清水銀行(頭取 岩山 靖宏)は、お客様の SDG s の達成をご支援するため、各種サステナブルファイナンスの提供に努めており、その一環としてこのたび、株式会社小林金属(代表取締役社長 小林 泰樹)と「しみずポジティブ・インパクト・ファイナンス」契約を締結いたしました。
株式会社xx金属 との
「しみずポジティブ・インパクト・ファイナンス」契約締結について
xx銀行(頭取 xx xx)は、お客様の SDG s の達成をご支援するため、各種サステナブルファイナンスの提供に努めており、その一環としてこのたび、株式会社xx金属(代表取締役社長 xx xx)と「しみずポジティブ・インパクト・ファイナンス」契約を締結いたしました。
本件の取組みにあたっては、関連会社の株式会社xx地域経済研究センター(代表取締役 xx xx)がインパクト分析・特定のうえ評価書を作成し、株式会社日本格付研究所(代表取締役社長 xx xx)がポジティブ・インパクト金融原則との適合性を確認しました。
xx銀行では、2021 年 12 月に「環境方針」「責任ある投融資方針」からなる「xx銀行サステナビリティ方針」を策定し、持続可能な社会の実現や社会的課題の解決に向けた取り組みを加速させてまいりました。今後も社会・環境問題の解決に資する取り組みを一層推進し、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
1.契約概要 2.借入人概要
契 約 日 : 令和 5 年 1 月 31 日(火) 企 業 名 : 株式会社xx金属
融資金額 : 1 億円 所 在 地 : xxxxxxxxxxxx 00-0
資金使途 : 運転資金 事業内容 : 鉄・非鉄金属スクラップ卸売業
3.借入人の主な取組み(詳細は「ポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書」をご参照ください)
ポジティブなインパクトの成果が期待できる事項 | ・資格費用全額会社負担による資格取得支援 ・資格取得者に対するインセンティブの付与 ・従業員への積極的な講習会の参加支援 ・女性、高齢者、外国人の活躍支援推進による多様性ある企業の実現 ・多様な人材雇用による生産性向上 ・再生可能資源のリサイクル化推進のための再生資源取扱量増加への取り組み |
ネガティブなインパクトの低減が必要となる事項 | ・従業員の健康管理の徹底 ・労働災害の重大事故発生防止への取り組み ・未熟練従業員に対する安全教育への取り組み ・人材確保と従業員の定着化に伴う就業規則見直し ・有給休暇取得促進 ・ギロチンプレスの導入による多種品目の産業廃棄物のリサイクル化への取り組み ・再生可能資源のリサイクル化推進のための再生資源取扱量増加への取り組み ・保有設備の環境負荷低減化 ・工場及び事務所電気設備の LED 化 ・廃棄物ゼロに向けた取り組み ・適正なサプライヤーとの取引増加への取り組み ・回収スクラップの仕入れ業者選定によるゼロエミッション |
(1)特定されたインパクト
(2)測定する KPI
社会面 | ・現場担当者について、大型自動車免許・フォークリフト免許の 100%取得及び玉掛け技能講習の 100%受講修了を維持する ・2030 年までに女性の現場担当者を 2 名以上雇用する ・2030 年までに女性の管理職を 1 名以上登用する ・2030 年までに 65 歳以上の高齢者を 1 名以上雇用する ・2030 年までに外国人を 1 名以上雇用する ・2030 年までに年 1 回の会社費用負担による 40 歳以上の人間ドックを実施する ・重大な労働災害ゼロ件を維持する ・2030 年までに新規採用の従業員に対し 6 か月に 1 回の安全教育を実施する ・2030 年までに就業規則に基づく各種休暇制度の利用を一人当たりゼロ件から 3 件に増加させる ・2030 年までに有給休暇取得を現在の平均 6 日から 11 日に増加させ る |
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環境面 | ・2030 年までに再生資源取扱量を年間 12 万トン(現状年間 7.2 万トン)まで増加させる ・2030 年までに、鉄・非鉄金属スクラップの廃棄物の割合(ロス率)を現在の 3%から 1%以下に低減させる ・工場使用電力量の測定及び重機、機械設備の CO₂排出量の測定を 2024年度までに実施し、2025 年度以降は毎年 10%以上削減する ・2030 年までに車両、重機、機械設備の更新時に環境負荷低減仕様の設備を導入する ・2030 年までにサプライヤーを 10 先以上増加させる ・2030 年までに仕入れ業者の選定基準マニュアルを作成する |
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経済面 | ・2030 年までに女性の現場担当者を 2 名以上雇用する ・2030 年までに女性の管理職を 1 名以上登用する ・2030 年までに 65 歳以上の高齢者を 1 名以上雇用する ・2030 年までに外国人を 1 名以上雇用する |
以 上
<ニュースリリースに関するお問い合せ> xx銀行 支店営業部 松田 054-366-9990
2023 年 1 月 31 日
株式会社xx地域経済研究センター
目次 | |
1.評価の概要••••••••••••••••••••••••••• | 1 |
2.PIF の概要••••••••••••••••••••••••••• | 2 |
3.企業概要•••••••••••••••••••••••••••• | 2 |
4.包括的分析••••••••••••••••••••••••••• | 4 |
5.サステナビリティ経営体制•••••••••••••••••••• | 13 |
6.インパクトの特定•••••••••••••••••••••••• | 21 |
7.KPI の決定••••••••••••••••••••••••••• | 24 |
8.モニタリング•••••••••••••••••••••••••• | 28 |
xx地域経済研究センターは、株式会社日本格付研究所の協力を得て、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が公表している「ポジティブ•インパクト•ファイナンス金融原則」に則り、株式会社xx金属(以下、xx金属という)の包括的なインパクト分析を行いました。
xx銀行は、本評価書で特定されたポジティブ•インパクトの拡大とネガティブ•インパクトの低減に向けた取り組みを支援するため、xx金属に対してポジティブ•インパクト•ファイナンス(以下、PIF という)を実行します。
1.評価の概要
(企業概要)
xx金属は愛知県xx市にある 2013 年創業の鉄•非鉄金属スクラップ卸売業者である。取り扱い品目は、鉄、アルミ、銅、ステンレス等であり、これらを分別•解体•切断の処理を行い、製鉄業者や鉄鋼メーカーに販売している。鉄スクラップ1は主に、愛知県全域から静岡県西部地区までを中心とした解体業者や金属加工業者から仕入れており、非鉄金属スクラップについては、全国各地から仕入れている。主要販売先は、東京製鐵株式会社(以下、東京製鐵という)が売り上げの大半を占めている。
同社は循環型社会の実現に向け、CO₂排出量削減、省エネ、3R など環境に配慮した取り組みを積極的に行っている。2021 年の新ヤード建設においては、環境配慮、地域住民に対する騒音対策などを行い、地域とのつながりを大切にしつつ、取引先の拡大を図っている。
(インパクト特定)
鉄•非鉄金属スクラップ卸売業におけるポジティブ•インパクトとして特定した項目は「教育」「雇用」「資源効率•安全性」「包括的で健全な経済」とし、ネガティブ•インパクトとして特定した項目は「健康•衛生」「雇用」「水(質)」「資源効率•安全性」「気候」
「廃棄物」とした。
(KPI の決定)
ポジティブなインパクトの成果が期待できる事項として、社会面において、「教育」ではテーマを「人材育成の推進」とし KPI は「現場担当者について、大型自動車免許•フォークリフト免許の 100%取得及び玉掛け技能講習の 100%受講修了を維持する」とした。社会面•経済面において、「雇用」「包括的で健全な経済」ではテーマを「ダイバーシティ経営への取り組み」とし KPI は「女性の現場担当者を 2 名以上雇用する」「女性の管理職を 1 名以上登用する」「65 歳以上の高齢者を 1 名以上雇用する」「外国人を 1 名以上雇用する」とした。環境面において、「資源効率•安全性」ではテーマを「循環型経済へ
1 鉄スクラップ:大別すると市中スクラップと自家発生スクラップとに分けられる。前者は機械、車、建物などから出るスクラップで、後者は鉄鋼メーカーなどの製造工程から出るスクラップをいう。
の貢献」とし KPI は「再生資源取扱量を年間 12 万トン(現状年間 7.2 万トン)まで増加させる」とした。
