Contract
(第7回)第三者のためにする契約(その1)
明治学院大学名誉教授
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◼ 今回の講義「第三者のためにする契約」は,今回の講義の中で,もっとも難解なテーマです。
◼ 皆さんに「分かりましたか?」と聞いても,頼りない答えしか返ってこないことが予想されるため,以下の方法で,皆さんが分からないと感じた点を明らかにして,理解を深める方法を採用します。
◼ 受講者をランダムに3人ずつ,4つのグループに編成します。復習の後,本題の講義が終わったら,
10分間,講義を聴いてわからなかった点をグループで討議し,その結果を報告してもらいます。
◼ 10分はすぐに過ぎます。以下の順序で要領よくグループ討議をしてください。
1. 4つのブレイクアウトルームに入ったら,簡単に自己紹介をしましょう(3分以内)。
2. 10分後に,そのグループの代表者が講義を聴いてわからなかった点を報告しなければなりません。その代表者を決て下さい。毎回,代表者は変わるので,自発的にでも,じゃんけんでもよいので,代表者を決めて下さい。(1分以内)
3. 講義を聴いてわからなかった点をみんなで話し合ってください。代表者がそれをメモして下さい(2分×3(人)=6分)。
4. 10分後に終了の合図をしますので,皆さん,メインルームに戻ってください。
◼ 各グループの報告を受けて,講師がそれらの質問について,コメントを行います(5分)。
◼ 危険負担とは何か。
◼ 危険負担における債務者と債権者とは何を基準にして決まるのか。
◼ 危険負担と解除とはどのような関係にあるのか。
◼ 民法の場合も,双務契約における二つの請求権には,牽連性が認めら れ,履行上の牽連関係,存続上の牽連関係があるとされている。
◼ 履行上の牽連関係
◼ 第533条(同時履行の抗弁)
◼ 双務契約の当事者の一方は,相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠
償の債務の履行を含む。)を提供するまでは,自己の債務の履行を拒むことができる。ただし,相手方の債務が弁済期にないときは,この限りでない。
◼ 存続上の牽連関係
◼ 第536条(危険負担債務者の危険負担等)
◼ ①当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むことができる。
◼ ② 債権者の責めに帰すべき事由によって 債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むことがで きない。この場合において,債務者は,自己の債務を免れたことによって利益を得たとき は,これを債権者に償還しなければならない。
引渡債権
売主
(債務者)
買主
(債権者)
代金債権
双務契約
021/5/26
要 件
◼ 危険負担とは,
◼ 双務契約の目的物が債務者(売主)の責めに帰すべき事由なしに損傷・滅失し,それによって,
◼ 債務者の債務が消滅した場合に,それにもかかわらず,
◼ 債権者(買主)は,反対給付(代金の支払)を履行しなければならないのか,という問題のことである。
効 果
◼ 危険負担の効果
◼ 原則(債務者主義)
◼ 目的物に関する本来の債務が消滅すれば,反対給付(代金支払債務)も消滅する(双務契約の存続上の牽連関係)
◼ 例外(債権者主義)
◼ 債権者に帰責事由がある場合には,
◼ 目的物に関する本来の債務が消滅しても,反対給付(代金支払債務)は,消滅せず,存続する。
◼ 第536条(債務者の危険負担等)
◼ ①〔原則〕当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むことができる。
◼ ②〔例外〕債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなく なったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むことができない。この場合において,債務者は,自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,これを債権者に償還しなければならない。
◼ 第422条の2(代償請求権)←債権法改正による新設条文
◼ 債務者が,その債務の履行が不能となったのと同一の原因〔牽連性のある事由〕により債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは,債権者は,その受けた損害の額の限度において〔不当利得の常套文言〕,債務者に対し,その権利の移転又はその利益の償還を請求することができる。
従来の法理
◼ 債務者に帰責事由がない場合には,解除はできない。このため,危険負担だけが問題となった。
◼ 危険負担の問題になる場合には,以下の結果が生じる。
◼ 債務者にも債権者にも帰責事由がない場合,契約は自動的に消滅する。
◼ 債務者には帰責事由がないが,債権者に帰責事由がある場合,契約は存続し,代金債務は消滅しない。
◼ 債務者に帰責事由がある場合には,債務不履行の問題となり,危険負担の問題は生じない。解除だけが契約の終了原因となる。
債権法改正による転換
◼ 債務者に帰責事由がない場合でも,契約目的が達成できない場合には,解除が可能となった。
◼ このため,意思表示(解除)による契約の終了と,事件(不能)による契約の終了が競合することになった。
◼ 不能は不確定概念で証明も困難なため,世界的には,解除だけで問題を解決するという方向に向かっている。
◼ 第三者のためにする契約とは何か
◼ 要約者,諾約者,受益者の間の三面関係はどのようになっているのか
◼ 第三者のためにする契約が契約総論に置かれているのはなぜか
◼ 債務者に帰責事由あり…解除(意思表示)による契約の終了
◼ 第三者のためにする契約の典型例はどのような契約か
-民法典上の位置づけ-
契約
総則
総論
物権
債権
契約
総論
民法 債権
債権
…
契約の成立
契約の効力
契約の解除
贈与契約
同時履行の抗弁権
危険負担
537条
内容
538条
確定時期
539条
債務者の抗弁
各論
親族 契約
不法 各論
行為
相続
…
和解契約
◆ 典型契約と「第三者のためにする契約」とはどのような関係にあるのだろうか?
