次表のように機構と県の持分比率は2:1であり、公社が用地買収、機構がその他の業務を行っている。事業地区は2つの地区に分かれており、合計 94.4ha である。そのうち工場用地面積は 76ha であり、平成 18 年8月時点で分譲済みは 5.6ha、分譲率 7.4%である。
4 xx中核工業団地造成事業貸付金
(1)概要
① 制度の趣旨ア 目的
本貸付金は、胎内市(旧xx町)において県と独立行政法人中小企業基盤整備機構(旧地域振興整備公団。以下、「機構」という。)が共同で進めてきた新潟xx中核工業団地造成事業(以下、「工業団地造成事業」という。)の資金を、県の事業を代行する新潟県土地開発公社(以下、「公社」という。)に貸し付けたものである。
イ 根拠法令等
平成4年に機構と県、公社が工業団地造成に係る共同事業基本協定を締結し、また、県から機構に対し、公有地の拡大の推進に関する法律に基づく工業団地造成を要請している。
ウ 工業団地造成事業の概要と経緯
(ア)事業概要
次表のように機構と県の持分比率は2:1であり、公社が用地買収、機構がその他の業務を行っている。事業地区は2つの地区に分かれており、合計 94.4ha である。そのうち工場用地面積は 76ha であり、平成 18 年8月時点で分譲済みは 5.6ha、分譲率 7.4%である。
表 3-1-31 事業概要
項 目 | 事業概要 | |||||
事業主体 | ・機構と県の共同事業。ただし、県の業務は公社が代行 | |||||
共同事業の持分割合 | ・機構 2/3、県 1/3 | |||||
造成地の所有名義 | ・機構 2/3、公社 1/3 の共有名義 | |||||
業務区分 | ・用地買収は公社、その他の業務は機構 (県・公社持分業務も用地買収以外は機構に委託) | |||||
事業地区 | ・胎内市鴻の巣地区、同xx浜地区。空中写真及び区画図は次図参照。 | |||||
事業面積 | 地区名 | 総面積 | 工場用地面積 | 分譲済面積 | 分譲可能面積 | 分譲率 |
鴻の巣 | 62.0ha | 55.1ha | 5.6ha | 49.5ha | 10.2% | |
xxx | 32.4ha | 00.0xx | 0xx | 00.0xx | - | |
計 | 94.4ha | 76.0ha | 5.6ha | 70.4ha | 7.4% | |
分譲価格 | ・10,340 円/㎡~15,280 円/㎡。平均 13,579 円/㎡。 |
(出典:県資料より作成(平成 18 年8月時点))
図 3-1-8 事業地区の空中写真
(出典:県資料)
図 3-1-9 事業地区の区画図
(出典:県資料)
(イ)事業経緯
平成4年に県が機構に要請して事業が始まっている。平成4~5年度で用地買収、平成5~9年度で土地造成が行われ、平成9年7月には分譲が開始されている。それ以来、
9年以上の期間、分譲を継続しているが、前述のように平成 18 年8月までに 7.4%が分譲されているにすぎない。
表 3-1-32 事業経緯
年 | 事業経緯 |
H4 | (12 月) 県が機構に対して事業申請 ⇒機構が事業採択 用地買収 ⇒機構・県・公社の間で基本協定締結 |
H5 | (2月) 機構・公社の間で共同事業委託協定締結 |
H6 | (3月) 用地買収完了 |
H7 | (8月) 予約分譲開始 土地造成、関連公共事業 |
H8 | |
H9 | (3月) 造成工事完了 (7月) 公募開始 |
H10~ | 分譲継続 |
(出典:県資料より作成)
② 制度の仕組みア 貸付金の経緯
(ア)平成4~13 年
工業団地造成事業における事業執行の基本方針(平成4年 11 月5日)に基づき、工業団地造成資金は、公社が県の債務保証により民間金融機関から調達していた(県の貸付金なし)。
(イ)平成 14 年以降
平成 12 年度の包括外部監査の指摘(完成土地に振替後も借入金利息等を土地の取得原価に参入)を契機として公社の資金調達方法を見直し、利息負担軽減のために県からの無利子貸付で資金調達することに変更した。ここで取り上げている貸付金は平成 14 年度以降のものである。
イ 貸付契約
県から公社への貸付金は無利子で貸付期間は1年間である。平成 17 年度の貸付金額は
3,438,313 千円である。
表 3-1-33 平成 17 年度における県と公社の貸付契約の概要
項 目 | 契約内容等 |
契約日 | 平成 17 年 4 月 1 日 |
資金使途 | 新潟xx中核工業団地事業に要する資金 |
貸付金額 | 3,438,313 千円 |
貸付利率 | 無利子 |
貸付期間 | 平成 17 年 4 月 1 日~平成 18 年 3 月 31 日 |
(出典:新潟xx中核工業団地貸付金貸付契約書より作成)
ウ 貸付業務の流れ
造成事業資金の貸付金は土地を売却できるとその分だけ県に償還されることになるが、分譲が進まないため毎年度同様の貸付契約を締結し、借り換えを行っている状況である
(図 3-1-10)。具体的には、公社は当年度の県からの貸付金で前年度の貸付金を償還し、県は4月から5月末までの出納整理期間に前年度分の貸付が償還された形となっている
(財源は県自身の当年度貸付金)。したがって、公社では年度末残高が生じるが、県ではいったん年度末に残高がゼロとなる。
図 3-1-10 工業団地造成事業貸付金の貸付業務フロー
造成土地購入者
(年度中) 代金
土地売買契約 支払
公社
(当年度当初)
(当年度当初)前年度分
(当年度末)売却分
(次年度当初)
(次年度当初)当年度分
貸付契約 (当年度当初) 償還 償還
当年度分
県(一般会計)
貸付
貸付契約 (次年度当初) 償還
次年度分
貸付
当年度
次年度
年度の帰属期間の違い
公社
県 前年度(出納整理期間)
当年度 (出納整理期間)
次年度
(出典:県資料等より作成)
(注1)県の事業部分だけであり、機構との関係は示されていない。
(注2)図下部は公社と県の年度の帰属期間の認識の違いを示したものである。
