有限責任事業組合 (LLP) 契約 アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士山内 真之宮川 賢司李 豪俊角田 匠吾
平成 30 年度 コンテンツ産業新展開強化事業
(我が国コンテンツの海外展開を図るための多様な資金調達手法に関する検証事業)
有限責任事業組合 (LLP) 契約 |
xxxxxx・xx・xx法律事務所 弁護士 xx xxxx xxx xx xx xx |
目 次
2. 有限責任事業組合 (LLP) 契約書サンプルとその解説 3
劇場用映画「●●●●●」有限責任事業組合契約書サンプル 3
1. はじめに
この有限責任事業組合契約書サンプルは、映画製作とそれに伴う広告宣伝や配給の事業を対象として、各組合員が当該事業を分担して行うことを念頭においたものです。
映画製作等を事業とする有限責任事業組合のおもな性質として、① 従来の製作委員会方式 (民法上の組合契約と解されている。) と異なり登記が可能 (必要) であること、② 無限責任制ではなく有限責任制 (有限責任事業組合の事業上の責任について出資者は出資額しか責任を負わないことをいう。) であること、③ 従来の製作委員会契約と同様に構成員課税 (有限責任事業組合レベルでは課税がされず、有限責任事業組合の収支が直接に出資者に帰属するものとみなして、出資者レベルでのみ課税されることをいう。) であること、の 3 点が挙げられます。特に②は、出資者による投資の安全性を確保できるという大きな利点につながります。なお、③については、調整出資金額を限度とするという経費計上の上限が課されていることに留意してください。
本契約書サンプルに基づき有限責任事業組合 (LLP) において行われる事業は、第2条において具体的に記載することとしています。また、各組合員の出資については第9条において規定し、組合の運営については、第3章 (第 12 条以下) に規定しています。その中で、各組合員の業務分担は、第 13 条において参照される別紙2に具体的に記載することとなります。
日本における映画製作に際しては、民法上の任意組合の建付けに基づいて、製作委員会が組成されることが多かったのですが、任意組合の場合には、各組合員が無限責任を負うこととなるため、無限責任のリスクを許容できない投資家からの出資を得にくいという問題がありました。他方、有限責任事業組合の建付けを用いた場合には、各組合員が出資額までしか事業上の責任を負わないという有限責任のメリットが生じるため、これまで無限責任のリスクを許容できないために製作委員会に出資をしなかった者も映画製作事業に参加しやすくなる効果が期待できます。
なお、本契約書サンプルはあくまでもひとつの例であり、このまますべてのケースで使用できるものではありません。実際に契約交渉や取引を行う際には、弁護士などの専門家にご相談のうえ、それぞれの事情を踏まえた契約書を作成して使用するようにしてください。
2. 有限責任事業組合 (LLP) 契約書サンプルとその解説
組合員A (以下「甲」という。)、組合員B (以下「乙」という。) 及び組合員C (以下「丙」という。) ・・・は、第2条に定める事業を共同で営むため、有限責任事業組合契約に関する法律 (以下「有限責任事業組合法」という。) の規定に従い、●●●●年●月●日 (以下「本締結
日」という。) をもって、以下のとおり、有限責任事業組合契約 (以下「本契約」といい、本契約に基づき設立する組合を「本組合」という。) を締結する。
第1章 (総則)
第1条 本契約において使用する用語の定義は、それぞれ以下の各号のとおりとする。
(1) 「組合員」とは、本組合の組合員をいう。
(2) 「総組合員」とは、本組合のすべての組合員をいう。
(3) 「組合財産」とは、出資金及び本組合の活動により取得した財産その他の本組合に帰属すべき財産をいう。
(4) 「組合口座」とは、本組合の事業のためにのみ利用されるものとして総組合員の同意に基づき甲が開設し他の組合員に通知した本組合の組合員の肩書付名義の口座をいう。
(5) 「有限責任事業組合法施行令」とは、有限責任事業組合契約に関する法律施行令をいう。
(6) 「有限責任事業組合法施行規則」とは、有限責任事業組合契約に関する法律施行規則をいう。
(7) 「本映画」とは、下記のとおりの仕様を満たす映画をいう。
題名 | 《対象となる映画のタイトルを記入》 | |
仕様 | 様式 | 劇場用映画 |
仕上形式 | 《対象となる映画の納品フォーマットを記入》 | |
上映時間 | 《対象となる映画の上映時間を記入》 | |
原作 | 《対象となる映画の原作者名を記入》 | |
脚本 | 《対象となる映画の脚本家名を記入》 | |
監督 | 《対象となる映画の監督名を記入》 | |
出演 | 《対象となる映画の主な出演者名を記入》 | |
完成期日 | 《対象となる映画の完成日を記入》 |
2 本契約において法令、規則又はこれらの規定に言及した場合には、本締結日後に改正したものを含むものとする。
3 本契約において定める日時は、すべて日本時間によるものとする。
4 本契約において定める金銭の支払いは、すべて日本円で行うものとする。
第1項4号において規定された、銀行口座を開設する場合には、本組合の名義ではなく、本組合の組合員の肩書付名義の口座を開設することとなります。具体的には、「劇場用映画「●●●
●●」有限責任事業組合 組合員株式会社●●●● 職務執行者●●●●」という肩書付名義の口座となります。なお、本組合が第三者との間で契約を締結する場合にも、上記肩書付名義で契約を締結することとなります。また、本組合が補助金を申請する場合には、組合員が個別に申請しなければならない場合 (組合員が助成を受けた補助金を本組合に出資する形となる。) と上記肩書付名義で申請できる場合があるため、補助金ごとに確認する必要があります。
本契約は、映画の製作等を事業とする有限責任事業組合契約ですから、組合員は、本契約締結段階において、第1項5号に記載されているように、本映画の仕様についてできる限り決定 (特定) することが望ましいです。もっとも、本映画の仕様を変更する場合には、総組合員が記名押印した書面による変更契約の締結が必要となるため (第 37 条第1項)、変更の可能性がある仕様については、(仮題) や (予定)、(目安) 等の文言を付すことや本映画の特定に支障が生じない範囲で削除することを検討してください。
第2条 組合員は、本組合の事業として、次に掲げる事業を共同で営むことを約する。
(1) 本映画の製作 (本映画の著作権の取得を含む。)
(2) 本映画の宣伝及び広告
(3) 本映画の配給 (本映画を劇場用映画として複製し、頒布し、上映することをいう。以下同じ。)
(4) 本映画の上映権、ビデオグラム化権 (DVD、Blu-ray Disc 等の現存するメディア及び将来開発されるメディアに映画を複製し、頒布する権利をいう。以下同じ。)、テレビ放送権 (映画を地上波、BS、CS、CATV 又は移動受信用地上期間放送その他の放送媒体を利用して放送する権利をいう。以下同じ。) その他の本映画の著作権の行使及び本映画の利用許諾
(5) ・・・・・・
