Contract
( 要約)
フランチャイジーの労働者性に関する日独比較研究
xx xx
序章 はじめに
本論文は、フランチャイズ契約の一方当事者であり、契約形式上は独立した事業者として扱われるフランチャイジー(加盟者)が、契約の相手方であるフランチャイザー(本部)との関係で事実上従属的な地位に立つ場合が少なくないことに鑑み、フランチャイジーに対する労働法的保護の可能性とその内容について検討したものである。
フランチャイジーの労働者性という問題は、日本においてはごく近年になって顕在化したものであるが、ドイツにおいては遅くとも 1980 年代から裁判例及び学説上の議論の蓄積が見られる。また、両国間では労働者性判断の基準及び方法に少なからぬ共通点が見られ、さらに、いずれもフランチャイズ契約の規制に特化した法典(フランチャイズ法)を持たず、同契約に対する規制が民法や経済法など様々な法分野において行われることが予定されているという意味で、フランチャイズ契約をめぐる法状況も共通している。
そこで、本論文では、まず本テーマに関する日本の問題状況を整理した上で、ドイツの裁判例及び学説を紹介し、それを踏まえつつ日本法のもとで今後この問題をどのように考えていくべきかということにつき、一定の方向性を示すことを試みる。
第1章 日本における議論状況
1 個別的労働関係法上の労働者への該当性
(1) 裁判例
一般に、個別的労働関係法上の労働者性は、当該就業者について①指揮監督下の労働と
②報酬の労務対償性という2つのメルクマールの充足が認められるかという観点から、実質的・総合的に判断されるものである。そして、限界事例においては、事業者性の有無や専属性の程度といった補強的な判断要素も考慮される。
これに対し、日本国内でフランチャイジーの個別的労働関係法( 労働基準法・労働契約法) 上の労働者性について初めて判断を示した裁判例であるセブン-イレブン・ジャパン(共同加盟店主)事件・東京地判平成 30 年 11 月 21 日労判 1204 号 83 頁は、従来補強的な判断要素と位置付けられてきた事業者性を中心に据える判断方法を採用した。すなわち、同判決は、フランチャイジーである原告が「独立の事業者」として加盟店を「経営」していたことは、同人の労働者性と「本質的に相容れない」ことであると述べ、原告が一定の事業者性を備えていることを所与の前提とした上で、原告の就労実態を見ても、「原告の事業者性を減殺して、原告の労働者性を積極的に肯定できるまでの事情」はないとして、原告の労働者性を否定する判断を下した。
一般に、フランチャイズ契約は、独立した事業者間の契約と考えられていると ころ、上記判決は、このようなフランチャイズ契約の特性に着目し、それに特有 の判断枠組みを採用したものと解される。その意味では注目に値する判決といえ るが、同判決が、フランチャイジーの事業者性を措定する上で根拠としたのは、 契約の文言のみであって、この点は、労働者性判断は形式的ではなく実質的な観 点から行われるべきであるという大原則との関係で問題を含むものと考えられる。
(2) 学説
xxxxxxxxの個別的労働法上の労働者性について、学説上の議論は未だ活発とはいえないが、それを類型的に否定する見解と、契約関係の実態によっては( 個別的判断の結果として) それが認められうるとする見解が存在する。
2 集団的労働関係法上の労働者への該当性
(1) 命令例
フランチャイジーの集団的労働関係法( 労働組合法)上の労働者性については、労働委員会の不当労働行為救済命令において判断された例が複数存在する。都道府県労働委員会では、コンビニ店主( 2例)及び学習塾の教室指導者( 1例)について、いずれも労働者性が肯定された。それに対し、中央労働委員会( 中労委)では、上記コンビニ店主についての都道府県労働委員会の判断がいずれも覆され、その労働者性を否定する決定が下されており、現在はそれらに対する取消訴訟が係属している。
このうち、コンビニ店主に関する各中労委命令は、従来の裁判例や命令例とは異なる観点を導入するものであった。従来、労働組合法上の労働者性は、①事業組織への組入れ、②契約内容の一方的・定型的決定、③ 報酬の労務対価性、④ 業務の依頼に応ずべき関係、⑤広い意味での指揮監督下の労務提供及び時間的・場所的拘束、⑥顕著な事業者性という6つのメルクマールの充足の有無についてそれぞれ別個に検討を行い、最終的にそれらの検討結果を総合する形で判断が行われてきた。それに対し、上記中労委命令は、まず、①についての判断の中で、加盟者が本部との関係で「独立した事業者」といえるか否かを検討し、これを肯定した。そして、後続する各メルクマールの判断においても、加盟者が独立した事業者である以上、その活動が制約を受けるとしても、それは加盟者による労務供給ではなく事業者としての事業活動に対する制約であるなどとして、労働者性を基礎づける事情とはならないという評価を繰り返し示した。
