Contract
1.契約に関する基礎知識
(1)契約とは何ですか
ポイント:契約とは簡単にいえば、きちんと守らなければならない約束のことです。日常生活においても約束は守らなければなりませんが、「契約」とは法的な拘束力 を持った相手との約束のことです。つまり、相手が契約を守らない場合は裁判所を通じて強制することができる、という意味を持っています。そして相手が契約違反をし
た場合は、契約の解除や損害賠償の請求ができます。
契約というと、難しくて特別なことのように思われるかもしれません。しかし、日用品を買うとき、電車に乗るとき、あるいはアプリをダウンロードするときなども相手と必ず契約をしているのです。そして、契約はその内容が反社会的でなければ、原則として自由な意思で結ぶことができます。これを「契約自由の原則」といいます。契約自由の原則とは、個人は自由な意思に基づく契約によって自己の生活関係を処
理することができ、国はみだりに干渉すべきではないという原則をいいます。
なお、これまで「契約自由の原則」に関して法律上の規定はありませんでしたが、民法改正(令和 2 年 4 月 1 日施行)により、民法第 521 条に明記されました。
(2)契約書の作成
1)なぜ契約書を作成するのですか
ポイント:トラブル防止や契約の証拠として契約書を作成します。
口約束でも契約は成立しますが、実際には契約書を作成することが重要です。なぜなら、口約束だけですと「契約した覚えはない」「そういう内容ではなかった」などトラブルになりやすいからです。
このようなトラブルを未然に防止するために、次の 3 つの観点から契約書を作成しておく必要があります。
①当事者を明確にする。 |
②取り決め内容を明確にする。 |
③後日の紛争を防止し、紛争が生じた場合の証拠とする。 |
なお、法律で契約書の作成が義務付けられている特別なケースがあります。
例えば、保証契約については、民法第 446 条第 2 項で「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。」と定められています。
2)どのような契約書を、どの段階で作成すればよいですか
ポイント:まず始めに契約の目的を考え、その後で契約書の目次を作成してみましょ う。
どのような契約書を作成するかは、契約の目的を第一に考えることが大切です。
目的を決めた後で目次を作成すると、契約書全体が作りやすくなります。また、目次を作成することにより、項目の重複、遺漏がチェックできます。
そこから契約書案を相手方に提示し、交渉に入っていきます。契約書の内容が無事に合意されると、契約成立となります。
なお、どの段階でどのような契約書が必要になるかは、後記「5.(4)技術移転の流れと必要な契約の種類」(68 ページ)を参考にしてください。
いずれの場合でも、具体的な取引を行う前に契約書を作成及び締結することが原則です。
3)契約の交渉開始から契約締結までの工程はどうなりますか
ポイント:段階ごとに、交渉から締結までの次の工程概要を参考にしてください。 次の❝交渉開始~契約締結❞工程概要は、物品の売買契約を例にしたものです。購入
希望者と製造・販売企業の合意形成(申込と承諾)がなされるプロセスを示します。
❝ 交渉開始 ~ 契約締結 ❞ 工程概要
秘密情報の開示が伴う場合
↓
秘密保持契約書調印
物 品 の 売 買 契 約
営 業 活 動 [装置・材料の機能等の確認] (製造・販売企業) | |
見 積 x x 書 (購入希望者) | |
見 積 書 (製造・販売企業) | |
取 引 条 件 交 渉 (当事者双方) | |
条 件 合 意
取引基本契約書調印
注 文 書 (購入希望者) | |
注 文 請 書 (製造・販売企業) 個別契約成立 | |
契 約 履 行 (当事者双方) |
[注]一般的な継続契約においては、取引基本契約が存在します。
4)契約書に記載すべき内容は決まっているのですか
ポイント:原則当事者の自由ですが、通常は、題名・契約条項・日付・当事者を定め ます。
契約書に記載する内容は、当事者の自由です。メモ書きでも契約書となり得ます。し かし、契約書作成の目的の一つがトラブル防止にあるので、当事者の権利・義務のほか、履行の条件や契約違反があった場合などの措置について取り決めをしておくのが一般的 です。
契約書に記載する内容は、お互いに不利な条件を押し付けられないためにも、必ず全条項について当事者双方で確認することが大切です。
5)契約書はどのように書けばよいですか
ポイント:条文配列のコツを頭に入れて作成します。
①契約内容の法律上の意味を把握しましょう。 |
②取引の流れに従って条文の配列を考えましょう。 |
③重要な条文は先に、付随的な条文は後にしましょう。 |
④似たような条文は一つにまとめましょう。 |
⑤条文の整合性を取りましょう。 |
6)契約書の一般的な構成
契約書の一般的な構成は次の通りです。
○○契約書・・・表題
契約書の名称前文
本文
(契約条項)
後文
A株式会社(以下「甲」という。)とB株式会社(以下「乙」という。)
とは、〇〇・・・に関し、次の通り契約する。・・・前文第1条・・・約定事項(契約内容である本文)(中略)
第○条
本契約締結の証として、本契約書2通を作成し、甲乙これに記名押印のうえ各1通を保有する。・・・後文(末尾文言)
日付
当事者の署名・捺印又は
記名・押印
20××年○月○日・・・契約書の調印日xxx○区○町○丁目○番○号
甲 A株式会社
代表取締役 ○○○○ 印
宮城県仙台市○区○町○丁目○番○号乙 B株式会社
代表取締役 ○○○○ 印
会社印
代表印
・・・契約当事者の表示と捺印又は押印
7)契約書の表題はどのようにすればよいですか。また、契約書・協定書・覚書・合意書・確認書の表題で効力は違いますか
