JCAA は 2021 年に商事仲裁規則の改正を行いました。この改正では迅速仲裁手続がより利用し易い手続になるように、適用される紛争金額の上限額や手続期間につ いての定めを改めました。第二版では、この改正に基づき「III. 仲裁条項のドラフティング」の該当箇所の記載を修正しました。
そのまま使えるモデル英文契約書シリーズ
第二版の発刊に寄せて
JCAA は 2021 年に商事仲裁規則の改正を行いました。この改正では迅速仲裁手続がより利用し易い手続になるように、適用される紛争金額の上限額や手続期間についての定めを改めました。第二版では、この改正に基づき「III. 仲裁条項のドラフティング」の該当箇所の記載を修正しました。
第二版の発刊にあたり、改めて監修いただいたアンダーソン・xx・xx法律事務所のxxxxx弁護士に心より御礼申し上げます。
2024 年 5 月
日本商事仲裁協会(JCAA)仲裁・調停担当執行理事
xx xx
そのまま使えるモデル英文契約書シリーズ
はじめに
人口減少が続く中、これまで国内市場のみを対象としてきた日本の中堅・中小企業であっても、ビジネスの維持・発展のためには、海外の旺盛な需要を取り込む必要がある。しかし、同じ文化に属する国内取引先と違って、海外企業との取引では思わぬトラブルが発生することがある。これは、早くから国際取引に乗り出してきた日本の大企業が経験してきたことであり、不慣れだったでは済まないほどの大きな損失を被った例も少なくない。これに対して、中堅・中小企業が国際取引において損失を被った場合、それを吸収するだけの体力がないおそれもある。
先人が経験した苦い経験を繰り返す必要はない。これから国際取引に乗り出そうとする企業は、過去の経験に学び、国際取引に伴うトラブルに備えた適切な予防措置をとるべきである。すなわち、外国企業から示された英文契約書案にそのままサインするのではなく、日本企業の立場から様々な事態を想定し、相手方に対して逆提案をし、きちんとした交渉を経た上で契約を締結すべきである。とはいえ、国際取引に不慣れな企業にとって、自ら詳細な英文契約書を作成することは困難であり、またその作成を渉外弁護士に依頼した場合には高額な費用が発生する。
そこで、JCAA では、これまで日本企業が当事者となった仲裁事件を処理してきた経験に照らし、国際取引に不慣れな中堅・中小企業が契約書を作成する際に参考にして頂くべく、本シリーズを発刊することとした。本シリーズでは、各条項の解説の随所で、その条項の説明にとどまらず、その条項が扱っている事項はどのような意味があるのかを自覚的に考えることができるように工夫している。なお、異なるモデル契約書に登場する類似の条項例や解説は必ずしも同一ではないが、趣旨は同じである。
また、国内の取引では紛争解決はいずれかの地方裁判所での裁判により最終的には解決される旨を定めるのが当然と考えてきたかもしれないが、国際取引をめぐる紛争については、外国での裁判を飲まざるを得ないとすれば、それは外国語で外国訴訟法に基づく手続の末に外国人の裁判官が外国語で判決を下すことを意味する。他方、日本での裁判は相手方の外国企業が拒否することになろう。そのため、国際取引紛争の解決のためには仲裁が用いられることが多い。すなわち、日本人と外国人から構成される仲裁廷により最終的な解決を図るのである。本シリーズでは、 JCAA ならではのこととして、仲裁条項のドラフティングについて詳しく説明している。
本シリーズのモデル英文契約書が実際の契約書作成にあたり参考となれば幸いである。最後に、本シリーズの刊行にあたり、丁寧な監修により最新のモデル契約書に刷新して頂いたアンダーソン・xx・xx法律事務所のxxxxx弁護士及びxxxx弁護士に厚く御礼申し上げたい。
2020 年 4 月
日本商事仲裁協会(JCAA)仲裁・調停担当執行理事
どう が うち
xxx
xx x
正人
目 次
I. 総代理店契約(輸出用)の概要
1. 総代理店契約とは 5
2. 本条項例 5
3. 総代理店契約のポイント 5
II. Exclusive Distributorship Agreement (Export)(総代理店契約(輸出用))の条項例(英語、日本語)・解説
■ Recitals /前文 7
■ Article 1 Definitions /定義 8
■ Article 2 Appointment /指名 9
■ Article 3 Restriction on Competitive Transaction /競業的取引の制限 10
■ Article 4 Individual Sales Contract /個別売買契約 12
■ Article 5 Shipment /船積 16
■ Article 6 Minimum Purchase /最低購入 17
■ Article 7 Quality and Warranty /品質および保証 18
■ Article 8 Manuals, Technical Information and Assistance /
説明書、技術情報および技術支援 23
■ Article 9 Confidentiality Obligations /守秘義務 24
■ Article 10 Market Information and Report /市場情報および報告 25
■ Article 11 Distributor's Activities /代理店の活動 26
■ Article 12 Trademarks, Labels, etc. /商標、ラベルなど 28
■ Article 13 Force Majeure /不可抗力 29
■ Article 14 Term and Termination /期間および終了 30
■ Article 15 Miscellaneous Provisions /雑則 33
■ Article 16 Arbitration /仲裁 37
■ | 末尾文言および署名欄………………………………………………………………………… | 38 |
III. | 仲裁条項のドラフティング | |
