Contract
業務委託契約書 参考例の解説
( 競技会ごと)
【団体名】( 以下「甲」という。)と 【医師名】( 以下「乙」という。)とは、甲の主催する競技会における医療・救護業務に関して、次のとおり契約( 以下「本契約」という。) を締結する。
【解説】
・ 本契約書は、競技会を主催する競技団体と、当該競技会の救護所( 医療法上の診療所・病院登録がされていないことを前提) で医療・救護を行う医師との間の業務委託契約を対象としています。
・ 業務委託契約は、一方が行う業務を、外部の第三者に委託する場合に用いる契約形態です。本契約は、競技会を主催する競技団体( 甲) が、競技会における医療・救護に関する業務( 具体的な内容は後述) を、医師( 乙) に委託する内容となっています。
第1 条( 本契約の目的)
甲は、乙に対し、甲の主催する下記の競技会( 以下「本競技会」という。)において設置する救護所において、医療・救護に関する業務を行うことを委託し、乙はこれを受諾する。
記
競技会名: ● ●●●開催場所: ● ●●●
開催期間: ● 年●月●日~ ●年● 月●日
【解説】
・ この契約の目的を記載しています。
・ 本契約は、競技会の救護所( 医療法上の診療所・病院登録がされていないことを前提)で医療・救護を行うことを業務内容としています 。「医療・救護」という言葉は、救護所で行うことが想定される業務内容の総称として使用しています。具体的内容は、別途、第3 条で定めています。
・ この契約の対象となる競技会を特定する必要があり、ここでは競技会名、開催場所、開催期間により特定しています。
第2 条( 乙の業務の具体的内容)
甲は乙に対し、本競技会の開催期間中、以下に掲げる業務( 以下「本件業務」という。) を委託し、乙はこれらを受託する。
⑴ 甲の設置する救護所において、本競技会に出場する選手、チームのスタッフ等関係者、観客の中で傷病者( 以下、単に「傷病者」という。)が発生した場合に応急的な手当を行うこと。
⑵ 前号の手当を行った場合に、甲の定める書式( 以下、「応急対応記録」という。) に所定の事項を記載すること
⑶ 傷病者を医療機関に搬送する必要があると認めた場合には、救急自動車等の出動を要請するなどの措置を講ずること
⑷ 前号の措置を行った場合に、甲の定める書式( 以下、「救急搬送記録」という。) に所定の事項を記載すること
⑸ その他、甲乙で合意した事項
【解説】
・ 医師( 乙) が行う基本的な業務として、救護所での応急的な手当と、救護所では対応しきれない場合の救急搬送のための措置を定めています。必要に応じて、主催者( 甲) と業務の内容を調整し、その内容・範囲についてできる限り具体的に記載しておくことが望ましいです。
・ 医療法上、「公衆又は特定多数人のために医業( 医行為を反復継続して行うこと) を行う場所については、診療所あるいは病院としての開設許可が必要となります。競技会における救護所は、競技会に出場する競技者やスタッフ、観客といった特定多数人のために設置されているといえるので、救護所で医行為を行う場合には、必然的に反復継続されることが予定されるため、診療所あるいは病院の開設許可( 診療所登録)が必要と考えられます。そのため、診療所・病院の開設許可を受けていない救護所では、「医行為」は行うことができない、という理解になります。この理解を、契約書上で明確にする必要がある場合には、次の文章を⑴ に追記することが考えられます。
[ なお、乙が行う応急的な手当には、原則として、医行為は含まれないものとするが、傷病者の症状の悪化を防ぐ必要が認められる場合や傷病者の状態から生命の危険が認められる場合には、医行為も行うものとする。]
・ 本契約は、救護所について、診療所登録を行わない場合を前提とした内容としていますが、競技会によっては、診療所登録を行っていることもあり、その場合には、「医行為」を行うことが可能です。実際に、救護所の診療所登録を行って、採血や点滴を行っている競技会もあります。
