※管理者等によるモニタリングが過剰であると、コストの増加を招き、逆に VFM が減少してしまうことにも留意すべきである。
モニタリングを行う権利: 特に契約書等で明示されたもの以外でも、管理者等が必要と判断した場合にはモニタリングを行うことができる旨事業契約書に規定することが望ましい。ただし、選定事業者の費用に影響する事項(例えば破壊検査について選定事業者の費用負担で実施する等)はPFI事業契約で定めておくことが必要がある。
※管理者等によるモニタリングが過剰であると、コストの増加を招き、逆に VFM が減少してしまうことにも留意すべきである。
その他の留意点:
① 上述した仕組みを機能させるにあたり、管理者等、選定事業者、建設会社等の関係者が一同に介する場を設置することも考えられる。
② 建設段階、運営段階を問わず、モニタリングに必要となる費用の負担者については、明確に規定しておく必要がある。
③ 専門的な知識を有する第三者を活用することも考慮すべきである。
(3)適切な支払メカニズムの構築
1) サービス水準維持にためのインセンティブとしての実効性の確保
適切な支払メカニズムを構築するためには、事業目的等に従って重み付けを行うこと(場合によっては、施設整備費相当分の減額も含む)、各指標間の関係を整理することが必要である。
① 重み付け: ペナルティを考える際には、事業目的等に沿った重み付けを行い、管理者等の考える重要度が選定事業者に伝わり、機能するような支払いメカニズムとすることが必要である。
② 各指標間の関係: 一つに事由(違反)が複数の指標に関連する場合に二重に減額するのかなど各指標間の関係を明確にする必要がある。例えば、アベイラビリティ(施設を利用することができる状態に置かれていない場合アベイラビリティなしとされる)とパフォーマンス(施設を利用することができるが要求水準が満たされて場合で、アベイラビリティ違反に比べてペナルティは小さいのが一般である)という概念を用いる場合、同じ事項について二重に減額されることがないように、どのような場合にアベイラビリティに基づくのみがなされ、どのような場合にアベイラビリティとパフォーマンスの双方が減額されるのかを明確に規定しておくことが望ましい。
(例:エレベーターが利用できなくなった場合の「アベイラビリティ」に基づく減額が、周辺施
場合において、必要があると認められるときは、工事の施工部分を最小限度破壊して検査することができると規定されている。また、この場合の破壊検査に係る費用及び復旧にかかる費用は請負人が負担するものとされている。
設のパフォーマンスの低下を考慮した上で決定されているのであれば、周辺施設でパフォーマンスについての違反があっても減額の対象としない)。
③ 施設整備費部分の扱い: 要求水準を達成しない事象が起きたときのサービス対価の減額幅を検討するにあたっては、施設整備費部分も減額の対象となりえるような仕組み(いわゆるユニタリーペイメント)を導入するかどうかが問題となる。BTO については確定債権として減額の対象とはならないが46、BOT 方式については、サービス水準維持への強い動機付けをはかるため、ユニタリーペイメントについて積極的に導入をはかる必要がある。なお、この場合、事業の性格に応じ、必要な場合は減額する場合についても一定の限度に留める等の条件を付すことをあわせて検討する必要がある。
④ リカバリーポイント: いわゆるポイント制(要求水準未達に対して減額ポイントを付与し、一定の点数以上になったときに実際に減額する仕組み)を利用する場合は、要求水準に規定されたサービス水準を越えた場合にリカバリーポイントを付すことによって、より柔軟なサービスに対するインセンティブシステムを構築することも考えられる。英国 SoPC4 においても、減額ポイントと相殺するためにのみ使うことのできる「リカバリーポイント」を付与することは許容されている。さらに、事業の性質によっては、相殺のみならずサービス対価の増額につながるボーナスポイントを付与することも考えられる。
2) 利用量に基づく調整
利用者の増加等により大幅に選定事業者の費用が増加する場合には、原則として利用状況に応じてサービス対価の増加の仕組みとする。
