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着実に広がりをみせている公契約条例制定の動き
公益社団法人 神奈川県地方自治研究センター
xx研究員 xx xx
2013 年 9 月 27 日にxx区、12 月 12 日にxx市で公契約条例が成立し、全国で 9 自治体となった。2009 年 9 月に全国で初めてxx市で条例が制定されてから、4 年余が過ぎ、首都圏に集中していた条例制定の動きが、今、全国に広がりはじめている。xx市は、その端緒をなすものである。
しかし、課題も見えてきた。xx市では、6 月 27 日に市議会提案の条例案が撤回され、札幌市では、11 月 1 日に市議会で条例案が否決された。そこで、「公契約条例」をめぐる全国の動向、新たに成立した条例の要点、制定に向けた課題について考えてみたい。
1.公契約条例をめぐる全国動向
2013 年 12 月 12 日、新たに条例が成立した xx市は福岡県ではもちろん九州で初となり、首都圏を大きく飛び越えての誕生となった。 公契約条例をめぐる全国の動向については、 表「公契約条例・全国の動向」のとおり、各 地に広がっている。この間、動きの比較的弱 かった都道府県段階でも、新たな動きが始ま っている。さらに、公契約の理念やあり方な どを定めた「公契約基本条例」も全国で 5 自 治体、また、条例によらず「要綱や指針」あ xxx「総合評価」などで「労働・賃金条項」 を定めている自治体もある。
さらに、2014 年 4 月施行をめざしている自治体もある1。
(この情報は、公開されている情報や現地
1 山形県山形市は、2013 年 9 月市議会に条例案が提案されたが、現在、継続中。2014 年 4月施行をめざしている。兵庫県xx市は、2014年 3 月市議会に提案し、4 月施行をめざしている。
の連合等関係情報を元にxxがとりまとめたものである。)
2.新たに条例が成立した自治体-xx区・xx市
新たに条例が成立したxx区とxx市の
「条例の概要」等は以下のとおりである。
(1)xx区
[1]xx区の概要
xx区(xxxxx区長・2 期)は、xxx 23 区ではxx区に続く 2 例目となる。全会派の賛成で成立した。
xx区は、xxx 23 区の最xxに位置し、面積 53.20k㎡2、人口 683,246 人3(2010 年 国調)。2013 年度の一般会計予算総額は、 2,586 億円で、財政力指数が 0.34、経常収支
2 東京 23 区ではxx区、世田谷区に次いで 3
番目の面積。
1
3 東京 23 区では世田谷区、練馬区、xx区、江戸川区に次いで 5 番目の人口。
比率は 87.0(2011 年・決算カード)となっている。
[2]条例の概要
①条例の適用(条例第 6 条)
工事 予定価格 1 億 8,000 万円以上業務委託 同 9,000 万円以上
②労働報酬下限額(同第 9 条)
工事 公共工事設計労務単価業務委託 建築保全業務労務単価
生活保護基準
区の臨時職員賃金単価
③労働報酬審議会(同第 12 条)
労働報酬下限額について調査、審議する 委員 6 人以内 学識者、事業者、労働者
④公契約等審議会(同第 16 条)
入札及び手続におけるxx性、透明性を確保し、この条例を適切に運用するため、区長の付属機関として設置する
委員 3 人 学識者
⑤指定管理協定(第 17 条)
指定管理者と締結する協定で、規則で定めるもの
[3]xx区の公契約条例導入の背景
xx区は、行政改革の「先進自治体」である。この間、xx区は主に現業系の仕事の民間委託、技能系職員の削減、「指定管理者制度」の導入などを行ってきた。さらに、これからは、事務系職員の削減が喫緊の課題であるとしている 4。xx区では、「定型業務(国民健康保険や戸籍、会計など)」を中心に「外部(民間)化」することでコストを削減し、xx公
務員は、他の住民サービスに振り向けることで、住民サービスを向上させることをめざしてきた。こうした方針を具体化するものとして 2014 年 1 月から、「戸籍・区民事務所窓口」を「外部(民間)化」する。
今回導入された公契約条例については、xx区総務部長は「コスト削減を追求するあまり、従事者に係る処遇が悪化してはいけない」
