Contract
神 監 1 第 7 7 号平成 21 年6月 18 日
A 様
神戸市監査委員 x x x xx x x x x
同 xxxx x x
同 x x x
駒ヶ林駅南地区集客施設用地の賃貸借契約に関する住民監査請求の監査結果について (通知)
平成 21 年4月 22 日に提出されました標記の住民監査請求について,地方自
治法第 242 条第4項の規定により監査した結果を次のとおり通知します。
第 1 請求の要旨
平成 21 年 4 月 22 日に受付した措置請求書及び 5 月 20 日の請求人の陳述によると、請求の要旨は次のとおりと解される。
平成 14 年 7 月、神戸市は神戸市xx区xxx町の神戸市所有地(以下「本件土地」という。)につきxxx駅南地区集客施設用地借受人募集要項(以下「募集要項」という。)に基づき賃借人を募集(以下「コンペ」という。)し、株式会社ホームセンターアグロ(以下
「アグロ」という。)がこれに応募した。
平成 15 年 3 月 10 日神戸市とアグロとは、第 1 項(4)で「入浴料金は、一般公衆浴場料
金の最低 3 倍以上の料金格差を設ける。」と規定した確認書を締結した。
また、同日、神戸市とアグロとは、基本協定書を締結したが、第 2 条において確認書記
載事項の遵守が規定され、第 5 条にてアグロが事業計画書等の一部を変更しようとするときには、神戸市の承認を受ける前に、自らの責任において周辺住民等の関係者に対してその変更内容を説明しなければならない旨が規定されている。
平成 15 年 9 月 12 日、神戸市とアグロとは、本件土地につき、土地賃貸借契約書(以下
「賃貸借契約書」という。)を締結した。この賃貸借契約書においても確認書と基本協定書の遵守が規定されている。
アグロは、神戸市から営業の種別を「その他の公衆浴場」として公衆浴場営業の許可を受け、平成 17 年 3 月 17 日、本件土地において公衆浴場を開業した。
しかし、開業後の割引券の進呈や記念回数券の特価販売等の販売促進活動や料金設定などにつき、賃貸借契約に違反する債務不履行がある。
賃貸借契約書によると、xxxが契約に違反したときは、違約金として月額賃料 5,066,850 円の 24 ケ月分に相当する金額を神戸市に対して納付しなければならないところであるが、市長がこの請求を怠っていることは、地方自治法第 242 条の「財産の管理を怠る事実」に当たる。
以上の通りであるから、監査委員は市長に対し、「市長は、アグロの債務不履行状態を解消させるため、アグロに対して違約金の請求等、必要な措置を講ずること」を勧告するよう請求する。
理由
1 アグロは、確認書第 1 項(4)の入浴料金を「一般公衆浴場料金の最低 3 倍以上の料金格差を設ける。」との規定に基づき、大人の入浴料金を次のとおり設定した。
ア 大人(中学生以上。貸しタオル・バスタオル付) 1,100 円イ 大人(中学生以上。貸しタオル・バスタオルなし) 850 円
(1)割引券の進呈や回数券の特価販売は、入浴料金を実質的に 600 円又は 750 円に設定
していることになり、確認書第 1 項(4)の遵守を規定している賃貸借契約書に違反
している。
(2)大人 340 円という入浴料金統制額は、バスタオルを貸さない状態での料金であるこ
とから、アグロの、大人バスタオルなし 850 円という設定自体も確認書に違反し賃貸借契約違反にあたる。
2 入浴料金について、当初の事業計画から変更があったというならば、基本協定書第 5 条に基づきxx浴場組合に対して事前に説明すべきところ、説明がなく賃貸借契約違反にあたる。
第 2 監査の実施
1 監査の対象
住民監査請求は地方自治法第 242 条第 2 項に、請求は当該行為のあった日又は終わ
