一般社団法人 AI ビジネス推進コンソーシアム契約ガイドライン
一般社団法人 AI ビジネス推進コンソーシアム契約ガイドライン
令和元年 10 月
一般社団法人AI ビジネス推進コンソーシアム AI×知財 WG
第1章 本ガイドライン策定の背景
本ガイドラインは、AI ビジネス推進コンソーシアムの AI×知財ワーキンググループ
(以下、「知財 WG」という。)が AI に関する知的財産権や契約実務の諸問題について約1年間にわたって検討を行った成果を公表するものである。
AI 開発に関する契約については、経済産業省より、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI 編)」(以下、「経済産業省ガイドライン」という。)が平成 30 年 6 月に公表されているところ、本ガイドラインは、経済産業省ガイドラインの補足資料として参照されることを意識して作成されている。また、経済産業省ガイドラインにおいては当事者間の協議に委ねられていた部分について、本ガイドライン公表時の実務を踏まえて、修正した条項の一案を提示するものでもある。
このような本ガイドラインの位置付けから、作成にあたっては、適宜、経済産業省ガイドラインの解説内容を記述したうえで、その補足説明を行い、また、経済産業省ガイドラインからの修正点についても、知財WG における議論の経過を踏まえた記述を行うこととしている。
また、知財WG のメンバーは、ユーザ、ベンダ、ユーザとベンダの両者の立場となり得る SIer・商社といった AI 開発について異なる利害関係を有するプレイヤーによって構成されている。このようなメンバー構成の利点を生かし、本ガイドラインの作成にあたっては、ユーザとベンダの一方が有利になりすぎない内容とすることや、現実的に合意を締結することが可能な内容とすることを意識している。
そして、契約当事者間における契約交渉を円滑にし、ビジネスの本質的部分に集中して取り組むことによって、ビジネスにおける AI の活用が推進されることを望み、本ガイドラインを公表することとした。
第2章 契約締結以前の知識
第1節 はじめに
本ガイドラインは、AI(本ガイドラインにおいては、機械学習における学習済みモデルを意味する。以下では、AI のことを「学習済みモデル」と表現することがある。)の開発を含む取引において締結される契約について解説するものである。その前提として、本章では、本ガイドラインが提案する契約書で用いられる技術的な用語について共通の理解を形成するため、機械学習の技術について確認を行うことにする。
第2節 学習と推論
機械学習は、大きく2つの場面に分けて考えることができる。それは、モデルに学習をさせる場面(以下、「学習」という。)と、学習した内容が反映されたモデルの機能を利用する場面(学習済みモデルの機能が、特定のデータについて何らかの推論処理を行う点にあることから、以下では、「推論」という。)である。
第3節 学習
1 学習時の情報処理
学習時の情報処理については、下記図1のように図式化できる。この学習の目的は、学習前パラメータ(後述する。)を、学習内容が反映された学習済みパラメータ(後述する。)へと更新し、調整する点にあるといえる。
図1 学習時の情報処理の過程
なお、図1において、青色枠内の用語の前に付記された数字は、本ガイドラインが提案するモデル契約書(以下、「本モデル契約」という。)第2条における定義の項数と対応している。また、緑色枠内の用語については、本モデル契約における定義の一部を構成するものか、または、定義された用語と関連する行為やデータを意味すると理解していただきたい。
2 用語の解説
⑴ 本データ
「本データ」は、学習に適した整形や加工等が為される前のデータである。ユーザ側から提供されることもあれば、ベンダ側で用意することもある。
⑵ 整形・加工したデータと前処理用プログラム
入力された本データに対しては、整形・加工の処理を行うこととなる。このように整形・加工の処理が必要となる理由は、モデルが学習しやすい状態にデータを整える点にある。そして、このような整形・加工の処理を行うプログラムを、前処理用プログラムと呼ぶことにする。
⑶ 教師ラベルとアノテーション
また、学習手法の一つに、教師あり学習という手法がある。これは、整形・加工したデータとともに、当該データが入力されたときにモデルが行うべき正しい出力の内容を注釈するデータ(モデルに正解を教える教師としての役割があることから、以下、教師ラベルという。)をセットにしてモデルに入力することによって学習を行うものである。
そして、図1では、この教師ラベルについて、本モデル契約の文言に合わせて、注釈データと表現している。
また、この教師ラベルを作成する作業は、一般にアノテーションと呼ばれている。
⑷ 学習用データセット
前処理用プログラムによって整形・加工したデータと教師ラベルとを一体的に取り 扱うことに合理性があると考えられることから、本ガイドラインでは、これらを合せて、学習用データセットと呼ぶことにしている。
⑸ モデル
ア 前処理用プログラムが適用されたデータを入力することで、データの分類や、数値の予測などの出力を行うプログラムを、推論プログラムと呼ぶことにする。ま た、学習用プログラム(後述する。)によって調整する前のパラメータを指して、学習前パラメータと呼ぶことにする(なお、プログラムによって調整される学習前パラメータに対して、学習時に人為的に設定するパラメータについては、学習前パラメータの一段上に存在することから、一般に、ハイパーパラメータと呼ばれている。)。
イ 学習の目的は、この学習前パラメータを、学習用データセットに適度に適合した数値に調整することにある。そして、たとえば教師あり学習では、推論プログラムを利用した出力結果と(正解である)教師ラベルとの違いを利用して、学習前パラメータの調整を行っている。
このように、学習段階では、推論処理に用いるプログラムと学習前パラメータを調整するためだけに用いるプログラムの双方が必要となる。そして、法律関係の明
確化の観点から、本ガイドラインにおいては、学習前パラメータを調整するためだけに用いられるプログラムを指して「学習用プログラム」と呼ぶこととして、推論プログラムを含む学習済みモデル(後述する。)の定義との重複が生じないようにしている。
ウ 以上の推論プログラム、学習前パラメータ、学習用プログラムをまとめて、単にモデルと呼ぶことにする。
第4節 推論
1 推論時の情報処理
次に、推論時の情報処理については、下記図2のように図式化できる。この推論の目的は、(モデルにとっては未知の)入力データに対して、学習内容が適度に反映された出力結果を得ることにある
図2 推論時の情報処理の過程
2 用語の解説
⑴ 入力データ、整形・加工したデータと前処理用プログラム
推論時の入力データにも、学習時と同じ前処理用プログラムを適用することになる。その理由は、前処理用プログラムを適用した後のデータで学習を行っていることから、整形・加工が行われる前のデータをモデルに入力したり、学習時と異なる整形・加工を行ったデータをモデルに入力したりした場合には、モデルが学習内容を反映した出力をすることができないことにある。
⑵ 学習済みパラメータ
また、推論プログラムの係数は、学習によって調整されたものとなっている(学習を終えたパラメータであることから、このパラメータを「学習済みパラメータ」と呼ぶこととする。)。
⑶ 本 AI 生成物
この学習済みパラメータが組み込まれた推論プログラムの出力結果は、学習内容が反映された出力結果といえる。そして、本ガイドラインでは、この出力結果を、「本 AI生成物」と呼ぶことにする。
⑷ 本学習済みモデル
そして、推論プログラムを利用するためには、上述したとおり、学習時と同じ前処理用プログラムを用いる必要がある。そこで、本ガイドラインでは、前処理用プログラムと、モデルのうち推論処理に用いる部分(推論プログラムおよび学習済みパラメータ)とを合せて、「本学習済みモデル」と呼ぶことにする。
第5節 契約実務に生かすためのポイント
以上を踏まえて、誤解しやすいポイントを記述しておくので、これらの点を踏まえて契約を締結することが望ましい。
・ 推論プログラムは、学習時と推論時とで同じものが使用される。そのため、学習用プログラムと本学習済みモデルとで、契約上異なった取扱いをするのであれば、両者の切り分けを意識することが望ましい。
・ 前処理用プログラムは、学習時と推論時とで同じものが使用される。そのため、推論時にも前処理用プログラムは必須となるので、納品物である「本学習済みモデル」の中に、前処理用プログラムが含まれることが通常である。
・ 本データの整形・加工は前処理用プログラムによって行われ、整形・加工されたデータがモデルに入力される。この整形・加工されたデータは、学習時の情報処理の過程においてコンピュータのメモリ上で一時的に記録されるにすぎないこともある。そのため、学習用データセットについて議論をする場合には、どの段階のデータを指しているのか当事者間で認識をすり合わせる必要がある。
・ 教師ラベルは、たとえば画像処理の分野では、画像とは別のデータが作成される。そのため、教師ラベルについても学習用データセットに含めて取り決めを行いたいのであれば、そのことが読み取れる文言とすることが望ましいと考えられる。
第3章 モデル契約書の解説
本章では、本モデル契約について、逐条解説を行う。なお、本モデル契約は、経済産業省ガイドラインにおける開発段階のソフトウェア開発契約書(経済産業省ガイドライン 102頁以下)をベースとしつつ、本ガイドライン公表時の実務を踏まえて修正した条項の一案を提示するものである。<解説>のうち、ゴシック体で記述した部分については、経済産業省ガイドラインからの引用を行った部分である(本ガイドラインの記述に合わせて、指示語等は修文している。)。
●●(以下「ユーザ」という。)と●●(以下「ベンダ」という。)は、コンピュータソフトウェアの開発に関して、●●●●年●●月●●日に、本契約を締結する。
<ポイント>
・ 本契約の当事者および契約の対象を明らかにする定めである。
<解説>
本モデル契約においては、学習済みモデルを生成するだけのシンプルな契約を想定している。
そのため、学習済みモデルを組み込んだ一定規模のシステムの開発を行う場合には、本契約の内容だけではなく、学習済みモデル以外の納品物を規律する契約条項を定める必要がある。そして、学習済みモデル以外の納品物ついては、従前のソフトウェア開発における契約内容が適合すると考えて良い場合が多いと思われる。具体的な契約書の記載としては、たとえば、契約書を章立てにして、学習済みモデルについて規律する章については、本モデル契約を参考にして作成を行い、そのほかの部分については、従前のソフトウェア開発契約書1などを参考にして作成を行うことが考えられる。
(目的)
第1条 本契約は、別紙「業務内容の詳細」記載の「開発対象」とされているコンピュー
1 従前のソフトウェア開発契約書としては、経済産業省が公表しているモデル取引・契約書の第一版及び追補版
(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/softseibi/index.html#05)が参考になる。なお経済産業省ガイドラインと上記モデル取引・契約書との関係については、経済産業省ガイドライン 7 頁参照。
タソフトウェアの開発(以下「本開発」という。)のための、ユーザとベンダの権
利・義務関係を定めることを目的とする。
<ポイント>
・本契約の目的に関する条項である。
<解説>
別紙「業務内容の詳細」のうち「開発対象」に記載される学習済みモデルが、本契約の開発対象となる。
(定義)
第2条
<ポイント>
・ 各用語の定義を定める条項である。
<解説>
本モデル契約3条以下の各条項は、上記定義を前提としているため、本モデル契約の利用に際して定義規定を変更したり、各条項を変更する場合には相互の整合性が保たれるように留意されたい。
【以上、経済産業省ガイドライン103頁】
1 データ
電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の方法で作成される記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)をいう。
<ポイント>
・ 本モデル契約におけるデータの定義を定める条項である。
<解説>
コンピュータに記録されるものすべてと考えて良い。
2 本データ
別紙「業務内容の詳細」の「本データの明細」に記載のデータをいう。
<ポイント>
・ 本モデル契約における本データの定義を定める条項である。
<解説>
本データは、本学習済みモデルの一部である前処理用プログラムによって整形・加工されるものである。また、本データに対してアノテーションが行われ、教師ラベルが作成されることになる。
なお、ユーザ側が本データを提供するケースが多いと考えられるものの、ベンダ側が本データを用意することもある。
3 学習用データセット
本データを本開発のために整形または加工したデータおよび本開発のためにこれらのデータと関連付けて作成された注釈データをいう。
<ポイント>
・ 本モデル契約における学習用データセットの定義を定める条項である。
<解説>