「業務委託に連動した賃金水準の確保に係る現実的なスキームとして、公契約条例の導入が期待される」「xx区では 2013 年 9 月に公契約条例を制定」したとしている5。
(2)xx市
[1]xx市の概要
xx市(xxxx市長・3 期)は、福岡県の北部に位置し、北九州市から約 30 ㎞、福岡市から約 50 ㎞の距離にあり面積 61.78k㎡、人口 57,686 人(2010 年国調)の大都市近郊都市である。人口は 1985 年に約 6 万 5,000 人であったが、減少し続けている。2013 年度の一般会計予算額は、227 億 6,600 万円で財政力指数が 0.53、経常収支比率が 97.2(2011年・決算カード)となっている。
[2]条例制定までの簡単な経過
xx市は、現市長の下で 2005 年度から「行
財政改革」に取り組み、ようやく 2010 年度に実質収支の黒字化に成功した。この改革には、xx市職員組合も市民生活を守る立場から、自ら人員削減、賃金等労働条件の引き下げに協力してきた。2004 年度に 562 人の職員数が 2012 年度には 464 人となり 6、人件費総額も、
2004 年度に 38 億 6900 万円が 2012 年度には
4 xx区の職員数は、1982 年度 5,853 人が 2013 年度 3,438 人(削減数 2,415)。内訳:事務△21、福祉・社会教育等+19、技術+83、保健師・保険監視等△4,保育士△363、技能労務職△2,099、その他△30「日本公共サービス研究会中間報告書」(xx区・2013 年 6 月)。
5 「ここまできた自治体アウトソーシング-
「日本公共サービス研究会」の現状と課題-」
(「地方財務」2013 年 12 月号/ぎょうせい)
2
6 一般職員、任期付職員、再任用職員、派遣職員、嘱託職員の合計
28 億 3900 万円まで減少した7。いわば、「身を削る」改革に取り組んできた。
また、職員組合は、「民間委託しても市としてのサービスの低下を招かないように」との立場であったが、これを実現するために職員組合として公契約条例の研究を行い、市長に制定を働きかけ、2011 年 1 月に合意に至った。しかし、その後も具体的な進展が見られなかった。2012 年に一般廃棄物収集事業の全面委託(一部委託はされていた)を機に、公契約条例の実現に向けて取り組みをさらに強め、 2013 年度に公契約条例制定に向けた市当局 の取り組みが具体化し、6 月には外部委員による「xx市公契約条例策定審議会(以下「策定審議会」) 8」が設置され、条例づくりが始まった。策定審議会は、5 回の審議を行い(途中 9 月 17 日から 10 月 16 日までパブリックコメントが実施された)、10 月 30 日に策定審議会として「xx市公契約条例案」をとりまとめた。策定審議会の議論の特徴としては、事務局原案に対して、労働者委員だけでなく事業者委員からも「条例対象の拡大」、「報酬下限額の引き上げ」が求められるなど、終始前向きな対応であったことがあげられる。事務局にとっては「予想外の展開」となったとのことである。その後、条例案は、12 月市議会に提案されたが、反対はなく、12 月 12 日の市議会で全員一致賛成となった。
[3]条例の概要
①条例の適用範囲(第 5 条)
工事 1 億円以上
業務委託 1,000 万円以上 9
7 「xx市行政改革大綱、xx市行政改革実施計画の総括」(2013 年 7 月 30 日)
8 策定審議会は、学識者 1 名、労働者 2 名、使用者 2 名の構成。
3
9 「施設等の管理運営業務、施設等の清掃業務、施設等の警備業務、一般廃棄物収集運搬業務、学童保育所運営業務、学校給食調理業務、窓口
指定管理協定 1,000 万円以上で市長又
は教育委員会が認めるもの10
市長が特に認めるもの
②労働報酬下限額(第 7 条)
工事 公共工事設計労務単価11業務委託・指定管理協定
xx市行政職給料表12
③「雇用機会均等法」・「継続雇用」(第 8 条)
第 1 号「公契約に定めるもののうち労働条件等の法令遵守」のうち、エとして「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」がある。これは、公契約条例では初めて。
