甲は,本件特許権を第三者に譲渡する場合には,譲受人に対し本契約に基づく甲の乙に対する義務と同じ内容の義務を負担さThなければならない。
xx
xx
弁護士・ニューヨーク州弁護士
通常実施権の当然対抗制度と
ライセンス契約の当然承継の有無
特集《平成 23 年特許法改正(後編)・シフト補正》
要 約
平成 23 年特許法改正により導入された当然対抗制度により,通常実施権は登録しなくても特許権の譲受人に対抗することができるようになった。しかしながら,通常実施権を許諾したライセンス契約自体の帰趨については争いがある。すなわち,ライセンサー(譲渡人)から譲受人にライセンス契約が当然に承継されるか否かという問題であり,本稿はこの点の検討を行う。同時に,実務上ライセンス契約の承継の問題を解決する最も望ましい形はライセンサー
(譲渡人),ライセンシー及び譲受人の三者間の合意によるものであるところ,このような三者間合意を実現するために予め特許権譲渡契約書及びライセンス契約書に設けておくべき条項案の検討を行う。さらに,特許権譲渡に伴いライセンス契約の承継が問題になりうる多様な場面を紹介し,実務において留意すべき点を明らかにする。
目次
第1 通常実施権の当然対抗制度の導入
第2 ライセンス契約の当然承継の問題の所在第3 主な学説
1 当然承継肯定説
2 当然承継否定説
3 その他の見解第4 私見
第5 ライセンシーが対抗できる通常実施権の範囲第6 実務上留意すべき点
1 三者間の合意によるライセンス契約の承継
2 契約条項の工夫(譲渡契約書,通常実施権許諾契約書)
3 ライセンス契約の承継が問題になりうる場面
度は実際にはほとんど利用されていなかった(2)。
(通常実施権の対抗力)
第 99 条 通常実施権は,その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても,その効力を有する。
そこで,近年の特許権の流動性の高まりに伴い登録を経由していない通常実施権者の事業活動の継続性を保護し,もってライセンスによる多様な技術の利用を図るために,登録を要せず第三者に対抗できる制度の必要性が議論されてきた(3)。これを踏まえ,平成 23年改正特許法(平成 23 年 6 月 8 日法律第 63 号)が成立し(4),通常実施権の当然対抗制度が導入され,改正特許法 99 条は以下のとおりに改められた(5)。
第1 通常実施権の当然対抗制度の導入
現行の特許法 99 条 1 項は,「通常実施権は,その登録をしたときは,その特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権をその後に取得した者に対しても,その効力を生ずる。」と規定し,通常実施権を特許権の譲受人等の第三者に対抗するためには当該通常実施権を特許庁に登録する必要があった。このような登録対抗制度の下,登録を怠った通常実施権者は,対象となる特許権が第三者に譲渡された場合,譲受人に対して通常実施権を対抗できず,譲受人から特許権侵害を理由とする差止請求や損害賠償請求を受ける危険性があったが,特許権者に特約なき限り登録協力義務が認められないこと(1)等の理由により登録制
これによって,特許ライセンス契約のライセンシーは,対象特許権が第三者に譲渡されたとしても,その譲受人に対し,通常実施権を対抗することができることとなり,同人から差止請求や損害賠償請求を受ける危険は消滅した(6)。
第2 ライセンス契約の当然承継の問題の所在
平成 23 年改正により導入された当然対抗制度の下,特許権の譲渡が行われ,xxxxxxが譲受人に対し通常実施権を対抗できるとしても,ライセンサー(譲渡人)とライセンシー間のライセンス契約が全体として譲受人(新特許権者)に承継されるか否かについて
は説が分かれている。
この点について,ライセンサー,ライセンシー及び譲受人の三者間契約でライセンス契約の承継が合意されたり,ライセンサーと譲受人間のライセンス契約承継合意にライセンシーが承諾を与えたような場合には当事者の合意によって承継の有無が決まるから問題はないであろうが,本稿の関心はそのような当事者間の合意が存在しない場合の当然承継の可否にある。
なお,この問題は,平成 23 年改正の当然対抗制度導入によって初めて顕在化した問題ではない。従前の登録対抗制度の下でも同様の問題は存在した(7)。
今回の改正について検討してきた産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会が公表した報告書
通常実施権を第三者に対抗できる場合のライセンス契約の承継について
ライセンス契約においては,通常実施権の許諾の合意そのもののみならず,ライセンス料の支払い,技術情報やノウハウの提供等,様々な債権・債務に関する合意がなされている。また,包括ライセンス契約や,クロス・ライセンス契約等,多種多様な契約形態が見られる。そのため,通常実施権が特許権の譲受人(第三者)に対抗可能な場合に,通常実施権者と特許権の譲渡人との間のライセンス契約関係が通常実施権者と特許権の譲受人
(第三者)との間に承継されるか否かについては,個々の事案に応じて判断されることが望ましいと考えられる。以上を踏まえ,現行法と同様,特許法では特段の規定
を設けないことが適当である。
(以下,「特許制度小委員会報告書」という。)では,ライセンス契約の承継の問題について,以下のとおり説明されている(8)。
かかる提言を踏まえて成立した改正特許法 99 条は,その文言(「通常実施権は,…その効力を有する。」)どおり,通常実施権自体の対抗問題を規定したものであって,通常実施権を許諾したライセンス契約自体の承継については何ら定めておらず,解釈問題として残されたといえよう(9)。
第3 主な学説
この問題についての裁判例はまだ存在しないが,学説上は当然承継肯定説と否定説がある。
1 当然承継肯定説
当然承継を肯定するといっても,いかなるライセン
