Contract
平成25年(ワ)第658号xx基地飛行差止等請求事件(以下「第1事件」という。)
平成25年(ワ)第1757号xx基地飛行差止等請求事件(以下「第2事件」という。)
5 ( 略称) 以下においては, 特に必要がない限り, 第1事件原告か第2事件原告
かを問わずに単に「原告」といい, 個別の原告については「原告番号1 の原告」のように原告番号によって特定する。また, 第1事件, 第2事件被告を単
に「被告」という。
主 文
10 1 原告番号883の原告の訴え及び同原告に係る B1 及び B2 の訴訟
承継の申立てを却下する。
2 その余の原告らの各訴えのうち,平成29年3月2日以降に生ずべき損害の賠償請求に係る部分を却下する。
3 | 原告番号1,76,101,102,391,598,699,789,8 | |
15 | 35及び881の各原告によるxx飛行場における自衛隊の使用する航空機の | |
離発着及びエンジンの作動の差止めの訴えを却下する。 | ||
4 | 第3項の各原告によるxx飛行場におけるアメリカ合衆国軍隊の使用する航 空機の離発着及びエンジンの作動の差止めの請求を棄却する。 | |
5 | 原告番号865の原告の第3項及び第4項と同旨の差止請求に係る訴訟は, | |
20 | 平成25年6月27日の同原告の死亡により終了した。 | |
6 | 被告は,次の各原告に対し,次の各金員を支払え。 | |
⑴ 別紙3-1認容額一覧表1の「氏名」欄記載の各原告( ただし, 同欄に | ||
「(被承継人)」と併記された者を除く。) に対し,対応する同表の「元金合 | ||
計」欄記載の金員及びうち「提訴前合計」欄記載の金員に対する平成25年 | ||
25 | 4月27日から,「H25.3.27~H25.4.26」欄から「H29. | |
1.27~H29.3.1」欄までの各欄記載の金員に対する各期間の最終 |
日の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員
⑵ 別紙3- 3承継人認容額一覧表の「承継人」欄記載の各原告(訴訟承継人)に対し,対応する同表の「元金合計」欄記載の金員及びうち「提訴前合計」欄記載の金員に対する平成25年4月27日から,「H25.3.27
5 ~H25.4.26」欄から「H28.7.27~H28.8.26」欄ま
での各欄記載の金員に対する各期間の最終日の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員
⑶ 別紙3-2認容額一覧表2の「氏名」欄記載の各原告に対し,対応する同表の「元金合計」欄記載の金員及びうち「提訴前合計」欄記載の金員に対す
10 る平成25年8月10日から,「H25.8.1~H25.8.31」欄か
ら「H29.2.1~H29.3.1」欄までの各欄記載の金員に対する各期間の最終日の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員
7 第6項の原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
8 原告番号25,323,713,801,816,817の原告らの請求を
15 いずれも棄却する。
9 訴訟費用は,全事件を通じ,第1項記載の原告及び訴訟承継人について生じた費用は原告訴訟代理人らの負担とし,第8項記載の原告らについて生じた費用は各原告の負担とし,第3項ないし第5項記載の原告らについて生じた費用は4分し,その3を上記原告らの,その余を被告の負担とし,その余の原告ら
20 について生じた費用は2分し,その1を同原告らの,その余を被告の負担とし,
被告について生じた費用は2分し,その1を第1項記載の原告を除くその余の原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
10 この判決は,第6項⑴ないし⑶に限り,被告に送達された日から14日を経過したときは,仮に執行することができる。ただし,被告が原告らに対し,別
25 紙3-1認容額一覧表1,同3-2認容額一覧表2及び同3-3承継人認容額
一覧表の各原告に対する「担保額」欄記載の各金員の担保を提供するときは,
担保を提供した原告との関係でその執行を免れることができる。
事 実 及 び 理 由
第1部 請求及び事案の概要
第1 請求(第1事件,第2事件を通じて)
5 1 被告は,原告番号1,76,101,102,391,598,699,7
89,835,865及び881の原告(以下,一括して「差止原告ら」とい う。)に対し,自ら又はアメリカ合衆国軍隊をして,xx飛行場において,毎 日午後7時から翌日午前7時までの間,航空機の離発着をしてはならず,かつ,一切の航空機のエンジンを作動させてはならない。
10 2 被告は,各原告に対し,それぞれ79万2000円及びこれに対する第1事
件原告については平成25年4月27日から,第2事件原告については同年8月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,各原告に対し,第1事件原告については平成25年3月27日から,第2事件原告については同年8月1日から,第1項記載の各行為がなくなり,
15 かつ,その余の時間帯において原告らの居住地に65デシベルを超える一切の
航空機騒音が到達しなくなるまでの間,それぞれ毎月末日限り,1か月当たり
2万2000円及びこれに対する当該月の翌月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 | 訴訟費用は被告の負担とする。 | |
20 | 5 | 第2項につき仮執行宣言 |
第2 1 | 事案の概要 本件は,xx飛行場の周辺に居住し,又は居住していた住民である原告らが, |
xx飛行場を航行する航空機の発する騒音を中心とする侵害により身体的被害,睡眠妨害,日常生活妨害や精神的・情緒的被害等を受けているとして,米軍の
25 使用する施設及び区域として,アメリカ合衆国に対してxx飛行場を提供して
いる被告に対し,次の⑵の請求をし,併せて,第1事件原告らのうち11名の
差止原告らにおいて次の⑴の請求をする事案である。
⑴ 人格権,環境権及び平和的生存権に基づき,毎日午後7時から翌日午前7時までの間の被告及びアメリカ合衆国軍隊(以下「米軍」という。)の航空機の離発着及びエンジンの作動の禁止を求める差止請求
5 ⑵ 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づ
く施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う民事特別法(以下「民事特別法」という。)2条,国家賠償法(以下
「国賠法」という。)2条1項又は同法1条1項に基づき,第1事件原告らは平成22年3月27日から,第2事件原告らは同年8月1日からそれぞれ
10 差止対象行為がなくなり65dBを超える航空機騒音が原告らに到達しなく
なるまで(以下,第1事件原告らにつき平成22年3月27日以降,第2事件原告らにつき同年8月1日以降を「本件請求対象期間」という。),原告
1名につき1か月当たり慰謝料2万円と弁護士費用2000円の合計2万2
000円の割合による損害賠償金及びうち提訴日までの分79万2000円
15 に対する各事件訴状送達の日の翌日(第1事件については同年4月27日,
第2事件については同年8月10日)から,提訴日後の毎月2万2000円に対する当該月の翌月1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
2 被告は,被告(自衛隊)の使用する航空機(以下「自衛隊機」という。)の
20 差止請求及び口頭弁論終結日の翌日以降の将来の損害の賠償請求並びに一部の
原告らの請求にかかる訴えは不適法であるとして却下を求め,米軍の使用する航空機(以下「米軍機」という。)の差止請求は主張自体失当として棄却を求め,口頭弁論終結日までの過去の損害の賠償請求については,原告らが航空機騒音によって受けている影響は受忍限度内にとどまるし,フィリピン国籍の原
25 告1名については国賠法6条の相互保証の要件を欠くなどとして請求の棄却を
求めるとともに,仮に損害賠償責任が生じるとしても,原告らの一部はxx飛
行場における航空機騒音等による被害を容認してxx飛行場の周辺に転居してきたなどとして危険への接近の法理に基づく損害の免除又は減額を主張し,さらに,住宅防音工事への助成を受けた原告につき減額を主張するなどして争っている。
5 第2部 前提となる事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,括弧内掲記の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる。
第1 xx飛行場の設置・管理の経緯等
1 xx飛行場の所在位置及び規模
10 xx飛行場は,平成25年3月31日現在,xxxの福生市,立川市,武蔵
xx市,昭島市,羽村市及び西多摩xxx町(以下「xx町」という。)の5市1町にまたがる地域に所在する総面積約713万6000平方メートルの施設及び区域であり,長さ約3350メートルの滑走路(これに接続して南側約
305メートル,xx約300メートルのオーバーラン部分が設けられてい
15 る。)及び長さ約2000メートルの誘導路を有し,格納庫,整備工場等の附
属施設のほか,アメリカ合衆国第5空軍司令部,同空軍第374空輸航空xx の各庁舎及び住宅等の支援施設が設置され,後述のとおり平成24年3月以降,航空自衛隊航空総隊司令部と関連部隊の施設も置かれている。
2 xx飛行場の設置及び管理の経緯
20 ⑴ 終戦までの経緯
旧陸軍省は,昭和15年4月,当時の福生町,羽村町,xx町,xx町, xx町及び拝島町にまたがる山林及び農地約446万平方メートルを買収し,多摩飛行場(旧陸軍の立川飛行場の附属施設)として開設した。旧陸軍は, 昭和20年8月15日の終戦に至るまで,多摩飛行場を我が国の東部防衛飛
25 行基地として管理運用していた。
⑵ 終戦後の経緯
ア 旧陸軍は,昭和20年8月15日の終戦により解体され,同年9月,連合国軍を構成する米軍は,その進駐に伴い,多摩飛行場を接収した。
イ 米軍は,多摩飛行場を整備し,昭和21年8月,名称を当時のxx町の一字地名を採ってxx飛行場と変更して,新たに米軍の使用する飛行場と
5 して開設した。
ウ 被告は,昭和27年4月28日,「日本国との平和条約」(昭和27年条約第5号。以下「平和条約」という。)の発効に伴い,「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」(以下「旧xx条約」という。) 及び
「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定」
10 (以下「行政協定」という。)2条1項に基づき,xx飛行場を,米軍の
使用する施設及び区域として,アメリカ合衆国に提供した。アメリカ合衆国に提供される施設及び区域の決定や返還の請求は,これ以降,日米両国代表者による合同委員会(以下「日米合同委員会」という。)の協議を経て行われることとなった。
15 エ 被告は,その後,アメリカ合衆国に対し,日米合同委員会の協議に従い,
数度にわたって施設及び区域の追加提供をした。そのうち,滑走路の拡張,航空機運航の安全確保等に関する主なものは,次のとおりである。
昭和30年10月4日,滑走路拡張用地として約40万8447平方メートル,ローカライザー(着陸機に滑走路中心線からの左右の逸脱を
20 知らせる装置)用地として約1万1127平方メートル,アウターマー
カー( 計器進入着陸装置の1つで滑走路末端からの距離を知らせるもの)用地として約231平方メートル,アウターマーカーへの出入道路として約699平方メートルの地役権,航空障害物制限区域として約7万6972平方メートルにわたる土地の地役権(ただし,空間に航空機
25 の路線権を認めるための用役制限を内容とするもの)の提供
昭和37年12月21日,南北の進入灯設置用地として約3万390
0平方メートルの提供(このうち,道路敷に係る部分はxxxの所有地等であり,鉄道敷に係る部分は旧日本国有鉄道の所有地であったため,これらの部分については地役権の提供)
昭和45年5月28日,滑走路南東側面の無障害地帯として約1万0
5 700平方メートルの使用許可
昭和47年2月3日,滑走路xxの無障害地帯として約6万2679平方メートル(国有地であるが,このうち約6万2607平方メートルの部分は航空障害物制限区域として提供されたもの)の提供及び上記の航空障害物制限区域として既に提供してあった部分につき,この制限区
10 域を解除し,改めて航空機の着陸安全確保のための米軍専用区域とした
上で同部分約7万6972平方メートルの提供
昭和47年3月2日,ミドルマーカー(計器着陸装置)設置用地として約1万7160平方メートル(このうち約1万6747平方メートルはミドルマーカー保護のための障害物制限用地として提供されたもの)
15 の提供
オ 被告は,この間の昭和35年6月23日,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(以下「xx条約」という。)の締結に伴い,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第
6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関す
20 る協定」(以下「地位協定」という。)を締結し,地位協定2条1項⒜,
⒝に基づき,引き続き,米軍の使用する施設及び区域としてxx飛行場をアメリカ合衆国に提供し,以後今日に至るまで,米軍が飛行場としてこれを管理,使用している。
3 xx飛行場の基地機能の変遷
25 ⑴ 駐屯部隊及び使用状況等の変遷
ア xx飛行場は,朝鮮戦争,ベトナム戦争の当時は,米軍の爆撃機や戦闘
機の離着陸に使用されていたが,昭和46年の第347戦術戦闘航空xxの沖縄等への移駐に伴う戦闘爆撃機の撤収により,戦闘基地としての機能を失った。これ以降,xx飛行場は,DC-8,ボーイング727,同7
47及びその他の米軍にチャーターされた民間航空機並びにC-141及
5 びC-5Aギャラクシー等の軍用輸送機の極東空輸中継基地となり,昭和
50年9月,沖縄の嘉手納飛行場からC-130を配備した第345戦術空輸大隊が移駐した。
イ また,被告は,昭和48年から昭和53年にかけて,日米両政府間で協議されていた在日アメリカ合衆国空軍の関東xx地域における施設・区域
10 の整理統合計画(関東xx地域統合計画・略称KPCP)に基づき,米軍
から府中空軍施設,立川飛行場,関東村住宅地区等の各施設の返還を受け,これらの各施設の代替施設がxx飛行場内に建設された。府中空軍施設に 設置されていた在日米軍司令部及び第5空軍司令部も,昭和49年11月 以降,xx飛行場内に移設された。
15 フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)のクラーク基地から,
昭和63年10月,第600空軍音楽隊が移駐し,xxx年7月から9月にかけて,第9航空医療飛行隊等4部隊が移駐し,同年12月には,第3
74戦術空輸航空団が移駐した。
第374戦術空輸航空団は,平成4年4月,空軍再編の一環としてxx
20 飛行場の維持管理を任務としていた第475航空基地団と合併され,第3
74空輸航空団として再編成された。
ウ xx飛行場に配備されていたC-130の一部は,平成10年3月末までに,アメリカ合衆国本土のエルメンドルフ空軍基地に移駐した。
エ 航空医療輸送機として使用されていたC-9A4機は,平成15年9月
25 末,第347航空医療輸送中隊の解散に伴って退役となり,以後,代替機
は配置されていない。
オ 日米安全保障協議委員会は,平成17年10月,「日米同盟:xxのための変革と再編」を発表し,その中で航空自衛隊航空総隊司令部をアメリカ合衆国第5空軍司令部と同じくxx飛行場内に設置することが明記された。航空自衛隊は,同委員会が平成18年5月に発表した「再編実施のた
5 めの日米のロードマップ」に基づき,xx飛行場において,航空総隊司令
部の運用に必要な各種施設を整備するとともに,指揮システムや自動警戒 管制システムなどの指揮統制システム及び器材などの移設作業を進め,平 成24年3月26日,航空総隊司令部及び関連部隊のxx飛行場への移転 を完了し,xx飛行場における航空総隊司令部の運用を開始した。この際,
10 xx飛行場に移転したのは,航空総隊司令部のほか作戦情報隊及び防空指
揮群であり,移転後の航空自衛隊の所在人員は約800名である。
航空総隊司令部がアメリカ合衆国第5空軍司令部と同じ敷地内に設置されたことにより,被告とアメリカ合衆国との間において,対処可能時間が短い防空及び弾道ミサイル防衛に関する必要な情報をより迅速に共有する
15 ことが可能となり,日米両司令部組織間の連携が強化され,相互運用性の
向上が図られた。
カ 以上のとおり,xx飛行場は,開設以来,航空機が離着陸する飛行場と して使用され,現在は,在日米軍司令部,アメリカ合衆国第5空軍司令部,同空軍の一部並びに航空自衛隊航空総隊司令部及び関連部隊が設置され,
20 C-130(プロペラ輸送機),C-12(プロペラ輸送機)及びUH-
1N(ヘリコプター)が常駐する米軍の輸送中枢基地となるとともに,我が国の防空及びミサイル防衛の機能も併せ持つ日米が共同で使用する施設ともなっている。
⑵ xx飛行場における夜間着陸訓練の実施と代替施設の検討状況等
25 ア 夜間着陸訓練(略称NLP)とは,航空母艦(以下「空母」という。)
の艦載機が,滑走路の一部を空母の着艦甲板に見立て,夜間,地上の誘導
ライト等を頼りに大きな推力を維持しつつ滑走路上に定められた基点に向けて滑走路に進入し,着陸後直ちに急上昇して復航することを数回繰り返すというものである(以下,夜間か否かを問わずこのような内容の訓練を
「タッチアンドゴー」ということもある。)。
5 イ 米軍の要請により昭和57年2月からは空母ミッドウェーの母港である
xxxxx施設に近いxxxx飛行場において夜間着陸訓練を行うこととなった。そして,昭和58年1月以降は,xx飛行場においても同訓練を実施することとなり,xxx基地に配備された航空母艦(平成3年8月までは空母ミッドウェー,同年9月以降は空母インディペンデンス,平成1
10 0年8月以降は空母キティホーク,平成20年9月以降は空母xxxx・
xxxxx)がxxx港から出港する直前の一定期間(概ね5日から23日までの間。ただし,1日のみの年や不実施の年もあり,平成13年以降は後述のとおり実施されていない。),その艦載機の早期警戒機や対潜哨戒機等がxx飛行場で同訓練を実施していた。
15 ウ 上記イのとおり,夜間着陸訓練は主としてxxxx飛行場で行われてき
たが,同飛行場周辺地域の市街化に伴う騒音問題を早急に解決する必要があり,また,米軍も騒音の軽減や同訓練の効率化を理由に関東地方及びその周辺における十分な訓練ができる飛行場の確保を要請してきたことから,防衛省(当時の防衛施設庁。以下,省庁名は特に断らない限り現在の
20 ものによる。)は,昭和58年度から,既存の飛行場の中に,米軍の要請
を満たし,周辺住民の理解が得られる飛行場の有無,飛行場を新たに設置するための適地の有無などの調査検討を行った。
エ これらの検討の結果,防衛省は,三宅島に空母艦載機着陸訓練場を設置することを計画したが,一旦は誘致を決議した地元村議会が反対に転じた
25 こと等により見通しが立たなくなり,実現までに相当の期間を要すること
が見込まれたことから,防衛省は,米軍に対し,硫黄島において空母艦載
機着陸訓練を実施するという暫定措置を申し入れた。
オ 防衛省は,この申入れを米軍が受け入れたことを踏まえ,xxx年度から,硫黄島に設置されている飛行場(海上自衛隊硫黄島航空基地)において,灯火施設等の滑走路関連施設,給油施設等の夜間着陸訓練に必要な施
5 設の整備に着手し,約166億8600万円の予算を投じて,平成5年3
月末,上記施設を完成させた。米軍は,この施設整備期間中においても,硫黄島において,一部完成した施設を使用し,可能な範囲で夜間着陸訓練の一部を実施した。
カ 防衛省は,硫黄島における夜間着陸訓練施設の完成に伴い, 米軍に対
10 し,硫黄島においてできるだけ多くの訓練を実施するよう要望し, 米軍
も,その要望を受け入れる意向を示した。米軍は,硫黄島における上記施設完成後の平成5年4月から平成24年5月までの間,硫黄島において,
41回にわたり,おおむね騒音の比較的大きいジェット戦闘機による夜間着陸訓練を実施した。
15 キ 平成17年の「共同文書」において,空母艦載機着陸訓練のための恒常
的な訓練施設が特定されるまでの間,現在の暫定的な措置に従い,米国は引き続き硫黄島で空母艦載機着陸訓練を行う旨が確認された。平成18年
5月の「再編の実施のための日米ロードマップ」では,恒常的な空母艦載機着陸訓練施設について検討を行うための二国間の枠組を設け,恒常的な
20 施設をできるだけ早い時期に選定することを目標とした。そして,平成2
3年6月の日本の外務・防衛大臣と米国の国務・国防長官による日米安全保障協議委員会(通称「2プラス2」)において,鹿児島県の馬毛島を大規模災害を含む各種事態に対処する際の活動を支援するとともに通常の訓練などのために使用する新たな自衛隊の施設を設け,併せて米軍の空母艦