学習用データセットには、本データを整形・加工したデータに加え、これらの教師ラベルも含まれることを明示している。教師ラベルは、たとえば画像処理の分野では、元々の画像データを整形・加工して得られるものではなく、当該画像データと関連付いた別のデータとして作成される。このような教師ラベルについては、本データを整形・加工したデータと一体的に用いることによって意味をもつことから、本データを整形・加工したデータと、新たに作成された教師ラベルとを合せて、学習用データセットとして取り扱うこととした。
<経済産業省ガイドラインからの変更点>
経済産業省ガイドラインにおいては、「本データを本開発のために整形または加工したデータ」と定義されていた。もっとも、学習に用いるデータのうち、作成に時間、労力、費用を要する教師ラベルが含まれない可能性がある文言となっていた。そこで、新たに作成された教師ラベルについても、学習用データセットに含まれることを明確にした。
4 学習用プログラム
学習用データセットを利用して、学習済みパラメータを生成するためのプログラムをいう(ただし、学習済みモデルを除く。)。
<ポイント>
・ 本モデル契約における学習用プログラムの定義を定める条項である。
<解説>
1 学習用プログラムは、学習前パラメータについて、これを学習用データセットに適度に適合した学習済みパラメータへと調整するためのプログラムである。本条第5項が、推論時に使用される部分(また、学習時にも使用される部分)を想定して学習済みモデルを定義していることに対して、本条項の学習用プログラムは、推論時には使用されない部分
(学習時のみ使用される部分)のプログラムを想定している。
2 学習済みパラメータを生成するためには、推論プログラムによる出力結果を利用する必要がある。そのため、学習用プログラムについて、単に学習済みパラメータを生成するためのプログラムと定義した場合には、推論プログラムも、学習用プログラムに含まれることになる。しかし、推論プログラムについては、本学習済みモデルを構成するものでもあることから、学習用プログラムと本学習済みモデルの2つの用語に、同一の推論プログラムが含まれてしまうことになる。そして、このような定義間の重複が生じると、本学習済みモデルと学習用プログラムとで、契約上、異なった取扱いをする場合などに混乱が生じるケースも存在することが予想される。
そこで、学習用プログラムには学習済みモデルが含まれないことを明示して、定義間の重複が生じないようにしている。
<経済産業省ガイドラインからの変更点>
経済産業省ガイドラインにおいては、「学習用データセットを利用して、学習済みモデルを生成するためのプログラム」と定義されていた。もっとも、学習用プログラムに学習済みモデルの一部である推論プログラムが含まれるか否かについては明らかではなかった。そこで、学習済みモデルと重複するプログラムについては、学習用プログラムに含まれないことを明確にした。
また、学習用プログラムによって生成されるものは、学習済みモデルではなく学習済みパラメータであることから、技術的に正確な表現とした。
5 学習済みモデル
特定の機能を実現するために学習済みパラメータを組み込んだプログラムをいう。
<ポイント>
・ 本モデル契約における学習済みモデルの定義を定める条項である。
<解説>
1 本条項において定義される学習済みモデルは、本条第7項の再利用モデルの定義にも
用いられるなど、本条第6項の本学習済みモデルよりも、一般的な意味での学習済みモデルが想定されている。
2 上記定義規定では、学習済みモデルを「特定の機能を実現するために学習済みパラメータを組み込んだプログラム」と定義しているが、「学習済みモデル」という言葉は経済産業省ガイドライン(AI 編)でも記載しているように、実務上、利用する者によって、「学習用データセット」「学習用プログラム」「推論プログラム」「学習済みパラメータ」「その他派生的な成果物」を含んだ概念として多義的に用いられる場合がある。
3 そこで、「学習済みモデル」が具体的にどのような意味で使用されているのか、具体的にどこまでの範囲(成果物)が学習済みモデルを意味するのかについては、後述する各種論点(権利の帰属や責任の分配等)を論じる上でも、非常に重要であるため、契約の当事者間において、十分に議論を行い、明確に定めておくことが望ましい。
【以上、経済産業省ガイドライン103頁】
6 本学習済みモデル
本開発の対象となる学習済みモデルをいう。
<ポイント>
・ 本モデル契約における本学習済みモデルの定義を定める条項である。
<解説>
1 学習済みモデルについて、学習用プログラムと契約上異なる取扱いをする場合には、本モデル契約における定義のように、両者の区別が可能な条項とすることが望ましいと考えられる(本条第4項「学習用プログラム」を参照されたい)。
2 また、本条第5項が一般的な意味での学習済みモデルを想定していることに対して、本条項において定義されている本学習済みモデルは、別紙「業務内容の詳細」に記載のソフトウェアを意味している。
7 再利用モデル
本学習済みモデルを利用して生成された新たな学習済みモデルをいう。
<ポイント>
・ 本モデル契約における再利用モデルの定義を定める条項である。
<解説>
本条項が想定する再利用モデルとは、たとえば、本学習済みモデルに追加学習を行い、学習済みパラメータを更新させて得た学習済みモデルなどが考えられる。
8 学習済みパラメータ
学習用プログラムに学習用データセットを入力した結果生成されたパラメータ
(係数)をいう。
<ポイント>
・ 本モデル契約における学習済みパラメータの定義を定める条項である。
<解説>
推論プログラムに、学習内容が反映された処理を行わせるためのパラメータである。
通常の場合、推論プログラムと一体となって、本学習済みモデルに組み込まれた状態で納品されることになる。
9 本 AI 生成物
本学習済みモデルから生成されたデータおよび知的財産をいう。
<ポイント>
・ 本モデル契約における本 AI 生成物の定義を定める条項である。
<解説>
1 本 AI 生成物には、入力されたデータを分類した結果(分類問題)や、数値の予測をした結果(回帰問題)といったものから、創薬分野における化合物の分子設計や、絵画の生成まで、様々なものが含まれる。
2 そして、化合物の分子設計や、絵画等が生成される場合には、本 AI 生成物について独自の価値が認められることがあるため、当事者間で、本 AI 生成物の利用条件について取り決めをしておくことが考えられる。
3 もっとも、学習済みモデルの出力に独自の価値があるときには、共同開発的な色彩が強くなる場合が多いと考えられる。その場合の当事者の関係性は、本モデル契約が前提とするようなユーザとベンダといった関係性とは異なると考えられるので、本モデル契約の内容が妥当するか否かについては、事案ごとに検討を行う必要がある。
10 知的財産
発明、考案、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの
(発見または解明がされた自然の法則または現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)および営業秘密その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報をいう。
<ポイント>
・ 本モデル契約における知的財産の定義を定める条項である。
<解説>
知的財産基本法第2条第1項における「知的財産」の定義を参考にして記述されている。
11 知的財産権
特許権、実用新案権、意匠権、著作権その他の知的財産に関して法令により定められた権利(特許を受ける権利、実用新案登録を受ける権利、意匠登録を受ける権
利を含む。)をいう。
<ポイント>
・ 本モデル契約における知的財産権の定義を定める条項である。
<解説>
本モデル契約においては「知的財産権」には、知的財産権により保護されるノウハウを除き、ノウハウに関する権利を含まないことを前提としているため、知的財産基本法における
「知的財産権」の定義を一部修正している。
【以上、経済産業省ガイドライン104頁】
<補足説明>
知的財産基本法第第2条第3項では、「この法律で『知的財産権』とは、特許権、実用新案権、👉成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう。」と定義されている。このうち、本モデル契約において除外されている「法律上保護される利益に係る権利」には、不正競争防止法上の保護を受ける営業秘密や限定提供データが含まれると解される(経済産業省知的財産政策室編『逐条解説不正競争防止法』平成27年版25頁参照)。
そのため、不正競争防止法上の営業秘密や限定提供データに係る権利については、本条項の知的財産権には該当しないこととなる。なお、不正競争防止法上の営業秘密や限定提供データについては、本条第10項の知的財産として取り扱われることになる。
12 本件成果物
別紙「業務内容の詳細」の「ベンダがユーザの委託に基づき開発支援を行う成果物の明細」に記載された成果物をいう。
<ポイント>
・ 本モデル契約における本件成果物の定義を定める条項である。
<解説>
学習済みモデルの開発契約における主要な成果物として、推論処理に必要となるプログラム(本学習済みモデル)、学習時にだけ必要となるプログラム(学習用プログラム)、学習用データセット等が考えられる。
本件成果物の内容については、当事者間で明確となっている必要がある。たとえば、学習用データセットを本件成果物とする場合には、アノテーション済みのデータを意味しているのか、前処理用プログラムを適用した後のデータを意味しているのかといった認識について、当事者間ですり合わせを行い、本件成果物の内容(加えて本モデル契約では第2条第3項に規定する学習用データセットの定義)として契約書に明記しておくこと等が考えられる。
(業務内容)
第3条 ユーザはベンダに対し、別紙「業務内容の詳細」の「具体的作業内容」に記載された業務(ただし、ユーザの担当業務を除く。以下「本件業務」という。)の提供を依頼し、ベンダはこれを引き受ける。
<ポイント>
・ 本モデル契約における業務内容を定める条項である。
<解説>
1 本件業務は本開発のために必要な業務のうちベンダが提供する業務のことを指す。
2 本モデル契約の業務内容としては一定の成果物を完成させる(請負型)のではなく、特定の学習済みモデルの生成業務を行う(準委任型)というものである。準委任型契約においては具体的な業務内容を明確にする必要があるため、別紙にて本件業務の具体的な業務内容を明示している。
【以上、経済産業省ガイドライン104頁】
(委託料およびその支払時期・方法)第4条
1 本件業務の対価は別紙「業務内容の詳細」の「委託料」で定めた金額とする。
2 ユーザはベンダに対し、本件業務の対価を、別紙「業務内容の詳細」の「委託料の支払時期・方法」で定めた時期および方法により支払う。
<ポイント>
・ 本件業務の対価としての委託料の金額、支払時期および支払方法を定める条項である。
<解説>
1 準委任型の契約類型における委託料の支払条件については、様々なパターンが想定されるが、大きく分けると、一定の成果に対して報酬を支払う成果完成型と場合と、ベンダが提供した役務に応じて報酬を支払う履行割合型とする場合の2つの類型が考えられる。成果完成型の場合には、たとえば、一定の成果に対して、固定金額を支払うアレンジをすることが考えられる。他方、履行割合型の場合には、人月単位または工数単位に基づく算定方法のみ規定し、毎月の委託料を算定する方法とすること等が考えられる。
2 委託料の支払方法としては、成果完成型については、①一定の時期に一括して支払う方式、②着手時および業務完了時等に分割して支払う方式が考えられる。履行割合型では、上記①と②に加えて、③一定の業務時間に達するごとに当該業務時間分の対価を支払う方式も考えられる。なお、これらはあくまでも、一例にすぎず、ユーザおよびベンダが置かれた状況に照らして様々な方式があり得る。
3 また、ユーザが、ベンダが開発前から保有していたり、開発後にベンダに知的財産権が帰属する学習済みモデル等を利用する場合には、委託料とは別途に、その利用についてのライセンス料の支払いを定めることも考えられる。
4 なお、ベンダが中小企業の場合には下請法が適用される場合があり、委託料の支払時期等に規制がある点に留意する必要がある(経済産業省ガイドライン(AI 編)第3-5-⑶)。
【以上、経済産業省ガイドライン104頁】
(作業期間)
第5条 本開発の作業期間は、別紙「業務内容の詳細」の「作業期間」に定めたとおりとする。
(協力と各自の作業分担)第6条
1 ユーザおよびベンダは、本契約の履行においてはお互いに協力しなければならない。
2 ユーザとベンダの作業分担は、別紙「業務内容の詳細」の「作業体制」および「具
体的作業内容」においてその詳細を定める。
<ポイント>
・ 契約の履行に際してのユーザ・ベンダ各自の協力義務と役割分担を定める条項である。
<解説>
1 AI 技術を利用したソフトウェアの開発においては、ユーザによるデータやノウハウの提供が開発の成否を決めることもあることや、本モデル契約ではベンダが成果物の完成義務を負っていないことからベンダの業務内容を明確にする必要性があるため、ユーザ・ベンダの役割分担を明確にする観点から、それぞれの遂行すべき具体的作業内容を定めることが望ましい。
