Contract
第1 和解の種類
和解には、裁判外の和解と裁判上の和解がある。裁判外の和解は、民法上の和解契約(民695条)であり、いわゆる示談のことをいう(xx
「民事訴訟法〔8版〕」528頁、xx「示談・調停・和解の手続と条項作成実務〔改
訂〕」7頁2)。
裁判上の和解には、訴訟上の和解(民訴89条・267条)と訴え提起前の和解(民訴275条)がある。訴訟上の和解は、訴訟係属中に、当事者双方が、権利又は法律関係についての互いの主張を譲歩し、それに関して一定内容の実体法上の合意と、訴訟終了についての訴訟法上の合意を行うことである(xxほか「訴訟上の和解の理論と実務」2頁、xx「民事訴訟法〔8版〕」528頁、民事実務講義案Ⅰ(五版))294頁)。訴え提起前の和解は、訴訟係属前に訴訟を回避、予防するためにされるものである、xx「示談・調停・和解の手続と条項作成実務〔改訂〕」97頁1)。
第2 訴訟上の和解の法的性質
訴訟上の和解の法的性質については、私法行為説(訴訟上の和解は、当事者間の合意であるところの私法上の和解契約である。)、訴訟行為説(訴訟上の和解は、私法上の和解とは別の訴訟上の合意たる訴訟行為である。)、両行為併存説(訴訟上の和解には、私法行為としての和解契約と訴訟行為としての合意が併存している。両者を切り離して考え、私法上の無効原因がある場合私法上の
和解契約は無効となるが、訴訟行為としては有効であり、訴訟行為に無効原因が
あり無効となったとしても、私法上の和解行為は無効とならない。)、両行為新併存説(訴訟上の和解には、私法行為としての和解契約と訴訟行為としての合意が併存している。両者を連動して捉え、私法上の無効原因があれば、連動して訴訟上の和解も無効となる。)、両性説(訴訟上の和解は、私法行為としての性質と
訴訟行為としての性質を有する行為である。訴訟行為として無効であれば私法上も無効であり、私法上無効原因があれば訴訟行為としても無効である。)が唱えられている。判例は、両性説によっていると考えられている(大決昭6. 4.22民集10巻380頁、最判昭31.3.30民集10巻3号242頁・判タ58号68頁)(xx
ほか「和解の基礎と実務」13頁Ⅱ、xx「和解・調停の手法と実践」15頁2)。
第3 訴訟上の和解の要件
訴訟上の和解には、以下の要件が必要とされている(xx「和解・調停の手法と実践」16頁Ⅱ、xxほか「和解の基礎と実務」16頁⑴・17頁⑵・18頁⑶、
xx「和解交渉と条項作成の実務」31頁Q5)。
1 互譲
裁判上の和解においても、当事者が互いに譲歩すること(互譲)の要件の必要性が問題となるが、判例は、当事者の互譲の要件が必要と解しつつ、その要件を広く解している。和解における互譲の方法として、係争物に関係のない物の給付を約束することは和解の本質に反するものではないとされ(最判昭27.2.8民集6巻2号63頁・判タ19号60頁)、請求につき全面的に譲歩しても、訴訟費用について一部の譲歩を相手方から得れば、和解は有効に成立するとされている(大判昭15.6.8民集19巻 975頁)(xx「和解・調停の手法と実践」17頁2)。
2 和解の対象となる法律関係又は権利義務が当事者の自由処分を許すものであること
訴状上の和解は、その対象である私法上の法律関係又は権利義務が
私的自治の原則によって実体法上自由に処分できることが許されていることが前提となっており、法が当事者間の合意による自由な処分によって法律関係又は権利義務を創設することを禁じている場合には、
和解をすることは許されない(xx「和解・調停の手法と実践」17頁、xx
「和解交渉と条項作成の実務」31頁)。
人事訴訟に関しては、私的自治とこれに基づく処分権主義を認めるのは適当でないと考えられ、請求の放棄・認諾と共に、訴訟上の和解をすることも許されないとされている(人訴19条2項)。これに対し、離婚訴訟及び離縁訴訟については、協議離婚・協議離縁が認められており、請求の放棄・認諾と共に訴訟上の和解をすることも認められている(人訴37条1項・46条)。ただ、当事者の意思確認を慎重に行う必要があることから、和解条項案の書面による受諾(民訴264条)及び裁判所等が定める和解条項(民訴265条)による和解はできない(人訴37条2項・46条)
(xx「和解・調停の手法と実践」17頁、xx「和解交渉と条項作成の実務」32頁)
(電話会議システムによる弁論準備手続期日における不出頭当事者による和解
(民訴170条3項・4項)も否定されるが、令和4年法律第48号改正により、同改正法施行(公布日(令和4年5月25日)から3年内の政令で定める日から施行)後は、ウェブ会議等映像の送受信が相互に可能な方法で期日が開かれた場合には和解が可能となる(令和5年法律第53号改正(令和5年法律第53号改正後(令和5年6月14日から5年以内施行)人訴37条3項・46条)(xxほか「和解の基礎と実務」16頁・17
頁・292頁))。
境界確定訴訟においては、公法上の境界を私人が自由に処分することができないので、公法上の境界を創設するような内容の訴訟上の和解をすることはできない(最判昭31.12.28民集10巻12号1639頁・判タ67号 68頁、最判昭42.12.26民集21巻10号2627頁・判時507号29頁)。境界確定訴訟で和解を成立させる場合、所有権の範囲を確認した上で、境界確定の訴訟物自体については、訴えの取下げ又は訴訟終了の合意をする形で