った日から1 年を経過したときは、これをすることができないと規定されているが「、怠る事実」については法律上の期間制限はなく、監査請求期間は「怠る事実が存在する期間」とされると解されているので、本件土地に係る神戸市とアグロとの賃貸借契約について、アグロに債務不履行があるかどうか、それに基づく違約金の請求を怠る事実があるかについて監査の対象とする。
2 監査の実施
請求人の意見陳述、企画調整局及び保健福祉局の関係職員から事情聴取を実施したほか、関係書類等について監査を実施した。
第 3 監査の結果
1 事実の確認
(1)本件土地・施設の概要
① 本件土地の概要
地 番:神戸市xx区xxx町 1 番 3、1 番 4、1 番 5 のうち、1 番 6、1 番 7 のうち、1 番 9、1 番 10、1 番 21 及び 1 番 22
x x:25,367.01 ㎡用途地域:準工業地域
財産区分:神戸市が所有する普通財産
② 施設の概要
物販施設:店名は「アグロガーデン」、売場面積約 12,000 ㎡、ガーデニング商品
を中心に業務用食品、資材など 10 の大きな専門店で構成温浴施設:店名は現在「源泉湯元あぐろの湯」
(開業時の店名は「天然温泉げんきの郷」)飲食施設:ファミリーレストラン及びラーメン店
③ 契約状況
平成 15 年 9 月 12 日に借地借家法第 23 条に基づき、神戸市とアグロはxx証書に
よって賃貸借契約を締結し、平成 15 年 9 月 15 日から同 30 年 9 月 14 日までの 15 年間の事業用定期借地権が設定されている。
一般公衆浴場 | その他の公衆浴場 | |
目 的 | ・地域住民の日常生活において保健衛生上必要なものとして使用される公衆浴場 [県条例第 2 条第 1 項] | ・一般公衆浴場以外の浴場 [県条例第 2 条第 2 項] |
営業許可権者 | 知事(ただし、政令市は市長)[公衆浴場法第 2 条第 1 項] | |
基 準 | ・配置の基準 距離規制あり(既存の一般公衆浴場から 220m以上) [県条例第 3 条第 1 項] ・措置の基準 タオル等の貸与禁止等 [県条例第 4 条第 1 項] | ・配置の基準 距離規制なし ・措置の基準 タオル等の貸与禁止(客 1人ごとに消毒し、清潔に保たれたものを除く)等 [県条例第 4 条第 2 項] |
料 金 | ・物価統制令等に基づき県知事が指定する統制額 現行: 大人 410 円(H.21.1.15 施行)従前: 大人 380 円(H.17.1.1 施行) 大人 340 円(H.11.7.10 施行) | なし |
その他 | 「公衆浴場の確保のための特別措置に関する法律(昭和 56 年 6 月 9 日法律第 68 号)」が適用され、神戸市でも上下水道料金減免、固定資産税・都市計画税減免など減免措置・助成制度があ る。 | なし |
(2)公衆浴場の概要(兵庫県公衆浴場法基準条例(以下「県条例」という。)等による規定)
(3)賃貸借契約に至る経緯について
本件土地は、平成 2 年 3 月に神戸市が大阪ガス㈱から取得した土地で、この土地
利用については、インナー地域総合整備基本計画(xxx年 12 月策定)や神戸市
復興計画・xx区区別計画(平成 7 年 6 月策定)において、集客施設の整備が位置
づけられている。平成 13 年 11 月から神戸市が設置した地元自治会、婦人会、まちづくり協議会、商業者等の代表者からなる「大阪ガス跡地利用に関する懇談会」において、当該集客施設に導入することが望ましい機能として「健康・癒し(ヘルスパーク、温泉)」などが例示され、それに基づき「人々が訪れ、集い、憩い、楽しみ、賑わう場づくり」を基本コンセプトとしたコンペが平成 14 年 7 月に実施され、
平成 14 年 11 月にアグロが事業者として決定された。
神戸市は、アグロと同年 12 月 10 日に土地賃貸借契約締結までの手続き等に関す
る協定書(以下「手続協定」という。)、翌 15 年 3 月 10 日には基本協定書、土地賃
貸借予約契約書、確認書の締結を経て、同年 9 月 12 日に賃貸借契約書を締結している。
アグロ温浴施設に関する経過
年 月 x | x x |
