この OAC 取引基本契約モデル案は、ひな型。条文一つ一つを自社の実態に合わせて調整し、使用して頂きたい。
ガイドライン
第1 契約書とは
●契約書とは
1)契約書の意義
原則として「契約書」とは、契約内容(合意内容)を書面化したものであり、その位置づけは契約の存在や内容を証する「証拠」の書面である。(言い換えれば、会議の内容を書面化した議事録みたいなものである。)
2)契約書を作成・締結することの実務的な意味
一番大きな意味は、契約内容を証拠として残しておくことにより、後の無用なトラブルを防止することができるという「トラブル防止」の意味である。
特に、担当者の異動がある場合には、(従前の合意内容を知り得ない)後任の担当者のところで生じる無用なトラブルを防止することができる。
● 契約書を作成したにもかかわらず、後に争いが生じるのはなぜか。
契約書において一番大切なことは、
① 合意しておくべきことは、全て網羅されていること(十分性)
② 明確に記載されていること(明確性)の二点である。
● 取引基本契約書の位置づけ
取引基本契約とは、特定の相手方との間において、将来に亘って、継続的に、複数回の契約が締結されて履行される(=複数回の取引が行われる)ことが予定されている場合において、それぞれの個別の契約
(個々の取引)全てに共通する内容について、あらかじめ、まとめて合意しておくもの。(言い換えれば、契約書を取引ごとに毎回締結することは面倒であるので、それぞれの取引において共通する内容については、予め一つの契約書を締結することによって、まとめて合意しておこうというもの。)
このため、取引基本契約は、原則「書面」による「取引基本契約書」という形式となる。
もっとも、取引基本契約は、あくまで複数の取引を今後行うことを予定して、それらの取引を行った際の合意内容を予めまとめておくものである以上、取引基本契約を締結しただけでは原則として具体的な権利義務は発生せず、個別契約が成立した時点で具体的な権利義務が発生するのが通常であることに、留意しておくことが必要である。
● 取引基本契約書を作成・締結しなければならないのか
継続的に、複数回の取引を行うことが予定されている場合において、取引基本契約を締結しなければならないという義務はない。(言い換えれば、取引基本契約を締結するのかしないのかは、自由。)
しかし、取引基本契約を締結することには、以下のようなメリットがある。 A;個別の契約(個々の取引)の際の交渉・協議を省略
B;自己に有利な内容を包括的に一度の機会で合意することが可能
● 個別契約について
取引基本契約を締結した後、個別の取引のための「個別契約」を締結することになる。
個別契約においては、原則として、取引基本契約において予め定めていること以外の事柄について、具体的な個々の取引に応じて、定めるべきこととなる。
本取引基本契約のひな形においては、以下の事項を定めることとしている。
(1)委託する本件業務の内容(本件業務の遂行の結果として乙が甲に交付する成果物(無体物であると否とは問わない。以下「成果物」という)の名称、内容およびその数量を含むが、これに限られない)
(2)本件業務の遂行完了時期(成果物の納期を含む)
(3)成果物の納入場所および納入の方法
(4)本件業務の委託の対価の金額、支払日およびその支払方法
(5)その他必要な事項
取引基本契約を書面で締結した後、個別契約をいかなる形式で締結すれば良いのかについては、個々のケースによって様々である。
発注書だけで行う場合もあれば、発注書と発注請書をもって行う場合もある。また、個別契約書(後述のひな形参照)を締結する場合もある。
本取引基本契約のひな形によれば、以下のいずれかの場合に個別契約が成立するものとしている。
(1)甲および乙が、記名押印した個別契約書を作成したとき。
(2)乙が甲に送付した見積書に基づき、甲が注文書を発行して乙に交付したとき。
(3)甲が発注書を発行して乙に交付し、乙が書面により受諾の意を通知したとき。
●契約締結交渉について
1)契約締結交渉過程
契約締結交渉においては、一般的には、口頭における契約内容の交渉が第1ステップから第4ステップというように順序を踏んで行われることが多い。(5頁の契約書作成までのステップを参照)
2)原案作成者
・契約書の原案を作成するのは、委託者(甲)でも受託者(乙)でもよい。しかし、自らが原案を作成することが望ましいことは言うまでもない。
・ これからは、すでに所有している企業側の契約書とどう折り合いをつけていくかが、鍵である。特に知的財産権の帰属問題は、懇切丁寧に誠意をもって合意をもとめ、実現に努めて欲しい。
● 契約書の形式について
1)形式的記載事項
・題名
題名は、どのようなものであっても「契約書」となる。
すなわち「念書」「覚書」「協定書」「確認書」「合意書」も契約書という題名をつけたものと、変わりがないのが原則。(仮契約書であっても、契約の成立の証拠となり得る契約書もある)
・ 日付
契約書における「日付」は、契約書を実際に作成、締結した日が日付となる。
* 日付について確定しておきたいときは、公証役場で確定日付をもらうことができる。
・ 当事者
契約の当事者とは、合意する者(法人等)である。契約には、この当事者が「記名・捺印」することになる。
法人が契約当事者となる場合には、「記名・捺印」は、代表取締役が行うことが通常。(この場合には、代表取締役である旨と、代表取締役の氏名を記載するのが一般的である。なお、代表取締役でない者が記名・捺印を行う場合には、当該者が当該契約を締結することができる権限を有しているか否か、が問題になる。)
2)契約書の通数
・必要な通数