ポイント:xxして契約内容が判断できるような表題が望ましいでしょう(例えば「物 品売買契約書」「共同研究開発契約書」「特許実施許諾契約書」など)。なお、異なる表題でも契約書の効力は変わりません。
契約書は、契約の内容を文章にしたものです。表題のつけ方に特別な決まりはありませんが、何の契約書であるか分かるように明確かつ簡潔に表現したものがよいでしょう。
「契約書」という名称のほかに、「覚書」・「念書」・「合意書」といった表題も使われます。これらは契約書に比べて、拘束力が弱いと誤解する人もいますが、表題によって効力に差 があるわけではありません。表題が違っても契約書に記載してある内容が法的な拘束力の ある約束であれば、その契約書は、「契約の内容を証明する書面」となりますので、表題に 関係なく契約の効力は変わりません。
8)契約書に使われる用語について教えてください
ポイント:あえて難しい言葉を使う必要はありません。しかし、用語1つで契約の解釈 に問題が生じる場合がありますので、注意してください。
契約書には、誰が読んでも誤解なく理解できるように的確な用語を使います。特に、法律用語には、日常用語より厳密に解釈されるものがあるので、必要に応じて専門家に相談した上で用いるのがよいでしょう。
また、契約書においてよく用いられる法律用語については 63 ページにまとめております。
【気をつけるべきこと・間違いやすい法律用語】
1.あいまいな表現はできるだけ避ける | ・例えば「重大な損害が生じるおそれがあるとき等は…」としたとき、人によって「重大な損害が生じるおそれ」の判断が異なる場合があるので、具体的にどのような場合なのかもできるだけ明記すべきです。 ・また、どのようなことまで「等」に含まれるのか争いになる ので、「等」の使用はできるだけ避けましょう。 |
2.「場合」・「とき」・「時」 | ・「場合」とひらがなの「とき」は仮定を表します。 ・「時」はある時点を表すために使います。 ・したがって、「とき」と「時」を置き換えてはいけません。 |
3.善意・悪意 | ・法律用語では、ある事情を知らないで何か行うことを「善意」といいます。 ・反対に、ある事情を知って何かを行うことを「悪意」といいます。 ・この善意・悪意は日常用語の使い方とまったく違うので注意 してください。 |
9)見出しはどのように書けばよいですか
ポイント:条文の内容を簡潔に表現し、各条文の上段又は左肩に括弧付で書きます。 契約の各条項に見出しをつけることによって、いちいち条文の内容を見なくても、ある
程度の内容が分かり便利です。見出しは、各条文の上段又は左肩に、条文内容を簡潔に表現してつけるのが一般的です。ただし、見出しの有無は、法的な意味はありません。
(期間)
第 7 条 この契約の有効期間は、この契約の締結の日から△年○月×日までとする。又は
第 7 条(期間)
この契約の有効期間は、この契約の締結の日から△年○月×日までとする。
10)なぜ契約書に押印しなければいけないのですか。
ポイント:契約書への押印は契約の成立に必須ではありません。
契約書を作成するにあたっては、各当事者が署名・捺印又は記名・押印するのが一般的です。これによって、当事者同士が契約書の内容を理解し、その内容を認めたことが表示されます。また、法律上の効果として文書の真正な成立が推定されます(民事訴訟法第 228 条)。
しかし、特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、署名や押印をしなくても、契約 の効力に影響は生じません。契約は当事者の意思の合致により成立するものであり、書面 への署名や押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていないためです。
また、近年多く導入されている電子契約書では押印はされずに、電子署名とタイムスタンプでその成立を証明します。
電子契約については、後記「1.(3)16)電子契約について教えてください」(26 ページ)をご参照ください。
11)印鑑の種類によって契約の効力に違いはありますか。
ポイント:印鑑の種類により契約の法的な効果は変わりません。ただし、本人が押した ものかどうかの事実上の証明力が劣る印鑑もあります。
契約書を作成するにあたっては、各当事者が署名・捺印又は記名・押印するのが一般的です。これによって、当事者同士が契約書の内容を理解し、その内容を認めたことが表示されます。
印鑑は、実印とそれ以外の認め印に大きく分かれます。実印は、個人や会社の代表者の 印鑑であることを役所等に届けてある印鑑です。認め印は、実印以外の個人の印章をいい、いわゆる市販されている三文判のことで、日常でもっともよく使われます。契約の締結に 際し、実印又は認め印を押印することで、契約の法的な効力は変わりませんが、実印の押 された契約書は間違いなく本人が押したものと証明する力が強くなります。一方で、認め 印は、間違いなく本人が押したものかどうかという点では、その証明力が劣ります。
したがって、署名と実印がある場合は、後に「私はそんな契約をした覚えはない」ということはできなくなります。一方で、認め印の場合には、争いの余地を残します。
なお、認め印と認印(にんいん)とは違います。認印は、他人の作成した文書に一定の目的で押印することです。
また、会社に角印(○○株式会社印)と丸印(代表取締役印)と俗に言われているものがあります。契約書の押印の欄に、角印と丸印とがセットになって押印されていることが見受けられます。角印は、会社の飾りの印で契約の法的効力に影響を及ぼしません。丸印は、会社を代表する者の印鑑で、登録している実印ですから、契約の法的効力に影響を及ぼします。会社が角印を押印するかどうかは自由ですが、丸印は必ず必要です。
なお、インク内蔵印は、誰でも同じものを用い、個々人を証明することが難しくなるので、契約書の調印では使用を避けましょう。
12)印鑑は契約書のどこに押せばよいですか。