第 3 号「継続雇用」がある。
④労働報酬審議会(第 9・10 条)
労働報酬下限額に関するものの他、条例に係る重要事項について、市長の諮問に応じて調査審議する
委員 5 人以内 学識者、事業者、労働者
[4]xx市の「条例づくり」の特徴点
xx市の条例づくりの特徴点は、主に以下の 3 つである。
①xx市職員組合の取り組み
1つは、xx市職員組合が公契約条例づくりを市長に働きかけた結果、「合意」したことからスタートしたことである。現市長のもとで進められた「行財政改革」に対して職員組合としては、「財政の健全化は、市民生活を守るために必要」との基本的な考え方に基づいて「協力」してきた。また、「民間委託しても
業務、外国語指導業務」(「xx市公契約条例施行規則」第 3 条第 1 項)。
10「予定価格又は予定価格に対して、人件費の
占める割合が概ね 7 割以上の公の施設の指定管
理協定」(「xx市公契約条例施行規則」第 3 条
第 2 項)
11 「公共工事設計労務単価の 80%」(策定審議会第 5 回資料)。
12 「xx市臨時職員日当」を基準として「826円」(策定審議会第 5 回資料)。
市民サービスの低下を招かない」ためには「公契約条例」が必要であるとの立場で制定をめざしてきた。
②市長の決断
2つは、市長の決断である。2012 年 7 月に 市が「事業者アンケート」実施したが、決し て「良い結果」では無かった。市長は、それ を受けても「ぶれなかった」という。また、 庁内の意見にはかなり厳しいものもあったが、条例をつくるという方針をふまえてまとまっ たとのことである。(市事務当局の条例案づく りは、xxxx弁護士との学習会によって大 きく前進した。)
③策定審議会の役割
3つは、策定審議会の果たした役割である。策定審議会の議事録によれば、労働者委員だ けでなく事業者委員からも公契約条例を歓迎 し、「もっと早く公契約条例があればよかった」との意見もある。また、「対象の拡大」、「下限 額の引き上げ」などの前向きな意見が出され ている。策定審議会としては、最終のとりま とめにあたって、「対象の拡大」、「下限額の引 き上げ」を行うなど条例を「よりよいものに していくこと」を総意として求めている。
(3)xx市条例成立の意義と今後
これまで条例を制定してきた自治体は、首都圏で人口も財政規模も「大きな自治体」に集中していた 13。xx市は、人口規模、財政規模もそれほどに大きくない、いわば「普通の自治体」である。そうした自治体で実現できたこと、しかも、首都圏を大きく飛び越えて、九州に広がったことによって、全国のどこの自治体で実現可能性があることを証明した。このことが何よりも大きな意義であると思う。
今後は、運用にあたって事業者に周知をはかることはもちろん、庁内の職員向け勉強会を行うことなど、諸準備が必要である。
さらに、xx市職員組合には、九州で初の条例となることから、周辺の自治体だけでなく、九州全域に広がるよう、先行自治体としての役割も期待したい14。
3.都道府県にも新たな動きが始まっている
都道府県段階での公契約条例の動きは、概して低調であった。しかし、最近新たな動きが始まっている。
(1)xx県
xx県では、2013 年 10 月 21 日から 11 月
19 日まで「xx県の契約に関する条例(仮称)要綱案」についてパブリックコメントが実施された。これは、いわゆる基本条例であり、総合評価に労働に関する項目が新設される方向である。
連合xxとしては、11 月 20 日に連合役員、県・市議会議員、県弁護士会、社労士会、行政書士会、印刷工業組合などが参加した「よりよい公契約条例制定推進会議」を開催し、よりよい公契約条例の制定に向けてひきつづき取り組みを進めていくこととしている。
(2)愛知県
愛知県は、2013 年 6 月に外部委員を入れた
「公契約のあり方検討会議」が設置され、議論が継続している。
(3)神奈川県
神奈川県は、2013 年 7 月に「公契約に関す
4
13 xx区の財政状況は東京 23 区内では「良くない」といわれている。
14 連合福岡は、11 月 30 日に「公契約条例の制定を求めるシンポジウム」で開催し、xx市に続く自治体をつくることを確認している。