エ 新潟県土地開発公社
公社の概要は次のとおりである。
表 3-1-34 公社の概要
名称 | 新潟県土地開発公社 | ||
所在地 | xxxxxx00xx2 | 設立年 | 昭和 48 年 3 月 31 日 |
代表者 | 理事長 xx xx | ||
資本金 | 30,000 千円 | 県出資率 | 100% |
沿革及び設立目的 | 昭和 39 年 9 月財団法人新潟県開発公社を設立。昭和 48 年 3 月公有地拡大推進法の趣旨に則り、公有地の積極的な拡大を図り、その有効かつ適切な利用によって地域の秩序ある整備 を図るため、新潟県土地開発公社として組織変更し、同年 4 月から事業開始。 | ||
事業内容 | 1) 次の土地の取得、処分を行うこと。 ・都市計画区域内で届出等に係る土地 ・道路、公園、緑地その他の公共施設の用に供する土地 ・公営企業の用に供する土地 2) 住宅用地の造成事業その他土地の造成に係る公営企業に相当する事業を行うこと。 3) 国、地方公共団体その他公共的団体の委託に基づき、土地の取得のあっせん、調査、測 量その他これらに類する業務を行うこと。 |
(出典:県及び公社資料より作成)
③ 貸付金の実績
平成 14 年度の貸付金額は 3,483,425 千円であり、その後、減額されたのは平成 17 年
度のみである。平成 16 年度に2件土地が売却されたため、その分が控除されたためであ
る。平成 18 年の7月に1件分譲があり、平成 19 年度の貸付金額も若干減額となる見込みである。
表 3-1-35 貸付金額及び分譲実績の推移
(単位:xx)
年度 | H9 | H10 | H11-H13 | H14 | H15 | H16 | H17 | H18 | 計 |
貸付 金額 | - | - | - | 3,483,425 | 3,483,425 | 3,483,425 | 3,438,313 | 3,438,313 | - |
対前年 増減額 | - | - | - | - | - | - | △45,112 | - | - |
分譲件数 | 3 件 | 1 件 | - | - | - | 2 件 | - | 1 件 | 7 件 |
分譲面積 | 2.8ha | 1.1ha | - | - | - | 1.2ha | - | 0.5ha | 5.6ha |
(出典:県資料より作成)
(注)分譲件数・面積はH9 以降の 7 件が実績全体である。またH18 は4月~8月の実績。
(2)実施した手続
県と公社において次の手続を実施した。
(ⅰ)県における手続
・工業団地造成事業の概要及び県からの貸付金の経緯について担当課から説明を受けた。
・機構・県・公社の間の共同事業基本協定、事業実施の基本方針など、造成事業及び貸付の根拠となる文書を閲覧した。
・平成 17 年度の県と公社の間の貸付契約書や支出命令決議書など、貸付に係る文書を
閲覧した。
・分譲実績や分譲価格見直しに関する資料を閲覧した。
・工業団地に対する進出意向調査の結果を入手し、内容を確認した。
(ⅱ)公社における手続
・公社及び工業団地造成事業の概要について説明を受けた。
・平成3~4年当時の県から公社への依頼文書や、公社の事業計画を閲覧した。
・公社の決算書や借入金台帳などで、県からの借入金のデータを確認した。
・平成 17 年度の支出命令や納入通知書など、県からの借り入れ及び償還に係る文書を閲覧した。
(3)監査の結果と意見
① 指摘事項
【指摘事項①】不動産鑑定等業務の委託料の扱いについて
工業団地造成事業申請前の平成3年度に、県が公社に不動産鑑定と物件等調査の業務を委託している。県は同年度に 8,509 千円の委託料を支出し業務は終了しているが、公社は当該委託業務の経費を造成土地の原価に算入するとともに、県からの借入金残高 8,509 千円を計上している。この残高は平成 17 年度末まで動きはなく、毎年度同額である。県では、公社の借入金に対応する貸付債権は認識されておらず、同一の取引に対して両者がお互いに整合しない会計処理をしたことになる。このままでは、公社の借入金は今後も償還の機会がなく、実体を伴わない状態が続くことになる。適正化のために何らかの修正を早急に行う必要がある。
例えば、当時の委託契約書をみると、前文で「(前略)不動産鑑定等費用を中核工業団地造成事業に精算対象とするため(中略)委託契約を締結する。」と契約のねらいが記されている。また、同契約書第9条で「乙(公社)は、新潟xx中核工業団地造成事業が終了したときは、甲(県)乙協議の上、委託料相当額を甲に納付するものとする。」(カッコ内は包括外部監査人が付与)とされている。不動産鑑定等は工業団地造成事業の一環の業務であるため、その経費は造成土地の売却収入で賄うべきであり、いったん支払った委託料相当分は事業終了時に返してもらうということであろう。実質的には、県が公社に業務を依頼するとともに、その資金を貸し付ける契約と読み替えることもできる。
この場合、公社の会計処理に合わせて、県が新たに貸付金残高を認識する必要がある。また、現在、県から公社への貸付金額は、公社の完成土地の資産残高から委託料相当額 8,509 千円を控除して計算されているが、控除しない方法で行うことになる。
一方、平成3年度の不動産鑑定等の業務は、平成4年度の機構による事業採択前のものであり、工業団地造成事業の一環で行われたとは言えないという判断もある。県から公社への委託業務は県が委託料を支払った時点で完了し、債権債務は発生していないと
する考え方である。この場合、県はそのままで、公社で修正処理をする必要が出てくる。完成土地と県からの借入金残高の両方から委託料相当額 8,509 千円を落とすなどの処理を行うことになる。
② 意見
【意見①】現時点の損失額の試算について
現在の公募価格にて短期間に全て売却が完了した場合に想定される損失額についてシミュレーションをした結果は以下のとおりである。
【シミュレーションを実施する上での前提条件】
・現状の公募価格で単年度中に全て売却されたと仮定している。
