Contract
4-8 保険加入義務(維持・管理・運営段階)
1.概要
・選定事業者が、自らの費用負担において自らが加入する、若しくは、コンソーシアム構成企業又は受託・請負企業等に加入させる義務を負う保険の種類及び内容について規定される。
2.趣旨
・近年、火災保険、地震保険に加え、天候保険等が商品化され、保険・金融技術の向上や 市場の整備等に伴ってリスクを軽減することが可能な範囲が広がっていることから、適宜、当該時点でのリスク軽減措置について幅広く検討(リスクガイドライン6(1)参考③)し、xxにかかる費用を勘案しても契約の両当事者が負うリスクを除去するために保険に 加入することに合理性があると判断できる場合には、選定事業者に当該保険の加入を義務 付ける必要がある。
3.加入すべき保険の種類及び内容
・選定事業者に加入を義務付ける保険は事業内容、事業場所等により異なるものの、通例、完工後も選定事業者が施設を所有するBOT方式の選定事業については、火災保険等の施設の物件保全に関するxxを義務付けることが通例である。
・管理者等が、入札説明書等において選定事業者がxxすべき保険の内容等を提示し、これ以外の保険のxxを民間事業者から提案させる場合がある。この場合、管理者等は選定事業者が自ら提案した保険についても加入を義務付けなければならないことに留意が必要である。
・選定事業者がxxすべき保険の種類とそれぞれの保険内容(保険対象、被保険者名、保険期間、填補限度額等)について、PFI事業契約書に規定される。保険の種類は各民間保険会社により名称が様々であり、また、新たな保険商品の開発も想定されることから、特定の保険商品の名称を規定するのではなく、選定事業者が様々な保険商品のなかからxx目的に照らして最適な商品を選択できるよう規定を工夫することが望ましい。
・BTO方式の選定事業においては、施設が管理者等に引渡された後、その施設には火災保険がxxされないか、若しくは、管理者等を被保険者とした共済又は民間保険会社の火災保険等に加入する措置を講じられる。民間保険会社の火災保険普通保険約款や店舗総合保険普通保険約款等に従った火災保険契約には求償権不行使条項が用意されていることから、選定事業者(借家人)の帰責事由によって失火等が生じた場合にも、民間保険会社から選定事業者に対し求償権は行使されない。但し、選定事業者の故意又は重大な過失による場合はこの限りではない。
・BOT方式の選定事業において、維持・管理、運営期間中、施設について火災保険がxxされ、実際に保険事故が発生した場合、その保険金の扱いについて留意を要する。この保険金請求権については、融資金融機関等が担保権を設定することが通例である。融資金融機関等は、火災により施設の重要な部分が損壊した場合、選定事業が終了したものとみなして、この保険金を融資の弁済に充当したいと要請し、他方、この保険金を施設の復旧に充て、公共サービス提供の継続を図ろうとする管理者等の要請と対立することが想定されることから、直接協定においてこの対応を明記することが望ましい。
4.xxの義務付けの可否
・選定事業者にxxを義務づける保険については、一般に民間保険会社による対応が可能とされている火災、暴風雨、洪水については、リスクを選定事業者に負わせることが適切な場合が多いと考えられる。しかし、対応が制約的とされている地震、噴火、津波、テロ行為及び対応が困難とされている戦争、内乱、放射能汚染については、リスクを選定事業者に負わせることは、選定事業者の倒産リスクを増加させ資金調達を困難にするおそれを高めることになる。なお、xxが可能である場合であっても、選定事業固有のリスク等によって保険料が著しく高くなる場合には、選定事業者へのxxの義務付けは結果的に事業費用の増加を招き、ひいては契約金額に転嫁される結果ともなり得ることにも配慮する必要がある。
5.xx手続き
・選定事業者が保険加入義務を履行していることを確認するため、選定事業者は保険契約の内容について管理者等の確認を受けてから保険に加入し、その保険証券の写しを管理者等に提出することとされる。
・また、維持・管理、運営業務の履行保証保険契約については、現在の我が国の保険市場においては、契約期間が一年間とされることが通例である。保険契約期間がxxに必要な期間よりも短い場合、その保険契約期間を踏まえた保険契約の更新と、その更新ごとに管理者等に保険証券の写しを提出させることを選定事業者に義務付ける規定を設ける必要がある。また、更新に際し保険料が値上げされた場合の増加費用の負担についての検討が必要である。
6.コンソーシアム構成企業、受託・請負企業等第三者のxx
・また、PFI事業ではコンソーシアム構成企業、受託・請負企業及び下請企業等選定事業者から業務を受託し又は請け負った第三者の責めに帰すべき事由は、すべて選定事業者の責めに帰すべき事由とみなして、選定事業者が責任を負うことから、原則として選定事業者がxxする旨規定することが望ましい。但し、選定事業者が維持・管理、運営業務を受託・請負企業等第三者に一括発注する場合等においては、この限りではなく、
受託・請負企業等第三者がxxする旨規定される場合もある。
・選定事業者の受託・請負企業等第三者がxxする旨規定した場合、複数の受託・請負企業等第三者がそれぞれxxすることもあり、補償内容が十分ではないものとなるおそれや、損害発生時の調査を複数の保険会社が実施することによる処理の煩雑化等が生じることもありえる。このため、事業内容が複雑又は運営業務の比重の重い選定事業などにおいて、受託・請負企業等が複数になることがあらかじめ想定される選定事業については、選定事業者がxxする旨規定することが望ましい。
7.条文例
(本件病院施設完成後の保険)
第 63 条 乙は、運営期間開始日から運営期間終了日まで、自己の責任及び費用において、別紙7に定める保険に加入し、又は運営等協力企業等をして加入させるものとする。
2 乙は、前項の規定により自ら保険契約を締結し、又は運営等協力企業等をして保険契約を締結させたときは、保険契約締結後速やかにその保険証券の写しを甲に提出しなければならない。
別紙7 乙が加入すべき保険
第1 施設整備業務に係る保険(略)第2 運営業務等に係る保険
(1) 保険種類
第三者賠償責任保険(又は類似の機能を有する共済等を含む。以下同じ。)
(2) 保険内容・目的
