レッド社は、レッド社とブルー社との間で 2013 年 1 月 25 日に締結された Memorandum of Understanding(別添 6)(以下「 本件覚書」)に基づき、ブルー社に対して本件提供義務を負う。仮にレッド社が本件覚書に基づき本件提供義務を負わないとしても、レッド社は、レッド社とブルー社との間で 2011 年 12 月 15 日に締結されたMaintenance Agreement(別添 5)(以下「別添 5契約」)に基づき、ブルー社に対して本件提供義務を負う。
β 事件
第1【請求】
「レッド社はブルー社に対してβ-7 シリーズを提供せよ。」との仲裁判断を求める。また、
「レッド社はブルー社に対して 500 万米ドルの損害賠償を支払え。」との仲裁判断を求める。
第2【請求の原因】
争点1 レッド社はブルー社に対して β-7 シリーズを提供する義務を負うか。
1.《結論》
レッド社はブルー社に対して β-7 シリーズを提供する義務(以下「本件提供義務」)を負う。
2.《主張の要旨》
レッド社は、レッド社とブルー社との間で 2013 年 1 月 25 日に締結された Memorandum of Understanding(別添 6)(以下「本件覚書」)に基づき、ブルー社に対して本件提供義務を負う。仮にレッド社が本件覚書に基づき本件提供義務を負わないとしても、レッド社は、レッド社とブルー社との間で 2011 年 12 月 15 日に締結されたMaintenance Agreement(別添 5)(以下「別添 5契約」)に基づき、ブルー社に対して本件提供義務を負う。
3.《主張を根拠付ける理由》
(1)レッド社は本件覚書に基づき、本件提供義務を負う
レッド社は 2013 年 1 月 25 日に締結された本件覚書に基づき、本件提供義務を負う。本件
覚書は 2012 年 12 月にレッド社とブルー社との間で行われた面談を経て、締結された(¶25、 26)ものであるが、当該面談では、レッド社のスワンとブルー社のサファイアは、ブルー社がレッド社のスタッフによるブルー・ビレッジでの情報収集を許可する代わりに、レッド社がブルー・ビレッジで収集した情報を利用してバージョン・アップしたものについてはテスト版として提供するという合意をした。当該話し合いの結果が反映された本件覚書 4 条は “When Red upgrades the α and/or β series using the feedback and data collected at the Blue Village, Red will provide the new version as the test version to Blue…”(強調部分は追記した)と規定する。つまり、レッド社はブルー・ビレッジで収集されたフィードバックやデータ(以下「本件情報」)を「利用して」、α やβ シリーズを「アップグレード」した際には、当該アップグレード版のテスト版をブルー社に提供する義務を負う。
本件において、レッド社はβ-6 シリーズからβ-7 シリーズへのアップグレードに際し、 β-6 シリーズに発見されていたバグの解消と分析結果を示す画面のデザインや文字の色を改良して画面の見やすさを向上させるために本件情報を利用した(¶33)。すなわち、レッド社は本件情報を「利用して」、β-6 シリーズを β-7 シリーズに「アップグレード」したため、本件覚書 4 条に基づき、本件提供義務を負う。
なお、本件情報の使用目的がバグの解消などであったという事情はレッド社が本件提供義務を負うことを否定する事情ではない。なぜなら、本件情報の使用目的であったバグの解消や画面の見やすさの向上は β-7 シリーズへのアップグレードの一部であるためである。したがって、レッド社は本件情報を「利用して」、β-7 シリーズに「アップグレード」したといえる。
よって、本件覚書 4 条に基づき、レッド社は本件提供義務を負う。
(2)レッド社は別添 5 契約に基づき、本件提供義務を負う
仮に、本件覚書 4 条に基づくレッド社の本件提供義務が認められない場合でも、以下の根
拠から、レッド社は別添 5 契約 2 条、6 条及び 10 条に基づき、本件提供義務を負う。
別添 5 契約 2 条は 3 条所定の費用でレッド社が提供しなければならないサービスを規定し
ており、同契約 6 条は 3 条所定の費用とは別に費用がかかるものの 10 条に基づきブルー社がレッド社に対して履行を求めた場合にレッド社が提供しなければならないサービスを規定し
ている。レッド社が別添 5 契約 6 条及び 10 条に基づき本件提供義務を負うことは 6 条の “the service will be provided under section 10” 及び、10 条の“Blue may … request that Red provides other services not included in the fee set forth in Article 3. ”との規定からも裏付けられる。
ブルー社は別添 5 契約 3 条の費用を払っている(¶35)ため、2 条に基づき、レッド社は部品
交換とプログラムの改良の義務を負う。また、別添 5 契約 6 条及び 10 条によれば、レッド社は新しいバージョンの機器の提供をする義務を負う。
よって、レッド社の本件提供義務の根拠が別添 5 契約 2 条もしくは別添 5 契約 6 条及び 10
条のどちらにあたるとしても、レッド社は本件提供義務を負う。