(6) 上記に付帯する一切の業務
有限責任事業組合 (以下解説中において「組合」という。) の営む事業は、有限責任事業組合法 (以下解説中において「法」という。) の中で、有限責任事業組合契約 (以下解説中において
「組合契約」という。) の契約書 (以下解説中において「組合契約書」という。) の絶対的記載事項となっています(法第4条第3項第1号)。
そのため、本組合が本契約第2条に掲げる事業以外の事業を行う場合には、総組合員が記名押
印した書面による変更契約の締結が必要となる (本契約第 37 条第1項) ほか、当該締結日から 2 週間以内に、本組合の事務所の所在地において、変更の登記をしなければならないと定められています (法第 58 条)。したがって、本契約第2条第6号の規定にかかわらず、本契約締結時に本契約第2条に掲げる事業以外の事業を行う予定がある場合には、当該事業をできる限り明記することが望ましいといえます。
第3条 本組合の名称は、劇場用映画「●●●●●」有限責任事業組合とする。
組合の名称は、組合契約書の絶対的記載事項となっています (法第4条第3項第2号)。また、組合には、その名称中に有限責任事業組合という文字を用いなければならないと規定されています (法第9条第1項)。
なお、劇場用映画のタイトル変更に合わせて、本組合が名称を変更する場合には、総組合員が記名押印した書面による変更契約の締結が必要となる (本契約第 37 条第1項) だけでなく、当該締結日から 2 週間以内に、本組合の事務所の所在地において、変更の登記をしなければならないこと (法第 58 条) に注意が必要です。
第4条 本組合は、事務所を●●●●に置く。
組合の所在地は、組合契約書の絶対的記載事項となっています (法第4条第3項第3号)。
第5条 各組合員の名称及び住所は下記のとおりである。
記
組合員の名称 | 組合員の住所 |
《組合員A》 | 《組合員Aの住所を記入》 |
《組合員B》 | 《組合員Bの住所を記入》 |
《組合員C》 | 《組合員Cの住所を記入》 |
・・・ | ・・・ |
以 上
2 各組合員は、その職務を行うべき者 (以下「職務執行者」という。) を選任し、その者の氏名及び住所を他の組合員全員に書面にて通知するものとする。
組合員の名称及び住所は、組合契約書の絶対的記載事項となっています (法第4条第3項第
4号)。
なお、原則として、有限責任事業組合契約に基づく権利を有する者が出資した金銭を充てて行う事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利は、金融商品取引法 (以下解説中において「金商法」という。) 第2条第2項第5号の規定により有価証券とみなされるため、金商法の適用対象となります。しかしながら、専らコンテンツ事業 (映画製作等の事業はコンテンツ事業に該当する。) を行う有限責任事業組合のうち、一定の要件 (以下解説中において「金商法適用除外要件」という) を満たす場合には、金商法の適用除外となり、その金商法適用除外要件のひとつとして、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令 (以下解説中において「定義府令」という。) 第7条第1項第3号柱書において、組合員がすべて法人又は団体であることが掲げられています。さらに、有限責任事業組合の出資者は、個人又は法人に限定されている (法第3条第1項) ため、金商法規制の適用対象外となるためには組合員はすべて法人である必要があることに注意してください (金融商品取引法の規制については、別紙3の解説もご参照ください)。
また、法第3条第2項において、組合員のうち、1 法人は内国法人 (国内に本店若しくは主たる事務所を有する法人をいう。) である必要があると規定されていますが、その他の規制はないため、外国法人による出資も可能です。ただし、金商法適用除外要件のひとつに、出資者のすべてがコンテンツ事業の全部又は一部に従事することが掲げられている (定義府令第7条第1項第3号イ) ため、外国法人である組合員も本契約第2条に掲げる事業の全部又は一部に従事する必要があることに留意してください。どのような場合に事業の全部又は一部に従事するといえるかについては、別紙2及び別紙3の解説をご参照ください。
第2項は、法第 19 条第1項の確認規定です。登記実務上、法人の代表社員 1 名に対して複数の職務執行者を登記することが可能となっており、有限責任事業組合においても法人の組合員に対して複数の職務執行者を選任することが可能と解されています。とある法人の職務執行者が職務を執行できなくなったとき、代わりの者を選任して他の組合員に通知、変更登記をする (法第 57 条第3号、第 58 条) 必要があることを考えると、「組合員は職務執行者を〇名選任する」等、予め複数選任することを組合契約書に盛り込み、登記しておくことも想定できますが、その場合は当該法人組合員の意思決定をどのように確認・判断するのか (一方の業務執行者と他方の業務執行者の意見が割れたり、一方が他方と相談せずに決定した場合等を想定) という問題が生じることも考えられます。
第6条 本契約の効力が発生する年月日は、●●●●年●月●日 (以下「効力発生日」という。)
とする。
組合契約の効力が発生する年月日は、組合契約書の絶対的記載事項となっています (法第4条第3項第5号)。
第7条 本組合の存続期間は、第9条第1項に定める本組合成立日から日本国の著作xxにより本映画の著作権が消滅するまで (以下「存続期間」という。) とする。ただし、総組合員の書面による同意により、存続期間を短縮することができる。
組合の存続期間は、組合契約書の絶対的記載事項です (法第4条第3項第6号)。
通常、組合契約の存続期間は数年間であり、存続期間満了後の自動更新条項又は合意更新条項を置くことが多いのですが、本契約は、映画の製作等を事業とする有限責任事業組合契約であるため、存続期間を本映画の著作権が消滅するまで、すなわち、本映画の公表後 70 年 (創作後 70年以内に公表されなければ、創作後 70 年) としています (著作xx第 54 条第1項)。なお、但書において、存続期間を短縮する必要性が生じた場合には、総組合員の書面による同意を得て行うことができると規定しています。
第8条 組合員は、その出資の価額を限度として、本組合の債務を弁済する責任を負う。
第8条は、有限責任であることの確認規定です。有限責任事業組合は、組合員が無限責任を負う従来の製作委員会方式 (民法上の組合) とは異なり、組合員は出資の価額を限度とする有限責任を負うのみとなっています。もっとも、本契約第8条における「出資の価額」は、実際に組合員が払い込んだ出資の金額をいうのではなく、当該金額に有限責任事業組合の事業活動に伴う組合財産の増減を加味した、いわゆる持分金額 (本契約第 15 条) だということに注意してください。
