S:先輩(Senior)/J:後輩(Junior)
第 98 回建設産業史研究会 平成 30 年 9 月 14 日
定型約款について
x x x x
S:先輩(Senior)/J:後輩(Xxxxxx)
※ 以下、法令名を示さない条項はすべて民法である。
現行民法は「○条」、改正民法は「改正○条」と表示する。
1 定型取引 J:改正法では、新しく「定型約款」という制度が登場しましたね。
S:契約は当事者が個々に交渉して締結するのが原則ですが、日常生活では予め細かい契約条項を業者の方が用意し、相手は業者が用意した内容に同意するだけという場合が少なくありません。例えば、保険加入やインターネットからソフトをダウンロードするときのことを思ってください。
J:業者から提供される契約条項をよく読まないことも多いです。
S:そうですね。しかし、読んでいないから契約不成立という言い分が通っては社会生活がうまく進みません。そこで、契約条項を読んでいなくても契約は成立しその条項の拘束を受ける契約の仕方があるのだと考え、そこで利用される条項のことを「約款」と呼んできました。もっとも、現在の民法には定めがないため、こうしたこと(約款法理による処理)は判例や論文の中で発展してきたのです。そして、民法へ約款についての規定を置く機運が高まり、新しく
「定型約款」という概念が作られました。 J:民法の世界では、約款は説明のためのテクニックだったのですね。
S:日常生活では契約条項例の類なども約款と呼ぶことがあり、もっと広い意味で使われています。また、定型約款も従前から約款と呼ばれているものの全てを対象にするわけではなく、その一部です。この関係を示すと次のようになります。
日常生活の約款 > 従来からある約款法理の約款 > 定型約款以下では定型約款という制度の要点について述べることにします。
さて、定型約款による契約成立までの流れを簡単にいうと次のようになります。
〈定型取引か〉 (cf.改正 548 条の 2)
↓ Yes
〈定型取引をする合意をしたか〉
↓ Yes
〈定型約款が作成されたか〉
↓ Yes
〈定型約款を契約内容とする合意などがされたか〉
↓ Yes
〔契約成立〕※ 但し、不適切な内容などにより成立の否定されることあり
J:定型約款の世界の入口に「定型取引」というものがあるんですね。
S:従来の約款法理は、契約の詳しい内容を知らなくても(読まなくても)「その約款による」ということをわかって契約すれば、それで約款の拘束を受けると考えてきました。その前提には、「そういう取扱いをしても構わない種類の取引について」ということがあったと思います。この点について、改正法は「定型取引」という概念を作りました。すなわち、次の①と②をすべて満たすものを定型取引としたのです。
①特定の者(A)が不特定多数の者(B)を相手方として行う取引
②取引の内容の全部又は一部が画一的であることがAB双方にとって合 理的なもの
J:Aが多数のBと同じ内容の契約をする場合だということはわかりますが、②の画一的な内容が双方に合理的というのはわかりにくい気がします。
S:いろいろな議論の結果このような表現になったようです。ここでは、Aが業者、Bが顧客(消費者)という典型的な場合において、交渉による修正の余地のない内容であることが、AだけでなくBにとっても有意義なこととみておけばよいでしょう。
J:定型取引にあてはまれば定型約款の世界になりますが、定型取引にならないものは従来からある約款法理の世界へ行くということですね。
S:具体的にどのようなものが定型取引となるかは今後の問題で、新規定施行後の実務の動向を見守る必要があります。
J:「定型取引にあたる取引をする」という合意をすると、当事者はいよいよ定型約款の世界に入ってくるわけですね。
S:例えば、保険に入る契約をすることはこの合意をすることになります。 J:そして、この定型取引をするために作られるものが定型約款というわけです
ね。
S:はい。改正法では、定型約款を「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」としています。つまり、Aが自分の行いたい定型取引のために作る契約条項のまとまりということです。上の契約成立までの流れでは、〈定型取引をする合意をしたか〉の次に〈定型約款が作成されたか〉があり、合意の後に定型約款の作成があるようにも見えますが、実際にはAが予め定型取引αをするために定型約款βを作成しておき、BはAと定型取引αをする合意をすることで定型約款βの世界に入っていくというイメージでよいと思います。
第 548 条の 2(定型約款の合意)《 改正法 》
定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。(以下略)
2 合意の成立
J:「1定型取引」では、契約成立までの流れのうち〈定型約款が作成されたか〉まで進みましたが、次の〈定型約款を契約内容とする合意などがされたか〉について教えてください。
S:1では「定型取引をする合意」について話しましたが、これは定型約款を利用できるようになる前提です。定型約款に書いてある内容の契約を成立させるには、更に当事者が「定型約款の内容について合意する」必要があります。この合意へ至るには次の3つの道があります。なお、①②③の名称は筆者が便宜上つけたものですが、実務では①を「組入れ合意」と呼ぶ場合もあります。
①約款利用の合意:
定型約款を契約内容とする(個々の条項に注目しない)合意
②約款利用の表示:
定型約款準備者(A)が相手方(B)に対してあらかじめ行う「定型約款を契約内容とする」との表示
③個別合意:
定型約款の個々の条項の全部を理解したうえで行うその各条項を契約の内容とする合意
③は、通常の契約締結の場合と変わりません。当事者が契約内容をぜんぶわかって合意すればそのとおりの契約成立となるのは当然のことです。したがって、改正法には③は出てきません。①(548 条の 2 第 1 項 1 号)と②(同
項 2 号)が改正法で登場した新制度です。
第 548 条の 2(定型約款の合意)《 改正法 》
定型取引(略)を行うことの合意(略)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(略)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
J:①はこの契約では定型約款を利用するという合意、②は合意ではなく定型約款を利用することの事前の表示ですね。
S:約款が契約の内容になることを「組入れ」といいます。従前の実務は、約款 を利用する契約の場合、そういう契約をする当事者の意思は「約款に従った契 約をする」というものであるとみて、約款の内容が自動的に契約へ組入れられ るとしてきました。このような発想は古く、大正 4 年に現在の最高裁判所に あたる大審院の判例に、契約者が保険会社の普通保険約款によると記載した 申込書に任意調印して保険契約をしたからには仮に契約当時その約款の内容 を十分に知らなかったとしてもそれによる意思で契約したものと推定される と判断したものがあります(大判大正 4 年 12 月 24 日大審院民事判決録 21 輯 2182 頁)。①は、このように約款を利用するという合意があれば約款の内容が 契約に組入れられるということを制度化したものといえます。また、②は、そ れを更に進めて当事者が何の合意をしなくてもAがBに対して事前に「約款 を契約へ組入れる」と表示しておけば、それで契約成立にするというものです。
J:①と②の道では、AはBに約款の内容を見せなくても構わないのですか。 S:実際には見せることも多いと思われますが、条文では、約款を利用する(組
入れる)という合意あるいは表示で足りるとなっています。 J:③の個別合意とだいぶ違いますね。
