Contract
レッド社主張書面
【請求】
レッド社は以下の仲裁判断を求める。蟹事件
1) ブルー社は、レッド社に対し、売買代金 200 万米ドルを支払え。
2) レッド社は、ブルー社がグリーン社との売買契約で要した 50 万米ドルの支払い債務を負わない。
ブルー・ホット事件
3) ブルー社は、ネゴランド国内で〈ブルー・ホット〉シリーズの販売を行う第三者に対して
〈ブルー・ホット〉シリーズを提供してはならない。
4) ブルー社は、レッド社に対し、40 万米ドルを支払え。 Third‐Party Funding
5) レッド社は、ブルー社に対して、レッド社と第三者xxxxとの間で締結された契約の内容を開示する義務を負わない。
蟹事件
争点 1
第1【主張の要旨】
レッド社(売主)とブルー社(買主)との間で、1 杯あたり 200 米ドルのネゴ蟹 1 万杯の売買契約(以下、「本件売買契約」)が成立している。よって、本件売買契約に基づきブルー社はレッド社に対してネゴ蟹の売買代金 200 万米ドルを支払う義務を負う。なお、ブルー社は、本件売買契約を、錯誤を理由に取り消すことはできない。
第2【主張の理由】
Ⅰ 2019 年 3 月 4 日、ブルー社の申込をレッド社が承諾したことにより、本件売買契約が成 立した。
レッド社とブルー社の間で、申込みと承諾によって契約が成立し、商品の売買価格に関しては、勘定系システムで決定される旨の合意があった。
1. ブルー社の申込みをレッド社が承諾した。
1.1. 2019 年 3 月 4 日 1 時頃、ブルー社が、AI を活用した在庫管理・受発注管理システムであるスマート・ブルーを用いて、レッド社に対し、ネゴ蟹 1 万杯を購入するとの 申込みを行った(¶14)。同日 5 時頃、レッド社はブルー社に対し、ネゴ蟹 1 万杯の発送により申込みに対する承諾を行った(¶14)。
1.2. よって、ブルー社の申込みをレッド社が承諾したことにより、ネゴ蟹 1 万杯の売買契約が成立した。
2. 商品の売買価格は勘定系システムによって決定される。
レッド社とブルー社との間でやり取りされていた商品の売買価格は、RB リンク導入時から RB リンク上の勘定系システムで決定されている。このプロセスは、スマート・ブルー導入後も変化がない。その理由は以下の 2 点である。
2.1. 2012 年から存在する勘定系のシステムにおいて価格は決定される。
2012 年にレッド社とブルー社の間で、商品に関する情報の提供及び注文・発送の管理等に関するシステムである RB リンクを導入するにあたって、レッド社とブルー社は RB リンクの導入に関する別添 6 覚書を締結した。この覚書に基づき、レッド社は
ブルー社と共同で、〈グローバル・キッチン〉の対象となる商品の在庫・入荷予定・レ ッド社による販売価格について、情報管理とブルー社への情報提供を行うシステムと、ブルー社からの注文を自動処理し、発送指示を行うシステムの 2 つを開発した(別添
6 第 2 項)。この 2 つのシステムを用いた取引において、販売価格はレッド社の情報の管理と提供を行うシステムからブルー社に提供されていた(¶10)。このように、 2012 年の RB リンク運用開始後、商品の販売価格は、レッド社の価格等の情報を提供するシステムからブルー社に提供されていた価格によって決定されていた。
2.2. スマート・ブルー導入に伴い、スマート・ブルーが予測注文を行うための情報を提 供する、情報系システムが追加されたが、従来の受発注プロセスには変化がない。
2018 年、ブルー社はスマート・ブルーを開発・導入し(¶11)、これに伴って、スマート・ブルーが注文の予測に使用する情報を提供する情報系システムが、新しく開発された(2019 年 11 月 10 日の別添 7 メール)。この情報系システムは、2012 年から存在していた価格等の情報提供と受発注を行うシステムとは独立したものとして構築された。この際、従来から存在していたブルー社からの注文を自動処理する受発注のシステムは、新たに構築された情報系システムとは別に、勘定系システムと呼ばれるようになった(¶12)。
したがって、スマート・ブルー導入以降も、従来から商品の販売価格を扱っていた勘定系システムを通じて注文を行う受発注のプロセスは変化していない。
2.3. 本件において、勘定系システムは、本件売買契約について、ネゴ蟹 1 杯あたりの金 額を 200 米ドルとして処理した。この事実は、リアルタイムで RB リンクを通じた取引を確認することができる、RB Dashboard の勘定系システムのスクリーン上でも確認することができた(¶15)。よって、勘定系システムにおける販売価格に基づき、ネゴ蟹 1 杯あたりの売買価格は 200 米ドルとして決定された。
2.4. したがって、レッド社とブルー社の間で、1 杯あたり 200 米ドルのネゴ蟹を 1 万杯、計 200 万米ドルで売買するという、本件売買契約が有効に成立した。
なお、ブルー社は、情報系システムに表示されていた価格情報であるネゴ蟹 1 杯あ
