q = θ 1e1 + θ 2e2 + ε
xx xx
<要 約>
本稿は,まず契約型マーケティングチャネルの中でもフランチャイズ・システムに焦点を合わせて,フランチャイズ契約に関する理論研究と実証研究を整理し再検討することによって,先行研究の抱える 2 つの問
題を明らかにする。第 1 に,先行研究において,同じ変数がロイヤルティ・レートの原因変数/結果変数として扱われてしまっている。第 2 に,フランチャイジーが契約相手 (フランチャイザー) を自己選択しているという視点を先行研究が欠いているために,推計された回帰パラメータはバイアスを抱えてしまっている。本稿は,次にプリンシパル-エージェント・モデルを展開し,事象のタイミングと自己選択という観点から,先行研究の抱える 2 つの問題を解消するための方途を提示する。最終的に,本稿は,自己選択を考慮に入れることによって,フランチャイザーがフランチャイジーをコーディネートし持続的な競争優位を獲得するためには,適切な契約を設計しフランチャイジーにインセンティブを与えるだけではなく,適切なフランチャイジーと契約を結ぶ必要があるということを示唆する。
<キーワード>
フランチャイズ契約 プリンシパル-エージェント・モデル 事象のタイミング 自己選択
1. はじめに
xx,マーケティング研究者は,xxxxxxxxがいかにしてチャネルをコーディネートするのか,あるいは,いかにしてチャネルを効率的に管理するのかという問題を検討してきた (e.g., Xxxxxxx and Xxxxxx, 1983; Xxxxxx and Xxxxx, 2004)。この問題は,実に様々なパースペクティブ から,多くの研究者によって取り組まれてきた (cf., Xxxxxxxxx, Dant and Grewal, 2007)。そのなかで,本稿は,明示的契約を用いて,チャネルメンバーをコーディネートしている契約型マーケティングチャネルに焦点を合わせる。契約型マーケティングチャネルには,ボランタリーチェーンやフランチャイズチェーンなどがある。なかでもフランチャイズ・システムは,我が国の小売業やサービス業において広く普及している。その優位性は低費用かつ迅速に多店舗展開を行うことができる点にある。企業は,フランチャイズ・システムを導入して多店舗展開を行うことによって,資金や人的資源を低費用で調達することができるため (Caves and Murphy, 1976),十分な資本を有していない場合であっても,事業を開始することができるし,より迅速に市場を拡大することができる (Thompson, 1971)。Holmstrom (1999) は,フランチャイズ・システムの迅速に市場を拡大できる点を評価して,「フランチャイジングは,今世紀 (20 世紀) 最大のサクセスストーリーであった」(p.416,括弧内本論著者) と述べている。そうしたフランチャイズ・システムの成功を可能に
した 1 つの要素は契約である。
ここでフランチャイズ契約とは,「特定の期間において,一方の企業 (フランチャイザー) が他方の企業 (フランチャイジー) にフランチャイザーの製品を販売する権利,あるいは,その商標やビジネスフォーマットの使用権を提供して,その見返りに,フランチャイジーがフランチャイザーに金銭を支払うという,法的に独立した 2 つの企業間の契約的合意」と定義される (Xxxxx and Xxxxxxxxxx, 2005 pp.3-4)。ただし,金銭的支払とは,フランチャイジーがフランチャイズに加盟する際に支払う「加盟金」と,フランチャイジーの売上高や利益に応じて継続的に支払われる「ロイヤルティ」を指す。
先行研究は,契約理論,とりわけエージェンシー理論を援用して,フランチャイザーをプリン シパル,フランチャイジーをエージェントとみなして,フォーマルモデルを展開することによっ て,フランチャイズ契約の 2 つの機能,すなわちチャネルメンバー (フランチャイザーとフラン チャイジー) に努力のインセンティブを提供するという「インセンティブ装置」およびチャネル メンバーの間で効率的にリスクを分担し合うという「リスクシェアリング装置」としての機能を 強調してきた (Xxxxxxxxx and Winter, 1985; Lal, 1990)。理論研究者たちは,フォーマルモデルを展 開して,前者のインセンティブ装置に関連して,「フランチャイザーの努力の重要性が大きいほど,ロイヤルティ・レートが高い」という仮説,および「フランチャイジーの努力の重要性が大きい ほど,ロイヤルティ・レートが低い」という仮説を導出し,後者のリスクシェアリング装置に関 連して,「不確実性が大きいほど,ロイヤルティ・レートが高い」という仮説を導出してきた。
こうした理論研究者の研究成果を受けて,実証研究者たちは,二次データを用いて,上記の 3 つの仮説をテストしてきた (e.g., Xxxxxxxxxx, 1992; Sen, 1993; Xxxxxxx and Lal, 1995; Xxxxxxx, 2005)。しかし,既存の実証研究は,2 つの問題を抱えている。第 1 の問題は,先行研究において,同じ 変数がロイヤルティの原因変数/結果変数として扱われてしまっていることである。一方の研究 者 (Xxxxxxxxxx, 1992; Sen, 1993; Xxxxxxx, 2005) が「フランチャイザーの努力の重要性」によって