S:そのために、「みなす」というテクニックを使っています。みなすというのは、本来はαと異なるβというものをある場面で同一なものとし、αについて生じる効果と同じ効果をβに生じさせることです。例えば、753 条(婚姻によるxx擬制)は、「未xx者が婚姻をしたときは、これによってxxに達したものとみなす」 としています。
J:①②は③と違うけれども③の合意をしたときと同じに扱う、つまり約款の各条項を内容とする契約が成立するということですね。
S:①は合意をしますのでその前提としてBは少なくとも約款が存在することは一応認識していると思われますが、②はBが約款の存在を全く知らない場合もあり得ます。
J:そのような②の道が制定された理由は何でしょうか
S:Bが約款の存在を知らなくても契約成立とした方がよい場合がいろいろあるからでしょうね。例えば、自動改札で電車に乗るときに約款の存在を意識しない人はいるでしょうが、そういう人も約款の拘束を受けるとしなければなりません。
J:なるほど。しかし、鉄道に乗るときなどは相手方が大勢で一人ひとりへ約款利用の表示をすることは難しく、そうなると②の道はとれないのではないでしょうか。
S:そのため、契約締結の態様から表示を期待することが難しく、かつ公共性の高い取引については、別に法律の規定を作って対応しています。例えば、鉄道営業法は、改正 548 条の 2 第 1 項 2 号の「表示」に「公表」を加えるという読み替えの規定を置き(同法 18 条の 2)、個々人へ表示しなくても公表すればそれで足りるとしています。
鉄道営業法 第 18 条ノ 2 《 改正法 》
鉄道ニ依ル旅客ノ運送ニ係ル取引ニ関スル民法(略)第 548 条の 2
第 1 項ノ規定ノ適用ニ付テハ同項第 2 号中「表示していた」トアルハ
「表示し、又は公表していた」トス
3 内容の表示
J:2では、定型約款準備者(A)が相手方(B)に約款の内容を知らさなくて
も契約は成立し得ると聞きました。これはBにとってかなり不利な制度ではないでしょうか。
S:確かにそういう面はあります。そのため、改正法が作られる過程では、契約するときにおよそ知ることができなかったものについてまでBが合意するとみることは適当でなく、契約成立にはBが約款の内容を認識できたこと(認識可能性)が必要ではないかという主張もあったようです。しかし、結局、Bに約款の内容を認識する機会が与えられれば、Bの認識可能性を契約成立に必要な事項としなくてもよいとされました。
J:「認識できたこと」と「認識する機会が与えられること」とは、どう違うのですか。
S:日常的な意味では似たようなことかもしれません。しかし、ここではBが何か行動することを要するかどうかの違いがあるととらえればよいでしょう。認識可能性があるかどうかはBが何もしなくても決まりますが、認識する機会が実際に与えられるにはBが自分で行動する必要があるという感じです。改正法は、BはAに約款の内容を見せるように要求できるとし、その請求可能な期間は次の二つであるとしています。(548 条の 3 第 1 項)。
ⅰ)定型取引合意の前
ⅱ)定型取引合意の後相当の期間内
Bは確実に約款の内容を知ろうと思えば、自分から動く必要があるわけです。そして、要求があった場合、AはBに、遅滞なく相当な方法で約款の内容を示すことになっています。
J:なるほど。Aとしては、積極的に約款の内容を見たい人だけに見せればよいというわけですね。期間にⅰとⅱがあるのはなぜですか。
S:Bが約款の内容を知りたいと思うのは、これから定型取引をしようという段階のこともあるでしょうが、そのほかに、定型取引をすることには合意したが具体的にどのような内容になるのか知っておきたいということもあるでしょう。そういう希望に応えるためです。契約した後で念のため内容を確認したいという希望はかなりあるようです。
J:Bから請求があったのにAが見せないと、どうなるのでしょうか。 S:Aが定型取引合意の前(上記ⅰのとき)においてBからの内容の表示請求を
正当事由なく拒否したときは、定型約款の個別条項についてのみなし合意は働きません(改正 548 条の 3 第 2 項)。これは、契約の成否を左右する重要なことです。要するに、定型取引合意の前にBが自ら希望したにもかかわらず約款の内容を認識する機会が与えられなかったときは契約を成立させないというものです。そのようにしてBが約款の内容を確実に知ることができるよう
にしてあげようということです。反対に、Bがそういう自分に与えられた力を特に使わなかった(内容の表示請求をしなかった)場合は、Bは約款の内容を知らずに契約成立とされても文句をいうなということでもあります。
第 548 条の 3(定型約款の内容の表示)《 改正法 》
定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意 の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
2 定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
J:改正 548 条の 3 第 2 項の「前条の規定は、適用しない」ということは、改
正 548 条の 2 第 1 項の「個別の条項についても合意をしたものとみなす」という制度の適用がないということ、つまり、その約款が契約内容にならないということですね。
S:はい。ただ、Bから内容の表示請求があった場合でも、正当事由があれば拒否できます。その場合は拒否しても契約の成立が否定されることはありません。
J:拒否が正当化される例として、一時的な通信障害が発生した場合が挙げられています。AはBに見せようとしたが、Aに責任のない原因で見せられなかったという感じですね。
S:それから、Aが事前に、定型約款を記載した書面を交付したり、その電磁的記録を提供していたときは、Bからの請求に応じる必要はありません(改正 548 条の 3 第 1 項但書)。これは、定型取引合意の前(上記ⅰのとき)、定型取引合意の後相当の期間内(上記ⅱのとき)のいずれも同様です。
J:あらかじめ約款内容はBに示されていて、もう既に認識する機会が与えられているからですね。
S:はい。それなりにコストはかかりますが、事前に約款の内容をBに表示しておけば後がラクという面がありますので、Aがこの方法をとることも実際には多いのではないかと思われます。この事前の表示としてどの程度のことをすべきかは、実務の様子を見る必要があります。
4 内容の否定
J:定型約款では、定型約款準備者(A)が用意した契約の内容を相手方(B)はそのまま受け取ることになりますが、その内容がひどいものだと困りますね。
S:はい。そのため、定型約款中の不当な内容は当事者を拘束しないことになっています。すなわち、「みなし合意」(改正 548 条の 2 第 1 項)があったとされる定型約款の条項のうち次に該当する条項は合意をしなかったものとみなされます(改正 548 条の 2 第 2 項)。
ⅰ)相手方の権利を制限する条項
ⅱ)相手方の義務を加重する条項
ⅰ or ⅱ であって
ⅲ)その定型取引の態様とその実情
ⅳ)取引上の社会通念
ⅲ and ⅳ に照らして
ⅴ)「権利の行使及び義務の履行はxxに従い誠実に行わなければならない」
(民法の基本原則のひとつ)という原則に反して
ⅵ)相手方の利益を一方的に害すると認められるもの
第 548 条の 2(定型約款の合意)《 改正法 》
定型取引(略)を行うことの合意(略)をした者は(略)定型約款(略)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。(以下略)
