Contract
(以下,本訴原告(反訴被告)を「原告」と,本訴被告(反訴原告)を「被告」と各称する。)
主 文
1 被告は原告に対し,金280万円及びこれに対する平成12年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告の反訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は,本訴反訴を通じて被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴
主文第1項同旨
2 反訴
原告は被告に対し,金284万6100円及びこれに対する平成13年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,別紙図面記載の福岡県久留米市甲町字乙所在の山林7284坪の売買(以下「本件土地」,「本件売買」という。)を巡る紛争であり,
(1) 本件売買に伴って交付された貸金の返還を求める本訴(催告期限の翌日からの遅延損害金を含む。)
(2) 本件売買の未払代金の一部の支払を求める反訴(反訴状送達日の翌日からの遅延損害金を含む。)
からなる。
2 争いのない事実
(1) 原告は,平成10年11月4日,被告に対し,本件売買における地権者との買付交渉を依頼し,手数料1000万円を交付した。
(2) 原告と被告は,平成11年5月20日,買付価格を6218坪については坪1万円(急勾配の法面である1066坪(別紙図面中の緑色線で囲まれた部分,以下「法面部分」という。)について争いあり。),被告への手数料は1000万円と定めた。原告は,上記同日,6518万円を被告に交付した。
(3) 原告は被告に対し,平成11年10月29日,金280万円を交付した。
3 争点
本件の争点は,法面部分の代金額決定の方法についての合意内容(後記保安林の面積測量合意の有無),前記2(3)の280万円交付の法的意味及び停止条件の有無である。
(1) 原告の主張(本訴請求原因)
① 原告と被告は,本件契約締結当時,法面部分の代金を300万円とすると合意した。
② さらに,被告は,法面部分を削れば有効面積が増えると予測されるの で,増加した有効面積1坪につき7000円を追加して支払ってほしいと述べた。これに対し,原告は,法面部分を削ることで増加した有効面積を造成工事後に測量し,その有効面積に上記7000円を乗じた金額を追加払いすると返答した。
しかし,法面部分中の保安林(別紙図面中の法面部分のうち,青色で区切られた上記側の部分,以下「本件保安林」という。)の面積を確定する約束はしていないし,その必要もなかった。
③ 被告が地権者の同意を得るのに手間取ったため,造成工事が遅れた。被告は,地権者からの承諾を得るために280万円を貸してほしい,それで全て解決可能だと述べた。そこで,原告は被告に対し,平成11年10月29日,金280万円を利息の定めなく貸し付けた。この貸付けには,原告が法面部分の造成工事をして追加代金を支払うことになると,被告は原告に上記280万円を返還する義務を免れるという停止条件が付されていた。
④ 原告は,平成10年12月ころ,本件土地を3000坪未満に分割し,複数回の造成工事を行うことにし,造成の完了した部分を1坪3万6000円で株式会社ネックステージ(以下「訴外会社」という。)に売却する契約を締結した。本件契約締結前に1500坪が造成された平成10年3月ころ,訴外会社が販売を開始したが,このことがきっかけとなって地権者が代金増額を要求したり,造成反対運動が起こされたりするようになったため,原告は被告に対しさらに,同年4月から5月にかけて550万円を支払った。しかし,上記反対運動は止まず,残りの
造成工事の目途が立たなくなった。そのため,平成11年11月ころ,原告,訴外会社及び元県議のC氏との間で,次のとおりの合意をした。
(1) 原告は,本件山林のうち,造成済みの1500坪を除いた5784坪を訴外会社の関連会社に6500万円で売却する(平成11年12月に登記済
み)。上記関連会社は,上記5784坪のうち2000坪を造成して販売し,その代金から上記6500万円を支払う。
(2) C氏は上記5784坪のうち造成対象にならない3784坪(法面部分全部を含む。)につき,造成をせずに植林して反対運動を円満に解決する。
この合意によって,上記③の停止条件の不成就が確定した。
(2) 被告の主張(反訴請求原因)
① 原告と被告は,本件契約締結の当日,本件土地のうち,法面部分中の本件保安林は1坪3000円,それ以外の部分は1坪1万円と合意した。本件契約締結当日に原告から被告に交付された7518万円のうちの6518万円は,621
8坪分の代金6218万円に法面部分の暫定代金300万円を加えたものである。
② 原告と被告は,後に,本件保安林の面積を測量し,法面部分の代金精算をすると約束した。しかし,原告は上記測量をしてくれないので,被告は,地権者に対する支払の必要から前記2(3)の280万円を借用する形式で受領した。この280万円は,実際には借入金ではなく,上記測量によって法面部分の代金が確定した場合にこれに充当し,余剰が生じればこれを原告に返還するが,不足が生じれば追加支払を受けることになっていた。
③ 本件保安林の面積は,220.2坪だから,法面部分の代金は911万
8600円(3000円×220.2+1万円×845.8)で,既受領額は58
0万円(上記①の暫定代金300万円及び上記②の280万円)である。不足額は
331万8600円となる(請求するのはそのうち284万6100円)。