争点2 仮に、レッド社がブルー社に対してβ-7 シリーズを提供する義務を負う場合、仲裁xはレッド社に対してβ-7 シリーズの提供を命じるべきか。
1.《結論》
仲裁xはレッド社に対してβ-7 シリーズの提供を命じるべきである。
2.《主張の要旨》
レッド社は本件提供義務を履行していない。したがって、ブルー社はレッド社に対して、本件提供義務の履行を請求することができる。また、ネゴランド国スポーツ庁から「β-7 シリーズが海外に流出することは避けてほしい」といった指導(以下「本件指導」)があったことや、無理にβ-7 シリーズを提供しようとすると輸出に許可制が敷かれる可能性があり、さらに、輸出が差し止められる可能性もあるといった事情はレッド社による本件提供義務の履行を困難にするものではないため、ブルー社の履行請求に影響を及ぼさない。
3.《主張を根拠付ける理由》
(1)ブルー社のレッド社に対する履行請求は認められる
レッド社はブルー社が本件提供義務の履行を請求したにも関わらず履行しなかった(¶34、 35)。よって、UNIDROIT 国際商事契約原則 2016(以下「本原則」)第 7.2.2 条の「金銭の支払以外の債務を負う債務者がそれを履行しないときには、債権者はその履行を請求することができる。」という規定に基づき、ブルー社による、レッド社に対する本件提供義務の履行請求は認められる。
(2)本件指導はブルー社の履行請求を妨げない
ア 本件指導はレッド社の履行を不能にするものではない
レッド社は、本件指導が本件提供義務の履行を不能にするものであったため、本原則第
7.2.2 条(a)の「履行が…事実上不可能であるとき」に該当し、ブルー社の履行請求は認められるべきではないと主張することが考えられる。しかし、以下の根拠から、本件指導はレッド社の本件提供義務の履行を不能にするものではない。
本件指導は確かに「海外に流出するのを避けて欲しい」との単純な指導に加えて、仮にレッド社が本件指導に応じない場合、貿易省の許可なしには外国に提供できないようにした り、本件指導に逆らって無理に外国に提供しようとした場合、レッド社とスポーツ庁との関係が悪化したり、輸出が差し止められる可能性もある(¶34)という性質のものであった。しかし、β−7 シリーズの輸出に許可制が敷かれることやスポーツ庁との関係悪化はあくまで将来起こりうる事情であり、本件指導しかない現時点においてはβ-7 シリーズを現に輸出することは可能である。
よって、本原則第 7.2.2 条(a)の適用はされず、仲裁廷はレッド社に本件提供義務の履行を命じるべきである。
イ 本件指導はレッド社の義務の履行を不合理な困難に陥れない
仮に本件指導が本件提供義務の履行を不能にするものではないとしても、レッド社は本件指導が本原則第 7.2.2 条(b)の「履行または履行の強制が、不合理なほどに困難…であるとき」に
該当するため、ブルー社の履行請求は認められるべきではないと主張することが考えられる。しかし、以下の事情から、本件指導は「履行または履行の強制が、不合理なほどに困難…であるとき」にはあたらない。
本原則第 7.2.2 条の注釈 3b によれば、履行が不合理なほどに困難と言える場合とは「契約締結後に激しい事情変更があった場合など、履行が可能であっても、履行の負担があまりにも大きく、履行を求めることがxxxx及びxx取引の一般原則に反する」場合である。
本件指導は上述のアの通り、単なる指導ではなく、スポーツ庁との関係悪化や更なる制裁が加わる可能性も有するものである。しかし、上述のアの通り、β−7 シリーズの輸出に許可制が敷かれることやスポーツ庁との関係悪化はあくまで将来起こりうる事情であり、本件指導しかない現時点においてはβ-7 シリーズを現に輸出することは可能である。したがって、本原則第
7.2.2 条(b)は適用されず、仲裁廷はレッド社に本件提供義務の履行を命じるべきである。
なお、現時点で既にスポーツ庁との関係悪化や更なる制裁が加わることが確実であった場合でも、レッド社のスポーツ事業に損失が加わるのみであり、レッド社の他の事業には問題がないため、レッド社に本件提供義務の履行を求めることは「履行または履行の強制が、不合理なほどに困難…であるとき」にはあたらない。したがって、本原則第 7.2.2 条(b)は適用されない。
よって、仲裁xはレッド社に対して、本件提供義務の履行を命じるべきである。
ウ 本件指導は自己の支配を超えるものではない
レッド社は本原則第 7.1.7 条(1)に基づき、本件指導は不可抗力にあたり、レッド社の本件提供義務の不履行は免責されると主張することが考えられる。しかし、本件指導は本原則第
7.1.7 条に規定される「自己の支配を超えた障害」には該当しないため、同条の適用は認められない。
本原則第 7.1.7 条(1)は「債務者は、その不履行が自己の支配を超えた障害に起因するものであることを…証明したときは、不履行の責任を免れる。」と規定する。
上述のアの通り、β−7 シリーズの輸出に許可制が敷かれることやスポーツ庁との関係悪化はあくまで将来起こりうる事情であり、本件指導しかない現時点においてはβ-7 シリーズを現に輸出することは可能である。したがって、本件指導は「自己の支配を超えた障害」にはあたらず、本原則第 7.1.7 条の適用は認められない。
よって、仲裁xはレッド社に対して、本件提供義務の履行を命じるべきである。
争点3 仮に、レッド社がブルー社に対して損害賠償として 500 万米ドルを支払う義務を負う場合、レッド社はブルー社に対する 300 万米ドルの債権と相殺することができるか。
1.《結論》
レッド社はブルー社に対して 500 万米ドルの損害賠償全額を支払う義務を負う。