ネガティブなインパクトの低減が必要となる事項として、社会面において、「健康•衛生」ではテーマを「健康かつ安全な労働環境の整備」とし KPI は「年 1 回の会社費用負担による 40 歳以上の人間ドックを実施する」「重大な労働災害ゼロ件を維持する」「新規採
用の従業員に対し 6 か月に 1 回の安全教育を実施する」とした。「雇用」ではテーマを
「働きやすい職場環境の整備」とし KPI は「就業規則に基づく各種休暇制度の利用を一人当たりゼロ件から 3 件に増加させる」「有給休暇取得を現在の平均6日から 11 日に増加させる」とした。環境面において、「資源効率•安全性」「廃棄物」ではテーマを「有価物の取り扱い増加によるリサイクル推進」とし KPI は「鉄•非鉄金属スクラップの廃棄物の割合(ロス率)を現在の 3%から 1%以下に低減させる」とした。「気候」ではテーマを
「環境負荷低減への取り組み」とし KPI は「工場使用電力量の測定及び重機、機械設備の CO₂排出量の測定を 2024 年度までに実施し、2025 年度以降は毎年 10%以上削減する」「車両、重機、機械設備の更新時に環境負荷低減仕様の設備を導入する」とした。「廃棄物」ではテーマを「サプライチェーン全体の環境配慮への取り組み」とし KPI は「サプライヤーを 10 先以上増加させる」「仕入れ業者の選定基準マニュアルを作成する」とした。
(モニタリング)
モニタリング体制として、統括責任者をxxxx社長、プロジェクトリーダーを総務担当責任者のxxxxxとし、総務部内にプロジェクトチームとして SDGs 推進チームを組成した。今後少なくとも年 1 回はモニタリングする体制を構築し、進捗状況を確認する。
2.PIF の概要
今回実施予定の融資概要
契約日及び返済期限 | 2023 年1月 31 日~2030 年 1 月 31 日 |
金額 | 100,000,000 円 |
資金使途 | 運転資金 |
モニタリング期間 | 7 年 |
3.企業概要
企業名 | 株式会社xx金属 |
本社所在地 | xxxxxxxxxxxx 00-0 |
グループ企業 | 無 |
海外拠点 | 無 |
従業員 | 13 名 |
資本金 | 6 百万円 |
業種 | 鉄•非鉄金属スクラップ卸売業 |
売上高 | 2,989,690 千円(2022 年 3 月期) |
事業の内容 | 鉄スクラップ卸売事業 95% 非鉄金属スクラップ卸売事業 5% |
主要取引先 | <主要仕入先> ㈲xxメタル、㈱MARUKO 他 <主要販売先> 東京製鐵㈱、新英金属㈱ 他 |
沿革 | 2013 年 愛知県xx市にて鉄•非鉄金属スクラップ卸売事業として個人創業 2016 年 法人成りして株式会社xx金属を設立 2021 年 愛知県xx市片浜町に本社移転及び新ヤード開設 |
企業理念 | 「xxの地球へ貢献」 地域のお客様のニーズやさまざまな課題解決に応えるため、地域社会に密着した営業活動を展開する。 |
組織図 | 社長 総務担当責任者 現場担当責任者 総務担当 現場担当 |
4.包括的分析
(1)業種別インパクトの状況
xx金属は鉄スクラップ卸売業及び非鉄金属スクラップ卸売業を営んでいるが、共に「廃棄物•スクラップ及び他に分類されないその他の製品の卸売業」に分類されることから、インパクトレーダーの標準値において同一のものを使用する。
ポジティブなインパクトとして発現した項目は「健康•衛生」「雇用」「資源効率•安全性」「気候」「廃棄物」「経済収束」、ネガティブなインパクトとして発現した項目は「雇用」「水(質)」「大気」「生物多様性と生態系サービス」「気候」「廃棄物」「経済収束」となった。
(2)サプライチェーン全体におけるインパクトの状況
ⅰ.鉄•非鉄金属スクラップの発生と収集
日本全国の市中で発生するスクラップは、鉄スクラップ、非鉄金属スクラップ(銅線•アルミ缶等)、雑スクラップ(金属が含まれる基板、家電製品等)の3種類に分類されている。これらは市中に出るため市中スクラップといい、鉄鋼メーカーなどで発生するスクラップを自家発生スクラップと呼んでいる。このうち、市中スクラップは機械、電機、車両など工場の加工工程からの発生分(工場発生スクラップ)と廃車などから鉄くずとしての発生分(老廃スクラップ)の 2 種類がある。
鉄•非鉄金属スクラップ
市中
スクラップ
自家発生スクラップ
工場発生スクラップ
機械、電機、車両、造船その他の工場等での加工工程から発生するもの
老廃
スクラップ
【スクラップの収集種類】
廃車、廃船、建物やその他使用済みの鉄製品として発生するもの
出所:一般社団xxxリサイクル工業会
スクラップとは金属製品の廃棄物や製造工程で生じる金属くず等をいい、大別して鉄スクラップと非鉄金属スクラップの二つに分けられる。
•鉄スクラップ(市中で使用し不要となった鉄製品)
種類名 | 詳細 |
H2 | 国内で最も流通量が多いとされる建物から排出する鉄筋である |
ギロチン材 | H 鋼、レール、鉄筋、計量鉄骨、足場材、ドラム缶等切断する 必要のあるものをいう |
級外 | トタン、シャッター、フェンス、一斗缶等をいう |
新断 | 自動車や機械などの加工の際にできた残りの部分をいう |
ダライ粉 | 鉄製品の製造や加工で発生する削りくずをいう |
鉄スクラップ (出所:同社 HP)
•非鉄金属スクラップ(鉄以外の市中で使用された全ての金属をいう)
種類名 | 詳細 |
ステンレス | クロムやニッケルを含ませた合金鋼をいう |
銅 | 機械や家電等の配線に多く使用されている |
真鍮(しんちゅう) | 銅と亜鉛の合金で、水道部品に多く使用されている |
アルミニウム | アルミ缶、サッシなどのアルミ製品が多い |
砲金 | 銅と錫の合金で、水道メーターに多く使用される |
ピカ線 | 電線の被履を剥いで取り出した銅線で断面直径が 1.3 ミリ以上 のもの |
上銅(うわどう) | 銅板、銅棒、銅管などで表面劣化がなく光沢があるもの |
込銅(こみどう) | 表面劣化した銅線、銅板、銅棒、銅管や細い銅線、薄い銅箔な ど上銅以外のもの |
ナゲット線 | 被履電線や被履銅線の総称。ナゲット機(粉砕機)に投入し粉 砕することで、被履部と銅に仕分けされる |
VA 線 | 電気系統の配線に利用されている一般的な電線及びケーブルで 内部の銅線の太さが 1 本あたり 1.3 ミリ以上のもの |
込中(こみちゅう) | 水道蛇口などの真鍮に鉄やプラスチック等が付着しているもの |
•雑品スクラップ
出所:同社 HP
家電、OA 機器、工業機械などのスクラップをいう。銅、真鍮、アルミニウムなど
様々な物質が含まれているため、廃棄物だけでなく、価値ある有価物2として取り扱われる。
2 有価物:価値を有し、取引により金銭的利益が生じるものをいう。金属くずやプラスチック類•
土壌なども活用方法によって有価物と判断できる。他方、腐敗した食材や使用済みのティッシュペーパーなどは廃棄物と見なされる。有価物は廃棄物ではないため、廃棄物処理法が適用されない。
ⅱ.鉄•非鉄金属スクラップ卸売業の業界動向
日本国内における鉄•非鉄金属スクラップ卸売業界の動向は 2018 年時点におい
鉄•非鉄金属スクラップ卸売業 | 全 国 | 愛知県 |
年間売上高<鉄•非鉄金属スクラップ合計>(億円) | 22,501 | 2,476 |
事業者数(社) | 4,842 | 361 |
従業者数(名) | 32,907 | 3,482 |
1 社当たり平均売上高(億円) | 4.65 | 6.86 |
て、市場規模が 2 兆 2,501 億円、事業者数が 4,842 社、従業者数が 32,907 名の状況であった。また、愛知県における鉄•非鉄金属スクラップ卸売業界の動向については、2018 年時点で年間売上高 2,476 億円、事業者数 361 社、従業者数 3,482名であった。愛知県は鉄•非鉄金属スクラップの需要が全国的にみても高いため、1社当たりの平均売上高については、6.86 億円と全国平均 4.65 億円を上る状況となっている。これは、愛知県では自動車関連製造業が多数集積していること、「古物商」「金属くず商」の資格が不要であるため売上高が大きいことなどが背景にある。
出所:総務省平成 30(2018)年経済センサス
ⅲ.鉄•非鉄金属スクラップの需給動向
【鉄スクラップ】
世界における鉄スクラップの需給動向は、2020 年初頭、コロナ禍の影響により一時大幅に下落した。2020 年後半からは経済活動が再開し、世界的に鋼材需要が復したことによって、鉄スクラップ需要は上昇基調に転じた。更に 2022 年に入るとウクライナ危機や円安の影響で、資源•原材料価格が高騰し、鋼材価格、鉄スクラップ価格についても上昇した。その後、2022 年後半はエネルギーを始めとする世界の物価高から経済が減速し、鉄鋼需要も落ち込んでいる。下記表は鉄スクラップ価格と小棒価格3の推移である。
出所:一般社団法人xxxリサイクル工業
3 小棒価格:日本の鋼材生産の約 10%を占める基本的な指標価格で、小棒とは 160 ミリ以下の棒状鋼材(鉄筋)をいう。
年度 | 累計鉄鋼蓄積量(推計) | xxxスクラップ取扱量 | 電炉粗鋼生産量 |