「ロイヤルティ」が規定されると主張しているのに対して,他方の研究者 (Xxxxxxx and Lal, 1995)は「ロイヤルティ」によって「フランチャイザーの努力量」が規定されると主張している。彼らは,異なる因果関係を検討しているにもかかわらず,「フランチャイザーの努力の重要性」と「フランチャイザーの努力量」の代理変数として「店舗サポート」や「店舗数」などの変数を使用してしまっている
第 2 の問題は,フランチャイジーが契約相手 (フランチャイザー) を自己選択しているという視点を欠いているために,推計された回帰パラメータがバイアスを抱えてしまっていることである。Xxxxxxxxx and Botticini (2002) は,そうしたxxxxが自己選択の問題と構成概念を完全には測定できないという問題に起因していると主張し,回帰パラメータがバイアスを抱えてしまう問題を「内生性マッチング」と呼称した。彼らは,中世イタリアの小作農契約のデータを用いて,二段階最小二乗 (TSLS) 推計を行い,この問題を解消している。本論著者の管見の及ぶ限り,フランチャイズ契約の既存研究において,上記の 2 つの問題に言及した研究は存在していない。構成概念と一致していない代理変数を用いた実証分析やバイアスを抱えた実証分析の知見はミスリ
ードをもたらす恐れがある。
かくして,ここにフランチャイズ契約の理論研究と実証研究を整理し再検討する余地が見出されるだろう。本稿は,2 つの問題を明確化するために,理論研究者が開発したフォーマルモデルを紹介することから始める。なぜなら,そうした理論モデルを検討することによって,既存の実証研究の抱える問題が明らかになるからである。最終的に,本稿は,フランチャイズ契約に関するプリンシパル-エージェント・モデルを経験的にテストするための方途を提示する。本稿は,フランチャイズ契約の理論研究と実証研究を架橋する試みとして,位置付けられよう。
2. フランチャイズ契約のプリンシパル-エージェント・モデル
本節では,プリンシパル-エージェント・モデル (e.g., Lal, 1990; Xxxxxxxxxx and Xxxxx, 1996; Xxxxxxxx, 2002) に基づいて,フランチャイズ契約を定式化する。まず,フランチャイジーの生産関数を,
q = θ 1e1 + θ 2e2 + ε
とする。ここで q は成果 (たとえば,売上), θi はプレイヤーi の努力の重要性, ei はプレイヤーiの努力量, ε は N ~ (0,σ 2 ) の攪乱項である。また, i = 1 であればフランチャイザーで, i = 2 であればフランチャイジーである。この生産関数は,フランチャイジーの成果 q が二者の努力に依存するものの,攪乱項 ε (分散σ 2 の不確実性) が存在しているため,二者が高水準の努力を投入したとしても,低い成果に帰着することがあるということを意味している。さらに,プレイヤーiはプライヤーj の努力量 ej (i ≠ j) を観察できないと仮定する。すなわち,情報の非対称性が存在し
ていると仮定される。この仮定は,プレイヤーi にとって,成果 q は観察できるが,不確実性σ 2 が存在しているため,q から ej を推測できないということを示唆している。
次に,フランチャイザーとフランチャイジーの費用関数を
1
C1 = 0.5e 2
2
C 2 = 0.5e 2
とする。さらに,フランチャイザーは,フランチャイジーに対して,線形契約{R, F} を提示すると想定する。R ( 0 ≤ R < 1 ) はロイヤルティ・レート,F は加盟金である。すると,各プレイヤーの利得関数は,
1
1
Π = Rq − 0.5e2 + F
2
2
Π = (1 − R)q − 0.5e2 − F
となる。ここでフランチャイザーがリスク中立的で,フランチャイジーがリスク回避的であると仮定すると,リスク回避度パラメータ ρ (> 0) を持つフランチャイジーの確実性同値 CE は,
CE = E[Π2 ] − 0.5ρVar[Π2]
となる。ここで 0.5ρVar[Π2] はリスクプレミアムである。フランチャイザーは,二者がそれぞれ自分の利得を最大化する努力量 ei を選択するという条件,すなわちインセンティブ両立性制約 (IC(1) と IC(2)),および,フランチャイジーが契約を受諾するのは確実性同値 CE が留保効用 kと加盟金 F の和よりも大きい場合であるという条件,すなわち参加制約 (PC) のもとで,総確実性同値を最大化するロイヤルティ・レート R をフランチャイジーに提示する。ただし,フランチャイザーは交渉の余地のない (take it or leave it) 契約を提示すると仮定される。以上より,最適ロイヤルティ・レート R* を導出するには,以下の制約付き最大化問題を解けばよい。
maxR E[Π1] + CE = E[Π1] + E[Π2] − 0.5ρVar[Π2]
s.t.