る協議会」が設置され、現在、議論が継続している。
愛知県、神奈川県のいずれも年度内に報告が出される予定である。
愛知県と神奈川県の検討状況を見る限り、事業者側は「公契約条例」について否定的だが、関係者が議論を深め公契約条例制定に向けて合意ができることを期待したい。
4.否決された札幌市、撤回したxx市
公契約条例が市議会に提案されたが、成立しなかった自治体もある。
(1)xx市
xx市公契約条例案は、2012 年 9 月に全会派一致で市議会が提案したものである。11 月 10 日から 30 日にかけて市議会としてパブリックコメントが実施された。また、事業者・労働者を含む市民向け説明会が開催された。しかし、提案当初から建設業界からの強い反対が表明されたこと、また、市当局との調整不足などがあり、採決されないまま継続となっていた。
その後、2013 年 6 月 27 日に市当局提案の
「xx市公共調達審議会条例」が可決され、市議会提案の公契約条例案は撤回された。
11 月 18 日に第 1 回「xx市公共調達審議会」が開催された15。今後の審議を通じて公契約条例の制定が前進されることを期待したい。
(2)札幌市
札幌市のxxxx市長は、2011 年の三選に あたっての公約として公契約条例制定を掲げ、 2012 年 2 月に市議会に「札幌市公契約条例案」が提案された。しかし、札幌商工会議所、札
15 学識者 3 名、事業者 2 名、労働者 2 名
幌建設業協会、北海道警備業協会、北海道ビルメンテナンス協会などの反対を受けて、市議会の「野党」である自民党が撤回をもとめるなど対立したまま採決にいたらず、継続審議となっていた。(経過の詳細は、「公契約条例の現段階と課題-全国の動向をふまえて考える-」xxxx「自治研かながわ月報」2012年 6 月号参照)
2013 年 9 月市議会において、市当局は、原案を撤回し、10 月に条例案の一部を修正して市議会に提案し成立をめざしたが、受け入れられず、10 月 31 日に採決が行われ否決となった。その直後、一部市議が、「当局原案」とほぼ同じ条例案を提案したが、これも 1 票差
(賛成 33、反対 34)というきわどい結果ながら否決となった。
この背景には、市長と市議会の自民党・公明党などの会派との間で市長選挙の対立構図が解けないままであったこと、また、建設業協会等の業界との関係では、公共事業の削減や落札額の低下などに対する反発があるといわれている。市側は、入札制度の改革について 2012 年 3 月に「最低制限価格」の引き上げなどを実施したが、業界側の反対の態度を変えることができなかった。
5.公契約条例の要点と意義を改めて確認を
公契約条例については、なお、基本的な点で誤解があったり、あるいは「導入反対」のための具体的な行動が目立ってきた。そこで、改めて公契約条例の要点と意義について確認したい。
(1)公契約条例は、自治体独自の条例
5
公契約条例は、自治体独自の条例で、それぞれの自治体ごとに、自治体の諸条件を勘案してつくられている。例えば、賃金(報酬)
下限額について自治体によって異なっている。指定管理者や継続雇用の扱いなども違い、ま た、条例の作り方も市長(当局)主導でつく られた自治体、外部の委員を入れた「条例策 定審議会」等を設けてつくられた自治体など さまざまである。いいかえれば、自治体ごと におかれている条件に応じて創意工夫する余 地がある。
(2)契約自由の原則に基づいている
公契約条例は、あくまでも民法上の契約自由の原則に基づいている。自治体が発注する建設工事や業務委託業務あるいは指定管理者制度に係る仕事に従事する労働者等の賃金
(報酬)の下限額等を条例で定め、入札に応 じた事業者との間で交わす契約に依っている。事業者は、この入札に参加するもしないも自 由である。後でみるように「違法論」ともか かわって、重要なポイントといえる。
(3)公契約条例の意義
公契約条例の意義は、主につぎのようなことである。
[1]xx競争の実現-ダンピングの防止
