入札・契約制度については、一般競争入札、指名競争入札、随意契約があり、政府調達協定(WTO 協定)の課題もある。一般に、入札・契約制度改革といわれるものは、次のような制度改革である。
xxxx(認定NPOまちぽっと理事)
□ 今日お話しすること
1.公契約の課題
2.予定価格の適正算定
3.入札手続き
4.公契約条例
5.公契約条例とまちづくり
1.公契約の課題
公契約は、xxの公契約と狭義の公契約とに定義することができる。xxの公契約には、予定価格の算定と入札手続きをふくむ。
建設工事のような請負と、業務委託、指定管理者制度に分けて簡単に表にしてみよう。網かけしたところがxxの公契約である。
建設工事 | 業務委託 | 指定管理者制度 | |
設計等 | ・設計業務(委託がほとんど) ・設計図書の作成 | ・委託業務の選定 ・委託業務の範囲の確定 | ・指定管理業務の選定 ・指定管理業務の範囲の確定 |
予定価格の算定 | ・数量算出、積算 ・入札図書類作成 | ・見積もり合わせ、前年度 ・実績等による予定価の決定 ・委託仕様書等の作成 | ・指定管理料の算定 ・選定要綱等の策定 |
入札 | ・一般競争入札 ・指名競争入札 ・随意契約 | ・一般競争入札 ・指名競争入札 ・随意契約 | ・公募(非公募あり) ・選定委員会による選定 |
契約 | ・契約書 ・契約約款 ・設計図書類 (特約条項) | ・契約書 ・契約約款 ・委託仕様書 | ・基本協定書 ・年度ごとの協定書 |
施工等 | ・工事施工 | ・委託業務の実施 | ・指定管理業務の実施 |
完了 | ・工事完了届 ・工事検査 | ・納品等 ・監査等 | (年度ごとに) ・モニタリング ・事業評価 ・事業報告書 |
*網かけしたところはxxの公契約
狭義の公契約はILO94 号条約を実現するための契約をいう。上表でいえば網かけの三番目の契約について、ILO94 号条約が求める課題を、どのように契約行為を通じて実施するという課題である。ILO94 号条約には、次の2つの目的があるとされている。(ただし、ILO94 号条約は日本は未批准である)
①人件費が公契約に入札する企業間で競争の材料にされている現状を一掃するため、すべての入札者に最低限、現地で定められる特定の基準を守ることを義務づける
②公契約によって、賃金や労働条件に下方圧力がかかることのないよう、公契約に基準条項を確実に盛り込ませる。
公契約によって社会的価値を実現し、官制ワーキングプアをなくすためには、xxの公契約の三段階(予定価格の算定、入札、契約)それぞれにおいて改革が必要とされる。とりわけ、業務委託・指定管理においては三段階とも課題が多い。
2.予定価格の適正算定
これは、予定価格の算定(積算)を適正に行うことを求める課題である。
○ 建設工事は積算体系ができている。
・ 国土交通省と農林水産省が運用している「公共工事設計労務単価」(二省単価ともいう)がある。(最も新しいのは、農林水産省及び国土交通省が、「平成 30 年 3 月から適用している公共工事設計労務単価」である。
・ 都道府県、市町村もこの単価に準拠して積算・算定を行っている。
○ 業務委託、指定管理業務は、積算体系ができていない。
・ 国においても「建築保全業務労務単価」(官庁営繕、官庁施設の維持・保守業務で使用)などがあるに過ぎない。
・ 自治体の業務委託の予定価格は、「見積もり合わせ」や「前年度契約金額」などが用いられ、市場価格とは著しくかい離する場合が多い。
・ ようやく近年、自治体の中にもこの課題に対する問題意識が広がりつつある。ただし、現段階では「建築保全業務労務単価」に準じて算定するものであり、清掃や設備管理などの限られた業務に限定されている(青森県、島根県など)。
<業務委託費積算の体系>
業務委託料 業務価格 業務原価 直接業務費 直接人件費消費税相当額 一般管理費等 業務管理費 直接物品費
○ 予定価格の「適正積算」の条例化などの動き
・ 条例化の例 相模原市
相模原市は、公契約条例を受けて「相模原市業務委託最低制限価格取扱要領」を定
め、予定価格の算定について、次のように定めた。業務委託に関して明確な算定基準を定めるのは画期的なことである。下記のように、国土交通省の建築保全業務積算基準の例によっている。
■相模原市業務委託最低制限価格取扱要領
(予定価格)
第3条 最低制限価格を設ける入札において予定価格を算定する場合は、予定価格の算定の基礎となる次に掲げる費目ごとに額をあらかじめ定めるものとする。この場合における費目は、国土交通省が定める建築保全業務積算基準の例による。
(1)直接人件費
(2)直接物品費
