Contract
最近の裁判例から
⑴−売買契約と保証金償却−
賃貸不動産売買に際し、売主と買主の間において、保証金償却分については引き継がない合意があったとした事例
(東京地判 令元・7・18 ウエストロー・ジャパン) xx xx
賃貸不動産の売買において、テナントとの賃貸借契約では賃貸借期間満了時に保証金を償却するとしているのに、保証金のうち償却分相当額を除いた残額しか引き渡さなかったとして、買主が、売主業者と売主側媒介業者に償却分相当額の支払い等を求めた事案において、売主と買主間で、償却分相当額控除後の保証金を引き継ぐとした合意があることから、買主の主張は失当であるとして、その請求を棄却した事例(東京地裁 令和元年7月 18日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
被告Y1(売主、xx業者)は、4階建で貸xx7室の賃貸不動産を所有しており、被告Y2(売主側媒介業者)に売却の媒介を依頼した。Y2が買主を探していたところ、知人Aから紹介を受けた原告X(買主、不動産賃貸業)が買主候補となり、Aと知り合いであった訴外X側媒介業者とY2間で売買契約締結に向けた交渉を進めることになった。
Y1は、本件不動産売却に当たり、テナントから預かっている保証金計783万円余のうち、償却分相当額計498万円余は自らが取得し、残額を買主に移転することを希望していた。Y2は、本件不動産の管理会社から賃貸借契約書等の交付を受け、これらに基づき、入室者や月額賃料、Y1からXに引き継ぐべき償却分相当額を除いた保証金の額等を整理して記載した「収入明細表」(101・202号室以外の貸室は、保証金を引き継がないとする
趣旨で空欄)を作成し、知人Aに対し、賃貸借契約書及び本件収入明細表を交付し、X側媒介業者に渡すよう依頼したが、何らかの理由により本件収入明細表しか届かなかった。その後、Y2は、売買契約書の特記事項に
「当該物件のオーナーチェンジに伴い現在 Y1がお預かりしている預かり保証金は償却分を除き買主であるXへ移転譲渡するものとする」と記載するとともに重要事項説明書を作成し、平成27年12月28日にXとY1は売買契約を締結し、Xは手付金をY1に支払った。
平成28年1月8日、Xは残代金をY1に支払い、一方、Y1は、本件保証金から償却分相当額控除後の284万円余をXに支払い、所有権移転登記手続を完了した。
平成29年5月、Xは、主位的請求として、 Y1が預かっていた本件保証金総額は783万円余であったにもかかわらず、284万円余と虚偽事実を告げ、本件売買契約において、上記金額しか交付しなかったため、その差額の損害を被ったとしてその差額等の支払いを、予備的請求として、本件売買契約に基づく売主の債務として、本件保証金全額を交付すべき義務を怠ったと主張して、その差額等の支払いを求め、訴訟を提起した。
これに対し、Y1らは、XとY1との間で、本件保証金のうち償却分相当額を除いた残額をXに引き継ぐ旨の本件合意がされており、 Y1らが不法行為責任を負うことも、Y1が債務不履行責任を負うこともないと主張した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Xの請求を全部棄却した。
(本件合意が成立していたか否かについて)認定事実によれば、Y1は、本件不動産売
却で、本件保証金のうち償却分相当額を除いた残額を買主に移転することを希望しており、Y2は、かかる希望を受けて、賃貸借契約に定められた保証金償却条件に基づき、本件保証金のうち償却分相当額を除いた残額を明らかにする趣旨で、本件収入明細表の保証金欄に記載を行ったものと認められる。
他方で、X側媒介業者は、①賃貸物件の売買では、保証金を買主に全額引き継ぐ場合もあれば、償却分相当額を控除して買主に引き継ぐ場合もあることを認識しており、本件収入明細表の保証金欄で101・202号室以外は空欄であることが疑問であれば、X側媒介業者として、Y2に確認するはずであるが、実際には確認等をしていないこと、②本件売買契約締結時に、本件特記事項記載を認識していたが、仮に本件合意が成立していなかったのであれば異議を述べるところ、何らの異議を述べていないこと、③本件売買契約締結に出席できなかったXへの報告で、本件特記事項について何ら触れていないこと、④101・202号室以外にも本件保証金から償却分相当額を控除した残額が生じることが判明したために作成した資料について、仮に本件合意が成立していなかったのであれば、その残額を算出する必要はないにもかかわらず、実際にはこれを算出していることが認められ、X側媒介業者は、遅くとも本件売買契約締結時までに、本件収入明細表の保証金欄の記載が本件保証金のうち償却分相当額を除いた金額がXに引き継がれるものであることを十分に認識していたものと認められる。
Xは、本件売買契約締結時点では、本件保証金の正確な額等を知らされておらず、Y1との間で合意のしようがなく、本件合意はされていない、本件売買契約締結前に本件売買契約書を見たことがない旨供述するが、Xらの行動から、それらの供述は採用できない。以上から、XとY1間では、本件合意が成立
していたものと認められるというべきである。
(不法行為責任・債務不履行責任について) Y1らは、本件保証金のうちXに引き継ぐ
償却相当分を除いた残額を明らかにする趣旨 で、本件収入明細表の保証金欄の記載を行ったものであり、Y1らが、当初からXを欺罔する意思を有していたなどとはいえず、本件合意が成立していたと認められるから、本件保証金のうち284万円余しか交付しなかったことにつき、Y1らは不法行為責任を負わない。なお、Xは、賃貸借契約で約定された保証
金償却時期である賃貸借期間満了時が到来していないにもかかわらず、保証金償却を行うことは賃貸借契約に反する違法な行為である等を主張するが、本件合意は、XとY1との売買契約において保証金の償却分相当額をXに引き継ぐか否かという問題であり、Xの主張は失当である。
また上記の通り、XとY1との間では、本件合意は成立したことから、Y1は債務不履行責任を負わない。
3 まとめ
賃貸借契約上の保証金償却時期と売買契約 上の保証金承継合意は別とされた本事例は、実務においては参考になるものと思われる。なお、売主・買主において、売買契約締結
前に賃貸借契約の保証金償却時期と承継する金額の内容とを確認していれば、トラブルを回避できた事案ではないかと思われる。
(調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑵−借地権売買と承諾料−
借地権付き戸建の売買契約解約に伴い、支払済み承諾料の返還を土地所有者に求めた売主の請求が棄却された事例
(東京地判 令元・11・27 ウエストロー・ジャパン) xx xx