いわゆる「バブル経済」の破綻後に、日本の建設投資は、官・民を問わず大きく減少した。また、自治体財政が逼迫する中で「業務委託化」が拡大した。こうしたことから、入札競争が激しくなり、「ダンピング(市場価格より不当に低い価格で受注すること)」受注が増えた。国や自治体は、様々に「ダンピング防止」をはかったが、完全になくすことができない現状にある。国交省が、2013 年 3 月 29日に、2013 年度の設計労務単価の発表の際に関係業界や自治体に対して発した「技能労働者への適切な賃金水準の確保に係る要請について(以下「国交省要請書」)」には、建設事業をめぐる状況について「ダンピング受注の激化が、賃金の低下や保険未加入を招き、こ
れが原因となって、近年、若年入職者の減少が続いている。その結果、技能労働者の需給のひっ迫が顕在化しつつあり、入札不調が発生している」としている。
このダンピングを防止し、xx競争を実現させるには、労働者の賃金について下限額を定める公契約条例が必要である。
[2]官製ワーキングプアをなくす
2009 年の「大阪市営地下鉄の清掃委託労働 者が生活保護受給」との報道は、官製ワーキ ングプアを象徴する事態として関係者に大き な衝撃を与えた。業務委託に限らず、自治体 が発注者する仕事に従事する労働者の賃金で は、国が定める「最低限度の生活」が保障さ れない劣悪なものであることを明らかにした。自治体が、ワーキングプアをつくってはなら ないことは、いうまでもない16。
[3]公共サービスの質を守る
2009 年に成立した「公共サービス基本法」では、公共サービスが①「国民生活の基盤であること(第 1 条)」、②「国民の権利である
こと(第 3 条)」、③「国や自治体の責務であること(第 4 条、5 条)」としている。国や自治体は④「安全かつ良質な公共サービスが適正かつ確実に実施されるようにするため、公共サービスの実施に従事する者の適正な労働条件の確保その他労働環境の整備に関し必要な施策を講ずるよう努める(第 11 条)」こと
16 ILO第 94 号条約は「①人件費が公契約に入札する企業間で競争の材料とされている現
状を一掃するため、すべての入札者に最低限、現地で定められている特定の基準を守ること
6
を義務付ける。②公契約によって、賃金、労働条件に下方圧力がかかることがないよう、公契約に基準条項を確実に盛り込ませる(連合資 料)」ことを目的としている。さらに、国も自治体もILOや国連が提唱する「ディーセン ト・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」を実現することが求められている。
としている。公契約条例は、この公共サービス基本法をふまえたものである。
[4]事業者にもよい条例
既に見たように近年、公共事業をめぐっては、建設投資の大幅な減少、効率・コストを優先させる入札などの結果、賃金の低下→若手建設技能者の減少→建設技能の衰退の恐れ
→業界の存亡の危機となっている。しかし、現段階では、有効な手を打てていない。公契約条例によって、賃金低下の歯止めをかけ、建設技能労働者が定着し、技能・技術を維持・向上していくこととなる。このことは業界にとっても大きなメリットである。
[5]市民にも行政にもよい条例
自治体には、市民の命と暮らしを守り、人間らしい生活を保障する責務がある。
また、公共サービスは安全で安心なものでなくてはならない。公共サービスが「安かろう、悪かろう」であってはならない。ふじみ野市のプール事故などにみられるように市民の命や安全を奪うことなど絶対にあってはならない。責任ある公共サービスの提供体制を自治体がつくることは、市民生活の安心・安全をつくりだすことになる。
6.課題を克服し、条例の制定に取り組もう
(1)課題をどのように克服していくか
[1]根強い「違法論」
業界、自治体当局などの中には、いまだに公契約条例「違法」論が根強くある。多くが、
7
「公契約条例をつくらない」ために使われているといって過言ではない。「違法」論の主なものは1.憲法 27 条第 2 項「『賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。』に違反する」について
は、これは、「あくまでも自治体が発注する仕事を受注する事業者に限定されている。また、事業者は契約を結ぶかどうかの自由がある。」
