この規定を改定する場合は、当行本支店の窓口またはATMコーナーにおいて、改定内容を記載したポスターまたはチラシ等にて告知することとし、改定後の規定については、 告知に記載の適用開始日以降の取引から適用するものとします。
第 3 章 約款の変更(総論)
x x x x
1 はじめに(1)
(1)約款による契約と約款によらない契約
本稿においては、約款による契約における変更条項について考察する。すなわち、約款による契約と約款によらない(個別的交渉により契約内容が定められた)契約とで、契約条項の変更について、取り扱いが異なるかどうか、とくに、前者の場合の方が、変更条項の有効性について、より厳格に解されるべきかどうかを検討する。
(2)「変更」の意味
この問題を考察する前提として、「変更」という言葉の意味を明らかにしておく必要がある。
(i)契約条件の未確定と変更
まず、契約の成立時に、契約条件の一部が確定していない場合に、後から、それを確定する旨の条項は、変更に関するものとはいえないであろう。たとえば、ヨーロッパにおける自動車の売買契約においてかつて用いられていた「代金額は引渡日の市場価格とする」旨の条項は、契約の成立時には、目的物の引渡日の価格が未確定であるために(それまでの間に、変動する可能性がある)、定められているもので、変更条項とはいえないであろう(もっとも、変更条項でないからといって、条項の不当性が否定されるものではなく、むしろ、このような価格に関する条項は不当なものと考えられている)。
結局、「変更」というのは、契約の成立時に確定していた契約のある条件がその後変更されることを意味するものと考えられる。そして、その変更の具体的な内容が確定していない場合をいうものと考えられる。もちろん、変更されることが予想されていることが少なくないが、
(1) 後述のとおり本稿は、原則として、金融法務研究会における報告当時(平成22年8月2日)の資料に従って記述したものであり、法令・規則等について現在と異なる記載がある。
変更される内容が契約の成立時に確定していなかったのであれば、「変更」に関する条項といえるであろう。
これに対して、契約の成立時において、将来の契約条件を定めているものであっても、必ずしも、「変更」とはいえない場合がある。たとえば、長期に分割返済する消費貸借において、当初の金利を一定の数値(たとえば、2%)に定めるとともに、一定期間ごと(3年ごとに)に一定の割合を加える(+0.1%)あるいは一定割合を乗ずる(×1.1)というような条項が定められている場合には、契約の全期間にわたって金利を定めているものであって(どの時点の金利についても、それを確定した数値で示すことができる)、必ずしも、「変更」とはいえないと考えられる(2)。
(ⅱ)契約内容の変更と約款の変更
次に、約款の条項そのものが変更される場合と約款の条項そのものが変更されているのではないが、契約の内容が変更されている場合とを区別する必要がある。ここでは、主として、前者の場合、すなわち、当初の契約において、当事者の一方に契約に定められている条項の変更権が留保されている場合を「変更」の問題として取り上げている。
(3)銀行取引における変更条項の具体的事例
銀行取引における変更条項の具体的な事例として、次のようなものが見られる。
(ⅰ)普通預金規定(三井住友銀行) 14【規定の変更等】
(1)この預金規定の各条項および前記11(4)にもとづく期間・金額その他の条件は、金融情勢その他諸般の状況の変化その他相当の事由があると認められる場合には、店頭表示その他相当の方法で公表することにより、変更できるものとします。
(2)前記(1)の変更は、公表の際に定める1ヶ月以上の相当な期間を経過した日から適用されるものとします。
(2) 判例において、建物賃貸借と解されている(最判平成15・10・21民集57巻9号1213頁、最判平成15・10・21判時1844号50頁等)いわゆるサブリース契約における賃料自動増額条項(一定期間ごとに賃料を一定割合で増額する旨の条項)は、このような例であると考えられる。
(ⅱ)総合口座取引規定(xxx銀行) 14.規定の改定
この規定を改定する場合は、当行本支店の窓口またはATMコーナーにおいて、改定内容を記載したポスターまたはチラシ等にて告知することとし、改定後の規定については、告知に記載の適用開始日以降の取引から適用するものとします。
(ⅲ)フランスの銀行取引約款