2.《主張の要旨》
別添 5 契約には損害賠償額の予定がなされているため、ブルー社はレッド社の債務不履行を原
因として 500 万米ドルの損害賠償を請求することができる。一方、レッド社はイエロー社から譲
渡された 300 万米ドルの債権(以下「本件債権」)を相殺に供するという主張をしているが、認められない。なぜなら、仲裁合意のない Sales Agreement(別添 7)(以下「別添 7 契約」)から生じた本件債権は仲裁で争うことは認められないためである。また、仮に本件債権を本仲裁で争うことができても、ブルー社が本件債権とイエロー社の債務不履行に基づく損害賠償債権(以下「債権乙」)を相殺する結果、本件債権は消滅するため、レッド社が本件債権を 500 万米ドルの損害賠償債権(以下「債権甲」)との相殺に供すると主張することはできない。
3.《主張を根拠付ける理由》
(1)レッド社が主張する相殺は認められないレッド社は本原則第 8.1 条に基づき、本件債
権を債権甲との相殺に供すると主張しているが、以下の事情により認められない。
ア レッド社は本件債権を本仲裁で相殺に供すると主張できない
レッド社が相殺を主張している本件債権は仲裁合意がない別添 7 契約から生じているので、本仲裁廷で相殺に供することはできない。その
根拠は、以下の 2 点である。第 1 に、仲裁は当事者間で仲裁合意がある場合のみ利用できる紛争解決手段であるにも関わらず、相殺適状にあるというだけで仲裁合意のない債権による相殺を認めてしまうと、合意に基づく制度としての仲裁の機能が不当に拡大されるおそれがあるからである。第 2 に、仮に相殺の抗弁が認められた場合、申立人が本来かかる債権につき訴訟で争えたはずの機会が奪われてしまうからである。
この点について、反対債権について仲裁合意がない場合でも、反対債権が仲裁付託されている仲裁申立人の債権と同一の法律関係から生じたものであり、かつ、仲裁合意の当事者の意思もその法律関係から生じる全ての争いを仲裁によって解決するというものである場合、相殺に供することが認められるという考え方1もあるが、仮にそのような考え方によったとしても本件では相殺は認められない。なぜなら、以下の事情から本件の反対債権は申立人の債権と同一の法律関係から生じていないためである。
本件において、仲裁付託されている仲裁申立人の債権とは、債権甲であり、これはブルー社とレッド社間で締結された別添 5 契約から生じているのに対し、本件債権は、ブルー社とイエ
ロー社間で締結された別添 7 契約から生じている。よって、本件債権と債権甲はそもそも同一の法律関係から生じたものではないので、レッド社が本件債権を相殺に供することはできな い。
なお、反対債権につき仲裁契約がない場合でも、当該反対債権が既判力をもって確定している場合、または当事者間で争いのない場合には、相殺に供することが認められるという考え方2もあるが、仮にそのような考え方によったとしても本件では相殺は認められない。なぜなら、レッド社が主張する本件債権は既判力をもって確定しているものでもなければ、当事者間で争いのないものでもないからである。
さらに、レッド社は別添 7 契約と Maintenance Agreement(別添 8)(以下「別添 8 契約」)が同一の契約であることをもって、仲裁合意が存在すると主張することが想定されるが、以下の根拠によれば、かかる主張は認められない。第 1 に、別添 7 契約と別添 8 契約はあくまで別の契
約であり、仲裁合意のみを拡張することは許されるべきではないからである。第 2 に、別添 7契約に非専属的裁判管轄合意をした趣旨は、同契約から発生する債権は仲裁に付託しないということにあり、それにも関わらず別添 7 契約から発生する本件債権を本仲裁廷で相殺に供することはかかる趣旨を没却することになるからである。
よって、レッド社は本件債権を本仲裁で相殺に供すると主張できない。
イ 本件債権は債権乙と相殺されるため消滅する
(a) ブルー社が譲渡の通知を受領した後にイエロー社に行使できるようになった相殺権であってもレッド社に行使することができる
1 xxxx『仲裁法』(青林書院、2000 年)131,132 頁
2 xxxx(編著)『注釈と論点 仲裁法』(青林書院、2007 年)188 頁
仮に、レッド社が本仲裁廷で相殺を主張することが認められたとしても、レッド社は本件債権を債権甲との相殺に供することはできない。なぜなら、ブルー社が債権乙と本件債権を相殺することができるため、本件債権は消滅し、よって、レッド社が本件債権を債権甲との相殺に供することはできないためである。
なお、本原則第 9.1.13 条(2)は「債務者は、譲渡の通知を受領した時点までに譲渡人に対して行使することができた相殺権を譲受人に対して行使することができる」と規定するが、同条はブルー社の主張を否定するものではない。確かに、一般的には債務者が譲渡の通知を受領した後に取得した相殺権までも譲受人に行使できるとすると譲受人に酷である。しかし、譲受人が、相殺権が今後発生することを譲渡の通知時に知っていた場合には、譲受人を保護する必要性は低下し、債務者の相殺の期待の利益を保護する必要性が高まる。よって、例外的に債務者が譲渡の通知を受領した後に取得した相殺権であっても譲受人に行使することが認められる。本件においては、以下の事情から、レッド社は、ブルー社が債権乙を取得し得ることを認識
していたため、ブルー社が債権乙を本件債権との相殺に供することは認められる。
第 1 に、レッド社は、ブルー社とイエロー社との間で 2017 年 7 月 15 日に締結された別添 7
