Contract
使用者のための
労働法
xxx労働相談情報センター
目 次
1
労働契約 4
1 募集活動に当たって注意すべきこと 4
2 労働契約の締結と原則 7
3 労働契約の成立過程-採用内定と試用期間 8
4 労働契約の期間 11
5 労働条件の明示 11
6 労働契約の原則 15
7 「労働者」 の範囲と法律の適用 16
8 年少者を雇用するにあたって 17
2
9 外国人を雇用するにあたって 18
就業規則 20
1 就業規則の意義と役割 20
2 就業規則の作成・変更の手続 20
3 就業規則が労働契約の労働条件決定にどのように作用するか 23
3
4 懲戒処分 25
賃金と処遇 26
1 賃金の定義 26
2 賃金の決め方 27
3 賃金の額 28
4 賃金支払いの原則等 31
5 賞与・退職金の性格と在籍者支給条項 34
4
6 人事と処遇 35
労働時間・休日・休暇 37
1 法定労働時間 37
2 労基法上の労働時間の概念 37
3 変形労働時間制 38
4 フレックスタイム制 41
5 労働時間の算定 42
6 みなし労働時間制(事業場外労働のみなし労働時間制、裁量労働制) 42
7 休憩・休日・勤務間インターバル制度 45
8 時間外・休日労働 47
9 割増賃金 50
10 労働時間規制等の適用除外 54
11 年次有給休暇 56
12 労働時間等設定改善法 61
Contents
5
労働・社会保険 62
1 労災保険 62
2 雇用保険 68
3 健康保険 75
4 厚生年金保険 79
5 介護保険 81
6
6 パートタイム労働者と社会保険 82
職場の安全と使用者責任 85
1 労働安全衛生法の仕組み 85
2 安全衛生教育と健康診断 86
3 使用者の安全配慮義務・受動喫煙の防止 89
7
4 パワーハラスメントの防止と使用者の責任 90
女性労働及び育児・介護 92
1 女性労働者一般の保護 92
2 妊産婦保護 92
3 男女雇用機会均等法・セクシュアルハラスメントの防止 94
4 女性活躍推進法 99
5 育児・介護休業 100
8
6 次世代育成支援対策推進法への対応 107
パートタイム・有期雇用労働法・労働者派遣法 109
1 パートタイム・有期雇用労働法 109
2 有期雇用労働者の無期転換制度 113
3 労働者派遣 114
9
4 派遣労働者の均等・均衡待遇の確保 119
労働契約の終了 123
1 退職と合意解約 123
2 解雇の種類と制限 123
3 有期雇用の雇止め 128
10
4 定年制と 65 歳までの高年齢者雇用確保措置 129
1
労働紛争の解決手続 131
労働組合ができたら 136
1 労働組合の結成と加入 136
2 労働組合の活動と役割 137
3 使用者がしてはならないこと 139
行政機関案内 142
は じ め
xxx労働相談情報センターでは、職場で起こる様々な問題について相談に応じています。
相談の中には、使用者の方にもう少し労働法の知識があればトラブルにならずに済んだのではと思われる事例も少なくありません。
労使関係でトラブルになると、労働者だけではなく使用者も大きなダメージを受けます。そこで、労働法に詳しい法政大学講師のxxxx先生に使用者の方に知っていただきたい労働法の基本について解説していただきました。
近年の主な法改正の項目と施行期日をまとめると下表のようになります。労働問題も多様化し、大きな制度変更もある中で、以前にも増して労働法の知識を身につけていただきたいと思います。
本冊子が広く活用され、未然にトラブルを防止する一助となれば幸いです。
令和3年3月xxx労働相談情報センター
法改正による主な改正項目と施行日
主な改正項目 | 施行日等 | |
雇用保険法 | 勤務日数が少ない者の被保険者期間の算入にあたり、日数だけでなく労働時間(月 80 時間以上)による基準を補完的に設定 | 令和2年8月1日 |
雇用保険の失業等給付の給付制限期間を3か月から2か月へ短縮 | 令和2年 10 月1日以降の離職に適用 | |
労働災害 補償保険法 | 複数就業者の労災保険給付について、複数就業先の賃金に基づく給付日額の算定等 | 令和2年9月1日以降の被災者に適用 |
育児・介護休業x | xの看護休暇、介護休暇の時間単位取得 | 令和3年1月1日 |
障害者雇用促進法 | 障害者雇用率の引き上げ ・民間企業 2.2% → 2.3% ・地方公共団体等 2.5% → 2.6% ・都道府県等の教育委員会 2.4% → 2.5% 雇用率の対象となる民間の事業主の範囲を従業員 43.5 人以上に拡大 | 令和3年3月1日 |
行政手続きにおける押印原則の見直し | 令和3年4月1日 | |
パートタイム・有期雇用労働法 | 雇用形態による不合理な待遇差をなくすための規程の整備等 | 中小企業について 令和3年4月に全面適用 |
高齢者雇用安定法 | 70 歳までの就業機会の確保の努力義務 | 令和3年4月1日 |
労働施策 総合推進法 | 大企業にxx雇用労働者の中途採用比率の公表を義務付け | 令和3年4月1日 |
パワーハラスメント防止措置等 | 令和4年4月1日 | |
労働基準x | x 60 時間超の時間外労働の割増率引き上げ | 中小企業については令和5年4月1日 |
時間外労働の上限規制 | 令和6年3月 31 日まで、建設業、自動車運転の業務、医師については適用猶予。 |
1
【労働法とは】
自営業などの一部を除き、多くの人は生活上の必要のために他人に雇われて働くこととなります。他方、労働者と使用者の力関係は、雇われて働く労働者よりも、事業のために人を雇う使用者の方が強い傾向にあります。
そこで、労働者の健康や安全を守り、また、人間らしい生活を保障するために必要なルールとして、労働法は発展してきました。
労働法といっても、労働法という名前の法律があるわけではありません。労働基準法(労基法)や労働契約法(労xx)をはじめ、最低賃金法(最賃法)、労働安全衛生法(安衛法)、労働者災害補償保険法(労災法)、雇用保険法(雇保法)、労働組合法(労組法)、男女雇用機会均等法(均等法)、短時間・有期雇用労働法(パート・有期法)、労働者派遣法(派遣法)、育児・介護休業法(育介法)、職業安定法(職安法)など、労働に関する法律をひとまとめに労働法と呼んでいます。
1 募集活動に当たって注意すべきこと
使用者がいかなる人材を採用し、どのように配置し育てるのかは、使用者にとっても労働者にとっても重要です。採用にあたって、どのような雇用形態で採用し、どのような労働条件で、どのように仕事をしてもらうか、適切な採用・人材育成プランを立て、ミスマッチを防ぎ、xxな採用を行いましょう。
求人活動には、使用者がポスター、チラシ、インターネット等で直接募集するほか、国の機関である公共職業安定所(ハローワーク)が行う無料職業紹介、学校等が行う無料職業紹介、民間職業紹介業者が行う有料職業紹介などを利用して募集する方法がありますが、いずれの場合についても職業安定法その他の法律を守らなければなりません。
なお、令和3年4月1日より、労働者数 301 人以上の大企業は、直近3事業年度における、xx雇用労働者の採用者数に占める中途採用者数の割合を、ホームページに掲載する等、求職者が容易に閲覧できる方法により、公表することが義務付けられます(労働施策総合推進法 27 条の2、同施行規則9条の2)。
【募集時の労働条件の明示】
使用者(求人者)は、労働者の募集に当たり、求職者に対して、書面(又は電子ファイル)によって次の労働条件を明示しなければなりません(職安法5条の3、職安則4条の2)。
①労働者が従事すべき業務の内容に関する事項
1 労働契約
②労働契約の期間に関する事項
③試みの使用期間に関する事項
④就業の場所に関する事項
⑤始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日に関する事項
⑥賃金(臨時に支払われる賃金、賞与等を除く。)の額に関する事項
⑦健康保険・厚生年金保険・労災保険・雇用保険の適用に関する事項
使用者は、これら明示する事項が虚偽、又は誇大な内容にならないようにしなければなりません。
もし、当初明示した労働条件と労働契約の締結に際し示す労働条件とが異なる場合(当初の明示の範囲内で労働条件を特定する場合、当初の明示の労働条件を削除する場合、当初明示していない労働条件を新たに提示する場合を含む。)には、改めて書面交付の方法で労働条件を求職者に明示しなければなりません。さらに、面接等の過程で労働条件に変更があった場合、求人者等は速やかに求職者に知らせるよう配慮が必要です。
なお、労働条件の明示は、採用の際にも使用者に求められます(労基法 15 条)。
【求職者の個人情報の取扱い】
使用者は、労働者の募集に当たり、求職者が提供する個人情報について、業務の目的の範囲内で収集、保管、使用しなければなりません(職安法5条の4)。
特に、使用者は、人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となる事項、思想・信条及び労働組合への加入状況に関する情報を収集してはならず、xxな選考を行わなければなりません。
【募集・採用時の年齢制限禁止】
使用者は、労働者の募集・採用に当たり、原則として年齢を不問としなければなりません(労働施策総合推進法9条)。ただし、定年年齢を上限とする場合、労基法その他の法令の規定により年齢制限が設けられている場合(深夜業、危険有害業務等)、新卒採用の場合(無期雇用に限る。)、技能・ノウハウの継承の観点から特定の職種において労働者数が相当程度少ない特定の年齢層に限定する場合(無期雇用に限る。)、芸術・芸能のxxxは、例外も認められています。
この年齢制限の禁止は、ハローワークに求人申込みを行うときだけでなく、民間の職業紹介事業者や新聞広告、事業主が自ら募集・採用を行う際にも適用されます。
なお、求人票は年齢不問としながらも、年齢を理由に応募を断ったり、書類選考
や面接で年齢を理由に採否を決定したりする行為は同法の趣旨に反します。
【募集・採用時の男女差別禁止】
使用者は、労働者の募集・採用に当たり、性別で差別してはならず、男女ともに均等な機会を提供しなければなりません(男女雇用機会均等法(均等法)5条)。例えば、パート・有期雇用労働者の募集を「女性のみ」としたり、求人票に「男性歓迎」「、女性向きの仕事」などと記載したりすることはできません(平 18.10.11 厚労告 614 号)。
【障害者雇用率】
使用者は、その雇用する全従業員のうち、一定割合(障害者雇用率)の障害者(身体障害者、知的障害者、精神障害者)を雇用することが義務付けられています(障害者雇用促進法 43 条)。この障害者雇用率が適用されるのは、民間では 43.5 人以上の従業員を雇用する事業主です。障害者雇用率は、民間では 2.3%、国・地方公共団体等では 2.6%です(令和3年3月1日改正)。障害者雇用率が適用される事業主は毎年6月1日現在の障害者雇用状況をハローワークに届け出なければなりません(同法 43 条7項)。
常用労働者 100 人を超える事業主であって、雇用率未達成の事業主は、調整金等の費用に充てるために障害者雇用納付金(不足1人あたり月額5万円)の徴収が行われ(同法 53 条)、雇用率を達成している事業主には障害者雇用調整金(超過雇用人数1人に付き月額2万7千円)が支給されます(同法 50 条)。
【障害者に対する差別の禁止と合理的配慮】
事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければならず(障害者雇用促進法 34 条)、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者と不当な差別的取扱いをしてはなりません(同法 35条)。事業主が守るべき事項は、「障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(平 27.3.25 厚労告 116 号)に定められています。
事業主は労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければなりません。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでありません(同法 36 条の2)。具体的な留意事項は、「雇用の分野におけ
1 労働契約
る障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平 27.3.25 厚労告 117 号)において示されています。
2 労働契約の締結と原則
【労働契約の締結方法】
使用者が労働者を採用する(雇用する)ということは、法的には使用者と労働者との間で労働契約が締結されるということです。労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者と使用者が合意することにより成立します(労xx6条)。この労働契約は、書面(労働契約書等)がなくとも口頭でも成立します。
ただし、契約締結後のトラブル防止のため、労基法 15 条は労働条件の書面交付を使用者に義務付けていますし、労xxにおいても労働者と使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとしています(労xx4条2項)。労基法 15 条に違反した場合には、30 万円以下の罰金の規定もあります。パート・有期労働法は、これらに加えて、書面で明示すべき事項(昇給、賞与、退職金の有無、相談窓口)を追加しています。
【採用の自由】
「採用の自由」とは、使用者が誰と労働契約を締結するかについて原則的に自由に決めることができるというものです。ただし、この採用の自由も、前述の男女雇用機会均等法、職業安定法、障害者雇用安定法、労働施策総合推進法に抵触してはなりません。
【労働契約の原則】
①合意原則
労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものです(労xx3条1項)。契約締結はもちろん、労働条件の変更等についても両当事者の合意が必要であって、一方的な変更はできません。
②均衡考慮の原則
労働契約は、労働者及び使用者が就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとするのが、均衡考慮の原則です(労xx3条2項)。これは、就業の実態が同様である場合はもちろん、仮にある程度の差異があるとしても、双
方の労働条件が均衡のとれたものであるとする原則です。均衡考慮の原則を踏まえると、社会的に著しい格差がある場合には、不法行為(民法 709 条)や公序良俗違反(民法 90 条)となる場合があります。
③仕事と生活の調和の原則
労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとされています(労xx3条3項)。これは、いわゆるライフ・ワーク・バランスの考えを労働契約の原則として取り入れたものです。
④xxxx・権利濫用の禁止
労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、xxに従い誠実に権利を行使し、及び義務を履行しなければなりません(労xx3条4項)。また、労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはなりません(同法3条5項)。
3 労働契約の成立過程-採用内定と試用期間
(1)採用内定
【内定期間中の権利義務関係】
先に述べたとおり、労働契約は、当事者の合意(申込みに対する承諾)によって成立します。使用者が労働者を採用するときには、使用者の募集等に対し労働者が応募して採用される場合や、ヘッドハンティング等の勧誘をして採用する場合、職業紹介業者等を仲介して採用に至る場合などがありますが、労働契約はいつの時点で成立したと見ることができるのでしょうか。
特に、新卒者の場合は、採用が決まってから働き始めるまで長期の内定期間を経ることが多く、使用者から何らかの事情で内定が取り消さざるを得ない場合、内定によって既に労働契約が成立しているかどうかで、内定取消の法的処理の仕方が異なってくることから、労働契約がいつ成立するかが問題となります。
新卒者の場合、使用者の募集は労働契約締結に向けた「誘引」、応募者(学生)の応募又は採用試験の受験が労働契約の「申込み」、採用内定通知が労働契約の「承諾」であり、これによって、入社予定日を就労の始期とする始期付の労働契約(始期付解約権留保付労働契約)が成立すると考えられています(最判昭 54.7.20、大日本印刷事件)。そして、解雇と同様に、客観的に合理的な理由がないとか、社会通念上相当と認められない場合には内定取消が無効となります。
1 労働契約
労働契約の成立過程(新卒者)
採用の自由 | 内定期間 | 試用期間 |
募集 応募・面接・試験 内々定 内定
入社式
本採用
誘引
申込
承諾=
労働契約成立
【内定期間中の権利義務関係】
企業によっては、新卒の内定者に内定期間中にレポート提出や、研修への参加、資格取得のための勉強を求めることがあります。内定期間中の労働契約によって、内定者について、研修参加義務が当然に発生するかについては議論があり、少なくとも学生の場合には勉学を優先させることが使用者に求められます(東京地判平 17.1.28、宣伝会議事件)。
【内定取消しについて】
内定期間中は、まだ働いていないものの、既に労働契約が成立していると認められます。労働契約が成立している以上、労xxが適用になり、内定者(学生)・企業の双方がこれを守らなければいけません。使用者からの内定の取消しには、解雇権濫用法理が適用になりますので(労xx 16 条)、使用者の事情により内定を取消す場合には、合理的理由及び社会的相当性が必要となります。先に掲げた大日本印刷事件で最高裁判所は「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。」としました。
特に新卒者については、国は企業に対して、「採用内定取消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講じる」ことを求めており(新規学校卒業者の採用に関する指針)、やむを得ず、新卒の採用内定取消しを行う場合には、事前にハローワーク等に通知しなければなりません(職安則 35 条2項)。
他方、内定者側の事情による内定取消のうち、①学校を卒業できなかった、②健康を害し就労に耐えられない、③刑事事件を起こし就労できない、④申告・提出した書類などに虚偽の事実がある等の場合には、内定取消に客観的に合理的な理由が
あるとされる可能性が高いですが、使用者側の事情、すなわち経営上の理由による内定取消について、整理解雇法理に準じて判断された判例もあります。
中途採用者やパート等の採用時に内定期間が生ずる場合にも、使用者からの内定の取消しには客観的に合理的な理由がなければなりません。
【内々定取消しについて】
採用内定の前段として、まだ労働契約の締結過程にあり、労働契約の成立に至っていないと解される場合(内定と区別して「内々定」と呼ぶことがあります。)であっても、労働者側に採用の期待が高い事情がある場合には、その取消しについて不法行為(民法 709 条)に基づく損害賠償を請求されることがあります(xxx判平 23.3.10、コーセーアールイー事件)。
【内定辞退について】
内定者が採用を辞退することは、法的には「退職の自由」の問題とされ、xx的にはともかく、法的には特に制限はありません。内々定者の採用辞退についても同様に解されます。
(2)試用期間
入社日(就労開始日)から一定の期間を試用期間や研修期間等として設定し、使用者が研修を実施したり、配属にあたっての適性を見極めたりすることは広く行われています。試用期間を設けるか否か、もし設ける場合にはそのxxx試用期間中の労働条件について、採用時に明示しておくことが重要です。
試用期間の長さは、2~3か月とするものが多く、長くても半年、何らかの必要がある場合でも1年が限度でしょう。また、使用者による試用期間の延長は、労働者の地位を不安定に陥れることになることから、原則として許されません(長野地判昭 48.5.31、xx製作所事件)。
試用期間中も使用者と労働者は労働契約関係にあり(解約権留保付労働契約。最判昭 48.12.12、三菱樹脂事件)、試用期間満了時の本採用拒否や試用期間中の解雇は、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ無効となります(労xx 16条)。つまり、試用期間中の解雇や本採用拒否は解雇に相当し、解雇権濫用法理の適用となるということです。
1 労働契約
4 労働契約の期間
【労働契約の期間の上限】
労働契約には、労使合意により、労働契約の期間を定めることもできますし、定めないこともできます。ただし、労働契約の期間を定めるときは、1つの労働契約の上限は、原則として、最長3年とされています(労基法 14 条1項)。
しかし、長期にわたる建設工事などで一定の事業の完了に必要な期間を定めた場合には、3年を超える期間を定めることができます(同法 14 条1項)。また、高度な専門的知識を有する労働者として労基法第 14 条第1項第1号の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準(平 15.10.22 厚労告 356 号)に定める労働者については、労働契約の最長を5年とすることができます。これらは限定列挙とされています。
更に、満 60 歳以上の労働者との契約は、最長5年を契約期間とすることができます(同法 14 条1項2号)。労基法第 70 条による職業訓練のため長期の訓練期間を要するものについても、3年を超える有期労働契約が締結できます。
【有期労働契約の更新】
有期労働契約を締結した場合、労使の合意による更新には法的制約はありません。ただし、有期労働契約を更新していて、ある時に使用者から更新を拒否する(雇
止め)ときは、一定の条件を満たした有期労働契約については、解雇と同様に客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます(労xx 19 条)。また、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(平 15.10.22 厚労告 357 号)にも留意が必要です(8章参照)。
5 労働条件の明示
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に労働条件を記載した文書を交付することによって、労働条件を明示しなければなりません(労基法 15 条)。この労働条件の文書交付による明示は使用者の義務とされており、労働者の請求がなくても、書面の交付をしなければなりません。
書面によって明示すべき事項は労働基準法施行規則(労xx)に以下の事項が定められています。
必ず明示しなければならない事項 | ①労働契約の期間 | 書面で明示しなければならない 事項 |
②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準 | ||
③就業の場所及び従事すべき業務に関する事項 | ||
④始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を 2 組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項 | ||
⑤賃金(退職手当及び⑨に規定する賃金を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期 | ||
⑥退職に関する事項(解雇の事由を含む。) | ||
⑦昇給に関する事項 | ||
制度を設ける場合に 明示しなければならない事項 | ⑧退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期 | |
⑨臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び1か月を超える期間に対する精勤手当、奨励手当、能率手当、勤続手当並びに最低賃金額 | ||
⑩労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項 | ||
⑪安全及び衛生に関する事項 | ||
⑪職業訓練に関する事項 | ||
⑪災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項 | ||
⑭表彰及び制裁に関する事項 | ||
⑪休職に関する事項 |
①から⑦までが、必ず明示しなければならない事項(絶対的必要記載事項)で、このうち、①から⑥は労働条件通知書に記載しなければならない事項です。ただし、
⑦の昇給の有無についてはパート・有期労働者、派遣労働者には書面等で明示しなければなりません。⑧以下は、もし制度が存在する場合には、記載するべき事項(相対的必要記載事項)になります。
これらを網羅しているのが 13 ページから 14 ページの厚生労働省のモデル労働条件通知書となっています。厚生労働省のホームページには、多言語の労働条件通知書のひな形もダウンロードできるようになっていますのでご活用ください。
労働条件の明示を就業規則の交付によって行う場合でも、①、②、③と、④のうち所定労働時間を超える労働時間の有無については、別途、書面交付等を行わなければなりません。
1 労働契約
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※ 以上のほかは、当社就業規則による。
※ 本通知書の交付は、労働基準法第15条に基づく労働条件の明示及び「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」第6条に基づく文書の交付を兼ねるものであること。
※ 労働条件通知書については、労使間の紛争の未然防止のため、保存しておくことをお勧めします。
○網掛けの部分は、パートタイム・有期雇用労働法により、明示が義務つけられている事項です。
1 労働契約
6 労働契約の原則
(1)均等待遇の原則
労基法3条は、国籍(国籍、人種)、信条(信仰、政治的信条等)、社会的身分を理由として労働条件について差別的取扱いをすることを禁じています。
(2)男女同一賃金の原則
使用者は、労働者が女性であることを理由として賃金について男性と差別的取扱いをしてはいけません(労基法4条)。女性であることを理由に、あるいは女性は定着率が悪いとか、主な生計維持者ではないこと等を理由に、女性労働者の賃金を低く抑えることはできません。また、男性と女性とで、適用される賃金表を異にするとか、各種手当(家族手当や住宅手当)の支給条件が異なるといった場合にも労基法4条違反となります。
(3)労働者の権利保障と人身拘束の禁止
労基法には労働者の退職の自由・転職の自由を保障するための規定が設けられています。まず、使用者が、暴行、脅迫、監禁等、労働者の精神の自由や身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意に反して強制的に労働させることは禁止されています(強制労働の禁止、労基法5条)。また、適法な有料職業紹介業者を除き、営利を目的として、他人の就業に介入して、利益を得ることは禁止されています(中間搾取の排除、同法6条)。