フランスの銀行取引約款を十分に調査したわけではないが、日本のような変更条項はないよ うに思われる。たとえば、クレディリヨネの普通預金口座では、次のような規定が置かれている。顧客の必要性あるいは技術の進展に伴って、約款を進化させることができる(変更)。その 場合に、変更は、遅くとも、その変更が効力を生ずる1ヶ月前までに、文書または他の媒体によって通知する(とくに、取引明細書に同封するなど)。そして、変更が効力を生ずるまでに、
取引契約の解除がない限り、同意したものとみなされる。
(ⅳ)銀行取引以外の変更条項の例
たとえば、クレジットカード会員規約(アメリカン・エキスプレスのカード会員規約)には次のような条項が見られる。
アメリカン・エキスプレスのカード会員規約第32条(規約の改正および契約の譲渡)
1. 当社は随時基本カード会員に対し通知することによって本規約の各規定を改正することができます。会員が改正の通知を受領した後にカードを使用した場合、会員は改正後の規約に拘束されるものとします。改正の通知を基本カード会員が受領後に家族会員がカードを使用した場合においても、基本カード会員は改正後の規約に拘束されるものとします。
2.(省略)
2 約款の変更に関する学説
これまで、不当条項についての一般的基準については論じられているが、約款に含まれる変更条項の不当条項性(あるいは有効性)に関する研究はあまりなされていないようである。
たとえば、xxxx『約款と消費者保護の法律問題』三省堂(1981年)333頁以下は、「契約で変更する場合のあることを定めていれば内容、手続とも不合理でない限り当事者はそれに拘
束されることになる」(334頁)と述べ、具体的な例として、銀行ローン約定書に定める利率の変更条項、建築工事請負契約に定める請負代金の改訂についての協議条項をあげている(事情の変更に備え、あらかじめ契約でそれへの対応を図ったものとしている)。ただし、xxxxは、事情の変更の場合とそうでない場合とを区別しているようであり、この引用部分は、事情の変更に関するものであると思われる。
3 約款の変更に関する裁判例
約款条項の変更に関する裁判例として、以下のようなものがある。
(1)ダイヤルQ2事件(大阪地判平成6・7・25判時1463号116頁〔判批:xx・ジュリ 1036号、xx・判評422号(判時1482号)〕)
判旨は、電話加入契約約款の変更について、「新たに導入された有料情報サービスシステムに基づき、情報料等の回収代行とその支払負担者に関する事項を電話加入契約約款に追加して約款を変更し、右変更約款が加入契約者に適式に開示、放置され、発効するに至ったと認められる場合には、右加入電話を使用しこれから情報の提供を受けた者に対し、NTTは、情報提供者に代わって自己の名をもって右情報料をダイヤル通話料と併せて請求することができ、現実に情報提供を受けた者が右加入電話契約者以外の者であっても、右加入電話契約者は利用者として右情報料等の支払義務を免れない。」と述べているが、電気通信事③法では、約款の公表、開示義務を課し、その開示方法として営③所その他の事③所における掲示を命じているので、その手続きによって、相手方において約款の変更が認識可能な状態に置かれたものと解している。
(2)神戸地判昭和62・2・24判タ657号204頁
判旨は、傷害保険契約約款の変更について、「傷害保険契約において保険契約者にとって有利な約款の改正(保障額の引上げ)および保険料の引下げがなされたが、既存の保険契約者との関係では改正以後更新までの期間保障額の増額調整措置をとることとした場合、右措置が適用されるのは改正以後更新までの期間についてのみであり、それ以前の期間について遡及して適用されるものではない」と述べている。判決は、改正された約款が適用されることを前提としているが、契約者にとって変更された内容が有利であるから、変更された条項の拘束力を問題としていないものと考えられる。
(3)東京高判昭和48・6・25判時710号59頁〔判批:石外・法時46巻3号〕
判旨は、工事請負契約における工期の変更について、「工事請負約款に『正当の理由がある時は請負者は速やかにその理由を示して注文者に工期の変更を求めることができる』旨定められている場合に、請負人がその理由を示して工期の変更を求めた時は、注文者は工期の変更日数について請負人と協議する義務があり、当初定められた工期内に完成する見込みがないというだけの理由で直ちに契約を解除することは許されない」と述べている。判決は、請負人に工期の変更を求める権利があり、注文者がそれについて変更日数の協議に応ぜず、契約の解除をすることができないとしたものである。
(4)最判昭和45・12・24民集24巻13号2187頁〔判批:xx・xxx482号、鴻・損害保険判例百選[第2版](別冊ジュリ138号)、xx・法経論集(xxx)34号、xx・商法判例百選[第2版](別冊ジュリ121号)等〕
