https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo- kaitakuseidosuishin/press/180509_press.pdf
スタートアップ出向 モデル契約書
第1 本モデル契約書の使い方
1 本モデル契約書の前提
企業等においては、イノベーション人材の育成等を目的として、自社の人材をスタートアップ企業に送り出すという人材育成手法(以下「スタートアップ出向」といます。)が取られることがあります。その送り出しの形式としては、在籍型出向の形もあれば、スタートアップ企業で研修を受けるという形もあるようです。
本モデル契約書は、大企業の人材の育成を目的として、スタートアップ企業に在籍型出向をさせるケースを前提に、出向元企業(大企業)と出向先企業(スタートアップ企業)との間で締結する出向契約において定めておくべき主な条項について、条項例を示すものです。「第2」においては条項例及び各条項例の留意点等に関する解説を記載しており、「第3」においては条項例のみをまとめています。
2 本モデル契約書の利用上の注意点
本モデル契約書は、あくまでモデルを示すものです。したがって、具体的な事案においてどのような内容の契約書を締結するかについては、解説も参照しながら、当事会社である出向元企業と出向先企業の間で協議の上で決定してください。
この点、大企業とスタートアップ企業の間では、事業運営の方法や企業文化はもちろんのこと、労務管理の手法や賃金水準をはじめとした労働条件等においても大きな差異があることが一般です。協議を行うに際しては、双方に尊重し合い、出向者が出向先企業において十分な能力発揮と経験獲得ができる環境を構築すること、出向先企業に過度の負担が生じないようにすることを十分に意識してください。
なお、出向者の具体的な労働条件については、必要に応じて、出向者本人との協議を行うべきであることにも留意してください。
第2 出向契約モデル契約書及び解説
出向契約書
株式会社(以下「甲」という。)と 株式会社(以下「乙」という。)とは、甲の従業員 (以下「出向者」という。)を乙に出向させるにあたり、その取扱いについて、以下のとおり出向契約(以下「本契約」という。)を締結する。
(目的) 第1条 甲は、出向者の職業能力の開発を目的として、出向者を乙に出向させるものとする。
(出向期間) 第2条 出向期間は、令和○年○月○日から令和○年○月○日までの○か月とする。
(就業場所及び業務内容等) 第3条 乙における出向者の就業場所、所属部署、役職及び業務内容は次のとおりとする。 就業場所:○○ 所属部署:○○ 役 職:○○ 業務内容:○○
(賃金等の支給) 第4条 出向期間中の出向者に対する賃金は、甲の賃金規程に基づき、甲が出向者に支払う。ただし、出向者の乙への通勤費については、乙の規程に基づき、乙が出向者に支払う。
(給与負担金) 第5条 乙は、出向者に係る給与負担金として、1か月あたり金○万円を負担する。
(労働条件) 第6条 出向者の出向期間中の労働条件は、乙の就業規則等が定めるところによるものとする。
① 出向者の年次有給休暇及び特別休暇(ただし、労働基準法第39条第7項に基づく年次有給休暇の時季指定は、乙が行う。) ② 出向者の退職及び解雇(懲戒解雇、諭旨解雇を含む。) ③ 出向者の利用可能な福利厚生制度
(勤務実績の報告) 第7条 乙は、甲に対して、出向者の毎月の勤務実績を当月〇日までに別途甲の定める様式にて報告するものとする。
(社会保険等) 第8条 出向期間中の出向者の健康保険、厚生年金保険及び雇用保険は、甲において被保険者資格を継続し、甲が各保険料を負担する。
(労災補償) 第9条 出向期間中に出向者が、乙において業務上又は通勤途上に負傷し、疾病にかかり又は死亡した場合には、乙がその補償を行うものとする。
(知的財産権の帰属等) 第10条 甲及び乙は、出向期間中に、出向者が乙において創作ないし開発した職務発明(特許法第35条第1項に定める職務発明をいう。)、及び作成した著作物(著作権法第15条に定める著作物をいう。)その他職務上創造された知的財産については、乙の職務発明規程及び職務著作規程その他知的財産に関する定めに従い、その権利の帰属を決定し処理するものとする。
(秘密保持) 第11条 甲又は乙は、出向者の出向期間中に知り得た相手方の営業上又は技術上の秘密情報(以下「秘密情報」という。)を、次項に定める場合を除き、相手方の承諾を得ない限り、第三者に開示若しくは漏えい、又は本契約の目的以外に使用してはならない。ただし、以下に定める情報は秘密情報の対象外とする。 ① 開示を受けたときに既に保有していた情報 ② 開示を受けた後、秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報 ③ 開示を受けた後、相手方から開示を受けた情報に関係なく独自に取得し、又は創出した情報 ④ 開示を受けたときに既に公知であった情報 ⑤ 開示を受けた後、自己の責めに帰し得ない事由により公知となった情報