・ 「医行為」とは、過去の裁判例や厚労省からの通達では、「当該行為を行うにあたり医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある一切の行為」とされています。 このように解釈の余地のある幅のある概念であり、どのような行為が「医行為」に該当するかは、過去の通達等を参考にしながら個々に判断するほかありません。なお、一般に救護所で行われる業務は医行為とされる行為が多いと思われますので、救護所につき診療所・病院の開設許可を受けることが本来であれば望ましいといえます。
・ 救護所で傷病所に対応した内容については、記録として残しておくことが望ましく、このことを業務内容として定めています。後々、何らかのトラブルとなった場合にも、こうした記録は役立ちます。
・ 救護所での対応が難しく、病院への搬送が望ましいと判断した場合には、速やかにそのような対応をすることが求められます。本契約書では、救急搬送を行った場合には、そのことを記録に残すことも業務内容として定めています。記録には、救急搬送時の傷病者の状況、救護所での処置の内容などを記録しておくとよいでしょう。
第3 条( 乙の業務時間・実施場所)
1 乙の本件業務の実施時間、実施場所、対象となる傷病者の範囲( 以下「実施時間等」という。) については、次のとおりとする。
⑴
⑵
⑶
実施時間実施場所
午前●時~ 午後● xx競技会の救護所
対象となる傷病者の範囲
本競技会に出場している選手・チームのス
タッフ( 役員・監督・コーチ)・観客
2 乙は、前項に定める実施時間の● 時間前までに本競技会の救護所に集合するものとする。
3 第1 項の実施時間等は、甲乙協議の上これを変更することができる。
【解説】
・ 具体的な業務時間や業務の実施場所を定めるものです。救護所の開設時間に合わせて設定するのが通常かと思います。
・ 対象となる傷病者の範囲については、基本的には競技会の開催場所にいる人( 観客を含む) 全員が対象となることが多いと思いますが( その場で峻別することは事実上難しいと思われます。)、観客は対象外として競技会に参加している者に限定することも可能です。
第4 条(甲の責務)
甲は、本競技会の開催にあたり、乙と協議の上、乙が支障なく本件業務を遂行できるよう、関連法令等に従い、以下のとおり医療・救護体制を整備する。
⑴ 本件業務の円滑な実施のため、本競技会の会場内の適切な場所に救護所を設置する
⑵ 救護所内部の衛生管理を徹底する
⑶ 救護所に、歯科医師、看護師、xxx等、本競技会の規模や実施競技の特性に合った人員を配置する
⑷ 救護所に、本競技会の規模や実施競技の特性に合った医薬品、医療器具、A E D 等の必要な備品・物品を配備する
⑸ 本競技会の会場周辺の医療機関に対し、傷病者の受け入れが円滑に行われるよう予め協力を要請しておく
⑹ 本競技会の会場周辺の消防署その他の関係機関・団体との連携を図る
⑺ 甲は、自らの責任と負担において、乙が行う本件業務により甲、乙又は第三者に生じた損害を填補するための保険に加入し、事故が発生した場合には、当該保険を優先的に利用する
⑻ 乙から提出を受けた応急対応記録及び救急搬送記録を本契約終了後
5年間保存するものとし、乙からこれらの記録の開示を求められた場合には、開示を求める理由が正当でないと認められない限り、これに応じる
⑼ 本競技会の参加者や傷病者から個人情報を取得するに際して、前号の定めに支障が生じないよう留意する
⑽ 本件業務に関し、乙から協議の申出を受けた場合には、この申出に応じる
【解説】
・ 主催者( 甲) の義務を定めています。 医師( x) が、救護所で医療・救護業務を支障なく効果的かつ効率的に行う上では、 主催者( 甲) が体制を整備するなどの協力が必要です。
・ 救護所という性質上、衛生管理の徹底、競技会の規模や実施される競技の特性にあった人員の配置、医薬品・医療機器等の準備が必要です。これらは、主催者( 甲) の責任として準備してもらうことが望ましいです。
・ 救急搬送の場合に備えて近隣の消防や医療機関と連携を行うことも、主催者の安全配慮義務の一つであり、xxで確認しておくべきです。
・ 万が一の事故、例えば、医療・救護を行った傷病者に、予期せぬ傷害など
の損害が生じた場合に、かかる損害を填補するための保険に主催者( 甲) が加入し、そのような事態が生じた場合には、その保険を優先的に使うように予め合意しておくことが考えられます。もっとも、医師( 乙) 自らも念のために賠償保険には加入しておくべきです。