ポイント:印鑑は署名欄以外にも、契約書内の複数の場所に押されることが一般的です。
1.契印 | ・2枚以上の紙が1つの文書として連続していることを示し、落丁や差替えを防ぐために押す印のことです。 ・各ページにまたがって押印します。 |
2.割印 | ・2者契約の場合、契約書は2通作成され、1通ずつ各当事者が保管します。 ・この2つの契約書の同一性・関連性を証明するために、2つの文書に1個 の印を半分ずつ押す印のことです。 |
3.訂正印 | ・文書を訂正したことを証明するために、訂正箇所の欄外に押す印のこ とです。 |
4.止め印 | ・文書末尾に余白が生じたときに、余白の悪用を防止するため、「以下 余白」と記載する代わりに押す印のことです。 |
5.消印 | ・契約書に貼る収入印紙に契約当事者が押す印のことです。 |
6.捨印 | ・契約書等を作成する場合、記載の誤りを訂正する際の訂正印の代わりに契約書等の欄外に押印します。 ・本来は、微細な誤記、誤字、脱字程度の訂正を認めるための押印ですが、訂正の範囲は限定されていません。 ・捺印したことは、相手に契約内容を全て一任したことと同等と見なさ れるおそれがあるので、極力押印することは避けましょう。 |
収 入
印紙
x 約 書
第1条
割印→
←契印
第2条(削除)
第3条
2字削除 ・・・・・××・・・・・
1字加入 ・・・・・○・・・・・・・
令和 年 月 日
甲 ×× ××
乙 △△ △△
捨印
(1頁目) (最終頁)
頁見開き
該当頁表面
前頁裏面
13)契約書には収入印紙を貼る必要がありますか
ポイント:契約書には契約の種類と金額に応じて、印紙税法に定める収入印紙の貼付が 必要な場合があります。詳細は印紙税法を参照して確認してください。
収入印紙が貼られていない場合でも契約書の効力には影響しません。しかし、税金を納めていないことになり罰則の対象となります。
14)契約書の雛形はどのように利用するのがよいですか
ポイント:必ず全条項の内容を確認してください。また、自分にとって不利な内容にな っていないか確認してください。
契約書を自分たちが1から作成するのは大変な作業です。そのため、契約書の雛形(サンプル)を利用することがあります。
業務上の効率を考えた場合、契約書の雛形は、専門家が作成していることが多いので利用するには安心で能率的です。便利な半面、このような雛形を利用する場合は、次の点に留意しなければなりません。
雛形を利用する場合、契約内容を十分に吟味し、加筆・修正・削除等をして利用することが大切です。
1.必ず全条項について内容を確認すること | ・本来、契約内容は個々の状況などによって異なります。 ・雛形は、専門家が作ったものだから万全だと思いがちですが、個別の状況は考慮されていない場合もあります。 ・具体的な状況に照らし、契約書の内容を吟味し慎重に検討する ことが大切です。 |
2.どちらの立場で作成されたものであるか | ・契約は、当事者双方に平等な内容であることが原則です。 ・雛形を利用する場合、契約書の雛形を作成した人が当事者のどちらの立場に立って作成したかをよく認識しておくことが必要です。 |
15)株式会社の場合、契約書の調印者や署名者は誰にすればよいですか
ポイント:契約を締結できる当事者は、①自然人(個人)、又は②法人です。
個人と個人、又は個人と株式会社等の契約の場合で、個人が調印者となる場合は、法律に定められた要件に反しない限り、個人が契約書に調印をすることができます。
一方、個人と同様に、会社、社団法人、財団法人等の法人も独立して契約や取引をすることができます。例えば、会社が契約をするときは当該会社が契約当事者となり、その内部の営業部や工場などが契約当事者となるわけではありません。
しかし、会社自身がペンを持って署名し、印を押すことは物理的にできません。現実に 契約書に調印するのは、その会社の人間です。そして、会社を代表して会社の契約に調印 したり署名したりする権限を持っている人のことを、会社の代表者といいます。株式会社 では、代表取締役がこれにあたります。重要な契約(取引額の大きいもの等)については、会社の代表者が契約書に調印するのが原則です。
また、代表者以外の人に、会社を代表して契約する権限が与えられている場合があります。例えば、会社の内部規則により、部長や課長らに取引額の小さい契約の代表権限が与
えられており、その人の署名・捺印又は記名・押印で契約書を作成する場合も多くあります。
会社を代表する権限を持たない者と契約をした場合であっても、相手が善意無過失である場合には、契約は有効とされることがあります。
契約の相手方が会社の場合には、必ず契約書に調印する人の権限を確認しましょう。権限のない人との契約で調印した場合、後で、会社との取引とは認められないこともありますので、注意してください。
<会社が当事者の場合の表示方法>
○○株式会社
○○株式会社
代表取締役
どちらの場合も、契約の当事者は
知的財産部長
×× ×× 印
○○株式会社自体であることに
△△ △△ 印
変わりありません。
16)契約書に規定していない問題が発生したときは、どうすればよいですか
ポイント:双方の当事者が協議して解決します。
契約書に規定していない問題が発生したときや、契約の各条項の解釈に争いのあるときは、当事者が協議して解決します。これは当然のことと言えますが、あらかじめ契約書に以下のような規定外条項をおくのが一般的です。
ただし、このような規定があるからといって、契約書に記載されていないことが全て協議で解決できるとは限らず、契約書に記載されていなかったことが原因で争いが起きることもありますから、やはり契約書の記載内容は、万全を期すように心がけましょう。
契約条文の一例は次の通りです。
第○条(協議事項)
この契約に定めのない事項又はこの契約の解釈並びに運用について疑義等が生じたときは、契約当事者は、誠意をもって協議し、円満に解決するものとする。