25 載機着陸訓練のxx的な施設として使用する検討対象とし,その旨を地元
に説明することとした。
ク xx飛行場は,平成22年度まで,硫黄島における天候等の事情により所要の訓練を実施できない場合における空母艦載機着陸訓練の対象区域に指定されており,米軍は,硫黄島での訓練が悪天候によって予定どおり実施できないなどの特別な事情がある場合に,xx飛行場において,早期警
5 戒機及び対戦哨戒機による訓練を実施していた。ただし,米軍は,平成1
2年9月を最後にxx飛行場においては夜間を含む空母艦載機着陸訓練を実施していない。
4 xx飛行場にかかる施設及び区域の一部返還とその後の利用状況
⑴ 一部返還の概要
10 xx飛行場の用地及び飛行場運用のためにアメリカ合衆国に提供された土
地(地役権のみのものを含む。)のうち,被告が返還を受けたものは,次のとおりである。
ア 昭和32年4月5日,旧陸軍時代に射撃練習場として使用され,提供後は遊休地となっていた土地約17万4474平方メートル
15 イ 昭和46年4月12日,xx飛行場から我が国に出入国する外国人を対
象とする税関庁舎等建設のための土地約2012平方メートル
ウ 昭和47年2月29日,変電所の移設に伴い不要となった土地約174
3平方メートル
エ 昭和52年9月30日及び同年11月11日,不要となったアウター
20 マーカー関連用地約1310平方メートル
オ 昭和55年8月29日,xx交差点拡幅のための土地約742平方メートル
カ 昭和56年8月13日,xx飛行場から我が国に出入国する外国人を対象とする東京入国管理事務所建設のための土地約750平方メートル
25 キ 昭和60年7月8日,国道16号を拡幅するための土地約3万8990
平方メートル
ク 以上合計約22万0021平方メートルの土地に加え,xx飛行場への専用側線(貨物列車の引込線)用地等合計約4800平方メートル
⑵ 返還土地の利用状況ア 上記⑴アの土地
5 国有地である約16万0630平方メートルは,財務省(旧大蔵省。以
下同じ。)所管の普通財産として,一部はxx町に貸し付けて中学校,公民館及び図書館用地として利用され,また,一部はxxxとの交換に供して高等学校の用地として利用されている。その余の民有地部分は,所有者に返還された。
10 イ 同イの土地
財務省所管の行政財産として,xx飛行場を利用する出入国者のための税関及び出入国管理事務所の合同庁舎用地として利用されている。
ウ | 同ウの土地 大部分は民有地であったため,所有者に返還された。 | |
15 | エ | 同エの土地 |
大部分は財務省所管の普通財産,一部はxxとして利用されている。 | ||
オ | 同オの土地 | |
xxxの財産として,xxx街道用地の一部として利用されている。 | ||
カ | 同カの土地 | |
20 | 法務省所管の行政財産として,xx飛行場を利用する出入国者のための | |
東京入国管理事務所庁舎用地として利用されている。 | ||
キ | 同キの土地 | |
国土交通省所管の行政財産として,国道16号用地として利用されてい |
る。
25 ク その余の土地のうち国有地の一部は,市道や雨水汚水幹線敷として関係
自治体に無償で貸し付けられている。
5 xx飛行場の設置,管理及び米軍機の運航等の法律関係
⑴ 終戦までの法律関係
我が国の旧陸軍は,昭和20年8月15日の終戦まで,xx飛行場をその財産として所管し,飛行場の設置,維持,管理,航空機の運航及びこれに伴
5 う航空交通管制( 旧航空法は,軍用航空機に対しては適用が除外されてい
た。)の全てを専権的に行っていた。
⑵ 終戦から平和条約発効までの法律関係
xx飛行場は,上記2⑵ア,イのとおり昭和20年9月から平和条約の発効の日の前日である昭和27年4月27日までの間,米軍に接収され,施設
10 及び区域の維持,管理,航空機の運航及びこれに伴う航空交通管制は,米軍
の専権下にあった。
⑶ 平和条約発効後の法律関係
被告は,平和条約の発効により,昭和27年4月28日以降,行政協定2条1項に基づき米軍の使用する施設及び区域としてxx飛行場を米軍に提供
15 し,行政協定3条1項により,米軍が管理,使用を開始した。
これにより,米軍は,自らの判断と責任においてxx飛行場に航空機を配備し,その運航のためにxx飛行場を管理し,使用することとなった。その有する上記管理,使用権限は,xx飛行場に離着陸する米軍及びその関係の航空機の運航管理行為を含む。
20 被告は,昭和35年6月23日,xx条約及び地位協定を締結し,同日以
降,xx飛行場を地位協定2条1項⒜,⒝に基づいて提供し,現在に至っているが,地位協定3条1項でアメリカ合衆国は使用を許可された施設及び区域内でそれらの運営,管理等のために必要な全ての措置を執ることができるとされており,xx飛行場の管理,使用に係る法律関係は,従前と同様であ
25 って,米軍機の保有及び運航権限は,全て米軍の専権に属する。
⑷ 現状
以上のとおり,アメリカ合衆国は,xx条約及び地位協定2条1項⒜,
⒝,3条1項に基づき,xx飛行場を使用し,xx飛行場内において,それらの運営,管理等のために必要な全ての措置を執る権限を有する。そして,米軍機の運航活動の内容について変更を求めるには,地位協定25条の定め
5 る日米合同委員会の協議によらなければならない。
6 xx飛行場の航空交通管制等
⑴ 航空法の適用除外
被告は,平和条約発効後の昭和27年7月15日,国内における航空機の運航の安全,航行に起因する障害防止等の目的の下に,航空法(昭和27年
10 法律第231号)を制定した。これに伴って,それまで米軍独自の判断によ
り我が国の領空を自由に航行していた米軍機と我が国の航空機との航空活動に伴う種々の面での法的調整を図る必要が生じたため,被告は,同日,航空法の制定と併行して,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地
15 位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実
施に伴う航空法の特例に関する法律」( 昭和27年法律第232号。以下
「航空特例法」という。)を制定し,航空法所定の事項について,次のとおり幾つかの適用除外事項を定めた。適用除外事項が設けられたことにより,xx飛行場においては,適用除外事項について航空法所定の手続は行われて
20 いない。
ア 飛行場,航空保安施設の設置に係る国土交通大臣の許可イ 航空機の耐空証明
ウ 航空機の運航従事者の資格の技能証明エ 操縦教育証明
25 オ 外国航空機の航行の許可
カ 外国航空機の国内使用の制限
キ 軍需品輸送の禁止 ク 各種証明書等の承認
ケ 航空機の運航に関する同法第六章の規定のうち,国土交通大臣の航空交通の指示,航空交通情報の入手のための連絡,飛行計画及びその承認並び
5 に到着の通知を除くその余の事項(適用保留事項は,「日本国とアメリカ
合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律施行令」(昭和34年政令第334号。以下「航空特例法施行令」とい
10 う。)において指定している。)
⑵ 航空交通管制
航空法の制定に伴い,米軍機を含めた我が国の領空を運航する航空機に対する航空交通管制は国土交通大臣の権限事項となった(同法95条の2ないし97条参照)が,米軍機に対する航空交通管制を全て我が国の国土交通大
15 臣の権限に服せしめるのでは米軍機の運航に支障を来す場合も生じることか
ら,日米合同委員会は,航空交通管制についても,地位協定6条1項(地位協定締結前は行政協定6条1項)により,地位協定2条(地位協定締結前は行政協定2条)に基づいて,アメリカ合衆国に対して提供された飛行場施設の隣接,近傍空域における航空交通管制業務は,同国(米軍)が行うことと
20 した。具体的には,航空交通管制業務(航空路管制業務,飛行場管制業務,
進入管制業務,ターミナル・レーダー管制業務及び着陸誘導管制業務(航空法施行規則199条1項1号ないし5号))のうち,航空路管制業務は国土交通大臣が所管し,その余のxx飛行場に関する管制業務は米軍が行うこととされ,米軍は,xx飛行場内の離着陸管制,xx飛行場の管制圏及び進入
25 管制区内の航行については,米軍機のみならず我が国の民間機も含め全てこ
れを管制し,これから離脱する場合又は航空路からxx飛行場の進入管制区
へ進入する場合には,国土交通省の航空路管制と管制の引継ぎを行うこととされている。
⑶ 航空機騒音に関する日米合同委員会の合意
日米合同委員会は,昭和39年4月17日,xx飛行場周辺における米軍
5 の航空機騒音の規制に関して諸種の規制措置を設けることに合意した。さら
に,同委員会は,平成5年11月18日,上記合意を一部改正し,「22時から6時までの間の時間における飛行及び地上における活動は,米軍の運用上の必要性に鑑み緊要と認められるものに制限される。夜間飛行訓練は,在日米軍の任務の達成及び乗組員の練度維持のために必要とされる最小限に制
10 限し,司令官は,夜間飛行活動をできるだけ早く完了するよう全ての努力を
払う」との合意をした(以下「平成5年日米合同委員会合意」という。)。
⑷ その他
xx飛行場(合計713万6000平方メートル)の財産管理関係の主なものは,平成24年12月31日現在,財務省所管の行政財産が約608万
15 9000平方メートル,防衛省所管の行政財産が約2万6000平方メート
ル,国土交通省所管の行政財産が約96万平方メートル,東京xxの公有財産が約3万4000平方メートル,民有財産が約2万7000平方メートルとなっている。
7 自衛隊機使用の法律関係
20 ⑴ 自衛隊機の運航権限
自衛隊法3条は,「自衛隊は,我が国の平和と独立を守り,国の安全を保つため,直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし,必要に応じ,公共の秩序の維持に当たるものとする。」と定め,同法第
6章は, 自衛隊の行動として,防衛出動,治安出動,海上における警備行
25 動,災害派遣,領空侵犯に対する措置等の各種の行動を規定している。自衛
隊機の運航は,上記のような自衛隊の任務,特にその主たる任務である国の
防衛を確実かつ効果的に遂行するため,防衛政策全般にわたる判断の下に行われる。
そして,防衛大臣は,内閣総理大臣が有する指揮監督権の下,自衛隊の隊務を統括する権限を有しており(自衛隊法8条),同権限には,自衛隊機の
5 運航を統括する権限も含まれている。防衛大臣は,同権限に基づいて,同法
107条5項の規定により防衛大臣が定めた航空機の使用及び搭乗に関する訓令(昭和36年防衛庁訓令第2号)を発し,自衛隊機の具体的な運用は,同訓令2条6号に規定する航空機使用者に与えられ,当該航空機使用者は,同訓令3条に定められた場合に所属の航空機を使用することができる。
10 ⑵ 自衛隊機の運航に関する規制
自衛隊機の運航には,次のとおりの規制がある。ア 航空法の適用除外
自衛隊法107条1項及び4項は,航空機の航行の安全又は航空機の航行に起因する障害の防止を図るための航空法の規定の適用を大幅に除外
15 し,同条5項で,防衛大臣は,自衛隊が使用する航空機の安全性及び運航
に関する基準,その航空機に乗り込んで運航に従事する者の技能に関する基準を定め,その他航空機による災害を防止し,公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならないものと規定している。
イ 防衛大臣の定める基準等
20 防衛大臣は,前同項に基づき,上記適用除外の代替措置として,自衛隊
が使用する航空機の安全性及び運航に関する基準,その航空機に乗り込んで運航に従事する者の技能に関する基準として,航空機の運航に関する訓令(昭和31年防衛庁訓令第34号)及び航空従事者技能証明及び計器飛行証明に関する訓令(昭和30年防衛庁訓令第21号)を定めている。
25 第2 航空機騒音の評価方法
1 音の尺度と航空機騒音の特性
音とは,振動等が媒質(気体,液体,固体)を伝わり,聴覚に与える刺激である。人間の聴覚が刺激される範囲は,個人差はあるが,周波数(1秒間における音圧(音波によって空気中に生ずる圧力で,1気圧に対する圧力の増減量によって定められる。)による空気の変動繰り返し回数で,単位はヘルツ(以
5 下「Hz」と表記する。))で20Hzから2万Hzまでとされている。音
は,音波の周波数によって定められる音の高さ,音圧によって定まる音波の振幅の程度によって決まる音の大きさ及び音波の波形によって定まる音色の3つの要素によって構成される。このうち,音の大きさに関しては,同じ音圧の音であっても,周波数によって,人間の聴覚には異なった大きさの音に聞こえる
10 ことから,音圧に関して,対数的性質を持つ人間の感覚に着目し,人が聞くこ
とのできる最小の音の音圧を基準とした音圧レベルの単位としてデシベル(以下「dB」と表記する。)という尺度を用いることがある。更に音圧レベルを人間の耳に感じる音の大きさを定量的に表示する方法として,音の大きさのレベルであるフォン(phon)が用いられている。ただし,phon値は,自
15 然界にはあまり存在しない正弦波(波形が正弦関数で表される波動。純音)の
みを取り出したものであること(1000Hzの純音が実際にどのような大きさに聞こえるかを表すものであり,例えば1000Hzで70dBの純音と同じ大きさに聞こえる周波数帯の音圧レベルの音はすべて70phonと表示される。)や,聴覚に個人差があることなどから,騒音の程度を客観的に表示す
20 る値としては十分ではない。
そもそも,一概に騒音といっても,実際の騒音は,突発性,周波数成分の違いなどの様々な特性を有しており,一様ではない。殊に,航空機騒音は,工場騒音,自動車騒音等の他の地上音源からの騒音と比較して,継続時間が数秒から数十秒の間欠音であること,音源パワーが桁違いに大きく広範囲に影響をも
25 たらすこと,飛行形態や飛行経路の変更,気象条件による飛行方向や音の伝播
特性の変化により地上で聞こえる騒音の性状やレベルが大きく変化することと
いった特性がある。
したがって,このような航空機騒音の特性を考慮し,「うるささ」という感覚的な評価を重視することが必要であると考えられるようになり,次のような評価方法が考案された(以上につき乙6参照)。
5 2 PNL(感覚騒音レベル。Perceived Noise Level)
⑴ | 概要 航空機騒音に対して感じる「やかましさ(Noisiness)」(「大きさ」ではない。)を求め(単位はnoyであり,1000Hzで大きさの レベルが40phonの音と同じやかましさの音が1Noyである。乙 | |
10 | 4),これを基礎にして「音の大きさのレベル」に対応するものとして考案 | |
されたものに,PNL値による評価方法がある。 | ||
⑵ | 計算式 | |
noy及びPNLは,次の計算式によって求められる(乙4参照)。 | ||
15 | ア NT(総Noy)=Nmax+0.15(ΣN-Nmax) Nmaxは,騒音を1/3オクターブバンド(オクターブバンドとは,あ | |
る周波数を中心として上限と下限の周波数比が2倍となる周波数の帯域を | ||
いい,オクターブバンドを1/3に分割したものが1/3オクターブバン | ||
ドである。)による周波数分析をした各周波数帯の最大値である。また, | ||
ΣNは,各周波数帯のnoy数の総計である。 | ||
20 | イ PNLは上記の総Noyを基に次の式で算出される。 |
100
PNL=40+
3
logNT
3 WECPNL(加重等価継続感覚騒音レベル。Weighted Equi valent Continuous Perceived Noise L
evel)
25 ⑴ 概要
昭和46年, 国際連合の下部機関であるICAO(国際民間航空機関)は,航空機騒音の特性を考慮し,航空機騒音にさらされている地域の住民が受ける感覚騒音量をより適切に評価する方法として,PNLを基礎にしたW ECPNL値( 以下「W値」といい, W 値は「 7 0 W 」 などと数字に
5 「 W 」 を添えて表記する。)による評価方法を採択した。我が国でも,
後記第3のとおり航空機騒音に係る環境基準としてW値を採用し,後記第4のとおりxx飛行場のような防衛施設の防音工事を始めとする周辺対策を実施する上での行政指針としても採り入れた。
⑵ 基本的な考え方
10 W値の評価方法は,上記1のとおりの航空機騒音自体の特異性,騒音の1
日を通じた定常性といった条件の下では,一般騒音と同様に,瞬間的な音圧レベルであるdBだけで評価するよりも,ある期間(例えば1日)について,時間帯補正をするなどしてその総曝露量で評価した方が人間の感覚的な騒音評価として適切であるとの考え方に基づく。
15 このように,W値とは,間欠的に発生する航空機騒音が日常生活面でどの
ように知覚されているのかを総合的に捉えようとする騒音評価方法であり,次のア~ウのとおりに補正されたPNLを意味する。W値には複数の算定方法があるが,我が国では後記第3の環境基準で用いられる環境庁方式と後記第4の周辺対策で用いられる防衛施設庁方式という二種類の算定方法が併存
20 して使用されてきた。
ア W(Weighted)
例えば,90dBの航空機騒音でも,昼間と夜間では周囲の状況(騒音の対象がないときのその場所における騒音(暗騒音)の大きさの違い),あるいはその人が日常生活で置かれている状況(仕事,一家団らん,睡眠
25 等)などを考慮した場合には,心理的,生理的に反応する度合いが異なる
ことを考慮して,時間帯に重み付けをするということである。
イ E(Equivalent)
1日の航空機騒音の総量を24時間(8万6400秒)で平均することを意味し,等価騒音値を求めるということである。
ウ C(Continuous)
5 等価騒音値が1日中継続するという意味である。
第3 航空機騒音に係る環境基準について
1 環境基準告示の経緯
公害対策基本法(昭和42年法律第132号)9条1項は,「政府は,大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について,それ
10 ぞれ,人の健康を保護し,及び生活環境を保全するうえで維持されることが望
ましい基準を定めるものとする。」とし,4項は「政府は,公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより,第一項の基準が確保されるように努めなければならない。」と定めた。この規定に基づいて,航空機による特殊騒音についても環境基準が設定された。
15 すなわち,環境庁長官の諮問を受けた中央公害対策審議会騒音振動部会特殊
騒音専門委員会は, 昭和48年4月,「航空機騒音に係る環境基準について
(報告)」(乙64)を提出し,航空機騒音に係る諸対策を総合的に推進するに当たっての目標となるべき環境基準の設定につき,航空機騒音の特徴をよく取り入れた単位であり航空機騒音の国際単位として採用されているという見地
20 から,航空機騒音の評価単位として人の感じる「うるささ」を表示するW値を
用いることを提言するとともに,指針値を70W及び75Wとすること,その他騒音測定方法,指針値達成期間,指針値達成のための施策についての検討結果を報告した。
そして,中央公害対策審議会は,上記委員会報告に基づいて,同年12月6
25 日,環境庁長官に対し,「航空機騒音に係る環境基準の設定について」と題す
る答申(乙65)を行い,環境庁長官は,同27日,「航空機騒音に係る環境
基準」(昭和48年環境省告示第154号。以下「昭和48年環境基準」という。乙5)を告示した。
2 昭和48年環境基準の内容
昭和4 8 年環境基準は, 生活環境を保全し, 人の健康の保護に資す
5 るうえで維持することが望ましい航空機騒音に係る基準値及びその達
成期間につき次のとおり定めた(乙5) 。
⑴ 基準値
専ら住居の用に供される地域( 地域類型Ⅰ ) につき7 0 W 以下とし, それ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域
10 ( 地域類型Ⅱ ) につき7 5 W 以下として, 地域の類型は都道府県知
事が指定する。
上記にいうW 値は次の方法により測定・ 評価した場合における値とする( 以下, これに従ってW 値を算出する方式を, 後記第4 の2 の防衛施設庁長官の定めた算定方式( 防衛施設庁方式) と対比させ
15 る意味で「環境庁方式」という)。
ア 測定は, 原則として連続7 日間行い, 暗騒音より1 0 dB 以上 大きい航空機騒音のピークレベル(計量単位はdB ) 及び航空機の機数を記録するものとする。
イ 測定は, 屋外で行うものとし, その測定点として, 当該地域の
20 航空機騒音を代表すると認められる地点を選定するものとする。
ウ 測定時期としては, 航空機の飛行状況及び風向等の気象条件を考慮して,測定点における航空機騒音を代表すると認められる時期を選定するものとする。
エ 測定は,計量法71条の条件に合格した騒音計を用いて行うものとす
25 る。この場合において,音圧の周波数補正回路は可聴音に対する人間の
感覚をより反映するよう周波数に重み付けをして補正された音圧レベル
