静岡銀行(頭取 八木 稔)では、SDGs への取り組みの一環として、株式会社巧工業(社長 渡辺光弘)と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(※)」契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
2024.3.29
㈱巧工業と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の契約を締結
静岡銀行(xx xx x)では、SDGs への取り組みの一環として、株式会社巧工業(社長 xxxx)と「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(※)」契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
※企業活動が環境・社会・経済のいずれかの側面において与えるインパクトを包括的に分析し、特定されたポジティブインパクトの向上とネガティブインパクトの低減に向けた取り組みを支援する融資
1.契約日 3 月 29 日(金)
2.融資金額 1 億円
3.資金使途 設備資金
4.㈱巧工業の取り組みについて(詳細は「評価書」をご参照ください)
〇同社は、金属表面へ多種多様な処理を行う加工業者であり、静岡県東部地域を中心に取引先は 500 先以上にのぼり、地域のめっき加工等を集約的に担っています。
〇また、同社が所在する長泉町は、xxxxxに属し豊かな水質に恵まれた地域であることから、創業当初から環境意識は高く、排水処理設備を導入するなど地域の水資源の保全に取り組んでいます。
今回、同社の企業活動が社会・環境・経済に与えるインパクトを、以下のとおり評価しました。
環境面 | ・地域のめっき加工集約による薬液および排水のxx管理(薬液の安全な使用、徹底した排水管理) ・気候変動対策(効率的なエネルギー利用) |
|
社会面 | ・人材育成(基礎的なめっき知識の教育、手動式ラインの新設、新たな業務への挑戦によるモチベーション向上と多能工化、資格取得支援など) ・労働安全衛生の徹底(保護具の着用徹底、他社事例共有や危険予知活 動による安全意識の向上、設備面での安全性確保) |
|
経済 面 | ・多種多様なめっき加工を担う専業工場(14ラインを有する幅広い金属表面処理、科学技術庁長官賞を受賞する独自技術の開発、xx先にも対応する1点からの受注体制) |
5.その他
(1)インパクト評価/国連環境計画金融イニシアティブが提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」およびポジティブインパクトファイナンスタスクフォースが提唱した「インパクトファイナンスの基本的考え方」に基づき、一般財団法人静岡経済研究所が㈱日本格付研究所の協力を得て評価を実施
(2)モニタリング体制/一般財団法人静岡経済研究所とともに「ポジティブ・インパクト金融原則」に従い構築した内部管理体制のもと、インパクト評価で特定した KPI について、融資期間中における借入人のインパクトパフォーマンスのモニタリングを実施
【ご参考】㈱巧工業の概要
所在地 | xxxxxxxx000-0 | 創 業 | 1963 年 |
従業 員 | 47 名 | 売上高 | 675 百万円(2023 年 7 月期) |
ポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書
評価対象企業:株式会社巧工業
2024 年 3 月 29 日
一般財団法人 静岡経済研究所
目 次
3-1 UNEP FI のコーポレートインパクト分析ツールを用いた分析 16
3-2 個別要因を加味したインパクトエリア/トピックの特定 16
3-3 特定されたインパクトエリア/トピックとサステナビリティ活動の関連性 17
静岡経済研究所は、静岡銀行が、株式会社巧工業(以下、巧工業)に対してポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施するに当たって、巧工業の企業活動が、環境・社会・経済に及ぼすインパクト(ポジティブな影響及びネガティブな影響)を分析・評価しました。
分析・評価に当たっては、株式会社日本格付研究所の協力を得て、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」及び ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に則った上で、中小企業※1に対するファイナンスに適用しています。
※1 IFC(国際金融公社)または中小企業基本法の定義する中小企業、会社法の定義する大会社以外の企業
巧工業は、金属表面へ多種多様な処理を行う加工業者である。1963 年に創業し、依頼に応えていく中で加工技術を培い、現在は 14 ラインを有するほど広範囲にわたる表面処理を可能として
いる。また、取引先は静岡県東部地域を中心に 500 先以上あり、地域のめっき加工等を集約的に担う存在となっている。
同社の事業活動は、環境面においては、徹底した排水管理や廃液の安全な処理が環境への負荷を低減しているほか、廃棄物の適正処理や周辺環境へ配慮した大気及び臭気、騒音への対策、効率的なエネルギー利用が環境リスクを軽減している。社会面においては、基礎的な化学知識から 教えるめっき指導や、手動式のめっきライン新設、資格取得支援によって人材教育を推進する。さら い、働きやすい職場の整備や労働安全衛生の徹底で、従業員が生き生きと働ける環境を醸成して いる。経済面においては、地域に欠かせない役割を担う多種多様な金属表面処理が行える専業工場で企業競争力を強化することに加え、めっきの品質を安定化させる分析力が企業価値の向上 に繋がっている。
巧工業のサステナビリティ活動等を分析した結果、ポジティブ面では「教育」、「雇用」、「賃金」、
「零細・中小企業の繫栄」が、ネガティブ面では「健康および安全性」、「社会的保護」、「ジェンダー平等」、「年齢差別」、「その他の社会的弱者」、「気候の安定性」、「水域」、「大気」、「資源強度」、「廃棄物」がインパクトエリア/トピックとして特定され、そのうち、環境・社会・経済に一定の影響が想定され、巧工業の経営の持続性を高める 5 つの活動について、KPI が設定された。
今回実施予定の「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」の概要
金額 | 100,000,000 円 |
資金使途 | 設備資金 |
モニタリング期間 | 10 年 0 カ月 |
企業名 | 株式会社巧工業 |
所在地 | xxxxxxxxxxx 000-0 |
従業員数 | 47 名 |
資本金 | 3,000 万円 |