平成 14 年 1 月 | 「大阪ガス跡地利用に関する懇談会報告書」 公表 集客施設に導入することが望ましい機能(例示)として「健康・癒し(ヘルスパーク、温泉)」を記載 |
平成 14 年 7 月 11 ~26 日 | 募集要項 配布 「温浴施設については、xx南部地域に一般公衆浴場が集中しており、これとの協調を図るため、一般公衆浴場と相当の料金格差を設けること」と明記 |
平成 14 年 8 月 30 日 | 募集要項に関する質問に対する神戸市回答 「神戸市は行政指導として、一般公衆浴場料金 340 円の概 ね 3~5 倍程度の料金格差を設けることとしているため、最低 3 倍以上の料金格差を設けること」と回答 |
平成 14 年 10 月 | アグロから温浴施設料金を 1,100 円とした提案書提出 |
平成 14 年 11 月 26 日 | アグロを事業者として決定(7 グループ中 1 位) |
平成 14 年 12 月 10 日 | 手続協定 締結 |
平成 15 年 3 月 10 日 | 基本協定書、土地賃貸借予約契約書、確認書 締結 「入浴料金は、一般公衆浴場料金の最低 3 倍以上の料金格差を設ける」を明記(確認書) |
平成 15 年 9 月 12 日 | xx証書により賃貸借契約 締結 |
平成 17 年 3 月 17 日 | 温浴施設(現名称:源泉湯元 あぐろの湯)開業 |
(4)温浴施設等についての提案書・契約等の条項等は次のとおりである。
① 提案書
平成 14 年 10 月にアグロから提出された提案書(以下「提案書」という。)によれば、物販施設を中心に、xxに温浴施設と飲食店を配置したものとなっている。
提案書の内容は多岐にわたっているが、その中で温浴施設については、「施設利用料 1,100 円」、「商圏の設定は車利用 30 分圏、40~55 万人の集客を見込
んでいる」、「集客を維持するための方策」として「風呂の日(毎月 26 日)、レ
ディースデー(毎月 10 日)、夫婦の日(毎月 22 日)など継続的に行うイベントをベースに割引券の進呈、回数券の特価販売など継続利用を促すものを主体とします。」と記載している。
② 確認書
「1.施設内容について
(1)833 ㎡の街角広場兼イベント広場、562 ㎡のスポーツ広場、3,425 ㎡の緑地を自ら整備運営し、広く市民開放する。
(2)音楽スタジオを自ら整備運営し、広く市民開放する。
(3)温浴施設については、自ら整備し、原則として、ガーデニングストア等と同時にオープンする。
(4)入浴料金は、一般公衆浴場料金の最低 3 倍以上の料金格差を設ける。
(5)~(8) 略 」
「2.地元との協調について
(1)飲食店舗に関しては、㈱神戸ながたティ・エム・オー等を通じて、地元事業者に事業参画を呼びかける。
(2)~(4) 略 」
「3.福祉・環境対策について
(1)『高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律』等に基づき、ユニバーサルデザインに配慮した誰にでも使いやすい施設とする。
(2) 略 」
③ 基本協定書
第 2 条「乙(アグロ)は、本件土地を、本協定、xxx駅南地区集客施設用地借受人募集要項、当該要項に基づいて甲(神戸市)に提出した提案書及び、手続協定第6条に基づき、甲乙間で協議し確認した確認書(以下「事業計画書等」という。)に記載した事項について、誠実に遵守しなければならない。」
第 5 条第 1 項「乙は、~中略~やむを得ない理由により、事業計画書等の内容の一部を変更しようとするときは、あらかじめ甲と協議し承認を受けなければならない。ただし、運営主体や業種業態の変更など、当初の事業計画書等の内容から逸脱する変更は認められない。」
第 5 条第 2 項「前項の規定により、事業計画書等の一部を変更しようとするときは、乙は甲の承認前に、自らの責任において、周辺住民等の関係者に対して、
その変更内容を説明しなければならない。」