判旨は、船舶海上保険に関して、普通保険約款における免責条項の変更について、「船舶海上保険につき、保険③者が普通保険約款中の免責約款を一方的に変更し、変更につき主務大臣の認可を受けないでその約款に基づいて保険契約を締結しても、その変更が保険③者の恣意的な目的に出たものでなく、変更された条項が強行法規、公序良俗に違反し、とくに不合理なものである場合でない限り、変更後の約款は、当事者を拘束する効力を有する」と述べている(ただ、いったん契約された後に、約款を変更することが問題となった事案ではない)。
(5)主催旅行における旅行内容の変更が債務不履行にあたるか
なお、主催旅行における旅行内容の変更が問題となったものとして、次のような裁判例がある。これらの事件では、旅行内容の変更が旅行③者の債務不履行になるかどうかが争われているが、約款そのものの変更の問題ではないと考えられる。
たとえば、東京高判昭和55・3・27判タ415号117頁〔判批:xx・消費者取引判例百選(別冊ジュリ135号)〕は、「主催旅行において旅行内容を変更したことが旅行③者の債務不履行にあたる」と判示し、債務不履行の成立を認めている。また、神戸地判平成5・1・22判時1473号125頁〔判批:xx・ジュリ1122号〕も、同様に、パック旅行で、宿泊施設がホテルから自炊を前提とするコンドミニアムに変更されていたのに、それを説明しなかった場合に、債務不履行を認めている(旅行客に契約解除の機会が与えられなかったことがその理由とされている)。また、東京地判平成9・4・8判タ967号173頁も、旅行社の主催するオーストリア新婚旅行において、その主催旅行の特徴の1つである豪華クルーザーによるクルージングの予定が変更されたことが、旅行社の指示によるものではなく、クルーザーの運行会社が一方的にシー
プレイン(xx飛行機)に変更したことによる場合であっても、債務不履行に該当すると判示している。また、大阪高判平成10・11・17判タ1015号235頁〔判批:xx・ジュリ1182号、xx・判タ臨時増刊1065号〕も、航空会社には、悪天候のため目的外空港に降機するなど、経路変更の場合には、運送約款上、会社の他の航空便で旅客を運送するか、他の運送機関に乗客を目的地まで運送するよう依頼する義務があり、その前提として、乗客がそのことを理解できるよう説明し案内する義務がある(日本語しか理解できない乗客には、日本語で説明する)と判示し、航空会社には説明を怠った債務不履行があるとしている。
これに対して、東京地判平成7・10・27判タ915号148頁は、中国旅行のツアーにおいて、「ガイズ村への小旅行」が現地ガイドやバス運転手のサボタージュによって中止になった場合に、債務不履行にあたらないとしている。
4 約款に含まれる変更条項と不当条項の判断基準
(1)ドイツ法
ドイツ民法308条4号は、次のように規定している。
評価の余地を伴う禁止条項として、(変更権の留保)条項をあげている。
4.(変更権の留保)
約束された給付を変更し、または、これと異なる給付をなす権利を約款使用者に認める旨の合意。ただし、給付の変更や異なる給付をなす合意が、約款使用者の利益状況に照らし、契約の相手方に期待し得るものであるときはこの限りではない。
(2)フランス法
フランスでは、1978年に不当条項に関する立法がなされたが、現在では、消費法典の中に組み込まれている。
当初は、不当条項委員会の勧告による規制が行われていた(勧告をデクレとして法規範化することが想定されていたが、デクレがほとんど制定されず、その後、1993年のEU指令に従って、改正され、不当条項リストが付加された。現行の消費者法典では、以下のような規定が定められている。
フランス消費法典 L.132-1条
①事③者と非事③者または消費者の間の契約において、非事③者または消費者を害する形で、
契約当事者の権利義務の間の判然とした不均衡を生みだすことを目的または効果とする条項は、濫用的である。
②L.132-1条によって設置される委員会の意見の後に定められたコンセイユ・デタのデクレが、濫用的であると推定される条項のリストを決定する。このような条項を含む契約に関する紛争の場合、事③者は、争われている条項が濫用的な性質を持たないことの証明を提出しなければならない。
③同様の条件のもとで定められたデクレは、契約の均衡に対してもたらされる侵害の重大性を考慮に入れながら、反証の余地のない形で第1項の意味で濫用的であるとみなされなければならない条項の類型を決定する。