・ 医師( 乙) が主催者( 甲) に提出する応急対応記録と救急搬送記録については、その後のトラブルなどに備えて、診療記録の保存義務の期間と同様の
5年間( ただし、5 年間の開始時期は一律に本契約終了時としました。)の保存義務を主催者( 甲) に課しています。 なお、5 年以上経過した後でも、傷病者からの医師( 乙) に対する損害賠償請求が起こされる可能性がありますので、例えば、契約に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間が最長で20 年であることをふまえ( 時効についての詳細は第1 4 条の解説を参照してください)、保存義務を20 年と定めておくことも考えられます。また、応急対応記録と救急搬送記録について、医師( 乙) から開示を求めた場合には、正当な理由がないと認められない限りは、主催者( 甲) はこれに応じることと定めています。ただし、傷病者の個人情報保護の問題があることから、本競技会の参加者や傷病者から個人情報を取得するにあたっては、主催者( 甲) として、医師( 乙)に開示する可能性があることに留意するよう定めています。
・ なお、救護所につき診療所登録を行った場合、競技会の終了後、あまり時間をおかずに診療所の廃止届が提出されることが予想されますが、その場合でも、診療所登録した際の管理者( 開設時に管理者として定められた医師)が、カルテの保存義務を負い続けることになるので( 5 年間)、診療所登録の廃止後に管理者が責任をもってカルテを保存するよう、主催者( 甲) においても管理を徹底させることが重要です。
第5 条( 乙の本件業務遂行上の義務)
1 乙は、傷病者の生命・身体の安全を確保することを最優先として、本件業務を遂行する。
2 乙は、医師法や医療法、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律その他関係法令及び本契約に定められた各条項を誠実に遵守し、善良なる管理者の注意をもって本件業務を遂行する。
【解説】
・ 医師( 乙) の業務遂行上の考え方として、傷病者の生命・身体の安全を確保することを最優先にすることを明記しています。仮に、傷病者がプレーを
続行することを希望し、無理をすればプレーをできる状態であったとしても、生命・身体の安全の確保の観点から、現在の状態を説明した上で、プレーを控えた方がよいという判断を伝える必要があります。ただし、プレーを続行するかどうかの最終的な判断は、傷病者サイドで決めてもらうのがよいでしょう。
・ なお、医師は患者( 傷病者) との関係で守秘義務を負っており、 傷病者の心身の状況や病状、治療の要否等について傷病者の同意なく、第三者( チーム関係者など) に提供することはできません。したがって、第三者( チーム関係者など) に傷病者の心身の状況や病状、治療の要否等の情報を提供する必要がある場合には、傷病者の同意を得ておくようにしてください。傷病者の生命・身体の安全を確保するという観点から、チーム関係者に心身の状況や病状、治療の要否等の情報を伝える必要があるものの、傷病者の同意を得られない場合の判断は非常に悩ましいですが、傷病者の生命・身体の安全を確保するために当該情報をチーム関係者に伝えることの必要性について理解を得られるよう努め、それでも同意を得られない場合には、 心身の状況については、チーム関係者から直接傷病者本人に確認してもらうようにしてください。
・ 「善良なる管理者の注意」とは、「善管注意義務」と呼ばれるもので、業務を委託された人の職業や専門家としての能力、地位などを前提に通常期待される程度の注意義務のことです。明示はされていませんが、業務に関係する法令等を遵守することは当然に求められます。 この契約でいえば、医師として通常期待される程度の注意義務となりますが、業務を行う救護所の環境や備品等の整備状況によって求められる注意義務の程度は変わります。
・ 善管注意義務の中身として、法令を遵守することも当然に含まれます。本契約では、注意的に、「医師法や医療法、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律その他関係法令」の遵守を明記しました。医師( 乙)としては、こうした法令の範囲内でしか対応ができないことを、主催者( 甲)に理解しておいてもらうことも重要です。