業種 | 金属表面処理業 |
主要加工技術 | 電気めっき 無電解めっき陽極酸化処理化成処理 化学研磨 電解研磨 ブラスト処理バフ研磨 |
関連会社 | 株式会社 IMA |
沿革 | 1963 年 創業 1965 年 工場建設(旧工場) アルマイト処理、銅及びニッケル‐クロムライン導入 1968 年 分析室を新設、めっき液濃度等の数値管理を開始 1971 年 排水処理設備を設置 1976 年 新工場を建設、自動のニッケル‐クロムラインを導入 1979 年 無電解ニッケルラインを導入 1982 年 ニッケルめっきの高速化を実現(科学技術庁長官賞を受賞) 1984 年 屈折したパイプ内部への無電解ニッケルめっき工法を考案(科学技術庁長官賞を受賞) 1990 年 第二工場を建設、自動のアルマイトラインを始め無電解ニッケルライン等の設備を導入 1991 年 分析室へ走査型電子顕微鏡等の分析機器を導入 1993 年 ハードディスク向け精密ネジへの電解研磨を実現(科学技術庁長官賞を受賞) 1997 年 シンガポールの Unisteel 社と業務提携 2000 年 シンガポールで合弁会社を設立 2006 年 代表取締役が現社長へ交代 中小企業庁「元気なモノづくり中小企業 300」に選出事務所を新設移転 医療用チタンネジの電解研磨を開始中国で合弁会社を設立 2008 年 海外事業を売却 2009 年 関連会社 ㈱IMA 設立 長尺の物品に対する無電解ニッケルめっきへ対応 2017 年 現工場の隣地を購入 2018 年 隣地に第三工場を建設 |
(2024 年 3 月 29 日現在)
1. 事業概要
1-1 事業概況
巧工業は、電気めっきや無電解めっき、陽極酸化処理、化成処理といった金属表面への多種多様な加工を行う企業である。1963 年の創業時は、硬質クロムめっきと亜鉛バレルめっきの2種類のみを行っていたが、依頼に応えていく中で加工技術を培い、現在は、14 ラインを有するほど広範囲にわたる表面処理を可能としている。
取引先は、静岡県東部地域の製造業者を中心に 500 先以上あり、その分野も多岐にわたる。治工具を始め産業機械や生産設備、電気装置、弱電設備、農業機械等、様々な製造企業と取引関係を築いており、地域にとって欠かせない存在となっている。
<巧工業が保有する加工技術例>
資料:同社提供資料に基づき当所にて作成
同社の電気めっき加工は、注文品を専用のめっき治具で吊るし、タンク槽内で静止させてめっきを施す「ラック方式」が中心である。この方式は、注文品を一点一点治具に取り付けてめっきするため、手間がかかる一方、形状や素材に合わせて柔軟に対応できる、多品種少量に向いた加工方法となっている。なお、めっき加工は、注文品の表面に付着している汚れや機械油を綺麗に取り除く必要があるとともに、処理工程の度に薬液を洗い流して次の工程に影響が出ないようにしなければならないため、非常に多くの加工工程を経る。
<巧工業の製造工程例>
資料:同社提供資料に基づき当所にて作成
同社では、ラック方式だけでなく、「バレル方式」の加工ラインも有している。同方式は、大量生産される小型の製品をバレルと呼ばれる樽型のかごに投入し、一度にめっき処理を施す加工方法である。同社は、ネジといった部品に対してバレル方式のニッケルめっき加工を行っている。
<サプライチェーンにおける役割>
めっき等の金属表面処理業は、それ自体が最終製品とはならず、製造工程の一工程を担う受注型産業である。中でも、電気めっきは、金属製品に装飾や防錆・耐食、耐摩耗、電導といった機能を付加する様々なめっきがあり、依頼する事業者の業種も幅広い。一方で、薬品等への知識が欠かせない特殊な加工方法であることに加え、めっき加工設備や排水及び廃液の処理設備への設備投資負担が大きく、中小企業では専門分野に特化せざるを得ず、事業領域の拡大が難しい。
主要取引先に合わせた加工ラインを構築し、売上の大半をその主要取引先数社で構成している事業者が多い中、同社では、積極的な技術獲得と設備投資によって幅広い加工に対応できるラインを整備し、取引先が特定の分野に偏ることがないようにしているほか、1点からでも加工を受け付ける体制を構築している。このような加工体制を構築している同社は、地域の製造業が滞りなく最終製品まで生産するために、なくてはならない存在である。
また、過去にはアメリカの General Electric 社のキーサプライヤーとして認められていた実績もある。ニッケルめっきにおいて、超高速加工を実現したことで、洗濯機に用いられる部品を年間 130 万本納入した上で、不良品を一切出さなかった。
▲General Electric 社からの表彰されたキーサプライヤー賞 資料:同社提供資料
1-2 経営理念
巧工業は、「近在他社でやらない表面加工をご相談下さい」をキャッチフレーズに、同業他社が行わない仕事を積極的に引き受けてきた。この背景には、絶え間なく進歩を続ける産業界のニーズは、常に変わりゆくため、新たな技術の獲得は事業の将来に欠かせないという考えがある。そこで、近隣の同業他社が行わない、できないことにチャレンジし続けることで、自社の新技術の確立や販路の拡大、人材や設備面の充実を図ることで成長を遂げてきた。
その結果、同社であれば他社では引き受けてもらえなかった加工でも依頼できる認識が定着し、キャッチフレーズ通りに様々な加工の相談が持ち込まれるようになっている。さらに、注文品が1点であっても加工を引き受けることをポリシーとしており、地域の製造業者に不可欠なインフラとしての役割も果たす。
1-3 業界動向
【金属表面処理業の現況】
金属表面処理業は、依頼主から要求された仕様に基づき加工を行う受注型産業であることから、取引先の業界の好不調に影響を受ける。同社は、幅広い金属表面処理を実施しているため、取引先の業種は多岐にわたり、特定の業種に偏らない事業体制を築いている。
同社の業種を日本標準産業分類で当てはめると、「電気めっき業」及び「その他の金属表面処理業」が該当する。これらの業種の製造品出荷額等をみると同様の動きをしており、加工処理が不可分であることがわかる。2008 年のリーマンショックで落ち込んだ後は、緩やかな回復基調にあったが、近年のコロナ禍で、製造業全般でサプライチェーンの混乱が起こり、2020 年には下落に転じた。一方で、事業所数は減少が続いている。静岡県東部地域も同様で、創業当時の 1960 年代
は 40 社以上のめっき事業者がいたが、2000 年代になると約 20 社まで減少し、現在では 8 社となっている。安価な賃加工であるめっき加工等は、地域に事業者がいなければ運送費用等によりコストが大幅に増加してしまうことになる。そのため、多種多様な加工を行える巧工業は、地域の製造業者にとって欠かせない存在である。
資料:経済産業省「工業統計調査」、「経済センサス 活動調査」
1-4 地域課題との関連性
【第2次長泉町環境基本計画】