④これらの規定は、契約の形式、媒体が何であれ、適用される。自由に交渉された条項もしくはそうでない条項、または既に作成された約款への参照を含んだ注文書、請求書、保証書、引渡明細書もしくは引渡証書、切符もしくは券についても同様である。
⑤民法典1156条から1161条、1163条および1164条に規定された解釈の規律を損なうことなく、条項の濫用的な性質は、契約締結時における締結を取り巻くすべての状況、およびすべての他の契約条項を参照しながら評価される。2つの契約の締結または履行が法的に相互に依存している場合には、条項の濫用的な性質は、他方の契約に含まれている条項も考慮に入れて評価される。
⑥濫用条項は書かれていないものとみなされる。
⑦第1項の意味における条項の濫用的な性質の評価は、条項が明確かつ理解可能な形で規定されている限り、契約の主たる目的の決定、および売買された物または提供された役務の代金または報酬の適合性を対象としない。
⑧契約は、濫用的であると判断された条項なしに存続可能である場合、それらの条項以外のすべての契約条項は依然適用可能である。
⑨本条は公序規定である。
R.132-1条
事③者と非事③者または消費者の間の契約において、以下のような目的または効果を持つ条項は、反証の余地ない形で、L.132-1条第1項及び第3項の規定の意味で、濫用的であると、したがって禁止されていると推定される。
·····
3. 契約期間、または引渡すべき物もしくは提供すべき役務の特徴もしくは代価に関する契約 条項を一方的に修正する権利を事③者に留保すること。
····
R.132-2条
事③者と非事③者または消費者の間の契約において、以下のような目的または効果を持つ条項は、事③者が反証を提出した場合を除いて、L.132-1条第1項及び第2項の規定の意味で、濫用的であると推定される。
······
6. R.132-1条第3号に規定された条項以外のもので、当事者の権利義務に関する契約条項を一 方的に修正する権利を事③者に留保すること。
·····
R.132-2-1条
①以下の場合、R.132-1条第3号並びにR.132-2条第4号および第6号は適用されない。
a)価格が、事③者の制御していない相場、指標または率の変動に結び付けられている、有価証券、金融証券およびその他の商品または役務に関係する取引。
b)外国通貨、並びに郵便局で作成され、外国通貨の単位で作成された旅行小切手または外国為替の売買。
②R.132-1条第3号およびR.132-2条第6号は、金融サービスの提供者が、非事③者または消費者が負う利率または金融サービスに関するすべての負担の額を、正当な理由がある場合に予告なく修正する権利を留保する条項の存在を妨げない。ただし、当該条項の存在を妨げないためには、事③者は他の契約当事者に速やかにその情報を提供する義務を負い、他の契約当事者は、契約を直ちに解約する自由を有していなければならない。
③R.132-1条第8号およびR.132-2条第6号は、金融サービスの提供者が、期限の定めのない契約を正当な理由がある場合に予告なく終了させる権利を留保する条項の存在を、事③者は契約相手方に直ちにその情報を提供する義務を負わなければならないことを条件として、妨げない。
④R.132-1条第3号およびR.132-2条第6号は、期限の定めのない契約が締結された場合に、引渡される物または提供される役務の価格に関連する修正を事③者が一方的に行うことができることを規定する条項の存在を、消費者が、場合によっては解約することを可能とする合理的な期間内に、そのことについて知らされていなければならないことを条件として、妨げない。
⑤R.132-1条第3号およびR.132-2条第6号は、事③者が技術の進展に関連する契約の一方的修正を行うことを可能とすることを規定する条項の存在を、そこから価格の上昇や品質の変更を
生じさせず、その義務により非事③者または消費者がどのような特徴に従うのかが契約に示されていた場合には、妨げない。
(3)日本法
(ⅰ)現状
契約に関する一般法である民法には、契約の変更、約款の変更に関する規定は定められていない。また、消費者を対象とする消費者契約法についても同様である。
しかし、特別法には、若干の規定例が見られる。たとえば、信託法では、信託の変更に関する節が置かれていて、次のような規定が定められている。
(関係当事者の合意等)