1
e
e* = arg max
1
2
e
e* = arg max
2
CE ≥ k + F
E[Π1]
CE
IC(1)
IC(2)
PC
R について,最適化問題を解くと,
R* = (θ 2 + ρσ 2 ) (θ 2 + θ 2 + ρσ 2 )
1 1 2
が得られ,さらに R* について比較xxを行うと,
∂R* ∂θ = 2θ θ 2 (θ 2 + θ 2 + ρσ 2 ) 2 > 0
1 1 2 1 2
∂R* ∂θ = − 2θ (θ 2 + ρσ 2 ) (θ 2 + θ 2 + ρσ 2 ) 2 < 0
2 2 2 1 2
∂R*
∂σ 2 = ρσ 2
(θ 2 + θ 2 + ρσ 2 ) 2 > 0
1 2
が得られる。以上より,次の 3 つの仮説が導出される。
仮説 1: フランチャイザーの努力の重要性θ 1 が大きいほど,ロイヤルティ・レート R* が高い。仮説 2: フランチャイジーの努力の重要性θ 2 が大きいほど,ロイヤルティ・レート R* が低い。仮説 3: 不確実性σ 2 が大きいほど,ロイヤルティ・レート R* が高い。
この 3 つの仮説は,2 つのバランス問題を解決するためにロイヤルティ・レート R が設定され
るということを示唆している。第 1 に,フランチャイザーとxxxxxxxxの努力のバランス問題である (Lal, 1990)。フランチャイズ契約は利得分配契約であるため (Xxxxxxxxx and Winter, 1985),一方のプレイヤーの利得の増加は他方のプレイヤーの利得の減少を意味している。それゆえ,仮説 1 と 2 は,フランチャイザーとxxxxxxxxの相対的な努力の重要性によって,x
xxxxx・xxxが決定することを示唆している。第 2 に,フランチャイジーの努力のインセンティブとリスク負担のバランス問題である (Xxxxxxxxxx, 1992)。フランチャイジーに強力なインセンティブを与えることは,彼らに大きなリスクを負担させることを強いてしまうため,不確実性が大きい場合,リスク回避的なフランチャイジーではなく,リスク中立的なフランチャイザーがリスクを負担した方が効率的である。しかし,フランチャイザーは,高いロイヤルティ・レートを設定してしまうと,xxxxxxxxの投資/努力のインセンティブを引き出すことができなくなってしまう。それゆえ,仮説 2 と 3 は, フランチャイジーに提供するインセンティブとリスクのトレードオフを勘案して,ロイヤルティ・レートが決定するということを示唆している。適切に記述されたロイヤルティ・レート R は,二者を上手く動機付けることができ,効率的に リスクを分担することができる。しかし,加盟金 F は参加制約として機能するため,インセンティブ装置とリスクシェアリング装置としては機能しないと考えられる。x・x (2008) もまた,加盟金はロイヤルティの事前徴収というよりも,むしろ謝礼金もしくは入会金の意味合いが強いと指摘している。また,契約を締結する際に支払われる加盟金は,フランチャイジーにとってサンクコストであるため,契約後の意思決定,すなわち努力量 ei(i = 1,2) の選択に影響を与えないと考えられる。したがって,以下では,加盟金 F を考慮せず,ロイヤルティ・レートのみに焦点を
合わせる。
3. フランチャイズ契約の実証研究とその問題点
前節で導出された 3 つの仮説は,Xxxxxxxxxx (1992) を始めとして,多くの研究者によって,アメリカ (Xxxxxxxxxx, 1992; Sen, 1993),フランス (Xxxxxx, Xxxxxxx and Xxxxxxxx, 2003),スペイン (Xxzquez, 2005),日本 (小本, 2000; Xxxxxxxx and Yamashita, 2010, 2012) などの様々な地域で経験的にテストされてきた。そうした研究の中には,資産特殊性などの概念を取り入れた研究 (Xxxxxx and Xxxxx, 1997),契約法の影響を考慮した研究 (Brickley, 2002),パネルデータを使用して時系列的影響を考慮した研究 (Xxxxxxxxxx and Show, 1999) などがある。先行研究において,3つの仮説は様々な地域やデータでテストされ,モデルの拡張も行われたものの,基本的には前節で展開したモデルがベースになっている。本節では,事象のタイミングと自己選択という観点から,前節で展開したプリンシパル-エージェント・モデルを再検討し,先行研究の抱える 2 つの問題を解消するための方途を提示する。