債権譲渡(民法466条以下)と 債務引受(民法470条以下)の区別
債権譲渡(始点が移動)
(債権者の交替ともいえる)
債務引受(終点が移動)
(債務者の交替ともいえる)
債権者
(譲受人)
債権
債権者
(譲渡人)
債
権
債務者
債権者
債権
債務者
債
権
第三
債務者
第三者のためにする契約の条文の理解
◼ 民法537条(第三者のためにする契約の当事者と構造)
◼ 民法538条(第三者の権利の確定・不可変更)
◼ 民法539条(債務者の抗弁の受益者に対する対抗力)
◼ 契約当事者の一方(諾約者)が,第三者(受益者)に対して直接債務を負担することを契約の相手方(要約者)に約束する契約(民法537条~ 539条)。
◼ 典型例
◼ 原因(対価)関係
◼ 売主が,
その債権者に負って
売主の債権者
(受益者)
対価関係債権
当事者売主
(要約者)売
売
補償関係
買
いる債務を弁済するため,
◼ 当事者
◼ 売主(要約者)と買主(諾約シャ)間の約束で,
◼ 効果
◼ 売買代金を買主から売主の債
権者(受益者)に直接支払わせることができる。
買代
代
金
抗 金
弁 債債権権
当事者買主
第三者のためにする契約
(諾約者)
◆ 典型例の場合というのは,実は,売主の債権者と売主とが当事者となって,債権の弁済に代えて,売買代金債権を売主の債権者に譲渡すればよい事例である。そうだとすると…
◆ 「第三者のためにする契約」をする必要は あるのか?
◼ 債権譲渡の場合
売主の債権者
(受益者)
対価関係債権
当事者売主
補償関係
(要約者)売
には,売主の債権者と売主との合意によらなければならない。しかし,
◼ 第三者のためにする契約の場合には,売主と買主
◆ 誰が当事者になるかは,実は,大きな
買
代
抗 金
弁 債
権
当事者買主
第三者のためにする契約
の合意でよい。
問題である。
(諾約者)
対価関係
第三者
(受益者)
他方当事者
(要約者)
第三
者のためにする契約
◆ 直接請求権
の発生を結果と考えよう。
◆ 結果を生じさせる2つの原因とは何か?