借地権付き戸建を売却する契約を締結した売主が、当該売買契約が買主の違約により解除されたことから、土地所有者に対して支払済みの承諾料の返還を求めた事案において、当該売買契約が解除されたことが、直ちに承諾料を支払うことの合意に消長を来すものではないとして売主の請求が棄却された事例
(東京地裁 令和元年11月27日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成30年12月、本件建物及び本件借地権の売主Ⅹ(原告)は、買主Aとの間で、5380万円で売却する売買契約(本件契約)を締結した。本件契約には、契約違反による解除の違約金として、相手方に対し、売買代金の20%を請求できる旨の定めがあった。
平成31年3月14日、本件土地所有者Y(被告)、Ⅹ及びAは、
① Yは、Ⅹから本件借地権の譲渡に係る承諾料550万円の支払を受けることを条件に、本件借地権をAに譲渡することを承諾すること
② Ⅹは、Yに対し、同月19日に本件承諾料を支払うこと
③ YとAは、上記承諾の効力発生後に本件土地の賃貸借契約を締結すること
を合意し、同月19日に、Ⅹは、Yに対し、本件承諾料550万円を支払った。
しかし、同年3月26日、ⅩとA間において、
①本件契約は、Aの売買代金支払義務の債務
不履行を理由として解除されたこと
②Aは、Ⅹに対し、本件契約約定の違約金 1076万円を同月29日に支払うこと
③Ⅹは、Yに対し、支払済み承諾料の返還を求めるように努め、返還があった場合は、Aに延滞なく相当額を返還すること
を合意し、同月29日に、AはⅩに対し違約金を支払った。
同年4月10日、xは、Yに対し、本件契約の解除を理由として、本件承諾料の返還を求めたが、Yが返還を拒んだことから、本件訴訟を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次の通り判示し、ⅩのYに対する請求を棄却した。
(売買契約の解除が承諾料支払合意の解除にも及ぶとの主張について)
Ⅹは、ⅩがYに対し本件承諾料を支払う旨の合意は、ⅩとA間の本件契約解除の合意により解除されたか、その合意の効力はYにも生ずると主張する。
しかし、①本件契約解除の合意は、ⅩとA間で合意されたものであること、②承諾料支払に関する合意は、Y、Ⅹ及びAの三者間で合意されたものであるが、本件借地権の譲渡の承諾や本件承諾料の支払に係る部分は、ⅩとY間で合意されたものであること、③Ⅹは、本件契約が解除される可能性があることを想定でき、その場合に支払済みの本件承諾料の返還を求めることができる合意をするなどの
対応も可能であったにもかかわらず、そのような定めはもうけられていないこと、④本件契約解除の合意では、Ⅹは、Yに支払済みの承諾料の返還を求めるように努める旨の定めがあるのみで、ⅩとAも、本件契約が解除されたからといって、当然には本件承諾料の返還を求めることができないと認識していたことが認められる。これらを照らせば、本件契約が解除されたからといって、直ちに、Ⅹと Y間の本件承諾料の支払の合意の効力に消長を来すものではない。
(承諾料支払合意の錯誤無効の主張について)
Ⅹは、本件契約が解除されることはないと過信して、Yとの間で本件承諾料支払の合意をしたのであるから、錯誤により無効であると主張する。
しかし、契約は、約定のとおり債務が履行されることを予定して合意されるものであるし、他方で、どのような契約であれ、相手方の債務不履行の可能性を否定することもできない。したがって、本件承諾料支払の合意の当時、Ⅹにおいて、本件契約に係るAの代金支払債務が履行されるものと信頼したにもかかわらず、実際には履行されなかったというだけでは、民法95条の要素の錯誤があるとはいえない。
(Yの承諾料保持はxxでないとの主張について)
Ⅹは、Yが本件承諾料を保持することがxxでないと主張するが、Ⅹは、Aとの間では、本件承諾料支払の合意が有効であることを前提として、本件承諾料を支払って本件借地権譲渡につきYの承諾を得たにもかかわらず、 Aに代金支払債務の不履行があったとして、本件契約を解除し、Aから違約金1076万円を取得しておきながら、Yに対して本件承諾料の返還を求めるについては、一転して、本件承諾料支払の合意が錯誤により無効であると
主張するものであり、Yが、本件承諾料を保持することが直ちにxxに反するとはいえない。
(結論)
以上のとおり、Ⅹの請求は理由がないから棄却する。
3 まとめ
本事例は、売主が、借地権付き戸建の売買契約が解除になったことから、土地所有者に対し、支払済みの承諾料の返還を求めて棄却されたものである。
売主からすれば、借地権譲渡がなされないことになったにもかかわらず、承諾料は返還されないことは納得できないことかもしれないが、裁判所は、棄却理由のひとつとして、承諾料支払の合意は売主と土地所有者、売買契約解除の合意は売主と買主で、異なる当事者間の合意であることを挙げている。また、仮に売買契約が解除となったときに承諾料の返還を求めるのであれば、承諾料支払の合意にその定めをもうけておくべきであると判示している。
借地権付き建物の売買契約は、売主の意思だけでは買主との契約を履行できないという特殊性を考慮して、土地所有者の賃借権譲渡承諾を得られなかった場合、売主に解除権が与えられていることが一般的である。他方、本事例のように、売主と土地所有者間で承諾料の授受があるときは、予め賃借権譲渡承諾の合意内容に、売買契約が解除されたときの承諾料の取り扱いについて定めておくことがトラブル防止になると思われる。
(調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑶−瑕疵担保免責特約−
特約による担保責任期間経過後の請求であるとして、買主の地中瑕疵に関する契約解除等の請求が棄却された事例
(東京地判 令元・9・17 ウエストロー・ジャパン) xx xx
RC造3階建の建物の建築を目的として土地を購入した買主が、土地の地中から不法投棄された大量の廃棄物が発見され、目的とした建物の建築ができなかったとして、売主に対し、瑕疵担保責任に基づく売買契約の解除及び損害賠償を請求した事案において、買主の請求は特約により期間を経過しているとして、その請求を棄却した事例(東京地裁 令和元年9月17日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成27年6月、買主X(原告:個人・夫婦共有、妻は一級建築士)は、売主Y(被告:個人)との間で、以下の条件で土地(本件土地)の売買契約(本契約)を締結した。
(本契約)
・売買代金:6,830万円
・手 付 金: 683万円
・残 代 金:6,147万円
・引 渡 日:平成28年2月末日
・本件特約:売主は、買主に対し、本件土地の隠れたる瑕疵について、引渡完了日から 3カ月以内に請求を受けたものにかぎり、責任を負う。
なお、本件土地は、元々、売主Yが所有する一筆の土地を分筆した土地であり、本件土地の東側に訴外Aが所有する土地(A所有地)が隣接して存在し、更にA所有地の東側にY所有地が隣接して存在する。
