ア 債権者の変更によって,当然にその給付内容が全く変わる債権 ex.特定の人の肖像を描かせる債権,特定の人を扶養させる債権
第4章 債権譲渡および債務引受
第1節 債権譲渡
第1 意義
債権をその同一性を保ちつつ移転させることを目的とする契約
なお,債権譲渡は債権の移転それ自体を目的とする契約であって,債権の売買(原因行為)とは理論上別個のものである(準物権行為)。
第2 効果
1 債権はその同一性を保ちつつ移転し,同時履行の抗弁権・担保権なども原則として移転する。
2 契約上の地位は移転しないので,契約の解除権などは移転しない。
Ⅰ 指名債権の譲渡
1 指名債権の譲渡性
第1 指名債権の譲渡性
現行(債権の譲渡性)
第 466 条 債権は,譲り渡すことができる。ただし,その性質がこれを許さないときは,この限りでない。
2 前項の規定は,当事者が反対の意思を表示した場合には,適用しない。ただし,その意思表示 は,善意の第三者に対抗することができない。
●改正法(債権の譲渡性) 第466 条 [略]
2 当事者が債権の譲渡を禁止し,又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」とい う。)をしたときであっても,債権の譲渡は,その効力を妨げられない。
3 前項に規定する場合には,譲渡制限の意思表示がされたことを知り,又は重大な過失によって 知らなかった譲受人その他の第三者に対しては,債務者は,その債務の履行を拒むことができ,かつ,譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
4 前項の規定は,債務者が債務を履行しない場合において,同項に規定する第三者が相当の期間 を定めて譲渡人への履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,その債務者については,適用しない。
(譲渡制限の意思表示がされた債権に係る債務者の供託)
第466 条の2 債務者は,譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡された ときは,その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地(債務の履行地が債権者の現在の住所に
より定まる場合にあっては,譲渡人の現在の住所を含む。次条において同じ。)の供託所に供託す ることができる。
2 前項の規定により供託をした債務者は,遅滞なく,譲渡人及び譲受人に供託の通知をしなけれ ばならない。
3 第1項の規定により供託をした金銭は,譲受人に限り,還付を請求することができる。
第466 条の3 前条第1項に規定する場合において,譲渡人について破産手続開始の決定があった ときは,譲受人(同項の債権の全額を譲り受けた者であって,その債権の譲渡を債務者その他の第三者に対抗することができるものに限る。)は,譲渡制限の意思表示がされたことを知り,又は重大な過失によって知らなかったときであっても,債務者にその債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託させることができる。この場合においては,同条第2項及び第3項の規定を準用する。
(譲渡制限の意思表示がされた債権の差押え)
第466 条の4 第466 条第3項の規定は,譲渡制限の意思表示がされた債権に対する強制執行をし た差押債権者に対しては,適用しない。
2 前項の規定にかかわらず,譲受人その他の第三者が譲渡制限の意思表示がされたことを知り, 又は重大な過失によって知らなかった場合において,その債権者が同項の債権に対する強制執行をしたときは,債務者は,その債務の履行を拒むことができ,かつ,譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって差押債権者に対抗することができる。
(預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力)
第466 条の5 預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。) について当事者がした譲渡制限の意思表示は,第466 条第2項の規定にかかわらず,その譲渡制限の意思表示がされたことを知り,又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。
2 前項の規定は,譲渡制限の意思表示がされた預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者に 対しては,適用しない。
(将来債権の譲渡性)
第466 条の6 債権の譲渡は,その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。