なお、有限責任事業組合の内容や性質は各国の法律で異なり、外国法人が組合員となる場合には、単に本契約の英語訳を作成するだけではなく、日本における有限責任事業組合の内容や性質について、専門家のアドバイスを踏まえて当事者間で確認することが望ましいと考えます。例えば、米国における LLP の有限責任組合員は、受動的な出資者 (Passive Investor) でなければならず、LLP の業務に従事することは許されないとされています。
第2章 (出資)
第9条 各組合員の出資の目的及びその価額は、別紙1「組合員の出資の目的及びその価額」記載のとおりとする。甲、乙及び丙・・・は、それぞれ効力発生日までに、それぞれの出資に係る払込みの全部を履行するものとする (以下、甲、乙及び丙・・・がそれぞれの出資に係る払込みの全部を履行した日と効力発生日のいずれか遅い方の日を「本組合成立日」という。)。
2 前項に規定する払込みは、組合口座に対する振込送金の方法により行われるものとする。
組合員の出資の目的及びその価額は、組合契約書の絶対的記載事項となっています(法第4条第3項第7号)。組合は、組合契約を締結し、組合員がそれぞれの出資に係る払込みの全部を履行することによって、成立します (法第3条第1項)。したがって、組合員が出資に係る払込みの全部を履行するまで組合は成立せず、事業を行うこともできないということに留意すべきです。
また、本組合成立日から、2 週間以内に本組合の事務所の所在地において、組合契約の効力の発生の登記をしなければならないこと (法第 57 条) にも注意してください。なお、登録免許税は 1 件について 6 万円です。出資については、別紙1の解説もご参照ください。
第 10 条 総組合員が同意する場合を除き、組合員は、本組合に対し出資の価額を超える出資を行う義務を負わない。
2 前項の規定にかかわらず、本組合に対する追加出資を行う場合には、本契約とは別に総組合員全員が合意し書面により定めるものとする。
制作費等が出資金を上回った場合に追加出資の義務を設けるのか、設ける場合にはどのような条件にするのかというのは、組合員にとって重大な関心事ではありますが、従来の制作委員会契約では必ずしも規定されていないことが多いように思われます。規定する場合には、① 追加出資額の負担割合を決めておく、② 追加出資額の上限を定める (当初出資額の 10%とすることが多い) というものが考えられます。ただし、この場合でも組合契約書の変更が必要となります (法第5条第3項)。
第 11 条 第9条第1項に規定する出資に係る払込みを遅滞した組合員は、本組合に対して、効力発生日の翌日から当該組合員の出資に係る払込みを履行する日まで年●●%の割合による遅延損害金を支払うものとする。
2 組合員は、他の組合員の出資の不履行を理由に、当該組合員の出資に係る払込みを拒絶することはできない。
第3章 (組合の運営)
第 12 条 本組合は、総組合員の同意により、本組合における業務執行の決定を行うものとする。
2 前項の規定にかかわらず、業務執行のうち、組合の常務 (●●を含む。) については、各組合員が単独で決定することができるものとする。ただし、その完了前に他の組合員が異議を述べたときは、この限りでない。
第1項は、法第 12 条第1項本文の確認規定です。原則として、組合の業務執行を決定するには、総組合員の同意によらなければなりません (法第 12 条第1項)。そこで、組合員が相当数存在する場合には、総組合員の同意をスムーズに得るための組織として、運営委員会を設置するケースがあります。運営委員会を設置する場合の規定については、以下の例をご参照ください。なお、以下の例においては、運営委員会の開催時期や開催方法、議長等の運営委員会に関するその他の詳細については、本契約とは別に総組合員間で合意し、書面により定めるものとしていますが、本契約において直接定めることも可能です。
第X条 本組合は、総組合員により構成される運営委員会を設置し、運営委員会における総組合員の同意により、本組合における業務執行の決定を行うものとする。なお、運営委員会に関するその他の詳細については、本契約とは別途に総組合員間で合意し書面により定めるものとする。
なお、「重要な財産の処分及び譲受け」「多額の借財」については原則通り総組合員の同意が必要なものの、このうち、有限責任事業組合契約に関する法律施行規則 (以下解説中において「規則」という。) で定める基準 (処分又は譲り受ける財産に関しては、20 億円又は組合の純資産額を下回ること、かつ当該処分又は譲受けによる組合の財産上の損害の額が組合の純資産額から組合員による出資の総額を控除して得た額を上回らないこと、借財に関しては、当該借財が 20億円以下または組合の純資産額いずれか小さい方を下回り、かつ当該借財により組合の借入額が組合の純資産額以上とならないもの (規則第5条第1号、第2号)。) のものについては 3 分の 2 以上の同意まで緩和でき、これら以外の事項に関しては組合契約書において総組合員の同意を要しない旨を記載することで自由に決めることができます (法第 12 条第2項・第1項柱書但書)。さらに、組合の事務所の所在地・組合契約の事業年度の変更については、組合契約書において総組合員の同意を要しない旨の定めを置くことができます (法第5条第2項)。
従来の制作委員会方式では、組合員間の意見や利害の調整から、現場の制作管理、分配金の管理分配作業などプロジェクトの進行を管理運営して他の出資会社に報告する幹事会社を定めることが一般的です。このことは有限責任事業組合を用いる場合であっても変わらないと思われ
るため、迅速な意思決定のために、可能な限り決議の定足数は減らし、従来幹事会社が決定していた事項に関して、総組合員の同意を要しない旨を記載することは必須だと思われます。以下にその際の規程例を記します。
第X条 各組合員は、「各組合員の業務分担」に記載され記録された業務分担に従い、自己の分担に属する本組合の業務執行を決定する。
2 前項の規定にかかわらず、以下の事項についての決定は、組合員の過半数の同意により決定する。
(1) 本組合の事務所の所在地の変更
(2) 本組合の事業年度の変更
3 以下の事項は総組合員の 3 分の 2 以上の同意によって決定する。
(1) ●●●●円以下かつ本組合の純資産額を下回る額の財産の処分又は譲受け
4 前 2 項の規定にかかわらず、本組合の業務執行に関する以下の事項については、総組合員の同意により決定をする。
(1) 重要な財産の処分及び譲り受け
(2) 多額の借財
(3) 本映画の制作計画、政策予算その他製作に関する事項の立案、決定
(4) 本映画の広報宣伝に関する企画立案、宣伝計画、予算の審議、決定
(5) その他本映画の製作、宣伝、利用、管理運用に関する事項で、本契約において定めのない事項及び委員のいずれかが特に審議を求めた事項の審議、決定
(6) 損益分配額の変更
また、第2項は、法第 14 条の確認規定です。組合の常務は、各組合員が単独で行うことができます (法第 14 条) が、このままでは何が「常務」に当たるのかについての基準が不明確であるため、各組合員が単独で決定できるとするものについては、「(~を含む。)」という形で明記することが望ましいと思われます。
第 13 条 組合員は、別紙2「各組合員の業務分担」に記載された業務分担に従い、本組合の業務を執行する権利を有し、義務を負う。ただし、組合員の業務執行の内容については、前条第1項に従って、決定を行うものとする。