④ 賃貸借契約書
第 1 条第 1 項「甲(神戸市)と乙(アグロ)は、本件土地について、借地借
家法第 24 条(現第 23 条)に規定する事業用借地権を設定する。」
第 1 条第 2 項「乙(アグロ)は、本件土地を専ら集客施設の用に供する建物を所有するために使用するものとし、~中略~なお、乙は本件土地上に所有する建物の構造、規模、用途等ならびに緑地等の規模及び配置は別紙目録2記載のとおりとする。」
「目録 2
ホームセンター棟 鉄骨造 2 階建 約 14,300 平方メートル
温浴施設棟 | 鉄骨造xxx | 約 | 2,100 平方メートル |
飲食店舗棟 | 鉄骨造xxx | 約 | 600 平方メートル |
緑地面積等 | 約 | 4,700 平方メートル | |
(別添図面のとおり) | 略 | 」 |
第 1 条第 3 項「乙は、本件土地の利用に関し、xxx駅南地区集客施設用地借受人募集要項、当該要綱に基づいて甲(神戸市)に提出した提案書を遵守するとともに、手続協定第 6 条に基づく確認書及び基本協定書に基づく集客施設の用途等(以下「事業内容等」という。)を遵守するものとする。」
第 15 条「乙は、第 1 条、第 8 条、第 9 条又は第 10 条の規定に違反したとき
は、違約金として月額賃料の 24 か月分に相当する金額を、~中略~納付しなければならない。」
(5)あぐろの入浴料金について
アグロのホームページに記載されている温浴施設の入浴料金は次のとおりである。源泉湯元 あぐろの湯 ご入浴料金 (H.21.6.1 現在)
入浴料金 | 大 人 (中学生以上) | 小 人 (小学生) | 幼 児 (3歳~5歳) | 2 歳以下 |
タオルあり | 1,100 円 (タオル・バスタオル 各 1 枚無料貸出し) | 400 円 (タオル 1 枚の み無料貸出し) | ||
タオルなし | 850 円 | 200 円 | 無 料 | |
回数券 | 10,000 円(10 回分) (タオル・バスタオル 1 枚無料貸出し) |
2 当局の説明
(1)確認書で、「一般公衆浴場料金と最低 3 倍以上の料金格差を設ける」ことの経緯
① コンペについて
平成 14 年 5 月にxx浴場組合から、以前からの浴場組合の要望をもとに保健福祉局生活衛生課が行政指導している内容でもある「3 倍以上の料金格差を設けてほしい」との要望があり、平成 14 年 7 月のコンペの募集要項に「温浴施設については、xx南部地域に一般公衆浴場が集中しており、これとの協調を図るため、一般公衆浴場と相当の料金格差を設けること」と明記し、募集した。
また、平成 14 年 8 月のコンペの応募予定者の質問に対しては、「神戸市の行政指導では、3~5 倍程度の料金格差を設けることとしているため、最低 3 倍以上の料金格差を設けること」と回答している。
同年 12 月には浴場組合、神戸市、アグロの 3 者(以下「3 者」という。)による
懇談会を開催し、xxxが一般公衆浴場料金の 3 倍以上の格差を設けることを約
束し 3 者合意した。これを受け平成 15 年 3 月にアグロと神戸市との間で、確認書、基本協定書、土地賃貸借予約契約書を締結し、確認書には「一般公衆浴場料金の最低 3 倍以上の料金格差を設ける」ことを明記した。
② 行政指導の変更について
3 倍以上の料金格差を求める行政指導が、許認可権をもつ行政機関が具体的な料
金設定について言及するのは好ましくないことから平成 16 年 1 月に変更し、それ
以降は事業者に具体的な料金設定については指導せず、「一般公衆浴場料金の 3 倍の料金設定を求める浴場組合の意向を伝え、浴場組合とよく相談するよう」に指導している。
そのため、温浴施設の入浴料金は、開業時の一般公衆浴場料金 380 円の 3 倍料
金ではなく、コンペ当時の340 円の3 倍料金で、アグロの提案書に記載された1,100円で開業されている。