巧工業が所在する長泉町は、xxxxxに属しており豊かな水質に恵まれた立地である。そこで、地球温暖化や河川の汚濁といった環境問題は対処するべき課題と認識xxx、2010 年には
「長泉町環境基本条例」を施行した。2012 年に「長泉町環境基本計画」を、2022 年に「第2次長泉町環境基本計画」を策定している。2031 年度までの長期的な視点に立った本計画では、 30 年後に実現させたい環境像を「望ましい環境像」として、その実現のために実施していく施策や基本的な方向性を示している。
資料:長泉町「第2次長泉町環境基本計画」をもとに作成
巧工業においても、地域の水資源の重要さを理解しており、創業当初から排水への環境意識を高く持っていたことから、同業他社に先駆けて排水処理設備の導入を果たしている。現在でも、自社の排水を常時監視し、長泉町の豊かな自然に悪影響が及ぶことの内容に取り組んでいる。
2. サステナビリティ活動
2-1 環境面での活動
(1)地域の加工集約による薬液及び排水のxx管理
めっき液を始めとした薬液には、毒劇物が含まれたものが多く、管理及び処理体制の確立が事業活動をする上で最低条件となる。そこで、同社では適切な薬品管理とともに廃液、排水処理を厳格に行うことで、環境負荷の低減に努めている。
水質汚濁防止法の施行以前は、自社でめっき加工を行う事業者が多くいたものの、コストがかかる排水処理設備を有している事業者は少なく、廃液及び排水処理が適切になされていない状況が散見されていた。そのような中、同社は使用する薬品の危険性を正しく認識し、水質汚濁防止法前には他社に先駆け排水処理設備を導入していた上、厳格な排水基準が求められるようになった施行後も問題なく適切な処理が実施できていた。加えて、対応に苦慮していた小規模事業者の受け皿となり、めっき加工を引き受けることで、地域のサプライチェーン維持と環境保全の両立に同社は貢献している。
現在は、排水設備でシアン系及びクロム系、中和系の排水処理を実施するとともに、排水基準となる濃度値を常時監視し、ログとして記録している。さらに、疑似メーターで視覚的にも判別できるように独自にシステムを構築し、事務所内のモニターに投影することで、万が一、異常が発生した場合でも即時に対応できる体制を整えている。この独自のシステムは、保健所の検査時に優れた取組みと評されるほど徹底されており、同社が注力していることがわかる。なお、このように排水管理を厳格に行えるのは、過去に別会社で排水設備を製造していたノウハウを有するからである。
▲濃度値を常時監視する排水処理設備 資料:同社提供資料
また、同社の排水処理設備では、基準を守るように薬剤が自動的に投入され、有害な成分を凝集する処理を行う。凝集された成分はフロックとして発生し、沈殿分離装置で水と分離させ、粘度の高いスラリーにした後、さらにフィルタープレス機を使用して凝縮、固形化してから廃棄物として排出す
ることで、減容化を図り適切にマニフェスト処理をしている。このほか、金といった貴金属に関しては、イオン交換樹脂を利用して回収し、有価物として専門業者に販売している。
(2)環境汚染リスクの低減
同社では、注文品の梱包材として用いられていた新聞紙等の燃えるゴミやビニールが廃棄物として多く発生する。依頼者が加工時に使用した機械油等の汚れが付着してしまっており、入念な洗浄工程を経ためっき加工後には、再利用することができないため、廃棄物として排出せざるを得ない。そこで同社では、油圧プレスで圧縮した後、燃えるゴミについては自社内の焼却炉で処理し、ビニールについてはサーマルリサイクルを実施する事業者へ引き渡して適切に処理している。また、燃えるゴミの焼却処理は、ダイオキシン類を除去できる二次燃焼が可能な焼却設備を利用するほか、発生した灰についてもダイオキシン測定検査を業者に依頼し実施して安全性を確保している。廃棄量としては、燃え殻が年2tほど、ビニールごみが年 1.2tほど排出される程度で、いずれもマニフェスト処理によって厳正に管理している。
さらに、大気や臭気についても環境に影響を及ぼさないよう配慮している。具体的には、スクラバーで有害物質及びばい塵を吸着し、正常化してから工場屋根といった高所から排気することで対処している。このほか、周辺環境への配慮も欠かしておらず、騒音について、工場のスレート壁を二重にして音が外に漏れだすこと防いでいる。このような取組みによって、周辺住民からの苦情はほとんど発生していない。
(3)気候変動対策
気候変動対策として効率的なエネルギー使用にも取り組む。デマンドコントローラーを導入し、過剰な電気使用を抑制していることに加えて、照明の LED 化もxx進めているほか、加工ラインでは蒸気熱の回収によるタンク槽の保温等、効果的な利用を試みている。今後は、自社の GHG 排出量を算定し、全社的な使用量を把握した上で、削減に向けて取り組む方針である。
▲切り替えを進めた工場内の LED 照明 資料:同社提供資料
2-2 社会面での活動
(1)人材育成
巧工業の加工技術は、化学や電気化学、機械工学といった分野の知識が必要とされるが、未経験者でも問題なく業務に携われるように基礎的な内容も含めて教育を実施している。たとえば、基本となる電気化学や薬品の取扱方法、前処理の必要性については、映像資料等を用いて従業員全員に教えている。
次に、新人教育では、XXX による丁寧な指導を行う。マンツーマン指導により、設備の動かし方だけでなく、実際のめっき加工を通じて、めっきがどのように施されるのかを図解によって原理まで解説し教育している。さらに、同社には、様々な加工ラインがあることから、一定のレベルに達した新人については、別の加工ラインを任せることで新しい業務に触れる機会を創出し、モチベーションを維持向上させることで多能工化に繋げている。加えて、手動式の加工ライン新設により、若手従業員の技術力向上も図る。現有設備のほとんどが自動化されたラインであることから、めっきの加工過程がわかりにくい部分があった。同設備を導入することで、工程毎の様子が確認できるようになり、理解を深めてもらうことに役立てていく。このほか、珍しい加工処理を行う場合は、若手従業員を呼び集めて実施しており、貴重な機会の共有も行っている。
▲新設した手動式のめっきライン 資料:同社提供資料
さらに、従業員の能力向上が期待できる資格取得への支援も行っており、試験料や講習費用はすべて会社が負担することで挑戦しやすい環境を醸成している。中でも、同社の事業活動上、欠かすことのできない「公害防止管理者 水質関係第2種」は5名、「毒物劇物取扱者」は4名が資格を保有している。これらの資格取得後には資格手当を付与し、若手従業員に対して積極的な獲得を促している。
(2)労働安全衛生の徹底
危険な薬品を扱うため、従業員の安全衛生確保は事業の持続性に直結する。保護具の着用徹底や他社事例の共有はもちろん、薬品の取り扱いに関する教育を化学知識と合わせて入社時に一通り教えるほか、月頭朝礼でも継続的に勉強会を開催し注意を促している。このほか、社長が
