Contract
東京、昭52不45、昭53.2.21
命 令 書
申立人 日刊ゲンダイ労働組合
被申立人 株式会社 日刊現代
主 文
被申立人株式会社日刊現代は、申立人日刊ゲンダイ労働組合が昭和52年7月6日に申し入れたフリー契約者および社員の労働条件についての団体交渉を、㋐フリー契約者は会社の雇用する労働者ではなく、申立人組合は労働組合法上の労働組合ではないとの理由、または㋑フリー契約者が主体となって運営されている労働組合と、社員の労働条件について団体交渉をするのは不適当であるとの理由で、拒否してはならない。
理 由
第1 認定した事実
1 当事者
⑴ 申立人日刊ゲンダイ労働組合(以下「組合」という。)は、被申立人株式会社日刊現代で働くいわゆるフリー契約者が主体となり、昭和51年12月11日に結成された労働組合である。その組合員数は本件申立時である52年5月にはフリー契約者が14名、社員が1名であったが、同年10月にはフリー契約者が8名、社員が6名になった。
⑵ 被申立人株式会社日刊現代(以下「会社」という。)は、50年9月に設立され、肩書地
(編注、xxx中央区)において、時事および風俗に関する報道を掲載する日刊雑誌「日刊ゲンダイ」の発行を業とする資本金1億円の会社で、社員とアルバイトとを合わせて約90名のほか、フリー契約者約20名が働いている。
2 会社とフリー契約者との関係
⑴ フリー契約者には、フリーライターとフリーカメラマンがあるが、これらの者は採用試験によってではなく、編集局の責任者と個別に面接したうえ、会社の依頼を受けて仕事をしている。会社との間には、毎日仕事を引受けた場合の毎月の報酬金額のほかには、具体的な契約内容の合意はなく、就業規則に定められた給与その他の労働条件に関する部分等の適用はない。また会社は、フリー契約者を健康保険や雇用保険に加入させておらず、交通費も支給していない。
⑵ フリー契約者にも、「下記の者は当社の記者であることを証明する」と書かれた身分証明書や、「日刊ゲンダイ記者」または「日刊ゲンダイ写真部」との肩書を付した名刺が会社から交付されている。また、フリーライターには電話のついた専用の机が、ニュース班の社員の机と並んで与えられており、フリーカメラマンには専用のロッカーが与えられている。
⑶ 51年9月頃、ニュース班員は19名で、そのうちの8名はフリーライターであった。このニュース班はさらに、2~3名からなる班(チーム)に編成され、各チームには社員とともにフリーライターも割り振られていた。これらのチームは、社員が中心となって
「ニュースの処理」を行なっており、原稿の最終的責任は社員が負い、フリーライターには張り込み、調査など取材だけをまかされることが多い。しかし、フリーライターも社員と同様に、取材のみならず原稿の完成まで担当することもあり、署名記事を書くこともある。各チームの勤務時間は、概ね12時から20時までとされているが、割り当てられた仕事によって適宜変更されている。また早番(7時から15時)勤務もあり、2週間に1回の割合の泊り番勤務もある。フリーライターは、チームの一員として、一般社員と同様に各勤務時間帯に割り振られているが、特に51年7月から52年5月まで、早番はフリーライターが中心となっていた。そしてフリーライターも、割り振られた勤務時間内、社内に待機するとか命ぜられた仕事に従事することになっており、泊り番手当も支給されている。
⑷ 52年3月頃、写真部員は13名で、そのうちの11名はフリーカメラマンであった。写真
部の勤務時間は、早番・普通番・遅番・泊り番等に分けられ、フリーカメラマンも社員カメラマンもローテーションでそれぞれの当番に割り振られ、所定の時間会社の指示に従い就労している。仕事の内容には、フリーカメラマンと社員カメラマンとで差異はないが、泊り番は、フリーカメラマンだけが行なっている。
⑸ フリー契約者が会社の仕事を引き受けるか否か、また他社の仕事をするか否かは建前として自由であるが、一旦会社から具体的に仕事を割り振られた場合には、その仕事を拒否する自由は事実上なく、また会社側もフリー契約者がこれに従うことを前提として、チームの編成や勤務時間の割り振りを行なっている。そして、会社における勤務実態がこのようであるため、フリー契約者が実際上他社の仕事を引き受けることは困難である。
⑹ フリーライターには、毎月定額の報酬を受けている者もいるが、その他のフリーライターの報酬については、51年8月から、会社は「記者諸兄の待遇改善のため」として従来の算定基準を改め、完全出来高払いとし、完成原稿1本2万円、「ボツ」原稿1本5千円、また談話や資料の取材につき、電話によるもの1件千円、面接によるもの1件2千円とした。しかし、現実には、各フリーライターの報酬は、デスクが各人の仕事内容を査定したうえ、編集局長の承認を経て、結局は事実上毎月おおよそ同額に決定され、原稿料という名目で毎月25日に支給されている。なお、フリーライターの報酬月額は、定額のものも含めて19万~25万円程度である。