2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及び その実情並びに取引上の社会通念に照らして第 1 条第 2 項に規定する 基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものに ついては、合意をしなかったものとみなす。
第 1 条(基本原則)《 現行法 》(1 項略)
2 権利の行使及び義務の履行は、xxに従い誠実に行わなければならない。
S:約款の条項の内容が適切であることをどのように確保するかというのは昔からある課題で、かねてより日常生活では様々な約款が主務官庁の認可等の方法によるチェックを受けてきました。しかし、こうした行政のコントロールがいつも働くとは限りません。そこで、改正法では定型約款すべてについて内容の適切さが図られるようになりました。
J:548 条の 2 第 2 項は、以前からある消費者契約法 10 条に似ていますね。
消費者契約法
第 10 条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
民法 、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場 合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第 1 条第 2 項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
S:確かに、「権利を制限」、「義務を加重」、「民法第 1 条第 2 項に規定する基本原則に反して」、「利益を一方的に害する」などの文言は共通していますが、消費者契約法の方は民法等の任意規定(公の秩序に関しない規定)と比較するという観点が入っています。
J:任意規定というのは、当事者同士が合意すれば法律の規定と異なった内容にすることができるものですね。
S:適用するかどうかを当事者が自由に決められることから任意規定と呼ばれます。「公の秩序に関する規定」は、適用するかどうかを当事者が自由に決められないもの(強行規定)とされており、消費者契約法 10 条は「公の秩序に関しない」という表現で任意規定であることを示しています。
J:定型約款の場合と消費者契約法 10 条はどう違うのでしょうか。
S:簡単にいうと、消費者契約法で不当とされるのは民法等の任意規定の内容と比べて消費者に不利なものに限られるが、定型約款の方はそのような制約がないということです。更に、その定型取引の態様や実情、取引上の社会通念の観点など様々な約款取引の個別事情も考慮し得るような組立てになっています。
J:消費者を保護するため不当な条項については拘束力がないという点は変わらないようですので、とりあえず日常業務ではいずれも不当条項が否定される制度と捉えておけばよいですね。
S:はい。大切なことは、どのような条項が不当条項となるかということです。その辺は実務の動きに注目する必要があります。
5 内容の変更
J:定型約款を利用して取引をした後、定型約款準備者(A)が約款中の条項を変更しようと考えた場合はどのようにするのでしょうか。
S:Aが既に取引をした多数の者との間で個別に約款条項の変更について合意をしなければならないとすると大変です。しかし、Aの一方的意思で約款条項の内容を自由に変更できるとするのは適切ではありません。最初に約款条項に拘束力が与えられる根拠となっている「当事者の合意」を無視することになるからです。そこで、改正法は、所定の要件を満たせばAが用意した定型約款の条項について合意をしたものとみなし、個別に相手方(B)と合意することなく契約の内容を変更することができるとしました(548 条の 4 第 1 項)。つまり、変更される条項の内容について合意があったとみなされ、契約に組み込まれることになります。
J:ここでも「みなし合意」のテクニックを使うわけですね。 S:合意があったものとみなされるのは次の二つの場合です。
(1)定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき
(2)定型約款の変更が、次の α and β のとき α)契約をした目的に反しない β)以下に照らして合理的なもの
ⅰ)変更の必要性
ⅱ)変更後の内容の相当性
ⅲ) 548 条の 4 によって定型約款の変更をすることがある旨の定めがあるか否か、あるときはその内容
ⅳ)その他の変更に係る事情
J:(1)は、その変更がBにとって利益になる場合ですから問題ないということですね。
S:(2)の判断にあたっては、相手方に解除権を与えるなどの措置が講じられているか、個別の合意を得ようとするとどのくらい困難を伴うかといった事情も考慮されます。
J:内容の合理性というものは、4の不当条項(改正 548 条の 2 第 2 項)のと
ころでも出てきましたね。
S:はい。ただ、それは契約が成立するときのことで、変更内容の合理性は専ら改正 548 条の 4 第 1 項によって判断されます。これは最初の不当条項のとき
よりも厳しく、改正 548 条の 2 第 2 項は定型約款の変更の合理性を判断する
際には適用されません(改正 548 条の 4 第 4 項)。
J:契約成立時の初めの定型約款に、「Aは個別に相手方と合意することなく契約内容を変更することができる」といった条項(変更条項、上記βⅲ参照)がある場合、この変更条項がそもそも改正 548 条の 2 第 2 項によって不当条項と評価されるとどうなるのでしょうか。
S:改正 548 条の 4 第 1 項は、改正 548 条の 2 第 2 項の適用を前提としますから、不当条項となればその変更条項は初めから契約内容とはなりません。 J:すると、改正 548 条の 4 第 1 項による定型約款の変更ができないのでしょ
うか。
S:いいえ。変更条項が定められていることは同項による変更が認められるための要件ではありませんので、変更ができなくなるわけではありません。
J:なるほど。ところで、変更される内容が不当でなくても、Aから一方的に「変更された」と突然いわれてもBは困りますね。
S:はい。そのため、Aは、
ⅰ)変更の効力発生時期を定め、
ⅱ)インターネットなど適切な方法で、
①変更すること、②変更後の内容、③効力発生時期
を周知する必要があります(改正 548 条の 4 第 2 項)。
そして、上記(2)の場合は、効力発生時期が来る前に周知をしないと効力を生じないとされています(改正 548 条の 4 第 3 項)。
J:Aに周知義務を課すとともに、Bに有利な(1)以外の変更については事前の周知をしなければBを拘束しないようになっているわけですね。
第 548 条の 4(定型約款の変更)《 改正法 》
定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をする
ことがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
2 定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
3 第 1 項第 2 号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期
が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。
4 第 548 条の 2 第 2 項の規定は、第 1 項の規定による定型約款の変更については、適用しない。
6 経過措置
J:改正法は平成 29 年 6 月 2 日に公布されましたが、施行はどうなりますか。 S:施行日をはじめ経過措置については改正法附則(以下「附則」といいます)が定めており、施行は公布後 3 年以内とされていましたが(附則 1 条本文。
