共同研究開発契約書(♙I)
共同研究開発契約書(♙I)
想定シーン
1. 当事者
動画・静止画から人体の姿勢をマーカーレスで推定する AI 技術を保有するスタートアップ X 社は、介護施設向けリハビリ機器の製造メーカーY 社から問い合わせを受け、X 社が保有する AI 技術の、Y 社が製造販売を検討している介護施設における被介護者の見守り用のカメラシステム(見守りカメラシステム)への導入可能性を検討するため、アセスメント(PoC)を実施してきた。
2. PoC の内容および結果
学習に用いるデータに関しては、PoC 段階において X 社・Y 社両者協議の上でカメラの種類や設置場所を検討して試行錯誤しながらデータを収集し、当該生データに対して Y 社のノウハウを利用して X 社がアノテーションを付して学習向けに整形した学習用データセットを作成した。
当該学習用データセットと、X 社が保有していた複数の領域特化モデルを用いて検証を行ったところ、複数の領域特化モデルのうち「幼児向け施設における安全管理に用いているモデル」をベースにし、同モデルのネットワーク構造の変更および学習を行うことで、介護領域に特化した高精度な状態推定モデルを作れる可能性が高いことが判明した。
そこで、X 社は「幼児向け施設における安全管理に用いているモデル」を被介護者の状態推定用にカスタマイズしたモデル(カスタマイズモデル)のプロトタイプを開発し、見守りカメラシステムと連携した際の状態推定結果・精度等についての報告書を交付した。
【データの処理の流れ】
3. 共同研究開発フェーズへの移行
Y 社においては、報告書を受領した後、社内検討を行い、正式にX 社との共同研究開発を行うことを決定した1。
そこで、X 社と Y 社は、Y 社がカスタマイズモデルの開発ならびに開発後の販売およびサービス提供の方法を巡って、研究開発条件の交渉を開始した。
共同開発を想定している見守りカメラシステムの全体構成は以下のとおりである。
① X 社はもともと保有している姿勢推定モデル、および同モデルの出力である姿勢推定結果から事故・徘徊の確率を出力とするカスタマイズモデルを開発して X 社サーバ上に設置する。あわせて、Yシステムに組み込まれる連携システム(カスタマイモデルの出力を API 経由で読み込んで必要な表示等を行うシステム)を開発した上でY社に納品する。
② Y社は見守りカメラシステム通信機能付カメラと組み合わせて各介護事業者に SaaS 方式で提供する。
③ カメラは撮影・データ送信およびデータ圧縮機能のみを有し、撮影・圧縮された動画データは各介護事業者→ Y 社 →X 社の流れで送信される。
④ X 社サーバ上の姿勢推定モデルおよびカスタマイズモデルにおいて解析が行われ、当該解析の出力(事故の疑い●%、徘徊の疑い●%等)は、API 経由で Y 社の連携システムに送信され、事故が疑われる場合にはYシステム上の介護施設側画面において警告表示がされる。
1 なお、xxxによっては PoC 完了後、本格的な開発を必要とせずに当該 PoC にて作成したプロトタイプをほぼそのまま利用した利用フェーズに移行するものもある。
なお、ハードウェアである見守りカメラ機器は、Y 社が単独で試作品の製造を開始しており、X 社と Y 社が研究開発条件の交渉を開始する時点で、カスタマイズモデルとの連携の点や全体の点検作業を残し、概ね完成している。
4. 研究開発交渉
X 社と Y 社の研究開発交渉においては、双方の意向として、以下の点が挙げられた。
X社の意向 | Y社の意向 | |
①開発対価 | 共同研究開発開始時、および Y社による成果物確認の完了時点の 2 回に分けて支払いを 受けたい。 | 差し支えない。 |
② 成果物および成果物の提供方法 | 共同開発の成果物は、カスタマイズモデルである。 X 社は既存のクライアントであるスポーツ業界、フィットネス業界の各企業とのアライアンスにおいても、カスタマイズモデルのコードを提供することなく API 経由で提供している。これにより、姿勢推定に関するコア技術を秘匿化することに成功していることから、この度の共同研究開発の成果物についてもコードの提供を行わず、その処理結果のみを API を通じて提供する予定である。 | カスタマイズモデルのコードそのものを提供するのではなく同モデルによる処理結果を API 経由で提供するという点については同意する。 ただ API 提供を行うのであれば、Y 社システムとカスタマイズモデルとを API 連携するために必要な連携システム(本連携システム)も、共同開発の成果物とすべきであり、最低限、本連携システムのソースコードおよび仕様書など本連携システムの利用に必要となるドキュメント類については提 供して欲しい。 |
③ Y 社が提 供する学習用データ | Y 社において、個人情報保護 法その他の法律に遵守した形で提供いただきたい。 | 差し支えない。 |
④知的財産権の帰属 | ア 姿勢推定モデルの知財 姿勢推定モデルの知的財産権は本契約締結以前より X社が保有する X 社のコア技術であるため、X 社に帰属するものとしたい。 イ カスタマイズモデル等の成果物や開発過程における知財カスタマイズモデルは、X 社 がもともと保有していた領域特化モデルをベースにネットワーク構造を変更したり学習を行っ て生成したものである。 また、上場審査やM&A に先立つデューデリジェンスにおいてマイナス評価を受けないために、また、(2)自由度を確保して多数の企業とのアライアンスを実施し市場を拡大して売上を増加させるために、成果物等の知的財産権(著作権および特許xx)については X社の単独帰属としたい。 仮にそれが難しければ、最低でも成果物等に関する著作権についてはX 社の単独帰属としたい。 連携システムに関する著作権をY社に移転させることについては異存ない。 | ア 姿勢推定モデルの知財 姿勢推定モデルが共同開 発の成果物ではないことは理解しているので、その知的財産権がX社に帰属しているということで問題ない。 イ カスタマイズモデル等の成果物や開発過程における知財 カスタマイズモデルは Y 社独自の介護事故に関するノウハウおよびデータを元に得られたものである以上、カスタマイズモデルに関する著作権や特許権は Y 社にも帰属するのではないかと考えている。 しかし、利用条件次第ではカスタマイズモデルの知的財産権のうち著作権に限っては X 社に単独帰属させることも検討可能である。 一方、本連携システムや関連するドキュメントに関する著作権については、今後Y社内でも保守等を行う可能性があることから、Y社に帰属させたい。 |
⑤知的財産権の利用 | カスタマイズモデル等(カスタマイズモデルおよび姿勢推定モデルのこと。以下同じ。)の利用条件は別途 SaaS 契約において定める。 | カスタマイズモデル等の利用条件を別途 SaaS 契約で定めることについては差し支えないが、カスタマイズモデル等は Y 社の知見およびデータを元に生成されたものである以上、カスタマイズモデルの利用条件については、Y 社におけるカスタマイズモデルの独占的利用や何らかの経済的なメリットの設定が必要である。 利用契約においてそのよう なメリットが合意できるのであれば、カスタマイズモデルの知的財産権についてはX社に 帰属させることも検討する。 |
⑥公表 | 資金調達の観点からも Y 社との共同研究開発を開始した時点および一定の成果が出た時点で、それぞれ公表したい。 | 公表については、今後のサービス展開を踏まえるとY社にもメリットがあるため、X 社の意向で差し支えない。ただし、公表のタイミングおよび公表内容については双方で合意した 内容としたい。 |
5. 共同研究開発契約の締結
数度にわたる協議の結果、X 社および Y 社は、次の内容にて合意し、これらの内容を踏まえた共同研究開発契約書を作成することとした。
【交渉結果】
①開発対価 | Y社は、X社に対し、開始時および成果物確認完了時 の 2 回に分けて支払いを行う。 |
②成果物および成果物の提供方法 | ア 成果物 カスタマイズモデル、本連携システムおよび本連携システムの仕様書その他本連携システム利用に必要となるドキュメント類 イ カスタマイズモデルの提供方法 成果物の確認に必要な期間(確認期間)中、カスタマイズモデルによる処理結果をAPIを通じて X 社が提供することでY社が確認を行う。 ウ 本連携システムおよびドキュメント類の提供方法 X社がカスタマイズモデル等と併せて開発を行い、 関連するドキュメント類(PDF 形式)とともにそのソース コードをY社に提供する。 |
③Y社が提供するデータ | Y社が、顧客である介護事業者から取得する際に撮影対象である被介護者本人から第三者提供に関する同意を取得し、Y社において個人情報保護法上の問 題がクリアになったデータを X 社に提供する。 |
④知的財産権の帰属 | ア カスタマイズモデルを含む成果物および開発過程において発生した著作権 本連携システムおよびドキュメントに関する著作権はYに帰属する。それ以外の成果物等に関する著作権は X に帰属する。 イ カスタマイズモデルを含む成果物および開発過程における著作権以外の知的財産権 発明者主義とする。 ※姿勢推定モデルの知的財産権の帰属 姿勢推定モデルの知的財産権は、本共同開発前からX社が保有する知的財産権であるため、当然X社に帰属する。 |
⑤ 本件成果物等の利用条件 | 別途 SaaS 契約において定める。ただし、カスタマイズモデルが Y 社の知見およびデータの提供により生成されたことを十分考慮して、その利用条件を設定す る。 |
⑥公表 | 双方が合意したタイミング(例:共同研究開発を開始し た時点および一定の成果が出た時点等)で、双方で合意した内容を公表する。 |
*その他の条件はタームシート記載のとおりである。
タームシートや表を用いた契約書作成前の交渉
ここまで、研究開発交渉の過程を紹介する中で、X社の意向・Y社の意向をそれぞれ表形式で整理を行った。
こうした表形式での整理は、本モデル契約の紙面上の便宜のために行っているわけではなく、実際に、主に契約交渉の初期段階においては、契約の要点を定めた条件規定書(タームシート)を利用して契約交渉が行われることが少なくない。
通常の契約交渉は、いずれかの当事者から提出された契約書を他方がレビューして進められる。契約書の文言を、校閲ツールを用いて修正し、修正意図についてコメントを残すといった方法で、相手方当事者との間で双方が実を得られるような調整を行うことが一般的である。
しかし、事前に重要な契約条件について確認を行わずに契約書を作成すると、その後に双方がどうしても譲歩できないポイントが重複し、契約を締結することができなくなった場合、契約書作成の過程が全く無駄になってしまう。
