・PFIの本質は、国民・市民にとってより利便性の高いサービスをより低廉な費用で提供するには何をするべきかを考えることである。したがってPFI契約の作成にあたっ ては、財政等の制約の下で、国民・市民のためのサービスの価値を最大化することを基本的な視点とすべきである。PFI 契約は、発注者である官と受注者である民との間の 契約であるが、以下に示す(2)から(8)について検討する際には、あくまで国民・市民のためのサービスの価値を最大化することが PFI の本質であることに常に立ち戻る必要がある。
資料 1
平成 20 年6月 26 日
標準契約書モデル及びその解説(案)の主要な論点
目 次
1.標準契約書モデル及びその解説書作成の経緯 3
2.本書(または標準契約書モデル)作成に当たっての基本的な考え方 4
第Ⅰ章 「状況変化に対応した柔軟なサービス内容・サービス対価の変更」に関する標準契約書モデル及びその解説(案) 9
Ⅰ.変更メカニズムに関する基本的な考え方 9
1.長期継続契約に関する基本的な考え方 9
2.契約条件の見直しの方法 10
3.変更に伴う価格変更の方法・サービス対価調整規定における調整額決定方法 11
4.財務モデル及びその他の条件の合意 11
Ⅱ.サービス内容の変更に関する規定 13
1.概要 13
2.問題状況 13
3.基本的な考え方 13
4.具体的な規定の内容 14
5.留意点 18
6.条文例 19
Ⅲ.建設費に係る物価高騰リスクへの対応 27
1.概要 27
2.問題状況 27
3.基本的な考え方 27
4.具体的な規定の内容 28
5.留意点 28
6.条文例 28
Ⅳ.ソフトサービス等の価格変更に関する規定 30
1.概要 30
2.問題状況 30
3.基本的な考え方 30
4.具体的な規定の内容 30
5.留意点 32
6.条文例(ベンチマーキングを活用した例) 33
第Ⅱ章 「任意解除」に関する標準契約書モデル及びその解説(案) 35
1.概要 35
2.問題状況 35
3.基本的な考え方 35
4.具体的な規定の内容 36
5.留意点 40
6.条文例 40
第Ⅲ章 「紛争解決」に関する標準契約書モデル及びその解説(案) 43
1.概要 43
2.問題状況 43
3.基本的な考え方 44
4.具体的な規定の内容 45
5.留意点 47
6.条文例(調停とする場合) 51
第Ⅳ章 「法令変更」に関する標準契約書モデル及びその解説(案) 53
1.概要 53
2.問題状況 53
3.基本的な考え方 53
4.具体的な規定の内容 55
5.留意点 57
6.条文例(サービス購入型) 62
第Ⅴ章 「モニタリング・支払メカニズム」に関する標準契約書モデル及びその解説(案) 65
1.問題状況 65
2.基本的な考え方 65
3.具体的な規定の内容 68
4.留意点 73
1.標準契約書モデル及びその解説書作成の経緯
平成11年にPFI法が施行されてから9年近くが経過した。実施方針の公表件数は300件を超え、 PFIは公共施設の整備の一手法として定着しつつある。
一方、運営段階に入ったPFI事業においては、PFI法第10条第1項に定める協定(以下「PF I事業契約」という。)の運用や解釈等をめぐっていくつかの問題点が顕在化している。例えば、事業の前提条件である事業環境が変化しても契約に定められた各種条件の変更ができなかったり、運営段階のモニタリングが適切に機能しなかったりといった問題である。また、当事者間が事業契約の解釈等をめぐって対立した場合に、紛争解決が円滑に進まないという事態も一部に生じている。
PFI事業契約に関しては、平成15年に契約ガイドラインが公表され、PFI事業契約における留意事項が示されているところである。ここで、契約ガイドラインは、施設の設計、建設、維持・管理業務を主たる内容とした事業が想定され、運営業務の比重が重い場合は個別の検討が必要とされている。そのため、運営段階に入ったPFI事業において生じている諸課題に対する考え方は十分に示されているとはいえない。
民間資金等活用事業推進委員会は、平成19年11月に「PFI推進委員会報告―真の意味の官民のパートナーシップ(官民連携)に向けてー」をとりまとめた。本書では、公共施設等の管理者等(以下、
「管理者等」という。)、また、経済界の喫緊のニーズに対応するため「重点的に検討し速やかに措置を講ずべき課題」が整理されたが、その中で、状況変化への対応やモニタリングのあり方等が「個別具体のプロセスごとの課題」として位置づけられた。さらに、同課題に対しては、横断的な受け皿となる「標準契約書モデル及びその解説」等の検討を行うことが指摘されたところである。
そこで、重点検討課題として、以下5項目を取り上げ、PFI事業契約での規定の考え方につき整理を行った。その上で、契約ガイドラインに示された各項目を一般的なPFI事業契約の構成に基づき再編成し、重点検討課題、その他記載の充実を図るべきと考えられる事項につき追加を行い、「標準契約書モデル及びその解説(案)」(以下、「標準契約書モデル」という。)として取りまとめることとした。
①事業環境変化に対応した柔軟なサービス内容・サービス価格の変更
②管理者等の任意解除
③中立的な第三者の関与を含む紛争調整メカニズム
④法令変更
⑤モニタリング・支払いメカニズムの充実
標準契約書モデルでは重点検討課題への対応は項目ごとに分割して記載されていることから、本書では重点検討課題について、基本的な考え方や実務上のポイントを一気通貫で整理し提示している。
2.本書(または標準契約書モデル)作成に当たっての基本的な考え方
契約ガイドラインでは、運営業務の比重が軽い事業を念頭において作成したが、本標準契約書モデルでは、運営業務の比重が重い事業についても配慮している1。運営業務の比重が軽い場合、長期契約であっても社会、経済情勢の変化や法令変更等が事業に与える影響が比較的小さいため、予め決定した諸条件が著しく合理性を欠く事態になる可能性は、運営業務の比重が重い事業に比べて小さかった。標準契約書モデルでは、運営業務の比重が重い事業についても扱うこととしたため、これらに対応することを重視した。なお、運営業務の比重が重い事業を対象とするとしても、本標準契約書モデルで主に想定しているのはサービス購入型で、需要リスクを民間に移転しない事業であるが、需要リスクを民間に移転する事業についても、PFI推進委員会での十分な議論を経た上で対象範囲に含めていくことを想定している。そして、双方の本質的な違いを含め理解した上で、それぞれの条項の在り方を検討する必要がある。
