Contract
-xxx上の説明義務-
契約の締結に先立ちxxx上の説明義務に違反して相手方に情報を提供しなかった場合、債務不履行責任がないとされた事例
(最高裁 平23・4・22 金・商 1372-30) xx xx
契約の一方当事者が、当該契約の締結に先立ち、xxx上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別、当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはないというべきであるとされた事例(最高裁 平成23年4月22日 破棄自判 金融・商事判例1372号30頁)
1 事案の概要
Y(上告人:信用協同組合)は、平成6年に行われた監督官庁の立入検査において、自己資本比率の低下を指摘され、さらに、平成8年に行われた立入検査においても、実質的な債務超過の状態にあるなどの指摘を受け、文書をもって早急な改善を求められたが、その後も上記の状態を解消することができないままであった。
Ж 平成10年ないし平成11年頃、Yは、債務超過の状態にあって、早晩監督官庁から破綻認定を受ける現実的な危険性があり、このことを十分に認識し得たにもかかわらず、X1ら(XI、X2は個人、X3、X4は会社)に対し、そのことを説明しないまま、Yに出資するよう勧誘させた。
€ X1らは、上記の勧誘に応じ、平成11年
3月、Yに対し、各500万円の出資をした。
Yは、平成12年12月、金融再生委員会から、金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(改正前のもの)第8条に基づく金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分を受け、その経営が破綻した。X1らは、これにより、本件各出資に係る持分の払戻しを受けることができなくなった。
平成11年3月、X1らはYに対し、主位的に不法行為に基づく損害賠償請求xxを理由とする不当利得返還請求権に基づき、予備的には出資契約上の債務不履行による損害賠償請求権に基づき、出資相当額および遅延損害金の支払いを求めた。
第1審は平成20年1月28日に判決、原審は平成20年8月28日に判決(いずれも不法行為は肯定するが消滅時効完成、債務不履行は肯定するが会社は消滅時効完成)がなされた。そこで、Yから敗訴部分について上告がな
された。
2 判決の要旨
原審は、上記事実関係の下において、次のとおり判断して、被上告人らの予備的請求である債務不履行による損害賠償請求を、遅延損害金請求の一部を除いて認容すべきものとした。
① 上告人が、実質的な債務超過の状態にあって経営破綻の現実的な危険があることを
説明しないまま、被上告人らに対して本件各出資を勧誘したことは、xxx上の説明義務に違反する(以下、上記の説明義務の違反を
「本件説明義務違反」という。)。
② 本件説明義務違反は、本件各出資契約が締結される前の段階において生じたものではあるが、およそ社会の中から特定の者を選んで契約関係に入ろうとする当事者が、社会の一般人に対する不法行為上の責任よりも一層強度の責任を課されることは、当然の事理というべきであり、当該当事者が契約関係に入った以上は、契約上のxxxは契約締結前の段階まで遡って支配するに至るとみるべきであるから、本件説明義務違反は、不法行為を構成するのみならず、本件各出資契約上の付随義務違反として債務不履行をも構成する。
Ж しかしながら、原審の上記判断のうち、本件説明義務違反が上告人の本件各出資契約上の債務不履行を構成するとした部分は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
契約の一方当事者が、当該契約の締結に先立ち、xxx上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき、不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別、当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはないというべきである。
なぜなら、上記のように、一方当事者がxxx上の説明義務に違反したために、相手方が本来であれば締結しなかったはずの契約を締結するに至り、損害を被った場合には、後に締結された契約は、上記説明義務の違反によって生じた結果と位置付けられるのであって、上記説明義務をもって上記契約に基づい
て生じた義務であるということは、それを契約上の本来的な債務というか付随義務というかにかかわらず、一種の背理であるといわざるを得ないからである。契約締結の準備段階においても、xxxが当事者間の法律関係を規律し、xxx上の義務が発生するからといって、その義務が当然にその後に締結された契約に基づくものであるということにならないことはいうまでもない。
3 まとめ
本判決は、説明義務に違反したために、相手方が本来であれば締結しなかったはずの契約を締結するに至り、損害を被った場合には、後に締結された契約は、上記説明義務の違反によって生じた結果と位置付けられるのであって、上記説明義務をもって上記契約に基づいて生じた義務であるということは、それを契約上の本来的な債務というか付随義務というかにかかわらず、一種の背理であるとして、契約責任を否定したものである。
契約締結過程の説明義務違反の法的性質について、学説では契約責任ととらえる考え方が多数あるが、本事案は、一事例ではあるが、最高裁がはじめてその法的性質について判断を行ったものであり、重要な意義を有するものである。
契約締結過程における説明義務については、現在、法制審議会において、民法改正
(債権関係)に関する審議の中で、当該規定を設けるか否か等について検討が進められているところであるが、今後どのように審議が進んでいくか注視していく必要があろう。