2 債権が譲渡された場合において,その意思表示の時に債権が現に発生していないときは,譲受 人は,発生した債権を当然に取得する。
3 前項に規定する場合において,譲渡人が次条の規定による通知をし,又は債務者が同条の規定 による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡制限の意思表示がされたときは,譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして,第466 条第3項(譲渡制限の意思表示がされた債権が預貯金債権の場合にあっては,前条第1項)の規定を適用する。
改正法466条2項以下は,債権譲渡を制限する意思表示の効力を定めるも のであり,同条2項は,譲渡制限特約があっても,債権譲渡は有効であることを定めている。
指名債権とは,債権者の特定した債権であって,証券的債権に属しない普通の債権をいう。
指名債権は原則として譲渡することができる(466条1項)。
※ 一般に債権の譲渡性が増大することは,少なくとも債務者にとって不利益を伴う。特に,誰が正当な債権者であるかを知り得ないという不利益は大きい。そこで,民法は,指名債権は原則として譲渡性を有するものとしつつ(466条1項本文),譲渡性を本質とする証券的債権と異にして,譲渡について制限をおいている。
※ 将来債権の包括譲渡の有効性
将来債権は対象となる債権が特定されておらず,その発生の可能性が
確実でない場合には有効に譲渡し得ないのではないか問題となる。
この点,判例は,医師の将来の診療報酬債権の譲渡に関して,①発生 する期間の始期と終期を明確にする等により特定することを前提に,② 将来の発生の可能性は直ちに譲渡の効力に影響せず,③それが公序良俗 に反するような場合でない限り有効とする(最判平11.1.29 百選Ⅱ№26,これを引用するものとして最判平19.2.15 重判平19民法№5)。
※ 改正法では466条の6において判例法理を明文化した。同条3項におい て解釈上争いがあった将来債権譲渡後の譲渡制限特約の効力について,債務者対抗要件具備前に特約が合意された場合には,特約を対抗できることにした。
第2 譲渡制限
1 原則として債権は譲渡できるが,譲渡性が制限される場合もある。
⑴ 債権の性質がこれを許さないとき(466条1項ただし書)
ア 債権者の変更によって,当然にその給付内容が全く変わる債権 ex.特定の人の肖像を描かせる債権,特定の人を扶養させる債権
イ 特定の債権者に給付することに重要な意義を有する債権債務者が承諾すれば譲渡し得る。
ex.雇主の債権(625条1項),賃借権(612条1項),委任者の事務処理請求権
ウ 特定の債権者に対して弁済させるか,または少なくともこの者との間に決済させることを必要とする特殊の理由のある債権
ex.交互計算(商法529条)に組み入れられた債権
⑵ 当事者の譲渡禁止特約(466条2項本文)
⑶ 法律による譲渡禁止
ex.民法上の扶養請求権(881条),恩給請求権,年金受給権
2 譲渡禁止特約
⑴ 趣旨
債権者の交代による苛酷な取立から債務者を保護すること,債務者の支払事務の煩雑化,過誤払を回避することなどにある。
※ この趣旨より,譲渡禁止特約に反して債権を譲渡した債権者は,譲渡禁止特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しないのであり,特段の事情(債務者に譲渡の無効を主張する意思があることが明らかであるなど)ない限り,その無効を主張することは許されない(最判平21.3.27)。
⑵ 特約の効力
論点01 | ||
特約により,どのような効力が生じるか。 |
A 物権的効力説(最判昭49.4.26・通説)
特約により債権の譲渡性が失われ,特約違反の債権譲渡は無効になる。
(理由)
債権的効力しか生じないならば,当事者間で特約を結べば足り,わざわざ466条2項本文を規定するまでもない。
B 債権的効力説
特約により譲渡しないという債務を負担するにすぎず,特約違反の債権譲渡は有効である。譲渡人は債務者に対して債務不履行責任を負うに過ぎない。
(理由)
債権の自由譲渡性を徹底して考えるべきである。
(批判)
譲渡禁止の目的が貫かれない。
※ 改正法466条2項は,譲渡制限特約に反した債権譲渡は有効としている。
⑶ 善意の第三者
譲渡禁止特約は,善意の第三者には対抗できない(466 条2項ただし書)。
論点02 | ||
第三者の保護の主観的要件として無過失まで要求すべきか。 |
A 無過失までは不要だが,無重過失は必要である(最判昭48.7.19)。
(理由)
① 債権は譲渡できるのが原則であり,譲渡禁止特約をつけても依然譲渡性があるような外観をもっているから,この外観を信頼した者を,譲渡を禁止した者よりも厚く保護すべきであり,無過失までは要求すべきでない。
② 重過失は悪意と同視できる。
B 無過失が必要である。
(理由)
