Contract
IBJ駐在員塾® 2020
労働契約の「解除」と「終了」の徹底理解
中国で従業員に離職してもらうためには、労働契約を「解除」するか、もしくは、「終了」(中国語では「終止」)させる必要があります。ここでは、その 2つの差異を正確に把握し、かつ、法律上の要件について完璧に把握します。 その詳細は、「労働契約法」第 4 章(労働契約の解除と終了=第 36 条から第 50条まで)に明記されています。以下関連条文を丁寧に解説していきます。ラインマーカーを引きながら、しっかり読み込んでください。
「労働契約法」(2008 年 1 月 1 日施行、2013 年 7 月 1 日一部改正施行)
第 36 条 雇用単位と労働者が協議により合意したときには、労働契約を解除することができる。
労働契約の「合意解除」に関する条項です。中国語では、「協商一致」による「労働契約の解除」と表現されます。労使ともに合意の上で契約を解除するので、事後に係争に発展する可能性は低く、会社にとって最もスムーズな人員削減につながります。弊社でも、この方式を最もお勧めしています。
第 37 条 労働者は、30 日前までに書面により雇用単位に通知したときは、労
働契約を解除することができる。労働者は、試用期間内において 3 日前までに雇用単位に通知したときは、労働契約を解除することができる。
従業員側から労働契約を「解除」する際の、事前告知期間に関する規定です。
第 38 条 雇用単位に次に掲げる事由の一つがある場合には、労働者は、労働契約を解除することができる。
従業員側から労働契約を即時解除できる要件です。(第 39 条は会社側から)
(1)労働契約の約定どおりに労働保護または労働条件を提供しないとき。 (2)遅滞なく満額により労働報酬を支払わないとき。
(3)法どおりに労働者のために社会保険料を納付しないとき。
(4)雇用単位の規則制度が法律および法規の規定に違反し、労働者の権益を損なうとき。
(5)第 26 条第 1 項所定の事由に起因して労働契約が無効となったとき。
(参考=第 26 条第 1 項)
第 26 条 次に掲げる労働契約は、これを無効とし、または一部無効とする。 (1)欺罔若しくは強迫の手段により、または人の危難に乗じて、相手方にその
xxの意思に背いた状況下で労働契約を締結させ、又は変更させたとき。 (2)~(5)略
(6)法律および行政法規の規定により労働者が労働契約を解除することので きるその他の事由 雇用単位が暴力、威嚇もしくは人身の自由を不法に制限する手段をもって労働者に労働を強要する場合、または雇用単位が規則に違反して指揮し、もしくは危険を冒す作業を強要して労働者の人身の安全に危害を及ぼす場合には、労働者は、直ちに労働契約を解除することがで
き事前に雇用単位に告知する必要はない。
第 39 条 労働者に次に掲げる事由の一つがある場合には、雇用単位は、労働契約を解除することができる。
会社側から労働契約を即時解除できる要件です。(第 38 条は従業員側から)
(1)試用期間において採用条件に適合しないことが証明されたとき。 (2)雇用単位の規則制度に重大に違反したとき。
(3)職責を重大に失当し、私利を図り、雇用単位に重大損害をもたらしたとき。 (4)労働者が同時に他の雇用単位と労働関係を確立し、当該単位の業務任務の完了に重大な影響をもたらし、または雇用単位の指摘を経て、是正を拒絶
するとき。
(5)第 26 条第 1 項第(1)号所定の事由に起因して労働契約が無効となったとき。
(6)法により刑事責任を追及されたとき。
(参考=第 26 条第 1 項第(1)号)
第 26 条 次に掲げる労働契約は、これを無効とし、または一部無効とする。 (1)欺罔若しくは強迫の手段により、または人の危難に乗じて、相手方にその
xxの意思に背いた状況下で労働契約を締結させ、または変更させたとき。
第 40 条 次に掲げる事由の一つがある場合には、雇用単位は、30 日前までに
書面により労働者本人に通知し、または労働者に 1 ヶ月分の賃金を余分に支払った後に、労働契約を解除することができる。
(1)労働者が病を患い、または業務外の原因により負傷した場合において、
所定の医療期間満了の後に原業務に従事することができず、また、雇用単位が別途手配した業務に従事することもできないとき。
事前告知もしくは解雇予告手当の支払により、会社側から労働契約を解除できる要件です。
(2)労働者が業務に堪えることができず、養成・訓練、または業務職位の調整を経て、なお業務に堪えることができないとき。
私傷病に因る医療期間満了時の対応です。第 42 条(3)には、医療期間中は解雇できない、との定めがあります。
(3)労働契約締結の際に根拠とした客観的状況に重大な変化が生じ、労働契約
を履行するすべをなくさせ、雇用単位と労働者の協議を経て、労働契約内容の変更につき合意に達することができないとき。