・販売に係る事務費等は計算を簡略化するために考慮外とする。
表 3-1-36 現状の損失推定額
未分譲面積(㎡) | 平均公募単価(円/㎡) | 売却価額(千円) | |
xx中核工業団地 | 708,697 | 13,579 | 9,623,379 |
中小機構持分分(2/3) | △ 6,415、586 | ||
合 計 | 3,207,793 | ||
平成17年度現在の一般会計借入額 | 3,438,313 | ||
損 失 推 定 額 | △230,520 |
上記の通り、現在の公募価格で即座に全て売却され、かつ、販売に係る諸経費を考慮外としても推定される損失額は 230 百万円を超過する結果となる。次の【意見②】のシミュレーションにもあるとおり、売却に長期間を要すれば更に損失は拡大することが想定されるが、既に現時点ですべて売却できたとしてもこれだけの損失が発生するという厳しい現状を正しく認識する必要がある。
なお、現在の状況から判断する限り、相当額の損失発生は不可避と考えられるため、損失補填の方法について検討を行う必要がある。
【意見②】分譲促進策の必要性について
中条中核工業団地については、不動産鑑定士による鑑定評価額を参考に平成 18 年1月
に分譲価格の改定を実施している。改定前の平均公募単価 18,430 円/㎡から改定後の平
均公募単価 13,579 円/㎡へと大幅に値下げを行っている。この改定は機構の方針として、
10 年間で売却を完了するという方針のもと実施されたものであるが、改定後売却が成立
したのは 1 件(売却面積 4,943.52 ㎡(0.5ha)、売却金額 67,479 千円)のみという状況である。現状の公募価格は、概ね不動産鑑定評価額に近似しているものの、売却が難航している状況にある。
一方、平成 13 年までは公社が民間金融機関から調達していた事業資金について、平成
14 年度より金利軽減を図るために県の一般会計からの無利子貸付に切り替えられている。県の財政状態は公債に大きく依存している状態であるため、一般会計の無利子貸付には、間接的に公債の利息相当額のコスト(機会費用)が発生していることが想定される。
以上をふまえて、平成 17 年度末現在において残存する分譲用地を今後 10 年間で売却
した場合と 20 年間で売却した場合について、一定の前提条件をおいた上で、機会費用を含んだ損失発生見込額をシミュレーションした結果は以下の通りである。
【シミュレーションを実施する上での前提条件】
・機会費用としての利息相当額を計算する利率については平成 18 年3月 31 日現在の公債残高を基に加重平均した利率 1.9%を使用している。
・工業団地の分譲は設定した年限について平均的に売却されるものと仮定している。
・工業団地の地価については年間 0.9%の地価下落が発生すると仮定している。これは県の過去 20 年間(一定の景気変動を反映させるために 20 年とした。)の地価変動率を単純平均したものである。
・営業費用については、維持管理費については過去 5 年、それ以外の経費については
過去2年間の単純平均値 13,919 千円と仮定している。(維持管理費以外の経費につ
いては、平成 15 年に経費の見直しが行われ、大幅に減少しているため、実勢に合わせて過去2年の平均とした。)
・機会費用としての利息相当額を算出するにあたっては、一定時点の残高(表の一般会計からの借入金残高)を基準として計算を行っている。
・シミュレーションの計算を簡略化するため、現在価値での比較は行わない。
表 3-1-37 今後 10 年で売却するケース
(単位:xx)
項目 年度 | 一般会計からの 貸付額推定 | 売却代金見込 | 営業費用見込 | 一般会計からの 貸付金残高推定 | 機会費用 |
H17 | 3,438,313 | ||||
H18 | 3,438,313 | 320,779 | 13,919 | 3,131,453 | 59,497 |
H19 | 3,131,453 | 317,892 | 13,919 | 2,827,480 | 53,722 |
H20 | 2,827,480 | 315,031 | 13,919 | 2,526,368 | 48,001 |
H21 | 2,526,368 | 312,195 | 13,919 | 2,228,092 | 42,333 |
H22 | 2,228,092 | 309,386 | 13,919 | 1,932,625 | 36,719 |
H23 | 1,932,625 | 306,601 | 13,919 | 1,639,943 | 31,158 |
H24 | 1,639,943 | 303,842 | 13,919 | 1,350,020 | 25,650 |
H25 | 1,350,020 | 301,107 | 13,919 | 1,062,832 | 20,193 |
H26 | 1,062,832 | 298,397 | 13,919 | 778,354 | 14,788 |
H27 | 778,354 | 295,712 | 13,919 | 496,561 | 9,434 |
合計 | 3,080,946 | 139,195 | 341,500 |
表 3-1-38 今後 20 年で売却するケース
(単位:xx)
項目 年度 | 一般会計からの 貸付額推定 | 売却代金見込 | 営業費用見込 | 一般会計からの 貸付金残高推定 | 機会費用 |
H17 | 3,438,313 | ||||
H18 | 3,438,313 | 160,389 | 13,919 | 3,291,842 | 62,545 |
H19 | 3,291,842 | 158,946 | 13,919 | 3,146,816 | 59,789 |
H20 | 3,146,816 | 157,515 | 13,919 | 3,003,220 | 57,061 |