Xは、平成28年2月末日、Yに対し、売買代金の残額を支払い、同日、Yから本件土地
の引渡しを受けた。その際、Xは、Yが行った地盤調査報告書(本件調査報告書)の交付を受けた。本件調査報告書には、地中埋設物について「無」、地中の瓦礫の有無については「多い」と記載されていた。
平成28年4月、Yは、媒介業者Bより、A所有地の地中からガラが発見された旨の連絡を受け、Yに対し、その旨を報告した。Bは、 Xに対しても、その旨を報告し、本件土地の地中からガラが発見された場合には対応するので連絡するように伝えた。
平成28年7月、Xから依頼を受けた建築会社Cが、本件土地を掘削したところ、本件土地の地中から埋設物(本件埋設物)が発見されたため、X、Y及びBは、その現状を確認した。その際、Xは、Yに対し、Yの費用負担で本件埋設物を撤去するよう強く求めたが、Yは、明確な回答をしなかった。Yは、弁護士に相談し、①瑕疵担保責任は、特約事項に定められた期間の3カ月を経過しており、Yが責任を負うことはない、②債務不履行責任は、Yが故意にガラを埋めたという事実でもない限り、Yが責任を負うことはないなどのアドバイスを受け、Bにその内容を伝えた。
これに対し、Xは、Bを通じて、Yの全額 費用負担の下での撤去工事を求めたが、Yは、応じられないとして拒否し、その後、繰り返し請求を続けたが協議はまとまらなかった。そこで、Yは、弁護士に依頼し、平成28年 9月に弁護士がXと面談し、今後の近隣関係
を良好に保つとの観点から、合理的範囲の工事費の負担であれば、協議に応じ、検討する用意があることを伝えた。しかし、平成28年 11月、Xは、Yに法的責任があるため、本件埋設物の撤去工事に要する費用の全額負担を求める旨を伝えた。その後、Xは、Yに対し、売買契約の目的が達成できない、本件特約は、売主が瑕疵を発見した場合には適用されない、売主の本件特約の援用はxxxに反する等と主張し、瑕疵担保責任に基づく本件売買契約の解除及び損害賠償として7818万円余の支払いを求めて本訴を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、XのYに対する請求を棄却した。
⑴ 本件特約により売主が瑕疵担保責任を免れることができるか
本件特約の規定は、当該「隠れた瑕疵」について、XからYに対し、本件土地の引渡完了日から3カ月以内に請求があった場合に限られるものと解される。Xが、Yに対して本件土地の地中から本件埋設物が見つかったことを伝え、これを撤去することを請求したのは、平成28年7月であり、本件土地の引渡日から3カ月が経過した後のことであるから、仮に、本件土地の地中に本件埋設物が存在したことが「隠れた瑕疵」に当たるとしても、Yは、本件特約により瑕疵担保責任を負わない。
また、買主は、本件特約は、売主が瑕疵を発見した場合には適用されないと主張するが、本件特約は、買主と売主のいずれが「瑕疵」を発見したかを問わず、適用されるものと解すべきである。
⑵ 売主の本件特約の援用はxxxに反するか Yは、Xと、今後も近隣住民同士としての
関係が続くことから、穏便な解決を目指して
一定程度の費用負担はやむを得ないと考え、 Xとの交渉を続けていたということができる。そしてその間、Yが、Xに対し、本件特約
を援用しない旨や撤去費用全額を負担する旨を明言したことはない。
これらの経緯から、Yの本件特約の援用がxxxに反するであるとか、権利の濫用に当るとは認められない。
⑶ 結論
以上によれば、Xらの請求はいずれも理由がないからこれを棄却する。
3 まとめ
本判決は、一般的な瑕疵担保責任の特約において、買主が、定められた期間内に請求を行わず、期間後に発見された地中埋設物について、売主が発見した瑕疵であり、特約が及ばないと主張したが、裁判所から、期間経過後の請求であること、特約は、買主、売主いずれが発見したものか問わないと判断され、その請求が棄却されたものである。
瑕疵担保責任の特約では、売主が瑕疵の存在を知っていたかどうかについて争われることは多いが、本事案の原告の「特約は売主が瑕疵を発見した場合には適用されない」という主張は、理由がないとして否定されている。
本件同様、買主の請求が棄却された事例として( 東京地判 平25・5・28 RETIO93-144)、
(東京地判 平25・1・21 ウエストロー・ジャパン)がある。
また、売主の瑕疵担保責任を引渡日から3カ月間とする特約が、消費者契約法10条により無効であるとされた事例(東京地判 平22・ 6・29 ウエストロー・ジャパン)もあるので参考にされたい。
(調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑷−土地の瑕疵−
買主から売主に対する地中埋設物の撤去費用の請求について、その存在が認められない部分の請求が棄却された事例
(東京地判 令元・9・26 ウエストロー・ジャパン) xx x
賃貸マンション建築用地の買主が、売主業者に対し、地中埋設物が建築工事中に発見され、その撤去工事を行ったとして、撤去工事費用と逸失利益(竣工遅延に伴う賃料相当額)の支払いを求めた事案において、裁判所がその存在を認めた地中埋設物の撤去工事費用相当のみ請求が認容された事例(東京地裁 令和元年9月26日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成28年2月、賃貸マンション建築を目的として、X(買主・法人)は、Y(売主・xx業者)所有のxxxa区内に所在する約65
㎡の土地(本件土地)について、概要を以下の通りとした売買契約をxx業者Aの媒介により締結し、同年4月に引渡しを受けた。
①売買金額:4250万円
②売主の瑕疵担保責任期間:引渡より2年間
③本件土地の地中約2mに旧家屋解体時に切断した杭が残存しており、売主はこのままの状態で引渡す。
同年4月、XはAより紹介を受けた設計会社Bと賃貸マンションの設計契約を締結し、同年6月頃にXはBから紹介を受けた建設会社Cと建築工事請負契約を締結した。
同年10月の着工後間もなく、CはXとBに対して、杭工事に着手したところ、地中からコンクリートガラ等(本件埋設物1)が見付かり、工事が中断した旨を連絡した。これを受けてBはCに、費用は負担するので、本件埋設物1の撤去を行い、建築工事を再開する
よう求めるとともに、Aにこの内容を連絡した。これに対してAは、売買契約上「本件土地の地中約2mに旧家屋解体時に切断した杭が残存しており、売主はこのままの状態で引渡しをする」こととされているので、確認されたいと回答した。
同年11月9日、XはBと協議の上、地中埋設物撤去費用と工事遅延に伴う損害をYに請求して欲しい旨の文書をAに送付し、Aはこれを受領した同月13日にYに転送した。Yは連絡を受けた日に、本件土地を訪れたが、コンクリートガラ等は現地に見当たらなかった。