(3)業務管理費
(4)一般管理費等
(見積書への費目の記載)
第4条 予定価格の算定の基礎となる見積書を徴する場合は、前条各号に掲げる費目に基づく積算の内訳を求めるとともに、直接人件費について、当該業務に従事する労働者の人数及び時間等の算定の根拠を明らかにするものとする。
3.入札手続き
入札・契約制度については、一般競争入札、指名競争入札、随意契約があり、政府調達協定(WTO 協定)の課題もある。一般に、入札・契約制度改革といわれるものは、次のような制度改革である。
・ 低入札価格調査制度・最低制限価格制度
・ 総合評価方式による入札
・ 予定価格の公表
ここでは、これらの課題は割愛し、江戸川区の江戸川区公共調達基本条例を紹介しておきたいと思う。この条例の特徴は第 3 章にある。
江戸川区公共調達基本条例 第 3 章 特定公共事業の実施手続
(特定公共事業の指定)
第 13 条 区長は、区の行う事業のうち、区民生活に密着し、地域社会の健全な発展のために特に重要な事業について、その事業の社会的要請を実現するため、その事業を遂行するための公共工事過程において特に価格以外の要素を重視すべき事業(以下「特定公共事業」という。)として指定することができる。
2 区長は、特定公共事業を指定するときは、あらかじめ、江戸川区公共調達審査会の意見を聴かなければならない。
3 特定公共事業の実施手続については、法令に定めるもののほか、この章に定めるところによる。
(特定公共事業基本計画) 略
(社会的要請型総合評価一般競争入札)
第 16 条 区は、特定公共事業の果たすべき社会的要請を最大限に実現するため、特定公共工事の契約者の選定に当たっては、特定公共事業基本計画に示された社会的要請の実現への貢献を当該評価項目に加えた総合評価方式による一般競争入札(以下「社会的要請型総合評価一般競争入札」という。)によらなければならない。
2 区長は、必要があると認めるときは、社会的要請型総合評価一般競争入札において、当該入札に参加する者に必要な資格を定めることができる。
3 区長は、前項の規定により資格を定めようとするときは、あらかじめ、江戸川区公共調達審査会の意見を聴かなければならない。
(落札者決定基準)
第 17 条 区長は、社会的要請型総合評価一般競争入札を行おうとするときは、あらかじめ、当該入札に係る申込みのうち、価格及び特定公共事業基本計画に示された社会的要請の実現のための条件が区にとって最も有利なものを落札者とするための基準(以下「落札者決定基準」という。)を定めなければならない。 (以下略)
(落札者の決定)
第 18 条 区長は、社会的要請型総合評価一般競争入札においては、落札者決定基準に基づいて落札者を決定しなければならない。
2 区長は、社会的要請型総合評価一般競争入札において落札者を決定するときは、あらかじめ、江戸川区公共調達審査会の意見を聴かなければならない。
3 区長は、社会的要請型総合評価一般競争入札において落札者を決定したときは、落札者の決定の理由及びそれに対する江戸川区公共調達審査会の意見を公表しなければならない。
(異議の申入れ)
第 19 条 特定公共事業の実施手続における取扱いに関し、異議のある者は、区長に対し、異議を申し入れることができる。
2 区長は、異議の申入れを受けたときは、当該申入れに係る取扱いに関し、遅滞なく、江戸川区公共調達監視委員会に諮問しなければならない。
3 区長は、当該諮問に対する江戸川区公共調達監視委員会の答申を尊重して、当該申入れに対する決定をしなければならない。
条例でいう特定公共事業とは、小・中学校改築事業である(当区では、平成 23 年度より
小・中学校改築に着手し、以降 20 年以上にわたり総事業費 2,000 億円を超える事業の実施を予定している)。
小・中学校改築事業における社会的要請について区は、以下のように示す。
1.地域・社会貢献
2.災害・緊急時対応、安全性
3.雇用・地域経済の活性化
4.創意工夫、工事体制、品質管理
5.社会情勢の変化、地域特性への配慮
以上、xxして明らかなように、江戸川区条例は地元事業者の活用化を図るための条例である。そのためには、議会はもとより区民に対しても透明性を確保することが重要だという判断のもとに策定された。地元事業者 1 社はもとより、JVであっても地元事業者参加していれば、総合評価が高くなる設計(落札基準)がされている。
実際の入札については、江戸川区区民オンブズマンからこれまで 4 度の異議申し立てが
あたった。そのうち 3 回は 1 社入札、100%落札に対してのもの、1 度は落札事業者が当該年度途中で倒産したことに対する制度の欠陥を問うものであった(すべて棄却)。