たり 50 米ドルが契約内容であると主張している(¶16)。しかし、上記(2.2)の通り、情報系システム上の価格はスマート・ブルーの顧客からの注文状況の予測に用いられるものに過ぎないため、情報系システム上の価格が売買価格となるとのブルー社の主張は認められるべきではない。また、ネゴ蟹の売買契約は 1 杯あたり 50 米ドルでな
く 200 米ドルで成立しているため、レッド社とブルー社の間で価格の点において意思の合致がないため本件売買契約が不成立であるといった主張も認められるべきではない。
Ⅱ ブルー社の主張する売買契約の取消しは認められるべきではない。
ブルー社は、自身が誤った想定のもと本件売買契約を締結したとして、ユニドロワ国際商事契約原則(以下「UPICC」、とする)に基づき、錯誤による本件売買契約の取消し(UPICC 第
3.2.2 条)を主張することが考えられる。しかし、本件売買契約の取消しは認められるべきではない。なぜなら、同条(1)の規定する錯誤による取消しが認められるための要件を充足せず、仮に錯誤による取消しの要件を充足したとしても、同条⑵が規定する錯誤による取消しが認められない場合に該当するからである。
3. ブルー社の主張する錯誤は、錯誤による取消しの要件を充足しない。
UPICC 第 3.2.2 条(1)は錯誤による取消しに必要な要件として、重要な錯誤であ り(1項柱書)、かつ、(a)号のいずれかに該当することを規定している。
本件においてブルー社が陥った錯誤とは、(ア)大豊漁だったという情報(イ)ネゴ蟹の価格が安くなっているとの情報(ウ)ネゴ蟹の価格が 1 杯あたり 50 米ドルであるとの 3 つ
の情報(以下、「本件情報」)(¶14)が正しいとの誤った想定であると考えられる。ここで、ブルー社が陥った錯誤が重要な錯誤である点については、争いはない。なぜなら、本件情報がレッド社のシステムからスマート・ブルーに提供されなければ、スマート・ブルーがネゴ蟹 1 万杯を注文することはなかったという点について、両社の見解が一致しているからである(¶15)。
3.1. しかし、ブルー社の陥った錯誤に該当する事情は同条(1)(a)が規定する 3 つの要件のいずれも充足しないため、錯誤による取消しは認められるべきでない。以下、その理由を説明する。(なお、本件が 1 つ目の要件である、「相手方が、同じ錯誤に陥っていた場合」に当てはまらないことは明らかである。)
3.2. 本件は、同条(1)(a)2 つ目の要件である「相手方が錯誤当事者の錯誤を生じさせた場合」に該当しない。
ブルー社の錯誤の対象となった本件情報は、ブルー社に起因する第三者の不正アクセスによって書き換えられた情報である。この不正アクセスは、ブルー社からレッド社に送られたメールの添付ファイルがウイルスに汚染されていたことが原因である(¶15)。
本件では、レッド社は十分なウイルス対策を講じていたにもかかわらず(¶15)、それを突破する最新型ウイルス(¶15)によって外部からの不正アクセスを受け感染した。したがって、レッド社はブルー社からのウイルスに感染したメールが原因で本件情報を送信してしまったため、レッド社が作り出した錯誤の対象であるとはいえない。
よって、ブルー社の錯誤が錯誤に陥った原因はブルー社自身が生じさせたものであり、レッド社が生じさせたものではない。
3.3. レッド社は錯誤を知り、又は知るべきであったとは言えない。
本条(1)(a)3 つ目の要件は、錯誤当事者が錯誤に陥っていることを、契約締結時に相手方が知り、又は知るべきであった場合であって、かつ錯誤当事者を錯誤に陥らせたままにすることがxx取引に反する場合である。
しかし、レッド社が不正アクセスによって情報が本件情報に書き換えられたことを知ったのは 3 月 4 日 8 時(¶15)であり、契約締結時(3 月 4 日 5 時)にブルー社の錯誤を知っていたとは言えない。
また、売買代金額や注文量の大きさを根拠に、予測注文システムを用いた注文におけるブルー社の錯誤をレッド社が知るべきであったといえない。なぜなら、xx価格でなされた注文であり通常の取引と考えられることに加え、レッド社は注文がブルー社の顧客の注文によるものか、AI の予測注文によるものかを区別できず(¶11)、顧客による大量購入とも想定されるからである。
したがって、レッド社はブルー社が錯誤に陥ったことを知るべきであったとは言えな い。
3.4. よって、本件は、UPICC 第 3.2.2 条(1)(a)のいずれの場合にも該当せず、錯誤による取消しの要件を充足しない。
4. 仮に、UPICC 第 3.2.2 条(1)が定める要件のうち、2 つ目、3 つ目を充足するとして も、本件は、同条(2)(b)が規定する「錯誤当事者が錯誤のリスクを引き受けていた場合」に該当し、錯誤当事者による契約の取消しは認められない。
4.1. スマート・ブルーを開発・導入したブルー社は、真正でない情報に基づいてスマート・ブルーが判断し、自動的に予測注文を行うリスクを引き受けていた。
4.2. 本件では、レッド社がスマート・ブルーに提供する情報のうち、第三者から提供された情報の真正さについてレッド社が責任を負わない旨を両当事者が合意しており (2017 年 11 月 15 日及び 17 日の別添 7 メール)、ブルー社はレッド社から真正でな