466条2項ただし書は,債権の譲渡性という外観を信頼した者を保護する制度であり,他の権利外観法理と同様に無過失を必要とすべきである。
⑷ 債務者の承諾
譲渡禁止の特約のある債権を悪意で譲り受けた場合でも,債務者の承諾があれば譲渡の時に遡って有効になる。なぜなら,譲渡禁止特約は債務者の利益を保護するものだからである。この場合,対抗力は承諾のときから生じる(最判昭 52.3.17)。
ただし,116 条の法意に照らし,第三者の権利を害することはできない(最判平 9.6.5 百選Ⅱ№25)。
⑸ 譲渡禁止特約付債権に対する強制執行
判例は,転付命令については,466 条2項は適用されず,悪意の者でも債権を取得し得るとした(最判昭 45.4.10)。
(理由)
① 債務者の一般財産の中に差押禁止のものをつくることは,私人が特約によって自由になし得ることではない。これを認めることは,債権者の立場を害することが甚だしい。
② 転付命令の取得というような取引行為でないものについて善意・悪意を問題とすることは適当でない。
※ 転付命令
債権執行の手続において,差押債権者の申立てに基づいて差し押さえられた債権を支払に代えて差押債権者に移転する裁判所の命令
(民事xxx159条)
※ 改正法466条2項は,譲渡制限特約があっても,債権譲渡は有効で あることを定めている。現行466条2項及び判例では,譲渡制限特約について譲受人が悪意又は重過失である場合には,債権譲渡は無効とされているが,譲受人の主観を問わず,債権譲渡は有効であるとした。
※ 改正法 466 条の2で,譲渡制限特約付債権の譲渡につき,債務者 の供託を認めた。
改正法466 条の3では,譲渡人について破産手続が開始した場合, 譲受人は譲渡制限特約について悪意重過失であっても債務者に対して供託請求できるとした。
※ 改正法466条の4第1項は,私人間の合意で差押禁止財産を作り出 すことはできないという判例法理を明文化した。
2 指名債権譲渡の対抗要件
現行(指名債権の譲渡の対抗要件)
第 467 条 指名債権の譲渡は,譲渡人が債務者に通知をし,又は債務者が承諾をしなければ,債務者その他の第三者に対抗することができない。
2 前項の通知又は承諾は,確定日付のある証書によってしなければ,債務者以外の第三者に対抗することができない。
●改正法(債権の譲渡の対抗要件)
第467 条 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は,譲渡人が債務者に通知をし,又は債務者が承諾をしなければ,債務者その他の第三者に対抗することができない。
2 [略]
改正法においては,債権譲渡の対抗要件について将来債権の譲渡の場合 も,債権発生前の段階で第三者対抗要件を具備できるとする判例法理をかっこ書で明文化した。
第1 意義
1 債権譲渡は,譲渡人・譲受人間の合意のみで行われ,債務者はこれに関与しない。そのため,債務者にとっては債権者が特定できず二重払等の危険があり,何らかの方法で債務者に債権譲渡の事実を知らせる必要がある。また,債務者以外の第三者が譲渡を知らずに二重譲渡を受けたり,譲渡債権を差し押さえることもある。そこで,民法は「債務者」及びそれ以外の「第三者」に対する対抗要件として,債務者への「通知」・債務者の「承諾」を要求した(467条1項)。
2 なお,通説は,467条1項が,対第三者対抗要件として,債務者への通 知・債務者の承諾を要求した趣旨は,債権を譲り受けようとする者は, 債務者へ問い合わせるのが通常であるため,債権の帰属につき債務者の 認識を通じて公示させ(すなわち,債務者を情報のインフォメーション センターならしめる),債権取引の安全を図る点にあるとする。そして, 467条2項が「確定日付のある証書」を要求した趣旨は,関係当事者の通 謀により譲渡日付を遡らせる不正を可及的に防止するためであるとする。
第2 債務者に対する対抗要件
1 通知
⑴ 法的性質
観念の通知であるが,意思表示に関する規定が類推適用される。
⑵ 通知をする者
通知をなす者は,譲渡人またはその包括承継人である。
譲受人が譲渡人に代位して通知することは許されない(大判昭5.10.10)。
(理由)
① 権利を失う譲渡人からの通知だから信憑性があるのであって,譲受人が通知しても信用できない。
② 通知は譲渡人の権利でなく義務である。
③ 譲渡人が債務者に譲渡の通知をしないときは,譲受人は譲渡人に対して譲渡の通知をするように請求することができる。
※ 債権が甲から乙,乙から丙とxxに譲渡された場合,丙は乙の甲に 対する,債務者に通知すべき旨の請求権を代位行使することができる。
⑶ 通知の相手方
債務者である。
多数の債務者のある債権で1人に対する通知が他の債務者に対しても通知の効力を生ずるかどうかは,それらの債務関係の性質による。連帯債務では,債務者全員に対する債権を譲渡した場合は全員に対 して通知が必要(440 条)。一部の者に対する債権だけを譲渡した場合
はその者に対する通知があれば足りる。