であるA特性(単位はdBで,A特性で補正された数値であることを特に明示する趣旨で「dB(A)」を用いることがあるが,(A)は省略されることが多く, 本判決でも特に断らない限り,単に「dB」で表記した場合にはA特性による音圧を示すものとする。)を,時間重み付け特性
5 (環境騒音においては,極めて短時間に音圧レベルが変化しているとこ
ろ, そのような激しい変動を測定器で読み取ることはできないことから,これらの変動を緩やかに見せる表示を行う必要がある。このことを時間重み付け特性というが,時間重み付け特性には,早く反応するFa stとより反応の遅いSlowがある。)は遅い時間重み付け特性(Sl
10 ow)を用いることとする。
オ 評価は上記アのピークレベル及び機数から次の算式により1 日ごとの値( W 値) を算出し, そのすべての値をパワー平均して行うものとする。
算式 dB(A) +10 log10N-27
15 なお, N=N2+3N3+10(N1+N4)
上記算式の dB(A) とは,1日のすべてのxxごとのピークの音圧レベル(上記エのA特性で補正されたもの)をパワー平均したものをい
い,Nの算定の基礎となるN1は午前0時から午前7時までの間の航空機の機数,N2は午前7時から午後7時までの間の航空機の機数, N3は午
20 後7時から午後10時までの航空機の機数,N4は午後10時から午後1
2時までの間の航空機の機数をいい,これらを上記の算式のとおり時間帯によって重み付けして合計したものがNである。
⑵ 達成期間
公共用飛行場等の周辺地域においては, 飛行場の区分ごとに定める
25 達成期間で達成され, 又は維持されるものとし, 達成期間が5 年を超
える地域においては, 中間的な改善目標をまず達成することとして,
段階的に環境基準が達成されるようにするものとした。そして, xx飛行場については, 達成期間は「1 0 年を超える期間内に可及的に速やかに行うこと」とされ, 改善目標は「5 年以内に8 5 W 未満とすること又は8 5 W 以上の地域において屋内で6 5 W 以下とすること, 1
5 0 年以内に7 5 W 未満とすること又は7 5 W 以上の地域において屋内
で6 0 W 以下とすること」とされた。。また, 自衛隊等が使用する飛行場の周辺地域においては, 「平均的な離着陸回数及び機種並びに人家の密集度を勘案し, 当該飛行場と類似の条件にある公共用飛行場等の区分に準じて環境基準が達成され, 又は維持されるように努めるも
10 のとする。」とされた。
⑶ xxx及び埼玉県における地域類型の指定
xxxは,昭和53年3月,埼玉県は,昭和57年12月,それぞれxx飛行場周辺に係る地域類型対象区域を定めた上,当該対象区域内において昭和48年環境基準の地域類型を当てはめる地域を指定する旨の告示
15 (xxx告示第309号,埼玉県告示第1841号)をした。これらによ
ると, 上記対象区域のうち, 地域類型Ⅰを当てはめる地域は都市計画法
( 昭和43年法律第100号) 8条1項1号に定める第1種住居専用地域,第2種住居専用地域及び住居地域並びに同号の規定による用途地域として定められていない地域とされ,地域類型Ⅱを当てはめる地域は同号に
20 定める近隣商業地域,商業地域,準工業地域及び工業地域とされた(乙6
6,132,133,134)。
3 平成25年4月1日改正後の環境基準
公害対策基本法は, 平成5 年1 1 月1 9 日に廃止され, これに替わって新たに施行された環境基本法( 平成5 年法律第9 1 号) 1 6 条1
25 項は, 政府が, 騒音等に係る環境上の条件について, 人の健康を保護
し, 生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定める
旨規定している。 昭和4 8 年環境基準は, 環境基本法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律( 平成5 年法律第9 2 号) 2 条により,環境基本法1 6 条1 項に基づいて定められた航空機騒音に係る環境基準とみなされた。
5 その後, 昭和4 8 年環境基準は, 平成1 9 年環境省告示第1 1 4 号
によって改正され, 平成2 5 年4 月1 日から改正後の基準( 以下「 改正環境基準」 という。) が適用されることとなった。 この改正は, 近年の騒音測定機器の技術的進歩及び国際的動向に即して, W 値の代わ
りに新たな評価指標として時間帯補正等価騒音レベル(L d e n )を採用
10 したものである。Ldenは夕方の騒音に5dB,夜間の騒音に10dBを加
えて評価した1日当たりの等価騒音レベルで,dはday(昼間・7時か ら1 9 時) , e はe v e n i n g ( 夕方・ 1 9 時から2 2 時) , n は n i g h t ( 夜間・ 2 2 時から翌日7 時) の略であり, 単位はd B である。
15 そして,基準値としては,昭和48年環境基準のレベルと同等のものを設
定することが適当であるとした上で,理論的及び実態的な関係からL den の値はW値から13を引いたものにほぼ近似することから,地域類型ⅠでLden
57dB以下,地域類型ⅡでLden62dB以下とされたが,評価指標を変更したにすぎず,実質的な基準の水準は改正前と同様である(以下,昭和48年
20 環境基準と改正環境基準を一括して単に「航空機環境基準」ということがあ
る。以上につき乙7,8 )。
第4 防衛施設である飛行場の周辺地域の騒音に関する法制度とその運用
1 | ⑴ | 法令の定め 生活環境整備法 | |
25 | 防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律(昭和49年法律第101 号。以下「生活環境整備法」という。)は,自衛隊又は米軍(以下,生活環 |
境整備法2条1項の定義規定に従い「自衛隊等」ということがある。)の行為又は防衛施設の設置若しくは運用により生ずる障害の防止等のため防衛施設周辺地域の生活環境等の整備について必要な措置を講ずるとともに,自衛隊の特定の行為により生ずる損失を補償することにより,関係住民の生活の
5 安定及び福祉の向上に寄与することを目的としている(同法1条)。かかる
目的のため,同法4条は,被告が,「政令で定めるところにより自衛隊等の航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が特に著しいと認めて防衛大臣が指定する防衛施設の周辺の区域(以下「第一種区域」という。)に当該指定の際現に所在する住宅について,その所有者又
10 は当該住宅に関する所有権以外の権利を有する者がその障害を防止し,又は
軽減するため必要な工事を行うときは,その工事に関し助成の措置を採るものする」と規定している(以下,この措置を「防音工事助成」という。)。また,同法5条1項は,第一種区域のうち上記の音響に起因する障害が特 に著しいと認めて当該区域の指定の際現に所在する建物等につき所定の移転
15 ないし除却をする場合の損失補償の措置(以下「移転措置」という。)を採
る区域として第二種区域,同法6条1項は第二種区域のうち上記の音響に起因する障害が新たに発生することを防止し,併せてその周辺における生活環境の改善に資する必要があると認めて緑地帯その他の緩衝地帯として整備を行うべき区域として第三種区域についても定めている(以下,第一種区域,
20 第二種区域及び第三種区域を総称して「第一種区域等」という。)。
なお,同法の制定に伴って従前,上記を含む周辺対策の根拠とされていた防衛施設周辺の整備に関する法律(昭和41年法律第135号。以下「周辺整備法」という。)は廃止されたが,周辺整備法に基づき指定された第二種区域は,その指定時に生活環境整備法5条1項により指定されたものとみな
25 すこと(附則4項)とされている。
⑵ 生活環境整備法施行令,同施行規則
生活環境整備法の委任を受けた同法施行令(昭和49年政令第228号。以下「生活環境整備法施行令」という。)は,第一種区域等の指定は,「自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響の影響度をその音響の強度,その音響の発生の回数及び時刻等を考慮して防衛省令で定め
5 る算定方法で算定した値が,その区域の種類ごとに防衛省令で定める値以上
である区域を基準として行うものする。」(8条)と規定し,この指定は官報で告示するとしていた(19条)。
そして,ここにいう防衛省令である同法施行規則(昭和49年総理府令第
43号。平成25年防衛省令第5号による改正前のもの。以下「旧生活環境
10 整備法施行規則」という。)は,防衛省令で定める算定方法について,数式
自体は前記第3の2⑴オの昭和48年環境基準と同じ次の算式を掲げた(同条1項)。
dB(A) +10log10N-27 N=N2+3N3+10(N1+N4)
15 ここでいう dB(A) やN等については実質的に前記第3の2⑴オと
ほぼ同一の定義がされている(同項2号)が,実際の算定方法には後記2のとおりの違いがある。
防衛施設庁長官がこれらの値を算定するに当たっては,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等がひん繁に実施されている防衛施設ごとに,当該防衛施設を
20 使用する自衛隊等の航空機の型式, 飛行回数,飛行経路,飛行時刻等に関
し,年間を通じての標準的な条件を設定し,これに基づいて行うものとした
(同条3項)。
その上で,旧生活環境整備法施行規則2条は,前述の各措置の対象となる第一種区域等を画する旧生活環境整備法施行令8条にいう防衛省令で定める
25 値について,第一種区域にあっては75W(旧生活環境整備法施行規則の制
定当初は85Wであったところ,昭和54年総理府令第41号による改正に
より80Wに改められ,さらに昭和56年総理府令第49号による改正により75Wに改められた。),第二種区域にあっては90W,第三種区域にあっては95Wと定めていた(乙16ないし18)。
なお,旧生活環境整備法施行規則は,平成25年防衛省令第5号によって
5 改正され,現行の生活環境整備法施行規則(以下「改正生活環境整備法施行
規則」という。)1条は,改正環境基準と同じく,W値に代えて時間帯補正等価騒音レベル(Lden)による算定方法を採用し,同規則2条の定める生活環境整備法施行令8条の防衛省令で定める値も,第一種区域においては7
5Wに代えて62dB,第二種区域においては90Wに代えて73dB,第
10 三種区域においては95Wに代えて76dBとされた。改正生活環境整備法
施行規則は平成25年4月1日から施行されたが,同日以後の生活環境整備法4条による第一種区域等の指定について適用するとされており,xx飛行場周辺を含む同日より前にされた第一種区域等の指定については引き続き旧生活環境整備法施行規則の規定によることとなる。
15 2 防衛施設庁方式におけるW値の算定方法
⑴ 算定方法の根拠等
上記1の法令の規定を受け,防衛施設庁長官は,上記算定方法等の細部基準等として,昭和55年10月2日,「防衛施設周辺における航空機騒音コンターに関する基準について(通達)」(施本第2234号(CFS)。以
20 下「コンター作成旧通達」という。乙31)を定めた。その後の平成16年
11月1日,「第一種区域等の指定に関する細部要領について(通達)」
(施本第1589号(CFS)。以下「コンター作成新通達」という。乙3
2)により,新たなコンター作成基準を定め,コンター作成旧通達は廃止されたが,その内容は概ねコンター作成新通達に引き継がれている。なお,コ
25 ンター作成新通達は,その後平成19年8月30日に防衛庁の省移行に伴う
規定整備により,防衛施設庁長官を防衛大臣に改める等の一部改正が行われ
て現在に至っている。
コンター作成新通達は,各防衛施設周辺におけるW値を算定した上,75 W以上の地域について,5Wごとに同位置の値を示す地点を結んだ線を騒音コンターとするものとしている(第1の3)。
5 コンター作成旧通達及びコンター作成新通達に従ったW値の算定方法が防
衛施設庁方式である。
⑵ 防衛施設庁方式のW値の算定方法(環境庁方式との相違点)
コンター作成旧通達及びコンター作成新通達に定められたW値の算出方法
(防衛施設庁方式)の具体的内容,とりわけ環境庁方式との相違点は,次の
10 3点である(甲B58,59,乙31,32)。
ア 環境庁方式では,飛行回数(N)として,運航スケジュールを用いて算出した1日当たりの単純平均回数を用いるのに対し, 防衛施設庁方式では,最近1年間の日別,時間帯飛行回数のデータを基礎にして,飛行しない日も含め,1日の総飛行回数の上位から数えて90パーセントに相当す
15 る1日の総飛行回数をもって,その飛行場における1日の標準総飛行回数
とする。
イ 環境庁方式は,騒音の継続時間を20秒と固定して一定値を補正するのに対し,防衛施設庁方式では,最大騒音レベルと前後のこれより10dB低いレベルを超える騒音の実際の継続時間を計測し,これに応じて個別の
20 機種・飛行態様ごとに補正値を加算する。
ウ 環境庁方式ではジェット機の着陸音に対して補正を行わないが,防衛施設庁方式では当時の測定結果に基づきジェット機の着陸音に対してプラス
2dBの補正を行っている。
⑶ 両方式の算定結果の違い
25 以上⑵の算定方法の相違の結果,防衛施設である飛行場の周辺において,
同一の条件の下で,環境庁方式によって算定されるW値と防衛施設庁方式に
よって算定されるW値を比較すると,前者が後者よりも3~5W程度低くなるとされている(甲B58参照)。
3 xx飛行場周辺の騒音コンターの作成及び区域指定等
⑴ 昭和50年代における第一種区域の指定の沿革
5 ア 被告は,昭和52年3月14日から同月21日まで及び同年7月8日か
ら同月13日までそれぞれ予備調査を行ってxx飛行場に離着陸する米軍機の飛行形態等を把握し, 次いで,同月18日から同月25日までの間
(xx)及び昭和53年2月13日から同月14日までの間(冬季)に本調査を行い,飛行場内測点500,xx固定測点15及び南側固定測点1
10 69において常時測定員を配置し,24時間連続して,発生時刻,機種,
飛行方法,ピーク騒音レベル,時間特性,1時間ごとの暗騒音,気象状況等を観測した。また,移動点測定として,同時に12点から15点にわたる測定が可能な人数で,約1週間にわたって毎日午前8時から午後5時までの間,移動しながら測定を行った。
15 被告は,これらの資料を総合し,N(1日の飛行回数)及び各地点での
dB(A ) を算出し, 着陸音補正( 着陸時のジェット騒音について2 dBを加える。)及び継続時間補正を行うなどして,xx飛行場周辺のW値を求め,それによる騒音コンター図(等音線ともいうべきもの。)を作成し,これに基づき,道路,河川等現地の状況を踏まえ,xx次のイない
20 しエの区域指定を行った(乙31)。
イ 被告は,昭和54年8月31日,当時の旧生活環境整備法施行規則(乙
16)に基づき,W値(以下,特に断らない限り防衛施設庁方式によるものをいう。)が85以上の区域を第一種区域,同90以上の区域を第二種区域として指定する旨を告示した(防衛施設庁告示第17号,乙27)。
25 ウ 被告は,昭和54年9月14日総理府令第41号(乙17)による旧生
活環境整備法施行規則2条の改正に伴い,昭和55年9月10日,W値が
80以上の区域を新たな第一種区域として指定する旨を告示した(防衛施設庁告示第14号,乙28)。
エ 被告は,昭和56年12月21日総理府令第49号(乙18)による旧
生活環境整備法施行規則2条の改正に伴い,昭和59年3月31日,W値
5 で75以上の区域を新たな第一種区域として指定する旨を告示した(防衛
施設庁告示第4号。乙29。以下「昭和59年告示」という)。
⑵ 平成17年における第一種区域の解除及び指定
ア 被告は,飛行場周辺における航空機騒音対策を始めとする周辺対策について,今後の採るべき施策の在り方に関する検討の資料を得ることを目的
10 として,平成13年9月,有識者による「飛行場周辺における環境整備の
在り方に関する懇談会」を設置した。平成14年7月の上記懇談会の提言
(乙30)は,「真に騒音等の影響を受けている住民に対して限られた財源を効果的に支出する観点から,深刻な騒音等の影響を被っている区域を見極める必要があり,改めて計画的に全国の飛行場施設の騒音度を調査
15 し,各防衛施設ごとに段階的に区域の見直しを図ることが適切な時期が到
来している。」などと指摘した。この提言を踏まえた被告の委託により,財団法人防衛施設周辺整備会は,昭和59年告示による第一種区域の指定から約20年が経過し,その間,xx飛行場の航空機の騒音状況に変化が見られるなどとして,平成15年度に概ね次のとおりの内容で航空機騒音
20 調査を行った(乙89。以下「平成15年度調査」という。)。調査期間
現地調査として,平成15年8月20日から同月22日までの間,離着陸訓練等の飛行態様や測定点の適切性を調査する事前調査を行い,その後同年9月5日から同月13日までの間(xx),同年11月3日か
25 ら同月10日までの間(秋季)及び平成16年2月20日から同月28
日までの間(冬季)の3回にわたり本調査を行った。
また,飛行回数調査は,後述のとおり自動騒音測定装置によるものを含めて平成15年4月1日から平成16年3月31日までの間を対象として行った。
調査対象地域
5 xx飛行場における過去の調査結果,飛行経路図等を参考にして,滑
走路を中心としてその延長方向に38キロメートル,垂直方向に6キロメートルの範囲とした,測定点は52地点と従前から自動騒音測定装置が設置された13地点とした。
調査対象機種
10 C-130,C-21,C-5,UH-1等を対象とした。現地事前調査の調査方法
離着陸訓練等の飛行態様を現地で把握すると共に,あらかじめ地図上で選定した測定点を踏査し, 暗騒音レベルが低く測定に支障がないこと,航空機の飛行状況が確認できる場所であること等,測定点として適
15 切であるか否かを調べた。また,不適当な場合は,当初選定した予定地
を至近の適当な場所に変更するなどし,その周辺において測定点として妥当な場所に測定点を設定した。そして,最終的に選定した測定点を地図上で確認するとともに,周辺の既存住宅や主要道路等について調査を行った。
20 現地本調査の調査方法
a 飛行状況調査
xx飛行場においては,米軍から飛行回数に関する資料が提供されず,自動騒音測定装置の観測データを基に飛行回数を確認するため,
1週間連続で測定する点を設定し,機種,方向,態様,経路等を正確
25 に確認し, その比率を基に標準飛行回数の基となるデータを取得し
た。なお,測定は,xx,秋季,冬季の3季について行い,測定時間
は,自動騒音測定装置のデータを基に,xx及び冬季については午前
6時から午後10時までの16時間,秋季については午前8時から午後10時までの14時間とした。
b 飛行経路調査
5 飛行経路及び基礎データ作成用のスラントディスタンス(受音点と
航空機までの最短距離)の確認のため,過去の調査結果を参考に測定点を設定し, 仰角測定により飛行位置( 平面位置, 高度) を確認した。
c 基礎データ調査
10 地上面にウインドスクリーン(風による雑音防止のためにマイクロ
ホンの先端に取り付けるスポンジ状のキャップ)を装着したマイクロホンを設置し,普通騒音計(C特性)を通してデータレコーダに録音し,持ち帰り分析用のデータとした。
d ピーク騒音レベル及び継続時間
15 地上約1.5メートルの高さにウインドスクリーンを装着したマイ
クロホンを設置し,普通騒音計(A特性)を通してレベルレコーダーに記録し,ピーク騒音レベル及び継続時間を読み取ると共に,飛行時刻,機種,飛行経路,飛行態様等をデータ用紙に記入した。
飛行回数
20 平成15年4月1日から平成16年3月31日までの期間の自動騒音
測定装置(xx飛行場滑走路両端の2地点のもの)の航空機騒音発生回数及び上記本調査における飛行状況調査の結果を基に求めた。
W値の算出
上記調査に基づく機種別,飛行態様別,飛行経路別のピーク騒音レベ
25 ル,1日の標準飛行回数,継続時間のデータに基づき,防衛施設庁方式
により(乙89の116頁の継続時間の補正,着陸音補正,112頁の
飛行回数の算出方法参照)各測定地点のW値を算出した。 W値に基づくコンターの作成
xx飛行場周辺の滑走路延長方向に28キロメートル,滑走路垂直方 向に13キロメートルの範囲において250メートル間隔の格子点59 | ||
5 | 89点のW値を算出し, その値からメッシュ法を用いてコンター図 | |
(甲B177の3枚目。省略された乙89の123頁の図12に当たる | ||
もの。)を作成した。 | ||
イ | 被告は,平成17年10月21日,上記アの平成15年度調査の結果を | |
基に,これまでの第一種区域等を見直し,区域の指定及び指定の解除(指 | ||
10 | 定の解除については,平成19年5月1日から適用。)を行い,防衛施設 | |
庁告示第9号をもって告示した(以下「平成17年告示」という。乙1 | ||
9)。新たに指定し直された第一種区域等の範囲は,別紙4-1「xx飛 | ||
行場に係る第一種区域指定等参考図」の「凡例」に「第一種区域 平1 |
7.10.20防衛施設庁告示9号」と記載された赤実線で囲む区域であ
15 り,指定を解除された第一種区域は,「第一種区域解除区域 平19.