・ この善管注意義務に反すると、損害賠償の責任を負うことになります。ただし、この契約では、後述( 第1 4 条) のとおり、医師( 乙) が損害賠償責任を負う場合を故意又は重過失がある場合に限定しています。
第6 条( 業務委託料)
1 甲は乙に対し、本件業務の委託料として、金●●円( 消費税別)を支払うものとする。
2 甲は、前項の委託料を、●年●月● 日限り、乙の指定する次の銀行口座に支払うものとする。なお、振込手数料は甲の負担とする。
〇〇銀行 〇〇支店( 普通/ 当座)口座番号:
口座名義:
【解説】
・ 医師( 乙) が、本件業務を行うことに対する対価として受け取る業務委託料を定めている条項です。
・ 業務委託料は、基本的には主催者( 甲) との話合いにより決まるもので、契約によって様々です( 何か基準があるわけではありません)。
・ 消費税の別、支払方法、支払の期限、振込手数料の負担者について、定めておくとよいでしょう。
第7 条( 費用負担)
1 乙が、本件業務を遂行するにあたり、費用の支出が必要となる場合には、甲がこれを負担するものとする。
2 前項の場合、乙は、甲に対し、予めその支出内容及び金額を提示し、事前に甲の承諾を得なければならないものとする。ただし、緊急を要する場合には、事前の甲の承諾は不要とする。
3 甲は、甲が負担すべき費用を乙が立て替えた場合には、乙から精算するよう請求があったときは直ちに、乙の指定する方法で精算を行うものとする。なお、精算に要する費用は甲の負担とする。
【解説】
・ 救護所での業務を行うにあたり、費用が発生する場合に、どちらが負担すべきか明確にしておくべきです。ここでは、主催者( 甲) の負担としています。
・ 費用かどうか後で争いにならないよう、原則として、費用が発生する場合には事前に相手方の承諾を得るという建てつけが望ましいです。
第8 条( 再委託の禁止)
乙は、甲の事前の書面による承諾なしに、本件業務の全部または一部を第三者に再委託してはならない。
【解説】
・ 通常、このような業務は、依頼する医師の能力や技能を評価した上で委託 することが通常ですので、その医師から別の医師に再委託することは予定さ れておらず、無断で再委託することは禁止されます。ただし、事前に書面に よる承諾があれば別の医師に再委託することも認められる内容としています。
・ なお、ここではそこまで踏み込んでいませんが、仮に別の医師に再委託することになった場合には、再委託した医師の選任や監督責任を問われる可能性もありますので注意が必要です。
第9 条( 権利義務の譲渡禁止)
甲及び乙は、本契約上の地位を第三者に承継させ、又は、本契約から生ずる権利及び義務の全部若しくは一部を第三者に譲渡し若しくは担保に供してはならない。
【解説】
・ この契約から生じる権利義務や契約上の地位が、当事者の知らないところで別の第三者に譲渡されてしまうのは困りますので、 それを防ぐための条項です。
第10 条( 秘密保持義務)
1 甲及び乙は、本件業務において相手方から取得したあらゆる情報及び本件業務を遂行した事実を、秘密情報として善良なる管理者の注意をもって保管・管理するとともに、 本契約の目的のみに使用しなければならない。
2 甲及び乙は、相手方の事前の書面による承諾がない限り、秘密情報を第三者に開示・漏洩・提供してはならない。
【解説】
・ ここでは、お互いに、相手方から取得する情報について、全て秘密情報として、保管・管理し、この契約の目的、すなわち、救護所における医療・救護の業務を行うために必要な範囲でしか使用できないということを定めてい
ます。
・ 救護所では、傷病者の個人情報や場合によってはセンシティブな情報を扱う可能性もあり、必要に応じて、主催者( 甲)に、かかる情報を提供( 共有)する必要が生じると考えられます。
第1 1 条( 個人情報の取扱い)
甲及び乙は、本件業務の遂行に際して知り得た個人情報については、関係法令の定めに従って厳重に管理し、正当な理由なく第三者に開示・漏洩・提供してはならない。
・ 前述のとおり、救護所では、傷病者の個人情報、その中には傷病者の病歴 など特に配慮を要すべき情報を扱う可能性もあります。そこで知り得た情報は、個人情報として、法令に従い、しっかりと管理しなければなりません。