現在の 1,100 円という料金設定は、周辺のスーパー銭湯の料金を考慮しても相当高い設定となっており、十分に協調的料金であると考える。
③ 入浴料金の変更協議等について
平成 17 年 10 月にxx浴場組合から、「天然温泉げんきの郷・施設利用料金に関
する陳情」が市会に提出され、平成 17 年 11 月の総務財政委員会で審議され、審査打ち切りになったが、当局に対して「xxの活性化の観点から、浴場組合とアグロが互いに譲り合って話し合いの場を持つよう」要望をいただいた。これを受け、計3回3者協議の場を持ったが、平成 19 年 7 月からはアグロ側から提案があった販売促進の実施についてxx浴場組合は容認できないと協議への参加を拒否していた。
平成 19 年 8 月にはアグロから神戸市に対して「確認書にある入浴料金を神戸市内の他のスーパー銭湯並みに是正すること」との要望書が提出された。
同年 12 月には、アグロが神戸市を相手取り、「①確認書の『最低 3 倍以上』を
『1.5 倍以上』に改めることを合意する。②利用促進活動を神戸市の承認なく自由に行うことができることを確認する。」ことを求める民事調停の申し立てが神戸地裁に出された。xx浴場組合にも参加を要請し、3 者による民事調停となった。調
停の内容として、神戸市は「xx料金」については、調停時の統制料金の 2 倍で
760 円等を提案し、アグロは「xx料金」700 円(タオルあり)等の調停案を提案
し、その後アグロも「xx料金」を 760 円と譲歩する調停案を提出したが、xx浴場組合が調停案を提出しないため、調停委員としても妥協点が見出せないとの判断から、調停不成立となった。
(2)販売促進活動について
① あぐろの湯の販売促進活動は、次のとおり実施されている。
H.17.3.17 開業当時 | H.21.6.1 現在 | |
記念日 販 売回数券 | 10 回 7,500 円 (有効期間 1 年間) | 10 回 7,000 円(タオルあり) 10 回 6,000 円(タオルなし) (有効期間 1 年間) |
記念日配 布割引券 | ・1,100 円(タオルあり)で入浴の場合 500 円割引券 1 枚(3 ヶ月有効)を進呈 | ・1,100 円(タオルあり)で入浴の場合 350 円割引券 4 枚を進呈・次回 1,100 円入浴時に使用可 ・850 円(タオルなし)で入浴の場合 200 円割引券 4 枚を進呈・次回 850 円入浴時に使用可 |
アグロ販促券 | ホームセンターで 2,000 円以上の買物客に対し 500 円(タオルあり)の割引券(3 ヶ月有効)を進呈 | ホームセンターで 2,000 円以上の 買物客に対し 350 円(タオルあり用)・200 円(タオルなし用)の割 引券を進呈 |
提案書に風呂の日等のイベントによる割引や回数券の販売が記載されていること、一般の事業者の営業活動においても、特定日の割引や回数券による割引といった販 売促進活動が実施されていること、確認書では販売促進活動の内容についてまで記 載されていないことから、販売促進活動は確認書に違反しているとは考えていない。
しかし、販売促進活動についても、地元の公衆浴場組合に納得してもらう内容であることが基本であると考えており、xx南部地域の活性化の観点からアグロと浴場組合で十分に協議の上実施されることが必要であると考えている。
② あぐろの湯 日平均利用者数と販促券利用者数(人/日) アグロ資料
H.17 年度 | H.18 年度 | H.19 年度 | H.20 年度 (3 月除く) | |
通常価格利用者 | 370(39.2%) | 224(28.9%) | 154(22.8%) | 156(21.7%) |
販促券利用者 | 573(60.8%) | 552(71.1%) | 521(77.2%) | 561(78.3%) |
計 | 943 | 776 | 675 | 716 |
(3)タオルなし入浴料金の設定について