2.「最低賃金法に違反する」については、これも地域に働くすべての労働者の最低賃金を引き上げるものではない。3.「地方自治法第 14 条第 1 項『条例制定権の逸脱』している」については、これは、「公権力の行使を意図したものではなく、あくまでも自治体の条例制定権の範囲内であること」。また、「地方自治法第 2 条第 14 項にある『最小の経費で最大の効果を挙げなければならない』に反している」については、地方自治法の最も肝心な目的は、
「住民福祉の増進」である。そのための効率的な執行は当然なことだが、「安かろう、悪かろう」であってはならない。
[2]「コスト論」の克服
条例を制定すると「コスト」がかかるとの指摘もある。この点では、xx市のxx市長は、公契約条例の導入によって 2010 年度の予算増は、導入前に比較して総予算のわずか 0.2%程度であること。xx市では、担当課は、
「運用にあたっての工夫で、コスト負担はない」としている。仮に、コストが増えたとしても、費用対効果をみきわめることが大切だと思う。「コスト」論は、条例を制定しないための「口実」である。
(2)自治体の「まちづくり」に欠かせない建設事業者あるいは建設技能者は、それぞ れの自治体の「まちづくり」「災害対策」などの政策実現に欠かすことができない。また、今や、民間委託労働者の存在無くして自治体業務は進まない状況にある。公共サービス基
本法がいう「公共サービスは国民生活の基盤」であるためには、そこで働く労働者が、人間らしい労働条件と労働環境のもとで働くことなくして、公共サービスが安心して、持続的
に提供されることはあり得ない。公契約条例は、持続的な「まちづくり」に欠かすことができない。
7.公契約条例をめぐる国や業界の新たな動きをどうみるか
(1)国交省の動き
今年の公共工事設計労務単価改定の特徴は、それまで下がり続けていた単価を大幅に引き 上げたこと 17、また、社会保険加入を促進さ せることなどが要請されている点である。国 交省要請書では「 労働需給のひっ迫傾向は、一時的なものではなく、構造的なもの。いま、 適切な対策を講じなければ、近い将来、災害 対応やインフラの維持・更新に支障がでる。デ フレ脱却のためにも、労働者の所得を増やす 必要がある」とするなど国の「新たな方針」 が示されたことである。
(2)建設業界の動き
2013 年 7 月 18 日に大手ゼネコンでつくる
「日本建設業連合会」が「労務賃金改善等推進要綱」を発表した。これによれば「本年度の公共工事設計労務単価が大幅に引き上げられたことを踏まえ、労務単価引き上げが賃金水準の向上に確実につながるよう、そのための措置を実施するとともに、技能労働者の確保、育成に向けた総合的な取組みを推進するものである。」として具体的には、「第1 適切な労務賃金支払いの要請、第2 労務賃金の状況調査の実施、第3 社会保険等加入促進、第
4 適正な受注活動の徹底、第5 民間工事における取組み、第6 重層下請構造の改善、第
7 技能労働者の処遇改善の総合的な取組み第8 関係方面への要請」となっている。建設
事業者も建設業界の危機を克服するために具体的な取り組みを進めようとしている。
こうした建設業界の危機感については、全建総連が長年指摘してきたことだが、関係者あげて取り組まなければならない文字通り喫緊の課題である。そして、改革は「ラストチャンス」だと思う。私は、建設業界の改革のためには、「公契約条例」あるいは「公契約法」が必要であり、最も効果的だと思う。なぜなら、「ダンピング」とは、賃金を不当に引き下げることによってなりたっている。公契約条例によってこれを防止し、重層構造のもとで
「下請・孫請」で働く労働者の賃金の下限額を守らせ、建設技能者の生活を維持することができる。また、このことによって重層構造に「風穴」をあけることが可能となるからである。
(3)公契約条例制定の今がチャンス
最近、「自治体における『入札不調』が起きている。これは、いわゆるアベノミクスによる公共事業費増大によって建設資材、人件費が高騰しているからだ」との報道が、続いている。また、国交省の「新たな方針」についてもその実現が急がれているという。
しかし、自治体や議会の一部には「であるがゆえに公契約条例は不要」とする向きがある。
景気対策としての公共事業は、いずれ縮小に転じる。バブル経済崩壊後の 20 年の動向をふまえていうならば、その時に、労働者の賃金が大きく下がることは、目にみえている。だからこそ、今が、公契約法や公契約条例をつくるチャンスなのである。