これらの点も含め、本書作成にあたっては、以下を基本的な考え方として契約書に規定すべき事項の検討を行った。なお、本書作成にあたっては、2007年3月に刊行された英国の「Standardisation of PFI Contracts」2を参考とした。
(1)国民・市民のためのサービスの価値の最大化を目指して
・PFIの本質は、国民・市民にとってより利便性の高いサービスをより低廉な費用で提供するには何をするべきかを考えることである。したがってPFI契約の作成にあたっては、財政等の制約の下で、国民・市民のためのサービスの価値を最大化することを基本的な視点とすべきである。PFI 契約は、発注者である官と受注者である民との間の契約であるが、以下に示す(2)から(8)について検討する際には、あくまで国民・市民のためのサービスの価値を最大化することが PFI の本質であることに常に立ち戻る必要がある。
(2)官民のコミュニケーションの必要性
・PFIは官民の協働事業であり、お互いに協力し合うことが何より重要であり、それが担保されるような仕組み(具体的な契約条項を含む)を作成することが必要である。民間は自ら(究極的には構成企業の株主)の利益を最大にすることを目指し、公共は少ない税負担で良質のサービスを得られることを目指しており、官と民では価値観が大きく異なるのが現実である。また、メンタリティや行動原理にも相当の隔たりがある。
・しかしながら、財政等の制約の下で国民・市民のためのサービスの価値を最大化するためには、民の技術力、経営力、資金力及び官の有する公共事業に関するノウハウ等を結びつけ、その相乗効果を最
1 一般に「運営業務の比重が重い」といわれる事業でも、業務の中心部分は管理者等によって行われ、選定事業者に委託されるのは周辺の業務のみである場合も少なくない。このような場合に「運営業務の比重が重い」と表現すると、選定事業者が対象施設の運営を主体的に行っているかのように誤解を招く可能性がある。したがって、この用語自体、今後見直すことが考えられる。
2 英国では、PFI事業契約をめぐり現下に生じている問題に対して課題志向型で新たな内容を盛り込んだ
「Standardisation of PFI Contracts」が1999年以来4版を重ねている。PFI事業契約の標準的な考え方が整理され、課題への対応についても一定の方向性が示されているため、PFI事業の関係者の認識のずれが生じにくくなり、PFIの裾野拡大の一助となったと言われている。
大限発揮させる必要がある。このため、官民の双方がお互いの相違点を理解した上で積極的にコミュニケーションを図り、連携して両者の間にある障壁を乗り越え、国民・市民のためのサービスの価値の最大化を目指していくことが重要である。
(3)真の意味の官民のパートナーシップを目指して
・PFIでは、VFMの最大化のために官民が良好なパートナーシップを形成することが前提となる。そのためには、官民が対等な立場で事業の実施にあたる必要がある。
・契約とは契約当事者間の「利害の調整」がその本来の目的の一つでもあり、契約の時点では、明らかにこれら当事者間において、お互いの義務履行に係る合理的な期待感が存在し、初めて、契約が成立する。但し、必ずしも契約が完璧ではなかったり、時間の経過と共に大きな環境変化があったりした場合、ギャップが生まれ、このギャップを埋め、問題を克服するための手法としてコミュニケーション、協力、連携が重要となり、このようなことが可能になるような契約条項が求められる。
・まず、お互いの情報を共有することが必要である。特に共有されるべき重要な情報は、管理者等の情報に関しては、管理者等が目指す事業のアウトカム(管理者等の政策目的や求める成果)やアウトカム実現に向けて選定事業者に期待する事項であり、これらは事業者選定の段階で要求水準書等に明確に示されるべきほか、事業の運営段階においても適宜情報の共有と議論がなされることが財政等の制約の下でVFMを最大化することに有効である。一方、選定事業者の情報に関しては、事業計画やそのベースとなる財務モデル(選定事業者の将来の収支等の予想)がある。特に財務モデルについては、サービス内容の変更や契約解除時の損失補償額の算定などの際の根拠となることもあるため、一定のタイミングで合意しておくことが有用である。
・また、対等な立場という観点からは、例えば、両者に重大な影響を与えるような意思決定をどちらか一方が行うこと等を出来る限り避けることが望ましい。公共サービスの性格上、また管理者等が発注者である以上、管理者等の意思が重視される場面も必要となるが、その場合は、選定事業者に対する金銭面での補償の明確化等により、選定事業者の契約上の地位を守る観点から規定を入れる必要がある。
・また、中立的な第三者を紛争解決に関与させることにより、事業を継続したままxxな解決を図る仕組みを工夫することも効果がある。
(4)契約の柔軟性の確保
・PFIでは、民間のノウハウを効果的に発揮させ、民間の事業意欲を高めるため、長期間にわたる契約を締結する。しかし、長期にわたる運営期間中に当初定められた前提条件や前提となった環境が大きく変化する場合などの状況変化に応じて、契約条件の変更が必要になることがある。また、変更が必要となった場合に当事者間の協議で全てを決めることは、合意できなかった場合に困難が生じることに加え、透明性の確保という観点からも望ましいとはいえない。したがって、状況が変化した場合に具体的にどのように契約を変更していくのか、どのように価格を決定していくのか、つまり変更メカニズムの規定を充実させることが必要である。この際、将来変化が予想される事態をできるだけ多く想定し、変化により影響を受ける業務領域、業務内容、並びに契約上合意された指標及び基準につ