会社が費用負担する職務トレーニングか、もしくは、社内異動を行っても、なお「業務に堪える」ことができない従業員は、労働契約の解除が可能です。
「重大な変化」が立証でき、労働者と協議してもなお合意できなければ、労働契約の解除が可能です。
第 41 条 次に掲げる事由の一つがあり、人員を 20 名以上削減し、または 20名に満たないけれども企業従業員総数の 10%以上を削減する必要がある場合には、雇用単位は、30 日前までに労働組合または従業員全体に状況を説明し、労働組合または従業員の意見を聴取した後に、人員削減方案が労働行政部門に
報告されることを経て、人員を削減することができる。
(1)企業破産法の規定により更生をするとき。 (2)生産経営に重大な困難が生じたとき。
(3)企業の生産転換、重大な技術革新または経営方式の調整により、労働契約
この条は、「経済性リストラ」(中国語で「経済性裁員」)に関する条項です。事後のトラブルを極小化するために、20 名と 10%のいずれも下回る人数であっても、同様の作法をとっておくことをお勧めします。
の変更を経た後に、なお人員削減を必要とするとき。
(4)労働契約締結の際に根拠とした客観的経済状況に重大な変化が生じたことに起因して、労働契約を履行するすべがなくなったその他のとき。
人員を削減するときは、次に掲げる人員を優先して継続雇用しなければならない。
①当該単位と比較的長い期間の固定期間労働契約を締結しているもの
②当該単位と無固定期間労働契約を締結しているもの
③家庭に他の就業人員がなく、扶養が必要な老人または未xxを有するもの
「経済性リストラ」を行うためには、(2)の「重大な困難」や、(4)の「重大な変化」の立証が必要です。
雇用単位は、第 1 項の規定により人員を削減した場合において、6 ヶ月内に
新たに人員を募集採用するときは、削減された人員に通知し、かつ、同等の条件において削減された人員を優先して募集採用しなければならない。
優先雇用継続者、すなわちリストラ対象からはずす従業員の選別は、会社全体の中での地位ではなく、リストラ対象部門内での相対的地位で判断します。
リストラから 6 ヶ月以内に人材を再募集する時の優先採用に関する規定です。
ここの「第 1 項」とは、第 41 条の最初の 1 段落、即ち「20 名もしくは 10%以上の従業員に対する経済性リストラ」を指します。
第 42 条 労働者に次に掲げる事由の一つがある場合には、雇用単位は、前二条の規定により労働契約を解除してはならない。
以下に該当する従業員は、第 40 条と第 41 条に基づく解除はできませんが、
第 36 条~第 39 条に基づく解除は可能、ということです。
(1)職業病の危害に接触する作業に従事する労働者で、職位を離れる前の職業健康検査をしておらず、または職業病の疑いのある病人で診断もしくは 医学観察期間にあるとき。
(2)当該単位において職業病を患い、または業務により負傷し、かつ、労働能力を喪失し、または一部喪失したことを確認されたとき。
(3)病を患い、または業務外の原因により負傷し、所定の医療期間内にあるとき。
(4)女子従業員が妊娠期間、出産期間または授乳期間にあるとき。
(5)当該単位において連続して満 15 年勤務し、かつ、法定の退職年齢まで
5 年に満たないとき。
(6)法律および行政法規所定のその他の事由
第 43 条 雇用単位は、一方的に労働契約を解除するときは、事前に理由を労働組合に通知しなければならない。雇用単位が法律もしくは行政法規の規定または労働契約の約定に違反する場合には、労働組合は、雇用単位に是正するよう要求する権利を有する。雇用単位は、労働組合の意見を検討し、かつ、処理
結果を書面により労働組合に通知しなければならない。
「一方的に」の定義が曖昧なので、リストラ実行時には、常に事前に労働組合に通知して意見を聞く(≠同意を得る)することをお勧めします。労働組合がない場合は、従業員代表大会、または従業員大会を開催します。
第 44 条 次に掲げる事由の一つがある場合には、労働契約は、終了する。
この条と次の条は、「解除」ではなく「終了」に関する定めです。
(1)労働契約の期間が満了したとき。
固定期間労働契約の期間満了と、一定任務完了契約の任務完了を指します。
(2)労働者が基本養老保険待遇の法による享受を開始したとき。
養老保険の受給資格が取得できる、男性満 60 歳、女性満 50 歳、女性幹部
(3)労働者が死亡し、または人民法院に死亡を宣告され、もしくは失踪を宣告されたとき。
(4)雇用単位が法により破産を宣告されたとき。
(5)雇用単位が営業許可証を取り消され、閉鎖を命ぜられ、取消され、または中途解散する旨を雇用単位が決定したとき。
(6)法律および行政法規所定のその他の事由。
満 55 歳を指します。日本の「定年」に相当する年齢と考えて、差支えありません。