2013 | 1,339,231 | 30,201 | 25,422 |
2014 | 1,348,460 | 28,409 | 25,259 |
2015 | 1,356,605 | 25,635 | 23,577 |
2016 | 1,367,541 | 26,924 | 23,873 |
2017 | 1,378,803 | 28,630 | 25,582 |
2018 | 1,392,590 | 28,932 | 26,033 |
2019 | 1,402,970 | 25,669 | 23,526 |
2020 | 1,405,217 | 23,649 | 21,369 |
2021 | - | 27,557 | 24,485 |
2013 年以降の日本国内の鉄スクラップの流通量推移を示したものが下記表である。
市中の鉄スクラップ取扱量は 2020 年度で 2,365 万トンとなっているが、2021 年度には経済活動再開により 2,756 万トンまで増加している。また、2020 年度のスクラップは日本国内で使用された累計鉄鋼蓄積量414 億 522 万トンの 1.68%にあたる。国内で排出されたxxxスクラップ取扱量の約 90%以上は、電炉メーカーの粗鋼生産量5の主原料となっているため、xxxスクラップ取扱量と電炉粗鋼生産量は比例して推移していることがわかる。
日本国内の鉄スクラップの流通量推移
(単位:xxx)
出所:一般社団法人 日本xx協会発行「xx年報」、「クォータリーてつげん」
下記表は 2022 年 12 月の H2 ベース6のメーカー炉前の実勢価格を地域別に表したものである。地域別において価格が低いのは北海道地区、高いのは関西•姫路地区と、 1 トンあたり約 5 千円(10%程度)の価格差がある。入荷の時期や地域によって価格
差があることが特徴といえる。愛知県のある中部地区は 1 トンあたり 44.5 千円から
49 千円で入荷されている。
2022 年 12 月末における H2 ベースのメーカー炉前価格の実勢値(単位:千円/トン)
4 累計鉄鋼蓄積量:日本国内で使用され現在何らかの形で国内に残っているものを鉄換算した量のこと。具体的には自動車、家電製品、家庭内にある鉄製のものまですべての鉄を指す。
5 粗鋼生産量:製鋼炉などで精錬され、圧延や鍛造など加工工程にる前の鋼鉄の生産量をいう。最終的には自動車や電機製品等の耐久消費財や建築材料になることから、景気動向を示す指標となっている。
6 H2 ベース:H2とは国内で最も流通している建物の鉄筋のこと。H2 ベースとは日本国内の鉄スクラップで流通量が多い指標品種で建築物工事などから排出された鉄筋をいう。
【非鉄金属スクラップ】
非鉄金属スクラップにおけるアルミニウム、銅、鉛•亜鉛等の消費量の比率は全体の約 98%を占めている。その他の非鉄金属スクラップはニッケル、コバルト、プラチナなどの希少金属となっている。国内の非鉄金属スクラップ消費量推移は下記グラフのとおり、2017 年の 2,521 千トンから 2020 年の 2,161 千トンと減少傾向にあったが、2021 年は 2,327 千トンに増加し非鉄金属スクラップの需要が高まっている。要因は原材料となる鉱石等が高騰しリサイクル資源加工が見直されてきたことによるものである。
3,000 0.43
非鉄金属スクラップ消費量推移
アルミニウム 銅 鉛•亜鉛 その他
84
577
0.45
77
586
2,521 2,472
(単位:xxx)
90
534
84
526
2,500
2,331 2,161 2,327
2,000
1,500
1,000
500
0.41
1,858
1,811
0.43
1,721
90
452
0.44
1,703
1,619
0
2017年 2018年 2019年 2020年 2021年
出所:経済産業省生産動態統計調査
下記グラフは非鉄金属価格の 2019 年 1 月から 2022 年 12 月までの推移である。調査期間における 1 トンあたりのアルミニウムの価格は、コロナ禍の影響により 2020 年 4 月に 1,459 ドルまで下落した。その後経済の復に伴い値上がりし、
2022 年 3 月の価格は 3,498 ドルまで上昇した。しかしウクライナ危機による影響
を受け、再び同年 9 月に 2,224 ドルに下落した。直近の 2023 年 1 月は 2,600 ドル台まで復している。アルミニウムと同様、銅、鉛及び亜鉛の価格も変動幅は小さいが、世界経済の動向に大きく左右される錫とニッケルの価格は相対的に変動幅が大き
い。 非金属市場の価格推移
出所:世界銀行データベース
ⅳ.事業概要
同社は愛知県xx市において 2013 年に創業した、鉄•非鉄金属スクラップ卸売業者である。2016 年に法人成りし、2021 年には新ヤードを建設し業容拡大している。
同社の売上高比率は鉄スクラップ卸売が 95%、非鉄金属スクラップ卸売が 5%と、鉄スクラップ卸売が大半を占めている。新ヤード建設後、鉄•非鉄金属スクラップの取扱量は年間 24,000 トンから年間 72,000 トンに大幅に増加した。
•新ヤード(2021 年建設)
出所:同社 HP
2021 年に建設した新ヤードは行政の要請、消防法に基づき、振動•騒音•悪臭防止、防火対策を講じ周辺地域住民に対し配慮した構造となっている。新ヤードの外周や敷板は鉄板を使用しており、移設などで解体した場合、鉄スクラップとして再生利用することができ、資源効率に配慮した設備となっている。またヤード内にある資材に雨水が付着し汚水や泥水が発生することを防止するため、排水溝に有害物質除去装置を設置し、汚水•泥水抑制への環境対策を講じている。更に、新ヤード内には「ギロチンプレス(製品名 1250HAK 型)」という最新の鉄切断機を設置している。ギロチンプレスは橋脚や長物などを細かく裁断し圧縮することができ、販売先である製鉄メーカーにとっても少ない熱量で加工ができるメリットがある。また、今 導入したギロチンプレスは標準型と比べ低騒音、低振動であるため、従業員の健康状態や地域住民の騒音対策などに配慮したものになっている。2022 年 5 月時点でギロチンプレスを含むギロチンシャー7は全国で 1,517 基(うち 800 トン以上のギロチン 974 基)が使用されている。導入
企業は 3 割に留まっており、同社のギロチンプレスは、競合他社より比較的早期に先行導入された設備と言える。
7 ギロチンシャー:スクラップ処理工場で使用される大型のプレス式せん断機の総称で、ギロチンプレスはその製品名である。鉄などの金属や樹脂系の廃棄物などを処理する場合に使用される。鉄•非鉄スクラップ卸売事業者全国 4、842 社(2018 年時点)のうち約 3 割程度の企業が導入している。
•ギロチンプレス(1250HAK 型)
•ギロチンプレスの処理方法 出所:同社 HP
出所:ギロチンプレス販売メーカーモリタ環境テック HP
鉄スクラップは愛知県全域から静岡県西部地区までの解体業者や金属加工工場などから仕入れを行っている。収した鉄スクラップは同社にて分別•解体•切断処理などを行った上で、製鉄業者や鉄鋼メーカーに出荷している。収した鉄の種類によっては、ギロチンプレスによる処理や、酸素を使用した切断を行うため作業員の技術力も必要とされる。また、非鉄金属スクラップ(アルミニウム•銅等)は全国各地から収を行っている。収した非鉄金属スクラップは、選別、解体、梱包などの工程を経て原料メーカーに出荷している。
同社の強みは、主力販売先の東京製鐵xx工場の近隣に位置していることで、鉄•非鉄スクラップを速やかに出荷できることにある。配送距離が短く、トラックから排出される CO₂排出量の抑制にもつなげている。
同社の人員は、新ヤード建設による作業量の増加に伴い 7 名を増員し、現在 13 名を雇用している。従業員の作業に必要な各種資格(大型自動車免許、フォークリフト、クレーン等)の取得支援にも力を入れており、資格取得費用は原則会社負担としている。また、従業員に営業と現場作業を兼任させるなどの施策によって、個々の従業員のスキルアップとモチベーション向上を図っており、効率的な業務運営につながっている。
分別•解体•切断
法規制
ⅴ.今後の展望
同社は循環型社会の一端を担う企業に発展したいとのビジョンを持っており、今後は有価物以外の産業廃棄物の取り扱いを検討している。2021 年に建設した新ヤードは将来の展望を見据え、産業廃棄物の取り扱いに対応する設備機能を有している。また代表者のxxxx産業廃棄物中間処理に必要な廃棄物処理施設技術管理者8(国家資格)を取得済みであり、新たに中間処理によるリサイクル事業を展開していく方針である。産業廃棄物の取扱品目については、xx市から新ヤード建設用地の紹介もあり、今後地域の期待に応えて、行政からの要請を踏まえ決定していく。
<保有許認可及び申請予定許認可>産業廃棄物収集運搬許可
産業廃棄物中間処理業許可(許可申請予定)
ⅵ.サプライチェーンの概要