契約と別添 8 契約を締結する前のやり取り及び契約内容について知っていた(¶30)。このやり取りにおいて、イエロー社のオレンジは「…メンテナンスを怠ると、すぐに調子が悪くなってしまいます。これらの機器の導入にあたってメンテナンス契約は一体のものとお考えくださ い。」と述べている(¶29)。この事情に鑑みれば、メンテナンス契約がなされないと、直ちにブルー社は債権乙を取得するということをレッド社は認識していた。
第 2 に、債権譲渡に際しての 10 月 3 日のレッド社とブルーとの間の電話会議の場において
も、ブルー社が債権乙を取得することを認識していた。2017 年 10 月 1 日にイエロー社がブル
ー社宛の債権を担保としてレッド社に譲渡した後、同 10 月 3 日にブルー社はイエロー社の業況を確認するためにレッド社と電話会議を行った(¶31)。当該電話会議において、xxxxxの
「新しいカメラとセンサーは、定期的なメンテナンスが必須で、メンテナンス契約とワンセットで導入したものです。…メンテナンスがなされなくなると困ります。」との発言に対して、xxxは「…、適切なメンテナンスが維持されるように全力でサポートしたいと考えていま す。」と述べた(¶31)。この会話に鑑みても、メンテナンス契約がなされないと、直ちに債権乙を取得するということをレッド社は認識していた。
上述の 2 つの事情を考慮すれば、レッド社は、ブルー社が債権乙を取得し得ることを認識していたため、債権乙が実際に生じたのが譲渡の通知後であっても、ブルー社は債権乙を本件債権との相殺に供することができる。
(b) ブルー社は債権乙を取得した
ブルー社は 2017 年 11 月に債権乙を取得した。すなわち、イエロー社は資金繰りに窮した結果、2017 年 11 月末から予定されていた水中カメラと水中センサーのメンテナンスをしなかった(¶32)。当該メンテナンスが行われなかったことにより、ブルー社は 300 万米ドルの損害を被った(¶34)。したがって、ブルー社は債権乙を取得した。
上述の(a)及び(b)によれば、ブルー社は債権乙を本件債権との相殺に供することができ、この結果、本件債権は消滅する。
よって、レッド社による相殺の主張は認められず、レッド社はブルー社に対して損害賠償として 500 万米ドル全額を支払う義務を負う。
第3【結語】
レッド社はブルー社に対して βー7 シリーズを提供しなければならない。また、レッド社はブルー社に対して 500 万米ドルの損害賠償を支払わなければならない。
イベント事件
争点1
第1【請求】
「レッド社の請求を棄却する。」との仲裁判断を求める。
第2【主張の要旨】
2016 年 12 月 15 日、ブルー社とレッド社は共同で開催するスポーツイベント(以下「ネゴ・アブ・カップ」)についてAgreement(別添 9)(以下「別添 9 契約」)を締結した。レッド社は、ブルー社が別添 9 契約 2 条 8 項及び 3 条 2 項に基づき Xxxx Xxxx(以下「ボルト」)、Xxxxxxxx Xxxxxxxx(以下「ウィリアムス」)、Xxxxx Xxxxzu(以下「ホッスー」)をネゴ・アブ・カップに参加させる義務を負っていたにもかかわらず、当該義務に違反したと主張する。しかし、①ボルトについては、ブルー社とレッド社との間でネゴ・アブ・カップを欠場させる合意をしたこと、②ウィリアムスについては、レッド社が適切な試合会場を準備しなかったこと、③ホッスーについては、そもそもレッド社に対してホッスーをネゴ・アブ・カップに参加させる旨の約束をしていないことから、ブルー社は 3 人をネゴ・アブ・カップに参加させる義務を負わない。
仮にブルー社がxxx、xxxxxx、xxxxの三人をxx・xx・xxxに参加させる義務を負っていたとしても、xxxxxxに関する不履行はレッド社の債権者妨害によるものであり、ホッスーに関する不履行の原因は不可抗力によるものであるため、ブルー社は義務違反につき責任を負わない。またレッド社がチケットの払い戻しにより損害を被った原因は、レッド社がチケットの払い戻しに関する注記をしなかったこと、かつ、レッド社が合理的な理由なくチケットを払い戻す判断をしたことが原因であり、ブルー社の不履行とレッド社の損害との間に因果関係はない。
よって、ブルー社はレッド社が請求する 210 万米ドルを賠償する責任を負わない。
第3【請求を根拠付ける理由】
1.ブルー社はxxx、xxxxxx、xxxxの三人をネゴ・アブ・カップに参加させる義務を負わない。
(1)ボルトに関して
別添 9 契約 3 条 2 項は“Blue is responsible for the participation of the team and players specified in Article 2(7) and (8) in good condition.”と規定する。また、2 条 8項では“Xxxxxxxx Xxxxxxxx, Xxxx Xxxxx, and Xxxx Xxxx,”と規定し、xxxは参加選手として挙げられている。しかし、2018 年 5 月 7 日にブルー社とレッド社の間で行われたミーティング(¶40)(以下「本件ミーティング」)において、ブルー社とレッド社の間でボルトをネゴ・ア ブ・カップに参加させない旨の合意がなされたことから、ブルー社はボルトをネゴ・アブ・カップに参加させる義務を負わない。
ア ボルトをネゴ・アブ・カップに参加させない旨の合意があった