このような手法は、前記1 (1)で紹介した判決と同様に、事業者性についての判断を労働者性判断の中心に据えるものといえ、フランチャイジーについて特有の判断方法を採用したものと評価する余地がある。もっとも、上述のような独立事業者性に係る検討において用いられている観点は、⑥の「顕著な事業者性」の判断における考慮要素と重なるものが多く、かつ、上記中労委命令は「顕著な事業者
性」の有無についても別途判断を行っていることから、判断基準の体系が把握しにくくなっていることは否めない。
(2) 学説
フランチャイジーの労働組合法上の労働者性については、近年になって上述のようなコンビニ店主に係る労働委員会の各命令が現れ、それらについて少なからぬ研究者が評釈を行ったことにより、俄かに学説上の議論が活性化した。
そもそもフランチャイジーが労働組合法上の労働者に該当しうるかという点については、一部には類型的にこれを否定する見解も存在するが、個別的判断の必要性を認める見解が大勢を占める状況にあるといえる。
さらに、一部の学説は、フランチャイジーの労働者性判断に当たり、フランチャイズ契約の特質を考慮すべきことを指摘する。すなわち、フランチャイジーは、フランチャイズ・パッケージ( フランチャイザーから提供される事業上の権利やノウハウの束) の利用を義務づけられることにより、業務の依頼に応ずべき関係に立たされ、また労務提供に関し広い意味で指揮監督を受けることになるが、それによって事業者としての利得の機会が向上するという側面にも目を向けるべきであるとする。
第2章 ドイツにおける議論状況
1 労働者( Arbeitnehmer) への該当性
(1) 裁判例
フランチャイジーの労働者性について判断したドイツの裁判例を見ると、1980 年代中頃までは、フランチャイズ契約において一般的・典型的なフランチャイジーの拘束につい
て、労働法的な指揮命令と評価することに消極的であり、結論として労働者性を否定する傾向が見られた。
しかし、1987 年には、そのような従来の傾向とは一線を画す裁判例が現れた。すなわち、“Xxxxxxx’ Xxxxxxxxx I”決定(デュッセルドルフ州労働裁判所 1987 年 10 月 20日)は、ワインの販売代理店を営む「パートナー」が販売会社との間で締結した代理店契約はフランチャイズ契約の性格を併せ持つものであるとした上で、「パートナー」が事業所組織法 5 条 1 項の「労働者」に該当することを認めた。同判決は、販売会社が「パートナー」に対して事業運営に関する指示を発していたことに着目し、それがフランチャイズ契約に通例のものであるということには特段の意義を認めず、そのような指示を労働者性を基礎づける事情として考慮した。
2000 年代に入ってからは、連邦通常裁判所のものを含め、小売店を経営するフランチャイジーの労働者性を否定した裁判例が複数存在するが、他方で、レンタルビデオ店を経営するフランチャイジーについてそれを肯定したものも 1 例存在する。
なお、以上の各裁判例は、フランチャイジー一般の労働者性について判断したものではな
く、当該事案の個別具体的な事実関係を踏まえた事例判断であり、これは後記2(1)で紹介する「労働者類似の者への該当性」に関する裁判例についても同様である。
(2) 学説
学説では、まず、フランチャイジーの労働者性を類型的に否定する見解が存在する。その論拠としては、①商法典 84 条以下において、代理商が独立した自営業者として、労働法の枠外で特別な保護を受けることが定められているところ、典型的なフランチャイジーも、代理商と同様の態様で他の事業者( フランチャイザー) の販売組織に組み入れられており、かつ、その程度は代理商に比べて小さいことから、代理商と同様に労働法の保護の枠外に置かれるべきとする勿論解釈や、
②典型的なフランチャイズ契約ではフランチャイジーの法的独立性がその核心において保証されており、それとは別に生じる周辺的な保護の必要性は、商法典の代理商に関する規定や民法典の普通取引約款に関する規定により十分に満たされるということなどが挙げられている。
しかし、契約の自由も無制限に認められるものではなく、労働法を含む法律に よる規制を受けるべきものであるから、当事者がフランチャイズ契約という形式 を選択することによって当然に労働法の適用を免れることを認めるべきではなく、フランチャイジーについても、その労働者性の有無を個々の事案に応じて総合的に判断す べきであるとする立場が学説上は一般的である。
次に、フランチャイジーの労働者性の判断に当たり、フランチャイズ関係に典 型的に存在する制約を労働者性を基礎づける事情とみるべきかどうかについては、学説上も見解が分かれている。これを否定的に解する見解は、かかる制約は商品・サービス の品質の保持、ひいてはブランドの保護に不可欠のものであり、フランチャイジーの利益のためにも存在していることを指摘したり、人的従属性の要素である命令拘束性