2 本契約に定める組合員の職務は、前項の業務分担において当該職務が含まれる業務を担当する組合員が行うものとする。
金商法適用除外要件のひとつに、出資者のすべてがコンテンツ事業に係る収益の配当又は財産の分配を受けることができる権利のほか、当該事業に従事した対価の支払いを受ける権利又
は当該事業に係るコンテンツの利用に際し、自社の名称を表示し若しくは自社の事業の広告・宣
伝をすることができる権利を有することが掲げられています (定義府令第7条第1項第3号ロ)。したがって、金商法規制の適用対象外となるためには、組合員の業務執行の内容について総組合員間の同意により決定する際に、すべての組合員が上記権利を有する旨を定めることが必要となります。金融商品取引法の規制については、別紙3の解説もご参照ください。
また、別紙2において、映画製作等に関する事業において通常想定される業務執行を記載し適宜分担していますが、当該業務分担は、従来の製作委員会契約における窓口分担に対応しています。もっとも、本契約第 13 条第1項但書により、業務執行組合員が担当する業務執行の内容を、総組合員の同意なく決定できるわけではありません。したがって、業務執行組合員 (製作委員会契約における窓口担当者に相当する。) の業務執行の詳細な事項、すなわち、本組合から業務執行組合員へ支払われる報酬 (製作委員会方式における窓口手数料に相当する。) 若しくは業務執行組合員から本組合へ支払われるライセンス料及び費用負担の方法 (第 23 条の解説を参照ください。) 等については、総組合員の同意が必要であることに注意してください。
第2項については別紙2の解説をご参照ください。
第 14 条 組合員は、本契約に従い、善良なる管理者の注意をもって、自己が分担する職務を行うものとする。
2 組合員及びその職務執行者の本組合との競業及び本組合との利益相反取引に関する事項は、別途総組合員間で合意し書面により定めるものとする。
3 各組合員は、他の組合員に対し、随時その担当する業務処理及び組合財産の管理方法等につき質問し、又は報告を求めることができるものとする。当該質問を受け、又は報告を求められた組合員は、かかる質問又は報告に誠実に対応し、他の組合員に対し、適切な方法で、回答又は報告を行うものとする。
組合契約においては、組合員及びその職務執行者の本組合との競業避止規定が置かれることが一般的です。この場合、組合員が他の映画製作等を事業とする製作委員会 (民法上の組合) や有限責任事業組合等への出資を行うこと及びこれらの業務執行を行うことは「本組合との競業」に該当します。したがって、これらの行為について、承認範囲 (異なるジャンルや異なる公開時期の映画に限る等) や承認方法 (事前の通知を必要とすることにするのか、事前に規則を作成するのか、都度承認が必要であるとするのか等) について総組合員間で合意し書面により定めることが必要です。
同様に組合員及びその職務執行者の本組合との利益相反取引禁止規定が置かれることが一般的です。組合員の業務執行を、本組合と組合員との間の業務委託契約又は著作権ライセンス契約
として構成する場合には、これらの取引は「本組合との利益相反取引」に該当するため、これら
の行為について、総組合員間で合意し書面により定めることが必要です。なお、関連して第 21
条の解説もご参照ください。
第4章 (組合財産)
第 15 条 組合財産 (本映画の著作権その他知的財産xxを含む。) は、総組合員の共有に属するものとし、各組合員は、これに対し各自の持分金額に応じて比例按分した割合による持分 (以下「組合持分」という。) を有する。持分金額とは、各組合員について、その履行した出資の価額に、事業年度ごとに第 20 条の規定により当該組合員に帰属すべき損益を加減し、当該組合員に対し本契約の規定により分配された金銭その他の財産を減じることにより算出される金額をいう。
第 16 条 組合員は、組合財産のうち、金銭については組合口座に入金し、本映画の著作権については本映画及び本映画を利用し頒布するすべてのビデオグラム及び宣伝・広告用媒体に下記の著作権表示を行うものとし、その他の財産については適切な方法により、自己の固有財産及び他の組合の組合財産と分別して管理するものとする。
記
著作権表示 | 《例:🄫 20XX 劇場用映画「●●●●●」有限責任事業組合》 |
以 上
ⓒ表記は、方式主義 (権利の発生に登録等の手続を必要とすること。) を採用する万国著作権条約により条約加盟国内で保護されるための前提条件ですが、現在では、日本も含めた大多数の国家が無方式主義 (権利の発生に登録等の手続を必要としないこと。) を採用するベルヌ条約に加盟しているため、ⓒ表記による保護が意味を有するのはカンボジア王国のみとなっています。ただし、実務上はⓒ表記を行うことが多いため、このような規定を置いています。
第5章 (計算)
第 17 条 本組合の事業年度は、毎年4月1日から翌年3月 31 日までとする。ただし、第1期の
事業年度は本組合成立日から●●●●年3月 31 日までとする。
組合の事業年度は、組合契約書の絶対的記載事項となっています (法第4条第3項第8号)。また、組合の事業年度は 1 年を超えることができないと定められている (法第4条第4項) ため、第1期については本組合成立日から直近の3月31日までと規定しています。
第 18 条 組合員は、有限責任事業組合法施行規則で定めるところにより、会計帳簿を作成するものとする。
2 本組合の会計帳簿を作成した組合員は、有限責任事業組合法施行規則で定めるところにより、各組合員に対し、当該会計帳簿の写しを交付するものとする。
この第 18 条は、法第 29 条第1項第3項の確認規定です。
第 19 条 組合員は、有限責任事業組合法施行規則で定めるところにより、本組合の成立後速やかに、本組合成立日における本組合の貸借対照表を作成するものとする。
2 組合員は、毎事業年度経過後2カ月以内に、有限責任事業組合法施行規則で定めるところにより、その事業年度の本組合の貸借対照表及び損益計算書並びにこれらの附属明細書を作成するものとする。
この第 19 条は、法第 31 条第2項第3項の確認規定です。
第 20 条 組合員の損益分配の割合は、別紙3「組合員の損益分配の割合」のとおりとする。
組合員の損益分配の割合については、別紙3の解説をご参照ください。
第 21 条 組合員は、毎年 6 月、9 月、12 月、3 月の各月の末日から●週間以内に、総組合員の同意を得て、分配の日における組合の剰余金に相当する額の範囲内で総分配額を決定し、組合財産を組合員に対して分配することができる。
2 前項に基づく分配は、組合員の出資の価額に応じて行うものとする。
3 組合員は、本契約に明文の規定がある場合を除き、事由の如何を問わず、本組合の解散前に組合財産の分配を請求することができない。