(1) 問題 1: 事象のタイミング
多くの研究者は,前節で導出した 2 つの仮説,すなわち「フランチャイザーの努力の重要性θ 1
が大きいほど,ロイヤルティ・レート R* が高い」および「フランチャイジーの努力の重要性θ 2 が大きいほど,ロイヤルティ・レート R* が低い」という仮説を経験的にテストしてきたが (e.g., Xxxxxxxxxx, 1992; Sen, 1993; Vázquez 2005),xxすると逆の因果関係を検討している研究がある。 Xxxxxxx and Lal (1995) は,プリンシパル-エージェント・モデルにおいて重要な点は,フランチャイザーとフランチャイジーの意思決定の順番にあると主張して,「ロイヤルティ・レート R が高いほど,フランチャイザーの努力量 e1 が大きくなる」という仮説および「ロイヤルティ・レート R が高いほど,フランチャイジーの努力量 e2 が小さくなる」という仮説を設定している。Xxxxxxx (2005) も指摘しているように,プリンシパル-エージェント・モデルには展開型ゲームの特徴がある。そうしたゲームは,前節で紹介した通り,ゲームの最終段階から遡ってゲームを解くという後方帰納法を使用して,部分ゲーム完全均衡を求める。前節で展開したモデルにおける事象のタイミングは以下の通りである (cf., Xxxxxxx, 2005)。
i
(1) フランチャイザーとxxxxxxxxが努力の重要性θ (i = 1,2) と不確実性σ 2 を観察する。
(2) 二者が契約{R, F} を結ぶ。
(3) 二者が互いに観察できない努力量 ei(i = 1,2) をそれぞれ選択する。
(4) 二者にコントロールできない事象 ε = N ~ (0,σ 2 ) が起こる。
(5) フランチャイジーが成果 q を生み出す。
(6) 二者は契約{R} に基づいて利得Πi(i = 1,2) を得る。
上記の事象のタイミングを考慮して,モデル内の主要な構成概念間の関係を整理すると,図表
1 の通りになる。
Xxxxxxxxxx (1992),Sen (1993), および Vázquez (2005) は,図表 1 のθi (i = 1,2) と R の関係を, Xxxxxxx and Lal (1995) は,図表 1 の R と ei(i = 1,2) の関係をそれぞれ検討している。しかし,彼らは,フランチャイザーの努力の重要性θ1 とフランチャイザーの努力量 e1 に対して,同じ代理変数を設定してしまっている。たとえば,前者の Xxxxxxxxxx (1992),Sen (1993), および Vázquez (2005)が,フランチャイザーの努力の重要性θ1 の代理変数として,「店舗サポートダミー」や「総店舗数」を設定しているのに対して,後者の Xxxxxxx and Lal (1995) は,フランチャイザーの努力量 e1の代理変数として,「店舗サポートの数」や「フランチャイズ店舗数」を設定してしまっている。この問題は,実証研究者が構成概念間の関係のみに着目して,限られたデータセットの中からそれらの構成概念と近似する代理変数を選択していたために生じていると考えられる。
因果関係の推論には時間的順序の考慮が重要である (xx, 2006; Rindfleisch, Xxxxxx, Xxxxxxx and Xxxxxxx, 2008)。すなわち,因果関係を明示する上で,原因が結果よりも先に生じることを考慮するのは重要である。したがって,単にある変数が構成概念に近しいという理由だけで,代理
図表 1 プリンシパル―エージェント・モデルにおける構成概念間の関係
+
-
+
不確実性
σ 2
2
θ
xxxxxxxx
の努力の重要性
1
θ
フランチャイザー
の努力の重要性
ロイヤルティ・レート
R
フランチャイザーの努力量
e1
+ +
+
フランチャイジーの努力量
e2
成果
q
-
変数を設定することには問題があろう。因果関係の時間的順序を考慮して,その代理変数がロイヤルティ・レートの原因変数か結果変数かを見極める必要があるだろう。