第1 2 条( 反社会的勢力の排除)
1 甲及び乙は、相互に、以下の各事項を確約する。
⑴ 本契約締結時において、自ら及び自らの代表者・役員または実質的に経営を支配する者が、暴力団・暴力団員・暴力団関係企業・総会屋もしくはこれに準ずる者またはその構成員( 以下総称して「反社会的勢力」という。) でないこと。
⑵ 反社会的勢力に自己の名義を利用させ、この契約を締結するものでないこと。
⑶ 自らまたは第三者を利用して、本契約に関して相手方に対する脅迫的言辞・暴力を用いる行為、偽計または威力を用いて相手方の業務を妨害し、または信用を毀損する行為を行わないこと。
2 甲及び乙は、相手方が本条に違反すると判明した場合、催告を要せずして本契約を解除することができる。
3 前項の規定により本契約が解除された場合には、相手方( 被解除者)は、解除によって解除者が被った損害の一切を賠償しなければならない。
4 第2 項の規定により本契約が解除された場合には、 相手方( 被解除者)は、解除により生じる損害について、解除者に対し一切請求を行わない。
【解説】
・ 反社会的勢力による関与を回避するよう、このような条項を盛り込むことが政府の指針などでも求められています。
・ 反社会的勢力の定義は、警察庁の「組織犯罪対策要綱」を参考にしています。
・ 相手方が反社会的勢力であることが後で判明した場合や、反社会的勢力であることを利用して不当な要求などをしてきた場合には、本契約を解除することができます。さらに、本条に基づき契約を解除された相手方は、解除によって生じた損害について賠償しなければなりません。
第1 3 条( 解除)
1 甲又は乙は、相手方に次の各号の一に該当する事実が生じたときは、催告なしに本契約を解除することができる。
⑴ 乙の責に帰すべき理由により、本契約の有効期間中に本件業務を継続する見込みがないと明らかに認められるとき。
⑵ 甲が、本契約に定める義務を遂行しないとき。
⑶ 相手方が、本契約に定める条項に違反し、当該相手方に対し催告をしたにもかかわらず直ちに当該違反が是正されないとき。
⑷ 相手方が、破産手続開始、民事再生手続開始、特別清算手続開始の申立てを受け、または自ら申し立てたとき。
⑸ 相手方が、第三者より差押え、仮差押え、仮処分もしくは競売の申立て、または公租公課の滞納処分を受けたとき。
⑹ その他、前各号に準じる事由が生じ、本契約を継続しがたい重大な事由が生じたとき。
2 前項の規定により本契約が解除された場合、相手方( 被解除者)は、解除によって解除者が被った損害の一切を賠償しなければならない。
【解説】
・ この契約を締結後、ここに定めている一定の事由があれば、契約を解除して終了させることができます( 後記第1 6 条の「解約」は、一定の事由がなくても契約を終了させることができ、「解除」とは異なる概念です)。
・ 本条に基づく解除により、解除した側に損害が生じた場合には、解除された側は、その損害を賠償しなければなりません。
第1 4 条( 損害賠償)
1 乙は、乙に故意又は重過失がある場合を除き、本件業務の遂行に関し、甲又は第三者が被った損害について、その責任を負わないものとする。
2 乙に故意又は重過失が認められないにもかかわらず、乙が、第三者に対してその損害を賠償した場合には、甲が同額を乙に補償する。
3 甲は、本件業務に関し、乙又は第三者に生じた損害について、その責任を負うものとする。ただし、xxx第三者に生じた損害が、乙の故意又は重過失により生じた場合は、かかる損害の負担について、甲乙協議の上決定する。
【解説】
・ 通常、委託を受けた者( 本契約でいえば医師( 乙))が、業務の遂行にあたって、故意又は過失により契約に定められた義務に違反し、相手方や傷病者等の第三者に損害を生じさせた場合、その損害を賠償しなければなりません。この理解を前提に、この契約では、「故意又は過失」がある場合ではなく、「故意又は重過失」がある場合とすることで、医師( 乙) が損害を賠償しなければならない場合を限定しています。つまり、医師( 乙) に有利な定めにしています。
・ 「重過失」とは、著しい不注意のことで、僅かな注意を払えば容易に悪い結果が予測でき、回避することができたにもかかわらず、それに備えて注意を払うことなく漫然と見過ごす( 対応しない) ことをいいます。