本件病院施設等の使用、管理の欠陥に起因して派生した第三者(甲の職員、患者、来訪者、通行者、近隣住民その他の第三者)に対する乙又は運営等協力企業等(利便施設の運営を直接実施している協力企業を含む。)の負う対人及び対物賠償損害を担保する。
(3) xx条件
① 担保範囲は、本件病院施設等を対象とする。
② 保険期間は、運営業務開始日から事業契約終了日までとする。なお、1年程度の期間ごとに契約更新を行う条件でも良いものとする。
③ 保険契約者は、乙又は運営等協力企業等とする。
④ 被保険者は、甲、乙、運営等協力企業等及びそれらの使用する一切の第三者とする。
⑤ 保険金額は、対人にあっては1名当たり1億円以上及び1事故当たり5億円以上とし、対物にあっては1事故当たり5億円以上とする。
第3 前記各保険以外の保険
前記各保険以外に、事業者提案において乙によりxxすることとされた保険については、事業者提案に定めるところによりxxするものとし、変更する必要が生じたときは、あらかじめ甲と協議しなければならない。
なお、乙が当該保険をxxしたときは、その証券又はこれに代わるものを、直ちに甲に提示しなければならない
第5章 モニタリングの実施
問題点、課題の整理を入れる。
WG で議論した成果物を入れる。
1.問題状況
2.対処に関わる基本的な考え方
3.具体的な規定の内容
4.留意点
5.条文例
第6章 サービスの対価
問題点、課題の整理を入れる(サービス対価の改定に関する問題意識を入れる)
6-1 「サービス対価」の支払
1. 概要
・管理者等は、選定事業者に対して、PFI事業契約、入札説明書等及び入札参加者提案に従った施設の設計、建設工事、維持・管理及び運営の業務の実施により、要求された水準(内容・質)の公共サービスを提供する対価として一定の金額(「サービス対価」という。)を支払う義務を負う旨規定される。(関連:1-6 規定の適用関係)
2.事業費回収方法によるPFI事業の分類
・PFI事業の運営方法としては、一般的に、①最終利用者からの利用料をもとに選定事業を実施する方法、②選定事業者が最終利用者から利用料を徴収できない場合等に、選定事業者が施設を使用し提供する公共サービス(施設の設計、建設、維持・管理、運営業務)に対する対価として管理者等が支払う「サービス対価」をもとに選定事業を実施する方法、③両者の混合形態である方法に分類しうる。
②又は③の方法により選定事業を実施する場合に、「サービス対価」の構成、支払額、支払方法、減額方法、改定方法等について規定される必要がある。
3.関係法令の規定
・基本方針において、「選定事業者により提供されるサービスの内容と質、サービス水準の測定と評価方法、料金及び算定方法等、協定等の当事者双方の負う債務の詳細並びにその履行方法に加えて、当事者が協定等の規定に違反した場合に、選定事業の修復に必要な適切かつ合理的な措置、債務不履行の治癒及び当事者の救済措置等を規定すること」と定められている。
・また、予決令においても契約代金の支払又は受領の時期及び方法を契約書に記載すること(予決令第100条第1項第2号)とされている。
・支払遅延防止法においても同趣旨の規定がなされている(支払遅延防止法第4条第2号)
10。
10 地方公共団体が管理者等となる場合は、当該規定は支払遅延防止法第14条の規定により準用される。
4.「サービス対価」の考え方
・「サービス対価」の考え方を例示すると以下のとおり。(参考:モニタリングに関するガイドライン)
1)公共サービスの提供に必要な建設工事費と、維持・管理費及び運営費とを不可分の
「サービス対価」とする考え方。
2)「サービス対価」のうち、選定事業者が負担する各費用項目(建設工事費、支払利息、維持・管理費及び運営費等)に相当する額をそれぞれ支払うとする考え方。
・なお、「サービス対価」の支払額は、計算式により示されることが多く、この場合、その詳細はPFI事業契約書の別紙に記載されることが多い。
5.支払手続き
・上述のとおり、「サービス対価」の支払い対象期間については、3ヶ月間(年4回払い)又は半年間(年2回払い)と規定されることが通例である。
・各期ごとの「サービス対価」の支払いについては、①「サービス対価」の支払い対象期間に係る管理者等による選定事業者の業務履行状況の確認及びその通知、②あらかじめ定められた不履行・欠落等の場合の減額措置の適用と確定及びその通知、③疑義のある場合の協議、④管理者等からの通知に基づき算出した「サービス対価」の支払い対象期間に係る「サービス対価」の請求、⑤管理者等による「サービス対価」の支払い、という手続きを経ることになり、かつ減額確定の前に選定事業者による修復の機会や一定の猶予期間を設けること等が通例である。
・なお、「サービス対価」の支払期日については、支払期日が閉庁日(行政機関等の休日に関する法律に定める行政機関の休日)の場合に、その前日までに支払う等の規定を置くこともある。
6.虚偽報告の場合の「サービス対価」の返還
・選定事業者が管理者等に提出する業務報告書に虚偽の内容が含まれていた場合、選定事業者が受領した「サービス対価」のうち不当に得た額を返還すべき義務が規定されることが通例である(民法第703条)。返還対象額は、虚偽がなければ減額されえた「サービス対価」の額と規定される場合が多い。選定事業者が不当に得た額は、虚偽報告が意図的であると、過失によるとを問わず、返還義務が規定される。なお、選定事業者が意図的に虚偽の報告を行った場合には、更に損害賠償義務を負担させ(民法第704条)、また、その程度が重要である場合等には、管理者等に解除権が付与される旨規定することも考えられる。
7.条文例
(サービス対価の支払)
第 82 条 甲は、乙に対し、別紙 12 に記載する方法、金額及びスケジュールに従い、サービス対価を支払うものとする。
(サービス対価の返還)
第 84 条 甲は、業務報告書その他甲が乙の業務実績の確認の基礎とした資料等に虚偽の記載があることが判明した場合、当該虚偽記載判明後に乙に支払うべきサービス対価から当該虚偽記載がなければ甲が減額し得たサービス対価相当額に第 101 条第1項に定める利率で計算した額の損害金を加えた額を減額することができる。
2 前項の場合において、当該虚偽記載判明後に乙に支払うべきサービス対価が当該虚偽
記載がなければ甲が減額し得たサービス対価及び前項の損害金の合計額に不足するときは、乙は、甲に対して、当該不足額を返還しなければならない。
6-2 物価及び金利の変動に伴う「サービス対価」の改定
1.概要