ス契約の条項についても一律に当然承継を認める立場は見あたらない。原則としてライセンス契約が譲渡人から譲受人に当然承継されるとしつつ,例外的に承継を否定する余地を残す立場がほとんどである。例えば,クロスライセンス契約については承継を当然には認めない見解(10),ライセンス契約条項のうち「非定型的な契約条項」については当然承継を否定する見解(11),特定の者でないと債務履行が困難な属人的な義務について例外的に承継を否定する見解(12),特許権の譲受人に承継されることがライセンシーとの関係で不当と解される条項については承継を否定する見解(13)などがある。
当然承継肯定説では,根拠として不動産賃貸借における賃貸人の地位の移転に関する最高裁昭和 46 年 4月 23 日判決(14)が挙げられることが多い(15)。同最高裁判決では,不動産賃貸借契約において,目的不動産の所有権の移転に伴う賃貸人の地位の承継について賃借人の承諾は不要とされているところ,ライセンス契約においても,特許権の移転に伴うライセンサーの地位の承継について同様に解するものである。その他,以下のような当然承継肯定説の理由が挙げられる。
① ライセンシーが負うロイヤルティの支払義務に関する理由
承継を否定すると,xxxxxxは特許権を持たなくなった譲渡人に引き続きロイヤルティを支払うこととなり,特許権を有する譲受人は実施許諾の対価であるロイヤルティをライセンシーから取得できないこととなってしまう。xxxxxxにとっては,xxxxxxを支払う相手は誰であっても問題にならないはずであるから,承継を認めても不当ではない。
② ライセンシーの期待保護に関する理由
ライセンス契約にライセンシーのサブライセンス権限や独占的通常実施権の特約があった場合,承継を否定すると,xxxxxxの期待を不当に損なう。
③ 承継を肯定しても取引の安全を害するおそれがないこと
特許権の譲受人は,譲渡を受ける前のデューデリジェンスによってライセンス契約の内容を十分に確認できるのであって,取引の安全を害するおそれはない。ライセンス契約の存在を知らなかった譲受人は譲渡人に対し担保責任を追及することができる。
2 当然承継否定説
当然承継否定説(16)では,特許権が譲渡されても,ライセンシーの承諾がない限り,ライセンス契約自体は譲受人には承継されない(17)。主な理由としては,ライセンス契約に基づくライセンサーの義務として特定の者しか履行しえないような属人的な義務が存在しうるため,当然承継を肯定すると譲受人が能力的に履行困難な義務を負う可能性があり,また,ライセンサー
(譲渡人)による履行を信頼していたライセンシーの期待を損なう可能性のあることが挙げられている(18)。その他,以下の諸点が当然承継否定説の理由として挙げられる。
① 通常実施権の法的性質
通常実施権は,その許諾範囲につき特許権者からその実施につき差止請求や損害賠償請求を受けないという不作為請求権の性質を有しているにすぎないと考えられる(通説・判例(19))。したがって,このような通常実施権が特許権の譲受人に対抗できるとしても,当然に通常実施権の許諾契約全体の承継が発生するというのは不合理である。
② ライセンス契約及びライセンス契約に基づく義務の多様性
ア ライセンサーの義務にはノウハウの提供など属人的な性質のものが含まれるのであるから,承継には適さない。
イ 複数の特許権を対象にしたライセンス契約の場合に,一部の特許権についてのみ譲渡が行われたとすると,どの範囲で契約が承継されるか線引きは困難である(後記第6,3(2)参照)。
x xxxライセンス契約の対象特許権が譲渡された場合に契約全体が譲受人に承継されると考えると,契約の相手方は一方的にその保有する特許権につき譲受人に対しライセンス供与を義務づけられることになる(後記第6,3(3)参照)。
③ 取引の安全
承継を肯定すると,特許権の譲受人が予期していなかった義務を負うことになりかねず取引の安全を害する。譲渡前のデューデリジェンスによってライセンス契約の内容をチェックできるとの見解があるが,特許権が強制執行によって移転する場合やライセンサーの破産手続を通じて移転する場合には当てはまらない。
3 その他の見解
xxxx教授は,当然承継が認められるライセンス契約を類型化することによって,当然承継の可否を画する線引きを行おうとされる。すなわち,「ライセンス契約は,通常実施権の設定とライセンス料支払義務だけが定められている場合に限り,通常実施権者と特許権の譲受人の間に承継されて,その他の場合には,承継されず,通常実施権者と特許権の譲渡人との間で存続すると解」し,具体的には「(ⅰ)独占的通常実施権の場合,(ⅱ)通常実施権者が他者へのライセンス
(いわゆるサブライセンス)許諾権を有する場合,(ⅲ)クロス・ライセンス契約の場合は,いずれも契約は承継されない」とされる(20)。
第4 私見
私見は当然承継否定説を妥当と考える。
1 契約法の解釈論の問題であること
前記のとおり,改正特許法 99 条は通常実施権を許諾したライセンス契約全体の承継の可否について定めたものではない。したがって,ライセンス契約の当然承継の可否については,契約法上の解釈論,具体的には契約上の地位の移転の問題として論ずることになる。
2 特許ライセンス契約と契約上の地位の移転の議論民法上,契約上の地位の移転に関するxxの規定は 存在しないが,判例学説によって一定の帰結が導かれている。通説的な見解は,譲渡人・譲受人・相手方の三面契約では当然に承継しうるし,譲渡人・譲受人の二者間の契約であっても,相手方の承諾が得られれば承継が行われると解する(21)。すなわち,少なくとも契約の相手方の承諾は必要と考えられている。このこと
は,誰と契約を締結するかという「相手方選択の自由」が私的自治の原則から派生する契約自由の原則の重要な一要素(22)であることからも正当化することができよう。裁判例でも,売買契約の買主の地位の移転や請負契約上の地位の移転に契約の相手方の承諾が必要とされている(23)。
特許ライセンス契約では,単に対象特許の実施を容認するという不作為(24)義務のみならず,実施に必要なノウハウないし技術情報や機器・原料を提供する等の積極的な作為義務など多様なライセンサーの義務を含みうるものであるから,ライセンシーにとって,誰が
ライセンサーであるかは重大な関心事である。ライセンサーの地位が当然に譲渡人から譲受人に承継されるとすると,ライセンス契約上の義務についての譲渡人の履行の能力を見込んでライセンス契約を締結したライセンシーの信頼を不当に損なうことになる。そこで,譲受人がライセンス契約の義務を履行する能力があるかどうか審査する機会をライセンシーに与えて