(契約の終了) 第12条 第2条に定める出向期間満了をもって、本契約は当然に終了するものとする。ただし、出向期間を短縮又は延長した場合には、当該短縮又は延長後の期間満了をもって、本契約は当然に終了するものとする。
(合意管轄) 第13条 本契約に関する一切の紛争は、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
(協議条項) 第14条 甲及び乙は、本契約に定めのない事項及び本契約に関する解釈上の疑義については、誠実に協議の上、解決するものとする。
本契約締結の証として、本書を2通作成し、甲乙記名捺印の上、各自1通を保有する。
__年__月__日
(甲)______________
(乙)______________
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【その他の条項例等】
1 出向者の引き抜きに関する条項
スタートアップ出向を実施するにあたり、出向元企業側の懸念点としては、出向者が、出向期間中にスタートアップ企業の魅力に直接触れることで、出向期間満了後に出向元企業を退職し、出向先企業を含むスタートアップ企業に転職してしまうのではないか、という人材流出(さらには出向者自身が保有する出向元企業におけるノウハウ等の流出)に関する問題が挙げられます。
そこで、出向元企業としては、出向先企業による積極的な引き抜き行為による人材の流出をできる限り防止するために、出向先企業との間で、例えば、出向先企業による引き抜き行為を禁止する旨を合意しておくことが考えられます。
ただし、出向者の転職先の選択肢を広範囲、かつ、長期間にわたって制限するような条項は、出向者の職業選択の自由(憲法第22条1項)を制限するものであり、公序良俗(民法第90条)に反し無効であると解されるおそれがありますので注意が必要です。
2 スタートアップ出向に係る出向元・出向先企業における窓口に関する条項
出向期間中、出向元企業と出向先企業との間においては様々な事務連絡(例えば、出向に係る勤務実績の報告(本モデル契約書第7条)等)が必要になることが想定されます。事務連絡窓口については必ずしも出向契約において定める必要はありませんが、出向後の事務連絡を円滑に進めるためにあらかじめ定めておくことも考えられます。
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(事務連絡窓口)
第○条 甲及び乙は、本契約に係る事務連絡の担当窓口をそれぞれ以下のとおりとする。
①甲:氏 名:○○○○(○○部所属)
電話番号:○○-○○○○-○○○○
メールアドレス:○○○@○○○○
②乙:氏 名:○○○○(○○部所属)
電話番号:○○-○○○○-○○○○
メールアドレス:○○○@○○○○
3 研修を受けるという形でスタートアップ企業に送り出される場合について
冒頭で述べたとおり、人材をスタートアップ企業に送り出すにあたっては、スタートアップ企業で一定期間研修を受けるという形もあります。
この場合、送り出された人材は、あくまで研修を受けるのであって、労務を提供するわけではありません。したがって、賃金は当然送り出し元企業が支払うことになりますし、一般論としては、スタートアップ企業が負担金を支払う必要もありません。また、労働条件や懲戒に関しても、変わらず送り出し元企業の就業規則等が適用されますし、社会保険料や労災補償についても、送り出し元企業が負担することが原則です。
もっとも、送り出された人材の研修時間については、送り出し元企業が直接把握することはできないため、本人又はスタートアップ企業から送り出し元企業に報告することと定めておくことが適当でしょう。
なお、資本関係のない企業への研修送出しという人材育成手法の法的位置付けについては、厚生労働省が、一定の条件下であれば、職業安定法上の「職業紹介事業」や労働者派遣法上の「労働者派遣事業」等に該当しないものと認めています。
参考:経済産業省「グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対し回答がありました~企業間研修送出事業の取扱いについて~」(平成30年5月9日公表)
別添:労働条件通知書兼出向同意書
年 月 日
労働条件通知書兼出向同意書
株式会社●● 代表取締役社長 ●● 殿 ●●部 ●●課 ● ● ● ● 印
私は、下記のとおり出向することに同意します。
記
以上
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(※)個別の項目において、出向元の就業規則等が適用されるときは、「出向元の就業規則の定めによる」等と記載することが考えられます。