(研究理事・調査研究部長)
Ж -道路に関する説明-
売主③者及びその仲介③者に接道義務を満たしていない物件の説明義務違反があったとして、引渡17年後に買主に対する不法行為責任が認められた事例
(xx地判 平23・2・17 判タ1347-220) xx xx
xx業者から、中古住宅を買い受けた者が、当該不動産が接道義務を満たしていないとして、購入から約16年後に、売主並びに売主側業者に対し不法行為に基づく損害賠償を請求したところ、不法行為責任が是認され、請求が一部認容された事例(xx地裁 平23年2月17日判決 一部認容 判例タイムズ1347号 220頁)
1 事案の概要
Xは、平成5年10月29日、xx業者Y1から、xx市内にある中古住宅を、xx業者Y
2、Aの仲介で代金2550万円で購入し、同年
12月27日に物件の引き渡しを受けた。
この契約に際し、Xは、地元金融機関から
2200万円の借入を行った。
本件建物は、昭和50年10月1日新築で、本件土地は、いわゆる「袋地」と、隣地と共有の路地状敷地からなっている。
当該路地状敷地は、幅員約2.7mで、幅員約6mの公道に接している。
本件建物については、昭和50年6月、建築確認が取得されたところ、同建築確認は、本件路地部分に幅員4mの道路が設置され、本件土地が当該道路に接することを前提とするものであったが、現実には、本件路地が存在するのみであり、本来、本件建物か、隣地建物のうち1棟しか建築できないものであった。
引渡を受けて後、約15年経過した平成20年 12月頃、Xは不動産業者Bに売却の相談をしたところ、「本件土地は、接道義務を満たしていないから、建築確認が下りず、建替えができないので、買い受けることはできない。」旨の説明を受けた。
向いの家
建築確認上のライン
共有通路
隣家
2.7m 6m 公道
現状接道部分が 2.7mのため、Xと隣家で一軒の家しか建築できない
そこで、Xは「Y1は、本件売買契約に付随する義務として、Y2は売主側の仲介業者として、買主であるXに対し、上記事項を説明すべき義務があったが、説明しなかった。」と主張し、下記の損害金の支払を求めた。
i)a)本件売買代金(2550万円)
b)本件借入に係る利息金相当額
(727万5669円) c)遅延損害金(397万4823円)
の合計額から本件不動産の本件売買契約時における適正価額752万円を控除した2923万 492円
)弁護士費用…上記金額の1割292万円計 3215万492円
Xは平成21年8月18日、xx地裁に提訴した。
2 判決の要旨
裁判所は次のように判示し、Xの訴えを一部認容した。
説明義務
宅地の売買においては、建築基準法上の接道関係は、建替えの可否並びに転売の可否及び転売条件等に大きく影響するものである。そして、Y1、Y2(以下「Yら」という)は、いずれも不動産の売買及び仲介を業とする会社であり、xx業者であるから、まず、 Y1については、本件売買契約の付随義務として、本件土地の接道状況についてXに対し説明する義務があったと言うべきである。
また、Yらは、xx業者であり、売主及び仲介を業として本件売買契約に関与したものであるから、宅地建物取引業法35条1項により、それぞれ取引xx者をして、Xに対し接道状況について説明すべき義務を負っていたものである。
本件土地は、接道要件を満たしておらず、建替えが困難な土地である。ところが、まず、本件売買契約書には、この点について何ら記載がなく、むしろ、本件重要事項説明書には、本件土地の「xxが幅約6mの公道に約3m接している」旨記載され、「新築時の制限」としては道路斜線制限等が記載されているのみで、接道要件との関係での建築の制限については全く記載されていなかった。そして、Xは本件路地が共有であることについては説明を受けたものの、本件土地が接道要件を満たしておらず、建替えが困難であることについては説明を受けたことがなかった。
前記によれば、Yらには、Xに対する説明義務違反(本件不法行為)があったことが明
らかであって、Yらは、本件不法行為と相当因果関係にあるXの損害について賠償責任
(不真正連帯債務)を負うと言うべきである。
Ж Xの損害について Xは、Yらの不法行為によって、本件土地
の接道状況には問題はなく、建替えが可能である旨誤信させられ、本件売買契約を締結し、本件借入れを行った上、本件売買代金及び本件借入れに係る利息金の支払をするに至ったものと認められるから、これらの金員の出捐は、本件不法行為と相当因果関係にある損害と言うべきである。
① 本件売買代金相当額と本件適正価格との差額1050万円
② 本件借入れに係る各利息金相当額 合計
347万0702円
本件売買契約の締結は、Xが銀行借入を行うことを前提とするもので、Yらはこれを了知していたものと認められる。
€ 以上によれば、Xの本訴請求は、Yらに対し連帯して1726万4536円及びうち1050万円に対する平成6年1月31日から支払い済みまで年5分の割合による金員の支払を求める程度で理由がある(弁護士費用・確定遅延損害金を含む)。
3 まとめ
本件は、約17年前に売却乃至仲介した物件に対し、業者の説明義務違反(不法行為)による責任を認めた案件である。
不法行為の時効は、知ってから3年、除斥期間20年とされている(民法724条)。重説ミスが相当後になって、多大の損害を引き起こしたという点で、業者に警鐘を与える判決である。
なお、本件は高裁にて和解が成立している。
(調査研究部調査役)
Ж -源泉徴収義務の説明-
外国法人から不動産を譲り受けた場合と税務指導契約に係る報酬金支払いの源泉徴収義務について、説明義務はないとした事例
(東京地判 平22・10・18 ウエストロー・ジャパン) xx x