「相手方選択の自由」を担保するため,承継の有無をライセンシーの承諾にかからしめる必要がある。
以上から,特許ライセンス契約については,前記契約上の地位の移転の議論における通説的な見解に従って,ライセンサーとしての地位の移転はライセンシーの承諾がない限り否定されると解するのが適当である。
3 当然承継肯定説の難点
(1) 法的根拠について−不動産賃貸借に関する最高裁判決は法的根拠となりえないこと
前記のとおり,ライセンス契約の当然承継を肯定する立場の根拠として,不動産賃貸借の賃貸人の地位の移転に賃借人の承諾を不要とした最高裁昭和 46 年 4 月 23 日判決(以下,「昭和 46 年最高裁判決」という。)(25)が挙げられることがある。しかしながら,同最高裁判決を特許ライセンス契約の場面に準用することは妥当でないものと考える。
すなわち,昭和 46 年最高裁判決は,「土地の賃貸借契約における賃貸人の地位の譲渡は,賃貸人の義務の移転を伴なうものではあるけれども,賃貸人の義務は賃貸人が何ぴとであるかによつて履行方法が特に異なるわけのものではな」いこと,及び,「土地所有権の移転があつたときに新所有者にその義務の承継を認めることがむしろ賃借人にとつて有利である」ことという不動産賃貸借における特殊性を根拠として,「一般の債務の引受の場合と異なり」(26),賃借人の承諾は不要と結論づけている。
賃貸人の地位の移転と特許ライセンス契約におけるライセンサーの地位の移転の問題とは,物(有体物と無体物の違いはあるが)の譲渡に伴う契約上の地位の移転という点で共通する。しかしながら,昭和 46 年最高裁判決が承諾不要の実質的な根拠としてあげる事情は必ずしも特許ライセンス契約の場合には認められない(27)。すなわち,前述のとおり,特許ライセンス契約に基づくライセンサーの義務として,不作為義務のみならず,ノウハウないし技術情
報の提供義務等の属人的な義務が課されることが多いところ,そのような義務については,ライセンサーが「何ぴとであるかによつて履行方法が特に異なるわけのものではな」いとはいえない(28)。また,特許権の譲渡があったからといって無条件に譲受人にそれらの義務の承継を認めることがむしろxxxxxxにとって「有利である」ともいえない。
よって,昭和 46 年最高裁判決は特許ライセンス契約の当然承継の法的根拠とすることはできないと思われる。
(2) 実務上の機能性について−当然承継肯定説が実務上機能しない可能性があること
前記のとおり,当然承継肯定説といっても,原則としてライセンス契約が譲渡人から譲受人に当然承継されるとしつつ,例外的に契約条項によっては承継を否定する余地を残している立場がほとんである(29)。すなわち,当然承継の可否を決するために,
「非定型的な契約条項」か否か(30),「当然対抗の性質に反しない限り」(31),「承継させることが合理的」か否か(32),「対価的に牽連関係を有する」か否か(33),
「ライセンシーにとって不利益にならない債権債務」か否か(34),といった様々な基準が提唱されている。しかしながら,このように多種多様な基準が提唱されていることからも明らかなとおり,個々の特許ライセンス契約において承継の可否につき明確な線引きを行うことは非常に困難である。早期の判例の集積も望めないであろうから,実務において法的安定性を害するおそれがあるといわねばならない(35)。
例えば,承継の対象として通常実施権の対価を想定しても一筋縄ではいかない。何故なら,通常実施権と対価関係にあるのはロイヤルティだけとは限らないのであり(36),ロイヤルティは対象特許の実施許諾のみならずサブライセンス権限やノウハウないし技術情報の提供等を含むライセンサーの全ての義務の対価と考えられる(37)。また,後述するように,複数の特許権につき 1 個のライセンス契約が締結されていた場合(後記第6,3(2)参照)やクロスライセンス契約(後記第6,3(3)参照),パテントプール(後記第6,3(4)参照)などを想定すると,通常実施権の対価といえる部分の特定は一層困難というほかはない。
以上のとおり,例外的に承継否定の余地を残す当然承継肯定説が実務において十分に機能するのは難
しいと思われる。むしろ,承継否定説をとって,一律に特許権の譲渡に伴ってライセンス契約が承継されないことを前提としつつ,譲受人の保護の観点からはデューデリジェンスの充実や譲渡契約書の条項の工夫等により取引の安全を図り,また,ライセンシー保護の観点からはライセンス契約書の条項の工夫等により一方的な特許権の譲渡が生じないようにする方が実務的に妥当な帰結を導けると考える。
4 当然承継否定説の問題点について
当然承継を否定すると,xxxxxxによるロイヤルティの支払が既に特許権者ではなくなった譲渡人に対し行われることとなり,現特許権者である譲受人はロイヤルティを収受できなくなるという問題がある。しかしながら,この点については,譲渡人・譲受人間でロイヤルティに係る債権を譲渡することによって解決しうる。債権譲渡には債務者の承諾は必要ではなく,対抗要件具備のために譲渡人がライセンシーに対して通知を行えば足りる(38)。
次に,承継を否定すると,ライセンス契約に定められているサブライセンス権限や独占的通常実施権の特約に対するライセンシーの期待を損なうとの問題がある。この点については,後述のとおり,ライセンス契約に,xxxxxxが特許権を譲渡する場合にはこれら特約を譲受人に承継させる義務を課すことによって完全ではないがライセンシーの保護を図るが可能である。
第5 ライセンシーが対抗できる通常実施権の範囲当然承継否定説によるとライセンス契約は当然には 特許権の譲受人に引き継がれないことになるが,通常
実施権者はなお特許法 99 条に基づいて「通常実施権」を譲受人に対抗することができる。故に,xxxxxxが譲受人に対し対抗することができる通常実施権の範囲についても議論する必要がある。