保証債務では,主たる債務者に通知すれば足りる(大判明 39.3.3)。保証人に対してだけ通知をしても主たる債務者のみならず,保証人に対しても対抗できない。
⑷ 通知の時期
通知は,譲渡後でもよい。譲渡後に通知がされた場合,そのときから対抗力を生じる。
事前の通知は対抗要件とならない。
(理由)
譲渡されるかどうか,またいつ譲渡されるかが不明であり,債務者に不利益を与えるから。
⑸ 通知の効果
ア 対抗力の発生
通知により譲受人は債務者に対し権利を行使できる。
イ 抗弁の対抗
通知をなしたにとどまるときは,債務者は「通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由」をもって譲受人に対抗できる(468条2項)。なぜなら,債権は,債権譲渡によってその同一性を失わずに移転するものであり,また,債務者と無関係になされる債権譲渡契約によって,債務者が不利にならないようにするためである。
ex.譲渡債権の不成立,消滅,同時履行の抗弁権
ウ 対抗が問題となる事由
(ア)取消し
通知前に譲渡人・債務者間の契約を取り消した場合に,債務者が債務の消滅を譲受人に対抗できることについて問題はない。
通知後に取り消した場合は,契約時に取消原因(抗弁事由発生の基礎)は存在しているので,「通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由」として,対抗を認めてよい。
(イ)解除
論点03 | ||
譲渡債権が双務契約から発生したものである場合,債務者は反対債 | ||
権の不履行を理由とする契約解除を,債権譲渡の通知後に譲受人に対抗で きるか。 |
→ 双務契約から生じた債権である以上,通知前に抗弁事由発生の基礎が存在するとして解除を対抗できる。
(ウ)相殺
相殺と差押えの論点(511 条)と同列に論じられている。
判例(最大判昭 45.6.24 百選Ⅱ№39)は,第三債務者は,その自働債権が差押後に取得されたものでない限り,両債権の弁済期の前後を問わずに相殺をなすことを認める。
2 承諾
⑴ 法的性質
観念の通知である。意思表示に関する規定の類推適用がある。
⑵ 承諾の相手方
譲渡人・譲受人のどちらでもよい。
⑶ 承諾の時期
ア 承諾の時期は譲渡後でもよい。譲渡後に承諾がされた場合,そのときから対抗力を生ずる。
イ 事前の承諾も譲渡債権と譲受人とが特定している限り有効である。
(理由)
債権者の一方的な通知と違い,承諾は債務者がなすものだから。
ウ 債権譲渡予約の承諾(債権者からの通知も同様)だけでは債務者に対する対抗要件とはならない。(最判平13.11.27 重判平13民法№9)
(理由)
予約の通知だけでは,債権の帰属が将来変更される可能性を認識するだけであり,債権の帰属の事実を認識するわけではないから。
⑷ 承諾の効果
異議をとどめた承諾-通知の効果と同じ。
3 異議をとどめない承諾
現行(指名債権の譲渡における債務者の抗弁)
第 468 条 債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは,譲渡人に対抗することができた 事由があっても,これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において,債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し,譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。
2 譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは,債務者は,その通知を受けるまでに譲渡人に対 して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
●改正法(債権の譲渡における債務者の抗弁)
第468 条 債務者は,対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗する ことができる。
2 第466 条第4項の場合における前項の規定の適用については,同項中「対抗要件具備時」とあ るのは,「第466 条第4項の相当の期間を経過した時」とし,第466 条の3の場合における同項の規定の適用については,同項中「対抗要件具備時」とあるのは,「第466 条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。
(債権の譲渡における相殺権)
第469 条 債務者は,対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲 受人に対抗することができる。
2 債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であっても,その債権が次に掲 げるものであるときは,前項と同様とする。ただし,債務者が対抗要件具備時より後に他人の債権を取得したときは,この限りでない。