(Weisungsgebundenheit)を基礎づけるには契約類型に由来する従属性では基本的に不十分であり、それを超えるような命令権が存在しなければならないと主張したりする。これに対し、上記の制約がフランチャイジーの労働者性を基礎づけることを肯定する見解は、フランチャイズ契約に典型的な条項が、同時に労働契約に典型的な内容にもなりうること、フランチャイズ契約以外にも契約の自由と労働法とがせめぎ合う領域にある契約類型は存在することなどを指摘する。
2 労働者類似の者( arbeitnehmerähnliche Personen) への該当性
(1) 裁判例
ドイツでは、労働法の全面的な適用対象者である労働者とは別に、その部分的な適用対象者である「労働者類似の者」という概念が存在する。労働者が人的従属性(persönliche Abhängigkeit)によって特徴づけられるのに対し、労働者類似の者は、労働者ほどの人的従属性はないが、経済的従属性(wirtschaftliche Abhängigkeit)及び社会的保護の必要性(soziale Schützbedürftigkeit)があることによって、労働裁判所におい
て裁判を受ける権利や労働協約の適用を受ける権利などを認められている。
フランチャイジーに関しては、1990 年代後半に、トラックを用いて冷凍食品の 訪問販売を行うフランチャイジーが労働者類似の者に該当すると判断した最高裁判所レ ベルの裁判例が2つ現れ、大いに注目を集めた。このうち、“Eismann I”決定(連邦労働裁 判所 1997 年 7 月 16 日)は、過去に同一のフランチャイズ・システムに加盟するフランチ ャイジーの労働者及び労働者類似の者への該当性を否定した“Xxxxxxx”判決(xxxxx xx・xxxxxxx州高等裁判所 1986 年 8 月 27 日)を引き合いに出し、同判決が、フ ランチャイザーのフランチャイジーに対するxxな命令権を、フランチャイズ契約の性質 に由来するものであるとして労働者性等を基礎づける事情とは認めなかったことについて、循環論法に基づくものであると批判した。
しかし、2000 年代前半には、小売店を経営するフランチャイジーの労働者類似の者への 該当性を否定する連邦通常裁判所の裁判例が2つ現れ、そのうち“Vom Fass”決定(連邦通 常裁判所 2002 年 10 月 16 日)は、直接的には労働者性に関して述べたことであるが、フ ランチャイズ・システムが機能するためには一定の統制が必要であるということを理由に、契約外の第三者からの仕入れについてフランチャイザーの同意を得る義務があったことを、労働法的な観点から意味のある制約とは評価しなかった。
これに対し、レストランを経営するフランチャイジーが労働者類似の者に該当することを認めた近時の“Flammkuchenhaus”決定(ザールブリュッケン州高等裁判所 2011 年 4 月
11 日)は、上記“Eismann I”決定等の参照を指示した上で、フランチャイジーが労働者ないし労働者類似の者であるか否かは、一般的に用いられている判断基準に依拠して判断すべきことを明言した。
(2) 学説
フランチャイジーの労働者類似の者への該当性については、学説上、労働者性とは切り離してそれのみが検討されることは多くないが、基本的には前記1 (2)で紹介した議論が同様に妥当するものと考えられる。
第 3 章 考察
1 フランチャイジーの労働者性―― 要件論
(1) 個別具体的判断の必要性
学説では、フランチャイズ契約には経済法による規制や判例による契約法上の保護が存在することから、特に個別的労働関係法による保護について、その必要性を否定する見解が存在する。
確かに、独立した事業者間におけるギブ・アンド・テイクの取引関係と謳われるフランチャイズ契約は、そのような理念型に沿って運用される限りでは、経済法等の規制があれば十分とも考えられよう。しかし、現実には、当事者間の大きな交渉力格差を背景とし て、xxxxxxxxがフランチャイジーの事業運営を厳しく拘束し、フランチャイジー
自身が相当な長時間勤務を余儀なくされるといった事態が生じている。かかる事案がたとえ例外的なものであったとしても、そのような契約関係に対し、契約形式にかかわらず強制的に規制を加えていくことは、労働法が本来的に果たすべき機能であるはずである。したがって、フランチャイジーについても、一律に労働者性を否定することは妥当でなく、個別具体的な判断を行うことが要請される。
(2) フランチャイズ関係に典型的な制約に対する評価姿勢
個別的労働関係法上の労働者性についてのリーディング・ケースであるxxx労基署長
(旭紙業)事件・最一小判平成 8 年 11 月 28 日労判 714 号 14 頁は、業務の一般的な性質上当然に必要とされる拘束を、労働者性判断において度外視するという態度を示しており、このような考え方は、フランチャイズ関係に典型的な制約は労働者性を基礎づける事情にはならないとする考え方と親和性があるようにも思われる。
この問題を考える上では、次の 2 点を予め確認しておく必要がある。第一に、同事件に
.....