日々現場を見回り、従業員とともに危険予知活動を行っており、ステップ横への手すりの取付や落下防止柵の設置等を行い、安全性を向上させている。そのため、同社ではこれまでタンク槽への落下といった死亡に繋がる労災事故は発生していない。一方で、不注意による転倒が労災事故を引き起こす事例は僅かながらあり、その場合にはしっかりと発生状況の周知と事後の防止策検討、労災保険による補償を徹底し、従業員の安全衛生向上を図っている。
(3)働きやすい職場の整備
同社では、業務の効率化や多様な人材の活躍を推進しており、働きやすい職場の整備に力を注いでいる。特に、多品種少量でのめっき加工を強みとしていることから、数多く加工依頼が来るため注文受付や伝票発行の作業量が膨大となってしまう。同社では、この業務に毎日 3 時間近くの作業時間を要していたが、バーコード利用による物品照合と情報の自動登録、入力作業の簡易化を果たしたことで、作業時間が 1 時間程に短縮しており、作業効率を大幅に改善させた。このような業務改善の取組みは創業当時からあり、注文品の形状が取引先によって異なることから個別の単価表を作成する必要があったため、早期から高額なオフィスコンピューターを導入して、顧客リストをデータ管理することで作業負担の軽減に取り組んでいた。
また、かねてよりフレキシブルな勤務時間での就労を認めており、作業量が多くなる時間帯(9~ 15 時)以外であれば短時間勤務を可能としている。子どもの送迎を行いたい従業員2名が利用しており、柔軟な勤務体制が整備されている。加えて、従前より産休への理解を社長自ら明言し、業務量の負担が偏らないように有期契約社員や派遣社員を計画的に雇用することで、同社では産休による退職者はほとんどおらず、復職がしやすい環境が整っている。
さらに、時間外労働は、36 協定を結んで法令を遵守するとともに、長時間労働とならないように管理している。従業員の大半は 10~20 時間/月程度に収まっており、最長でも 30 時間前後に抑制されている。加えて、有給休暇についても、年5日以上の取得は徹底した上で、希望に応じて取得できるような環境を醸成しており、2割程の従業員は年 15 日以上取得している。
このほか、高齢者雇用では、過去に 60 歳で入社し 82 歳まで働いた従業員の実績があるほか、現在でも 70 代の従業員が活躍していることに加え、障がい者の雇用もこれまでに 4 名以上受け入れ、現在でも 1 名の雇用を実施しており、多様は人材が働きやすい職場となっている。
2-3 経済面での活動
(1)多種多様な金属表面処理を担う専業工場
巧工業は、数々の挑戦によって新技術を獲得し続けてきたことで、14 ラインに及ぶ金属表面処理技術を保有する。近隣に同社のような専業工場があることはサプライチェーンの観点からも非常に重要である。特に、電気めっき等の加工は、排水設備や廃液管理等にコストがかかるものの、安価な賃加工として提供されるため、小規模事業者が自身で行うことが難しい。さらに、遠方の電気めっき業者に依頼した場合、加工費よりも高額な配送代金が発生する可能性が高い。そのため、同社のように幅広い金属表面処理をカバーする事業者が、地域に存在することは地域経済に好影響を与えるものである。
また、他社にはない独自技術も生み出している。まず、通常の 50 倍近い速度でニッケルめっきを施す超高速ニッケルめっき処理である。厳格なジュール熱の管理と、適切な電気量の見極めにより同技術を実現しており、年間 130 万品という世界的な電機メーカーの大量生産の需要に応えた。次に、射出成型機の金型内にある屈曲した冷却水管へのめっき加工技術である。冷却水管内は温度変化が激しく、めっきを施していない場合は 2 年程で目詰まりが発生しまう上、屈曲した管内の目詰まりを取り除く作業は手間がかかる。そのため、同技術の実現前はコストを掛けて金型全体をめっきせざるを得なかったが、必要な箇所だけにめっき加工を行える技術を確立したことで、大幅なコスト低減を可能とした。結果、納品先の企業のコスト削減に大きく貢献したことで、現在まで 40 年近くにわたり同様の加工を受注できている。最後は、HDD 用の精密ネジへの電解研磨で、これまで大きな物品でしか用いられていなかった電解研磨を長さ2mm×直径 0.8mm の極小ネジに対して、数ミクロン単位で行うことを可能とした革新的な加工技術である。最盛期には1週間で 2,000 万本、世界シェアの約7割に当たる生産量を誇っていた。今後も、これまで同様に新技術獲得に積極的に動くとともに、仕様書の改善に努めることで、次世代へ技術を着実に承継していく方針である。
▲めっき加工が行われる自動ライン(右)とマルチテストライン(左) 資料:同社提供資料
(2)品質を安定化させる分析力
充実した検査・分析測定機器を配備した分析室も同社の強みの一つである。創業から間もない 1968 年に分析室を設け、同業他社が職人の経験に頼るめっき液管理を行う中、成分濃度の数値管理を開始したことをきっかけに、1991 年には走査型電子顕微鏡を始めとする分析機器を導入した。近年においては、走査型電子顕微鏡を最新鋭のものに切り替えるほか、元素分析装置を導入し、さらなる検査・分析測定の高度化を図っている。
また、薬液の品質管理では、現在、めっき液だけでなく前処理や後処理に使用するすべての薬液について、週 1 回分析し、徹底した数値管理を実施している。結果は、時系列データを分析室に掲示するほか、技術部署から現場に報告書として回覧している。この報告書をもとに、現場担当者は自身の管理表に薬液濃度をプロットしており、作業量と薬液濃度の変化を確認している。数値管理と共に、濃度コントロールのノウハウを体得することで、めっき品質の安定化を実現している。
▲掲示されている薬液濃度分析結果の時系列データ 資料:同社提供資料
なお、同社の検査・分析測定機器には、めっき液の管理等に用いる「原子吸光分析装置」や
「可視紫外分光光度計」のほか、めっきの膜厚を計る「蛍光 X 線膜厚計」、めっき被膜の硬さを測定する「微小硬さ試験機」、さらには被めっき素材やめっき皮膜の表面を観察及び分析する「走査型電子顕微鏡」や「エネルギー分散型 X 線分析装置」を保有することに加え、陽極酸化被膜等の特殊な皮膜を測定する「渦電流式膜厚計」や、HDD 用部品のクリーンネス検査測定に使用する
「イオンクロマトグラフィ分析装置」がある。このような充実した設備によって、めっき加工の精度を向上させているとともに、めっき不良の原因究明を行うことで品質の向上に努めている。
▲同社の分析室に配備されている「微小硬さ試験機」(左)、「元素分析装置」(中)、「走査型電子顕微鏡」(右)
資料:同社提供資料
3. 包括的分析
3-1 UNEP FI のコーポレートインパクト分析ツールを用いた分析