附則 1 条但書に定める規定を除く)、既に政令によって 2020 年 4 月 1 日から施行されることが決まっています。改正法については法律の内容だけでなく経過措置にも注意してください。
J:改正法が施行されるとこれまでの約款による取引はどのようになりますか。 S:附則 2 条から 36 条までに改正法と現行法のいずれが適用されるかについて規定がありますが、基本的には契約などの行為が基準となります。つまり、改
正法の契約に関する規定は原則として施行日後に成立した契約に適用され、施行日前に成立した契約には現行法が適用されます(附則 34 条 1 項など)。しかし、定型約款については施行日前に締結された定型取引に係る契約についても適用されます(附則 33 条 1 項本文)。
J:なぜ定型約款については扱いが違うのですか。
S:定型約款という新しい概念に該当するものは、既に広く社会に存在し不特定多数の人々によって利用されており、これらについて施行日の前後で適用の有無をはっきり分けてしまうと社会的・経済的に無用の混乱を起こすおそれがあるからです。例えば、インターネットであるサービスを受けている人々が同じ内容の約款(それは定型約款の要件を満たす)を使う場合、施行日後に契
約する人には定型約款として改正法の効力が生じるのに、施行日前に契約し た人には改正法が適用されず定型約款のない状態でものを考えるというのは、いたずらに複雑な事態を招くことになりますので、既存の約款でも定型約款 に該当するものについては新しい制度を適用した方が簡明といえます。した がって、例えば施行日前に始まっていた定型取引についての定型約款の変更 にも改正法のルールが適用されることになります。
J:しかし、施行日前に始まっていた定型取引において定型約款にあたるものが使用されてきた場合に、組入れや開示が必ずしも改正法 548 条の 2 や同 548
条の 3 の手順に従っていないものもあるでしょう。そういう場合はどうなるのでしょうか。
S:そのことを理由に既存の効力が失われることはありません(附則 33 条 1 項但書)。改正法を施行日前に遡及して適用することによって法的に不安定なこととならないよう手当てがなされています。
J:ところで、改正法のルールに従いたくない人もいるでしょう。例えば、定型約款準備者は相手方の同意を得ることなく定型約款の変更ができるようになりますので(改正 548 条の 4)、これによる変更を望まない人もいるのではありませんか。
S:そのような人は施行日までに適用に反対する意思表示を書面で行えば改正法の適用を回避できます(附則 33 条 2 項)。ただ、既に契約や法律の規定によって契約の解除ができる場合はその解除によって対応することが想定されています(附則 33 条 2 項第一括弧書)。
J:なるほど。そこで改正法が適用されるかどうかを施行日前に決めるため、この意思表示は施行日前に行うことが求められるわけですね(附則 33 条 3 項)。 S:はい。この附則 33 条 3 項は改正法全体の施行よりも前に使えるようにして
おく必要がありますので、公布日から 1 年以内に施行されることされ(附則 1
条 2 号)、既に平成 30 年 4 月 1 日から施行されています。
《 改正法附則 》
※ 附則では改正法(この法律による改正後の民法)を「新法」と定義(附則 2 条)。
第 1 条(施行期日)
この法律は、公布の日から起算して 3 年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
(一号略)
二 附則第 33 条第 3 項の規定 公布の日から起算して 1 年を超えない範囲内において政令で定める日
(三号略)
第 33 条(定型約款に関する経過措置)
新法第 548 条の 2 から第 548 条の 4 までの規定は、施行日前に締結
された定型取引(新法第 548 条の 2 第 1 項に規定する定型取引をいう。)に係る契約についても、適用する。ただし、旧法の規定によって生じた効力を妨げない。
2 前項の規定は、同項に規定する契約の当事者の一方(契約又は法律の規定により解除権を現に行使することができる者を除く。)により反対の意思の表示が書面でされた場合(その内容を記録した電磁的記録によってされた場合を含む。)には適用しない。
3 前項に規定する反対の意思表示は、施行日前にしなければならない。
※ 反対の意思表示関する規定は平成 30 年4月1日から施行されており、施行日前に反対の意思表示をすれば、改正後の民法は適用されない。
第 34 条(贈与等に関する経過措置)
施行日前に贈与、売買、(略)請負の各契約が締結された場合におけるこれらの契約及びこれらの契約に付随する買戻しその他の特約については、なお従前の例による。
(2項略)
第 98 回建設産業史研究会 平成 30 年 9 月 14 日
消滅時効期間と時効障害の改正について
S:先輩(Senior)/J:後輩(Xxxxxx)
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※ 以下、法令名を示さない条項はすべて民法である。
現行民法は「○条」、改正民法は「改正○条」と表示する。
1 x x と は
J:改正法は時効(主として消滅時効と時効障害)について新しい規定を置いたそうですが、改正法へ入る前にまず時効について基本的なことを教えてください。
S:時効という制度を大雑把に表現すると、ある事実状態(F)が一定の時間そのまま続くと法的な評価がFを尊重するように変化し、その変化に合わせてそれまでの権利や義務がFに適合するように変わるものということができます。
J:Fが長く続いている場合はそのまま生かし、それまで築かれたことを覆さないことが社会の秩序や法的安定性の観点から望ましいという発想ですね。
S:ただ長く続くだけでよいというわけではありません。法的評価を変化させるほどの尊重を得るには事実状態(F)がそれに見合う重さを持つ必要があります。例えば、AがBの所有物を所有の意思をもって平穏・公然に占有するという事実状態(F)が 20 年間続くとAが所有権を取得するとされています(162条、取得時効)。これはFが尊重された結果、Aが所有者となり反対にBが所有者でなくなるということです。注意を要するのは、維持すべきAの占有は所有の意思をもってするものに限られるということです。例えば、AがBから土地を借りている場合、AはBの所有権を前提に使っているため所有の意思はなく占有が何年続いても所有権を時効取得することはありません。
第 162 条(所有権の取得時効)《 現行法 》
20 年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
J:Bの所有権消滅ではなくAの所有権取得の方に焦点が絞られるのはなぜで
しょうか。BがAの占有を放置しているから所有権を失うという面もあるのではありませんか。
S:時効制度の根底には、平穏に続いている現在の社会秩序を維持する(今あるものを崩さない)という目的があり、その観点からAの占有に着目しているのだと思います。
J:Aが自分の土地だという前提で長期間使用している場合、その事実状態(F)を尊重してAに所有権を与え、それによってBが所有権を失っても仕方ないということですね。
S:Bは所有者として一定の行動をすれば、Aに時効取得されるのを防ぐことができます。しかし、AがBの権利行使を受けることなく長期間にわたって所有者としての占有を続けていれば、その事実状態(F)を維持することが社会秩序にかなうようになってきます。
J:Bの放置していることが社会秩序についての評価に影響を与えるわけですね。