H21 | 3,003,220 | 156,097 | 13,919 | 2,861,041 | 54,359 |
H22 | 2,861,041 | 154,693 | 13,919 | 2,720,268 | 51,685 |
H23 | 2,720,268 | 153,300 | 13,919 | 2,580,886 | 49,036 |
H24 | 2,580,886 | 151,921 | 13,919 | 2,442,885 | 46,414 |
H25 | 2,442,885 | 150,553 | 13,919 | 2,306,250 | 43,818 |
H26 | 2,306,250 | 149,198 | 13,919 | 2,170,971 | 41,248 |
H27 | 2,170,971 | 147,856 | 13,919 | 2,037,034 | 38,703 |
H28 | 2,037,034 | 146,525 | 13,919 | 1,904,428 | 36,184 |
H29 | 1,904,428 | 145,206 | 13,919 | 1,773,141 | 33,689 |
H30 | 1,773,141 | 143,899 | 13,919 | 1,643,161 | 31,220 |
H31 | 1,643,161 | 142,604 | 13,919 | 1,514,476 | 28,775 |
H32 | 1,514,476 | 141,321 | 13,919 | 1,387,074 | 26,354 |
H33 | 1,387,074 | 140,049 | 13,919 | 1,260,944 | 23,957 |
H34 | 1,260,944 | 138,788 | 13,919 | 1,136,075 | 21,585 |
H35 | 1,136,075 | 137,539 | 13,919 | 1,012,454 | 19,236 |
H36 | 1,012,454 | 136,301 | 13,919 | 890,072 | 16,911 |
H37 | 890,072 | 135,075 | 13,919 | 768,916 | 14,609 |
合計 | 2,947,786 | 278,390 | 757,187 |
上記のとおり 10 年間で売却のシミュレーションをした場合に残存する貸付金残高は、
回収不能となり損失として顕在化する可能性がある金額として 496 百万円、機会費用としての利息相当額は 341 百万円という結果になる。一方、20 年間で売却のシミュレーションをした場合には回収不能となり損失として顕在化する可能性がある金額として 768
百万円、機会費用としての利息相当額は 757 百万円という結果となる。これらの結果からみても分譲期間が長期化するほど損失見込額(機会費用を含んだコスト)が増加するリスクが高いことが判る。
シミュレーションの結果のみで判断するならば、何の策も講じずに 20 年間かけて売却するのであれば、688 百万円分(10 年と 20 年の損失見込額の差額、工業団地全体での影響額で考えると 2,064 百万円となる。)分譲地の販売価格を値下げ(値下げ後の平均分譲
単価は 10,666 円/㎡となる。)して売却しても結果として発生する損失は同額ということになる。
また、早期に売却を終了することは、実際に企業が当該産業団地に進出することになるため、そのことによるプラスの経済効果(雇用の創出、法人税や固定資産税等の税収増加、衣食住に関する商業的な経済効果等々)も発現することになる(今回のシミュレ
ーションでは測定が困難であるため考慮していない)。一方、マイナスの経済効果も発現することは想定(交通量増加による環境への負荷等)されるが、一般的にはプラスの経済効果の方が大きいと想定される。
このような経済効果についても考慮するならば、単純なシミュレーション結果よりも更に低い価格での売却であったとしても、早期売却の方が有利となる可能性もある。
また、県においては依然として地価の下落傾向が継続しており、今後の地価動向は依然として不透明であるため、更に地価が下落する可能性も十分にあると考えられる。このような地価下落リスク(もちろん地価上昇する可能性もあるが)を考えても、極力早期の売却を可能とする分譲価格の再設定を含めた分譲促進の方策(詳細は【意見③】、【意見④】参照)を検討し、今後の事業を遂行することが必要である
【意見③】分譲価格の適時の見直しについて
平均公募単価の設定は次表のとおりであるが、公募開始の平成9年当時は 18,430 円/
㎡であり、その設定で維持されてきている。平成 18 年1月にようやく改定され、13,579円/㎡となっている。
一方、次図は工業団地造成地の近くにある地点の公示地価の推移と公募価格等を比較したグラフである。公示地価は平成 12~14 年をピークとして下がり続けており、平成 18年はピーク時の 70~86%程度に低下している。
工業団地造成地は公示地価の地点とは中心市街地からの距離や利用現況などが異なるため単純に比較できず、公募価格の設定が高いかどうかは判断できないが、少なくとも公示地価等の趨勢にあわせて公募価格が変更されてこなかったことは事実であろう。また、機構による当該工業団地造成地に係る鑑定評価がなされているが、それと比較しても平成 15~17 年公募価格は1~3割程度高い設定である。
確かに、xx性の観点から公募価格を頻繁に変更することは難しい。また、最近の分譲に際しては相対で価格が交渉されてきたとのことであり、平成 16 年の分譲実績の単価は平均公募価格の7割程度である(表 3-1-39)。しかし、企業が当該工業団地に関心を示すかどうかは、まずはパンフレット等で提示される公募価格であると思われる。
さらに、工業団地造成事業の原価を前提に価格設定せざるを得ないのも事実であるが、前述のシミュレーションによると、分譲期間が長引くほど県が負担する管理費等や無利子貸付金の機会費用が膨らむ可能性もある。県民の負担を軽減するためにも、県として独自にシミュレーションを行い、需要の動向や地価の趨勢に合わせた適時で柔軟な公募価格の設定について、機構と協議していくことが望まれる。