また、複雑かつ大部な契約になると、交渉事項もその分多くなることから、専属の法務担当者を抱える場合であってもレビューに一定の時間を擁するものであり、人的資
源を欠くスタートアップにおいては、よりその負担が顕著であろう。
加えて、こうした複雑な契約となると、どうしても交渉のポイントごとに契約書の文言を修正することに気を取られてしまい、交渉事項を総合的・全体的に検討することが難しくなる。このような、木を見て森を見ずの議論になり、双方が実を得られないというケースも散見される。
そこで、事前に交渉のポイントをピックアップしたうえでタームシートを作成し、整理した上で、整理した内容を契約書に落とし込むという方法が採用されることが多い。
後述するとおり、AIの開発においては、共同開発対象とされる学習済みモデルに加えて、事業会社が提供する生データやこれを加工して得られた学習用データセットなどの材料や中間成果物が存在する。したがって、AI 分野においては交渉に先立ってタームシートを利用して整理を行うことが比較的多い。
なお、タームシートの形式にも決まった形式があるわけではない。別途公開される本モデル契約のタームシートのような詳細なものでなくとも、上記想定シーンの整理において用いたような表でも差し支えない。事業会社・スタートアップ双方にとって重要と考えるポイントを予め表形式で整理することで、双方にとってスムーズな交渉が行われることが望まれる。
目次
前文 11
1 条(目的) 11
2 条(定義) 13
3 条(役割分担) 15
4 条(委託料およびその支払時期・方法) 17
5 条(作業期間) 17
6 条(各自の義務) 18
7 条(責任者の選任および連絡協議会) 20
8 条(再委託) 21
9 条(本契約の変更) 22
10 条(本件成果物の提供および業務終了の確認) 22
11 条(対象データ等) 25
12 条(対象データの利用・管理) 26
13 条(本学習用データセットの取扱い) 28
14 条(秘密情報の取扱い) 30
15 条(成果の公表) 32
16 条(個人情報の提供) 32
17 条(本件成果物等の著作権の帰属) 33
18 条(本件成果物等の特許xxの帰属) 35
19 条(本件成果物等の利用条件) 36
20 条(禁止事項) 38
21 条(非保証) 38
22 条(損害賠償) 40
23 条(第三者ソフトウェアの利用) 40
24 条(権利義務譲渡の禁止) 41
25 条(解除) 41
26 条(有効期間) 42
27 条(存続条項) 43
28 条(準拠法および管轄裁判所) 43
29 条(協議) 43
はじめに
・ スタートアップが事業会社からデータの提供を受け学習済みモデルを開発するという形態の契約を締結する際には、経済産業省が 2018 年 6 月に公開した「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI 編)」の「開発段階のソフトウェア開発契約書(モデル契約書)」(以下「2018 年モデル契約」という。)が実務上参考にされることが多い。そこで、本モデル契約の解説においては、2018 年モデル契約についても適宜言及することとする。
「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI 編)」
xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx/0000/00/00000000000/00000000000- 3.pdf
契約の内容(ソフトウェア開発委託契約か共同研究開発か)
・ 2018 年モデル契約は、そのタイトルが「ソフトウェア開発契約書」とされているとおり開発委託契約であるが、本モデル契約は、そのタイトルが「共同研究開発契約書」とされているとおり、共同研究開発契約である。
・ これは、本モデル契約における想定シーン記載のとおり、スタートアップが一方的に開発を受託するケースを想定しているのではなく、スタートアップと事業会社とのオープンイノベーションの一例として、事業会社も事業領域に関する知識・ノウハウやデータを提供しており、文字どおり、共同で研究開発を進める場面を想定しているためである。
・ 共同研究開発契約の一般的な特徴として、研究開発の結果が得られるかについて、当事者が、研究開発の開始時には予想困難な不確実性があり、成果は共同研究開発の過程を通じて具体化する場合が多いことや、研究開発の目的の達成に至る道筋については、契約時には確定しておらず、手法について当事者に裁量が認められており、当事者の契約上の義務も抽象的に定めざるを得ないことが挙げられる。AI 技術に関する共同研究開発においても、AI 技術の特性もあって、このような共同研究開発契約の一般的な特徴が特に当てはまるといえよう。
・ なお、一般に共同研究ないし共同研究開発においては、費用を双方負担とするのが原則とされている。しかし、「モデル契約書_共同研究開発契約書(新素材)」第 5 条の解説において記載されているとおり、共同研究開発という題目ながら、資金xxxな当事者が研究開発費を負担するというケースも散見され(「モデル契約書_共同研究開発契約書(新素材)」10 頁)、AI分野における多くの共同研究
開発のケースでは現に事業会社が研究開発費(事実上の開発委託費)をスタートアップに支払っている。
「モデル契約書_共同研究開発契約書(新素材)」
URL:xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxxx/xxxx-xxxxxxxxxx- portal/index.html
前文
X社(以下「甲」という。)とY社(以下「乙」という。)は、第 2 条に定義
する本学習済みモデルおよび本連携システムの開発に関して、以下のとおり共同研究開発契約(以下「本契約」という。)を締結する。
1 条(目的)
第 1 条 甲および乙は、共同して下記の研究開発(以下「本共同開発」という。)を行う。
記
① 本共同開発のテーマ:甲が保有する「人体の姿勢推定 AI 技術」(動画・静止画から人物の姿勢をマーカーレスで推定する AI 技術)を、乙が保有する介護施設における被介護者の見守用高機能カメラシステムに適用した本学習済みモデルおよび本連携システムの開発
② 本共同開発の目的(以下「本目的」という。):前記学習済みモデルおよび本連携システムを利用した前記カメラシステムの開発および製品化
<ポイント>
・ 共同研究開発(本共同開発)のテーマおよび目的に関する規定である。
・ 共同開発契約はそれぞれの当事者が自己に与えられた役割の範囲において善良なる管理者の注意義務に基づいて開発業務を遂行する契約であり、相互に当該開発業務を委託し合うという関係にあるという点では、準委任契約としての性質を有する。そのため「各当事者に与えられた役割の範囲」を明確に規定する必要があるが、本条によって定める共同開発のテーマ・目的が、第 3 条に規定する役割分担とともに、この機能を担っている。
・ また、共同開発契約は準委任契約としての性質を有するため、一般的には、それぞれの当事者においてなんらかの成果の完成義務を負うものではない。
<解説>
共同研究開発のテーマ(本条 1 号)
・ 共同研究開発のテーマの記載の抽象度
共同研究開発のテーマは、抽象的に規定し過ぎると双方の認識に齟齬が生じやすい。一方、具体的に規定し過ぎると拡張や変更の度に契約修正の必要が生じる。
そこで、本条1 号のように、ある程度の幅を持たせつつ抽象的過ぎず、かつ、具体的過ぎない記載とするのが望ましい。
・ 共同研究開発のテーマの広狭
共同研究開発のテーマの定義によって「共同開発」の定義が決まるが、「共同開発」の定義は、知的財産xxの取扱いや、競業避止の範囲などに影響する。
例えば、共同研究開発のテーマの定義が広すぎると、「共同開発」の範囲が想定外に広がり、自社固有の研究成果(知的財産xx)が共同開発の成果と解釈され、本モデル契約に従って知的財産権の帰属や成果物の利用関係が規律される(双方が活用可能なものとなる。)リスクがある。さらに、不当に広範囲の競業避止義務が課されることにもつながり、本来は自由に研究できるべき研究領域について活動の制限が発生する危険もある。
他方、共同開発のテーマの定義が狭すぎると、実際は共同研究の成果であるにもかかわらず、本モデル契約書の枠外とされてしまい、当該成果に関して勝手に特許出願をされてしまうまたは本来禁止したい範囲の競業行為を規制できない等の弊害を生じる可能性がある。さらに、研究のスコープがピボット(変更)するたびに、本モデル契約の範囲から逸脱してしまい、再交渉を余儀なくされるリスクもある。
そこで、共同研究開発のテーマは、xxxず狭すぎない実態に即したものとすることが望ましい。
共同研究開発の目的(本条 2 号)
・ 共同研究開発の目的は、両当事者の秘密保持義務の内容および範囲を画するものとしても重要である。
・ 秘密保持義務条項では、両当事者は共同研究開発の目的以外の目的で秘密情報を使用してはならないとの条件が設けられることが一般的である。そのため、秘密保持義務の内容および範囲を確定する際に、本条で定める共同研究開発の目的が参照されることになる。
2 条(定義)
第 2 条 本契約において使用される用語の定義は次のとおりとする。
1 データ
電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の方法で作成される記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)をいう。
2 対象データ
別紙(1)「対象データの明細」に記載のデータをいう。
3 学習用プログラム
学習用データセットを利用して、学習済みパラメータを生成するためのプログラムをいう。
4 学習済みパラメータ
学習用プログラムに学習用データセットを入力した結果生成されたパラメータ(係数)をいう。
5 本学習用データセット
対象データを本共同開発のために整形または加工したデータをいう。
6 本学習済みモデル
本共同開発の対象となる、学習済みモデル(特定の機能を実現するために学習済みパラメータを組み込んだプログラム)をいう。
7 再利用モデル
本学習済みモデルを利用して生成された新たな学習済みモデルをいう。
8 Yシステム
動画データの送信機能および本学習済みモデルからの出力を受けて必要な処理・表示を行う機能を有するシステム
9 本見守りカメラシステム
本学習済みモデルとYシステムで構成される、介護施設における被介護者の
見守り用のカメラシステムをいう。
10 本連携システム
本学習済みモデルとYシステムを API 連携するためのシステムをいう。