一 対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権
二 前号に掲げるもののほか,譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権
3 第466 条第4項の場合における前2項の規定の適用については,これらの規定中「対抗要件具 備時」とあるのは,「第466 条第4項の相当の期間を経過した時」とし,第466 条の3の場合におけるこれらの規定の適用については,これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは,「第 466条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。
現行468条1項は,異議をとどめない承諾による抗弁の切断について規定し ているが,単に債権が譲渡されたことを債務者が認識し,承諾の通知を発しただけで抗弁が喪失するのは,債務者保護の観点から妥当ではないため,廃止される。
改正法469条は,債権の譲渡における,譲受人に対する債務者の相殺権につ いて新設し,差押えと相殺の場面同様に,無制限説を採用している。
⑴ 意義
債務者が承諾に際して,その債権の不成立,成立における瑕疵,債権の消滅その他何らかの抗弁を譲渡人に対して有することを留保しないで,単純にする承諾
「異議をとどめない」という明示は必要とされていない。
⑵ 法的性質
論点04 | ||
異議をとどめない承諾の法的性質 |
A 公信力説(最判昭42.10.27 百選Ⅱ№27・通説)
468条1項の承諾も467条と同じく観念の通知であるが,法は債権の流通性を増して取引の安全を図るため,特に異議なき承諾に公信力を認め,それにより譲受人を保護しようとしたものである。
B 債務承認説
468条1項の承諾は,債務負担の意思表示である。
⑶ 要件
A 公信力を与えたものである以上,譲受人の善意・無過失が必要である。
※ 判例は,過失については言及していない。
B 譲受人の善意・悪意を問題としない。
公信力説(判例・通説) | 債務承認説 | |
異議をとどめない 承諾の法的性質 | 異議なき承諾に対する 信頼を保護 | 譲受人に対する 債務負担の意思表示 |
承諾の法的性質 | 観念の通知 | 意思表示 |
譲受人保護の 主観的要件 | 善意・無過失 | 不問 |
承諾の相手方 | 譲渡人・譲受人の いずれでも可 | 譲受人 |
担保権の復活 | 債務者との関係では 復活する(通説) | なし |
⑷ 効果
債権が譲渡されると債権は同一性を保ったまま移転するので譲受人が対抗要件を備えるまでに債務者が有していた抗弁事由も引き継がれるのが原則である。
しかし,異議をとどめない承諾をすると債務者は譲渡人に対抗できた一切の事由を譲受人に対抗できなくなる(468 条1項前段)。
一切の事由とは,広く債権の成立・存続および行使を阻止・排斥する事由をいい,抗弁権(同時履行の抗弁権)はもとより,弁済・更改・和解などによる債権消滅事由や,不法原因その他による債権不発生事由も含まれる。
ただし,判例(最判平 9.11.11)は,賭博によって生じた債権について譲渡がされ,その債権の債権者がそれに異議をとどめずに当該債権譲渡を承諾したとしても,特段の事情ない限り,債務者は公序良俗違反による無効を主張できるとし,その理由として,賭博行為が公序良俗に反すること甚だしく,賭博債権が満足を受けることを禁止すべきことは法の強い要請であって,この要請は,債権者の異議なき承諾による抗弁権喪失の制度の基礎にある債権譲渡人の利益保護の要請を上回ることを挙げている。
また,異議なき承諾につき悪意の者を保護する必要はないから,異議なき承諾をした債務者は,悪意の者には抗弁を対抗できると解されている。
ア 「譲渡人に対抗することができた事由」
「譲渡人に対抗することができた事由」とは債権の存否・内容に限られ,債権の帰属は含まれない。債権の帰属は対抗要件の存否によって決せられるからである。
したがって,債権が第三者に譲渡され,確定日付のある証書によって通知があった後に同債権が二重に譲渡され,これに対して債務者が異議なき承諾をしても,債務者は譲受人に対する弁済を拒絶できる。
(ア)468条2項と94条2項・96条3項の関係
94 条2項が優先適用され,仮装債権の債務者は善意の第三者に債権の不存在を対抗できない(大判昭 13.12.17)。
96 条3項についても同様である。
(イ)債権譲渡と相殺
受働債権についてその弁済期到来前に譲渡があっても債務者がその譲渡の通知の当時,既に弁済期の到来している反対債権を有していたならば,これを自働債権として譲受人に対し相殺を対抗できる(最判昭 32.7.19)。