S:権利者が何もせずに権利を放置していることに着目されるものもあります。例えば、債権は 10 年間行使しないと消滅するとされています(167 条 1 項、消滅時効)。この場合は債権行使が可能なのにされない事実状態(F)の続いていることが尊重され、Fを維持してもはや債権を行使させないことが社会秩序にかなうと考えられるようになるわけです。注意を要するのは、維持すべきなのは行使できる債権が行使されない場合に限られるということです。行使できない債権が行使されずに時が経過したからといってこれを奪われるのは社会秩序にかなうとはいえません。したがって、権利を行使できる時まで消滅時効の期間は開始しません(166 条 1 項)。
第 166 条(消滅時効の進行等)〈第 1 項のみ〉《 現行法 》
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。第 167 条(債権等の消滅時効)〈第 1 項のみ〉《 現行法 》
債権は、10 年間行使しないときは、消滅する。
J:取得時効と消滅時効とは尊重される事実状態の切り口が異なるけれども、平 穏に続いている現在の社会秩序を維持するという点は共通しているのですね。
S:時効制度の存在理由には、証拠が散逸して過去の事実の立証が困難になること、権利の上に眠る者は保護に値しない(したがって眠る者は不利益を甘受すべきである)ことなども挙げられます。ただ、xxには上に述べたように時間の経過を社会秩序維持の面から評価することがあると考えられます。そして、
継続した事実状態をそのまま保護しようとするため、完成した時効の効力は時効期間の開始に遡って生じます(144 条)。
第 144 条(時効の効力)《 現行法 》
時効の効力は、その起算日にさかのぼる。
J:ところで、時効によって利益を受けるのを潔しとしない人もいるのではありませんか。
S:そのため、時効は利益を受ける人が自ら制度の適用を希望して初めて法的な意味を持つという組立てになっています。これを時効の援用と呼んでいます
(145 条)。
第 145 条(時効の援用)《 現行法 》
時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
2 消滅時効期間の整理
J:現行の消滅時効にはいろいろな期間がありますね。例えば、弁護士の報酬請求権は原因となった事件の終了から 2 年間行使しないと消滅するとなっていますが(172 条 1 項)、工事の施工業者の工事に関する報酬請求権は工事の終了から 3 年間行使しないと消滅するとなっています(170 条 2 号)。この違いにはどんな理由があるのでしょうか。
S:民法制定時にはそれなりの理由があったと考えられますが、今日では合理的な説明は難しいといわれています。
J:小売商人が売却した商品の代価請求権が 2 年(173 条 1 号)、飲食店の飲食料の代価請求権が 1 年(174 条 4 号)の違いはわかりませんね。
S:債権の消滅時効期間は原則として 10 年ですが(167 条)、民法が規定するそれよりも短い時効期間のものを「短期消滅時効」と呼んでいます。今回の改正は合理的な理由に乏しい短期消滅時効を整理して期間を統一的なものにしようという発想からなされました。
J:では、みんな 10 年にしようということですか。
S:いいえ。これまで短期消滅時効とされてきた債権の時効期間を一挙に 10 年
としてしまうのは変化が大きすぎて無理があります。それよりは今までの短期消滅時効期間よりも少し長めの 5 年くらいがほどよい感じがしませんか。
J:しかし、権利者がはっきり認識しない間に時効期間が進行することもありますから 10 年を半分にしてしまうのはちょっと不安を覚えます。期間を短くするなら権利者が思わぬ不利益を受けないように権利者が時効の始まることを認識してから期間が進むようにしてほしいですね。
S:そうですね。改正法はいま話題になった時効期間の統一化(短期消滅時効の廃止)、原則的時効期間の短期化(10 年より短く)、時効起算点の主観化(権利者が権利行使可能を知ってから開始)の要請に対して、起算点と時効期間を組み合わせた次のような制度を用意しました(改正 166 条 1 項 1 号、同項 2号)。
①債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から 5 年間
②権利を行使することができる時(客観的起算点)から 10 年間
J:権利行使できる時(客観的起算点)から 10 年は現行法と同じですが、それより前でも債権者が権利行使できると知ればその時(主観的起算点)からもう一つの時効期間が開始してそこから 5 年経てば 10 年以内でも消滅時効が完成するということですね。
第 166 条(債権等の消滅時効)〈第 1 項のみ〉《 改正法 》
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から 5 年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から 10 年間行使しないとき。
S:「債権者が権利を行使することができることを知った時」というのは、債権者がその債権を発生させる原因となった事実(e.g. 物を売った買った)を現実に認識する必要がありますが、その債権の法的な意味(法的評価、e.g. 売買代金請求権の発生)については一般人の判断を基準にすると考えられています。つまり、一般人から見れば物の売り買いをすれば売主は代金を請求できるようになることは理解できるでしょうから、いくらその人が「自分にはわからなかった」といっても通らないということです。
J:主観的起算点と客観的起算点が違う場合とはどんな場合でしょうか。 S:例えば、Aが友人Bに「C(共通の友人)が結婚したら▲をあげよう」と約
束して贈与契約が結ばれた場合、Cが結婚した時からBはAに▲の引渡請求
ができるからBがCの結婚を知らなくてもその時から10 年でBの請求権は時
効消滅し、BはCの結婚を知った時から 5 年経てば 10 年経っていなくてもBの請求権は時効消滅する、といった場合が考えられます。もっともこれは学習的な例で、実務的な例はこれから各分野で検討が進められるでしょう。
J:多くの場合、債権者は権利を得た時から自分が権利を行使することができることを知っていると思われますが。
S:そうですね。取引から生じる債権の多くは主観的起算点と客観的起算点が同じになると思われます。例えば、平成 30 年 1 月 31 日に返済すると約束(当
事者が合意)した貸金は平成 30 年 2 月 1 日から権利行使できますし、2 月 1
日の到来したことは公知のことで貸主にもわかりますから、その日から 5 年経過すれば貸金返還請求権は時効消滅します。10 年の時効期間は問題とならないわけです。
J:5 年だけということは、実質的に商事消滅時効期間 5 年(商法 522 条)と変わりませんね。
S:はい。そして、商法 522 条は現行の短期消滅時効の制度と共に廃止されます(cf.民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律 3 条)。
商法 第 522 条(商事消滅時効)
商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、5 年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に 5 年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。
3 生命身体の侵害の場合の損害賠償請求権(消滅時効期間の特例の一つ) J:2では、時効期間が主観的起算点から 5 年間、客観的起算点から 10 年間に