第 1 に,「店舗サポートダミー」と「店舗サポートの数」は,契約を結んで,ロイヤルティ・レートが決定した後でも,変化しない変数である。このことは,フランチャイザーが「店舗サポート」を行うかどうかは,ロイヤルティ・レートに先んじて決定されるか,あるいは同時に決定されるかのいずれかであることを含意している。したがって,「店舗サポートダミー」と「店舗サポートの数」は, θ1 の代理変数として解釈するほうが合理的であろう。
1
第 2 に,「総店舗数」と「フランチャイズ店舗数」は,フランチャイザーとフランチャイジーが契約を結んで,ロイヤルティ・レートが決定した後でも,増減しうる変数である。仮に「総店舗数」と「フランチャイズ店舗数」をθ1 の代理変数と解釈した場合,フランチャイザーが店舗数を増大すると,その都度, R* が変化してしまうことになる。逆に,それらの変数を e の代理変数と解釈した場合,フランチャイザーは,高いロイヤルティ・レートを設定した結果,店舗数を増大する投資を行うように動機付けられたことになるだろう。したがって,「総店舗数」や「フランチャイズ店舗数」は, e1 の代理変数として解釈するほうが合理的であろう。
(2) 問題 2: 自己選択
フランチャイズ契約の既存研究において,前節で導出した仮説 3,すなわち「不確実性σ 2 が大きいほど,ロイヤルティ・レート R* が低い」という仮説は,経験的にほとんど支持されていない (cf., Xxxxxxxxxxx, 2002)。このことは,xxxxxxxxが契約相手 (フランチャイザー) を自己選択しているという視点を欠いているために生じていると考えられる。一般的に,プリンシパル-エージェント・モデルの分析単位は,プリンシパルとエージェントのダイアド関係である。しかし,実際のフランチャイズ契約においては,1 人のフランチャイザーが複数人のフランチャイジ
ーと契約を結んでいる。このように 1 人のプリンシパルに対して複数人のエージェントが存在するという状況を検討する際には,平均的なエージェントが想定される (Xxxxxxxxxx, 1992; Lo, Xxxxx and Xxxxxxxxxx, 2011)。こうしたアプローチは,フランチャイザーが個々のフランチャイジーに対してカスタマイズ契約を書き下す費用が高く付くという理由から,正当化されている(Xxxxxxxxxx, 1992)。
しかし,実証分析の段階では,こうした想定が弊害になることがある。Xxxxxxxxx and Botticini (2002) は,異質的なプリンシパルとエージェントのプールを考慮すると,エージェンシー理論の一般的な含意と帰結が異なってしまうと主張している。Xxxxxxxxx and Xxxxxxxxx (2002) の議論に基づいて異なるタイプのフランチャイザーとフランチャイジーが存在しているケースについて検討
する。ロイヤルティ・レートが高い RH 型の契約を提示するフランチャイザーと低い RL 型の契約を提示するフランチャイザーが存在しており,なおかつ,リスク回避度の高い ρH 型のフランチャイジーとリスク回避度の低い ρL 型のフランチャイジーが存在しているとしよう ( 0 < ρL < ρH )。なお単純化のために,フランチャイザーとフランチャイジーは 2 人ずつしか存在していないと仮定する。
H
L
ここで,「不確実性σ 2 が大きいほど,ロイヤルティ・レート R* が低い」という仮説 3 より,ロイヤルティ・レートの高い RH 型の契約は,不確実性が高いσ 2 型のタスク (事業) と結び付けられており,ロイヤルティ・レートの低い RL 型の契約は,不確実性が低いσ 2 型のタスク (事業) と
結び付けられているだろう ( σ 2 < σ 2 )。このとき,リスク回避度の高い ρH 型のフランチャイジー
L H
L
H
は,リスク (利得Π2 の分散) を嫌うため,リスクの多くをフランチャイザーが負担するロイヤルティ・レートの高い RH 型の契約を選好するとともに不確実性が低いσ 2 型のタスク (事業) を選好するであろう。逆に,リスク回避度の低い ρL 型のフランチャイジーは,リスク (利得Π2 の分散) に幾分か寛容であるため,リスクの多くを自分が負担するロイヤルティ・レートの低い RL 型の契約を提示するフランチャイザーを選好するとともに不確実性が高い σ 2 型のタスク (事業)
を選好するであろう。
H
L
H
L