同社のサプライチェーンは、下記のとおりである。同社の商流は、建設工事•解体工事や工場内改修、電気工事等から排出される金属くず、非鉄金属等をスクラップ収集業者から仕入れ、同社において分別、解体、切断等の加工を行い、国内製鉄•鋼鉄メーカ ー、金属加工会社に販売していくものである。
xxメタル
MARUKO他
解体•金属加工•スクラップ業者
仕
入
xx金属
販
売
製鉄業者
鋼鉄メーカー
他金属加工会社
廃棄物処理法
消防法
ⅶ.関連法規制
スクラップ業者の関連法規制について、愛知県は「古物商」や「金属くず商」の資格が不要であることから、xx市の条例等に従って営業を行っている。引き続き廃棄物のリサイクル資源への再生により、循環型社会の実現の一翼を担う企業を目指し、廃棄物処理法に基づく品質管理を進めていく。
8 廃棄物処理施設技術管理者:廃棄物処理法 21 条の規定に基づき、産業廃棄物処理施設に置くことが義務付けられており、当該施設の維持管理に関する技術上の業務を担当する者をいう。
5.サステナビリティ経営体制
(1)サステナビリティ経営方針
同社の企業理念は、「xxの地域へ貢献」であり、地域の顧客のニーズや様々な課題解決に応えるため、地域社会に密着した営業活動を展開することを目指している。地域になくてはならないサステナブルな企業に発展することを念頭に様々な取り組みを実践している。
(2)社会面における対応
〈「健康•衛生」に関して取り組んでいる項目、課題等〉
【従業員の健康管理の徹底】
同社では、定期健康診断を年 1 (特定業務従事者については6か月に1)会社費用負担により実施しており、従業員の健康管理に取り組んでいる。人間ドックは現在実施していないが、今後人員が増加していく中で従業員の健康管理を再徹底するため、 40 歳以上の従業員に対し会社費用負担により年に 1 の人間ドック受診を実施する必要性を確認した。新ヤードにおいては、冷暖房設備•空気清浄機を設置し、夏場の熱中症対策、コロナ感染症対策を行っている。また定期的に開催される各種技術講習会•安全対策に関する研修への積極的な参加支援により、従業員の健康被害への予防意識の向上に取り組んでいる。
【重大事故発生防止への取り組み】
全国における産業廃棄物業の死傷災害は、産業廃棄物処理の需要の高まりとともに増加傾向にある。2021 年の産業廃棄物処理業の労働災害発生状況は墜落、巻き込まれ、転倒など合計 1,506 件発生、うち死亡事故は 16 件発生している(次ページ以降、図
1•図2•図3参照)。同社の重大事故発生状況は創業以来ゼロ件と、社内の安全管理体制が構築されており、更に従業員一人ひとりの安全への意識が高いことを確認した。引き続き重大事故発生ゼロ件を維持していく方針である。
【未熟練従業員に対する安全教育への取り組み】
労働災害発生においては、一般的に経験の浅い従業員など未熟練従業員が事故を多発する傾向にある。同社は今後事業拡大に伴う人員増加が見込まれており、未熟練従業員と新規採用従業員に対する安全教育実施の必要性を確認した。
•産業廃棄物等処理業の労働災害発生状況図1 死傷者数
出所:公益社団法人全国産業資源循環連合会安全委員会
図2 死亡者数
出所:公益社団法人全国産業資源循環連合会安全委員会
図3 事故の型別死傷災害発生状況
出所:公益社団法人全国産業資源循環連合会安全委員会
〈「教育」に関して取り組んでいる項目、課題等〉
【人材育成の推進への取り組み】
インパクトレーダーにおいて、「教育」は標準値として発現していないが、同社では大型自動車免許等の必須資格については全額会社費用負担にて資格取得を支援するなど人材育成に取り組んでいることから、インパクトとして特定した。また大型自動車免許等の有資格者には資格手当を支給するなどのインセンティブを付与することで従業員のモチベーション向上につなげている。その他、各種技術講習会や安全対策に関する研修会への参加を支援するなど、働きやすい職場環境づくりに取り組んでいることを確認した。現在、現場担当者 12 名全員が、大型自動車免許•フォークリフト免許を取得しており、玉掛け技能講習の受講も修了している。新規採用の現場担当者についても、同様の免許の取得、講習修了を促していく。
•資格取得状況
資格名 | 資格保有者 | 資格保有率* |
大型自動車免許 | 12 名 | 85.7% |
フォークリフト免許 | 12 名 | 85.7% |
大型クレーン免許 | 6 名 | 42.9% |
玉掛け技能講習修了 | 12 名 | 85.7% |
廃棄物処理施設技術管理者 | 1 名 | 7.1% |
*資格保有率は同社人員数 14 名(代表者 1 名含む)に対する資格保有者の割合
〈「雇用」に関して取り組んでいる項目、課題等〉
【働きやすい職場環境の整備への取り組み】
同社は 2021 年の新ヤード建設と設備投資に伴い、7 名の増員を実施した。今後も取り扱い高増加に伴う人員確保と従業員の雇用定着化を図るため、2022 年 4 月に社会保険労務士の指導の下、就業規則の改定を実施した。育児•介護休暇制度を新たに制定し、男性の育児休暇の取得を促すなど従業員の家族に対するケアも積極的に実施しているが、これまで利用がないため、各種休暇制度の利用促進する必要性を確認した。その他、ハラスメント、コンプライアンス、安全衛生及び災害補償について明文化し、働きやすい職場環境づくりに努めている。
【有給休暇取得促進への取り組み】
同社は従業員が有給休暇を取得しやすい体制を構築している。有給休暇の取得日数は
6日間となっているが、社長自ら朝礼や個別面談にて、家族と過ごす時間の重要性や健康のための休暇の必要性を発信するなど、積極的に有給休暇取得を促す取り組みを行っている。2020 年に厚生労働省が実施した「就労条件総合調査」によると、労働者全体の平均取得日数は 10.1 日となっている。更なる従業員の定着化を図るため、
有給休暇の平均取得日数を 11 日間へ増加させる必要があることを確認した。
【人材確保への取り組み】
同社の従業員は 40 歳代が 10 名と全体の約 7 割を占めている。人材確保については、従業員からの紹介や連携関係にあるxx市からの紹介が主になっている。加えて 2023 年 4 月より地元高等学校からの紹介により、初めて新卒従業員を採用する予定である。
(3)社会面•経済面への取り組み
〈「雇用」「包括的で健全な経済」に関して取り組んでいる項目、課題等〉
【ダイバーシティ経営への取り組み】
インパクトとして「包括的で健全な経済」は標準値として発現していない。しかし、代表者のxxxx経営方針として「会社は人材がすべてである」、「就業環境に応じた所得配分を行う」を明確に打ち出しており、サステナブル経営の推進においても多様化する人材活用が必要と認識していることから、ポジティブ•インパクトとして特定した。現在は現場作業員として 100%男性従業員が担当をしているが、新ヤード建設に伴い機械化が進んでおり、女性や経験の少ない従業員も取り組むことが可能となった。今後新ヤードで行う作業や業務も増加し、女性や高齢者を雇用する機会も必要となる。 2030 年までに、女性管理職の登用、女性現場担当者、65 歳以上の高齢者、外国人技能実習生を雇用し、ダイバーシティの推進に取り組んでいく必要性を確認した。
•役員、従業員の状況 (単位:名)
種類 | 男性 | 女性 | 合計 |
役員 | 1 | 0 | 1 |
管理職 | 1 | 1 | 2 |
一般 | 10 | 1 | 11 |
合計 | 12 | 2 | 14 |
男女比率 | 85.7% | 14.3% | 100.0% |
•年齢別の状況(代表者含む) (単位:名)
年齢 | 男性 | 女性 | 合計 |
20 歳から 29 歳 | 0 | 0 | 0 |
30 歳から 39 歳 | 1 | 1 | 2 |
40 歳から 49 歳 | 9 | 1 | 10 |
50 歳から 50 歳 | 1 | 0 | 1 |
60 歳から 64 歳 | 0 | 0 | 0 |
65 歳以上 | 1 | 0 | 1 |
合計 | 12 | 2 | 14 |
【人材育成への取り組み】
また、代表者のxxxx創業当初から、従業員が楽しくやりがいを持って仕事に挑むことを念頭に経営に取り組んできた。企業価値向上には一人一人がやりがいを持ち仕事に挑むことが重要であると考えている。互いの信頼関係の下、一定の権限を委譲することで各自が能動的に行動できる体制を敷いており、社長から信頼されることが従業員の成長につながっている。また従業員の仕事への熱意や成果によって、一定の処遇を与えることがモチベーションの向上につながると認識している。現在 40 歳代の
従業員のうち 4 名が同社の拡大とともに成長を遂げており、今後彼らを次世代の幹部候補として指導していく。
(4)環境面における対応
〈「水(質)」に関して取り組んでいる項目、課題等〉
同社は新ヤード設備において排水溝を巡らせ、排水の汚染物質除去装置を設置し、汚水や泥水の抑制などの環境対策を講じている。
〈「大気」に関して取り組んでいる項目、課題等〉