第149条 信託の変更は、委託者、受託者及び受益者の合意によってすることができる。この場合においては、変更後の信託行為の内容を明らかにしてしなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、信託の変更は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定めるものによりすることができる。この場合において、受託者は、第一号に掲げるときは委託者に対し、第二号に掲げるときは委託者及び受益者に対し、遅滞なく、変更後の信託行為の内容を通知しなければならない。一 信託の目的に反しないことが明らかであるとき 受託者及び受益者の
合意
二 信託の目的に反しないこと及び受益者の利益に適合することが明らかであるとき 受託者の書面又は電磁的記録によってする意思表示
3 前二項の規定にかかわらず、信託の変更は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める者による受託者に対する意思表示によってすることができる。この場合において、第二号に掲げるときは、受託者は、委託者に対し、遅滞なく、変更後の信託行為の内容を通知しなければならない。
一 受託者の利益を害しないことが明らかであるとき 委託者及び受益者二 信託の目的に反しないこと及び受託者の利益を害しないことが明らか
であるとき 受益者
4 前三項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
5 委託者が現に存しない場合においては、第一項及び第三項第一号の規定は適用せず、第二項中「第一号に掲げるときは委託者に対し、第二号に掲げ
るときは委託者及び受益者に対し」とあるのは、「第二号に掲げるときは、受益者に対し」とする。
(特別の事情による信託の変更を命ずる裁判)
第150条 信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により、信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして受益者の利益に適合しなくなるに至ったときは、裁判所は、委託者、受託者又は受益者の申立てにより、信託の変更を命ずることができる。
2 前項の申立ては、当該申立てに係る変更後の信託行為の定めを明らかにしてしなければならない。
3 裁判所は、第一項の申立てについての裁判をする場合には、受託者の陳述を聴かなければならない。ただし、不適法又は理由がないことが明らかであるとして申立てを却下する裁判をするときは、この限りでない。
4 第一項の申立てについての裁判には、理由の要旨を付さなければならない。
5 第一項の申立てについての裁判に対しては、委託者、受託者又は受益者に限り、即時抗告をすることができる。
6 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有する。
また、投資信託法16条(内閣総理大臣への届出)、17条(重要な変更についての書面による決議)、著作xx管理事③法11条(文化庁長官への届出・委託者への通知)などにおいても、変更に関する規定が置かれている。
(ⅱ)日本における債権法改正の議論(法制審議会民法(債権関係)部会)
法制審議会において、平成21年に開始された債権法改正の審議の過程でも、約款の変更の問題が取り上げられている。会議資料13-1「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(8)」、会議資料13-2「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(8)詳細版」、議事録(第11回)によると、審議の状況は以下の通りである。
まず、不当条項リストの具体例のうち、グレーリストに「条項使用者に契約内容を一方的に変更する権限を与える条項」があげられている。また、会議資料によると、「いったん成立した契約は当事者双方の合意によらなければ変更できないのが原則であり、条項使用者に契約の主要な内容の一方的変更権を付与する条項は、不当条項と推定されるべきであるとの考え方が提示されている(参考資料1[検討委員会試案]・116頁、xxxx「『消費者契約法(仮称)』
の一検討(1)」NBL652号22頁、日弁連意見書33頁、横断的分析30頁以下)。
諸外国の立法例をみると、ドイツ民法第308条第4号、1993年EC指令付表1(j)(k)(ℓ)、フランス消費法典R132-1条第3号、R132-2条第6号、イギリス不xx条項法第3条第2項b(i)、オランダ民法第6編第236条i、同第237条c、韓国約款規制法第10条第1号、第309条第1号に関連する規定がある。」と説明されている(「資料13-2」20頁)(3)。