統一化された(改正 166 条)ということを聞きましたが、これは原則ということですね。
S:はい。時効期間について別段の規定がある場合はそれが優先します。 J:改正 167 条は、人の生命・身体侵害の損賠賠償請求権について客観的起算
点から 10 年間ではなく 20 年間とする規定ですが、これはどういうものですか。
S:損害賠償請求権には、契約違反のように既に存在する債務を履行しない債務不履行(415 条)による場合と、交通事故のように債務の存在を前提としない不法行為(709 条)による場合があります。このうち、不法行為による請求権の消滅時効期間は「債権編―第5章・不法行為」のところに規定があります。すなわち、現行法では、「被害者らが損害と加害者を知った時から 3 年間」と
「不法行為の時から 20 年間」という二種類を規定しており(724 条)、一般に
3 年の方は時効期間、20 年の方は除斥期間(後述5)と理解されています。
第 724 条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から 3 年間行使しないときは、時効によっ
て消滅する。不法行為の時から 20 年を経過したときも、同様とする。
J:時効制度は基本的に「民法総則」に規定が置かれていますが不法行為は別なんですね。
S:この 724 条も改正されました。すなわち、不法行為による損害賠償請求権
については一般原則として、主観的起算点から 3 年間、客観的起算点から 20
年間(改正 724 条)とし、いずれも時効期間であるとしました。 J:除斥期間ではないことが明記されたわけですね。
S:この一般原則に対して、人の生命又は身体を害する損害賠償請求権の場合は主観的起算点から 5 年間としました(改正 724 条の 2)。3 年間よりも長く被害者を保護しようということです。
J:客観的起算点の方は一般原則の 20 年間が適用されることになりますね。
S:他方、債務不履行による損害賠償請求権へは改正 166 条が適用され、主観
的起算点から 5 年間、客観的起算点から 10 年の時効期間となりますが、人の
生命・身体侵害の場合の客観的起算点については特例により 20 年間の時効期間としました(改正 167 条)。
J:人の生命・身体侵害の場合、不法行為と債務不履行は同じようになるわけですね。
第 167 条《 改正法 》
(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)
人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第 1 項第 2 号の規定の適用については、同号中「10 年間」とあるのは、「20 年間」とする。
第 724 条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)《 改正法 》
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から 3 年間行使しないとき。
二 不法行為の時から 20 年間行使しないとき。第 724 条の 2《 改正法 》
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時
効についての前条第 1 号の規定の適用については、同号中「3 年間」とあるのは、「5 年間」とする。
4 判決で確定した権利(改正消滅時効期間の特例の一つ) J:判決で確定した権利の消滅時効についての規定が 174 条の 2 から改正 169
条へなりましたね。
S:条文の番号が変わりましたが、現行法と内容の変更はありません。すなわち、時効期間が 10 年より短かい権利でも確定判決によって確認された場合は 10年に延長されるという趣旨です。ただ、判決の確定時に弁済期が到来していない債権について延長はなく本来の時効期間が適用されます(同条各 2 項)。
J:判決の確定というのは消滅時効の起算点になるわけですか。
S:判決は権利者が訴訟手続によって権利を行使した結果として裁判所が下す判断ですから、それによって権利の存在がはっきり認められるということは時効制度の中で大きな意味を持ちます。そこで、判決が確定した場合はいわば仕切り直しとなり、判決の確定時は新たな起算点になるとされています。これは現行法の時効の中断(後述5)と改正法の時効の完成猶予・更新(後述6)の話になります。なお、法令により確定判決と同じ効力を有するとされているもの(裁判上の和解や調停など)によって確定した権利も同じように扱われます。
第 174 条の 2(判決で確定した権利の消滅時効)《 現行法 》
確定判決によって確定した権利については、10 年より短い時効期間
の定めがあるものであっても、その時効期間は、10 年とする。裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても、同様とする。
2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。
第 169 条(判決で確定した権利の消滅時効)《 改正法 》
確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、10 年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、10 年とする。
2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。
5 現行法の時効の中断・停止と除斥期間
J:権利を行使しないまま時間が経つと債権がなくなってしまうというのは、考えてみれば権利者にとって恐ろしいことですね。
S:時効はある事実状態が長く続いている場合にそれをそのまま尊重しようという制度ですからやむを得ません。それに、権利行使をすれば債権を失うことはありません。
J:事実状態が続かなければよいわけですね。具体的にはどんなことでしょうか。 S:現行法は「時効の中断」という仕組みを採用し、①請求、②差押え・仮差押
え・仮処分、③承認を中断事由としています。これらの中断事由があると、それまで進行した期間がいわばリセットされてゼロになります(147 条)。そして、中断事由が終了した時からもう一度ゼロから時効期間が始まります(157条 1 項)。
第 147 条(時効の中断事由)《 現行法 》
時効は、次に掲げる事由によって中断する。一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分三 承認
第 157 条(中断後の時効の進行)〈第1項のみ〉《 現行法 》
中断した時効は、その中断の事由が終了した時から、新たにその進行を始める。
J:中断というと、そこまで進行した時間は無駄にならない印象もありますが。 S:それは時効の停止という別の概念になります。例えば、天災のために時効中断ができない場合はその障害がなくなるまで時効の進行は一旦止まるとされ
ていますが(161 条)、そこまで進行した期間は無駄になりません。
第 161 条(天災等による時効の停止)《 現行法 》
時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは、その障害が消滅した時から 2 週間を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
S:消滅時効と似て非なるものに除斥期間があります。
J:不法行為の損害賠償請求権が 20 年経過すると消滅する(724 条)という話のところで出てきましたね。現行法では除斥期間と考えられているが、改正法では除斥期間ではなく時効であることが明記されたということでした。