5.1解除」と記載された赤斜線部分である(以下,平成17年告示における第一種区域とその外側の区域とを画する線を「第一種区域線」という。)。
また,平成17年告示によって従前の第二種区域の指定も一部解除され
20 たが,xx飛行場については,前述の生活環境整備法附則4項の規定によ
って第二種区域及び第三種区域とみなされる地域が引き続き存在し,その範囲は別紙4-1「xx飛行場に係る第一種区域指定等参考図」及び別紙
4-2「xx飛行場に係る移転措置対象区域指定参考図」の各「凡例」に,それぞれ「第二種区域(みなし) 昭42.3.31防衛施設庁告示
25 第5号」として黄色の実線で囲まれた範囲,「第三種区域(みなし) x
42.3.31防衛施設庁告示第5号 昭44.4.15防衛施設庁告第
6号」として緑色の実線で囲まれた範囲のとおりである。ただし,xx飛行場周辺地域は,平成17年告示当時の第三種区域の指定の基準であるW値95以上に達していないことから,同区域の指定はされていない。
ウ 工法区分線等の設定
5 防衛大臣は,生活環境整備法4条に基づく住宅防音工事の助成を行うた
め,「防衛施設周辺における住宅防音事業及び空気調和機器稼働事業に関する補助金交付要綱」(平成22年3月29日防衛省訓令第10号。乙2
5)を定め,同要綱5条に基づき,防衛省地方協力局長は,住宅防音工事標準仕方書(以下「防音工事仕方書」という。乙53)及び住宅防音工事
10 の標準仕方に係る工法区分線の設定等要領(以下「区分線設定等要領」と
いう。乙53の最後から3枚分) を定めている(なお,防音工事仕方書は,上記要綱の制定以前からxx改正されており,乙53は平成25年1
2月時点のものでLdenとW値が併記されているが,その位置付けや工法別の計画防音量は実質的に従前と変わっていない。)。
15 防音工事仕方書は,防音工事の工法として第Ⅰ工法と第Ⅱ工法を定めて
いる。第Ⅰ工法は,80W(Lden66)以上の区域内の住宅を対象として計画防音量25dB以上とするものであり,第Ⅱ工法は,75W以上8
0W未満(Lden62以上66未満)の区域内の住宅を対象として計画防音量を20dB以上とするものである。そして,区分線設定等要領は,そ
20 れぞれの工法の適用区域を区分する線(以下「工法区分線」という。)の
設定方法を定めている。これによると,xx飛行場周辺の第Ⅰ工法と第Ⅱ工法の工法区分線は,80Wの騒音コンターと重なる住宅の所在状況を勘案して,80Wの騒音コンターに沿って引くものとされている。
上記2つの工法による住宅防音工事は居室を対象として行うものである
25 が,平成15年1月24日施本第63号(CFS)通達により家屋全体を
一つの区画としてその全体を対象に実施する防音工事である後記4⑵オの
外郭防音工事が追加され(乙44),同通達及び区分線設定等要領によれば,全ての住宅が外郭防音工事の対象となる区域の外郭線( 以下「外郭線」という。)について,85Wの騒音コンターと重なる住宅の所在状況を勘案して,85Wのコンターに沿って引くものとされている。
5 xx飛行場については,平成17年10月20日,当時の防音工事仕方
書及び区分線設定等要領に基づき, 平成15年度調査に基づく騒音コンターにおける80Wのコンターを基礎にした新たな工法区分線と85Wの騒音コンターを基礎にした新たな外郭線が設定された。
エ 本件請求対象期間の区域指定
10 以上の結果,xx飛行場周辺地域においては,平成17年10月20日
以降,防衛施設庁方式による平成15年度調査に基づくW値の大きさに従って,75Wコンターにつき第一種区域線,80Wコンターにつき工法区分線,85Wコンターにつき外郭線が画されていることとなり,現在もこれが維持されている(以下,これらに係るコンターを「告示コンター」と
15 いうことがある。)。
本判決においては,上記の告示コンターによる第一種区域の外側の地域を「指定区域外」, 第一種区域線と工法区分線の間の地域を「75W地域」,工法区分線と外郭線の間の地域を「80W地域」,外郭線の内側地域を「85W地域」といい,これらを一括して「告示コンター内地域」又
20 は「75W以上の地域」という。また,指定区域外のうち,平成17年告
示により第一種区域から除外された範囲を「旧75W地域」という。各地域の概要は別紙4- 3の原告ら作成の図面のとおりである( 甲A20の
2。75W地域が同図面の「告示コンター75W以上」, 80W地域が
「告示コンター80 W以上」, 85W地域が「告示コンター85W以
25 上」,旧75W地域が「旧告示コンター75W以上」に該当する。)。
4 助成措置の対象となる防音工事の概要と種類
⑴ 概要
建物中の工事対象となる居室又は区画の内外部開口部の防音工事,外壁又は内壁及び室内天井面の遮音及び吸音工事並びに冷暖房設備と換気設備を取り付ける空気調和機器(以下「空調機器」という。) の設置工事を内容と
5 し,被告は各家屋所有者らに対しこれらの工事に要する経費を補助金として
交付する。補助率は一定の限度額はあるが原則100パーセントで,外部開口部となる窓の数が多いとか,同開口部が特に大きいなど建物の構造が通常と異なっているといった特殊な場合を除き,補助額はほとんどの場合工事費全額で,個人負担が生じることはない。
10 ⑵ 種類
ア 新規防音工事
いまだ住宅防音工事が実施されていない住宅につきその所有者の選択する2居室以内(ただし,平成11年12月10日までは世帯人員4人以下の場合は1居室) を対象とするもの。昭和50年代から実施されてきた
15 が,住宅防音工事の進捗状況等を踏まえ,平成21年度末をもって廃止さ
れ,平成22年度以降は,防音工事未実施の住宅については後記の一挙防音工事が実施されることとなった。
イ 追加防音工事
上記アを実施済みの住宅につき,5居室を上限とする世帯人員に1を足
20 した居室数からアを実施済みの居室数を減じた居室数以内の居室を所有者
が選択して実施するものウ 一挙防音工事
いまだ住宅防音工事が実施されていない住宅につき,5居室を上限とする世帯人員に1を足した居室数以内の居室を所有者が選択して実施するも
25 の
エ 防音区画改善工事
バリアフリー対応住宅,フレックス対応住宅及び身体障害者福祉法4条に規定する身体障害者が居住する住宅を対象に,専用調理所(台所),区画された玄関,廊下,浴室等の居室以外の区画と居室を併せて一つの防音区画として実施するもので,平成11年度から実施されている。世帯人員
5 4人以下の場合は4居室,5人以上の場合は世帯人員に1を加えた居室数
(ただし,防音工事実施済みの場合は実施された居室数を減じる。)が上限となる。なお,上記イ又はウを実施済みの住宅について実施する場合は原則としてこれらの工事完了日から起算して10年以上経過していることを要する。
10 オ 外郭防音工事
前述のW値が85以上の外郭線の内側の区域(外郭対象区域)に所在する住宅のうち,いまだ防音工事が実施されていない居室を有する住宅を対象に,世帯人員にかかわらず,原則として住宅全体を一つの防音区画として,その外郭の住宅防音工事を実施するもので,平成14年度から実施さ
15 れている。また,第一種区域のうち外郭対象区域を除くW値75以上85
未満の区域に所在する鉄筋コンクリート造系の集合住宅のうち,防音工事未実施で一定の条件を満たすものも対象となる。なお,上記イ又はウを実施済みの住宅について実施する場合は原則としてこれらの工事完了日から起算して10年以上経過していることを要する。
20 ⑶ 助成対象となる住宅
生活環境整備法4条では第一種区域の指定の際に当該区域内に現に所在する住宅となっているが,被告はその指定に先立ち,昭和50年度から周辺整備法に基づき指定された第二種区域内で防音工事の助成措置を行ってきた。その後,前記3⑴イ~エのとおり段階的に第一種区域を指定した
25 が,その結果,例えば昭和54年の指定日以降に建築された住宅は,W値
85以上の地域では同法による助成の対象とはならないのに,昭和55年
の指定で新たに第一種区域とされたW値80以上85未満の地域では対象となるといった,いわゆるドーナツ現象が生じた。そのため,被告は,行政措置により,xx飛行場周辺においては,平成8年度からW値85以上の地域,平成11年度からW値80以上の地域において,ドーナツ現象に
5 より対象外となった住宅に対しても防音工事の助成を行い,さらに,平成
17年告示による第一種区域内の上記のいずれにも該当しない住宅(いわゆる告示後住宅) のうち,一定の地域及び基準日に所在するものについても同様の助成を行っている。(乙40,47)
第5 原告らの訴訟承継及び居住地等
10 別紙3- 1の「氏名」欄に「(被承継人)」と付記した者( 以下「被承継
人」という。)は,提訴後の同「死亡日」欄記載の日に死亡し,別紙3-3の当該「被承継人」に対応する「承継人」欄記載の者が同「相続割合」欄記載の割合で本件に関し相続した。
原告ら(被承継人を含み,原告を兼ねていない訴訟承継人を除く。以下,特
15 に断らない限り同じ。)は,本件請求対象期間の少なくとも一部において,x
x飛行場周辺の告示コンター内地域又は指定区域外の旧75W地域に居住している。原告らの居住関係(居住地,居住期間,居住地に係る区域指定における W値等)の詳細は別紙5移動経過一覧表に記載のとおりである(なお,原告番号57の原告のW値「外」の「損害賠償請求期間」の「始期」は,甲A57の
20 1の1・2に照らし「H26.9. 25」の誤記と認めるのでその旨訂正し
た。)。
第6 xx飛行場を巡る従前の主な騒音訴訟の経緯
xx飛行場の周辺住民は,xx飛行場に離着陸する航空機による騒音等の被害を受けているとして,昭和51年以降,被告に対し,次のとおり損害賠償等
25 を求める訴えの提起を繰り返してきた。
1 第1次,第2次訴訟
xx飛行場の周辺住民は,昭和51年及び昭和52年,被告に対し,xx飛行場における航空機離着陸等の差止め並びに過去及び将来の損害の賠償を求める訴えを東京地方裁判所八王子支部に提起した。同裁判所は昭和56年7月1
3日,差止めを求める訴えを不適法として却下し,85W以上の地域に受忍限
5 度を超える損害が生じているとして過去の損害賠償請求の一部を認容し,その
余の請求を棄却する判決を言い渡した(判例タイムズ445号88頁,判例時報1008号19頁)。
上記判決に対し, 双方が控訴し,東京高等裁判所は,昭和62年7月15日,差止めに係る控訴を棄却し,過去の損害賠償請求につき昭和48年環境基
10 準の地域類型Ⅰについては75W以上,地域類型Ⅱについては80W以上の地
域に受忍限度を超える損害が生じているとして認容額を変更し,事実審口頭弁論終結後の将来請求に係る訴えを却下する判決を言い渡した(判例タイムズ6
41号232頁,判例時報1245号3頁。以下「xxxx62年控訴審判決」という。)。
15 xxxx62年控訴審判決に対し, 周辺住民らが上告したが,最高裁判所
は,平成5年2月25日,米軍機の差止請求は却下ではなく主張自体失当として棄却すべきだが,不利益変更禁止の原則により上告棄却にとどめるとしたほかは,控訴審の判断を支持して上告を棄却する判決を言い渡した(裁判集民事
167号359頁,判例タイムズ816号137頁,判例時報1456号53
20 頁。以下「xxxx5年最高裁判決」という。)。
2 第3次訴訟
xx飛行場の周辺住民は,昭和57年,被告に対し,xx飛行場における航空機離着陸などの差止め並びに過去及び将来の損害の賠償を求める訴えを東京地方裁判所八王子支部に提起した。同裁判所は,xxx年3月15日,差止め
25 を求める訴え及び口頭弁論終結日の翌日以降の将来の損害賠償請求に係る訴え
は不適法として却下し,受忍限度につきxxxx62年控訴審判決と基本的に
同様として原告の過去の損害賠償請求の一部を認容し,その余の請求を棄却する判決を言い渡した(判例タイムズ705号205頁,判例時報1498号4
4頁)。
上記判決に対し,双方が控訴し,東京高等裁判所は,平成6年3月30日,
5 差止めを求める部分及び将来の損害賠償請求に係る部分につき控訴を棄却し,
受忍限度につき基本的に一審と同様としつつ,慰謝料の基準額を一部増額するなどして過去の損害賠償請求を一部認容する判決を言い渡し,この判決は確定した(判例タイムズ855号246頁,判例時報1498号25頁)。
3 第5~7次訴訟(原告らの呼称では第1次新訴訟)等
10 xx飛行場の周辺住民は,平成8年,平成9年及び平成10年,米国及び被
告に対し,xx飛行場における航空機離着陸などの差止め等(外交交渉義務確認請求を含むので「等」)並びに過去及び将来の損害の賠償を求める訴えを東京地方裁判所八王子支部に提起した。米国に対する訴訟については先行して却下判決がされ,我が国の民事裁判権は米国の主権行為には及ばないとしてこれ
15 を是認した最高裁判所の平成14年4月12日の判決(民集56巻4号729
頁。以下「xxxx14年最高裁判決」という。)で決着した。被告に対する訴訟につき,東京地方裁判所八王子支部は,平成14年5月30日,差止め等を求める訴えを棄却し,将来の損害賠償請求に係る訴えは不適法として却下し,W値75以上の地域に受忍限度を超える損害が発生しているとして過去の
20 損害賠償請求を一部認容し,その余の請求を棄却する判決を言い渡した(判例
タイムズ1164号196頁,判例時報1790号47頁。以下「xxxx1
4年一審判決」という。)。
xxxx14年一審判決に対し,双方が控訴し,東京高等裁判所は,平成1
7年11月30日,差止め等を求める部分につき控訴を棄却し,将来の損害賠
25 償請求に係る訴えにつき,口頭弁論終結日の翌日から判決の言渡し日までにつ
いて認容し,その余は不適法として却下し,地域類型Ⅰと同Ⅱを区別すること
なくW値75以上の地域に受忍限度を超える損害が発生しているとして過去の損害賠償請求を一部認容する判決を言い渡した(判例タイムズ1270号32
4頁,判例時報1938号61頁。以下「xxxx17年控訴審判決」という。)。
5 最高裁判所は,上記判決に対する被告の上告受理申立てを受理した上,平成
19年5月29日,将来の損害賠償請求に係る訴えのうち原審が認容した部分を破棄して周辺住民らの控訴を棄却する判決を言い渡した(裁判集民事224号391頁,判例タイムズ1248号117頁,判例時報1978号7頁。以下「xxxx19年最高裁判決」という。)。
10 なお,この間の平成6年と平成12年にも周辺住民らが同種の訴訟(第4,
8次訴訟)を提起したが,東京地裁八王子支部は平成15年5月13日にW値
75以上の地域に受忍限度を超える損害が発生しているとしてxxxx14年一審判決と基本的に同旨の判決を言い渡し,東京高裁は平成20年7月17日に一審判決後の平成15年度調査に基づく告示コンターの変更前と変更後の各
15 W値75以上の地域に受忍限度を超える損害が発生しているとして過去の損害
賠償の認容額を一部変更するほかは一審の判断を基本的に支持する判決を言い渡し(いずれも公刊物未登載だが判例秘書登載),最高裁での住民側の上告棄却・不受理決定により確定している。
本件訴訟は,通算すると第10,第11次に当たる。なお,第9,12次訴
20 訟は当裁判所支部の民事第3部で審理が継続中である。(当裁判所に職務上顕
著な事実)
第3部 当事者の主張第1 原告らの主張
1 差止請求権の法律上の根拠と許容性
25 ⑴ 法律上の根拠
差止原告らは, 次のとおり憲法上保障される人格権, 環境権,平和的生
存権に基づき, 被告に対し,xx基地の航空機の離着陸及びエンジン作動
(以下「離着陸等」という。)の差止請求権を有する。ア 人格権
人格権の一内容としての, 静穏, 快適かつ安全な日常生活を享受する
5 権利は,憲法13条,25条によって保障されている。
本件において, 差止原告らxx基地周辺住民は,xx基地の騒音によって著しい精神的苦痛を被っているとともに, 平穏で安全な生活を乱され, 著しい生活上の妨害を被り続けており, その被害が現実化しているのであるから,人格権に基づき侵害行為の排除を求めることができる。
10 イ 環境権
環境権は, 健康で快適な生活を維持する条件としての良い環境を享受し,これを支配する権利とされており, 憲法13条,25条によって保障されている。
差止原告らは, xxxxの航空機による騒音により, 健康で快適な生
15 活を維持する条件としての良い環境を享受することができず,環境権を
侵害されているから,環境権に基づき, xx基地の航空機の離着陸等の差止めを求めることができる。
ウ 平和的生存権
戦争の準備行為,飛行訓練・演習等の軍事的な活動による被害や恐怖
20 にさらされている者は, 平和的生存権( 憲法前文, 13条) に基づき,
当該活動の差止めを請求することができる。
xxxxは軍事基地であり,戦闘行為を行うために必要な銃器,爆弾 等の軍事物資を積んだ軍用機による飛行訓練・演習を行っているところ,差止原告らは, 軍用機の騒音による被害,軍用機の墜落・落下物の危険,
25 戦争に巻き込まれるのではないかという恐怖にさられているのであって,
平和的生存権を侵害されているから,平和的生存権に基づき,xx基地
の航空機の離着陸等の差止めを請求することができる。
⑵ 民事訴訟による自衛隊機の飛行差止めが可能であること
被告は,厚木飛行場に関する最高裁判所平成5年2月25日判決・民集
47巻2号643頁(以下「xxxx5年最高裁判決」という。)等を根拠
5 に, 自衛隊機の離着陸等の差止めを求める訴えは不適法であると主張する。
しかしながら, xxxx5年最高裁判決は, 自衛隊機の運航に関する防衛庁長官の権限の行使について周辺住民との関係で公権力性を認めた点で間違っている。同判決後の小松基地に関する平成14年3月6日金沢地方裁判所判決(以下「小松平成14年一審判決」という。)は,自衛隊法上,
10 防衛大臣が周辺住民に対する騒音の影響に配慮してその運航統括権限を行
使すべきことを定めた規定は設けられておらず,まして, それに当たり周辺住民等国民の権利義務を形成し, 又はその範囲を確定し得ること,たとえば周辺住民に騒音等の受忍義務を課しうることを定めた規定も, その要件, 内容, 効果等を定めた規定も何ら設けられていないから,法治主義,
15 法律による行政の原則に照らして, 広汎性のある騒音の発生が必然的であ
るという社会的事実から当然に周辺住民に騒音受忍義務が発生するということにはならず, 周辺住民への配慮責務が行政庁に課せられているということから法律上の明確な根拠なくして周辺住民に騒音受忍義務を課すことは許されない旨判示し, 自衛隊等の離着陸等の差止請求は, 自衛隊機の運
20 航に関する防衛大臣の権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求
を包含することにならないとして, 民事上の訴えとして不適法ではないとの判断を示している。
⑶ 米軍機の飛行差止めが可能であること
被告は,厚木平成5年最高裁判決を根拠に, 米軍機の離発着等の差止め
25 を請求するのは, 国に対してその支配の及ばない第三者の行為の差止めを
請求するものというべきであるとして,主張自体失当と主張する。
しかしながら, 地位協定3条3項が「合衆国軍隊が使用している施設及び区域における作業は, 公共の安全に妥当な考慮を払つて行わなければならない。」としており,また,同協定16条が「日本国において,日本国の法令を尊重し, 及びこの協定の精神に反する活動, 特に政治的活動を慎む
5 ことは,合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の義務である。」
としているとおり, 米軍の基地管理権限は無制限ではなく, 本件のように米軍機がxx飛行場外を飛行する結果, 基地外の住民に騒音被害をもたらす場合,日本国の法令による制約は米軍にも及ぶことになり,被告は米軍の活動を制限することができると解すべきである。また, 地位協定18条
10 5項にいう「公務xxxの合衆国軍隊の構成員若しくは被用者の作為若し
くは不作為又は合衆国軍隊が法律上責任を有するその他の作為, 不作為若しくは事故で, 日本国において日本国政府以外の第三者に損害を与えたものから生ずる請求権」には,差止請求権も含まれると解されるから,原告らの請求は地位協定上の根拠を有するものである。さらに, 午後10時か
15 ら翌朝午前6時までの米軍機の飛行及び地上での活動制限を内容とする平
成5年日米合同委員会合意に基づき被告には同内容の履行義務が生じることからすれば, 原告らの請求は,被告の支配の及ばない第三者の行為の差止めを求めるものではない。この合意によれば,少なくとも午後10時から午前6時までの飛行差止めを求める部分については認容されるべきであ
20 るし, それ以外の時間帯についても, 日米合同委員会航空機騒音対策分科
委員会(甲A17) において合意をして規制することができるのであるから,原告らの請求は認容されるべきである。
加えて,xx飛行場の米軍機による騒音が裁判所の判決によって何度も違法と認定されているにもかかわらず, 被告が米軍に対する基地の提供を
25 やめないどころか, xx飛行場の拡張及び機能強化を積極的に行い,巨額
の予算を投じてきたことは,被告自身が違法行為を行っているものと評価
することができる。
米軍機の飛行差止めの必要性について見ても, 米軍機が平成5年日米合同委員会合意に違反して夜間, 早朝飛行を行ってきたこと, 米国政府が地位協定に基づく賠償金の負担を一切拒否していること, 差止請求を認容し
5 てもxx飛行場の機能に影響はないことなどからすれば, 米軍による違法
行為抑止のためにも,差止めを認める必要性が高い。
したがって, 差止原告らは米軍機の飛行差止めを請求することができるというべきである。この点, 差止原告らがアメリカ合衆国政府を被告として米軍機の飛行差止請求をしたとしても,日本国の民事裁判権が及ばない
10 として不適法却下判決がされることになるから(xxxx14年最高裁判
決),被告に対して飛行差止めを求める本件の請求を主張自体失当としてし まうと,米軍機の飛行差止請求については我が国の裁判所による実質的な 判断が全くされないこととなり, 裁判を受ける権利の侵害となりかねない。
2 損害賠償請求権の法律上の根拠
15 ⑴ 民事特別法2条
民事特別法2条は,米軍の占有し,所有し,又は管理する土地の工作物その他の物件の設置又は管理に瑕疵があつたために日本国内において他人に損害を生じたときは,国賠法2条の例により,国が損害賠償責任を負うという趣旨の規定であるから,国賠法2条についての大阪空港最高裁大法
20 廷判決の解釈がそのまま民事特別法2条についても当てはまる。
本件において,xxxx場が「合衆国軍隊の占有し,所有し,又は管理する土地の工作物その他の物件」に当たることは明らかである。そして,xx飛行場は多数の住民の居住する地域に極めて接近して存在しているため,多数のジェット機や大型機を離着陸させること等によって周辺住民に
25 騒音等による甚大な損害を及ぼすことは不可避である。
xx飛行場がこのような状態にあり,騒音等により原告らを含む周辺住
民の人格権,環境権及び平和的生存権を侵害し,受忍限度を超える危害を生じさせていることは,営造物が有すべき安全性を欠いている状態,すなわち他人に危害を及ぼす危険性のある状態にあるものというべきである。したがって,被告は,民事特別法2条によって,原告らの損害を賠償す
5 る責任を負う。
⑵ 国賠法2条1項
営造物がその供用目的に沿って利用されている状況のもとにおいて,利用者以外の第三者に危害が生ずる場合も,これから危害が生ずるような場合も上記の瑕疵に含まれる。
10 被告は,xxxという人口過密な地域において,多数の住民の居住する
地域に極めて密接した場所にあるxx飛行場内に自衛隊基地を設置し,米軍機の飛行に加えて自衛隊機が飛行するようになれば,xx飛行場の騒音による被害が増大することを知りながら,あえてxx基地に自衛隊基地を設置したのであるから,自衛隊基地としてのxx飛行場の設置,管理に瑕