インパクトレーダーにおいて、「大気」が標準値として発現したが、同社の事業遂行において大気に与えるインパクトはないことから、環境に与える影響は限定的である。
〈「資源効率•安全性」「廃棄物」に関して取り組んでいる項目、課題等〉
【多種品目の産業廃棄物に関するリサイクル化への取り組み】
同社は鉄•非鉄金属スクラップに含まれる廃棄物の割合(ロス率)の抑制に努めている。ギロチンプレスや、酸素を使用した切断処理によって、リサイクル率の高い鉄•非鉄金属スクラップをサプライヤーに提供している。また、 収した金属くず•プラスチック•土壌などの廃棄物も活用する方法によって「有価物」と判断できるよう、種類や性質に適した方法を選択している。同社は、鉄•非鉄金属スクラップに含まれる廃棄物の割合(ロス率)を現状の 3%から 1%以下に低減させていく必要性を確認した。
【循環型社会へ3R に向けた取り組み】
愛知県では「あいち地域循環型形成プラン」の推進に取り組んでおり、同社はサプライヤーと共に「地域における循環型社会の実現に向けて一端を担う企業」に発展することを目指している。同社で収した鉄スクラップは適切な分別、解体、裁断を行い、県内にある製鉄会社にてリサイクル活用されている。非鉄金属スクラップについても選別、解体、梱包などの工程を経て、原料メーカーにてリサイクル活用されている。新ヤード建設に伴い、再生資源取扱量を現在の 7.2 万トンから 12 万トンに増加させることによって、リサイクル量の増加を図り、より効率的な循環型社会への貢献を目指す。
【適正なサプライヤーの増加と有価物の引取先増加への取り組み】
販売先である鉄鋼メーカー等の脱炭素化に向けた取り組みには、下記の図 4 における
②のように、鉄スクラップによる電炉プロセスがある。電炉の利用拡大においては、原料である鉄スクラップの調達が必要となり、引き続き需要の高まりが見込まれる。
図 4
出所:経済産業省「金属産業の現状と課題」
また、スクラップを溶かして作る電炉材は、大量の電力消費を必要とするが、鉄スクラップを溶かして再生する電炉は同じ生産量なら高炉より CO₂排出量 4 分の1と少ない。鉄鋼業の CO₂排出量は日本国内全体の 14%を占めると言われている。米国では電炉生産割合が 7 割、欧州でも 4 割を超える。日本はまだ約 2 割であり、CO₂排出量の削減は電炉生産の増加にかかっている。その意味で再生可能エネルギーでの電炉生産増加はスクラップ業界にとって大きな課題であると言える。電炉使用技術の開発は、今後ますます脱高炉生産に向かって推進されると思われるため、同社が脱炭素化に向けて行うサプライヤー取引先増加と取扱量増加を推進する必要性があることを確認した。また仕入れ先においても、不純物のない廃棄物や有価物を持ち込む優良取引先を選定することにより、同社がゼロエミッションの実現を目指していくことを確認した。
〈「生物多様性と生態系サービス」に関して取り組んでいる項目、課題等〉
インパクトレーダーにおいて、「生物多様性と生態系サービス」が標準値として発現したが、適切な汚染物質除去の取り扱いや排水管理を図っていることから、生物多様性と生態系サービスに与える影響は限定的である。
〈「気候」に関して取り組んでいる項目、課題等〉
•保有設備一覧
設備種類 | 環境負荷低減 | 台数 |
ギロチンプレス (1250HAK 型) | 省エネ•騒音低減•振動低減 | 1 機 |
油圧ショベルマグネット | 排ガス有害物質低減•燃料消費量低減• 省エネ•騒音低減 | 2台 |
油圧ショベル | 同上 | 2 台 |
フォークリフト | 排ガス有害物質低減•燃料消費量低減 | 2 台 |
10t ヒアブ車9 | 作業時間短縮•排ガス有害物質低減 | 1 台 |
8t ヒアブx | xx | 1 台 |
7t ヒアブx | xx | 1 台 |
4t ユニックx | xx | 1 台 |
4t フックx | xx | 1 台 |
2t 平ボディx | xx | 1 台 |
9 ヒアブ車:陸上荷役運搬機械のメーカーであるカーゴテック•ホールディングズ•ジャパン㈱のヒアブ部門が開発するトラック用のローダークレーンのこと。クレーンの先端のアタッチメントを取り替えることで、様々な目的に使用可能となる汎用性の高い車両である。
出所:同社 HP
油圧ショベルマグネット ヒアブ車とスケール
【環境負荷低減への取り組み】
同社が保有する設備1機、重機 12 台は全て環境に配慮された仕様となっている。特に新ヤード建設時に更新したギロチンプレスは環境配慮型の油圧システムであり、切断スピードは 1 分間に 4 と、標準型電動機に比べて 40%処理能力がアップしており、省エネとなっている。また標準型と比べ低騒音、低振動が実現でき、従業員の健康配慮、地域住民への騒音対策など環境負荷低減に寄与している。その他、車両、重機の省エネ、省電力化にも取り組んでいる。今後は工場内設備の電力量、CO₂排出量の測定の実施を検討している。
【照明機器の LED 化への取り組み】
同社の新ヤード及び既存工場、並びに事務所の電気照明は全て LED 化を実施しているが、今後、新規建設及び更新時においても LED 化に取り組んでいく。
6.インパクトの特定
(1)インパクトの特定分析
UNEP FI のインパクトレーダーにおける標準値を基に、前記の分析を踏まえ、下記のプレ審査シートにて個社別の状況を考慮して、インパクトと KPI 設定対象を特定した。
インパクトの特定分析
インパクト領域 | 4669 廃棄物•スクラップ及び他に分類されないその他の製品の卸売業 | UNEP FI 標準値 | 個社分析修正値 | インパクトの詳細具体的取組内容 | KPI 設定対象 | 関連するSDGsターゲット |
入手可能性、アクセス可能性、手ごろさ、品質(一連の固有の特徴がニーズを満たす程度) | ||||||
水(入手可能性) | ポジティブ | |||||
ネガティブ | ||||||
食糧 | ポジティブ | |||||
ネガティブ | ||||||
住居 | ポジティブ | |||||
ネガティブ | ||||||
健康•衛生 | ポジティブ | ○ | ||||
ネガティブ | ○ | •従業員の健康管理の徹底 •労働災害の重大事故発生防止への取り組み •未熟練従業員に対する安全教育への取り組み | ○ | 3.3 | ||
教育 | ポジティブ | ○ | •資格費用全額会社負担による資格取得支援 •資格取得者に対するインセンティブの付与 •従業員への積極的な講習会の参加支援 | ○ | 4.4 4.5 8.5 | |
ネガティブ | ||||||
雇用 | ポジティブ | ○ | ○ | •女性、高齢者、外国人の活躍支援推進による多様性ある企業の実現 •多様な人材雇用による生産性向上 | ○ | 8.5 |
ネガティブ | ○ | ○ | •人材確保と従業員の定着化に伴う就業規則見直し •有給休暇取得促進 | ○ | 4.4 | |
エネルギー | ポジティブ | |||||
ネガティブ | ||||||
移動手段 (モビリティ) | ポジティブ | |||||
ネガティブ | ||||||
情報 | ポジティブ | |||||
ネガティブ | ||||||
文化•伝統 | ポジティブ | |||||
ネガティブ | ||||||
人格と人の安全保障 | ポジティブ | |||||
ネガティブ | ||||||
xx | ポジティブ | |||||
ネガティブ | ||||||
強固な制度•平和•安定 | ポジティブ | |||||
ネガティブ | ||||||
質(物理的•化学的構成•性質)と有効利用 | ||||||
水(質) | ポジティブ | |||||
ネガティブ | ○ | ○ | •排水除去装置による適切な分別と汚水泥水の抑制 | |||
大気 | ポジティブ | |||||
ネガティブ | ○ | |||||
土壌 | ポジティブ | |||||
ネガティブ | ||||||
生物多様性と生態系サービス | ポジティブ | |||||
ネガティブ | ○ | |||||
資源効率•安全性 | ポジティブ | ○ | ○ | •再生可能資源のリサイクル化推進のための再生資源取扱量増加への取り組み | ○ | 12.2 |
ネガティブ | ○ | •ギロチンプレスの導入による多種品目の産業廃棄物に関するリサイクル化への取り組み •再生可能資源のリサイクル化推進のための再生資源取扱量増加への取り組み | ○ | 12.2 12.5 | ||
気候 | ポジティブ | ○ | ||||
ネガティブ | ○ | ○ | •保有設備の環境負荷低減化 •工場及び事務所電気設備のLED化 | ○ | 12.4 13.3 | |
廃棄物 | ポジティブ | ○ | ||||
ネガティブ | ○ | ○ | •ギロチンプレスの導入による多種品目の産業廃棄物に関するリサイクル化への取り組み •再生可能資源のリサイクル化推進のための再生資源取扱量増加への取り組み •廃棄物ゼロに向けた取り組み •適正なサプライヤーとの取引増加への取り組み •収スクラップの仕入れ業者選定によるゼロミッション | ○ | 12.2 12.5 | |