ブルー社がボルトのドーピング違反をレッド社に報告した際に行われた本件ミーティングにおいて、ブルー社がボルトは出場できる可能性が十分ある旨を強く主張したが、レッド社のスワローが「ドーピングに対する厳格な姿勢を示すためにも、この時点でボルトの出場をキャンセルしたことを明らかにすべきです。」と発言したため、ブルー社のダイアモンドは「当社としては、反対ですが、…貴社の判断を尊重します。」と述べた(¶40)。上記の会話により、レッド社のスワローとブルー社のダイアモンドとの間でボルトをネゴ・アブ・カップに参加させないという合意がなされたため、ブルー社はボルトをネゴ・アブ・カップに参加させる義務を負わない。
イ 予想されるレッド社の反論とそれに対する再反論
(a)レッド社は本件ミーティングの会話がボルトをネゴ・アブ・カップに参加させない旨の変更の合意を示すものではなく、ボルトのドーピング違反がブルー社の義務違反にあたることを確認したまでに過ぎないと主張することが予想される。しかし、ブルー社が別添 9 契約 3 条 2 項に基づき負っていた義務は、競技を行うに当たり選手が十分にプレーできる状態でネゴ・アブ・カッ
プに参加させることであり、選手がドーピング違反をしたことをもって直ちに当該義務違反となるものではない。
(b)レッド社は本件ミーティングの会話が単にボルトを欠場させる旨の合意を示すものではな く、本原則第 7.3.3 条に基づき、ボルトをネゴ・アブ・カップに参加させるという部分の契約を解除したものであって、ブルー社がボルトをネゴ・アブ・カップに参加させる義務は消滅するとしても、ブルー社の不履行に対するレッド社の損害賠償の請求は妨げられないと主張することが予想される。
しかし、本原則第 7.3.3 条は「債務者による重大な不履行が起きるであろうことが明瞭であるときは、債権者は契約を解除できる。」と規定するが、ボルトのドーピングが発覚した時点でボルトをネゴ・アブ・カップに参加させるというブルー社の義務の違反が明瞭であるとは言えず、レッド社は解除を主張できない。本件において、xxxは実際にアービトリア国スポーツ仲裁機構に対して処分の軽減及び取消の申し立てを行っており、ボルトのドーピング違反は軽微な過失であったことに鑑みれば資格停止処分は軽減される可能性が十分にあった。そのためボルトのドーピング違反が発覚した時点で、ボルトがネゴ・アブ・カップ当日に参加できないことが確実であるとは言えない。
よって、ボルトがドーピング違反となったことをもってブルー社が別添 9 契約 3 条 2 項の義務に違反することが明瞭であるとは言えず、本件ミーティングの会話でボルトをネゴ・アブ・カップに参加させる義務を解除したとのレッド社の主張は認められない。
(2)ウィリアムスに関して
ア 適切な試合会場が手配されていないため、ブルー社はウィリアムスをネゴ・アブ・カップに参加させる義務を負わない
別添 9 契約 3 条 2 項が規定するブルー社の義務は、別添 9 契約 3 条 3 項に基づきレッド社が適切な会場を手配しない限り発生しないが、本件においてレッド社が手配したネゴタウン・テニ ス・センターは適切な会場ではなかったため、ブルー社はウィリアムスをxx・xx・xxxに参加させる義務を負わない。
別添 9 契約 3 条 3 項は“The Parties shall be responsible to arrange the venue suitable for the games.”と規定する。試合をするのに不適切な会場しか手配されていない状態でなお選手を参加させることはできないため、別添 9 契約 3 条 3 項の義務が履行されない限り別添 9 契約
3 条 2 項の義務は発生しない。
会場の手配に関して、別添 9 契約 3 条 1 項はネゴランド国で行われる競技についてはレッド社が行うと規定する。今回、xxxxxxが出場する予定だったテニスの試合はネゴランド国で行われる予定だったため、テニスの試合を行う会場の手配についてはレッド社の責任だった。
別添 9 契約 3 条 3 項の定める“suitable”とは、競技者が競技を行うに相応しい会場のことを
指すが、レッド社が用意したネゴタウン・テニス・センターは気温が 40 度を超える可能性のある環境であり、“the suitable venue for the games”に該当しない。世界で熱中症予防の基準として使われている WBGT(湿球黒球温度指数)の暑さ指数によれば、35 度以上の気温では運動することは禁止と定められており(環境省 熱中症予防情報サイトより xxxx://xxx.xxxx.xxx.xx.xx/)、ましてや 40 度を超える可能性がある会場は、競技者の競技に悪影響を及ぼすことは明らかである。したがって、レッド社が用意したテニスの試合会場は競技者が競技を行うに相応しい会場ではない。
よって、レッド社が別添 9 契約 3 条 3 項が規定する義務を履行していないため、ブルー社はウィリアムスをネゴ・アブ・カップに参加させる義務を負わない。
イ 予想されるレッド社の反論とそれに対する再反論
レッド社はネゴタウン・テニス・センターが適切な会場であったと主張することが予想され る。しかし、ネゴ・アブ・カップにおけるネゴタウン・テニス・センターの試合時間の平均気温が 35 度であったこと、またxxxxxx以外のネゴランド国の選手も欠場していることに鑑みれば、ネゴタウン・テニス・センターは選手が競技を行うに適切な環境であったとは到底言えない。