15 疵があることは明らかである。
したがって,被告は,同条項により,原告らの被った損害を賠償する責任を負う。
⑶ 国賠法1条1項
被告は,米軍にxx飛行場を提供し,周辺自治体を含む多数の住民の声
20 を無視して基地の拡張・機能強化に協力し,また,被告が有する権限を行
使して原告ら周辺住民の被害を軽減すべき義務を一貫して怠ってきた。 被告は,xxxx17年控訴審判決で,騒音被害を放置した責任を厳し
く指摘されているにもかかわらず,その後もなお,xxxx場を米軍に提供し続けており,周辺住民らの騒音被害を抜本的に解消したり,補償制度
25 を設けたりする対策を取ろうともしていない。
これらの被告の作為及び不作為は,被告の公権力の行使に当る公務員の
作為及び不作為に該当することが明らかであり,原告らの被害は,これら被告の公務員の作為及び不作為によって生じたものである。
よって,被告は,同条項により,原告らの被った損害を賠償する責任を負う。
5 3 侵害行為の内容
⑴ 航空機騒音による侵害
ア xx飛行場周辺における航空機の飛行状況
xx飛行場周辺では ように米軍機及び自衛隊機(以下「米軍機等」という。)が飛行し,周辺住民に騒音被害を与えている。
10 常駐機について
xx飛行場には, C-130ハーキュリーズ, C- 12Jヒューロン,UH-1Nイロコイといった米軍輸送機・連絡機が常駐している。
C-130ハーキュリーズは,軍用中距離戦術空輸機であり,xx飛行場で年間を通じて最も離着陸回数が多い。C-12Jヒューロン
15 はプロペラ式の小型輸送機・連絡機で,人員輸送や貨物輸送に使用さ
れる。UH-1Nイロコイは連絡用の中型ヘリコプターである。これらの常駐機は昼夜を問わず頻繁に旋回訓練を行い,基地周辺に騒音被害を与えている。
他基地からの飛来機について
20 上記の常駐機のほか,xx飛行場には輸送機C-5ギャラクシー,同
C- 17グローブマスター, 空中給油・輸送機KC- 10エクステンダー,同KC-135ストラトタンカー,多用途ヘリコプターSH-6
0シーホーク,艦上輸送機C-2Aグレイハウンド等の米軍輸送機が連日飛来している。また,戦闘機F-15イーグル,艦上戦闘・攻撃機F
25 A-18ホーネット,電子装備攻撃機EA-6Bプラウラー,早期警戒
機E-2Cホークアイ,戦闘機F-16ファイティングファルコン等の
米軍戦闘機や米軍攻撃機も頻繁に飛来して旋回訓練等を行っている。また,平成26年7月以降は,MV-22オスプレイも飛来している。
中でも,C-5ギャラクシーは,世界最大級の輸送機で,離着陸時飛行直下では110dBを超える激しい騒音を発生させている。また戦闘
5 機であるF-15イーグル,FA-18ホーネット等も頻繁に飛来して
おり,その騒音は激甚である。
xx飛行場には自衛隊機は常駐していないものの,連絡機が度々飛来するほか,xx飛行場日xxxxxのイベントの際には多数の自衛隊機が飛来して,基地周辺に騒音被害を与えている。飛来機は中等練習機と
10 連絡・支援任務に使用されるジェット機T- 4, 大型輸送用ヘリコプ
ターCH-47J,ビジネスジェット機U-4などである。飛行コースについて
xx飛行場周辺での航空機の飛行コースは,南北の直進コース,東西の旋回コースに大別される。
15 南北の直進コースはxx飛行場に離着陸する航空機の取るコースであ
る。一般的に離陸の方が着陸より高出力のため騒音のピーク値が高く持続時間も長いが,他方,着陸は進入角度が小さく低空で進入してくるため,騒音の影響はすさまじい。
また,東西の旋回コースは,搭乗員の離着陸訓練の際に取られている
20 コースで,2機から8機の編隊で行うこともある。旋回コースは多様で
広範囲にわたり,発生する騒音は滑走路延長線上の測定点では捕捉されにくいが,周辺住民の被害感は強い。
飛行訓練について
xx飛行場では,常駐機及び飛来機による物資投下訓練やパラシュー
25 ト降下訓練,旋回訓練,タッチアンドゴーを日常的に行っている。
xx飛行場の常駐機であるC-130ハーキュリーズの頻繁な低空・
旋回訓練のほか,他基地からの飛来機を含めた戦闘機,ヘリコプターや警戒機等による旋回訓練が住民を苦しめ続けている。
また,飛行訓練としてサムライサージ訓練(輸送機の運用能力向上のため,多数機により編隊飛行などを行う訓練),緊急管理演習(略称E
5 ME。大地震,航空機事故等の重大事故における対応訓練),初動対応
即応演習(略称IRRE。緊急事態発生に対する初動の対応を行う訓練),運用即応演習(略称ORE。仮想戦闘環境における基地の機能テスト),戦闘対応即応演習(略称CERE。戦闘装備品等の確保に迅速に対処するための対応訓練)等が行われている。これらの訓練は激しい
10 騒音を長時間にわたって発生させる。
なお,平成27年5月12日,日米両政府は,対テロ作戦等を主要任務とするCV-22オスプレイを平成29年後半以降にxx基地に配備することを公表しており,今後,騒音の更なる激化が懸念されている。
イ xx飛行場における航空機騒音の特徴
15 xx飛行場は,民間飛行場と異なり, 定時に飛行がされるわけではな
く,住民は,いつ爆音に曝されるか分からない上,日中のみならず深夜,早朝も飛行し,国際情勢や米国の都合により,いつ飛来する航空機の数や種類が増加して騒音が飛躍的に増加するかも分からない。
xx飛行場に離着陸する航空機は,大別するとジェット機,プロペラ機
20 及びヘリコプター機よりなるが,民間機と異なり,航続距離や運搬能力を
重視する軍用機はエンジンの低騒音化を施しておらず,騒音に配慮した飛行方法もとられていない。
このうち,ジェット機の騒音は,その主成分が中高音域にあり,プロペラ機と比べて1000ないし4000Hzの周波数域での音圧が高く,4
25 000Hz以上の周波数域では圧倒的に音圧が高い。ジェット機の高音
圧・高周波成分の騒音は,かん高い金属音となって響き,人に不快を感じ
させる原因となっている。例えば,KC-135ストラトタンカー(空中給油・輸送機)は4000Hz付近の高音域に主成分があるため,xx飛行場に飛来する米軍機のなかでも最もやかましく感じられる機種の一つである。
5 プロペラ機は,75ないし300Hzに主成分があり,高音域になるに
従って音圧レベルが急速に低下し,また出力も小さいが,基地周辺ではジェット機よりも低空を低速度で飛行するため,高騒音・長時間の被害を住民に与える。
ヘリコプター機は,それ自体の騒音はプロペラ機ほどではないにして
10 も,プロペラ機よりさらに低空を低速度で飛行するため,結局高騒音・長
時間の被害を住民に与えており,さらに後述する低xxxの影響もある。ウ 防衛施設庁方式によるW値を騒音の評価指標とすべきであること
航空機騒音の評価指標としては,従来,W値が用いられてきたが,一口にW値といっても,前述のとおり,我が国では昭和48年環境基準に
15 基づく環境庁方式と防音工事助成措置等に関して用いられてきた防衛施
設庁方式の2つの方式が併用されており,これらは基礎となる数値の取り方や計算方法が異なる。
これらのW値の算定方式のうち,過去の基地騒音訴訟において用いられてきたのは,防衛施設庁方式によるW値であり,本件でもこの算定方
20 式によるW値が用いられるべきである。
すなわち,軍用空港は,一定の航空機が定期的に運航する民間空港に比べ,航空機の機種,飛行回数,飛行経路,飛行態様が格段に多種多様で複雑であり,同一地点でも航空機による騒音のピークレベルと継続時間の変化が大きく,ほとんど飛行がない日がある一方で1日に100回
25 を超える飛行が行われる日もあるなど日によって騒音への曝露状態が大
きく異なることから,環境庁方式によるW値では住民のうるささの反応
に適合せず,航空機騒音に対する受忍限度を判断する指標としては不適当である。これに対し,防衛施設庁方式では,上記のような軍用空港の特殊性に鑑みた補正が施されており,より適切に騒音とこれに対する住民の反応を評価することができる。
5 これに対し,被告は,防衛施設庁方式は,実際の飛行回数に補正など
をしているため,騒音が現実に生じたと推定されるわけではないなどと主張するが,上述のとおり,同方式は,軍用空港の特殊性をより正確に反映させるための算定方式であって,飛行回数の補正も,実証データに基づいた妥当性と合理性をもたせるために行われるものである。軍用空
10 港周辺の航空機騒音について環境庁方式と防衛施設庁方式のそれぞれで
W値を算出すると,環境庁方式の方がW値で3~5程度低くなることが確認されており,環境庁方式では軍用空港周辺の騒音を過小に評価することになる。
さらに被告は,昼間の騒音を控除して環境省方式で算定した昼間騒音
15 控除後W値なるものにより航空機騒音の内容及び程度を判断すべきであ
ると主張するが,W値とは一定の地域を一つの社会環境的な単位として
1日24時間を前提に評価する尺度であるから,子どもや老人,健康な人や病人,会社員や自営業者,家庭の専業主婦や学生など,様々な生活パターンの人がいることを当然の前提としており,昼間に当該地域にい
20 ない人がいるという理由で昼間の騒音を控除することはW値の前提条件
を覆すものである。
昼間の騒音被害が共通損害とはいえないとの主張も,原告らが主張する後述の共通損害の考え方を誤解するものであって,失当である。
エ 騒音の実態
25 被告が防衛省北関東防衛局のウェブページで公開しているxx飛行場の
xx( xx町箱根ヶ崎)と南側( 昭島市xx町)の行政財産内の2地点
(以下,単に「瑞穂」,「昭島」と表示する。)の自働測定結果(甲B2
76の1~287の9。70dB以上,継続時間3秒以上の航空機騒音が測定対象)を原告らが年度集計した結果によれば,xx基地の航空機の飛行実態は次のとおりである。
5 1日平均飛行回数
H17 | H18 | H19 | H20 | H21 | H22 | H23 | H24 | H25 | H26 | H27 | H28 | |
昭島 | 25.9 | 28.6 | 29.0 | 30.0 | 26.4 | 28.2 | 29.3 | 26.6 | 28.0 | 28.5 | 29.1 | 26.7 |
xx | 32.2 | 29.4 | 26.1 | 29.3 | 28.0 | 29.3 | 25.3 | 24.5 | 26.6 | 28.5 | 28.6 | 25.9 |
次のとおり, 昭島での最近の1日平均飛行回数は28回から30回で,告示コンターが告示された平成17年の25.9回から明らかに増加しており,xxでも同程度で,依然として高い水準にある。
1日最大飛行回数
10 次のとおり,昭島では平成23年度に119回に達しており,平成2
H17 | H18 | H19 | H20 | H21 | H22 | H23 | H24 | H25 | H26 | H27 | H28 | |
昭島 | 107 | 109 | 105 | 107 | 109 | 118 | 119 | 94 | 98 | 106 | 110 | 102 |
xx | 115 | 96 | 92 | 93 | 115 | 96 | 106 | 96 | 100 | 112 | 113 | 108 |
4年度にいったん減少したものの,その後はまた増加に転じて,100回を超える飛行回数を記録している。xxでは平成21年度以降増加傾向にあり,平成23年度以降は6年間のうち5年間において,100回を超えている。
15 団らん時間(19時から22時)及び深夜(22時から0時)と早朝
(0時から7時)の飛行回数
次のとおり,団らん時間の飛行回数は,昭島においては,平成23年度以降,年間2000回前後へと増加した上,平成27年度には216
3回に達して増加の一途にあり,xxでも同様に増加している。
昭島 | H20 | H21 | H22 | H23 | H24 | H25 | H26 | H27 |
団らん時間 | 2241 | 1706 | 1889 | 0000 | 0000 | 0000 | 1962 | 2163 |
深夜 | 40 | 24 | 48 | 34 | 24 | 18 | 23 | 18 |
早朝 | 199 | 281 | 240 | 215 | 170 | 86 | 97 | 95 |
xx | H20 | H21 | H22 | H23 | H24 | H25 | H26 | H27 |
団らん時間 | 2021 | 1699 | 1966 | 0000 | 0000 | 0000 | 1989 | 2138 |
深夜 | 32 | 21 | 40 | 20 | 27 | 19 | 14 | 30 |
早朝 | 209 | 233 | 179 | 146 | 122 | 92 | 126 | 104 |
深夜早朝の時間帯の飛行は,平成5年日米合同委員会合意によって原則として禁止されているにもかかわらず,依然としてなくなっていない。特にxxで近年増加に転じており,早朝については,昭島,xxの
5 いずれでも平成26年度に増加に転じており,今後も増加が起こらない
という保証は全くない。
また, 平成27年度を例にすると, 深夜早朝の合計は昭島で113回,xxで134回となり,平均では3日に 1 回程度の割合となる。しかし,原告らが実感する騒音状況は年間飛行回数のみでは評価できず,
10 昭島市の拝島第二小学校における時間帯毎の自働測定結果(甲B234
の8)を見ると,同年11月22日夜間から23日早朝にかけては,多くの人が就寝している午後11時から午前5時台に合計7回もの飛行があり,騒音によって一晩に7回も睡眠を妨害されるという深刻な被害の実態がある。
15 依然として高いW値
防衛省北関東防衛局の測定によるW値は,被告によれば環境庁方式で算定したものというのであるから,上記ウのとおり防衛施設庁方式のW
値に換算する必要があり,この数値に両方式の開差を100パーセント含む数値である5Wを加算するのが相当である。そうすると,下表のとおりとなり,昭島では横ばいで,xxでは平成26年度に87Wに達するなど増加傾向といえる。航空機の運航態様が不定であるため,騒音曝
5 露量が一定せず,期間ごとの変動幅が大きいという軍用空港の特殊性を
H22 | H23 | H24 | H25 | H26 | H27 | H28 | |
昭島 | 85.1 | 84.8 | 84.9 | 84.3 | 85.6 | 83.5 | 83.4 |
xx | 85 | 85.1 | 85.1 | 84.4 | 87 | 84.8 | 85.4 |
考慮すると,いずれにおいても全体的には告示コンター上のW値と概ね同程度ないしこれに近似した結果を示しているといえ,xxxx場周辺の騒音曝露量は高水準のまま維持されている。
オ 告示コンターで捕捉されていない深刻な騒音の実態
10 飛行経路の種類
米軍の平成27年の発表(甲B167)によりxx飛行場における飛行経路には次の①~⑤があることが明らかとなったが,告示コンターの基礎となった平成15年度調査ではそのうち①と④が調査の中心とされており,その余の3つは捕捉されていない。
15 ① 有視界飛行方式(Visual Flight Rule。以下
「VFR」ということがある。)による平均海面からの高度2000フィート(約600メートル)地点での矩形パターン(以下,このパターンを「場周経路」という。)
VFRとは離陸後に目視にて位置を判断する飛行方式をいい,これ
20 によって飛行する航空機の離着陸の際に定められた場周経路を飛行す
るものである。タッチアンドゴーや旋回訓練などVFRで滑走路を使う飛行機は全てこの場周経路に集中する。ただし,場周経路の運用実
態は,パイロットが目視で飛行するため,幅がある。
② VFRによる平均海面からの高度1500フィート(約450メートル)地点での場周経路
③ | VFRオーバーヘッド・パターン | |
5 | 有視界飛行方式で, 通常の場周経路よりも高い高度( 2500フ | |
ィート。約750メートル)で飛行する航路である。飛行場上空まで | ||
速度と高度を落とさずに近づくことができ,敵機が接近して急襲して | ||
きた場合に迅速に対処するための訓練ルートである。 | ||
④ | レーダー矩形パターン | |
10 | 計器飛行方式による滑走路延長線上の飛行航路である。 | |
⑤ | ヘリ移行パターン | |
ヘリコプターの場周経路である。 |
捕捉されていない飛行方法・飛行経路の存在
平成15年度調査 ②やそれよりも低空飛行を行っている
15 ③について全く考慮されておらず,さらに,飛行
方法についても,滑走路延長線をそのまま離陸することを前提にしているところ,xx飛行場における一般的な飛行方法のうち,西側を26マイルまで進出してから東側に飛行し,通常より低高度で飛行する離陸方法や,激甚な騒音を発生させる5500フィートからの急降下訓練や,
20 場周経路外における旋回訓練などは捕捉されていない。平成15年度調査のその余の問題点
その他,平成15年度調査は,滑走路延長線上と場周経路だけに特化した調査地点しか設けられておらず,調査日数も少ないほか,深夜の時間帯における飛行を調査しておらず,また,調査対象とした機種を8つ
25 に絞り,かつ機種識別を自動騒音測定装置に頼って調査してしまってい
るという点でも問題点がある。
以上のとおり,平成15年度調査には問題が多く,騒音の実態を十分に捕捉しておらず,実際の騒音被害はより深刻である。
⑵ 地上騒音による侵害
地上騒音とは,タクシーイング音(航空機が離着陸の前後に駐機場と滑走
5 路を行き来する際の騒音),APU(駐機中の航空機に空気圧,油圧,電力
などを供給するために装備された補助動力装置)等の空港場内音,航空機の整備に伴うエンジン試運転の音,離着陸前のエンジン調整音,離陸直前のランナップ音などの上空ではなく飛行場内から発生する音のことをいう。
原告らが平成28年3月23日から同月29日にかけて専門業者に依頼し
10 て行った騒音測定結果(甲B239)及び同年1月29日に実施された本件
検証期日における騒音測定結果(甲B161)によれば,xx飛行場周辺に おいてタクシーイング音等が確認されたほか,原告らも地上騒音の発生を訴 えており,離着陸が続く際には地上騒音は長時間続き,早朝や深夜に発生す ることもあって,その程度は到底看過することができない重大なものである。
15 しかるに,WECPNLでは,航空機の離陸や着陸に伴い発生する飛行騒音
が主として評価の対象となっており,地上騒音は評価の対象となっていない。
⑶ 航空機の排気ガス,振動等による侵害
ア 航空機に使用されるジェット燃料は天然の原油を精製して得られる成分を主体に構成され,市販されている灯油やガソリンに幾分近い性質を備え
20 ているため,排気ガスを発生させる。xx飛行場を離着陸する航空機は,
一酸化炭素,窒素酸化物などの大量の排気ガスを原告らが住む地域にまき散らして,原告らの家の壁やベランダ等に汚れを生じさせたり,健康への悪影響を生じさせたりしている。
イ 航空機が周辺地域の居宅の上空を通過する際,家屋が振動し,場所によ
25 っては,屋根瓦やタイルの落下,外壁のひび割れ,居宅の家具の振動等の
事態も生じている。
⑷ 航空機の墜落及び落下物等の危険による侵害ア 航空機の墜落及び落下物の事故の危険性
xx飛行場周辺では,従前から航空機の墜落及び落下物の事故が頻繁に発生している。過去にこのような事故があったという事実自体が,墜落及
5 び落下物の事故により,自己の生命,身体,財産が侵害されるかもしれな
いという現実的な恐怖感を抱かせるものである。また,オスプレイも複数回飛来しており,原告ら周辺住民に,墜落事故の恐怖,不安をもたらしている。
イ 基地施設からの燃料漏出事故等の危険性
10 xx飛行場では,航空機燃料の漏出事故や火災事故が多数回発生してお
り,原告ら周辺住民に対して大事故の不安を与えるだけでなく,周辺環境を汚染し,住民の良好な自然環境を奪っている。
ウ 米兵の犯罪事件による侵害の危険性
従前からxx基地所属の米兵による犯罪事件も多数起きており, こ
15 れによっても, 原告ら周辺住民は, 生命, 侵害, 財産侵害の危険, 不
安にさらされている。
⑸ 低xxxによる侵害
低xxxとは人間の耳には聞こえにくい100Hz以下の周波数の音であり, 壁や屋根を突き抜けて伝播する特徴を持つ。低xxxは従前実
20 施されてきたA特性レベルによる騒音測定では捕捉できなかったが, 原
告らが琉球大学のxxxx准教授に委託して平成27年9月20日から同月26日に行った低xxx測定報告書( 甲B267。以下「本件低xxx測定報告書」という。) によって, xx飛行場に定期的に飛来する C- 5ギャラクシーや常駐機であるC- 130等から相当程度の低周波
25 音が発生していることが確認された。低xxxに関する環境基準はまだ
策定されていないが, 環境省は, 一定の数値を超えた場合に低xxxの
被害が発生する目安として参照値を公表しているところ, C- 5ギャラクシーもC- 130もこの値を大きく超えるレベルの低xxxを発生させている。この調査は期間が短い上, xx飛行場南側の1地点のみで行われたものであり, xx飛行場の低xxxの実態を表したものとはいえ
5 ないが, その一端を明らかにした意味は大きい。また, 常駐機であるヘ
リコプターUH- 1を始めとする他の航空機や地上騒音も低xxxを発生させており, 原告らが低xxxの心理的影響とされる不快感, イライラ感, 圧迫感及び物的影響とされる振動といった被害を訴えていることからも, xx飛行場周辺における低xxxの発生は明らかということが
10 できる。なお, xxx基地に関し福岡高等裁判所那覇支部が平成22年7
月29日に言い渡した判決(同裁判所支部平成20年(ネ)第125号・判例 タイムズ1365号174頁,判例時報2091号162頁。以下「xxx 平成22年控訴審判決」という。)及び那覇地方裁判所沖縄支部が平成28 年11月17日に言い渡した判決(同裁判所支部平成24年(ワ)第121号,
15 443号。以下「xxx平成28年一審判決」という。乙217) も低x
xxによる被害を認めている。
4 航空機騒音その他の前記3の侵害による被害
⑴ 総論
ア 原告らxx飛行場周辺住民の被害の多様性・重大性
20 原告らの居住地域は,都心への通勤圏内にあるベッドタウンであり,
航空機による騒音等がなければ,豊かな自然環境に恵まれて静穏な生活を営むのに絶好の条件を備えた地域である。
しかし,原告らは,xx飛行場に離発着する航空機の騒音その他の前記
3の侵害(以下「航空機騒音等」という。)によってxxにわたって苦し
25 められ続け,様々な被害を受けている。
xx飛行場に離発着する航空機の騒音は,間欠的かつ衝撃的であるが,
その音量が日常生活において他の例を見ないほどに強大であり,ジェット機による金属音や大型輸送機による振動を伴う威圧的な音など,その音色も耐え難いものである。また,航空機による騒音や振動は,周辺のxxな地域に均質的に及ぼされ,原告らの頭上から突如として襲い掛かってくる
5 もので,防音壁や家屋による遮音の効果もほとんど期待できない。
原告らは,日夜を問わず,防止困難な航空機騒音等により生活環境を著しく破壊されているほか,xx飛行場が軍事基地であることから生ずる特有の危険性を感じており,静穏かつ安全な日常生活を享受する権利や平和的生存権を侵害されている。
10 このように,航空機騒音等により,原告らは,後記⑵以下のとおり睡眠
妨害,高血圧等の身体的被害,家族の団らんの妨害をはじめとする日常生活の妨害(墜落や落下物等の恐怖を含む。),心理的・情緒的被害をはじめ生活全般に深刻かつ重大な被害を被っている。
イ 共通損害
15 原告らが航空機騒音等によって受けている被害は,原告ら各自の年齢,
性別,家族構成,職業,居住条件,生活形態等の個別的条件の相違に応じて,その内容,程度及び発現形態を異にする。