1. | 仲裁とは………………………………………………………………………………………… | 39 |
2. | 仲裁条項のヒント……………………………………………………………………………… | 40 |
(1) JCAA の 3 つの仲裁規則に基づく仲裁条項 …………………………………………… | 41 | |
(2) 機関仲裁条項(仲裁機関を指定する仲裁条項) ……………………………………… | 42 | |
(3) 仲裁規則を規定する仲裁条項 …………………………………………………………… | 43 | |
(4)「商事仲裁規則」の迅速仲裁手続によって仲裁を行う場合の仲裁条項 …………… | 45 | |
(5) 仲裁人の要件や数を規定する仲裁条項 ………………………………………………… | 45 | |
(6) 仲裁手続の言語を規定する仲裁条項 …………………………………………………… | 47 |
(7) 仲裁費用の負担を定める仲裁条項 48
(8) 多層的紛争解決条項 49
(9) 交差型仲裁条項(クロス条項) 50
(10)準拠法条項と仲裁条項 51
CD-ROM:総代理店契約(輸出用)契約書【英語、日本語】(MS-Word)
I. 総代理店契約(輸出用)の概要
1. 総代理店契約とは
(1)「代理店」とは
「代理店」「販売店」「販売代理店」などと呼ばれる当事者には、教科書的には Distributorと Agent があるとされる。Distributor とは独立した買主で、Supplier から物品を購入して顧客に販売する者で、Agent とは、Supplier と顧客との売買契約の締結を手助けするものである。 Supplier と Distributor との間の契約は「売買契約」であり、Supplier と Agent との間の契約は「委任契約」または「準委任契約」である。中間的な形態もあるが、基本的にこのどちらに該当するかによって、契約条項が大きく異なる。
(2)「総」とは
代理店には、総代理店(独占的代理店:Exclusive Distributor)と、非独占的代理店とがある。「総」代理店を指名すると、供給者は、その地域において他の代理店を指名できなくなる。
(3)「販売店」「代理店」などの用語
教科書的には、Distributor を「販売店」と呼び、Agent を「代理店」と呼ぶのが正確だとされているが、これらの用語の明確な定義が法令・判例などにおいて確立されているわけではなく、また、実務上もそのように厳密に使い分けられているわけではない。したがって、契約書の中で、Distributor や Agent がどのような立場で、どのような権利・義務を有し、売買契約が誰と誰の間に締結されるのかなど、関係する当事者の法的な関係を明確に規定することが必要である。
一般に、英文契約書における用語については、「呼び名」や「訳語」だけで判断せずに、それがどのような意味を有するかを意識して、契約書に明記することが重要である。
2. 本条項例
本条項例は、我が国企業が外国企業を Distributor として指名する形態、すなわち、継続的に物品を代理店に輸出して代理店が顧客に販売するという形式を前提にする。
3. 総代理店契約のポイント
総代理店契約において注意すべきポイントは次のようなものである。
(1) 代理店の義務
総代理店契約の場合、その代理店以外には販路がなくなるため、代理店にさまざまな義務を負わせて当方の製品の売り上げを確保する必要が高い。たとえば、競争品の取り扱い禁止義務とか最低購入義務などである。代理店側としても利害が大きくからむので、交渉が難しいこと
もある。また、(2)で述べる現地法の検討も必要である。
(2) 現地法
日本においては「代理店契約」に適用される特別な法律はないが、中東、xxおよび一部の欧州諸国などには代理店保護法が存在し、契約期間や解除が規制される可能性がある。また、現地の独占禁止法により、代理店に負わせる義務の範囲が制限される可能性もあり、現地の専門家に対し助言を求める必要もあり得る。
II. Exclusive Distributorship Agreement (Export)(総代理店契約(輸出用))の条項例(英語、日本語)・解説
■ Recitals /前文
EXCLUSIVE DISTRIBUTORSHIP AGREEMENT
(EXPORT)
This Agreement, made and entered into this day of by and between K.K., a corporation duly organized and existing under the laws of Japan and having its principal place of business at , Japan (hereinafter called “Supplier” ) and
, a corporation duly organized and existing under the laws of
and having its principal place of business at , (hereinafter called “Distributor” ),
総代理店契約
(輸出用)
日本国法に基づき設立され、現存する法人であり、その主たる事務所を日本国
に有する 株式会社(以下 “供給者” という)と 国法に基づき設立され、現存する法人であり、その主たる事務所を に有する (以下 “代理店” という)との間に 年 月
日に締結された本契約は、以下のことを証するものである。
WITNESSETH:
WHEREAS, Supplier is engaged in the manufacture and sale of certain products hereinafter defined, and
WHEREAS, Distributor is desirous of importing from Supplier and reselling the said products in the territory hereinafter defined.