・物価の変動、金利の変動による選定事業者の費用増減に対応して「サービス対価」を一定の頻度で改定することが規定される。
2.趣旨
・事業期間が長期に亘るPFI事業契約においては、物価の変動、金利の変動が選定事業者の費用増やその利益の減少の原因となり得ることから、変動等の選定事業に与える影響の程度を勘案し(リスクガイドライン二6(2))、「サービス対価」を一定の頻度で改定することが規定される。この際、規定すべき事項としては、「サービス対価」のうち改訂対象とする費用項目、改定の基準とする経済・金融指標、改訂の算定式及び改訂時期等があげられる。
3.物価の変動による改定
・「サービス対価」の改定の基準とする物価指数としては、企業向けサービス価格指数、勤労統計調査の実質賃金指数、消費者物価指数、卸売物価指数、建設物価指数(修繕費に対応)などがある。対象業務ごと、対象費用項目ごとに、上記の指数を対応させる場合もある。
・「サービス対価」の改定の基準とする物価指数の採用にあたっては、選定事業者が実際に用いる財・サービスの市場価格が的確に反映される指数を採用することにより、選定事業者の負担する物価変動リスクを減じることができる。
・「サービス対価」の改定は、基準とする指標の変動の多寡にかかわらず、一定期間(毎年又は3年ごととする場合が多い)に定期的に実施する場合と、基準とする指標が一定割合以上変動している場合にのみ改定する場合がある。
4.金利の変動による改定
・選定事業者は、固定金利による資金調達を金利スワップ契約によって行うことが通例であり、現在のところ、金利スワップ市場では、15年までのものの取引が大半といえる。このため、これを超える融資期間を前提とする案件の場合、将来の金利変動を「サービス対価」に反映する仕組みを織り込むことが通例である。金利変動リスクを「サービス対価」の改定に反映する方法としては、10年を経過時に、残存期間に相当する固定金利を基準に「サービス対価」を改定する方法、あるいは、5年を経過するごとに、その後5年間の
「サービス対価」を改定する方法等が考えられる。金利変動リスクを「サービス対価」の改定に反映しない場合は、そのリスクは選定事業者が負うこととなるが、金利上昇局面に
おいては、そのリスクが金融費用に反映されて、契約金額に転嫁される結果ともなり得ることに留意する必要がある。なお、金利の変動による「サービス対価」の改定を行うか否かの検討にあたり、融資額が比較的少額の場合、当事者双方の実質的な面での手続き費用を考慮することも考えられる。
5.条文例
(サービス対価の改定)
第 83 条
4 甲及び乙は、別紙 12 の規定に従い、物価変動等、需要変動又は税制度の変更に伴うサービス対価の改定を行う。
5 甲及び乙は、統括マネジメント業務費相当額及び運営業務費相当額について、直近の改定時のサービス対価及び類似の内容の業務における委託費の市場実勢価格の推移、新製品の導入、本件病院における診療科目の変更、患者及び疾病動向の大幅な変化等、諸般の事情を勘案して、運営業務開始日が属する年度、及び運営業務開始日が属する年度から5事業年度ごとに1度、改定のための協議を行う。
6 前項の協議が整わない場合、甲は、改定の可否及び改定を認める場合には合理的と判断する改定額並びに改定時期をそれぞれ決定し、当該決定の理由を併記した書面を乙に通知し、乙は当該通知の内容に従うものとする。
7 甲及び乙は、医療保険制度の改正によりサービス対価の改定を行うことが合理的と判断する場合、相手方にその理由及び改定見込み額を記載した書面を通知することにより、サービス対価の改定に関する協議を求めることができる。
8 前項に基づく通知を受領した後、甲及び乙は、速やかにサービス対価の改定の可否等に関する協議を行い、対応について決定する。
9 前項の協議が整わない場合、甲は、改定の可否及び改定を認める場合には合理的と判断する改定額並びに改定時期をそれぞれ決定し、当該決定の理由を併記した書面を乙に通知し、乙は当該通知の内容に従うものとする。
6-4 施設整備費の改定
WG で議論した成果物を入れる。
1.問題状況
2.対処に関わる基本的な考え方
3.具体的な規定の内容
4.留意点
5.条文例
6-5 物価及び金利の変動以外による「サービス対価」の改定
WG で議論した成果物を入れる。
1.問題状況
2.対処に関わる基本的な考え方
3.具体的な規定の内容
4.留意点
5.条文例
6-6 「サービス対価」の減額
WG で議論した成果物を入れる。
1.問題状況
2.対処に関わる基本的な考え方
3.具体的な規定の内容
4.留意点
5.条文例
1.概要
・管理者等は、モニタリング(選定事業者により提供されるサービス水準を監視(測定・評価))を実施し、選定事業者の業務履行状況が業務要求水準を満たさず、PFI事業契約に従わなかったといえる場合には「サービス対価」の減額又は支払留保を行う旨規定される。(参照:「モニタリングに関するガイドライン」)
2.趣旨
・管理者等による「サービス対価」の減額や支払い留保という措置をあらかじめ定めておくことにより、選定事業者が業務を適正に実施することへの経済的動機付けとなる。なお、
「サービス対価」の支払留保がなされる場合は、管理者等からの利息や遅延損害金の支払いがなく、選定事業者にとっては、新たに金利負担が発生するという点で経済的動機付けとなる。
3.減額等を行う際の手続き
・管理者等が行う業務確認(関連:3-4 業務報告)により、「サービス対価」支払い対象期間の維持・管理、運営業務について業務要求水準を満たしていない事項が存在することが判明した場合、管理者等はまず、改善すべき行為に関する通知を行うものとされる。この通知に是正期間を指定する場合もある。あるいは選定事業者自ら行うサービス水準の測定の結果、要求水準を満たしていない場合、改善措置を自ら講じようとする場合もある。この是正期間の経過後も、選定事業者の提供する公共サービスが業務要求水準を満たしていない場合、この時点以後到来する最初の「サービス対価」支払い時に「サービス対価」の減額又は支払留保が行われる旨規定される場合が多い。
(減額方法)
・減額を行う場合、①施設を利用に供することができなかった日数に応じて日割りで「サービス対価」を減額する場合と、②上記是正期間終了後もサービス水準が改善されない場
合に、あらかじめ定めたペナルティポイント算定ルールに基づいて減額額を算出する場合がある。
(減額分の翌期以降の取り扱い―支払留保措置)