xx業者の媒介で外国法人からマンションを購入した買主が、媒介契約に基づく重要事項説明違反および税理士の税務指導契約に基づく適切な税務指導義務やxxx上の注意喚起義務違反により、過大な税負担をした等として、債務不履行や不法行為による損害賠償請求をした事案において、税理士に支払われた報酬金は売買契約の情報提供に対する紹介料や謝礼金だから税務指導契約は成立せず、xx業者や税理士にxxxx義務を指摘すべきxxx上の義務はないとした事例(東京地裁 平成22年10月18日 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
買主Xは、xx業者Y1の媒介で、外国法人からマンション2室を購入したが、当該法人に対し、所得税法(212条1項)上の源泉徴収を行うことなく売買代金を支払い、また当該外国法人の顧問税理士であったY2に対し、所得税法(204条1項2号)上の源泉徴収を行うことなく税務指導料と称した報酬金を支払い、法定の納期限までに各所得税を納付しなかったために、後に各所得税本税のほか、各不納付加算税及び各延滞税を課せられ、結果的に、当該外国法人から返還を受けた売買代金支払に伴う所得税以外の税金については、これを自ら負担して納税した。
そこで、買主Xは、前記納税額相当のX負
担は、主位的に、税理士Y2が、Xとの間の税務指導契約に基づく適切な税務指導義務、もしくは前記売買契約成約の条件として、XにY2との税務指導契約締結させたことに伴う、Y2に対する前記売買契約上の問題点確認義務に反して、源泉徴収義務の必要性を告知しなかったという、債務不履行又は共同不法行為により生じた損害であると主張して、 Y1らに対し連帯して、674万7215円及び遅延損害金の支払いを求め、また予備的に税理士Y2に対しては、税理士報酬支払いに伴い Xが納付したその所得本税相当額につきY2に不当利得が生じしているとして、80万2100円の返還と遅延損害金の支払いを求めて訴訟を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示した。
Xは、Y2との間で本件売買契約をめぐる税務指導契約を締結し、Y2はXから本件報酬金の授受にあたり、報酬内訳を税務指導料とする請求書や領収証の取り交わしをしている。しかし、事実経過に照らすと、XがY
2に交付した本件報酬金は、実際には本件売買契約の情報提供したことに対する紹介金やxxxといった性質の金員であり、Y2が作成した請求書や領収書において「税務紹介料」の記載があるのは、xx業法違反のおそれを回避するための名目上のものに過ぎないと認
められるし、XとY2の間に税務指導契約締結の事実は認められないというべきである。 Ж 本件報酬金は、前記のとおり、Y2の税理士としての業務に支払われたものではないから、本来所得税法204条1項2号の源泉徴収対象となるべき報酬に該当するものとはいえない。したがって、本来であれば、Xにはその源泉徴収義務はなかったことになるから、Y2が、Xに対し、かかる義務の存在を説明すべき法的義務を負うということもできない。
€ Y1は、xx業者としてXとの間で媒介の契約を締結したに過ぎないし、もともとxx業者たるY1において、その重要事項説明の内容として、Xが負担すべき税金の内容や金額、源泉徴収義務の存否等についてまで、これを調査、報告すべき義務を負うものではない。
税務指導料名目の報酬は、税理士としての業務に関する報酬ではなく、本来であれば Xにその源泉徴収義務はないが、税務署において、これを税理士としての報酬として源泉徴収義務があると認めたことはやむを得ないし、Xが税務署の指導に従って納付した所得税本税70万円は、Y2のための所得税として納付したものというべきである。とすれば、 XによるY2の所得税の納付は、本来その必要性がないものであっても、これによって同額の損失を被った一方、Y2は、原則として同額相当の所得税の支払義務を免れるという利益を得たものと解するべきである。Y2は自ら確定申告に際し本件報酬も収入として適正に申告していると主張するが、それを裏付ける資料の提出に応じなかったこと等から、 Y2の主張は信用することができない。
以上によれば、Y1とY2には、もともとXに対し、訴外外国法人に支払われた本件売買代金、またY2に支払われた本件報酬金
につき、Xにその源泉徴収義務があることを告知すべき契約上の義務も、xxx上その他の法律上の義務もないから、これを告知しなかったことが、Y1らの債務不履行又は不法行為となる余地はなく、XのY1らに対する損害賠償請求はいずれも理由がない。しかし、 Y2は、Xが本件報酬金支払に伴うY2の所得税を納付した結果として、70万円相当の利益を得たものと解すべきであるから、XのY
2に対する前記70万円及び遅延損害金の支払いを求める不当利得返還請求は、その全部について理由がある。
3 まとめ
xx業者の税に関する説明と責任について、xx業者には、原則として取引関係者に対し、税について説明したり、調査したり、調査の求めに応じる義務はないとする判例
(大阪高判昭49.11.6、東京地判昭49.12.6)がある。
本事例は、外国法人から不動産を譲り受けた場合、xxxx義務について媒介業者の説明義務等が争われた事案である。源泉徴収義務がある場合、土地建物等の譲渡対価を支払った月の翌月10日までに納付することが必要で、納付期限を過ぎると、不納付加算税や延滞税の支払い義務が生じることになる。判決にあるように源泉徴収義務についてxx業者に調査や説明義務は原則ないが、国際化の流れの中で、外国法人等所有の不動産取引も今後増加すると思われるので、外国法人等所有の不動産取引を業者として媒介する場合は、買主や売主に源泉徴収義務の可能性があること、買主自ら税務署への照会、又は税理士等に相談すべきことを助言することは必要と思われる。
(調査研究部調査役)
-ローン解除通知-
売主へのローン特約による契約解除通知を怠ったとして買主が媒介③者に対して請求した損害賠償が否認された事例
(東京地判 平22・8・25 ウエストロー・ジャパン) xx xx