2 別紙「業務内容の詳細」の「作業体制」の項目および「具体的作業内容」の項目はあくまで例示であり、開発規模によっては「具体的作業内容」のみ定めれば足りる場合もあると思われる。
【以上、経済産業省ガイドライン105頁】
<補足説明>
なお、本モデル契約は、ユーザとベンダの立場が比較的分離されているケースを想定しているものの、実際には、共同開発に近い形での開発が行われることも少なくない。そのような場合には、本モデル契約とは前提を異にするため、本モデル契約の内容が妥当しないことがあることに留意されたい。
(ベンダの義務)第7条
1 ベンダは、情報処理技術に関する業界の一般的な専門知識に基づき、善良な管理者の注意をもって、本件業務を行う義務を負う。
2 ベンダは、本件成果物について完成義務を負わず、本件成果物等がユーザの業務
課題の解決、業績の改善・向上その他の成果や特定の結果等を保証しない。
<ポイント>
・ 本件業務を履行するに際してのベンダの法的義務、および本件成果物性能の非保証を定める条項である。
<解説>
1 準委任の契約類型においては、受任者は、委任事務の遂行について、善管注意義務を負う。そのため、本モデル契約では、1項において、ベンダが善管注意義務を負うことを確認している。
2 準委任の契約類型においては、請負契約と異なり、受任者は、成果物について完成義務を負わない。そのため、2項では、ベンダが完成義務を負わないことを明確にしている。このことは、成果完成型であっても、履行割合型であっても変わりはない。
3 もっとも、成果完成型の場合には、そもそも成果完成型とは準委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払う旨の合意がされている場合であることから、成果が完成しないと報酬の支払条件を満たさないことになるため、実質的には成果物の完成が要求されることになる場合が少なくないと思われる。
加えて、成果完成型の場合には、いかなる場合に成果物が完成したかについて指標を定める必要がある。他方、そのような指標ですら満たすことを約束できないとのことであれば、履行割合型を採用することが考えられる。
4 ユーザの課題解決は、ユーザの事業や社内の既存ルール・制約や組織と深く関連し、ユーザの意思決定の下に行われることや、ベンダのコントロール下にない未知の入力(データ)に対する学習済みモデル等の挙動について、ベンダが性能保証をすることが困難であることを踏まえて、2項を設けた。
【以上、経済産業省ガイドライン105頁】
<補足説明>
1 履行割合型の準委任契約であっても、納品すべき成果物について契約で取り決めを行うことは、問題がない。この場合、民法上の受任者の義務が、契約によって修正されたと考えることになる。
つまり、準委任契約の性質を有するか、請負契約の性質を有するかについては、事務処理を行うことを目的とする契約であるのか、仕事の完成を目的とする契約であるのかによって区別される。そのため、受任者に成果物の納品義務を負わせたとしても、受任者が成果物の完成義務を負わず、事務処理を行うことが契約の目的とされているのであれば、準委任契約の性質を有することになる。このような理解から、本モデル契約は、準委任契約の性質を有すると解釈することとなる。
2 特に、上記<解説>2および4記載のとおり、未知のデータに対する学習済みモデルの出力の精度についてベンダ側で保証することは困難であると考えられることから、第2項を設け完成義務を負わないことを明記することで、準委任契約であることを明確にしている。
3 もっとも、PoC 段階を経ており、成果物となる学習済みモデルに一定の性能が期待できることからすると、ユーザ側の要望として、本学習済みモデルについて一定の性能保証を求めたいということも考えられる。そのような場合には完成義務を課すことが考えられ、性能の評価方法について、開発の時点で既知のデータを用いるのか、未知のデータを用いるのか等も含めて検討を行い、ベンダが負担する完成義務の内容を明確なものとすることが望ましいと考えられる。
(責任者の選任および連絡協議会)
第8条
1 ユーザおよびベンダは、本開発を円滑に遂行するため、本契約締結後速やかに、本開発に関する責任者を選任し、それぞれ相手方に書面(電磁的方法を含む。以下同じ)で通知するものとする。また、責任者を変更した場合、速やかに相手方に書面で通知するものとする。
2 ユーザおよびベンダ間における本開発の遂行にかかる、要請、指示等の受理および相手方への依頼等は、責任者を通じて行うものとする。
3 責任者は、本開発の円滑な遂行のため、進捗状況の把握、問題点の協議および解決等必要事項を協議する連絡協議会を定期的に開催する。なお、開催頻度等の詳細については、別紙「業務内容の詳細」の「連絡協議会」に定めるとおりとする。ただし、ユーザおよびベンダは、必要がある場合、理由を明らかにした上で、随時、
連絡協議会の開催を相手方に求めることができるものとする。
<ポイント>
・ ユーザとベンダのやり取りをスムーズに行うために、双方の窓口となる責任者を任命する。
・ 進捗状況の報告等を定期的に行う会議を開催し、課題等について情報の共有を行う。必要に応じて、緊急の会議を開催することも可能である。
<解説>
1 AI 技術を利用したソフトウェア開発においては、当初の想定と異なる事態が生じ、分析手法や検証内容、データの内容、形式等を、当初の想定から変更する必要が生じる場合もある。このような事態が発生した場合には、適宜、連絡協議会でその旨について両者で協議を実施し、相互の認識を共有することがトラブル回避の観点から重要である。
2 連絡協議会の内容については、議事録を作成して、協議の内容を明確にしておくことが後の紛争予防の観点から重要である。
3 開発の進捗により、当初の想定と大幅な変更が生じて、契約条件(検証期間や費用、作業内容等)を変更する必要が生じた場合は、10条の変更協議の規定に従う。
【以上、経済産業省ガイドライン106頁~107頁】
4 なお、本条第3項但書については、連絡協議会の開催を求められた相手方において、どのような場合に応諾する義務があるのか明記することも考えられる。
(再委託)第9条
1 ベンダは、ユーザが書面によって事前に承認した場合、本件業務の一部を第三者
(以下「委託先」という。)に再委託することができるものとする。なお、ユーザが上記の承諾を拒否するには、合理的な理由を要するものとする。
2 前項の定めに従い委託先に本検証の遂行を委託する場合、ベンダは、本契約における自己の義務と同等の義務を、委託先に課すものとする。
3 ベンダは、委託先による業務の遂行について、ユーザに帰責事由がある場合を除き、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。ただし、ユーザの指定した委託先による業務の遂行については、ベンダに故意または重過失がある場
合を除き、責任を負わない。
<ポイント>
・ 本件業務の遂行に際しての再委託の可否および再委託が行われた場合のベンダの責任内容について定める条項である。
<解説>
1 再委託の可否については、モデル契約20072において「A 案:再委託についてユーザの事前承諾を要するパターン」と「B 案:再委託先の選定について原則としてベンダの裁量により行えるパターン」が示されている。
2 AI 技術を利用したソフトウェアの開発においてはベンダの技術力に着目して開発契約が締結されることから本モデル契約においてはユーザの事前承諾を必要とする A 案によるものとした。
3 また、学習用データセットの作成に際して、たとえば、アノテーションの作業については人手を要する作業であることが多いため、第三者に再委託することも考えられる。このような場合、秘密性を有するデータを取り扱う場合があることからも、ユーザの同意を取得する A 案によるものとした。
【以上、経済産業省ガイドライン107頁】
<補足説明>
本モデル契約のような準委任契約においては、原則として、受任者側の能力に着目して契約を締結していると考えられていることから、民法上のルールでは、受任者が再委託をすることはできないこととされている(民法104条)。そのため、本条項を削除した場合であっても、ベンダは、ユーザの承諾がない限り、再委託を行うことはできない。
(本契約の変更)
第10条
2 2007 年公表の経済産業省のモデル取引・契約書(第一版)を意味する(経済産業省ガイドライン 7 頁)。以下本ガイドライン内における経済産業省ガイドラインの引用部分につき同じ。
1 本契約の変更は、当該変更内容につき事前にユーザおよびベンダが協議の上、別途、書面により変更契約を締結することによってのみこれを行うことができる。
2 ユーザおよびベンダは、本開発においては、両当事者が一旦合意した事項(開発対象、開発期間、開発費用等を含むが、これらに限られない。)が、事後的に変更される場合があることに鑑み、一方当事者より本契約の内容について、変更の協議の要請があったときは、速やかに協議に応じなければならない。
3 変更協議においては、変更の対象、変更の可否、変更による代金・納期に対する
影響等を検討し、変更を行うかについて両当事者とも誠実に協議する。
<ポイント>
・ 開発途中で本開発の内容等について変更する必要が生じた場合の変更手続を定める条項である。
<解説>
1 AI 技術を利用したソフトウェアの開発に際しては、それに用いる学習用データセットの量・質によって想定していた性能が出ない場合も多く、さらに学習には一定の時間を要するため再学習を行うと納期に間に合わない等、状況によって臨機応変に当初合意した開発条件を変更する必要がある。そこで、ユーザおよびベンダは合意事項について変更の要請があった場合には速やかに変更可否について協議することにした。
2 なお、本モデル契約においては変更協議の結果を必ず文書化することまでは必要としていないが、契約内容に重大な影響がある場合には文書化(変更契約書の作成等)をする必要がある。
3 また、変更協議が整わない場合の解除規定を設けることも考えられる(モデル契約2007第38条参照)。
【以上、経済産業省ガイドライン108頁】
4 「本契約」には、本開発の対象などが記載された別紙も含まれる。
5 本条第1項にいう「書面」は、本モデル契約第8条にいう「書面」と同義である。そのため、電子メール等の電磁的方法によることも可能である。
(本件成果物の提供および業務終了の確認)第11条
1 ベンダは、別紙「業務内容の詳細」の「業務の完了」に記載した成果物提供期限までに、ユーザに本件成果物を提供する。
2 ユーザは、別紙「業務内容の詳細」の「業務の完了」に記載した確認期間(以下
「確認期間」という。)内に、本件成果物の提供を受けたことを確認し、ベンダ所定の確認書に記名押印または署名の上、ベンダに交付するものとする。
3 前項の定めに従い、ユーザがベンダに確認書を交付した時に、ユーザの確認が完
了したものとする。ただし、確認期間内に、ユーザから書面で具体的な理由を明示して異議を述べないときは、確認書の交付がなくとも、当該期間の満了時に確認が
完了したものとする。
<ポイント>
・ ベンダによる本件成果物の提供およびそれを受けてのユーザによる確認方法を定める条項である。
<解説>
1 ベンダがユーザに提供する本件成果物については、別紙「業務内容の詳細」の「ベンダ がユーザの委託に基づき開発支援を行う成果物の明細」に定められている。本件成果物と しては、たとえば、学習済みモデルが考えられる。他方、ベンダがユーザに、学習済みモ デルを本件成果物として提供せず、その利用のみを許諾することも考えられる(その場合、当該学習済みモデルの利用条件は18条において定めることとなる。)。その場合には、本件 成果物が存在しないことになるので、本条における本件成果物を前提とした記載を修正 する必要がある。
2 準委任型契約である本モデル契約においては業務終了時点を明確化しておく必要があるため、このような条項を設ける必要がある。アジャイル開発モデル契約の個別契約(準委任型)5条と同趣旨の条項である。
【以上、経済産業省ガイドライン108頁~109頁】
(ユーザがベンダに提供するデータ・資料等)第12条
1 ユーザは、ベンダに対し、別紙「業務内容の詳細」の「本データの明細」のうち
「ユーザが提供するデータの明細」に記載されているデータ(以下「ユーザ提供データ」という。)を同別紙の条件に従い、提供するものとする。
2 ユーザは、ベンダに対し、本開発に合理的に必要なものとしてベンダが要求し、ユーザが合意した資料、機器、設備等(以下「資料等」という。)の提供、開示、貸与等(以下「提供等」という。)を行うものとする。
3 ユーザは、ベンダに対し、ユーザ提供データおよび資料等(以下まとめて「ユーザ提供データ等」という。)をベンダに提供等することについて、正当な権限があることおよびかかる提供等が法令に違反するものではないことを保証する。
4 ユーザは、ユーザ提供データ等の正確性、完全性、有効性、有用性、安全性等について保証しない。ただし、本契約に別段の定めがある場合はその限りでない。
5 ユーザがベンダに対し提供等を行ったユーザ提供データ等の内容に誤りがあっ
た場合、またはかかる提供等を遅延した場合、これらの誤りまたは遅延によって生