・「サービス対価」の減額が行われた場合、当該減額部分については以後サービス水準が改善した場合でも支払われないものとされるのが通例であるが、「サービス対価」全額の支払いが停止された場合は、翌「サービス対価支払い対象期間」にサービス水準が一定以上に回復することを条件に本来当該期間に支払われるべき「サービス対価」に加算して、支払いが停止された前期分の「サービス対価」のうちの一定割合(減額後の「サービス対価」に相当)が支払われる旨、規定される例もある。
(サービス水準が翌期以降も改善しない場合の取り扱い)
・サービス水準が翌「サービス対価支払い対象期間」以降も改善しない場合については、管理者等に解除権が付与(是正通告等段階を踏んだ後実行)される旨、規定される場合もある。
4.建設工事費相当の「サービス対価」の減額
・「サービス対価」の減額が建設工事費に相当する「サービス対価」にまで及ぶこととするかについては、以下の考え方がある。施設の設計・建設工事業務と維持・管理、運営業務を一体とみて「サービス対価」を支払うこととし、サービス水準維持への強い経済的動機付けを図る意図をもって建設工事費に相当する「サービス対価」についても減額の対象とする考え方があるが、施設の建設工事の完工確認がなされて、当該施設の所有権が管理者等に移転した後は、施設の建設工事業務に相当する「サービス対価」は確定債権として減額の対象とせず、公共サービス水準の維持への経済的動機付けについては、もっぱら維持・管理、運営業務に相当する「サービス対価」により担保することが望ましいと考えられる。
ただし、この場合、債務不履行により管理者等が受けた損害を負担する観点からその損害賠償額と相殺することを規定することを妨げるものではない。
第7章 業務等に関する変更等
問題点、課題の整理を入れる。
WG で議論した成果物を入れる。
1.問題状況
2.対処に関わる基本的な考え方
3.具体的な規定の内容
4.留意点
5.条文例
第8章 表明及び保証等
問題点、課題の整理を入れる。
方向性について簡単に触れる。
条文例
(事実の表明及び保証)
第 88 条 乙は、甲に対し、本契約締結日現在において、次の各号に掲げる事実を表明し、保証する。
(1) 乙が、会社法(平成 17 年法律第 86 号)に基づき適法に設立され、有効に存続する株式会社であること
(2) 乙の本店所在地は●●内であること
(3) 乙は、本契約を締結し、また本契約の規定に基づき義務を履行する完全な権利、能力を有し、本契約上の乙の義務は、法的に有効かつ拘束力ある義務であり、乙に対して強制執行可能であること
(4) 乙が本契約を締結し、これを履行することにつき、法令及び乙の定款、取締役会規則その他の社内規則上要求されている授権その他一切の手続を履践していること
(5) 本契約が、乙の代表者又は代表者から有効な委任を受けた代理人によって締結されたこと
(6) 本契約の締結及び本契約に基づく義務の履行は、乙に対して適用されるすべての法令及び乙の定款、取締役会規則その他の社内規則に違反せず、乙が当事者であり又は乙が拘束される契約その他の書面に違反せず、また乙に適用される判決、決定又は命令に違反しないこと
(7) 乙の定款記載の目的が、本事業の遂行に限定されていること
(8) 乙の資本金が●円以上であること
(9) 乙が、破産手続又は民事再生手続、会社更生手続若しくは特別清算の開始その他の
法的倒産手続開始の申立てをしておらず又は、第三者によるかかる手続の申立てもなされていないこと
(10) 乙が、支払不能、支払停止又は債務超過の状態になく、かつ、本事業を行うことによって支払不能又は債務超過の状態に陥るおそれがないこと
(11) 乙が、公租公課を滞納していないこと
(12) 債務不履行事由を構成する事実又は時の経過若しくは通知により債務不履行事由を惹起せしめる事実はいずれも存在せず、また、乙の知る限り、本事業の遂行に関し、重大な悪影響を与える事実若しくは将来与える事実は存在しないこと
(13) 乙による本事業の遂行に必要であって、本契約の締結に先立ち乙が取得し又は、届け出るべき許認可がある場合、当該許認可の一切が適法に取得され、届出が適法に完了し、法的手続が適法に履践され、かつ、かかる許認可、手続が有効であり、また将来取り消されるおそれがないこと
(14) 乙の知る限りにおいて、本事業を実施するために必要な乙の能力又は本契約上の義務を履行するために必要な乙の能力に重大な悪影響を及ぼしうる訴訟、請求、仲裁又は調査は、乙に対して係属しておらず、その見込みもないこと
(15) 本契約に関し、乙が甲に対して提供した一切の情報が、その情報が提供された時点において一切の重要な点において真正、完全かつ正確なものであること。現在甲に対し開示されておらず、かつ開示された場合に、甲の決定に重大な影響を及ぼすことが相当な事実及び状況の存在を乙が認知していないこと
(16) 乙の定款に会社法第 326 条第2項に定める取締役会、監査役及び会計監査人に関する定めがあること
2 甲は、乙に対し、本契約締結日現在において、次の各号に掲げる事実を表明し、保証する。
(1) 甲が本契約を締結し、これを履行することにつき、法令及び内部規則上要求されている授権その他一切の手続を履践していること
(2) 本契約は、適法、有効かつ拘束力ある甲の債務を構成し、本契約の規定に従い強制執行可能な甲の義務が生じること
(3) 本契約の締結及び本契約に基づく義務の履行は、甲に対して適用されるすべての法令及び内部規則に違反せず、甲が当事者であり又は甲が拘束される契約その他の書面に違反せず、また甲に適用される判決、決定又は命令に違反しないこと
(4) xによる本契約上の債務不履行を構成する事実又は時の経過若しくは通知により債務不履行事由を惹起せしめる事実はいずれも存在せず、また、甲の知る限り、本事業の遂行に関し、重大な悪影響を与える事実若しくは将来与える事実は存在しないこと
(5) [●●議会]において、本契約を締結するために必要な債務負担行為の議決がなされたこと
(6) 本事業の遂行に重大な悪影響を及ぼすこととなる訴訟又は行政手続が、裁判所又は政府機関において提起又は開始されておらず、また、甲の知る限り、そのおそれもないこと
(7) 本契約に関し、甲が乙に対して提供した一切の情報が、その情報が提供された時点において一切の重要な点において真正、完全かつ正確なものであること。現在乙に対し開示されておらず、かつ開示された場合に、乙の本事業に関する決定に重大な影響を及ぼすことが相当な事実及び状況の存在を甲が認知していないこと