い情報が提供されるリスクを引き受けていた。ブルー社は、スマート・ブルーが予測注文に用いる情報が誤っている可能性を想定しながらも、例えば、スマート・ブルーによって行われる注文量や売買代金額の異常値を検知するプログラムや、勘定系システムの情報と情報系システムの情報を照合し真正ではない情報を排除するプログラム等を導入しなかった。このようにブルー社は、〈グローバル・キッチン〉の取引を簡易化し、スマート・ブルーに受発注及び契約の締結にかかるすべての処理を任せる代わりに、真正でない情報に基づきスマート・ブルーが予測注文を行うことで発生する可能性のある損害やリスクを引き受けていた。つまり錯誤当事者であるブルー社は錯誤のリスクを引き受けていたといえる。
4.3. したがって、本件は錯誤による取消しを主張することができない場合に該当する
UPICC 第 3.2.2 条(2)。
5. よって、本件における誤った想定は、UPICC 第 3.2.2 条(1)が規定する錯誤による取消しの要件を充足せず、仮にその要件を充足したとしても同条(2)が規定する錯誤による取消しが認められない場合に該当するため、ブルー社の主張する錯誤による取消しは認められるべきではない。
争点2
第1【主張の要旨】
ブルー社が支払うべき額は 200 万米ドルであり、減額されるべき事実や法的根拠はない。
第2【主張の理由】
ブルー社は、レッド社とブルー社の間で成立した本件売買契約におけるネゴ蟹の売買代金として、200 万米ドル全額を支払わねばならず、それを減額すべき事実はない。なぜなら、本件売買契約においてレッド社の情報提供義務違反が存在せず、また、仮に情報提供義務違反があったとしても損害との間に因果関係(UPICC 第 7.4.2 条及び第 7.4.3 条注釈 3)がないことから、レッド社はブルー社に対して情報提供義務違反による損害賠償債務を負っておらず、ブル―社の債務と相殺できるようなレッド社の債務は存在しないからである(UPICC 第
8.1 条)。
Ⅰ レッド社による情報提供義務の違反はない。
1. 本件情報が間違っていたことがレッド社の情報提供義務違反であるというブルー社の主張には理由がない。なぜなら、レッド社は、第三者から提供される情報に関して、真正な情報を提供する義務を負っていなかったからである。
1.1. レッド社が負っていた別添 7 メールに基づく情報提供義務は、スマート・ブルーが予測を行うための情報を提供することであり、ネゴランド国の市場や価格等に関する情報を提供する義務である。具体的には、ネゴランド国での生産量や、市場価格等が提供義務に含まれている。ただし、第三者から提供された情報の真正さについてレッド社は責任を負わない旨の合意があった(2019 年 11 月 10 日及び 17 日の別添 7 メール)。
以上よりレッド社は、ネゴランド国の市場状況に関する情報を提供する義務を負っているが、第三者から提供された情報に関しては真正な情報を提供する義務は負わない。
1.2. 本件において、レッド社のシステムからスマート・ブルーに提供された情報は、別 添 7 メールでレッド社が真正さについて責任を負わない旨を合意していた情報に該 当する。なぜなら、外部からの不正アクセスによって提供された本件情報は(¶15)、レッド社が独自に調査して得た情報ではなく、第三者により提供された情報である
からである。よって、本件情報について、レッド社は別添 7 メールに基づく情報提供義務に違反していない。
Ⅱ 仮に、レッド社が別添 7 のメールに基づく情報提供義務に違反していたとしても、レッ ド社の履行を妨害したブルー社は支払い債務の減額を主張できない。
錯誤による取消しの要件を充足しないという主張(争点 1Ⅱ1.2)で述べた通り、ブルー社に間違った情報が提供された原因はブルー社にある。
2. レッド社の別添 7 メールに基づく情報提供義務の履行をウイルスに汚染されたメールを送付することによって妨害したブルー社は、UPICC 第 7.1.2 条が規定する不履行の責任を追及することができない債権者に該当する。
2.1. 同条は「当事者は、相手方の不履行が自己の作為もしくは不作為により生じたときは、…相手方の不履行を主張することができない」と規定する。
2.2. 本件では、ブルー社がレッド社に対して送付したウイルスに汚染されたメールが原因となり、レッド社は外部からの不正アクセスを受けた(¶15)。そして、事実とは異なる本件情報がブルー社に提供された。つまり、ブルー社の行為によって、レッド社の真正な情報を提供する義務の違反が生じたのであり、ブルー社はレッド社の債務の履行を妨げた。
2.3. したがって、レッド社の情報提供義務の不履行は、ブルー社の作為により生じており、同条が規定する「相手方の不履行が自己の作為もしくは不作為により生じたとき」に該当する。
3. よって、ブルー社は、減額すべき根拠としてレッド社の情報提供義務の不履行を主張することはできない。
Ⅲ 仮に、レッド社が別添 7 メールに基づく情報提供義務に違反していたとしても、ブル ー社にはレッド社の情報提供義務による損害が発生していない。仮にブルー社に損害が生じていたとしても、レッド社の義務違反との間に因果関係がなく、損害賠償請求権は発生しない。