(補償
関係)
一方当事者
(諾約者)
◼ 第537条(第三者のためにする契約)
① 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは,その第三者は,債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
② 前項の契約は,その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても,そのためにその効力を妨げられない。
③ 前項の場合において,第三者の権利は,その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
対価関係
受益者
(債権者)
要約者
第三
者のためにする契約
(補償
関係)
諾約者
(債務者)
◼ 第538条(第三者の権利の確定)
◼ ①前条の規定により第三者の権利が発生した後は,当事者は,これを変更し,又は消滅させることができない。
◼ ②前条の規定により第三者の権利が発生した後に,債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には,同条第 1項の契約の相手方は,その第三者の承諾を得なければ,契約を解除することができない。
◼ 第539条
民法539条の理解
対価関係
受益者
要約者
(債務者の抗弁)
◼ 債務者は,第537条第1項の契約に基づく抗弁をもって,その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。
(債権者)
第三者のためにする契約
(補償
◆ 第三者のためにする契約と,更改との違いは,諾約者が受益者に対して抗弁を有するということである。
◆ 諾約者が受益者に対して有する抗弁とは,要約者に対して有した抗弁とされている。
関係)
抗弁
諾約者
(債務者)
◼ 今回の講義「第三者のためにする契約」は,今回の講義の中で,もっとも難解なテーマです。
◼ 皆さんに「分かりましたか?」と聞いても,頼りない答えしか返ってこないことが予想されるため,以下の方法で,皆さんが分からないと感じた点を明らかにして,理解を深める方法を採用します。
◼ 受講者をランダムに3人ずつ,4つのグループに編成します。これから10分間,講義を聴いてわからなかった点をそれぞれのグループで討議し,その結果を報告してください。
◼ 10分はすぐに過ぎます。以下の順序で要領よくグループ討議をしてください。
1. ブレイクアウトルームに入ったら,簡単に自己紹介をしましょう(3分以内)。
2. 10分後に,そのグループの代表者がわからなかった点を報告しなければなりません。その代表者を決て下さい。毎回,代表者は変わるので,自発的にでも,じゃんけんでもよいので,代表者を決めて下さい。(1分以内)
3. 講義を聴いてわからなかった点をみんなで話し合ってください。代表者がそれをメモして下さい(2分×3(人)=6分)。
4. 10分後に終了の合図をしますので,皆さん,メインルームに戻ってください。
◼ 各グループの報告を受けて,講師がそれらの質問について,コメントを行います(5分)。
◼ 第三者のためにする契約の適用領域
◼ 典型例としての生命保険契約
◼ 典型例としての責任保険(自賠責保険)契約
民法,特別法,判例の適用可能領域
責任
保険
(保険法8条)
生命
保険(保険法42条)
受益権の取得(信託法88 条)
運送 契約(商法583条)
第三者のためにする契約
(民法537条~539条)
供託
(民法494条~498条)
保険法
信託法
商法
債務引受
(大判大 6・11・1民録23輯 1715頁)
契約上の地位の譲渡(最二判昭46・ 4・23民集
25巻3号
388頁)
電信送金
(最一判昭43・12・ 5民集22巻13号 2876頁)
銀行振込
(大判昭 9・5・25民集13巻829
頁)
民法
特別法
判例法
◼ 保険法 第42条
(第三者のためにする生命保険契約)
◼ 保険金受取人が生命保険契約の当事者以外の者であるときは,当該保険金受取人は,当然に当該生命保険契約の利益を享受する。
受益者
(保険金受取人)
対価関係
要約者
(被保険者)
生命保険契約
(補償関係)
◆ ここでのポイントは,第三者のためにする契
約としての生命保険契約の場合,受益者による受益の意思表示は必要がないことである。
◆ 一般の第三者のためにする契約においても,事情によっては,受益の意思表示を必要としない場合がありうる点に注意すべきである。
抗弁
諾約者
(保険者)
受益者
(被害者
損害賠償請求権
対価関係
要約者
(加害者被保険者)
責任
保険契約
(補償
関係)
抗
弁
諾約者
(保険会社)
◼ 自賠法 第16条(保険会社に対する損害賠償額の請求)
◼ ①第三条(自動車損害賠償責任)の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは,被害者は,政令で定めるところにより,保険会社に対し,保険金額の限度において,損害賠償の支払いをなすべきことを請求することができる。
◼ 今回の講義「第三者のためにする契約」は,今回の講義の中で,もっとも難解なテーマです。
◼ 皆さんに「分かりましたか?」と聞いても,頼りない答えしか返ってこないことが予想されるため,以下の方法で,皆さんが分からないと感じた点を明らかにして,理解を深める方法を採用しま す。
◼ 受講者をランダムに3人ずつ,4つのグループに編成します。これから10分間,講義を聴いてわからなかった点をそれぞれのグループで討議し,その結果を報告してください。
◼ 10分はすぐに過ぎます。以下の順序で要領よくグループ討議をしてください。
1. 10分後に,そのグループの代表者がわからなかった点を報告しなければなりません。その代表者を決て下さい。毎回,代表者は変わるので,自発的にでも,じゃんけんでもよいので,代表者を決めて下さい。(1分以内)
2. 講義を聴いてわからなかった点をみんなで話し合ってください。代表者がそれをメモして下さい(2分×3(人)=6分)。
3. 10分後に終了の合図をしますので,皆さん,メインルームに戻ってください。
◼ 各グループの報告を受けて,講師がそれらの質問について,コメントを行います(5分)。
第三者のためにする契約(その2)
「第三者のためにする契約を使った債権譲渡と債務引受」です。
◼ 民法466条~469条(改正)の「債権譲渡」
◼ 民法470条~472条(新設)の2の「債務引受」
◼ 民法539条の2(新設)の「契約上の地位の移転」の予習をしておいてください。