④ 原告が造成工事に着手したのは,本件契約締結の前であり,被告は手数料1000万円及び550万円を本件契約締結前に受領した。1500坪が造成された時点で,訴外会社が販売を開始したのも,本件契約締結前であり,上記550万円は,被告が手数料の中から捻出した550万円とともに地権者に支払われた。第3 判断
1 認定事実
前記争いのない事実,原告本人,被告本人(一部),弁論の全趣旨及び各末尾掲記の証拠によれば,以下の事実を認めることができる。
(1) 原告は,平成10年11月4日,被告に対し,本件売買における地権者との買付交渉を依頼し,手数料1000万円を交付した。さらに,原告は同年12月ころ,本件土地を3000坪未満に分割し,複数回の造成工事を行うことにし,造成の完了した部分を1坪3万6000円で訴外会社に売却する契約を締結し,平成
11年1月から第1次造成工事(1500坪分)を始め,3月に終了した。そこ で,訴外会社が販売を開始したが,このことがきっかけとなって地権者が代金増額を要求したり,造成反対運動が起こされたりするようになったため,原告は被告に対しさらに,同年4月から5月にかけて550万円を支払った。
(甲5,乙4)
(2) 原告と被告は,平成11年5月20日,上記1500坪分の地権者の同意を得られたので,本件契約を締結した。本件土地は7284坪だが,契約書には,
「6218坪については7218万円,保安xxの1066坪は300万円とす る。」との特記事項がある。同日付の原告作成の念書には「7284坪を6218坪と1066坪に分筆し,工事進行によって6218坪が増え1066坪が減じた場合には増加した土地は坪1万円で計算し,減じた土地は坪合計1066坪金30
0万円の比例により計算する」と記載されている。原告は,上記同日,6518万円を被告に交付し,被告は先に交付された手数料1000万円を併せた7518万円の領収証を原告に交付した。
(甲3ないし5,乙3,4,証人A,証人B(一部))
(3) 原告は被告に対し,平成11年10月29日,金280万円を交付した。被告は原告宛の借用書を差し入れ,「返済期日はxxxxx内土地代金最終決済と同時に行うものとする。」と特記した。この280万円は,法面部分の造成によって有効面積が約400坪増える見込みだったので,7000円の400坪分という根拠で計算された。
しかし,反対運動は止まず,残りの造成工事の目途が立たなくなった。そのた め,平成11年11月ころ,原告,訴外会社及び元県議のC氏との間で,次のとお
りの合意をした。
① 原告は,本件山林のうち,造成済みの1500坪を除いた5784坪を訴外会社の関連会社に6500万円で売却する(平成11年12月に登記済み)。上記関連会社は,上記5784坪のうち2000坪を造成して販売し,その代金から上記6500万円を支払う。
② C氏は上記5784坪のうち造成対象にならない3784坪(法面部分全部を含む。)につき,造成をせずに植林して反対運動を円満に解決する。
この合意の結果,法面部分の造成は行われないことになった。
(甲1,5,6)
2 保安林の面積測量合意の有無について
(1) 前記1(2),(3)で認定した事実によれば,原告と被告は,本件契約締結当時,法面部分の代金を300万円とすると合意したこと,ただし,法面部分の造成によって増加した有効面積については,1坪につき7000円を追加払いするとの特約を付したこと,平成11年10月に授受された280万円はこの特約に基づいて,見込み計算された予想増加有効面積の追加代金に見合うことが認められる。これらの事情からすると,本件契約において本件保安林の面積を確定する約束は必要がないし,契約書や念書にも測量約束を窺わせる何らの記載もない。したがって,保安林の面積測量合意はなかったと判断する。
(2) 被告は,保安林の面積測量合意が存在したと主張し,乙4,証人B及び被告本人の供述中にはこれに沿った部分があるが,甲3,乙1,3及び原告本人の供述に照らし,採用することはできず,上記主張は理由がない。
3 280万円交付に停止条件が付されていたかについて
(1) 前記2によれば,原告が被告に交付した280万円は,本件契約の代金の
1部ではなく,貸金であること,ただし,本件契約の特約に基づいて,将来,法面部分の造成が行われ,それによって有効面積が増加した場合には,その追加代金に充当し,その充当の限度で被告が返還義務を免れるものであることが認められる。前記1(3)で認定した事実によれば,本件契約においては,法面部分の造成が 行われた場合のみ追加代金が発生すること,しかし,平成11年11月時点で,こ
の造成が行われないことが確定し,追加代金の発生もなくなったことが認められる。
このような事実関係においては,上記280万円の貸付けには,原告が法面部分の造成工事をして追加代金を支払うことになると,被告は原告に上記280万円を返還する義務を免れるという停止条件が付されていたが,この停止条件が不成就に確定したというべきである。
(2) 被告は,地権者に対する支払の必要から280万円を借用する形式で受領したが,これは,実際には借入金ではなく,保安林の測量によって法面部分の代金が確定した場合にこれに充当し,余剰が生じればこれを原告に返還するが,不足が生じれば追加支払を受けることになっていたと主張し,乙4,証人B及び被告本人の供述中にはこれに沿った部分がある。しかし,甲1,3,乙1,3及び原告本人の供述に照らし採用することはできず,上記主張は理由がない。
4 結論
原告の本訴請求は理由があり,被告の反訴請求は理由がない。訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用する。
(口頭弁論終結日=平成13年10月17日)
福岡地方裁判所第2民事部
裁判官 x x x