使用者は労働者の労働契約の不履行について違約金や損害賠償額をあらかじめ定めておくことは禁止されています(賠償予定の禁止、同法 16 条)。採用に際して、使用者から借金をさせこれを賃金から返済し終わるまで退職を許さないとする前借金相殺も禁止されています(同法 17 条)。さらに、労働者が希望していないにもかかわらず、労働契約に付随して、賃金の一部又は全部を強制貯金させることも禁じられています(強制貯蓄の禁止、同法 18 条)。これらは、労働者にとって不当な足止め(退職の制限)となってしまうことから、禁止されているものです。
7「労働者」の範囲と法律の適用
(1)労基法、労xx、労組法上の労働者
労基法9条は、労基法上の「労働者」を、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用され「賃金」を支払われる者としています。これは、労基法の保護対象である労働者を定義したものです。この労基法上の「労働者」の定義は、最賃法、安衛法、労災法、公益通報者保護法といった法令等でも共通と解されています。
労働契約法(労xx)では「労働者」を「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」とし、労働組合法(労組法)では、「労働者」の定義を「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」としています。これらに該当するか否かは契約の文言だけではなく、実態に即して判断されます。
(2)業務請負・業務委託と労働契約
業務請負・業務委託とは、契約形式としては民法の請負(民法 632 条)あるいは準委任(民法656 条)ないしこれらに準ずる無名契約(業務請負・業務委任契約)を使って会社の業務の一部を担ってもらう形態です。
契約の相手方が個人で、委任若しくは請負(業務委託)として契約した場合であっても、その個人に対して業務や勤務場所・勤務時間を指示し(指揮命令)、支払う報酬に労務の対価性(賃金性)がある場合は、実質的な「使用従属関係」があるとして、労基法、労xx、労組法等の労働法規の適用を受けることがあります。
フリーランス ついてのガイドラインの策定
フリーランスについては、多様な働き方の拡大、ギグ・エコノミー(インターネットを通じて短期・単発の仕事を請け負い、個人で働く就業形態)の拡大による高齢者雇用の拡大、健康寿命の延伸、社会保障の支え手・働き手の増加などに貢献することが期待されています。
政府は、個人事業主等がフリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、令和3年3月までに「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を策定することとしています。
「フリーランス」とは、法令上の用語ではなく、定義は様々ありますが、ガイドライン(案)では、「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者を指すこととする」としています。
1 労働契約
ガイドラインは、事業者とフリーランスとの取引について、私的独占の禁止及びxx取引の確保に関する法律、下請代金支払遅延等防止法、労働関係法令の適用関係を明らかにするとともに、これら法令に基づく問題行為を明確化する内容となる予定です。
8 年少者を雇用するにあたって
高校生等の満 18 歳未満の年少者(以下「年少者」という。)を使用する場合にも、労基法等を守らなければなりません。
労基法では、年少者の健康及び福祉の確保等の観点から、様々な制限を設けて保護を図っています。
・未xx者の労働契約締結の保護(民法5条、823 条、労基法 58 条)
労働契約は、本人が結ばなければならず、親や後見人が代わって結ぶことはできません。また、年少者が労働契約を結ぶ際には、法定代理人(親権者・後見人)の同意・許可が必要とされ、同意・許可なしで締結された労働契約は取り消すことができます。
さらに、この同意・許可を得て本人が締結した労働契約であっても、親権者・後見人又は行政官庁は、労働契約が年少者に不利であると認める場合は、将来に向かってこれを解除することができます。
・未xxの賃金請求権(労基法 59 条)
未xx者は、独立して賃金を請求することができ、親権者又は後見人は、未xx者の賃金を代って受け取ってはなりません。
・年齢証明書等の備付け(同法 57 条)
事業場には、年少者の年齢を証明する公的な書類を備え付けなければなりません。
・労働時間・休日の制限(同法 60 条)
・深夜業の制限(同法 61 条)
・危険有害業務の就業制限(同法 62 条)
・坑内労働の禁止(同法 63 条)
・帰郷旅費(同法 64 条)
なお、詳細については、厚生労働省のHPをご確認ください。
【厚生労働省:高校生等を使用する事業主の皆さんへ】
xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxx-xxxx/xxxxxx/xxxxxx/xxxxxxx/xxxxxxx/000000-0.xxxx
9 外国人を雇用するにあたって
厚生労働省が発表した「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」によれば、令和2年 10 月末時点での日本の外国人労働者数は 172 万 4,328 人となり、東京労働局管内では 49 万 6,954 人と、いずれも過去最高を更新しました。このように、日本で就労する外国人の数が年々増えている中で、使用者としては外国人を雇用する際の関係法令についても注意しなくてはなりません。
また、厚生労働省は、外国人を雇用する使用者が遵守すべき法令や、努めるべき雇用管理の内容などを盛り込んだ「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」を定めています。
(1)労働法の適用
原則として、日本国内で就労する限り、労働者の国籍に関係なく日本の労働法が適用されます。また、労基法3条は「使用者は、労働者の国籍等を理由として賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」と定め、「国籍」を理由とする差別を禁止しています。
(2)在留資格
外国人の方は、出入国管理及び難民認定法で定められている在留資格の範囲内において、我が国での活動が認められています。この在留資格においては、就労活動に制限がない資格(入管法上の永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者、及び入管特例法上の特別永住者)のほか、技能、技術・人文知識・国際業務、経営・管理、法律・会計業務、高度専門職など、定められた範囲で就労が認められる在留資格が存在します。
外国人の採用に当たっては、あらかじめ、在留資格上、就労することが認められる者であるかを確認するとともに、不法就労に当たる外国人を雇い入れないようにすることが必要です。
(3)募集
労働者の募集に応じて労働者になろうとする外国人が国外に居住している場合にあっては、入国後に相互の理解の齟齬等からトラブル等が生じることがないように、渡航又は帰国に要する旅費その他の費用の負担の有無や負担割合、住居の確保等の募集条件の詳細について、あらかじめ明確にしておくよう努めなければいけません。
1 労働契約
(4)「外国人雇用状況」の届出義務
平成 19 年 10 月1日より、事業主に対し、外国人雇用状況の届出が義務化されるとともに、外国人労働者の雇用管理の改善及び再就職支援の努力義務が課されました。
事業主は、外国人労働者を雇い入れる場合には、氏名、在留資格、在留期間、国籍・地域、在留カードの番号等について事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に届け出なければなりません。離職する場合も同様です。
(5)就業規則・労働条件変更
就業規則は常時 10 人以上の労働者を雇用する際には作成義務があり、作成した就業規則は労働者への周知が必要であることから、就業規則の周知に際して、日本語を理解することができない労働者に対してはその労働者が理解できる言語で周知することが望ましいと考えられます。労働条件の変更や日本の労働法制度一般の周知についても同様です。
(6)社会保障協定
日本と社会保障協定を締結した国の企業から派遣されて日本国内で就労する人について、派遣元の国の社会保険料を支払う人は日本の厚生年金及び健康保険への加入が免除されます。令和元年 10 月時点で、ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ合衆国、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国との社会保障協定が発効しています。
xxx労働相談情報センターでは、外国人労働者ハンドブック(英語版及び中国語版)を作成しています。労働関係法令をはじめとして、在留手続きや税金などの日本で働く上で必要な法制度について解説しており、日本語も併記しています。また、外国人労働者向けリーフレット「これだけはおさえておきたい労働法のポイント」(ベトナム語版、ネパール語版、タイ語版、インドネシア語版)も作成しています。
これらを、外国人を雇用する使用者の皆さんにも活用していただければ幸いです。
2
就業規則
1 就業規則の意義と役割
就業規則とは、労働条件の詳細や、職場において守るべきルール(服務規律)等を定めた文書をいいます。多くの労働者を雇用し、一定の目的にそって働かせるにあたって、労働条件や服務規律などを就業規則に明確に定め、労働者に周知しておくことは労務管理の基本です。
就業規則の規定内容が合理的であって、労働者に周知されている場合には、就業規則の規定は労働契約の内容となり、使用者・労働者ともその内容に拘束されます(労xx7条)。すなわち、就業規則の定めにより、当事者の労働契約上の権利及び義務が形成されるのです。
なお、法律が改正された場合には、使用者は、必要に応じて、法改正に対応するように就業規則を改正しなければなりません。
2 就業規則の作成・変更の手続
就業規則は使用者が作成しますが、労働者保護の観点及び就業規則の労働条件の決定に果たす役割に着目し、以下のように一定の規制が行われています。
【作成義務】
労基法が適用される事業場において、常時 10 人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません(労基法 89条)。就業規則は、原則として、事業場(職場)ごとに作成することとされています。
この「常時 10 人以上の労働者」には、臨時的な雇用(例えば、棚卸し時に日雇いで雇った臨時アルバイト等)は含まれませんが、それ以外は常時使用される者としてカウントします(ただし、派遣労働者は派遣先事業場では除外されます。)。
なお、10 人未満の事業場は労基法では就業規則の作成が義務付けられていませんが、労働条件を明確にするために就業規則を作成することが望ましいでしょう。
【記載事項】
労基法 89 条は、就業規則の記載事項について、必ず定めておくべき絶対的必要記載事項(労基法 89 条1号~3号)と、制度が存在する場合には就業規則に定めておく相対的必要記載事項(同法 89 条3号の2~ 10 号)とを定めています。また、これら以外の事項も任意的記載事項として定めを置くことができます。
絶対的必要記載事項を欠く就業規則は、労基法 89 条違反となります。これに対し、
2 就業規則
相対的必要記載事項は、当該事業場にその制度がある場合に、必ず就業規則に規定を置いておかなければならない事項です。絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項はそれぞれ以下のとおりです。
絶対的必要記載事項 | ①始業及び終業の時刻、休憩時間(休憩の長さ、与え方等を含む。)、休日(日数、与え方等を含む。)、休暇(年休、産前産後休業、いわゆる生理休暇、育児・介護休業などを含む。)、交替制の場合には就業時転換に関する事項(交替期日、交替順序等)、 ②賃金(退職金、臨時の賃金等を除く。)の決定、計算、支払の方法、賃金の締切り、支払の時期、昇給に関する事項(昇給の有無、昇給期間、昇給率、昇給基準等)、 ③退職に関する事項(解雇の事由のほか、自己都合退職、合意解約、定年制度等も含む。) |
相対的必要記載事項 | ①退職手当に関する事項(適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算、支払の方法、退職手当の支払の時期に関する事項等)、 ②退職手当以外の臨時の賃金(例えば賞与、一時金、結婚祝金など)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項、 ③食費、作業用品などの負担に関する事項、 ④安全衛生に関する事項、 ⑤職業訓練に関する事項、 ⑥災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項、 ⑦表彰(表彰の種類、事由等)および制裁に関する事項(懲戒事由、懲戒処分の種類、手続き等)、 ⑧その他全労働者に適用される事項(例えば、旅費規程、福利厚生施設の利用、休職制度、配置転換、出向等が該当する。) |
相対的必要記載事項を定めるべきであるのにもかかわらず、これを規定していない場合も労基法 89 条違反となりますので注意が必要です。
このほか、就業規則の制定趣旨、xx精神を宣言した規定、就業規則の解釈や適用などに関する規定を設けることもあり、それらは任意的記載事項に分類されます。
【意見聴取義務】
常時 10 人以上の労働者を使用する使用者が就業規則の作成・変更をするにあたっては、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合(以下「過半数組合」という。)、当該事業場に過半数で組織する労働組合が存在しない場合には民主的手続によって選出された当該事業場の過半数を代表する者(以下、過半数組合と過半数代表者をまとめて「過半数代表」ということがある。)の意見を聴取しなければなりません(労基法 90 条)。
労働者側の意思を反映させるのが趣旨ですが、過半数代表者の同意を得る義務まではありません。過半数代表者の意見を記した書面を添付して所轄労働基準監督署長に届出をすることになります(同法 90 条2項)。なお、過半数組合がない事業場における過半数代表者の選出条件については後述します。
【届出義務】
使用者は、作成・変更した就業規則を所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。届出に当たっては、前述のとおり、過半数組合又は過半数代表者の意見書の添付が必要です(労基法 90 条2項)。労働基準法施行規則(労xx)49 条2項は、労基法 90 条2項の規定により「所轄労働基準監督署長に届け出る際に添付する意見を記した書面は、労働者を代表する者の署名又は記名押印のあるものでなければならない。」としています。なお、令和3年4月1日以降に、就業規則の作成又は変更を行う場合には、行政手続における押印原則の見直しに関する労xxの改正により、意見書には過半数を代表する労働者の署名又は記名・押印がなくとも、氏名記載によって所轄労働基準監督署長に提出が可能となります。その際には、労働者側の協定当事者が、①管理監督者でないこと、②就業規則の作成・変更についての意見を述べる者を選出することを明らかにした上で、投票、挙手等の方法で選出されること、
③使用者の意向に基づいて選出された者でないことが求められます。
添付される意見書は、反対意見が記載されている場合でも、所轄労働基準監督署長への届出に支障はなく、また、過半数組合ないし過半数代表者が意見書の提出を拒む場合には、意見を聴いたことが証明できれば所轄労働基準監督署長では受理されます(昭 23.5.11 基発 735 号、昭 23.10.30 基発 1575 号)。
なお、就業規則の届出は、CD-ROM、DVD-R 又はDVD-RW 等の電子媒体で提出することも可能ですし、電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」への電子申請による届出も可能です。
【周知義務】
使用者は,就業規則を常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付すること、コンピュータなどで常時閲覧可能な状態にしておくこと等、労基法施行規則で定める方法によって、労働者に周知させなければなりません(労基法 106 条)。
周知の方法は、労xx 52 条の2に以下の通り定められています。
①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
②書面を労働者に交付すること。
③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
なお、使用者は、就業規則だけではなく、労基法及び労xx、36 協定などの労使協定、労使委員会の決議についても労働者に周知する義務を負っています(同法 106 条)。
2 就業規則
3 就業規則が労働契約の労働条件決定にどのように作用するか
(1)手続違反の罰則
就業規則の作成義務違反(記載漏れなど)や、意見聴取義務・届出義務・周知義務に違反した場合、使用者には罰則の適用があります(労基法 120 条)。
(2)就業規則の定めと労働契約の労働条件
使用者が合理的な労働条件を定める就業規則を採用に際して労働者に周知させた場合には、その労働条件が労働契約の内容になります(労xx7条)。
就業規則の定める労働条件は、労働契約との関係で、最低基準としての効力を有します(同法 12 条)。労働契約の定める労働条件のうち、就業規則に定める労働条件の基準に達しない部分を無効とし、それを就業規則に定める基準で補充することが定められています。
この就業規則に定める労働条件の基準に達しない部分を無効とすることを、専門用語では、「強行的効力」と言い、就業規則に定める基準で補充することを「補充的効力」と言います。また、労xx 12 条の法的効力は「最低基準効」と呼ばれています。
例えば、就業規則において時給 1,500 円と定められている場合に、使用者が新規採用の労働者と時給 1,300 円で合意したとしても、これは、就業規則の 1,500 円に達しないので、1,300 円という合意が無効となり、無効となった時給は、就業規則に定める 1,500 円によって補充され、結局、この労働契約の時給は、1,500 円となります。
(3)就業規則 よる労働条件の不利益変更
就業規則による労働条件の不利益変更が認められるかどうかについて、労xxは、
「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない(労xx9条)」と規定し、労働条件決定・変更における労使合意の原則を示しています。
ただし、この原則に対する例外として、労xx 10 条は、就業規則の変更が、「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況、その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なもの」であって、かつ、「変更後の就業規則を労働者に周知」 している場合には、労働契約の内容である労働条件は変更後の就業規則によって変更されるとします。その場合、不利益変更に合意しない労働者にも変更後の労働条件が適用さ
れることになります。ただし、就業規則による労働条件の不利益変更が認められるのは、あくまで例外的と考えるべきであって、労働条件の変更には労働者の同意を要することが原則であると考えるべきでしょう。
また、就業規則の変更によらず、あるいは就業規則の変更と並行する形で、個々の労働者との合意により、労働条件を労働者にとって不利益に変更する場合には、使用者が労働者に対し、変更の必要性やその内容について、十分に時間をかけて説明し、労働者の納得を得る必要があります。判例では、労使の交渉力の相違を考慮して、労働者の合意の存否は慎重に判断されており、「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけではなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべき」(最判平 28.2.19、山梨県民信用組合事件)としました。
なお、労働者及び使用者が労働契約により、就業規則の変更によっては変更されない労働条件として個別に合意していた部分(いわゆる特約)については、その合意が就業規則を下回る場合を除き、就業規則の変更によって不利益変更することはできません(労xx 10 条但書)。
労働者の過半数代表者
労基法は、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数を組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者」との書面の協定(労使協定)を締結したり、意見を聴いたりすることを規定しています(労xx6条の2)。
過半数組合のない事業場における労働者の過半数代表者の選出については、労基法 41 条2号に定める「管理監督者」(後述)を過半数代表者とすることはできません(労xx6条の2第1項1号)。また、選出に当たっては、協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続による必要があり、使用者の意向に基づき選出されたものであってはなりません(同2号)。
また、使用者は、過半数代表者が法に規定する協定等に関する事務を円滑に遂行することができるよう必要な配慮を行わなければなりません。
(労xx6条の2第4項。平成 31 年4月1日施行)
2 就業規則
4 懲戒処分
懲戒処分は、企業秩序を維持するために必要な措置ですが、就業規則(作成義務がない場合には就業規則に準ずるもの)において、懲戒処分の事由とその種類(懲戒解雇、諭旨解雇、出勤停止、降格、減給、けん責など)及び程度とを定めておく必要があります。懲戒処分を行う場合には、処分の対象者にどのような非行がどの懲戒事由に該当し、どの懲戒処分を選択したのかを明らかにし、かつ弁明の機会を与えることが必要です。
懲戒処分には、懲戒権濫用法理(労xx 15 条「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」)が適用されます。ここでは、懲戒処分に至るまでに事前に警告したり、教育指導したりしたが、改善されなかったかどうか、前例に比べて厳しくないかなどの観点から懲戒処分の相当性が判断されます。
3
賃金と処遇
1 賃金の定義
【労基法の「賃金」】
労基法 11 条は、労基法上の賃金を「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と定義します。この規定から、①使用者が労働者に支払うもの、②労働の対償(対価)であるもの、という2つの要件を満たすものは、その名称(呼び方)を問わず、労基法上の賃金とされることになります。したがって、賃金、給与、報酬、アルバイト代等であっても労働の対価であれば労基法上の賃金として保護の対象となります。また、家族手当、住宅手当や通勤手当といった使用者が支給基準を定めて支払う各種手当も労基法上の賃金に当たります。
これに対し、使用者が任意に労働者に支払う慶弔見舞金のように、任意的恩恵的な金銭給付は労基法上の賃金に当たりません。出張経費の精算も労働の対価ではないので賃金ではありません。なお、顧客が労働者に直接支払うチップも使用者による支払いではないので、賃金に当たらないと解されています。
【平均賃金】
平均賃金とは、労基法 12 条に基づき、労働者ごとに算出される金額のことをいいます。労基法 12 条は、この平均賃金の定義及び算定方法について規定しています。この平均賃金は、解雇予告手当(労基法 20 条)、休業手当(同法 26 条)、年次有給休暇取得日の賃金(同法 39 条)、業務上疾病、死亡等の場合の災害補償(休業補償
(同法 76 条)、障害補償(同法 77 条)、遺族補償(同法 79 条)、葬祭料(同法 80 条)、打ち切り補償(同法 81 条)、分割補償(同法 82 条 )、減給の制裁の制限額(同法 91 条)の算定に用います。
平均賃金は、その労働者に支払われた過去の賃金の額から、得られるであろう賃金の1日当たりの額を計算し、これを支給すること等によって労働者を保護しようとするものであり、「算定すべき事由の発生した日以前3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」です。「3か月」とは、暦日の3か月で、賃金締切日があるときは直前の賃金締切日から起算します。
平均賃金(原則)
=3か月間に支払われた賃金総額÷3か月間の総日数
なお、賃金が時給・日給・請負給で、上記の計算式で計算した金額が、以下の式
3 賃金と処遇
で計算した額を下回る場合は、以下の式で計算された額が平均賃金になります。
時給・日給・請負給の場合の最低保障額
平均賃金=3か月間に支払われた賃金総額÷3か月間の実働日数× 100 分の 60
これらの賃金の総額の中には、時間外・休日労働の割増賃金、通勤手当、家族手当なども含まれますが、①臨時に支払われた賃金、②3か月を超える期間ごとに支払われる賃金、③通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは含まれません。
平均賃金を算定するための賃金総額から除外するもの
平均賃金の算定の基礎から除外 |
臨時に支払われた賃金(結婚手当、私傷病手当など) |
3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(年3回までの賞与など) |
通貨以外で一定の範囲に属さないもの(法令、労働協約によらない現物給与) |
また、業務上負傷し又は疾病にかかり療養のために休業した期間、産前産後休業、使用者の責めに帰すべき事由により休業した期間、育児休業期間、介護休業期間、試用期間がある場合は、その日数及びその期間中の賃金は、その期間の総日数及び賃金の総額から控除して計算します。
2 賃金の決め方
(1)不合理な差別・処遇格差は許されない
使用者が労働者に対してどのような基準によって賃金を支払うかは、法令に反しない限りは、労使間の契約等に基づき自由に定めることができます。法令では、「国籍」、「信条」、「社会的身分」(労基法3条)、「性別(女性)」(同法4条)、「障害」(障害者雇用促進法 35 条)、「組合員、組合加入・結成、正当な組合活動」(労組法7条
1号)等を理由に賃金について差別をしたり、不利益に取り扱ったりすることは禁止されています。
また、賃金を決めるにあたり、労働契約法の均衡の原則(労xx3条2項)、短時間・有期雇用労働者の不合理な待遇の禁止(パート・有期法8条)、通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱の禁止(同法9条)、賃金につい
て職務内容、職務の成果、意欲、能力又は経験等を勘案して賃金を決定する努力義務(同法 10 条)、派遣労働者の不合理な待遇の禁止(派遣法 30 条の3)等にも配慮する必要があります(8章参照)。
(2)年俸制
年俸制は、個々の労働者の仕事の成果や実績について、その労働者と使用者が個別的に話し合って、年単位で決定するものです。年俸制対象者であっても、労基法の労働時間、割増賃金に関する規制は適用されます。したがって、時間外労働や深夜労働、休日労働には、36 協定の締結と割増賃金の支払いは必要です(管理監督者等を除く。)。