具体的には、入場者数が増えることによる選定事業者のコスト増加をカバーできるレベルで、サービス対価の増額規定を設ける。この際、施設の収容能力に見合った上限金額を設定するとともに、利用者数の制限を認めるなど、選定事業者がとれないリスクを負うことのないような仕組みを設けることが必要である。このメカニズムが当初意図したとおりに機能するためには、利用量に応じたサービス対価の増減額の大きさについて、選定事業者のコスト構造の変化を踏まえた設計が必要である。そのためには、支払メカニズムの検討段階において、選定事業者のコスト構造について十分なシミュレーションを行っておく必要がある。
4.留意点
(1)SPC によるマネジメント
運営の比重が高い事業など、SPC の業務範囲がxxに及び、委託先が多岐にわたる場合等においては、
46 確定債権となる BTO の場合にも、選定事業者の適切な業務の履行のためのインセンティヴとして、損害賠償や瑕疵担保責任の規定等を活用することで、より強い動機付けを働かせることが可能となりうる。
各種運営業務を横断的に統括する機能が求められる。
※最近の我が国の病院PFIの場合、SPCの業務の一つとして「統括マネジメント業務」を位置づけ、マネジメント能力をモニタリングの対象にするという試みも行われている。
※英国では、SPC が各構成企業からは一種独立した立場から全業務を見渡した上でマネジメントをすることが求められている。このような選定事業者の組織管理能力をどのようにモニタリングの仕組みに組み込むかも重要な課題であり、英国では、このような業務について指標が設定されている他、病院P FIでは、KPI47も活用されている。また、英国においては、SPC にこのような運営業務を横断的に見ているファシリティー・ディレクターが置かれている。
(2)公共側の契約管理体制
契約管理を実効的に行う観点からは、管理者等においても、契約管理を継続的に行う体制(スタッフ、組織、マニュアルの作成等)を確保していく必要がある。
(3)モニタリングのフォーム
モニタリングの手段として例えば管理者等による日報の閲覧があるが、必ずしも管理者等のモニタリングにとって有用な形に整理されておらず、しかも膨大な量の情報が含まれるため、管理者等によるモニタリングの手段として実効性に疑問があるなど、モニタリングのための有効なフォームが作成されていない場合がある。モニタリングの際に作成される書類について、両者にとって効果的、効率的なモニタリングが行えるような形でレポートを作成するかについては、モニタリング委員会などで、効率的、効果的にモニタリングを行うフォームを作成していくことが考えられる。
(4)虚偽報告を防止する仕組み
虚偽報告への対応については、定期的検査及び抜き打ち検査、ヘルプデスク、顧客満足度調査等の複合的な手法を組み合わせることで防止することが必要である。虚偽が発見された場合には、それ自体をペナルティの対象とすべきである。
※ペナルティを考慮する際には、故意によるものと過失によるものにわけ、前者については特に厳しいペナルティを課すべきである。
※管理者等が行う各種検査においては、技術的なノウハウのある専門家を活用することも考えられる。
47KPI:Key Performance Indicator の略。英国では、パフォーマンス指標(各アウトプット仕様に対応するもの)と同様の意味で用いられる場合と、要求水準の各項目をみるのではなく、業務全体の「傾向」をみる指標という意味で用いられる場合がある。後者の場合、例えば苦情処理の状況やスタッフの定着率などが対象となる。英国病院 PFI では後者の意味での KPI が用いられている(ただし、2007 年に公表された標準要求水準では継続的改善指標(Continuous Improvement Indicators)と名称が変更になっている)。
定期的検査、
抜き打ち検査
モニタリング体制の
検査
追加モニタリング
(費用は民間負担)
<参考>英国の状況
発注者によるモニタリング
報告
評価
問題が発見された場合
民間事業者によるモニタリング
利用者からの情報
顧客満足度調査
日常的なモニタリング
(基本)
ヘルプデスク
追加モニタリング
(費用は民間負担)
モニタリング体制の検査
定期的検査、抜き打ち検査
日常的なモニタリング
(基本)
ヘルプデスク
顧客満足度調査
(1)モニタリングの実施者:
・ 日常のモニタリングはセルフモニタリングが基本
但し ①発注者による定期的検査及び抜き打ち検査、モニタリング体制の検査の実施
②利用者からの情報を収集する仕組みの構築(ヘルプデスク、顧客満足度調査)