このように自己選択を踏まえると,フランチャイザーが提示する契約は,「高不確実性σ 2 -高ロイヤルティ・レート RH 型の契約」か,「低不確実性σ 2 -低ロイヤルティ・レート RL 型の契約」かのいずれかであるにもかかわらず,フランチャイザーが選好する契約は,「高不確実性σ 2 -低ロイヤルティ・レート RL 型の契約」か,「低不確実性σ 2 -高ロイヤルティ・レート RH 型の契約」かのいずれかになってしまい,仮説 3 の帰結と矛盾してしまう。先行研究は,「フランチャイジーのリスク回避度 ρ が大きいほど,ロイヤルティ・レート R* が高い」という関係が存在しているにもかかわらず,リスク回避度の影響を考慮しなかったため,不確実性の効果を正確に推計できていなかったのである。このような自己選択がもたらすバイアスを図示すると,図表 2 の通りになる。同図において示される通り,仮説が真であるとすれば真の回帰直線は右上がりになるだろう。しかし,リスク回避度による自己選択が存在しているために,内生性が生じてしまい,実際に推計される回帰直線は右下がり (あるいは,フラット) になってしまうという現象が生じている可能性がある。
図表 2 自己選択がもたらすバイアス
ロイヤルティ・レート R
仮説 3 の真の回帰直線
リスク回避度の高い
ρH 型フランチャイジーが選ぶ組み合わせ
実際に推計される回帰直線
リスク回避度の高い
ρL 型フランチャイジーが選ぶ組み合わせ
不確実性σ 2
Lo, Xxxxx and Xxxxxxxxxx (2011) は,単純にリスク回避度 ρ を回帰式に投入しさえすれば,こうしたバイアスをコントロールすることができると主張し,米国の産業財メーカーのセールスフォースのデータを用いて,最小二乗 (OLS) 推計を行ったものの,リスクシェアリングの効果を見出すことはできなかった。Xxxxxxxxx and Botticini (2002) によれば,単にリスク回避度 ρ を回帰式に投入しても, ρ の真の値を測定できない限り,この問題は解決されない。この問題について, Xxxxxxxxx and Xxxxxxxxx (2002) は次のようなメカニズムでxxxxが生じると説明している。
まず,如何なるロイヤルティ・レートが設定されているのかを説明する契約選択方程式
(contract choice equation) を
R = b0 + b1 P + b2 A + μ1
とする。R は「ロイヤルティ・レート」,P は「フランチャイザーの努力の重要性」,「フランチャイジーの努力の重要性」,「不確実性」などのフランチャイザーのタスクの特徴,A はリスク回避度などのフランチャイジーの特徴,bi (i = 0,1,2) は回帰パラメータ, μ1 は誤差項である。Xx, Xxxxx and Xxxxxxxxxx (2011) は,A を説明変数に組み込まなかったために,P の効果を過剰/過少に推計
してしまっていたと指摘して,単に A を契約選択方程式に組み込むことを提案する。しかし,彼らの方法ではバイアスを完全に除去することはできない。
Ackerberg and Botticini (2002) は,ほとんどの構成概念は,まったく観察できないか,部分的にしか観察できないか,あるいは誤差を伴った形でしか観察できないと指摘して,A が誤差項 (観
察されない要因)
μ 2 を伴う形で代理変数 X によって測定されるとすれば ( A = c0 X + μ 2 ),回帰パ
ラメータは依然としてバイアスを抱えることになると主張する。
次に, フランチャイジーによるフランチャイザーの選択を説明する選択方程式 (selection equation) を,
P = c1 + c2 A + μ3
とする。ci (i = 1,2) は回帰パラメータで, μ3 は誤差項 (選択誤差) である。このとき,観察されない要因 μ2 は,A を介して P と相関してしまい,結果として,契約選択方程式における誤差項 μ1 と説明変数 P が相関してしまう。このように構成概念の一部しか観察できず,なおかつ,あるタイ
プのエージェントが特定のタイプのプリンシパルを選択している場合,内生性が生じてしまい,推計された回帰パラメータはバイアスを抱えることになる。Xxxxxxxxx and Botticini (2002) は,このことを「内生性マッチング」と呼称した。彼らは,中世イタリアの小作農契約のデータを用いて,TSLS 推計を行って,この問題を解消した。ここで必要とされるのは,「フランチャイザーの努力の重要性」,「フランチャイジーの努力の重要性」,「不確実性」などのフランチャイザーのタスクの特徴と相関するが,ロイヤルティ・レートとは相関しない操作変数 z である。操作変数を用いて,次の構造方程式を推計することによって,「内生性マッチング」を解消することができるだろう。