訴外A社から不動産を購入する契約をした買主Xが、A社の媒介業者Y1の担当者Y2に対し融資利用の特約に基づき売買契約を解除する旨通知したにも拘らず、Y2がA社にそれを伝えなかったためA社に交付済みの手付金の返還を受けられなくなったとして、Y
2に対しては不法行為に基づき、Y1に対してはその使用者責任に基づき、手付金相当額の損害賠償を求めた事案において、Y2には XがX側媒介業者を通じて行った解除の意思表示をA社に伝えるのを怠った任務懈怠行為は無かったとしてY2の不法行為を認めず、 Y1の使用者責任も生じないとして、Xの請求を棄却した事例(東京地裁 平成22年8月 25日判決 棄却 ウエストロージャパン)
1 事案の概要
本件は、株式会社A(以下「A」という。)との間で不動産(以下「本件不動産」という。)を買い受ける契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した買主Xが、本件売買契約における仲介業者であるY1株式会社(以下
「Y1」という。)の担当者Y2(以下「Y2」という。)に対し、融資利用の特約に基づき、本件売買契約を解除する旨通知したにも拘らず、Y2がAにそれを伝えなかったことにより、Aに交付済みの手付金300万円の返還を受けられなくなったとして、Y2に対しては不法行為に基づき、Y1に対してはその使用者責任に基づき、同手付金相当額の損害賠償
を請求した事案である。本件売買契約の概要は以下のとおり。
・契約日 平成19年10月21日
・売買代金 8,000万円
・手付金 300万円
・融資利用の特約(以下「本件融資特約」という。)有り。融資金額2億円
融資利用特約に基づく契約解除期日
平成19年12月4日
2 判決の要旨
裁判所は以下のように判示して、買主Xの請求を棄却した。
認定事実によれば、平成19年12月15日に、 X側媒介業者の担当者B(以下「B」という。)はY2に対し、Xが本件不動産の購入を断念し、本件売買契約を解除する意思を有していることを伝えることなく、Xの本件不動産の購入意思が継続していることを前提に、従前の建替を前提とする購入から改修による購入に変更した上で、本件不動産の売買の手続を進める旨の連絡をしたこととなる。
Ж この点、Y2は本人尋問において、前記認定と同旨の供述をしているのに対し、Bは、 Y2に対し、平成19年12月15日、契約は白紙であると述べて、本件売買契約を白紙解約した、即ちXの解除の意思表示を伝えた、従って手付返還となる旨述べたと証言している。両者の供述の信用性について検討する。
€ まず、証人Bの前記証言について検討す
ると、平成19年12月15日の時点で、Bが本件売買契約について白紙解約と伝えたというのであれば、BとY2ないしAとの間で、本件売買契約が解除されたことを前提とする行動、例えば、契約解除の確認や手付金の返還についての書面の取り交わし、手付金の返還期日や返還方法の具体的取り決め等がなされてしかるべきであるのに、同日はもとより、その後も、Bはかかる行動に出ていない。
Bは、Y2に電話連絡した直後に、Xに本件建物の改修による購入を勧め、その後の段取りまで具体的提案・設定をしているのであって、このことからすると、Bは、Y2に電話連絡した時点において、既に、Xに上記計画を持ちかける意向を有していたはずであり、従前、銀行から8,000万円の融資なら可能との提示がなされていた事情も加味すると、改修による購入が早期に実現する可能性があると見込んでいたものと推認される。とすると、契約解除期日である同月18日までまだ間がある同月15日の時点で、Y2にXの解除の意思表示を明確に伝えることで、売主が売却意思を喪失してしまうことを懸念し、本件売買契約を完全に解消させてしまうことを回避したいとの意向がBに働いたとしても不自然ではない。逆に、Y2には、BからXが本件不動産の購入を断念して、融資特約解除をする旨伝えられたにも拘らず、それをAに伝えず、また、独断でAにBからの連絡に反する説明をする動機も理由も見あたらない。
仮に、Y2がかかる行動をとれば、早晩、 XとAとの間で手付金の返還等を巡って紛争になることは明らかであり、そうなれば顧客であるAとの信頼関係を失うだけでなく、Y
1の信用失墜にもつながるのであって、xx業者であるY1にとって、本件売買契約の仲介手数料を得るという経済的利益では賄えないほどの損失を被るものである。とすると、
Yらにとっても、AとXとの間の紛争は望むものではないのであって、あえて、Y2が紛争を招くような行動をとるのは不合理である。とすると、BのY2への説明がXの意思やXの客観的状況と反することをもって、Y
2の供述の信用性が否定されるものではない。
以上のとおり、Y2とBの供述の信用性を検討しても、上述 の認定を覆えすに足りる事情は見受けられない。
とすると、平成19年12月15日のBからの連絡を聞いたY2において、Xから本件売買契約につき本件融資特約に基づく解除権が行使されたと認識することは困難であったと言わざるを得ない。却って、Bは、Y2に対し、 Xの本件不動産の購入の計画が一部変更されるものの、従前どおり本件売買契約が継続していると認識させるような発言や行動をとっているのであるから、それを受けたY2がAに対し、本件売買契約が解除された旨の連絡をしなかったことも尤もであって、これをもって、Y2に、Xに対する不法行為があったということはできない。
Y2に不法行為が成立しない以上、Y1にその使用者責任が生じることもなく、Yらに Xに対する損害賠償責任は認められない。
3 まとめ
本件は客付け/元付け業者間の融資特約に基づく解除通知をめぐり、ローン特約による契約解除通知を怠った任務懈怠行為は無かったとして、元付け業者の不法行為が否定されたものである。媒介業者として、事情をありのままに伝えることの重要性を改めて認識させられる事例である。
9 -契約の解除-
当初ローン特約の付された売買契約につき、その後同特約の削除に合意したことについて錯誤があるとした買主の主張を棄却した事例