また、レッド社はブルー社が別添 9 契約 2 条 4 項においてテニスの試合をネゴタウン・テニ ス・センターで行うことに合意していた以上、ネゴタウン・テニス・センターが不適切な会場であるとの主張はできないと主張することが予想される。しかし、別添 9 契約 2 条 4 項の規定においてネゴタウン・テニス・センターを使用する旨の合意をしていたとしても、後に会場が適切でなくなった場合には別添 9 契約 3 条 3 項に基づいて会場をネゴタウン・テニス・センターから適
切な会場へ変更する義務があった。さらにネゴ・アブ・カップが行われる当日は気温が 40 度を
超える可能性があり、最高気温ですら 37 度にとどまる契約締結時の 2016 年とは状況が異なる。したがって、ネゴタウン・テニス・センターはテニスの試合を行うに不適切な会場であった。
(3)ホッスーについて
レッド社はブルー社から運営委員会に対して送られた通知(以下「別添 10 通知」)のコピーがブルー社からレッド社に送付されたこと、及び、別添 10 通知に“to add Xxxxx to the list of athletes (see Article 2(8) of the Agreement) who will participate in the Nego-Abu Cup.”と記載されていることをもって、ブルー社がレッド社に対してホッスーをネゴ・アブ・カップに参加させる債務を負っていたと主張することが予想される。しかし、当該主張は認められない。
そもそも別添 10 通知は“Dear Steering Committee”とあるように、ブルー社から運営委員会に対して送られたものであり、レッド社に対して送付されたものではない。
よって、ブルー社が運営委員会に対して別添 10 通知を送ったことをもって、ブルー社がレッド社と契約したこととはならない。
運営委員会は別添 9 契約 1 条に基づきネゴ・アブ・カップをブルー社とレッド社が共同で開催するに際し、大会を円滑に運営するために設けられたブルー社とレッド社の双方の社員から構成される組織である。また、別添 9 契約 1 条 2 項に基づき、ネゴ・アブ・カップに関してレッド社とブルー社は運営委員会の決定に基づいて行動する。上記の事実に鑑みれば、運営委員会は少なくともブルー社とレッド社との間では独立した主体である。ブルー社がレッド社に対して別添 10 通知のコピーを送付したことは、あくまでもホッスーがネゴ・アブ・カップに参加する旨を知らせたまでに過ぎない。
よって、ブルー社はレッド社との関係で別添 10 通知に基づいてホッスーを参加させる義務を負わない。
2.仮にブルー社がxxx、xxxxxx、ホッスーをxx・xx・xxxに参加させる義務を負っていたとしても、ブルー社はxxxxxx、ホッスーについてはxx・xx・xxxに参加しなかったことにつき義務違反の責任を負わない。
(1)ブルー社がウィリアムスをネゴ・アブ・カップに参加させる義務に違反した原因はレッド社 にあるため、ブルー社は当該義務違反につき責任を負わない。
本原則第 7.1.2 条は「相手方の不履行が、自己の作為もしくは不作為により生じたときは、その限りにおいて、相手方の不履行を主張することができない。」と規定する。ブルー社のウィリアムスをネゴ・アブ・カップに参加させる義務の履行が不可能になった原因は、レッド社が、xxxxxxが参加できる会場を手配しなかったという別添 9 契約 3 条 3 項が規定する義務違反である。
よって、本原則第 7.1.2 条に基づきレッド社は、ブルー社が義務を履行できるテニス会場を手
配しなかったという自己の不作為(別添 9 契約 3 条 3 項義務違反)により発生したブルー社の義務違反を主張できない。
(2)ブルー社がホッスーをネゴ・アブ・カップに参加させる義務に違反したことは不可抗力によ るものであるため、ブルー社は当該義務違反は免責される。
ア ブルー社の義務違反は不可抗力の規定により免責される
仮にブルー社がレッド社に対してホッスーをネゴ・アブ・カップに参加させる義務を負っていたとしても、ホッスーがネゴ・アブ・カップに参加できなかった原因は火山の噴火により搭乗予定の飛行機が欠航したためである。火山の噴火がなければブルー社はホッスーをネゴ・アブ・カ
ップに参加させる義務を履行できたことについて争いはない(¶44)。また、飛行機以外にホッスーをネゴ・アブ・カップに参加させることのできる手段はなかったため、義務違反を回避することはできなかった。
よって、ブルー社の当該義務違反は不可抗力の規定(別添 9 契約 4 条 1 項)により免責される。
イ 予想されるレッド社の反論とそれに対する再反論
レッド社はブルー社の債務不履行の原因が運営委員会のメンバーであるxxxxxのミスに起因するものであり、ブルー社は不可抗力を主張出来ないと反論することが予想される。しかし、仮にブルー社がエメラルドの行動に責任を負うとしても、本件においてエメラルドがすべきことはネゴ・アブ・カップに間に合う飛行機のファーストクラスのチケットを手配することである。そして、エメラルドは運営委員会の指示に基づきネゴ・アブ・カップに間に合う飛行機のファーストクラスのチケットを手配している。エメラルドが再度手配した飛行機が、火山の噴火の影響を受けず欠航していなければ、ホッスーはネゴ・アブ・カップに出場できたことに争いはない。よって、エメラルドの手配ミスとブルー社の義務違反は何ら関係がなく、ブルー社の債務不履 行の原因は火山の噴火により飛行機が欠航になったことであるため、ブルー社の当該義務違反は
不可抗力(別添 9 契約 4 条 1 項)につき責任を負わない。
3.仮にブルー社が義務違反の責任を負うとしても、レッド社が被った損害 210 万米ドルのうち