8
17 全国平均で 15%、被災 3 県平均で 21%引き上げ。
表 「公契約条例」全国の動向
表 「公契約条例」全国の動向
2013年12 月13 日現在
都道府県名 | 自治体名 | 種 別 | 経 過 | 備 考 | |
北海道 | 札幌市 | 公契約条例 | 2012年2月「公契約条例案」市議会提案。以後、継続審議。2013年10月3日市議会に修正案提案。2013年10月 31日に市当局の修正提案は否決。同日、一部議員が当局原案とほぼ同じ修正案が提案されたが、11月1日に否決(賛成33-反対34)。 | ||
函館市 | 要綱等 | 函館市発注工事に係る元請・下請適正化指導要綱 | 2001年4月1日施行。 2011年4月1日改正施行 | ||
具体的な施策 | 「二省単価」に留意し、適正な賃金の支払に配慮するよう通知 | ||||
旭川市 | 要綱等 | 旭川市の公契約に関する方針達成の推進措置 | 2008年8月21日施行 | ||
具体的な施策 | 相談窓口の設置 | ||||
秋田県 | 秋田市 | 基本条例 | 2013年3月「公契約基本条例」成立。 | 2014年4月1日施行 | |
山形県 | 山形県 | 基本条例 | 2008年7月「公共調達基本条例」成立。 | 2009年4月1日施行 | |
山形市 | 公契約条例 | 2013年6月17日から7月16日まで「公契約条例骨子案」についてパブコメ実施。9月市議会に提案したが、継続審査に12月市議会でも同様。 | 2014年4月施行めざしている。 | ||
群馬県 | 前橋市 | 基本条例 | 2013年3月「公契約基本条例」成立。 | 2013年10月1日施行 | |
埼玉県 | 川越市 | 検討中 | 2012年9月に議員による「公契約条例(案)」が提案された。建設業界の反対等もあり、継続審議となっていた が、2013年6月27日「川越市公共調達審議会条例」が成立。議会が提案した「公契約条例案」は、撤回され た。2013年11月18日に第1回「川越市公共調達審議 会」が開催された。 | ||
越谷市 | 検討中 | 庁内に「公契約制度調査検討部会」設置。 | |||
草加市 | 検討中 | 市長のマニフェストで公契約条例制定明記。2013年4月 30日、庁内に「草加市公契約条例検討会」設置。 | |||
千葉県 | 野田市 | 公契約条例 | 2009年9月条例成立。 | 2010年4月1日施行 | |
東京都1 | 日野市 | 要綱等 | 日野市総合評価ガイドライン | 2008年9月1日施行 | |
評価項目 | 「二省単価」の80%以上の労務単価が確認できる | ||||
小平市 | 要綱等 | 小平市総合評価ガイドライン | 2011年4月1日施行 | ||
評価項目 | 「二省単価」以上の労務単価が確認できる。 | ||||
多摩市 | 公契約条例 | 2011年12月条例成立。 | 2012年4月1日施行 | ||
国分寺市 | 公契約条例 | 2012年6月「公共調達条例」成立。 | 2012年12月1日施行 | ||
小金井市 | 検討中 | 2010年5月「第3次行財政改革大綱」に「公契約条例」 2012年度実施明記。具体的な動きは無い。 | 2012年12月に「市内事業者アンケート」実施。 2013年3月公表。 | ||
新宿区 | 要綱等 | 新宿区が発注する契約に係る労働環境の確認に関する要綱 | 2010年7月1日施行 | ||
1.対象 | a 2000万円以上の工事 b 2000万円以上の委託 | ||||
2.確認 | チェックシートによる確認 | ||||
3.賃金 | a 工事 「二省単価」の80%以上 b 委託 900円 |
都道府県名
東京都2
自治体名
杉並区
渋谷区 足立区 江戸川区
世田谷区
種 別
要綱等
公契約条例公契約条例基本条例
検討中
経 過
杉並区公契約等における適正な労働環境の整備に関する要綱
2012年6月「公契約条例」成立。
2013年9月27日「公契約条例」成立。
2010年3月23日「公共調達基本条例」成立。
2011年9月外部委員による「公契約検討会」設置。
備 考