この点,特許法 78 条 2 項が「通常実施権者は,…設定行為で定めた範囲内において,業としてその特許発明の実施をする権利を有する。」と規定していることから,「設定行為で定めた範囲」(すなわち,ライセンス契約によって定められた範囲)について譲受人に対抗することができると解される(39)。「設定行為で定めた範囲」は,通常実施に対する地域的制限,期間的制限及び内容的制限(40)が含まれる(41)。他方,ロイヤルティの支払義務については,もともと対価の定めが通
常実施権の許諾に必要不可欠な要件ではない(42)ことから通常実施権の「設定行為で定めた範囲」には含まれないと解すべきであろう。
なお,xxxxxxが「設定行為で定めた範囲」を逸脱した場合には譲受人に対する特許侵害を構成することになる。
第6 実務上留意すべき点(43)
1 三者間の合意によるライセンス契約の承継
前述のとおり,私見はライセンス契約の当然承継を否定する立場をとるが,この問題については学説・裁判例においてまだ統一的な解決が図られている訳ではない。したがって,後日の紛争を回避するために最も適当な解決手法は,特許権の譲渡に当たってライセンサー(譲渡人),ライセンシー,譲受人の三者間で協議し,ライセンス契約の承継に関し合意に至ることである(44)。その際には,①ロイヤルティの支払義務,②サブライセンス権限や③独占的通常実施権の特約などの承継の有無について書面による合意を行うことが望ましい。また,④ノウハウないし技術情報の提供義務等の属人的なライセンサーの義務がある場合には,特許権譲渡後もライセンサーに残すべき義務の範囲について明確に定めることが必要である。
2 契約条項の工夫(譲渡契約書,通常実施権許諾契約書)
前記のとおり,最も望ましいのはライセンサー(譲渡人),ライセンシー,譲受人の三者間の合意であるが,実際には,ライセンサー(譲渡人)はライセンシーに諮らず特許権譲渡を進める可能性があるし,また,譲受人に対しライセンス契約の存在を秘匿して譲渡してしまう可能性もある。そこで,契約条項の工夫によってこれらライセンサー(譲渡人)の不誠実な行為を抑止し,三者間の合意を実現するための手法を以下で検討する。
(1) 特許権の譲受人の保護の観点(デューデリジェンスと表明保証条項)
私見のように当然承継を否定する立場をとれば,譲受人が予期せぬライセンス契約に拘束される事態は避けられるが,そもそも対象特許権に係る発明を実施しているライセンシーの存在自体が譲受人にとって不測の事態であり,譲り受けた特許権を利用した事業計画に重大な不利益を及ぼしかねない。そ
こで,譲受人としては,まずは契約交渉中に譲渡人への聞き取りや譲渡人に開示させた関係書類を精査する等の方法によりライセンス契約の存在と内容の確認を行うことが必要となる(デューデリジェンス)。その上で,下記のように,特許権譲渡契約書の中で譲渡人による表明保証(45)をとりつけておくことが重要である(46)。このような表明保証条項は,譲渡人がライセンス契約の存在を隠匿することの抑止に役立つことが期待される。
特許権譲渡契約書
○○(以下,「甲」という。)と○○(以下,「乙」という。)とは,甲の保有する特許権につき以下のとおり譲渡契約を締結した。
第1条(譲渡)
甲は,乙に対し,次の日本国特許権(以下,「本件特許権」という。)につき,代金○○円で譲渡する。
発明の名称:○○○○登録番号 :○○○○
…
第○条(表明保証)
甲は,乙に対し,本契約締結日時点において,以下の各事項につき表明し保証する。
①本件特許権が有効に存在していること
②…
③…
④本件特許権について第三者に対し専用実施権が設定され又は通常実施権が許諾されていないこと
⑤本件特許権を乙に譲渡することについて,第三者との間の契約等に基づく制限が存在していないこと
…
第○条(解除)
甲が第○条に定める各表明保証条項に違反した場合には,乙は,書面による通知によって,直ちに本契約を解除することができる。
…
なお,当然承継を肯定する立場によると,譲受人はライセンス契約に当然に拘束されることになるから,このような表明保証条項の必要性はより一層高いといえる。
合,旧特許権者とライセンス契約関係にあるライセンシーの利益も保護しなければならない。当然承継否定説からは,ライセンス契約は依然としてxxxxxxと譲渡人間に存続する一方,新特許権者である譲受人に対しては改正特許法 99 条により通常実施を対抗することができるだけである。ライセンシーとしては,ライセンス契約を履行するだけの十分な能力と意欲を有しライセンシーとの信頼関係を構築できる者が新たな特許権者となり,ライセンシーの承諾の下にライセンサーの地位を承継することが望ましいと考えられる。このことは,当然承継肯定説をとっても同様であろう。ついては,下記のような譲渡禁止条項を設けることによって,特許権ないしライセンサーの地位の譲渡につきライセンシーの承諾事項とすることが考えられる。この結果,xxxxxxは予定する特許権譲渡につき事前にライセンシーに知らせてその承諾を得る義務を負うこととなる。
なお,譲渡禁止条項の効果として,ライセンシーの承諾を得ないライセンス契約に基づく債権債務の譲渡を無効にすることができるが(47),特許権の譲渡禁止については債権的な約束に過ぎず,実際に禁止条項に違反して行われた特許権譲渡自体を無効にすることはできないと解される。その場合には,xxxxxxは契約違反を理由としてライセンサー(譲渡人)に対し損害賠償を請求することになろう。
特許権通常実施権許諾契約書
○○(以下,「甲」という。)と○○(以下,「乙」という。)とは,甲の保有する特許権につき以下のとおり通常実施権許諾契約を締結した。
第1条(実施許諾)
甲は,乙に対し,次の日本国特許権(以下,「本件特許権」という。)につき,製品○○を製造,販売及び販売の申出をする非独占的通常実施権を許諾する。
発明の名称:○○○○登録番号 :○○○○
…
第○条(譲渡禁止等)
甲は,乙の事前の書面による承諾を得ない限り,本件特許権並びに本契約及び本契約に基づく債権債務を第三者に譲渡(事業譲渡,会社分割による場合を含む。)する
(2) ライセンシー保護の観点(譲渡禁止条項等) 特許権譲渡により新たな特許権者が出現した場
ことができない。
…
第○条(本件特許権の譲渡)