4. ブルー社は、本件売買契約に基づくレッド社に対してネゴ蟹の代金支払い債務を有しているのみであり、レッド社の義務違反による損害は無く、損害賠償請求権は発生しない。
5. 仮に、ブルー社に金銭支払い債務による損害が生じていたとしても、レッド社の情報提供義務違反と、ブルー社の損害との間に因果関係はない。ブルー社は本件売買契約の結果発生した代金額 200 万米ドルと、グリーン社との契約によって発生した売買代金債権との差額を損害として主張すると考えられる。しかし、その差額という損害を被ったのは、ブルー社がレッド社から真正ではない情報が提供された際のリスクに備えた必要な処置を講じなかったためであり、レッド社による本件情報の提供という義務違反の直接の帰結ではない。
なぜならブルー社は、予測に使う情報の一部が間違っていたとしても、レッド社に責任を問わない(2019 年 11 月 15 日及び 17 日の別添 7 メール)ことに合意しており、スマート・ブルーが真正ではない情報を予測に用いて注文を行うことは、十分想定されうる事態であった。そのような事態に備えて、ブルー社は契約成立までの間に、注文内容を確認することは容易であった。
しかし、ブルー社は、スマート・ブルーの注文内容を管理できる状態に置かずに運用し、真正ではない情報をもとに判断する場合に備えて注文の内容の確認や申し込みの撤回といった適切な処置を講じなかった。よって、ブルー社の損害はレッド社の義務違反ではなく、ブルー社自身が注文内容を確認しなかったことに起因しているため、損害
と義務違反の間に因果関係は存在しない。
6. よって、レッド社の情報提供義務違反によるブルー社の損害は発生しておらず、仮に発生していたとしても、義務違反と損害の間に因果関係が存在しないため、ブルー社に損害賠償請求権は発生しない。
Ⅳ 以上Ⅰ~Ⅲより、レッド社が別添 7 メールに基づく情報提供義務に違反したという事実はなく、仮に情報提供義務違反があったとしても、ブルー社はレッド社の不履行を主張することはできない。さらに、仮に仮にブルー社がレッド社の不履行を主張することができても、損害賠償の要件を満たさないため、レッド社は損害賠償支払債務を負わない。
よって、レッド社が負担すべき損害賠償債務はないため相殺は認められない。また、同様の理由により、ブルー社の支払い債務の金額に関して減額すべき事実も存在しない。
争点3
第1【主張の要旨】
レッド社は、ブルー社がネゴ蟹のグリーン社への売却に要した費用 50 万米ドルを支払う義務を負わない。
第2【主張の理由】
レッド社は、ネゴ蟹の所有者が誰であるかにかかわらず、グリーン社への販売に要した関税 及び輸送費 50 万米ドル(以下、「本件費用」とする)の全額を負担する義務を負わない。
なぜなら、¶17 において両社は費用や損失の分配に関して今後何らの解決を図る事のみに合意しており、レッド社が費用を全額負担する旨の合意は存在しないからである。
Ⅰ ネゴ蟹はブルー社のものであり、ブルー社が本件費用を負担する義務を負う。
本件において、ブルー社がグリーン社との契約で要した本件費用をレッド社が全額負担するという合意は存在しない。
1. 本件でレッド社とブルー社は、¶17 の電話でネゴ蟹の売買契約の成否及びネゴ蟹はどちらが所有するものかについて議論したが、その点に関して合意に至ることはなかった。
2. 仮に本件売買契約が成立し、ネゴ蟹の所有権がブルー社にあったのであれば、グリーン社への販売はブルー社が単独でグリーン社と契約し、ネゴ蟹の輸送を行ったものと解されるべきである。この場合、レッド社とブルー社の間でレッド社が関税及び輸送費用を別途負担するといった特段の合意がなされない限り、自己所有の蟹を自己で売却したブルー社が本件費用を全額負担する責任を負うべきである。
3. 本件では、争点 1 で述べたようにレッド社とブルー社との間で本件売買契約は成立しているため、ブルー社がネゴ蟹の所有権を有する。また、ブルー社がグリーン社と契約した後に、レッド社とブルー社の間でレッド社が本件費用を負担する旨の特段の合意がなされた事実はない。よって、ブルー社は自己の所有するネゴ蟹の売却に要した本件費用を負担するべきである。
Ⅱ 仮に、ネゴ蟹の所有者がレッド社であるとしても、レッド社はグリーン社への販売にか かった関税及び輸送費用を全額負担する義務を負わない。
4. 仮にレッド社が費用を負担する場合であっても、その負担額は 20 万米ドルあるいは 25
万米ドルである。
4.1. なぜなら、仮にレッド社がブルー社に対してグリーン社へのネゴ蟹の販売を依頼したとしても、要した費用として請求できるのは合理的な額までであるべきだからである。当初ブルー社は、グリーン社への転売にかかる費用は 20 万米ドルであると想
定していた。その後、運賃の急騰や追加関税の賦課により費用が 50 万米ドルに急激に増加したにもかかわらず、ブルー社は費用の増加についてレッド社になんら通知や説明をすることなく、グリーン社にネゴ蟹を売却した。仮にブルー社が、レッド社がネゴ蟹の販売に駆る費用を負担することを想定していたのであれば、費用増加についてレッド社に通知するべきであり、事前の説明なく費用の全額の負担をレッド社に請求することは甚だ不合理である。よって、仮にネゴ蟹の所有者がレッド社であるとしても、レッド社の負担すべき額は合理的な範囲の額にとどまり、最高でも費用増加前の 20 万米ドルが妥当である。