表 3-1-39 年度別平均分譲単価等の推移
(単位:xx)
年度 | H9 | H10 | H16 | H18 | 計 |
総売却額(千円) | 519,407 | 190,791 | 158,035 | 67,479 | 935,712 |
うち公社分売却額 (千円) | 173,135 | 63,597 | 52,678 | 22,493 | 311,904 |
分譲件数 | 3 件 | 1 件 | 2 件 | 1 件 | 7 件 |
分譲面積(㎡) | 28,336.37 | 10,408.68 | 12,194.34 | 4,943.52 | 55,882.91 |
分譲単価(円/㎡) | 18,330 | 18,330 | 12,960 | 13,650 | 16,744 |
平均公募単価(円/㎡) | 18,430 | 18,430 | 18,430 | 13,579 | - |
分譲単価/平均公募 単価×100 | 99.5% | 99.5% | 70.3% | 100.5% | - |
(出典:県資料より作成)
(注)分譲面積は総売却額に対応する全体の面積。また、平均公募価格は区画によって公募単価が異なるため、H9~H17 の期間でも売却によって多少変動がある。さらに、区画による単価の違いや相対での値引き等のため、分譲単価/平均公募単価は 100%ではない。
図 3-1-11 工業団地造成地に係る地価及び公募単価、売却単価の推移
45,000
公示地価(胎内1)
40,000
39,700
公示地価(胎内2)
35,000
鑑定評価額
31,400
30,000
平均公募単価
27,800
円 25,000
/
27,200
売却実績単価
㎡ 20,000
工
18,430
業
団地造成事業採
択
18,330
18,330
16,700
15,000
用
地買収完
了
12,960
13,579
13,000
10,000
5,000
分
譲
開始
貸
付開始
0
H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18
(出典:県資料及び国土交通省のホームページのデータベースよりデータを入手して作成)
(注1)公示地価は工業団地造成地に近い次の2地点を取り上げた。
・胎内1:胎内市xx町 435 番3、地積 368 ㎡、利用現況 住宅、一種住居地域
・胎内2:xxxxxx 0000 x 000、地積 206 ㎡、利用現況 住宅、一種低層住居専用地域
(注2)鑑定評価額は機構によるもの。
(注3)平均公募価格は工業団地造成地の公募価格の設定を平均したもの。
(注4)売却実績単価は、H9、H10、H16 の売却額を面積で除したもの。
【意見④】分譲促進方策の検討における留意点について
中条中核工業団地造成事業は、前述の県営工業団地造成事業とは異なり、いくつかの特徴を有している。分譲促進策の検討においても、その特徴を十分に踏まえる必要がある。
ア 県の主体的な取組の推進
中条中核工業団地造成事業は機構と県、公社、胎内市といった複数の主体が関わっており、それぞれ誘致活動を実施している(公社を除く)。
分譲促進策の検討に当たっては、県は3分の1の持分を有する事業主体であり、さらに、持分相当の事業費(売却による損失、無利子貸付金の機会費用等)及び管理費を負担することになるため、積極的に分譲促進策の検討に取り組む必要がある。特に県内の工業団地全体の供給及び分譲については県の産業政策とも関係するところであり、そうした観点からも当該工業団地の分譲を進める必要がある。
イ 機構における事業推進の期限
機構は平成 16 年7月1日に地域振興整備公団が改編されて発足しているが、その根拠法である独立行政法人中小企業基盤整備機構法附則第5条第1項及び同法施行令附則第
2条第1項では、旧地域振興整備公団が行っていた工業再配置等業務は平成 26 年3月 31
日まで行うことができるとされている。平成 16 年7月~平成 21 年3月を期間とする機構の中期目標には、xxのような工業団地等に関して次のような目標が掲げられている。
「地域振興整備公団が整備した中小企業基盤整備機構法附則第5条及び附則第6条第
3項に掲げる産業用地の分譲業務等については、中小企業基盤整備機構法施行令附則第
2条第1項及び第5条第1項に定められた期間で終了するため、当該期間で完売するた めに必要な総合的な分譲促進策を策定し、着実に実施する。また、中期目標期間終了後の未利用面積が中期目標開始時点に比べおおむね半減していることを目標とする。」(機構の中期目標より抜粋。下線は包括外部監査人が付与)
すなわち、平成 26 年度で分譲業務等が終了するため、それまでにすべて分譲すべく分
譲促進策を策定することと、平成 21 年度までには未分譲用地の半分を分譲するということである。
県としても、こうした機構側の事情を踏まえながら、平成 26 年度までの事業の完了を目指すべきであると考える。したがって、分譲促進策の検討においてはこれらの期間的な制約を十分踏まえたものとする必要がある。
【意見⑤】単年度貸付契約の見直しについて
現在、県は公社に対して単年度ごとの貸付を行っている。しかし、出納整理期間を利用して翌年度の貸付金に転換しているだけであり、実質的には長期の貸付金である。決算では貸付金の残高が残らないなど、実態が正確に反映されず透明性に欠ける。また、分譲が進まず、長期的な事業となっているにも関わらず、その資金を短期の貸付で手当てするという発想自体民間の感覚からはずれている。
現在の単年度の貸付契約については見直しを行うことが望ましい。
例えば、既述の【意見④】で提案している分譲促進策の設定期間に沿って、長期の貸付契約とすることも考えられる。そこでの償還は分譲実績に応じて行うことになるが、実質的には既存の方法と変わりない。これによって貸付債権の実態が正確に示され、契約期間も意味のあるものとなる。また、契約事務の負担軽減にもなると思われる。