S:除斥期間は、法律関係を速やかに確定するため一定の期間内に権利行使しないと権利が消滅してしまうというもので、判例・学説が認めてきた概念です。
J:所定の期間内に権利を行使させることに重点がある感じですね。
S:除斥期間は時効とは違うとされており、除斥期間かどうかは解釈に委ねられています。その時効と違う点の一つが「中断のないこと」なのです。つまり、その期間が経過すれば必ず失権するわけです。また、「援用の不要なこと」も違う点です。債務者が希望しなくても当然に失権し、裁判所は職権で権利消滅の判断をすることができるわけです。更に、「起算点が権利発生の時であること」や「権利消滅の効果が遡及しないこと」も違う点です。
J:時効の起算点は権利行使ができる時に注目しますし(166 条)、起算日に遡
って消滅しますから(144 条)、確かに違いますね。
S:しかし、除斥期間についても停止は認めないと権利者に酷だとする考え方が一般的です。平成 10 年の最高裁判例に、子供の時に受けた集団予防接種の副
作用で心神喪失状態になった人が接種後20 年以上経過してから禁治産宣告を受けて選任された後見人が国に損害賠償請求した事案で、除斥期間を適用す
ることは著しく正義・公平の理念に反するとして、時効の停止を定めた 158 条の法意に照らし、後見人の就職後 6 か月間は除斥期間の効果が生じないとし
たものがあります(最判平成 10 年 6 月 12 日民集 52 巻 4 号 1087 頁)。
第 158 条(未成年者又は成年被後見人と時効の停止)〈第1項のみ〉《 現行法 》時効の期間の満了前 6 箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法
定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から 6 箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
J:ところで、改正法には、時効の中断も停止も見当たりませんが……。 S:実は、改正法は中断や停止に代わるものとして、新たに「完成猶予」と「更
新」という概念を設けました。完成猶予は、一定の事由がある場合はその事由が終了するまで時効が完成しないとするものです。そこまで進んだ期間が無駄にならずに止るという点で停止に似ています。また、更新は、既に経過した時効期間の意義を失わせて時効期間の計算をし直す(新たに時効が進行を始める)ことです。それまで進行した期間がリセットされて新たに初めから進行を開始するという点で中断に似ています。
6 時効の完成猶予・更新(改正 147 条に取材して)
J:改正法が時効の中断・停止に代わるものとして設けた時効の完成猶予・更新とはどのようなものでしょうか。
S:ひとつ例を挙げてみましょう。XがYにお金を貸した場合、Xが持つ〈Yに貸金を請求する権利〉について時効が開始しYが返済しないまま所定の時効期間が経過するとXはその権利を失ってしまいます。それが時効という制度の基本的な形です。では、Xが時効期間の経過する前に裁判所へ訴えを起こして貸金を請求するとどうなるでしょうか。それまで動きのない状態が続いていたのに大きな変化があったといえます。
J:訴訟を提起することは典型的な権利行使の形ですね。 S:はい。その場合、訴訟が終わるまで時効は完成しません(改正 147 条 1 項
1 号)。これが「時効の完成猶予」です。 J:訴訟が終わったらどうなるのでしょうか。
S:その訴訟において権利が確定したかどうか(訴訟がどのような終わり方をし
たか)によってその後の流れが次のように二つに分かれます。
① 権利が確定して訴訟が終了した場合(改正 147 条 2 項)
例えば、確定判決によって権利が確定したときは、判決が確定した日の翌日から新しい時効期間が起算され時効が進行を開始します。
これが、既に経過した時効期間をなしにして新たに時効期間の計算をし直すこと、すなわち「時効の更新」です。判決が確定するとは、上級裁判所への上訴によって変更される可能性がなくなり確実なものになることと捉えておけばよいでしょう。確定判決によってXの権利が認められるということは大きな出来事ですから、そこまで続いていた事実状態(権利行使がないという)を尊重しようとする基礎がなくなり、時効の進行は仕切り直しになるというわけです。なお、完成猶予事由が終了した日の翌日から起算するのは初日不算入という計算方法(140 条:日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。)をとっているからです。また、
4で述べたとおり、確定判決によって確定した権利の時効期間は 10 年となります。
② 権利が確定せずに訴訟が終了した場合(改正 147 条 1 項)
例えば、訴えが取下げられたときは、取下げの翌日から 6 か月を経過するまで完成が猶予されます。
J:訴えの取下げというのはXが自ら訴訟をやめてしまうことですが、確定判決があったときとは違って、権利が確定せずに訴訟が終わるわけですね。
S:はい。訴えは判決が確定するまで取下げができますが(民訴法 261 条 1 項)、取下があるとその訴訟は最初からなかったことになります(民訴法 262 条 1項)。
J:なるほど、それで完成猶予されていた時効が猶予事由がなくなってから 6 か月経過後に完成するということですね。
第 147 条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)《 改正法 》
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から 6 箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第 275 条第 1 項の和解又は民事調停法(略)若しくは家事事件手続法(略)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
S:訴訟提起は改正 147 条 1 項の完成猶予事由の中の裁判上の請求(1 号)ですが、その他の完成猶予事由も確定判決と同じ効力をもつものによって権利が確定すると時効は更新されます。すなわち、支払督促(2 号)が確定したとき、和解・調停(3 号)が成立したとき、破産等の倒産手続(4 号)が終了したときが更新事由になると考えられます。権利が確定するかどうかは個々の事由について各法令を確認する必要があります。例えば、上のXとYが訴訟の中で和解(裁判上の和解)をした場合その内容を記載した調書は民訴法 267 条によって確定判決と同一の効力を有します。
民事訴訟法:
第 261 条(訴えの取下げ)〈第 1 項のみ〉
訴えは、判決が確定するまで、その全部又は一部を取り下げることができる。
第 262 条(訴えの取下げの効果)〈第 1 項のみ〉
訴訟は、訴えの取下げがあった部分については、初めから係属していなかったものとみなす。
第 267 条(和解調書等の効力)
和解(略)を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。
民法(明治 29 年法律第 89 号)〔抜粋〕
(債務不履行による損害賠償)
第 415 条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
(損害賠償の範囲)
第 416 条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
(金銭債務の特則)