平成29年3月、Aの事務所で、X・Y・A・ Cの間で話合いがなされ、その際にCは、平成28年11月1日にも別途地中からコンクリート片(以下「本件埋設物2」という)が見付かり、地中埋設物の総量は10t車30台分に上ったとして、搬出時の車両の写真を貼付した報告書を提示し、この撤去及び産業廃棄物としての処分費用は572万円余になると説明した。
同年4月、X・Y・Aで再度話合いの場が持たれ、その際にYは、廃棄物処理時のマニュフェスト等の提示を求めた。
同年5月、建物が竣工したが、XはCから、建築工事代金に加え撤去工事費用の支払いがなければ建物の引渡しをしないと言われたため、翌月にXは、撤去工事費用532万円余を Cに支払った。
その頃、XはCから7t車4台分のマニュフェストの写しを受領し、その余の埋設物は
有価物としてリサイクルした旨の説明を受け、これをYに交付・伝達したものの、Yは前回の説明と異なり受け入れられないと回答した。
平成29年12月、XはYに対して、撤去工事費用532万円余とその工事に伴う建築工事遅延(1か月)に伴う賃料相当額51万円余の支払いを求める本訴を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を一部認容した。
(本件埋設物と瑕疵の有無)
本件埋設物1については、これが撤去され、 4台のトラックにより搬出された様子の写真や、そのマニュフェストがあることから、その存在と撤去の事実が推認できる。たしかに、 YはXに対して残存杭の存在を説明していたが、これは建築工事の妨げにならないものである一方、本件埋設物1は建築工事の妨げになるものであり、その存在をXが売買契約時に認識することは困難であり、これは隠れた瑕疵にあたる。
一方、本件埋設物2については、①提示された写真に、コンクリート片が本件土地の地中に埋まっていたり、搬出時のトラックの荷台に積まれている様子は写っていないこと、
②その30台分のトラック荷台の写真には、同一の写真の倍率を変えて現像したと窺われるものもあり、実際に30台が使用されたとは認め難いこと、③Cの説明は、搬出時のトラックの積載量(10t→7t)や、その処分方法
(産業廃棄物→リサイクル)について変遷しており、実際どの様な処分がされたかも不明であるうえ、Cが証人尋問を欠席したことからすれば、Cの説明に基づくXの主張は認め難いこと、④XがCより、この存在を聞いたのは平成29年3月と供述しており、これは発
見から4か月後となり、工期や費用に影響し得ることをCが速やかに報告しなかったことは、本件埋設物1の報告が発見後直ちになされていたことからしても不自然であること、からその存在や撤去がされたとは認められない。
(Xの損害額)
本件埋設物1の撤去工事及びこれに伴う杭工事のやり直しに要した費用は、208万円余と算定される。
なお、本件埋設物1の存在により、工期が想定される合理的な期間を超過したとはいえず、賃料相当額の請求は認められない。
3 まとめ
本事例においては、買主が主張した地中埋設物(隠れた瑕疵)の過半について、裁判所からその存在を認定されなかった。売買対象地の面積は約65㎡であるところ、そこから約 300tもの地中埋設物が見付かるようなことはまず想定しがたいことではなかろうか。
本事例において買主は、自ら地中埋設物の確認を行わず、また売主に立会わせることもせずに、建設業者の請求通り撤去工事費用を支払ったうえで、これを売主に請求したようであるが、少なくとも自らその埋設状況を確認する必要はあったのではなかろうか。また、建築工事業者の選定にあたっては、慎重を期すことも必要であろう。
地中障害物について、売主の不法行為責任が認められた事例(東京地判平30.3.29 RETIO 114-102)や瑕疵担保責任が認められた事例
(東京地判平25.11.21 RETIO102-112)がある一方、残置された基礎杭についてその存在が説明されており瑕疵にはあたらないとされた事例( 東京地判平22.8.30 RETIO86-166) もあるので併せて参考にされたい。
(調査研究部xx研究員)
最近の裁判例から
⑸−建物の瑕疵−
引渡し5か月後に発生したエレベーター故障は、建物の瑕疵にあたるとした買主の主張が否定された事例
(東京地判 平30・3・19 ウエストロー・ジャパン) xx x
築約27年の賃貸物件の買主が、引渡しの約 5か月後にエレベーターが故障し使用不能になったとして、売主xx業者に対し、瑕疵担保責任もしくは説明義務違反に基づく損害賠償(補修工事費用支払)を求めた事案において、引渡時点では問題なく稼働していたうえ、契約上相応の経年劣化は想定されており、売主が資料開示を怠ったとも認められない、としてその請求が棄却された事例(東京地裁平成30年3月19日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成27年7月、被告Y(売主・xx業者)は、都内a区に所在する築約27年の賃貸マンション(以下「本物件」という)を購入した。本物件には竣工時からエレベーター(以下「本件エレベーター」という)が設置されており、 Yは平成28年6月に翌年5月を期限とする本件エレベーターの保守契約をA社と締結した。
平成28年6月頃、Yは本物件を売却する方針とし、xx業者Bらに購入者の探索を依頼したところ、Bから本物件の紹介を受けた原告X(買主・個人)が関心を示し、XはBに本件エレベーターが油圧式かロープ式か照会するとともに、本物件の資料提供を求めた。同年9月、BはYの事務所を訪れ、Yから 本物件の各種資料の開示を受け、希望する資
料の写しの交付を受ける等をした。
同年10月31日、YとXは本物件について、
①売買金額: 1億2500万円、②売主の瑕疵担
保責任期間:引渡しから2年間、③本物件の設備等には、経年変化等による性能低下・汚れ等があることを買主は了承の上これを買い受ける、とした売買契約(以下「本契約」という)を、Bの媒介により締結し、同年12月に引渡しがなされた。なお、本契約締結までにXは本物件を内覧し、本件エレベーターにも乗ったが、その際は本件エレベーターに特段問題はなく、引渡し翌月の平成29年1月7日にX・X・Xらが本件エレベーターに乗ったときにも特に不具合等は見られなかった。平成29年1月下旬、XはA社に本件エレベ ーターの保守業務を依頼しようとしたとこ
ろ、大半の部品を更新する工事をしなければ、保守契約を締結できず、その工事には855万円を要する旨の返答があり、他の保守業者からも同様の回答を受けた。
同年2月にXから本件エレベーターの調査依頼を受けたBは、Yから平成28年6月と10月7日に実施した各定期点検報告書、A社から平成28年10月7日実施の法定点検報告書の写しを受領し、これらをXに交付した。なお、いずれの報告書にも「要是正(既存不適格)」の判定はあったが、その余は「指摘無」とされていた。