制度改正については、江戸川区公共調達審査会において議論があるが、今日まで成案はえられていない。29 年度の審査会は次のような意見でまとめられていた(30 年度の審査会議事はまだ公開されていない)
【主な意見】
① 現方式で競争性を確保するためにどのような改善が必要か、時間をかけて検討する必要があると思う。
② 制度の変更点の検討に当たっては、現実に合わせた制度設計及び柔軟性を持たせる必要があると思う。
4.公契約条例
(1)公契約条例の要件と現状
現在、公契約条例は多様化しているといっていいと思われる。私は、公契約条例の要件を明確にすることが必要であると考えている。考えられる要件(条例に規定すべき要件)は以下の 5 点である。具体的には下表のとおりである(ただし、あくまでxxの見解)。
・ 最低賃金
・ 元請け事業者の連帯責任
・ 労働者の権利保障
・ 適用範囲(対象事業)
・ 適用労働者
・ 第三者機関設置
公契約条例に該当する重要な要件
要件 | 事 例 |
最低賃金 | ○条例に、作業報酬下限額、労働報酬下限額、賃金下限額などの規定を置き、その基準となる単価の根拠(地域最低賃金以外)を明示。 *基準の根拠を規則で定める場合もある。 |
元請け事業者の連帯責任 | ○「連帯責任」が条例に成文化されているのが最も望ましい。 ○条例に「連帯責任」が明示規定されていない場合でも、受注者(元請者)の責任として「対象労働者」(対象労働者に下請労働者が明確に規定されていることが必要)に対する労働報酬下限額等の支払 いが明示されていることが必要。(規則に明示する場合も同様) |
労働者の権利保障 | ○労働者(適用労働者すべて)による「申出」規定 ○申出た労働者に対する不利益取り扱い禁止規定 *条例には規定せず、規則や特約条項等に定める場合もある。 |
適用範囲(対象事業) | ○工事契約 ○委託契約 ○指定管理者との協定 *この 3 種類の契約・協定が対象となっていること。 |
適用労働者 | ○受注者に雇用される者 ○下請者に雇用される者 ○派遣労働者 ○一人親方 |
第三者機関設置 | ○最低賃金を審議するための審議会、委員会等の設置 ○審議会等構成に労働者側委員が入る。 |
この要件を備えた条例を公契約条例とし、要件を備えていない条例と区別すると次表のようになる。なお要綱による取組みもあるので後述する。
* 公契約条例の要件を備えた条例 19条例
* 公契約条例の要件を備えていない条例 24条例 計43条例
ただし、この区分は形式的なものであり、実際には運用次第のところもある。公契約条例と区分したところも、公契約審議会などが的確に運営されていないところもあり、逆のところもある。
公契約条例の要件を備えた条例
労働条項に特化した条例 | 総合的条例 | ||
建設工事・業務委託・指定管理を対象 | 建設工事・業務委託を対象 | 建設工事を対象 | 予定価格の適正算定、総合評価入札、労働条 項を規定 |
野田市公契約条例 | (xx市は当初、建設 | (xx区公契約条 | 国分寺市公共調達条 |
川崎市契約条例 | 工事・業務委託を対象 | 例は改正して現在 | 例 |
多摩市公契約条例 | とし、指定管理を対象 | は業務委託、指定 | |
相模原市公契約条例 | としていなかったが、 | 管理も対象) | |
厚木市公契約条例 | 条例を改正し、現在は |
足立区公契約条例 xx市公契約条例 xx市公契約条例 xxx区公契約条例高知市公共調達条例xx区公契約条例 xxx市公契約条例加西市公契約条例 xx市工事等の契約に係る労働環境の適正化に関する条例 豊橋市公契約条例 越谷市公契約条例xx区公契約条例 | 指定管理も対象) | xx市公契約条例 | |
17 | ― | 1 | 1 |
19 |
理念条例・基本条例など(要件を備えていない条例)
理念的な条例 | 基本条例(労働環境の 整備などを規定) | 建設工事の質の確保 などを規定 | 建設工事の総合評 価入札を規定 |
長野県契約に関する条 | 奈良xx契約条例 | 山形県公共調達条例 | 江戸川区公共調達 |
例 | xx市公契約基本条例 | 基本条例 | |
四日市市公契約条例 | xx市公契約基本条例 | ||
大和xx市公契約条例 | xx市公契約基本条例 | ||
岐阜xx契約条例 | 世田谷区公契約条例 | ||
大垣市公契約条例 | (岩手)県が締結する | ||
加賀市公契約条例 | 契約に関する条例 | ||
旭川市における公契約 | 京都市公契約基本条例 | ||
の基本を定める条例 | 愛知xx契約条例 | ||