xは,本件特許権を第三者に譲渡する場合には,譲受人に対し本契約に基づく甲の乙に対する義務と同じ内容の義務を負担さThなければならない。
また,譲渡禁止条項を設ける以外にも,下記のような譲受人にライセンサーの義務を負わせることを約束させたり,先買権を設定しておくことも考えられる。
センス権限の有無(48),Aのノウハウないし技術情報提供義務の有無等)。三者間の合意では,譲受人に承継される権利義務,譲渡人に残すべき権利義務を明確に定める必要がある。
三者間の合意が実現しなかった場合の帰結であるが,当然承継肯定説では,AC間の譲渡後,CはBに対し,ロイヤルティの支払を請求することができる(49)。Cは,ライセンス契約に基づく義務を負うこととなる。
他方,当然承継否定説では,Xは従前どおりAに対してロイヤルティを支払えばよい。Cとしては, AB間のライセンス契約の存在を知らずに特許権の有償譲渡を受けたのであれば,Aに対し担保責任
(民法 566 条)を追及し損害賠償や譲渡契約の解除を検討することになる。
(2) 複数の特許権につき 1 個のライセンス契約が締結されていたところ,一部の特許権が譲渡された場合
第○条(先買権)
1 甲は,本件特許権を第三者に譲渡しようとする場合,譲受希望者の情報,譲渡条件を乙に書面で通知するものとする。
2 乙は,前項通知の受領後○日以内に書面による申し入れによって,同一の条件で本件特許権を買い取ることができる。
3 …
3 ライセンス契約の承継が問題になりうる場面
実務では,特許権譲渡に伴いライセンス契約の承継が問題になりうる多様な場面が想定される。以下,各場面を紹介し,実務において留意すべき点を明らかにする。
(1) 単純なライセンス契約の場面
特許権者AがBとの間でライセンス契約を締結しその特許権につき実施を許諾していたところ,Aが Cに対し当該特許権を譲渡した場合である。最も基本的な想定事例であるが,AB間のライセンス契約の内容には多くのバリエーションが考えられる(B以外の者への許諾が制限される独占的通常実施権か否か,Bのロイヤルティの支払義務の有無(有償ライセンスか無償ライセンスか),ロイヤリティの支払方法(一括払いか継続的な支払か),Bのサブライ
この場合,三者間の合意が実現できないと,当然承継肯定説からは問題が生じうる。すなわち,複数の特許権の実施許諾に対するロイヤルティの金額や支払方法が個別の特許権ごとに決まっているとは限らず,むしろ包括的に規定されているのが通常といえよう。そうすると,当然承継肯定説では,一部の特許権のみがCに譲渡された場合,どの範囲でロイヤルティの支払義務がCに承継されるか不明確となる(50)。当然承継否定説からはこのような問題は生じない。
(3) クロスライセンス契約
クロスライセンス契約の場合,当然承継を認めると特許権YのライセンサーであるBの利益を不当に害するといえる。特許権を誰に実施許諾するかは特
許権者にとって重大な関心事であるからである。また,クロスライセンスの対象が複数の特許権である場合(いわゆる包括クロスライセンス契約)にも同様の問題がある。当然承継を原則として肯定する立場の中でも,クロスライセンス契約の場合には例外的に承継を否定するものが多い(51)。
(4) パテントプール
パテントプールでは,Aを含む多数の特許権者が特許権を供与し,それらプールされた特許権の管理団体が構成メンバーにサブライセンスを行う。
クロスライセンス契約の場合と同様に,パテントプールに関する権利義務関係が全体としてCに承継されると解することは不当な帰結を招く。かかる承継は,実質的にプールの他の構成メンバーの意向にかかわらず,新しいメンバーの加入を認めることを意味するからである。パテントプールに誰を加入させるかは,構成メンバー全体の重大な関心事であるから,少なくとも他の構成メンバー全員の承諾を得るか規約に定められた加入手続を経ない限り,承継という結論は正当化できないと解すべきである。
他方,当然承継を否定すると,譲受人はパテントプールとの間のライセンス契約に制約されないこと
から,特許権譲渡後にプールからライセンスを受けた者は当該特許権に係る実施をCに対抗できないこととなる(52)。この点で,パテントプールの存在意義を損なうとの批判がありうるかもしれないが,メンバーの承諾なく無関係の者がプールに加入してくることの不利益を考慮すればいたしかたないであろう。
(5) ライセンス対象の特許権が差押えを受け,執行手続を通じて第三者により取得された場合
特許権者Aの債権者がAの財産である特許権を差し押え(民事xxx 167 条,143 条),その後,換価手続(売却命令,譲渡命令等(53))を経てCが特許権を取得した場合である。三者間の合意は想定できない。このうち売却命令による場合(Cが第三者の買受人の場合(54))には,当然承継肯定・否定のいずれの説をとっても,Cにとって不利益となる可能性が高い。すなわち,AC間の移転が任意の契約によるものではないため,デューデリジェンス等によって Cが対象特許権に関する情報を収集することが期待できない。この結果,Cにおいて,対象特許権につきライセンス契約が存在することを認識しないまま,特許権を取得する危険が高いのである(55)。なお,この点は当然対抗制度の導入議論においてもCの保護の観点から問題になったが,特許権が執行手続の対象となる場面は実務ではほとんど見られないとの指摘も踏まえ,同制度の導入の障害とはされなかった経緯がある(56)。
(6) 特許権者(ライセンサー)が破産手続開始決定を受け,破産財団の換価手続の中でライセンス対象の特許権が売却された場合(57)
破産手続の場合は,以下に述べるとおり,(5)の事例に比べれば,Cの利益を損なう危険性は低いといえる。
まず,Cとしては,破産手続の中で,特許権の換価を目指す破産管財人を通じて,ライセンシーの有無やライセンス契約の内容等の情報を事前に取得
し,ライセンス契約の承継を含め交渉できる場合が多いであろう(58)。また,破産管財人,B及びC間の三者間契約を締結したり,破産管財人を通じてBからライセンス契約承継の承諾を取り付けることもありうる(59)。また,破産管財人は職務遂行に善管注意義務を負い(60),違反すれば個人的に損害賠償責任を負担する(61)上,特許権の任意売却を含む一定の行為には裁判所の許可を得る必要がある(62)など破産手続上中立xxに職務を行うことが担保されていることから,Cに対しライセンス契約の存在を隠匿する危険性は低いといえよう。