4.2. 仮に、ブルー社が 50 万米ドル全額を負担する義務を負わなかったとしても、本件費用はレッド社とブルー社で折半されるべきである。なぜなら、レッド社とブルー社 との間ではネゴ蟹を速やかに、誰かにできるだけ高い値段で買ってもらうことが望 ましいという点で合意し(¶17)、その合意の下で、両社はグリーン社への販売に向けて協働したからである。レッド社はネゴ蟹の販売先としてグリーン社を紹介し、ブ ルー社はネゴ蟹をグリーン社に販売する契約手続きを引き受けた。よって、両社が ネゴ蟹を速やかに販売するために行動し、各々がネゴ蟹のグリーン社への販売に寄 与した以上、ネゴ蟹をグリーン社に販売する際に要した費用は、レッド社とブルー 社で分担して負担すべきであり、折半すべきである。
ブルー・ホット事件
争点1
第1【主張の要旨】
ブラウン商事のネゴランド国の店舗におけるブルー・ホットの販売は、別添 10 Joint Venture Agreement(以下、「合弁契約」)第 14.3 条のブルー社の義務に違反する。加えて、合弁契約第
14.1 条のブルー社の義務にも違反する。
第2【主張の理由】
Ⅰ:ブルー社は合弁契約第 14.3 条の義務に違反した。
A ブルー社は合弁契約第 14.3 条の義務を負う。
1. レッド社とブルー社は、2014 年 12 月 15 日に合弁契約を締結し、2015 年 1 月に合弁会社であるイエロー社が営業を開始した(¶20、¶21)。合弁契約第 14.3 条は、“Neither party shall carry on nor be engaged in any business that compete with the business of Yellow during the period of this Agreement. ”と規定しており、ブルー社は、本契約の期間内において、イエロー社の即席食品事業と競合するあらゆる事業に従事、またはその継続をしてはならない義務を負う。
2. 本条における“any business that compete with the business of Yellow”とは、
(ⅰ)イエロー社の収益を減少させるような事業であり、かつ、(ⅱ)製造技術の如何にかかわらず、イエロー社の即席食品と類似する即席食品を、イエロー社の事業対象地域において販売することである。その理由は以下の通りである。
2.1. (ⅰ)本条の制定目的は、イエロー社の事業と競合する即席食品の販売事業によって、イエロー社の収益が減少することを防ぐことである。
2.2. (ⅱ)イエロー社は、即席食品をネゴランド国において製造し、ネゴランド国と諸外国で販売するために設立されたこと(合弁契約 WITNESSETH、¶21)。また、イエロー社の即席食品は、消費者の手軽に美味しいものを食べたい(別添 11)という需要に応えるために開発・製造・販売されるものであって、その過程において利用される技
術如何によって、類似するかどうかが判断されるべきではないこと。
3. したがって、本条によれば、ブルー社が、イエロー社の収益を減少させるようなイエロー社の即席食品と類似する即席食品の販売を、イエロー社の事業対象地域において行うことは禁じられる。
4. さらに本条は、ブルー社が第三者に即席食品を提供することで、イエロー社の事業対象地域にて競合する即席食品の販売を行うことも禁じている。その理由は以下の通りである。
4.1. ブルー社が第三者を介して行う、イエロー社と類似する即席食品の販売も、ブルー社自身がイエロー社と競合する即席食品の販売を行うことと、何ら違いがないということ。
4.2. 第三者を介する販売が認められれば、ブルー社は第三者を介するだけで本条の適用を免れることができ、本条の、競合する事業によるイエロー社への損害を防ぐという目的にそぐわないということ。
5. よって、ブルー社は合弁契約第 14.3 条に基づき、製造技術や販売主体を問わず、イエ
ロー社の収益を減少させるような、イエロー社の即席食品と類似する即席食品の販売事業に、イエロー社の事業対象地域にて従事、またはその継続をしてはならない義務を負う。
B ブルー社が、ブラウン商事のネゴランド国においてブルー・ホットを販売する意向を知 りながら、ブラウン商事によるネゴランド国の店舗におけるブルー・ホットの販売を可能にしたことは、合弁契約第 14.3 条に違反する。
6. ブルー社は上記の通り、合弁契約第 14.3 条に基づき、製造技術や販売主体を問わず、
イエロー社の収益を減少させるような、イエロー社の即席食品と類似する即席食品の販売事業に、イエロー社の事業対象地域にて従事、その継続をしてはならない義務を負っている。しかしながら、ブルー社はブラウン商事がネゴランド国でブルー・ホットを販売する意向であることを知っていたにもかかわらず、ブラウン商事によるネゴランド国の店舗におけるブルー・ホットの販売を可能にすることで、当該義務に違反した。その義務違反に該当する事実は以下の通りである。
6.1. ブルー・ホットは、イエロー社の即席食品であるイエロー・クイックと、簡単に美味しいものが食べられる即席食品であるという点で、類似する即席食品であること (別添 13)。