R = b0 + b1 P + b2 A + μ1
P = c1 + c2 A + c2 z + μ3
今後は,この「内生性マッチング」を解消するために,この構造方程式を同時推計する必要があるだろう。
4. 結論
(1) 本稿の知見と貢献
本稿は,フランチャイズ契約の理論研究と実証研究を俯瞰し,先行研究が抱える問題を明らかにしてきた。具体的には,プリンシパル-エージェント・モデルを展開して,事象のタイミングと自己選択という観点から,先行研究の抱える 2 つの問題を解消するための方途を提示したばかりか,実証分析を行う際の注意点を提示した。契約理論の実証研究に関するサーベイ論文において,Xxxxxxxxx and Xxxxxxx (2003) は冒頭で「データを集める前に仮説を立てるのは間違いである」というxxxxxx・xxxxの言葉を引用して,「(我々研究者がホームズのような) 極端な方法論的見方を完全に共有することはないとしても,理論と実在の間の相互作用があらゆる科学的アプローチの中核に位置しているということはほとんど疑いようがないだろう」(p.115,括弧内本論著者) と述べている。彼らは「データから仮説を構築せよ」と述べているわけではない。彼
らは「仮説をテストする際には,構成概念と変数の関係を慎重に検討し,変数の発生メカニズムを検討せよ」というメッセージを実証研究者に伝えようとしているのである。まさにこのメッセージは,本稿が指摘した先行研究の 2 つの問題と大きく関連している。一般的に,実証研究者は,自分の依拠する理論を構成する概念に近しい変数を限られたデータベースの中から選択して,実証分析を行っている。実証研究者は,単に構成概念の定義や理論モデルから導出された仮説のみに注意を向けるだけでは,本稿で指摘した 2 つの問題を抱えてしまうかもしれない。そうした問題を回避するためには,その仮説が導出された仮定やプロセスに注目する必要があるだろう。
以上の知見は,フランチャイズ研究者のみに留まらず,すべての実証研究者にとって有用であろう。研究者が実証分析を行う際には,単に構成概念の定義や意味を検討するだけでは不十分であるかもしれない。その仮説が導出された仮定やプロセスに注目し,各構成概念間の関係および構成概念と変数の関係を理解することによって,より正確な知見を見出すことができるだろう。また本稿は,単に先行研究の問題点を指摘しただけでなく,2 つの点でフランチャイズ研究を 前進させている。第 1 に,フランチャイズ契約の研究において,xxxxxxxxが個々のフランチャイジーに合わせたカスタマイズ契約を設計していないことを明示したリサーチデザインが提示されていることに対して,新たな説明の可能性を示している点である。先行研究は,個々のフランチャイジーと交渉し契約を設計する費用が大きすぎるため,フランチャイザーが標準化された契約を提示すると主張してきた (Xxxxxxxxxx, 1992; Xxxxxx and Xxxxx, 2004)。しかし,本稿のように自己選択を考慮に入れると,フランチャイザーが自社に適したフランチャイジーを選別するために,標準化された契約を提示しているという説明が可能である。本稿は,標準化された契約の提示には,単なる費用節約という消極的な理由ではなく,より適したフランチャイジーを選別
するという積極的な理由があることを見出している。
第 2 に,適切なフランチャイジーを選別するというフランチャイズ契約の選別装置としての見方を提示している点である。これまでフランチャイズ研究は,xxxxxxによって,プレイヤーの投資/努力のインセンティブが増大して,チャネルの利潤が高まるという,インセンティブ効果を過剰評価しているように思われる。選別効果は,2000 年以降,労働経済学の分野で広く議論されてきた (e.g., Xxxxxx, 2000; Xxxxxx and Xxxx, 2011)。Lazear (2000) は,ある製造業者が成果給を導入した結果,工場労働者の生産性が 36%増大したという事実を 2 つの効果によるものであると主張している。彼は,生産性の増大を,成果給によって努力のインセンティブを引き出すことに成功したということに加えて,そもそも生産性の高い労働者がそのジョブを選択した結果であるということを見出している。