③問題が発見された場合のモニタリング範囲拡大により、モニタリングの実効性を保っている。
※ An Introduction to Building Schools for the Future では、コスト削減のため殆どのモニタリングが「セルフモニタリング」であるが、モニタリングの成功に重要であるのは「ヘルプデスクシス テム」(利用者からの苦情等をxx的に受け付ける窓口)であるとされている。
(2)モニタリング費用:
・ セルフモニタリング活用による費用節約
・ モニタリングの実施者がそれぞれ負担する。ただし、受注者のパフォーマンスが一定の水準に満たない為に行う追加モニタリング又は監査により発注者に発生する負担は、受注者が負担する。
(3)モニタリング指標の在り方:
・ 単純なもの:「初期のプロジェクトにおけるパフォーマンス規定の多くは、複雑に構築し過ぎた結果効率が悪く、中には日常的手続きの機能性への配慮に欠けるものがあった。原則として、シンプル・イズ・ ベスト(簡素が一番)であり、支払メカニズムで目指すべきは『少ない対象を効果的に測る』ことである。」(SoPC4 7.3.1)
・ 性能(アウトプット)を測る:「インプット仕様からアウトプット仕様への移行を発注者が承認していな
い場合にも、不必要な複雑さが発生し得る。支払メカニズムはインプットではなくアウトプットを測る ことに集中すべきである。」(SoPC4 7.3.1)
(4)質のモニタリングの在り方:
7.9.2 プロジェクトによっては、スタッフの親切度又はケータリングの質など、客観的に計測することは困難であるが、サービス利用者にとっては重要なパフォーマンスの質的側面が関係する場合がある。概して、病院や学校等、複雑な状況下で提供されるサービスの質は、現実的にアベ イラビリティ(利用可能性)及びパフォーマンス基準などにすべてをまとめることはできない。
7.9.3 これを測定する最も簡単な手法は通常の顧客満足度調査を行い低い得点又は不合格点に対し減 額を適用する方法である。顧客満足度調査は、測定可能な明白な事実ではなく個人の感覚に基づくので、結果には幅があり操作されやすいため、金銭的補償の根拠とすることは難しいと良く言われる。しかし、このような調査はパフォーマンスを監視するのに有用な方法であり、減額が最高でもユニタリーチャージ全体に対し通常比較的小さい要素であるとは言え、様々な分野における数多くのプロジェクトでうまく利用されている。例としては、学校事業における校長の満足度が低かったための減額、住宅事業において利用者満足度調査で点数が低かったための減額、そして調査結果の点数が低かった際は受注者にパフォーマンス監査の実行と是正計画の立案を要求する等が含まれる。このようなシステムの長所は、入手したフィードバックが非常に利用価値の高いものであり、優れたサービス提供へのインセンティヴになるという点である。
・ 以下のように、SoPC4 では顧客満足度調査を行い、支払メカニズムに連動させる(但し通常は少額)こと が推奨されている。
(5)モニタリングの実施にあたっての留意点
・契約締結段階までに以下のことを決定
①発注者から民間事業者へ、モニタリング条件の提示
②民間事業者からセルフモニタリング方法の提案、合意
・契約締結後の発注者の実施内容
①モニタリングに係るマニュアル・ユーザーガイドの整備
②モニタリングのための研修の実施
③契約締結以前から当該PFI事業に関与した担当者の配置
④運営段階に入る前のモニタリングの試行
【モニタリング・支払メカニズムに関する実務上のポイント】
PFI事業では、要求水準を満たすサービスの履行を促す実効性のある仕組みを構築する必要がある。そのためのポイントは以下のとおり。
①要求水準、モニタリング、支払メカニズムを一体的に検討し、入札段階でモニタリングの基本的な計画を示す。
②管理者等にとっての重要度に応じて、支払メカニズムを構築する。
③運営の比重の高い事業等では、一定の調整期間を設けたり、モニタリング委員会等による認識のすり合わせを行うことが望ましい場合もある。
④モニタリング結果は公表するとともに、事業の性格に応じて第三者機関による評価を行うことも考えられる。
⑤建設モニタリングについても、選定事業者によるセルフモニタリングの明確化や、重要な点に
ついて管理者等が直接関与することで、質を確保することが必要である。
以上