(※)上記項目はあくまで例示です。必要に応じて追記してください。
第3 出向契約モデル契約書
出向契約書
株式会社(以下「甲」という。)と 株式会社(以下「乙」という。)とは、甲の従業員 (以下「出向者」という。)を乙に出向させるにあたり、その取扱いについて、以下のとおり出向契約(以下「本契約」という。)を締結する。
(目的) 第1条 甲は、出向者の職業能力の開発を目的として、出向者を乙に出向させるものとする。
(出向期間) 第2条 出向期間は、令和○年○月○日から令和○年○月○日までの○か月とする。
(就業場所及び業務内容等) 第3条 乙における出向者の就業場所、所属部署、役職及び業務内容は次のとおりとする。 就業場所:○○ 所属部署:○○ 役 職:○○ 業務内容:○○
(給与、賞与及び通勤費等の支給) 第4条 出向期間中の出向者に対する賃金は、甲の賃金規程に基づき、甲が出向者に支払う。ただし、出向者の乙への通勤費については、乙の規程に基づき、甲が出向者に支払う。
(給与負担金) 第5条 乙は、出向者に係る給与負担金として、1か月あたり金○万円を負担する。
(労働条件) 第6条 出向者の出向期間中の労働条件は、乙の就業規則等が定めるところによるものとする。
① 出向者の年次有給休暇及び特別休暇(ただし、労働基準法第39条第7項に基づく年次有給休暇の時季指定は、乙が行う。) ② 出向者の退職及び解雇(懲戒解雇、諭旨解雇を含む。) ③ 出向者の利用可能な福利厚生制度
(勤務実績の報告) 第7条 乙は、甲に対して、出向者の毎月の勤務実績を当月〇日までに別途甲の定める様式にて報告するものとする。
(社会保険等) 第8条 出向期間中の出向者の健康保険、厚生年金保険及び雇用保険は、甲において被保険者資格を継続し、甲が各保険料を負担する。
(労災補償) 第9条 出向期間中に出向者が、乙において業務上又は通勤途上に負傷し、疾病にかかり又は死亡した場合には、乙がその補償を行うものとする。
(知的財産権の帰属等) 第10条 甲及び乙は、出向期間中に、出向者が乙において創作ないし開発した職務発明(特許法第35条第1項に定める職務発明をいう。)、及び作成した著作物(著作権法第15条に定める著作物をいう。)その他職務上創造された知的財産については、乙の職務発明規程及び職務著作規程その他知的財産に関する定めに従い、その権利の帰属を決定し処理するものとする。
(秘密保持) 第11条 甲又は乙は、出向者の出向期間中に知り得た相手方の営業上又は技術上の秘密情報(以下「秘密情報」という。)を、次項に定める場合を除き、相手方の承諾を得ない限り、第三者に開示若しくは漏えい、又は本契約の目的以外に使用してはならない。ただし、以下に定める情報は秘密情報の対象外とする。 ① 開示を受けたときに既に保有していた情報 ② 開示を受けた後、秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報 ③ 開示を受けた後、相手方から開示を受けた情報に関係なく独自に取得し、又は創出した情報 ④ 開示を受けたときに既に公知であった情報 ⑤ 開示を受けた後、自己の責めに帰し得ない事由により公知となった情報
(契約の終了) 第12条 第2条に定める出向期間満了をもって、本契約は当然に終了するものとする。ただし、出向期間を短縮又は延長した場合には、当該短縮又は延長後の期間満了をもって、本契約は当然に終了するものとする。
(合意管轄) 第13条 本契約に関する一切の紛争は、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
(協議条項) 第14条 甲及び乙は、本契約に定めのない事項及び本契約に関する解釈上の疑義については、誠実に協議の上、解決するものとする。
本契約締結の証として、本書を2通作成し、甲乙記名捺印の上、各自1通を保有する。
__年__月__日
(甲)______________
(乙)______________
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本モデル契約書は、経済産業省 令和元年度「大企業人材等新規事業創造支援事業費補助金(中小企業新事業創出促進対策事業)」に係る事業の一環として、一般社団法人環境共創イニシアチブが実施主体として、業務の一部を株式会社野村総合研究所に委託のうえ、作成したものです。作成にあたっては、東京八丁堀法律事務所 白石紘一弁護士の協力をいただいています。
一般社団法人環境共創イニシアチブその他本モデル契約書の作成に携わった法人・個人は、本モデル契約書に関して、法律上の責任又は明示若しくは黙示の保証責任を問わず、いかなる責任も負担しません。なお、本モデル契約書は将来予告なく変更されることがあります。
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