中国法では企業の経営範囲について厳格に制限されている。いったん企業が経営範囲を超えて契約を結ぶなら、無効契約になりかねない。契約法では、「当事者が経営範囲を超 えて契約を締結した場合、人民法院はこれによりこの契約を無効契約と認定しない。ただし、国の制限性経営、特別許可経営および法律、行政法規で禁止された経営を除く」と 規定されている。この規定は一見、明確であるが、この規定の後段は曖昧で、柔軟性があるため、実務上ではさまざまな結果になる可能性がある。例えば、既に述べたように、...
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日系企業における契約上の問題点と注意点
上海成功総合法律事務所
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はじめに
一．日系企業における契約上の問題点
１．契約条項の不完備
２．中国法に対する認識の欠如による適用上の錯誤
３．契約書の翻訳上の問題
二．契約を結ぶ前の注意点――相手の信用・資産状況への審査
１．相手の主体資格への調査
２．資産状況への調査
３．契約書内容の合法性の審査三．契約時における注意点
１．契約の形式
２．契約履行の担保
３．契約の効力
４．争議の解決方法の選択四．契約発効後の注意点
１．契約後の手続き
２．相手の経営状況を注意して、随時に｢不安抗弁権｣を行使する
はじめに
本稿で論じる問題は、契約の理論的問題ではなく、実務的問題であり、しかも契約の実務に関する基本的な問題である。如何に契約を通じて経営リスクを回避するという問題はやや古い話題ではあるが、企業、特に外資系企業にとって如何に進出国の法律・政策を把握しながら経営リスクを防いでいくかという課題は解決済みの問題ではないはずである。これは最近、筆者のところに来る相談の中に、契約をめぐる争議が非常に多いことからも実感している。なかでも日系企業の債権回収問題には契約書に欠陥があることによるもの
が多い。これらの問題自体はそれほど複雑なものではなかったにもかかわらず、深刻な結果を招いたものも少なくない。
契約をめぐる争議が多いのは、日本人経営者の法的意識が低いというわけではなく、中国の法律に詳しくなく、若しくは中国の商習慣に詳しくないことを反映したものといえよう。外国人経営者は自国の法律に比べ、中国の法律、商習慣に詳しいわけはない。ましてや商業活動とはその国の文化、歴史、風習などにもかかわるものであり、その会得はそう容易なものではない。そういった意味からも、契約問題について再考する必要があると考える。
一．日系企業における契約の問題点
１．契約条項の不完備
米国法にやや詳しい人なら誰でも分かるが、米国人の作成した契約書は数十ページに上り、２、３ページの契約書はほとんどない。これは米国の商習慣である。これに対して、日本企業同士なら、重大な契約を除けば数十ページの契約書はあまり見られない。日本人弁護士がモデル契約書についてまとめた数冊の書物をみても、掲載されている契約書の雛型はほとんどが２、３ページのもので、長さは 10 箇条ぐらいである。
米国にせよ、日本にせよ、契約の長短にかかわらず、いったん契約が締結されれば厳格に守られ、非常に信用を重んじることとしては同様である。したがって、日本人のように簡単な契約書を作成したとしても大きな問題が生じないだろう。しかし、中国では事情がまったく違う。中国は市場経済システムを実行してから数年にすぎず、国民の遵法意識もまだ薄く、とりわけ近年来、商業上の誠実xxの意識が悪く評価されており、条項不完備の契約は言うまでもなく、条項完備の契約でも守られないケースも多い。さらに中国でどこに行っても存在する地方保護主義により、契約内容が曖昧だったり、明確な規定がなされてないと、たとえ自分に有利だと思われる契約でもxxな法律保護を受けかねる場合がある。したがって、日本の商習慣のように簡単な契約を締結するのは中国で通じない。争議を防ぐために、できるだけ契約書の内容を細分化し、曖昧な内容をなくすよう注意が必要だ。
２．中国法に対する認識の欠如による適用上の錯誤
日本人経営者が自国で学んだ法律知識を安易に中国でのビジネスに応用しがちだが、これが錯誤を招く原因となる場合がある。その背景には、中国法に対する認識不足が挙げられる。
まず、周知のように、日本と中国はともに大陸法国家に属すため、法制度の基本的な特徴においては似ているところが少なくないと思われる。しかしこの点が、ともに大陸法に属すからには、それほど違う内容がないだろうという誤解を招く原因にもなっている。実