(8) 本件土地の境界については、隣接する土地の所有者又は占有者との間において、訴訟、調停、仲裁その他の法的手続又は紛争解決手続は一切存在せず、隣地の所有者又は占有者から、境界につき、何らのクレーム、異議、不服又は苦情の申入れはないこと。本件土地に対する隣接地及びその建物又は構造物による不法な侵害は存在しないこと
(乙による約束)
第 89 条 乙は、甲に対し、本契約締結後 10 日以内に、甲が合理的に満足する形式及び内容の次の各号に掲げる書面を提出することを約束する。なお、次の各号の書面の記載内容が変更された場合も同様とする。
(1) 調印済みの株主間協定の原本証明付の写し
(2) 許認可に関する以下の書類
ア 本事業を遂行するために必要であって、本契約締結に先立ち乙が取得又は届出をすべき許認可がある場合、当該許認可を取得又は完了し、有効に維持されていることを証する書面の写し
イ 本事業を遂行する協力企業及び協力企業の委託先の企業(再委託先も含む。)並びにこれらの使用人が本契約締結に先立ち取得又は届出をすべき許認可がある場合、当該許認可を取得又は完了し、有効に維持されていることを証する書面の写し
(3) 乙に係る以下の書類
ア 原本証明付きの定款の写しイ 商業登記簿謄本
ウ 印鑑証明書
エ 本契約締結に係る授権を証する原本証明付きの取締役会議事録等の写し
(4) その他甲が別途合理的に定める書類
2 乙は、甲に対し、以下の書類を適宜提出することを約束する。なお、次の各号の書面の記載内容が変更された場合も同様とする。
(1) 第5条の規定に従い、契約保証金を納付したこと(第5条に定めるいずれかの方法を取ったこと、又は第5条に従い履行保証保険を締結し、若しくは履行保証保険の保険金請求権に質権を設定したことを含む。)を証する書面
(2) 乙は、協力企業との間で契約を締結した場合は、当該契約締結後 10 日以内に、当該契約の写しを提出すること
(3) 本事業の資金調達のために融資団との間で融資契約を締結した場合は、当該契約締結後 10 日以内に融資契約を締結したことを証する書面を提出すること
(4) 本事業を遂行するために必要であって、本契約締結後に乙が取得又は届出をすべき許認可があり当該許認可を取得又は完了した場合は、当該取得又は完了後 10 日以内に、当該許認可を取得又は完了したことを証する書面の写しを提出すること
(5) 本事業を遂行する協力企業及び協力企業の委託先の企業(再委託先も含む。)並びにこれらの使用人が本契約締結後に取得又は届出をすべき許認可があり当該許認可を取得又は完了した場合は、当該取得又は完了後 10 日以内に、当該許認可を取得又は完了したことを証する書面の写しを提出すること
(6) 本事業の進捗状況など、本事業又は乙に関する情報で、随時甲が合理的に要求する書類又は資料を提出すること
3 乙は、甲に対し、事業期間中、次の各号に掲げる事項を遵守することを約束する。
(1) 乙が、会社法に基づき適式、有効かつ適法に設立され、存続する株式会社であること
(2) 乙の本店所在地は●●内であること
(3) 乙の資本の額が●円以上であること
(4) 乙が株式、新株予約権又は新株予約権付社債を発行しようとする場合、代表企業及び構成員が乙の全議決権を保有し、かつ、代表企業の議決権保有割合が株主中最大であること
(5) 乙の定款の目的が本事業の遂行に限定されていること
(6) 乙の定款に会社法第 326 条第2項に定める取締役会、監査役及び会計監査人に関する定めがあること
(7) 乙の議決権株式は、会社法第2条第 17 号に定める譲渡制限株式とすること
(8) 議決権株式を保有する株主から株式譲渡の承認を請求されたときは、当該譲渡について甲の事前の書面による承諾を受けていることを確認した後でなければ当該譲渡を承認する取締役会決議を行わないこと
(9) 乙は、本契約を締結し履行する完全な能力を有し、本契約上の乙の義務は、法的に有効かつ拘束力のある義務であり、乙に対して強制執行可能であること
(10) 乙が本契約を締結しこれを履行することにつき、日本国の法令及び乙の定款、取締役会規則その他社内規則上要求されている授権その他一切の手続を履践していること
(11) 本契約の締結及び本契約に基づく義務の履行は、乙に対して適用されるすべての法令に違反せず、乙が当事者であり若しくは乙が拘束される契約その他の合意に違反せず、又は乙に適用される判決、決定若しくは命令に違反しないこと
(12) 乙は、本契約に関し、その情報が提供された時点において一切の重要な点において真正、完全かつ正確な情報を甲に対して提供すること
(13) 甲に対し、次に掲げる事実を知った後直ちにこれを通知することア 債務不履行事由その他乙による本契約違反
イ 前条第1項に規定する表明及び保証に係る不実が判明したこと
ウ 乙と協力企業との間の契約違反又は協力企業とその委託先との間の重大な契約違反
エ 乙が当事者となっているその他の契約における乙の重大な契約違反
オ 来院者又は患者から病院、乙若しくは協力企業(委託先及び再委託先を含む。)又はこれらの職員に関し、要望、苦情等を受けたこと
カ 乙の商号、住所、代表者、役員、届出印鑑その他甲に届け出た事項についての変更
キ 乙に対する訴訟若しくは行政手続の提起若しくは係属、又はそのおそれのある事実
ク 協力企業等に対する国又は地方公共団体による業務停止又は指名停止の事実ケ 本事業の遂行に重大な悪影響を及ぼす法令変更
コ その他乙又は本事業の遂行に重大な悪影響を及ぼす事実
サ 時の経過又は通知により、上記アないしウのいずれかに該当する事実又はそのおそれのある事実の発生
(14) 本事業を遂行するために必要な許認可を取得又は完了し、本事業の期間xxx効力を維持し、必要な場合には適宜これを変更又は更新すること
4 乙は、事業期間中、以下の各号に掲げる行為を行わないものとする。ただし、甲が別途書面により承諾した場合にはこの限りではない。
(1) 本契約に基づく一切の債権債務が消滅するに至るまで、本契約上の地位及び本事業について甲との間で締結した契約に基づく契約上の地位について、これを譲渡、担保提供その他の方法により処分すること
(2) 甲に対して有する債権について、これを第三者に譲渡、担保提供その他の方法により処分すること
(3) 本件工事対象施設の出来形の全部又は一部の譲渡、担保権設定又は実行その他の方法により処分すること