5 物流拠点構築事業用地取得貸付金
(1)概要
① 制度の趣旨ア 目的
平成 14 年度、県が公社に対して、新潟東港地区における物流拠点構築事業用地の先行取得を依頼し、その資金を県が公社に貸し付けたものであり、県による用地の再取得及び貸付金償還期限は平成 19 年3月 31 日である。
イ 根拠法令等
(ア)公有地拡大推進法
公社による用地の先行取得は、公有地の拡大の推進に関する法律(以下、「公有地拡大推進法」という。)及び県と公社の間で締結された物流拠点構築事業に伴う用地の先行取得に関する契約(以下、「先行取得契約」という。)に基づいて行われ、また、新潟県土地開発公社事業資金貸付契約(以下、「貸付契約」という。)によって貸付が実行されている。
(イ)輸入促進地域
当該用地の使途とされている物流拠点構築事業は、輸入促進地域(以下、「FAZ(Foreign Access Zone)」という。)の計画に沿ったものであり、その根拠法は、輸入の促進及び対内投資事業の円滑化に関する臨時措置法(以下、「FAZ 法」という。)である。
FAZ 法は我が国の貿易不均衡の是正と投資の円滑化を図るために、1992 年、通産、運輸、農林、自治の4省によって制定されたものである。港湾・空港及びその周辺地域に設定された FAZ において、輸入促進に関する施設の整備や各種事業・活動を支援し、輸入関連機能の集積を図ろうとしたものである。なお、平成 18 年5月に FAZ 法は廃止されている。
県の FAZ 計画の概要は次のとおりである。今回対象とした県の貸付金で取得された用地は、FAZ 計画のうち第2期基盤施設の整備を目的としたものである。
表 3-1-40 新潟 FAZ 計画の概要
項 目 | 概 要 |
目 的 | 「xxxx交流時代」の国際物流拠点化に向けて、新潟港及び新潟空港の国際インフラや高速交通網の結節点等のポテンシャルを活かしながら、国際物流拠点の整備を促 進し、貿易の拡大による県内産業の活性化を図る。 |
FAZ 指定 | 新潟 FAZ 計画は平成 8 年 3 月 27 日に国の承認を受け、新潟港地域(新潟市、旧豊 栄市、聖籠町)が FAZ に指定された。 |
第1期基盤施設 | 「定温くん蒸施設」(事業地は図 3-1-12 参照)平成 10 年 4 月供用開始 ・くん蒸庫:県整備、規模 210 ㎡、青酸・臭化メチルくん蒸、定温機能等 ・定温庫:第三セクター整備、規模 1,500 ㎡、臭化メチルくん蒸、定温機能等 |
第2期基盤施設 | 「新潟国際物流センター(仮称)」 (事業地は図 3-1-12 参照) |
開業時期:未定(参画企業募集中) | |
(貸付金対象 | |
施設概要:総合保税地域制度を活用した輸入貨物の荷捌き、保管、加工等のできる高 | |
用地) | |
度物流施設 |
(出典:県パンフレット等より作成。なお、平成 16 年度当時の概要であり、現時点の計画内容でない。)
図 3-1-12 新潟 FAZ の位置図
第1期 基盤施設
第2期基盤施設予定地
(貸付金対象用地)
(出典:県資料)
② 制度の仕組みア 先行取得契約
県と公社が締結した先行取得契約の主な内容は次のとおりである。
表 3-1-41 先行取得契約の概要
項 目 | 契約内容等 |
契約日 | 平成 14 年 10 月 18 日 |
事業用地 | ・ 所在地:xx土地区画整理事業地内(旧豊栄市)、位置は前図参照 ・ 規 模:55,575.1 ㎡ |
公社の業務内容 | ・ 平成 14 年度における事業用地の取得 ・ 事業用地取得の付帯業務(補償金額算定、用地交渉、契約締結、登記等) ・ 事業対償地の取得 |
用地の再取得 | 県は次の経費の合計金額 1,743,328,000 円の範囲内で平成 18 年度に用地を再取得 ・ 公社の事業用地取得に要する用地費、補償費 ・ 事業用地の管理に要する経費 ・ 事業用地の取得に要する事務費 ・ 借入金のxx |
用地の引渡し | 公社は平成 19 年3月 31 日までに土地を県に引き渡す |
(出典:物流拠点構築事業に伴う用地の先行取得に関する契約書より作成)
イ 貸付契約
県から公社への貸付は3回に分けて実施されており、それぞれの貸付契約書の記載内容は次のとおりである。
表 3-1-42 貸付契約の概要
項 目 | 契約内容等 | ||
契約日 | 平成 15 年 1 月 30 日 | 平成 15 年 3 月 24 日 | 平成 15 年 3 月 27 日 |
資金使途 | 物流拠点構築事業のための土地取得資金 | ||
貸付金額 | 1,503,619 千円 | 155,327 千円 | 14,208 千円 |
合計 1,673,155 千円 | |||
貸付利率 | 無利子 | ||
貸付期間 | 平成 15 年 2 月 7 日~ 平成 19 年 3 月 31 日 | 平成 15 年 3 月 31 日~ 平成 19 年 3 月 31 日 | 平成 15 年 4 月 30 日~ 平成 19 年 3 月 31 日 |
(出典:新潟県土地開発公社事業資金貸付契約書より作成)
ウ 貸付業務の流れ
次図のように、県と公社の先行取得契約及び貸付契約に基づき、土地基金から資金を借り入れ、公社に貸付を行っている。公社はそれをもとに地権者から土地を買い取り、代金を支払っている。用地の再取得及び貸付金の償還は平成 18 年度末が期限であるが、報告書作成時点では実施されるかどうか未定である。
図 3-1-13 物流拠点構築事業用地取得貸付金の貸付業務フロー
地権者
H14
土地売買契約
H14
土地引渡
H14
支払
公社
H14
先行取得契約
H14
貸付契約
H14
貸付
H18
県(一般会計)
用地 再取得予定
H18
経費支払予定
H18
貸付金償還 予定
県(土地基金)
H14 借入
(注) :契約等、 :土地、 :資金
(出典:県資料等より作成)