一般的に、組合財産は、その分配の日における分配可能額を超えて分配することができないこと (法第 34 条第1項) に留意してください。なお、分配可能額は、分配日における純資産額から 300 万円 (組合員による出資の総額が 300 万円に満たない場合には、組合員による出資の総額) を控除した額となります (規則第 37 条)。また、分配の日における組合の剰余金に相当する額を超えて組合財産を分配する場合には、組合員は、分配する組合財産の帳簿価額から剰余金に相当する額を控除して得た額等を、分配日から 2 週間以内に組合契約書に記載しなければな
らない (法第 34 条第2項、法第 34 条第3項、規則第 39 条) と定められています。なお、組合の剰余金に相当する額は、分配日における純資産額から組合員による出資の総額 (分配日までに法第 34 第2項の規定による組合財産の分配があったときは、組合員による出資の総額から同条第3項の規定により組合契約書に記載された額の合計額を控除して得た額) を控除して得た額となります (規則第 38 条)。
本組合から業務執行組合員への金銭の支払い (製作委員会方式における製作委員会から各窓口担当者への窓口手数料の支払いに相当するもの) は、「組合財産の分配」に該当する可能性があり、これに該当する場合には、総組合員の同意が必要であるだけでなく、上記のとおり分配可能額規制及び分配手続規制の対象となります。したがって、当該規制を避けるためには、組合員の業務執行を、本組合と組合員との間の業務委託契約又は著作権ライセンス契約として法律構成した形 (「組合財産の分配」ではなく「報酬の支払い」「ライセンス料の支払い」であることを明確にする形) で、業務執行の詳細事項を決定すること (本契約第 13 条第1項但書) が必要となります。このような法律構成をとることについては、第 14 条の解説もご参照ください。
組合財産の分配はいつでも何回でも自由に行えるのが原則ですが、上記のように、「剰余金層当額」「分配可能額」という規制が存在しています。この「剰余金相当額」「分配可能額」はいずれも実際に分配する日の純資産額を基準に算定されることを踏まえると、資産及び負債の額を算定しやすい一定の基準日を設け、その日を分配日とすることが考えられます。
ちなみに、組合自体は法主体ではなく、各組合員が法主体となるため、原則として、分配金の源泉徴収を行う必要はありません。もっとも、組合員が外国法人である場合には、組合員の中で分配を行う者に対して 20%の源泉徴収義務が課せられていること (所得税法第 212 条第1項、同法第 212 条第 5 項) に注意してください。
第 22 条 法令上本組合において納付すべきものを除き、本組合の事業に関し各組合員に課される公租公課については、当該組合員がこれを負担するものとする。
2 組合員は、各事業年度における本組合に係る組合員の所得に関する計算書を、翌事業年度の1月末日までに管轄の税務署長に提出するものとする。
第6章 (費用)
第 23 条 総組合員間で同意した場合を除き、本組合の設立及び本組合の事業に関して発生する費用は、組合財産より支払う。
いわゆる P&A 費用について、配給会社ではなく、本組合が負担する場合には、どのように費用を支出・負担するかについて (例えば、一度組合員が P&A 費用を立て替えて、本組合の収入からトップオフする方法等) は、総組合員間で同意し決定する必要があります。これは、その他本組合の事業に関して発生する費用についても、同様です。
第7章 (組合員の地位の変動)
第 24 条 組合員は、本契約若しくは本契約とは別に総組合員間で合意した書面に別段の定めが存する場合又は他の組合員全員の書面による事前の同意を得た場合を除き、その組合員たる地位について、譲渡、質入れ、担保権の設定その他一切の処分をすることができない。
金商法適用除外要件のひとつに、組合員の地位を他の出資者に譲渡する場合及び他の出資者のすべての同意を得て出資者以外の者に譲渡する場合以外の譲渡が禁止されることが掲げられています (定義府令第7条第1項第3号ハ)。したがって、この第 24 条は、金融商品取引法の適用除外を受けるために必要な規定となります。金融商品取引法の規制については、別紙3の解説もご参照ください。
第 25 条 本組合は、総組合員の同意により、新たに組合員を加入させることができる。
2 新たに組合員となることを希望する者 (以下本項において「新規組合員希望者」という。) は、総組合員が決定した条件及び手続に従い、本組合に対し、出資に係る払込み又は給付を完了し、かつ第 37 条第1項に基づき総組合員の同意により当該新規組合員希望者が組合員になる旨本契約が変更されたときに、本組合の組合員たる地位を取得するものとする。
組合員の加入に際して、本契約を変更する場合には、総組合員が記名押印した書面による変更契約の締結が必要となる (第 37 条第1項) だけでなく、当該締結日から 2 週間以内に、本組合の事務所の所在地において、変更の登記をしなければならないこと (法第 58 条) に注意してください。
組合員の新規加入においては、新規加入者が担当する業務についても組合契約書に規定する
ことを加入の要件とすることも考えられます。有限責任事業組合においては各組合員が組合の業務すべてを執行する権利及び義務を負うのが原則であり (法第 13 条第1項)、例外的に業務執行の一部を分担する規定を置くことができる (同条第2項) ことから、仮に新規加入者が分担する業務について定めないまま組合に加入した場合には、新規組合員は、原則どおり組合のすべての業務を執行する権利及び義務を有することになるからです。なお、法第 12 条第1項但書に基づき、特定の組合員が担当する業務執行を決定できると組合契約で規定した場合には、当該組合員のみが、実際の業務執行権限を有することになるため、簡潔に、「本組合は、新規組合員希望者を組合員とする旨本契約を変更する場合、当該新規組合員の担当業務について定めなければならない」という条項を設けることが考えられます。
また、これらの変更事項の登記は、主たる事務所の所在地において 2 週間以内に行わなければ
ならず (法第 58 条)、これを怠ると 100 万円以下の過料を科される可能性がある (法第 75 条第
1号) ため、かかる登記を行う組合員も予め決めておくことが考えられます。
第 26 条 各組合員は、他の組合員全員が脱退につきやむを得ない事由が存在するものとして同意した場合を除き、本組合を脱退することができない。
2 前項の規定にかかわらず、組合員は、次に掲げる事由によって脱退するものとする。
(1) 当該組合員について、支払停止があったとき、支払不能の状態に陥ったとき、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始若しくは特別清算開始の申立てがあったとき又は手形交換所の取引停止処分を受けたとき。
(2) 解散
(3) 除名
(4) 総組合員間で本契約とは別途に合意し書面により定める場合
3 本条に基づく組合員の脱退日は、第1項に定める事由に基づく脱退については当該組合員の脱退につき他の組合員全員がやむを得ないとして同意した日又は他の組合員全員によって別途合意する日とし、第2項に定める事由に基づく脱退については当該脱退事由の発生日とする。