タオルなし 850 円の入浴料金は、1,100 円の入浴料金からタオルの利用料金相当の 250 円を差し引いたものであり、温浴施設の性格からタオルつきを前提とした料金を
基準として考えることは不合理ではないと思われることから、タオルなし 850 円の入浴料金の設定自体が確認書に違反しているとは考えていない。
(4)事業計画の変更について
入浴料金は開業当初から 1,100 円であり、事業計画の変更はないと考えている。
(5)違約金の請求について
確認書に違反する事実はなく、賃貸借契約書第 1 条第 3 項の規定に違反していないことから、違約金を請求する必要はないと考える。
また、賃貸借契約書第 15 条第1 項による違約金は、121,604,400 円と高額であり、その額を違約金として徴収することになれば、賃貸借の継続に重大な支障をもたらすことになり、違約金の対象となる契約違反は相当程度重大なものに限定されると解する。
3 判断
確認書第 1 項(4)では、「入浴料金は、一般公衆浴場料金の最低 3 倍以上の料金格差を設ける」と規定しているが、具体的な入浴料金や一般公衆浴場料金の統制額に改定があった際の入浴料金の改定については規定していない。
そこでまず、確認書に規定されている入浴料金の意味について検討する。
神戸市は、提案書に施設利用料 1,100 円と記載しているアグロを事業者として決定し、確認書を締結した。また、統制額改定後もアグロに対して入浴料金の改定を求めた事実はない。
一方アグロも、開業当初から現在に至るまで、入浴料金は大人 1,100 円等で営業している。
以上のことから、確認書第 1 項(4)で「入浴料金は、一般公衆浴場料金の最低 3 倍以上の料金格差を設ける」と規定している入浴料金は、神戸市とアグロの間では、統制額が改定された現在も大人 1,100 円が基準となっていると解することができる。
(1)理由 1「①割引券の進呈や回数券の特価販売は、入浴料金を実質的に 600 円又は 750
円に設定していることになり、確認書第 1 項(4)の遵守を規定している賃貸
借契約書に違反している。②大人 340 円という入浴料金統制額は、バスタオルを貸さない状態での料金であることから、アグロの、大人バスタオルなし 850 円という設定自体も確認書に違反し賃貸借契約違反にあたる。」との主張について
①一般に販売促進活動は、事業者の裁量に任されるものであるが、確認書第 1 項(4)
に入浴料金には料金格差を設ける旨の規定があることから、賃貸借契約上一定の制約が存すると解される。しかし、賃貸借契約上販売促進活動についての規定はなく、賃貸借契約書に違反しているかどうかは、契約当事者の判断や社会通念に照らして判断せざるを得ない。
神戸市は、販売促進活動については、提案書に風呂の日等のイベントによる割引や回数券の販売が記載されていることから、一定の販売促進活動は確認書には違反していないとして容認してきている。
特定日の割引や回数券の特価販売というアグロの販売促進活動は、一般的な事業者による営業活動として実施されており、社会通念上著しい問題があるとはいえない。また、販促券利用者が 7 割を超えているとしても、大人 1,100 円の入浴料金を基準
とした販売促進活動であり、確認書第 1 項(4)をまったく形骸化しているとまでは判断できない。
②一般公衆浴場では、県条例で営業者が講じなければならない措置の基準として距離規制等のほか、タオル等を貸与しないことが規定されており、利用者はタオルを持参することが必要となる。「あぐろの湯」などのスーパー銭湯は、その他の公衆浴場として許可されており、タオルの貸与も可能であり、広範囲からの集客を見込んだ娯楽的要素も備えた施設であることから、一般公衆浴場と利用の形態に差異がある。
従って、一般公衆浴場料金と比較する入浴料金として、大人・タオルあり 1,100 円
とすることは不合理とはいえず、また、大人・タオルなし 850 円という料金設定は、