いて、事情変更事由に基づく変更の手順と要件を明確に規定しておくことが重要である。英国の SoPC4 においても、変更メカニズムの部分については大きく改訂され、充実が図られているところである。
・契約の柔軟性は、長期にわたる状況変化に的確に対応することが目的であり、要求水準等が不明確なまま入札を行って後に協議で変更するということを容認するためのものではない。したがって、当初の要求水準を明確に作成しなければ、変更の際の価格算定の際に計算根拠も示せなくなるため変更も困難になること、透明性の確保、xxな入札手続の確保(すなわち、落札できなかった応札者との関係でも不xxが生じないこと)という点でも問題が生じることに留意する必要がある。
・また、PFIの本質は、設計・施工・維持管理・運営を一体として発注することにあることについても留意すべきである。したがって、入札価格についても一体として発注することを前提に決定しているのであり、一部分のみ切り離してマーケット価格と比較することは本来的に難しいということについて理解される必要がある。よって、この観点からも、あくまでも原則はできるだけ条件を変更しなくても済むよう当初の段階で条件を決定するとの重要性が理解される必要がある。
・なお、契約の柔軟性が高くても、契約変更に伴うサービス対価の増加分について管理者等に負担能力がなければ機能しないことから、必要に応じて予算についても一定程度余裕をみておくべきである。
(5)当初の契約条件の明確化
・PFIでは、性能発注により民間のノウハウを効果的に発揮させ、民間の創意工夫を最大限引き出すことを意図している。そのため、提案段階では詳細な内容が詰まっておらず、事業者選定後に発注者と選定事業者の間の協議を経て設計書や業務仕様が最終的に確定することもある。この際、選定事業者が想定していなかった様々な要求が発注者からなされ、対応を求められる場合が見られる。
・しかし、原則として、契約締結時に要求水準を満足する選定事業者の提案内容に基づく仕様を確定し、その後は価格改定を伴うサービス内容の変更(第8章参照)として対応する必要がある。
(6)リスク分担に係る曖昧さの排除
・PFIでは、官民のリスク分担を契約で明確に定め、リスクが顕在化した場合の責任の所在を明確化することで、事業全体のリスクを最小化する考え方をとっている。しかし、リスク分担の基本的な考え方が決まっていても、具体的な判断基準やプロセスが明確に規定されていないために官民の認識の齟齬が生じ、紛争に発展する場合もある。その観点から、可能な限りリスク分担が明確になるよう規定する必要がある。例えば、「著しい」「過分の」「主要な」といった抽象的・主観的要件もできるだけ使用しないようにすることが望ましい。
(7)SPCの在り方と統括マネジメント機能
・PFIでは、PFI事業の実施のみを目的とする株式会社を選定事業者が設立することが入札説明書において義務づけられていることが多い。このように特別の目的のみのために設立された会社は、特別目的会社(SPC。「特定目的会社」と異なり、法令上の概念ではない)と呼ばれる。
・しかし、PFIではSPCは、資産を保有するのみならず、複数の委託先を通じて業務を行うこと、
そして各業務間で調整の必要が生じた場合にはSPCと委託先の間で解決することなどが期待されている。すなわち公共サービスの提供に必要となる設計、建設、運営等の業務を選定事業者に包括的に委託することで、選定事業者が総合的に関係者をマネジメントすることが期待されている。。
・こうした観点から、選定事業者の業務内容に統括マネジメント機能を明確に位置づける取り組みが一部の分野で進んでいるが、別の分野の事業においてもこのような業務を含めることがVFMの向上に寄与しないか検討すべきである。ただし、統括マネジメント業務を明確に位置づける試みは比較的最近始まったものであり、本業務の有効性及び在り方(条文例を含む)については、今後検討をする必要がある。
・要求水準を満足するための設計、建設、運営等の業務の調達を総合的にマネジメントする機能は、英国においても重視されているところであり、PFIにおいて個別の業務は行わずSPCへの出資とP FI全体のマネジメントに特化してPFIに参加している企業も存在している。PFI事業のVFMをさらに高めていくためには、わが国においてもこうした方法についての検討が行われることが望ましいと考えられる。
(8)国民・市民の目線からの事業の監視
・PFIは、選定事業者が主体的に取り組む事業であると同時に、整備対象とする施設は公共・公益・公用施設であり、サービス購入型であれば納税者の負担により実施される事業である。
・この観点からは、納税者たる国民・市民に対して、事業の成果を積極的に公表し、その視点を取り入れることが必要である。具体的には、管理者等はモニタリングを責任をもって主体的に行うことに加え、モニタリング結果のうち選定事業者の機密に属する事項を除き、ホームページ等により公表し、一般国民・市民から意見を求めることが考えられる。
(9)不断の改善に向けて
・実務に携わっている方々等の要望を踏まえて、標準契約書モデル及びその解説(案)を限られた時間の中で整理したが、必ずしも十分とはいえない。したがって、今後パブリックコメントを通じ、PF I事業の現場で活躍されている実務家の皆様方の意見を真摯に伺うことにより、より PFI の促進に役立つものに改善していく予定である。このためには、PFI 事業に関わる関係者の皆様方等にご参集いただいてフォーラムを開催し、この場でご意見を伺うことも必要と考えている。
(10)最後に
・本書(標準契約書モデル及びその解説(案))では、項目ごとに条文例を示すとともに、可能な限り早いタイミングで、パブリックコメント、フォーラムの開催など PFI 事業に関わる関係者との意見の交換及びPFI推進委員会における十分な議論を経た上でPFI事業契約の例を添付することを想定している。
・条文例については、実際は、案件ごとの特有の事情を踏まえた契約を作成する必要があることから、ここにあげられている条文例をそのまま用いることを想定しているものではない。また、条文例は各項目で必要になる条項を網羅的に示したものではない。ただし、本書で示した条文例をベースとして