おいて、最高裁は、「運送という業務の性質上」という表現を用いていることから、業務の
性質による必要性の有無は、当該契約に基づく具体的な受託業務ではなく、運送業務一般を基準として判断されているということである。そして、そのような、業務の性質上当然に必要であると認められた指示の対象は、「運送物品、運送先及び納入時刻」に限定されており、「運送経路、出発時刻、運送方法等」といった、運送業者の側で決定しうる事項には及んでいない。したがって、最高裁が「業務の性質上当然に必要」と認める制約としては、当該業務類型の一般的な性質から、その遂行のために不可欠と認められる程度のものが想定されていると考えられる。
第二に、フランチャイズ契約に典型的な制約と、フランチャイジーが行う対象業務(小売、飲食、サービス等)の性質に由来する制約とはそれぞれ別個のものであり、上記最高裁判決が示したのは後者のような制約についての判断だということである。
これらのことを踏まえて考えると、例えば、フランチャイザーが作成したマニュアル等を介してフランチャイジーが定型的・画一的な店舗運営を義務づけられることは、フランチャイズ・パッケージの提供とその利用を本質的な要素とするフランチャイズ契約にとっては内在的な制約といいうるが、小売業や飲食業といった対象業務にとっては、その性質上当然に必要なものとはいえない。したがって、このように、フランチャイズ契約についてのみ典型的といえる制約については、上述のような最高裁の考え方は直ちには及ばないものと解される。
(3) 個々の事情の評価に関する解釈論上の問題
フランチャイズ関係に特徴的な諸事情については、それらが一般的な労働者性の判断基準の下でどのような意義を持つかということも重要な問題となる。
例えば、フランチャイズ契約では、フランチャイザーからフランチャイジーに対して、事業遂行の見返りに金銭を支払うことは通常想定されていない。このことは、労働者性判断の一要素である「報酬の労務対償(価)性」についての判断を行う上で、そもそも報酬の支払
という前提条件を欠くことになるのではないかという疑問を生じさせる。
また、コンビニ店主などのフランチャイジーは、自ら従業員を雇用して事業を行う場合が多く、このことは、これまで労基法上ないし労組法上の労働者性が肯定されてきた個人の委託型就業者には見られない大きな特徴である。かかる事情をどのように評価するかということも、労働者性判断の結論を大きく左右しうる問題と考えられる。
本論文では、これらのように判断実務上及び理論上重要と考えられる問題について、日本及びドイツの議論や裁判例・命令例を参照しながら、立ち入った考察を試みている。
2 フランチャイジーの労働者性―― 効果論
(1) 集団的労働関係法上の労働者性が肯定される場合
フランチャイジーの労働組合法上の労働者性が肯定される場合、フランチャイジーが主体となり、経済的地位の向上を目的としてつくられる結社は、労働組合としての地位を認められる。その結果、当該団結体は、フランチャイザー又はその団体と団体交渉を行い、労働協約を締結し、また不当労働行為制度による保護を受けることができる。さらに、正当な争議行為については刑事・民事責任を免除される。
以上のような権利の保障に関連して、フランチャイジーを組織する労働組合が団体交渉を申し入れた場合に、フランチャイザーないしその団体はいかなる事項について団交に応じる義務を負うかということや、そのような団体交渉の結果として労働協約が締結された場合に、条文上は「労働契約」の内容を上書きするという労働協約の規範的効力が、フランチャイズ契約にも同様に及ぶかということが重要な理論的課題となる。本論文では、これらのような論点についても検討を行っている。
(2) 個別的労働関係法上の労働者性が肯定される場合
フランチャイジーの個別的労働関係法上の労働者性が肯定される場合、当該フランチャイズ関係に対しては、上記(1)で述べた労働組合法の諸規定に加え、労働基準法や労災保険法、労働安全衛生法、最低賃金法等の取締法規や、解雇や雇止めに関する規制を含む労働契約法の適用も及ぶことになる。
(3) 労働法と経済法(独占禁止法)の適用関係をめぐる問題
フランチャイズ関係(におけるフランチャイザーの行為)に対しては、もとより様々な経済法的規制が適用されうる。とりわけ、経済法の基本法と位置付けられる独占禁止法に関しては、同法と労働法との適用関係をどのように整序するかということが問題となる。独占禁止法上の「不xxな取引方法」に対する規制は、まず、行為の主体が同法にいう