6.2. ブルー社は、ブラウン商事がイエロー社の事業対象地域であるネゴランド国にて、イエロー・クイックと競合する製品であるブルー・ホットを販売する意向を知っていたにもかかわらず、ネゴランド国等のイエロー社の事業対象地域において、ブルー・ホットを販売してはならないといった、ブルー・ホットの販売可能地域を制限する条項を設けずに、ブラウン商事による販売を可能にしたこと(別添 13)。
6.3. ブルー・ホットが販売された結果、2018 年のネゴランド国におけるイエロー・クイックの売上が半減し、イエロー社に 100 万米ドルの減益が生じたこと(¶24、別添 12鑑定意見)。
7. よって、ブルー社は合弁契約第 14.3 条に基づいて、製造技術や販売主体を問わず、イ
エロー社の収益を減少させるような、イエロー社の即席食品と類似する即席食品の販売事業に、イエロー社の事業対象地域にて従事、またはその継続をしてはならない義務を負っていた。それにもかかわらず、ブラウン商事によるネゴランド国の店舗におけるブルー・ホットの販売を可能にしたため、合弁契約第 14.3 条の義務に違反した。
Ⅱ:加えて、ブルー社は合弁契約第 14.1 条の義務にも違反した。
A ブルー社は合弁契約第 14.1 条の義務を負う。
8. 合弁契約第 14.1 条は、“Both parties shall use their best efforts and shall cooperate with each other in good faith to make the business of Yellow to be successful.”と規定しており、ブルー社はイエロー社の事業を成功させるために最善の努力を尽くし、かつ、誠実に互いに協力する義務を負う。本条における、“to make the business of Yellow to be successful”とは、イエロー社の収益を増加させることである。
9. よって、ブルー社は合弁契約第 14.1 条に基づき、イエロー社の収益を増加させるため
に、例えばイエロー社の事業と競合するであろう即席食品を販売する際に、イエロー社の収益に影響を与えないように最大限の工夫をすることや、事前にレッド社と誠実に協議をする等の義務を負う。
B ブルー社が、ブラウン商事がネゴランド国においてブルー・ホットを販売する意向を知 りながら、ブラウン商事によるネゴランド国におけるブルー・ホットの販売を可能にしたことは、合弁契約第 14.1 条の義務に違反する。
10. ブルー社は、上記の通り、合弁契約第 14.1 条に基づき、イエロー社の収益を増加させ
るために、例えば、イエロー社の事業と競合するであろう即席食品を販売する際に、イエロー社の収益に影響を与えないように最大限の工夫することや、事前にレッド社と誠実に協議をする等の義務を負う。しかし、ブルー社は、ブラウン商事によるブルー・ホットのネゴランド国での販売に際し、イエロー社の収益に影響を与えないように最大限の工夫をすることや、レッド社との間で協議を設けなかったため、同条の義務に違反した。その理由は以下の通りである。
10.1. 本件において、ブルー社は、ブラウン商事がネゴランド国内でブルー・ホットを販売する意向であることを知っていた(別添 13)ため、ブラウン商事と取引を開始する前にブルー・ホットを販売してもよいか、レッド社と協議を設けることは可能であった。しかしブルー社は、レッド社との間で協議を設けることはなかったこと。
10.2. ブルー社はブラウン商事との契約において、ブルー・ホットを販売することのできる地域を制限するような条項を設けるなどの、イエロー社の収益に影響を与えないような工夫をすることはできた。しかし、ブルー社はブルー・ホットの販売可能地域を制限する条項を入れる等の努力を怠ったこと。
10.3. 上記の事情の結果、ブラウン商事によるネゴランド国におけるブルー・ホットの販売が開始され、ネゴランド国内におけるイエロー・クイックの売上が減少した(¶24)。そのため、イエロー社に 100 万米ドルの減益が生じ、イエロー社は“successful”な状態(上記 9)でなくなったこと。
11. 上記の理由より、ブルー社はイエロー社の収益を増加させるために、ブルー・ホットの
販売において、最善の努力を尽くし、かつ、誠実に協力をしたとは言えない。したがって、ブルー社は合弁契約第 14.1 条に違反する。
12. よって、ブルー社は合弁契約第 14.3 条の義務に違反するだけでなく、合弁契約第 14.1
条の義務にも違反した。
争点2
第1【主張の要旨】
レッド社は、ブルー社はネゴランド国内でブルー・ホットの販売を行う第三者に対して、ブルー・ホットを提供してはならないとの仲裁判断を求める。
第2【主張の理由】
1. ブルー社は、合弁契約第 14.3 条に基づき、製造技術や販売主体を問わず、イエロー社の収益を減少させるような、イエロー社の即席食品と類似する即席食品の販売を、イエロー社の事業対象地域において行ってはならない義務を負う。また、合弁契約第 14.1 条に基づき、イエロー社の収益を増加させるために、最善の努力を尽くす義務を負う。