タオル・バスタオルの貸出し料金を 250 円として大人・タオルあり 1,100 円との差額にしていることとなり、不当に値引きしているとはいえない。
よって、当該販売促進活動及び料金設定は、直ちに確認書に違反し債務不履行があったとは言えない。
(2)理由 2「入浴料金について、当初の事業計画から変更があったというならば、基本協定書第 5 条に基づきxx浴場組合に対して事前に説明すべきところ、説明がなく賃貸借契約に違反している。」との主張について
入浴料金は開業当初から大人 1,100 円であり、現在も変更はないことから、請求人の主張は当たらない。
(3)「 神戸市は、アグロに対して違約金請求権を有している。」との主張について
賃貸借契約書第 15 条第 1 項の違約金請求の対象となるのは、第 1 条、第 8 条、第 9
条又は第 10 条の規定に違反したときである。
第 1 条の規定は、契約の目的に関する条項であり、第 1 項で事業用借地権を設定す
ること、第 2 項で本件土地を専ら集客施設の用に供する建物を所有するために使用す
ること、第 3 項では募集要項、提案書を遵守するとともに、手続協定第 6 条に基づく
確認書及び基本協定書に基づく集客施設の用途等を遵守することと規定されている。なお、第 8 条は事前承諾事項、第 9 条は地位の譲渡、転貸の禁止、第 10 条は事業用
定期借地を前提とした建物の賃貸借契約に関する遵守事項の規定である。
このように違約金の対象となる条項は多岐にわたっており、また、違約金は契約面積全体の月額賃貸料の 24 ケ月分とされていることや、違約金の減額規定もなく一律に
24 ケ月分とされていることから、違約金の請求対象となる契約違反は、当該契約の目的そのものの履行が困難になるなど相当程度重大なものに限定されると解される。
従って、仮に集客施設の一部である温浴施設について、確認書第 1 項(4)の「一般
公衆浴場料金の 3 倍以上の料金格差を設ける。」という規定に温浴施設の販売促進活動が違反すると判断されることがあるとしても、そのことのみをもって、違約金を請求することを当該契約上想定しているとは解しがたい。
(4)「神戸市が違約金請求権を有しているにもかかわらず請求しないことは、地方自治法第 242 条の『財産の管理を怠る事実』に当たる。」との主張について
地方自治法第 242 条は、住民は、地方公共団体の職員による違法又は不当な行為や財産の管理を怠る事実により、地方公共団体のこうむった損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求することができるとしている。
しかし、「一般に、地方公共団体の有する確定判決に基づく債権を当該地方公共団体の長又は権限を有する職員が行使しないというだけでは、当該地方公共団体に財産的損害は発生しない。これが発生するのは、消滅時効、債務者の無資力化等により本来回収できたはずの債権が、法律上又は事実上回収不能となった場合等に限られる。」(平成 20 年 10 月 14 日神戸地裁)とする判旨があるほか、昭和 58 年 11 月 25日の大阪高裁判決でも、地方公共団体の長が、仮に不当利得返還請求権が発生し、右請求権を行使しないからといって、右請求権の消滅時効期間が経過したとか請求の相手方が無資力になったとかの事情がない限り、直ちに地方公共団体に損害が発生したことにはならないとした判例がある。
これらの判例の趣旨に照らすと、本件において、仮に神戸市が違約金の請求権を有しており、それを行使していないとしても、現段階では法律上または事実上回収不能な状態にあるとは言えず、神戸市に財産的損害は発生していないので、「財産の管理を怠る事実」はない。
従って、請求人の主張は失当である。第 4 結論
市長に、「アグロの債務不履行状態を解消させるため、アグロに対して違約金の請求等、必要な措置を講ずること」を勧告するよう求める請求人の主張に理由はなく、措置の必要を認めない。