じた完成時期の遅延、瑕疵(法律上の瑕疵を含む。)等の結果について、ベンダは責任を負わない。
6 ベンダは、ユーザ提供データ等の正確性、完全性、有効性、有用性、安全性等に
ついて、確認、検証の義務その他の責任を負うものではない。
<ポイント>
・ 本開発に際して、ユーザがベンダにデータ・資料等を提供すること、および提供されたデータ・資料等の誤りや不足によって開発遅延等が生じた場合にベンダが責任を負わないことを定めた条項である。
<解説>
1 通常のシステム開発においてはユーザによる資料(「資料等」)提供が行われるが、AI 技術を利用したソフトウェア開発の場合、それに加えてユーザからベンダに学習のためにデータ(「ユーザ提供データ等」)の提供が行われることが一般的である(1項、2項)。
2 当該資料等およびユーザ提供データ(「ユーザ提供データ等」)の開示権限の有無および適法性は、開示をする前提となるものであり、またユーザ自身が把握できることから、ユーザによる表明保証を行うことにしている(3項)。
3 他方、ユーザ提供データ等の内容の正確性等について、ユーザが表明保証を行うか否かは、かかるデータ等の提供に実質的な有償性が認められるか否か等、個別の事情に左右されるところが大きい。そのため、原則として、非保証としつつも、本契約や別紙で別段の定めがある場合には、かかる定めが優先することを示した(4項)。なお、ユーザ提供データ等について、本開発目的への利用のみならず、他目的利用を許容する場合(13条2項ただし書の別紙で定める場合)には、ユーザ以外の者にユーザ提供データを利用した成果物等が提供され得ることから、必要に応じて、本契約や別紙等に、当該他目的利用に関するユーザ提供データ等の保証についての定めを置くことが考えられる。
4 ユーザ提供データについて、その量が不十分であったために、本件成果物の完成時期の遅延や瑕疵等が生じた場合には、合意したデータが開発に必要な時期に提出されていないことから、データの提供を遅延したものとして、5項が適用されることとなる。
5 2項については、代替条項として、ベンダがユーザに対して資料やデータの提示を請求できることを盛り込むことも考えられる。その場合の条項例は、「ベンダは、ユーザに対し、ユーザが保有する本開発の遂行に必要な文書、図面、ソフトウェア、データその他の資料
(記録された媒体の種類を問わず、電磁的記録を含む。)の開示または提供を請求することができる。」となる。
【以上、経済産業省ガイドライン109頁~110頁】
(ユーザ提供データの利用・管理)
第13条
1 ベンダは、ユーザ提供データを、善良な管理者の注意をもって管理、保管するものとし、ユーザの事前の書面による承諾を得ずに、第三者(第9条に基づく委託先ならびにユーザおよびベンダ間で定めた企業(以下「指定企業」という。)を除く。)に開示、提供または漏えいしてはならないものとする。
2 ベンダは、事前にユーザから書面による承諾を得ずに、ユーザ提供データについて本開発遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本開発遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できるものとする。ただし、別紙に別段の定めがある場合はこの限りではない。
3 ベンダは、ユーザ提供データを、本開発遂行のために知る必要のある自己の役員および従業員に限り開示するものとし、この場合、本条に基づきベンダが負担する義務と同等の義務を、開示を受けた当該役員および従業員に退職後も含め課すものとする。
4 べンダは、ユーザ提供データのうち、法令の定めに基づき開示すべき情報を、可能な限り事前にユーザに通知した上で、当該法令の定めに基づく開示先に対し開示することができるものとする。
5 本件業務が完了し、もしくは本契約が終了した場合またはユーザの指示があった場合、ベンダは、ユーザの指示に従って、ユーザ提供データ(複製物および改変物を含む。)が記録された媒体を破棄もしくはユーザに返還し、また、ベンダが管理する一切の電磁的記録媒体から削除するものとする。ただし、本条第2項での利用に必要な範囲では、ベンダはユーザ提供データ(複製物および改変物を含む。)を保存することができる。なお、ユーザはベンダに対し、ユーザ提供データの破棄または削除について、証明する文書の提出を求めることができる。
6 ベンダは、本契約に別段の定めがある場合を除き、ユーザ提供データの提供等により、ユーザの知的財産権を譲渡、移転、利用許諾するものでないことを確認する。
7 ベンダは、ユーザ提供データを指定企業に開示する場合には、本条に基づきベンダが負担する義務と同等の義務を、当該指定企業に課すものとする。
8 本条の規定は、第6項を除き、本契約が終了した日より●年間有効に存続するものとする。
<ポイント>
・ ユーザからベンダに提供されたユーザ提供データに関する扱いを定める条項である。
<解説>
1 本開発のためにユーザからベンダに提供されたユーザ提供データについては、ベンダは善良な管理者としての管理義務を負う(1項)。なお、本条の対象は「ユーザ提供データ
等」ではなく「ユーザ提供データ」のみであり、ユーザ提供データに含まれない「資料等」
(12条2項)については、秘密情報の取扱いを定める14条での保護対象となる。
2 その上で、本条は、本開発に必要な範囲での利用(2項)において、ベンダがユーザ提供データを利用することを明示している。
3 また、ベンダにおいて、ユーザ提供データを本開発とは別の目的(例えば、別サービスの開発のため等)で利用することを要請する場合もあり得る(なお、生成された学習済みモデル(再利用モデル)を第三者に提供する行為はユーザ提供データの他目的利用にあたるとの疑義がユーザから呈される可能性がある。)。
このような他目的利用についても、一定の条件を前提に許容することに合理性があることも想定されることから、ユーザ提供データの他目的利用を許容する条項(2項ただし書)を設け、ユーザ・ベンダ間で合意した他目的利用の範囲を別紙「ユーザ提供データの利用条件」に記載することとした。なお、当事者が、本契約等において、第三者に対する学習済みモデル等の提供を明示的に認めている場合には、かかる利用については、2項ただし書の別紙を作成して記載する必要はないと考えられる。
4 5項で、ユーザ提供データの破棄または削除の証明書(以下「削除証明書」という。)の提出について規定しているが、例えば、ベンダがユーザ提供データを他社のクラウドサービスを利用して他社サーバに保管している場合などでは、削除証明書の提出に別費用がかかる場合や、そもそも削除証明書の提出が認められない場合もあり得る。そのような場合は、削除証明書の提出ではなく、クラウドベンダに対する削除指示を証明する文書の提出などに変更する必要があることに留意されたい。
5 なお、本条は、ユーザ提供データそのものの利用・管理を定めた規定である。ユーザ提供データを利用して生成された学習済みモデル、学習用データセット等は、ユーザ提供データの派生データを含むのが一般的であるが、これらの利用・管理については、18条により定めることとしている。
6 本条は、存続条項があるため(27条)、本契約の終了後も効力を有する。もっとも、8項の規定により、効力を有する期間は●年間となる。ただし、8項に、「第6項を除き」と規定されていることから、6項の規定については、原則に戻り、期間の定めなく効力を有することになる。
【以上、経済産業省ガイドライン111頁~112頁】
7 ユーザ提供データの改変物については、ユーザ提供データと同一性が認められる場合や、改変物からユーザ提供データの復元が可能な場合等には、ベンダは、改変物についても善管注意義務を負うことになると解される。これに対して、ユーザ提供データとの同一性が失われたと評価される改変物や、改変物からユーザ提供データの復元が不可能な場合等には、ベンダは、改変物については善管注意義務を負わないものと解される。
このように、改変物については、その程度によって取扱いが異なるとすることもあり得るものの、本モデル契約においては、第14条(秘密情報の取扱い)第4項において、ユー
ザ提供データの改変物については、一律にユーザの秘密情報として取扱うこととし、契約当事者が負担する義務の内容が明確となるようにしている。
8 また、主としてユーザのグループ会社などのユーザと密接な関係がある企業については、ユーザに準じた取扱いができるようにするため、「指定企業」という概念を設けている。個別のケースに合わせて、適宜の記載をされたい。ただし、以下の補足説明にある限定提供データとして管理するためには、指定企業の範囲は特定される必要がある。
<補足説明>
1 不正競争防止法は、いわゆるビッグデータを、一定の要件のもとで限定提供データとして保護している。そして、この限定提供データに該当するためには、秘密として管理されていないことが必要となる。本条項は、ユーザ提供データを不正競争防止法上の限定提供データに該当させることを意識した記述となっている(ただし下記2末尾のなお書き参照)。そのため、ベンダが負う義務の水準は、第14条(秘密情報の取扱い)における秘密保持義務ではなく、善管注意義務となっている。一方で、委託先および指定企業を除く第三者への開示、提供または漏えいについて禁止している点は第14条(秘密情報の取扱い)と同様であるが、同条が秘密保持の観点から第三者開示を禁止しているのに対し、本条では限定提供データの一要件である限定的な外部提供性を確保する目的で第三者開示を禁止している。
2 また、ユーザ提供データが秘密として管理されていなかったとしても、ユーザ提供データの改変物については、新たに秘密として保護することも可能である。さらに、不正競争防止法においては、営業秘密のほうが、限定提供データよりも保護の程度が高度のものとなっている。そこで、ユーザ提供データの改変物については、本条項ではなく、第14条に定める秘密情報として取り扱うことにしている。なお、ユーザ提供データ自体も、限定提供データとしてではなく秘密情報として取り扱うことも考えられる。ユーザはユーザ提供データの内容および取り扱いを踏まえ、データの管理について規定する必要がある。
3 もっとも、学習用データセットについて納品を受けた上で、学習用データセットを流通させることをユーザが予定しているような場合には、本条項によって規律することが妥当であると考えられる。
<経済産業省ガイドラインからの変更点>
ユーザのグループ会社など、ユーザに準じて扱う必要がある者として、「指定企業」との定義を設けた。また、ユーザ提供データの改変物については、ベンダが秘密保持義務を負う秘密情報として取り扱うこととした。
(秘密情報の取扱い)
第14条
1 ユーザおよびベンダは、本開発遂行のため、相手方より提供を受けた技術上または営業上その他業務上の情報(ただし、ユーザ提供データを除く。)のうち、次のいずれかに該当する情報(以下「秘密情報」という。)を秘密として保持し、秘密情報の開示者の事前の書面による承諾を得ずに、第三者(本契約第9条に基づく委託先および指定企業を除く。)に開示、提供または漏えいしてはならないものとする。
① 開示者が書面により秘密である旨指定して開示した情報
② 開示者が口頭または視覚的手段(以下「口頭等」という。)により秘密である旨を示して開示した情報で開示後●日以内に書面により内容を特定した情報。なお、口頭等により秘密である旨を示して開示した日から●日が経過する日または開示者が秘密情報として取り扱わない旨を書面で通知した日のいずれか早い日までは当該情報を秘密情報として取り扱う。
③ 別紙「秘密情報一覧表」に定める情報
2 前項の定めにかかわらず、次の各号のいずれか一つに該当する情報については、秘密情報に該当しない。
① 開示者から開示された時点で既に公知となっていたもの
② 開示者から開示された後で、受領者の帰責事由によらずに公知となったもの
③ 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に開示されたもの
④ 開示者から開示された時点で、既に適法に保有していたもの
⑤ 開示者から開示された情報を使用することなく独自に開発したもの
3 ユーザおよびベンダは、秘密情報について、本契約に別段の定めがある場合を除き、事前に開示者から書面による承諾を得ずに、本開発遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本開発遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できるものとする。
4 ユーザおよびベンダは、ユーザ提供データまたは秘密情報の改変物を作成した場合、これらについても、改変前のユーザ提供データまたは秘密情報の開示者の秘密情報として取り扱うものとする。
5 秘密情報の取扱いについては、前条第3項から第7項の規定を準用する。この場合、同条項中の「ユーザ提供データ」は「秘密情報」と、「ベンダ」は「秘密情報の受領者」と、「ユーザ」は「開示者」、「善管注意義務」は「秘密保持義務」と読み替えるものとする。
6 本条の規定は本契約が終了した日より●年間有効に存続するものとする。
<ポイント>
・ 相手から提供を受けた秘密情報の管理に関する条項である。