11 本ドキュメント
仕様書その他本連携システムに関連するドキュメントをいう。
12 知的財産
発明、考案、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの
(発見または解明がされた自然の法則または現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)および営業秘密その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報をいう。
13 知的財産権
特許権、実用新案権、意匠権、著作権その他の知的財産に関して法令により定められた権利(特許を受ける権利、実用新案登録を受ける権利、意匠登録を受ける権利を含む。)をいう。
14 本件成果物
本学習済みモデル、本連携システムおよび本ドキュメントをいう。
15 個人情報等
個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律(平成 15 年法律第 57 号))に
定める個人情報(同法 2 条 1 項)および個人データ(同法 2 条 6 項)をいう。
16 書面等
書面および甲乙が書面に代わるものとして別途合意した電磁的な方法をいう。
<ポイント>
・ 本モデル契約で使われる主要な用語の定義に関する規定である。
<解説>
学習済みモデルを定義することの重要性
・ AI 技術を利用したソフトウェアの開発を目的とする契約の実務において、学習済みモデルの取扱いはその交渉上の中心的な課題の一つである。しかし、学習済みモデルの定義はxx的に明らかなものではないため、その取扱いに関する交渉にあたっては、この点について共通の理解を得ておくことが紛争予防の観点から望ましい。
・ 具体的には、学習済みモデルについて、アルゴリズム、プログラム、あるいは学習済みパラメータのいずれか、あるいはそのいずれかの組み合わせを指しているのかについて、十分な整理がなされないまま交渉が行われ、契約が締結されている例が見受けられる。
2018 年モデル契約では、「学習済みモデル」を、「推論プログラム」+「学習済みパラメータ」と整理した上で契約xxxxしており(下図参照。)、本モデル契約においても同様の定義を行っている。
(経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI 編)」12 頁より)
3 条(役割分担)
第 3 条 甲および乙は、本契約に規定の諸条件に従い、お互いに協力して本共同開発において別紙(1)の 5「具体的作業内容」に記載された業務を誠実に実施しなければならない(以下、甲の担当業務を「甲業務」、乙の担当業務を
「乙業務」という。)。
2 本共同開発における甲および乙の作業体制は、別紙(1)の 4「作業体制」においてその詳細を定める。
<ポイント>
・ 両当事者の役割分担を定めた規定である。
・ 一般に契約にまつわる詳細事項(開発の詳細な段取り、開発目標品の仕様、スケジュールなど。)は別紙に規定することが多い。本モデル契約もこのスタイルを採用している。
・ 別紙(1)の 5 には、「具体的作業内容」として以下のように規定した。
(1) 甲の担当作業: 次のとおりとする。 対象データの収集
対象データ前処理
対象データにアノテーションを行うことによる学習用データおよび本学習用データセットの作成
本学習済みモデルおよび本連携システムの開発および本ドキュメントの作成
(2) 乙の担当作業:
対象データの収集および甲への提供
本学習済みモデルの精度の向上に必要な介護事故の発生原因や検知に関するノウハウ・知見の提供
本学習済みモデルおよび本連携システムの性能評価
<解説>
・ 従来型のソフトウェアの受託開発とは異なり、AIの共同研究開発においては事業会社がスタートアップに対し、データや、学習済みモデルの精度向上のためのノウハウを提供するなどして、精度の高い学習済みモデルを共同して開発することが前提となっている。
・ 本事例においては、スタートアップがもともと保有している技術は、人間の姿勢推定に関する技術、および幼児向け施設の安全管理領域などにおける状態推定技術であり、介護領域に特化した技術は保有していない。一方、介護事業者を顧客に持つ事業会社は、介護施設・居室内の状況や施設内におけるカメラの運用に関する実務、被介護者の動作の特徴、事故が発生しやすいシチュエーション、どのような姿勢(体勢や経過時間、家具・ベッド等と人間の位置関係等。)に関する豊富な知見・ノウハウを有している。被介護者の状態を推定するためのAI モデルを生成するためには、データの作成やアルゴリズムのブラッシュアップにおいてそのような事業会社のノウハウが必要不可欠となる。また、状態推定の精度についても、どの程度のものが必要かについては、実際の介護事業者のニーズを把握
している事業会社の知見が必要となる。そこで、本共同開発にあたっての双方の役割分担を別紙(1)の「具体的作業内容」に記載して定義している。
・ 共同研究開発においては、当事者が相互に自らの役割を果たすことによって、研究開発の目的を達成することを目指しているため双方の役割分担を定めることと併せて、共同開発に向けての義務を双方がフェアな形で負うように定めることが必要である。共同開発に向けての各当事者の義務については第 6 条(各自の義務)において事業会社・スタートアップ双方が善管注意義務を負担することを明記している。
4 条(委託料およびその支払時期・方法)
第 4 条 甲業務の対価は別紙(1)の 9「委託料」で定めた金額とする。
2 乙は甲に対し、甲業務の対価を、別紙(1)の 10「委託料の支払時期・方法」で定めた時期および方法により支払う。
<ポイント>
・ 甲業務の対価としての委託料の金額、支払時期および支払方法を定める条項である。これら二つの項目は必ずセットで規定する必要があることに留意したい。
<解説>
・ 本想定シーンの【交渉結果】においては、開始時および成果物の確認完了時の 2回に分けて委託料の支払いが行われるものであって、いわゆるマイルストーン方式と呼ばれる成果完成型に近い取り決めがなされたといえるが、当然これと異なる取り決めも可能である。なお、マイルストーン方式については、新素材分野の共同研究開発契約書の 10 条(研究成果に対する対価)に記載されているコラムを参照されたい。
共同研究開発契約書(新素材)
URL : xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxxx/xxxx-xxxxxxxxxx- portal/index.html
5 条(作業期間)
第 5 条 本共同開発の作業期間は、別紙(1)の 7「作業期間」に定めたとおり
とする。
<ポイント>
・ 本モデル契約の契約期間に関する条項(第 25 条)とは別に、本共同開発の目安となるスケジュール・ロードマップを定めるための条項である。
<解説>
・ 共同開発においては開発が予定通りに進むとは限らず、予定完了時期を超えて開発を行うことになる場合もある。その場合に、作業期間を明確に決めずに開発を続けてしまうと、スタートアップとしては、想定以上の時間を費やしたにも関わらず追加の委託費用をもらえないという事態も起こり得る。他方、事業会社としても、想定した期間内までに開発の成果を得られないという事態が起こり得る。
・ 特に、VC から資金調達を受けているスタートアップとしては、一定の期間内に IPO または M&A による EXIT を目指さなければならず、開発が徒に長期化しないよう、開発に関するタイムスケジュールを定めておく必要性は大きいものといえよう。
・ なお、予定完了時期を超えて開発を行うことになる場合に備えて、作業期間を定めたうえで、「協議を行い、両当事者合意の上延長できる」旨の規定を置くことも考えられる。
6 条(各自の義務)
第 6 条 甲は、情報処理技術に関する業界の一般的な専門知識に基づき、善良な管理者の注意をもって、甲業務を行う義務を負う。
2 甲は、本件成果物について完成義務を負わず、本件成果物が乙の業務課題の解決、業績の改善・向上その他の成果や特定の結果等を保証しない。
3 本共同開発に関して発生する不具合(乙が別途本契約外で開発する本見守りカメラシステムおよび対象データに起因する不具合を含む。)について、xは一切の責任を負わない。ただし、当該不具合が、本件成果物のうち本連携システムのみに起因する場合はこの限りではない。
4 乙は、介護業界、見守りカメラシステムに関する業界の一般的な専門知識、
対象データおよび共同開発に必要なノウハウの提供者としての地位に基づき、善良な管理者の注意をもって、乙業務を行う義務を負う。
<ポイント>
・ 甲業務を履行するに際してのスタートアップの善管注意義務および本件成果物の性能の非保証、ならびに乙業務を履行するに際しての事業会社の善管注意義務を定める条項である。
<解説>
完成義務の有無・性能保証の可否
・ 共同開発契約は準委任契約の性質を有するものであり、本来、各当事者は完成義務を負うものではない。また、特に AI 技術を用いて開発される成果物(学習済みモデル)については、AI 技術の特性上、そのような規定を設けることが合理的である。その詳細は、2018 年モデル契約第 7 条の解説に譲るが、学習済みモデルは、主にデータから帰納的に作成されるため、その性能がデータに依存することや、生成に際して試行錯誤を繰り返す必要があることなどから、そもそも完成や性能を保証することが困難であるという特徴がある。
・ 一方で、成果物のうちルールベースにより作成されるプログラム(本事例においては本連携システム)については、完成義務が観念できることから開発者側が契約不適合責任を負担するという契約もよく見られる。
・ そこで、本条においては、AI 技術を用いた開発の特質を踏まえ、スタートアップが原則として本件成果物について完成義務を負わないこと、および本件成果物が特定の成果や結果を保証しないことを明記した。ただし、例外として、本件成果物のうち本連携システムのみに起因する不具合についてはスタートアップが責任を負担する旨定めている。
・ この点、スタートアップが成果物に完成義務を負わないことや保証も行わないとことを規定する本条2項に対しては、事業会社が完成義務や契約不適合責任の定めを置くように要請してくることが多い。しかしながら、事業会社においては、一定の性能が得られることについてPoC 段階で既に確認をした上で共同開発に移行している。また、一般的に言って共同開発とは、技術や事業領域についての情