は、日本と中国とは法制度上、大きく異なる。なぜなら、中日両国の政治制度すら全く異なり、契約法には技術的要素が多く含まれるが、契約法の具体的な内容および契約法に関わる法制度がその政治制度に反映されているからである。したがって、日本法の知識を当たり前のように中国で適用するのが大きな間違いである。
次に、中国法のシステムは日本法よりもっと複雑である。中国は 70 年代末から開放改革の政策を実行して以来、まったく前人未踏の道を歩んで来ている。政治、経済、社会生活などいろいろな面で激しい変化が起きている。
法制度の建設の面でも、故xxxxx話の中に「石を触りながら川を渡る」というのがある。結局、たくさんの法律が制定されたが、システムの完備さ、合理性の観点から見ると、非常に混乱の状況が続いているとの認識が正しい。例えば、法律法規は、法律、行政法規、地方法規、条例、司法解釈等があり、特に地方法規の種類が非常に多い。また、これらの法律間に矛盾するところが多いため、専門家でなければ何かの問題があったらどの法律を適用すればよいかがなかなか分からない。さらに、中国では法律以外にいろいろな政策（特に地方性政策）もあり、これらの政策が常に法律を凌いで有効視されているので、法律の執行環境がさらに悪くなっている。
加えて、中国では法律の修正が頻繁に行われており、朝令暮改と言っても過言ではない。
４、５年前の法規定がすでに失効したということは他の国なら考えられないことかもしれないが、中国では何も不思議なことではないのだ。したがって、中国でビジネスをするには常に中国の法・政策事情に細心の注意を払う必要がある。
３．契約書の翻訳上の問題
日中両国企業の間では、契約を結ぶ際に、日中両国の言語で契約書を作成するのが一般的である。しかし問題になっているのは、ほとんどの会社では契約書を作成したら日本語あるいは中国語のできる自社社員に翻訳させていることである。実際に言語と両国の法律にともに詳しい人は少ないため、両種類の契約書の言語にはしばしば意味の違うところが見られる。周知のように、法律文書の言語は非常に厳密的、倫理的であり、それに日中間の法律が異なり、日本法には中国法のある内容がないこともあるし、中国法には日本法のある内容がないこともあるため、少しの間違いでも深刻な結果となりかねない。したがって、この問題を軽視してはいけない。
二．契約を結ぶ前の注意点
中国では、実力のある企業と思っていたら、それは見せかけだけで、契約が締結されたら履行能力がないことが明らかになるケースも少なくない。したがって、契約前に相手の信用・資産状況をしっかり把握することが重要となる。相手の信用・資産状況を把握するには、主に相手の主体資格、資産状況、取引の合法性を重点に調査を行うことになる。
１．相手の主体資格への調査
主体資格への調査とは、相手が合法的な経営主体であるかどうかについての調査である。主に、相手が会社登記されているか、年度工商検査を通過したか、別会社の支社ではないか、他会社に買取されてないか、などの面から調査する。中国では主体資格がなくなったのに、まだ元の企業の名義で契約を結ぶケースがしばしば見られる。契約相手の主体資格に問題があった場合、契約が無効になりかねない。必ず主体資格に問題のない企業と契約を締結するようにしたい。
２．資産状況への調査
資産状況の調査とは、相手の契約履行能力の有無についての調査を指す。実務では、相手の事務所がきれいなオフィスにあるから実力のある会社だと誤認したケースもある。実は、中国ではこのように偽装している会社は決して少なくない。相手のxxを把握するために、伝統的な方法で、例えば工商管理局、取引銀行と日本の駐中国機構を通して調査を行うほか、税務当局を通して相手の納税状況を調査することが有効な方法ではないかと思われる。一般的には、企業の脱税現象がしばしば問題になる中国では、まじめに納税する企業はきっと信用・資産状況の良い企業といえるでだろう。
３．契約書内容の合法性の審査