<解説>
1 モデル契約2007第41条、モデル契約2008第7条、アジャイル開発モデル契約の基本契約
9条と同趣旨の条項である。
ただし、ユーザからベンダに提供されたユーザ提供データの秘密保持等の管理については、前条で規定しているため、1項において秘密情報の対象から除外している。
2 また、AI 技術を利用したソフトウェア開発の場合、開発過程で生じた学習用データセットや成果物である本学習済みモデル、または本学習済みモデルを元に生成された再利用モデルを秘密情報として取り扱う必要があるケースも想定しうる。その場合には、1項の③④⑤として必要に応じて学習用データセット、本学習済みモデルおよび再利用モデルを秘密情報として明示的に指定することも考えられる。これらを秘密情報として取り扱うことで、不正競争防止法における営業秘密としての秘密管理性の要件を満たしやすくなる。なお、学習用データセット、本学習済みモデルおよび再利用モデル等を秘密情報に含める場合、特許を受ける権利が帰属する当事者が出願を行うときには、秘密保持義務の適用を除外する等の定めが必要となると考えられる。
3 なお、学習用データセットについて、上記のように14条1項3号で定めるのではなく、13条の規定が適用される規定を設けて、ユーザ提供データと同様の取扱いをすることも考えられる。たとえば、ユーザ提供データに近い状態の学習用データセットについては、そのような規定の方がユーザ提供データと学習用データセットを同一の条文で扱うことができて便宜なことも考えられる。
4 本モデル契約18条において、本件成果物等を様々な条件で利用することが想定されているところ、その利用が秘密情報の目的外使用とされるおそれがあることから、3項において、本モデル契約で「別段の定め」を設ける場合には、秘密情報の本モデル契約の目的外での利用を認めることを明示的に定めている。
5 5項において前条の対象データの取扱いの規定を準用している。もっとも、存続期間については、対象データと秘密情報の存続期間が異なることを想定しているため、準用していないが、同一期間とする場合には準用することも可能である。
【以上、経済産業省ガイドライン112頁~113頁】
6 秘密情報の改変物については、改変前の秘密情報と同一性が認められる場合や、改変物から改変前の秘密情報の復元が可能な場合等には、開示を受けた者は、改変物についても秘密保持義務を負うことになると解される。これに対して、改変前の秘密情報との同一性が失われたと評価される改変物や、改変物から改変前の秘密情報の復元が不可能な場合等には、開示を受けた者は、改変物については秘密保持義務を負わないものと解される。このように、改変物については、その程度によって取扱いが異なるとすることもあり得
るものの、本モデル契約においては、本条第4項において、秘密情報の改変物については、
一律に改変前の秘密情報の開示者の秘密情報として取扱うこととし、契約当事者が負担する義務の内容が明確となるようにしている。
7 本開発終了後に、本件成果物等の改良発明を特許出願する場合、本件成果物等が未公開情報のときには、本件成果物等の発明者とその改良発明の発明者が異なるのであれば共同発明となるため、改良発明について単独で出願をすることができない。そのため、特許出願の前提として、本条の定めにかかわらず、双方が協議を行う必要がある。
<経済産業省ガイドラインからの変更点>
ユーザのグループ会社など、ユーザに準じて扱う必要がある者として、「指定企業」との定義を設けた。また、秘密情報の改変物についても、改変前の秘密情報の開示を受けた者が秘密保持義務を負うこととした。
(個人情報の取り扱い)第15条
1 ユーザは、本開発の遂行に際して、個人情報の保護に関する法律(本条において、以下「法」という。)に定める個人情報または匿名加工情報(以下、総称して
「個人情報等」という。)を含んだデータをベンダに提供する場合には、事前にその旨を明示する。
2 本開発の遂行に際してユーザが個人情報等を含んだデータをベンダに提供する場合には、法に定められている手続を履践していることを保証するものとする。
3 ベンダは、第1項に従って個人情報等が提供される場合には、法を遵守し、個人
情報等の管理に必要な措置を講ずるものとする。
<ポイント>
・ ユーザがベンダに提供するユーザ提供データ等に個人情報や匿名加工情報が含まれている場合に関する条項である。
<解説>
1 通常のシステム開発と異なり、AI 技術を利用したソフトウェアの開発に際してはユーザからベンダに対して大量のデータが提供されるが、そのデータの中に個人情報が含まれていることがある。その場合、当該データの提供に際しては、個人情報保護法で求められる手続をユーザ側で履践するか、個人を特定できない形に加工した上で提供をする必要があるため、その点についてのユーザ側の保証を定めた。
2 モデル契約2007第42条にも同様の規定があるが、旧個人情報保護法に基づくものであり、平成27年改正法で規定された匿名加工情報の規定が存在していないため、匿名加工情報に関する文言を追加した。
3 モデル契約2007第42条3・4項の目的範囲内利用、返却の規定については、個人情報は通常はユーザ提供データとしてベンダに提供されるため、本モデル契約13条2項または5項においてカバーされることになることから、本条では規定していない。
【以上、経済産業省ガイドライン113頁~114頁】
(本件成果物等の著作権)第16条
1 本件成果物および本開発遂行に伴い生じた知的財産(以下「本件成果物等」という。)に関する著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む。)は、ユーザのベンダに対する委託料の支払いが完了した時点で、ユーザ、ベンダまたは第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、ユーザまたはベンダに、別紙「著作権帰属一覧表」記載のとおりに帰属させる。なお、ベンダからユーザへの著作権移転の対価は、委託料に含まれるものとする。
2 ユーザおよびベンダは、本契約に従った本件成果物等の利用について、他の当事者、指定企業および正当に権利を取得または承継した第三者に対して、著作者人格
権を行使しないものとする。
<ポイント>
・ 本件成果物等のうち「著作権の対象となるもの」の著作権の帰属について定める条項である。
<解説>
【16条、17条、18条】
1 AI 技術を利用したソフトウェアの開発においては、開発対象として合意された「本件成果物」(学習済みモデル等)や、「開発の過程で生じる知的財産」(学習用データセット、学習済みパラメータ、発明、ノウハウ等)が生じる。それらの「本件成果物」や、「開発の過程で生じる知的財産」(本条項では、両者をまとめて「本件成果物等」と定義している。)の中には「知的財産権」(特許権や著作権等)の対象になるものと、対象にならないものが含まれる。
そして、これら知的財産に関する知的財産権の帰属や知的財産の利用条件については、ユーザ、ベンダ双方の利害が対立する傾向にあることから契約で明確に規定しておくべきである。
なお、AI 技術を利用したソフトウェアについては、原則として知的財産権の対象とならない(あるいは知的財産権の対象となるのか否かが不明確である)データ等の重要性が相対的に増加している点に留意する必要があるが、これらについては知的財産権が成立しない場合には、そもそも知的財産権の帰属を定めることはできないため、その利用条件を定めることとなる。
2 本モデル契約では、本件成果物等を「知的財産権の対象となるもの」と「ならないもの」に分け、前者については「権利帰属」および(必要に応じて)「利用条件」を設定し、後者についても必要に応じて「利用条件」を設定することとしている。
3 本モデル契約においては、次の構成を取っている。
① 本件成果物等のうち「著作権の対象となるもの」の権利帰属
16条
② 本件成果物等のうち「著作権以外の知的財産権の対象となるもの」の権利帰属
17条
③ 利用条件
18条
【以上、経済産業省ガイドライン115頁】
4 学習済みモデルの開発契約においては、学習用データセット、学習用プログラム、学習済みモデルのプログラム部分、学習済みパラメータといった複数の成果物等が生じ得る。これらの著作権の全てを一方の当事者に帰属させることとすると、合意に至らない可能性がある。ユーザとベンダにおいてはそれぞれ著作権を確保したい成果物等が異なりうることから、円滑な契約交渉の一助となるよう、本モデル契約では別紙「著作権帰属一覧表」を設け、成果物等ごとに著作権の帰属を規定できる形式とした。
<経済産業省ガイドラインからの変更点>
本開発の過程で生じた著作物の著作権については、ベンダかユーザのいずれかに全てを帰属させるのではなく、円滑に契約交渉を進められる内容とするため、成果物等のそれぞれについて権利の帰属を定めることとした。
(本件成果物等の特許権等)第17条
1 本件成果物等にかかる特許権その他の知的財産権(ただし、著作権は除く。以下
「特許権等」という。)は、本件成果物等を創出した者が属する当事者に帰属するものとする。
2 ユーザおよびベンダが共同で創出した本件成果物等に関する特許権等については、ユーザおよびベンダの共有(持分は貢献度に応じて定める。)とする。この場合、ユーザおよびベンダは、共有にかかる特許権等につき、本契約に定めるところに従い、それぞれ相手方の同意なしに、かつ、相手方に対する対価の支払いの義務を負うことなく、自ら実施することができるものとする。
3 ユーザおよびベンダは、前項に基づき相手方と共有する特許権等について、必要
となる職務発明の取得手続(職務発明規定の整備等の職務発明制度の適切な運用、譲渡手続等)を履践するものとする。
<ポイント>
・ 本件成果物等のうち「著作権以外の知的財産権の対象となるもの」の特許権等の権利帰属について定める条項である。
<解説>
1 本件成果物等のうち「著作権以外の知的財産権の対象となるもの」(たとえば、発明等)については、その特許権等の帰属について、モデル契約2007第44条と同様に発明者主義を採用した。もっとも、当事者が、契約締結時に特許権等の権利帰属について定めることを希望するのであれば、著作権と同様に、そのような規定を設けることも考えられる。一方、開発段階における契約締結時に、特許権等の権利帰属について定めることが難しい場合は、経済産業省ガイドライン PoC 段階の導入検証契約書の17条【A 案】と同様に、両者協議して決定する、と規定することも考えられる。
2 なお、特許権等がユーザ・ベンダの共有となる場合(2項)には、前条と同様の理由から、本モデル契約においては相手方への支払いの義務を負うことなく利用できるのは自己実施のみとしている。
【以上、経済産業省ガイドライン117頁~118頁】
(本件成果物等の利用条件)
第18条 ユーザおよびベンダは、本件成果物等について、別紙「利用条件一覧表」記載のとおりの条件で利用できるものとする。同別紙の内容と本契約の内容との間に矛盾がある場合には同別紙の内容が優先するものとする。
<ポイント>
・ 本件成果物等のうち「知的財産権の対象となるもの」および「対象とならないもの」についての「利用条件」を定める条項である。
<解説>
1 別紙「利用条件一覧表」は、対象となる本件成果物等ごとに、①本開発目的(およびユーザの業務)のための自己利用、②上記①以外の他目的(再利用モデル生成目的等)のための自己利用、③第三者への開示、利用許諾、提供が認められるか否か、認められる場合の詳細条件を記載するようになっている。また、別紙「利用条件一覧表」の内容を本条で条文化することも考えられる。
2 より複雑な利用条件を設定する場合は、別途ライセンス契約を作成することも考えられる。
【以上、経済産業省ガイドライン118頁】
<補足説明>
1 第14条(秘密情報の取扱い)においては、特定の情報を秘密として取り扱うことについては合意しているものの、本件成果物等をどのように取り扱ってよいのかについては、本
件成果物等が秘密情報に該当するか否かにかかわらず、合意がなされていない。そのため、契約当事者間で、利用条件の取り決めを行っておくことが必要である。
2 別紙「利用条件一覧表」のユーザの利用条件「①」について、著作権の対象となるものの「利用」行為には、複製や改変等を行うことも含まれる。一定の利用行為を制限したい場合は、本モデル契約第19条に定めるように、明示的に制限する必要がある。
3 本モデル契約が提案する利用条件は、取り決めの一例であり、必ずしもこの通りに取り決めをしなくてはならないわけではない。委託料の額や、契約の目的に照らして、個々のケース毎に適切な取り決めを検討されたい。
<経済産業省ガイドラインからの変更点>
経済産業省ガイドラインにおいては、複数案が提示されている。本モデル契約においては、原則型のA案を採用した。利用条件をきめ細やかに調整できる形式とすることで、円滑な契 約交渉の一助となることを目的とする。
(リバースエンジニアリングおよび再利用等の生成の禁止)
第19条 【ユーザ/ベンダ】は、本契約に別段の定めがある場合を除き、本件成果物について、次の各号の行為を行ってはならない。
① リバースエンジニアリング、逆コンパイル、逆アセンブルその他の方法でソースコードを抽出する行為
〔② 再利用モデルを生成する行為〕