丸亀市公共調達基本条 | 尼崎市公共調達基本条 | ||
例 | 例 | ||
旭川市における公契約 | |||
の基本を定める条例 | |||
xx市公契約条例 | |||
xx市公契約条例 | |||
花巻市公契約条例 | |||
9 | 13 | 1 | 1 |
24 |
(2)公契約条例の課題
① 条例の適用範囲について
① 契約金額
◆ 工事契約
・ 5000 万円以上(多摩市、xx市、加西市)~6 億円(xxx)
・ 0 億円以上とするところが最も多い。
◆ 委託契約
・ 500 万円以上(xxxx、xxx)x0000 万円以上(xx区)
・ 1000 万円以上とするところが最も多い。
◆ 指定管理協定
・ 一定金額以上とするところと、特定施設を列挙するところとがある。
② 対象業務
国分寺市 | 多摩市 |
①設備の保守点検 ②施設・設備の管理(運転) ③施設管理(受付等(電話交換、自転車駐車場管理含む)) ④施設の清掃 ↑ 上記①~④は施設管理 ⑤ゴミ収取・運搬 | ①市役所本庁舎等総合管理等 ②公共下水道管渠調査清掃等 ③小中学校他樹木管理等 ④可燃物等収集運搬等 ⑤移動教室及び合同実踏送迎用バス借上等 ⑥学童クラブ運営等 ⑦いきがいディサービス事業業務等 ⑧地域活動支援センター事業業務 ⑨市長が特に認めた業務(市立唐木田図書館開館業務、市立学校給食センターxx調理 所に係る業務) |
国分寺市と多摩市を比較してみる。業務委託の対象業務
指定管理の対象施設
国分寺市 | 多摩市 |
指定管理費の額が 1,000 万円以上となる | 複合文化施設(パルテノン多摩) |
協定のうち,公の施設の業務とするものの使 | 多摩中央公園内駐車場 |
用許可及び当該公の施設の維持管理を指定 | 駐輪場 |
管理者の主たる業務とするもの | 温水プール 総合福祉センター |
xx複合施設(ベルブxx)駐車場 | |
多摩市立総合体育館 | |
キャンプ練習場 |
・ 対象業務を基本的に施設管理に限定しているところが多い。
・ 多摩市のように、ソフト業務も含めて幅広く対象にしているのはxxx市がある。
(2)最低賃金(賃金の最低額)について
① 最低賃金(賃金・報酬下限額)について
建設工事は二省単価(国土交通省、農林水産省の標準単価)を基準にしていることについては、全国的に共通している。その 90%とか、85%とかの議論がある。また、見習い労働者、非熟練労働者をどうするかの議論がある。
課題は業務委託である。業務委託の最低賃金・下限額は、下限額等の定める基準(根拠)については、自治体によって様々である。具体的な例は以下のとおり。
・ 建築保全業務労務単価(国土交通相) xx市
・ 一般職員給与 xx市、xx区、xx市、xx市、加西市
・ 臨時職員給与 xx区、港区、xxx市
・ 生活保護基準 xx市、多摩市(2016 年度からは職種別)、厚木市、高知市
・ 地域最賃 相模原市
・ 賃金構造統計調査 国分寺市
・ 公的機関の指標 xxx区
② 職種別最低賃金
野田市の業務委託の最低賃金(賃金等の最低額)は、一律の最低額ではなく、一定程度の職種別賃金を導入しているところに特徴の 1 つがある。xx市のように最低額一本ではなく、業務の質に応じた下限額を設定している多摩市の例がある。
<多摩市 2018 年度の下限額>
・公園管理・施設の樹木管理業務・法面維持管理業務 995 円
・街路樹の維持管理業務 | 1010 円 |
・下水道管渠清掃等業務 | 1290 円 |
・可燃物等の収集運搬業務 | 1025 円 |
・学校給食センター調理等業務 | 1070 円 |
・その他の業務・指定管理協定 | 990 円 |
※工事における熟練労働者以外 | 1000 円 |
※xxxの地域最賃 958 円(10 月 1 日以降 985 円)
(3)課題
① 賃金等下限額については、ここ数年地域最低賃金の引き上げにともない、下限額と地域最賃が接近してきていること。したがって、xx市、多摩市のような職種別最低額の議論が望まれる。
② 第三者委員会(審議会)は、有識者 1 人、事業者団体 2 人、労働団体 2 人の 5 人で構成される場合が多い。しかし事業者団体、労働団体とも必ずしも当該団体を代表して
いるわけではない。真摯な議論を行うためには、実態把握(現場との意見交換、アンケート調査など)が求められる。
③ 「公契約条例は違法」との認識がいまだに存在する。そのような認識の克服が必要である。
(4)理念条例・基本条例について