また,ライセンシーであるBとしても,破産手続内で特許権が処分されて新しい特許権者が決まった方が,当該ライセンス契約におけるライセンサーとしての行為(ノウハウ・技術情報の提供や契約の更新など)が必要な場合において,ライセンサーを探す手間が省けることになる(63)。
したがって,破産手続中の特許権の譲渡場面においては,破産管財人の適切な主導の下,三者間での合意によるライセンス契約の承継を目指すのが適当といえよう。
注
(1)最判昭 48 年 4 月 20 日民集 27 巻 3 号 580 頁
(2)財団法人知的財産研究所が実施したアンケートによると,国内の企業等から通常実施権の許諾を受けたことがあると回答した者に対して,許諾を受けた通常実施権の登録率を尋ねたところ,0%との回答が 82.6%,1%未満との回答が 4.6%であった(財団法人知的財産研究所「ライセンス・特許を受ける権利に係る制度の在り方に関する調査研究報告書」14 頁
(2010 )。
(3)産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会報告書
「特許制度に関する法制的な課題について」1 〜 10 頁(2011) (4)特許法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令
(平成 23 年 12 月 2 日政令第 369 号)により,改正特許法は平成 24 年 4 月 1 日に施行される。経過措置により,当然対抗制度は施行時点で現に存在する通常実施権にも適用される
(改正法附則 2 条 11 項)。また,当然対抗制度の導入に伴い,通常実施権の登録制度及び産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法による特定通常実施権登録制度は改正法により廃止された(改正前特許登録令 45 条の削除,特許登
録令施行規則 10 条 4 項の改正,上記特別措置法 58 条ないし
71 条の削除)。
(5)法定通常実施権に限って当然対抗を定めていた改正前特許法 99 条 2 項,通常実施権の移転等の登録対抗制度を定めていた同 3 項は削除され,法定通常実施権についても改正特許法 99 条によって共に規律されることとなった。なお,仮通常実施権についても同様に当然対抗制度が導入された(改正特許法 34 条の 5)。
(6)当然対抗制度の概要については,特許庁工業所有権制度改正審議室「平成 23 年特許法等の一部改正 産業財産xxの解説」10 頁以下(発明協会,2011)を参照のこと。
(7)xxxxほか「改正特許法の課題」Law and Technology53号 5 頁〔xx量一発言〕(2011))。平成 23 年改正前は実務上登録を行う例が稀であったとはいえ,登録対抗制度の下でまがりなりにも登録という公示制度が存在し通常実施権者が対抗できる範囲は客観的に明確であった(通常実施の範囲,すなわち期間的,地域的,内容的制限について登録可能であった。改正前特許登録令施行規則 10 条 4 項,様式 10。)。この
ような状態が平成 23 年改正の当然対抗制度の導入によって何らの公示手段もないまま通常実施権を常に特許権の譲受人に対抗できるように変化したため,ライセンス契約の当然承継の議論も活発化したものであろう。
(8)審議会報告書 4 頁(2011)
(9)ただし,xxxx弁護士は,「『通常実施権は,…その効力を有する。』とは,契約内容すべて…の承継をも意味するのか
(当然承継説),承継しないのか(非承継説)については両説ある。」として,ライセンス契約承継の問題が特許法 99 条の解釈論であることを示唆している(xxxx「当然対抗制度導入と知的財産契約書作成実務」Law and Technology53 号 36-37 頁(2011))。xxx「当然対抗制度−解釈論上の課題
と実務上の留意事項」ジュリ 1436 号 57 頁(2012)でも,「改
正特許法 99 条等の上記規定文言xxxな解釈として,ライセンス契約の当然承継は否定すべきであり」として,同様に特許法 99 条の解釈論として論じている。
(10)xxx「ライセンス契約の対抗と公示」知的財産研究所編
『知的財産ライセンス契約の保護−ライセンサーの破産の場合を中心に−』247-248 頁(雄xx出版,2004),xxxxxx『契約類型別 取引先破綻における契約の諸問題』150 頁
[xxxxx](新日本法規出版,2006)等。xxxxは,少なくとも有償のライセンス契約については当然承継を肯定し,ただし,クロスライセンス契約については,「ライセンサーはライセンシーでもあるので,一方当事者から特許権を譲り受けた者に対して相手方がxxx・xxxxx契約を対抗してライセンシーとしての地位を保持し続けることは問題ないが,譲受人に対して当然にライセンス供与義務を負担するものとすることは,特許権の譲渡契約に関与しなかったライセンス契約当事者に不測の損害を与えることになる(実際
にも,xxxxxxの権利については譲渡禁止の特約が付されていることが多い)」とされる。
(11)xxxx「知的財産権のライセンシーの立場」NBL801 号 19-20 頁(2005)。xxxxは,「登録がある場合,…その他の契約条項をも含む契約上の地位も原則としてライセンサーから譲受人に移転し,譲受人とライセンシーの間でライセンス契約が継続すると考えられます。…非定型的な契約条項については,当然には譲受人に承継されない可能性があります。」とされる。