17)契約書の訂正方法について教えてください
ポイント:訂正箇所を 2 本線で抹消し、押印又は自分の名前のイニシャルサインをしま す。
訂正をするときには、元の文字が見えるように2本線で抹消します。塗りつぶしたり、消し去ったりしてしまうと、はじめに書かれていたことが不明になってしまいます。そして、訂正した行の左欄外に、削除・加入した字数を明記し、そのうえに当事者双方の押印
(場合によっては、当事者のイニシャルサイン)をします。双方が訂正内容に合意したことを示すために、必ず双方の印又はサインが必要です。
実務上は、調印者の印鑑又はサインは必ずしも必要ではありません。契約を訂正する権限がある契約当事者の双方の印鑑又はサインがあれば良いです。
【訂正の例】
4 月1 日
5 字削除 印
期限は 3 月 25 日までとする 4 字加入 印
18)内容証明郵便の効力について教えてください
ポイント:内容証明郵便は送付された文書の内容、差出人及び受取人、差し出した日の 日付が郵便局(日本郵便株式会社)により証明されるという効力があります。
一般の郵便物を投函してしまうと自分の手元には何も残っていないので「間違いなく投函した」、「内容はこういったことを書いた」と、いくら相手方に言っても証明するものがありません。
そこで、相手方にいつ、どのような内容の書簡を出したということを後々証明しなければならないようなときは内容証明郵便を利用すると良いでしょう。ただし、内容証明郵便は、文書の内容が法的に正当であることまでを証明するものではありません。
(3)契約期間中の問題
1)契約はいつ成立しますか
ポイント:契約の当事者の意思が合致したときに成立します。
契約は、ある取引(例えば売買など)について、当事者の意思が同じ内容で一致することによって成立します。ただし、意思は互いの心の中にあるものなので、それを表面に出して相手に伝えなければなりません。意思を表面に表すことを「意思表示」といいます。そして多くの契約は、当事者の一方からの「申込」の意思表示と、これに対する相手方の
「承諾」の意思表示が合致して契約が成立します。
例えば、Aカメラ店が「このカメラを売ってください」と申込の意思表示をして、Bさんが「このカメラを 1 万円で売ります」と承諾の意思表示をした場合、これによってA・ B間で売買契約が成立します。契約書の有無は契約成立の条件ではないので、口頭の約束でも契約は成立します。
2)各当事者の調印日が違う場合は、どうなるのですか
ポイント:通常、双方の当事者の署名が終わった日が契約の締結日となります。したが って、一方が先に署名し、これを他方の当事者に渡してその署名を取り付ける場合は、後に署名した日付が締結日となります。
契約の調印式を当事者がセレモニーとして行う場合は、その調印式の日にちが調印日となるのが一般的です。しかし、実際の調印の日とは異なる日を調印日とすることがありますが、当事者の合意によって決められたものですから有効です。
なお、契約によっては、契約書の調印日と異なる契約発効日が別に定められる場合がありますから留意してください。
3)契約の解約と解除はどう違うのですか
ポイント:解約は契約の効力を将来に向かって消滅させることであり、解除は最初から なかったことにするものです。
「契約のやめ方」には2つの方法があります。まず1つは、お互いが納得して「この契約はなしにしましょう。」というものであり、これを「解約」といいます。すなわち、契約の効力を将来に向かって消滅させることをいいます。
もう 1 つは、相手方が契約違反をした場合等で解除権を有することとなった当事者の一方が自分だけの意思表示によって、相手方に対して既に成立した契約をなしにすることを宣告する方法です。これを「契約の解除」といいます。すなわち、その契約が初めからなかったのと同じような法律上の効果を生じさせることをいいます。
契約の解除と解約の相違は、契約の解除では、解除権が行使されると、原状回復義務と損害賠償義務が発生しますが、契約の解約の場合は、原状回復義務が生じることはありません。
なお、契約実務において、解約と解除を厳格に使い分けている例は、少ないと思われます。
4)契約不適合責任について教えてください
ポイント:契約の目的に履行内容が合致しない場合に負う責任のことです。
売買契約では、売主は、対価を得て目的物を売っているのですから、その目的物には代金に見合う価値があることについて、買主に対して責任を持たなければなりません。もしそうでなければ、キズ物を買ってしまった買主が一方的に損をしてしまい、契約のバランスが崩れてしまいます。
そこで、契約目的を満たさなかったときは、買主は売主に対して契約内容のやり直しや代金減額や損害賠償の請求、解除をすることができるのです。
このような売り主の責任をこれまで「瑕疵担保責任」として民法に規定を設け、契約実務においても関連契約条項を定めるのが通常でしたが、民法の改正(令和 2 年 4 月 1 日から施行)により、従来「瑕疵担保責任」といわれていたものが「契約不適合責任」という考え方に変わりました。
「瑕疵」とは、「通常有すべき性質・性能」と理解されていました。「契約不適合」とは、
「目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」を指すとされ(民法 562 条)、これまでの「瑕疵」もこれに包含されるものと理解されています。民法の条文から「瑕疵」という表現を削除し、売主の責任について債務不履行責任の一般原則を適用することを明らかにしました。
これからの契約実務では、上記のような場合「契約不適合責任」という用語が用いられ ることになります。既に締結している契約書における「瑕疵担保責任」の条項については、その内容が新しい民法の規定に対応しているかどうか確認し、必要に応じて契約の改定を 検討することが望ましいと思われます。
5)契約を途中でやめることはできますか