割増賃金を年俸額に含めて支払う場合には、①通常の賃金部分と割増賃金部分が明確に区別されていて、②割増賃金部分が労基法 37 条によって計算された額以上であって、③あらかじめ定められた時間数を超えて労働した場合には追加の割増賃金を支払う必要があります。
判例では、各年の年俸額について労使間で合意ができないときは、最終的には使用者が決めることができるとしているものもあります。ただし、使用者が一方的に年俸額を極端に引き下げる場合には、権利の濫用として、無効となると考えられます。
3 賃金の額
(1)最低賃金
最低賃金制度とは、最低賃金法(最賃法)に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。
最低賃金は、国によって都道府県ごとに時間額で設定されており、地域別最低賃金(最賃法9条1項)と特定の産業に適用される特定最低賃金(同法 15 条1項)とがあります。特定最低賃金は、特定地域内の特定の産業の基幹的労働者とその使用者に適用されます(18 歳未満又は 65 歳以上の方、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の方、その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方などには適用されません。)。特定最低賃金と地域別最低賃金が異なる場合には、より高いほうが適用されます。なお、xxxにおいては、平成 26 年以降、特定最低賃金を地域別最低賃金が上回ったことから、現在においては全業種において地域別最低賃金が適用されています。
最低賃金を下回る賃金を定める労働契約は、その部分について無効となり、無効
3 賃金と処遇
となった部分は、最低賃金によることになります(同法4条2項)。
なお、東京では令和2年は最低賃金を時間額 1,013 円に据え置く決定を行いました(近県では令和2年の秋に地域別最低賃金が引き上げられていますので、他県に事業場がある場合にはご注意ください。)。
xxx最低賃金
時間額 | 発効日 | ||
地域別最低賃金 | 1,013 円 | R1.10.1 | |
特定最低賃金 | 鉄鋼業 | 871 円⇒◯地 1,013 円 | (H26.3.23) |
出版業 | 857 円⇒◯地 1,013 円 | (H24.12.31) | |
自動車・同附属品製造業、船舶製造・修理業、舶用機関製造業、航空機・同附属品製造業 | 838 円⇒◯地 1,013 円 | (H24.2.18) | |
はん用機械器具、生産用機械器具製造業 | 832 円⇒◯地 1,013 円 | (H22.12.31) | |
電気機械器具、情報通信機械器具、業務用機械器具、時計・同部分品、眼鏡製造業 | 829 円⇒◯地 1,013 円 | ||
各種商品小売業 | 792 円⇒◯地 1,013 円 | (H21.12.31) |
※時間額欄の金額に◯地を付したものは、地域別最低賃金が適用されます。
(1)使用者は、最低賃金以上の賃金を、臨時・パート労働者・アルバイトを含む全ての労働者に支払わなければなりません。
(2)最低賃金は「、時間額」のみとなっており、月給制、日給制、時間給制等全ての給与形態に「時間額」が適用されます。
(3)最低賃金の対象となるのは、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものです。①臨時に支払われる賃金(結婚手当など)、②1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)、③所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)、④所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)、⑤午後 10 時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)、⑥精皆勤手当、通勤手当及び家族手当。
(2)休業手当
①休業手当の意義
労基法 26 条は、使用者の責(せめ)に帰すべき事由によって労働者を就労させなかった場合には、労働者の請求や立証の有無に関わらず、平均賃金の 60%以上を休業手当として労働者に支払うことを義務づけています。使用者が休業手当を支払わないときは罰則の適用(労基法 120 条)のほか、裁判所への申立てにより未払いの休業手当のほかに、同一額の付加金(同法 114 条)の支払いを命じられることがあります。
民法 536 条2項においては、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」としており、これを労働関係に当てはめると、使用者の責めに帰すべき事由によって労務提供ができない場合には、使用者は、賃金の支払いを拒むことができないとなります。この民法 536 条2項の規定は、当事者間の合意によって排除することができると解されていますが、労基法において使用者の休業手当の支払義務を定め、労働者の保護を図りました。また、民法 536 条2項では、「この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。」としており、休業により、労働者が他で収入を得た場合(その収入は「中間収入」と呼ばれます。)には、その分は使用者は支払わなくてもよいとしますが(中間収入の控除)、労基法 26 条の休業手当は、中間収入の有無、額は問わず、使用者に休業手当(平均賃金の6割の支払い)を義務付けています。
②使用者の責 帰すべき事由とは
休業手当の支払い義務のある「使用者の責に帰すべき事由」には、使用者として不可抗力を主張し得ないあらゆる事由が含まれ、使用者の故意・過失はもちろんのこと、景気悪化や資金難、受注減少といった経営障害の場合にも休業手当の支払義務が生じます。
使用者が休業手当の支払いを免れることができる事由は限定的に解されており、単なる経営障害などは該当しません。しかし、不可抗力により、使用者が休業手当の支払義務を免れる場合もあります。
不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故(天災事変その他自然現象によるもの(例えば水害による事業場の全損や大地震による作業所倒壊等)や大規模停電等)であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。②に該当するには、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言える必要があります。具体的な努力を尽くしたと言えるか否かは、例えば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか、あるいは、労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないかといった事情から判断されます。令和2年に発生した新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休業に関する休業手当の考え方については、厚生労働省のホームページにQ&Aが掲載されていますので、参考にしてください。
3 賃金と処遇
4 賃金支払いの原則等
労基法 24 条は、賃金の支払方法について5つの原則を定めています。これは、労働の対価である賃金が、確実に労働者本人の手に全額渡るように、罰則付きで賃金の支払いについて定めたものです。労基法 24 条1項に、①通貨払い原則、②直接払い原則、③全額払い原則が、同条2項に④毎月1回以上払い原則、⑤一定期日払い原則が定められています。
【通貨払いの原則】
賃金は、原則として、通貨(日本国内で通用する貨幣=「円」)で支払わなければなりません。これは現物給付を禁止したものです。ただし、労働協約に定めをすれば賃金の一部を現物で(例えば定期乗車券の供与)支給することが可能です。小切手・為替等による支払は、原則として禁止されていますが、例外として、労働者本人の同意を得た場合に退職手当に限り、小切手・為替による支払いが可能です(労xx
7条の2第2項)。
給与の口座振込は、①労働者本人の同意を得ること、②労働者が指定する銀行その他の金融機関の本人名義の預金又は貯金等への振り込みであること、③賃金支払日当日(午前 10 時ごろまで)に全額払い出しが可能であること、④賃金支払日に計算書(いわゆる給与明細)を交付することを全て満たす場合には、通貨払いの例外として認められています(労xx7条の2)。
なお、令和2年7月 17 日に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」では、デジタルマネーによる賃金支払い(資金移動業者への支払い)の解禁について、検討されています。
【直接払いの原則】
賃金は、直接労働者に支払わなければなりません。第三者の介在等による中間搾取の防止の観点から代理受領を禁止し、必ず本人に直接支払うことを義務付けたものです。労働者の親権者やその他の法定代理人に支払うことも禁止しています(労基法 59 条)。他方、賃金支払日に労働者が病気や長期出張等のために賃金を受領できないような場合に、家族等の使者に支払うことは可能とされています。
近年、労働者が給与の前借感覚で「給与ファクタリング」などを利用したことによるトラブルが多く発生しています。「給与ファクタリング」とは、業として、個人
(労働者)が使用者に対して有する賃金債権を買い取って金銭を交付し、当該個人を通じて当該債権に係る資金の回収を行うことです。労働者が第三者に賃金債権を譲
渡した場合でも、労基法 24 条1項の規定により、使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、賃金債権の譲受人は、自ら使用者(労働者の勤務先等)に対してその支払いを求めることは許されないと解されています。使用者が、譲受人からの要求に応じ賃金を支払った場合、使用者の労基法違反となりますので、注意が必要です。
【全額払いの原則】
賃金は、支払時期が到来しているものについて、全額を労働者に支払わなければなりません(労基法 24 条1項)。
賃金控除ができるのは、①法令によって認められた場合(租税、社会保険料及び雇用保険料の控除、財形貯蓄金の控除)のほか、②当該事業場の労働者の過半数組合ないし過半数代表者と書面の協定(賃金控除協定、24 条協定ともいわれます。)を結んで事理明白な範囲で賃金の一部を控除する(例、社宅・寮費の控除)場合です。なお判例では、組合費控除(チェック・オフ)の場合も労基法 24 条の労使協定を必要としています(最判平 1.12.11、済生会中央病院事件)。
また、判例は賃金締切り後の欠勤や計算ミスなど、やむを得ない理由で賃金の過払いが生じたときに、翌月(又は翌々月)の給料から過払い分を控除することについては、時期が接近しており、額が少額で、労働者に事前に通知すれば、労使協定がなくても「調整的相殺」は可としています(最判昭 44.12.18、xx県教組事件)。また、労働者の自由意思による賃金債権の放棄(最判昭 48.1.19、シンガー・ソー イング・メシーン事件)及び使用者の一方的な相殺ではなく、労使が合意で相殺を行い、その同意が労働者の自由意思に基づくと認められる合理的理由が客観的に存
在するときには、全額払いの原則に反しません(最判平 2.11.26、日新製鋼事件)が、その意思表示は真に労働者の自由意思に基づくものでなければなりません。
【毎月1回以上払いの原則】
賃金は、毎月1回以上支払わなければなりません。年俸制の場合であっても、その支払いは毎月1回以上とする必要があります。毎月1回以上であればよく、1か月に1度の支払いのほか、半月払い、週払い、日払いでも可です。
なお、賞与や臨時に支払われる賃金(例えば慶弔見舞金等)には、毎月1回以上払いの原則及び次項の一定期日払いの原則は適用されません。①臨時に支払われる賃金、②賞与、③1か月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当、④
1か月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当、⑤1か月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給又は能率手当が、毎月1回以上・
3 賃金と処遇
一定期日払いの例外になります(労xx8条)。
【定期払いの原則と例外(非常時払い)】
賃金は、一定の期日に支払わなければなりません。月給制で支払曜日(例えば毎月末の金曜日)を決めるのは違法です。支払日が月によって異なるからです。
労働者及び労働者の収入によって生計を維持する者が、出産、疾病、災害、結婚、死亡、やむを得ない事由により1週間以上にわたって帰郷する場合で、労働者が請求する場合には、既往の労働に対する賃金を、労働者は、賃金支払い期前であっても請求でき、使用者は支払わなければなりません。これを非常時払いといいます(労基法 25 条、労xx9条)。既往の労働に対する賃金とは、請求までに既に労務提供がなされていて、使用者において賃金支払い義務が生じているものをいいます。
【賃金請求権の時効】
令和2年4月1日に、労働基準法における賃金(退職手当を除く。)の請求権の消滅時効は、3年に変更されました(労基法 115 条、143 条)。労基法 115 条は、賃金の請求権の消滅時効を改正民法に合わせて5年間に延長(「この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から2年間行わない場合においては、時効によって消滅する。」)しますが、143 条に経過措置を設け、賃金(退職手当を除く。)の請求権の時効を、当分の間は、3年間とする旨の読み替え規定を設けたからです。なお、退職手当の時効は従前どおり
5年、災害補償、年次有給休暇権の時効は従来通り2年のままとなっています。 賃金請求権の新しい時効については、令和2年4月1日以降に賃金支払日がある
賃金から適用になります。これは、改正 115 条が「これを行使することができる時から」として、消滅時効の起算点が客観的起算点であることを明らかにしたためです。令和2年3月 31 日までに賃金支払日がある賃金については、従前の時効(2年)が適用されます。
賃金請求権の時効の変更に伴い、労働者名簿、賃金台帳及び雇い入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働の関係に関する重要な書類の保存期間(同法 109 条)も5年に、付加金(同法 114 条)の請求も5年以内となりますが、これらも経過措置により、当分の間、それぞれ3年間となります(同法 143 条)。
5 賞与・退職金の性格と在籍者支給条項
【賞与の性格と権利】
賞与も「労働の対償」(労基法 11 条)であり、支給条件があらかじめ定められていれば労基法上の「賃金」となります。すなわち、労働者が賞与請求権を得るためには、労働協約、就業規則、労働契約書の賞与規定や明確な賞与支給の慣行などの根拠が必要です。
【在籍者支給条項】
就業規則の賞与規定等には、「賞与は支給日に在籍する者に支給する」旨の在籍者支給条項がみられますが、このような在籍者支給条項は有効とされています(最判昭 60.11.28、京都新聞社事件など)。
もっとも、有効とされるのは自己都合退職のように労働者に退職日を選ぶ自由があることが前提です。また、賞与の支給日が例年より遅れた場合なども、在籍者支給条項の効力は及ばないと考えられます。
【退職金の法的性格と退職金請求権】
退職金も、労働協約や就業規則、労働契約によって支給条件が明確に定められている場合には、労基法上の「賃金」に当たります。労働者が具体的に退職金を請求できるようになるのは、退職という事実が発生したときであり、このときまでは、賃金である退職金の具体的な請求権は発生しません。
退職金の性格は、賃金の後払いとしての性格に加えて、従業員のxxの功に報いるために使用者が支給するという功労報償としての性格や労働者の老後の生活に対する保障の性格等をも併せ持つものと考えられてきました。
【懲戒解雇と退職金】
懲戒解雇に際し、退職金を不支給・減額することは、賃金の全額払いの原則に反しないのでしょうか。判例は、退職金が功労報償としての性格を有することから、退職金の不支給・減額は、労働者のxxの功を無にしたり、あるいは減殺したりするほどの重大な背信行為があった場合に認められるとしています。懲戒解雇だからといって当然に退職金の不支給・減額が認められるわけではなく、退職金の不支給・減額が妥当であるかを判断する必要があります。
3 賃金と処遇
【同業他社への転職と退職金の減額不支給】
使用者は、労働者が退職後に同業他社に就職して営業秘密が漏れたり顧客を奪われたりするリスクを防止するために、退職後、一定期間内に競業他社に就職することを制限したり(競業避止義務)、競業他社への転職を理由に退職金を不支給・減額することを就業規則等に定めることがあります。
このような競業を理由とする退職金の不支給・減額については、同業他社への就職を禁止する合理的理由や、それが禁止される期間・場所、制限する業務の範囲、その減額の程度等を考慮して、同業他社への就職がもたらす使用者に対する不利益の程度に応じて、有効性が判断されます(禁止期間が長すぎるとか、場所、業務が広すぎる場合には退職金の減額等が無効とされる場合があります。)。
6 人事と処遇
労働者が従事する業務の内容や場所は賃金と並んで、仕事の種類や仕事の場所も労働者にとって重要な処遇の内容です。そこで、これらの変更となる配転や出向についてみておきましょう。
(1)配転命令
【配転の意義と配転命令権の根拠】
配置転換(配転)とは、同一企業内で労働者の業務の場所や業務内容を変更することをいいます。使用者が配転を労働者に命ずる権限(以下「配転命令権」という。)は、使用者が当然に有しているわけではなく、労働契約上の根拠が必要です。具体的には、労働協約や採用時に周知した就業規則に「業務の必要上、会社は従業員に配置転換を命ずることがある」などの規定を置いており、実際に想定される範囲で配転が行われる場合に、使用者は労働者に配転を命ずることができるのです(労xx7条)。ただし、就業規則に配転規定がある場合でも、労働者と使用者との間で勤務地及び業務内容を限定する合意をしている場合には、その特約が優先されます。
【配転命令の限界】
配転命令権が認められても、その濫用は許されません(労xx3条5項)。配転のための「業務上の必要性」がない場合や、組合嫌悪の情から左遷するなどの「不当な動機・目的」による場合、あるいは「労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を負わせる場合等は、配転命令権の濫用として当該配転命令は無効とされます(最判昭 61.7.14、東亜ペイント事件)。また、子の育児、又は家族の介護等
を行っている労働者の配転・転勤には、十分配慮して行うことが必要になると考えられます(育児介護休業法(育介法)26 条)。
(2)出向と転籍
【出向命令の意義と根拠】
出向とは、出向元会社の従業員としての地位を残したまま(在籍のまま)、一定期間、出向先会社に雇用されて就業するものです(「在籍出向」ともいいます。)。
出向には、民法 625 条1項の「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。」が適用されますが、判例では、労働者の個別の承諾のほか、就業規則や労働協約の出向条項があればこれに基づいて使用者は労働者に出向を命ずることができると解されています。
その場合も、出向元・出向先会社間の出向協定(出向契約)によって、出向先の労働条件、処遇、出向期間、復帰条件などが整備され、労働者にとって内容的にも著しい不利益を含まないことが必要です。出向命令権が肯定されても、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、濫用となるような出向命令は無効とされます(労xx 14 条)。
【転籍】
転籍(「転籍出向」ともいう。)は、転籍元会社を退職して転籍先会社と新たに労働契約を締結することになるので、労働者本人の個別的合意がなければ許されません(民法 625 条1項)。就業規則や労働協約に転籍に関する規定があったとしても、転籍には労働者の同意が必要であり、使用者は、労働者に一方的に転籍を命ずることはできません。
4
労働時間・休日・休暇
1 法定労働時間
【法定労働時間の原則】
使用者は、労働者に休憩時間を除き、1週間に 40 時間を超えて労働させてはなりません。また、1週間の各日については、休憩時間を除き、8時間を超えて労働させることはできません(労基法 32 条)。これを法律が定める労働時間の上限であることから法定労働時間といいます。
違反には、6か月以下の懲役又は 30 万円以下の罰金が科せられる(同法 119 条)ほか、法定労働時間を超える当事者の約束は無効とされ、無効となった部分は法定労働時間どおりに直されます(同法 13 条)。
なお、法定労働時間を超えて働かせる場合には、使用者は従業員の過半数代表と書面の協定(36 協定)を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出て、割増賃金を支払わなければなりません(同法 36 条、37 条)。
【特例措置対象事業場の労働時間】
特例として公衆の不便を避ける等の理由で、①小売・卸売・理容・美容の事業、
②映画・演劇xxの興行事業、③診療所・社会福祉施設などの保健衛生事業、④旅館・飲食・娯楽・接客事業について、それぞれ常時 10 人未満の労働者を使用する事業場では、休憩時間を除き、週の法定労働時間は 44 時間(1日は8時間)とされています。
特例措置対象事業場の例(常時 10 人未満の労働者を使用する場合に限る)
商業 | 物品の販売、配給、保管、賃貸、理容の事業 |
映画・演劇業 (映画の製作の事業を除く) | 映画の映写、演劇、その他興業の事業 |
保健・衛生業 | 病者又は虚弱者の治療、看護(病院、診療所、社会福祉施設)、浴場業、その他の保健衛生業 |
接客・娯楽業 | 旅館、料理店、飲食店、接客業、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業 |
2 労基法上の労働時間の概念
法定労働時間の1週 40 時間、1日8時間とは労働者がどういう状態にある時間なのでしょうか。これが「労基法上の労働時間」の概念の問題です。判例では、「労基
法上の労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間をいう」との判断基準が確立しています(最判平 12.3.9、三菱重工業長崎造船所事件)。そして、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平 29.1.20 基発 0120 第3)においても、「労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる」としています。このガイドラインでは、例として、①使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間、②使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)、③参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間は、労基法上の労働時間に当たるとしています。
これらの判断基準によって、労働時間とされた時間が、法定労働時間を超えている場合には、割増賃金の支払いが必要です。
3 変形労働時間制
【変形労働時間制とは】
変形労働時間制とは、一定の期間を平均して1週の労働時間が法定労働時間以下になることを条件に、1週 40 時間・1日8時間の法定労働時間を超えて労働させることができる弾力的な労働時間制度をいいます。
労基法は、上記の法定労働時間を順守するよう使用者に罰則付きで強制する反面、昭和 62 年改正以降、この規制を柔軟化して所定労働時間の有効な活用を図ろうとしてきました。
変形労働時間制を採用するためには、就業規則その他これに準ずるものに規定し、労働者に周知する必要があります。
なお、妊産婦(妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性)が請求した場合には、変形労働時間制(フレックスタイム制を除く。)を採用していても、1週及び1日の法定労働時間を超えて労働させることはできません。
【1か月単位の変形労働時間制】
1か月単位の変形労働時間制とは、1か月以内の一定期間を変形期間とし、平均して1週間当たりの労働時間が 40 時間を超えない定めをした場合には、その定めに
4 労働時間・休日・休暇
より、特定した週に 40 時間を超えて、又は特定した日に8時間を超えて労働させることができる労働時間制度です(労基法 32 条の2)。
この制度は、1日8時間を超えて勤務する交替制や、1勤務当たりの所定労働時間が長い隔日勤務などに適した制度といえます。
制度を導入する要件は、①1か月単位の変形労働時間制を採ること、②変形期間(1か月以内のものに限ります。)、③起算日、④労働日とその日の労働時間の始業・終業時刻について就業規則またはこれに準ずるものに定めをすることです。従業員の過半数代表と書面の協定(労使協定)を締結して導入することもでき、その場合には所轄労働基準監督署長に労使協定を届け出なければなりません(労使協定には有効期間の定めが必要です。)。
変形期間を1か月とした場合の所定労働時間の上限は、週の法定時間×1か月の日数 / 7(1週間の日数)で算出します。特例措置対象事業場の場合には、1週間 44 時間を基準に算出できます(月の暦日ごとの法定労働時間の総枠は下表を参照して下さい。)。
1か月(変形期間)の歴日数 | 法定労働時間の総枠 (カッコ内は特例措置対象事業場) |
31 日 | 177.14(194.85)時間 |
30 日 | 171.42(188.57)時間 |
29 日 | 165.71(182.28)時間 |
28 日 | 160.00(176.00)時間 |
【1年単位の変形労働時間制】
1年単位の変形労働時間制とは、1年以内の一定期間(対象期間)を平均して1週間当たりの労働時間が 40 時間を超えない定めをした場合には、その定めにより、特定の週に 40 時間、又は特定の日に8時間を超えて労働させることができるという制度です(労基法 32 条の4)。
これは、40 × 365 /7≒ 2,085.7 時間が示すように、最大で年 2,085 時間の労働時間の配分を柔軟化できる制度です(対象期間を1年に設定した場合)。特例措置対象事業場であっても、週の法定労働時間を、40 時間をもとにした総枠を守らなければなりません。
この1年単位の変形労働時間制は、季節や月によって業務に繁閑のある事業に適した制度です。現在では、この変形制が最も利用されています。
1年単位の変形労働時間制を導入する要件は、過半数組合ないし過半数代表者と以下の事項について労使協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出ることです。
労使協定には、①対象労働者の範囲、②対象期間とその起算日、③特定期間(特に繁忙な期間)、④対象期間の労働日と労働時間、⑤有効期間を定めます。