中国法では企業の経営範囲について厳格に制限されている。いったん企業が経営範囲を超えて契約を結ぶなら、無効契約になりかねない。契約法では、「当事者が経営範囲を超えて契約を締結した場合、人民法院はこれによりこの契約を無効契約と認定しない。ただし、国の制限性経営、特別許可経営および法律、行政法規で禁止された経営を除く」と規定されている。この規定はxx、明確であるが、この規定の後段は曖昧で、柔軟性があるため、実務上ではさまざまな結果になる可能性がある。例えば、既に述べたように、中国ではいろいろな地方法規と地方性政策があり、ある地方政府は地方の利益を守るため、特定の時期に特定の製品の地域以外への販売を制限する場合もある。そこでこのような中国の特殊な法制環境の中で、いったん自社がこのような契約をしたら、裁判でそれが有効だと認定されるかどうかはまったく予想できない。中国はすでに WTO に加盟しているが、未だに計画経済の色の濃い領域が少なくない。したがって、合法性の審査は依然として重要である。外商投資企業でよく問題になるのは、外商投資企業の経営範囲に関係しない金銭借り貸し、不動産の賃貸借、債権の譲渡と譲り受けなどが挙げられる。
三．契約時における注意点
一般的な契約は少なくとも双方の名称、住所、契約の目的物、価格、品質基準、履行地、
履行期間、違約責任、発効期間などの内容が含まれる。ここでは、いくつかの問題を重点的に説明する。
１．契約の形式
中国の契約法によると、契約の形式には口頭、書面およびその他の形式がある。この「その他の形式」は電子文書も含むと思われる。言うまでもなく、国際貿易上では書面形式は極めて多く利用されているが、書面形式といえば、「契約書」という文字を書いてあるものだという認識を持っている人は少なくなく、取引中に双方の往来のファックス、Ｅメールなどの電子文書を重要視しない現象は多く見られる。実は、電子文書が頻繁にビジネスに利用されているこの時代では、電子文書の中に契約に関係する内容が多く含まれると、このような電子文書は契約の重要な一部分となる。したがって、日常の商売の電子文書を大切に取り扱いして、それを書面の契約と同じように重要視する必要があると思われる。
２．契約履行の担保
契約の目的を実現するためには、担保は極めて重要な役割を担っている。中国の契約法によると、担保は保証、抵当権、質権、留置権、手付金に分けられ、担保条項の約定は当事者自由の原則を採っているが、一方、xx的取引と誠実xxの原則を保障するために、いろいろな制限的条項も設けられている。例えば、当事者が約定した手付金の金額は契約目的の金額の 20％を超えると、超過部分は裁判所に認容されない。また、違約金と手付金が共に約定された場合は、当事者がその両方を同じに主張できず、そのいずれの一つしか主張できない。
ここでは保証期間、抵当権、手付金についての注意点を述べよう。
（1）保証期間について
中国担保法およびその関係規定によると、保証契約で約定した保証期間が主債務の履行期間より早くなったり同時期となったりした場合、それは未約定と見なされ、保証期間は主債務の履行期間満了後から 6 ヶ月となる。保証契約で保証人の責任は主債務の元金と利息の返済完了までであると約定した場合、約定不明と見なされ、保証期間は主債務履行期間満了後から 2 年間となる。即ち、契約で約定した保証期間、あるいは前述保証期間内に債権者が保証人に債務履行の要求をしなかった場合は、保証人の担保責任は免除される。
実務では、契約には保証人の保障が約定されたにもかかわらず、前述の規定通りに行われていないため、担保を通して契約の目的を実現するということができなくなるケースがしばしば見られる。したがって、如何に保証契約の保証期間内に保証人に債権を主張するのが注意しなければならない問題である。
（2）抵当権については、２つ注意点がある。
ひとつは、抵当権を設定できる財産は何かということである。中国の関係法律によると、財産なら何でも抵当権を設けられるわけではない。例えば、土地の所有権、農村の耕地・
宅地・自留地・自留山等の農村集団所有の土地使用権、学校・病院・幼稚園などの公的事業を目的とする事業単位、社会団体の教育施設、所有権が不明もしくは争議にかかる財産、差し押さえられている財産、などは抵当権を設けられない。これらの財産に対し抵当権を設けると、無効となり、法的保護を受けない。
もうひとつは、抵当契約にサインした後、関係規定にしたがって抵当権設定に関する登録をしなければならないことである。関係規定によると、抵当権設定の登録をしなければ、第三者に対抗できず、そして抵当権を通じて期待する目的が実現できかねない。
また、財産の種類により抵当権設定の登録場所が違うことにも注意する必要がある。
（3）手付金について
手付金は中国語で「xx」という。これについて、中国契約法は次のように定義している。即ち、「当事者は一方が相手に手付金の交付を債権の担保にするという約定をすることができる。手付金を交付した側は約定の債務を履行しなかった場合、手付金の返済を求めることができない。手付金を受ける側は、約定した債務を履行しなかった場合、手付金の倍の金額を支払わなければならない。」