⑺ フリーカメラマンの報酬は、査定を受けることなく全員定額であり、毎月20万円程度の金額が支給されている。
3 団体交渉の拒否
⑴ 昭和51年12月13日組合は、会社に結成通告をするとともに、年末一時金と給与の定額保障に関する事項等につき団体交渉を申し入れた。同月16日会社は、組合員の名簿の提出がないという理由でこれを拒否した。同月22日組合が団体交渉を求めたところ、翌23日会社は「組合とは認めにくい」と主張して交渉に応じなかった。
さらに同月24日組合は、一時金等について団体交渉を申し入れたが、会社は意味がないとしてこれを拒否した。また52年1月11日組合が組合事務所の設置等につき団体交渉
を申し入れたところ、B総務部長は、これは団体交渉ではないとして、話合いを行なった。
⑵ 3月19日組合は、㋐社員化を希望するフリー契約者の社員化、㋑賃金増額等について団体交渉を求めたが、会社は応じなかったのみならず、3月30日から5月19日までの間に、A執行委員長以下5名の全役員に対して、今後は仕事を依頼しない旨の通告をした。会社は、団体交渉を拒否するのは、社員が加入していないからだと言っていたので、 組合は、6月1日社員組合員1名を公表して、団体交渉を申し入れ、同月17日には雇用関係の明確化などについて団体交渉を申し入れた。これらに対し会社は、社員が1名しか加入していない組合とは団体交渉に応じられないとして拒否した。そこで組合は、7月1日さらに4名の社員が組合に加入している旨を明らかにして、団体交渉を再度申し入れ、続いて同月6日に組合員であるフリー契約者と社員との労働条件について団体交渉を申し入れた。しかし、会社は特段の理由を示さず、これらの申し入れに対し何らの
回答もしていない。第2 判断
1 申立人は、フリー契約者の勤務の実態は社員と何ら変りなく、会社と使用従属の関係にあるから、会社には団体交渉を拒否する正当な理由がないと主張する。被申立人は、㋐フリー契約者と会社との契約は請負契約で、フリー契約者は会社からの仕事依頼を拒否することも、他社の仕事をすることも自由であるから、会社が「雇用する労働者」ではない。また、㋑組合に社員が加入しているとしても、フリー契約者が主体となって運営されている組合と、社員の労働条件について団体交渉をするのは不適当であるから、会社がこのような組合との団体交渉に応じなくても、労働組合法第7条第2号に該当しないと主張する。
2 フリー契約者は、会社と契約をする際に報酬月額を会社から示されており、その時には具体的な契約内容についての合意がなかったとはいえ、第1、2、⑵ないし⑸でみられるように、実質上勤務時間の拘束を受けるほか、身分証明書や名剌が交付されるなど対外的にも社員と同様の取扱いを受け、また社内でも電話のついた机とxxxxが与えられて、社員と同じ執務条件でほぼ同じ内容の仕事に従事している。これらを考え併せると、フリ
ー契約者も日刊誌発行という事業の遂行上不可欠な要員として、会社の事業組織に恒常的に組み込まれており、このような体制のもとでは、社員と同様に会社の指揮のもとに労務を提供しているものと認められる。また、フリー契約者に支給される報酬は、原稿料の名目ではあるが、著名寄稿家の場合のようにその独創性に対する対価というよりは、第1、
2、⑹⑺でみられるように、定額または毎月ほぼ同額であること、一般サラリーマンの給料に近い金額であることなどからみて、日刊誌の発行という事業上日常的に要求される労務の提供それ自体の対価とみるのが相当であり、現にフリー契約者自身も、この報酬によって生計を維持している。
以上の事情を併せ考えると、フリー契約者は、著名寄稿家の場合のように会社から独立した対等の立場で仕事を請負っているとはいえず、実質的には、会社が「雇用する労働者」であるとみるのが相当である。
また組合がどのような構成員で組織、運営されるかは、組合が自由に決定し得る事柄であり、従って団体交渉事項が、組合員である社員の労働条件であっても、会社には、前記のような理由でその申し入れを拒否する正当な理由がない。
第3 法律上の根拠
以上の次第であるから、会社が組合の団体交渉の申し入れを拒否するのは、労働組合法第
7条第2号に該当する。
よって労働組合法第27条および労働委員会規則第43条を適用して主文のとおり命令する。
昭和53年2月21日
xxx地方労働委員会 会長 x x x x