「事業者」に該当することを適用要件とするが、行為の客体や被保護者も「事業者」でなければならないかについては議論の余地があると解される。すなわち、同法の「不xxな取引方法」に関する規定には、行為の客体や被保護者を「事業者」とするものと、これを
「相手方」や「競争者」・「顧客」とするものとが共に見られるからである。この点につ き、経済法学説では、行為の客体を「相手方」とする優越的地位の濫用に対する規制は、消費者(独占禁止法上は、事業者概念の裏返しとしての意味しか持たないとされる。)に
対する行為にも適用されうるとの見解が示されている。そして、上記の諸規制のうち、フランチャイズ関係に適用が及びうると考えられているものは、いずれも行為の客体や被保護者を「相手方」や「競争者」・「顧客」とするものであるから、これらの規制に関する限りにおいて、フランチャイジーが独禁法上の「事業者」に該当するか否かは問題にならないと解する余地がある。
そのように解する場合には、フランチャイジーに労働者性が認められる場合であって も、同人が独占禁止法上の「事業者」に該当するか否かを検討する必要はなく、フランチャイズ関係に対する労働法的規制と経済法的規制は理論上両立することになろう。
終章 総括と展望
1 本研究の成果
本研究では、日本とドイツの両国における法状況を踏まえつつ、フランチャイジーの労働者性判断に関する要件論として、①フランチャイズ関係に対してそもそも労働法の適用を及ぼしうるか、②フランチャイズ関係に典型的な制約を、労働者性を基礎づける事情として評価すべきか、③日本法における一般的な労働者性の判断基準の下で、フランチャイズ関係に特徴的な諸事情がいかなる意義を有するかという問題を中心に、筆者自身の考察を展開した。さらに、フランチャイジーの労働者性判断に関する効果論として、④個別的労働関係法上または集団的労働関係法上の労働者性が認められた場合の具体的な法律効果について、フランチャイズ関係に即して説明を行い、また⑤フランチャイズ関係に対する労働法規制と独禁法規制の適用関係について、日本の経済法学説や労働法学説を参照しながら考察を行った。
それらに関する記述の中で、フランチャイジーの労働者性という、日本においては比較的新しいテーマについて、ドイツの議論を参照することで得られた知見をも取り入れつつ、今後考察を深めていくべき論点を整理し、それぞれの論点について多少なりとも議論の枠組みや方向性を示すことができたのではないかと考える。
2 今後の課題
(1) フランチャイジーの地位の二面性に起因する問題
xxxxxxxxが自ら従業員を雇用している場合に、フランチャイジーの労働者性が肯定されると、フランチャイジーについて(異なる相手方との関係で)労働者としての地位と使用者としての地位が併存しうることになる。このようなフランチャイジーの地位の二面性は、フランチャイザー、フランチャイジー、加盟店従業員を当事者とする三面関係において、さらに複雑な法律問題を派生させることが予想される。
具体的には、フランチャイジーに雇用される加盟店従業員との関係で、フランチャイザーの労組法上の使用者性が認められるかということや、フランチャイジーで組織する労働組合が、加盟店の営業を中止する態様の争議行為を行った場合に、労務を提供できなくなった加盟店従業員がフランチャイジーに対して賃金ないし休業手当を請求しうるかという
ことが重要な検討課題になると考えられる。
(2) 立法的対応によるフランチャイジーの保護の可能性
本研究は、フランチャイズ関係に対する労働法の適用可能性について検討を行ったが、立法論としては、フランチャイズ契約を正面から規制する特別法を制定することの必要性も指摘されている。フランチャイズ関係に対する法の適用が不明瞭かつ不十分である現状を打開していく上で、このような立法は一つの有力な方途となりえよう。もっとも、こうしたフランチャイズ規制法が成立しても、フランチャイジーについて労働法の適用を除外する規定が置かれることのない限り、労働者性の審査そのものが直ちに排除されることにはならない。他方、こうした法律によってフランチャイジーの活動に対する制約が緩和され、その従属性が減少する限りで、総合判断の結果として労働者性が肯定されにくくなるという事実上の効果は生じうるであろう。