(12)xxx「当然対抗制度導入で変わる『対抗』の意味−不動産賃貸借制度の視点から−」ビジネス法務 2011 年 9 月号 79頁(2011),xxxx「ライセンス契約の対抗力と契約上の地位の移転」金判 1275 号 1 頁,xxx「知的財産ライセンス契約の保護の在り方とその方策案」知的財産研究所編『知的財産ライセンス契約の保護−ライセンサーの破産の場合を中心に−』287-288 頁(雄xx出版,2004)等。xx弁護士は,「通常実施権においても,不動産賃借権と同様に,当然対抗の性質に反しない限り契約関係を当然承継すると解すべきである。」とされつつ,「通常実施権の当然対抗の場合,当然承継で困るのは,特許権者の義務が想定できて,かつ,特定の者でないと債務履行が困難なものが想定できる条項である。具体的には,『技術情報の提供義務』『秘密保持義務』『原材料等の購入』『譲渡等の禁止』等であろう。」「例えば,『技術情報の提供義務』については,当該情報を提供済みであれば,問題ない。継続的な提供が必要なら譲受人の債務履行は困難なので例外的に承継されない(実施料はこの分減額されうる)。」と例外的に承継されない余地を認める。
(13)xxxxほか編『新・注解 特許法【上巻】』1376 頁〔xx
xx〕(青林書院,2011),知的財産研究所「ライセンス・特許を受ける権利に係る制度の在り方に関する調査研究報告書」33 頁(2010)等。x弁護士は,「ライセンス契約に別途の特約がない限り,原則として契約上の地位の承継を認めつつ,…当該ライセンス契約書の合意事項のうち,特許権譲受人に承継されることが合理的ではないと解される内容については,承継を否定することにより具体的な妥当性をはかるという考え方をとる余地があるのではないか。」とされる。なお,平成 23 年改正特許法が成立した後の林弁護士の論考として,林・前掲注(9)がある。
(14)最判昭 46 年 4 月 23 日民集 25 巻 3 号 388 頁
(15)xx・前掲注(12)79 頁,x・前掲注(13)1377 頁,xx・前掲注(10)144 頁等。
(16)xxxx「ドイツ法におけるライセンシーの保護」知的財産法政策学研究 12 号 159-160 頁(2006),xxxx等編『知的財産契約の理論と実務』529 頁[xxxx](日本評論社, 2007),xxx x「当然対抗制 度」ジ ュリ 1437 号 77 頁
(2012),xxx・前掲注(9)57 頁等。
(17)xx弁護士は,「契約上の地位の移転に関する一般原則に立ち返り,特許xxの譲受人との合意,および通常実施権者の承諾がない限り,ライセンス契約の契約上の地位は移転しないことを原則と解し,契約関係は従前の当事者間に存続することが原則であると考えるべきものと思われる。」とされ
る(xx・前掲注(16)77 頁)。
(18)xx・前掲注(16)159-160 頁,xx・前掲注(16)529 頁。xxxxは,「無条件で主張可能とされるのは,単純ライセンスのまさに核となる部分,すなわちxxxxxxはライセンサーに対して自己の実施等の容認を請求しうるという部分
(本来的意味における通常実施権及び利用許諾)に限定されるべきである。ライセンス契約においては発明等の改良や情報提供の義務(いわゆる積極的履行義務)を相互に負うことが少なくないと思われるが,ライセンスの存在を知らずに権利を譲り受けた者に対しても,これらの義務の履行をライセンシーが当然に請求しうるというのは妥当ではないからである。」と説明される。
(19)大阪地裁昭和 59 年 4 月 26 日判決無体集 16 巻 1 号 271 頁,xxxx「特許法」426 頁(弘文堂,2010)等参照。
(20)xxxx「通常実施権の対抗要件制度について」特研 51 巻
10 頁以下(2011)。
(21)xxx『新訂債権総論(民法講義Ⅳ)』579-580 頁(岩波書店, 1964),xxxx『債権総論』111-112 頁(弘文堂,1985)等。
(22)xxx『民法Ⅱ債権各論』18 頁(東京大学出版会,第 3 版, 2011)
(23)大判大正 14 年 12 月 15 日民集 4 巻 710 頁(売買契約),最判昭和 30 年 9 月 29 日民集 9 巻 10 号 1472 頁(請負契約) (24)特許権に基づく差止請求権も損害賠償請求権も行使しない
という意味での不作為を意味する。
(25)最判昭 46 年 4 月 23 日民集 25 巻 3 号 388 頁
(26)債務の引受の場合には,債務者が第三者に当該債務を引き受けさせ,自らは債務の履行責任を免れるために,債権者の承諾が必要と解されている(いわゆる免責的債務引受。xx・前掲注(21)111 頁。xx・前掲注(21)568 頁も参照。)。最高裁は,賃貸人の地位に賃貸人が負うべき債務が含まれることから,「債務の引受」の概念を持ち出し,不動産賃貸借契約における賃貸人の地位の移転が「一般の」債務引受の場合とは異なる帰結をとることを説明したものと思われる(xxxx『最高裁判例解説民事篇(昭和 46 年度)』125 頁(法曹会, 1972)参照)。
(27)形式的な面においても,両契約は相違する。賃貸借が民法上に規定された典型契約であって有償・双務契約である(民 法 601 条)のに対し,ライセンス契約は非典型契約であり,契 約当事者の合意によりいかなる内容にもできる。例えば,ロイ ヤルティの定めのない無償のライセンス契約も可能である。 (28)xxxxは,「判例が,不動産所有権の移転に伴い,賃借人
の同意を要せずに賃貸人の地位の移転を認める理由として,賃貸人の義務は賃貸人が何人であるかによって履行方法が特に異なるものでないことを挙げるが,ライセンサーについては,権利不行使の不作為義務以外に関してはこの立論は妥当しない」と説明している(xx・前掲注(12)1 頁)。
(29)このように一律の当然承継を肯定するのでなければ,昭和 46 年最高裁判決のいう「何ぴとであるかによつて履行方法が特に異なるわけのものではな」い範囲に限り当然承継を肯定するとして,同判決を理論的根拠とする余地があろう(xx・前掲注(12)77 頁以下,x・前掲注(13)1377 頁,xx・前
掲注(10)144 頁,xxx・前掲注(12)287-288 頁等)。しかしながら,本文中に述べるとおり,このような一部承継肯定的な考え方は実務上機能しない可能性がある。
(30)xx・前掲注(11)20 頁 (31)xx・前掲注(12)79 頁 (32)x・前掲注(13)1376 頁 (33)xx・前掲注(10)144 頁
(34)知的財産研究所・前掲注(12)33 頁