同年4月、XはYに本件エレベーターの補修工事費用の支払いを求めたが、Yは、本件エレベーターは、引渡時点では正常に作動しており、築年数からして相応の経年劣化は契約上想定されていた、としてこれを拒否した。
同年5月に本件エレベーターの着床時に異
音や振動が感じられ、床とずれて着床する事態が生じたため、Xは本件エレベーターの使用を停止し、その後本件エレベーターに瑕疵があった、もしくはYがその状況についての説明義務を怠ったとして、A社提示の更新工事費用相当額である855万円余の支払いをYに求める本訴を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を棄却した。
(Yの瑕疵担保責任の有無について)
①A社は、平成28年6月に翌年5月を期限とする本件エレベーターの保守契約締結に応じていること、②A社による同年6月と10月の各定期点検及び同年10月の法定点検において、「要是正(既存不適格)」の判定はあったが、その余は「指摘無」とされており、その後、定期検査報告済証も発行されていること、
③本契約締結前、及び引渡後の平成29年1月には、本件エレベーターは特段支障なく使用できていたこと、④エレベーターの適切な保守管理を前提とした計画耐用年数は25年とされているところ、本契約締結時点において、本件エレベーターは設置後27年以上を経過したものであったこと、からすれば、本契約締結時点において、本件エレベーターに相応の経年劣化は想定されていたと言える一方、使用につき特段の支障もなく、直ちに安全性を欠く状態だったとは認められず、本件エレベーターに「瑕疵」があったとは認められない。
(Yの説明義務違反の有無について) Yは、平成28年9月にBがYの事務所を訪
れた際、本件エレベーターの平成28年6月の定期点検報告書を含む本物件の各種資料を開示し、希望する資料の写し等の交付をしたと主張する。Yが、開示資料から当該定期点検報告書のみを除外する理由があったとは認め
難く、これが本契約締結までにXに提示されていなかったとしても、それはBの責任ないし判断と言える。また、平成28年10月の定期点検や法定点検の報告書については、本契約締結時点でYがこれを保持していたか明らかでない上、その内容も平成28年6月の定期点検報告書と同内容であることからすれば、これをBに開示していたYに説明義務違反は認められない。
3 まとめ
本判決を不服としたXは控訴したものの、これは棄却され、その後確定している。
本事例においては、買主は媒介業者の責任を追及していないが、売主から開示を受けた資料のうち重要なものについて、媒介業者が買主にこれを伝えなかった場合、本事例でも示されている通り、媒介業者がその責任を問われることもあり得ると考えられ、トラブル防止の観点からも、充分注意を払って対応する必要があろう。
一方、xx業者は建物や設備についての専門家ではないことから、中古建物の購入検討者は、建物状況調査等の利用も含め、慎重に対応することも必要であろう。
エレベーターの不具合について、媒介業者が説明を怠ったとする買主の請求が棄却された事例(東京地判 平30.2.28 RETIO116-118)や、築28年の建物のエレベーターについて、保守業者から「改善計画要」とされていたことは「瑕疵」にあたらないとされた事例(東京地判 平24.5.31 RETIO95-64)もみられることから、併せて参考にしていただきたい。
(調査研究部xx研究員)
最近の裁判例から
⑹−媒介業者の調査確認義務−
媒介業者には廃材等の埋設可能性について調査確認義務があるとした売主の損害賠償請求が棄却された事例
(東京地判 令元・8・9 ウエストロー・ジャパン) xx xx
売買土地の廃材等の地中埋設物の瑕疵により、買主に和解金を支払った売主が、媒介業者には、同土地に廃材等の埋設可能性について、売主又は同土地の廃棄物処理を行った業者に確認する義務があったとして損害賠償を求めた事案において、媒介業者に埋設物の存在を疑うべき事情はなかったとしてその請求を棄却した事例(東京地裁 令和元年8月9日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
売主X(原告)は、平成24年7月頃、廃棄物取引業者Aに対し、所有している土地(本件土地)上に建っていた樹脂工場及び事務所の解体並びにプラスチック廃材等の除去等を注文し、Aは解体、除去工事を行った。
媒介業者Y(被告:xx業者)は、平成27年1月頃、Xに対し、本件土地を売却する意思があるかどうかを確認し、Xは売却意思があると回答した。
Xは、不動産売買の媒介契約を締結したYを介し、本件土地の購入希望を示していた買主Bとの間で交渉を行った。
Xは、平成27年12月頃、Yから郵送された物件状況確認書について、同書面の「⑪土壌汚染の可能性」欄の、「敷地の住宅以外(店舗・工場等)の用途での使用履歴」との不動文字の下の、「知っている」のチェックボックスにチェックを入れ、その右横の「用途」の欄に「樹脂成型工場」と記載した。
また、同書面の「⑬敷地内残存物(旧建物
基礎・浄化槽・xxx)」欄には何も記載しなかった。
Xは、物件状況確認書をYに返送し、Yは Bに同書面をファックスした。
Xは、Bとの間で、平成28年1月、本件土地を売買代金940万円で売却する旨の売買契約(本契約)を締結し、Yに対し、媒介手数料36万円余を支払った。
Bは、平成28年5月、本件土地に大量のプラスチック廃材等が埋設されているのを発見した。
そこで、Bは、C地方裁判所に対し、Xを被告として、訴訟を提起し、上記プラスチック廃材等が本件土地の「隠れた瑕疵」に該当し、瑕疵担保責任に基づき本件売買契約を解除したとして、原状回復として売買代金940万円の返還を求めるとともに、Xが上記埋設物に関する説明義務を怠ったことが不法行為を構成するなどとして、不法行為又は瑕疵担保責任に基づき、損害賠償を請求した。
C地方裁判所は、平成30年1月、Bによる解除を認めるとともに、損害賠償請求について一部認容し、Xに合計1119万円余の支払を命じる旨の判決をした。
Xは控訴し、平成30年8月、本件売買契約が有効に存続し、本件土地の所有権がBに帰属していることを確認するとともに、XがBに対し和解金として500万円を支払う旨の裁判上の和解が成立したため、Xは、Bに対し、 500万円を支払った。
その後、Xは、和解金の支払は、Yが、同
土地にプラスチック廃材等が埋設されている可能性について、Xに確認し、又は同土地の廃棄物処理を行ったAに確認する義務を怠り、若しくはBにプラスチック廃材等が埋設されている可能性を伝える義務を怠ったからであると主張して、Yに対し、媒介契約の債務不履行に基づく損害賠償として、和解金として支払った500万円、Yに対して支払った媒介手数料36万円余及び弁護士費用80万円を求めて本訴を提起した。
