資時に、環境、社会、経済のいずれの側面においても重大なネガティブインパクトを適切に緩和・管理することを前提に、少なくとも一つの側面においてポジティブなインパクトを生み出す意図を持つもの
要素② インパクトの評価及びモニタリングを行うもの
要素③ インパクトの評価結果及びモニタリング結果の情報開示を行うもの
要素④ 中長期的な視点に基づき、個々の金融機関/投資家にとって適切なリスク・リターンを確保しようとするもの
また、本ファイナンスの評価・モニタリングのプロセスは、本基本的考え方で示された評価・モニタリングフローと同等のものを想定しており、特に、企業の多様なインパクトを包括的に把握するものと整合的である。
IV. 結論
以上の確認より、本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
(第三者意見責任者) 株式会社日本格付研究所
サステナブル・ファイナンス評価部長
梶原 敦子
担当主任アナリスト 担当アナリスト
川越 広志 間場 紗壽
本第三者意見に関する重要な説明
1. JCR 第三者意見の前提・意義・限界
日本格付研究所(JCR)が提供する第三者意見は、事業主体及び調達主体の、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト金融(PIF)原則への適合性及び環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内に設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」への整合性に関する、JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、当該ポジティブ・インパクト金融がもたらすポジティブなインパクトの程度を完全に表示しているものではありません。
本第三者意見は、依頼者である調達主体及び事業主体から供与された情報及び JCR が独自に収集した情報に基づく現時点での計画又は状況に対する意見の表明であり、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。また、本第三者意見は、PIF によるポジティブな効果を定量的に証明するものではなく、その効果について責任を負うものではありません。本事業により調達される資金が同社の設定するインパクト指標の達成度について、JCR は調達主体または調達主体の依頼する第三者によって定量的・定性的に測定されていることを確認しますが、原則としてこれを直接測定することはありません。
2. 本第三者意見を作成するうえで参照した国際的なイニシアティブ、原則等
本意見作成にあたり、JCR は、以下の原則等を参照しています。
国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブ・インパクト金融原則
環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内ポジティブインパクトファイナンスタスクフォース
「インパクトファイナンスの基本的考え方」
3. 信用格付業にかかる行為との関係
本第三者意見を提供する行為は、JCR が関連業務として行うものであり、信用格付業にかかる行為とは異なります。
4. 信用格付との関係
本件評価は信用格付とは異なり、また、あらかじめ定められた信用格付を提供し、または閲覧に供することを約束するものではありません。
5. JCR の第三者性
本 PIF の事業主体または調達主体と JCR との間に、利益相反を生じる可能性のある資本関係、人的関係等はありません。
■留意事項
本文書に記載された情報は、JCR が、事業主体または調達主体及び正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、またはその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、または当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCRは、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。本第三者意見は、評価の対象であるポジティブ・インパクト・ファイナンスにかかる各種のリスク(信用リスク、価格変動リスク、市場流動性リスク、価格変動リスク等)について、何ら意見を表明するものではありません。また、本第三者意見は JCR の現時点での総合的な意見の表明であって、事実の表明ではなく、リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするものでもありません。本第三者意見は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。
■用語解説
第三者意見:本レポートは、依頼人の求めに応じ、独立・中立・公平な立場から、銀行等が作成したポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書の国連環境計画金融イニシアティブのポジティブ・インパクト金融原則への適合性について第三者意見を述べたものです。
事業主体:ポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施する金融機関をいいます。
調達主体:ポジティブ・インパクト・ビジネスのためにポジティブ・インパクト・ファイナンスによって借入を行う事業会社等をいいます。
■サステナブル・ファイナンスの外部評価者としての登録状況等
・国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブインパクト作業部会メンバー
・環境省 グリーンボンド外部レビュー者登録
・ICMA (国際資本市場協会に外部評価者としてオブザーバー登録) ソーシャルボンド原則作業部会メンバー
・Climate Bonds Initiative Approved Verifier (気候債イニシアティブ認定検証機関)
■本件に関するお問い合わせ先
情報サービス部 TEL:03-3544-7013 FAX:03-3544-7026