これに修正を加える形で使うことにより、ノウハウの共有が促進され、本書の改訂を通じて内容が充実したものになっていくことが期待される。
・また、今後、事業分野ごとに、それぞれの事業にふさわしい事業契約書例を作成していくことが望まれる。
・なお、本書は、契約書を作成する際の重要な留意点の一部を示したものであって、本書のみで契約を作成できるようにすることを意図したものではない。個々の PFI 事業において用いられる契約書の規定は、管理者等と選定事業者双方が、それぞれの責任において、本書を参考にしながらも、それぞれの事業に即した適切な内容となるように検討を加えた上で取極めて頂きたい。
・現在PFI事業契約を締結済みの事業についても、本標準契約書モデルを参考にしながら必要に応じて締結済みの契約を改定することも考慮されるべきである。
・本「標準契約書モデル及びその解説(案)の主要な論点」では、重点検討課題について、現在生じている課題、基本的な考え方、PFI事業契約に規定すべき内容、留意点、具体的な条文例等を示しているが、中でも重要な点は太字で記載し、より詳しい解説は小さめの文字で記載している。また、やや専門的な事項や海外の例等は、脚注や参考情報とした。すなわち、太字部分及び各検討課題の最後に枠囲みで示した「実務上のポイント」を確認することで、PFI事業契約の実務的事項を押さえることが可能なように構成しているので、読者のニーズに応じて活用されたい。
第Ⅰ章 「状況変化に対応した柔軟なサービス内容・サービス対価の変更」に関する標準契約書モデル及びその解説(案)
Ⅰ.変更メカニズムに関する基本的な考え方
1.長期継続契約に関する基本的な考え方
PFI契約の事業期間は長期にわたるものであることから、当初定められた前提条件や前提となった環境が大きく変化する場合などに柔軟に対応できる内容である必要がある。そのためには、要求水準が明確に記載されていること、事業の性質に応じてxxで透明性の高い変更手続が規定されることが必要である。この場合、どのような変更メカニズムが必要となるかは、事業類型、サービス内容により異なる。また、どのような変更でも許されるわけではなく、契約の目的から大きく乖離することがないようにすることに留意する必要がある。さらに、変更に関する合意を契約条件変更として、文書化しておくことが重要である。
(1)PFIの特徴との関係
PFIの特徴の一つとして、設計、建設、維持管理及び運営等、事業のライフサイクルを一括して選定事業者に発注することがある。これにより、民間への適切なリスク移転を可能とし、またこれを通じて民間の創意工夫及び合理的リスク管理を促しているものであり、PFI事業契約は、このような期間中を通じた権利義務関係(リスク分担)についての両当事者の合意を示しているものである。しかしながら、PF Iの事業期間は長期にわたることから、契約上の権利義務関係を修正することがより合理的と判断される場合に備えて、変更を行うメカニズムを設ける必要がある。また変更メカニズムは、適切に運用されれば、サービス内容や支払条件をより実態に即したものとし、民間事業者が提案の際に予備費として価格を上乗せするのを防止し、VFMの向上に資するものと考えられる。この場合、官民の適切なリスク分担を図るという目的から逸脱しないようにすること、契約の目的から大きく離れないようにすることについて留意する必要がある。
(2)変更メカニズムの基本的な考え方
以上のような点を考慮すると、変更メカニズムは特に以下の点に配慮して作成することが必要となる。
①明確な要求水準の必要性
契約締結時点で要求水準の内容が曖昧であると、変更する場合にも何を基準に変更価格を算定すればよいのかが曖昧になり、変更も困難になることに留意する必要がある(すなわち、変更前に何が求められているかが不明確であると、変更後の要求水準が決定されても変更に要する価格の算定が困難になる)。
②xx性・透明性 PFI事業契約上の変更メカニズムの規定においてはxx性、透明性を確保する必要があり、また実際の変更の適用に際しても、xx性、透明性が求められる。したがって、どのような場合にどの変更・調整手続きが適用されるのか、そして各変更・調整手続きの内容を明確に規定する必要がある。また、サービス内容を変更する場合には、変更の前後で、管理者等、選定事業者双方とも有利にも不利にもならないようにすることが重要である。ただし、変更の実施に関して、選定事業者が創意工夫・努力により付加価値を創出できる場合には、そのメリットを選定事業者が享受できるインセンテイブを保持することは許容されるべきであろう。
③リスク管理との関係
変更メカニズムを規定する目的は、リスクを回避することではなく、リスクを管理することである。したがって、合理的に選定事業者が一定のリスクをとることができ、そして、これを管理できる場合は、選定事業者がリスクを負担するという選択肢を否定するものではない。ただし、この場合には金融機関の観点からも、リスク管理の妥当性に関する評価・検討がありうることに留意する必要がある。
④事業類型・サービス内容との関係
どのような変更メカニズムが必要となるかは、事業類型、サービス内容等により異なる。例えば、専ら施設整備を中心としたPFI案件の場合には運営業務の全体に対する影響は限定され、単純な物価連動方式や簡素化された調整メカニズムで足りる場合もある。
⑤文書化の必要性
変更に関する合意を契約条件変更として、文書化し、後日に担当者が変更された場合に、選定事業者が義務を負う範囲が不明確になり、その結果モニタリングも困難になるということが生じないようにする必要がある3。
2.契約条件の見直しの方法
契約条件の見直しの方法は、様々な考え方があり、それぞれの特性を理解した上で、事業内容に応じて、変更規定を組み合せていくことが考えられる(Ⅱ以下で詳述)。
①価格の自動調整メカニズムの組込み
一定の指標(インデックス)等を予め定め、これらに基づき、対価を定期的に調整する方法である。ただし、指標の変化が時間の経過と共に対象となるサービスの市場実勢価格の変化とずれるというリスクはあると共に、指標を使って連動させても、現実に増減する費用の連動とは一定の差異が生じることも多い。この場合、下記④などと組み合わせることが考えられる。