組合員はやむを得ない事由がなければ組合を脱退できません (法第 26 条) が、契約において別段の定めを設けることは可能です。しかし、この別段の定めにおいても、脱退要件を実質的に加重するものは公序良俗に反し無効となる可能性があります。また、任意脱退の場合、その意思表示は組合業務の執行ではないためすべての組合員に対して行われる必要がありますが、特定の組合員がかかる意思表示を受領するものと定めることは可能と思われるので、当該意思表示の受領者について決めておくことも考えられます。
なお、この第 26 条に基づき脱退する場合には、組合契約書の変更は不要 (法第5条第1項第
2括弧書) なため、総組合員が記名押印した書面による変更契約の締結 (本契約第 37 条第1項)は不要となります。
第 27 条 組合員の除名は、次に掲げる事由がある場合、他の組合員の一致によってすることができる。
(1) 理由の如何を問わず、本契約に定める組合員の義務を履行せず、かつ、相当期間を定めての催告をもってしてもなお履行しない場合。
(2) 正当な理由なく、本組合に対して、その業務を妨害する等重大な背信行為を行った場合。
(3) 他の組合員に重大な危害又は損害を及ぼした場合。
(4) 前各号のほか、当該組合員を除名する合理的かつ相当の事由があると判断された場合。
2 前項に従い組合員の除名がなされた場合、他の組合員は、直ちに除名した組合員に対し、その旨を通知するものとする。
組合員の除名は、組合員がその職務を怠ったときその他正当な事由があるときに限り、他の組合員の一致によってすることができます (法第 27 条第1項本文)。ただし、組合契約書において他の組合員の一致を要しない旨の定めをすることを妨げない (法第 27 条第1項但書) と規定されているため、本契約において、「他の組合員の一致」という要件を緩和することも可能です。
特に、業務執行の懈怠については、有限責任事業組合において厳格に要求されている共同事業性を否定するものであり、結果として当該組合が私法上及び税法上異なる事業体であると判断されるリスクをもたらすことになります。こうした事態を避けるためにも、上記のように除名の要件・手続を予め具体的に盛り込んでおくことや除名の要件を緩和することが考えられます。
第 28 条 組合員が他の会社と合併を行った場合、当該組合員が存続会社となる場合には、組合員たる地位を喪失しないものとする。その他の場合においては、他の組合員全員の書面による同意を得なければ、当該組合員は合併期日をもって組合員たる地位を喪失し、当該地位は存続会社又は当該合併による新設会社にも承継されないものとする。
2 組合員が会社分割を行った場合、会社分割において組合員たる地位を含む営業が分割の対象とならず、かつ、当該組合員が分割会社となる場合には、組合員たる地位を喪失しないものとする。組合員が、会社分割において組合員たる地位を含む営業を分割の対象とした場合、他の組合員全員の書面による同意を得なければ、当該組合員たる地位は、承継会社又は会社分割に係る新設会社に承継されず、当該組合員は分割期日をもって組合員たる地位を喪失し、当該地位は新設会社又は承継会社にも承継されないものとする。
本組合の存続期間は、日本国の著作権法により本映画の著作権が消滅するまでと規定している (本契約第7条) ため、本組合の存続期間中に組合員が M&A 等により変動する可能性は低くありません。そこで、この第 28 条により、M&A 等により組合員が変動した際に、組合員の地位を喪失する場合を限定しています。
第 29 条 第 26 条の規定に基づき脱退した組合員 (以下「脱退組合員」という。) 又は第 28 条の規定に基づき組合員たる地位を喪失した組合員 (以下「地位喪失組合員」といい、脱退組合員と地位喪失組合員を総称して「脱退組合員等」という。) は、その出資の種類を問わず、本条第2項の規定に従い、その組合持分の払戻しを受けることができる。
2 脱退組合員等が払戻しを受けることができる価額 (以下「持分払戻額」という。) は、脱退当時における脱退組合員等の持分金額とし、組合員は、総組合員の同意により定められた時期及び方法に従い、脱退組合員等に対して持分払戻額を支払うものとする。なお、かかる支払の時期及び方法の定めは、合理的なものでなければならない。
組合持分の払戻しについては、その種類を問わず、金銭で行うことができる (法第 56 条、民法第 681 条第2項) と定められています。これは、脱退組合員が現物出資をしてした場合に、その払戻しを行うことが事業運営に支障を来す可能性があるからです。なお、金銭による組合持分の払戻しであっても、事業の運営に支障を来す可能性も考えられることから、総組合員の同意により、組合持分の払戻しに期限の利益を設ける、組合持分の払戻しを分割にする等の規定を設けることも検討する必要があります。
第8章 (解散及び清算)
第 30 条 本組合は、次に掲げる事由によって解散する。
(1) 第2条に掲げる事業の成功又はその成功の不能
(2) 組合員が 1 法人になったこと。
(3) 組合員に内国法人 (国内に本店若しくは主たる事務所を有する法人をいう。以下同じ。) が 1 法人もいなくなったこと。
(4) 存続期間の満了
(5) 総組合員の書面による同意
2 前項の規定にかかわらず、同項第2号又は第3号に定める事由が生じた場合、当該事由が生じた日から2週間以内であって本組合の解散の登記をする日までに、第 25 条に基づ
き新たに組合員 (ただし、同項第3号に定める事由においては内国法人である組合員) が本組合に加入したときは、本組合は解散せず、存続する。
第 31 条 本組合が解散した場合、総組合員の過半数をもって組合員の中から本組合の清算人を
1名選任する。
2 清算人は、いつでも、総組合員の過半数をもって解任することができる。
3 法人が清算人である場合には、当該法人は、速やかにその職務執行者を1名選任し、その者の氏名及び住所を他の組合員全員に書面で通知するものとする。
第 32 条 清算人は、次に掲げる各号に関する職務を行い、これに必要な裁判上及び裁判外の一切の権限を有する。
(1) 本組合の現務の結了
(2) 本組合の債権の取立て及び本組合の債務の弁済
(3) 組合員への残余財産の分配
(4) その他前各号に掲げる職務を行うために必要な一切の行為
第 33 条 精算人は、本組合の債務の弁済が完了した後遅滞なく、本組合の残余財産を、組合持分の割合に応じ、各組合員に分配するものとする。
第 34 条 清算手続については、本契約の規定のほか、有限責任事業組合法の規定に従う。
第9章 (雑則)
第 35 条 本契約の締結は、本組合における業務に必要な場合として本契約に規定される場合又は本契約とは別に総組合員で合意し書面により定める場合を除き、他の組合員に対して、各組合員が保有する商標権 (出願中の権利を含む。)、著作権 (二次的著作物その他の派生物に係る権利を含む。)、意匠権 (出願中の権利を含む。)、実用新案権 (出願中の権利を含む。)、特許権 (出願中の権利を含む。)、及びこれらの権利に基づく使用権、実施権その他一切の権利、並びに技術上又は営業上のノウハウその他の情報 (これらを総称して第 15 条において「知的財産権等」という。) の使用を認めるものではない。