環境の制約内で人間のニーズを満たす手段としての人と社会の経済的価値創造 | ||||||
包括的で健全な経済 | ポジティブ | ○ | •女性、高齢者、外国人の活躍支援推進による多様性ある企業の実現 •多様な人材雇用による生産性向上 | ○ | 8.5 | |
ネガティブ | ||||||
経済収束 | ポジティブ | ○ | ||||
ネガティブ | ○ |
(2)インパクト特定
インパクトレーダーの標準値として発現した項目に、包括的分析を行い、サステナビリティ経営体制において分析した結果、ポジティブでは健康衛生で外部に及ぼす取り組みがないことから「健康•衛生」を、再生可能エネルギー活用等の取り組みは行っていないことから「気候」を、廃棄物の削減ではインパクトを与えるようなポジティブな取り組みはないことから「廃棄物」を、経済収束にインパクトを与えるような業務を行っていないことから「経済収束」を削除した。また、資格取得支援を実施していることから
「教育」を、ダイバーシティ経営に取り組んでいることから「包括的で健全な経済」を追加した。
ネガティブでは、大気汚染につながる取り組みがないことから「大気」を、適切な汚染物質除去や排水管理により影響は軽微であることから「生物多様性と生態系サービス」を、経済収束に関するネガティブの低減に資するような取り組みを行っていないことから「経済収束」を削除した。また、40 歳以上の人間ドック実施や定期的な安全対策研修等の参加支援をするなど従業員の健康安全に取り組んでいることから「健康•衛生」を、有価物の取り扱い増加によるリサイクルを推進することから「資源効率•安全性」を追加し、インパクトを特定した。
特定したインパクト
ポジティブ:「教育」「雇用」「資源効率•安全性」「包括的で健全な経済」
ネガティブ:「健康•衛生」「雇用」「水(質)」「資源効率•安全性」「気候」
「廃棄物」
4669 廃棄物•スクラップ及び他に分類されないその他の製品の卸売業 | 修正値 | |
ポジティブ | ネガティブ | |
水(入手可能性) | ||
食糧 | ||
住居 | ||
健康•衛生 | ||
教育 | ||
雇用 | ||
エネルギー | ||
移動手段 | ||
情報 | ||
文化•伝統 | ||
人格と人の安全保障 | ||
xx | ||
強固な制度•平和•安定 | ||
水(質) | ||
大気 | ||
土壌 | ||
生物多様性と生態系サービス | ||
資源効率•安全性 | ||
気候 | ||
廃棄物 | ||
包括的で健全な経済 | ||
経済収束 |
(3)インパクトレーダーにおけるマッピング
特定したインパクトをもとにインパクトレーダーで発現したインパクト•マップは以下のとおりとなる。
7.KPI の決定
(1)ポジティブなインパクトの成果が期待できる事項
ⅰ.社会面
テーマ | 人材育成の推進 |
インパクトレーダー | 教育 |
取組内容 | •資格費用全額会社負担による資格取得支援 •資格取得者に対するインセンティブの付与 •従業員への積極的な講習会の参加支援 |
SDGs との関連性 | 4.4 2030 年までに、技術的•職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。 4.5 2030 年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子供など、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセスできるようにする。 8.5 2030 年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一価値の労働についての同一賃金を達成 する。 |
KPI | •現場担当者について、大型自動車免許•フォークリフト免許の 100%取得及び玉掛け技能講習の 100%受講修了を維持する |
ⅱ.社会面、経済面
テーマ | ダイバーシティ経営への取り組み |
インパクトレーダー | 雇用、包括的で健全な経済 |
取組内容 | •女性、高齢者、外国人の活躍支援推進による多様性ある企業の実現 •多様な人材雇用による生産性向上 |
SDGs との関連性 | 8.5 2030 年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一価値の労働についての同一賃 金を達成する。 |
KPI | •2030 年までに女性の現場担当者を 2 名以上雇用する •2030 年までに女性の管理職を 1 名以上登用する •2030 年までに 65 歳以上の高齢者を 1 名以上雇用する •2030 年までに外国人を 1 名以上雇用する |
ⅲ.環境面
テーマ | 循環型経済への貢献 |
インパクトレーダー | 資源効率•安全性 |
取組内容 | •再生可能資源のリサイクル化推進のための再生資源取扱量 増加への取り組み |
SDGs との関連性 | 12.2 2030 年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する。 |
KPI | •2030 年までに再生資源取扱量を年間 12 万トン(現状年 間 7.2 万トン)まで増加させる |
(2)ネガティブなインパクトの低減が必要となる事項
ⅰ.社会面
テーマ | 健康かつ安全な労働環境の整備 |
インパクトレーダー | 健康•衛生 |
取組内容 | •従業員の健康管理の徹底 •労働災害の重大事故発生防止への取り組み •未熟練従業員に対する安全教育への取り組み |
SDGs との関連性 | 3.3 2030 年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する。 |
KPI | •2030 年までに年 1 の会社費用負担による 40 歳以上の人間ドックを実施する •重大な労働災害ゼロ件を維持する •2030 年までに新規採用の従業員に対し 6 か月に 1 の安全教育を実施する |
テーマ | 働きやすい職場環境の整備 |
インパクトレーダー | 雇用 |
取組内容 | •人材確保と従業員の定着化に伴う就業規則見直し •有給休暇取得促進 |
SDGs との関連性 | 4.4 2030 年までに、技術的•職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。 |
KPI | •2030 年までに就業規則に基づく各種休暇制度の利用を一人当たりゼロ件から 3 件に増加させる •2030 年までに有給休暇取得を現在の平均 6 日から 11 日 に増加させる |
ⅱ.環境面
有価物の取り扱い増加によるリサイクル推進 | |
インパクトレーダー | 資源効率•安全性、廃棄物 |
取組内容 | •ギロチンプレスの導入による多種品目の産業廃棄物に関するリサイクル化への取り組み •再生可能資源のリサイクル化推進のための再生資源取扱量 増加への取り組み |
SDGs との関連性 | 12.2 2030 年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する。 12.5 2030 年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。 |
KPI | •2030 年までに、鉄•非鉄金属スクラップの廃棄物の割合 (ロス率)を現在の 3%から 1%以下に低減させる |
テーマ | 環境負荷低減への取り組み |
インパクトレーダー | 気候 |
取組内容 | •保有設備の環境負荷低減化 •工場及び事務所電気設備の LED 化 |
SDGs との関連性 | 12.4 2020 年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物資質や全ての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。 13.3 気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する。 |
KPI | •工場使用電力量の測定及び重機、機械設備の CO₂排出量の測定を 2024 年度までに実施し、2025 年度以降は毎年 10%以上削減する •2030 年までに車両、重機、機械設備の更新時に環境負荷 低減仕様の設備を導入する |
テーマ | サプライチェーン全体の環境配慮への取り組み |
インパクトレーダー | 廃棄物 |
取組内容 | •廃棄物ゼロに向けた取り組み •適正なサプライヤーとの取引増加への取り組み •収スクラップの仕入れ業者選定によるゼロエミッション |
SDGs との関連性 | 12.2 2030 年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する。 12.5 2030 年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。 |