最も新しい条例である花巻市の公契約基本条例のように、理念条例・基本条例が増えているのが最近の特徴である。特に県条例は理念条例が多い。xx市と花巻市の条例をみてみる(繰り返すが、分類はあくまでxxの判断である)。
■ xx市公契約基本条例
① xx市公契約基本条例の内容
草加市公契約基本条例は、「公契約に係る基本理念を定め、市及び事業者等(事業者及び下請負者をいう。以下同じ。)の責務並びに双方対等な立場において締結する公契約の基本的なあり方を明らかにすることにより、市民サービスの質を向上させるとともに、地域経済の健全な発展及び市民の福祉の増進を図り、もって地域の豊かさを創出することを目的とする」と定めている。
具体的な内容は以下のとおり。
□ 市の責務
□ 事業者等の責務
□ 入札及び契約手続
□ 予定価格の適正化
・ 市長等は、品質及び適正な履行を確保するため、取引の実例価格等を適切に反映させた合理的な積算根拠に基づき、契約金額を決定する基準となる予定価格を算出するものとする。
□ 情報の公表
□ 品質の確保
・ 市長等は、経済性に配慮しつつ、事業者の能力、社会貢献の取組等価格以外の多様 な要素を考慮し、価格及び品質が総合的に優れた内容を評価する契約方式を活用するものとする。
□ 履行の確保
□ 労働賃金基準額
・ 市長は、規則で定める公契約に係る事業者等が労働者に支払う賃金の基準額を定め
ることができる。
□ 労働環境の確認
・ 市長等は、事業者に対し、労働環境の確認を行うため、必要な報告を求めることができる。
・ 市長等は、前項の報告を受け、必要があると認めるときは、事業者に改善措置を講 ずるよう指導することができる。
□ 雇用環境の確保
・ 事業者は、継続性のある業務に関する公契約を締結する場合は、当該業務に従事する労働者の雇用の安定及び地域の雇用の維持並びに当該業務の質の確保に努めなければならない。
□ 下請負者との契約
□ 市内業者の活用
□ 公契約審議会の設置
そして、xx市が発注する契約に係る労働環境の確認に関する規則を定めている。その 内容は以下のとおり。
□ 労働賃金基準額を定める公契約及び労働環境の確認を行う公契約
⑴ 予定価格が 150,000,000 円以上の工事又は製造の請負契約
⑵ 予定価格が 10,000,000 円以上の業務委託に関する契約及び指定管理協定
⑶ 前2号に定めるもののほか、適正な賃金等の水準を確保するため、市長が特に必要であると認めるもの
□ 労働者の範囲
この条例、規則にもとづく労働賃金基準額は以下のように設定されている。
◆ 工事又は製造の請負契約に係る労働賃金基準額公共工事設計労務単価(埼玉県)の 90%/時間
◆ 業務委託契約に係る労働賃金基準額 913 円/時間
◆ 指定管理者との協定に係る労働賃金基準額 913 円/時間
* 埼玉県の 2018 年度地域最低賃金は、871 円(10 月 1 日以降 898 円)
② xx市条例の特徴
以上のように、xx市条例は公契約条例に限りなく近く、公契約条例と認識すべきだという意見もある。しかし、次の労働者の権利保障が規定されていない。
○労働者(適用労働者すべて)による「申出」規定
○申出た労働者に対する不利益取り扱い禁止規定
したがって、私の分類では先述のように取り扱っている。ただし、予定価格算定の適正
化として、「取引の実例価格等を適切に反映させた合理的な積算根拠に基づき、契約金額を決定する基準となる予定価格を算出する」と規定したことは特徴の1つであるxx市の取組みに注目したい。
■ 花巻市公契約基本条例
□ 条例の概要
(1)目的【第1条】
・公契約に係る基本的な事項を定めることにより事業者の意識啓発を図ること。
・公契約の適正な履行及び良好な品質の確保並びに労働者の適正な労働条件を確保すること。
(2)定義【第2条】
○公契約・市が発注する工事の請負に係る契約
・市が業務を委託する契約
・市が役務の提供を受ける契約
・市が物品を購入する契約
・市の公の施設の管理に係る協定
○特定公契約
・予定価格が1億 5,000 万円以上の工事請負契約
・予定価格が 1,000 万円以上の業務を委託する契約(清掃、警備、一般廃棄物収集運搬、駐車場管理、施設における受付案内、施設の設備運転保守)
・指定管理料が年額 1,000 万円以上の指定管理協定
○受注者 ・市と公契約を締結した者
○特定受注者 ・市と特定公契約を締結した者
○下請負者等
・下請・再委託等、市以外の者から公契約に係る業務を請け負った者
・労働者派遣事業を行う者で、雇用する労働者を公契約に係る業務に従事させる者
(3)基本理念 (略)
(4)市の責務、受注者・下請負者の責務(法令遵守)
(5)特定公契約に係る措置(受注者からの報告、及びそ調査)