なお、②の対象期間については、それを1か月以上の期間ごとに区分して、当初は、最初の区分の労働日と各労働日の始業・終業時刻を、対象期間を平均して1週の労働時間が 40 時間以下になるように定め、以降の区分については各期間の総労働日数と総労働時間数を定めればよく、具体的な労働日と始業・終業時刻の特定は、各区分の初日の少なくとも 30 日前までに、過半数代表の同意を得て書面で定めることとされています。
ただし、1か月単位の変形労働時間制とは異なり、労働時間については休憩時間を除き1日 10 時間、週 52 時間の範囲でなければならず、連続労働日数は原則として6日が上限であり、特定期間のみ 12 日までとされています。また、3か月を超えて対象期間を定める場合には、対象期間中に連続して 48 時間を超える週所定労働時間を設定できるのは3週以内とされ、かつ、48 時間を超える週は対象期間を3か月ごとに区切った期間毎に3回以内という制限が設けられています。
変形期間の途中に採用された労働者や、変形期間途中で退職した労働者については、労働した期間を平均して1週間あたり 40 時間を超えた場合には割増賃金を支払う賃金の清算を行うことを条件に1年単位の変形労働時間制の適用が認められています。
【1週間単位の非定型的変形労働時間制】
1週間単位の非定型的変形労働時間制とは、日ごとの業務に著しい繁閑の差があり、これを予測してあらかじめ就業規則等で各日の労働時間を特定することが困難な小規模事業において、1週間ごとに各日の労働時間を、週 40 時間、1日 10 時間の範囲内で、前週末までに労働者に書面で通知することによって決めることができる制度です(労基法 32 条の5)。対象事業場は、小売業・旅館・料理店・飲食店でそれぞれ従業員が 30 人未満の事業場に限定されています。1週間単位の非定型的変形労働時間制の労使協定を過半数組合又は過半数代表者と締結し、所轄労働基準監督署長に届け出ておけば、1週間ごとに、労働者にシフトを事前通知することにより、忙しい日には1日 10 時間まで、1週間に 40 時間まで働かせることができます。もっとも、実際にはほとんど利用されていません。
4 労働時間・休日・休暇
4 フレックスタイム制
(1)フレックスタイム制の意義
フレックスタイム制とは、一定の期間(清算期間)の総労働時間を定めておき、労働者がその範囲内で各日の始業及び終業の時刻を選択して働くことにより、労働者が仕事と生活の調和を図りながら効率的に働くことを可能とし、労働時間を短縮しようとする制度です。子育てや介護、自己啓発など様々な生活上のニーズと仕事との調和を図りつつ、効率的な働き方が可能となる制度です。
(2)清算期間が1か月以内のフレックスタイム制
フレックスタイム制を導入するに当たっては、使用者は、就業規則その他これに準ずるものにより、その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねる旨を定めます。さらに当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定を締結する必要があります
(労基法 32 条の3第1項)。労使協定には、①対象労働者の範囲、②清算期間(起算日を定める)、③清算期間における総労働時間、④標準となる1日の労働時間、⑤コアタイム及びフレキシブルタイムを定める場合のその時間帯の開始・終了時刻を定め、労使協定を周知します。清算期間内の総枠労働時間の上限は、1か月単位の変形労働時間制の場合と同じです。なお、清算期間が1か月以内の場合には、労使協定の所轄労働基準監督署長への届出は不要です。
フレックスタイム制適用労働者の実労働時間数が、1日又は1週の法定労働時間を超えていても、労基法 32 条違反とはされず、この場合においては 36 協定の締結や割増賃金の支払いは必要ありません。他方、清算期間内の法定労働時間の総枠を超える場合には時間外労働となることから、36 協定を締結し、割増賃金を支払わなければなりません。
(3)1か月を超え3か月以内の清算期間のフレックスタイム制
働き方改革関連法により、平成 31 年4月1日以降、フレックスタイム制の清算期間を1か月を超え3か月以内とすることができるようになりました。導入にあたって、(2)の1か月以内のフレックスタイム制と異なる点は以下のとおりです。①締結したフレックスタイム制に関する労使協定を所轄労働基準監督署長に届け出ること、②労使協定に有効期間の定めをすること、③清算期間を1か月ごとに区分した
各期間における実労働時間のうち、各期間を平均し1週間当たり 50 時間を超えて労働させた時間、及び④清算期間における総労働時間のうち、当該清算期間の法定労働時間の総枠を超えて労働させた時間(③で算定された時間外労働時間を除く。)が割増賃金の支払い対象となります。
5 労働時間の算定
労基法 38 条1項は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」としています。労基法の規定の適用単位は、原則として「事業場」単位ですが、労働時間の計算については通算することとしました。事業主が異なる場合を含め、事業場を異にする場合に、通算労働時間が
8時間を超える場合には、法定時間外に使用した事業主が労基法 37 条に基づき割増賃金を支払わねばなりません(昭 23.10.14 労働基準局長回答 2117 号)。
なお「、副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月1日改訂)において、雇用する労働者が他社でも就業する複数事業場就労者の場合の労働時間管理について定められています。労働時間の通算が必要となる場合、使用者は、自社の労働時間と、労働者からの申告等によって把握した他社の労働時間を通算することとされています。
6 みなし労働時間制(事業場外労働のみなし労働時間制、裁量労働制)
【みなし労働時間制の「みなす」の意義】
業務によっては、労働時間が算定し難い、あるいは、業務内容等の点から労働時間の決定や業務遂行の方法を労働者に委ねざるを得ないというものがあります。このような場合に、一定の要件のもとで、労働時間を実労働時間で算定するのではなく、所定労働時間あるいはある一定の時間数を働いたものとしてみなすのが、みなし労働時間制です。この「みなす」というのは、実態が所定労働時間を超えていても、所定労働時間に達してなくても、所定労働時間働いたものとして取り扱ってよいということです。
みなし労働時間制は、昭和 62 年の労基法改正に際して、①事業場外労働のみなし労働時間制(労基法 38 条の2)、②専門業務型裁量労働制(同法 38 条の3)が、平成 12 年4月に③企画業務型裁量労働制(同法 38 条の3)が設けられ、現在3種類となっています。
4 労働時間・休日・休暇
【事業場外労働のみなし労働時間制】
労働者が、事業場外で労働の一部又は全部を従事した場合において、労働時間が算定し難いときには、所定労働時間労働したものとみなすとされています(労基法 38 条の2第1項本文)。これが、事業場外労働のみなし労働時間制です。
要件は、①「労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合」で、かつ、②「労働時間を算定し難いとき」です。具体的には、事業場外で業務に従事する新聞・雑誌の記者、xx直帰型の営業社員、又は一般従業員の出張時などに適用されています。
事業場外で労働した場合でも、労働時間を管理する管理者と一緒に業務に従事したり、携帯電話等で随時、使用者から指示を受けて労働したりする場合など、労働時間の算定が可能な場合には、みなし労働時間制は適用できません。阪急トラベルサポート(第2)事件(最判平 26.1.24)では、旅行添乗員について、事業場外で業務に従事しているが、指示書及び就労実態(海外通話の可能な携帯電話を携行)などから、旅程表や添乗日誌などにより労働時間の算定把握は可能であるとして、事業場外みなし労働時間制の適用が否定されました。
上の①と②の要件を満たした場合には、原則として、所定労働時間に労働したものとみなされます。しかし、その業務を遂行するのに所定労働時間を超えて労働することが通常必要となる場合には、業務の遂行に通常必要とされる時間、労働したものとみなされます。このみなし時間については、当該事業場の労働者の過半数代表者との書面の協定(労使協定)によって、通常必要とされる時間を決めることができます(協定によるみなし労働時間、同法 38 条の2第1項但書)。協定を結んだ場合には所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。
【裁量労働制】
裁量労働制とは、業務遂行の手段、及び労働時間配分の決定を労働者の判断に委ね、その間は一定時間労働したものと「みなす」労働時間制度で、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類の裁量労働制があります。
裁量労働に従事させる場合でも、使用者は、健康管理の観点から、対象労働者の労働時間の状況を、客観的な方法その他適切な方法で把握しなければなりません(安衛法 66 条の8の3)。
なお、厚生労働省は、裁量労働制の不適正な運用が認められた場合、本社を管轄する労働局長から、当該企業の経営トップに対して、早期に全社的な是正を図るよう指導を行うとともに、指導を行った事実を公表するとの方針を示しました(平
31.1.25 基発 0125 第1号)。
①専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制を導入するには、労働者の過半数組合又は過半数代表者と書面の協定(労使協定)を締結して、所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
労使協定には、①対象業務、②算定される労働時間、③対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関して労働者に対し使用者が具体的に指示をしないこと、④労働者の健康福祉確保のための措置、⑤苦情処理に関する措置、⑥有効期間を定めます(労基法 38 条の3)。
なお、「対象業務」は、新商品・新技術の研究開発、情報処理システムの分析・設計、新聞・出版における記事の取材・編集業務、衣服・室内装飾等のデザイン考案業務、放送・映画等の事業のプロデューサー・ディレクターなど 19 の専門業務が限定列挙されています(労xx 24 条の2の2第2項、平 9.2.14 労告7号)。
②企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制は、企画、立案、調査、分析を対象業務とする裁量労働制です。これを導入するには、まず、事業場において、労働条件について調査審議をして事業主に意見を述べることを目的とする労使委員会を設置します(労基法 38 条の4第
1項)。労使委員会は労使同数で、労働者側委員は労働者の過半数代表者により、任期を定めて指名されます。労使委員会の5分の4以上の賛成で、以下の事項について、企画業務型裁量労働制を導入することを決議し、所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません(同法 38 条の4第1項)。
①対象業務(企画、立案、調査、分析を相互に関連させ組み合わせて行う業務で、かつ、業務の遂行手段及び時間配分の決定等に関して使用者が具体的な指示をしない業務)
②対象労働者(対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であって、対象業務に常態として従事している者)
③算定される時間(1日あたりのみなし労働時間数)
④労働者の健康福祉確保措置
⑤労働者の苦情処理の措置
⑥労働者個人の同意を得ること
⑦労使協定の有効期間(3年以内)
⑧労働者の労働時間、健康福祉確保措置及び苦情処理の実施状況の記録の保存(3年間)
4 労働時間・休日・休暇
労使委員会の決議において、企画業務型の裁量労働制に該当する業務を定め、当該業務の遂行に必要とされる時間を定めた場合には、当該業務に従事した労働者は、実際の労働時間と関係なく、決議で定めた時間労働したものとみなすという効果が発生します。
7 休憩・休日・勤務間インターバル制度
(1)休憩
【休憩の長さと位置の原則】
使用者は、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも 45 分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩時間を、労働時間の途中に与えなければなりません(労基法 34 条1項)。実労働時間が8時間ちょうどまでであれば、45 分休憩でもよいのですが、実労働時間が8時間を超える場合には、合計 60 分以上の休憩時間の付与が必要です。
ここにいう休憩時間とは、使用者の指揮命令を離れた時間をいいます。また、休憩時間は労働時間の途中に与えなければなりません。
【一斉付与の原則】
休憩は、原則として、事業場単位で一斉に与えなければなりません(労基法 34 条
2項)。ただし、特例(同法 40 条、労xx 31 条)により、運輸交通業、商業、理容業、金融・広告業、映画演劇業、通信業、保健衛生業、接客娯楽業、官公署は交替制休憩が可能です。また、労使協定を結べば、事業の種類を問わず、休憩の交替付与が可能です(同法 34 条2項但書)。
【自由利用の原則】
使用者は、休憩を労働者の自由に利用させなければなりません(労基法 34 条3項)。ただし、労基法40 条及び労xx33 条に基づき、①警察官、消防吏員、常勤の消防団員、児童自立支援施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者、②乳児院、児童養護施設及び障害児入所施設に勤務する職員で児童と起居をともにする者、③児童福祉法6条の3第 11 項に規定する居宅訪問型保育事業に使用される労働者のうち、家庭的保育者(同条9項1号に規定する家庭的保育者)として保育を行う者(同一の居宅において、一の児童に対して複数の家庭的保育者が同時に保育を行う場合を除く。)については、休憩時間は与えなければなりませんが、勤務の性質上、休憩時間
中であっても一定の場所にいなければならないため、休憩時間の自由利用の例外とされています(なお②については、その員数、収容する児童数、勤務の態様について、所轄労働基準監督署長の許可が必要です。)。
(2)休日
【休日の原則と例外】
休日とは、労働者が労働契約において労働義務を負わない日をいいます。労基法は、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないとします(週休制の原則。労基法 35 条1項)。他方、労基法は、週1日の休日が確保できない場合について、4週
4休の変形休日制を認めています(同法 35 条2項)。これは、毎週1回以上の休日を与える代わりに、4週間に4日以上の休日を与えていれば、労基法違反とはならないとするものです。変形休日制を採用する場合には、就業規則等で変形期間の起算日を明らかにしなければなりません。労基法 35 条1項又は2項に基づく休日を法定休日といいます。
休日は休憩と違って一斉付与の原則はなく、個別的に与えることも可能です。休日は、暦日単位、すなわち午前0時から午後 12 時までの丸1日を与えなければなりません。労基法では休日の曜日の特定を求められていませんが、曜日の特定が望まれます。
【休日の振替と代休】
就業規則などに、休日の振替とか代休付与を制度化している事業場をみかけます。休日振替や代休に関する法律上の定めはありませんが、厚生労働省の通達(昭
23.7.5 基発 968 号、昭 63.3.14 基発 150 号)では、次のように説明されています。
①休日振替とは
就業規則や労働協約、労働条件通知書等において休日振替の具体的事由と振り替えるべき日を規定しておいたうえで、週休ないし4週4休を確保し、事前に振替日を指定して、あらかじめ休日とされた日を労働日とし、その代わりに他の労働日を休日とすることを休日振替といいます。
このような休日振替の場合は、事前に就業規則等に基づき、休日と労働日の交換が成立しているとみて、休日労働の割増賃金は発生しません。しかし、休日振替によって、週の労働時間が法定労働時間を超過する場合には、36 協定の締結と、労基法 37 条に基づく時間外の割増賃金が発生します。
休日振替を行う場合には、就業規則等でできる限り、休日振替事由を具体的に定めておくことが必要であり、振替日はできる限り近接していることが望ましく、ま
4 労働時間・休日・休暇
た振替によって休日とされる日をあらかじめ特定することが必要です。
②代休とは
あらかじめ休日を振り替えることなくその休日に労働させ、事後に特定の労働日の労働を免除する場合に、事後に付与された休日を、一般に「代休」と呼んでいます。代休を付与しても、休日労働をさせた事実は残るので、休日労働の割増賃金は発生します。
(3)勤務間インターバル制度
「勤務間インターバル」は、勤務終了後、一定時間以上の「休息時間」を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保するものです。働き方改革関連法に基づき労働時間等設定改善法2条1項に、「健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業の時刻の設定」が事業主の努力義務として追加されました(平成 31 年4月1日施行)。これに基づき、労働時間等見直しガイドライン(労働時間等設定改善指針)に、「勤務間インターバル(前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保することをいう。以下同じ。)は、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、労働者の健康の保持や仕事と生活の調和を図るために有効であることから、その導入に努めること。なお、当該一定時間を設定するに際しては、労働者の通勤時間、交替制勤務等の勤務形態や勤務実態等を十分に考慮し、仕事と生活の両立が可能な実効性ある休息が確保されるよう配慮すること。」が追加されました。
8 時間外・休日労働
いわゆる「残業」という場合、所定労働時間を超えて法定労働時間までの時間外労働(いわゆる法内残業)と、法定労働時間(週 40 時間、1日8時間)を超える時間外労働(法外超勤ないし法外残業)とを区別する必要があります。
労基法が規制対象としているのは後者、つまり法定労働時間を超える労働(時間外労働)についてです。
同様のことが休日についてもいえます。労基法は、週1回の休日に労働させる場合、ないし4週4休を与えずに行わせた労働(法定休日労働。以下「休日労働」という。)について、原則禁止をしつつ、労使協定の締結と届出、割増賃金の支払いを要件としてこれを許容しているものです。
(1)非常災害時の時間外・休日労働
労基法は「災害その他避けることのできない事由」によって「臨時に必要がある
場合」には、36 協定がない場合でも、使用者は所轄労働基準監督署長の事前の許可を受けて、労働者に時間外労働、休日労働をさせることができます(労基法 33 条1項)。例えば、天災事変、ボイラーの破裂、事業運営を不可能にするような突発的な機械の故障の修理などがこれに該当します。
単なる業務の繁忙や通常予見できる事由は労基法 33 条1項の「非常災害時」の「臨時の必要」には該当しません。
もし、事態が急迫していて所轄労働基準監督署長に事前の許可を得られないときは、事後に届け出ることもできます。この場合は、所轄労働基準監督署長がその時間外・休日労働を不適当と認めたときは、代わりに休憩・休日の付与を命ずることができます(同条2項)。
労基法 33 条1項に基づいて時間外労働、休日労働をさせた場合にも、割増賃金の支払いは必要です。
(2)公務上の必要 よる時間外・休日労働
労基法「別表第一」(労基法の適用事業が掲げられている。)に該当しない官公署の公務員については、「公務のために臨時の必要がある場合」には時間外・休日労働をさせることができます(労基法 33 条3項)。「公務のために臨時の必要」があるかどうかは、行政庁の判断に委ねられます。
(3)36 協定 よる時間外・休日労働
【36 協定の締結と届出】
使用者は、当該事業場の労働者の過半数を代表する者(過半数組合があればその組合)と書面の協定(労使協定)を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出た場合には、法定の労働時間を超え、又は法定の休日に労働させることができます(労基法 36 条1項)。この労使協定は、労基法 36 条による労使協定という意味で 36 協定と呼ばれます。
労基法 36 条2項及び労xx 17 条に基づき、36 協定で定める事項は、以下のとおりです。「協定の有効期間」(1年に限る。)、「時間外・休日労働を必要とする具体的事由」、「業務の種類」、「労働者数」、「1日の法定労働時間を超える時間数」「1か月の法定労働時間を超える時間数」(1か月に限る。)、「1年の法定労働時間を超える時間数」、「労働させることのできる法定休日の日数」、「労働させることができる法定休日における始業及び就業の時刻」、「時間外労働及び休日労働を合算した時間数は、1か月について 100 時間未満でなければならず、かつ2か月から6か月までを平均して 80 時間を超過しないこと」です(労xx 16 ~ 17 条)。なお、36 協定
4 労働時間・休日・休暇
を更新するときもその旨の届出が必要です。
また、特別条項付き 36 協定には、上記に加えて、「臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合における1か月の時間外労働時間と休日労働の合計時間数
(100 時間未満)」、「1年の時間外労働時間数」(720 時間以内)」、「限度時間を超えることができる回数(年間6回以内)」、「限度時間を超えて労働させることができる場合」、「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」、「限度時間を超えた労働に係る割増賃金率」、「限度時間を超えて労働させる場合における手続」を定めます。
なお、36 協定を締結する労使当事者は、労基法 36 条7項の規定に基づき策定された「労働基準法第 36 条第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」(平 30.9.7 厚労告 323 号)に留意しなければなりません。
【時間外労働の限度時間基準】
36 協定の締結に際しての時間外・休日労働の上限規制(労基法 36 条4項、5項)には罰則が設けられています。中小企業については、令和2年3月末まで適用が猶予されていましたが、令和2年4月1日からは中小企業にも適用されています。
時間外労働の上限時間は、1か月について 45 時間、1年について 360 時間です(同法 36 条4項)。加えて、時間外労働と休日労働の合計が1か月 100 時間未満でなければならず(同条6項2号)、対象期間の初日から1か月毎に区分した期間に当該各期間の直前の1か月~5か月の期間において、時間外労働と休日労働の合計が 80 時間を超えないこと(同3号)とし、これらに違反した場合には罰則(6か月以下の懲役、 30 万円以下の罰金(同法 119 条 )の対象となります。
期間 | 限度時間(カッコ内は対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制により労働する者の延長時間の限度) |
1ヶ月 | 45(42)時間 |
1年間 | 360(320)時間 |
特別条項付き 36 協定の上限として、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて必要がある場合において、1か月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間は 100 時間未満、1年について労働時間を延長して労働させることができる時間については 720 時間以内、上表の限度時間を超えて労働させることができるのは、1年間で6か月(1か月単位で回数として6回が上限)までです。
なお、時間外労働の上限規制の適用は、令和6年3月 31 日までは建設業、自動車運転の業務、医師については猶予され、鹿児島及び沖縄の砂糖製造業については一部猶予されています。
(4)時間外・休日労働義務
時間外・休日労働をさせる場合には、使用者は 36 協定の締結・届出が必要ですが(労基法 36 条)、それによって、使用者は労働者に時間外・休日労働をさせても罰則の適用を免れるのみで(「免罰効果」といいます。)、労働者は 36 協定から当然に労働契約上の時間外・休日労働義務を負うものではありません。
時間外・休日労働義務の根拠については、労働協約や就業規則に時間外・休日労働の事由・義務が具体的に定められていて、かつ 36 協定の内容が合理的なものであれば、それが労働契約の内容となって、労働者は 36 協定の範囲内で時間外・休日労働義務を負うと考えられています(最判平 3.11.28、日立製作所武蔵工場事件)。労働協約や就業規則が存在しない事業場の場合には、労働条件通知書等において、時間外・休日労働をさせる事由等を具体的に定めておく必要があります。
9 割増賃金
【割増賃金が必要な場合】
使用者は、法定労働時間を超えて労働者を働かせる場合、法定休日に働かせる場合、又は午後 10 時から午前5時の間に労働(深夜労働)させる場合には、割増賃金を支払わなければなりません(労基法 37 条1項、4項)。
法定労働時間までの法内残業(例えば、1日の所定労働時間が7時間であるときの、
1時間の所定外労働)に対しては、割増賃金の支払いを労基法が強制するわけではなく、その扱いは労働協約や就業規則、労働条件通知書等の定めに委ねられますが、実際には割増賃金が支払われることも多いようです。
【限度時間を超えない場合の割増賃金の割増率】
割増賃金は、「通常の賃金」(所定労働時間1時間当たりの賃金)に時間外労働等の時間数を乗じて得た金額に、割増率(時間外労働、深夜労働は2割5分以上、休日労働は3割5分以上)を乗じて計算されます(労基法 37 条1項、4項、労xx 19 条)。
時間外労働が深夜労働に重なる場合は、その部分は5割増し以上になります。休日労働が8時間を超えても3割5分増し以上のままですが、休日労働が深夜労働と
4 労働時間・休日・休暇
重なる場合は6割増し以上となります(労xx 20 条)。
【時間外労働が限度時間を超える場合の割増率】
①特別条項付き 36 協定を締結した場合には、1か月当たり時間外労働が 45 時間(対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制により労働する者は 42 時間)を超える部分について、法定の割増賃金率(2割5分)を超える割増率(例えば3割)を定める努力義務があります(労基法 36 条2項5号、労xx 17 条1項6号)。
②時間外労働が1か月 60 時間を超えた場合には、その超えた時間の労働について5割増し以上の割増賃金を支払わなければなりません(労基法 37 条1項但書)。