チケットの払い戻しによる損害 70 万米ドルについては損害賠償責任を負わない。
損害と不履行の間には因果関係が存在しなければならない。しかし、レッド社が損害を被った直接の原因は、レッド社がチケットの払い戻しを独断で決定し、実際に払い戻しを行ったことであり、ブルー社の義務違反と損害の間に因果関係は存在しない。本件においてレッド社はチケットの払い戻しに関して訴訟で争えば勝つ可能性があったため、不履行後すぐに払い戻しに応じるべきではなかった。しかし、レッド社はレッド社の顧問弁護士以外にも、ブルー社にも相談することなく、レッド社の顧問弁護士の払い戻しには応じざるを得ないのではないかという意見のみを参考に、レッド社のレピュテーションリスクを考慮し、独断で払い戻しを決定した。加えて、レッド社がチケットやポスターにボルト及びxxxxxxが大会に参加できなくなる可能性について注記をしていれば、チケットの払い戻しをする必要がなかったことに争いはない(¶45)。別添 9 契約 3 条 1 項にはネゴランド国で販売されるチケットについてはレッド社が責任を負う旨が規定されており、レッド社がチケットやポスターに払い戻しの規定を設けなかったことにつきレッド社はその責任を負う。
よって、レッド社が被ったチケットの払い戻しによる損害はブルー社の義務違反の直接の帰結ではないため、ブルー社は損害賠償責任を負わない。
4.ブルー社はレッド社がボルトのネゴ・アブ・カップ出場の可否判断を保留していれば軽減されたであろう損害賠償額 75 万米ドル(チケットの払い戻しによる損害 25 万米ドル、及び、陸上
の放映権収入の喪失の半額 50 万米ドル)につき責任を負わない。
本原則第 7.4.8 条は「債権者が合理的な措置を講ずることにより当該損害を軽減し得た限度において、賠償の責任を負わない。」と規定する。仮にボルトのドーピング違反がブルー社の義務違反であったとしても、ボルトをネゴ・アブ・カップに参加させることで損害を軽減することができた。しかし、レッド社はボルトの欠場を決定すればチケットの払い戻しと放映権のキャンセルにより莫大な損害が発生することを知りながら(¶41)、ボルトの欠場を決定した。レッド社が最終的な仲裁判断が下るまでボルトの出場可否判断を保留していれば、チケットの払い戻しや放映権による損害は発生しなかった。
よって、レッド社が最終的な仲裁判断が下るまでボルトの出場可否判断を保留していれば発生していなかった損害 75 万米ドルにつき、損害賠償額は減額される。
第4【結語】
別添 9 契約においてブルー社はボルト、xxxxxx、ホッスーをネゴ・アブ・カップに参加させる義務を負っていないため、義務違反は存在しない。仮にxxx、xxxxxx、xxxx
の三人をxx・xx・xxxに参加させる義務を負っていたとしても、xxxxxxについては債権者妨害、xxxxについては不可抗力によってブルー社の義務違反は免責される。また、ブルー社の不履行とチケットの払い戻しにより発生した損害の間に因果関係が存在しないため、チケットの払い戻しによる損害 70 万米ドルを賠償する責任を負わない。
争点2
第1【請求】
「レッド社はブルー社に対して 50 万米ドルを支払え。」との仲裁判断を求める。
第2【主張の要旨】
別添 9 契約 3 条 8 項は、“Profits from Event telecasting will be shared equally between Red and Blue.”と規定する。この規定に基づき、レッド社はインターネット配信を使って得た利益の半額をブルー社に支払う義務を負っていた。しかし、レッド社はネゴ・アブ・カップの大会映像をインターネットで配信し(¶48)、その結果 100 万米ドルの利益を獲得したにも関わらずこの利益を折半していない。したがって、ブルー社はレッド社に対してレッド社がインターネット配信から得た利益 100 万米ドルの半額である 50 万米ドルを支払えとの仲裁判断を求める。
第3【請求を根拠付ける理由】
1.レッド社はインターネット配信の利益を折半する義務を負っていた。
(1)別添 9 契約 3 条 8 項規定に基づきインターネット配信の利益は折半される。
別添 9 契約 3 条 8 項は “Profits from Event telecasting will be shared equally”と規定している。以下に述べる理由に基づき、インターネット配信は“Event telecasting”に該当するため、インターネット配信の利益はブルー社とレッド社で折半される。
ア 別添 9 契約において“Event telecasting”はインターネット配信を含む (a)“telecasting”という文言はインターネット配信を含む
本来“telecast”とは Oxford Dictionary of English(2005 年版、1812 頁)には“a television broadcast”と記載されており、また“television”とは“a system for converting visual images(with sound)into electrical signals, transmitting them by radio or other means, and displaying them electronically on a screen”と記載されてい る。今回レッド社が行ったインターネット配信は映像や音声を信号化し、離れたところに送り、それを再現する仕組みを使って放送するものであるため“telecasting”に該当する。