第 36 条 総組合員は、他の当事者より開示を受けた秘密情報を、第7条に定める本組合の存続期間中及びその後●●年間秘密に保持し、第三者に開示又は漏洩しないものとする。
2 前項に定める秘密情報とは、本組合に関して、開示をなす組合員 (以下「開示者」という。) が開示を受ける組合員 (以下「被開示者」という。) に対して、秘密である旨を明記した文書、図面、電磁的記録媒体等、有形な媒体により開示した開示者の技術上、営業上の一切の情報をいう。なお、口頭、電子メール、視覚的手段等、有形な媒体以外の媒体、手段により開示された情報については、開示の際に、開示者より被開示者に対し秘密である旨を伝達し、かつ、開示後 30 日以内に当該情報を書面化し、秘密である旨を明記して被開示者に提供することにより、秘密情報とみなされるものとする。ただし、被開示者が以下の各号の一に該当することを立証し得た情報は、秘密情報には含まれないものとする。
(1) 開示される以前に公知であった情報。
(2) 開示される以前に自らが既に所有していた情報。
(3) 開示された後、自らの責に帰し得ない事由により公知となった情報。
(4) 開示された後、その秘密情報によらず自らの開発により知得した情報。
(5) 開示された後、正当な権限を有する第三者から秘密保持の義務を負わず適法に知得した情報。
3 前各項にかかわらず、被開示者は、以下の場合は秘密情報等を第三者に開示できるものとする。
(1) 被開示者が、開示について事前に開示者の書面による承諾を取得した場合。
(2) 法令、規則、行政省庁の命令により開示の義務が課される場合 (ただし被開示者は、当該開示について開示者に事前に通知するよう最大限の努力をする。)。
(3) 被開示者との間で守秘義務を負う弁護士、公認会計士、税理士、コンサルタント等の外部専門家に開示する場合。
4 各組合員は、自己の役職員又は開示が許容された第三者に秘密情報等を使用させた場合、当該役職員又は第三者に本組合契約と同様の守秘義務を課すとともに、当該役職員 (退職又は退任後も含む。) 又は第三者が守秘義務に違反することのないように、必要な措置を講じなければならない。
第 37 条 本契約は、総組合員が記名押印した書面による変更契約の締結をもって、変更することができる。
2 前項に基づき本契約を変更した場合には、組合員は、変更の登記の申請その他必要な手続をとらなければならない。
第1項に基づき本契約を変更した場合に、変更の登記の申請が必要となる事項は、組合の事業、組合の名称、組合員の名称及び住所、組合契約の効力が発生する年月日、組合の存続期間、組合の事務所の所在場所並びに組合員の職務を行うべき者の氏名及び住所です。これらの事項について、本契約を変更する場合には、総組合員が記名押印した書面による変更契約の締結だけでなく、当該締結日から 2 週間以内に、組合の事務所の所在地において、変更の登記をしなければならないことに注意してください (法第 58 条)。
第 38 条 本契約及び本契約に関連する一切の事項は、日本法に準拠し、これに基づいて解釈される。
第 39 条 本契約に起因し、又は、本契約に関連して生じたすべての紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
第 40 条 本契約及び本契約とは別に総組合員間で合意する書面 (以下「本契約等」という。)に定めのない事項については、有限責任事業組合法、有限責任事業組合法施行令及び有限責任事業組合法施行規則 (以下「有限責任事業組合法等」という。) の規定に従うものとする。当該事項について、有限責任事業組合法等に規定されていない場合には、本契約等の趣旨に従って、組合員相互に誠意をもって協議の上、解決するものとする。
2 組合員は、本契約等に関連して他の組合員より同意を求められた場合、合理的な期間を超えて自己の意思表示を留保してはならず、かつ、不合理に同意を留保しないものとする。
本契約締結の証として、本書●通を作成し各組合員記名又は署名捺印のうえ、各組合員が各 1
通保有する。
20●●年●●月●●日
住所 《住所を記載》
組合員 《企業・団体名を記載》
《代表者役職・氏名を記載》
住所 《住所を記載》
組合員 《企業・団体名を記載》
《代表者役職・氏名を記載》
住所 《住所を記載》
組合員 《企業・団体名を記載》
《代表者役職・氏名を記載》
組合員 | 出資の目的 | 出資の目的の価額 |
《組合員A》 | 金銭●●●●円 | ●●●●円 |
《組合員B》 | 金銭●●●●円 | ●●●●円 |
《組合員C》 | 金銭●●●●円 | ●●●●円 |
組合員は、金銭その他の財産のみをもって出資の目的とすることができます (法第 11 条)。したがって、組合員は、動産や不動産、有価証券、知的財産権等については出資の目的とすることができますが、労務を出資の目的とすることはできないことに注意が必要です。
(1) 本映画の製作及びその企画並びにこれらに関連する契約の締結
(2) 本映画の宣伝・広告 (劇場において行われるものに限る。) 及びその企画並びにこれらに関連する契約の締結
(3) 本映画の配給権 (本映画を劇場用映画として複製し、頒布し、上映する権利をいう。)
の利用・販売及びその企画並びにこれらに関連する契約の締結
(4) 本映画の日本国内におけるテレビ放送権 (映画を地上波、BS、CS、CATV 又は移動受信用地上期間放送その他の放送媒体を利用して放送する権利をいう。以下同じ。) の利用・販売及びその企画並びにこれらに関連する契約の締結
(5) 本映画の日本国内における映像配信権 (映画をインターネット等の通信を利用して公衆送信 (自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。) する権利をいう。以下同じ。) の利用・販売及びその企画並びにこれらに関連する契約の締結
(6) 本映画の日本国籍の航空機内における上映権の利用・販売及びその企画並びにこれらに関連する契約の締結
(7) 本映画の日本国内におけるビデオグラム化権 (DVD、Blu-ray Disc 等の現存するメディア及び将来開発されるメディアに映画を複製し、頒布する権利をいう。以下同じ。)の利用・販売及びその企画並びにこれらに関連する契約の締結
(8) その他本組合の総務、事務及び経理並びにこれらに関連する契約の締結
本映画の製作に関する一般的な注意事項としては、① 制作会社並びに監督及び出演者等のモダン・オーサーとの間で映画参加契約を締結する等して映画の著作権が本組合に帰属すること (著作権法第 29 条第1項) を書面により明らかにすること、② 原作者及び脚本家等のクラシカル・オーサーとの間であらかじめ書面で具体的な二次利用事業を明らかにした二次利用許諾契約を締結すること、③ モダン・オーサー、クラシカル・オーサーを問わず、書面により著作者人格権不行使の合意を行うことといった、著作権等の権利処理を明確に行うことが挙げられます。
(1) 本映画の宣伝・広告 (劇場において行われるものを除く。) 及びその企画並びにこれらに関連する契約の締結