②一定の時点での見直し、調整
初期段階で現実と規定の大きな乖離が生じることが予想される場合などに、一定の時点でサービス内容などを見直し、これに応じて調整する方法である。これは、先例が少ない分野の案件や、入札から実際のサービスが提供されるまでに長期の時間を要するため契約締結時点でできる限り明確に要求水準を規
3 議会の議決との関係については今後検討する必要がある。
定したとしてもサービス提供時点で調整が必要になるような案件に適用されるもので、すべてのPFI案件で必要というわけではない。この方法を採用する場合には、リスクをどの段階でどう固定することが合理的か等を考慮した上で、採否及び条件を決定すべきである。
③変更、調整手続を開始する事由を規定する方法
法令変更、不可抗力事由など一定の事由が生じた場合の手続・効果(リスク分担)を規定する方法である。
④一定期間経過後の価格の見直し
例えば運営開始後5年後など、一定の期間経過後に価格等の条件を見直す方法である。資本的支出を伴わず、資本的投資との関連性も低いサービス(ソフトサービス。Ⅳ参照)については、4~5 年の期間は前述(①)の指標等による調整のみで十分である可能性が高いが、これ以上長い期間となると、市場価格から乖離する可能性が高くなる。そこで、4~5 年毎に価格等の条件を改定することを前提に、適用される手法等を予め契約で定める。
⑤契約の部分解除、サービス変更等
時間の経過に伴い、サービス自体が不要になったり、サービス提供のあり方にxx的な修正が必要になる可能性が少なくないサービスについて、契約の一部解除や変更規定で対処するものである。
3.変更に伴う価格変更の方法・サービス対価調整規定における調整額決定方法
価格決定の方法としては価格算定のための算定式を予め合意しておく方法、ベンチマーキング、マーケットテスティング、中立的な専門家による判断などが考えられるが、これについてはⅡ3 (2)、Ⅳ3を参照されたい。
4.財務モデル及びその他の条件の合意
サービス内容変更に伴うサービス対価の変更額、サービスの一部解除の際のサービス対価の変更額及び補償額の算定を客観的に行うために必要な限りにおいて、財務モデル(事業計画)4、下請先との契約条件、費用の明細などについて予め合意することが有効であることもある。現在、我が国ではこれらについて予め合意するという慣行は存在しないが、今後は財務モデルを合意する慣行を形成していくことが望ましい5。
なお、財務モデルの合意を行う目的は、合意した一定の条件が契約解除の際の補償額の算定に合理的に用いられることにあり、よって財務モデルを組成する条件が将来に渡り固定することを意味するものではないことに留意する必要がある。なお、サービス購入型でも比較的単純な事業については、入札時に提出した事業計画をベースに算定することも考えられる。
4 財務モデルとは、将来のSPCの収支等の予想で、英国においては、資産、負債、キャッシュフロー等の予測及びその前提となる仮定などが含まれている。(Joint Service Procurement Pack Model 11 Instruction and Guidance 参照)
5 具体的にどのような事項を合意すべきか(サービス変更や契約解除の際の補償の際の金額の算定の際に必要となりうる程度の情報を契約締結までに合意できるか)、財務モデルと現実の乖離をどこまで認めるかなどについては、引続き検討を要する。
① 費用の明細に関する情報や財務モデルの共有の有用性
・サービス内容の変更、定期的なサービス対価の変更の際の変更額の算定については、費用の明細について予め合意しておくことが有効である。また、発注者による任意解除、発注者の債務不履行による解除の際に、変更額等を客観的に算定するためには、財務モデル等の合意が有効と考えられる。法令変更又は不可抗力による一部・全部解除の場合にも使用することが考えられる。
② 費用の明細に関する情報や財務モデル等の合意手続
・これらを合意していくプロセス(対象事項、提案の際に提案すべき事項、提案内容の条件、その後の合意プロセス等)については、入札段階で予め示す必要がある。
③ 財務モデル等の内容についての留意点
・現状では単純に費用とリターンを区別することが困難である例も多いことに留意する必要がある(例えば、株主が劣後貸付けをしている場合における劣後貸付け)。財務モデル等を合意する際には、コストの部分は実態に即したものとすること、そしてコストの部分とSPCの株主に対するリターンの部分を明確に区別することが重要である。
・サービス内容やサービス価格が変更になった際に、財務モデルのどの部分が変更になるのかも意識した上で項目を定め、変更が生じた際にも財務モデルが適切に機能するようにする必要がある。
・発注者による任意解除の際の算定方法については、これらの財務モデル等にはよらずに、別途算定方法を合意するという方法もありえる。
・財務モデル等の合意手続は、あくまでも選定事業者側が将来支出する費用の内訳を決定していく手続であり、管理者等から民間への支払は入札手続に従って決定された額で変更されない。
Ⅱ.サービス内容の変更に関する規定
1.概要
将来の状況の変化に応じてサービス内容を変更することが必要となることがある。また、事業によっては、初期段階(例えば、運営の開始前後)で現実と当初の想定との乖離が判明することも多い。このような場合に備え、変更のための手続及び価格決定の方法が規定される。
2.問題状況
現在のPFI契約においては、複雑な事業の場合は、サービス内容の変更について、公共による変更要求通知、民間からの回答書の提出、これらに基づく協議を軸として比較的細かい規定が定められていることが多い。一方、比較的単純な事業では具体的な手続規定がないことが多い。この場合、①手続の明確化(特に規定がない場合)、②特に価格算定プロセスにおける双方の手続負担軽減及び透明性の向上、③曖昧な事実上の要求水準等の変更の防止(不適切なサービス対価の調整(十分な予算を確保しないまま追加の負担を強いるなど)、モニタリング基準の不明確化
(書面の欠如などによる)などにつながる)、④競争性の確保などの課題に対応していく必要がある6。