〔③ 学習済みモデルへの入力データと、学習済みモデルから出力されたデータを組み合わせて学習済みモデルを生成する行為〕
〔④ その他前各号に準じる行為〕
<ポイント>
・ 本件成果物のうち学習済みモデルをユーザまたはベンダが使用する際の禁止行為を定める条項である。
<解説>
1 本条項は、①リバースエンジニアリング、②学習済みモデルの再利用モデル、③いわゆる蒸留モデルの生成を禁止する条項である。また、契約の対象となる AI 技術によっては、上記①から③には必ずしも合致しない利用類型も想定されることから、④バスケット条項を設けている。ただし、いかなる場合に「準じる行為」に該当するといえるかは、対象となる技術のみならず、当事者の置かれた具体的な状況によっても左右されることから、原則論としては、可能な限り、禁止行為を特定することが望ましいといえるであろう。
2 また、ユーザとベンダのいずれが主体となるかは、17条及び18条を踏まえて、定める必要がある。
3 契約本文または別紙において、学習済みモデルの利用条件としてユーザに再利用モデル生成を許容する場合には2号を削除する等、利用条件規定との整合性をとる必要がある。
【以上、経済産業省ガイドライン119頁~120頁】
<補足説明>
再利用モデルについては、第2条第9項、学習済みモデルについては、第2条第5項において定義がなされているため、確認されたい。
(本件成果物等の使用等に関する責任)
第20条 ユーザによる本件成果物等の使用、複製および改変、並びに当該複製および改変等により生じた生成物の使用(以下「本件成果物等の使用等」という。)は、ユーザの負担と責任により行われるものとする。ベンダはユーザに対して、本契約で別段の定めがある場合またはベンダの責に帰すべき事由がある場合を除いて、ユーザによる本件成果物等の使用等によりユーザに生じた損害を賠償する責任を負わない。
<ポイント>
・ ユーザによる本件成果物等の使用等について、ベンダが原則として責任を負わない旨を定める条項である。
<解説>
1 本契約の法的性質(準委任契約)から、本件成果物等の使用等によって生じた損害については、ユーザの負担としている。もっとも、「本契約で別段の定めがある場合」と「ベンダの責に帰すべき事由がある場合」はその例外としている。
2 「本契約で別段の定めがある場合」とは、本モデル契約で言うと具体的には、第21条(知的財産権侵害の責任)の【A-1案】1項、【A-2案】1項及び【B 案】1項を指しているが、それ以外にもユーザ・ベンダの交渉により「別段の定め」を置くことは可能である。
【以上、経済産業省契約ガイドライン120頁】
第21条
【A-1案】ベンダが知的財産権非侵害の保証を行う場合(ユーザ主導)
1 本件成果物等の使用等によって、ユーザが第三者の知的財産権を侵害したときは、ベンダはユーザに対し、第22条(損害賠償)第2項所定の金額を限度として、かかる侵害によりユーザに生じた損害(侵害回避のための代替プログラムへの移行を行う場合の費用を含む。)を賠償する。ただし、知的財産権の侵害がユーザの
責に帰する場合はこの限りではなく、ベンダは責任を負わないものとする。
2 ユーザは、本件成果物等の使用等に関して、第三者から知的財産権の侵害の申立を受けた場合には、直ちにその旨をベンダに通知するものとし、ベンダは、ユーザの要請に応じてユーザの防御のために必要な援助を行うものとする。
【A-2案】ベンダが知的財産権非侵害の保証を行う場合(ベンダ主導)
1 ユーザが本件成果物等の使用等に関し第三者から知的財産権の侵害の申立を受けた場合、次の各号所定のすべての要件が充たされる場合に限り、第22条(損害賠償)の規定にかかわらずベンダはかかる申立によってユーザが支払うべきとされた損害賠償額及び合理的な弁護士費用を負担するものとする。ただし、第三者からの申立がユーザの帰責事由による場合にはこの限りではなく、ベンダは一切責任を負わないものとする。
① ユーザが第三者から申立を受けた日から●日以内に、ベンダに対し申立の事実及び内容を通知すること
② ユーザが第三者との交渉又は訴訟の遂行に関し、ベンダに対して実質的な参加の機会およびすべてについての決定権限を与え、ならびに必要な援助をすること
③ ユーザの敗訴判決が確定すること又はベンダが訴訟遂行以外の決定を行ったときは和解などにより確定的に解決すること
2 ベンダの責に帰すべき事由による知的財産権の侵害を理由として本件成果物等の将来に向けての使用が不可能となるおそれがある場合、ベンダは、ベンダの判断及び費用負担により、(ⅰ)権利侵害のないものとの交換、(ⅱ)権利侵害している部分の変更、(ⅲ)継続使用のための権利取得のいずれかの措置を講じることができるものとする。
3 第1項に基づきベンダが負担することとなる損害以外のユーザに生じた損害については、第22条(損害賠償)の規定によるものとする。
【B 案】ベンダが知的財産権非侵害(著作権を除く)の保証を行わない場合
1 本件成果物等の使用等によって、ユーザが第三者の著作権を侵害したときは、ベンダはユーザに対し、第22条(損害賠償)第2項所定の金額を限度として、かかる侵害によりユーザに生じた損害(侵害回避のための代替プログラムへの移行を行う場合の費用を含む。)を賠償する。ただし、著作権の侵害がユーザの責に帰する場合はこの限りではなく、ベンダは責任を負わないものとする。
2 ベンダはユーザに対して、本件成果物等の使用等が第三者の知的財産権(ただし、著作権を除く)を侵害しない旨の保証を行わない。
3 ユーザは、本件成果物等の使用等に関して、第三者から知的財産権の侵害の申立
を受けた場合には、直ちにその旨をベンダに通知するものとし、ベンダは、ユーザ
の要請に応じてユーザの防御のために必要な援助を行うものとする。
<ポイント>
・ ユーザが本件成果物等を使用等したことにより第三者の知的財産権を侵害した場合の条項である。
<解説>
1 20条においてユーザによる本件成果物等の使用等によって生じた損害についての定めを置いているが、本条は、そのうち「第三者の知的財産権の侵害による損害」についての特則である。
2 第三者の知的財産権(特許権等)については、ベンダにおいて侵害の有無を完全に調査検証することは事実上困難なことも少なくなく、海外を含めて調査検証をするとなれば多額の費用を要することもあると考えられる。第三者の知的財産権の侵害時の責任分担については、個別取引の実情にしたがった規定を設けることになるが、本モデル契約では 3案を提示した。
3 【A-1案】では、ベンダが本件成果物等の利用について、第三者の知的財産権の非侵害を保証している。【A-1案】1項は、20条における「本契約で別段の定めがある場合」に該当する。
【A-1案】では、ユーザが主体的に紛争を解決することを想定しており、ユーザが権利者に支払うこととなった損害賠償額等について委託料を上限としてベンダが負担することとしている。
なお、ベンダによる知的財産権の非侵害の保証について「ベンダの知る限り」と留保を付すことも考えられる。その場合、【A-1案】1項を、次のように修正することになる。
【A-1案】ベンダが知的財産権非侵害の保証を行う場合(ユーザ主導)
1 ベンダは、ユーザに対し、ベンダの知る限りにおいて、本件成果物等が第三者の知的財産権を侵害しないことを保証する。当該保証に違反して、ユーザによる本件成果物等の使用等によって、ユーザが第三者の知的財産権を侵害したときは、ベンダはユーザに対し、第22条(損害賠償)第2項所定の金額を限度として、かかる侵害によりユーザに生じた損害(侵害回避のための代替プログラムへの移行を行う場合の費用を含む。)を賠償する。ただし、知的財産権の侵害がユーザの責に帰する場合はこの限りではなく、
ベンダは責任を負わないものとする。
4 【A-2案】も、【A-1案】同様に、ベンダが本件成果物等の利用について、第三者の知的財産権の非侵害を保証している。【A-2案】1項も、20条における「本契約で別段の定めがある場合」に該当する。
【A-2案】では、ベンダが主体的に紛争を解決することを想定しており、そのため、損害賠償額について、特に上限を定めていない。
5 【B 案】では、ベンダに本件成果物等に関する知的財産権(著作権を除く)の非侵害の保証をしないものとしている。たとえば、ベンダがベンチャー企業のような場合には、侵害の有無を調査検証する十分な人材や財力がないことも多く、ベンダに知的財産権の非侵害の調査義務や責任分担を課すとすれば、開発そのものが阻害されたり、開発スピードの低下が生じることになる。AI 技術においては技術発展のスピードは著しく早いことから、開発スピードの低下は致命的なマイナスを招くこともある。また、委託料についても、ベンダが知的財産権の非侵害調査を行わなければならないとすれば、そのコストを反映して、増加することになる。そこで、開発の実施、開発のスピード確保、委託料の増加の防止といった観点から、ベンダにそのような義務や責任を負担させないことがユーザにとっても合理的な選択となる場合も想定されるため、ベンダに知的財産権の非侵害の保証をしない規定も設けた。
6 もっとも、【B 案】においても、知的財産権のうち、著作権(たとえばプログラムの著作権)については、侵害成立の要件として依拠性が必要とされるところ、ベンダにおいて侵害がないことを保証できる場合が多いと思われる。そのため1項において本件成果物等が第三者の著作権を侵害する場合の損害賠償義務を定めている。【B 案】1項は、20条における「本契約で別段の定めがある場合」に該当する。
7 また、本モデル契約では成果物の使用地域が日本国内であることを前提としているが、国外での使用が想定される場合、知的財産権の非侵害保証の地域限定(たとえば、日本およびアメリカにおける著作権の非侵害について保証するとする等)について規定することも考えられる。
【以上、経済産業省ガイドライン121頁~123頁】
<補足説明>
【A-1案】では、ユーザが紛争解決を主導する反面、ベンダは損害賠償の金額について、ユーザの紛争の相手方である第三者と直接的に争うことは前提とされていない。そのため、ユーザが第三者に対して負担することとなる損害賠償の金額については、ベンダのコントロールの範囲外となるため、第22条2項所定の金額を損害賠償額の上限として定めている。これに対して、【A-2案】では、ベンダが紛争解決を主導することから、ユーザが第三者に対して負担することとなる損害賠償の金額について、ベンダによる一定のコントロールが及ぶため、損害賠償額の上限は定めないこととされている。
(損害賠償)第22条
1 ユーザおよびベンダは、本契約の履行に関し、相手方の責めに帰すべき事由によ
り損害を被った場合、相手方に対して、損害賠償(ただし直接かつ現実に生じた通常の損害に限る。)を請求することができる。ただし、この請求は、業務の終了確認日から●か月が経過した後は行うことができない。
2 ベンダがユーザに対して負担する損害賠償は、債務不履行、法律上の瑕疵担保責任、知的財産権の侵害、不当利得、不法行為その他請求原因の如何にかかわらず、本契約の委託料を限度とする。
3 第1項但書および前項は、損害がベンダの故意または重大な過失に基づくものである場合およびベンダの第13条(ユーザ提供データの利用・管理)、第14条(秘密情報の取扱い)、第15条(個人情報の取扱い)3項、第18条(本件成果物等の利用
条件)に定める義務の違反に基づくものである場合には適用しないものとする。
<ポイント>
・ 契約の履行に関して損害が発生した場合の賠償に関する条項である。
<解説>
1 本条は、本契約の履行に関しての損害賠償責任について規定する。損害賠償責任の範囲・金額・請求期間についてどのように定めるかについては、開発対象の内容を考慮してユーザ・ベンダの合意により決められるべきものであるが、本モデル契約では、モデル契約2007と同様の規定を設けた。なお、損害賠償責任のうち、「本契約の履行」に関するものではない「本件成果物等の使用等に関する損害賠償責任」については、20条および21条に定めている。
2 1項において、損害賠償責任は、相手方に故意・過失がある場合に負うものとし、賠償の範囲を、直接かつ現実に生じた通常の損害に限定している。
3 また、2項において、何を請求原因とするのかにかかわらず、損害の上限は委託料を限度とすることを定めている。
4 ただし、故意・重過失の場合には、上限規定は適用されないものとしている(3項)。損害発生の原因が故意による場合には、判例では免責・責任制限に関する条項は無効になるものと考えられており、故意に準ずる重過失の場合にも同様に無効とするのが有力な考え方であることから、このような規定を設けた。
【以上、経済産業省ガイドライン123頁】
5 また、実務上、秘密情報の取扱いや個人情報の取扱いに違反した場合にも、上限を設け ないこととすることが見受けられる。このような取り決めについては、違反内容が故意的 なものであると評価できることのほか、委託料の上限を超える見返りがある場合に情報 漏洩を行うといった行動を防止する観点からもバランスが取れていると考えられるため、合理性があるといえる。
<経済産業省ガイドラインからの変更点>
秘密情報の取扱いや個人情報の取扱い等の義務の違反については、損害賠償額の上限を設けないこととした。また、上限を設けないとしたものについて、第1項但書の期間制限により損害賠償請求が制限される事態を避けるため、同但書についても適用対象外とし、期間制限を設けないこととした。