第 419 条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3 第 1 項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
(特定物の現状による引渡し)
第 483 条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。
(同時履行の抗弁)
第 533 条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
(債権者の危険負担)
第 534 条 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2 不特定物に関する契約については、第 401 条第 2 項の規定によりその物が確定
した時から、前項の規定を適用する。
(債務者の危険負担等)
第 536 条 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を
受ける権利を有しない。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
(履行遅滞等による解除権)
第 541 条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
(履行不能による解除権)
第 543 条 履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
(売買)
第 555 条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
(有償契約への準用)
第 559 条 この節(筆者注:売買)の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第 566 条 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場 合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達すること ができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から 1 年以内にしなければならない。
(売主の瑕疵担保責任)
第 570 条 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第 566 条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
(売主の担保責任と同時履行)
第 571 条 第 533 条の規定は、第 563 条から第 566 条まで及び前条の場合について準
用する。
(担保責任を負わない旨の特約)
第 572 条 売主は、第 560 条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
(請負)
第 632 条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
(報酬の支払時期)
第 633 条 報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第 624 条第 1 項の規定(筆者注:雇用報酬の支払時期=労働終了後)を準用する。
(請負人の担保責任)
第 634 条 仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。
2 注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。この場合においては、第 533 条の規定(筆者注:同時履行の抗弁権)を準用する。
第 635 条 仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りでない。
(請負人の担保責任に関する規定の不適用)
第 636 条 前二条の規定は、仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは、適用しない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。
(請負人の担保責任の存続期間)
第 637 条 前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から 1 年以内にしなければならない。
2 仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、前項の期間は、仕事が終了した時から起算する。
第 638 条 建物その他の土地の工作物の請負人は、その工作物又は地盤の瑕疵について、引渡しの後 5 年間その担保の責任を負う。ただし、この期間は、石造、土造、れんが造、コンクリート造、金属造その他これらに類する構造の工作物については、 10 年とする。
2 工作物が前項の瑕疵によって滅失し、又は損傷したときは、注文者は、その滅失又は損傷の時から 1 年以内に、第 634 条の規定による権利を行使しなければならない。
(担保責任の存続期間の伸長)
第 639 条 第 637 条及び前条第 1 項の期間は、第 167 条の規定による消滅時効の期間内に限り、契約で伸長することができる。
(担保責任を負わない旨の特約)
第 640 条 請負人は、第 634 条又は第 635 条の規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができない。
(注文者による契約の解除)
第 641 条 請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
(注文者についての破産手続の開始による解除)
第 642 条 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は、契約の解除をすることができる。この場合において、請負人は、既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について、破産財団の配当に加入することができる。
2 前項の場合には、契約の解除によって生じた損害の賠償は、破産管財人が契約の解除をした場合における請負人に限り、請求することができる。この場合において、請負人は、その損害賠償について、破産財団の配当に加入する。
(委任)
第 643 条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
(準委任)
第 656 条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成 11 年法律第 81 号)〔抜粋〕
(住宅の新築工事の請負人の瑕疵担保責任の特例)
第 94 条 住宅を新築する建設工事の請負契約(略)においては、請負人は、注文者に引き渡した時から 10 年間、住宅のうち構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防
止する部分として政令で定めるもの(略)の瑕疵(構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く。以下略)について、民法(略)第 634 条第 1 項 及び第 2 項前段に規定する担保の責任を負う。
2 前項の規定に反する特約で注文者に不利なものは、無効とする。
3 第 1 項の場合における民法第 638 条第 2 項 の規定の適用については、同項 中
「前項」とあるのは、「住宅の品質確保の促進等に関する法律第 94 条第 1 項」とする。