報・知識を有する事業会社とスタートアップが互いにリスクテイクして開発を推進する開発形態であって、事業会社が一方的にスタートアップに完成義務や性能保証を求めるのは妥当ではない。そのような共同研究開発の性格から、AI 開発以外の共同研究開発においても、一般的に、成果物の完成義務やその保証を求めない事例も広くみられるところである。そのため、本モデル契約においては、ス
タートアップは本件成果物について完成義務を負わないことおよび本件成果物が特定の成果や結果を保証しないことを明記している。
スタートアップが負う義務の内容
・ 他方で、当然のことながら、本条はスタートアップが成果物の作成について一切の責任を負わないということを認めるものではない。そこで、本条第 1 項において、スタートアップに、情報処理技術に関する業界の一般的な専門知識に基づいた善管注意義務を負担していることを確認的に規定している。
・ すなわち、スタートアップには成果物の完成義務が課せられるわけではないものの、業界の一般的な基準に照らして、容易に開発が行えるはずの学習済みモデルの開発が頓挫した場合などには、スタートアップに善管注意義務違反があったと評価される可能性は十分ある。その意味において、スタートアップは、成果物の完成そのものに義務を負うわけではないが、成果物が完成しなかった場合において、その過程に善管注意義務違反が認められる場合には、事実上、成果物が完成しなかったことによる責任を負うことになる。また、成果報酬型の準委任契約の場合成果物が完成しなければ報酬も受領できないことになる。
事業会社が負う義務の内容
・ 第 3 条で解説したとおり、共同開発においては、スタートアップのみが作業を担うのではなく、事業会社もスタートアップに対し、データや学習済みモデルの精度向上のためのノウハウを提供するなどの自らの役割を果たし、相互が協力して精度の高い学習済みモデルを共同開発することが前提となっている。
・ 双方がそのような役割を果たす以上、スタートアップが当該役割を果たすにあたって善管注意義務を負うのと同様、事業会社も自らの役割を履行するに際しての善管注意義務を負うことになる。本条第 4 項においては、そのような事業会社の善管注意義務を定めている。
7 条(責任者の選任および連絡協議会)
第 7 条 甲および乙は、本共同開発を円滑に遂行するため、本契約締結後速やかに、本共同開発に関する責任者を選任し、それぞれ相手方に書面等で通知する。また、責任者を変更した場合、速やかに相手方に書面等で通知する。
2 甲乙間における本共同開発の遂行にかかる、要請、指示等の受理および相手
方への依頼等は、責任者を通じて行う。
3 責任者は、本共同開発の円滑な遂行のため、進捗状況の把握、問題点の協議および解決等必要事項を協議する連絡協議会を定期的に開催する。なお、開催頻度等の詳細については、別紙(1)「連絡協議会」に定めるとおりとする。ただし、甲および乙は、必要がある場合、理由を明らかにした上で、随時、連絡
協議会の開催を相手方に求めることができる。
<ポイント>
・ 事業会社とスタートアップのやり取りをスムーズに行うために、双方の窓口となる責任者を任命する。
・ 進捗状況の報告等を定期的に行う会議を開催し、課題等について情報の共有を行う。必要に応じて、緊急の会議を開催することも可能である。
<解説>
・ 実際の開発に際しては、事業会社とスタートアップの責任者のみならず担当者がそれぞれ電子メール、チャットツール(Slack 等)および開発支援ツール(Jira)等を用いて相互にやり取りを行うことが少なからずあり、このような体制を採用する場合には、かえって第 2 項や第 3 項の規定が円滑な遂行の妨げになることがある。
そのため、このような案件の場合には、本条全体または本条第 2 項ないし第 3 項を削除することもある。
8 条(再委託)
第 8 条 甲は、乙が書面等によって事前に承認した場合、甲業務の一部を第三者(以下「委託先」という。)に再委託することができる。
2 前項の定めに従い委託先に本共同開発の遂行を委託する場合、甲は、本契約における自己の義務と同等の義務を、委託先に課す。
3 甲は、委託先による業務の遂行について、乙に帰責事由がある場合を除き、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負う。ただし、乙の指定した委託先による業務の遂行については、甲に故意または重過失がある場合を除き、責任を
負わない。
<ポイント>
・ 甲業務の遂行に際しての再委託の可否および再委託が行われた場合のスタートアップの責任内容について定める条項である。
<解説>
・ 多くのスタートアップは傑出した技術力がある反面、大企業ほどの潤沢なリソー スがないことは言うまでもなく、このことは人的資源についても同様である。そこ で、このようなスタートアップの実情に照らし、事業会社の事前の書面承諾を得れば甲業務を再委託可能とした。
・ 既に本契約締結時点で再委託先が決まっている場合であれば、本モデル契約の別紙(1)に「再委託先」という項目を設け、再委託先を明記することで、事業会社から都度別途承諾を得るという煩瑣な手続を避けることができる。
9 条(本契約の変更)
第 9 条 本契約の変更は、当該変更内容につき事前に甲および乙が協議の上、別途、書面等により変更契約を締結することによってのみこれを行うことができる。
2 甲および乙は、本共同開発においては、両当事者が一旦合意した事項(開発対象、開発期間、開発費用等を含むが、これらに限られない。)が、事後的に変更される場合があることに鑑み、一方当事者より本契約の内容について、変更の協議の要請があったときは、速やかに協議に応じなければならない。
3 変更協議においては、変更の対象、変更の可否、変更による代金・納期に対
する影響等を検討し、変更を行うかについて両当事者とも誠実に協議する。
<ポイント>
・ 開発途中で本共同開発の内容等について変更する必要が生じた場合の変更手続を定める条項である。
10 条(本件成果物の提供および業務終了の確認)
第 10 条 甲は、別紙(1)の 8「業務の完了」に記載した成果物提供期限までに、本件成果物のうち本連携システムのソースコードを乙のサーバに甲がインストールする方法により提供するとともに本ドキュメントの PDF ファイルを乙に提供する。また、本件成果物のうち本学習済みモデルについては、上記「業務の完了」に記載した確認期間(以下「確認期間」という。)中、甲のサーバ上で API 提供可能な状態に置く。
2 乙は、前項に基づき甲から提供された API 環境を、次項に定める本件成果物
の確認目的でのみ利用することができる。
3 乙は、確認期間内に、本連携システムのソースコードおよび本ドキュメントの提供を受けたことおよび本連携システムを通じて本学習済みモデルの出力を受けたことを確認し、甲所定の方法(電子メール等による通知を含む)により甲に通知する。
4 前項の定めに従い、乙が甲に通知を発した時に、乙の確認が完了したものとする。ただし、確認期間内に、乙から書面等で具体的な理由を明示して異議を述べないときは、確認書の交付がなくとも、当該期間の満了時に確認が完了し
たものとする。
<ポイント>
・ スタートアップによる本件成果物の提供およびその提供方法ならびに事業会社による確認方法を定める条項である。
・ 成果物である本学習済みモデル、本連携システムおよび本ドキュメントごとにその提供方法を明記している。
・ 共同開発は、当事者双方がリスクテイクしながら推進する開発形態であり、特に学習済みモデルの出力については、スタートアップが一方的に完成義務や性能保証を行うのは合理的ではない(第 6 条解説参照)。そこで、本条においても、確認内容は実質的な性能評価を含まない内容としている。
<解説>
成果物の提供方法の重要性
・ 学習済みモデルの共同開発や受託開発においては、成果物である学習済みモデルをスタートアップが事業会社に提供する方法を契約上定める必要がある。この点は、ともすれば軽視されがちな交渉ポイントであるが、実は重要なポイントである。特に本想定シーンのように学習済みモデルの知的財産権をスタートアップに帰属させた場合、成果物の提供方法次第で、当該知的財産権を事実上保護できる強度が全く異なる。すなわち、成果物の提供方法としては、API を通じて出力の内容のみを提供するケース、暗号化・難読化したコードを提供するケース、バイナリコードを提供するケース、ソースコードを提供するケースなど様々である
が、そのいずれを採用するかによって、スタートアップに帰属した知的財産権の流出や契約違反のリスクが異なる。スタートアップとしては、その点に十分に留意したうえで成果物の提供方法を事業会社と慎重に協議すべきである。
・ 他方、事業会社に著作権が帰属する成果物(プログラム)がある場合には、事業会社が、自社に著作権が帰属する成果物(プログラム)について、ソースコードを要求することも不合理ではない。本想定シーンでも、【交渉結果】に記載のとお り、事業会社に著作権が移転する連携システムについては、関連するドキュメントを PDF の形式で提供するとともに、ソースコードを提供することとしている(な
お、念のためであるが、成果物の提供方法は委託料の額や支払方法に左右されることもあり、事業会社にプログラムの知的財産権を帰属させる場合に必ずソースコードで提供する義務があり、バイナリコードでの提供が認められないという趣旨ではない。)。
成果物の提供方法に関する条文上の記載について
・ 2018 年モデル契約においては、様々なケースに応用できるよう、ベンダがユーザの委託に基づき開発支援を行う成果物の明細を学習用データセット・学習用プログラム・学習済みモデルに分け、その提供方法(データの場合はデータ形式、プログラムの場合はソースコード・バイナリコード等)を別紙(1)において特定するという方法が採用されていた。
・ 他方、本モデル契約においては、本件成果物の内容が、本学習済みモデル、本連携システムおよび本連携システムに関連するドキュメントと特定されていることから、成果物ごとの具体的提供方法を本条第 1 項において特定した。
・ 具体的には、上述のとおり、本学習済みモデルについては、その著作権がスタートアップに単独帰属し、かつAPI 連携の方法で学習済みモデルの出力結果のみを提供することとなっていることから、提供方法に関して「確認期間中、甲のサーバ上でAPI 提供可能な状態に置く」と定めている。一方、本連携システムおよび関連するドキュメントについては、その著作権が事業会社に移転することとなっているため、ソースコードを事業会社のサーバにインストールして提供するとともに関連するドキュメントを提供する旨定めている。
・ なお、「甲のサーバ」「乙のサーバ」は、スタートアップ、事業会社が利用するクラウドサービスのサーバも含む概念として使用している。