(b)別添 9 契約における“Event telecasting”もインターネット配信を含む
別添 9 契約締結時には、ネゴ・アブ・カップの中継映像はアービトリア国会場ではブルー社 が、ネゴランド国会場ではレッド社が撮影すると合意している。そしてこれらの映像を使って利益を得た場合には、その利益を折半するという考えの下、放映による利益は折半するという合意がなされ(¶37⑪、⑫)、別添 9 契約が作成されている。そのため、“Event telecasting”はインターネット配信を含む。実際にブルー社はこの規定に基づき、ブルー社自身が販売した放映権料をブルー社とレッド社で折半している。レッド社のインターネット配信も両社が撮影した映像を使用したのであるから(¶48)、インターネット配信から得られた利益についても放映権料と同様にブルー社とレッド社で折半される。
イ レッド社の反論とそれに対する再反論
(a)レッド社は“Event telecasting”は地上波テレビで放送することのみを示しているため、インターネット配信は含まないとの主張が予想される。しかし、地上波のテレビ局への放映権販売について規定している別添 9 契約 3 条 7 項では地上波テレビについて“terrestrial TV networks for broadcasting”と記載しているところ、3 条 8 項では“Event telecasting”と記載している。3 条 8 項の対象を地上波放送に限定する旨の規定であれば“terrestrial TV networks for broadcasting”と記載することが通常であるところ、3 条 8 項では“Event
telecasting”と記載している。つまり、別添 9 契約 3 条 8 項が定める放映権折半の対象の範囲は地上波テレビの放映のみでなくインターネット配信も含む。
よって、レッド社の主張は認められない。
(b)レッド社は、両社の撮影した映像を使用しているブルー社のケーブルテレビの利益が折半されていないことを理由に、別添 9 契約 3 条 8 項の“Event telecasting”及び地上波のテレビ局の放映のみを指し、インターネット配信の収益について折半する義務は負わないと主張することが予想される。しかし、今回ブルー社が得たケーブルテレビの 7 月分の視聴料収入 10 万米ドルは、ブルー社のケーブルテレビで放映される番組を観るために契約した顧客から得られた視聴料である。他方、インターネット配信や地上波の放映権料の収益はネゴ・アブ・カップを視聴するための視聴料である。つまり、ケーブルテレビの収益からネゴ・アブ・カップの映像を放映したことによる利益はない。
仮にケーブルテレビでペイ・パー・ビューをしていた場合には利益を折半することが考えられるが、本件におけるブルー社のケーブルテレビはペイ・パー・ビューではないため、顧客から徴収した視聴料の内、ネゴ・アブ・カップの映像を視聴したことによる利益はない。つまり、ブルー社のケーブルテレビの収益は折半され得るものではないため折半されていないだけである。
よって、レッド社の主張は認められない。
(2)仮にインターネット配信の規定が存在しなかったとして、インターネット配信の利益は地上 波放映権料と同様に折半される。
本原則第 4.8 条は、当事者が重要な事項について合意していないときは、当該状況のもとで適
切な条項が補充されなければならないと規定する。本件においては、別添 9 契約の性質に基づきインターネット配信の利益を折半するという条項が補充され、インターネット配信の利益は折半される。
第3の1(1)ア(b)で述べた通り、ブルー社とレッド社両社が撮影したネゴ・アブ・カップの映像を使用して得られた利益は折半するという旨の当事者の合意があった。インターネット配信の利益も両社が撮影したネゴ・アブ・カップの映像が無ければ得ることができない同様の性質のものであるため、インターネット配信の利益を折半するという条項が補充されるべきである。
(3)仮にレッド社の代替選手を探す努力により増加したインターネット配信の利益が折半されな いとしても、レッド社はブルー社に対して当初得られる予定だったインターネット配信の利益の 80 万米ドルにつき折半すべきである。
レッド社は、アスカ、xxxの活躍はブルー社の債務不履行を最小限にすべくレッド社が努力した結果によるものであるため、本件インターネット配信の利益は折半されるべきでないと主張することが予想される。
しかし、ブルー社やレッド社どちらかの努力により増加した利益は折半されないとの規定は存在しない。また、レッド社がインターネット配信で流した映像にはブルー社が撮影した映像も含まれること、ブルー社が有名選手を参加させる際にも放映による利益は折半されることに鑑みれば、レッド社の主張は認められない。仮にレッド社が努力した分についてはレッド社の利益となるとの主張が認められたとしても、ボルト、xxxxxx、ホッスーの三人が参加していた場合に得られたであろう 80 万米ドルについては、レッド社の努力の有無に関わらず元々得られてい
たであろうインターネット配信の利益なのであるから 80 万米ドルの半額である 40 万米ドルについては支払われるべきである。
第4【結語】
別添 9 契約に基づきレッド社は本件において得たインターネット配信の利益を折半する義務を負っていた。仮に明確な規定がなかったとしても、上記に述べたような事実に鑑みればインターネット配信の利益は折半される。
よって、レッド社はブルー社に対してインターネット配信で得た利益の半額 50 万米ドルを支払わなければならない。