ポイント:解除・解約や相手との合意により契約を解消することができます。
一度結ばれた契約は、原則として守らなければなりません。しかし、契約締結当時には予想していなかったことが発生し、契約を解消したい状況になることもあり得ます。相手方が契約違反を行ったときには解除・解約ができます。しかし、相手方に責任がなくこちら側の事情で契約をやめたい場合は、相手方ときちんと協議しなければなりません。
なお、契約の相手方の一方が契約違反をした場合については、後記「1.(3)7)契約違反をした場合はどうなりますか」をご参照ください。
6)すでに調印した契約の一部を変更する場合、どうすればよいですか
ポイント:今ある契約書と関連付けて新たに覚書を作ることが効率的です。
契約を変更する場合、新たに契約書を作成することもありますが、契約の一部を変更する場合は、覚書を別に作ってどこが原契約(これまであった契約のこと)と違うかを関連付けて規定することが効率的です。
たとえば、「××年○月○日に締結した○○契約(以下原契約という。)について、原契約第○条に規定する契約金額を■円から▲円に変更する。」とし、「その他の条項は原契約通りとし、有効に存続するものとする。」として原契約との関連をつけて覚書を取り交わします。
なお、新しい契約書を作成する場合には、これまであった契約書を失効させる旨を記載することが必要です。
7)契約違反をした場合はどうなりますか
ポイント:損害賠償の責任を負ったり、契約を解除・解約されたりします。
契約の相手方が契約不履行や契約条項に違反した場合は、相手方は3つのことができます。
第1は履行の強制をすること |
第2は損害賠償を請求すること |
第3は契約の解除・解約を主張すること |
そして、損害賠償請求と解除・解約は、そのどちらかだけをすることも、両方することもできます。
これまで契約不履行となるのは、履行しない原因が相手方にある場合でした。これを専門用語でいうと、「帰責事由」(責めに帰すべき事由)がある場合でした。ここでの帰責事由とは、債務者の故意(わざと履行しない)又は過失(不注意)のことをいいます。
しかし、昨今の社会的事情を踏まえ、民法の改正(令和2 年4 月1 日から施行)により、次の改正がなされています。
〇不履行が債権者の責めに帰すべき事由による場合には、解除を認めるのは不xxなので、解除はできないとしています。(民法第543条)
〇債務不履行による解除一般について、債務者の責めに帰することができない事由によるものであっても解除を可能なものとしています。(民法第541条・542条)
なお、債務不履行等による契約違反が生じた場合で、契約書に損害賠償の規定がない場合においても、原則として、民法 415 条(債務不履行による損害賠償)に基づき、債務の不履行をした者に対して民法の定める範囲の損害賠償を請求できることになっています。
8)損害賠償の条項とは何ですか
ポイント:あらかじめ契約書に損害賠償の額又は範囲を規定しておくことです。
損害賠償の額をめぐって紛争がおきることがしばしばあります。このような紛争を避けるために、債務不履行がおきた場合の損害賠償額又は範囲を、あらかじめ当事者間で合意しておくことができます。これを損害賠償額の予定、あるいは違約金条項といいます。
これまでは、この合意がある場合は、債務者は、実際の損害額とは関係なくこの予定額を支払わなければなりませんでしたし、逆に、どんなに賠償額が予定賠償額よりより多かったとしても、やはり予定賠償額しか認められませんでした。
このようなことは、合理性を欠くものとして、民法の改正(令和2 年4 月1 日から施行)により、関連の規定が次のように削除されました。今後は、実情に応じて合理的に判断されることになります。
【改正前】民法第420条 | 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額 を増減することができない。 |
【改正後】民法第420条 | 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。(改正前の条文のアンダーライン部分 は削除) |
9)契約終了後も契約書を保管しなければなりませんか。また、契約書xxを紛失した場合、どうすればよいですか
ポイント:契約書は、法律で一定期間の保管が求められています。また、契約終了後で も、その契約について何か問題があったときに対処できるように、すぐに処分しないほうがよいです。重要な契約書は、原則xx保管とすることがよいでしょう。
法人税法上は、法人税の申告期限から起算して 7 年間の保管が求められています。会社
法上は、満期日・解約日から起算して 10 年間の保管が求められています。
また、契約書xxを紛失した場合、簡便な方法としては、相手方からコピーをもらうことです。この場合、コピーを提供する側の当事者は、必ず契約書の各ページの右下に自社の印鑑を押印するか、又は渡す人のイニシャルサインをして、コピーを受け取る側の当事者が改ざんしないように気をつける必要があります。
なお、場合によっては、当事者の合意で新たに契約を締結する方法もありますが、時間のロス等を考えるとあまり効率的ではありません。
10)契約の内容について当事者間で争いが起きた場合、どうすればよいですか ポイント:当事者同士で解決できない場合は、裁判、仲裁、調停等で解決することにな ります。
契約の当事者間に発生する契約の紛争は、当事者間の話し合い、裁判、仲裁、調停等により解決されます。紛争が生じた場合、最初の当事者の取るべき手段は協議ですが、協議によって円満に解決できない場合、一般的には裁判によりなされます。
裁判以外の紛争解決手段として仲裁又は調停があります。
仲裁は、当事者が現在又は将来の紛争についての判断を第三者である仲裁人に委ねて判断に服することです。仲裁判断は、裁判所の判決と同一の効力があります。