H18 償還予定
③ 貸付金の実績ア 貸付金残高
「②イ 貸付契約」で整理したように、県から公社への貸付金額は 1,673,155 千円である。それ以降、追加貸付や償還はなく、平成 17 年度末の残高も同額である。
イ 土地基金残高
平成 17 年度決算の財産に関する調書によると、土地基金全体の残高は 24,996,970 千
円である(次表)。物流拠点構築事業用地取得貸付金の残高 1,673,155 千円は土地基金残高全体の 6.7%、土地基金のうち貸付金残高の 12.6%を占めている。
表 3-1-43 土地基金残高
(単位:xx)
区 分 | 平成 16 年度末 | 平成 17 年度増減 | 平成 17 年度末 |
現 金 | 9,714,976 | 119,393 | 9,834,369 |
貸 付 金 | 13,386,497 | △116,451 | 13,270,046 |
土 地 | 1,892,555 | - | 1,892,555 |
計 | 24,994,028 | 2,942 | 24,996,970 |
(出典:財産に関する調書)
(2)実施した手続
県と公社において次の手続を実施した。
(ⅰ)県における手続
・公社への貸付の概要及び FAZ 事業の沿革・現状について担当課から説明を受けた。
・平成 14 年度の先行取得契約書、貸付契約書、支出負担行為決議書、支出命令決議書等の書類を閲覧した。
・平成 14 年度の土地基金からの借入れに係る書類(貸付決定書等)を閲覧した。
・平成 18 年度の用地再取得の見込みについて担当課から説明を受けた。
(ⅱ)公社における手続
・本貸付金に係る公社の業務や償還方針等について説明を受けた。
(3)監査の結果と意見
① 指摘事項
【指摘事項①】取得面積の根拠及び取得後の具体的な利用計画の不明確さについて
県から公社に対して当該貸付金を実行したことが妥当であったかについて判断するため、以下のように FAZ 計画と用地取得の関連性、先行取得の時期・対象地の妥当性、そしてその用地に係る具体的な利用計画の明確さについて検討した。
その結果、少なくとも取得面積の根拠及び取得後の具体的な利用計画については不明確である。今後、他の部門を含めて同様のことが起きないように、用地取得を行う際には、その前提として具体的な利用計画を明らかにしておく必要がある。
ア FAZ 計画と用地取得の関連性
今回の貸付金の発端は新潟 FAZ の指定にある。FAZ 法は 80 年代から 90 年代にかけてのわが国の貿易摩擦が背景にあり、輸入を促進させようとする目的で制定されたものであるが、近年はその必要性も低下してきていた。平成 18 年 1 月の国の輸入・対内投資法政策評価研究会報告書においても「法制定当時に比べ、わが国の貿易黒字に対する国際的な懸念の声も低下し、製品輸入比率も高まる中、同法による輸入促進策の政策的な意義は低下」と評価され、同年5月に FAZ 法は廃止されている(表 3-1-44)。
新潟 FAZ 計画は平成8年3月に承認されている。FAZ 法制定の趣旨や、全国の主要な港湾・空港を抱える地域で FAZ 指定に向けて動いていたこと(平成 12 年度までに全国で 22ヶ所承認・同意)、あるいは FAZ 指定により地域への経済効果も期待されていたことなどから、特定重要港湾(中核国際港湾)の新潟港周辺で FAZ 計画が推進されたことは自然な流れであったと推測される。
ただし、国として FAZ 法の意義が薄れてきただけでなく、新潟としても FAZ 計画を取
り巻く状況は厳しかったようである。平成 15 年1月 14 日の普通会計決算審査特別委員会の会議録をみると、当時 FAZ 担当である国際経済課長の次のような答弁が見られる。
「(前略)今年度の予算で、xx地区で国際物流センターの予定地の土地開発公社によ る先行取得を予定してございます。昨年度も企業の誘致に鋭意努めてまいりましたし、それから国際物流センターに対する気運の醸成、周知を兼ねましてセミナー等を開催し、現地の見学会等も行ったところでございますけれども、御存じのような景気の動向の中で、いま一つ企業の明確な参画の意志を頂いていないという現状の中で、計画の FAZ 施設そのものの建設という段階には至っていないというのが現状でございます。(中略)今後のこの構想の見通しでございますけれども、輸入そのものに焦点を当てました FAZ 施設というものが、今後の東港の物流機能の向上の上で必要な機能であるというふうには考えてございますが、FAZ の場合ですと、輸入に限定した施設ということになっておりますので、東港全体と見通しますと輸入だけで物流をさばききれるというふうには考えられませんので、それも含めまして、いわゆる国内物流も視野に入れた形で物流企業の招致というものに今後鋭意努めていきたいと考えております。」(下線は包括外部監査人が付与)
また、その2年半前の平成 12 年8月の知事査定結果メモ(担当課保管)でも、すでに FAZ とその他の物流拠点整備を平行して進める方針が示されており、事業用地 5.5ha のうち FAZ 用地は 3.5ha で、残りの 2.0ha は将来の物流基地の発展を考慮したものとされている。
表 3-1-44 FAZ と用地先行取得に係る年x
x | FAZ 関連 | 用地取得関連 |
H4 | (7月)輸入の促進及び対内投資事業の円滑化に関 する臨時措置法(FAZ 法)施行 | - |
H5 | - | - |
H6 | (3月)新潟 FAZ 基本計画調査 | - |
H7 | - | - |
H8 | (3月)新潟 FAZ 計画を国が承認 (5月)株式会社新潟国際貿易ターミナル(FAZ 施設の整備・管理運営等を行う第三セクター)設立 | - |
H9 | - | - |
H10 | (4月)定温くん蒸施設(第1期基盤施設)供用x x | - |
H11 | - | - |
H12 | (4月)新潟県輸入促進地域における基盤整備の促 進に関する条例(不動産取得税減免)施行 | (11 月)xx土地区画整理事業認可(組合施行)、施 行開始 |