(東京地判 平22・2・8 ウエストロー・ジャパン) xx xx
売主業者が、土地売買契約の買主が売買代金を支払わなかったとして、同契約の解除に基づく損害賠償を求めた事案において、当初本件売買契約に付されていたローン解除条項の削除に買主は合意しておらず、あるいはかかる合意が錯誤により無効となり、または詐欺に基づき取消すとの買主の主張は認められないとして、買主の主張を排斥し、売主業者の請求を認容した事例(東京地裁 平22年2月8日判決 認容 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成19年12月頃、売主業者Xは、当初、本件土地を更地のまま買主法人Yに売却する予定であったが、Yが本件土地上に集合住宅を建築する意向であり、そのためのプラン等の作成依頼等の作業をXサイドで行って欲しい旨の希望が出され、Xは、A企画に建物プランの作成等を依頼し、Yの希望条件を聴取して打合せを行い、その上で、Yは、本件土地につき最終的な購入意思を示した。
Ж このようにして、本件土地上に本件建物を建築することとなり、Yは全額融資になることから、ローン解除条項付きの本件土地売買契約を要請した。
€ そこで、平成20年3月29日、XとYとの間で、本件土地についての売買契約が締結された(以下これを「当初契約」という。)。こ
の契約は、売買代金1億500万円、中間金 1000万円を同年4月10日までに支払う、そして、本件ローン解除条項が記載されていた。
当初契約が締結された平成20年3月頃、 Yは、複数の金融機関と融資交渉を行っていたが、担保評価の点で折り合わず、結果待ちという状況であった。
以上のような融資交渉の中、Yは当初契約において約していた1000万円の中間金支払ができず、平成20年5月9日、協議が行われ、 Yは、本件土地を購入したい旨の意向を述べたが、Xは、契約を白紙撤回するよう求めた。これに対し、Yは、あと少しすれば融資が確実におりる状況なので、本件土地の購入希望を維持したいという意向を示したことから、予め用意していた売買契約書等をYに提示した。この契約書には、本件ローン解除条項は Yの指示により削除されること、売買代金が当初契約の1億500万円からいわゆるキックバック分1000万円を除いた9500万円となること、売買代金の支払方法は、同年5月12日に手付金400万円、同月30日に手付金600万円、残金を同年7月31日にそれぞれ支払うことが記載されており、Yは、この契約書及び当初契約の解約合意書に社印を捺印した。
その後の平成20年6月20日、Yは、期待
していた銀行からも担保不足を指摘され、融資を拒絶された。
Xは、Yが売買代金を支払わなかったとして、同契約の解除に基づく損害賠償等を求め、提訴した。一方、Yは、当初契約に付されていたローン解除条項の削除に合意しておらず、あるいはかかる合意が錯誤により無効であると主張し、争いになった事案である。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を認容した。
Yは、本件土地の購入意向を示した直後から、金融機関に対し融資交渉を行っていたが、どれも担保不足等を指摘されて拒絶されていたこと、当初契約が締結されてから平成 20年5月9日の協議に至るまで、XはYから、同契約に基づく手付金等の支払を一切受けていなかったこと、これにつき度々支払期限延長の申出がされていたことが認められる。 Ж このような状況は、Xからみた場合、本件土地を他へ売却することもできず、Yの融資交渉の進展待ちという不安定な状態が継続するというリスクを抱え込むことを意味し、しかも本件ローン解除条項が存在することは、かかるリスクを増大させる要因の一つとなるものであるから、これを削除して万一融資が通らなかった場合の違約金請求権を確保しようとすることは、Xにとって了解可能な行動であると考えられる。
€ また、Yとしても、前記認定のとおり、同日の協議当時は、複数の金融機関に融資を申し込んでいて、その結果待ちという状況であったのであり、これらのうちいずれかで融資が承認されれば、本件土地の売買に関する当面の問題は解決されるのであるから、上記協議の場において、X側から持ちかけられた本件ローン解除条項削除の提案について難色を示すような状況にあったとは認められないこと、現に、Yは、前記認定のとおり、同日
の協議の場において、あと少しすれば融資が確実におりる旨説明していたのであり、このようなY側の当時の状況認識からすれば、本件ローン解除条項の削除が大きな意味を持つものと考えていなかったのではないかと推認される。
本件ローン解除条項の削除がされた本件売買契約書に特段の異議をとどめずに捺印等していることなどからすれば、同日の本件売買契約時において、XとYは本件ローン解除条項の削除について合意していたものと認められ、Yがこの点について錯誤に陥っていたとも、Xがこの点について故意に告知していなかったとも認められないから、Yの主張は理由がない。
3 まとめ
不動産売買では、代金支払いのために銀行等のローンを利用することは少なくない。そこで、ローン不成立の場合には、買主において売買契約を解除できるとする特約がなされることが多い。本件はローン解除条項の削除について、売主と買主の合意の基に行われたものとして、売主の違約金請求を認めためずらしい事例であり、実務上参考となろう。
(調査研究部xx調整役)
-床材の瑕疵担保責任-
マンション建築後の法改正等により使用が禁止された床材が使われていたことが瑕疵には当たらないとされた事例
(東京地判 平22・5・27 ウエストロー・ジャパン) xx xxx
マンションの一室を購入して入居した原告らが、漏水及びホルムアルデヒドを発散する床材が瑕疵にあたるとして損害賠償を求めた事案において、漏水は、瑕疵にあたるが約定の除斥期間の経過により責任は消滅しており、また、マンション建築当時は、当該床材の使用が法令上禁止されていないことなどから瑕疵にはあたらないとし、請求を棄却した事例(東京地裁 平22年5月27日判決 棄却ウエストロージャパン)