各当事者の数だけ契約書を作成するのが一般的だが原本として1通だけで、それ以外の当事者はコピーというやり方もある。
3)収入印紙
・収入印紙の必要性
印紙税法に定める契約書には収入印紙を貼らなければならない。(印紙税)但し、貼らなかったとしても、契約それ自体が無効となるわけではない。
貼った収入印紙には、「消印」をする。(印紙税法8条2項)
・ 収入印紙を貼らなかった場合
契約書に収入印紙を貼らないときはプラス2倍の過怠税、消印をしなかったときにもプラス同額の過怠税が賦課される。
・ 印紙税の負担
印紙税の負担について、契約当事者間において合意しておくことができることに留意すべきである。
・印紙税額
本件取引につきましては、原則として「請負」形式になるものと思われので、7号文書として
4000円、個別契約書については2号文書として契約金額により納税額が決定されるもの。(要確認)
●署名と印鑑
1)署名と記名
・署名とは名義人自ら手書きで氏名を記載すること。(押印はいらない)
・ 記名とは、署名以外の全てである。(記名であるからこそ、「押印」「捺印」が必要となる。)
2)印章の種類、効力
・実印:公的に印鑑登録をしている印章(印鑑)をいう。
・ 認め印:実印以外の印章(印鑑)をいう。
・ 実印と認め印の違い
法律上はない。双方とも、押印の「手段」としての印章になる。すなわち、法律により印章の押印が求められている場合であっても、権限がある人が、「その人の印章」を押したということが重要であって、押印した印章が、実印か認め印かで法的効力は全く変わらない。
3)契約書における押印・捺印の種類
契約書における「押印」「捺印」は、記名とともになされるだけではない。
・ 形式を整えるための押印
ア 契印 契約書が複数枚になるときに両頁にまたがって押す。イ 割り印 同じ内容の契約書を複数作成したとき
・ 内容を変更するための押印
ウ 訂正印 書き直し、書き加え、削除
エ 捨て印 後日訂正印を押さなくてもよいように事前に押しておく
・ その他
オ 消印 収入印紙について
● 契約書をつくる
契約書が取引の実態を正確に表現していて、双方が容易に理解できる内容になっている契約書こそが、わかりやすい、よい契約書だ。
「十分性」と「明確性」の2つに平易さを兼ね備えた契約書は担当者が交代したときでも理解できるので、使いやすいものとなる。
この OAC 取引基本契約モデル案は、ひな型。条文一つ一つを自社の実態に合わせて調整し、使用して頂きたい。
第2 知的財産権
●知的財産権とは
知的財産権とは、人々の幅広い知的な創作活動の成果を保証し、それらの創作者に一定期間の権利を与えて保護する権利である。具体的には、「特許権」・「実用新案権」・「意匠権」・「商標権」・「著作権」などを云う。その中でも「著作権」は、思想、感情の創作的表現である著作物などを保護し、著作物などを無断利用から守るための権利である。この「著作権」がクリエイターにはもっとも身近で重要だ。自分で作品を制作することなので、是非とも知識として身につけておきたい。
●産業財産権とは
1)特許権・実用新案権
2)意匠権
3)商標権
xxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxx/xxxx.xxx?xxxx/xxxxx/x_xxxxxx/xxxxxx00.xxx(特許庁の産業財産権情報)
●著作権
1)著作権(財産としての著作権、譲渡は可能)
2)著作人格権(譲渡の対象とはならない)
xxxx://xxx.xxxxx.xx.xx/xxxxxxxxxx/xxxxxxxxxxxxxxxx.xxxx(文化庁の知財権情報)
モデル案における考え方
知的財産権は、経済社会に貢献するもの。重要なことは、権利を守ることではなく、利益を実現していくこと。そして、リスク回避のために防衛的になるのではなく、適切な攻めと守りを実践していくことが必要だ。また、自己目的化せず、自社のビジネスモデルの中に戦略的に組み込んで、イノベーションとして結実させるという本来的な経営戦略のひとつとして知的財産権を位置づけることが望ましい。
そこで、本取引基本契約モデル案のひな形においては、第22条で、知的財産権の帰属としては、記述していませんが
1. 成果物の知的財産権は、黙っていても受託者に帰属するという原則があります。
これは、業務の実施の過程、または結果において発生する成果物の意匠、ノウハウ、ならびにこれに関する、著作権、その他一切の権利は、乙に帰属するものとするというもので(知的財産基本法第2条第2項)で保証されています。知的財産権とは、知的創造活動によって生み出されたものを、創作した人の財産として保護するための制度で、ここ近年、政府主導によって目が向けられています。
2. 委託者が知的財産権の取得を希望する場合には、予め明らかにすること(第22条3項)
3. 成果物の制作にあたり第三者の権利処理が必要な場合には、受託者がこれを行う(第24条1項)などの原則を定めています。
第3 契約書作成までのステップ
第1ステップ クライアント → デザイン制作会社
1)業務内容の背景
2)デザインの条件
3)デザインの成果物
4)期間
5)予算
6)知的財産権
第2ステップ クライアント ← デザイン制作会社
1)提案可能なデザイン業務
2)デザイン制作プロセス
3)成果物の内容、数量
4)予算に対する条件
第3ステップ
1)第1ステップ、第2ステップによる業務範囲、制作プロセス、期間等の内容確認
2)予算と成果物の量、知的財産権の取り扱い等のバランスの合意。
第4ステップ
1)第3ステップの内容により見積の確認(見積書)
2)契約書の作成