これに対し、Yは、媒介を行う宅地建物取引業者は、埋設物の有無などの地下の状況に関し、売主への確認、現地確認により得た結果を買主に説明すれば足り、同確認の結果、何らかの異常や問題があったり、買主から特段の要請があったりする場合でない限り、それ以上の調査、補足説明等を行う義務はないなどと主張した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、XのYに対する請求を棄却した。
⑴ 媒介業者に売主等に埋設物の可能性の確認義務があったかについて
Xが本件土地からプラスチック等の廃材が完全に除去されたとは言っていなかったとしても、Yにおいて本件土地の埋設物はすべて除去されてすでにないと認識するのはやむを得ないというべきであって、さらに、Yが、 Xに対してプラスチック廃材等が埋設されている可能性を問い合わせて確認したり、Aに対して本件解体、除去工事の内容を確認したりする義務はない。
また、Yは、Xから本件土地の埋設物についてAに除去を依頼して埋設物がトラック1台半分出土したと聞かされていたこと、物件状況確認書の「⑬敷地内残存物(旧建物基礎・浄化槽・xxx)」の「状況」欄には何も記
載がなかったことからすると、本件土地に埋設物が存在していると疑うのは困難であって、XやAへの上記確認義務が生じるとはいえない。
⑵ 媒介業者が買主に埋設物の可能性の告知義務があったかについて
Yが、本件土地の埋設物はすべて除去されすでにないと認識するのはやむを得ないというべきであり、本件土地にはプラスチック廃材等が埋設されている可能性をBに告知する義務があったとは認められない。
⑶ 結論
よって、Xの請求は理由がないからこれを棄却する。
3 まとめ
媒介業者は、瑕疵を認識している場合、または、その存在を疑うべき事情があった場合には、依頼者に対して調査説明等を行う義務があるが、本件はその事情がなかったとして否定された事例である。
本件同様、媒介業者に調査説明義務はないとされた事例として(東京地判 平30・3・29、東京地判 平25・12・10、東京地判 平25・1・21いずれもウエストロージャパン)が、埋設物の存在が不明である場合に、重要事項説明にその旨を記載するまでの義務はないとされた事例として( 東京地判 平24・11・13 RETIO 95-66)が、売主に対し、地中埋設物の調査、売買契約に瑕疵担保責任を設ける等のアドバイスをする義務まではないとされた事例として(東京地判 平20・10・15 ウエストロー・ジャパン)があるので参考にされたい。
(調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑺−媒介業者の近隣住民に対する責任−
xx業法の善管注意義務の対象に取引関係に関与しない近隣住民は含まれないとされた事例
(東京地判 平31・1・21 ウエストロー・ジャパン) xx xx
売却物件の隣地所有者による、売主に対しては、売買対象地の樹木や建物の管理不備により損害が発生したとした損害賠償等請求、媒介業者に対しては、建築制限の設定要求が果たされなかったことによる慰謝料請求が棄却された事例(東京地裁 平成31年1月21日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
売主Y1(被告・個人)は媒介会社Y2(被告・xx業者)の媒介により、住宅用土地(本件土地)を平成30年3月、A社(不動産業者)に売却した。
売却前の手続として、同年1月又は2月頃、 Y2が隣地所有者に対し、境界の確認作業の立ち合いを依頼した。
同年2月、隣地所有者の子で同居している X(原告・個人)が立ち会った。
翌3月Xは、Y1・Y2と面会し、
①本件土地にかつて存在した樹木をY1が適切に伐採等しなかったことで害虫が発生し、通院することを余儀なくされた
②本件土地上に存在した家屋の屋根からの落雪によりX側敷地内に設置した目隠しのための波板等が損壊した
③同建物の屋根の上に複数の屋根瓦が放置され危険でX側建物の窓を開けられない
ことを説明し、本件土地の売却に当たっては、建築制限を入れて欲しい旨を主張した。しかし、Y1・Y2は、当該請求事項を反
映しなかった。
Xは、次の通りの支払いを求め本件を提訴した。
⑴ Y1に対する請求
前述①、②、③により、出費した修繕費や、いつ当該屋根瓦が飛来・落下してくるかもしれぬ危険性に、Xや同居するその母がさらされ続けたなどとし、民法709条又は717条に基づく損害の賠償として、実費分137万円と慰謝料33万円計170万円等。
⑵ Y2に対する請求 Y1との専任媒介契約に基づき、Xに対す
る説明義務や善管注意義務を負うところ、屋根瓦の危険性についての被害の状況等をY1に対して伝言するようにとの申入れや買主と新築建物に係る建築制限他の事項について合意させること等を違法に無視したなどとして、債務不履行ないし不法行為に基づく損害の賠償として、慰謝料130万円等。
Y1は、X主張の各不法行為の内容、Xに生じたとする被害の内容などの前提となる事実関係が立証されていないとし、Y2も、xx業法に違反するような業務は行なっていないとして、争った。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を全て棄却した。
(Y1のXに対する不法行為責任又は工作物責任の有無)
①樹木、②落雪については証拠不十分で具体的な事実関係を認めるに足らない。
③屋根瓦については、Xの主張する事実関係を前提とすれば、10年ほど前から屋根上に放置されていたことになる。Xは、平成27年 7月頃からX側建物に居住していたが、それ以前から、かかる屋根瓦が存在したとしても、 Xの何らかの法的利益が侵害されたとは評価し得ない。Xは以前から居住する母の身を案じざるを得ないなどとの支障があった旨主張したいのかもしれないが、その程度の危惧感は、法的保護に値するほどのものとはいえない。
またXが転居してきた時点で、かかる屋根瓦の存在から7、8年程度経過していたことになるが、社会通念上その間、台風や大雪などの荒天や地震等が少なからず生じていたと認められ、にもかかわらず、かかる屋根瓦が、動いて位置が変わったとか、実際に落下したことがあるというような事実は、Xも特に主張していない。すると、Xの主張する、放置された屋根瓦が落下や飛来することによって X側建物等に損害が生じ得るという危険性は、抽象的な危惧感の域を超えるものとはいいがたい。
よってXが屋根瓦の放置によって何がしかの不安感を抱いたとしても、法的保護に値するような利益の侵害があったとは認められず、Y1が、屋根瓦を屋根の上に放置したことが違法であるとはいえない。
(Y2のXに対する債務不履行責任又は不法行為責任の有無)
Xは、売買にかかる媒介契約に基づき、Y 2がXに対して善管注意義務や説明義務等を負う旨主張するが、同契約の当事者は、Y2とY1であるからY2がXに対して同契約上の債務を負担する根拠を見出すことはできない。なお、Xは、Y2にxx業法上の善管注意 義務等の違反がある旨も指摘するが、xx業法31条1項、35条1項及び47条に定められた善管注意義務や説明義務の対象に、当該宅地