1 事案の概要
原告X1は被告Y1から、平成9年1月
15日、被告Y2が施工する分譲マンション
(以下「本件マンション」という。)の14階の住戸(以下「本件住戸」という。)を購入する売買契約を締結した。同マンションは、平成8年9月30日に着工、平成10年3月25日に完成し、同月27日、X1と原告X2は本件住戸に入居した。
Ж 本件住戸の居室の床材には、当時のJIS規格(日本工業規格)のE2相当の建築材料が含まれていた。上記E2相当の建築材料は、平成14年法律第85号による改正後の建築基準法28条の2、同年政令第393号による改正後の建築基準法施行令20条の5第1項3号(以下、これらの規定を併せて「改正法等」という。)に規定する第1種ホルムアルデヒド発散建築材料に当たり、改正法等により、居室の床の仕上げに使用することが禁止されてい
る。
€ X1及びX2は、本件住戸に入居後、本件住戸に各漏水が生じたため、Y1又は平成 14年ころからY1の委託を受けて本件マンションの管理を行っていた取下げ前の相被告管理会社Aに対し、上記各漏水の修補を求め、 Y2は、原告らの指摘に基づき、各修補工事を行った。なお、修補工事には、ホルムアルデヒドを発散する建築材料は使用されていない。
X2は、修補工事の施工中、目の痛みなどの体調不良を感じるようになったため、病院等で受診し、平成18年11月28日、「シックハウス症候群に基づく化学物質過敏状態」との診断を受けた。また、X1も病院で受診し、平成18年12月13日、「シックハウス起因性の化学物質過敏症」との診断を受けた。
X1及びX2は、平成18年8月16日、 Y1及びY2に対し、損害賠償金の支払を求める書面を送付してこれを請求した。
2 判決の要旨
裁判所は、以下のように述べ、請求を棄却した。
当該床材使用が瑕疵に当たるか否か
①平成9年には、E2相当のパーティクルボードがパーティクルボード生産量全体の77%を超えており、本件マンションの建築された時点においては、E2相当のパーティクルボードはごく一般に使用されていた。
②Y1は、本件マンションが完成してその引渡しを受ける直前の平成10年3月13日、Y2に依頼して、サンプル調査として本件住戸以外の6戸のホルムアルデヒド濃度を測定したところ、その測定結果は、旧厚生省の小委員会が提案した指針値をわずかに上回る程度であった。
③本件マンションには、X1ら以外に住戸から放出されるホルムアルデヒドによる化学物質過敏症を訴える者はいない。
④上記の諸事情によれば、本件マンションの建築当時、床材にE2相当のパーティクルボードを使用することが法令上禁止されていなかったのみならず、床材にE2相当のパーティクルボードを含む床材を用いることがマンションの通常有すべき性能に欠けることを意味するものということができない。そして、本件売買契約において、X1とY1との間で、床材にE2相当のパーティクルボードを使用しないことが合意されたことについては何らの主張及び立証がされていない。したがって、本件住戸の床面にE2相当のパーティクルボードを含む本件床材を用いたことは、本件住戸の瑕疵には当たらないというべきである。 Ж 補修工事の際、ホルムアルデヒドが流入しないよう配慮すべき注意義務を負うか
修補工事時点で、本件床材が高濃度のホルムアルデヒドが放散し続けていたということはできないし、コンクリートく体と仕上げ材との間の空隙内にホルムアルデヒドが高濃度の状態で滞留していたということもできないのであるから、Y1が本件修補工事につきY
2に対し、X1らが本件床材から放散されるホルムアルデヒドに暴露しないように施工するよう指示すべき注意義務を負っていたということはできず、Y2が本件修補工事を行うに当たり、本件床材から放散されるホルムアルデヒドが室内に流入しないように配慮すべ
き注意義務を負っていたということはできない。
€ 漏水に対する損害賠償請求権
①X1がリビング腰窓の漏水をY1に指摘したことで本件漏水についてのX1のY1に対する損害賠償請求権が、保存されたということができず、上記請求権は発生した可能性があるが、その発生が認められたとしても、除斥期間の経過により消滅したというべきである。
②本件漏水につき、その原因が明らかでない上、瑕疵が原因で原告らの生命、身体又は財産を侵害されたことを認めるに足りる証拠がないのであるから、上記瑕疵が存在するとしても、建物としての基本的安全性を損なう瑕疵に当たるということができない。
3 まとめ
本判決は、マンション完成後の法改正等により使用が禁止された建築材料が建築時に使用されていても瑕疵には当たらないと判示した点では、実務上参考になると思われる。
同様の判例として、土地の売買契約後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていても瑕疵に当たらないとされた事例(最高裁H22.6.1判事2083号 77頁 判タ1326号106頁 RETIO80号)も参考とされたい。
また、ホルムアルデヒドに関する判例で、本事案とは建築時期及び事情が異なり原告の主張が認められた事例として、指針値を超える濃度の建物につき売主の瑕疵担保責任が認められた事例(東京地裁H17.12.5判時1914号107頁 RETIO64号)、化学物質過敏症に罹患したとして損害賠償が認められた事例(東京地判H21.10.1 消費者法ニュース82号267頁 RETIO78号)もあわせて参考とされたい。
(調査研究部調査役)
-土地の瑕疵担保責任-
商人間の取引で、特約が商法526条の適用を排除したとして、土地の瑕疵担保責任が一部認容された事例
(東京高判 平23・1・20 ウエストロー・ジャパン) xx xx