しかし,本件における原告ら各自が受けている被害は,xx飛行場に離発着する航空機の騒音等に起因して発現したものである点で共通するもの
20 であり,均質的な騒音により生活環境を破壊されている点でも共通してい
る。また,原告らは,各自が受けた具体的被害の全部について賠償を求めるものではなく,原告らの被害に伴う精神的苦痛を慰謝料という形で請求するのであるから,その精神的苦痛を一定の限度で原告ら全員に共通する損害と捉え,その限度において各自一律に慰謝料として賠償を求めること
25 ができる。このような考え方は大阪空港訴訟に係る最高裁大法廷判決(昭
和51年 第395号同56年12月16日・民集35巻10号1369
頁。以下「大阪空港最高裁大法廷判決」という。)や前記「第2部 前提となる事実」第6のxx飛行場を巡る従前の第xx,控訴審及び最高裁の判決を始めとする累次の航空機騒音訴訟でも広く認められてきたところである。
5 ⑵ 睡眠妨害
国内外において,騒音が人の睡眠に及ぼす影響について多くの調査・研究がされており,航空機騒音により睡眠妨害が生じることは科学的に明らかにされている。具体的には,①世界保健機関(以下「WHO」という。)は,平成11年に環境騒音のガイドライン( 甲C8。以下「WHOガイドライ
10 ン」という。)を作成し,その中で,睡眠妨害が環境騒音の主要な影響の一
つであるとして,騒音によって睡眠に一次的影響が生じ,更に騒音を受けた次の日にも不眠感などの二次的影響が生じるとして,睡眠妨害を防止するためのガイドライン値を定めているほか,②欧州夜間騒音ガイドライン(甲C
20)はWHOガイドラインを補完して,夜間の騒音による睡眠妨害が健康
15 影響の重要な要因であるとして夜間騒音による健康影響が生じないようにす
るガイドライン値を定めている。さらに,③沖縄県の委託で平成11年に行われた嘉手納,xxx両基地の周辺住民の健康影響調査の報告書(甲C7。以下「沖縄県健康影響調査報告書」という。)や④xxxxxx療協会城北病院のxxx医師(以下「xx医師」という。)らが平成23年に実施した
20 小松基地周辺住民の戦闘機騒音による健康影響調査(以下「xx基地調査」
という。)の報告書(甲C11の1・2。以下「小松基地調査報告書」という。)でも,航空機騒音により睡眠妨害や不眠症が生じているとの分析結果が報告されている。
本件では,欧州夜間騒音ガイドラインの睡眠妨害による健康影響を防ぐた
25 めのガイドライン値であるLnight,outside(22時から翌7時までの夜
間に発生した騒音についての等価騒音レベルを示す指標で屋外での計測値か
ら計算するもの)40dBを超える夜間騒音が発生している。さらに,70 Wを超える騒音が発生している旧75W地域に居住する原告らを含めた原告らの居住地域全域において,原告らは,日中はもちろん,大多数の人間が1日の疲れを癒やし,子どもや体調の悪い者にとっては睡眠導入の時間帯とな
5 る午後7時から午後10時の時間帯や,多くの人が睡眠を取る時間帯である
午後10時から翌朝午前7時の深夜早朝にも航空機騒音に曝され,人間としての生活にとっても,心身の健康にとっても重要なはずの睡眠を妨害されている。
⑶ 身体的被害・健康被害
10 騒音は,人間に物理的ないし精神的・社会的ストレスを与える外部刺激の
一つであり,直接的には聴覚器に作用して,一時的又は永続的に聴力を損なうほか,間接的には,自律神経を介した生体反応,内分泌反応,免疫系の変動が生じ,これらが相関し合って循環機能,呼吸機能,代謝機能,消化機能などに変化をもたらし,騒音量が一定量を超えて身体に影響を与えると,
15 様々な疾患・体調不良が生じる。WHOは,「健康」について,「身体的,精
神的,社会的に完全に良好な状態であり,単に病気又は虚弱でないことではない」と定義しており,騒音により健康が害されているかについては,疾病等が生じているかのみならず,精神的・社会的な良好状態が害されているかという点からも判断すべきである。WHOガイドラインによれば,騒音によ
20 り身体的被害が生じることが確立されているとされているほか,xxxx北
海道大学教授が嘉手納基地周辺の住民の高血圧の有症者数が1000人以上 と推定される旨を算定した意見書(甲C24。以下「xx意見書」という。),沖縄県健康影響調査報告書,xx基地調査報告書などによれば,①高血圧・ 虚血性疾患などの心循環器系疾患,②聴力障害,耳鳴り,③流産や早産など
25 の妊婦に与える影響,④心身不調,自律神経失調症等の精神障害,胃への影
響,発がんの促進その他の原告らに共通して発生している身体的精神的影響,
⑤騒音を原因とする睡眠妨害に起因する各種健康被害,⑥会話や日常生活上 の重要な音が聞き取れないという聴取妨害などの聴覚への影響,⑦認知能力 の低下に伴う作業,学習に対する影響,⑧音そのものによって生じる不快感,
⑨騒音への感受性が強い子どもの認知障害,行動・情緒障害は,全て騒音を
5 原因とする健康被害に該当する。以上のように原告らは騒音により日々健康
をむしばまれながら生活を送っており,単に「うるさい」というだけではなく,身体的・健康的な被害という側面から騒音被害をとらえなおすべきである。
⑷ 日常生活の妨害
10 ア 騒音による会話の中断と電話・テレビ等の聴取妨害
原告らは,航空機騒音により,家族,親族,近隣住民,友人知人らとの会話や電話での通話を妨害され,仕事に支障が出ているほか,テレビ,ラジオの視聴や音楽鑑賞を妨害されている。
イ 思考,読書,仕事,趣味等知的作業に対する妨害
15 原告らは,いつ発生するか予測ができない航空機騒音により,知的作業
を妨害されている。新聞,雑誌,書籍を読んだり,文章を書いたりするこ とや,俳句,詩歌,書道,楽器演奏などの趣味も妨害されている。さらに,家事労働,自宅を仕事場としている業務,文筆業,美容・理容業,事務仕 事その他の作業を妨害されており,業務能率も低下している。
20 ウ 家族の団らんや休息時間の妨害
午後7時から午後10時までは本来家族で楽しく会話をしたり,食事をとったり,テレビを見たりといういわゆる団らんの時間であり,ゆっくりと穏やかに過ごす休息の時間であるが, xx飛行場周辺では,この団らん・休息時間帯に前記3⑴ のとおり年間2000回を超える航空機騒
25 音が発生しており,これら家族のコミュニケーションが中断され,家族の
団らんや休息が破壊されている。
エ 騒音の感受性が高い人への影響
病気療養中の人,障害者,高齢者,妊婦,乳幼児にとっては,強大な航空機騒音下での生活による精神的苦痛は特に厳しく,身体的影響も健常者に比して一層強く,その影響は大きいものである。
5 オ 学習,勉学,学校の授業等の妨害,思考力や集中力の低下,特に年少者
への悪影響
原告らの居住地域には,多数の小,中,高等学校が存在する。児童生徒らは,航空機騒音によりしばしば授業が中断し,集中力を妨げられ,授業の効果が低下している。さらに,自宅や学習塾,自習xxで静かに学習す
10 ることも妨げられている。児童生徒らは,騒音のためにイライラし,落ち
着きを保てず,思考力や集中力が低下している。特に年少の子どもらは,大切な成長期にあるため,人格形成上の被害は大きい。
⑸ 心理的・情緒的被害
xx飛行場に飛来する航空機は大型軍用機が多く,その騒音は,日常生活
15 上,他に類を見ないほどの強大さであり,かつ金属性の痛音である。このよ
うな騒音に日夜さらされている原告らは,いずれも強い不快感,いらだち,イライラ感を覚え,神経過敏となっているのみならず,常に航空機の墜落および落下物の恐怖,不安に怯えている状況である。中には,これが高じてノイローゼその他,精神,神経症状を訴える者もいる。また,騒音によりテレ
20 ビの音や会話が聞こえなくなったり集中力が途切れたりすることから,日常
生活や学校生活において気短になったり,イライラし,落ち着きがなくなり,集中力を欠き,飽きっぽくなったり,神経質な性格になったりもする。さら に乳幼児期に航空機騒音にさらされたことによって過敏な反応を起こしたこ とが原因で,子どもの人格形成に悪影響を及ぼしたり,将来の悪影響の発現
25 を心配したりすることもある。
そしてこれらの被害は,WHOが,アノイアンスとして,心理的・情緒的
被害というよりもそれ自体を健康被害としてとらえているのみならず,それによって健康を害する誘因となる点でも重大なものである。
⑹ その他の被害
ア 交通事故の危険
5 原告らの居住する地域では,激甚な航空機騒音により,自動車のエンジ
ン音,クラクション音,接近音等がかき消されることもある。そのため,原告らは,自動車等の接近に気付かず,事故に遭う危険を感じている。
イ ペットに対する悪影響
犬,猫などのペットの飼育やペットとの生活は,都市近郊の住宅地域で
10 ある本件被害地域でも,通常の市民生活において欠かすことのできない存
在になっている。航空機騒音に怯えるのは,犬,猫等のペットも同様であり,怯えるあまり,吠えるなどしたことが近隣で問題になり,対人関係を悪化させたりすることもある。
ウ 戦争の想起による精神的苦痛
15 原告らの中には戦争を体験した者もおり,そうでなくとも,xx飛行場
を離着陸する米軍機等の騒音により原告らは戦争を想起せざるを得なくなるという精神的苦痛を受けている。
エ 排気ガスによる被害
大型ジェット機は,自動車とは比べものにならない大量の排気ガスを排
20 出する。原告らが居住する地域の大気は,xx飛行場を離発着する航空機
の排出する排気ガスにより汚染されている。また,この排気ガスにより,屋根や物干し竿,住宅外部の手摺り等のベタつき,洗濯物の黒ずみ等が観察されることもある。
オ 家屋の振動
25 xx飛行場に飛来する航空機,特に大型ジェット輸送機の飛行音は,他
の騒音源と比較して著しく大きく,その高速進行が大気にもたらす衝撃は
極めて強烈である。原告らが居住する地域では,航空機が飛行するたびに,家屋が振動し,場所によっては,屋根瓦やタイル等の落下,外壁のひび割 れ等の危険がある。
5 損害賠償請求について
5 ⑴ 受忍限度を超える違法な侵害行為
ア 告示コンター内地域(75W以上の地域)に居住する原告
侵害行為の違法性が認められるためには, 当該侵害行為が社会生活上受忍すべきであると考えられる範囲を超えていることを要するとされるところ,その判断要素としては,「侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害
10 利益の性質と内容, 侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容
と程度等を比較検討するほか, 侵害行為の開始とその後の継続の経過及 び状況, その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきも の」とされている(大阪空港最高裁大法廷判決)。
15 xxxxxx音被害については, xxxx0x最高裁判決において7
5W以上の地域に居住する原告については受忍限度を超える違法な侵害行為が存在することが認められた。また, xxxx00年控訴審判決においても, 同様の判断をしており, この判断はxxxx00年最高裁判決において確定している。本件訴訟においても, かかる地域に居住する
20 原告らに対する侵害行為が受忍限度を超える違法なものであることは明
白である。
イ 旧75W地域に居住する原告
告示コンターでは指定区域外とされている旧75W地域に居住すると主張する原告番号323番,713番,801番,816番,817番,
25 1067番の6名の原告ら( 以下, 一括して「指定区域外原告ら」とい
う。)も,次の理由により,75W以上の地域に居住する原告らと同様,
同程度の航空機騒音等を原因とする身体的被害, 睡眠妨害, 日常生活妨害その他の被害による精神的苦痛を受けており, 受忍限度を超える被害を受け続けていることが明白である。
前記3⑴エのとおり, 航空機騒音の実態は平成15年度調査よりも深
5 刻である上,A特性を前提として実施された同調査ではA特性では拾いき
れない高レベルの低xxxは捕捉されていないし, 前記3⑵の地上騒音もほとんど反映されていないから,実際には深刻な騒音被害が告示コンターの範囲を超えた指定区域外原告らの居住地域にも生じている。
また,環境基本法16条の規定に基づき,人の健康の保護及び生活環
10 境の保全のうえで維持されることが望ましい基準として環境基準が示さ
れており, 航空機騒音に関しては, 環境庁の告示( 昭和4 8 年環境基準)により,指定区域外原告らの居住地域を含む専ら住居の用に供される地域( Ⅰ類型) では70W以下, Ⅰ類型以外の地域で通常の生活を保全する必要がある地域(Ⅱ類型)では75W以下と定められている。こ
15 れは, 科学的知見を前提として調査研究の結果をもとに政策的な要素も
加味して, 本来達成されるべき基準よりも緩和した基準であるところ,過去の調査で70W地域に居住する住民にも騒音による深刻な影響が生じることが明らかになっていること, xx飛行場が軍用の飛行場であることなどに照らして, 最低限達成されるべき環境基準は防衛施設庁方式
20 での70Wとすべきである。指定区域外原告らの居住地域は, もともと
は75W以上の地域であったが,平成19年5月1日に発効した第一種区域指定解除の告示( 平成17年告示) により除外されたにすぎず, 実質的には, 75Wのコンターの外縁から至近距離に位置して従来と変わらぬ質・量の騒音に悩まされ続けているのであり, これらの原告らの居
25 住地が,少なくとも70W以上の騒音地域であることは明白である。
さらに,欧州夜間騒音ガイドラインは,ガイドライン値をLnight,o
utside 40d Bと定めているから, 同ガイドライン値を超える地域に も, 受忍限度を超える騒音被害が生じていると見るべきである。そして,原告らの依頼で作成されたLn i g h t , o u t s i d e による騒音コンター図
(甲C29。以下「原告夜間騒音コンター図」ということがある。)のと
5 おり, 指定区域外原告らの居住地は, いずれもLnight,outside 40
dBを超える地域である。
以上より, 指定区域外原告らも,75W以上の地域に居住する原告らと同様, 被告又は米軍がxx飛行場で発する騒音等により, 共通の被害を受け続けていることが明らかであり, かかる被害は, 音環境や静穏に
10 対する社会的な価値が変化し, 静音を求める社会的な要請が強まってい
る社会背景も併せ考慮すれば,受忍限度を超えるものというべきである。
⑵ xx飛行場の公共性に関する被告の主張に対する反論
被告はxx飛行場には高度の公共性が認められ,受忍限度も高くなると主張する。しかしながら,憲法の規定する平和主義(前文,9条,13
15 条)に照らして,軍事的公共性は否定されるべきである。また,国防は他
の行政部門と同等のものとみるべきであること,むしろ国防には外部からの攻撃対象にされるのではないかという不安感を与えるなどの消極的側面があること,仮に公共の利益の実現に資するとしてもxx飛行場の周辺住民という一部の者を犠牲にすることは不xxであることに照らせば,xx
20 飛行場に高度の公共性は認められない。したがって,騒音被害の違法性
(受忍限度)の判断に当たってこれを斟酌し,または重視することは許されない。
ましてや,xxxx00年控訴審判決においては,長きにわたり騒音等の被害を放置し続けてきた国の姿勢を「法治国家のありようから見て,異
25 常の事態で,立法府は,適切な国防の維持の観点からも,怠慢の誹りを免れない。」と厳しく糾弾し,かかる違法状態の是正が強く求められたとこ
ろである。しかし,現状はいまだ変わらないばかりか,かえって新たにxx基地に自衛隊航空総隊司令部を移転させるなど,被告は上記判決の指摘及び度重なる最高裁判決を無視し続けているのであり,かかる被告の姿勢自体,上記侵害行為の違法性を高めるものである。
5 なお被告は,航空機環境基準は受忍限度を画する基準ではないと主張しつつ,同基準の類型Ⅱの地域に居住している原告らについては受忍限度を
80Wとすべきであるなどと主張するが,自己に都合の悪い時は環境基準を軽んじ,都合のよい時にだけこれに依拠するという極めてご都合主義的な主張といわざるを得ない。被告の主張のように地域類型を考慮するので
10 あれば,類型Ⅰの地域では受忍限度を70Wとすべきである。
以上のとおり,被告の侵害行為は,人格権,環境権及び平和的生存権を侵害するものであって著しい違法性を有し,受忍限度を優に超えるものである。
⑶ 被告の防音工事助成その他の周辺対策等の主張に対する反論
15 ア 住宅防音工事の実施状況について
被告の主張する原告ら(口頭弁論終結前に死亡した原告を含む。)の 住宅に対する被告の助成による防音工事の実施状況のうち,各工事の種別,各工事の完了年月日及び各工事により防音工事が実施された室数が別紙6「防音工事一覧表」の各該当欄記載のとおりであることについては,
20 原告番号17,18,129~132,183,184,187~190,
204,223,224,237~239,713,745,841~8
45,914~916,955,956,1061,1062の原告らに関する部分は平成28年12月時点で十分な資料の提出がなく,又は提出された資料と齟齬があるので知らず,原告番号983~990の原告らに
25 関する部分は,防音工事が実施された室数が1室にとどまるかについては
知らず,その余の原告らに関する部分は認める。
イ 住宅防音工事による減額について
被告は,住宅防音工事が実施された住宅については,航空機騒音に係る昭和48年環境基準の改善目標が達成できているなどとして,原告らの損害を減額すべきであると主張する。
5 しかしながら,仮に被告の主張を前提としても, そもそも,航空機環
境基準は屋外の騒音に関して設定されたものであり,屋内における騒音に関するものではない上,屋内におけるW値を60以下にすることは,昭和48年環境基準の告示後10年以内に達成されるべき改善目標にすぎず,最終的に達成されるべき基準そのものではない。
10 また,住宅防音工事の実態をみても,xx飛行場に関する住宅防音工
事は施工できる居室数が限られるなど対象が限定的であって,かつ効果がほとんどないか極めて乏しい。他方,防音工事を実施したほぼ全世帯が窓を閉めないと防音工事の効果が出ないと考えているところ, 居住者にとっては,窓を閉め切って生活をすること自体が苦痛であること, 住
15 宅防音工事によって湿気や結露が発生すること,気管支やのどの痛み,
ぜんそく,呼吸障害等の病気にかかりやすくなること,窓を閉め切ることで空調機器を使用する頻度が高くなって電気料金が高額になることなどの弊害が多々生じている。沖縄県健康影響調査報告書においても防音工事実施の有無で健康への影響につき著明な差が認められなかったとさ
20 れている。以上のように被告の主張する住宅防音工事は原告らの被害を
軽減するものではなく,これによる減額を認めるのは不当である。ウ その余の周辺対策について
被告が主張するその余の周辺対策の大部分は,騒音被害の軽減とは無関
係の施策であり,減額要素となるものではない。
25 ⑷ 被告の危険への接近の法理の主張に対する反論
xxxx00年控訴審判決は,危険への接近論について,大阪空港最高
裁大法廷判決の判断枠組みを前提としながらも,免責法理としても減額法理としても全面的に排斥し,この判決は確定したこと,近時の他の基地訴訟の判決においても,危険への接近論を排斥する判断がなされていることからすれば,本件においても,危険への接近論を適用すべきではない。
5 被告は自己責任の原則及びxxの理念を持ち出して危険への接近論の適用を主張するが,被告は,裁判所の度重なる違法の判断にもかかわらず,その違法状態を解消することなく被害を放置,拡大しているばかりか,被害実態等に関する情報を隠蔽してきたのであるから,そのような加害者である被告に自らの責任を棚に上げて自己責任の原則及びxxの理念を持ち
10 出す資格はない。
仮に危険への接近論の適用の可否を検討するとしても,原告らへの非難
可能性はなく, 原告らが騒音被害を容認していたものではない。すなわち,原告らは,経済的制約や通勤の便宜等諸般の事情を考慮した結果,各地域
に居を定めざるを得なかったのであり,また,被告が積極的に騒音被害の
15 範囲,程度,被害実態に関する情報を開示しない中で,原告らが住居の選
定に当たって騒音を現実に認識することは困難であるから,原告らの被害地域への転入は非難されるべきではないし,騒音被害を容認していたということもあり得ない。
さらに被告は,平成6年1月1日を基準日とし,同日以降の被害地域へ
20 の転入者につき被害を認容していたか,認識しなかったことに過失がある
などと主張するが,被告が主張するxxxx場に関する報道や告示は危険についての認容あるいは過失の根拠にはならず,また,航空機騒音はxx飛行場周辺に一定期間居住して初めて認識できるものであること等からすれば,同日が何らの基準日にもなり得るものではない。その他,個別の原
25 告に係る被告の危険への接近論の主張はいずれも失当である。
⑸ 原告番号25のフィリピン国籍の原告についての相互保証に関する被告の
主張に対する反論
ア 立証責任は被告にあること
国家賠償請求権を定めた憲法17条の規定の文言は「何人も」として対象を限定しておらず,また,国賠法1条1項及び同法2条1項は「他
5 人」とのみ規定し,日本国民ないし相互の保証の存在する国の国籍を有
する外国人という規定にはなっていない。そして,国賠法6条は,その者が外国人である場合に初めて,その外国人が国籍を有する国と我が国との間に相互の保証があるかどうかを問題にしている。このような憲法及び国賠法の規定の構造に鑑みると,当該原告についてフィリピン法に
10 よる相互保証がないことを被告が抗弁事実として主張立証すべきである。
イ 相互保証の要件を充足すること
そもそも,国賠法6条は違憲の疑いがあるところ,被害者救済の観点及び国際協調主義の観点も併せて考えれば,同条の要件を厳格に解釈すべきではなく,フィリピンにおいて日本人が同種の請求をした際に何ら
15 かの法的救済の途があれば相互保証の要件を満たすというべきである。
そして,フィリピンにおいては,外国人が国に対し損害賠償請求を行う場合に相互保証は求められず,民法等により一定の場合に国又は地方自治体が損害賠償責任を負うこととされているから,日本国民も,フィリピン政府に対し,法的救済を求めることができる。厚木飛行場に係る
20 平成27年7月30日東京高裁判決(判例時報2277号84頁。以下
「xxxx27年控訴審判決」という。) も,フィリピンでは国家無答責の原則が実定法上規定されているものの,その適用範囲は国の同意や裁判所の判断により限定されている場合もあり,同法理の存在を絶対視することはできないなどとして, フィリピン国籍の者について,国賠法
25 6条の相互保証の要件を満たすと判断した。
したがって,本件においても,フィリピン国籍の原告番号25の原告
は,相互保証の要件を充足する。
⑹ 原告番号883の原告に係る裁判所の補正命令への反論
上記の原告については,本来は,訴訟委任状の裏面に記載されているはずの代理人目録が印刷ミスにより空白となっていたが,他の書面によって授権
5 が明らかであれば足りるところ,第1事件について同時に裁判所に提出され
た他の訴訟委任状や世帯を同じくする娘である原告番号881の原告が作成した,原告番号883の原告が同一代理人に第1事件を委任した旨の陳述書
(甲C10の881の2)等によって授権の事実は明らかである。原告番号
883の原告は補正命令当時既に死亡しており,当該原告に訴訟委任状の提
10 出を命ずる補正命令は不可能を強いるもので民訴法59条,31条1項の要
件を欠き,無効である。
⑺ 損害額