建物の取引関係に関与していない、取引の目的となる宅地建物の近隣住民が含まれないことは、各条項の文言上明白である。
またXは、Y2が、Xによる申入れを無視して、買主との契約の合意内容に入れるべき項目を反映させなかったことが違法である旨主張するものと思われる。しかしながら、Xが、Y2に対し、Y1への伝言を依頼したとの点については、Xの提出した証拠によっても明らかではない上、仮に、Y2がY1に対してXの言い分を伝言する旨約してXとの間に合意が形成されたとしても、法的拘束力を認め得る何らかの契約が成立したと評価することのできるものとまでは認められず、Y2がかかる合意を反故にして、Xの期待が裏切られたとしても、受忍限度の範囲内というべきであるから、Xの何らかの権利が侵害されたと評価することはできない。
以上のとおり、Xの請求はいずれも理由がないから棄却する。
3 まとめ
本件は、居住用物件の売買取引の際の近隣住民とのトラブルである。判決では、代理人弁護士をたてずに本人訴訟を起こした近隣住民の主張する売主や媒介業者の不法行為等が認められなかった。
現実的に、隣地と何らかのトラブルを抱えているケースは少なくない。媒介業者としては、スムーズに取引を完結させるためには、隣地所有者とも良好な関係を保っていくことが望ましいが、過度に要求された場合には、xx業法上の善管注意義務や説明義務の対象に近隣住民は含まれないと判示された本件は、裁判においても判断されたことから、参考になると考えられるため紹介する。
(調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑻−報酬支払請求−
隣地建物越境に関し誤った説明をしたとして媒介手数料を支払わない買主への媒介業者の支払請求が認容された事例
(東京地判 令元・6・25 ウエストロー・ジャパン) xx x
媒介手数料の支払いを求めた媒介業者に対し、買主が、隣地建物の越境に関して事実に反する説明をしたとして、媒介業者の債務不履行に基づく損害賠償請求権をもって、媒介手数料との相殺を主張した事案において、媒介業者が、軒以外に越境していない旨を説明した事実は推認できないとして、媒介業者の請求を認容した事案。(東京地裁 令和元年6月25日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成29年9月中旬、xx業者Y(被告)は、 Aが所有する土地(本件各不動産)の購入を希望して、媒介業者X(原告)の営業センターを訪れた。
その際、Xは、Yに対して、本件各不動産は境界確定の問題があり、筆界特定手続きが必要な場合、時間がかかるため、現状有姿・公簿売買とするのが売買の条件となる旨、南東側隣地の建物の一部が越境している可能性がある旨、第三者の給水管が本件各不動産に越境している旨などを説明した。
同月21日、Yは、Xに対し、A宛てに、
・本件各不動産に隣接する境界については、現況有姿とし境界非明示にて買い受ける。
・本件各不動産の越境物があることを確認し、現況にて引き受けるものとする。等の記載をした買付申込書を送付した
同年10月5日、Yは、Xと媒介契約を締結し、媒介手数料427万円余を残金決済日に支払う旨約した。また、同日、Yは、Aとの間
で本件各不動産を、売買代金1億3000万円、手付金650万円、同年12月22日決済とする売買契約を締結した。なお、契約書面には、次の特約等が付されていた。
①Yは、東南側隣接地から建物の一部及び万年塀の越境があることを確認の上、買い受けるものとする。
②Yは、Aが境界標を明示せず、かつ、境界標がない場合でも新たに境界標を設置しないことを確認の上、買い受けるものとする。
③引渡し後、境界について紛争が生じてもAは一切の責任を負わず、Yの責任と負担において処理解決するものとする。
また、契約時、Aの代理人から、Yに対し、越境の場所・状況欄に越境があり、「南側の軒」と記載された物件状況等報告書(報告書)が交付された。
同年12月13日、隣地所有者の立会はなされずに図面(本件図面)が、作成された。なお、同図面には、東南側との隣地の境界を示すコンクリート杭の上に南東側隣地の建物が建っている旨の記載があった。
同月22日、AとYとは、決済日を翌年1月 25日に変更する旨合意し、更に同月24日、① AとYは、売買代金を115万円減額する。② Aは、本件各不動産のすべての境界について瑕疵担保責任を一切負わず、Yは、本件各不動産の境界に関し、今後、Aに何ら異議を述べず、何らの請求もしないという内容の変更合意書を交わした後、同月25日、YとAは残金決済を行い、売買契約は完了した。
その後、Yが媒介手数料を支払わないため、 Xは、その支払いを求め提訴した。
Yは隣地建物越境について誤った説明による損害賠償請求権と、Xの請求債権とを相当額で相殺すると主張した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Xの請求を認容した。
Yは、Xが、本件各不動産について、東南側の隣地の建物が、本件図面の斜線部分で越境しているにもかかわらず、同建物部分は軒以外に越境していないと事実に反する説明を行ったなどと主張する。
認定事実等によると、報告書の越境の場所・状況欄に「南側の軒」と記載があることが認められることから、Xが、Yに対し、南東側の隣家の建物の軒が越境していると話した可能性があることを指摘することができる。また、南東側との隣地の境界を示すコンク リート杭の上に南東側隣地の建物が建っていることや、契約締結後、売買代金が115万円
減額されたことが認められ、売買契約締結後、 AとYとの間で、本件各不動産の南東側の隣地の建物の越境に関して問題となり、同問題を契機として、売買契約の代金が減額された可能性を指摘することができる。
これに対し、Yは、Xに、本件各不動産の東南側の隣地上の建物の軒が一部越境しているものの、建物自体は越境していないと説明したことはないと否認している。
買付証明書での記載や契約書面での、①Yは、東南側隣接地から建物の一部及び万年塀の越境があることを確認の上、買い受ける。
②Yは、境界標を明示せず、かつ、境界標がない場合でも新たに境界標を設置しないことを確認の上、買い受ける。③引渡後、境界について紛争が生じても、Aは一切の責任を負
わず、Yの責任と負担において処理解決するものとする旨の記載によると、本件各不動産の境界確定の問題は、東南側を含む全方位の可能性があり、東南側の隣地の建物が本件図面の斜線部分で越境しているかについては明らかではない。
また、東南側の隣家の建物の越境に関して、買付証明書、売買契約書に、越境が軒先に限る旨、あるいは建物が越境していない旨の記載はないことを指摘することができる。