なお、裁判と仲裁の大きな違いは、裁判は一般的には公開主義ですが、仲裁は非公開が原則であることです。
調停は、裁判のように勝ち負けを決めるのではなく、話合いによりお互いが合意することで紛争の解決を図る手続です。調停手続では、社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ調停委員が、裁判官とともに、紛争の解決に当たっています。
11)裁判管轄の合意とは何ですか
ポイント:当事者間に争いが生じたときxxでxxな解決をはかるために、当事者間であ らかじめ、争いが起きた場合に利用する裁判所を合意することです。
当事者間で争いが生じたとき、それぞれの当事者が自らにとって有利になると思われる裁判所に提訴しようとします。これではxxでxxな解決にならないおそれがあります。
これを避けるために、当事者は、訴訟を提起する裁判所をあらかじめ合意することができます。これを裁判管轄の合意といいます。
合意管轄の制度は、民事訴訟法第 11 条第 1 項に、「当事者は、第xxに限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。」として定められている法律上の制度です。
契約条文の一例は次の通りです。
第○条(紛争の解決)
本契約に関し発生する紛争又は解釈上に疑義を生じた場合には、当事者の協議により、円満に解決するものとする。
2 前項により解決することのできない紛争については、東京地方裁判所をもって第xxの専属的合意管轄裁判所とする。
12)下請代金支払遅延等防止法(下請法)について教えてください
ポイント:下請取引のxx化及び下請事業者の利益保護のため、親事業者には 4 つのx xと 11 の禁止行為が課されています。
中小企業、小規模事業者が親事業者から受注して取引を行う場合、下請事業者となる中小企業、小規模事業者は、親事業者から一方的に値下げや支払遅延を要求されることがあります。そこで、立場が弱い下請事業者を守るためにできた法律が「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)です。
xx取引委員会は、下請代金支払遅延等防止法の運用に当たり、違反行為を未然に防ぐ観点から「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成 28 年 12 月改正)を公表し
ています。以下に、親事業者の 4 つの義務と 11 の禁止行為を記します。(以下に記載されている条数は全て下請法における条数です。)
【親事業者の4つの義務】 | |
①書面の交付義務(第3条) | 発注の際は、原則として、直ちに、下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法等を記載した書面を交付 すること |
②支払期日を定める義務 (第2条の2) | 下請代金の支払期日を給付の受領後60日以内に定めること |
③書類の作成・保存義務 (第5条) | 下請取引の内容を記載した書類を作成し、2年間保存すること |
④遅延利息の支払義務 (第4条の2) | 支払が遅延した場合は遅延利息を支払うこと |
【親事業者の11の禁止行為】 | |
①受領拒否(第4条第1項第1号) | 注文した物品等の受領を拒むこと |
②下請代金の支払遅延(第4条第1 項第2号) | 下請代金を支払期日までに支払わないこと |
③下請代金の減額(第4条第1項第 3号) | あらかじめ定めた下請代金を減額すること |
④返品(第4条第1項第4号) | 受け取った物を返品すること |
⑤買いたたき(第4条第1項第5 号) | 類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金 を不当に定めること |
⑥購入・利用強制(第4条第1項第 6号) | 親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること |
⑦報復措置(第4条第1項第7号) | 下請事業者が親事業者の不xxな行為をxx取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して、取引数量の削減・取引停止等の不 利益な取扱いをすること |
⑧有償支給原材料等の対価の早期決済(第4条第2項第1号) | 有償で支給した原材料等の対価を、当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相 殺したり支払わせたりすること |
⑨割引困難な手形の交付(第4条 第2項第2号) | 一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認 められる手形を交付すること |
⑩不当な経済上の利益の提供要請 (第4条第2項第3号) | 下請事業者から金銭、労務の提供等をさせること |
⑪不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(第4条第2項第4 号) | 費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさせること |
親事業者がこれらの義務又は禁止行為に違反した場合は、罰金や違反行為に対する勧告がなされます。ただし、下請法の対象となる取引は事業者の資本金規模と取引の内容により異なりますので、不明な点は、弁護士やxx取引員会に問い合わせてください。
13)製造物責任法(PL法)について教えてください
ポイント:PL法によると、製造物(製品)に欠陥があり、それによって損害を受けた ことを被害者が証明できれば、メーカーから損害賠償を受けることができます。
例えば、Aさん宅にあるテレビが発火して家が火事になってしまったとします。この場合、どのようにしてAさんはメーカーに損害賠償を請求できるでしょうか。