※ 改正法469条により,債権の譲渡と相殺の場面について,差押え と相殺の場面同様に,無制限説を採用する規定を新設した。
(ウ)異議なき承諾と双務契約の解除
請負契約で,請負人が報酬債権を譲渡し,これに注文者が異議なき承諾をしたが,後に請負人の債務不履行を理由として契約を解除した。この場合,注文者は解除による報酬債権の消滅を譲受人に対抗できるか。
この問題については,以下の点が問題となる。
論点05 | ||
請負工事の完成前に報酬債権を譲渡できるか。 |
→ 報酬債権は観念的に契約とともに発生するので譲渡が可能である。
論点06 | ||
債権譲渡の承諾後に生じた債務不履行による解除を譲受人に対抗 | ||
できるか。この点,すでに解除がなされていた場合は,問題なく「譲渡人に対抗することができた事由」(468 条1項前段)に当たるから,異議なき承諾により債務者は譲受人に対抗することはできなくなる。これに対して,異議なき承諾の時点で債務不履行がなく,解除権が発生していなかっ た場合については争いがある。 |
A 468条1項適用説(最判昭42.10.27 百選Ⅱ№27)
異議なき承諾をした場合,債務者は譲受人に対抗できない。
(理由)
双務契約において,債権譲渡前すでに反対給付義務が発生している以上,債権譲渡時すでに契約解除を生じるに至るべき原因が存在していたものというべきであり,「譲渡人に対抗することができた事由」に当たる。
B 468条1項不適用説
債務者は常に譲受人に対抗できる。
(理由)
双務契約上の債権では,債務不履行による解除の可能性があることは当然のことである。
論点07 | ||
異議なき承諾によって譲受人に対抗することができなくなる事由 | ||
は,譲受人悪意の場合でもなお対抗できるか(異議なき承諾によって保護 される譲受人は,善意であることが必要か)。 |
A 判例(最判昭42.10.27 百選Ⅱ№27)・通説(公信力説から)
対抗できる(善意が必要である)。
(理由)
異議なき承諾による抗弁喪失の効果は,債権譲受人の利益を保護し一般債権取引の安全を保障するため法律が付与した法律上の効果と解すべきであって,悪意の譲受人にはこのような保護を与えることを要しない。
※ 判例は,本事例と同種の事例において,「悪意」とは,未完成仕事部分に対する請負報酬請求権であることを知っていることとしている(最判昭42.10.27)。
※ 公信力説からは,外観保護を図るものである以上,無過失まで必要だとする立場もある(xx)。
B 対抗できない(悪意でも保護される)。
(理由)法的性質についての債務承認説から
□判例 最判昭 42.10.27 百選Ⅱ№27
「請負契約は,報酬の支払いと仕事の完成とが対価関係に立つ諾成,双務契約であって,請負人の有する報酬請求権はその仕事完成引渡と同時履行の関係に立ち,かつ仕事完成義務の不履行を事由とする請負契約の解除により消滅するものであるから,右報酬請求権が第三者に譲渡され対抗要件をそなえた後に請負人の仕事完成義務不履行が生じこれに基づき請負契約が解除された場合においても,右債権譲渡前すでに反対給付義務が発生している以上,債権譲渡時すでに契約解除を生ずるに至るべき原因が存在していたものというべきである。従って,このような場合には,債務者は,右債権譲渡について異議をとどめない承諾をすれば,右契約解除をもって報酬請求権の譲受人に対抗することができないが,しかし,債務者が異議をとどめない承諾をしても,譲受人において右債権が未完成仕事部分に関する請負報酬請求権であることを知っていた場合には債務者は,譲受人に契約解除をもって対抗することができるものと解すべきである。けだし,民法 468 条1項本文が指名債権の譲渡につき債務者の異議をとどめない承諾に抗弁喪失の効果をみとめているのは,債権譲受人の利益を保護し一般債権取引の安全を保障するため法律が附与した法律上の効果と解すべきであって,悪意の譲受人に対してはこのような保護を与えるこ
とを要しないというべきだからである。」
イ 異議なき承諾と抵当権
抵当権付きの債権が弁済によって消滅したにもかかわらず,その債権が抵当権付きで譲渡され,債務者がこれを異議をとどめずに承諾すると債権のみならず抵当権も復活するか。
(ア)債務者との関係
① 債権が弁済により消滅した場合
債権の復活にともない抵当権も復活する(大決昭8.8.18)。
② 債権が当初から無効・不存在であった場合
もともと抵当権は存在していなかったのであるから抵当権は復活しない。
債権が違法な取引行為に基づくものであり,当初から無効であった場合には,抵当権も当初から不成立であり,譲受人が抵当権を取得することはない(大判昭11.3.13)。
※ かかる判例に対して,多数説は債権の譲受人の保護からすると債権の消滅と不存在を区別する理由はなく,いずれの場合も抵当権の復活を認めるべきとしている。
(イ)第三者との関係
① 異議をとどめない承諾前に生じた第三者との関係
後順位抵当権者(大決昭6.11.21)・抵当不動産の第三取得者