KPI | •2030 年までにサプライヤーを 10 先以上増加させる •2030 年までに仕入れ業者の選定基準マニュアルを作成する |
(3)地域において認識される社会的課題•環境問題への貢献
•会社として、代表者が地元商工会(👉年商工会議所)、地域イベント等に積極的に参加し社会的課題などの解決に貢献している。
8.モニタリング
(1)モニタリング体制
同社では、本 PIF の組成にあたり横断的なプロジェクトチームを組成した。統括責任者を小林泰樹社長、プロジェクトリーダーを小林光枝総務担当とし、プロジェクトチームである SDGsチームを総務部内に組成した。同社の企業理念、経営方針を基に、事業実績、企業活動等の棚卸しを行い、本 PIF のインパクトの特定及び目標と KPI の策定を行った。本 PIF の実行後においては、決定したインパクトの内容や KPI を営業会議•朝礼等で従業員へ周知し、関連するサプライチェーンへも通達し、達成に向けた連携を図り、プロジェクトチームを中心に同社全体で KPI の達成に向けた推進体制を構築していく。
統括責任者
代表取締役社長 小林泰樹氏プロジェクトリーダー
総務担当責任者 小林光枝氏
プロジェクトチーム
総務部
SDGs推進チーム
(2)モニタリングの頻度と方法
本 PIF で設定した KPI 及び進捗状況については、同社と清水銀行及び当社の担当者が定
期的な場を設け、共有する。会合は少なくとも年に 1 は実施するほか、日頃の情報交換や営業活動の場等を通じて実施する。
本評価に関する説明
1.本評価書は、清水地域経済研究センターが、清水銀行から委託を受けて実施したもので、清水地域経済研究センターが清水銀行に対して提出するものです。
2.清水地域経済研究センターは、依頼者である清水銀行及び清水銀行がポジティブ•インパクト•ファイナンスを実行する小林金属から供与された情報や小林金属へのインタビュー等で収集した情報に基づいて、現時点での状況を評価したものであり、将来における実現可能性、ポジティブな成果•見通し等を保証するものではありません。
3.清水地域経済研究センターが本評価に用いた情報は、信頼できるものと判断したものではあるものの、その正確性等について独自に検証しているわけではありません。清水地域経済研究センターはこれらの情報の正確性、適時性、完全性、適合性その他一切の事項について、何ら表明または保証するものではありません。
4.本評価は、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した PIF 原則及び PIF 実施ガイド、ESG 金融ハイレベル•パネルにおいてポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に則って行ってお
ります。
〈評価書作成者〉
〒424-0941
静岡市清水区富士見町 2 番 1 号
株式会社清水地域経済研究センター
田中 昌一
Tel 054-355-5510、Fax 054-353-6011
第三者意見書
2023 年 1 月 31 日株式会社 日本格付研究所
評価対象: 株式会社小林金属に対するポジティブ・インパクト・ファイナンス |
貸付人:株式会社清水銀行 |
評価者:株式会社清水地域経済研究センター |
第三者意見提供者:株式会社日本格付研究所(JCR) |
結論:
本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省のESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置さ
れたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
I. JCR の確認事項と留意点
JCR は、清水銀行が株式会社小林金属(「小林金属」)に対して実施する中小企業向けのポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)について、株式会社清水地域経済研究センターによる分析・評価を参照し、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)の策定した PIF 原則に適合していること、および、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的であることを確認した。
PIF とは、SDGs の目標達成に向けた企業活動を、金融機関が審査・評価することを通じて促進し、以て持続可能な社会の実現に貢献することを狙いとして、当該企業活動が与えるポジティブなインパクトを特定・評価の上、融資等を実行し、モニタリングする運営のことをいう。
PIF 原則は、4 つの原則からなる。すなわち、第 1 原則は、SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できるかまたはネガティブな影響を特定し対処していること、第 2 原則は、PIF 実施に際し、十分なプロセス、手法、評価ツールを含む評価フレームワークを作成すること、第 3 原則は、ポジティブ・インパクトを測るプロジェクト等の詳細、評価・モニタリングプロセス、ポジティブ・インパクトについての透明性を確保すること、第 4 原則は、PIF 商品が内部組織または第三者によって評価されていることである。
UNEP FI は、ポジティブ・インパクト・ファイナンス・イニシアティブ(PIF イニシアティブ)を組成し、PIF 推進のためのモデル・フレームワーク、インパクト・レーダー、インパクト分析ツールを開発した。清水銀行は、中小企業向けの PIF の実施体制整備に際し、清水地域経済研究センターと共同でこれらのツールを参照した分析・評価方法とツールを開発している。ただし、PIF イニシアティブが作成したインパクト分析ツールのいくつかのステップは、国内外で大きなマーケットシェアを有し、インパクトが相対的に大きい大企業を想定した分析・評価項目として設定されている。JCR は、PIF イニシアティブ事務局と協議しながら、中小企業の包括分析・評価においては省略すべき事項を特定し、清水銀行及び清水地域経済研究センターにそれを提示している。なお、清水銀行は、本ファイナンス実施に際し、中小企業の定義を、PIF 原則等で参照している IFC(国際金融公社)の定義に加え、中小企業基本法の定義する中小企業、会社法の定義する大会社以外の企業としている。 JCR は、中小企業のインパクト評価に際しては、以下の特性を考慮したうえでPIF 原則
との適合性を確認した。
① SDGs の三要素のうちの経済、PIF 原則で参照するインパクト領域における「包括的で健全な経済」、「経済収れん」の観点からポジティブな成果が期待できる事業主体である。ソーシャルボンドのプロジェクト分類では、雇用創出や雇用の維持を目的とし
た中小企業向けファイナンスそのものが社会的便益を有すると定義されている。
② 日本における企業数では全体の 99.7%を占めるにもかかわらず、付加価値額では 52.9%にとどまることからもわかるとおり、個別の中小企業のインパクトの発現の仕方や影響度は、その事業規模に従い、大企業ほど大きくはない。1
③ サステナビリティ実施体制や開示の度合いも、上場企業ほどの開示義務を有していないことなどから、大企業に比して未整備である。
II. PIF 原則への適合に係る意見
PIF 原則 1
SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できるかまたはネガティブな影響を特定し対処していること。
SDGs に係る包括的な審査によって、PIF は SDGs に対するファイナンスが抱えている諸問題に直接対応している。
清水銀行及び清水地域経済研究センターは、本ファイナンスを通じ、小林金属の持ちうるインパクトを、UNEP FI の定めるインパクト領域および SDGs の 169 ターゲットについて包括的な分析を行った。
この結果、小林金属がポジティブな成果を発現するインパクト領域を有し、ネガティブな影響を特定しその低減に努めていることを確認している。
SDGs に対する貢献内容も明らかとなっている。
PIF 原則 2
PIF を実行するため、事業主体(銀行・投資家等)には、投融資先の事業活動・プロジェクト・プログラム・事業主体のポジティブ・インパクトを特定しモニターするための、十分なプロセス・方法・ツールが必要である。
JCR は、清水銀行がPIF を実施するために適切な実施体制とプロセス、評価方法及び評価ツールを確立したことを確認した。
(1) 清水銀行は、本ファイナンス実施に際し、以下の実施体制を確立した。
1 経済センサス活動調査(2016 年)。中小企業の定義は、中小企業基本法上の定義。業種によって異なり、製造業は資本金 3 億円以下または従業員 300 人以下、サービス業は資本金 5 千万円以下または従業員 100 人以下などだ。小規模事業者は製造業の場合、従業員 20 人以下の企業をさす。