マンション素地を購入したxx業者が、土壌汚染があったとして瑕疵担保責任に基づき、引渡後10ヶ月後に、売主xx業者に損害賠償請求をしたところ、商法526条の適用は、当事者間で締結した特約により排除されていたとして、買主の請求が一部認容された事例
(東京地裁 平23年1月20日判決 一部認容ウエストロージャパン)
1 事案の概要
Yは、自己所有不動産(土地・建物)売却に先立ち、Aに土壌調査(土壌調査1)を依頼し、環境基準値(平成3年8月23日環境庁告示第46号)以上に有害物質が含まれていることは確認されなかった。
Yは、平成18年11月22日、xx業者Xに、当該不動産を代金8億276万円で売却する旨の契約を締結した。なお、特約で「本件土地引渡後といえども、廃材等の地中障害や土壌汚染等が発見され、Xが、本件土地上において行う事業に基づく建築請負契約等の範囲を超える損害(30万円以上)及びそれに伴う工事期間の延長等による損害(30万円以上)が生じた場合は、Yの責任と負担において速やかに対処しなければならない(本件特約
Ⅰ)。」、「本件土地引渡後といえども、隠れたる瑕疵が発見された場合は、民法の規定に基づき、Yの負担において速やかに対処しなければならない(本件特約Ⅱ)。」とされた。
Xは、製缶業を営む建物賃借人B退去後の、
平成19年6月29日に内金を支払った。 Yは、同年8月、Aに対し、再度本件土地
の土壌調査(土壌調査2)を依頼したが、環境基準値以上に有害物質が含まれていることは確認されなかった。
Yは、同年9月27日までに物件の引き渡しを終えた。
Xは、翌平成20年5月にCに土壌汚染調査
(土壌調査3)を依頼したところ、指定基準値(平成15年3月6日環境省告示第18号)を超える六価クロム及び鉛が検出された。
Xは、同年7月31日、Yに対し、本件汚染の存在を通知するとともに、土壌汚染調査費用等1576万500円を支払うよう催告した。
これに対し、Yは、以下のように反論し、支払を拒んだ。
本件特約は商法526条(買主による目的物の検査及び通知-6ヶ月以内の通知義務)を前提としたものである。
Xは、本件土地上でxx製缶工場が操業していたとの事実を了知し、本件土地の土壌汚染リスクを十分に予測していながら、土壌汚染の調査として本件土壌調査1及び2の調査方法、調査地点、調査地点数、調査レベル
(xx県残土条例に基づく28項目の検査)のみの汚染調査で完了とすることを了解しており、本件汚染は瑕疵に当たらないというべきである。
2 判決の要旨
裁判所は次のように判示し、Xの訴えを一部認容した。
本件特約は商法526条の適用を排除する合意であるといえるか
商法526条1項2号は、商人間の売買における特則として、買主に目的物受領後の検査通知義務を課し、これを怠った場合には瑕疵等を理由として民法規定の瑕疵担保責任の追及をすることができない旨を定めたものであるが、個別の合意によって検査通知義務を排除することができると解される。本件特約Ⅰは、土壌汚染等によって30万円以下の損害を被ったにすぎない場合にはYの責任を免責するという点で、Yの責任を限定したものであると解される。本件特約Ⅰの文言上、本件土地の引渡し後も土壌汚染が発見された場合にはYが責任を負うことを規定しており、他方、引渡し後の責任の存続期間については制限がない。以上によれば、本件売買契約において、 Yによる2回の土壌調査に引き続いてXが本件土地受領後に「遅滞なく」(商法526条1項)土壌調査を行うことは、そもそもXY間において想定されておらず、同条の適用は本件特約Ⅰにより排除されていたと解するのが相当である。
Ж 本件汚染が隠れた瑕疵に該当するか
売買目的物の「瑕疵」(民法570条)とは、取引において一般的に要求される水準を基準として、その種類のものとして通常有すべき性質を欠いていること及びある品質・性能を欠いていることをいう。本件売買契約締結時において土壌汚染対策法等ないし指定基準が定められており、上記指定基準を超えた六価クロム及び鉛が本件土地に含まれていた以上、本件売買契約締結時に六価クロム又は鉛が土壌中に含まれることに起因して人の健康
に係る被害を生ずるおそれがあることは明らかであるから、土壌汚染対策法に従った調査を実施した結果判明したか否かにかかわらず、本件土地が、取引において一般的に要求される水準を基準とした場合にその種類のものとして通常有すべき性質を欠いていることは明らかである。
本件汚染は、本件土壌調査1及び2によっても発見されなかったものである以上、通常人が買主になった場合に普通の注意を用いても発見できない瑕疵(隠れた瑕疵)に該当する。なお、Yは、Xが本来行うべき土壌汚染対策法に基づく調査を行わないまま土壌調査は完了したとの認識で漫然と長期間放置したものであるから、Xに過失が認められ、隠れた瑕疵には該当しないと主張するが、買主に、土地購入前に土壌汚染対策法に基づく調査を行う義務があるとはいえないから、Yの上記主張には理由がない。
€ 以上の次第で、Xの請求は、土壌汚染対策工事費用1470万円を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、主文の通り判決する。
3 まとめ
本件は、商人間の取引で商法526条の適用の有無を問うた案件である。
この係争の原因は、土壌汚染が予想される土地売買において、当事者間で土壌調査方法の認識がずれていたという点にあろう。調査方法によっては、汚染が発見されないこともあることから、最初から、土壌汚染対策法に則った調査を行うか、そうでなければ、簡便な調査で売主の責任を免除する方法を取るべきであった。実務上、注意すべきである。
⅛ -土地の瑕疵担保責任-
地中のコンクリート製構造物の埋設状況から判断すると瑕疵にはあたらないし、埋設物の存在を調査探知すべき義務もないとした事例
(東京地判 平22・4・8 ウエストロー・ジャパン) xx x