・市長は、法令遵守の状況について、規則で定めるところにより、特定受注者に対し報告を求めることができること。
・市長は、必要があると認めるときは、特定受注者について調査を行うことができること。
□ 特定公契約の範囲
種 類 | 金額の要件 |
1 工事の請負に係る契約 | 予定価格が1億 5,000 万円以上であること。 |
2 業務を委託する契約 ①清掃 ②警備(機械警備を除く) ③一般廃棄物収集運搬 ④駐車場の管理 ⑤施設における受付案内 ⑥施設の設備運転及び保守 | 予定価格が 1,000 万円以上であること。 |
3施設の指定管理に係る協定 ・上記、①~⑥のいずれかを含むもの | 指定管理者の募集の際に基準額として明示する指定管理料が年額1,000万円以上であること。 |
□ 特定公契約に係る通知 (略)
□ 対象となる労働者
報告対象となる労働者の詳細を規定 (詳細は略、一人親方は対象外)
□ 定受注者及び下請負者等が行う報告(諸手続き)
・ 法令遵守状況の報告義務付きの契約締結
・ 特定公契約であることを労働者に明示
・ 賃金支払状況等報告書の提出
・ 賃金支払状況等報告書の内容調査、特定受注者との協議
② 花巻市条例の特徴
草加市条例にあって、花巻市条例にないものをみると、特徴が分かると思う。
・ 予定価格の適正化条項がない。
・ 労働賃金基準額に関する条例委任がない。
・ 労働環境の確認(xx市)・賃金支払状況等報告書の内容調査(花巻市)の内容は同じだと考えられるが、xx市は「指導」、花巻市は「協議」である。
・ xx市には市内業者の活用条項があるが、花巻市にはない。
・ xx市には公契約審議会の設置があるが、花巻市にはない。
以上から、xx市条例は私のいう公契約条例に近く、花巻市条例は他市の基本条例型とほぼ同様だと思われる。
(5)要綱による取組み
(1)要綱等の制定状況
① 労働環境の整備等を規定
○ 函館市発注工事に係る元請・下請適正化指導要綱(2001 年4月1日施行、2011 年4月1日改正施行)、適正な工事の施工を!-工事,委託の施工上の留意事項-函館市土木部長
○ 旭川市の公契約に関する方針達成の推進措置(2008 年 8 月 21 日)
○ 新宿区が発注する契約に係る労働環境の確認に関する要綱(平 2010 年 7 月 1 日施行)
○ 杉並区公契約等における適正な労働環境の整備に関する要綱(2012 年3月 28 日)
○ 佐賀市長が発注する工事請負契約に係る労働環境の確認に関する要綱(2013 年 6 月 3 日施行)
○ 港区 労働環境確保に向けた港区の取組み
② 総合評価制度に労働環境等の評価項目を規定
○ 豊中市総合評価一般競争入札(2006 年度から本庁舎をはじめ市有施設における清掃・xx警備等業務委託)
○ xx市建設工事総合評価方式実施要綱(2006 年 6 月 1 日、以降xx改正)、xx市物品購入等一般競争入札等実施要領(2007 年 4 月 1 日施行)、xx市工事関係委託低入札価格調査等試行要綱(2011 年 3 月 1 日施行)、xx市業務委託低入札価格調査等実施要綱(平成 23 年 1 月 1 日施行)、xx市業務委託総合評価方式実施要綱(2011 年 11 月 1 日施行))
○ xx市総合評価方式実施ガイドライン(2008 年 9 月 1 日策定、第四次改定 2011 年
4月1日)
○ 堺市本庁舎清掃業務において総合評価入札を試行実施(2007 年度から)
○ xx市総合評価方式ガイドライン(2011 年 4 月 1 日、2013 年度版改定、本格実施))
○ 大阪市業務委託契約総合評価一般競争入札(政策提案型)実施要領(2012 年 12 月 1日施行)
(参考) 大阪府市町村庁舎清掃業務委託総合評価入札(2012 年度、大阪府調査)
(2)要綱等による取組みの特徴
① 労働環境等の整備規定
対象事業 | 適正な賃金等 | 労働環境の確認 | その他 | |
函館市 | 建設工事 全工事が対象 | 二省単価に留意 し、適正な賃金の支払いに配慮する | 雇用通知書(労働 条件通知書)の完全発行の徹底など | 建設業退職金共済 事業の普及促進を求める |
よう土木部長名で 通知 | ||||
新宿区 | 建設工事 2000 万円以上委託事業 2000 万円以上 | 最低賃金額を別途定める 建設工事=二省単価の 85% 委託事業=920 円 (2015 年度) | 労働環境チェックシートの提出、 | 建設業退職金共済事業の普及促進を求める |
豊田市 | 建設工事委託事業 物品購入 | 総合評価の評価項目 | ― | 建設業退職金共済事業の普及促進を 求める |