③1か月 60 時間を超える時間外労働が行われた場合に、割増賃金率の引上げ分(これまでの割増率(例えば、3割から5割への引上げ分、すなわち2割)につき、割増賃金の支払いに代えて、労働者の過半数代表者との書面協定を締結して、有給の代替休暇(割増賃金代替休暇)を与えることを定めることができます(同法 37 条3項)。例えば、非常災害時等に 33 条1 項により1か月 80 時間の時間外労働をした場合に、月 60 時間を超える 20 時間については、5時間分の割増賃金代替休暇を与えることができます(20 時間× 0.25= 5時間)。また、特例条項付き 36 協定を締結して、月 45 時間を超える時間外労働の割増賃金率を、先記の例のように3割としている場合の割増賃金代替休暇は、4時間となります(20 時間×
(0.5 - 0.3)=4時間)。
なお、上記の②及び③は中小事業主には適用が猶予されていますが(同法 138 条)、令和5年4月1日からは中小企業にも適用されます。
【割増賃金の計算方法】
割増賃金の算定の基礎となる通常の賃金からは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)は除かれます(労基法 37 条5項、労xx 21 条)。しかし、家族手当、通勤手当と称していても労働者に一律に支払われる場合は、算定の基礎に含めなければなりません。これらの除外賃金は限定列挙ですので、それ以外のものを除外することはできません。
1時間当たりの割増賃金(時給制の場合)
=時給× 1.25 以上(休日労働は 1.35 以上)
1時間当たりの割増賃金(日給制の場合)
=(日給額÷1日の所定労働時間※)× 1.25 以上(休日労働は 1.35 以上)
1時間当たりの割増賃金(月給制の場合)
=(月給額÷1か月の所定労働時間※)× 1.25 以上(休日労働は 1.35 以上)
※ 1日の所定労働時間が日によって異なるとき→1週間における1日の平均所定労働時間で計算
1か月の所定労働時間が月によって異なるとき→1年間における1か月の平均所定労働時間で計算
もし、年俸制を採用している場合に、年俸額のうち賞与に相当する部分についてあらかじめ支給額が確定しているものは、割増賃金の算定基礎額から除外される「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」(労xx 21 条5項)には該当せず、それも含めた年俸額を 12 で除して得た金額を当該月の所定労働時間数で除して「通常の労働時間の賃金」 を算出し、これを 1.25 倍して割増賃金を計算します(平 12.3.8基収 78 号)。
なお、割増賃金については、労基法 37 条所定の計算方法によらない場合であっても、実際に支給される金額が、労基法所定の計算方法を下回らない限り適法と解されています(最判平 6.6.13、高知県観光事件)。
割増賃金計算おける端数処理
次の方法は、常に労働者に不利になるものではなく、事務簡便を目的としたものと認められることから、労基法 24 条の賃金全額払の原則、同法 37 条の割増賃金の規定に違反するものとして扱われません(昭 63.3.14 基発 150 号)。
①1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50 銭未満を切捨て、それ以上を1円に切上げて処理すること。
②1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30 分未満の端数を切捨て、それ以上を1時間に切上げて処理すること。
③1か月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、①と同様に処理すること。
4 労働時間・休日・休暇
【割増賃金の定額払い】
割増賃金の支払について、実際の時間数にかかわらず定額とするか、又は基本給に含めて支払うということがしばしば行われています。そのような場合には、労基法 37 条違反の有無につき、①割増賃金相当部分が通常の労働に対する賃金と明確に区分されていること(明確区分性)と、②実際に支払われる割増賃金の額が、実際の労働時間について労基法 37 条所定の方法で計算された金額を下回らないこと
(金額適格性)とが必要とされています(最判平 30.7.19、日本ケミカル事件)。そして、定額払い部分が、実際の労働時間に基づいて計算された割増賃金額よりも少ないときには、その差額を支払わねばなりません。
【使用者の労働時間把握義務と自己申告制】
労基法が、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は労働時間を適正に把握するなど、労働時間を適切に管理しなければなりません。
この点で問題となるのは、いわゆる自己申告制(労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するもの)ですが、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平 29.1.20 基発 0120 第3)は、使用者は、自己申告制をとらざるを得ない場合には、以下の措置を講ずることとしています。
①労働者や労働時間を管理する者に対してガイドラインに基づく措置について十分に説明すること。
②自己申告により把握した労働時間と在社時間とに著しい乖離がある場合には、実態調査を実施し、労働時間を補正すること。
③労働者が自己申告できる時間数の上限を設ける等、適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないこと。
働き方改革関連法に伴い、安衛法第 66 条の8の3に労働時間の状況の把握義務が定められました(平成 31 年4月1日施行)。これは、労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から、労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものです。
労働時間の状況の把握は、労働者の健康確保措置を適切に実施するためのものであり、その対象となる労働者は、高度プロフェッショナル制度の適用者を除き、研究開発業務従事者、事業場外労働のみなし労働時間制の適用者、裁量労働制の適用者、管理監督者等、派遣労働者、短時間労働者、有期雇用労働者を含めた全ての労働者です。
事業者が労働時間の状況を把握する方法としては、原則として、タイムカード、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録、事業者(事業者から労働時間の状況を管理する権限を委譲された者を含む。)の現認等の客観的な記録により、労働者の労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻の記録等を把握しなければなりません。
10 労働時間規制等の適用除外
【適用除外】
労基法は、以下の労働者に対して労働時間、休憩、休日に関する規定の適用を除外しています(労基法 41 条)。具体的には、①農業及び水産業に従事する者(労基法 41 条1号)、②監督若しくは管理の地位にある者(管理監督者)、秘書など機密の事務を取り扱う者(同条2号)、③監視労働・断続労働に従事する者で労働基準監督署長の許可を受けた場合(同条3号)です。
農水産事業が除外されるのは、業務が天候などに左右されやすく労働時間の法的規制になじまないと考えられるからです。管理監督者、機密の事務を取り扱う者は、共に経営者と一体的立場にあるという企業経営上の必要によるものです。また、監視・断続労働はいずれも労働密度が薄く、労働時間等の規制を外しても、労働者保護に欠けることはないと考えられるからです。
なお、労基法 41 条各号に該当する労働者については、年次有給休暇、深夜の割増賃金に関する規定は適用されます。
【管理監督者】
労働時間等の適用除外で最も問題になるのは、労基法 41 条2号の「管理監督者」です。管理監督者とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるもの」をいいますが、その判断は職位や資格などの名称にとらわれず、実態に即して判断されます。
具体的には、①労働条件の決定や労務管理の実施に当たって経営者側の立場に立ち、②労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職責と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者で、③さらに一般労働者に比し待遇面でその地位にふさわしい優遇措置が講じられていることなどが、主な判断基準とされています(昭
63.3.14 基発 150 号)。
管理職であって、時間外労働手当を支給されていなかった労働者がその支払いを
4 労働時間・休日・休暇
求める訴訟では、上記要件を満たしていないと、職場で管理職として扱われていても、
「管理監督者」に当たらないとして、時間外労働手当、休日労働手当等の支払いが命じられています(例えば、東京地判平 20.1.28、日本マクドナルド事件)。
【高度プロフェッショナル制度】
働き方関連法により新設された特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)とは、高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる業務に従事する労働者を労働時間の規制の対象から外す新たな仕組みです(平成 31 年4月1日施行)。
高度プロフェッショナル制度の対象労働者には、労基法の第4章の労働時間、休憩、休日、深夜の割増賃金に関する規制が適用されませんが、年次有給休暇については適用されます。
導入に当たっては、前述の企画業務型裁量労働制と同様に労使委員会の設置、決議、届出、本人同意等が必要です。
高度プロフェッショナル制度は、対象労働者の健康確保措置として、年間 104 日以上、4週4日以上の休日の確保が義務付けられ、選択的健康確保措置として①勤務間インターバルの確保と深夜労働の回数制限、②健康管理時間の上限措置(週 40時間を超える健康管理時間数は1か月あたり 100 時間及び3か月当たり 240 時間)、
③1年間に1回以上の2週間連続ないし1週間連続×2回の休日、④健康管理時間について、週 40 時間を超える部分が1か月あたり 80 時間を超え、労働者の申出がある場合の臨時の健康診断の実施のいずれかの措置、のいずれかを講じなければなりません。このほか、健康管理時間の状況に応じた健康確保措置として、代償休日又は特別な休暇の付与、心と体の相談窓口の設置、配置転換、産業医の助言指導に基づく保健指導、医師による面接指導のいずれかの措置を決議において定めなければなりません。
高度プロフェッショナル制度の対象業務は労xxで限定列挙され、①金融工学の知識を用いて行う金融商品の開発業務、②金融商品のディーリング業務(資産運用会社等におけるファンドマネージャー、トレーダーの業務、証券会社等におけるディーラーの業務)、③アナリストの業務(企業・xxxの高度な分析業務)、④コンサルタントの業務(顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務)、⑤研究開発業務(新たな技術、商品または役務の研究開発に係る業務)です。
さらに、使用者との合意に基づき職務が明確に定められること、すなわち①業務の種類、②責任の程度(職位等)、③求められる水準(成果)について書面を作成し、
労働者が署名することが必要です(職務明確性)。
また、使用者は、制度が適用される旨、少なくとも支払われる賃金の額(使用者から確実に支払われると見込まれる賃金額が 1,075 万円以上)、同意の対象となる期間について労働者の同意を書面で得なければなりません。いったん同意した場合でも、労働者は同意を撤回することができます(労基法 41 条の2第1項第7号)。
使用者は、高度プロフェッショナル制度の対象業務に従事する労働者の健康管理を行うために当該対象労働者が事業場内にいた時間(休憩その他労働者が労働していない時間を除く。)と事業場外において労働した時間との合計の時間(健康管理時間)を把握する措置を講じなければなりません。健康管理時間の把握方法は、上記労働時間の把握方法と同様です。
11 年次有給休暇
(1)年休権の要件と年休権の法的性質
【年休権の要件と法定日数】
労基法は、労働者に毎年一定日数の有給休暇を保障するための要件を定めています。すなわち、労働者は雇い入れの日から起算して「6か月間継続勤務」し、「全労働日の8割以上出勤」したことによって、10 労働日の年休権を取得します(労基法 39 条1項)。
その後は、1年ごとに継続勤務(使用者と雇用関係にあること)して8割以上出勤すれば、10 労働日に1労働日ずつ加算され、雇い入れから3年半以降は1年ごとに2日ずつ加算されていきます。そして、雇い入れの日から6年6か月以上で 20 労働日に達し、以降は継続勤務年数が増加しても 20 日となります(同法 39 条2項)。
勤続期間 | 6か月 | 1年 6か月 | 2年 6か月 | 3年 6か月 | 4年 6か月 | 5年 6か月 | 6年 6か月以上 |
付与日数 | 10 日 | 11 日 | 12 日 | 14 日 | 16 日 | 18 日 | 20 日 |
【比例付与制度】
所定労働日数の少ない労働者については、週所定労働日数の比率によって年休日数を付与する、いわゆる比例付与制度が設けられています(労基法 39 条3項)。
比例付与の要件は、①1週間の所定労働時間が 30 時間未満で、かつ、②週所定労働日数が4日以下(週以外の期間で所定労働日数が定められているときは年間所定労働日数 216 日以下)であることです。
4 労働時間・休日・休暇
この2つの要件を共に満たす労働者は、通常の労働者の週所定労働日数(現在は5.2日)との比率で年休日数が計算されます(労xx 24 条の3)。
年次有給休暇の付与日数表
週所定労働時間 | 週所定労働日数 | 1年間の 所定労働日数 | 勤 続 期 間 | ||||||
6か月 | 1年 6か月 | 2年 6か月 | 3年 6か月 | 4年 6か月 | 5年 6か月 | 6年 6か月以上 | |||
30 時間以上 | 10 日 | 11 日 | 12 日 | 14 日 | 16 日 | 18 日 | 20 日 | ||
30 時間未満 | 5日以上 | 217 日以上 | |||||||
4日 | 169 ~ 216 日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10 日 | 12 日 | 13 日 | 15 日 | |
3日 | 121 ~ 168 日 | 5日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10 日 | 11 日 | ||
2日 | 73 ~ 120 日 | 3日 | 4日 | 5日 | 6日 | 7日 | |||
1日 | 48 ~ 72 日 | 1日 | 2日 | 3日 |
【出勤率の計算】
年休権の要件である8割出勤の考え方は次の表の通りです。
雇い入れ後の最初の6か月、又はその後の1年間に出勤率が8割を下回るときは、その次の1年間は年休が0になりますが、0になった年に8割以上出勤すれば、その次の1年間は加算された日数分の年休を再び取得することができます。
「全労働日」の8割以上の「出勤」
出勤したものとみなされるもの | 業務上の傷病による療養のために休業した日 |
産前・産後の休業をした日 | |
育児・介護休業をした日 | |
年次有給休暇を取得した日 | |
出勤したとみなすか、みなされないかは当事者の合意 | 生理休暇を取得した日 |
慶弔等、会社の定めた休暇を取得した日 | |
全労働日に含まれないもの | 使用者の責めに帰すべき事由により休業した日 |
休日労働した日 | |
正当な争議行為により労務の提供がなされなかった日 |
【有給休暇の付与単位】
労基法が定める年休日数は日を単位としていますが、労働者が希望し、使用者が同意していれば、下記の時間単位の年休の労使協定の締結がされていない場合でも、半日単位で年休を付与することができます。
また、労働者の過半数を代表する者との書面の協定(労使協定)により、有給休暇のうち5日を限度に、時間を単位として年休を付与することが可能です(労基法 39 条4項、労xx 24 条の4)。
【年休権の法的性質】
年休権は労基法 39 条1項及び2項の要件(「6か月間又は1年間の継続勤務すること」と「8割以上の出勤率」)を満たせば、当然労働者に生ずる権利であって、年休権の成立のために使用者の承諾、同意、許可は必要ありません(最判昭 48.3.2、全林野xx営林署事件)。労働者が口頭や文書で年休届を出すことは、労働者が既に有している年休権を行使する時季を指定する権利(時季指定権)を行使していると解されます。
【年次有給休暇管理簿の調整義務等】
使用者は、労働者に年次有給休暇を与えたときは、時季、日数及び基準日を労働者ごとに明らかにした書類(年次有給休暇管理簿)を作成し、当該年次有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後3年間保存しなければなりません(労xx 24 条の7)。この年次有給休暇管理簿については、労働者名簿又は賃金台帳とあわせて調製することができます(同 55 条の2)。
労働時間設定改善法に基づく「労働時間等見直しガイドライン(労働時間等設定改善指針)(平 30.10.30 厚労告 375 号、令和2年9月1日改訂)」では、年休の取得促進を図るに当たっては、労働者のみならず、当該労働者の業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者も当該労働者の年次有給休暇の取得状況を把握することが重要とされ、使用者は年次有給休暇管理簿を作成するのみならず、年次有給休暇管理簿の確認を行い、年次有給休暇の取得状況を労働者及び当該労働者の業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者に周知することとされています。
(2)使用者の時季変更権
【労働者の年休権と使用者の時季変更権の関係】
労働者が、年休の始期と終期を示して時季指定をしたときは、使用者は指定された時季に年休を与えなければなりません(年休付与義務)。
ただし、使用者は、労働者が請求した時季に年休を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」には、他の時季に指定するよう求めることができます(労基法 39 条5項)。これを使用者の時季変更権と呼んでいます。
4 労働時間・休日・休暇
【時季変更権の判断基準】
「事業の正常な運営を妨げる場合」の「事業」とは、本来は当該事業場の業務の総体をいいますが、実際には特定の部署(「部」又は「課」)を単位として判断します。誰かが休みを取れば、ほかの人の仕事が増えるなどのことは当然ですが、それを「事業の正常な運営を妨げる場合」というわけではありません。同僚等のサポートによって当該部署の業務に支障が生じなければ、「事業の正常な運営を妨げる場合」には該当しないと考えられています。
その際、使用者は労働者が休暇を取得できるよう、「状況に応じた配慮」をすることが求められます。例えば、勤務割りのある職場であっても、使用者が代替勤務者を配置することが可能であったにもかかわらず、そのための配慮をせずに代替者を配置しなかったときは、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当しないとされています(最判昭 62.7.10、弘前電報電話局事件)。
なお、時季変更権は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に 「他の時季に与える」ことを前提に認められたものですから、労働者が退職直前に未消化の年休を一括請求したときは、その前提(他の時季に与える)がないため時季変更権の行使はできないと考えられます。したがって、使用者は退職時直前の年休請求を拒むことはできません。
(3)年休自由利用の原則と計画年休
【自由利用の原則】
労基法は、年休の利用目的については規定していません。年休を何に使うかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由です。年休の利用目的によって時季変更権を行使することはできません。
【計画年休】
年休消化率を高めるために、昭和 62 年労基法改正によって計画年休が導入されました(労基法 39 条6項)。これは、労使協定を結んで(所轄労働基準監督署長への届出は不要)、事業場で一斉に、又はグループごとや個人別に休暇の時季と日数を定めて、年休を計画的に取得する制度です。
ただし、各労働者につき5日は個人年休として自由に取得できるように確保しておかなければなりません。計画年休の下では労働者は時季指定権を制約され、使用者も計画年休で付与するとした部分については時季変更権を行使することができません。
(4)年5日の年次有給休暇の確実な取得(使用者 よる時季指定)
年5日以上の年次有給休暇の取得が確実に進む仕組みとして、働き方改革関連法によって労基法の一部が改正され、使用者による時季指定制度が一定の要件の下で導入されました(労基法39 条7項、8項、労xx24 条の5。平成31 年4月1日施行)。中小企業にも適用されています。この労基法39 条7項に違反した使用者に対しては、罰則(30 万円以下の罰金)の適用があります(同法 120 条1号)。
年次有給休暇の日数が 10 労働日以上(繰越分を含まない。)である労働者に係る年次有給休暇の日数のうち、5日については、使用者は、基準日(継続勤務した期間を同条第2項に規定する6か月経過日)から1年ごとに区分した各期間から1年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければなりません。ただし、労働者が自ら時季指定をして取得した年次有給休暇の日数が5日以上の 場合、または労基法 39 条6項の労使協定による計画年休によって5日以上の年休を与えた場合においては、新設された使用者の時季指定の対象にはなりません(労基
法 39 条8項)。
使用者は、労基法 39 条7項の規定により、労働者に年次有給休暇時季を指定するに当たっては、あらかじめ、当該年次有給休暇を与えることを当該労働者に明らかにした上で、その時季について当該労働者の意見を聴かなければならず(労xx 24 条の6第1項)、年次有給休暇の時季を定めるに当たっては、できる限り労働者の希望に沿った時季指定となるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければなりません(同条2項)。
(5)年休をめぐるその他の問題
年休については、実務上いくつか問題になる事柄がありますので、ここでまとめておきます。
【年休の事後振替】
労働者が遅刻や病気欠勤した日を事後的に年休に振り替えること(年休の振替)を希望した場合、使用者がこれを任意に認めるか、就業規則等に定めがある場合には、違法とはいえないと考えられます。ただし、使用者から労働者に対して欠勤を年休に事後振替するように求めることはできません。
【年休の繰越・買上げ】
当該年度内に発生した年休を消化できなかった場合、これを次年度以降に繰越
4 労働時間・休日・休暇
すこと(年休の繰越)は、年休権は2年間消滅時効にかからないことから(労基法 115 条)、2年を限度に可能です。
取得されなかった年休分に対して使用者が金銭を支払うことは、年休権を金銭に換えることになり、年休の趣旨を損なうものとして一般には認められません。ただし、退職時に取り残した年休分に対して、使用者が任意に金銭を支払うことは、買上げとは別個の問題として有効と考えられますが、使用者に取り残し年休の買上げの法律上の義務はなく、金銭をいくら支払うかは労使の話合いに任されます。
【不利益取扱い】
年休を取得した労働者に対して、不利益な取扱いをすることはできません(労基法 136 条)。例えば、精皆勤手当の算定に際して年休取得日を欠勤扱いにしたり、人事考課上不利に評価しようとしたりしてはいけません。これらの不利益な取扱いが、年休権の行使を抑制し、ひいては年休権を保障した趣旨を実質的に失わせる場合には、労基法 39 条、136 条に反し、公序良俗(民法 90 条)に反して、違法、無効と考えられます。
12 労働時間等設定改善法
労働時間等設定改善法は、労働時間の設定の改善について、労使の自主的な取組を促進することを目的にしています(労働時間等設定改善法1条)。
そして、事業主に対して「労働者の健康と生活に配慮しつつ、多様な働き方に対応」できる労働時間等の設定の改善を図るために必要な措置を講ずることを努力義務としています(労働時間等設定改善法2条)。具体的にどのような措置を講ずるべきか、厚生労働大臣が定めた「労働時間等見直しガイドライン(労働時間等設定改善指針)
(平 30.10.30 厚労告 375 号、令和2年9月1日改訂)」に示されています。
また、労働時間等設定改善法7条の2により、労働時間等設定改善企業委員会を設置した場合には、委員の5分の4以上の多数の議決により、代替休暇(労基法 37条3項)、年休の時間単位取得(同法 39 条4項)、計画的付与制度(同法 39 条6項)に関する事項について決議が行われた場合には、これらの時効に関する事業場ごとの労使協定と同様の効果を有することとされました。
15
労働・社会保険
社会保険とは、広い意味では、国が運営する強制加入の保険をいいます。細かく分けると、労働保険(労働者災害補償保険(労災保険)、雇用保険)と、狭い意味の社会保険(健康保険、厚生年金保険、介護保険)とがあります。全ての法人事業所と常時5人以上の労働者を雇用する個人事業所(一部例外あり)は社会保険に加入しなければなりません。以下において、従業員を雇用する際の労働保険と社会保険の概要をみておきましょう。
なお、令和3年通常国会に健康保険法等の改正法案が提出されています(84 ページ参照)。
1 労災保険
(1)保険関係
【適用事業と適用労働者】
労災保険は、労働者が業務上の事由又は通勤によって負傷したり、病気に見舞われたり、障害が残ったり、不幸にして亡くなった場合に、被災労働者や遺族を保護するために必要な給付を行う制度です。
もともとは、労基法における使用者の労働災害補償責任(労基法第8章)を担保するために設けられた保険ですが、これ以外に、通勤災害を対象とし、また、労基法の労働者に該当しない者の一部を特別加入させる制度を有しています。
原則として、1人でも労働者を使用する場合は、労災保険の適用事業となり(労働者災害補償保険法(労災法)3条)、事業を開始された日に、保険者である国との間で保険関係が自動的に成立します(労働保険料徴収法(徴収法)3条)。
労災保険の適用事業に雇用される「労働者」(定義は労基法9条と同じ。)が業務災害等に遭った場合には、当然に保険給付を受けることになります。パート労働者、有期雇用労働者も労働者である以上、当然に労働者災害補償保険法の適用を受けます。
労災保険の適用事業になったときは、①保険関係成立届(保険関係が成立した日の翌日から 10 日以内)と②概算保険料申告書(保険関係が成立した日の翌日から 50 日以内)を所轄の労働基準監督署長に提出し、所定の保険料を納付しなければなりません(徴収法4条の2、15 条)。
これらの労災保険加入手続を怠ると、遡って保険料を徴収されるほか、故意又は重大な過失により保険関係成立届を提出していないときに労災が発生した場合には、事業主は、保険給付に要した費用の全部、又は一部が徴収されます(労災法 31 条)。
5 労働・社会保険
