Contract
第5.定期賃貸住宅標準契約書コメント
定期賃貸住宅標準契約書コメントは、本標準契約書の性格、内容を明らかにする等により、本標準契約書が実際に利用される場合の的確な指針となることをねらいとして作成したものである。
全般関係
① 定期賃貸住宅標準契約書は、借地借家法(以下「法」という。)第38条に規定する定期建物賃貸借による民間住宅の賃貸契約書の標準的な雛形として作成されたものであり、その使用が望まれるところであるが、使用を強制するものではなく、使用するか否かは契約当事者の自由である。また、使用する場合も、当事者の合意により、本標準契約書をそのまま使用してもよいし、合理的な範囲で必要に応じて修正を加えて使用してもよい。なお、本標準契約書は、建て方、構造等を問わず、居住を目的とする民間賃貸住宅一般(社宅を除く。)を対象としている。
② 定期賃貸住宅契約は、地域慣行、物件の構造や管理の多様性等により、個々具体的なケースで契約内容が異なりうるものである。全国を適用範囲とする契約書の雛形としての本標準契約書は、定期賃貸住宅契約において最低限定めなければならないと考えられる事項について、合理的な内容を持たせるべく規定したものである。したがって、より具体的かつ詳細な契約関係を規定するため、特約による補充がされるケースもあると想定されることから、本標準契約書は、第19条において特約条項の欄を設けている。
③ なお、本標準契約書については、定期賃貸住宅契約の普及状況等を踏まえ、必要な見直しを行うものである。
頭書部分
礼金等の一時金(敷金を除く。)については、定期賃貸住宅契約には一般的になじまないため、それを記載する欄については設けていない。
第1条(契約の締結)関係
本条項は、定期建物賃貸借契約の締結を宣言したものである。
第2条(契約期間)関係
① 法第38条第1項において定期建物賃貸借の要件として「契約の更新がないこと」を書面によって契約することが規定されていることから、その旨を契約書に明記する必要
がある。
② 定期賃貸住宅契約は、その性格上、期間の満了により正当事由の有無にかかわらず契約の更新がなく、契約が終了するものであることから、当事者間の合意によっても定期賃貸住宅契約を更新することはできない。更に、契約の終了後賃借人が本物件の占有を継続し、賃貸人が異議を述べないような場合でも、民法第619条の「黙示の更新」の規定の適用はない。
③ 定期賃貸住宅契約は、契約期間の満了で確定的に終了するが、当事者間で賃貸借関係を継続させることも少なからず生じることと考えられるため、その場合、当事者間で新たな賃貸借契約(再契約)を締結することができる旨を記するとともに、再契約の際の賃貸借契約の関係について第17条において規定している。なお、再契約は定期賃貸住宅契約に限らず、従来型の賃貸住宅契約でも差し支えない。
④ 定期賃貸住宅契約は契約期間の満了とともに終了するが、賃貸人が第3項(法第38条第4項)に基づく通知をしなかった場合においては、当初の定期賃貸住宅契約と同一の条件(ただし期間については賃貸人の通知後6月を経過した日に終了する)による賃貸借契約が継続しているものと扱われる。したがって、賃貸人は本物件を賃借人に使用収益させる義務を負うとともに、賃借人は家賃の支払い等の義務を負うこととなる。なお、賃借人が賃貸借契約を継続する意思がない場合は、特段の手続きを経ることなく当該契約を終了させることができる。
⑤ 第3項の通知は、当該通知を通知期間内に行ったことが明らかになるよう、内容証明郵便等の方法によって行うことが望ましい。
第4条(賃料)関係
① 第3項による当事者間の協議による賃料の改定の規定は、賃料の改定について当事者間のxxに基づき、できる限り訴訟によらず当事者双方の意向を反映した結論に達することを目的としたものであるが、法第32条の適用を排除するものではない(すなわち本項は法第38条第7項の「借賃の改定に係る特約」に該当しない)。
② 「借賃の改定に係る特約」を定める場合は、本条に関する記載要領を参考に、第3項に替えて記載するものとする。
第11条(乙からの解約)関係
① 法第38条第5項においては、一定の住宅について、転勤、療養、親族の介護その他 のやむを得ない事情により賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難 なときに、賃借人による中途解約を法律上認めているが、本項では民法第618条(解 約権の留保に関する規定)及び法38条第6項(賃借人に不利でない特約は有効とされ ている)の趣旨に基づき、当事者間の合意による賃借人の中途解約を認めたものであり、
法律上認められた上記事情がある場合はもちろん、上記事情の有無にかかわらず賃借人による中途解約を認めたものである。
② 長期の契約を前提に賃料の割引をする場合等で本項に比べ賃借人の解約権を限定する場合等は、本条に関する記載要領を参考に、本条に替えて記載するものとする。
第16条(連帯保証人)関係
① 連帯保証人が賃借人と連帯して負担すべき債務は、原則として本契約の期間内に生じる賃借人の債務であるが、本契約の期間が満了した後に賃借人が不法に居住を継続した場合における賃料相当額、損害賠償金等の賃借人の債務についても対象となるものである。他方、賃貸人が第2条第3項の通知を怠った結果、本契約の期間が満了した後も賃借人が居住を継続することによって生じる債務については、賃貸人の原因で生じた債務まで連帯保証人に追加的に負担させることは適当でないため、連帯保証人の保証債務の対象としていない。
② 再契約する場合においては、本契約は確定的に終了することから、新たな連帯保証契約の締結が必要となる。
第17条(再契約)関係
① 第2条第3項の通知をする場合において、賃貸人に再契約の意向がある場合においては、当該賃貸人の再契約の意向を賃借人に伝えることが、当事者間の合理的な賃貸借関係の形成に資することから、第1項の規定を置いている。
② 再契約をした場合においては、居住が継続することを考えると、本契約が終了するとしても明渡し義務・原状回復義務を履行させることは適当ではないため、第11条の規定を適用しないこととしている。
③ ただし、原状回復義務については、再契約が終了した場合(更に再契約をする場合は最終的に賃貸借契約が終了する場合)に、本契約における(更に再契約をする場合は当初の契約からの)原状回復の債務も併せて履行すべきものであることから、その旨を規定した。
なお、再契約においては、例えば第13条の規定を以下のようにすることにより、上記趣旨を担保する必要がある。
第13条 乙は、本契約が終了する日(甲が第2条第3項に定める通知をしなかった場合においては、同条第4項ただし書きに規定する通知をした日から6月を経過した日)までに(第9条の規定に基づき本契約が解除された場合にあっては、直ちに)、本物件を明け渡さなければならない。この場合において、乙は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗を除き、○年○月○日付けの定期賃貸住宅契約に基づく原状回復の債務の履行と併せ、本物件を原状回復しなければならない。
④ 他方、敷金の返還については、再契約をした場合においても、(例えば賃料等の不払いがある場合にその時点で清算する等)本契約終了時に返還・清算をするとする取扱いで不合理ではないと考えられることから、その旨を規定している。なお、実際の運用においては、清算後の敷金について、再契約による敷金に充当する等の取扱いをすることも考えられる。