3.基本的な考え方
(1)Ⅰ1(1)記載のとおり、当初定められた前提条件や前提となった環境が大きく変化する場合などにサービス内容を変更できる仕組みを作ることが重要であることを認識する。すなわち、変更の必要性が生じることが常に問題というわけではなく、変更の必要性が生じているのに放置することが問題であるという発想の転換が必要である。
(2)PFIは、官民の対等なパートナーシップが基本となっている。その観点からは、不合理な変更を官が民に強いるようなことは厳に慎まなければならない。一方、管理者等が変更にかかる費用を負担する場合、納税者に対して説明できる必要がある。そこで、透明性およびxx性の高いサービス内容の変更手続きを規定する必要がある。
(3)管理者等からの要請によるサービス内容の変更によって増加する費用は管理者等が負担する。一方、費用が減少した場合には、サービス対価についても変更がなされるべきである。
(4)現実に変更手続が適切に活用されるためには、特に小規模の変更については当事者の負担が少
6 選定事業者は、要求水準等に違反しない限り、その都合により(インプット)仕様の変更を行うことができる(業務仕様書の変更手続)。この場合には、対価の変更はない(別紙 13 参照)。
ない現実的な手続が必要である。この場合透明性が高くかつ迅速に対応可能な価格決定メカニズムを盛り込むことが重要である。
(5)変更への心理的抵抗により必要なサービス内容の変更手続が行われないという状況を避けるよう、例えば、開業直前、開業1年後等、当初想定したサービス水準と実態とのギャップが顕在化しやすいタイミングでサービス内容のレビューを確実に行い(要求水準書に記載されていない内容で、両当事者が合意する必要のある事項のレビューを含む。)、必要に応じてサービス内容の変更及びそれに伴う価格の変更が実施できるような仕組みを盛り込む。ただし、このような規定の趣旨は、契約締結時までに決定することができるサービス等について、変更手続により対応することを推奨するものではない。このような規定を挿入する場合でも、「後で決めればよい」といった考え方によって、契約条件が曖昧なまま契約を締結することは厳に慎むべきである。
(6)プロジェクトファイナンスの前提は、契約初期条件を変更しない(そうしないと想定したキャッシュフローが実現しない)ということで成立しているので、契約変更が及ぼす事業キャッシュフローへの影響を金融機関の立場も考えて、契約条項を作成していく必要がある。
(7)選定事業者から変更を提案する手続についても規定することが望ましい。7
4.具体的な規定の内容 (1)通常変更
具体的規定内容は、事業の性質に応じて決まるべきものであるが、運営重視型の手続きの一例として、以下のようなものがある(条文例は基本的に以下の考え方によっている)。
①管理者等による変更要求通知
②選定事業者による仮見積の提出(管理者等に概算を伝えることにより、変更を中止したり、変更内容を見直す機会を与える。選定事業者が必要と考えるときに提出。)8
③選定事業者による仮対案の提出(選定事業者の創意工夫により、よりよい変更にしたり、より安価な方法を提案したりすることが想定されている。選定事業者が必要と考えるときに提出。)
④拒否事由(後述)
⑤選定事業者による回答書の提出
7 英国 SoPC4 においては、一般的には受注者はサービス内容の変更を提案する権利を有するべきであるが、発注者はそれを承認するか否かについて決定する絶対的な権利(但し法令変更を理由とする場合を除く)を有するべきであるとされている(13.2.5)
8 ②③については、管理者等の側からも仮見積、仮対案を求めることができるような規定にすることも考えられ、この点についてはさらに検討を要する。
⑥協議
⑦変更の実施
⑧対価の支払(後述)
(2)簡易変更(一定の規模以下の変更について、価格算定のための算定式を予め合意する方法)
2.(4)に示されたとおり、特に小規模の変更については当事者の負担が少ない価格決定メカニズムを盛り込んだ現実的な手続が必要である。そこで、Ⅰ3に記載された価格算定のための算定式を予め合意しておく方法、すなわちサービス内容の変更に伴う価格について予め算定式を合意しておくことにより、できるだけ機械的に算定できるメカニズムを導入することが考えられる9。ただし、予め合意した算定式を用いることで市場価格と大きく乖離しないことが見込まれる事項に限り利用すべきであり、すべてのPFI事業で必要というわけではない。また、これは、このような規定が機能するかは状況によって異なると考えられ、わが国に実情に即した実践を重ねていく必要がある。
(3)定期的な見直し規定
特に複雑な案件で契約時点で選定事業者が履行義務を負うサービスの内容の詳細を決定することが困難である事業については、例えば開業直前、開業の約1年後に見直す旨の規定を挿入することが考えられる。ただし、このような規定を挿入する場合でも、「後で決めればよい」といった考え方によって、契約条件が曖昧なまま契約を締結することは厳に慎むべきである。
さらに、その後も調整の必要性が高いと予想される案件については、定期的に要求水準を見直す旨の規定を設けることも考えられる。見直しの頻度については、個別のサービスの属性やリスク分担の合理性、費用への影響の度合い等も勘案して決定する必要がある。
(4)対価の支払
①資本的支出等相当分(調整、変更が資本的支出増を伴う場合)
変更の実施のために資本的支出や初期投資を伴う場合、管理者等から選定事業者への対価の支払時期を併せて検討する必要がある。SPCが資金調達等を担うことになると、追加的に金利等の調達費用を必要とし、全体費用や支払対価を調整せざるを得ないため、追加的資本支出を一括して、サービス対価とは別途、支払うことが手続き上簡易になる。しかし、ある程度の大
9 英国「Standardisation of PFI Contracts(PFI契約の標準化)」第 4 版(以下「SoPC4」という)では、
①事前に価格を決定できるものについては、変更内容およびその価格を記載した一覧表を作成する方法、