成果物の確認方法について
・ 第 6 条(各自の義務)の解説に記載したとおり、共同開発のような当事者双方がリスクテイクして開発を推進する開発形態の下では、事業会社が一方的にスター
トアップに学習済みモデルの完成義務や性能保証を求めるのは妥当ではない。そして、ある程度の性能が得られることについては PoC 段階において事業会社も確認しているのであるから、本条では、2018 年モデル契約と同様、性能評価やテスト合格を委託料支払いの条件とはせず、本連携システムの提供および本連携システムを通じた学習済みモデルの出力確認のみを行うことを内容としてい
る。
・ もっとも、学習済みモデルの性能評価が完全に不可能というわけではない。実務上、スタートアップと事業会社で合意したテスト用データを利用したテストを実施し、モデルの評価および確認を行うこともある。たとえば、事業会社から取得したデータを①訓練データ、②テストデータに分割し、このうち①訓練データのみを学習に用い②テストデータには開発時には一切アクセスせず、開発完了後、残しておいた②テストデータで学習済みモデルの精度の評価を行う、ということがある。
①訓練データと②テストデータの関係を図示すると以下の通りである。
事業会社が スタートアップに提供した全データ | ③ 実際の利用環境下での入力データ | |
①訓練データ | ②テストデータ |
・ このように、事業会社がスタートアップに提供した全データのうちの一部をテストデータとして分割し、当該テストデータを入力した場合の精度を評価する方法であれば、評価自体は可能である。テストデータは訓練データと同様の偏り(バイアス)を有しているのが通常だからである。ただし、評価方法が適切なものである必要があり、また②テストデータによる精度は実装時における精度(つまり、上記
「③ 実際の利用環境下での入力データ」を入力した場合の出力精度)を保証するものではないことに留意が必要である。
・ こうしたテストデータを利用しての評価が可能な場合には、テストデータを用いた出力結果を基礎とした確認基準を提示することも考えうる。もっとも、先述のとおり、共同開発は双方のリスクテイクのもとで行われるものであり、かつ開発された学習済みモデルの精度は事業会社が提供する対象データにも大きく依存することから、かかる性能評価を委託料支払いの条件とすることは適切ではない。
11 条(対象データ等)
第 11 条 乙は、甲に対し、対象データを同別紙(1)の 2「対象データの明細」
に従い、提供する。
2 乙は、甲に対し、本共同開発に合理的に必要なものとして甲が要求し、乙が合意した資料、機器、設備等(以下「資料等」という。)の提供、開示、貸与等(以下「提供等」という。)を行う。
3 乙は、甲に対し、対象データおよび資料等(以下まとめて「対象データ等」という。)を甲に提供等することについて、正当な権限があることおよびかかる提供等が法令に違反するものではないことを保証する。
4 乙は、対象データ等の正確性、完全性、有効性、有用性、安全性等について保証しない。ただし、本契約に別段の定めがある場合はその限りでない。
5 乙が甲に対し提供等を行った対象データ等の内容に誤り(別紙(1)「対象データの明細」記載のデータの項目や量を充足しない場合を含む。)があった場合またはかかる提供等を遅延した場合、これらの誤りまたは遅延によって生じた完成時期の遅延、不適合等の結果について、甲は責任を負わない。
6 甲は、対象データ等の正確性、完全性、有効性、有用性、安全性等について、
確認、検証の義務その他の責任を負うものではない。
<ポイント>
・ 本共同開発に際して、事業会社がスタートアップにデータ・資料等を提供することおよび提供されたデータ・資料等の誤りや不足によって開発遅延等が生じた場合にスタートアップが責任を負わないことを注意的に定めた条項である。
12 条(対象データの利用・管理)
第 12 条 甲は、対象データを、善良な管理者の注意をもって管理、保管するものとし、乙の事前の書面等による承諾を得ずに、第三者(第 8 条に基づく委託先を除く。)に開示、提供または漏えいしてはならない。
2 甲は、事前に乙から書面等による承諾を得ずに、対象データについて本共同開発遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本共同開発遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できる。ただし、別紙(1)に別段の定めがある場合はこの限りではない。
3 甲は、対象データを、本共同開発遂行のために知る必要のある自己の役員および従業員に限り開示等するものとし、この場合、本条に基づき甲が負担する義務と同等の義務を、開示等を受けた当該役員および従業員に退職後も含め課す。
4 甲は、対象データのうち、法令の定めに基づき開示等すべき情報を、可能な
限り事前に乙に通知した上で、当該法令の定めに基づく開示先に対し開示等することができる。
5 甲業務が完了した場合、本契約が終了した場合または乙の指示があった場合のいずれかに該当する場合、甲は、乙の指示に従って、対象データ(複製物および同一性を有する改変物を含み、本学習用データセットを除く。以下本項において同じ。)が記録された媒体を破棄もしくは乙に返還し、また、甲が管理する一切の電磁的記録媒体から削除する。ただし、本条第 2 項での利用に必要な範囲では、甲は対象データを保存することができる。なお、乙は甲に対し、対象データの破棄または削除について、証明する文書の提出を求めることができる。
6 甲は、本契約に別段の定めがある場合を除き、対象データの提供等により、乙の知的財産権を譲渡、移転、利用許諾するものでないことを確認する。
7 本条の規定は、前項を除き、本契約が終了した日より 3 年間有効に存続する。
<ポイント>
・ 事業会社からスタートアップに提供された対象データに関する扱いを定める条項である。
<解説>
・ 本条の射程は、前条に定める「対象データ等」ではなく、「対象データ」のみである。そのため「対象データ等」のうち「対象データ」に含まれない「資料等」については、秘密情報の取り扱いを定める次条(秘密情報の取扱い)による保護を受ける。
・ 「対象データ」を秘密情報一般と別で規定する理由としては、対象データは本学習済みモデルを生成するための学習に供されるものであり(本条第 2 項参照)、また、事業会社とスタートアップの取り決めによっては本学習済みモデル以外の開発にも供されるなど、実務上秘密情報一般とは別異に取り扱われることが多いためである。なお、対象データが個人データを含んでおり、かつ当該対象データを用いた学習済みモデルの開発における対象データ提供の適法化根拠が、委託スキームだった場合には、個人情報保護法上、そもそも対象データを当該モデル開発以外に利用することができない可能性があることに留意されたい。
・ 仮に事業会社とスタートアップの協議により、対象データを、本共同開発遂行以外の目的、例えばスタートアップのサービス改善の目的等に利用することとなった場合、第 2 項本文の「本共同開発遂行の目的以外の目的」という部分を「本共
同開発の遂行および甲が保有または開発するAI 技術の向上目的」などと変更を行うことで、スタートアップにおける対象データの利用目的を拡張することが考えられる。
・ 共同開発契約のために事業会社が提供した対象データを、当該目的以外にスタートアップが利用することが可能かは両者の交渉次第ではあるが、事業会社が対外的に守秘義務を負っているデータを利用するサービス(例:契約書レビューサービス)の場合、目的外利用のハードルは非常に高い。一方で、事業会社が公開データを加工して作成した対象データなどの場合は、目的外利用が許容されることもあろう。
13 条(本学習用データセットの取扱い)
第 13 条 甲は、本共同開発の過程で甲が生成する本学習用データセットを、乙に対し開示等する義務を負わない。
2 甲は、本学習用データセットを、本共同開発の遂行の目的を超えて、使用、利用または第三者に開示等してはならない。
3 甲は、甲業務が完了した場合、本契約が終了した場合、または乙の指示があった場合のいずれかに該当する場合、本学習用データセット(複製物および同一性を有する改変物を含む。)が記録された媒体を破棄し、また、甲が管理する一切の電磁的記録媒体から削除する。
4 前 2 項の規定は、甲と乙が、本件成果物の利用に関する契約を締結した場合
には適用しない。
<ポイント>
・ 本共同開発の過程においてスタートアップが生成する本学習用データセットの扱いを定める条項である。
<解説>
・ 本学習用データセットは、前条に基づき事業会社がスタートアップに提供した対象データを元に、スタートアップが生成する対象データの派生物(本共同開発における中間成果物)であり、本モデル契約においては成果物には該当しない。なお、契約によっては学習用データセットが成果物に含まれることもあり、その場合は学習用データセットの扱いは成果物の扱いとして規定されることになる。
・ 事業会社から提供を受けた生データをそのままの状態で学習に利用することはできず、スタートアップにおいて正解ラベルを付したり(アノテーション)、極端な外れ値の除外やクレンジング、データ拡張を行うという加工・前処理が行われる。こうした前処理を経たデータの集合体を学習用データセットといい、この加工や前処理の作業にはスタートアップのノウハウが反映されることがあり、このようなノウハウが反映された学習用データセットの中には、秘匿性が高いものもある。
・ 前条の解説に記載のとおり、対象データについては実務上秘密情報一般とは別異に取り扱われることが多いため、その派生物である本学習用データセットについても同様に秘密情報一般とは別異に取り扱うべきである。また、一般的には、事業会社が、モデル生成のための学習用データセットの開示等を受ける必要性は低い。
・ そこで、本事例では、学習用データセット内にスタートアップが秘匿すべきノウハウが含まれていることを前提に、本条第 1 項では、スタートアップが、ノウハウが集約された本学習用データセットを事業会社に対して開示等する義務を負わないことを明記した。ただし、先述のように、全てのケースにおいて学習用データセットの秘匿性が高い訳ではない。そのような秘匿性がない場合にはスタートアップが事業会社に対して学習用データセットを開示することもあろう。
・ 他方、本学習用データセットは事業会社から提供を受けた対象データの派生物であることから、スタートアップが本学習用データセットを利用できるのは、本共同開発の目的に限定されることを本条第 2 項で明記した。ただし、以下のオプション条項のように定めることで、本学習用データセットを本共同開発以外にも使用等できることは対象データと同様である。