・ xxは、主催者( x) と医師( 乙) との二当事者間の責任分担を定めるものですので、傷病者等の第三者は、この定めに拘束されず、 第三者が誰に対して責任を追及するかは第三者が自由に決められます。 そのため、本契約があったとしても、医師( 乙)に故意又は過失が認められる場合には、医師( 乙)が第三者に損害を賠償しなければならない場合も想定され、それでは、前述のように、「故意又は重過失」がある場合に限定した意味がなくなってしまいます。そこで、医師( 乙)に故意又は重過失がないにもかかわらず、医師( 乙)が第三者に損害を賠償した場合には、甲が同額を乙に補償することを、本契約では定めました。
・ 医師( 乙) としては、主催者( 甲) や第三者とのトラブルに備えて、救護所で対応した内容や行った処置について、第2 条に定める応急対応記録などに記録として残しておくことが望ましいです。
・ なお、損害賠償を求める権利に関しては、「消滅時効」といって、一定期間権利を行使しない場合には権利が消滅する制度があります。一般に医療過誤
を原因とする損害賠償の方法には、債務不履行を理由とする場合と不法行為を理由とする場合の2 つがあり、前者は契約関係( 診療契約) を前提とするのに対し、後者は契約関係を前提としませんが、基本的に医師に課されている義務の内容に違いはありません。その上で、医療過誤のように人の生命・身体に対する侵害に関する損害賠償請求権については、債務不履行を理由とする場合は、「権利を行使することができるときから2 0 年」「権利を行使することができることを知ってから5 年」で、不法行為を理由とする場合は、
「不法行為があったときから2 0 年」「損害および加害者を知ったときから5年」で、それぞれ消滅するとされています。ここで、 消滅時効期間が2 0 年である「権利を行使することができるとき」と「不法行為があったとき」というのは、いずれも、治療を行った時を指すと考えられています。他方、消滅時効期間が5 年である「権利を行使することができることを知ったとき」と「損害および加害者を知ったとき」は、いずれも、損害、つまり医療過誤による障害の存在・内容を知った時点と考えられています。業務に関する記録を残しておく際には、こうした損害賠償請求権の消滅時効時間を参考にするとよいでしょう。
第1 5 条( 天変地異)
1 乙は、地震、台風、津波その他の天変地異、疫病、感染症、戦争、暴動、内乱等の当事者の責めに帰すことができない事情( 以下、「不可抗力」という。)を原因とする本契約の全部または一部の履行遅滞、履行不能または不完全履行については、その責任を負わないものとする。
2 甲は、乙に対し、前項に定める履行不能または不完全履行の場合であっても、原則として第6 条に定める業務委託料を支払う義務を負うものとするが、その金額について、甲・乙協議の上で変更することができるものとする。
【解説】
・ 第1 項では、天変地異などの、当事者の責めに帰すことができない( コントロールすることができない) 事情によって、業務を行う予定であった競技会が中止となった場合や、競技会が開催されたとしても、業務を遂行することができない場合に、医師( 乙) は、義務を履行できないことによる責任を負わない、ということを定めています。
・ 他方、チーム運営団体( 甲) の業務委託料の支払義務については、不可抗力により医師( 乙) が業務の履行をできなかった場合でも、原則として消滅
しないこととしていますが、協議によって、業務委託料の減額は可能、という建てつけにしています。実際には、その時の事情をふまえて、協議によって解決することが望ましいでしょう。
・ なお、地震や台風などが起きたとしても、事前に天気予報などで対策を講じられる場合や、代替手段を講じて対応することができる場合には、この規定が適用されない( 責任を免除されない) 可能性もありますのでご注意ください。
第1 6 条( 有効期間)
1 本契約の有効期間は、本契約締結日から〇年〇月〇日までとする。