5 問題検討の視点
以下においては、約款の変更に関して、どのような視点から検討すべきかを整理する。
(1)契約の種類
この問題を検討するにあたっては、対象となる契約が継続的契約か一回的給付を目的とする契約かを区別する必要がある。すなわち、預金(消費寄託)契約、消費貸借契約などのような継続的契約か、売買契約のような一回的給付を目的とする契約かによって、考え方が異なるものと思われる。とくに、約款の変更が問題となるのは、前者の場合であると考えられる。
ところで、法律が、契約条件の変更を想定した規定を定めている場合もある。たとえば、借地借家法32条(旧借家法7条)がその例である。この場合に、賃料の改定に関する契約条項については、必ずしも無効とは解されていない。かつては、借家法7条が最高裁判例により強行法規と解されていることから、賃料改定条項は無効と考えられていたが、その後、賃料改定条項は、借家法7条の適用を排除するものではない(改定条項に従った賃料額が不相当になれば、当事者の一方は、同条による賃料増減請求ができる)と考えられるようになり、借地借家法(平成3年)の制定時においても、あえて、賃料改定条項が有効であることをxxで規定しないこととしたのである。
(2)変更の対象
次に、変更の対象となっているのが、契約の中心的部分であるのか、付随的部分であるのかも考慮する必要がある。前者は、契約の両当事者にとって、契約の重要な部分であって、後から変更する必要性があるとしても、その変更を認めるには、慎重でなければならないと考えられる。それに対して、後者は、比較的重要でない事項の変更であることが多いと考えられ、ある程度契約当事者の一方による変更を認める余地があると思われる。ただし、具体的な条項が、
(3) なお、本文の記述は、研究会において報告した当時(平成22年8月2日)のままである(「追記」参照)。
契約の中心部分であるか付随部分であるかを区別することは、困難であるように思われる。 また、契約の成立時に、将来の変更が想定されている事項と想定されていない事項とがある。
たとえば、賃貸借契約における賃料、消費貸借・消費寄託における金利等については、契約期間がある程度長期にわたることから、経済事情の変化によって、変動することが想定されるので、変更条項を設けることが少なくない。そして、変更についても合理性が認められることが多いと考えられる。
(3)変更の内容(方法)
契約条項の変更方法についても、いくつかの類型がある。
(ⅰ)当事者間の合意によって契約内容を変更するもの
第1に、当事者間の合意によって契約内容を変更する条項である。このような条項については、契約の成立後に、何らかの事情によって、契約の条項を修正する条項であっても、変更の内容について、当事者の合意が存在するものであるから、その条項の有効性について、あまり問題とされないであろう。
(ⅱ)当事者の一方的意思によって契約内容を変更するもの
第2に、当事者の一方的意思によって契約内容を変更することを認める条項である。約款の変更に関して最も問題となる典型的な条項であって、変更の合理性・変更の周知方法などが考慮されなければならないであろう。
(ⅲ)一定の指標の変動に応じて、契約内容を変更するもの
第3に、一定の指標の変動に応じて、契約内容を変更する条項である。固定資産税の変動によって、賃料を変動させるような条項である。客観的な指標に従って変更されるのであるから、当事者の恣意によるとはいえないが、当該契約において、その指標によることが合理的であるかどうかが考慮されなければならないであろう(たとえば、東京地判昭和45・2・13判時613号77頁は、家賃および更新料について、東京・大阪間の国鉄運賃を標準として、それに準じて変化することを承諾する旨の特約を無効としているが、鉄道運賃は家賃を定める指標としての合理性に欠けるということであろう)。
(ⅳ)当事者の意思と無関係な事実(法律等の改正など)によって契約内容を変更するもの(変更に関する条項のない場合も含めて)
第4に、当事者の意思と無関係な事実(法律等の改正など)によって契約内容を変更する条項である。許認可約款の変更もこれにあたると考えられる。この場合にも、契約当事者の一方の恣意的な変更とはいえず、変更の合理性、変更の周知方法などが考慮されなければならないであろう。
(4)変更内容の通知方法
当事者の一方が約款内容を変更できる場合にも、その変更をどのように契約の相手方に通知するかも問題となる。
(ⅰ)契約内容の変更を相手方に個別に通知するもの
