Contract
1011 第Ⅲ編 債務およびそれに対応する権利第5章 当事者の変更
第1節 債権譲渡第1款 総則
Ⅲ.-5:101条 本節の適用範囲
(1) 本節は、債務の履行を求める権利を契約その他の法律行為によって譲渡する場合に適用する。
(2) 本節は、金融証券又は投資証券の移転であって、その移転を発行者により、若しくは発行者のために管理される登録簿に登録することによって行わなければならない場合又は移転のためのその他の要件若しくは移転の規制が存在する場合には、適用しない。
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A. 本章が適用される問題
本章は3つの問題に適用される。すなわち、新債権者となる[譲受]人への履行請求権の譲渡、現債務者に新債務者が入れ替わることによる債務者の変更、および契約の一方当事者の全部の地位すなわち〔全部の〕権利義務の他人への移転である。これらの3つの問題は相互に関係し、いずれも法律関係の一方当事者の変更を含む。しかし、これらは重要な点で違いもある。
金銭の支払請求権であることが多い履行請求権の譲渡は、譲渡人の債務の移転を含まない。債務者自身の権利は、引き続き譲渡人に対してのみ存在する。債権譲渡は契約当事者のいずれをも免責するものではないから、譲渡債権発生の原因となった契約に別段の定めがなければ、債務者の同意を要しない。それゆえ債権譲渡は、第三者が債務者に代わり、債務者が完全にか不完全にかはともかく免責され、三当事者全員の同意を要する約定の場合(本章第2節を参照[訳注:閉じ括弧が脱落])とは区別される。債権譲渡は、
1012 また、第三者が契約当事者の一方に代わり、権利義務のすべてを引き継ぐ場合とも異なる。後者の場合も、三当事者全員の同意を要する(本章第3節を参照)。
B.第1節が適用される問題
第1節は、契約その他の法律行為による債権譲渡にのみ適用される。法定的な権利の移転 ── たとえば、相続や破産による場合 ── には適用されない。一定の組織や団体の合併や再編または事業譲渡の場合に、権利義務が法定的に新しい主体に移転する旨の規定はふつうに見られる。本節はそのような場合には適用されない。権原証書その他の証書の引渡しのみによる権利移転にも適用されない。
本節が適用されるのは、債務の履行請求権の譲渡のみである。本節が適用されるのは、契約上の履行請求権および一方的な約束による支払請求権のような契約によらない履行
請求権、あるいは、契約不履行を理由とする損害賠償請求権、金銭の支払や財産の移転によって利得を返還させる不当利得返還請求権である。実際に、多様な類型の権利が混じっていて、契約上の債務の履行請求権の譲渡にある規律を適用し、きわめて密接な関係のある別の履行請求権の譲渡には別の規律を適用することにすれば、不便で不当なことになってしまうだろう。
履行請求権には、すでに弁済期が来たか将来に到来する金銭債務の支払請求権も、建物の建築、動産の引渡しおよび役務の提供などの非金銭的履行請求権も含む。一定の地域と期間内に競業しない債務のような不作為債務の履行請求権も含まれる。しかしながら、本章の規定が想定するこうした規律の射程についての一般的な制限にも留意しなければならない。この規律は公法上の権利義務には適用が想定されていない。たとえば、一定の社会保障給付請求権を与える法は、支払請求権が譲渡可能でないと規定することがありうる。本節は、家族法上の権利義務にも適用を想定していない。
C.金融証券と投資証券
登録された金融証券または投資証券の性質を持つ債券や株式の権利者は、発行者に対する支払請求権を有することになるものの、そうした証券は、重要な点で、債務法の規定する普通の権利とは異なる。その移転には、一般的には発行者の登録簿への登録を含む特別規定が適用される。それゆえこうした権利は本章の適用範囲から除かれる。
1013 D.流通証券
本草案の適用範囲に関する総則(I.-1:101条(想定される適用範囲))によると、為替手形その他の流通証券は適用外である。これらは本章の適用される場面では、特に重要である。為替手形その他の流通証券が一連の契約関係を生じるとしても、流通証券上の権利の移転は、通常は、必要な場合には裏書きを加えた引渡しによって効力を生じるのであり、一般の債権譲渡によるものではない。証券に基づいて責任を負う関係者の債務は、必ずしも元の受取人とは限らない現所持人に支払うことであるから、債権譲渡について行われるような譲渡の通知の要件は存在しない。現在の証券所持人でない譲受人に支払った債務者は、なお所持人に対する支払義務を負う。さらに、流通証券は、その性質上、明確な規定によって規律されるが、その規定は、多くの点で、債権譲渡に適用される規定とは明白に異なっている。たとえば、譲渡人の権原の瑕疵について知らず流通証券を有償で取得した者は、譲渡人に対抗できたはずの瑕疵や抗弁の影響を受けない。他方、債権譲渡の譲受人はこうした瑕疵や抗弁に服する。
流通証券そのものが本草案の規定の適用外にあるとしても、このことは必ずしもその原因となる支払請求権の譲渡を妨げるものではない。このことが最も生じそうなのは、流通証券の引渡しを含まない資産の包括譲渡の場合である。流通証券に化体している支払請求権が譲渡された場合、流通証券法は、通常、証券所持人に、債権譲渡による譲受人に対する優先権を与えるであろう。このことも本章の適用がない問題である。
E.債権譲渡の重要性
金銭その他の履行を求める債権は、主要な譲渡可能資産の典型である。これらの権利は、典型的なファクタリング取引の場合のように直ちに売却することもできるし、消費貸借その他の債務の担保のために譲渡することもできる。本章第1節の目的は、個別債権にせよ集合債権にせよ、債権譲渡を促進することを意図する原則と規定を定めることであるが、同時に、債務者が債権譲渡によって不利益を受けないことを保障する原則や規定を定めることでもある。
ノート
1. 本節は金銭債権・非金銭債権のいずれの譲渡にも適用される。それゆえ、その性質上、一定の金銭支払請求権に限定されている国際取引における債権の譲渡に関する国連条約(以下、「国連条約」という。同条約2条)よりはいくぶんxxである。
2. 金融証券や流通証券の移転が特別の規律に服することは一般的である。たとえば、スロヴェニアでは、金銭債権・非金銭債権の契約による譲渡が民法524条以下で規律される一方、金融証券や流通証券の移転は、別に規律されている(証券法・2001年法律566号19条以下による修正)。同様にスペイン法では、金融証券の移転に関する規律は、民法の一
1014 般的な債権譲渡の規定からは除外され、証券xxxおよび異なる複数の会社法に含まれている。ドイツ法は、そうした移転にも補充的な適用を定めている(民法413条を参照)。