杉並区 | 建設工事 委託事業 指定管理者 | 労働環境の整備に関し必要な事項は別に定める(確認できていない) | 労働関係法令遵守に関する報告書の提出(モニタリング対象業務)、特に必要と認める業務について社会保険 労務士による調査 | 建設業退職金共済事業の普及促進を求める |
佐賀市 | 建設工事 5000 万円以上 | 二省単価の 80% | 労働環境チェックシートの提出 | |
港区 | 建設工事 130 万円以上 委託事業(長期継続契約等) 50 万円 | 建設工事=二省単価の 80% 委託事業=臨時職員賃金 2015 年度 950 円 | 労働環境チェックシート、賃金給付状況シートの提出。 | 最低制限価格設定方法の見直し |
以上のように、公契約条例とほぼ同様な規定と運用を行っているのは新宿区と佐賀市、港区である。なお、新宿区、佐賀市、港区における労働者の範囲は以下のとおりである。
・ 新宿区 労働環境チェックシートとともに提出を求める「労働者の確保計画」では、
「本契約における工事に主として従事する労働者、公共工事設計労務単価で区分される 51 職種に該当する労働者」で「雇用形態(日雇い、短期雇用等)に関係なく、専属的に当該工事に従事している者」とされている。
・ xxx xに掲げる労働者のうち、公共工事設計労務単価で区分される 51 職種に区分される 51 職種に該当するものとする。
(1) 労働基準法第 9 条に規定する労働者
(2) 自らが提供する労務の対償を得るために請負契約により従事する者
・ 港区
労働基準法第 9 条の労働者、派遣労働者、請負契約者(一人親方)等の全ての労働者
② 実効性の担保等
◇ 新宿区
調査・改善の指示・報告の聴取・指名停止等の措置(当該契約の条項「労働環境の
確認に関する特記事項」に定める)
◇ 佐賀市
改善の指示・報告の聴取・指名停止等の措置(契約条項による)
◇ 港区
1 適用労働者への周知
▷ 適用範囲、賃金水準、違反等の申出先(契約管財課)等を事業現場に掲示
2 約款等の整備
▷ 契約約款上、適正な労働環境確保要件を規定
⇒事業所等への労働条件、適正でない場合の申出先等の掲示立入調査に協力し、改善指導に従うこと
賃金水準以上の賃金の給付
違反した場合の契約解除、指名停止措置
3 違反への対応(ペナルティ)
▷ 是正指導、立入調査、契約解除、指名停止措置(指名停止要綱による措置)等
⇒労働環境確保不履行の場合、36 月の指名停止とする。
③ 労働環境等の評価項目
労働環境等の評価項目がどのように設定されているかについては、以下のとおりである
(要点のみ)。
○ xxx xx 000 点(価格評価 250 点、技術的評価 110 点、公共性<施策反映>評価 140 点
公共性評価のうち、「福祉への配慮」として、①障害者に対する就労支援事業への取組み、②就職困難者の新規雇用、③障害者の雇用率及び雇用者数がそれぞれ 30 点、合計 90 点が配点されている。(全体の 18%)
○ xx市 評価(審査)項目として「労働者への賃金の上乗せ、労働条件の向上、雇用の創出及びその検証方法」があり、具体的には①労働者への法令を上回る賃金等の支払いに関する提案及びその検証方法、②労働者に対する法令を上回る労働条件に関する提案及びその検証方法、③雇用の創出に関する提案及びその検証方法の 3 項目がある。評価項目の評価に応じて得点を与える(加算 点)。
○ xx市 国土交通省の「市町村向け簡易型」に加え、市の独自評価として「格差への取組み」があり、①建設労働者の適正な労務単価確保、②市内企業への下請け状況、③法定外労働災害補償制度への加入、④退職金制度、⑤障害者雇用、
⑥男女共同参画推進があげられている。
○ 堺 市 本庁舎清掃業務について、①障害者の就職困難層における雇用に関する取組みの観点、②環境問題への取組みの観点、③男女共同参画への配慮の観点が盛り込まれている。
○ xx市 工事、委託ともに「格差是正への取り組み」があり、工事では①労務単価(2省協定以上の労務単価が確認できる場合、2 点の加点)②建設業退職金共済制度等の加入又は退職一時金制度等導入の有無(導入後 3 年で 2 点、導入済みで 1 点の加点)、委託では支払賃金(別に定める当該業務の標準的な賃金と認められる額の場合、2 点の加点)の評価項目がある。また「社会貢献」として
「障害者雇用の取組み」がある。工事における労務単価は、「公共工事設計労務単価」以上の労務単価を確認できることを条件とする。
○ 大阪市 予定価格 1,500 万円以上の庁舎清掃業務委託契約及び病院清掃業務委託契約で、落札者決定基準は評価会議の審議を経て定めることとされている。