「UNEP FI のコーポレートインパクトインパクト分析ツール」を用いて、巧工業の金属表面処理事業を中心に、網羅的なインパクト分析を実施した。その結果、ポジティブ・インパクトとして「雇用」、
「賃金」、「インフラ」が、ネガティブ・インパクトとして「健康および安全性」、「賃金」、「社会的保護」、
「気候の安定性」、「水域」、「大気」、「資源強度」、「廃棄物」が抽出された。
3-2 個別要因を加味したインパクトエリア/トピックの特定
巧工業の個別要因を加味して、同社のインパクトエリア/トピックを特定した。その結果、同社のサステナビリティ活動に関連のあるポジティブ・インパクトとして「教育」、「零細・中小企業の繁栄」を、ネガティブ・インパクトとして「ジェンダー平等」、「年齢差別」、「その他の社会的弱者」を追加した。一方で、ポジティブ・インパクトのうち地域住民の生活インフラへのアクセス性を高めるような取組みがないことなどから「インフラ」を削除し、ネガティブ・インパクトのうち適切な給与支払いを着実に実施していることから「賃金」を削除した。
3-3 特定されたインパクトエリア/トピックとサステナビリティ活動の関連性
巧工業のサステナビリティ活動のうち、環境面においては、地域の加工集約による薬液及び排水のxx管理が、「水域」(ネガティブの低減)や「資源強度」(ネガティブの低減)、「廃棄物」
(ネガティブの低減)に該当し、環境汚染リスクの低減が、「大気」(ネガティブの低減)や「廃棄物」(ネガティブの低減)に該当する。さらに、効率的なエネルギー使用による気候変動対策」が、
「気候の安定性」(ネガティブの低減)への貢献が認められる。
社会面においては、人材育成が、「教育」(ポジティブの増大)や「賃金」(ポジティブの増大)に資する取組みと評価される。また、働きやすい職場の整備が、「雇用」(ポジティブの増大)や「賃金」(ポジティブの増大)に該当する。また、人材育成の試験費用補助は、「社会的保護」(ネガティブの低減)に該当する。労働安全衛生の徹底への取り組みが、「健康および安全性」(ネガティブの低減)や「社会的保護」(ネガティブの低減)への貢献が認められるほか、働きやすい職場の整備に関する取組みが、「社会的保護」(ネガティブの低減)や「ジェンダー平等」(ネガティブの低減)、「年齢差別」(ネガティブの低減)、「その他の社会的弱者」(ネガティブの低減)に資する取組みと評価できる。
経済面においては、多種多様なめっき加工を担う専業工場としての取り組みや品質の安定化を実現する分析力は、「零細・中小企業の繫栄」(ポジティブの増大)への寄与が認められる。
3-4 インパクトエリア/トピックの特定方法
「UNEP FI コーポレートインパクト評価ツール」を用いたインパクト分析結果を参考に、巧工業の サステナビリティに関する活動を同社の HP、提供資料、ヒアリングなどから網羅的に分析するとともに、同社を取り巻く外部環境や地域特性などを勘案し、同社が環境・社会・経済に対して最も強いイン パクトを与える活動について検討した。そして、同社の活動が、対象とするエリアやサプライチェーンに おける環境・社会・経済に対して、ポジティブ・インパクトの増大やネガティブ・インパクトの低減に最も貢献すべき活動を、インパクトエリア/トピックとして特定した。
4. KPI の設定
特定されたインパクトエリア/トピックのうち、環境・社会・経済に対して一定の影響が想定され、巧工業の経営の持続可能性を高める項目について、以下の通り KPI が設定された。なお、モニタリング期間内に KPI の設定年が到来するものは、その年において再度 KPI を設定し、測定していく。
4-1 環境面
インパクトエリア/トピック | 水域(ネガティブの低減) 資源強度(ネガティブの低減) 廃棄物(ネガティブの低減) |
テーマ | 地域のめっき加工集約による薬液及び排水のxx管理 |
取組内容 | 薬液の安全な使用、徹底した排水管理 |
SDGs との関連性 | 2030 年までに、有害化学物質、並びに大気、水 3.9 質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる。 |
2030 年までに、汚染の減少、投棄の廃絶と有害な化学物・物質の放出の最小化、未処理の排水 6.3 の割合半減及び再生利用と安全な再利用の世界的規模で大幅に増加させることにより、水質を改善する。 | |
2020 年までに、合意された国際的な枠組みに従 い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質や全ての廃棄物の管理を実現し、人の健康 12.4 や環境への悪影響を最小化するため、化学物質 や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。 2030 年までに、廃棄物の発生防止、削減、再 12.5 生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。 | |
KPI(指標と目標) | ① 引き続き徹底した排水管理体制を維持する |
インパクトエリア/トピック | 気候の安定性(ネガティブの低減) |
テーマ | 気候変動対策 |
取組内容 | 効率的なエネルギー利用 |
SDGs との関連性 | 全ての国々において、気候関連災害や自然災害 13.1 に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する。 |
KPI(指標と目標) | 2025 年までに、GHG 排出量の算定を開始し、削減目標につ ① いて検討するとともに削減に向けて取り組む |
4-2 社会面
インパクトエリア/トピック | 教育(ポジティブの増大)賃金(ポジティブの増大) 社会的保護(ネガティブの低減) |
テーマ | 人材育成 |
取組内容 | 基礎的なめっき知識の教育、手動式ラインの新設、新たな業務への 挑戦によるモチベーション向上と多能工化、資格取得支援、一部の資格で手当付与 |
SDGs との関連性 | 2030 年までに、技術的・職業的スキルなど、雇 用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必 4.4 要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増 加させる。 |
KPI(指標と目標) | 2029 年までに、毒物劇物取扱者の有資格者を新たに1名輩 ① 出する |
2029 年までに、公害防止管理者(水質関係第2種)の有 ② 資格者を新たに1名輩出する |
インパクトエリア/トピック | 健康および安全性(ネガティブの低減) 社会的保護(ネガティブの低減) |
テーマ | 労働安全衛生の徹底 |