・ また、本想定シーンにおいては、本共同開発後に成果物であるカスタマイズモデル(本学習済みモデル)を SaaS 形式で提供することが予定されている。この場合においては、当然のことながら本学習用データセットを本学習済みモデルの追加学習のために利用することが前提とされることになる。そのため、学習用データセットの本共同開発目的内利用の義務(2 項)、消去義務(3 項)に応じなければならないとするのは煩瑣である。そこで、併せて第 4 項を設けた。
・ なお、対象データが著作物の場合には対象データに著作権が発生するが、それとは別に、学習用データセットがデータベースの著作物(著作xx第 12 条の 2)に該当する場合には、同学習用データセットに著作権が発生することになる。学習用データセットがデータベースの著作物に該当するか否かは、同学習用データ
セットが「情報の選択または体系的な構成によって創作性を有する」か否かによって決せられるが、その点については具体的な学習用データセット作成作業の内容や、同データセットの内容に左右されることとなる。
【13 条 2 項変更オプション:学習用データセットの利用目的を限定しない場合】
2 甲は、本学習用データセットを、本共同開発の遂行および甲が保有または開
発する AI 技術の向上目的を超えて使用および利用してはならない。また、甲は本学習用データセットを第三者に開示等してはならない。
<ポイント>
・ 本学習用データセットの利用目的を、本共同開発目的のみならず、スタートアップが既に保有する AI 技術や今後開発する AI 技術の技術向上の目的での使用等に拡張したいというニーズがある場合がある。
・ その場合、事業会社としては学習用データセットがスタートアップ以外の第三者に開示等されることについては拒否感が強いが、スタートアップの内部利用目的であれば許容する余地もあること、スタートアップとしても当該学習用データセットが内部的な開発に利用できれば十分であることから、本オプション条項の内容を定めた。
14 条(秘密情報の取扱い)
第 14 条 甲および乙は、本共同開発遂行のため、相手方より提供を受けた技術上または営業上その他業務上の情報のうち、次のいずれかに該当する情報(ただし対象データを除く。以下「秘密情報」という。)を秘密として保持し、秘密情報の開示者の事前の書面等による承諾を得ずに、第三者(本契約第 8 条に基づく委託先を除く。)に開示、提供または漏えいしてはならない。
① 開示者が書面等により秘密である旨指定して開示等した情報
② 開示者が口頭により秘密である旨を示して開示等した情報で開示後●日以内に書面等により内容を特定した情報。なお、口頭により秘密である旨を示した開示等した日から●日が経過する日または開示者が秘密情報として取り扱わない旨を書面等で通知した日のいずれか早い日までは当該情報を秘密情報として取り扱う。
2 前項の定めにかかわらず、次の各号のいずれか一つに該当する情報について
は、秘密情報に該当しない。
① 開示者から開示等された時点で既に公知となっていたもの
② 開示者から開示等された後で、受領者の帰責事由xxxxに公知となったもの
③ 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に開示等されたもの
④ 開示者から開示等された時点で、既に適法に保有していたもの
⑤ 開示者から開示等された情報を使用することなく独自に取得し、または創出したもの
3 甲および乙は、秘密情報について、本契約に別段の定めがある場合を除き、事前に開示者から書面等による承諾を得ずに、本共同開発遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本共同開発遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できる。
4 秘密情報の取扱いについては、第 12 条第 3 項から第 6 項の規定を準用する。この場合、同条項中の「対象データ」は「秘密情報」と、「甲」は「秘密情報の受領者」と、「乙」は「開示者」と読み替える。
5 本条は、秘密情報に関する両当事者間の合意の完全なる唯一の表明であり、本条の主題に関する両当事者間の書面等(本契約締結以前に両当事者間で締結した契約を含む。)または口頭による提案その他の連絡事項の全てに取って代わる。
6 本条の規定は本契約が終了した日より 3 年間有効に存続する。
<ポイント>
・ 相手方から提供を受けた秘密情報の管理に関する条項である。
<解説>
従前に締結した秘密保持条項との関係整理
・ 秘密保持契約や PoC 契約に引き続いて共同研究開発契約を締結する場合、共同研究開発契約よりも前に締結した契約における秘密保持条項と共同研究開発契約における秘密保持条項の関係が問題となる。
・ 共同研究開発契約においては新たな秘密保持条項を設けずに既存の(従前の契約で定めた)秘密保持条項が引き続き適用されるとすることもあるが、本モデル契約においては、「モデル契約書_共同研究開発契約書(新素材)」第 11 条同
様、共同研究開発契約で新たに定める秘密保持条項が、既存の秘密保持条項を上書きすることとしている(本条 5 項)。
・ 共同研究開発契約において、既存の秘密保持条項とは異なる内容の秘密保持条項を設ける場合は、特にそれらの優先関係に留意しなければならない。
15 条(成果の公表)
第 15 条 甲および乙は、前条で規定する秘密保持義務を遵守した上で、両者が合意した時期に、本共同開発開始の事実として、別紙(2)(公表事項)に定める内容を開示、発表または公開することができる。
2 甲および乙は、前条で規定する秘密保持義務および次項の規定を遵守した上で、本共同開発の成果を開示、発表または公開すること(以下「成果の公表等」という。)ができる。
3 前項の場合、甲または乙は、成果の公表等を行おうとする日の 30 日前まで
に本共同開発の成果を書面等にて相手方に通知し、甲および乙は協議により当該成果の公表等の内容および方法を決定する。
<ポイント>
・ 共同研究開発の開始および成果の公表の手続きについて定める規定である。
<解説>
・ 本モデル契約がスタートアップと事業会社のアライアンスの実現を念頭に置くものであることから、「モデル契約書_共同研究開発契約書(新素材)」第 12 条と同様の趣旨で設けたものである。
16 条(個人情報の提供)
第 16 条 甲および乙は、相手方に対して秘密情報を開示する正当な権限があることおよびかかる提供が法令に違反するものではないことを保証する。
2 本共同開発の遂行に際して、乙が、個人情報等を甲に提供する場合には、個人情報保護法に定められている手続を履践していることを保証する。
3 乙は、本共同開発の遂行に際して、個人情報等を甲に提供する場合には、事前にその旨を明示する。
4 甲は、前項に従って個人情報等が提供される場合には、個人情報保護法を遵
守し、個人情報等の管理に必要な措置を講ずる。
<ポイント>
・ 第 1 項は双方が開示する秘密情報について、当該情報を開示する権限を有していること等の一般的な表明保証条項である。
・ 第 2 項以降は、事業会社がスタートアップに提供する対象データを含む情報に個人情報等が含まれている場合に関する規定である。
17 条(本件成果物等の著作権の帰属)
第 17 条 本件成果物および本共同開発遂行に伴い生じた知的財産(以下「本件成果物等」という。)に関する著作権(著作xx第 27 条および第 28 条の権利を含む。以下、本契約において同じ。)は、乙または第三者が従前から保有していた著作権を除き、甲に帰属する。ただし、本連携システムおよび本ドキュメント(以下「本連携システム等」という。)に関する著作権は委託料全額の支払いと同時に乙に移転する。
2 甲および乙は、本契約および別途甲乙間で締結する利用契約に従った本件成果物等の利用について、相手方および正当に権利を取得または承継した第三者に対して、著作者人格権を行使しない。
3 第 1 項の規定にかかわらず、甲が本契約第 24 条 1 項 2 号および 3 号のいずれかに該当した場合には、乙は、甲に対し、第 1 項に定める知的財産権を甲または乙の指定する第三者に対して無償で譲渡することおよび甲が当該知的財産権を利用するために必要な知的財産のうち乙が有する知的財産の無償・無
期限の利用許諾ならびに必要な措置を履行するようを求めることができる。
<ポイント>
・ 本件成果物等の知的財産権のうち著作権の帰属について定める条項である。
<解説>
・ 本件成果物は、2 条 13 号により、「本学習済みモデル、本連携システムおよび本ドキュメント」を意味し、本条 1 項により、本学習済みモデルその他の知的財産に関する著作権はスタートアップに原始的に帰属し、本連携システムおよび本ドキュメントの著作権は事業会社に移転することになる。著作権の移転は登録をしなければ第三者に対抗できないことから(著作xx第 77 条 1 号)、確実を期すのであれば移転登録をすべきであり、これを念頭に置いて、移転登録へのスタートアップの協力義務を契約条項として設けることも考えられる。
・ 本件成果物等に関する知的財産権のうち著作権については、特許xxと異なり、開発完了時点において発生することがほぼ確実な知的財産権であること、契約締結時点において、いずれの当事者に帰属するかを明確にしておきたいというニーズが強いと考えられることから、2018 年モデル契約同様、本件成果物等に関する知的財産権のうち著作権の帰属を本条において定め、著作権以外の知的財産権(特許xx)については、次条において定めている。
・ 本想定シーンの【交渉結果】において、本連携システムおよび本ドキュメントの著作権は事業会社に、本学習済みモデルを含むそれ以外の本件成果物等に関する著作権についてはスタートアップに帰属させる取り決めとなっていることから、本条のような規定となっている。
・ ただし、スタートアップに成果物に関する知的財産権を単独帰属させる場合、事業会社としては、スタートアップが事業に失敗し、破産等、事業継続が困難になった場合、本共同開発の成果に係る知的財産権が事業会社に対して本条所定のとおりにライセンスされず、本製品の製造等に支障を来すのではないかという懸念を持ちがちである。
そこで、スタートアップに経済的不安が生じた場合には、事業会社はサービス継続のためにスタートアップから研究成果に係る知的財産権を取得する必要がある。その場合、たとえばスタートアップが事業会社から既に十分な対価を得ていれば、「モデル契約書_共同研究開発契約書(新素材)」第 7 条 6 項に定めたように無償譲渡と合意することもありえるし、破産管財人からの否認権の行使を受けないように有償譲渡と合意することもあり得る。