②一覧表の作成ができない部分については、一種のオープンブック方式によって対応する方法(入札時にできる限り単価の開示を求め、この単価に応じて変更時の対価を計算する)が採用されている。
きさの資金が必須な場合には、選定事業者において一旦資金調達をなさしめ、サービス内容の変更後に、当該資金調達にかかるコストも勘案した上で定期的に支払う対価を変更するという方法もあり得るため、一概にどちらの方法が優れているとはいえない。
後者の方法による場合、既存のファイナンスの枠組みに影響しない手法(例えば、資金調達を金融機関からの貸付等に劣後するローンを構成企業から調達するなど)を用いることにより、既存のファイナンスへの影響をできるだけ少なくすることも考えられる10。
②資本的支出相当分以外(調整、変更が資本的支出増を伴わない場合)
この場合、一括払いはなく将来のサービスの対価の調整のみとなり、維持管理、運営費相当分のサービス対価に反映させる。
(5)手続に要する費用
変更手続に要する費用(手続きにあたり必要となる専門家や弁護士の費用等11)についても規定を設けて置くことが望ましい。
管理者等からの要求に基づく場合は当該費用を管理者等が負担することが原則ではあるが、事前に具体的金額について合意することなどにより、過大な負担が生じないようにすることが望ましい。
(6)拒否事由
①拒否事由
選定事業者は、管理者等のサービス内容の変更要求に対しては、拒否事由に該当する場合を除き、選定事業者はこれに応じなければならないとすることが考えられる。但し、このような方法が合理的か否かは、案件によることに留意する必要がある。
・このような規定を入れるかは将来において管理者等が変更を要求せざるを得なくなる状況が生じる可能性と、かかる規定が存在することによって選定事業者が負うことになるリスク等を考慮して決定すべきである。拒否事由を検討する際には、経済的合理性のない変更を選定事業者に強いることのないようにする必要がある。
・プロジェクトファイナンスの貸付人(金融機関)が当該新たなサービスに関するリスクをと
10 案件によっては、対価を増やすことなく、(債務負担行為の変更等必要な手続を経た上で)契約期間を延長して、事業者による収益機会を増やすことで対価を回収させる方法もある(この場合、将来の収入を現在価値へ割引く方法も考慮する必要がある)。
11 どのような費用が生じるかについては、変更の内容によって異なる。
ることができるかという問題があり、金融機関が判断するのには技術コンサルタント等によるデューデリジェンス(変更による影響を精査する)が必要な場合(時間、コストがかかる)もあり、これらが協議により合意できない可能性は十分にある。そして、管理者等の要求により変更を行う場合には、これに要する合理的費用を管理者等が負担することになることに留意する必要がある。
サービス内容変更要求と民間による拒否の流れ(条文例参照)
Ⅲ.変更の拒否
Ⅱ.仮見積、仮対案の提出
Ⅳ.回答書の提出(見積を含む)
甲乙協議
契約の一部解約
変更の実施
Ⅰ.甲によるサービス内容変更要求通知
合意
不合意
変更の拒否への回答
契約の一部解約
②拒否事由がある場合の一部解除及び一部解除時の補償
拒否事由に該当する場合、管理者等に契約を一部解除する権利を与えることが考えられる。この場合、適切な額の補償についても規定すべきである。ただし、選定事業者が如何なる解除条件で委託先と契約しているのかは、サービスの属性や内容、業態、市場における代替性の有無等によっても異なりうる点、従って委託先との契約の内容によっては補償する必要がない場合もある点に留意する必要がある12。
・一部解除ができる場合:これが可能であるのは、選定事業者に重大な悪影響を与えず、かつ、原則として、①管理者等に自らサービスを提供する能力がある場合、又は②当該業務を第三者に委託することができる(かつ、競争的価格での委託が可能である)場合、③業務そのものが不要となっ
12 長期継続契約の条件を協力事業者にパススルー(同一条件で契約条件を転嫁すること)する枠組みもあれば、パススルーせずに、あるいは、長期継続契約を前提とせずに、一端 SPC がリスクを支え、任意解除条件を協力事業者との間で保持するという枠組みもありえ、これら条件次第では、管理者にとっての費用は変わりうる。この意味では、協力事業者との関係で SPC が負担なき任意解除権を保持していれば、大きな費用負担なしに、解除できることもありうる。この場合、SPC に損失補償が必要か否かも、状況によるところがあり、これらの点についても更に検討を要する。
た場合に限られる13。また、①②については、業務の承継が円滑に遂行できるよう配慮することが望ましい。
・損失補償の内容:一部解除時の損失補償については、一律に決めることは困難ではあるものの、管理者等による変更の理由に応じて判断することが考えられる。すなわち、やむをえない事由による変更要求通知であれば、選定事業者に実際に生じる損害につき損失補償する考え方となるが、管理者等の自己都合に近い事由による変更要求通知であれば、管理者等の任意解除と同様の考え方が適用され、解除に伴う逸失利益も一部含めて損失補償することが考えられる。
・損失補償算定のための重要な事項の合意:一部解除時の損失補償を客観的に算出するため、契約の締結時点までに、SPC と運営協力企業との契約のうち、重要な事項で解除に関係するものの内容について合意すべきである。これらを合意していくプロセス(対象事項、提案の際に提案すべき事項、提案内容の条件、その後の合意プロセス等)については、入札段階で予め示す必要がある。
(7)紛争解決
対価の支払、手続費用、拒否事由に該当するか否かなどについて合意ができなかった場合は、紛争解決プロセスを利用することが考えられる(これについては資料3参照)。
(8)選定事業者からの提案
選定事業者による提案の手続について規定する。
5.留意点 (1)予算との関係
サービス内容の変更が管理者等の支払い額の増加につながる場合、予算がないと契約上の規定があっても実行できない。こうした事態を防ぐため、管理者等は、債務負担行為の設定額には一定の余裕を持つ必要がある。
・この際、債務負担行為の文言を工夫することも考えられるが、文言の工夫によりどこまで対応できるかについては別途検討する必要がある。