(4) 定款記載の目的の範囲外の行為を行うこと又は本事業以外の事業を遂行すること
(5) 定款記載の目的の変更
(6) 破産手続又は民事再生手続、会社更生手続若しくは特別清算の開始その他の法的倒産手続開始の申立て
(甲による約束)
第 90 条 甲は、事業期間中、次の各号に掲げる事項を遵守することを約束する。
(1) 甲が本契約に基づき行うことのある意思表示及び通知につき、法令及び内部規則上要求されている授権その他一切の手続を履践すること
(2) 本契約上の甲の債務を履行するために必要な一切の措置を講じること
(3) 本契約に関し、その情報が提供された時点において一切の重要な点において真正、完全かつ正確な情報を乙に対して提供すること
(4) 本契約締結日現在乙に対し開示されておらず、かつ開示された場合に、乙の本事業に関する決定に重大な影響を及ぼす可能性がある事実及び状況の存在を甲が認知した場合には、直ちに乙に通知すること
(5) 本件土地の境界について、隣接する土地の所有者若しくは占有者との間における、訴訟、調停、仲裁その他の法的手続若しくは紛争解決手続、隣地の所有者若しくは占有者からのクレーム、異議、不服若しくは苦情の申入れ又は、本件土地に対する隣接地及びその建物若しくは構造物による不法な侵害を認識した場合には、直ちに乙に通知すること
(6) 乙が本件土地を本事業に使用するために必要な事務を行うこと
(7) 乙に対し、下記のとおり書類を適宜提出し、報告を行うこと
ア 本事業に関し、甲が、保険会社等との間で各種保険契約を締結した場合は、当該保険契約書の原本を甲が受領後 10 日以内に当該保険契約書の写し(契約変更、更新、新たに契約を締結した場合も同様とする。)を提出すること
イ 本事業を遂行するために必要であって、本契約締結後に甲が取得又は届出をすべき許認可があり当該許認可を取得又は完了した場合は、当該取得又は完了後 10 日以内に、当該許認可を取得又は完了したことを証する書面の写しを提出すること
(8) 乙に対し、次に掲げる事実を知った後直ちにこれを通知することア 債務不履行事由
イ 第 88 条第2項に規定する表明及び保証に係る不実が判明したことウ その他甲による本契約違反
エ 本事業の遂行に重大な悪影響を及ぼす法令変更
オ 時の経過又は通知により、上記アないしウに該当する事実又はそのおそれのある事実の発生
第9章 契約期間及び契約の終了
問題点、課題の整理を入れる。
・PFI事業契約の終了には、契約期間の満了による場合の他、PFI事業契約期間中におけるPFI事業契約の解除による場合がある。このPFI事業契約の解除には選定事業者の帰責事由による場合(管理者等が解除権を有する、「5-1 公共施設等の管理者等の解除権」で解説)、管理者等の帰責事由による場合(選定事業者が解除権を有する、
「5-2 選定事業者の解除権」で解説)、及び不可抗力や法令変更の場合がある。なお、 PFI事業契約の解除に伴い、当事者に損害賠償又は違約金等の支払義務が発生する
(「5-4 解除の効力」及び「5-5 違約金」で解説)。
・PFI事業契約においては、基本方針に「当事者が協定等の規定に違反した場合に、選定事業の修復に必要な適切かつ合理的な措置、債務不履行の治癒及び当事者の救済措置等を規定すること(基本方針三2(2))」、「事業修復の可能性があり、事業を継続することが合理的である場合における事業修復に必要な措置を、その責めに帰すべき事由の有無に応じて、具体的かつ明確に規定すること。(基本方針三2(6))」と定められており、当事者がPFI事業契約上の義務を履行しない場合であっても、選定事業に修復の可能性があり、かつ、継続が合理的であるときには、当事者及び関係者が選定事業の修復を図ることとし、修復に必要な適切かつ合理的な措置等を規定することとなる。
・したがって、PFI事業契約においては約定解除権が規定される(民法第540条第1項)。約定解除権を規定することにより、選定事業の適正かつ確実な実施の確保を図るため、法定解除権の解除事由及び解除要件を補充・修正することや、法定解除権とは別の解除事由及び解除要件を規定することができる。
9-1 契約期間
1.概要11
・契約期間について、始期は、契約締結日であり、その日からその効力を生じることとし、終期は、特定の年月日、又は施設の供用開始から一定期間を経過した日である旨規定される。
2.関係法令の規定
・会計法及び予決令では、契約書に履行期限を記載することとしている(会計法第29条の8第1項及び予決令第100条)。
・支払遅延防止法においても同趣旨の規定がなされている(支払遅延防止法第4条第2号)
12。
3.条文例
(契約期間)
第 91 条 本契約は、本契約締結日から効力を生じ、運営業務等終了日をもって終了する。ただし、本契約終了後においても、本契約に基づき発生し、存続している権利義務及び守秘義務の履行のために必要な範囲で、本契約の規定の効力は存続する。
11 地方公共団体のPFI事業契約の締結にあたっては、契約の予定価格の金額のうち、公共施設等の買入れ又は借入れに相当する金額が、都道府県については5億円、指定都市については3億円、指定都市を除く市については1億5千万円、町村については5千万円を超える際には、あらかじめ、議会の議決を経なければならない(PFI法第9条及びPF I法施行令)。
12 地方公共団体が管理者等となる場合は、当該規定は支払遅延防止法第14条の規定により準用される。
9-2 公共施設等の管理者等の解除権
1.概要
・管理者等は、選定事業者がPFI事業契約上の義務を履行しない場合、選定事業者に対して一定の期間を定めて催告し、この期間を経過しても是正されない場合、PFI事業契約を解除できる旨規定される。但し、選定事業者による契約違反が選定事業者と管理者等の間の信頼関係を破壊するものであり、選定事業者に対して催告を行っても不履行の是正が図られる見込みがない場合、管理者等は無催告で解除できる旨が特約として定められる。
2.趣旨
・管理者等は、選定事業者がPFI事業契約上の義務を履行しない場合、基本的には選定 事業者に対して是正に必要な一定の期間を定めて催告し、この期間を経過しても是正さ れない場合、PFI事業契約を解除できる旨規定される。設定された是正期間以内に、 不履行の是正がなされた場合には管理者等はPFI事業契約を解除できないこととなる。 PFI事業契約に則して公共サービスが継続的に提供されることが重要との観点から、 管理者等による解除権行使の前にまず選定事業者に自ら不履行を是正(義務の不履行を