そうすると、本件各不動産について、Yが主張する東南側の隣地の建物が、本件図面の斜線部分で越境している事実、Xが、Yに対し、東南側の隣地の建物部分は軒以外に越境していない旨を説明した事実を推認することはできず、他にY主張の各事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、Yの相殺の抗弁は理由がなく、 XのYに対する媒介報酬427万円余の支払いを求める請求は理由がある。
3 まとめ
売買対象不動産の境界確定がされておらず、また、確定することが困難な場合、媒介業者は、現況の越境等の状況を説明するため、図面を作成し、買主に説明することが多い。
本件でも、媒介業者は、買主に本件図面を渡したと考えられるが、買主は同図面を自らの主張の根拠の一つにしており、媒介業者は、図面を買主に作成、交付するときは、重要事項説明書、契約書、売主が作成する物件状況等報告書等の記載内容との間で誤解が生じぬようにすることが重要と言えよう。
(調査研究部調査役)
最近の裁判例から
⑼−xxxxとxxx−
取引対象地の山林はxx業法上の宅地ではないとして、保証協会に対する弁済の認証請求が棄却された事例
(東京地判 平30・11・30 ウエストロー・ジャパン) xx xx
xx業者のxx商法により山林を購入させられた買主が、当該xx業者を社員とする宅地建物取引業保証協会に対して、弁済業務保証金から弁済を受ける権利の認証を求めた事案において、取引の対象となった山林は宅地建物取引業法の「宅地」に該当しないとして、その請求が棄却された事例(東京地裁 平成 30年11月30日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成27年7月27日、Ⅹ(原告 個人)は、 A(xx業者)に自宅を訪問され、不適正なxx販売業者との取引が不調になった場合に備えて保険を契約するように勧められた。
同年7月28日、Ⅹは、自宅近くの喫茶店で Aと会い、栃木県の山林(本件土地)を目的とする売買契約書に署名・押印をしたが、本件契約が土地の売買契約であるとの説明は受けておらず、契約内容の確認もしなかった。
同年7月29日、xは、Aに90万円を支払い、同年8月7日、本件土地について、AからⅩに所有権移転登記がなされた。
同年8月13日、Ⅹの娘がⅩの自宅で本件契約書を発見し、本件被害が発覚した。
平成28年2月、Ⅹは、Y(被告 宅地建物取引業保証協会)に対し、Aとの取引により生じた債権額90万円の弁済を受けるため、xx業法64条の8第2項に基づく認証の申し出を行ったが、本件土地はxx業法上の宅地ではないから、宅地建物取引により生じた債権とは認められないとして認証を拒否されたこ
とから、本件訴訟を提起した。
xは、Aに対しては、平成28年3月、本件契約を詐欺を理由に取り消したと主張して、本件土地について、Ⅹへの所有権移転登記の抹消を請求する訴訟を提起した。Aは、裁判所の呼び出しを受けながら、口頭弁論にも出頭せず、準備書面も提出しなかったため、請求原因事実を自白したものとして、前記請求を認容する判決を言い渡され、確定した。
なお、Aは、平成27年1月に設立され、同年3月にYの社員資格を取得したが、平成28年7月に株主総会決議により解散し、同年9月に廃業により社員資格を喪失、同年11月に精算完了した。
2 判決の要旨
裁判所は、次の通り判示し、ⅩのYに対する請求を棄却した。
(本件土地が「宅地」に該当するか)
本件契約が、xx業法64条の8第1項所定の宅地建物取引業に関する取引に該当するというためには、本件土地がxx業法2条1号に定められた「宅地」(建物に敷地に供される土地)に該当することを要する。
ここにいう「建物の敷地に供せられる土地」とは、現に建物の敷地に供せられている土地に限らず、広く建物の敷地に供する目的で取引の対象とされた土地(宅地予定地や宅地見込地)を指し、その地目や現況のいかんを問わないものと解される(最一判昭46.6.17)。そして、土地が建物の敷地に供する目的で取
引の対象とされたか否かは、取引当事者の主観的な目的のほか、取引の目的物である土地の周辺の状況、土地の区画割の有無、区画街路や電気・ガス・上下水道の施設の有無、分譲価格等から総合的、客観的に判断するべきである。
これを本件についてみると、①本件土地の地目及び現況は山林であり、本件土地は、現に建物の敷地に供せられている土地ではないこと、②本件土地の隣地については、道路と思われる土地に沿って区画割がされているとみる余地はあるものの、隣地のいずれも、現に建物の敷地に供せられてはいないこと、③本件土地は、道路と思われる土地に接していない袋地であり、建物を建築することができない土地であること(建築基準法43条)、④本件土地は、他の土地を経由することなく上下水道、電気、ガス等を引き込むことができない状態であることが認められる。
以上の本件土地及びその周辺の客観的状況に照らし、本件土地は、現に建物の敷地に供せられている土地ではないし、また、直ちに建物の敷地に供する目的で取引の対象とされ得る土地であるとも認められない。
他方、認定事実によれば、本件契約書等には、本件契約が宅地建物取引であることを前提とした記載が複数あることは否定できない。
しかしながら、xは、本件契約締結当時、本件契約書等の内容について説明を受けておらず、自らも本件契約書等の内容を確認しておらず、本件契約が土地の売買契約であること自体の認識を欠いており、本件契約を「悪質不動産業者に騙されたときの保険」であるとの認識の下、本件契約書等に署名・押印をした事実が認められる。したがって、Ⅹには、本件契約が土地の売買契約であるという認識自体なかったのであるから、本件土地を建物
の敷地に供する目的もなかったことが認められる。一方、売主であるAにおいても、Ⅹに対し、本件土地が建物の敷地に供し得る土地であることを前提とした勧誘を行った形跡はない。
そうすると、本件契約の当事者の主観的な目的においても、本件土地を建物の敷地に供する目的で取引の対象としていたとは認められず、本件土地が「宅地」に該当するとはいえない。
(結論)
以上によれば、本件契約の目的物である本件土地が「宅地」(xx業法2条1号)に該当するとは認められない以上、本件契約がxx業法64条の8第1項所定の宅地建物取引業に関する取引に該当するとは認められないから、Ⅹは、Yに対し、Aに対する不当利得返還請求権について、認証を請求することはできない。
3 まとめ
xxxxの取引が、xx業法に定める宅地の取引に該当するか否かについて、最一判
昭46.6.17の判断を示し、取引対象地の現況、将来利用等の客観的判断と、取引当事者の取引目的等の主観的状況の両面を検討して、該当しないと判断した本件判決は、実務の参考になると思われる。
本件同様、取引の目的等の主観的状況、取引対象地の客観的状況を総合勘案して、売買された山林の取引が、xx業法上の宅地の取引に該当しないとされた事例として(東京地判 H24.11.26 RETIO90-132) もあるので参
考にしていただきたい。
(調査研究部調査役)