(出所:清水銀行提供資料)
(2) 実施プロセスについて、清水銀行では社内規程を整備している。
(3) インパクト分析・評価の方法とツール開発について、清水銀行からの委託を受けて、清水地域経済研究センターが分析方法及び分析ツールを、UNEP FI が定めた PIF モデル・フレームワーク、インパクト分析ツールを参考に確立している。
PIF 原則 3 透明性
PIF を提供する事業主体は、以下について透明性の確保と情報開示をすべきである。
・本PIF を通じて借入人が意図するポジティブ・インパクト
・インパクトの適格性の決定、モニター、検証するためのプロセス
・借入人による資金調達後のインパクトレポーティング
PIF 原則 3 で求められる情報は、全て清水地域経済研究センターが作成した評価書を通して銀行及び一般に開示される予定であることを確認した。
PIF 原則 4 評価
事業主体(銀行・投資家等)の提供する PIF は、実現するインパクトに基づいて内部の専門性を有した機関または外部の評価機関によって評価されていること。
本ファイナンスでは、清水地域経済研究センターが、JCR の協力を得て、インパクトの包括分析、特定、評価を行った。JCR は、本ファイナンスにおけるポジティブ・ネガティブ両側面のインパクトが適切に特定され、評価されていることを第三者として確認した。
III. 「インパクトファイナンスの基本的考え方」との整合に係る意見
インパクトファイナンスの基本的考え方は、インパクトファイナンスを ESG 金融の発展形として環境・社会・経済へのインパクトを追求するものと位置づけ、大規模な民間資金を巻き込みインパクトファイナンスを主流化することを目的としている。当該目的のため、国内外で発展している様々な投融資におけるインパクトファイナンスの考え方を参照しながら、基本的な考え方をとりまとめているものであり、インパクトファイナンスに係る原則・ガイドライン・規制等ではないため、JCR は本基本的考え方に対する適合性の確認は行わない。ただし、国内でインパクトファイナンスを主流化するための環境省及びESG 金融ハイレベル・パネルの重要なメッセージとして、本ファイナンス実施に際しては本基本的考え方に整合的であるか否かを確認することとした。
本基本的考え方におけるインパクトファイナンスは、以下の 4 要素を満たすものとして
定義されている。本ファイナンスは、以下の 4 要素と基本的には整合している。ただし、要素③について、モニタリング結果は基本的には借入人である小林金属から貸付人である清水銀行及び評価者である清水地域経済研究センターに対して開示がなされることとし、可能な範囲で対外公表も検討していくこととしている。
要素① 投融資時に、環境、社会、経済のいずれの側面においても重大なネガティブインパクトを適切に緩和・管理することを前提に、少なくとも一つの側面においてポジティブなインパクトを生み出す意図を持つもの
要素② インパクトの評価及びモニタリングを行うもの
要素③ インパクトの評価結果及びモニタリング結果の情報開示を行うもの
要素④ 中長期的な視点に基づき、個々の金融機関/投資家にとって適切なリスク・リターンを確保しようとするもの
また、本ファイナンスの評価・モニタリングのプロセスは、本基本的考え方で示された評価・モニタリングフローと同等のものを想定しており、特に、企業の多様なインパクトを包括的に把握するものと整合的である。
IV. 結論
以上の確認より、本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
(第三者意見責任者) 株式会社日本格付研究所
サステナブル・ファイナンス評価部長
梶原 敦子
担当主任アナリスト 担当アナリスト
川越 広志 新井 真太郎
本第三者意見に関する重要な説明
1. JCR 第三者意見の前提・意義・限界
日本格付研究所(JCR)が提供する第三者意見は、事業主体及び調達主体の、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト金融(PIF)原則への適合性及び環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内に設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」への整合性に関する、JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、当該ポジティブ・インパクト金融がもたらすポジティブなインパクトの程度を完全に表示しているものではありません。
本第三者意見は、依頼者である調達主体及び事業主体から供与された情報及び JCR が独自に収集した情報に基づく現時点での計画又は状況に対する意見の表明であり、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。また、本第三者意見は、PIF によるポジティブな効果を定量的に証明するものではなく、その効果について責任を負うものではありません。本事業により調達される資金が同社の設定するインパクト指標の達成度について、JCR は調達主体または調達主体の依頼する第三者によって定量的・定性的に測定されていることを確認しますが、原則としてこれを直接測定することはありません。
2. 本第三者意見を作成するうえで参照した国際的なイニシアティブ、原則等
本意見作成にあたり、JCR は、以下の原則等を参照しています。
国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブ・インパクト金融原則
環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内ポジティブインパクトファイナンスタスクフォース
「インパクトファイナンスの基本的考え方」
3. 信用格付業にかかる行為との関係
本第三者意見を提供する行為は、JCR が関連業務として行うものであり、信用格付業にかかる行為とは異なります。
4. 信用格付との関係
本件評価は信用格付とは異なり、また、あらかじめ定められた信用格付を提供し、または閲覧に供することを約束するものではありません。
5. JCR の第三者性
本 PIF の事業主体または調達主体と JCR との間に、利益相反を生じる可能性のある資本関係、人的関係等はありません。
■留意事項
本文書に記載された情報は、JCR が、事業主体または調達主体及び正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、またはその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、または当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCRは、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。本第三者意見は、評価の対象であるポジティブ・インパクト・ファイナンスにかかる各種のリスク(信用リスク、価格変動リスク、市場流動性リスク、価格変動リスク等)について、何ら意見を表明するものではありません。また、本第三者意見は JCR の現時点での総合的な意見の表明であって、事実の表明ではなく、リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするものでもありません。本第三者意見は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。
■用語解説
第三者意見:本レポートは、依頼人の求めに応じ、独立・中立・公平な立場から、銀行等が作成したポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書の国連環境計画金融イニシアティブのポジティブ・インパクト金融原則への適合性について第三者意見を述べたものです。
事業主体:ポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施する金融機関をいいます。
調達主体:ポジティブ・インパクト・ビジネスのためにポジティブ・インパクト・ファイナンスによって借入を行う事業会社等をいいます。
■サステナブル・ファイナンスの外部評価者としての登録状況等
・国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブインパクト作業部会メンバー
・環境省 グリーンボンド外部レビュー者登録
・ICMA (国際資本市場協会に外部評価者としてオブザーバー登録) ソーシャルボンド原則作業部会メンバー
・Climate Bonds Initiative Approved Verifier (気候変動イニシアティブ認定検証機関)
■本件に関するお問い合わせ先
情報サービス部 TEL:03-3544-7013 FAX:03-3544-7026