騒音の人に対する有害性が広く周知され,静かな環境を確保することの重要さが意識されるようになったことや近時の航空機騒音訴訟における損
15 害賠償額の高額化傾向に加え,原告らがxx飛行場の航空機騒音等によっ
て受けている被害が単なる不快感にとどまらず,身体や健康,情緒あるいは日常生活等の様々な局面に及ぶ極めて重大な被害であること,何度も訴訟を提起しなければならない原告らの負担が大きいこと,xx飛行場の航空機騒音等への抜本的対策を執らずに放置している被告への制裁や不法行
20 為の抑止の必要性が高いこと等に照らせば,原告らが被った被害に伴う全
員に共通する損害は,どんなに少なくみても,原告ら1人当たり,慰謝料として1か月当たり2万円を下らず,それに伴う弁護士費用は慰謝料額の
10パーセントに相当する1か月当たり2000円が相当である。原告らは,提訴時までに発生した損害として,提訴日より遡って過去3年分(第
25 1事件原告らにおいては平成22年3月27日から平成25年3月26日
まで,第2事件原告らにおいては平成22年8月1日から平成25年7月
31日まで)の慰謝料と弁護士費用の合計である79万2000円をそれぞれ請求し,提訴日以降も1か月当たり2万2000円の支払を請求し,併せて上記79万2000円に対する各訴状送達の日の翌日から,提訴日以降分の毎月2万2000円に対する当該月の翌日1日から,各支払済み
5 まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
⑻ 口頭弁論終結日の翌日以降の将来の損害賠償請求の適法性
そもそも,将来の損害賠償の訴えを不適法として却下すべきものとした大阪空港最高裁大法廷判決の判断は,40年近く前のものであり,この判断に対する裁判所,研究者からの批判があることに照らし, 見直すべきで
10 あって,あらかじめその請求をする必要がある限り,将来の損害賠償請求
を認容すべきである。本件では,xx飛行場の基地としての重要性が増大し,騒音被害が継続しているから,あらかじめその請求をする必要がある場合に当たることは明らかである。
仮に,大阪空港最高裁大法廷判決の判断基準によるとしても,本件では,
15 xx飛行場周辺の航空機騒音の発生により被害地域で居住する原告らは受
忍限度を超える被害を受けているのであるから,請求権の基礎となる事実関係及び法律関係が既に存在するといえ,昭和51年の第1次訴訟の提訴から既に2度の最高裁判決を含む3度の確定判決により周辺住民の損害賠償請求が認容されるなど,xx飛行場周辺の航空機騒音の違法性は少なく
20 とも40年近くにわたって継続している。これに加えて,平成29年後半
からCV-22オスプレイが配備される計画があることからすれば,上記請求権の基礎となる事実関係及び法律関係の継続が予測される。
また,請求権の成否及び内容につき被告に有利な影響を生じ得る事情の変動としては,①航空機騒音状況の改善,②周辺住民の転居・死亡,③住
25 宅防音工事の実施状況の3点が考えられるが,上記①は騒音データ等に基
づく限り複雑な判断や評価を要しないものであるし,②は客観的事実とし
て明確であることに加え,③は前述のとおり原告らにとってその効果が期待できずそもそも被告に有利な事情とはいえないから,いずれも将来における事情の変動があらかじめ明確に予測し得る事由に限られているといえる。
5 さらに, 上記①及び②の立証の負担を被告に課すことの当否についても,
①は,被告はxx飛行場の設置者として航空機騒音の状況を最もよく把握し得る立場にあるから,被告が航空機騒音の発生状況の変化の事実を立証することが困難であるとはいえず,②についても,被告には住民票の写しの閲覧や交付請求が認められており,その調査確認が著しく困難であると
10 はいえないから,いずれについても請求異議の訴えによりその発生を証明
してのみ執行を阻止しうるという負担を被告に課しても格別不当とはいえない。
第2 被告の主張
1 差止請求の許否ないし可否
15 ⑴ 自衛隊機に対する差止請求が不適法であること(本案前の答弁)
差止原告らの請求のうち, 自衛隊機の離着陸等の差止めを求める部分は,厚木平成5年最高裁判決及び福岡空港に係る最高裁平成4年(オ)第
1180号同6年1月20日第xx法廷判決・裁判集民事171号15 頁(判例タイムズ855号103頁,判例時報1502号98頁。以下
20 「福岡空港最高裁判決」という。)が説示するとおり,防衛大臣に委ね
られた自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになるから, 民事上の訴えとしては不適法であり,却下されるべきである。
⑵ 米軍機に対する差止請求が主張自体失当であること
25 米軍機の運航等に伴う騒音等による被害を理由として,直接の加害者では
ない被告に対し,米軍機の差止請求をするためには,被告が米軍機の運航等
を規制し,制限することのできる立場にあることが必要であるところ,xx飛行場に係る被告と米軍との法律関係は,条約(地位協定2条1項⒜⒝)に基づくものであるから,被告は,条約及びこれに基づく国内法令に特段の定めがない限り,米軍のxx飛行場の管理運営の権限を制約し,その活動を制
5 限し得るものではない。
現在,関係条約及び国内法令に前記のような米軍機のxx飛行場における運航の規制等に関する特段の定めはないから,差止原告らの米軍機の差止請求は,被告の支配の及ばない第三者の行為の差止めを求めるものであって,主張自体失当である(xx平成5年最高裁判決,厚木平成5年最高裁判決,
10 福岡空港最高裁判決参照)。
したがって,差止原告らの請求のうち,米軍機の差止めを求める部分は,その主張それ自体から理由がないことが明らかである。
2 損害賠償請求権の法律上の根拠に関する原告らの主張に対する反論
原告らは,過去の損害の賠償を求める部分に関する適用法条として,民事特
15 別法2条並びに国賠法1条1項及び2条1項を挙げているが,本件損害賠償請
求については,端的に民事特別法2条の規定に照らしてその成否を検討すれば足りる。
すなわち,民事特別法2条にいう「土地の工作物その他の物件の設置又は管理に瑕疵があった」とは,国賠法2条1項における解釈と同様に,当該物件を
20 構成する物的施設自体に存する物理的,外形的な欠陥ないし不備によって他人
に危害を生ぜしめる危険性がある場合のみならず,その物件が供用目的に沿って利用されることとの関連において他人に危害を生ぜしめる危険性がある場合をも含み,また,その危害は,当該物件の利用者以外の第三者に対するそれをも含むものと解される(大阪空港最高裁大法廷判決参照)。
25 原告らは,xx飛行場が民事特別法2条にいう「合衆国軍隊の占有し,所有
し,又は管理する土地の工作物その他の物件」に当たることを前提として,x
x飛行場は,多数の住民が居住する地域に極めて接近した場所に所在するところ,被告が被害の発生を防止するために十分な措置を講じないまま,多数のジェット機等を離着陸させ,あるいは訓練飛行としての旋回訓練をさせることによって,原告ら周辺住民に対し,航空機騒音等による甚大な被害を及ぼすおそ
5 れを生じさせていることなどを理由に,本件損害賠償請求をしている。民事特
別法の前記解釈に照らせば,本件損害賠償請求が認められるかどうかは,まさに同条にいう「設置又は管理の瑕疵」の有無の解釈に尽きる問題である。
そうすると,本件損害賠償請求については,端的に民事特別法2条の規定に照らしてその成否を検討すれば足りるのであって,それ以外に国賠法1条1項
10 及び2条1項の適用を検討する必要はなく,これらの規定を適用する余地もな
い。
3 侵害行為に関する原告らの主張に対する反論
⑴ 航空機騒音による侵害について
ア 航空機騒音の特性と防衛施設としてのxx飛行場の特殊性
15 航空機騒音は,その継続時間が短く,一過性,間欠的であることに特徴
があり,しかも,飛行形態や飛行経路,気象条件等によって音の伝播特性が異なる。また,航空機騒音による影響は飛行場からの距離,飛行形態,飛行方向,離着陸の別等によっても大きく異なる。
さらに,xx飛行場のような防衛施設としての飛行場は,民間航空機が
20 使用する公共用飛行場とは異なり,航空機の運航形態に一定性がなく,航
空機が比較的多く飛行する日がある反面,ほとんど飛行しない日もあり,その周辺の航空機騒音の状況は日々変化している。
これらの航空機騒音の特性や防衛施設としてのxx飛行場の特殊性等からすれば,W値が一定値以上の区域においても日ごと,月ごとに騒音の頻
25 度や程度は一定ではなく,W値は一定程度以上の騒音が恒常的に発生して
いることを示すものではないことに留意すべきである。xx飛行場におけ
る航空機騒音がもたらす周辺住民の心身への影響や生活妨害の程度を的確に認定するためには,騒音の大きさ,その発生回数,年別, 月別, 曜日別,日別の騒音量の変化,時間帯別の発生回数及び騒音の継続時間その他の発生形態等について,個々の住民,居住地ごとに多面的かつ具体的な検
5 討を加える必要がある。
イ 環境庁方式を前提に昼間騒音を控除して計算したW値(後述の「昼間騒音控除後W値」)を騒音の評価基準として用いるべきであること
告示コンターの前提となる防衛施設庁方式は,防衛施設周辺の関係住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与することを目的とする政策的補償
10 措置として家屋への防音工事等の周辺対策を手厚く実施するために設計
されたものである。そのため,特定の区域内において,①常に当該区域を設定した時点と同等の騒音が生じていることが推定されるわけではないし,②飛行回数について実際の飛行回数の算術平均を大幅に上回るいわば架空の飛行による数値を計上しているから,当該区域に付された防
15 衛施設庁方式によるW値に相当する騒音が現実に生じたことが推定され
るわけでもない。加えて,③防衛施設庁方式によるW値は,年間を通じて屋外で曝露し続けることを前提としているところ,個々の居住者は,それぞれ固有の様々な生活様式に従って生活しているのであるから,これら個々の居住者がすべからく告示された指定区域のW値に相当する騒
20 音にさらされているなどと推定することは到底できない。
他方,航空機環境基準は,あくまで行政目的達成のための望ましい基準とされるもので,直ちに航空機騒音の受忍限度を画する基準となるものではないとはいえ,人の健康保護や生活環境保全を念頭に置いたものである。また,航空機環境基準は,自衛隊等が使用する飛行場も対象と
25 しており,騒音測定日数の点で自衛隊等の特殊性を反映させようとする
以外は,環境庁方式を用いることを含め,公共用飛行場と差異を設けて
おらず,もとより防衛施設庁方式で評価するなどとは一切規定していない。したがって,騒音の評価の基礎としては環境庁方式によるW値を用いるのが相当である。
原告ら全員が昼間の時間帯に共通して一定程度の航空
5 機騒音に曝露されているわけではなく,昼間の時間帯は勤務や就学等で
居住地域を離れる者が相当数存在することを考慮すると,原告らが現実に共通して曝露された騒音の内容と程度の認定は,防衛施設庁方式で算出したW値によるべきではなく,環境庁方式によった上で昼間騒音を控除して計算したW値(以下「昼間騒音控除後W値」という。)を用いて
10 行うべきである。昼間騒音控除後W値は,基本的には環境庁方式による
W値の算出方法と同様の方法で算出するが,飛行回数については,1日ごとの総飛行回数を時間帯別による重み付けをして算出するに当たって,「平日(土日,祝日及び12月29日から1月3日を除く。)の昼間の時間帯(午前9時から午後5時)」の飛行回数を除いて算出するも
15 のである。
したがって,航空機騒音の内容及び程度は,告示コンターではなく,被告が本件訴訟で平成15年度調査における基礎データを基に算出した昼間騒音控除後W値に基づいて作成させたコンター図(乙106の1・
2。以下「昼間騒音控除コンター図」という。)及び同コンター図にお
20 ける原告ら主張の居住場所を表示した地図(乙128の1ないし10)
に基づいて認定判断すべきである。
ウ 環境庁方式による自動騒音測定の結果に見られる航空機騒音の減少
被告は,別紙7-1の10か所(同別紙に記載のない⑦,⑪,⑫は平成
17年告示による縮小前の旧75地域のさらに外側なので除外)に自動騒
25 音測定装置を設置しており,うち,⑤,⑧,⑨,⑩が75W地域,⑥が8
0W地域,①と②が85W地域,③,④,⑬が旧75W地域に設置されて
いる(以下,一括して「被告測定地点」という。)。平成20年度から平成27年度までの昼間騒音を控除しない環境庁方式によるこれらの地点での測定結果(乙68の2,乙69の1・2,乙70の2)は,別紙7-2のとおりである。この結果によれば,実際の測定値は75W地域でも80
5 W地域でも各地点が属するコンターのW値より相当程度低くなっており,
85W地域が横ばいであることを考慮しても,第一種地域内の航空機騒音は全体傾向として減少している。また,いずれの測定地点でも,航空機騒音は, 日中(午前7時から午後7時まで)に極端に集中しており, 深夜
(午後10時から午前0時まで)及び早朝(午前0時から7時まで)はほ
10 とんど発生しておらず,一般的な就寝時間における騒音量は少なくなって
いる。このように,近時のxx飛行場周辺の騒音の状況は,過去の騒音訴訟の時とは異なって軽減されている。
⑵ 地上騒音による侵害について
原告らは,原告らの陳述書こそが最重視されるべきであると主張して,横
15 田飛行場から発生する地上音がどの程度であり,原告らに対してどの程度の
侵害を与えているか等につき,客観的証拠を提出していない。しかも,地上音に関して記載のある陳述書は398通(1078名分)のうち96通(2
83名分。人数比約26.3パーセント)にすぎず,さらに地上音についての具体的状況を記載しているものは61通(184名分。人数比約17.1
20 パーセント)にとどまる。また,原告らの陳述書では,同じW値の地域内で
も訴えの状況が共通ではなく,W値と被害の訴えの状況に相関関係も認められない。
仮にxx飛行場から地上騒音が発生していたとしても,xx飛行場において地上騒音が発生すると考えられるエンジン試運転場及びエンジン調整場は
25 いずれもxx飛行場の中央部分に位置しており,その周辺には多数の基地施
設の建物が存在しているのであるから, 音の特性(距離減衰等)に照らせ
ば,原告らが主張するような深刻な被害をもたらすものとは認められない。また,xx飛行場の周辺には国道16号,xx5号(新青梅街道)等の幹線道路及び一般道路が存在しているため,地上騒音があるとしても,自動車騒音に起因する可能性もあり,それがxx飛行場から発生した地上騒音に起因
5 するものか否かは不明である。
実際に,平成15年度調査の測定結果によれば,観測された地上騒音は比較的短時間であり, xx飛行場直近の3か所のみであった( 乙89)。また,平成19年3月に出された日本騒音制御工学会の報告書(乙90)によっても,飛行場周辺での地上音の影響は些少であるとされている。
10 以上によれば,xx飛行場における地上騒音が原告らに対して深刻な被害
を与えるほどの侵害行為を構成しているとは認められない。
⑶ 航空機の排気ガス,振動による侵害についてア 航空機の排気ガスについて
xx飛行場の離着陸は一本の滑走路で行われるため,一定の時間的間隔
15 が不可欠である。一般的にも飛行場における航空機の離着陸は単発的,間
欠的であり,このため,飛行場は,長時間継続的に自動車等の並行走行や渋滞などが生ずる自動車道路などと比べて大気汚染源となりにくい。
また,航空機の排気ガスは大容量でPPM濃度が薄く,高速で噴気するために拡散率が高く,局所的な汚染現象を示しにくい。
20 加えて,xx飛行場の総面積は約714万平方メートルにも及び,離着
陸の方向は風向きによって変わり,飛行方向も一定ではないため,拡散率が高く,排気ガスの周辺への影響は低くなる。
これらの事情からすると,xx飛行場において排気ガスによる侵害が発生することはあり得ない。現に,xx飛行場周辺の測定局の排気ガス成分
25 の年平均値は,他の測定局の年平均値と比べて特別に高い値を示している
わけではなく(乙208,209),これらの測定結果からすれば,xx
飛行場を離着陸する航空機の排気がxx飛行場周辺の大気汚染に対して影響を与えているとは認められない。
イ 航空機の通過に伴う振動について
航空機が30ないし40メートルまで接近して飛行する建物を除き,x
5 空機による振動が何らかの被害につながることはほとんどないとされてい
る(乙143)。そして,xx飛行場における航空機の運航においては,昭和39年4月の日米合同委員会における合意(乙146) に基づき,
「離着陸及び計器進入の場合を除き,xx飛行場隣接地域の上空における最低飛行高度はジェット機については平均海面上2000フィート(60
10 9.6メートル)とし,ターボプロップ機及び在来機については平均海面
上1500フィート(457.2メートル)」とすることとされており,米軍機等が30ないし40メートルにまで建物に接近して低空飛行するなどということは通常あり得ない。
また,実際に生じる振動は,航空機騒音のレベルが同一であっても,家
15 屋等の構造その他の諸要因次第で全く相違してくるものであるから,騒音
とは別に振動による侵害行為を取り上げる必要はない。
⑷ 航空機の墜落及び落下物等の危険による侵害について
過去に航空機の墜落事故等が発生したことがあるからといって,直接の被害者ではない原告らとの間では何ら侵害行為になるわけではない。原告らの
20 主張は, 航空機墜落事故等の危険性について抽象的に指摘するものにすぎ
ず,このような抽象的な事故の危険性があることをもって違法な権利侵害ということはできない。
そもそも,xx飛行場は,我が国の航空関係法規の適用がある一般の公共用飛行場以上の広大な敷地を有しており,滑走路の位置,長さ,幅員も一般
25 の公共用飛行場に適用される航空法の基準を満たしていて,航空管制に関す
る設備及び計器飛行(航空法2条16項)に必要な設備も具備されている。
また,米軍は,自ら各種基準を設けてその安全性の確保に努めており,自衛隊も,同様に安全性確保のための各種の基準を設けている。加えて, 被告は,昭和40年7月30日付け基地問題等閣僚懇談会了解事項「xx及び厚木飛行場等の周辺における安全措置について」並びに周辺整備法及び生活環
5 境整備法に基づき,一定範囲における移転補償,土地買収の措置を講じ,結
果的に航空交通量の多い空域の直下の土地を空き地とすることによって飛行場周辺の安全性を確保している。
したがって,xx飛行場の安全対策は十分に執られており,原告らが主張するような事故が起こる危険性は少ない。
10 ⑸ 低xxxによる侵害について
原告らが提出する本件低xxx測定報告書は,1か所の測定地点でわずか
5日間測定した結果にすぎず,xx飛行場周辺の低xxxの実態を示したものと認めるにはおよそ不十分である。また,その測定方法や測定結果の分析も不適切であり,結果の信用性は乏しく,xx飛行場を離着陸する航空機の
15 発する低xxxの実態を裏付けるものとは認め難い。
仮にxx飛行場周辺において低xxxが発生しているとしても,低xxxの音圧は,W値において適切に評価されているから,航空機騒音と別の侵害として捉える必要はない。また,低xxxにより健康障害が発生することを肯定する科学的知見は確立していないこと等によれば低xxxによる心身等
20 に対する影響ないし被害を軽々に認定すべきではない。原告らは,上記測定
結果が環境省の示す参考値を超えるなどと主張するが,参考値は,苦情申立てが発生したときにこれが低xxxによるものであるか否かを判断する目安として示されたものである上,固定発生源から発生する低xxxを適用対象とするもので,航空機騒音のような一過性,間欠性の音源から発生し得る低
25 xxxについては適用が除外されている。
4 航空機騒音等による被害に関する原告らの主張に対する反論
⑴ 共通損害論についてア 主張立証責任
xx飛行場の供用が違法であるかどうかを判断するに当たっては,原告らにおいて侵害行為の態様と程度及び被侵害利益の性質と内容を明らかに
5 することが必要であり,本件のような集団訴訟においても,各原告がそれ
ぞれその主張する被害を被っていることを個別具体的に主張立証しなければならない。
すなわち,xx飛行場の航空機騒音によって原告らに身体的被害や生活妨害等の法益侵害が具体的に発生しており,xx飛行場の供用が違法と評
10 価されるためには,個々の原告において,実際に曝露されている騒音の内
容や程度を明らかにした上で,その主張に係る各種被害が具体的に発生していることを個別具体的に主張立証する必要がある。そして,各人の性別,年齢,職業,健康状態,気質,体質,騒音等に対する感受性や慣れの程度,騒音等の発生源に対する利害関係,居住地域,防音工事実施の有無
15 等による家屋の遮音性,居住期間, 勤務地,通学先など,身体的, 心理
的,社会的な条件や生活の態様が異なるのに応じて,各人が受けるであろう精神的被害(心理的不快感),生活妨害,身体的被害の有無・程度は当然異なるものであるから,上記の主張立証に当たっては,個々の原告ごとに航空機騒音等によって受けているとする被害の内容,程度を個別的,具
20 体的に明らかにしなければならない。
本来,世帯を同じくする原告らであっても,個々に自己の被害を主張立証すべきであり,世帯の代表者の陳述書によって直ちに他の同居の原告らの被害までもが立証されるものではない。仮に,世帯の代表者による陳述書により同一世帯の他の原告らの被害を立証できるとする場合でも,その
25 者と同居していた時期の被害に限定される。
イ 共通損害を主張立証しようとする場合にも,原告らに最小限共通する被
害の主張立証責任があること
原告らは,大阪空港最高裁大法廷判決に依拠して原告ら各自が等しく被っていると認められる被害を原告ら全員に共通する損害としてとらえて損害賠償を請求しているものと考えられる。
5 しかしながら,原告らが,原告ら全員に最小限共通する損害が存在する
として,当該共通する損害について賠償を求めるのであれば,どのような損害を一定の限度で原告ら全員が等しく被っているのかを具体的に立証すべきことは当然であり,大阪空港最高裁大法廷判決は, 共通損害に関して,損害の立証の程度が軽減されることを認めたものではない。
10 すなわち,共通損害が認められるためには,①原告らの一部の者にその
ような被害が発生していることを主張立証するのみでは足りず,②その被害が現に他の原告らにも共通に生じていると認められるような性質,内容及び程度のものであることを合理的な疑いを容れない程度に主張立証することが必要とされるのである。
15 ウ 昼間の騒音被害は共通損害ではないこと
仮に,原告らが共通して曝露された航空機騒音の内容と程度を認定するのに何らかの基準を用いざるを得ないとしても,原告らの中には昼間の時間帯は出勤や通学により不在とする者も多く,全員が共通して昼間の時間帯に在宅しているものではないことは明らかであるから,昼間の時間帯に
20 騒音被害地域にいない者もそこにいる者と同じ騒音被害を受けているとい
う論拠が何ら明らかにされていない本件では,共通損害として1日24時間を通して騒音にさらされていることを前提に出されたW値を用いることは不当である。この観点からも,前述のとおり,実際に原告らが共通して曝露された騒音の内容と程度の実態に近い昼間騒音控除後W値を用いるべ
25 きである。
⑵ 睡眠妨害について
睡眠妨害はその原因や程度について個人差が顕著である上,航空機騒音との関連性を示す客観的な基準も存在しないから,そもそも共通損害となり得ない。
原告らは, WHOガイドラインや欧州夜間騒音ガイドラインを根拠にし
5 て,騒音曝露と睡眠妨害を含めた身体的被害との因果関係は確立されている