取組内容 | 保護具の着用徹底、他社事例共有や危険予知活動による安全意識の向上、設備面での安全性確保 |
SDGs との関連性 | 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定 な雇用状態にある労働者など、全ての労働者の 8.8 権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進す る。 |
KPI(指標と目標) | タンク槽への転落等による重大な労災事故の発生を引き続きゼ ① ロにする |
4-3 経済面
インパクトエリア/トピック | 零細・中小企業の繫栄(ポジティブの増大) |
テーマ | 多種多様なめっき加工を担う専業工場 |
取組内容 | 14 ラインを有する幅広い金属表面処理、科学技術庁長官賞を受賞する独自技術の開発、xx先にも対応する1点からの受注体制 |
SDGs との関連性 | 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点 を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベ 8.2 ーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成 する。 |
KPI(指標と目標) | ① 2025 年までに、新たなめっき加工ラインを導入する |
2027 年までに、対応可能な表面処理の加工技術を1つ以上 ② 増やす | |
③ 新規取引先を年5先開拓する | |
➃ めっき加工を1品から受注する体制を維持する |
5. 地域経済に与える波及効果の測定
巧工業は、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスの KPI を達成することによって、5 年後の売上高を 10 億円に、従業員数を 55 人にすることを目標とする。
「平成 27 年静岡県産業連関表」を用いて、静岡県経済に与える波及効果を試算すると、この
目標を達成することによって、巧工業は、静岡県経済全体に年間 12 億円の波及効果を与える企業となることが期待される。
6. マネジメント体制
巧工業では、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスに取り組むにあたり、xx代表取締役社長が陣頭指揮を執り、社内の制度や計画、日々の業務や諸活動などを棚卸しすることで、自社の事業活動とインパクトレーダーやSDGsとの関連性、KPIの設定について検討を重ねた。
本ポジティブ・インパクト・ファイナンス実行後においても、xxxx取締役社長を最高責任者、xx営業部長を実行責任者とした、サステナビリティ推進委員会が中心となって展開していく。月頭朝礼や掲示板を通じて社内へ浸透させ、KPI の達成に向けて全従業員がxxとなって活動を実施していく。
最高責任者 | 代表取締役社長 xxxx |
実行責任者 | 営業部長 xxxx |
担当部署 | サステナビリティ推進委員会 (事務局:営業部) |
7. モニタリングの頻度と方法
本ポジティブ・インパクト・ファイナンスで設定した KPI の達成及び進捗状況については、静岡銀行と巧工業の担当者が定期的に会合の場を設け、共有する。会合は少なくとも年に1回実施するほか、日頃の情報交換や営業活動の場などを通じて実施する。
静岡銀行は、KPI 達成に必要な資金及びその他ノウハウの提供、あるいは静岡銀行の持つネットワークから外部資源とマッチングすることで、KPI 達成をサポートする。
モニタリング期間中に達成した KPI に関しては、達成後もその水準を維持していることを確認する。なお、経営環境の変化などにより KPI を変更する必要がある場合は、静岡銀行と巧工業が協議の上、再設定を検討する。
以 x
x評価書に関する重要な説明
1.本評価書は、静岡経済研究所が、静岡銀行から委託を受けて実施したもので、静岡経済研究所が静岡銀行に対して提出するものです。
2.静岡経済研究所は、依頼者である静岡銀行及び静岡銀行がポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施する巧工業から供与された情報と、静岡経済研究所が独自に収集した情報に基づく、現時点での計画または状況に対する評価で、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。
3.本評価を実施するに当たっては、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)が提唱した「ポジティブ・インパクト金融原則」に適合させるとともに、ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」に整合させながら実施しています。なお、株式会社日本格付研究所から、本ポジティブ・インパクト・ファイナンスに関する第三者意見書の提供を受けています。
<評価書作成者及び本件問合せ先>
一般財団法人静岡経済研究所
調査部 研究員 xx xx
〒420-0853
xxxxxxxx 0-00 xxxxx 0 x TEL:000-000-0000 FAX:000-000-0000
第三者意見書
2024 年 3 月 29 日株式会社 日本格付研究所
評価対象: 株式会社巧工業に対するポジティブ・インパクト・ファイナンス |
貸付人:株式会社静岡銀行 |
評価者:一般財団法人静岡経済研究所 |
第三者意見提供者:株式会社日本格付研究所(JCR) |
結論:
本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省のESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置さ
れたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
I. JCR の確認事項と留意点
JCR は、静岡銀行が株式会社巧工業(「巧工業」)に対して実施する中小企業向けのポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)について、静岡経済研究所による分析・評価を参照し、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)の策定したPIF 原則に適合していること、および、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的であることを確認した。
PIF とは、SDGs の目標達成に向けた企業活動を、金融機関が審査・評価することを通じて促進し、以て持続可能な社会の実現に貢献することを狙いとして、当該企業活動が与えるポジティブなインパクトを特定・評価の上、融資等を実行し、モニタリングする運営のことをいう。