労災保険の保険料は使用者のみが負担します。保険料は使用者が労働者に支払った賃金総額に事業の種類ごとの保険料率(2.5/1000 ~ 88/1000。災害率の高い事業の種類ほど保険料率が高い。)を乗じて計算します。労災保険の保険料は後述の雇用保険料等を合算した額を労働保険料として申告・納付します。
【特別加入制度】
労災保険は、業務の実態などから判断して、労働者に準じて保護することが望ましいとされる中小事業主等・一人親方等・特定作業従事者・海外派遣者についても、一定の要件を満たす場合には、任意加入を認める「特別加入制度」を設けています(労災法 33 条)。
なお、令和3年4月1日、特別加入の対象に、芸能従事者、アニメーション制作従事者、柔道整復師を追加する予定です。
(2)業務災害、通勤災害の保険給付の要件
【業務災害の認定】
労働者(又はその遺族)が労災保険の給付を受けるためには、当該負傷、疾病、障害又は死亡が、業務上の事由により発生した災害(業務災害)であることの認定を、所轄労働基準監督署長から受けなければなりません(いわゆる労災認定)。労災保険の給付申請は労働者本人が申請することができます。
業務災害かどうかの判断は、①労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態(業務遂行性)にあることを前提に、②直接的には、業務と傷病等による損害との間に一定の因果関係がある(業務起因性)かどうかによって判断されます。この業務起因性は「当該業務に内在する危険が現実化したもの」(最判平 8.3.5、地公災基金愛知県支部長(瑞鳳小学校教員)事件)と表現されます。
【業務上疾病の認定】
労働者が、業務に内在する有害因子にばく露して、業務との間に相当因果関係が認められる疾病に罹患した場合には、所轄労働基準監督署長に認定を受ければ、業務上疾病として労災保険給付の対象となります。
業務上疾病とは、労働者が事業主の支配下にある状態において発症した疾病のことを意味しているわけではなく、事業主の支配下にある状態において有害因子にばく露したことによって発症した疾病のことをいい、有害因子の種類ごとに、対象となる疾病が労xx別表第1の2に列挙されています。
【過労死等の労災認定】
過労死等(業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害)が多発し大きな社会問題となっています。
業務上疾病のうち、長時間労働による脳血管、心臓の病変の増悪による「過労死」、業務による心理的負荷による精神疾患による「過労自殺」については、厚生労働省の認定基準によって労災認定されています。過労死については発症直前の労働時間や勤務の態様のみならず、おおむね6か月間にわたる長期の残業による「疲労の蓄積」による過労死についても業務起因性を認めています(平 13.12.12 基発 1063 号)。
上記通達では、①発症前1か月ないし6か月にわたって、1か月当たりおおむね 45 時間を超えて時間外労働をした場合、業務と発症との関連性が徐々に強まり、②発症前1か月におおむね 100 時間、又は発症前2か月ないし6か月にわたって、1か月あたりおおむね 80 時間を超える時間外労働をした場合は業務起因性が強いと評価できるという基準を設けています。
業務による心理的負荷による精神障害(うつ病)の業務起因性についても、行政当局は、精神障害に関する業務災害の一般的認定基準として、「対象疾病を発症していること」、「対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること」、「業務以外の心理的負荷及び個体的要因により対象疾病を発病したとは認められないこと」を掲げ、これに基づいて、さらに具体的な基準を挙げています(平 23.12.26 基発 1226 第1号、令 2.5.29 基発 0529 第 1 号)。
なお、精神障害の発病(うつ病)が業務上疾病に該当すると、その者の自殺も「原則として業務起因性がある」と判断されることがあります。
過労死等防止対策推進法が平成 26 年に制定され(同年 11 月1日施行)、同法に基づき、政府が過労死等防止大綱を策定しています(最新・平成 30 年7月 24 日閣議決定)。事業主には、国、地方公共団体の実施する過労死(過労自殺を含む。)等の防止対策に協力する努力義務が課されています。
【通勤災害の認定】
労災保険給付の対象となる「通勤災害」とは、「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」(労災法7条1項2号)をいいます。
そして「通勤」とは、「労働者が、就業に関し、次の①~③の移動を、合理的な経路及び方法により行うこと」です(業務に関するものを除く。(同法7条2項 )。
①住居と就業の場所との往復
5 労働・社会保険
②二重就業者の事業所間の移動(第一の事業所から第二の事業所ヘの移動。第二の事業所への通勤として扱う。)
③単身赴任者の場合の赴任先住居と帰省先住居の間の移動
保険給付を受けるためには、当該傷病等が「通勤」によって生じたものであることの認定を労働基準監督署長から受けなければなりません。
(3)労災保険給付の内容
労災保険法による保険給付は、労働基準監督署長の認定を受けた「業務災害」と「通勤災害」による傷病、死亡、障害に対して行われます(労災法7条1項)。
保険給付の内容には次の種類があり、( )内は通勤災害における給付の名称になります。
なお、複数事業労働者への労災保険給付については、令和2年9月より変更されています。労災法改正のポイントは、次のとおりです。
・複数事業労働者の方やその遺族等の方等への労災保険給付は全ての就業先の賃金額を合算した額を基礎として、保険給付額を決定します。
・けがや病気が発生したときに、事業主が同一でない複数の事業場で就業している方が対象ですが、特別加入されている方(労働者として働きつつ特別加入されている方、複数の特別加入をされている方。)、けがや病気の原因の発生時に事業主が同一でない複数の事業場で就業していた方も対象です。
・1つの事業場で労災認定できない場合であっても、事業主が同一でない複数の事業場の業務上の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して労災認定ができる場合は保険給付が受けられます。
・これらの改正は、令和2年9月1日以降に発生したけがや病気等について対象となります。
【療養補償給付(療養給付)】
労働者が業務上、又は通勤による傷病により療養を必要とする場合に行われ、現物給付としての「療養の給付」と現金給付としての「療養の費用の支給」があります(労災法 13 条、22 条)。
「療養の給付」は、労災病院や労災指定診療所等にかかれば、原則として傷病が治癒するまで無料で療養を受けられる制度です。これに対し、「療養の費用の支給」は、労災病院や労災指定診療所等以外で療養を受けた場合において、その費用を支給する制度です。治療費、入院の費用、看護料、移送費等療養のために必要なものは全
部含まれます。
【休業補償給付(休業給付)】
労働者が業務上の事由又は通勤による傷病の療養のために休業し、賃金を受けない日の4日目以降から支給されます(労災法 14 条、22 条の2)。
ただし、業務災害の場合、休業初日から3日間(待機期間)は、事業主が労基法の規定(労基法 76 条)に基づく休業補償(1日につき平均賃金の6割)を行わなければなりません。
給付の額は、休業1日につき給付基礎日額(労基法の平均賃金に相当)の 60%ですが、このほかに労働福祉事業として、給付基礎日額の 20%が休業特別支給金として支給されます。
【傷病補償年金(傷病年金)】
被災労働者の傷病が、療養開始後1年6か月経過しても治癒せず、かつ傷病等級第1級~第3級に該当するときは、休業(補償)給付に代えて給付基礎日額の 313日分~ 245 日分の年金が支給されます(労災法 12 条の8第3項、18 条、23 条)。
【障害補償給付(障害給付)】
被災労働者の傷病が治癒したときに身体に一定の障害が残った場合、労働能力の喪失の程度の重い障害等級1級~7級の場合は、給付基礎日額の 313 日~ 131 日分の障害(補償)年金が、また、8級~ 14 級の場合は、給付基礎日額の 503 日~ 56日分の障害(補償)一時金が支給されます(労災法 15 条、22 条の3)。
(注)同一の事由により、厚生年金の障害厚生年金等が併給される場合には、一定の調整率によって支給額が調整されます。
【遺族補償給付(遺族給付)】
労働者が業務災害又は通勤災害により死亡した場合に支給され、遺族(補償)年金と遺族(補償)一時金の2種類があります(労災法 16 条、22 条の4)。
労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた一定の範囲の遺族に対し遺族(補償)年金が支払われ、その年金受給権者がいないときは、一定範囲の遺族に対して給付基礎日額の 1,000 日分の遺族(補償)一時金が支給されます。
【葬祭料(葬祭給付)】
葬祭を行ったものに対し、315,000 円+給付基礎日額の 30 日分又は給付基礎日
5 労働・社会保険
額の 60 日分のいずれか高い方が支給されます(労災法 17 条、22 条の5)。
【介護補償給付(介護給付)】
一定の障害により傷病(補償)年金、又は障害(補償)年金を受給し、かつ、現に介護を受けている場合に、請求に基づいて月を単位として支給されます(労災法 12 条の8第7項、19 条の2、24 条)。
常時介護の場合は、介護の費用として支出した額が 166,950 円を上限として支給され、一律 72,990 円が最低保障額とされています。
随時介護の場合は、介護の費用として支出した額が 83,480 円を上限として支給され、一律 36,500 円が最低保障額とされています(金額はいずれも令和2年4月1日改正)。
【二次健康診断等給付】
労働安全衛生法に基づく定期健康診断等において、業務上の理由による脳血管疾患及び心臓疾患に関連する一定の検査項目(血圧、血中脂質、血糖、肥満度)の全てに異常所見があると診断されたときは、当該労働者は、その請求に基づいて二次健康診断及び特定保健指導を受けることができます。ただし、既に脳・心臓疾患の病状を有している者を除きます(労災法 26 条)。
(4)労災民事訴訟
労災保険の給付は、被災労働者がどのような方かを問わず一律定型的なものです。そこで、重大な労災の場合には、被災労働者又はその遺族がより多くの補償を求めて使用者を相手に民事訴訟を起こすことがあります。これが労災民事訴訟です。
使用者には労働契約において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するように配慮する安全配慮義務がありますので(労xx5条)、労災が起きたのは、使用者がこの義務を怠ったためであるとなると、労働契約の債務不履行責任(民法 415 条)により損害賠償が発生することになるのです。また、不法行為(民法 709、715、 717 条)も労災民事訴訟の根拠とされます。使用者としては、ひとたび労災事故や業務上疾病が発生した場合には、労災民事訴訟の可能性も視野に入れる必要があります。
2 雇用保険
(1)保険関係
【適用事業と被保険者、加入要件】
雇用保険は、労働者が失業してしまった場合に、生活の安定を守り、再就職の援助を行うものです。また、雇用安定に資するため、定年後の再雇用などにより賃金が低くなっても退職せずに働き続けられるように援助したり(高年齢者継続雇用給付)、育児休業や介護休業取得時の給付(育児休業給付、介護休業給付)や、働く能力を伸ばすための支援(教育訓練給付)なども行ったりしています。
労災保険と同様に、原則として、1人でも労働者を使用している場合は、雇用保険の適用事業となり(雇用保険法(雇保法)5条)、事業を開始した日に、保険者である国との間で保険関係が自動的に成立します(徴収法4条)。
雇用保険の適用事業に雇用され、週所定労働時間が 20 時間以上であり、かつ 31日以上雇用見込みのある労働者(昼間の学生等を除く。)は、その意思にかかわらず当然に被保険者になります。平成 29 年1月1日以降は、65 歳以降に新たに雇い入れられる者についても、上記の要件を満たす場合には、高年齢被保険者として雇用保険の被保険者になっています(保険料の徴収は平成 31 年度分(令和2年3月分)まで免除されていましたが、令和2年4月分から徴収対象になりました。)。
保険料は、労働者の賃金総額に保険料率9/1000(一般事業の場合)(徴収法 12条4項)であり、このうち使用者負担分は6/1000、被保険者負担分は3/1000 です(令和3年度)。
雇用保険料率 | 労働者負担 | 事業主負担 | |
一般の事業 | 9/ 1000 | 3/ 1000 | 6/ 1000 |
農林水産(※)・清酒製造業 | 11 / 1000 | 4/ 1000 | 7/ 1000 |
建設業 | 12 / 1000 | 4/ 1000 | 8/ 1000 |
※園芸サービス、牛馬の育成、酪農、養鶏、養豚、内水面養殖、特定の船員を雇用する事業は、一般の事業の率を適用
【事業主が行う保険関係の手続】
雇用保険の適用対象となる労働者を初めて雇用することとなった場合は、事業所の所在地を管轄する公共職業安定所長に適用事業所設置届、被保険者資格取得届を保険成立の日の属する月の翌月 10 日までに提出しなければなりません。
5 労働・社会保険
その後、新たに労働者を雇い入れた場合は、その都度、事業所の所在地を管轄する公共職業安定所長に被保険者資格取得届を提出しなければなりません(雇保法7条)。
また、被保険者が離職した場合は、被保険者資格喪失届と給付額等の決定に必要な離職証明書を事業所の所在地を管轄する公共職業安定所長に対し、当該事実のあった日の翌日から起算して 10 日以内に提出しなければなりません
これらの手続は、雇用保険法により事業主の義務とされていますので忘れずに行ってください。なお、上記の手続以外にも、事業所の名称や所在地が変更になった場合、被保険者の氏名が変更になった場合、同一の事業主の事業所間で転勤させる場合等にも手続が必要となります。
(2)保険給付の内容
雇用保険法の目的は失業者の生活安定ですが、それ以外に就職促進、失業予防もその目的とされます。以下では求職者給付のうち基本手当について説明します(その他の給付についての詳細は、厚生労働省のホームページなどでご確認ください。)。
雇用保険制度の概要
失 業 等 給 付
一般被保険者に対する求 職 者 給 付
求職者給付
雇 用 保 険
高年齢被保険者に 対する求職者給付
短期雇用特例被保険者に対する求職者給付
雇用保険二事業
日雇労働被保険者 に対する求職者給付
就職促進給付
能力開発事業
雇用安定事業
教育訓練給付
雇用継続給付
※ハローワークインターネットサービスより引用
基 本 手 当技 能 習 得 手 当
(
受 講 手 当通 所 手 当
寄 宿 手 当傷 病 手 当高年齢求職者給付金
特 例 一 時 金日雇労働求職者給付金
(
就 業 促 進 手 当
再 就 職 手 当就業促進定着手当 就 業 手 当常用就職支度手当
移 転 費
(
求 職 活 動 支 援 費
広 域 求 職 活 動 費 短 期 訓 練 受 講 費 求職活動関係役務利用費
教 育 訓 練 給 付 x
x年齢雇用継続給付育 児 休 業 給 xx 護 休 業 給 付
xxxxx://xxx.xxxxxxxxx.xx.xx/xxxxxxxxx/xxxxxxxxx_xxxxxxx.xxxx
【基本手当の受給要件と手続】
被保険者が失業した場合に、離職の日以前の2年間に被保険者であった期間(被保険者期間)が通算 12 か月以上ある場合、基本手当の支給を受けることができます。被保険者期間は、賃金支払いの基礎となった日数が 11 日以上ある期間を1か月として計算しますが、令和2年8月1日以降に離職した者については、前述の条件を満たさない場合、補完的に賃金支払いの基礎となった時間が 80 時間以上であるものを1か月として計算することとされました(雇保法 13 ~ 14 条)。
ただし、倒産・解雇等による離職者(「特定受給資格者」)は、離職の日以前1年間に被保険者期間が6か月あれば、基本手当を受給できます。このような受給資格を満たしている者が、実際に基本手当の支給を受けるには、離職後に使用者の発行する離職票を持ってハローワークに出頭し、求職の申込みをして失業の認定を受けなければなりません(同法 15 条2項)。
5 労働・社会保険
「失業」とは、「被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態」(同法4条3項)をいいます。
失業の認定は、受給資格者が最初にハローワークに出頭した日から起算して4週間に1回ずつ受けることになります(同法 15 条3項)。
【基本手当日額と給付日数】
基本手当の日額は、原則として受給者が受けていた離職前6か月の賃金総額(賞与等は除く。)を 180 日で割って得た額に給付率(およそ 50%~ 80%、60 歳~ 64歳については 45%~ 80%)を乗じて得た額です(雇保法 16 条、17 条)。賃金の高い人は給付率が低く、賃金の低い人ほど給付率は高くなります。
基本手当を受けられるのは、原則として、離職の翌日から数えて1年間です。これを受給期間といいます。この受給期間中に基本手当が所定の日数分支給されます
(同法 20 条)。受給期間を過ぎてしまいますと、所定の給付日数が残っていても支給されません。
給付日数は、一般の離職者の年齢、被保険者期間、離職理由、障害者等の就職困難者といった条件により異なります(同法 22 ~ 23 条)。なお、倒産・解雇等による離職者(特定受給資格者)・特定理由離職者については、新型コロナウイルス感染症に伴う特例措置があります。詳しくは、厚生労働省のホームページをご確認ください。
【倒産・解雇等 よる離職者(特定受給資格者) 該当する場合】
倒産・解雇等による離職者(特定受給資格者)とは、離職理由が倒産・解雇等により、再就職の準備をする時間的余裕がなく離職を余儀なくされた受給資格者であり、具体的には次に該当する方です。
(特定受給資格者は、一般の離職者に比べて後掲の表にみるように、基本手当受給日数が長くなることがあります。)
Ⅰ「倒産」等 より離職した者
①倒産(破産、民事再生、会社更生等の各倒産手続の申立て、又は手形取引の停止等)に伴い離職した者
②事業所において、大量雇用変動の場合(1か月に 30 人以上の離職を予定)の届出がされたため離職した者、及び当該事業主に雇用される被保険者の3分の
1を超える者が離職したため離職した者
③事業所の廃止(事業活動停止後再開の見込みがない場合を含む。)に伴い離職した者
④事業所の移転により、通勤することが困難となったため離職した者
Ⅱ「解雇」等 より離職した者
①解雇(自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除く。)により離職した者
②労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したことにより離職した者
③賃金(退職手当を除く。)の額の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかったことにより離職した者
④賃金が、当該労働者に支払われていた賃金に比べて 85%未満に低下した(又は低下することとなった)ため離職した者(当該労働者が低下の事実について予見し得なかった場合に限る。)
⑤離職の直前6か月間のうちに[1]いずれか連続する3か月で 45 時間、[2]いずれか1か月で 100 時間、又は[3]いずれか連続する2か月以上の期間の時間外労働を平均して1か月で 80 時間を超える時間外労働が行われたため離職した者。事業主が危険若しくは健康障害の生ずるおそれがある旨を行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において当該危険若しくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者
⑥事業主が法令に違反し、妊娠中若しくは出産後の労働者又は子の養育若しくは家族の介護を行う労働者を就業させ、若しくはそれらの者の雇用の継続等を図るための制度の利用を不当に制限したこと又は妊娠したこと、出産したこと若しくはそれらの制度の利用の申出をし、若しくは利用をしたこと等を理由として不利益な取扱いをしたため離職した者
⑦事業主が労働者の職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないため離職した者
⑧期間の定めのある労働契約の更新により3年以上引き続き雇用されるに至った場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者
⑨期間の定めのある労働契約の締結に際し当該労働契約が更新されることが明示された場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者(上記⑧に該当する場合を除く。)
⑩上司、同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって離職した者、事業主が職場におけるセクシュアルハラスメントの事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかったことにより離職した者及び事業主が職場における妊娠、出産、育児休業、介護休業等に関する言動により労働者の就業環境が害されている事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかったことにより離職した者
⑪事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職
5 労働・社会保険
した場合は、これに該当しない。)
⑫事業所において使用者の責めに帰すべき事由により行われた休業が引き続き3か月以上となったことにより離職した者
⑬事業所の業務が法令に違反したため離職した者
【特定理由離職者 該当する場合】
特定受給資格者以外の者であっても、以下に該当する場合は、特定理由離職者に該当し、基本手当について一般の離職者に比べ手厚い給付日数となる場合があります。
Ⅰ 期間の定めのある労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことにより離職した者(その者が当該更新を希望したにもかかわらず、当該更新についての合意が成立するに至らなかった場合に限る。)(上記「特定受給資格者の範囲」のⅡの⑧又は⑨に該当する場合を除く。)
Ⅱ 以下の正当な理由のある自己都合により離職した者
①体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退等により離職した者
②妊娠、出産、育児等により離職し、雇用保険法第 20 条第1項の受給期間延長措置を受けた者
③父若しくは母の死亡、疾病、負傷等のため、父若しくは母を扶養するために離職を余儀なくされた場合又は常時本人の看護を必要とする親族の疾病、負傷等のために離職を余儀なくされた場合のように、家庭の事情が急変したことにより離職した者
④配偶者又は扶養すべき親族と別居生活を続けることが困難となったことにより離職した者
⑤次の理由により、通勤不可能又は困難となったことにより離職した者
(a)結婚に伴う住所の変更
(b)育児に伴う保育所その他これに準ずる施設の利用又は親族等への保育の依頼
(c)事業所の通勤困難な地への移転
(d)自己の意思に反しての住所又は居所の移転を余儀なくされたこと
(e)鉄道、軌道、バスその他運輸機関の廃止又は運行時間の変更等
(f )事業主の命による転勤又は出向に伴う別居の回避
(g)配偶者の事業主の命による転勤若しくは出向又は配偶者の再就職に伴う別居の回避
⑥その他、上記「特定受給資格者の範囲」のⅡの⑪に該当しない企業整備による人員整理等で希望退職者の募集に応じて離職した者等
雇用保険基本手当の給付日数
1 倒産・解雇等による離職者(3を除く)
被保険者であった 期間 区分 | 1 年未満 | 1 年以上 5 年未満 | 5 年以上 10 年未満 | 10 年以上 20 年未満 | 20 年以上 |
30 歳未満 | 90 日 | 90 日 | 120 日 | 180 日 | - |
30 歳以上 35 歳未満 | 120 日※ | 180 日 | 210 日 | 240 日 | |
35 歳以上 45 歳未満 | 150 日※ | 240 日 | 270 日 | ||
45 歳以上 60 歳未満 | 180 日 | 240 日 | 270 日 | 330 日 | |
60 歳以上 65 歳未満 | 150 日 | 180 日 | 210 日 | 240 日 |
※受給資格に係る離職日が平成 29 年3月 31 日以前の場合は 90 日
2 倒産・解雇等以外の事由による離職者(3を除く)
被保険者であった 期間 区分 | 1 年以上 5 年未満 | 5 年以上 10 年未満 | 10 年以上 20 年未満 | 20 年以上 |
全年齢 | 90 日 | 120 日 | 150 日 |
3 就職困難者※
被保険者であった 期間 区分 | 1 年未満 | 1 年以上 5 年未満 | 5 年以上 10 年未満 | 10 年以上 20 年未満 | 20 年以上 |
45 歳未満 | 150 日 | 300 日 | |||
45 歳以上 65 歳未満 | 360 日 |
※身体障害者、知的障害者、精神障害者、刑法等の規定により保護観察に付された方、社会的事情により就職が著しく阻害されている方など
4 高年齢求職者雇用給付金
被保険者であった期間 | 高年者求職者給付金の額 |
1年以上 | 基本手当額の 50 日分 |
1年未満 | 基本手当額の 30 日分 |
高年齢被保険者(65 歳以上の被保険者であって、短期雇用特例被保険者や日雇労働被保険者に該当しない者)が失業した場合、一般の被保険者の場合と異なり、被保険者であった期間に応じ基本手当日額の 30 日分又は 50 日分に相当する高年齢求職者給付が支給されます。
5 労働・社会保険
(3)事業主等への助成金
雇用保険では、被保険者への給付だけでなく、雇用安定事業(雇保法 62 条)及び能力開発事業(同法 63 条)として、雇用関係助成金及び労働条件等関係助成金があります。
雇用関係助成金を受給する事業主(事業主団体を含む。)は、各助成金の「対象となる事業主」に記載した要件を満たすほか、次の1~3の要件の全てを満たすことが必要です。
1 雇用保険適用事業所の事業主であること
2 支給のための審査に協力すること
(1)支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等を整備・保管していること
(2)支給または不支給の決定のための審査に必要な書類等の提出を、管轄労働局等から求められた場合に応じること
(3)管轄労働局等の実地調査を受け入れること など
3 申請期間内に申請を行うこと
なお、①過去5年以内に不正受給をした事業主(平成 31 年4月1日以降)、②労働保険料を納入していない事業主、②過去1年以内に労働関係法令の違反があった事業主、④性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業又はこれらの営業の一部を受託する営業を行う事業主、⑤暴力団関係事業主、⑥支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主、⑦不正受給が発覚した際に事業主名等の公表について、あらかじめ同意しない事業主は、受給できません。