(最判平4.11.6)・差押債権者(大決昭8.3.31)は,抵当権の消滅につき正当な利益を有する者であるから,これらの者との関係では抵当権は復活しない。
□判例 最判平 4.11.6
「抵当不動産の第三取得者である被上告人に対する関係において,その被担保債権の弁済によって消滅した本件抵当権の効力が復活することはないと解するのが相当である。」
② 異議をとどめない承諾後に生じた第三者との関係
この場合,第三者は,抵当権の存在を覚悟していたのだから,抵当権の復活を認めてよいと解されている(通説)。
③ 物上保証人との関係
主たる債務者の行為により物上保証人の抵当権消滅への期待を奪うべきではないから,抵当権は復活しない。
(ウ)異議なき承諾と保証債務
債務者が異議をとどめない承諾をしても,保証人自身が異議をとどめない承諾をしない限り保証人は債権の消滅その他の抗弁を譲受人に対抗できる(大判昭 15.10.9)。
(理由)
主たる債務者の行為により保証人の保証債務消滅の期待を奪うべきではない。
第3 第三者に対する対抗要件
1 第三者に対する対抗要件として,確定日付のある証書による通知・承諾が必要である。
⑴ 確定日付のある証書
論点08 | ||
確定日付は何について必要か。 |
A 通知の到達時を確定日付で証明すること
(理由)
債務者の認識を通じた公示という趣旨からは,対抗力は通知の到達時に生じるのであり,到達時を確定日付で証明する必要がある。
B 通知・承諾について確定日付があること(大連判大3.12.22)
(理由)
① 到達時を確定日付で証明するというのは煩雑にすぎる。
② 「確定日付のある証書」という条文の文言にも反するわけではない。
※ 確定日付のある証書には,xx証書・内容証明郵便などが利用されている。
※ 特別法による修正
動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(動産・債権譲渡特例法)では,法人のする動産・債権の譲渡について譲渡を登記ファイルに登記することによって,第三者に対する関係で民法上の対抗要件とみなすとする規定(同法1条,3条,4条)がある。
⑵ 第三者の範囲
「第三者」とは譲渡当事者以外の者で,債権そのものに対し法律上の利益を有する者をいう(大判大 8.6.30)。
ア 「第三者」に当たる者-債権が二重に譲渡されたときの第二譲受人(大判昭11.7.11),譲渡された債権の質権者(大判大8.8.25),譲渡人の債権者で譲渡された債権について転付命令を得た者(大判昭 7.5.24)など
イ 「第三者」に当たらない者-譲渡された債権について間接的な利益を有するにすぎない一般債権者,保証人など
2 二重譲渡がなされた場合
⑴ 一方が確定日付のある証書による通知で,他方が単純な通知であれば,前者が優先する。
⑵ 共に確定日付のある通知がある場合の優劣
論点09 | ||
共に確定日付のある通知がある場合の優劣を何で決するか。 |
A 確定日付説
通知・承諾の日付の先後による。
(理由)
確定日付を要求する趣旨が当事者の通謀による日付操作の防止にあることからすれば,日付の先後で画一的処理をなすべき。
(批判)
① 第1の通知があった後,第2の通知があり,第2通知の日付の方が第1通知の日付よりも先であると,一度決まった法律関係を覆すことになり法的安定を害する。
② 一度日付を得ればいつまでも発信しなくても優先でいることになり通知のもつ公示機能を没却する。
B 到達時説(最判昭49.3.7 百選Ⅱ№29・通説)
通知の到達の先後によって決する。
(理由)
467条2項が確定日付のある債務者への通知を第三者に対する対抗要件としたのは,債権を譲り受けようとする者は債権の存否について債務者に確認するのが通常であり,債務者の認識を通じて債権譲渡が公示されるからである。そして,債務者の認識は,通知の到達により生じるから,公示方法としての債務者の認識を先に得た者が優先する。
(批判)
債務者と譲受人の通謀により到達の日付が偽装される危険を避けられない。
3 確定日付のある通知の同時到達の場合の優劣
※ 通知の到達の先後不明の場合も同時到達として扱われる(債権の差押え通知と債権譲渡の通知との到達の先後が不明の場合について,最判平5.3.30 百選Ⅱ№30)。
⑴ 優劣の判断
論点10 | ||
譲受人間で優劣を決することができるか。 |
A 譲受人は互いに自己が優先することを主張し得ない(最判昭55.1.11・多数説)。 B 別の基準を用いて優劣を決する。
B1 確定日付の先後で決する。
B2 譲渡の先後で決する。
B3 確定日付のある通知の発信時の先後で決し,それも同時のときは譲渡の先後で決する。
(批判)
債務者の認識を通じた公示という467条の趣旨と相容れない。
⑵ 優劣がない場合の各譲受人と債務者の関係
論点11 | ||
優劣がない場合,各譲受人は債務者に対しいかなる請求ができる | ||
か。 |
A 各譲受人は債権の分割されたものを取得する。