第1に、契約内容の変更を相手方に個別に通知する条項である。周知方法としては、最も、確実な方法である。前述のクレジットカードの会員規約は、その例である。画一的に大量に行われる取引においては、必ずしも現実的ではない(4)。
(ⅱ)店頭に表示するなどの方法によるもの
第2に、店頭に表示するなどの方法によるとする条項である。前述の総合口座規定は、その例である。
(5)変更の効力発生時期
変更後の約款が効力を生ずる時点(契約の相手方を拘束する時点)についても、いくつかの類型が見られる。
(ⅰ)変更の効力発生時期をその都度定めるもの
第1に、変更の効力発生時期をその都度定める条項で、前述の普通預金規定がその例である。
(ⅱ)変更後、相手方が変更に同意したと判断される事実があった時に効力が生ずるとするも
(4) なお、現在のアメリカン・エキスプレスのカード会員規約では、この規定は、以下のように修正されていて、文書による通知以外の通知方法も認められるようになっている。
第26条(規約の改定および契約の譲渡)
1. 当社は随時基本カード会員に対し文書またはその他の方法により通知することによって本規約を改定することができます。会員がかかる通知の後にカードを使用した場合、会員は改定後の規約に拘束されるものとします。
の
第2に、変更後、相手方が変更に同意したと判断される事実があった時に効力が生ずるとする条項で、前述のクレジットカード会員規約がその例である。
〔追記〕
本稿は、原則として、金融法務研究会における報告当時(平成22年8月2日)の資料に従って記述したものである。
その後、法制審議会における債権法の改正については、民法(債権関係)部会において、審議が続けられ、まず、平成23年4月12日に「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」が決定され、公表するとともにパブリックコメントに付され、さらに、平成25年2月26日に「民法(債権関係)の改正に関するxxxx」が決定され、公表するとともにパブリックコメントに付された。そして、最終的に、民法部会において、平成27年2月10日に「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」が決定され、同年2月24日の法制審議会総会において、「民法(債権関係)の改正に関する要綱」が決定され、法務大臣に答申され、公表された。その後、要綱に従った民法改正案が国会に提出されるに至っている。
改正要綱では、定型約款の変更について、以下のように定められている(最終的に、「定型約款」という言葉が用いられることになった)。
「第28 定型約款
1~3(省略)
4 定型約款の変更
定型約款の変更について、次のような規律を設けるものとする。
(1)定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
ア 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
イ定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この4の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
(2)定型約款準備者は、(1)の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
(3)(1)イの規定による定型約款の変更は、(2)の効力発生時期が到来するまでに(2)による周知をしなければ、その効力を生じない。
(4)2(2)の規定は、(1)の規定による定型約款の変更については、適用しない。」
民法改正要綱では、定型約款の変更について、一定の要件を充たしている場合には、相手方の個別的な同意がなくても、約款の変更をすることができる旨を定めている。すなわち、①定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合する場合、あるいは②定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無およびその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものである場合である。しかも、定型約款に変更できる旨の条項が定められていることは必要ではない(変更条項があることは要求されていない)。
なお、この改正要綱の内容は、民法改正案では548条の2~548条の4に定められている(定型約款の変更については、548条の4)。