「治癒」し、「修復」を図ること)することの経済的動機付けを与えることが必要である。但し、選定事業者による契約違反の程度が著しく選定事業者と管理者等の間の信頼関係を破壊するものであり、選定事業者に対して催告を行っても不履行の是正が図られる見込みがない場合は、管理者等は無催告で解除できる旨を特約として定められる。
・基本方針において、「事業継続が困難となる事由をできる限り具体的に列挙し、当該事由が発生した場合又は発生するおそれが強いと認められる場合における協定等の当事者のとるべき措置を、その責めに帰すべき事由の有無に応じて、具体的かつ明確に規定すること」、「事業修復の可能性があり、事業を継続することが合理的である場合における事業修復に必要な措置を、その責めに帰すべき事由の有無に応じて、具体的かつ明確に規定すること」が定められており(基本方針三2(6))、解除事由、その事由が発生した場合又は発生のおそれが強い場合に当事者のとるべき措置等について具体的かつ明確に規定することを要請している。
3.解除事由
・長期に亘るPFI事業契約は、当事者間の信頼関係を基礎としており、当事者のいかなる行為が債務不履行に該当し、その場合他方の当事者はいかなる手続をもってPFI事業契約を解除できるかについてあらかじめ合意しておくことが必要となる。かかる観点から、債務不履行解除の要件を明確にするための規定が置かれる。また、選定事業の適
正かつ確実な実施の確保を図る観点から、法定解除事由である債務不履行の成立を必要としない約定解除事由を規定する場合も多い(関連:7 任意解除)。
・解除事由の規定については、基本方針において、「協定等の解除条件となる事由に関しその要件を具体的かつ明確に規定すること、事業継続が困難となる事由をできる限り具体的に列挙すること」(基本方針三2(6)(7))が定められており、管理者等による解除事由について、厳格に規定する必要がある。
・以下に解除事由を例示する。
①設計、建設工事への着手の遅延
・設計又は建設工事への着手の遅延は、PFI事業契約の目的達成の第一段階であり、予定した期日を過ぎてもこれらに着手しない場合、工程に無理をきたして施設の品質に重大な悪影響を与えること等が想定され、契約関係を維持してもPFI事業契約等に従った公共サービスの提供が見込めないことから、管理者等による解除事由となる。
・具体的には、選定事業者が設計又は建設工事に着手すべき期日を過ぎても設計又は建設工事に着手せず、相当の期間を定めて催告しても、選定事業者から管理者等に対して合理的な説明がないとき、管理者等がPFI事業契約の解除権を取得する。なお、選定事業者が正当な理由なく設計又は建設工事への着手を遅延したとき、特段の催告をすることなく、管理者等がPFI事業契約の解除権を取得する旨規定するという例もある。
②施設の完成、引渡し(又は運営開始)の遅延
・選定事業者が公共サービスを提供するために不可欠な施設の完成や施設の引渡し(又は運営開始)が遅延しており、予定された期日(引渡し(又は運営開始)予定日が延期された場合には、延期後の予定日)から一定期間経過後も、なお履行される見込みが明らかでない場合、契約関係を維持しても公共サービスの提供が見込めないことから、管理者等による解除事由となる。
(BTO方式の選定事業の場合)
・選定事業者の帰責事由により、引渡し予定日から一定期間経過しても引渡しが出来ないとき、又はその見込みが明らかでないときを管理者等による解除事由とする規定を置くことが通例である。運営業務の開始予定日が重視される選定事業については、履行期限として「引渡し予定日」ではなく「運営開始予定日」を設定し、当該運営開始予定日より一定期間経過しても施設の運営開始体制が整わないときを、管理者等による解除事由とする規定を置くこともある。
(BOT方式の選定事業の場合)
・施設の建設工事の完成に着目し、選定事業者の帰責事由によって、予定された工期内に施設が完成せず、かつ、予定工期の経過後相当の期間以内に建設工事を完成する見
込みが明らかにないと認められるとき、若しくは施設の運営開始時点に着眼し、選定事業者の帰責事由により、施設の運営開始予定日から一定期間経過しても施設が運営開始出来ないとき、又はその見込みが明らかにないと認められるときなどを、管理者等による解除事由とする規定を置くことが通例である。
③維持・管理、運営業務に関する債務不履行
・選定事業者による維持・管理、運営業務に関し債務不履行の状況があらかじめ定めた一定程度以上継続する場合、契約関係を維持してもPFI事業契約等に従った公共サービスの提供が見込めないことから、管理者等による解除事由となる。
・例えば、具体的な解除までの手順としては、選定事業者による維持・管理、運営業務に関し債務不履行が生じた場合、対象となる債務不履行に相当する「サービス対価」の減額措置や支払い留保措置を講じつつ、
1)あらかじめ定めた一定程度以上に債務不履行の状況が繰り返される場合、選定事業者自ら履行体制を強化し、改善を図る。
2)管理者等は選定事業者に改善措置を講じるよう通告し、改善計画書の提出を求め、選定事業者は合意した改善計画書に基づき改善を図る。
3)選定事業者による当該債務不履行を改善、是正する期間を設け、それでもなお改善されず、あらかじめ定めた一定程度以上の債務不履行の状況が継続するときは、一定の通告期間経過後、管理者等が解除権を取得する旨規定される
ことが考えられる。(関連:4-1 「サービス対価」の支払、5-4 解除の効力、参照:「モニタリングに関するガイドライン」)
④選定事業者の破産
・選定事業者の破産、会社更生、民事再生、会社整理若しくは特別清算の手続きの開始又はこれに類似する手続きについて選定事業者の取締役会でその申立てを決議したとき又は第三者によってその申立てがなされたときは、選定事業者が選定事業を継続することが不可能な程度に経済的に破綻しており、且つ選定事業者による選定事業の修復が不可能であるため、管理者等による解除事由となる。
・選定事業者が支払不能又は支払停止となったときや一定金額以上の債務の履行を一定日数以上に亘り遅延したときなど、破産原因自体又はそれを推定させる事由の発生があり、PFI事業契約の目的を達することが不可能となる蓋然性が高いと判断されるときは、選定事業者による債務不履行の成立を待たずに管理者等は解除権を取得するとすることもあり得る。