2012年3月28日施行
2013年1月1日施行
2014年4月1日施行
2010年4月1日施行
2013年2月「中間報告」。年度内条例化の方向
神奈川県
神奈川県
川崎市 相模原市厚木市
茅ヶ崎市
検討中
公契約条例公契約条例公契約条例
検討中
2013年7月16日外部委員による「公契約に関する協議会」設置。
2010年12月「公契約条例」成立。
2011年12月「公契約条例」成立。
2012年12月「公契約条例」成立。
2013年4月湘南地域連合の政策制度要望に対する回答で「検討会設置」と回答。
2013年度中に報告書作成予定。公契約条例の制定も含め幅広く検討
2011年4月1日施行
2012年4月1日施行
2013年4月1日施行
長野県
石川県
長野県
小松市
愛知県
検討中
検討中
検討中
2013年6月に当局より「契約に関する条例の考え方」が議会に示される。2013年10月21日「長野県の契約に関する条例(仮称)要綱案について」のパブコメはじまる
(11月19日まで)。
2013年3月市長選挙で当選した和田慎司氏と「連合石川かが地協」とで政策協定(「公契約条例の制定をめざす」)。
2013年6月14日「公契約のあり方検討会議」設置。
2014年3月最終まとめの予定
要綱等
豊田市公契約基本方針(総合評価)
愛知県 | 豊田市 | 評価項目 (工事・委託) |
豊橋市 | 検討中 | |
三重県 | 四日市市 | 検討中 |
尼崎市 | ||
兵庫県 | 加西市 | 検討中 |
「労働者への法令を上回る賃金等の支払いに関する提案及び検証方法の提案」、「労働者への法令を上回る労働条件に関する提案及び検証方法の提案」などの評価項目
2013年4月22日外部委員による「公契約のあり方に関する懇談会」設置。
2013年3月6日外部委員による「公契約制度検討委員会」設置。
2011年2月10日施行
三木市
検討中
2008年12月市議有志による「公契約条例」市議会提 案。2009年5月委員会否決。2012年12月1日「尼崎市公契約条例の制定をめざす会」発足。
2012年西村和平市長が当選。マニフェストに「入札改革・公契約条例検討委員会設置」明記。2012年5月「加西市を豊かにする公契約条例づくり連絡会議」結成。署名運動を展開。
2013年5月31日外部委員による「公契約条例検討委員会」を設置。
「2015年6月までの任期中に条例制定したい。
(加西市長)」(神戸新聞 2013年1月30日)
2014年1月にパブリックコメント。3月市議会に条例案を提案予定。
高知県
高知市
基本条例総合評価
2011年12月「公共調達基本条例」成立。
追加:男女共同参画に関する表彰、労働安全管理に関する認証、法定外労働災害補償制度への加入
2012年4月1日施行
10 自治研かながわ月報 2013 年12月号(No.144)
都道府県名 | 自治体名 | 種 別 | 経 過 | 備 考 |
香川県 | 丸亀市 | 検討中 | 2013年6月13日、市議会で「公契約条例について検討」と答弁(四国新聞)。 | |
福岡県 | 北九州市 | 検討中 | 2012年8月庁内に「公契約条例に関する研究会」設置。 | |
直方市 | 公契約条例 | 2013年6月11日に外部委員による「公契約条例策定審 議会」設置、5回開催。9月17日から10月16日パブコメ。 12月市議会に条例案提案。12月12日の市議会で全会一致で条例成立。 | 2014年4月1日施行 | |
佐賀県 | 佐賀市 | 要綱等 | 佐賀市長が発注する工事請負契約に係る労働環境の確認に関する要綱 | 2013年6月3日施行(業務委託に関しても検討中) |
1.対象 | 5000万円以上の工事 | |||
2.確認 | 労働環境チェックシートによる確認 | |||
3.賃金 | 「二省単価」の80%以上 |
本表は、神奈川県地方自治研究センター勝島が、自治体のホームページや議会等で公開された資料等を下にしてまとめたものである。
「公契約条例」とは、名称にかかわらず条例に賃金(報酬)下限額の定めがあるもの、「基本条例」とは、名称にかかわらず公契約の理念等の定めがあるもの、「要綱等」とは、要綱、指針、総合評価等に賃金(報酬)・労働条件等について何らかの定めがあるもの、をいう。