2. 本件において、ブルー社が、ネゴランド国内でブルー・ホットの販売を行う第三者に対して、ブルー・ホットを提供することは、合弁契約第 14.1 条及び第 14.3 条に違反す る。なぜなら、イエロー社の即席食品と類似するブルー・ホットが、イエロー社の事業対象地域である、ネゴランド国内で供給され続ける場合、2019 年以降もイエロー・クイックの売上は 2018 年と同程度のものとなると考えられており(別添 12 鑑定意見)、イエロー社の“successful”ではない状態(上記 9)が継続するためである。
3. 以上より、仮に、ブルー社がネゴランド国内でブルー・ホットの販売を行う第三者に対して、ブルー・ホットを提供し続けることが許されてしまえば、ブルー社による合弁契約第 14.1 条違反及び第 14.3 条違反の状態を放置することになる。
4. したがって、レッド社は UPICC 第 7.2.2 条に基づき、仲裁廷に対して、ブルー社はネゴランド国内でブルー・ホットの販売を行う第三者に対してブルー・ホットを提供してはならない、との仲裁判断を求める。
5. なお、UPICC 第 7.2.2 条の(a)~(e)に該当する事情はない。その理由は以下の通りである。
5.1. 本件において、(a)、(c)、(d)、(e)に該当する事情は存在しないことは明らかである。
5.2. (b)不合理なほどに困難ではない。
レッド社が求める仲裁判断は、ブルー社にとって、不合理なほどに困難なものではないため、同号に該当しない。なぜなら、不合理なほどに困難かどうかは、履行により債務者が被る不利益と、債権者が得る利益の比較衡量によって判断される1が、ブルー社の被る不利益は、イエロー社の得る利益に比べ、大きなものではないからである。本件において、ブルー社は、ブルー・ホット以外に多様な事業を営む大企業である。それに対して、イエロー社にとって即席食品事業はイエロー社の事業そのものである。したがって、ブルー・ホットの販売がイエロー・クイックの売上に与える影響は、ブルー・ホットを販売できなくなることによりブルー社が受ける影響より大きいと言えるからである。
6. よって、UPICC 第 7.2.2 条の(a)~(e)に該当する事情は存在しないため、レッド社は、仲裁廷に対して、ブルー社はネゴランド国内でブルー・ホットの販売を行う第三者に対して、ブルー・ホットを提供してはならないとの仲裁判断を求める。
争点3
第1【主張の要旨】
仮に、ブルー社に義務違反が存在する場合、ブルー社はレッド社に 40 万米ドルの損害を賠償する義務を負う。
第2【主張の理由】
1. 本件において、レッド社はブルー社に対する損害賠償請求権を有する(UPICC 第 7.4.1
条)。また、ブルー社の合弁契約における義務違反は、損害賠償のいずれの要件(UPICC
1 COMMENTARY ON THE UNIDROIT PRINCIPLES OF INTERNATIONAL COMMERCIAL CONTRACTS (PICC) SECOND EDITION, EDITED BY XXXXXX XXXXXXXXX, OXFORD, 2014. Page 893
第 7.4.2 条~第 7.4.4 条)をも満たす。その理由は以下の通りである。
1.1. 因果関係
ブラウン商事のネゴランド国の店舗におけるブルー・ホットの販売がなければ、ネゴランド国内におけるイエロー・クイックの売上が減少することはなかった(別添 12 鑑定意見)ため、因果関係が存在する。
1.2. 額の確実性
ブルー・ホットの販売により、イエロー社の収益が 100 万米ドル半減したことは明ら
かである(別添 12 のオレンジ氏の鑑定意見、並びに、別添 12 の表を参照)。
また、イエロー・クイックの 1000 万米ドルの売上減少による、イエロー社の 100 万
米ドルの減益額のうち、レッド社の損害が 40 万米ドルであることについては両社に
争いがない(別添 14 付託事項書)ので、額は確実である。
1.3. 予見可能性
ブルー社は、契約締結時に、合弁契約第 14.3 条に基づき、イエロー社の事業と競合する即席食品を販売すれば、イエロー社の即席食品事業の売上が減少することは合理的に予見可能であった。なぜなら、UPICC 第 7.4.4 条は、「契約締結時に、不履行の結果として生ずるであろうことを予見し、または合理的に予見することができた損害についてのみ賠償の責任を負う」と規定しており、本件において、ブルー・ホットのようなイエロー社の即席食品と競合する即席食品を、合弁契約第 14.3 条に違反してイエロー社の事業対象地域にて販売すれば、イエロー社に損害が発生することは、合弁契約第 14.3 条の制定目的(上記争点1、2.1)からも契約締結時に予見できたことは明らかであるためである。したがって、予見可能性が存在する。
2. なお、ブルー・ホットのうち、ラインアップがイエロー・クイックと同一のアクア・パッツァとビーフ・シチューのみが損害を与え、それ以外の 3 品目は関係がないため、40万米ドルの損害賠償請求は認められないといった主張は認められるべきではない。その理由は以下の通りである。