(OSS の利用)第23条
1 ベンダは、本開発遂行の過程において、本件成果物を構成する一部としてオープン・ソース・ソフトウェア(以下「OSS」という。)を利用しようとするときは、 OSS の利用許諾条項、機能、脆弱性等に関して適切な情報を提供し、ユーザに OSSの利用を提案するものとする。
2 ユーザは、前項所定のベンダの提案を自らの責任で検討・評価し、OSS の採否を決定する。
3 本契約の他の条項にかかわらず、ベンダは、OSS に関して、著作権その他の権利の侵害がないことおよび瑕疵のないことを保証するものではなく、ベンダは、第 1項所定の OSS 利用の提案時に権利侵害または瑕疵の存在を知りながら、もしくは重大な過失により知らずに告げなかった場合を除き、何らの責任を負わないも
のとする。
<解説>
AI 技術を利用したソフトウェアの開発においては OSS が利用されることも多いことから
OSS の利用に関する規定を設けている。内容はモデル契約2007第49条 A 案と同様である。
【以上、経済産業省ガイドライン124頁】
<補足説明>
OSS の瑕疵や権利侵害の有無については、ベンダが完全に把握することは困難であることを前提として、OSS に起因する問題が生じた場合の責任ついて定めるものである。
(権利義務譲渡の禁止)
第24条 ユーザおよびベンダは、互いに相手方の事前の書面による同意なくして、本契
約上の地位を第三者に承継させ、または本契約から生じる権利義務の全部もしくは一部を第三者に譲渡し、引き受けさせもしくは担保に供してはならない。
(解除)第25条
1 ユーザまたはベンダは、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた
場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。
① 重大な過失または背信行為があった場合
② 支払いの停止があった場合、または仮差押、差押、競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合
③ 手形交換所の取引停止処分を受けた場合
④ 公租公課の滞納処分を受けた場合
⑤ その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合
2 ユーザまたはベンダは、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部または一部を解除することができる。
3 ユーザまたはベンダは、第1項各号のいずれかに該当する場合または前項に定める解除がなされた場合、相手方に対し負担する一切の金銭債務につき相手方から
通知催告がなくとも当然に期限の利益を喪失し、直ちに弁済しなければならない。
(有効期間)
第26条 本契約は、本契約の締結日から第4条の委託料の支払いおよび第11条に定める確認が完了する日のいずれか遅い日まで効力を有するものとする。
(存続条項)
第27条 本契約第7条(ベンダの義務)、第12条(ユーザがベンダに提供するデータ・資料等)第3項から第6項、第13条(ユーザ提供データの利用・管理)、第14条(秘密情報の取扱い)から第23条(OSS の利用)、本条および第28条(管轄裁判所)は、本契約終了後も有効に存続するものとする。
(管轄裁判所)
第28条 本契約に関する一切の紛争については、●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所として処理するものとする。
(協議)
第29条 本契約に定めのない事項または疑義が生じた事項については、信義誠実の原則に従いユーザおよびベンダが協議し、円満な解決を図る努力をするものとする。
本契約締結の証として、本書2通を作成し、ユーザ、ベンダ記名押印の上、各1通を保有する。
年
月
日
ユーザ
ベンダ
【別紙】業務内容の詳細
1 本開発の対象
(例)次の機能を有するソフトウェア(名称「●」)
⑴ 機能
・・・・
⑵ 使用環境
・・・・
⑶ 前提条件
・・・・
2 本データの明細
⑴ ユーザが提供するデータの明細
(例)別紙データ目録に記載するデータ
〔⑵ ベンダが提供するデータの明細〕
3 ユーザが提供する資料等
⑴
⑵
その他、本開発遂行のために必要な資料等が生じた場合は別途協議する。
4 作業体制
【ベンダおよびユーザの責任者および必要に応じてメンバそれぞれの役割、所属、氏名の記載とソフトウェア開発の実施場所等を記載】
⑴ ベンダの作業体制
・ベンダ側責任者氏名:●●●●
ベンダ側責任者は次の役割を担当する。
① ・・・・・
② ・・・・・
[・メンバ]
メンバは次の役割を担当する。
【※組織図/役割を記載】
⑵ ユーザの作業体制
・ユーザ側責任者氏名:●●●●
ユーザ側責任者は次の役割を担当する。
① ・・・・・
② ・・・・・
[・メンバ]
メンバは次の役割を担当する。
① ・・・・・
② ・・・・・
【※組織図/役割を記載】
⑶ ソフトウェア開発実施場所
【ソフトウェア開発の作業等の実施場所を記載】
<解説>
8 ベンダがユーザの委託に基づき開発支援を行う成果物の明細
(例)(該当するものに○をつける)
※データの場合はデータ形式、プログラムの場合はソースコード・バイナリコード等)
ベンダとユーザの役割分担について記載のうえ、責任者については、氏名を記載する。なお、メンバについては、契約締結段階では確定していないことが多いため、メンバの氏名までは記載を要しないこととしている。
5 具体的作業内容(範囲、仕様等)
⑴ ベンダの担当作業:
⑵ ユーザの担当作業:
(注)共同担当作業がある場合には両方に入れる
6 連絡協議会
⑴ 開催予定頻度:
⑵ 場所:
7 作業期間、スケジュール
対象物 | 納品有無 | 納品形態(※) | |
学習用データセット | …… | ||
学習用プログラム | バイナリコード | ||
学習済みモデル | バイナリコード |
<解説>
プログラムについては、ソースコードにベンダの開発ノウハウが多分に含まれているため、基本的にはバイナリコード形式で納品することとしている。プログラムを可読可能な形式で納品する場合には、異なる取り決めを行うことが考えられる。
9 業務の完了
⑴ ベンダからの成果物提供期限:●年●月●日
⑵ ユーザによる確認期間:成果物提供日から●日間
10 委託料
11 委託料の支払時期・方法
(例)ユーザが本件業務の確認を完了してから●日以内にユーザは委託料をベンダ指定の銀行口座に振り込み送金の方法により支払う。振込手数料はユーザの負担とする。
【別紙】指定企業一覧表
指定企業一覧表
1 ……
2 ……
3 ……
<解説>
指定企業の一覧を定めたものである。
本モデル契約においては、ユーザと密接な関係にあるグループ企業等については、本件成果物の利用等ができるなど、ユーザに準じた取扱いを行うこととしている。実質的にはユーザの事業部門の一つであるとみなせる企業など、適切な範囲において、記載された い。
<経済産業省ガイドラインからの変更点>新設した。
【別紙】秘密情報一覧表(第 14 条関連)
秘密情報一覧表
<解説>
秘密情報の一覧を定めるものである。
秘密情報について、可能な限り具体的に列記することを意識し、一覧表を作成することとした。
<経済産業省ガイドラインからの変更点>新設した。
1 ユーザが開示した次の情報
⑴ ……
⑵ ……
<解説>
ユーザ側が開示することにより、ベンダが秘密保持義務を負う情報の一覧を定めたものである。
個々のケースによって様々なものが考えられることから、事案に応じた記載をされたい。
<経済産業省ガイドラインからの変更点>新設した。
2 ベンダが開示した次の情報
⑴ 本データから学習用データセットを生成する方法に関する情報
⑵ 本開発または本開発と同種の開発に適したハイパーパラメータ(人為的に設定された係数のことをいう。以下同じ。)の数値およびその調整方法ならびに本開発または本開発と同種の開発に最適ではないことが判明したハイパーパラメータの数値およびその調整方法に関する情報
⑶ 報酬関数の内容、数式およびその設計方法に関する情報
⑷ 前記⑵、⑶に該当するもののほか、学習済みパラメータを生成するための学習方法に関する情報
⑸ 学習用プログラム
⑹ 本学習済みモデル
<解説>
1 ベンダ側が開示することにより、ユーザが秘密保持義務を負う情報の一覧を定めたものである。
2 ソースコード自体を秘密情報とした場合であっても、ソースコードから読み取れる学習方法に関するノウハウについては、必ずしも秘密情報に含まれることとなるわけではない。したがい、ソースコードは開示せず、バイナリコード形式で納品することが望ましい。一方で、ソースコードを開示する場合や開発過程でノウハウを開示する可能性がある場合には、秘密としたいノウハウについて、可能な限り特定を行った上で、秘密情報に該当することを取り決める必要がある。
なお、本条項記載の内容は、取り決めの一例であり、事案に応じた記載をされたい。
3 学習用データセットには、ベンダが保有する前処理方法に関するノウハウが反映されていることを踏まえて、ベンダ側が開示する秘密情報として「学習用データセット」を含めることも考えられる。この場合、ユーザ側が、本データの改変物である学習用データセットについて秘密保持義務を負うことになるため、利用条件等の他の条項の記載も含めて、適切な内容を取り決められたい。
<経済産業省ガイドラインからの変更点>新設した。
対象物 | 権利の帰属 |
学習用データセット | ユーザ |
学習用プログラム | ベンダ |
本学習済みモデル(ただし、学習済みパラメータを除く。) | ベンダ |
学習済みパラメータ | ユーザ |
【別紙】著作権帰属一覧表(第 16 条関連)
著作権帰属一覧表
<ポイント>
・ 本件成果物等に関する著作権の帰属を定めるものである。
<解説>
1 学習用データセット
学習用データセットについて著作権が発生するか否か(=人間を主体とした創作活動として認められるか否か)は法的に明らかではないものの、権利が発生した場合の権利の帰属について定めることとしている。
学習用データセットの帰属を検討するにあたっては、整形、加工やアノテーションの処理におけるベンダ側の寄与のほか、データの提供元が当事者のいずれであるのかについても考慮する必要がある。
そして、本モデル契約においては、整形、加工やアノテーションの処理を行うことも委託料の対価に含まれていると考えられる場合を前提として、ユーザに著作権を帰属させることにしている。そのため、データの提供元がベンダである場合等については、異なる取り決めを行うことが考えられる。
2 プログラム部分
各種プログラム(学習済みパラメータを除く。)については、ベンダが今後も学習済み モデルの開発を行う上で必須のものである。そして、多くの開発事例では、業界・研究機 関において性能に関する一定の評価がなされているモデルが採用されていると思われる。そのため、特定のユーザに納品を行ったからといって、ベンダが当該モデルを今後も利用 するためにはプログラムの記述を変更しなければならないとすることは、ベンダの事業 展開上、支障が大きい。
また、従前のソフトウェア開発契約においては、汎用的に利用可能な著作物についてはベンダに著作権が帰属するとの取扱いが相当数あったと考えられる。そして、学習済みモデルのプログラム部分については、汎用的に利用可能な著作物に該当すると考えられる。
さらに、業界・研究機関において性能に関する一定の評価がなされているモデルではなく、ベンダが新規に考案したモデルが採用されるケースについて考えると、このような新規のモデルは、今後も他の開発に利用できるものであり、また、競合他社との差別化要因ともなるため、ベンダにおいて利用することのできる必要性が高い。
加えて、前処理用のプログラムについても、画像処理等の分野ではベンダが従前から保有しているプログラムが利用されることが多い状況にあると思われる。
以上の理由から、プログラム部分については、ベンダに著作権を帰属させることとした。
3 学習済みパラメータ
学習済みパラメータについて著作権が発生するか否かは法的に明らかではないものの、権利が発生した場合の権利の帰属について定めることとしている。
学習済みパラメータは、推論プログラムと一体的に(学習済みモデルとして)利用されることになる。そして、ユーザとしては、学習済みモデルの開発、すなわち学習済みパラメータの調整のためにベンダに対して委託料を支払っているのであるから、学習済みモデルをユーザが認める者以外には利用されたくはないと考えることが多いと思われる。
また、本データをユーザが提供している場合には、学習済みパラメータについては、ユーザ提供データの利用成果の一種といえることになることからも、ユーザが認める者以外に利用されたくはないと考えることが多いと思われる。
そこで、学習済みモデルのプログラム部分についてはベンダに著作権を帰属させたことに対して、学習済みパラメータについては、著作権が発生したとすれば、ユーザに著作権を帰属させることとしている。
4 本別紙において取り決めをしなかった場合の取扱い
なお、本別紙において取り決めを行わなかった本件成果物等については、著作権法上のルールが適用されるため、著作者に著作権が帰属することになる。