本モデル契約では無償譲渡を受けることができるようにした(第 3 項)。また、同時に甲が当該知的財産権を利用するために必要な知的財産(具体的には、甲がもともと保有していた姿勢推定モデルおよびカスタマイズモデルのベースとなった、幼児安全領域の領域特化モデルを指している)の無償・無期限の利用許諾ならびに「必要な措置」をとることも定めている。ここでいう「必要な措置」とは具体的には、関係する学習済モデルや学習用プログラムのソースコードの提供や技術的なコンサルテーションの提供を想定している。
・ なお、姿勢推定モデルは本件成果物ではなく、本共同開発前からスタートアップが保有する知的財産権であり、スタートアップにその知的財産権が帰属することは言うまでもない。
・ また、スタートアップが本共同開発前に開発し、著作権を有する学習済みモデル
(既存モデル)をベースに本学習済みモデル(カスタマイズモデル)が開発されることもあるが、その場合、カスタマイズモデルが既存モデルの二次的著作物になることがある。本モデル契約では、本条により本学習済みモデル(カスタマイズモデル)の著作権がスタートアップに帰属するとされているため、本学習済みモデ ル(カスタマイズモデル)と既存モデルを区別する必要はない。しかし、本学習済みモデル (カスタマイズモデル) の著作権を事業会社に移転する規定とする場合には、カスタマイズモデルの著作権は事業会社に移転しつつ、当該カスタマイズモモデルの利用に必要な限度において既存モデルの利用許諾を行う必要があることになる。
・
18 条(本件成果物等の特許xxの帰属)
第 18 条 本件成果物等にかかる特許権その他の知的財産権(ただし、著作権は除く。以下「特許xx」という。)は、本件成果物等を創出した者が属する当事者に帰属する。
2 甲および乙が共同で創出した本件成果物等に関する特許xxについては、甲および乙の共有(持分は貢献度に応じて定める。)とする。この場合、甲および乙は、共有にかかる特許xxにつき、それぞれ相手方の同意なしに、かつ、相手方に対する対価の支払いの義務を負うことなく、自ら実施することができるものとし、第三者に対する実施の許諾については相手方の同意を要する。
3 甲および乙は、前項に基づき相手方と共有する特許xxについて、必要となる職務発明の取得手続(職務発明規定の整備等の職務発明制度の適切な運用、譲渡手続等)を履践する。
4 甲および乙は、本共同開発の過程で生じた特許xxに基づいて出願しようとする場合は、事前に相手方にその旨を書面等により通知しなければならない。相手方に通知した発明が単独発明に該当すると考える当事者は、相手方に対して、その旨を理由とともに通知する。
<ポイント>
・ 本件成果物等に関する著作権以外の知的財産権の対象となるものの権利帰属について定める条項である。
<解説>
・ 本件成果物等のうち「著作権以外の知的財産権の対象となるもの」(たとえば、発明等)については、契約締結時点においては、そもそも発生するか否かが不明確であるため、その帰属について、特許法の原則どおり発明者主義を採用した
(2018 年モデル契約第 17 条も同様。)。
・ 「本件成果物等を創出した者」のうち、特許法上の「発明者」に該当するためには、当該発明に特有の課題解決手段としての特徴的部分を創作した者であることが必要とされている。本モデル事例においては、学習用データ作成作業には事業会社のノウハウ(カメラ設置場所や角度、精度の高い学習・推論を可能とするアノテーション付与など)が用いられており、それらのノウハウの質や量によっては、事業会社の貢献部分について事業会社の担当者が「発明者」に該当することもあると思われる。
・ もっとも、当事者が、契約締結時に特許xxの権利帰属について定めることを希望するのであれば、著作権と同様に、そのような規定を設けることも考えられる。
19 条(本件成果物等の利用条件)
第 19 条 本件成果物等に関する乙の利用条件は、別途甲乙間で締結する利用契約において定める。なお、利用契約の規定と本契約の規定が矛盾する場合は、利用契約の規定が優先する。
2 乙は、甲に対し、甲が本共同開発およびその後の保守・運用・追加学習の目
的で本連携システム等を利用することを非独占的かつ無償で許諾する。
<ポイント>
・ 本件成果物等の利用に関する条件を定めた条項である。
<解説>
・ 本想定シーンの【交渉結果】では、主たる成果物である本学習済みモデル(カスタマイズモデル)は事業会社に対してAPI連携による SaaS 方式により提供されることになった。そのため、本件成果物等の事業会社における利用条件は別途スタートアップ-事業会社間で締結する利用契約において定めると規定している(第 1項)。
・ 他方、本連携システムについてはその著作権が委託料支払いと同時にスタートアップから事業会社に移転しているが、事業会社からスタートアップに対し、本見守りカメラシステムに関する今後の保守・運用・追加開発に関して必要な限度で
利用する権限を与えておくことが、スタートアップだけでなく事業会社にとっても利益であることから、これを明記している(第 2 項)。
なお、共同開発における成果物の利用条件において、相手方に制約を課す場合には、xx取引委員会の「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」に反することがないように留意する必要がある。
【コラム】
・ 共同開発契約において最も契約交渉が難航するのは知的財産権の帰属および利用条件である。本事例では、成果物である学習済みモデルをスタートアップが提供する SaaS において利用することを前提としているため、比較的スムーズに交渉が進んだが、実際の共同開発契約においては、成果物を誰がどのように利用したいかによって権利帰属および利用条件について様々な交渉・合意パターンがある。
・ まず、事業領域ごとに両者を棲み分けるパターンがある。たとえば、スポーツ選手の動作解析用機械学習SW の開発・提供ビジネスにおいて、野球ビジネスを展開しているユーザから提供を受けた野球選手に関するデータを用いて開発した AI について、ユーザは野球に関する領域で展開し、開発者はバスケットボールやアメフトなど野球以外の領域で展開するパターンである。この場合は、たとえば、権利帰属においてはユーザに全部権利帰属させた上で、利用条件としては、ユーザが開発者に対して、野球以外の領域についてのみ完全独占的利用許諾(当該領域についてはユーザも展開不可)とする合意が考えられる。
・ 次に「一方が自社内でのみ利用し、他方は全領域において利用するパターン」もある。たとえば、ユーザが、業務改善用機械学習SW について自社内でのみ利用できれば良く、開発者が自由に事業展開することを許容するという意向を有している場合に採用されるパターンである。このパターンにおける権利帰属と利用条件の組み合わせとしては、開発者に全部権利帰属させたうえで、開発者はユーザの自己実施・利用に限って非独占的に無償で利用許諾する合意が考えられる。
・ 最後に一方当事者のみ(通常はユーザ)が事業展開するパターンである。つまり、ユーザか開発者のどちらか一方のみが、開発された機械学習 SW を利用することができ、他方当事者は利用できないというパターンである。これは、いわば一方当事者が他方当事者から利用する権利を「買い取ってしまう」ということを意味している。開発された機械学習 SW を、どうしても他社に使わせたくないという意向
をユーザが強く持っている場合には、このようなパターンが選択されることになる。このパターンの場合は、開発者は当該機械学習 SW を利用したビジネスチャンスを失うことになるので、開発に関する委託料の金額は高額になることが多い。このパターンにおける権利帰属と利用条件の組み合わせとしては、ユーザに全部権利帰属させ、開発者は一切利用不可という合意をすることになる。
20 条(禁止事項)
第 20 条 乙は、本契約に別段の定めがある場合を除き、本件成果物について、次の各号の行為を行ってはならない。
① リバースエンジニアリング、逆コンパイル、逆アセンブルその他の方法でソースコードを抽出する行為
② 再利用モデルを生成する行為
③ 学習済みモデルへの入力データと、学習済みモデルから出力されたデータを組み合わせて学習済みモデルを生成する行為
④ その他前各号に準じる行為
<ポイント>
・ 本件成果物を事業会社が使用する際の禁止行為を定める条項である。
<解説>
・ 本条に定める禁止行為は、本件成果物の提供方法と密接に結びついている。すなわち、本想定シーンのようにカスタマイズモデル(本学習済みモデル)のコードの提供を前提とせず、SaaS 契約により、API連携により処理結果のみを出力する場合であれば、事業会社は本学習済みモデルのリバースエンジニアリングを行うことは事実上不可能である。そのため、①のリバースエンジニアリング等の禁止に関する条項は、有害的記載事項ではないものの、機能する場面は稀であろう。
・ また、②は追加学習や転移学習によって学習済みモデルを生成する行為、③はいわゆる「蒸留行為」を意味しているが、①のリバースエンジニアリング等の禁止に関する条項と同様、これも機能する場面は稀であろう。
21 条(非保証)
第 21 x xは、乙に対し、本件成果物の利用が第三者の特許権、実用新案権、意匠
権、著作xxの知的財産権を侵害しないことを保証しない。
2 本件成果物の利用に関し、乙が第三者から前項に定める権利侵害を理由としてクレームがなされた場合(訴訟を提起された場合を含むが、これに限らない。)には、乙は、甲に対し、当該事実を通知するものとし、甲は、乙の要求に応じて当該訴訟
の防禦活動に必要な情報を提供するよう努めるものとする。
<ポイント>
・ 事業会社による本サービスの利用に関する非保証を定めた規定である。
・ 1 項は本サービスの利用が事業会社の特定の目的に適合することの非保証である。
・ 2 項の知的財産権侵害の非保証を前提として、3 項は、事業会社が第三者から訴訟提起された場合のスタートアップの協力義務を定めたものである。
<解説>
・ 学習済みモデルを利用したサービスにおいては、一般的に、そのサービス提供結果の精度や水準について保証をすることは技術的に困難である。
・ もちろん、開発段階において、テスト用データを利用した出力について一定の精度を保証することは技術的には不可能ではないが、開発が終了した後の、学習済みモデルの利用フェーズにおいてはxxのデータが処理対象となることから、出力の精度保証は困難となる。訓練データと異なる偏りを持ったデータが入力された場合にどのような出力がなされるかは予測が困難だからである。そこで、第 1 項においては本サービスの利用が事業会社の特定の目的に適合することの非保証を定めている。