2.1. イエロー・クイックの売上が減少している以上、ブルー・ホットの一部の品目のみに着目して、損害賠償の減額を要求すること自体が妥当ではないこと。なぜなら、ブルー・ホット全品目の販売により、イエロー・クイックの売上が減少しイエロー社に 100 万米ドルの減益が生じている(¶24、別添 12 のオレンジ氏の鑑定意見)のであって、ブルー・ホットの一部の品目のみがイエロー・クイックの売上に影響を与えた、という事実はないためである。
2.2. また、ブルー・ホットの全品目はイエロー・クイックと同様、手軽に美味しいものを食べたいという需要にマッチするという点で類似していること(別添 11)。
3. 上記の理由より、争点1において、仮に、ブルー社に義務違反が存在する場合、ブルー社はレッド社に 40 万米ドルの損害を賠償する義務を負う。
Third-party funding の論点
第1【主張の要旨】
ブルー社による、レッド社とファンドとの間の仲裁費用の負担に関する契約(以下、「本件 TPF契約」とする)の内容を開示せよとの申立ては認められるべきではない。なぜなら、レッド社は本件 TPF 契約の相手方及び内容を開示する義務を負わないからである。
また、仮にレッド社に何らかの開示義務が認められるとしても、本件 TPF 契約の相手方までであり、内容を開示する義務は負わない。
第2【主張の理由】
1. レッド社は、本件 TPF 契約の相手方及び内容を開示する義務を負わない。その理由は以下の 3 点である。
1.1. ①本仲裁の手続ルール・適用法規は、当事者の開示義務を規定していないこと。
本仲裁手続に適用される UNCITRAL 仲裁規則、及び本仲裁の仲裁地である日本の仲裁法は、仲裁人のxx性または独立性に関する疑問を生じうる状況や事実について、仲裁人自身の開示義務を規定している(UNCITRAL 仲裁規則第 11 条、仲裁法第 18 条 4 項)。これに対して、これらの手続ルール・適用法規には、当事者の開示義務を定める規定は何ら存在しない。
1.2. ②ごく一部の国で立法例はあるものの、当事者が資金提供元を開示する一般的な義
務や実務慣行は未だ確立していないこと。日本の仲裁法学の第一人者も、ファンドから資金提供を受ける当事者には「資金提供元を開示する一般的な義務はなく、またそのような実務も認められていない」2とされると述べている。
1.3. ③レッド社に対して著しい負担や不利益を生じさせるものであること。
本件 TPF 契約では、契約の相手方及び契約内容について、第三者に開示してはならないこととされており(別添 16 参照)、これに反して開示することは、ファンドに対する義務違反となる。さらに、当該義務違反に基づく損害賠償請求をされる等、レッド社に著しい負担や不利益を生じさせる可能性がある。
2. 仮に、レッド社が、仲裁人のxx性または独立性について疑いを生じうる状況や事実 に関して何らかの開示義務を負うとしても、本件 TPF 契約の相手方までであり、内容を開示する義務は負わない。その理由は以下の 4 点である。
2.1. ①本件 TPF 契約の内容の開示は、ブルー社の申立ての目的に対して過剰であるこ
と。
ブルー社の申立ての目的は、仲裁人の忌避の手続きを行う必要の是非を判断するために仲裁人と当該ファンドの利害関係を明らかにすることだと解される(別添 15 参照)。そして、以上の目的を達成するには、本件 TPF 契約の相手方が開示されれば十分である。
2.2. ②2015 年に公表された国際仲裁の実務家に対する調査においても、71%の回答者が
当事者による契約内容の開示はなされるべきではないと回答していること。3
2.3. ③最近のレポートによれば、現在の国際仲裁の実務上において、仲裁人の利害関係を確定するために契約内容の開示義務までを負うxxxは非常に稀であること。4
2.4. ④仲裁規則において third-party funding に関する当事者の情報開示義務を規定するシンガポール5及び香港6においても、情報開示の対象に契約内容は含まれないこ
と。
3. よって、ブルー社による、本件 TPF 契約の内容を開示せよとの命令の申立ては認められるべきではない。
2 xxxx「第三者資金提供と仲裁手続」国士館法学第 50 号. (2017) p.5
3 Queen Mary, University of London and White & Case “2015 International Arbitration Survey: Improvements and Innovations in International Arbitration” (2015)
4 International Council for Commercial Arbitration “Report of the ICCA-Queen Xxxx Task Force on third-party funding in International Arbitration“. (2018) p.106
5 the Legal Profession (Professional Conduct) Rules 2015 ( 弁護士(法曹倫理)2015 の規則) 49A 条
6 the Arbitration and Mediation Legislation 98U 条