第 45 条 労働契約の期間が満了し、第 42 条所定の事由の一つがある場合には、労働契約は、相応する事由が消失する時まで延長してから終了しなければならない。ただし、第 42 条第(2)号所定の労働能力を喪失し、または一部喪失した労働者の労働契約の終了については、労働災害保険に関係する国の規定に
従い執行する。
第 42 条所定の事由とは、(1)職業病未検査、(2)職業病と労災、(3)医療期間、
(4)三期、(5)勤続 15 年超でかつ定年まで 5 年未満、などを指します。後半の記述は、労災従業員には労災等級に応じた法定の補助金を支払うことで終了が可能であるということです。
第 46 条 次に掲げる事由の一つがある場合には、雇用単位は、労働者に経済補償を支払わなければならない。
(1)労働者が第 38 条の規定により労働契約を解除するとき。
(2)雇用単位が第 36 条の規定により労働者に対し労働契約の解除を提起し、かつ、労働者と協議により合意し、労働契約を解除するとき。
会社側に起因する理由に基づき労働者側から労働契約を解除する場合、を指します。
労使合意に基づく「合意解除」を指します。
(3)雇用単位が第 40 条の規定により労働契約を解除するとき。
(4) 雇用単位が第 41 条第 1 項の規定により労働契約を解除するとき。
①医療期間の満了、②トレーニングまたは社内異動、③状況の重大な変化、に起因する解除、を指します。
破産法に基づく更生を指します。
(5)雇用単位が労働契約に約定する条件を維持し、または引き上げて労働
契約を更新し、労働者が更新に同意しない状況を除き、第 44 条第(1)号の規定により固定期間労働契約を終了するとき。
(6)第 44 条第(4)号または第(5)号の規定により労働契約を終了するとき。
固定期間労働契約の期間満了時に、会社側が条件ダウンを提示して、従業員がそれに同意せず、労働契約を終了したいと申出た場合を指します。
破産や営業停止を指します。
(7)法律および行政法規所定のその他の事由
第 47 条 経済補償は、労働者が当該単位において業務した年数に従い、1 年を満たすごとに 1 つの月賃金を支払う標準により労働者に支払う。6 ヶ月以上
1 年未満である場合には、1 年として計算する。6 ヶ月に満たない場合には、
労働者に半分の月賃金の経済補償を支払う。
労働者の月賃金が雇用単位の所在する直轄市または区を設ける市級人民政府の公布する当該地区の前年度の従業員月平均賃金の 3 倍を上回る場合には、当
該者に経済補償を支払う標準は、従業員月平均賃金の 3 倍の額に従い支払い、
当該者に経済補償を支払う年数は、最高で 12 年を超えない。この条における
「月賃金」とは、労働者が労働契約を解除し、または終了する前 12 ヶ月の平均賃金をいう。
法定の「経済補償金」を計算する月数は、勤続 N 年の従業員には N ヶ月分、ただし 0.5 年ごとに切上げます。
経済補償金の 1 ヶ月分の金額となる基数は、ボーナスも含んだ直近 12 ヶ月
間の総報酬の 12 分の 1 です。総報酬は、直前の給与の締日(支給日ではない)
から 12 回遡って数えて合計します。基数がその市の平均賃金(毎年 7 月から改定)の 3 倍を上回る従業員は、3 倍の額で計算し、12 ヶ月を上限とします。 12 ヶ月上限ルールは、3 倍を上回らない従業員には適用されません。
第 48 条 雇用単位がこの法律の規定に違反して労働契約を解除し、または終了する場合において、労働者が労働契約を継続して履行することを要求するときは、雇用単位は、継続して履行しなければならない。労働者が労働契約を継続して履行することを要求せず、または労働契約につき既に継続して履行することができない場合には、雇用単位は、第 87 条の規定により賠償金を支払わ
なければならない。
(参考=第 87 条)
第 87 条 雇用単位は、この法律の規定に違反して労働契約を解除し、または
終了する場合には、第 47 条所定の経済補償標準の 2 倍により労働者に「賠償金」を支払わなければならない。
法定の 2 倍の賠償金を支払わなければならないのは、労働契約の解除において会社側に違法な行為があった場合です。よってリストラを実行する際には、従業員側から「違法行為があった」と指摘されることのないよう、事前に確実な準備をしておくことが必須です。
第 49 条 国は、措置を講じ、労働者の社会保険関係が地区を跨いで移転・継続される制度を確立して健全化する。
第 50 条 雇用単位は、労働契約を解除し、または終了するときに、労働契約を解除し、または終了した旨の証明を発行し、かつ、15 日内に労働者のために档案および社会保険関係の移転手続をしなければならない。 労働者は、双方の約定に従い、業務引継手続をしなければならない。雇用単位は、この法律の関係規定により労働者に経済補償を支払うべき場合には、業務引継手続が完了した際に支払う。 雇用単位は、既に解除し、または終了した労働契約の文書につ
いて、少なくとも 2 年保存し調査に備える。
以上