⑤選定事業者による事業放棄
・選定事業者が事業を放棄し、一定期間に亘りその状態が継続したときなどは、選定事
業者による選定事業の継続が不能と想定されることから、管理者等による解除事由となる。
⑥その他契約違反
・その他PFI事業契約に違反し、その違反によりPFI事業契約の目的を達成することができないと認められるときを、契約関係を維持しても公共サービスの提供が見込めないことから、管理者等による解除事由とする。選定事業者が業務報告書に著しい虚偽記載を行うことも、信頼関係を破壊する重大な契約違反であることから管理者等による解除事由となる。
4.是正期間の設定
・管理者等は選定事業者に対し一定の是正期間を設けて義務を履行するよう催告するも、選定事業者がその義務を履行しない場合、管理者等がPFI事業契約の全部又は一部を解除できる旨規定する。この是正期間については、選定事業者のかかる債務不履行の是正に要すると見込まれる期間を設定する必要がある。また、契約関係の安定性を確保するため、是正期間についても解除事由ごとに具体的かつ明確に定めておくことが望まれる。
8.書面主義
・管理者等らの選定事業者に対する催告、及びPFI事業契約終了の通告又は通知については、後日の紛争回避の観点から書面により通知する旨規定することが望ましい。
9.条文例
(乙の債務不履行による契約解除)
第 92 条 甲は、次の各号の一に該当するときは、乙に通知することにより、本契約の全部を解除することができる。
(1) 乙が本事業の実施を放棄し、3日間以上にわたりその状態が継続したとき
(2) 乙が、破産、会社更生、民事再生若しくは特別清算その他倒産法制上の手続について乙の取締役会でその申立てを決議したとき、又は第三者(乙の取締役を含む。)によってその申立てがなされたとき
(3) 落札者のいずれかに、基本協定書第6条第8項に該当する事由が発生したとき
(4) 乙が、第 69 条ないし第 71 条の報告書及び第 119 条の計算書類等に重大な虚偽記載を行ったとき
(5) 乙が、正当な理由なく、設計業務又は本件工事着工予定日を過ぎても設計業務又は本件工事に着手せず、甲が、乙に対し、相当の期間を定めて催告しても、乙から当該遅延について甲の満足する説明が得られないとき
(6) 乙の責めに帰すべき事由により、本件工事対象施設の引渡予定日から 30 日が経過しても本件工事対象施設の引渡しが行われないとき、又は明らかに引渡しの見込みがないとき
(7) 乙の責めに帰すべき事由により、運営業務開始予定日から 30 日が経過しても運営業務が開始されないとき、又は明らかに開始の見込みがないとき
(8) 乙の責めに帰すべき事由により行政財産無償貸借契約が解除されたとき
(9) 前各号に掲げる場合のほか、乙が本契約に違反し、その違反により本契約の目的を達することができないと甲が認めたとき
2 甲は、乙の責めに帰すべき事由により、乙が実施する運営業務等の水準が要求水準書に記載された要求水準を満たさない場合、モニタリング実施計画書の規定に従い、本契約の全部又は一部を解除することができる。
9-3 選定事業者の解除権
1.概要
・選定事業者は、管理者等が「サービス対価」の支払いを遅延し、選定事業者から催告を受けてから一定期間を経過しても当該支払義務を履行しないとき、及び、管理者等による重要な義務違反により選定事業者の選定事業の実施が困難となり選定事業者が是正期間を設けて催告しても選定事業の実施が困難な状況が解消されないときなどには、PF I事業契約を解除できる旨規定される。
2.趣旨
・契約関係の安定性の確保を図るため、管理者等の債務不履行による選定事業者の法定解除の要件を約定により明確にするものである。
3.解除の要件及びその効力
・選定事業者の帰責事由によるPFI事業契約の解除の場合と同様に、管理者等の帰責事由によるPFI事業契約の解除についても、解除要件を明確化するとともに、一定の是正期間を設けることによって、契約関係の安定性の確保に配慮する必要がある。
・管理者等の是正期間中に選定事業者が業務を適正に履行できないとしても、その責は管理者等に帰するのであるから、「サービス対価」の減額はなされないものと考えられる。また、管理者等に「サービス対価」の支払義務の不履行がある場合、選定事業者の支出負担を軽減するために、管理者等の是正期間中、施設の維持・管理、運営義務を軽減し、若しくは、最低限度の維持・管理、運営を行う義務のみ負うこととし、それに対応した
「サービス対価」が発生するという規定を置くことも考えられる。
・管理者等が金銭の支払いを遅延した場合について、管理者等は選定事業者に対し、支払うべき金額に加え、遅延損害金を支払うことが規定される。(関連:6―3 遅延損害金)
・選定事業者からの管理者等に対する支払いの催告、及びPFI事業契約終了の通知についても、後日の紛争回避の観点から書面による旨規定することが望ましい。
4.条文例
(甲の債務不履行による契約解除)
第 93 条 乙は、次の各号の一に該当するときは、甲に対して通知することにより、本契約の全部又は一部を解除することができる。
(1) 甲が本契約上の金銭債務の履行を遅滞し、乙から催告を受けてから 60 日間当該遅滞が治癒しないとき
(2) 甲の責めに帰すべき事由により、本契約上の乙の義務の履行が不能となったとき
(3) 甲の責めに帰すべき事由により、甲が本契約上の甲の重大な義務(金銭債務を除く。)の不履行をし、乙から催促を受けてから3月間当該不履行が治癒しないとき
9-4 公共施設等の管理者等による任意解除
WG で議論した成果物を入れる。
1.問題状況
2.対処に関わる基本的な考え方
3.具体的な規定の内容
4.留意点
5.条文例
7.任意解除
・管理者等の政策変更や住民要請の変化等により、選定事業を実施する必要がなくなった場合や施設の転用が必要となった場合には、管理者等は一定期間前にPFI事業契約を解除する旨選定事業者に通知することにより、任意にPFI事業契約を解除できる旨規定されることが通例である。これは、選定事業が公共サービスを提供するものであり、不必要なものを提供することが社会的に無駄であるという特殊性から、管理者等の解除権の要件を約定により追加するものである。但し、管理者等による任意解除権は選定事業者にとって予測できないリスクであり、管理者等がこれを行使する場合には、選定事業者から請求される損害賠償の範囲や額について慎重な考慮が必要となる。