xx業者から購入した建売住宅の地中にコンクリート製の構造物が埋設されているとして、買主が売主に対し、主位的には瑕疵担保責任に基づき、予備的に説明義務違反に基づき損害賠償請求した事案について、構造物の埋設により居住用建物の敷地としての一般的な利用が大きく妨げられているとはいえず、増改築や建替えの必要性は、直ちに現実化することのない不確定なものであるから、瑕疵にもあたらないとし、売主が積極的に調査探知すべき義務を負っていたともいえないとして、買主の請求を全部棄却した事例(東京地裁 平成22年4月8日 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
本件は、建売住宅4区画の購入者(A区画:X1、B区画:X2、C区画:X3とX
4、D区画:X5とX6)が、売主のxx業者Yに対し、買った土地の地中にコンクリート製の構造物が埋設されていたとして、主位的にYの瑕疵担保責任に基づき、予備的に説明義務違反の債務不履行責任に基づき、X1らに生じた損害の賠償と遅延損害金の支払いを求めて提訴がなされた事案である。
本件各契約当時、AないしD区画の各土地の地中には、西側隣接地との境界に沿って南北に連なるコンクリート製の構造物が埋設されていた。本件構造物の形状は、A区画においては、地下約40㎝から約65㎝まで西側隣地
との境界から幅約25㎝の部分、地下約65㎝から約90㎝まで幅約55㎝の部分、その下に捨てコンクリート及び砕石層があり、B区画においては、地下約35㎝から約60㎝まで幅約25㎝の部分、地下約60㎝から約85㎝まで幅約55㎝の部分、その下に捨てコンクリート及び砕石層があり、C区画おいては、地下約15㎝から約30㎝まで幅約32㎝の部分、その下に幅約69
㎝の捨てコンクリート及び砕石層があり、D区画においては、地下約10㎝から約25㎝まで幅約32㎝の部分、その下に幅約57㎝の捨てコンクリート及び砕石層がある、というものであった。本件各契約の成立当時、本件構造物は、通常人の普通の注意では発見できないものであった。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおりX1らの請求はいずれも理由がないとしてこれを棄却した。
本件構造物は、西側隣地との境界に接して内側に存在する幅約12㎝のブロックフェンスの基礎である。同基礎が各区画の地下に浅いところで約10㎝以深、深いところで65㎝以深に位置している。また、同ブロックフェンスのxxから各区画に建築された建物の西側壁芯までの距離は、A、B、D区画が約48
㎝、C区画が約58.8㎝である。そして、各建物とブロックフェンスが近接する部分には、エアコン室外機、ガス給湯器、雨樋(縦樋)及びガスメーターが設置されていること等が
認められる。以上によれば、本件各土地のうち本件構造物が埋設されているのは、西側境界沿いのわずかな幅の部分にすぎず、その大部分がブロックフェンスと建物との間の狭い隙間であることからすると、そうではない部分があり、植物の栽培等に影響があり得ることを踏まえても、居住用建物の敷地としての一般的な利用が大きく妨げられることはないといえる。また、建物の増改築や建替えの必要性は、新築建物を目的とする本件各契約においては直ちに現実化することのない不確定なものであるから、これらの際に本件構造物が支障となり得ることを過大視するのは相当でない。このほか、本件構造物が土壌や建物の安全性に悪影響を及ぼすことを認めるに足りる証拠はない。したがって、本件各契約の目的物たる土地に本件構造物が埋設されていたことをもって、当事者が通常予定している品質、性能を欠くものということはできず、これによる資産価値の下落があり得るとしても、瑕疵には当たらない。
Ж Yは、xx業者として専門的な知識や経験を有することが期待される立場にあるから、本件各契約の締結に際して、顧客である X1らに対し、仮に目的物たる土地の地中に埋設物があり、これらがX1らの契約締結の意思決定に重大な影響を及ぼすものであることを知っていたのであれば、その事実を告知すべきxxx上の義務を負っていたといえるが、そのような埋設物の存在を知らない場合にまで積極的に調査、探知すべき義務を負うものではないと解するのが相当である。これを本件についてみると、証拠及び弁論の全趣旨によれば、Yは、本件各契約の成立前後に、他の複数の専門業者に対し、本件各土地の造成工事、地盤調査及び杭打ち工事、ブロックフェンスの設置工事並びに建物の建築工事を依頼して行わせており、これらの専門業者は、
本件構造物が埋設されているのを知っていたことが認められるが、本件構造物が本件土地の瑕疵に当たらないことからすると、専門業者が本件構造物の存在をYに報告するとは限らないから、上記認定の事実によってはYが本件構造物が埋設されていることを知っていた事実を推認するに足りず、他に同事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、Yは、 X1らに対し、本件土地に本件構造物が埋設されていることを告知すべき義務を負わず、 Yに債務不履行はない。
3 まとめ
本判決は、地中の構造物が、敷地境界に沿って位置しており、その埋設状況からして居住用建物の敷地としての一般的な利用が大きく妨げられることはないとしている。また、新築建物を目的とする契約において、建物の増改築や建替えの必要性は、直ちに現実化することのない不確定なものであるから、これらの際に本件構造物が支障となり得ることを過大視するのは相当でないとも判示しており、実務上買主の損害額の判断に際し参考となるであろう。
地中障害物に関する近年の判例としては、購入した土地について調査をしたところ、地中に建築廃材等大量の廃棄物が埋設されていることが判明したため、売主に対し土地の瑕疵として瑕疵担保責任に基づく損害賠償を請求し、容認された事例(東京地判平成19年7月23日 RETIO 71号)や、宅地売買においてガソリンスタンドの埋設基礎等が隠れた瑕疵とされた事例(札幌地判平成17年4月22日 RETIO 65号)などがあり、併せて参考としていただきたい。