Chris Bevitt 氏は、Shelston IP Lawyers のチームリーダーを務めるとともに、Shelston IP の IP 商業化部会の⻑でもある。担当する実務は、ライセンシング、IP 譲渡、合弁事業、株主契約、製造契約、販売契約、取引条件など IP 商業化の全分野に及んでいる。専門とするのは IP 契約である。また、商標弁護士として、内外の様々な業種の顧客に法律サービスを提供している。
オーストラリアにおける現地法人の知財問題-雇⽤契約における留意点
【その1】
Shelston IP Xxxxx Xxxxxx
Shelston IP は、オーストラリアおよびニュージーランドにおける最大手知的財産事務所のひとつであり、特許、意匠、商標、著作権、植物育成者権その他知的財産に関する包括的なサービスを提供している。
Xxxxx Xxxxxx 氏は、Shelston IP Lawyers のチームリーダーを務めるとともに、Shelston IP の IP 商業化部会の⻑でもある。担当する実務は、ライセンシング、IP 譲渡、合弁事業、株主契約、製造契約、販売契約、取引条件など IP 商業化の全分野に及んでいる。専門とするのは IP 契約である。また、商標弁護士として、内外の様々な業種の顧客に法律サービスを提供している。
目次
1. 序
2. 要約
3. 知的財産保護のために雇用契約への導入が推奨される規定
(以下、その2)
4. 発明に対する報奨⾦を従業者に与える規定
5. 使用者に対する発明報告を促す方法
6. ⾃社の営業秘密の漏洩リスクを軽減する
7. 第三者情報の不正使⽤
8. 結び
1.序
日本企業は、オーストラリアでの事業を展開するにあたり、オーストラリア法人
(子会社)を設⽴することが多い。オーストラリア子会社の社員を雇用する際にはオーストラリア法が適用されるが、オーストラリアの法律は日本の法律や企業グループの国際的方針とは異なるものもある。本稿は、国際展開をする企業グループの知的財産保護を確保すべく、発明⾏為を職務とする従業員に関して、オーストラリアの雇⽤契約に盛り込むべき規定について論じる。さらに、他社から営業秘密の不
正使用を主張されるリスクを最小化する方法や、退職後の元従業者によるグループ企業の秘密情報の不正使⽤に対処する⽅法についても論じることにする。
2.要約
オーストラリア国内で企業グループの知的財産を保護し、雇用の際の第三者請求リスクを最小限にとどめるために留意すべき点は、以下のとおりである。
・書面による雇用契約が存在し、雇用条件が明確にされていること
・契約書の中に次の事項を扱う規定が含まれていること。知的財産を会社に譲渡すること、守秘義務、以前雇用されていた使用者の営業秘密やその他秘密情報の使用禁止、特許未取得の発明に関する開示制限、速やかな会社への発明報告の義務、会社が保有する知的財産権の有効性を争うような申⽴をしないこと
・発明に関する報奨⾦、および発明の品質や価値を評価するための重要業績評価指標(Key Performance Indicators:KPI)を契約に盛り込むこと
・退職する従業者と退職者面接(エグジットインタビュー)を実施し、企業グループの秘密情報や知的財産の開⽰や不正使⽤を⾏わない義務があることを退職者に確認させること
3.知的財産保護のために雇用契約への導入が推奨される規定
オーストラリア法は、従業者と書面による雇用契約を交わすことを要求していないが、明確化のため、契約書を作成することを推奨する。オーストラリアの雇用関連法は海外の法と異なっており、理由なき解雇(一般に許容されない)などの事項に関しては違いが⽬⽴つ。
3-1.知的財産の譲渡
英国コモンローを基盤とするオーストラリア法の原則は、従業員の職務遂⾏過程で創出された知的財産、使用者の資源を用いて創出された知的財産、または就業時間中に創出された知的財産に対する所有権は使用者に帰属する、というものである
この法原則の対象とならない者は大学職員、担当する職務範囲に知的財産の創出が
含まれない者などである このような例外や、現実の契約履⾏において⽣じうる論
争に鑑み、雇用契約には、知的財産に対する所有権の帰属に関する規定を設けておくべきである。
従業者が職務遂⾏の過程で創出または寄与した知的財産はすべて使用者の所有となる(従業者が使用者に知的財産を譲渡する)と規定した条項を盛り込むことが典型例である。
知的財産の権利帰属以外にも、契約には以下の知的財産関連条項を設けるべきである。
・知的財産に対する所有権が使用者に帰属することを確認するため、または使用者による知的財産の出願・登録を可能にするため、従業者が必要とされる文書すべてに署名する義務
・従業者による第三者(以前雇用されていた使用者)の知的財産を侵害する事の禁止、秘密情報の使用に対する禁止
・使用者が保有する知的財産の有効性を争う申⽴をしないこと、知的財産に関する使用者の所有権について争わないこと
・著作者人格権に関する同意。これにより従業者は、本来であれば著作者人格権として従業者のみが実施できる⾏為(以下に詳述)を、使用者、使用者からの譲受人およびライセンシーがなすことに同意する
・知的財産の創出、報告および保護に関する使用者の方針を従業員が遵守する義務
(以下に詳述)
3-2.著作者人格権
著作者人格権とは、1968 年(オーストラリア)著作xxに基づき著作物に関連して与えられる非経済側面の権利のことである。具体的には、著作物の創作者として特定(表示)される権利、他者が著作物の価値を毀損するような取扱いすることを阻止できる権利、また他者が当該著作物の創作者として不当に認定されるのを阻
止できる権利が含まれ、従業者を含む自然人にのみ認められる。この権利は譲渡不可能であるが、使用者は、従業者に対して必要な範囲の同意(たとえば、著作物の改変に対する同意)を使用者に与えるよう要請することができる。使用者が知的財産を⾃由に処理できるようにするため、この同意は全従業員との雇用契約に盛り込まれることが推奨される。
3-3.知的財産方針
知的財産方針をもつことは、企業にとって望ましいことである。従業者に対しても、雇用契約を通じて会社の知的財産方針を遵守させるべきである。知的財産方針は、各企業の企業経営の⽅針に基づいて異なるものの、少なくとも以下の事項を盛り込むことが望ましい。
・第三者から入手した知的財産や秘密情報の使用に対する制限
・従業者が自ら創出した知的財産の潜在的価値を認識する義務
・従業者が自ら創出した知的財産を速やかに使用者に開示する義務
・従業員が(出願・登録手続中に)知的財産すべてを秘密にしておく義務
3-4. 発明⾏為を職務とする従業者
知的財産を創出するために雇われた者(エンジニア、IT 職員、マーケティング職員等)については、特別な配慮が必要である。これら職員との雇用契約には、以下のような規定を盛り込むべきである。
・従業者の職務に関する明確な説明(発明に関わる義務の詳細を含む)
・創出した知的財産の報告するための正式な書面およびプロセス
・創出した知的財産の開示に関する制限(学会等での発表
および論⽂刊⾏に関して)
・以前雇われていた使用者の知的財産や秘密情報の使用に関する詳細な規定
【その2】に続く
(編集協⼒:⽇本技術貿易株式会社)