・また、単年度の予算額についても、一定の予備費を確保することが望ましい14。
13 いかなる場合に選定事業者に「重大な悪影響を与える」といえるかについては、選定事業者が全体の業務を提供することにより適正な利益水準を確保していることが多く、一部解除を行った場合の適正な損失補償額を客観的に示すことは困難であるという問題があり、財務モデル等の情報の共有に加え、複数の業務を一括して請け負うことによる費用が削減されている場合の効果との関係も含めて、更に検討を要する。
14 変更に必要な予算が確保できない場合に、事実上契約に規定された変更手続を無視し、予算本位で処理するようなことは厳に慎むべきである。曖昧なサービス内容の変更は、後日紛争を生じさせるリスクが高いことを認識する必要がある。
(2)拒否事由に該当せず、選定事業者が価格見積を提出したにも関わらず価格に合意できなかった場合の一部解除規定
3に示す変更の規定を盛り込んでも、両当事者にとって納得のできる条件を見いだすことができないことも考えられるため、合意できない場合の業務の一部解除の規定を盛り込むことが考えられる。
・解除は両当事者に与える影響が大きいことから、別途定める紛争解決手続(資料3参照)を介在させることにより、一部解除の規定が濫用されないように配慮すべきである。
(3)通常変更の場合の価格決定
通常変更についても、価格の決定手続を盛り込むことが望ましいが、どのような方法を採用するのかについては慎重な検討が必要である。①ベンチマーキング(市場価格を調査し、それに応じて対価を調整する方法)、②マーケットテスティング(特定のサービスの市場価格を確認するために、SPCが対象のサービスを入札にかける方法)、③中立的な専門家の活用(適格性を有する独立した技術アドバイザーに、参考価格の作成(への助言)や選定事業者の見積の精査を委ねる方法)などが考えられる15。
6.条文例
(甲=管理者等、乙=SPC)
別紙○ 要求水準書の変更手続
以下、簡易変更の規定を入れた場合の例を示すもの。簡易変更の規定の必要性及びその内容については、簡易変更のための手段の実用性の有無、事業の性質等に応じて判断されるべきである。
※以下の用語を事業の性質に応じて定義規定で定義する。
「簡易変更」―― 一定の規模(金額)以下のサービス内容の変更
「通常変更」―― 一定の規模(金額)以上のサービス内容の変更
15 英国 SoPC4 では、これらの3つの方法が挙げられているが、学校 PFI を除き、この部分は各分野の標準契約の具体的プロセスはまだ公表されていないので、具体的にどのように規定されていくかは明らかではない。英国財務省から 2007 年8月に公表された Change Protocol Principle (主に学校 PFI を想定)は3つの方法が併記されている。同じく財務省から 2007 年 12 月に公表された Variations Protocol for Operational Projects(entered into prior to Standardisation of PFI Contracts version 4)(草案)でも、3つの方法が記載されており、どれを原則にすべきかについては明記されていない(2.19-2.26)。一方、自治体によるPFIについて、各分野の標準契約に変更手続(Change Protocol)が盛り込まれるまで使用されることになっている 4ps:Model Change Protocol for Accommodation PFI projects においては、マーケットテスティングが望ましい方法とされている。
「簡易変更価格一覧」―― 将来の変更のために作成した資材、日当等及び各項目に使用すべき指標等の一覧で、事業者提案に添付し、xx更新。
「原価一覧」―― 積算根拠として事業者提案に添付。(※Ⅳ4(2)の注釈参照。一種のオープンブック方式を想定)
Ⅰ サービス内容変更要求通知
1 甲は、サービス内容を変更しようとするときは(但し、変更内容が簡易変更価格一覧に記載のあるもののみである場合を除く)、随時2(1)から(5)に掲げる事項及び甲と乙が合意する事項を記載したサービス内容変更要求通知を作成し、乙に送付又は交付することにより、サービス内容の変更(要求水準書、提案書及びその後の甲乙間の合意に基づき、乙が甲に対して履行する義務を負う業務の内容の変更をいい、要求水準書、業務範囲の変更を含む。)を求めることができる16。乙は、業務内容の変更に伴い[運営等協力企業/受託・請負企業]の変更を行う場合には、別紙○に定める手続を行う必要はない。
2 サービス内容変更要求通知には、次の各号に掲げる事項を記載することを要する。
(1) 変更要求事項 ただし、甲は、変更要求事項を示すに当たり、要求水準書又はその他の文書の該当箇所を引用し、変更前と変更後を併記又は修正履歴を表示することにより該当部分を明確にしなければならない。
(2) 変更開始希望日 ただし、変更開始希望日は、サービス内容変更要求通知の到達の日から少なくとも次の期間を経過した後の日を記載することを要する。
ア 業務量又は業務内容が増大又は拡大し、これに伴い乙又は当該業務を受託する運営等協力企業等において新たに設備の購入、運営等協力企業等若しくはその他の企業への再委託又は使用人の雇用が必要になる場合は、[ ]月間
イ 業務量又は業務内容が減少又は縮小し、これに伴い乙又は当該業務を受託する運営等協力企業等において所有、委託又は雇用する設備の廃棄、委託契約の解除又は配置転換若しくは解雇が必要になる場合は、[ ]月間
ウ 及びイのいずれにも該当しない場合は[ ]月間
(3) サービスの対価の変更の意思の有無及び変更の意思がある場合は見込み額
(4) 変更を要求する理由
(5) その他必要事項
Ⅱ 仮見積り及び仮対案の提出
1、簡易変更に該当する場合を除き、乙は、甲に対し、サービス内容変更要求通知受領後[ ]日以内に
16 簡易変更に該当する場合以外について、どのような場合に変更を要求することができるのかについて規定すべきとの考え方もあり、この点については更に検討を要する。