(3)課題
労働環境の整備等を要綱に規定した場合の課題は以下のとおりである。
① 自治体による確認行為の有効性・強制力
契約書、契約約款などに明確に定めることが重要である(双方が合意したことが記載される)。
② 下請労働者の権利擁護(労働者の申し出の権利等)
契約書や契約約款、特約条項等に定められたとしても、労働者に裁判等に訴える権利が発生するかどうかがポイントである(行政指導ではなく、契約自由の原則のもとで契約当事者(発注者と受託者)だけでなく、労働者という第三者に権利は発生するのかどうか)
③ 第三機関の設置
要綱での取り組みでは、旭川市が入札監視委員会を設置しているのみである。新宿区、佐賀市、港区の場合、最低賃金の設定や違反への対応は第三者の意見を媒介にしない。今後の課題であると思われる。
(6)取り組みの課題
○ 行政内部の意思統一(合意形成)
かりに条例等ができたとしても、行政内の合意形成が不十分だと、運用がうまくいかない。特に財政担当課との意思統一は重要であり、事業担当課の職員研修も課題である。
○ 事業者(団体)との意見交換と合意形成
建設事業者、委託事業者との意見交換の場はきわめて重要である。特に、ビルメンテ
ナンス関係の事業者との意思疎通が欠かせない。事業者との間では、最初に示したxxの公契約がテーマになる。
・予定価格の適正算定(特に委託事業)
・総合評価制度や最低制限価格制度などのあり方
・契約約款などのあり方(特に委託契約)
○ 議会の合意
条例の制定は、できれば議会における全会一致が望ましい。そのためには会派、議員の理解を求める取り組みが求められる。
○ 第三者委員会の設置と運営
現在設置されている第三者委員会は、運営のあり方に課題があるように思われる。
5.公契約条例とまちづくり(公共サービスの質を高め、地域経済循環に資するために)
都道府県、市区町村を問わず、予定価格等を適正に算定し、その上で入札改革(最低制限価格制度など)を実現すること、そして公契約条例の策定をすすめることが、引き続きの課題である。
予定価格等を適正に算定し、最低制限価格制度などを運用し、公契約条例を策定することは、そこで働く労働者・スタッフのワーキングプア化を防ぐだけでなく、公共サービスの質を高め、地域の経済循環にも資するものである。公契約条例を通じたまちづくりは、公共サービスの質を高めていくことによって実現するものだと考える。
現在の日本の経済の低迷には多くの要因があると思われるが、その1つに労働環境の問題があるのは確かである。
第一はこの 30 年、特にバブル崩壊後の地方財政の危機から、いわゆる外部化(アウトソーシング)が急速にすすめられたことである。特に、業務委託や指定管理制度の導入が著しくすすんだ。
第二に、官・民を問わず「非xx化」が進んだことである。
その結果、中流層が崩壊し、格差社会といわれる状況が生まれている。地域の中に、低所得の人々が増えてくれば、その地域は活力を失っていく。地域の活性化は、もちろん公契約条例だけでできるものではないが、公共工事もふくめた公共サービスの分野で、少しでも賃金・報酬水準を上げていくことは、地域の経済循環を高めていくことにつながると考える。
なお、公・民の契約関係と民・民の契約関係において、ダブルスタンダードになるとの批判や懸念が、とりわけ業務委託の分野にある。公契約条例施行の当初は、あるいはダブルスタンダードの状態が表われるかも知れないが、まず公共サービスの分野で範を示し、民間契約分野に波及させていくことが、地域の経済循環を高めていくことになると私は考える。
また、業務委託の中で最も低賃金の状態にあると思われえるビルメンテナンスの業界との懇談の中で、予定価格の適正化が必要だとの意見、訴えを聞いたことがある。私が、予定価格の適正化を声を大にして主張するのは、その懇談以来のことである。予定価格・積算の適正化は公共工事の分野でも必要であると同時に、入札率の問題も公契約条例をめぐってもよく議論される。「サービス工事」もまたしかりである。いずれにしても、丁寧な議論の上で、現状に問題があるとすれば、その解消に取り組むことが大事だと思う。
公契約条例の策定にはすべての事業者、業界と、議会や行政内部における理解が不可欠である。たとえば議会においては「全会一致」で条例を議決することが重要だと考える。条例は策定することがゴールではない。策定した条例を、いかにその目的にしたがって運用していくかがより重要だと私は考えているからである。
八戸市ではこの間、丁寧な議論を重ねてきていると思われるが、引き続き全体が合意できるような議論を望みたいと思う。