2 甲又は乙は、前項の有効期間中であっても、相手方に対して〇日前までに書面による通知を行うことにより、本契約を解約することができる。この場合、甲は、乙に対し、解約による契約終了時までに乙が行った業務量に応じて、第5 条に定める業務委託料を支払うものとし、具体的な金額は甲乙の協議により定めるものとする。
3 前項の場合、甲及び乙は、お互いに相手方に対し、本契約を解約し又はされたことによる損害を請求することができないものとする。
【解説】
・ この契約の有効期間を定めています。競技会毎に契約すると考えられますので、通常、有効期間は、競技会の終了日までになると思われます。なお、契約締結日から契約の効力は生じますが、実際に本件業務を行うのは、第3条で定められた期間に限られます。
・ 有効期間中であっても、お互いに、〇日前までに書面で通知すれば、この契約を解約することができます。何日前に設定するかは、主催者( 甲) と医師( 乙) との話合いで決めてブランク部分を埋めてください。
・ 途中で契約が解約された場合には、業務委託料は、その解約時までの業務量に従って支払われる内容にしています。業務を行った日数を基準にするのが一つの方法だと思います。
・ 解約をした場合に、相手方に何か損害が生じたとしても、 お互いに損害賠償請求はできません。この点は、第1 2 条( 反社会的勢力の排除) や第1 3条( 解除) で定めている解除の場合とは異なります。
第1 7 条( 契約終了後の効力の存続)
本契約の終了事由の如何にかかわらず、第4 条8 号( 甲の責務)、第10 条( 秘密保持義務)、第1 1 条( 個人情報の取扱い)、 第1 4 条( 損害賠償)及び第1 8 条( 合意管轄)の規定は、本契約終了後においても有効に存続する。
【解説】
・ 一般的に、契約が終了した場合には、契約の各条項の効力が失われるのが原則ですが、契約終了後も適用が想定され、効力を存続させておいた方がよいと思われる条項について、本契約終了後であっても効力が存続する旨を定めました。
・ 第4 条の甲の責務のうち第8 号に定める応急対応記録及び救急搬送記録の保存や開示に関する規定、第1 0 条の秘密保持義務の規定、第1 1 条の個人情報の取扱いに関する規定、第1 4 条の損害賠償に関する規定及び第1 8 条の合意管轄に関する規定は、期間の制限なく、存続することを定めました。これにより、本契約終了後に、医師( 乙) が主催者( 甲) や第三者から損害賠償請求される場合であっても、主催者( 甲) と医師( 乙) との間は、第1
4 条の定めに従って規律されます。また、本契約終了後に主催者( x) と医師( 乙) との間で裁判になる場合も、第1 8 条の合意管轄に関する規定が適用されます。
第1 8 条( 合意管轄)
本契約に関する一切の紛争については、● ●地方裁判所をもって第xxの専属的合意管轄裁判所とする。
【解説】
・ 契約に関して紛争が生じ、話合いによって解決しない場合には、訴訟手続により当該紛争を解決することが考えられます。この場合、全国に存在する裁判所のうち、どこの裁判所に訴訟を提起することができるか、というルールのことを管轄といいます。
・ 管轄となる裁判所は、法律に定められているのですが、契約書の中で、管轄に関して当事者間で合意しておくこともできます。このように合意により定められた管轄のことを、合意管轄といい、さらに、法律で定められた管轄を排除して、当事者間で定めた特定の裁判所に専属的に管轄を生じさせる合
意のことを「専属的合意」といいます。
・ 専属的合意管轄裁判所として、自分の居住地に近い裁判所を指定しておく方が、裁判のための交通費等の負担を軽減することに繋がります。
第1 9 条( 協議による解決)
甲及び乙は、本契約に定めのない事項及び本契約に関する疑義に関しては、誠意をもって協議し解決を図るものとする。
【解説】
・ この契約に定められていない事項は、主催者( 甲)と医師( 乙)の双方が、協議して取り決めることになります。なお、本契約に定められている事項であっても、当事者双方が合意をすれば、本契約に定めているのとは異なる対応をすることも可能です。その場合には、トラブル防止のため、別途、変更した内容を書面に残しておくとよいでしょう。
本契約の成立の証として本書2 通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1 通を保有する。
年 月 日
甲
乙