ここで注意すべきことは、上述の債務不履行責任や契約不適合責任(17 ページ参照)は、契約関係にある当事者間においてのみ認められるということです。Aさんが売買契約を結 んだのは小売店であって、メーカーではないとすると、メーカーに契約不適合責任を問う ことはできません。
このような場合は、メーカーの「製造物責任」が問題となります。「製造物責任」とは、製造物に欠陥があり、それによって消費者が被害を受けた場合、メーカーが損害賠償責任を負うことをいいます。
製造物責任法(PL法)の下では、製品の「欠陥」を証明すればよいとされています。製造した企業に必ずしも過失が認められなくても、製品の欠陥(下記をご参照ください。)があれば責任を負わせるという考え方です。これを無過失責任といいます。
製造物責任法(PL法)の「欠陥」(同法第2条第2項)
当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造者等が当該製造物を引き渡した時期にその他当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。
14)秘密保持契約とは何ですか
ポイント:秘密保持契約は、秘密にしている情報などが漏洩されるのを防ぐための必要最小限の取り決めです。
秘密保持契約は、一方の当事者から相手方に対し又は両当事者が相互に、その保有する秘密情報を相手方に開示し、特定の目的に使用することを認めるとともに、当該情報が第三者に知られて財産的価値を失うことを回避するために締結するものです。
契約の形式としては、秘密保持契約書に両当事者が調印(サイン)する形の他、秘密保持の義務を負う当事者が、相手方に対して「念書」「誓約書」「確認書」等の書面を差し出す(提出する)形もあります。
秘密情報を保有し、これを開示しようとする情報開示者は、秘密保持を要する情報を開示することが分かっている場合はもちろん、情報受領者に対し詳細な説明を行うに際してどのような質問が出てくるか分かりませんので、詳細な説明を行うに際しては秘密保持を要する情報の開示の有無にかかわらず秘密保持契約を締結しておくことが必要です。
また、この場合の秘密保持契約は、情報受領者が情報開示者に対して一方的に義務を負う誓約書形式のものでもかまいませんが、取引が進展するにつれて、情報受領者における開示を受けた技術情報の活用目的や方法について言及することがありますので、最終的には、情報開示者と情報受領者とが同等の権利・義務を有する形式の契約とすることが多いといえます。
秘密保持契約書を作成するための留意点としては、例えば、次のものがあります。
①秘密保持の対象となる技術情報の特定 |
②技術情報の取扱い(秘密保持) |
③技術情報の使用目的の特定(目的外使用の禁止) |
④技術情報の使用結果の報告 |
⑤使用目的を達成した場合の次のステップへの移行 |
⑥秘密保持期間 |
⑦秘密保持期間終了後の技術情報の取扱い |
15)営業秘密と不正競争防止法の関係について教えてください
ポイント:営業秘密は、不正競争防止法に定められている知的財産です。
日本企業のグローバルな事業展開とともに、我が国に蓄積された重要な技術情報が海外に流出する事件が相次いだことを受け、企業における営業秘密管理の重要性が認識されるようになりました。このような背景の下で、不正競争防止法に営業秘密の関連規定が定められています。
経済産業省は、不正競争防止法を所管し、また TRIPS 協定など通商協定を所掌する行政の立場から、企業法務において課題となってきた営業秘密の定義等について、イノベーションの推進、海外の動向や国内外の裁判例等を踏まえて「営業秘密管理指針」(平成 15 年 1
月 30 日)を公表しています。
これに対応し、漏洩防止ないし漏洩時に推奨される包括的対策に関し、「秘密情報の保護ハンドブック」(平成 28 年 2 月)を公表しています。同ハンドブックに関しては、50 ページをご参照ください。
以下に、不正競争防止法と営業秘密について記します。
※「不正競争防止法」とは何ですか?
・不正競争防止法第1条は、「この法律は事業者間のxxな競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係わる損害賠償に関する措置等を講じ、もって、国民経済の健全な発展に寄与する事 を目的とする」と規定しています。 |
・知的財産である営業秘密を保護するのが、不正競争防止法です。不正競争防止法は、xxな競争秩序維持の見地から、競争秩序を破壊する行為を規制するも のです。 |
・同法第4条は、「故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。・・・・・・」と規 定しています。 |
・不正競争防止法(平成30年改正)において、商品として広く提供されるデータや、コンソーシアム内で共有されるデータなど、事業者等が取引等を通じて第三者に提供するデータを念頭に、「限定提供データ」が定義され、営業秘密と同様に「限定提供データ」に係る不正取得、使用、開示行為が不正競争として位置づけられたことを受け、経済産業省は、「限定提供データに関する指針」 (平成31年1月23日)を公表し、企業等に適正な管理を求めています。 |
※「営業秘密」とは何ですか?
・営業秘密とは、知的財産の1つです。秘密として管理されている生産方法、販売 方法、 その他の事業活動に有用な、技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいいます。 |
・営業秘密として扱っている技術情報は、主に、未公開特許情報、製造図面、製 品仕様書、実験データ、分析データ等です。 |
・営業秘密として扱っている営業情報は、顧客リスト、販売マニュアル、販売価 格等です。 |
※ 営業秘密として保護されるのには、どのような要件が必要ですか?