などと主張する。しかしながら,WHOガイドラインは,WHO憲章第1条に示された健康観に基づき,その増進のための長期的な達成目標を示しているにすぎず,あえて高感受性群を念頭に置き,安全確保に万全を期すための指針値として設けられたものと位置付けられるから,高感受性群以外の一般
10 人に共通する基準を定めたものではないのであって,その数値が航空機騒音
と健康被害との因果関係を検討する場合の尺度にならないことは明らかである。また,欧州夜間騒音ガイドラインは,騒音対策,騒音規制の策定に当たっての参考値,指針値としての意味合いを有するものの,夜間騒音と健康被害との間の相当因果関係を明らかにする基準値にはなり得ない。そもそも,
15 欧州夜間騒音ガイドラインは,Ln i gh t ,o u ts id e を指標としているとこ
ろ,同指標は,W値と算定方法が異なっており,飛行回数の時間帯別の重みづけがないほか,夜間の8時間のみの測定結果をもとに算定しており,比較対象とはなり得ない。
加えて,厚生労働省が実施した平成23年国民健康・栄養調査結果の概要
20 (乙154の1)によれば,我が国で生活する者の50パーセント以上が睡
眠の質に何らかの問題を抱えているとの報告がある上,ファイザー株式会社が平成23年に行った全国の20歳以上の男女4000人を対象とした不眠に関する意識調査(乙155)でも,4割以上の者が不眠症の疑いがあるとの結果が得られている。航空機騒音の有無とは関係なく,これほど多数の者
25 の睡眠の質が劣化しているのであるから,原告らの中に睡眠の質について何
らかの不都合を感じる者がいたとしても,これが航空機騒音に起因するもの
と即断することは誤りである。
原告らは,xx基地調査報告書及び沖縄県健康影響調査報告書を根拠にして原告らの健康被害と騒音との間の因果関係を立証しようとしているが,上記各報告書は,xx飛行場とは所属機種等が異なるために騒音状況が異なる
5 別の飛行場周辺における調査の結果にすぎず,また,かかるアンケートによ
って得られた訴えのみをもって睡眠妨害とする疫学調査は法的因果関係を立証するには不十分であって,これらによって原告らの睡眠妨害に係る健康被害を立証することはできない。仮に原告らが航空機騒音により睡眠を妨げられているとしても, 別紙7- 2の被告測定地点の自動騒音測定状況によれ
10 ば,xx飛行場周辺における午後10時から午前7時までの1日平均騒音発
生回数は85W地域内の被告測定地点①,②においてすら極めてわずかであり,また,屋外のW値が85であっても,後述のとおり住宅防音工事施工済み住宅では少なくとも20dB以上の防音効果が認められて屋内においては
48年環境基準が達成されたと同様の環境が整備されたこととなり,防音工
15 事が実施されていない住宅でも上記の時間帯は窓を閉めることが通常と考え
られ,就寝中の屋内の騒音量は相当に減衰するといえるのであるから,Ln ight,outsideがそれほど高い値を示すとも考えられず, 受忍限度内のものというべきである。
⑶ 身体的被害について
20 我が国のみならず,国際的にも,飛行場周辺で航空機騒音を受けることに
より人の身体又は精神に直接的かつ深刻な影響を及ぼすことを示す明確な科学的知見はない。上記⑵のとおりxx基地調査報告書によっても因果関係は証明されていないから,原告らにxx飛行場の航空機騒音等による共通損害としての身体的被害(精神症状を含む。)を認めることはできない。
25 ⑷ 日常生活の妨害及び心理的・情緒的被害について
一般的に,航空機騒音が各種の生活妨害及び心理的不快感等の日常生活へ
の悪影響を与える可能性があること自体は否定できないが,原告らがこれを共通損害として主張するのであれば,社会生活上耐え難い程度の被害が原告ら全員に共通して生じていることにつき客観的な証拠をもって明らかにすべきであり,陳述書や供述では不十分である。また,仮に原告らに何らかの生
5 活妨害等が生じているとしても,前記3⑴ウのとおり近時のxx飛行場周辺
の騒音が軽減の傾向にあることや後述の住宅防音工事の効果を考慮すると,受忍限度内のものというべきである。
⑸ その他の被害について
そもそもいずれも原告らに共通する損害とはいえないし,振動及び排気ガ
10 スによる被害については前記3⑶のとおり認められず,その余を含め,いず
れも原告らの陳述書や供述のみでは十分な立証がされているとはいえない。
5 損害賠償請求権について
⑴ 違法性の判断枠組み
民事特別法2条にいう営造物の設置,管理の瑕疵が認められるためには,
15 その営造物を供用目的に従って利用に供した結果として,利用者以外の第三
者の権利ないし法益を侵害し,同侵害が社会生活上受忍すべき限度を超え,違法と評価されることが必要である。そして,この違法性の存否は,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始と
20 その後の継続の経過及び状況,その間にとられた被害の防止に関する措置の
有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきこととされている(大阪空港最高裁大法廷判決参照)。
⑵ xx飛行場の公共性
飛行場における米軍機等の運航活動といった公共性を有する行為が第三者
25 との関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるかを判断するにあた
って,当該活動の公共性が判断要素となり,公共性が高ければ,それに応じ
て当該活動による被害を受忍すべき限度も高くなる。
xx飛行場は,アメリカ合衆国空軍が管理し,航空自衛隊航空総隊指令本部が設置され,xx条約に基づき,我が国の平和と安全に寄与し,並びに極東における国際の平和と安全の維持に寄与するという高度に政治的・行政的
5 な目的のため米軍に対して提供され,その目的を遂行する上で必要不可欠な
施設として,米軍が利用している。そして,xx飛行場が日本本土のほぼ中央の首都圏の郊外に位置し, 交通,輸送及び通信網も発達していることから,在日米軍の任務遂行に当たり日本政府の関係当局者と常時緊密な連携が維持し得るとともに,要員の居住条件も整備されている。しかも,xxxx
00 場はその敷地のほとんどが国有地で,昭和15年に旧陸軍により多摩飛行場
として設置されて以来,一貫して飛行場として使用され,在日米軍の航空基地としての経済的な立地条件を備えている。また,昭和48年から昭和53年にかけて,かつて関東xx地域で在日米空軍の使用していた施設や区域の合計面積約2220万平方メートルが我が国に返還され,これら施設及び区
15 域の機能の大部分がxx飛行場に集約された経緯があり,他にこれに代替す
るような規模や同条件を同じくする施設・区域を首都圏の近くに求めることは不可能である。なお,xx飛行場は滑走路が3353メートルと長く,大型機の離着陸が可能であることから,平成23年3月11日の東日本大震災発生直後の成田,羽田両空港の閉鎖の際には代替空港として機能し,また,
20 同震災後に米軍が行った「トモダチ作戦」という大規模な人道支援,災害救
助活動の際には人員や物資の空輸等の基地として重要な役割を果たした。 したがって,xx飛行場を離着陸する米軍機等の諸活動は,我が国の基本
的な存立と安全を確保するための高度の公共性を有する活動にほかならず,高度の公共性が認められるものである。
25 そして,原告らが侵害行為であると主張する航空機騒音等は,xx飛行場
の使用に伴って必然的に生ずるものであり,その使用態様において米軍が条
約や法律によって与えられた権限を逸脱したり濫用したりすることによって生じたものではなく,違法性ないし受忍限度の判断においては,上記のようなxx飛行場の公共性を十分に考慮すべきである。
⑶ 被告の防音工事助成その他の周辺対策等による被害の防止又は軽減
5 ア 概要
被告は,xx飛行場の存続によってもたらされる公益の重大性と,xx飛行場において米軍機等が運航されることによって影響を受ける住民の生活上の利益との調和を図るために,平成27年度までに総額約4911億円の国費を用いて住宅防音工事の助成,移転措置と緑地帯の整備,学校,
10 病院その他の公共施設の防音工事の助成及びその他種々の周辺対策(テレ
ビ受信料の助成措置,騒音用電話機の設置に対する補助,xx安定施設の一般助成,再編交付金,基地交付金及び調整交付金の助成等)を実施してきた。これらの対策により,原告らを含む周辺住民にもたらされる航空機騒音を主とする不利益ないし影響は相当程度防止又は軽減されており,仮
15 に原告らに一定の生活妨害等が発生しているとしても,それが受忍限度を
超えると見ることはできない。イ 住宅防音工事の助成
住宅防音工事の助成の実施
被告は,昭和50年度から平成27年度までにxx飛行場周辺地域の
20 住宅の所有者に対し合計約1233億6924万円を支出して,前記第
2部「前提となる事実」第4の4の住宅防音工事への助成を実施しており,これによって 騒音による周辺住民への影響は軽減されている。
住宅防音工事の効果
25 住宅防音工事は,第2部「前提となる事実」第4の3⑵ウのとおり,
防音工事仕方書に従って行われ,標準的工法は,80W地域に所在する
住宅を対象とする第Ⅰ工法と75W地域に所在する住宅を対象とする第
Ⅱ工法に分けられ,前者では25dB以上,後者では20dB以上を計画防音量とした上で,使用する建具等の基準を定めている。そして,被告は,工事完了の際,提出資料や現地調査等により防音工事仕方書に従
5 って工事がされたことを必ず確認しているから,すべての防音工事にお
いて防音工事仕方書に定められた計画防音量は達成されている。現に,平成13年10月から平成14年3月にかけて防衛施設庁が住宅防音工事事業に関する政策評価において行った防音量調査(第Ⅰ工法につき1
4か所の飛行場周辺で118世帯,第Ⅱ工法につき4か所の飛行場周辺
10 で23世帯が対象。乙113)では,第Ⅰ工法につき最低でも25.0
dB,最高で44.0dB,第Ⅱ工法につき最低でも20.0dB,最高で32.4dBの遮音効果が認められている。また,過去のxx飛行場の騒音訴訟や厚木飛行場の騒音訴訟における検証結果(乙54,18
0)でも計画防音量かそれ以上の遮音効果が確認されている。さらに,。
15 被告が平成28年9月12日に昭島市内の85W地域で平成27年度に
外郭防音工事を実施した住宅内で航空機飛来時に行った騒音測定結果
(乙180)では32.1dBの防音効果が確認されており,計画防音量が達成されていることが明らかである。
原告らの住居についての住宅防音工事の実施状況
20 原告らの住居に対する被告の助成による防音工事の実施状況は,別紙
6「防音工事一覧表」に記載のとおりである。住宅防音工事助成の強化・充実
被告は,住宅防音工事につき逐次その強化・充実を図ってきた。例えば,平成11年度からはバリアフリー対応住宅等を対象に従前は防音工
25 事の施工対象外であった厨房,浴室,玄関,廊下等の居室以外の部分と
居室を一体の防音区画とした防音区画改善工事及び老朽化のため建て替
えられた住宅への防音工事,老朽化した防音建具の機能復旧工事を助成の対象に加え,平成14年度からは住宅全体を一つの防音区画とする外郭防音工事の助成を実施し,居室単位の防音工事について指摘されてきた閉塞感といった問題点を大幅に改善した。また,防音工事で設置した
5 空調機器の電気代の負担軽減策として,この間のxxx年度から生活保
護法に規定する被保護者等に対し電気代を助成する空調機器稼働費助成事業を行い,さらに平成15年度からはxxx発電システム設置に係るモニタリング事業を行っている。被告は,今後も財政事情等を踏まえつつ,さらなる施策の充実を図る予定である。
10 ウ その他の周辺対策等
移転措置及び緑地帯整備事業
被告は,周辺整備法及び生活環境整備法に基づき,移転対象区域に居住等する住民がより好ましい環境に移転する場合,現に所在する建物等の移転の補償等を行うとともに,その跡地等を買い上げて緑地帯その他
15 の緩衝地帯とし,地方公共団体が一定の用に供するときは無償で使用さ
せることにより,周辺住民の生活環境の整備を図る措置を講じてきた。昭和39年度から平成27年度までに被告がxx飛行場に関してこれらの事業に支出した総額は,移転措置事業が136億7958万2000円,緑地帯等整備事業が約20億0669万6000円に及ぶ。その結
20 果,平成27年度末時点で,昭島市においては広場,種苗育成施設,消
防に関する施設敷地等として約1万0500平方メートル,福生市においては広場,駐車場,花壇等として約2万1900平方メートル,立川市においては広場, 消防に関する施設敷地として約2万8500平方メートル,xx町においては広場として約2万9700平方メートルが
25 無償で使用されるに至った。
学校,病院等その他の施設の防音工事の助成
被告は,xx飛行場周辺地域において,周辺整備法,生活環境整備法又は行政措置に基づき,平成27年度までに,学校等の防音工事の補助金として昭和29年度から総額684億0298万8000円,学校等の防音工事関連設備の使用に要する費用の補助金として昭和48年度か
5 ら総額76億5587万1000円,病院等の防音工事の補助金として
昭和34年度から総額80億3671万5000円,公民館,図書館等の学習等供用施設や老人福祉センターといったxx安定施設の防音工事の補助金として昭和42年度から総額229億9013万3000円を交付した。
10 その他の周辺対策
被告は,平成27年度までにxx飛行場の周辺において,航空機騒音が家屋内で伝播することにより生じる聴取障害(テレビの音声が聞き取りにくくなったり,音声が細切れに聞こえたりするなど)に関して,昭和45年度以降はNHK,平成18年度以降は放送受信契約者を対象に
15 補助金を交付するテレビ受信料の助成措置として,昭和45年度から総
額145億1751万6000円を交付したほか,騒音用電話機の設置に対する補助金として,昭和46年度から総額約4847万7000円を交付した。
また,自衛隊等の使用する施設の周辺において自衛隊等の行為によっ
20 て生ずる障害を防止又は軽減する障害防止工事としての排水路等の改修
工事につき,昭和40年度から総額61億9343万円,xx安定施設の整備等の一般助成のための地方公共団体への補助金として昭和37年度から総額323億5211万1000円を交付した。
さらに,地方公共団体が行う防衛施設周辺整備統合事業及び基本構想
25 策定に対する補助金として,平成19年度から総額4億1047万30
00円を交付し,公共用施設の整備又は事業のための特定防衛施設周辺
整備調整交付金として,昭和50年度から総額348億9657万30
00円を交付したほか,営農者に対する航空機の離発着等による就労阻害に係る損失補償として,昭和35年度から総額3億3845万700
0円を支出している。
5 加えて,被告は,再編関連特別事業(防災,教育・スポーツ及び文化
の振興,交通の発達及び改善,公園及び緑地の整備等のほか生活環境の 整備に関する事業で防衛大臣が定めて告示するもの)に対する再編交付 金として,平成19年度から総額54億5077万9000円を交付し,また,地方公共団体に対する条件や使途等に制約のない一般財源の補給
10 金である基地交付金及び調整交付金として,昭和32年度から総額11
99億0471万5000円を交付した。音源対策等
第2部「前提となる事実」の第1の3⑵のとおり,被告は,夜間着陸訓練による騒音の軽減を図るため,xxx年度から平成5年3月未まで
15 に,約166億8600万円をかけて空母艦載機着陸訓練に必要な施設
を完成させ,平成13年度以降,xx飛行場では夜間着陸訓練は実施されていない。
また,被告は,米軍機の運航方式に直接に制限を加える権限がない中で,外交交渉の努力を重ね,第2部「前提となる事実」の第1の6⑶の
20 とおり,平成5年11月18日の平成5年日米合同委員会合意により,
米軍の22時から6時までの間の時間における飛行及び地上における活動を制限し,夜間飛行訓練を必要最小限にすること等を合意し,以後,米軍は上記合意事項を実践し,被告も折にふれてその実行につき協力を求めてきた。
25 ⑷ 本件における受忍限度の判断
ア 航空機環境基準は受忍限度を画する基準とはならないこと
航空機環境基準は,「人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」(環境基本法16条1項)と規定されていることから明らかなように,政府が航空機騒音に対する総合的施策を進める上で,達成されることが望ましい基準であって,損害賠償請求権の発
5 生を基礎づける航空機騒音の受忍限度を画する基準となるものではないし,
仮に原告らが環境基準を超える航空機騒音に曝露されているという事実があったとしても,直ちに原告らに航空機騒音による健康被害が生じたとの事実を推認させるものではない。
また,第2部「前提となる事実」第3のとおりの航空機環境基準の制定
10 の経緯やその内容に照らしても,あくまでも理想的な生活環境を造出する
ための行政上の改善目標として設定されたものであり,受忍限度を画する基準とはなり得ない。
ただし,航空機環境基準は,地域類型Ⅰについては70W以下とされ,地域類型Ⅱについては75W以下とされて地域類型によって差異を設けて
15 いるところ,この5Wの差は,環境騒音に対する住民意識の差違等による
ものであると説明されているのであるから,仮に受忍限度につき何らかの基準を設ける場合でも,地域類型Ⅰと地域類型Ⅱとでは差を設けるべきである
イ 告示コンターは受忍限度を画する基準とはならないこと
20 前述のとおり,告示コンターは,政策的補償措置としての防音工事等の
周辺対策を実施するために政策的に算定された防衛施設庁方式に基づくW値を基礎にして,その実施区域を画するものにすぎず,当該区域に付されたW値に相当する騒音が現実に発生していることが推定されるわけではない。また,現実には多くの居住者は,指定区域内にいる場合もほとんどは
25 屋内で生活しているにもかかわらず,告示コンターは年間を通じて屋外で
曝露し続けることを前提としており,実態と乖離した過大な騒音曝露を認
めることになる。
したがって,指定区域内に居住していることをもって,防衛施設庁方式で算定された当該指定区域のW値に相当する騒音曝露を受けていると推認することはできない。
5 実際にも,別紙7-2の被告測定地点の騒音発生状況と防音工事の効果
によれば,第一種区域内の実勢騒音は,各測定点が属するコンターのW値よりも相当程度低いし,85W地域であっても,防音工事施設内においては,住宅防音工事の効果により航空機環境基準が達成されたと同様の屋内環境が保持されるとうかがわれるから,原告らが第一種区域内に居住して
10 いるというだけで原告らが受忍限度を超える航空機騒音に曝露されている
とは認められない。
ウ 原告らへの航空機騒音の影響が受忍限度の範囲内であること
前述のとおり,xx飛行場周辺の航空機騒音の発生状況が軽減されていること,航空機騒音以外の侵害行為は認められないこと,周辺住民が受け
15 ている影響は日常生活の妨害や心理的な不快感等にとどまること,xx飛
行場には高度の公共性があること,被告による住宅防音工事その他の周辺 対策等が一定の効果を上げていること等を考慮すると,xx飛行場に航行 する航空機の騒音によって原告らに何らかの損害が発生しているとしても,社会生活上,受忍すべき限度を超えるものとは認められない。
20 ⑸ 危険への接近の法理による免責又は損害賠償の減額
ア 免責又は減額の法理としての危険への接近の法理
免責の法理としての危険への接近の法理とは,ある者がある場所に危険が存することを認識しながら又は過失により認識しないで,あえてその場所に入って危険に接近し,そのため損害を受けたときは,危険を容認した
25 もの又はそれに準ずるものとして,加害者の責任が否定されるとするもの
である。これは,私法関係において自由な意思決定によって選択した結果
は自らが負担するのが原則(自己責任の原則)であり,これによる損害を他に転嫁することは不法行為法を支えるxx理念の1つであるxxの理念
(損害のxxな分担)に反するという考え方に根ざすものである。
免責の法理としての危険への接近の法理の要件について,大阪空港最高
5 裁大法廷判決は,①危険に接近した者が侵害行為の存在を認識しながらあ
えてそれによる被害を容認して居住を開始したこと(被害容認要件),②被害が精神的苦痛ないし生活妨害の程度にとどまり,直接,生命,身体にかかわるものでないこと(被害程度要件),③侵害行為に相当高度の公共性が認められること(公共性要件),④実際の被害が入居時の侵害行為か
10 らの推測を超える程度のものであったとか,入居後に侵害行為の程度が格
段に増大したなどの特段の事情が認められないこと(消極的要件)が満たされる場合,そのような被害は,入居者において受忍しなければならず,同被害を理由として慰謝料の請求をすることは許されない旨の判断を示したものと解釈され,免責の法理としての危険への接近の法理を認めた。
15 また,上記①の被害認容要件を欠き,危険への接近の法理により免責が
認められない場合であったとしても,危険(騒音の存在)を認識し又は過失によってこれを認識せず,当該危険が存在する場所に接近し,そのために被害を被ったときは,損害額の減額事由としてこれを考慮するのがxxの理念に照らして相当であり,このような減額の法理としての危険への接
20 近も認めるべきである。
イ 本件における免責の法理としての危険への接近
次の経過からすれば,遅くとも平成6年1月1日以降にxx飛行場周辺の第1種指定区域(以下「指定区域」という。)内に居住を開始した原告らについては,航空機騒音による被害の発生状況を認識し,その被害を容
25 認していたことが推定され,同日以降,指定区域内に転居した原告ら(出
生者を除き,指定区域内で転居した者を含む。)については,免責の法理
としての危険への接近を適用すべきである。すなわち,①昭和38年,福岡xx軍板付基地に所在する航空団がF105D戦闘爆撃機と共にxx基地に移駐する計画があり,その計画に対して昭島市議会が全会一致の反対決議を行ったこと(乙103の1・2),②昭和39年5月に当該戦闘爆
5 撃機がxx飛行場に移駐した後,滑走路近隣地区の住民から,同地区住民
全員を他地区に移転させる補償を求める旨の国への陳情書,市議会への請願書が提出されたことを受け,昭和40年7月30日,政府が集団移転の基準を定めたこと(乙103の3)から,昭和40年には,xx飛行場周辺が恒常的に航空機騒音の曝露を受ける地域であることが広く知れ渡るに
10 至っていたと認められ,本来は遅くとも昭和41年1月1日以降にxx飛
行場周辺に転入した原告らは,転入時に航空機騒音の存在を十分に認識しており,かつ,その被害を認容していたことが推認されるというべきである。そして,上記の事情に加え,③昭和42年3月31日に移転対象区域が告示されたこと(乙36),④昭和50年3月1日には生活環境整備法
15 9条1項に基づき,xx飛行場を含む複数の防衛施設が特定防衛施設に,
立川市,昭島市, 福生市, 武蔵xx市, xxx西多摩郡羽村町(現羽村市)及びxx町を含む複数の市町村が特定防衛施設関連市町村にそれぞれ指定され,官報で告示されたこと(乙116),⑤防衛大臣が,生活環境整備法4条に基づく住宅防音工事の助成対象区域について,昭和54年8
20 月31日に第一種区域及び第二種区域を,昭和55年9月10日に第一種
区域を,昭和59年3月31日に第一種区域をそれぞれ指定した上,いずれも官報で告示したこと(乙27~29),⑥平成5年2月25日にxx平成5年最高裁判決の言渡しがされたことが主要日刊紙において全国的に報道されたこと,⑦同年11月には平成5年日米合同委員会合意がなされ
25 たことが全国的に報道されたことなどからすれば,どんなに遅くとも,平
成6年1月1日以降においては,xx飛行場周辺の航空機騒音が社会問題