PIF 原則は、4 つの原則からなる。すなわち、第 1 原則は、SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できるかまたはネガティブな影響を特定し対処していること、第 2 原則は、PIF 実施に際し、十分なプロセス、手法、評価ツールを含む評価フレームワークを作成すること、第 3 原則は、ポジティブ・インパクトを測るプロジェクト等の詳細、評価・モニタリングプロセス、ポジティブ・インパクトについての透明性を確保すること、第 4 原則は、PIF 商品が内部組織または第三者によって評価されていることである。
UNEP FI は、ポジティブ・インパクト・ファイナンス・イニシアティブ(PIF イニシアティブ)を組成し、PIF 推進のためのモデル・フレームワーク、インパクト・レーダー、インパクト分析ツールを開発した。静岡銀行は、中小企業向けの PIF の実施体制整備に際し静岡経済研究所と共同でこれらのツールを参照した分析・評価方法とツールを開発している。ただし、PIF イニシアティブが作成したインパクト分析ツールのいくつかのステップは、国内外で大きなマーケットシェアを有し、インパクトが相対的に大きい大企業を想定した分析・評価項目として設定されている。JCR は、PIF イニシアティブ事務局と協議しながら、中小企業の包括分析・評価においては省略すべき事項を特定し、静岡銀行及び静岡経済研究所にそれを提示している。なお、静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、中小企業の定義を、PIF 原則等で参照しているIFC の定義に拠っている。
JCR は、中小企業のインパクト評価に際しては、以下の特性を考慮したうえでPIF 原則との適合性を確認した。
① SDGs の三要素のうちの経済、PIF 原則で参照するインパクト領域における「包括的で健全な経済」、「経済収れん」の観点からポジティブな成果が期待できる事業主体である。ソーシャルボンドのプロジェクト分類では、雇用創出や雇用の維持を目的とした中小企業向けファイナンスそのものが社会的便益を有すると定義されている。
② 日本における企業数では全体の 99.7%を占めるにもかかわらず、付加価値額では 52.9%にとどまることからもわかるとおり、個別の中小企業のインパクトの発現の仕方や影響度は、その事業規模に従い、大企業ほど大きくはない。1
③ サステナビリティ実施体制や開示の度合いも、上場企業ほどの開示義務を有していないことなどから、大企業に比して未整備である。
II. PIF 原則への適合に係る意見
PIF 原則 1
SDGs に資する三つの柱(環境・社会・経済)に対してポジティブな成果を確認できるかまたはネガティブな影響を特定し対処していること。
SDGs に係る包括的な審査によって、PIF は SDGs に対するファイナンスが抱えている諸問題に直接対応している。
静岡銀行及び静岡経済研究所は、本ファイナンスを通じ、巧工業の持ちうるインパクトを、 UNEP FI の定めるインパクト領域および SDGs の 169 ターゲットについて包括的な分析 を行った。
この結果、巧工業がポジティブな成果を発現するインパクト領域を有し、ネガティブな影響を特定しその低減に努めていることを確認している。
SDGs に対する貢献内容も明らかとなっている。
PIF 原則 2
PIF を実行するため、事業主体(銀行・投資家等)には、投融資先の事業活動・プロジェクト・プログラム・事業主体のポジティブ・インパクトを特定しモニターするための、十分なプロセス・方法・ツールが必要である。
JCR は、静岡銀行がPIF を実施するために適切な実施体制とプロセス、評価方法及び評価ツールを確立したことを確認した。
(1) 静岡銀行は、本ファイナンス実施に際し、以下の実施体制を確立した。
1 経済センサス活動調査(2016 年)。中小企業の定義は、中小企業基本法上の定義。業種によって異なり、製造業は資本金 3 億円以下または従業員 300 人以下、サービス業は資本金 5 千万円以下または従業員 100 人以下などだ。小規模事業者は製造業の場合、従業員 20 人以下の企業をさす。
①PIFの申込み | ②PIF評価依頼 | レビュー依頼 | ||||
③インパクトの | ||||||
包括分析・特定 | ||||||
お客さま | ⑤目標・KPI等の協議 | 当行 | ④インパクトの還元 | 静岡経済研究所 | コメントバック | JCR |
⑥目標・KPI等の報告 | レビュー依頼 | |||||
⑨融資実行 | ⑦目標・KPI等の | |||||
PIF評価書交付 | 評価 | |||||
⑧PIF評価書作成 | コメントバック |
(出所:静岡銀行提供資料)
(2) 実施プロセスについて、静岡銀行では社内規程を整備している。
(3) インパクト分析・評価の方法とツール開発について、静岡銀行からの委託を受けて、静岡経済研究所が分析方法及び分析ツールを、UNEP FI が定めたPIF モデル・フレームワーク、インパクト分析ツールを参考に確立している。
PIF 原則 3 透明性
PIF を提供する事業主体は、以下について透明性の確保と情報開示をすべきである。
・本PIF を通じて借入人が意図するポジティブ・インパクト
・インパクトの適格性の決定、モニター、検証するためのプロセス
・借入人による資金調達後のインパクトレポーティング
PIF 原則 3 で求められる情報は、全て静岡経済研究所が作成した評価書を通して銀行及び一般に開示される予定であることを確認した。
PIF 原則 4 評価
事業主体(銀行・投資家等)の提供する PIF は、実現するインパクトに基づいて内部の専門性を有した機関または外部の評価機関によって評価されていること。
本ファイナンスでは、静岡経済研究所が、JCR の協力を得て、インパクトの包括分析、特定、評価を行った。JCR は、本ファイナンスにおけるポジティブ・ネガティブ両側面のインパクトが適切に特定され、評価されていることを第三者として確認した。
III. 「インパクトファイナンスの基本的考え方」との整合に係る意見
インパクトファイナンスの基本的考え方は、インパクトファイナンスを ESG 金融の発展形として環境・社会・経済へのインパクトを追求するものと位置づけ、大規模な民間資金を巻き込みインパクトファイナンスを主流化することを目的としている。当該目的のため、国内外で発展している様々な投融資におけるインパクトファイナンスの考え方を参照しなが