年 | FAZ 関連 | 用地取得関連 |
H13 | (3月)新潟 FAZ 計画変更(国の同意) | - |
H14 | - | (4月)xx土地区画整理事業仮換地 (10 月)県と公社が先行取得契約締結 |
H15 | - | (1~3 月)公社が地権者から土地取得、県と公社が 貸付契約締結 |
H16 | - | - |
H17 | - | xx土地区画整理事業完了 |
H18 | (5月)FAZ 法➓止 (7月)新潟県輸入促進地域における基盤整備の促進に関する条例➓止 | - |
H19 | - | (3月)県による用地再取得及び経費支払い、並び に公社からの貸付金償還(予定) |
(出典:県、公社等の資料より作成)
当時、既に企業のニーズも踏まえ FAZ 計画推進の困難性が認識されており、また、県の長期総合計画で東港周辺における総合的な物流拠点の形成が掲げられていたこともあり、国内物流を含めて幅広く物流企業を誘致する方向性が FAZ 計画と同時並行で推進されようとしている。それに対して事業用地については、形式上 FAZ 計画の第2期基盤施設である国際物流センターの予定地として先行取得されており、実質的な施策の動向との関連性が見えにくい状況である。将来的な物流基地としての発展性も考慮した用地取得であれば、その趣旨を示しておくべきであった。
イ 先行取得の時期・対象地の妥当性
一般的に、土地開発公社は地方公共団体よりも機動的に動けるため、必要な時期に必要な規模の用地を迅速に取得することが可能であり、地価の上昇局面では用地取得費を抑制する効果も期待できる。
次図で、今回先行取得した用地に近い地点の公示地価の推移を整理した。平成 10 年~
12 年ごろにピークを迎え、以降、下降している。平成 18 年時点の地価はピーク時から
47%~62%程度、用地を先行取得した平成 15 年からでも 67%~72%に下がっている。結果論ではあるが、先行取得の時期を遅らせるほど、用地取得費を軽減できた計算になる。担当課によると、東港周辺にはコンテナターミナルに近接した立地で FAZ 用地に適し た県xxはなく、xx土地区画整理事業によって用地を確保する方法をとっている。具体的には、県が FAZ 施設用地を設けることを前提に同土地区画整理事業が行われたため、事業を円滑に進める必要があり、平成 14 年4月の同事業の仮換地に合わせてすぐに用地
を先行取得したとのことである。
当該土地区画整理事業の認可前の時期にその後の地価の動向が予測できたとは言い難い面もあり、FAZ 計画を前提とした場合、先行取得の時期及び対象地については一定の合理性が認められる。
図 3-1-14 先行取得用地に近い地点の公示地価の推移
70,000
60,000
50,000
H15 公社の先
行取得単価 30,250 円/㎡
円 40,000
/
㎡ 30,000
31,500
20,000
F
A
10,000
Z
法施行
新
潟 F A Z
承
認
第
一期基盤施設開設
区
画整理事業認可
24,000
19,000
先
行取得契約
貸
付契約
償
還予定
0
H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18
30,300
新潟10-1
新潟10-10
51,000
新潟100
66,000
(出典:国土交通省のホームページのデータベースよりデータを入手して作成)
(注)各地点の概要は次のとおり。
新潟 100 :xxxxxxxx 0000 x 00(先行取得用地から約 3km)地積 235 ㎡、利用現況 住宅、一種住居地域
新潟 10-10:xxxxxxxxx 0000 x0x(先行取得用地から約 2.5km)地積 580 ㎡、利用現況 事務所、市街化調整区域
新潟 10-1:xxxxxxxxxx 0000 x1(先行取得用地から約1km)地積 428 ㎡、利用現況 住宅、市街化調整区域
ウ 具体的な利用計画の明確さ
本来であれば、用地取得の前提として次図のような検討が必要である。必要な物流機能や想定される物流の量と内容、物流関係企業の参加意向等を踏まえて、施設の規模や構成、土地利用が検討され、その上で必要な用地の規模や形状が決まってくるはずである。
図 3-1-15 用地取得までに想定される一般的な検討事項例
1.ニーズ、需要の把握
物流施設の事業環境の把握、物流需要の予測、企業進出意向等の把握等
2.事業計画(用地の利用計画)の検討
施設計画(機能、規模、構成、土地利用)、事業実施計画(体制、スケジュール等)、運営計画等
3.事業成立性の検討
事業計画に基づくフィージビリティ・スタディ(事業成立可能性調査)の実施、及びその結果による事業計画の修正・見直し
4.用地取得
事業計画(用地の利用計画)に基づく、用地の取得
担当課からは、国の承認を受けた新潟 FAZ 計画(変更を含む)、新潟 FAZ の概要を紹介したパンフレット、当初の FAZ 計画の基礎となった新潟 FAZ 基本計画調査報告書、先行取得用地 5.5ha の面積の根拠となったと思われる愛媛 FAZ のパンフレット、あるいは前述した平成 12 年8月の知事査定結果メモなど、手元に保持されている資料が提示されたが、FAZ 計画の基本的な方針や事業の参考情報ではあっても、用地の取得や利用の前提となる事業計画ではない。新潟 FAZ 基本計画調査報告書では事業収支シミュレーションまで行われており、内容は唯一事業計画に近いものであるが、今回の先行取得用地 5.5haの前提となった計画ではない。
当時、用地を先行取得する際に具体的な事業計画が十分検討されていたかどうかについて、疑問が生じる状況であり、結果として、取得面積の妥当性についても判断できない。
なお、県としてはこれから用地を再取得して利用しようという段階にあると思われるが、その具体的な方針が決まっていない。現在、新たな活用策について検討中とのことであるが、今後、早い時期に方向性を示すべきである。