<経済産業省ガイドラインからの変更点>
本開発の過程で生じた著作物の著作権については、ベンダかユーザのいずれかに全てを帰属させるのではなく、円滑な契約交渉の一助となるよう、成果物等のそれぞれについて権利の帰属を定める本別紙を新設した。
利用条件の記載例
次ページ以降の利用条件の記載例は、以下の【状況】および【前提とする権利帰属および利用条件】を前提とする。
【状況】
1 ユーザが提供した生データのみ利用。
2 本学習用データセットは専らベンダのノウハウを利用してベンダが生成し、ユーザは特に寄与なし。
3 学習用プログラムはベンダがOSS を利用して開発したものを利用。
4 本学習済みモデルの生成は専らベンダのノウハウを利用してベンダが生成し、ユーザは特に寄与なし。
5 本学習済みモデルは、ベンダが第三者提供することは予定しておらず、ユーザが独占的に利用する。
6 本学習済みモデルは、ユーザに納品物として提供される(これに加えて、学習用データセットと学習用プログラムがユーザに納品物として提供されるか否かについて は、場合分けを行って記述している。)
【前提とする権利帰属および利用条件】
1 ユーザ提供データは、ベンダが本開発目的のみに利用し、それ以外の目的には利用してはならない。
2 本件成果物等のプログラム部分の著作権は、ベンダに帰属する。
3 本学習済みモデルは、成果物としてユーザに提供される。
4 本開発によって新たに得られた学習済みパラメータは、ベンダが本開発目的以外には利用してはならない。もっとも、本開発以前から保有していた学習済みパラメータは、本開発終了後も、ベンダが利用できる。
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 本開発目的以外の目的 のための利用 | 不可。 |
② 第三者への提供 | 不可。 |
【別紙】ユーザ提供データの利用条件(13 条 2 項ただし書関係)
<解説>
データ自体に価値があることを踏まえ、ベンダ側は、たとえユーザから本開発の依頼を受けたとしても、本開発目的以外ではユーザ提供データを利用することはできないこととしている。
【別紙】利用条件一覧表(18 条関係)
利用条件一覧表
本一覧表の対象 | 学習用データセット |
【ユーザ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 自己の業務遂行に必要な範囲での利用(ただし、②に記載の利用を除く。) | 【ユーザが学習用データセットの納品を受けない場合】不可。ただし、本学習済みモデルの利用に伴う情報処理の過程における利用に限り、可。 【ユーザが学習用データセットの納品を受ける場合】可。 |
② 再利用モデルの生成 | 【ユーザが学習用データセットの納品を受けない場合】不可。 【ユーザが学習用データセットの納品を受ける場合】可。 |
③ 第三者への開示、利用許諾、提供等(以下 「第三者提供等」という。) | 【ユーザが学習用データセットの納品を受けない場合】不可。 【ユーザが学習用データセットの納品を受ける場合】可。 |
【ベンダ】
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 本開発目的以外の目的 のための利用(再利用モデルの生成等) | 不可。 |
② 第三者提供等 | 不可。 |
<解説>
1 ユーザの利用条件
⑴ ユーザが学習用データセットの納品を受けない場合
アノテーションが実施されないなど、学習用データセットについて納品を受ける実益が小さいときには、学習用データセットの納品を受けないことも考えられる。そして、納品を受けない以上、ユーザ側が学習用データセットを利用する前提を欠くことになる。この場合、著作権の帰属など、他の条項についても、当事者間で誤解のないように取り決めを行われたい。
⑵ ユーザが学習用データセットの納品を受ける場合
学習用データセットの利用条件を検討するにあたっては、整形、加工やアノテーションの処理におけるベンダ側の寄与のほか、データの提供元が当事者のいずれであるのかについても考慮する必要がある。そして、整形、加工やアノテーションの処理を行うことも委託料の対価に含まれていると考えられる場合を前提として、ユーザは、学習用データセットを自由に利用できることとした。
そのため、本別紙が想定するケースとは異なり、データの提供元がベンダである場合等については、異なる取り決めを行うことが考えられる。
2 ベンダの利用条件
本データを学習用データセットに整形、加工したことをもって、その利用権までベンダが獲得することになるのは、データ自体に価値があることを踏まえると、ユーザとしては合意し難いと考えられる。そこで、ベンダは、学習用データセットについては、利用ができないこととした。
なお、本別紙が想定するケースとは異なり、データの提供元がベンダである場合等については、異なる取り決めを行うことが考えられる。
本一覧表の対象 | 学習用プログラム |
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 自己の業務遂行に必要な範囲での利用(ただし、②に記載の利用を除く。) | 【ユーザが学習用プログラムの納品を受けない場合】不可。 【ユーザが学習用プログラムの納品を受ける場合】 可。ただし、ユーザ内部および指定企業内部での利用に限る。 |
② 再利用モデルの生成 | 【ユーザが学習用プログラムの納品を受けない場合】不可。 【ユーザが学習用プログラムの納品を受ける場合】 可。ただし、ユーザ内部および指定企業内部での利用に限る。 |
③ 第三者への開示、利用許諾、提供等(以下 「第三者提供等」という。) | 【ユーザが学習用プログラムの納品を受けない場合】不可。 【ユーザが学習用プログラムの納品を受ける場合】不可。ただし、指定企業を除く。 |
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 本開発目的以外の目的のための利用(再利用 モデルの生成等) | 可。 |
② 第三者提供等 | 可。 |
<解説>
1 ユーザの利用条件
利用条件一覧表
【ユーザ】
【ベンダ】
⑴ ユーザが学習用プログラムの納品を受けない場合
学習用プログラムには、ハイパーパラメータや報酬関数が記述されていることか ら、ベンダ側で秘匿の必要性が高い場合には、納品しないことも有り得る。そして、そもそも納品を受けない場合には、ユーザ側で学習用プログラムを利用することもできないことになる。
⑵ ユーザが学習用プログラムの納品を受ける場合
これに対して、ユーザが学習用プログラムの納品を受ける場合には、契約によって達成したい目的に適合する利用条件を定めることになる。
また、「ただし、ユーザ内部および指定企業内部での利用に限る。」と記載している部分については、契約ごとに適宜の修正を施すことを前提としている。
2 ベンダの利用条件
学習用プログラムについては、モデルの一部を構成するものであり、ベンダが今後も学習済みモデルの開発を行う上で必須のものであることから、ベンダ側が自由に利用できることとしている。
本一覧表の対象 | 本学習済みモデル (ただし、学習済みパラメータを除く。) |
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 自己の業務遂行に必要な範囲での利用(ただし、②に記載の利用を 除く。) | 可。ただし、ユーザ内部および指定企業内部での利用に限る。 |
② 再利用モデルの生成 | 可。ただし、ユーザ内部および指定企業内部での利用に 限る。 |
③ 第三者への開示、利用許諾、提供等(以下 「第三者提供等」とい う。) | 不可。ただし、指定企業を除く。 |
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 本開発目的以外の目的のための利用(再利用 モデルの生成等) | 可。 |
② 第三者提供等 | 可。 |
利用条件一覧表
【ユーザ】
【ベンダ】
<ポイント>
・ 本学習済みモデルのうち、学習済みパラメータを除くプログラム部分(前処理用プログラムおよび推論プログラム)の利用条件を定める条項である。
<解説>
ユーザにおいては、本契約の目的に照らして必要な範囲での利用ができる内容としている。また、本学習済みモデルのプログラム部分については、モデルの一部を構成するものであり、ベンダが今後も学習済みモデルの開発を行う上で必須のものであることから、ベ
ンダが自由に利用できることとしている。
<経済産業省ガイドラインからの変更点>
経済産業省ガイドラインにおいては、本学習済みモデルを一つの括りにした上で利用条件を定めていた。これに対して、本モデル契約では、当事者間で合意のしやすいきめ細やかな調整を行うことができるようにするため、本学習済みモデルのうち、プログラム部分と学習済みパラメータ部分とに分けて取扱いを定めることとした。
本一覧表の対象 | 学習済みパラメータ |
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 自己の業務遂行に必要な範囲での利用(ただし、②に記載の利用を 除く。) | 可。ただし、ユーザ内部および指定企業内部での利用に限る。 |
② 再利用モデルの生成 | 可。ただし、ユーザ内部および指定企業内部での利用に 限る。 |
③ 第三者への開示、利用許諾、提供等(以下 「第三者提供等」とい う。) | 不可。ただし、指定企業を除く。 |
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 本開発目的以外の目的のための利用(再利用 モデルの生成等) | 不可。ただし、ベンダまたは第三者が従前から保有していた学習済みパラメータについては、可。 |
② 第三者提供等 | 不可。ただし、ベンダまたは第三者が従前から保有して いた学習済みパラメータについては、可。 |
利用条件一覧表
【ユーザ】
【ベンダ】
<ポイント>
・ 本学習済みモデルのうち、学習済みパラメータの利用条件を定める条項である。
<解説>
1 ユーザの利用条件
そもそも学習済みモデルの開発契約では、ユーザのために学習済みパラメータの調整を行うことが契約の主要な要素となっている。そのため、ユーザにおいては、適切な範囲で利用権の設定を受けるようにされたい。
2 ベンダの利用条件
⑴ 本ガイドラインが想定するケースにおいては、学習済みパラメータは、ユーザ提供データを利用して調整されることとなる。また、そもそも学習済みモデルの開発契約では、ユーザのために学習済みパラメータの調整を行うことが契約の主要な要素となっている。これらの事情を踏まえると、ユーザとしては、自身が提供したデータを利用した成果であり、自身が費用を投下して得た成果である学習済みパラメータについて、ベンダやベンダの他の顧客に利用されたくないものと考えられる。
また、学習済みパラメータについては、全ての学習済みパラメータが、開発毎に新たに調整されるとは限らない。実務的には、学習済みの大型のモデルを利用して、特定の学習済みパラメータを固定し、残余の学習済みパラメータのみを、さらに更新して調整すること(転移学習)が相当数行われている。このような場合、本開発において新たに調整される学習済みパラメータは、大型のモデルの一部分のパラメータにすぎないから、ベンダにとっては、学習済みパラメータの利用権を得る交渉上の優先度は、必ずしも高いとは言えない。これに対して、本開発で調整をしなかったパラメータについては、今後も学習済みモデルの開発を行ううえで必要となるものである。
そこで、本開発中に新たに調整された学習済みパラメータについては、ベンダ側では利用することができないこととする一方で、本開発において調整を行わなかったパラメータについては、ベンダが自由に利用できることを確認的に定めている。
⑵ また、学習済みパラメータが組み込まれた本学習済みモデルを利用したり、第三者提供したりする場合にも、学習済みパラメータが本学習済みモデルに含まれている以上、利用行為や提供行為に該当することになるものと考えられる。
本一覧表の対象 | 本 AI 生成物 |
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 自己の業務遂行に必要な範囲での利用(ただし、②に記載の利用を 除く。) | ●● |
② 再利用モデルの生成 | ●● |
③ 第三者への開示、利用許諾、提供等(以下 「第三者提供等」とい う。) | ●● |
利用の範囲 | 利用の可否・条件 |
① 本開発目的以外の目的のための利用(再利用 モデルの生成等) | ●● |
② 第三者提供等 | ●● |
利用条件一覧表
【ユーザ】
【ベンダ】
<解説>
本 AI 生成物の利用条件に関する定めである。
本 AI 生成物の具体例としては、創薬分野における化合物の分子設計に関する情報や、新規に生成された絵画等が考えられるが、そのほかにも様々なものが考えられる。データをいずれの当事者が提供したのか、また、本 AI 生成物の独自の価値がどの程度あるのか等を踏まえて、適切な利用条件を定められたい。
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