・ 第 2 項においては、本サービスの利用が第三者の知的財産権を侵害しないことについての非保証を定めている。これは、そのような保証を行うことは、サービス提供者のリスクが非常に高いためである。スタートアップと事業会社の間の適切なリスク分配という観点からは、知的財産権非侵害の保証までは行わないという前提で他の条件を定めることが適切である。仮に、そのような保証をするにしても、
「甲が知る限り権利侵害はない」「甲は権利侵害の通知をこれまで受けたことはない」ことの表明にとどめるべきである。もっとも、著作権侵害についてはその要件として依拠性が必要とされているため、非侵害保証をしたとしてもサービス提供者にとっての負担が大きくない場合がありうる。したがって、知的財産権侵害のうち著作権侵害に限って非侵害保証をすることもありうるであろう。
22 条(損害賠償)
第 22 条 甲および乙は、本契約の履行に関し、相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、相手方に対して、損害賠償を請求することができる。ただし、この請求は、業務の終了確認日から●か月が経過した後は行うことができない。
2 甲が乙に対して負担する損害賠償は、債務不履行、法律上の契約不適合責任、知的財産権の侵害、不当利得、不法行為その他請求原因の如何にかかわらず、乙に現実に発生した直接かつ通常の損害に限られ、逸失利益を含む特別損害は、甲の予見または予見可能性の如何を問わず甲は責任を負わない。
3 本条第 1 項に基づき甲が乙に対して損害賠償責任を負う場合であっても、本契約の委託料を上限とする。
4 前 2 項は、甲に故意または重大な過失がある場合は適用されない。
<ポイント>
・ 契約の履行に関して損害が発生した場合の賠償に関する条項である。損害賠償の範囲を直接かつ現実に生じた損害に限定している。また、スタートアップが事業会社に対して追う損賠賠償については、スタートアップに故意・重過失がない限り、委託料を上限とする旨の上限規定を設けている。
23 条(第三者ソフトウェアの利用)
第 23 x xは、本共同開発遂行の過程において、本件成果物を構成する一部として第三者が著作権を有するソフトウェア(以下「第三者ソフトウェア」という。)を利用しようとするときは、第三者ソフトウェアの利用許諾条項、機能、脆弱性等に関して適切な情報を提供し、乙に第三者ソフトウェアの利用を提案する。
2 本契約の他の条項にかかわらず、甲は、第三者ソフトウェアに関して、著作権その他の権利の侵害がないことおよび不適合のないことを保証するものではなく、甲は、第 1 項所定の第三者ソフトウェア利用の提案時に権利侵害または不適合の存在を知りながら、もしくは重大な過失により知らずに告げな
かった場合を除き、何らの責任を負わない。
<ポイント>
・ AI 技術を利用したソフトウェアの開発においては OSS のような第三者ソフトウェア が大量に利用されるため、第三者ソフトウェア の利用に関する規定を設けるものである。
・ 第三者ソフトウェアの利用により生じた損害については、第三者ソフトウェアの利用による開発費や開発期間短縮の恩恵を受けているのは事業会社であることから、事業会社が負担するものとしている。もっとも、スタートアップはソフトウェア開発の専門家であることから、第三者ソフトウェアに関する適切な情報を事業会社に提供するものとし、また、第三者ソフトウェアに問題があることについて故意・重過失がある場合には、スタートアップの免責を認めないものとしている。
・ なお、事業会社に第三者ソフトウェアの利用採否についての選択権を与えた場合、そもそも開発が不可能になる可能性があることからそのような選択権は設けていない。
24 条(権利義務譲渡の禁止)
第 24 条 甲および乙は、互いに相手方の事前の書面等による同意なくして、本契約上の地位を第三者に承継させ、または本契約から生じる権利義務の全部もしくは一部を第三者に譲渡し、引き受けさせもしくは担保に供してはなら
ない。
<ポイント>
・ 契約上の権利義務や地位を相手方の事前の承諾なく譲渡してはならないことを定めた一般的な条項である。
25 条(解除)
第 25 条 甲または乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。
① 重大な過失または背信行為があった場合
② 支払いの停止があった場合または仮差押、差押、競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合
③ 手形交換所の取引停止処分を受けた場合
④ その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合
2 甲または乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部または一部を解除することができる。
3 甲または乙は、第 1 項各号のいずれかに該当する場合または前項に定める解除がなされた場合、相手方に対し負担する一切の金銭債務につき相手方から通知催告がなくとも当然に期限の利益を喪失し、直ちに弁済しなければな
らない。
<ポイント>
・ 契約解除に関する一般的な規定である。
<解説>
・ 「モデル契約書_共同研究開発契約書(新素材)」第 16 条(解除)の解説にあるとおり、チェンジオブコントロール(COC)が解除事由として定められることがある。しかし、そうすると、M&A が解除事由となりかねず、上場審査やデューデリジェンスにおいてリスクと評価され得る。
したがって、スタートアップとしては、解除事由に COC が含まれている場合、それによる支障を説明し、削除を求めることを検討すべきである。
【解除事由としての COC 条項の例】
他の法人と合併、企業提携あるいは持ち株の大幅な変動により、経営権が実
質的に第三者に移動したと認められた場合
26 条(有効期間)
第 26 条 本契約は、本契約の締結日から第 4 条の委託料の支払いおよび第 11
条に定める確認が完了する日のいずれか遅い日まで効力を有する。
<ポイント>
・ 契約の有効期間を定めた一般的条項である。
<解説>
・ 委託料の支払いまでまたは確認完了時点のいずれか遅い方までと規定しているが、「1 年間」などの具体的な期間を定めることも可能である。いずれのケースにおいても、契約の終了時期が明確に判断できる記載とすることが重要である。
27 条(存続条項)
第 27 条 本契約第 6 条 3 項(各自の義務)、第 11 条(対象データ等)第 4 項および第 5 項、第 12 条(対象データの利用・管理)から第 23 条(第三者ソフトウェア の利用)、本条ならびに第 28 条(準拠法および管轄裁判所)は、本契
約終了後も有効に存続する。
<ポイント>
・ 契約終了後も効力が存続すべき条項に関する一般的規定である。
28 条(準拠法および管轄裁判所)
第 28 条 本契約に関する一切の紛争については、日本法を準拠法とし、●地方
裁判所を第xxの専属的合意管轄裁判所とする。
<ポイント>
・ 準拠法および紛争解決手続きに関してとして裁判管轄を定める条項である。
<解説>
・ クロスボーダーの取引も想定し、準拠法を定めている。
29 条(協議)
第 29 条 本契約に定めのない事項または疑義が生じた事項については、xxx
xの原則に従い甲および乙が協議し、円満な解決を図る努力をする。
<ポイント>
・ 協議に関する一般的規定である。
本契約締結の証として、本書 2 通を作成し、甲、乙記名押印の上、各 1 通を
保有する。
年 月 日
甲
乙
【別紙(1)】
1 本共同開発の対象
(1) 本件成果物
① 本学習済みモデル
② 本連携システム
③ 本ドキュメント
(2) 使用環境
(3) 前提条件
2 対象データの明細
(1) データの概要
(例)介護施設において乙がカメラを設置したうえで撮影したカメラデータ。当該カメラデータについては撮影対象である被介護者本人から第三者提供に関する同意を取得する手続を履践するものとする。
(2) データの項目
(3) データの量
(例) 動画データ 500 時間分
(4) データの提供形式
3 乙が提供する資料等別途協議する。
4 作業体制
【甲、乙の責任者および必要に応じてメンバーそれぞれの役割、所属、氏名の記載とソフトウェア開発の実施場所等を記載】
(1) 甲の作業体制
・ 甲側責任者氏名: ●● ●●
甲側責任者は次の役割を担当する。
① ・・・・・
② ・・・・・ [・メンバー]
メンバーは次の役割を担当する。
【※組織図/氏名/役割を記載】
(2) 乙の作業体制
・ 乙側責任者氏名: ●● ●●
乙側責任者は次の役割を担当する。
① ・・・・・
② ・・・・・ [・メンバー]
メンバーは次の役割を担当する。
① ・・・・・
② ・・・・・
【※組織図/氏名/役割を記載】
(3) ソフトウェア開発実施場所
(4) 連絡体制
本共同開発開始後、速やかに甲および乙の担当者間における連絡手段(電子メール、チャットツール(Slack 等)および開発支援ツール(Jira)等)について協議のうえ決する。
5 具体的作業内容(範囲、仕様等)
(1) 甲の担当作業: 次のとおりとする。対象データの収集
対象データの前処理
対象データにアノテーションを行うことによる学習用データおよび本学習用データセットの作成
本学習済みモデルおよび本連携システムの開発および本ドキュメントの作成
(2) 乙の担当作業:
対象データの収集および甲への提供
対象データにアノテーションを行う際のノウハウ提供
本学習済みモデルの精度の向上に必要な介護事故の発生原因や検知に関するノウハウ・知見の提供
本学習済みモデルおよび本連携システムの性能評価
6 連絡協議会
(1) 開催予定頻度:
(2) 場所:
7 作業期間
●●年●●月●●日~●●年●●月●●日
8 業務の完了
(1) 甲からの成果物提供期限:●年●月●日
(2) 乙による確認期間:成果物提供日から●日間
9 委託料
① 本学習済みモデルに関する委託料
●●●●円(外税)
② 本連携システムおよび本ドキュメントに関する委託料
●●●●円(外税)
10 委託料の支払時期・方法
① 本学習済みモデルに関する委託料
本契約締結日から 7 日以内 ●●円
乙による成果物確認日から 7 日以内 ●●円
② 本連携システムおよび本ドキュメントに関する委託料
本契約締結日から 7 日以内 ●●円
乙による成果物確認日から 7 日以内 ●●円
【別紙(2)公表事項】