和解をするのが通常である(「民事実務講義案Ⅰ(五版)」302頁、「和解条項実証的研究〔補訂版〕」7頁・8頁、xx「和解交渉と条項作成の実務」34頁・52頁・ 225頁)。
☆ 境界確定訴訟における和解の方法→第8章第7節第6・1(234頁)参照
執行関係訴訟のうち、xxx付与に対する異議の訴え(民執34条)、請求異議の訴え(民執35条)、第三者異議の訴え(民執38条・194条)は、執行法上の異議権が訴訟物であり、被告の執行する権利を消滅させる形成訴訟であると解されている。これらの訴訟では、判決によって創設されるのと同一内容の訴訟上の和解をすることは許されないが、当事者が自由に処分することができる実体法上の権利義務を確認する旨の合意をする(例えば、請求異議の訴えにおいては、債務名義に表示された実体法上の権利義務の存否を確認する旨の合意をする。)ことは許される。そして、訴訟物自体については、訴えの取下げ又は訴訟終了の合意をするという形をとるのが通常である(「執行関係等訴訟に関する実務上の諸問題」133頁・ 134頁、xx「和解交渉と条項作成の実務」33頁・34頁、xx「執行関係訴訟の実
務」43頁第2・132頁第2・202頁第2)。
☆ 請求異議訴訟における和解→第10章第2節第1(314頁)参照
☆ 第三者異議訴訟における和解→第10章第4節第1(325頁)参照
3 和解の内容が法律行為の一般的有効要件を満たすものであること
訴訟上の和解は、私法上の契約としての性質を有するものとして、
私法上の契約として有効に成立することが必要であるから、法律行為の一般的有効要件を満たすことが必要である。具体的には、①合意内容が実現可能であること、②合意内容が確定(特定)していること、
③合意内容が適法であること、合意内容が公序良俗に違反しないこと
が必要となる(xx「和解交渉と条項作成の実務」35頁3、xx「和解・調停の手法と実践」19頁4、xxほか「和解の基礎と実務」17頁⑵)。
4 訴訟要件の具備
訴訟上の和解は、訴訟の継続中に互譲によって訴訟手続を終了させるものであるから、訴訟係属が必要となる(xx「和解交渉と条項作成の実務」38頁)。
訴訟要件については、本案判決をするための要件であるから、訴訟要件一般が、訴訟上の和解の要件とはならない。ただ、訴訟上の和解は、訴訟上の効果が発生する当事者の訴訟行為であるから、当事者が実在すること、当事者能力及び訴訟能力があることは必要となる(民訴28条)。また、訴訟代理人が当事者のために訴訟上の和解をするには、その権限が授与されていることが必要となる(民訴55条2項)(xx「和解交渉と条項作成の実務」38頁、xx「和解・調停の手法と実践」20頁6)。
第4 訴訟上の和解の効力
訴訟上の和解が成立し、和解調書が作成されると、その記載には確定判決と同一の効力が認められる(民訴267条)。その「確定判決と同一の効力」には、以下の内容がある(xx「和解交渉と条項作成の実務」39頁 2、xxほか「和解の基礎と実務」33頁)。
① 訴訟終了効
訴訟上の和解が有効である場合、調書への記載により、当該訴訟は当然に終了する問う効果が生ずる。
② xxx(民執22条7号)
訴訟上の和解の内容として、具体的給付行為を定めた場合、当該和解調書が債務名義となり(民執22条7号)、xxxが発生する。
③ 既判力
訴訟上の和解に既判力が認められるかどうかについては、既判力肯定説、制限的既判力説、既判力否定説がある(xxほか「和解の基礎と実務」34頁⑶)。
判例は、既判力を肯定することを前提にした判断をしている(最大判昭33.3.5民集12巻3号381頁)が、訴訟上の和解の実体は当事者の意思表示であって、判決と異なり意思表示に存する瑕疵のために和解が当然無効となる場合があるとし(最判昭31.3.30民集10巻3号242頁・判タ58号68頁)、要素の錯誤により無効となること(平成29年法律第44号改正後民法95条では錯誤による取消し)を認めており(最判昭33.6.14民集12巻9号1492頁)、制限的既判力肯定説に立っていると思われる(xx「和解交渉と条項作成の実務」41頁1、xxほか「和解の基礎と実務」35頁エ)。
第5 和解の権限
1 訴訟代理権
和解は、訴訟代理人の特別授権事項とされており(民訴55条2項2号)、訴訟代理人については、その訴訟委任状に委任事項として「和解」が入っているかを確認しておく必要がある(xxほか「訴訟上の和解の理論と実務」459頁、xx・xx「〔補訂版〕和解・調停の実務」50頁)。
* 最判昭38.2.21民集17巻1号182頁(貸金請求事件における被告の訴訟代理人の和解の権限には、和解の一条項として、当該貸金債権の担保のため被告所有の不動産について原告に対し抵当権設定契約をなす権限も包含する者と解するのが相当である。)
2 〈共同親権者・共同訴訟人〉の出頭・陳述
共同親権者(民818条3項本文)又は必要的共同訴訟(民訴40条・47条・52