また,Xxxxxx and Xxxx (2011) は,「インセンティブ・スキーマを提供することの合理性は,(中略) プリンシパルとエージェントの利害を調整することにある。この見方は,労働者の自己選択の重要性を過少評価してしまっている」(p.556) と述べている。こうした労働経済学での議論を踏まえると,フランチャイズ研究者が選別効果を考慮してこなかったことは,問題視されるべきであろう。今後,どのようなフランチャイジーとフランチャイザーが契約を結んでいるのかを表す自己選択方程式を検討することによって,選別効果を識別することが重要になるだろう。
さらに言えば,先行研究は,フランチャイザーが適切な契約を設計することによって,フランチャイジーを管理することができると主張してきた。しかし,選別効果を考慮に入れることによって,チャネルリーダーたるフランチャイザーがより効率的にチャネルをコーディネートするためには,フランチャイザーが適切な契約を設計するだけでは十分ではなく,そもそも適切なフランチャイジーを選別することが重要であるということが示唆される。フランチャイザーは,持続的な競争優位を獲得するためには,適切な契約を設計して,フランチャイジーにインセンティブを与えるだけではなく,適切なフランチャイジーと契約を結ぶ必要があるだろう。
(2) 本稿の限界と今後の課題
本稿は,幾つかの限界を抱えている。第 1 に,本稿は,加盟金をフランチャイジーの参加制約としたことによって,加盟金がチャネルメンバーのインセンティブに及ぼす影響を検討することを回避してきた。しかし,この仮定は,フランチャイザーが加盟金を使ってフランチャイジーをスクリーニングしていることを含意している。たとえば,フランチャイザーは,加盟金を低く設定することで,多くのフランチャイジーを募ることができるであろう。このことは,二部料金制に関する Ingene and Xxxxx (1995, 2004) の研究と整合的である。彼らは,小売業者ごとに固定費用に差異がある場合,二部料金制のうちの固定料金が小売業者のチャネル参加を制約するということを示している。彼らによれば,製造業者は,二部料金制の固定料金を低く設定することによって,数多くの小売業者を募ることができるという。こうした知見を踏まえると,加盟金は,出店数や出店スピードとかかわっているであろう。
第 2 に,本稿は,フォーマルモデルに依拠して議論を展開したため,フランチャイズ契約を単純化し過ぎているきらいがある。実際の契約には,インセンティブを引き出すための様々な条文が盛り込まれている。たとえば,セブンイレブンは,契約書に店舗の光熱費の一部をフランチャイザーが負担するという条文を明記している。この条文は,フランチャイジーのただ乗りを防ぐとともに,光熱費を節約するインセンティブを提供してくれる (高岡, 1999)。仮に光熱費を 100%フランチャイザーが負担する場合,フランチャイジーは光熱費をまったく節約しなくなってしまう可能性がある。逆に光熱費を 100%フランチャイジーが負担する場合,フランチャイジーは店舗の照明を適切な水準に保たなくなってしまう可能性がある。さらに,契約の完備性などの構成概念を実際の契約書から測定している研究もある。Kashyap, Antia and Xxxxxxx (2012) は,自動車ディーラーの実際の契約書を入手し,契約書の条文の性質から契約の完備性などの構成概念を測定し,契約の完備性が自動車ディーラーの機会主義的行動にどのような影響を及ぼすのかを検討している。今後,こうした研究成果を踏まえて,ロイヤルティ・レートのみならず,契約の条文を詳細に検討していくことによって,フランチャイズ契約に関する実り豊かな含意が得られるであろう。
第 3 に,本稿は,ロイヤルティの種類を考慮していない。ロイヤルティには,大きく分けて売上高ベースロイヤルティと粗利ベースロイヤルティがある。Lal (2000),xx (2003),xx・xx・xx (2009) は,2 つのタイプのロイヤルティの同等性の条件を探究している。今後,こうしたx
xxxxxのタイプと本稿で提示した仮説の関係を検討することは興味深い研究課題であろう。最後に,そしてもっとも重要なことに,本稿で明らかにした問題を踏まえて,実証分析を行うことが急務であろう
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