ら、基本的な考え方をとりまとめているものであり、インパクトファイナンスに係る原則・ガイドライン・規制等ではないため、JCR は本基本的考え方に対する適合性の確認は行わない。ただし、国内でインパクトファイナンスを主流化するための環境省及びESG 金融ハイレベル・パネルの重要なメッセージとして、本ファイナンス実施に際しては本基本的考え方に整合的であるか否かを確認することとした。
本基本的考え方におけるインパクトファイナンスは、以下の 4 要素を満たすものとして定義されている。本ファイナンスは、以下の 4 要素と基本的には整合している。ただし、要素③について、モニタリング結果は基本的には借入人である巧工業から貸付人である静岡銀行及び評価者である静岡経済研究所に対して開示がなされることとし、可能な範囲で対外公表も検討していくこととしている。
要素① 投融資時に、環境、社会、経済のいずれの側面においても重大なネガティブインパクトを適切に緩和・管理することを前提に、少なくとも一つの側面においてポジティブなインパクトを生み出す意図を持つもの
要素② インパクトの評価及びモニタリングを行うもの
要素③ インパクトの評価結果及びモニタリング結果の情報開示を行うもの
要素④ 中長期的な視点に基づき、個々の金融機関/投資家にとって適切なリスク・リターンを確保しようとするもの
また、本ファイナンスの評価・モニタリングのプロセスは、本基本的考え方で示された評価・モニタリングフローと同等のものを想定しており、特に、企業の多様なインパクトを包括的に把握するものと整合的である。
IV. 結論
以上の確認より、本ファイナンスは、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト・ファイナンス原則に適合している。
また、環境省の ESG 金融ハイレベル・パネル設置要綱第 2 項(4)に基づき設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」と整合的である。
(第三者意見責任者) 株式会社日本格付研究所
サステナブル・ファイナンス評価部長
梶原 敦子
担当主任アナリスト 担当アナリスト
川越 広志 間場 紗壽
本第三者意見に関する重要な説明
1. JCR 第三者意見の前提・意義・限界
日本格付研究所(JCR)が提供する第三者意見は、事業主体及び調達主体の、国連環境計画金融イニシアティブの策定したポジティブ・インパクト金融(PIF)原則への適合性及び環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内に設置されたポジティブインパクトファイナンスタスクフォースがまとめた「インパクトファイナンスの基本的考え方」への整合性に関する、JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、当該ポジティブ・インパクト金融がもたらすポジティブなインパクトの程度を完全に表示しているものではありません。
本第三者意見は、依頼者である調達主体及び事業主体から供与された情報及び JCR が独自に収集した情報に基づく現時点での計画又は状況に対する意見の表明であり、将来におけるポジティブな成果を保証するものではありません。また、本第三者意見は、PIF によるポジティブな効果を定量的に証明するものではなく、その効果について責任を負うものではありません。本事業により調達される資金が同社の設定するインパクト指標の達成度について、JCR は調達主体または調達主体の依頼する第三者によって定量的・定性的に測定されていることを確認しますが、原則としてこれを直接測定することはありません。
2. 本第三者意見を作成するうえで参照した国際的なイニシアティブ、原則等
本意見作成にあたり、JCR は、以下の原則等を参照しています。
国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブ・インパクト金融原則
環境省 ESG 金融ハイレベル・パネル内ポジティブインパクトファイナンスタスクフォース
「インパクトファイナンスの基本的考え方」
3. 信用格付業にかかる行為との関係
本第三者意見を提供する行為は、JCR が関連業務として行うものであり、信用格付業にかかる行為とは異なります。
4. 信用格付との関係
本件評価は信用格付とは異なり、また、あらかじめ定められた信用格付を提供し、または閲覧に供することを約束するものではありません。
5. JCR の第三者性
本 PIF の事業主体または調達主体と JCR との間に、利益相反を生じる可能性のある資本関係、人的関係等はありません。
■留意事項
本文書に記載された情報は、JCR が、事業主体または調達主体及び正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、またはその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、または当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCRは、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。本第三者意見は、評価の対象であるポジティブ・インパクト・ファイナンスにかかる各種のリスク(信用リスク、価格変動リスク、市場流動性リスク、価格変動リスク等)について、何ら意見を表明するものではありません。また、本第三者意見は JCR の現時点での総合的な意見の表明であって、事実の表明ではなく、リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするものでもありません。本第三者意見は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。
■用語解説
第三者意見:本レポートは、依頼人の求めに応じ、独立・中立・公平な立場から、銀行等が作成したポジティブ・インパクト・ファイナンス評価書の国連環境計画金融イニシアティブのポジティブ・インパクト金融原則への適合性について第三者意見を述べたものです。
事業主体:ポジティブ・インパクト・ファイナンスを実施する金融機関をいいます。
調達主体:ポジティブ・インパクト・ビジネスのためにポジティブ・インパクト・ファイナンスによって借入を行う事業会社等をいいます。
■サステナブル・ファイナンスの外部評価者としての登録状況等
・国連環境計画 金融イニシアティブ ポジティブインパクト作業部会メンバー
・環境省 グリーンボンド外部レビュー者登録
・ICMA (国際資本市場協会に外部評価者としてオブザーバー登録) ソーシャルボンド原則作業部会メンバー
・Climate Bonds Initiative Approved Verifier (気候債イニシアティブ認定検証機関)
■本件に関するお問い合わせ先
情報サービス部 TEL:03-3544-7013 FAX:03-3544-7026