・ 不正競争防止法によって「営業秘密」が保護されるためには、対象となる営業秘密が、次の 3 つの要件をすべて備えている必要があります。
① 秘密として管理されていること | ・事業者が情報を秘密として管理しているだけでは不十分で、客観的に見て秘密として管理されていると認識できる状態であることが必要です。 ・秘密の客観的認識とは「極秘」「秘」「社外秘」等適切な秘密表示をした上で、守秘義務、使用制限義務を課すこと、従業者に指導し周知徹底すること、秘密情報を台帳管理すること等をいいます。 ・情報が秘密であることを認識できることが必要です。 |
② 事業活動に有効な技術上又は営業上の情報であること | ・情報が客観的に事業活動に使用され、又は使用されることによって、費用の節約や経営効率の改善等に、現在のみならず将来の事業にも役立つものであり、活用できる情報であることが必要です。 ・公序良俗に反する内容の情報は、有効性があるとは認められま せん。 |
③ 公然と知られていないこと | ・いくら企業が秘密として管理し、その情報が社会的意義をもっていたとしても、すでに社会で知られている情報であれば、保護するのは適当ではありません。 ・一般にアクセスし得る情報は、非公知とはいえません。 ・一般に入手不可能なものでなければなりません。 |
※ 営業秘密を管理する重要な課題はどのようなことですか?
①自社にとって重要な情報を大切にすること | ・自社で培った技術やノウハウが意図しないで流出してしまう事態やただ乗りして利益を上げるよう な他者の行為を防止する必要があります。 |
②自社の従業員が他社の営業秘密を侵害しないこと | ・自社の営業秘密を守ると同時に他社からの開示、提供を受けた他社営業秘密に対しても、侵害しな いように注意を払う必要があります。 |
③企業と従業員とが共通の認識を持って取り組むこ と | ・企業と従業員が協力して組織として営業秘密管理に対する共通の認識を持つことが重要です。 |
★営業秘密に係る不正な取得・使用開示行為を不正競争防止法では「不正競争」といいます。不正競争行為は次の 6 つのパターンに分けられます。
※ どのような行為が「不正競争行為」に該当しますか?
①窃盗、詐欺など不正な手段で営業秘密を取得する行為又はそれを使用、開示す る行為 |
②不正な手段で取得した者から直接又は間接的に営業秘密を取得する行為又はそ れを使用、開示する行為 |
③不正な手段で取得されたとは知らずに取得したが不正取得したと知った後もそ の営業秘密を使用又は開示する行為 |
④正当に営業秘密を取得した者でも、営業秘密の保持者と競争関係の事業を自ら行なったり、他人に行なわせたり、又損害を与えるような使用又は開示をする 行為 |
⑤不正開示行為又は不正開示行為が介在したことを知って、営業秘密を取得し、 それを使用又は開示する行為 |
⑥営業秘密を取得した後に、不正開示行為があったこと、又介在したことを知っ てからも、その営業秘密を使用又は開示する行為 |
※ 「営業秘密」の民事上の保護とは?
不正競争行為に対しては、差止め、損害賠償、信用回復措置の請求が可能です。
①差止請求権 (3条) | 営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれが生じた場合に、侵害の停止又は予防に必要な行為を請求する ことができます。 |
②損害賠償請求権 (4条) | 「故意又は過失」により営業上の利益が侵害された場 合、損害賠償を請求することができます。 |
③信用回復措置請求権 (14条) | 「故意又は過失」により信用を害された場合には、謝罪広告等の営業上の信用回復上、必要な措置を求めること ができます。 |
※ 「営業秘密」の刑事上の適用とは?
①悪質な行為は刑事罰の対象 | ・営業秘密の不正な取得・使用・開示のうち悪質な行為を行った者は刑事罰の対象となり ます。 |
②国外犯も刑事罰の対象 | ・日本国内で管理されている営業秘密を、海 外で不正な使用、開示する行為も刑事罰の対象となります。 |
③法人も処罰の対象 | ・営業秘密の不正な取得・使用・開示行為についてそれを行なった行為者のみならず、その者が所属する法人も処罰の対象となりま す。 |
16)電子契約について教えてください
ポイント:書面の作成と押印に代わり、電子署名とタイムスタンプを用いて締結される 契約です。
一般の慣行では、当事者間で契約における合意内容を証明する目的で契約書が作成され、署名・捺印又は記名・押印が行われます。
電子契約は、書面での契約書に代わり、電子データに電子署名することで、これまでの契約書と同様の証拠能力が認められる契約です。
近年、押印廃止の流れから電子契約が普及していますが、電子契約を用いるには電子契約サービスを提供するシステムを利用するケースがほとんどです。各システムにより使用方法や契約締結方法が異なりますので、利用する際にはよく検討・確認することが必要です。
また、契約の相手方から電子契約の利用を要請された際もよく説明を受け、自社の方針と異なると感じた際には従来通り書面での契約締結を提案してみてください。
関連の法律上の規定を記します。
民事訴訟法第228条
第1項 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
第4項 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
電子署名及び認証業務に関する法律第3条
電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの・・・は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名・・・が行われているときは、真 正に成立したものと推定する。