B 各譲受人は第三債務者に対し,各々の譲り受けた債権の全額の弁済を請求する
ことができ,譲受人の1人から請求を受けた第三債務者は,他の譲受人に対する弁済その他の債務消滅事由がない限り,弁済を免れない(最判昭55.1.11)。
C 各譲受人は,互いに自己が優先することを主張できない結果,債務者に対しても自己が債権者であることを主張できない。
⑶ 譲受人相互の関係(分配請求)
論点12 | ||
債務者が一方に弁済した場合,他方は分配請求できるか。 |
A 分配請求できない。
(理由)
実体法上,清算義務を認める根拠がない。
B 分配請求できる。
(理由)
各譲受人は債権を終局的に独占できる地位にない。
□判例 最判平 5.3.30 百選Ⅱ№30
債権の差押えの通知と債権譲渡の通知との到達の先後が不明の場合で,第三債務者が債権相当額を供託した事案について,供託金額の案分取得を認めた。
「滞納処分としての債権差押えの通知と確定日付のある右債権譲渡の通知の第三債務者への到達の先後関係が不明であるために,第三債務者が債権者を確知することができないことを原因として右債権額に相当する金員を供託した場合において,被差押債権額と譲受債権額との合計額が右供託金額を超過するときは,差押債権者と債権譲受人は,xxの原則に照らし,被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額を案分した額の供託金還付請求権をそれぞれ分割取得する」。
※ 本判決は,供託を媒介とした事案であり,債権の譲受人が弁済を受けた同順位譲受人に対して配当を求める,という事案について案分配当を認めた判例はない。
第4 債権の二重譲渡にかかるその他の問題
1 二重譲渡と異議なき承諾(第1譲受につき確定日付のある通知がなされた後,第2譲受につき異議なき承諾をした場合)
債権の帰属を争う場合は,対抗要件によるべきである。468条1項の「事由」には,債権の帰属は含まれず,債権の帰属についての優劣は467条2項によって決せられる。
したがって,上記の例では,確定日付のある第1譲受人が優先する。
2 単純な通知のみの第1譲受人に弁済した後,第2譲受が行われ,確定日付のある通知がなされた場合
この場合,弁済により債権はすでに消滅しているから,第2譲受は無効となる。なぜなら,「対抗」とは同一債権の帰属について両立しない地位が対立する場合にのみ生ずる問題だからである。
3 劣後譲受人に対する弁済
劣後譲受人に対する弁済にも478条の適用がある。ただし,債務者において,劣後譲受人が真正の債権者であると信じてした弁済につき,過失がなかったというためには,優先譲受人の債権譲受行為または対抗要件に瑕疵があるため,その効力が生じないと誤信してもやむを得ない事情があるなど劣後譲受人を真の債権者と信じたことにつき相当の理由が必要である(最判昭61.4.11 百選Ⅱ№33)。
Ⅱ 証券的債権の譲渡
現行(指図債権の譲渡の対抗要件)
第 469 条 指図債権の譲渡は,その証書に譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ,債務者その 他の第三者に対抗することができない。
(指図債権の債務者の調査の権利等)
第 470 条 指図債権の債務者は,その証書の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利 を有するが,その義務を負わない。ただし,債務者に悪意又は重大な過失があるときは,その弁済は,無効とする。
(記名式所持人払債権の債務者の調査の権利等)
第 471 条 前条の規定は,債権に関する証書に債権者を指名する記載がされているが,その証書の 所持人に弁済をすべき旨が付記されている場合について準用する。
(指図債権の譲渡における債務者の抗弁の制限)
第 472 条 指図債権の債務者は,その証書に記載した事項及びその証書の性質から当然に生ずる結 果を除き,その指図債権の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。
(無記名債権の譲渡における債務者の抗弁の制限)
第473 条 前条の規定は,無記名債権について準用する。
●改正法
現行 469 条から 473 条 削除
改正法では,民法上の規律と有価証券法理との不整合を解消するため,有価証券に関する一般規定を新設した(改正法520条の2以下)。そのため,現 行86条3項,363条,365条,469条から473条の証券的債権の規定は削除された。
第1 指図債権の譲渡
1 意義
指図債権とは,特定人またはその指図する者に弁済すべき債権をいう。
2 指図債権譲渡の対抗要件
証書の裏書・交付による(469条)。
第2 無記名債権の譲渡
1 意義
無記名債権とは,証券の正当な所持人に弁済すべき債権をいう。
2 対抗要件
無記名債権は動産とみなされるから(86条3項),対抗要件は証書の交付による。