また、労働条件等関係助成金は主に中小企業主を対象としています。
新型コロナウイルス感染拡大に伴う雇用調整助成金の支給対象、支給要件については、厚生労働省のホームページ等でご確認ください。
3 健康保険
(1)保険関係
【適用事業と被保険者】
健康保険は、民間労働者が職場において加入する医療保険です。労働者とその被扶養者の業務外の傷病のほか、死亡、出産に関する保険給付を行います。
保険者は、全国健康保険協会(協会けんぽ、旧政管健保)と健康保険組合(組合健保)
の2種類があります(健康保険法(健保法)4条)。
原則として、全ての法人事業所、5人以上の従業員を使用する個人事業所は、健康保険の適用事業所となります(同法3条3項)。
適用事業所に使用される者は、原則として、被保険者になります。
なお、適用事業所が法人の場合、取締役(代表取締役を含む。)は、法人に使用される者として被保険者になりますが、適用事業所が個人事業の場合は経営者である個人事業主は、市町村が運営する国民健康保険等に加入することになります。
被保険者資格は、当事者の意思とはかかわりなく事業主に使用されることによって発生し、退職等により使用されなくなることによって喪失します。そのため、事業主は労働者を雇用した事実及び報酬額等について保険者に届け出なければなりません(同法 48 条)。
保険料は、協会けんぽの場合には標準報酬日額に全国健康保険協会が 30/1000 ~ 130/1000 の範囲で決定する 「都道府県単位の保険料率」(xxxの場合は令和2年
4月納付分から 9.87%)を乗じて得られた額を労使が折半負担します(同法 160 条
1項、2項)。組合健保の場合は標準報酬日額の 30/1000 ~ 130/1000 の範囲で各組合が決めます(同法 160 条 13 項)。負担割合は原則として労使折半ですが、健康保険組合の規約で使用者側が多く負担するよう決めることができます。
【被扶養者】
健康保険では、被保険者に扶養される者(被扶養者)も保険給付の対象になります。被扶養者は、被保険者によって生計を維持する親・祖父母・配偶者・子・孫・兄弟姉妹や、被保険者によって生計を維持し、被保険者と同居する三親等内の親族などです(健保法3条7項1号~4号)。
ただし、年間収入が 130 万円(60 歳以上の者、又は一定の障害者は 180 万円)以上ある者については、被扶養者になれません。
(2)保険給付
健康保険法が定める被保険者及び被扶養者への法定給付は次のようになっています(健保法 52 条)。なお、組合健保では法定給付に加えて一定の付加給付を行うことができます。給付の概要は以下のとおりです。
【療養の給付】
健康保険の被保険者が業務以外の事由により病気やけがをしたときは、健康保険で治療することができます(健保法 63 条)。一部負担金は 30/100 が基本です(同
5 労働・社会保険
法 74 条1項)。
【入院時食事療養費】
被保険者が病気やけがで保険医療機関に入院したときは、療養の給付と併せて食事療養に要した費用の給付が一定の範囲内で受けられます(健保法 85 条1項)。
【入院時生活療養費】
65 歳以上の特定長期入院被保険者に対して、在宅患者との費用負担の調整を図ることを目的に、療養病床における生活療養に要する費用(入院者の食事・温度・照明・給水に要する平均的な費用)から、平均的な家計におけるそれらの費用を控除した額が支給されます(健保法 85 条の2)。
【保険外併用療養費】
健康保険では、保険が適用されない保険外診療があると保険が適用される診療も含めて、医療費の全額が自己負担となります。
ただし、保険外診療を受ける場合でも、厚生労働大臣の定める「評価療養」、「患者申出療養」及び「選定医療」については、保険診療との併用が認められており、通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用は、一般の保険診療と同様に扱われ、その部分については一部負担金を支払うこととなり、残りの額は「保険外併用療養費」として健康保険から給付が行われます(健保法 86 条)。
【訪問看護療養費】
居宅で療養している人が、医師の指示に基づいて指定訪問看護事業者の訪問看護師から、療養上の世話や診療の補助などを受けた場合、その費用が訪問看護療養費として現物給付されます(健保法 88 条)。
【療養費】
医療保険は、医療という現物給付が原則ですが、やむを得ない事情で、保険医療機関以外で治療を受けたときは、要した治療費(自費)の一部を後に償還するのが「療養費」です(健保法 87 条)。
【高額療養費】
原則として、被保険者と被扶養者の1か月の一部負担金の合算額が、一定の自己負担限度額を超えるときは、超えた分について高額療養費として申請手続後に償還
されます(健保法 115 条)。
【高額介護合算療養費】
同一世帯内に介護保険の受給者がいる場合に、1年間(毎年8月1日~翌年7月 31 日まで)にかかった医療保険と介護保険の自己負担額の合算額が著しく高額になった場合は、負担を軽減するために自己負担限度額を超えた額が医療保険、介護保険の自己負担額の比率に応じて、現金で健康保険から支給されます(健保法 115条の2)。
【移送費】
病気やけがにより被保険者の移動が困難な場合に、医師の指示で一時的・緊急的に必要があり移送されたときは、その要した費用が給付されます(健保法 97 条)。
【傷病手当金】
被保険者が負傷、疾病により就労できず報酬が得られなかったときは、労務不能となった4日目から、1日につき標準報酬日額の3分の2相当額が傷病手当金として支給されます(健保法 99 条)。
【出産手当金】
被保険者である女性が、産前産後休業中で報酬を得られなかったときに、1日につき標準報酬日額の3分の2相当額が出産手当金として支給されます(健保法 102条)。傷病手当金との併給は認められず、出産手当金が支給されます(同法 103 条)。
【出産育児一時金、家族出産育児一時金】
被保険者及びその被扶養者が出産したときは、1児につき定額 42 万円が出産育児一時金として支給されます(健保法 101 条)。ただし、産科医療補償制度に加入されていない医療機関で出産された場合は 40.4 万円となります。
【埋葬料・埋葬費】
被保険者が死亡したときは、被保険者によって生計を維持し、かつ埋葬を行う者がいるときは、その者に埋葬料として現金給付(5万円)がなされます(健保法 100 条1項)。埋葬料の支給を受ける者がいないときは、実際に埋葬をした者に、埋葬に要した費用が埋葬料の範囲内で支給されます(同法 100 条2項)。
5 労働・社会保険
健康保険の給付の種類
被保険者 | 被扶養者 | |
負傷・疾病 | 療養の給付 | 家族療養費 |
入院時食事療養費 | ||
入院時生活療養費 | ||
保険外併用療養費 | ||
療養費 | ||
訪問看護療養費 | 家族訪問看護療養費 | |
移送費 | 家族移送費 | |
傷病手当金 | ―― | |
高額療養費・高額介護合算療養費 | ||
死 亡 | 埋葬料 | 家族埋葬料 |
出 産 | 出産育児一時金 | 家族出産育児一時金 |
出産手当金 | ―― |
4 厚生年金保険
(1)保険関係
厚生年金は、民間企業の労働者を対象とする公的年金です。
昭和 60 年の国民年金法改正によって、20 歳以上 60 歳未満の全ての国民が国民年金に強制加入することになり、これによって全国民に共通の基礎年金制度が導入されました。厚生年金は、国民年金法による基礎年金制度の上に言わば「二階建て部分」として位置付けられる年金制度です。
厚生年金適用事業は、健康保険と同様、常時5人以上の労働者を使用する事業所は適用事業所になります(厚生年金保険法(厚年法)6条1項)。適用事業に使用される 70 歳未満の者は、原則として被保険者になります(同法9条)。
保険料は、標準報酬月額及び標準賞与額に保険料率を乗じて得た額を労使が折半負担します(同法 81 条3項、82 条1項)。保険料率は、平成 29 年9月以降は 18.3%で固定されます(同法 81 条4項)。
(2)保険給付
【老齢厚生年金】
老齢厚生年金は、被保険者期間(1月以上)を有する者が、保険料納付期間と保険料免除期間を合算して 10 年以上有するものに対して、65 歳から支給されます(厚
年法 42 条)。
年金額は、被保険者であった全期間の平均標準報酬額×給付乗率×被保険者期間の月数で計算される額です(同法 43 条)。被保険者期間が 20 年以上あるときに、その者に生計を維持されていた配偶者、又は子(65 歳未満の配偶者、18 歳に達する年度の末日までの間にある子、又は障害等級1級ないし2級の障害のある 20 歳未満の子)があれば定額の加給年金額が支給されます(同法 44 条)。加給年金額加算のためには、届出が必要です。
年金受給年齢に到達した後も働き続ける厚生年金加入者については、在職老齢年金制度があります。これは 60 ~ 64 歳までと 65 歳以降とでは異なりますが、老齢厚生年金月額と総報酬月額相当額(標準報酬月額と直近1年間の標準賞与額の 12分の1の合算額)の合算額によっては、老齢厚生年金の一部、又は全額が支給停止されることがあります。
なお、65 歳からは国民年金法に基づく老齢基礎年金が支給されます(国民年金法 26 条)。
【障害厚生年金】
障害厚生年金は、傷病による初診日に被保険者であった者が障害等級1~3級の認定を受けたときに支給されます(厚年法 47 条)。年金額は、障害等級1級の場合が、報酬比例の年金額× 1.25 +配偶者の加給年金額と同額、2級は報酬比例の年金額+配偶者の加給年金額と同額、3級は報酬比例の年金額と同額です。障害等級1~2級については国民年金の障害基礎年金も支給されます(国民年金法 30 条)。年金支給に至らない程度の障害については障害手当金が支給されます(厚年法 55 条)。
【遺族厚生年金】
遺族厚生年金は、被保険者が死亡した場合に、その者によって生計を維持していた遺族に対して配偶者、子、父母、孫、祖父母の順位で(夫・父母・祖父母は 55歳以上、子・孫は 18 歳に達する日以後の最初の3月 31 日までの間にあるか、又は 20 歳未満で障害等級の1~2級に該当する障害の状態にあり、かつ現に婚姻をしていない場合)遺族厚生年金が支給されます(厚年法 58 条、59 条)。
遺族厚生年金の受給権者が中高年の妻である場合(40 歳以上 65 歳未満で子がいない妻、又は子が 18 歳到達年度の末日までにある時に 40 歳以上 65 歳未満であった妻)には中高齢寡婦加算が給付されます(同法 62 条)。なお、遺族厚生年金には遺族基礎年金(国民年金法 38 条)が併給されます。
※詳しくは、お近くの年金事務所にお問い合わせください(146 ~ 147 ページ)。
5 労働・社会保険
5 介護保険
(1)保険関係
介護保険は、身体上、又は精神上の障害があるために入浴、排泄、食事等の全部、又は一部について要介護状態になったり、日常生活の基本動作について要支援状態になったりした場合に、本人ができる限り自立生活ができるように保健・医療・福祉サービスを提供することを目的とした社会保険制度で、介護保険法(介保法)(平成 12 年4月1日施行)によって運用されています。
保険者は市町村及び特別区です(介保法3条)。被保険者は一般住民ですが、年齢により2種類に分けられ、第1号被保険者は 65 歳以上の者、第2号被保険者は 40歳以上 65 歳未満の各医療保険加入者です(同法9条)。
保険料は、第1号被保険者については市町村が政令に従い本人の所得等に応じて条例で決めます(同法 129 条2項)。徴収方法は、第1号被保険者は年金からの特別徴収(天引き)で、天引きできない場合は納入通知書による普通徴収です。第2号被保険者は加入している医療保険の保険料と併せて徴収されます。国民健康保険に加入している第2号被保険者が負担する介護保険料については、国民健康保険の保険料と一体的に徴収されます。
(2)要介護・要支援認定
保険給付サービスを受けるには、被保険者(又はその家族)は、市町村による要介護(又は要支援)の認定を受けなければなりません(介保法 19 条、27 条、32 条)。認定を受けた場合には、要介護状態(要介護1~5)、要支援状態(要支援1~2)に応じて保険給付の内容が決められます。
(3)保険給付
要介護状態と認定された者には「介護給付」が、要支援状態と認定された者には「予防給付」が支給されます。また、これらのほか、要介護状態、又は要支援状態の軽減、又は悪化の防止に資するために市町村が独自に行う「市町村特別給付」があります(介保法 18 条)。
給付を受ける場合、利用したサービスにかかる費用の9割が介護保険でまかなわれ、残りの1割(一定以上の所得がある場合は2割又は3割)を自己負担することになります。また、認定の種類によって、サービスの利用限度額が決まっており、利用限度額を超える利用分は全額自己負担になります。
6 パートタイム労働者と社会保険
パートタイム労働者であっても、1週の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が、その事業所で同種の業務を行う一般の労働者の4分の3以上ある場合には、社会保険の被保険者となります。
また、501 人以上の会社で働く、次の要件を満たすパートタイム労働者は社会保険の加入対象となります。
①所定労働時間が週 20 時間以上
②月額賃金 8.8 万円以上
③雇用期間が1年以上見込まれる場合
「雇用期間が1年以上見込まれる場合」とは次のとおりです。
・期間の定めがなく雇用される場合
・雇用期間が1年以上である場合
・雇用期間が1年未満である次の場合
・雇用契約書に契約が更新される旨又は更新される可能性がある旨が明示されている場合
・雇用契約書に契約が更新される旨が明示されていないが、同様の雇用契約で
1年以上更新された実績がある場合
④ 昼間の学生でないこと(例外あり)
なお、平成 29 年4月からは、従業員が 500 人以下の会社で働く上記の要件を満たすパートタイム労働者も、労使で合意すれば、会社単位で社会保険に加入できるようになりました。この従業員 500 人以下の会社が労使の合意により社会保険の加入を行う場合には、従業員の2分の1以上の方の同意を得た上で、事業主から、年金事務所へ申出を行う必要があります。
多様な就労を年金制度に反映するため、被用者保険の適用拡大が令和4年 10 月に実施されます。具体的には、パートタイム労働者を被用者保険の適用対象とすべき事業所の企業規模要件(現行、従業員数 500 人超)を段階的に引き下げ、令和4年 10 月に 100 人超規模、令和6年 10 月に 50 人超規模とします。賃金要件(月額
8.8 万円以上)、労働時間要件(週労働時間 20 時間以上)、学生除外要件については現行のままとし、勤務期間要件(現行、1年以上)については実務上の取扱いの現状も踏まえて撤廃し、フルタイムの被保険者と同様の2か月超の要件を適用することとします。
5 労働・社会保険
さらに、強制適用の対象となる5人以上の個人事業所の適用業種に、弁護士、税理士等の士業が追加されます。
②労使合意に基づく任意の適用
引用:厚生労働省ホームページ
(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxx/xxxxxxxxxxxxxxx/xxxxx/0000000000_00000.xxxx)
全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案の概要
改正の趣旨 | |
「全世代型社会保障改革の方針について」(令和2年12月15日閣議決定)等を踏まえ、現役世代への給付が少なく、給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直し、全ての世代で広く安心を支えていく「全世代対応型の社会保障制度」を構築するため、所要の改正を行う。 | |
改正の概要 | |
1.全ての世代の安心を構築するための給付と負担の見直し (1)後期高齢者医療における窓口負担割合の見直し 【高齢者の医療の確保に関する法律】 後期高齢者医療の被保険者のうち、現役並み所得者以外の被保険者であって、一定所得以上(※)であるものについて、窓口負担割合を2割とする。 ※課税所得が28万円以上かつ年収200万円以上(単身世帯の場合。複数世帯の場合は後期高齢者の年収合計が320万円以上)。政令で規定。 ※長期頻回受診患者等への配慮措置として、外来受診において、施行後3年間、1ヶ月の負担増を最大でも3,000円とする措置については、政令で規定。 (2)傷病手当金の支給期間の通算化 【健康保険法、船員保険法】 傷病手当金について、出勤に伴い不支給となった期間がある場合、その分の期間を延長して支給を受けられるよう、支給期間の通算化を行う。 (3)任意継続被保険者制度の見直し 【健康保険法、船員保険法】 任意継続被保険者の保険料の算定基礎の見直しや、被保険者からの申請による資格喪失を可能とする。 2.子ども・子育て支援の拡充 (1)育児休業中の保険料の免除要件の見直し 【健康保険法、船員保険法、厚生年金保険法 等】 短期の育児休業の取得に対応して、月内に2週間以上の育児休業を取得した場合には当該月の保険料を免除するとともに、賞与に係る保険料については1月を超える育児休業を取得している場合に限り、免除の対象とすることとする。 (2)子どもに係る国民健康保険料等の均等割額の減額措置の導入 【国民健康保険法、地方税法】 国民健康保険の保険料(税)について、子ども(未就学児)に係る被保険者均等割額を減額し、その減額相当額を公費で支援する制度を創設する。 3.生涯現役で活躍できる社会づくりの推進(予防・健康づくりの強化) ○保健事業における健診情報等の活用促進 【健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、高齢者の医療の確保に関する法律 等】 ① 労働安全衛生法等による健診の情報を保険者が保健事業で活用できるよう、事業者に対し被保険者等の健診情報を求めることを可能とする。 ② 健康保険組合等が保存する特定健診等の情報を後期高齢者医療広域連合へ引き継ぐこと等を可能とする。 4.その他 (1)国民健康保険の財政安定化基金を、都道府県が国民健康保険事業費納付金の著しい上昇抑制等のために充てることを可能とする。【国民健康保険法】 (2)都道府県国民健康保険運営方針について、保険料の水準の平準化や財政の均衡に関して記載事項に位置付ける。【国民健康保険法】 (3)医療扶助においてオンライン資格確認を導入する。 【生活保護法、社会保険診療報酬支払基金法、地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律】 等 |
令和4年1月1日(ただし、1(1)は令和4年10月1日から令和5年3月1日までの間において政令で定める日、2(1)は令和4年10月1日、
2(2)及び4(1)は令和4年4月1日、 4(2)は令和6年4月1日、4(3)は一部を除き公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日)
施行期日
引用:厚生労働省ホームページ
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6
職場の安全と使用者責任
1 労働安全衛生法の仕組み
労働安全衛生法(安衛法)は、労基法と相まって、労働災害(労災)の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的としています。同法は、労災防止のための安全衛生管理体制と安全衛生の基準とを二本柱にしています。
【安全衛生管理体制】
事業者は、事業場の業種と規模に応じて、安全衛生に関する業務を総括管理する総括安全衛生管理者(安衛法 10 条)、その下で安全に関する事項を管理する安全管理者(同法 11 条)、衛生に関する事項を管理する衛生管理者(同法 12 条)を選任しなければなりません。
10 人以上 50 人未満の小規模事業場では安全衛生推進者、又は衛生推進者を選任しなければなりません(同法 12 条の2)。労働者 50 人以上の事業場では産業医の選任が必要です(同法 13 条)。また、事業場内の危険有害な作業区分ごとに作業xx者の選任が必要です(同法 14 条)。
そして、一定の業種で一定の規模以上(業種により 50 人以上の場合と、100 人以上の場合とがある。)の事業場では、安全に関する事項を調査・審議し、事業者に意見を述べる安全委員会を設置しなければなりません(同法 17 条)。
また、 業種を問わず 50 人以上の事業場では、 衛生に関する事項を調査・審議して、事業者に意見を述べる衛生委員会を設置しなければなりません(同法 18 条)。
安全委員会を設置しなければならない事業場では、衛生委員会も設置しなければならないため、各委員会の設置に代えて安全衛生委員会を設置することができます
(同法 19 条)。
これらの委員会の委員の半数については、当該事業場の従業員の過半数代表者の推薦により指名しなければなりません(同法 17 条3~5項、18 条4項、19 条4項)。
【安全衛生の基準】
労働安全衛生法は、使用者に対して「危険・健康障害防止措置」(安衛法 20 条~ 25 条の2)を講じることを求めています。労働安全衛生法の中心的部分です。
使用者は、①機械・器具その他の設備による危険、②爆発性・発火性・引火性の物などによる危険、③電気・熱その他のエネルギーによる危険を防止するために必
要な措置を講じなければなりません(同法 20 条)。
また、作業場については、通路・床面・階段等の保全並びに換気・採光・照明・保温・防湿・休養・避難及び清潔に必要な措置その他労働者の健康・風紀及び生命の保持のため必要な措置を講じなければなりません(同法 23 条)。これらの具体的な基準は安全衛生規則その他の特別規則に委ねられています。
さらに、労働安全衛生法は「機械等並びに危険物及び有害物に関する規制」(第5章)、下記の安全衛生教育その他「労働者の就業に当たっての措置」(第6章)、健康診断その他「健康の保持増進のための措置」(第7章)を使用者に求めています。また、労働者の疲労回復のための措置等「快適な職場環境の形成のための措置」(第7章の2)を努力義務にしています。
2 安全衛生教育と健康診断
多くの事業場で日常的に行われる最も一般的な安全衛生対策として、安全衛生教育と健康診断が挙げられます。
【安全衛生教育】
使用者は、労働者を雇い入れたとき、又は作業内容を変更したときは安全衛生教育を行わなければなりません(安衛法 59 条1項、2項)。
安全教育の内容は、①機械・原材料等の危険・有害な物の取扱い方法、②安全措置・有害物質抑制装置・保護具の性能や取扱い方法、③作業手順、④作業開始時の点検、
⑤当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因・予防、⑥整理・整頓・清潔保持に関すること、⑦事故時の応急措置・退避に関すること、⑧その他当該業務に関する安全・衛生に必要な事項です(労働安全衛生規則(安衛則)35 条1項)。
また、危険又は有害な業務で、一定のものに労働者を就かせるときは省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければなりません(安衛法 59 条3項)。
【健康診断】
使用者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に健康診断を行わなければなりません。また、常時使用する労働者に対しては、1年以内ごとに1回、健康診断を行わなければなりません。さらに、有害業務(深夜業に従事する場合もこれに含まれます。)に常時従事する労働者に対しては、配置換えの際及び6か月以内ごとに1回健康診断を行わなければなりません(安衛法 66 条)。
6 職場の安全と使用者責任
【長時間労働者等 対する医師 よる面接指導】
①時間外労働が月 80 時間を超え疲労の蓄積が認められる長時間労働者ついて、使用者は、本人の申出により、医師の面接指導を実施しなければなりません(安衛法 66 条の8、安衛則 52 条の2第1項)。使用者は、時間外労働が月 80 時間を超えた労働者に対し、その超えた時間についての通知を行わなければなりません(安衛則 52 条の2第3項)。この通知は、疲労の蓄積が認められる労働者の面接指導の申出を促すものであり、労働時間に関する情報のほか、面接指導の実施方法・時期等の案内を併せて行うことが望ましいとされています(平
30.12.28 基発 1228 第 16 号)。
②新技術・新商品・新役務の研究開発業務従事者については、時間外・休日労働時間が1月当たり 100 時間を超えたものに対して、当該労働者の申出なしに面接指導を行わなければなりません(安衛法 66 条の8の2、安衛則 52 条の7の
2)。時間外・休日労働時間が1月当たり 100 時間を超えた場合に、事業者は、対象労働者に対して、労働時間に関する情報を、面接指導の案内と併せて通知する必要があります(安衛則 52 条の7の2第2項)。
また、時間外・休日労働時間が1月当たり 100 時間を超えない場合であっても、当該超えた時間が 80 時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められた場合には、上記の安衛法第 66 条の8第1項の規定により、面接指導の対象となるため、当該労働者から面接指導の申出があれば、事業者は、面接指導を行わなければなりません(平 30.12.28 基発 1228 第 16 号)。
③高度プロフェッショナル制度の適用対象者(4章参照)について、週 40 時間超えの健康管理時間が月 100 時間を超えた場合、使用者は医師による面接指導を実施しなければなりません(安衛法 66 条の8の4)。
④また、①から③に該当しなくても、事業者は、長時間にわたる労働により疲労の蓄積が認められ又は労働者自身が健康に不安を感じた労働者であって申出を行った労働者及び事業場で定めた基準に該当する労働者に対して、面接指導に準ずる措置等必要な措置を行うよう努めなければなりません(安衛法66 条の9)。
【メンタルヘルス対策】
職業生活において、過重労働や人間関係から強い不安やストレスを感じる労働者がおよそ6割(58.0%)に上るといわれています(厚生労働省「平成 30 年労働安全衛生調査(実態調査)」)。
そこで国は、安衛法 70 条の2に基づき「健康保持増進のための指針」として、「労働者の心の健康保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」(平 18.3.31 基発第
0331001 号、平成 27 年 11 月 30 日改正)を定めて、メンタルヘルスケアを推進しています。
「メンタルヘルス指針」は、メンタルヘルスケアの推進のためには、「セルフケア」、労働者と日常的に接する管理監督者が行う「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」及び「事業場外資源によるケア」の4つのケアを、継続的かつ計画的に実施することが基本であるとし、そのための具体的な方策として、
①メンタルヘルスケアを推進するための教育研修・情報提供、②職場環境等の把握と改善、③メンタルヘルス不調への気付きと対応、④職場復帰における支援を掲げて、その実施を推進しています。使用者は、これらについて積極的に対応することが望まれます。
【ストレスチェック等の実施義務】