(1) 本映画の日本国外における配給権、テレビ放送権、映像配信権、ビデオグラム化権、外国国籍の航空機内上映権その他の利用権 (商品化権を除く。) の利用・販売及びその企画並びにこれらに関連する契約の締結
別紙2には、映画製作等に関する事業において通常想定される業務執行を適宜分担するように記載しており、当該業務分担は、製作委員会方式における窓口分担に相当しています。各組合員の業務執行の内容及びその分担については、組合員の構成に応じて、適宜変更してください。なお、組合員が、第三者との間で業務委託契約を締結して第三者に担当した業務を委託することについては、有限責任事業組合法の規制はありません。すなわち、組合員は、組合員自身で担当した業務を行うことも、第三者に担当した業務を委託することも可能となっています。
各組合員の業務執行の分担について、別紙2に記載しなかった業務執行を新たに追加する場合には、組合の常務を除き、総組合員の同意が必要となります (本契約第 12 条)。そのため、想定される業務執行について、その分担の合意がなされている場合には、できる限り別紙2に記載しておくことが望ましいと考えます。
また、金商法適用除外要件のひとつに、出資者のすべてがコンテンツ事業の全部又は一部に従事することが掲げられているため、すべての組合員が第2条に掲げる事業の全部又は一部に従事する必要があることに留意してください。金融庁「コンテンツ事業に関する Q&A」によれば、事業の実態を踏まえ個別に判断されることとなるものの、例えば以下のような場合が、事業の全部又は一部に従事すると考えられるとしています。
• 出資者が映画とのコラボレーション商品の販売やタイアップ CM の放送、映画フェアの開催をする場合
• 出資者がプロダクト・プレイスメント (自社製品を映画の中で目立つような形で取り上げてもらうことで自社の宣伝を行う手法をいう。) を行う場合
• 出資者が映画の前売券の販売を行う場合
• 海外の出資者が、海外における興行権、放映権、ビデオグラム化権をはじめとした広範にわたる利用権に係る事業 (例えば、これらの権利のライセンス付与など) を行う場合
• 出資している企業自身ではなく、その親会社若しくは子会社がコンテンツ事業に従事している場合
金融商品取引法の規制については、別紙3の解説もご参照ください。
組合員 | 出資の割合 | 損益分配の割合 |
《組合員A》 | ●●% | ●●% |
《組合員B》 | ●●% | ●●% |
《組合員C》 | ●●% | ●●% |
損益分配の割合の理由 | ||
適用開始の年月日 |
組合員の損益分配の割合は、総組合員の同意により別段の定めをした場合を除き、会計帳簿に記載された各組合員が履行した出資の価額に応じて定まります (法第 33 条)。逆に言うと、組合員の損益分配の割合は、総組合員の同意を条件に、出資の価額にかかわらず、自由に定めることができます。このことにより、映画製作等に関する事業を行う場合には、従来の製作委員会方式では行うことが困難であった、映画製作の貢献度に応じた損益分配が可能になります。
もっとも、総組合員の同意を組合契約書内で行う場合には、この別紙3のように、① 組合員の出資の割合、② 組合員の損益分配の割合及びその理由、③ 損益分配の割合の適用開始の年月日が組合契約の効力が発生する年月日と異なる場合には当該適用開始の年月日を記載する必要があります (規則第 36 条第3項)。さらに、組合員の損益分配の割合の理由は、組合員の出資の割合と異なる損益分配の割合を定める理由及び当該損益分配の割合の合理性を明らかにする事由を含むものでなければならない (規則第 36 条第 4 項) と定められています。
なお、組合員の損益分配について、製作委員会方式における幹事会社の幹事会社手数料に類似するスキームとする場合の例を以下に記載するので、参考にしてください。ただし、当該手数料に相当する金銭の支払いについては、本組合と組合員との間の業務委託契約に基づく報酬の支払いという形をとることもでき、その方が損益分配の形をとるよりも簡便となります (第 21 条の解説参照。)。
1 組合員の出資の割合
組合員 | 出資の割合 | 損益分配の割合 |
《組合員A》 | ●●% | ●●% |
《組合員B》 | ●●% | ●●% |
《組合員C》 | ●●% | ●●% |
2 組合員の損益分配の割合
前項の出資の割合にかかわらず、本組合の各事業年度における事業に関する利益又は損失は、以下のとおり各組合員に分配する。
(1) 当該事業年度末までの累計ベースで利益が存しない場合
出資の割合に応じてすべての損失を分配する。ただし、既に次号に従って分配された利益がある場合には、利益の配分と逆の順序で損失を分配する。
(2) 当該事業年度末までの累計ベースで利益が 0 円以上の場合
甲に●●%の利益を分配し、出資の割合に応じてその余のすべての利益を分配する。
3 組合員の損益分配の理由
(1) 組合員の出資の割合と異なる損益分配の割合を定める理由
甲は、本組合において主要な業務並びに総務、事務及び経理業務の執行を行うため、累計利益が 0 円以上の場合には、甲に利益を優先的に分配するものとした。
(2) 上記損益分配の割合の合理性を明らかにする事由
甲の貢献度に照らせば、このような損益分配には合理性がある。
金融商品取引法の規制の概要:
原則として、有限責任事業組合契約に基づく権利を有する者が出資した金銭を充てて行う事業から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利は、有価証券とみなされる (金商法第2条第2項第5号) ため、金商法の適用対象となります。しかし、有価証券とみなさなくても公益又は出資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定める権利に該当するときには、みなし有価証券とはなりません (同号ニ)。そして、金商法施行令及び定義府令によれば、法人その他の団体が他の法人その他の団体と共同して専らコンテンツ事業 (コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律法第
2条第3項に規定するコンテンツ事業) を行うことを約する契約に基づく権利である場合で、以下の要件を満たす場合には、上記政令で定める権利に該当する (金商法施行令第1条の3の
3第6号、内閣府令第7条第1項第3号) とされています。
• 出資者の全てが、上記契約に係るコンテンツ事業の全部又は一部に従事すること (同号イ)。(本契約においては第 13 条第1項及び別紙2により当該要件を満たす。)
• 出資者の全てが、当該コンテンツ事業に係る収益の配当又は財産の分配を受けることができる権利のほか、当該事業に従事した対価の支払いを受ける権利又は当該事業に係るコンテンツの利用に際し、自社の名称を表示し若しくは自社の事業の広告・宣伝をすることができる権利を有すること (同号ロ)。(本契約においては第 13 条第1項及び別紙2により当該要件を満たす。)
• 上記契約に基づく権利について、他の出資者に譲渡する場合及び他の出資者の全ての同意を得て出資者以外の者に譲渡する場合以外の譲渡が禁止されること (同号ハ)。(本契約においては第 24 条により当該要件を満たす。)