この規定は明確であるが、実務では手付金に関する争議が多く見られる。その原因は手付金についての表現に問題がある。例えば、手付金（xx）を「訂金」、「予訂金」、「予約金」あるいは「押金」、「保証金」、「担保金」にしたケースが多い。最新の司法解釈によると、契約の中に手付金の性質を約定せず、前述のように約定しただけでは、当事者の手付金の権利の主張は裁判所に認容されない。したがって、手付金を約定する際に、必ず用語を正しくし、そして表現を正しくしなければならない。
３．契約の効力
契約は一般的に当事者双方の署名をもって発効する。しかし、中国では中国側の誰がサインする権利を持つかが問題になる。中国の会社法と民法の規定によると、会社の法定代表者は会社の董事xxx（日本では代表取締役が何人でも構わない）であるため、つまり会社を代表して契約にサインできるのが董事長とその授権を受ける代表しかない。ところが、実際の商売の表に出るのはほとんどその会社の総経理である。もし総経理が董事長の授権を持っているならまだ良いが、授権を受けなければ契約にサインすることはできないのか、そしてこの契約は有効になるかどうかが問題になる。表見代理の理論によると、相対人が相手の総経理が代理権限を持っていることを信用できる理由を持っていれば、相手との契約は有効になるとされる。
しかし、問題になるのは、この「理由」についての判断は裁判上で認められるかどうかである。なぜなら、すでに述べたように、中国の現在の法的環境の下では、地方保護主義が深刻であり、判例制度がなく、行政権力が法律を凌ぐ状況も依然として存在するため、この「理由」が裁判で正当だと認められるかどうかについてはまったく予想できない状態にある。したがって、外商投資企業は争議を回避するようには、できるだけ相手企業の董
事長のサインを求めるか、少なくとも董事長の受託人のサインを求める方が良いだろう。もちろん、相手企業の印鑑が押印されていれば個人のサインはなくても構わない。
４．争議の解決方法の選択
契約の管轄問題とは、双方が契約の中で契約による争議をどのような方法を通じて解決するかの問題である。簡単に言えば、当事者間での和解の方法を別として、訴訟か仲裁のどちらか一つを選択することである。ここで注意を要するのは、訴訟を選択すれば、中国民事訴訟法の専属管轄と審級管轄の規定に反してはならず、仲裁を選択すれば、必ず仲裁機構の名称を明確にしなければならないことである。さもなければ、仲裁の選択は無効となり、訴訟に持ち込むしかなくなる。
また、中国で訴訟と仲裁のどれを選択すれば良いかの問題も注意が必要である。端的に言って、中国の現在のような法的環境の下で訴訟のリスクが大きいことは否めない。なぜなら、何度も繰り返したように、中国で裁判を左右する要素があまりにも多くて、裁判の結果は予想できない部分が多いからである。これに対して、仲裁（特に中国国際経済貿易仲裁委員会）の信用度が国際的に高まってきていることから、筆者は比較的信用できると考えている。
四．契約発効後の注意点
１．契約発効後の手続き
中国では、契約後は再度何かの手続きをする必要のある場合もある。例えば、持分譲渡後の登録をしなければ、譲渡が無効になる場合もあり、商標権譲渡契約後の登記、特許権譲渡契約後の登録をしなければ、営業税の免除はできない、などである。
２．相手の経営状況を把握して、即時に「不安抗弁権」を行使する
中国の契約法では、「不安抗弁権」について次のように規定している。即ち、先に債務を履行すべき当事者は相手に次の状況の一つがあれば履行を中止することができる。
（1）経営上状況が深刻に悪化したこと、
（2）債務を逃すために財産を転移したり資金を隠したりこと、
（3）商業信用を失ったこと、
（4）債務履行能力を失った、若しくは失う可能性があったこと。
また、当事者は履行を中止する場合、もう一方の相手に通知しなければならず、相手が適当な担保を提供すれば、履行を再開すべきである。履行を中止した後、相手が合理的期間内に履行能力を回復できず、かつ適当な担保を提供しなかった場合、契約の解除ができる、とされている。
中国では 80 年代から経済が非常に早いスピードで発展しているが、倒産した企業も相次
いでいるのが現実である。特に元国有企業の買収、再編成が頻繁に行われているため、最近、如何に相手企業のこれらの事情に注意しながら、自社の利益を守るのが重要な課題になっている。