事業者は、常時使用する労働者に対して、医師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を実施することが義務付けられています。医師等とは、①医師、②保健師、③検査を行うために必要な知識についての研修であつて厚生労働大臣が定めるものを修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師です(安衛法 66 条の 10)。ただし、労働者数 50 人未満の事業場は、当分の間は努力義務とされます。
このストレスチェックの検査結果は、検査を実施した医師等から直接本人に通知され、本人の同意なく事業者に提供されることは禁止されます。結果、一定の要件に該当する労働者から申出があった場合、医師による面接指導を実施することが事業者の義務となります。そして、面接指導の結果に基づき、医師の意見を聴き、必要に応じ就業上の措置を講ずることが事業者に義務づけられています。
【労働者の心身の状態 関する情報の取扱い】
事業者は、医師等による健康診断、医師による面接指導、医師等による心理的な負担の程度を把握するための検査の結果等から、必要な労働者の心身の状態に関する情報を取得し、労働者の健康と安全を確保することが求められていますが、こうした労働者の心身の状態に関する情報には、労働者にとって機微な情報も含まれます。事業者は、労働者の心身の状態に関する情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、労働者の健康の確保に必要な範囲内で労働者の心身の状態に関する情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内で適正にこれを保管し、及び使用しなければなりません(じん肺法 35 条の3 1項~第4項、安衛法 104 条1項~4項、新じん肺法施行規則 33 条、安衛則 98 条の3)。このため「労働者の心身の状態に
6 職場の安全と使用者責任
関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成 30年9月7日公示第1号)が策定されています。
3 使用者の安全配慮義務・受動喫煙の防止
【安全配慮義務の意義と内容】
使用者は、労基法や労働安全衛生法を遵守するとともに、労働契約上の付随的義務として、労働者の生命、身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務としての安全配慮義務を負っています(労xx5条)。
この安全配慮義務は、請負契約を結んで業務の一部を外注化(アウトソーシング)している場合にも、下請労働者に対して安全配慮義務を負います。例えば、建設現場において下請会社の作業員の業務中の事故に対して元請会社の安全配慮義務違反が問われることがあります。
安全配慮義務の内容は、労働者の生命・身体を危険から保護するために、物的設備を整備すること、人的組織を適切に配備・運営すること、安全衛生教育の遂行や業務を適切に指示すること、さらには安全衛生法令の実施義務などを含むものと考えられます。
また、労災事故による傷病・障害・死亡や職業病の発症等について、使用者に上記の義務違反が認められるときには、労働契約上の安全配慮義務違反、債務不履行
(民法 415 条)、不法行為責任(民法 709 条等)に基づき損害賠償を請求されることがあります。
【受動喫煙の防止】
労働安全衛生法では、事業主は、室内又はこれに準ずる環境下で労働者の受動喫煙を防止するため、事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずること(受動喫煙防止措置)が努力義務とされています(安衛法 68 条の2)。
さらに、「健康増進法の一部を改正する法律」によって、国、地方公共団体、施設等の管理権原者等のそれぞれについて受動喫煙防止措置が義務付けられるようになりました。
事業者は、「望まない受動喫煙」をなくすという観点から、施設の類型・場所ごとに、主たる利用者の違いや、受動喫煙が他人に与える健康影響の程度に応じ、禁煙措置や喫煙場所の特定を行うとともに、掲示の義務付けなどの対策を講ずることとされています。その際、既存の飲食店のうち経営規模が小さい事業者が運営するものについては、事業継続に配慮し、必要な措置を講ずるものとされました。
なお、xxxにおいては、xxx受動喫煙防止条例が施行されています。これは屋内での受動喫煙による健康影響を未然に防止し、誰もが快適に過ごせる街を実現するためのルールとなっています。
4 パワーハラスメントの防止と使用者の責任
使用者にとって、職場におけるパワーハラスメントの防止対策は、今日重要な課題となっています。xxxの労働相談においても、「職場の嫌がらせ」をはじめとする「人間関係」に関するものが高止まり傾向にあり、パワーハラスメントの防止対策は、今や使用者にとって必要不可欠となっていることが分かります。
労働施策総合推進法の一部改正が令和2年6月1日に施行され、パワーハラスメント防止措置が義務化されました(雇用管理上必要な措置義務については、中小企業は令和4年3月 31 日までは努力義務)。セクシュアルハラスメントやマタニティハラスメントと同様に、事業主は、パワーハラスメント防止措置を講ずること、相談窓口等の設置の義務付け、相談したことを理由とする不利益取扱の禁止等が定められました。
職場のパワーハラスメントとは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当の範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、の3つの要素を満たすものとされています。具体的な行為の例は「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和 2.1.15 厚労告5号)」と次ページの表を参照してください。
パワーハラスメントは、被害者だけでなく、加害者、そして使用者にとっても損失が大きく、その影響は後々まで残ります。加害者は、不法行為責任(民法 709 条)を問われますし、使用者は、加害者の不法行為について、使用者責任(民法 715 条)が問われ、加害者とともに被害者に賠償責任を負うことになります。さらに、使用者は、労働者に対し労働契約上の安全配慮義務を負うことから(労xx5条)、職場のパワーハラスメントを予防する義務を負うと解されます。この義務を怠った場合には、債務不履行責任(民法 415 条)が問われることになります。従って、使用者は、職場のパワーハラスメントを許さないことを示し、パワーハラスメントの防止の重要性を従業員に教育し、また、実態を把握し、問題があったときに迅速適正に解決できる仕組みを整備する必要があります。
6 職場の安全と使用者責任
該当すると考えられる例 | 該当しないと考えられる例 | |
身体的な攻撃 (暴行・傷害) | ①殴打、足蹴りを行うこと。 ②相手に物を投げつけること。 | ①誤ってぶつかること。 |
精神的な攻撃 (脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言) | ①人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。 ②業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。 ③他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。 ④相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること。 | ①遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること。 ②その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること。 |
人間関係からの切り離し (隔離・仲間外し・無視) | ①自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること。 ②一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること。 | ①新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施すること。 ②懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰させるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせること。 |
過大な要求 (業務上明らかに 不要なことや遂行不可能なことの 強制、仕事の妨害) | ①長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること。 ②新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること。 ③労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること。 | ①労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること。 ②業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せること。 |
過小な要求 (業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を 命じることや仕事を与えないこと) | ①管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること。 ②気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。 | ①労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること。 |
個の侵害 (私的なことに過度に立ち入ること) | ①労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。 ②労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。(機微な個人情報を暴露することのないよう、労働者に周知・啓発する等の措置を講じることが必要である) | ①労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行うこと。 ②労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促すこと。 |
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女性労働及び育児・介護
1 女性労働者一般の保護
【坑内労働・危険有害業務の就業制限】
使用者は、坑内で行われる業務のうち、人力により行われる掘削の業務、その他女性に有害な業務として、厚生労働省令で定める業務に、女性を就かせてはなりません(労基法 64 条の2第2号)。
また、使用者は、重量物を取り扱う業務、及び有害ガス等を発散する場所における業務のうち、女性の妊娠又は出産に係る機能に有害である業務に女性を就かせてはなりません(労基法 64 条の3第2項、女性労働基準規則(女性則)3条)。
重量物を取り扱う業務の就業制限
年齢 | 重量〔単位 : ㎏〕 断続作業 継続作業 | |
16 歳未満 | 12kg | 8kg |
16 歳以上 18 歳未満 | 25kg | 15kg |
18 歳以上 | 30kg | 20kg |
【生理休暇】
使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を就業させてはなりません(労基法 68 条)。「生理日の就業が著しく困難」かどうかは、本人の判断に委ねられ、通達では、使用者が医師の診断書などを求めることは適切ではないとされています。生理休暇中の賃金については、有給・無給であるかは、当事者間の合意すなわち就業規則の規定や労働協約、労働条件通知書の記載によることになります。
2 妊産婦保護
【産前休業】
産前休業とは、6週間(多胎妊娠の場合は 14 週間)以内に出産予定の女性が請求した場合に使用者はその女性を就業させてはならないとするもので(労基法 65 条
1項)、女性の「請求」が要件となります。出産予定日の6週間前から請求できますが、実際の出産日までが産前休業となります。
7 女性労働及び育児・介護
【産後休業】
産後休業とは、使用者は、産後8週間は当該女性を就業させてはならないとするものです(労基法 65 条2項)。産後休業は女性の請求がなくても出産日の翌日から産後休業に入り、8週間とされています。ただし、産後6週間を経過した(産後7
~8週目)女性労働者の請求により、医師が「支障がないと認めた業務」に就かせても差し支えありません(同法 65 条2項但書)。なお、労基法でいう「出産」には、妊娠4か月以降の早産、死産、流産、中絶も含まれます。
産前及び産後休業中の賃金について労基法に規定はなく、その扱いは当事者に委ねられます。
なお、健康保険法(健保法)の被保険者である場合には、産休により休業した期間中、標準報酬日額(労基法の平均賃金)の3分の2相当額が出産手当金として支給され(健保法 102 条)、また、出産育児一時金が支給されます(同法 101 条)。
【妊産婦の危険有害業務の就業制限】
使用者は妊娠中の女性を危険有害業務に就業させてはなりません(労基法 64 条の2第1号、64 条の3第1項)。禁止されているのは、坑内労働、重量物取扱業務、有害ガス等を発散する場所における業務のほか、妊産婦の妊娠、出産、哺育等に有害な業務が女性則2条で 24 種にわたり指定されています。また、産後1年を経過しない産婦も、これらの多くが、本人の申出により就業が禁止されます。
【変形労働時間制、時間外・休日労働、深夜業の就業制限】
使用者は、変形労働時間制を採用している場合であっても、妊産婦(妊娠中及び出産後1年未満の女性)が請求した場合には、週 40 時間、1日8時間を超えて働かせることはできません(労基法 66 条1項)。また、妊産婦が請求した場合は、「災害その他避けることができない事由による場合」、「公務のために臨時の必要がある場合」及び「36 協定による場合」でも時間外・休日労働をさせることはできません(同法 66 条2項)。
また、妊産婦が請求した場合には、深夜業(午後 10 時から午前5時までの時間帯の労働)をさせることはできません(同法 66 条3項)。
【育児時間】
1歳未満の子を育てる女性は、休憩時間のほか1日2回各々少なくとも 30 分、xxxを育てるための時間(育児時間)を請求することができます(労基法 67 条1項)。使用者は、育児時間xxx女性を使用してはなりません。
育児時間の取り方は1日2回 30 分ずつに限定されず、保育園の送迎などのためにこれを1日1回1時間にまとめて取ることも可能です。育児時間を有給とするか無給とするかは就業規則等の規定によることとなり、無給としても差し支えありません。
3 男女雇用機会均等法・セクシュアルハラスメントの防止
(1)性差別の禁止
【直接差別の禁止】
均等法は、性別による差別を禁止するとともに、女性労働者の母性保護規定を併せ持つ法律です。
均等法は以下の事項について性別による直接差別を禁止しています。
①募集・採用(均等法5条)
②配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進(昇格を含む。)、降格、教育訓練(同法6条1号)
③福利厚生措置(生活資金等の資金の貸付け、定期的な金銭給付、資産形成のための金銭貸付け、住宅の貸与)(同法6条2号)
④職種及び雇用形態の変更(同法6条3号)
⑤退職勧奨、定年、解雇並びに労働契約の更新(同法6条4号)
【コース別雇用管理の適正化】
均等法に反する男女差別の判断は、①同じ「雇用管理区分」において、②「男女のいずれかを排除」したり、「男女で異なる扱い」をしたり、あるいは「男女のいずれかを優先」することを意味します(「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(均等法指針)平 18.10.11 労告 614 号)。これらは、直接差別に当たります。
「雇用管理区分」とは、「職種、資格、雇用形態、就業形態等の区分その他の労働者の区分であって、当該区分に属している労働者について、ほかの区分に属している労働者と異なる雇用管理を行うことを予定して設定しているもの」をいいます(均等法指針)。企業がしばしば採用する「コース別雇用管理」における「、総合職」と「一般職」の区分けも「雇用管理区分」に該当します。
この「雇用管理区分」が同一かどうかは、当該区分に属する労働者の職務内容、転勤などの人事異動等について、ほかの区分の労働者との間に客観的・合理的な違いがあるか否かによって判断されます。ほかの区分との間に形式的に違いがあって
7 女性労働及び育児・介護
も、実態的に違いがなければ同一の区分とされます。
コース別雇用管理を採用して総合職と一般職という雇用管理区分を設けながら、全ての女性労働者を一般職に配置する場合、男女の取扱いの差異は均等法に違反する差別(「配置」差別)となります。
【間接差別の禁止】
間接差別とは、一般的には、①外見上は性中立的な要件に基づく措置であって、
②その要件を満たす男女の比率からみると一方の性に著しい不利益をもたらし、実質的に性別を理由とする差別となるおそれがあり、③その要件に合理性の認められない場合をいいます(均等法7条)。
均等法施行規則(均等則)は、間接差別の例として次の3つを例示しています(均等則2条)。
①募集・採用に当たり、労働者の身長、体重、又は体力を要件とするもの
②労働者の募集若しくは採用、昇進又は職種の変更に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とするもの
③昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とするもの
これらにつき、業務の遂行上特に必要がない場合、雇用管理上特に必要がない場合、その他合理的な理由がない場合は、間接差別として禁止されます。
(2)婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
【婚姻・妊娠・出産退職制度の禁止】
事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをすることは禁止されます(均等法9条1項)。
【婚姻を理由とする解雇の禁止】
事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由とする解雇を禁止されます(均等法
9条2項)。
【妊娠・出産・産前産後休業等を理由とする解雇その他の不利益取扱いの禁止】
事業主は、①女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、産前産後休業を請求・取得したこと、妊産婦が有害業務に就かなかったこと(労基法 64 条の3第1項)、
②妊産婦が変形労働時間制・時間外・休日労働・深夜業をしなかったこと(同法 66 条)、
③育児時間の請求・取得をしたこと(同法 67 条)、④均等法の定めた健康診査や勤務時間の変更等の母性健康管理措置を請求・取得(均等法 12 ~ 13 条)したこと、
⑤妊娠中の女性労働者が他の軽易な業務への転換を請求したこと(労基法 65 条3項)を理由に「解雇その他の不利益な取扱い」をすることは禁止されます(均等法9条
3項)。
【妊娠中及び産後1年未満の女性労働者の解雇の禁止】
妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、事業主において、当該解雇が上記の①~⑤の理由(均等法9条3項)によるものでないことを証明しないときは、無効とされます(同法9条4項)。
【妊娠・出産・育児休業等 関するハラスメント(マタニティハラスメント)】
妊娠・出産・育児を理由とする解雇などの不利益取扱いや就業環境の悪化はいわゆる「マタニティハラスメント(マタハラ)」と呼ばれています。判例では、出産に伴う軽易業務転換を申し出た女性(副主任)について業務転換を契機に降格した措置が原則として均等法9条3項の禁止する不利益取扱いにあたると判断した最高裁判決(最判平 26.10.23、広島中央保健生活協同組合事件)があり、これを契機に、均等法及び育介法において、事業主には、労働者の妊娠・出産や育児休業等を理由とする不利益取扱の禁止及び上司や同僚からの嫌がらせが行われないよう防止措置を講じることが義務付けられました(平成 29 年1月1日施行)。
事業主は、後述のように、労働者への周知、社内相談窓口の設置等、雇用管理上必要な措置を講じなければなりません(均等法 11 条の2、育介法 25 条)。
(3)セクシュアルハラスメント及びマタニティハラスメントの防止等
事業主には、職場におけるセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)の防止措置及び相談窓口の設置等が義務付けられています(均等法 11 条)。
事業主が防止すべきセクシュアルハラスメントとは、①職場での性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が、労働条件について不利益を受けること(対価型セクシュアルハラスメント)、②職場での性的な言動により、労働者の就業環境が害されること(環境型セクシュアルハラスメント)等です。
【セクシュアルハラスメント及び妊娠・出産・育児休業等 関するハラスメント防止措置と相談窓口の設置】
事業主は、職場でのセクシュアルハラスメント及びマタニティハラスメントの防止措置を講じなければなりません。
①ハラスメントの内容とともにハラスメントがあってはならない旨の方針を明確
7 女性労働及び育児・介護
化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
②行為者に対して、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
③相談窓口をあらかじめ定め労働者に周知すること。パワーハラスメントの相談窓口とxx的に設置してもよい。
④窓口担当者が、相談内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、広く相談に対応すること。
⑤相談の申出があった場合は、事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
⑥事実確認ができた場合は、行為者及び被害者に対する措置を適正に行うこと。
⑦再発防止に向けた措置を講ずること。
⑧相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。
⑨相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由とする不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、周知すること。
⑩ハラスメントの原因や背景となっている要因を解消するための措置を講ずること。なお、派遣先で就業する派遣労働者については、派遣先も事業主とみなして、ハ
ラスメント防止措置義務等が適用されます。
また、令和2年の女性活躍推進法等の一部改正法により、労働施策総合推進法にパワーハラスメント防止措置が設けられるとともに、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントについても法改正及び厚生労働省が定める指針の改正が行われています。上記に加えて、事業主・労働者は以下のア~エについても努めることが明確化されました。
ア 事業主は、ハラスメントに対する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる措置に協力するよう努めなければなりません。
イ 事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、ハラスメントに対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければなりません。
ウ 労働者は、ハラスメントに対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる雇用管理上必要な措置に協力するように努めなければなりません。
エ 事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置の実施に関し必要な協力を求められた場
合には、これに応ずるように努めなければなりません。
いずれの職場のハラスメントも、労働者の人格権を侵害する違法行為です。従って、ハラスメントは、その加害者が不法行為に基づく損害賠償を負うことになるだけではなく、使用者も、その損害について使用者責任(民法 715 条)を負うことがあります。また、使用者は、労働者がハラスメントの被害を受けることなく、良好な環境で就労できるように職場を整備する義務(職場環境調整義務)があり、ハラスメントの発生がこの義務を怠ったものとされて、損害賠償を請求されることがあります。
(4)妊娠中・出産後の健康管理措置
均等法は、女性労働者の妊娠中及び出産後の健康管理について定めています。 事業主は、女性労働者が医師や助産師等による保健指導や健康診査を受けること
のできる必要な時間を確保するようにしなければなりません(均等法 12 条)。
具体的には、女性労働者が妊娠中の場合には、保健指導や健康診査のために、妊娠 23 週までは4週に1回、24 ~ 35 週は2週に1回、36 週~出産週は1週1回の通院休暇その他通院が妨げられないよう、必要な時間を確保しなければなりません。
同時に、当該女性労働者が、医師・助産師等の保健指導や健康診査による指導事項を順守できるように、勤務時間の変更や勤務の軽減等の必要な措置を取らなければなりません(同法 13 条)。
なお、厚生労働省は、令和2年5月に、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大している状況等を踏まえ、妊娠中の女性労働者の母性健康管理を適切に図ることができるよう、均等法に基づく指針を改正し、妊娠中の女性労働者の母性健康管理上の措置に新型コロナウイルス感染症に関する措置を新たに規定しました。すなわち、妊娠中の女性労働者が、保健指導・健康診査を受けた結果、その作業等における新型コロナウイルス感染症への感染のおそれに関する心理的なストレスが母体又は胎児の健康保持に影響があるとして、主治医や助産師から指導を受け、それを事業主に申し出た場合、事業主は、この指導に基づいて必要な措置を講じなければなりません。この措置を講ずる期間は、令和2年5月7日から令和4年1月 31 日とされています(令和3年1月現在)。
(5)ポジティブアクション
個々の企業において、固定的な男女の役割分担意識や、過去の経緯から「営業職には女性がほとんど配置されていない」、「課長以上の管理職は男性が大半を占めている」等の性差が男女労働者の間に生じていることが多く、このような性差は、均等法上性別差別を禁止した規定を順守するだけでは解消できません。