NOW, THEREFORE, it is mutually agreed as follows:
記
供給者は、以下に定義される製品の製造および販売に従事しており、
代理店は、同製品を供給者から輸入し、以下に定義される地域において再販売することを希望している。
よって、以下のとおり合意される。
解説
前文には、①契約締結年月日、②当事者の名称および住所、③当事者(法人)設立の準拠法を記載する。当事者の名称、住所は正確に表示しなければならない。設立の準拠法は契約能力の有無や契約準拠法などの判断の基礎であるから、必ず記載する。準拠法が国法でなく州法の場合も
ある(例えば米国の法人)から注意しなければならない。
当事者の略称として、“供給者” “代理店” の語を用いているが、各当事者の略称を用いることもある。
WHEREAS 以下の説明部分(前文)で、契約締結に至った理由や契約における対価関係(すなわち約因)を記す。なお、前文のない契約書もある。
■ Definitions /定義
第 1 条 〔定義〕
本契約において、特段の定めがない限り、
1.1 “契約地域” とは、をいう。
1.2 “契約製品” とは、をいう。
1.3 “個別売買契約” とは、本契約に基づき締結される契約製品についての個々の分離された売買契約をいう。 “個別売買” とは、個別売買契約に含まれる個々の分離された売買取引をいう。
Article 1 Definitions
Unless otherwise specified in this Agreement:
1.1 “Territory” means
1.2 “Products” means
1.3 “Individual Sales Contract” means the individual and separate sale and purchase contract for Products to be made on the basis of this Agreement. “Individual Sales” means individual and separate sale and purchase transaction covered by Individual Sales Contract.
解説
第 1 条 〔定義〕
契約書中において繰り返し用いられる語句であって、その意義を明確にしておく必要のあるものについては、契約書本文に入る前に定義条項を設け、ここにその定義を与えておくことが、一般的に行われている。
総代理店契約に定義条項を設けるとするならば、“契約地域(” Territory)、“契約製品(” Products)などについての定義を定めることが必要となる。契約地域には、独占的販売地域と非独占的販売地域を、それぞれ定めることもある。契約地域の定め方は、国、州などの行政単位で表されるのが通例となっている。The East Coast of U.S.A. などの不明確な表現は避けるべきである(米国の一部を地域とする場合は、各州名を具体的にあげる)。また、代理店の販売能力によって将来販売地域の拡張および、縮小をする権利を売主が保留しておくのもよい方法である。
契約製品の定義は、慎重に検討のうえ、厳密に規定する必要がある。さもないと、後日紛争の原因となるおそれがある。通常は、製品の型番などをも併記して、定義の明確化が図られる。予備部品、取替部品などをも含めるのが一般的である。供給者の取扱品目や供給者・総代理店の取
引関係には、流動性があり得るので、契約製品の追加、変更は供給者の事前通知(例えば 6 ヵ月以前の)により可能である旨を明らかにすることも一考に値する。
■ Appointment /指名
Article 2 Appointment
2.1 (Appointment) Subject to the terms and conditions herein set forth, Supplier hereby appoints Distributor as its exclusive distributor of Products in Territory and grants Distributor the right to purchase Products from Supplier for resale in Territory, and Distributor accepts and assumes such appointment.
2.2 (Relationship between the Parties) The relationship hereby established between Supplier and Distributor shall be solely that of seller and buyer, and Distributor shall be in no way the representative or agent
of Supplier for any purpose whatsoever, and shall have no right or authority to create or assume any obligation or responsibility of any kind,
express or implied, in the name of or on behalf of Supplier or
to bind Supplier in any manner whatsoever.
第 2 条 〔指名〕
2.1 (指名)本契約に規定される条項・条件に従い、供給者は、ここに、代理店を契約地域における契約製品の自己の総代理店として指名し、契約地域における再販売のために契約製品を供給者から購入する権利を付与するものとし、代理店は、かかる指名を受諾し、引き受ける。
2.2 (当事者間の関係)本契約により成立する供給者と代理店間の関係は、単に売主と買主の関係であり、代理店は、いかなる目的においても、決して供給者の代理人ではなく、また供給者の名において、もしくは供給者を代理にして、明示的もしくは黙示的を問わず、いかなる種類の義務もしくは責任をも創設し、もしくは引き受け、またはいかなる方法においても供給者を拘束する権利もしくは権限をも有しないものとする。
解説
第 2 条 〔指名〕
2.1 (指名)供給者が総代理店に対し一手販売権(独占的販売権)を与え、総代理店がこれを受け入れることによって総代理店契約は成立する。