(35)この点で,xxxx教授が「学者の研究は必要ですけれども,みんな違う意見を述べ,ますます混迷の度を深めるかもしれませんね。」と述べているのは示唆的である。(xxxxほか「特許法改正の意義と課題」ジュリ 1436 号 21 頁〔xx発言〕(2012))
(36)xxx・前掲注(9)56 頁
(37)この点について,xxxxは,「ライセンス契約では,許諾する権利の特定,独占権・最低実施料・ノウハウの供与・指導助言の有無など重要な契約条項を思い浮かべてみても,不動産賃貸借の敷金契約のような定型的で予測可能な条項は想定できず,契約上の地位は移転しないと考える。」と説明される(xxxx等編『知的財産契約の理論と実務』529 頁[xxxx](日本評論社,2007 )。また,「近年のライセンス契約は様々な特約と一体となって定められていることが通常であるため,個々の通常実施権の対価を特定することが困難な場合が多い。」との報告がある(産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会「特許xxの活用を促進するための通常実施xxの登録制度の見直しについて」23 頁(2008))。
(38)民法 467 条 1 項
(39)xxx・前掲注(9)57 頁
(40)実施可能範囲を一部の請求項に係る発明に制限したり,実施できる製品を制限したり,特定の実施態様に制限すること
(例えば,生産は許さず,販売と販売の申出に限って実施を許すこと)など。
(41)なお,改正前の登録対抗制度の下では,通常実施権の登録において,「通常実施権の範囲」として,「通常実施権の設定すべき範囲(地域,期間及び内容)」を登録することができた
(改正前特許登録令施行規則 10 条 4 項,様式 10 備考 2)。xxx弁護士はxxx・前掲注(9)57 頁以下は,さらに最高実施数量の合意,実施品の販売先,貸与先,使用対象についても通常実施権の「範囲」に含まれうるとされる。
(42)前述のとおり,無償による通常実施権の許諾も可能である。 (43)なお,xxxxx対象の特許権が譲渡される場面におけるライセンサー,ライセンシー及び譲受人の各利害関係人の立
場ごとの留意点を説明したものとして,xxx「当然対抗制度における実務上の留意点」NBL969 号 37 頁が参考になる。
(44)譲渡人と譲受人の二者間でライセンス契約の承継が合意された後に,合意内容についてxxxxxxが承諾する形でもよい。以下では,このような形式も含めて,三者間の合意として論じる。
(45)表明保証(Representations and Warranties)とは,企業買収の株式買取契約などに用いられる契約条項の一種である。取引の前提となる重要な事実を当事者が表明・保証し,仮に
異なる事実が判明した場合には他方当事者に契約の解除権や損害賠償若しくは費用補償請求権を付与する旨の条項を併せ規定することによって,取引の前提事実がない場合には契約の拘束力から逃れる途を保障するものである。このように表明保証条項は,取引の前提事実に対する当事者の信頼を保護する機能を有する。
(46)本稿で紹介する契約書例はデューデリジェンスによりライセンス契約の存在が確認されなかった場合のものである。ライセンス契約の存在が確認された場合には,当該ライセンス契約の内容及びその他にライセンス契約が存在しないことの表明保証を得ることになる。併せて,当該ライセンス契約の承継の有無・範囲についても取り決めを行い,必要であれば譲渡契約の締結前にライセンシーとの三者契約の締結若しくはライセンシーの承諾のとりつけを譲渡人に要請するべきである。
(47)xx・前掲注(16)77-78 頁は,ライセンシーの地位の譲渡禁止特約を有効と解する。
(48)なお,当然対抗制度の下では,サブライセンシーもその実施権を当然に特許権譲受人に対し対抗することができる。実施権対抗のためには,サブライセンシーは,サブライセンス権限をライセンサーから付与されていたこと,及びサブライセンシーに通常実施権を許諾したことを立証する必要がある
(特許制度小委員会報告書 4 頁,x・前掲注(13)1378 頁)。 (49)もっとも,譲渡前に発生したロイヤルティは,AC間で債権譲渡の合意がない限り,Aに対して支払う必要がある。 (50)各特許権の寄与率を考慮して按分承継を認めることになる
のか。このような考え方をとると,xxxxxxは譲渡人と譲受人の双方にロイヤルティを支払わなければならず煩雑であるし,承継範囲について譲渡人・譲受人間で争いがある場合には弁済額の不足による債務不履行の危険を負うことにもなる。
(51)xx・前掲注(10)248 頁,茶園・前掲注(20)10 頁,xx・前掲注(10)150 頁。xxxxは,特許Yの通常実施権が譲渡される場合であるから,特許法 94 条 1 項に基づきBの承諾を要するとされる(茶園・前掲注(20)11 頁)。
(52)xxx・前掲注(9)59 頁
(53)民事xxx 167 条 1 項,161 条 1 項
(54)売却命令は第三者への売却を命じるものである。これに対して,譲渡命令は差押債権者への譲渡を命じるものである。 (55)執行裁判所は譲渡又は売却価格を決めるために,差し押さえられた特許権につき評価人を選任して評価を命ずるのが通 常であるところ(東京地方裁判所民事執行センター実務研究 会編『民事執行の実務−債権執行編(下)』」185-186 頁(金融 財政事情研究会,第 2 版,2007 ),通常実施権者の存在は特 xxの価額に影響を与えうるので,評価人の差押債務者(特 xx者A)に対するヒアリング等によりライセンス契約の存 在は発覚する可能性はあるだろう。買受希望者も差押債権者 等を通じて事実xxx存在を知ることも考えられる。しかし
ながら,あくまでも事実上の可能性にすぎない。
(56)特許制度小委員会報告書によると,「特許権の移転件数の年間総数は 1 万 6000 〜 2 万 5000 件前後に及ぶが,そのう
ち,執行手続(売却命令,譲渡命令)により移転される件数は,1 〜 2 件程度に過ぎない」とのことである(同報告書 5
頁)。なお,買受人としては,事後的に,担保責任(民法 568条,566 条)を追及して代金の減額請求等を行うことが考えられる。
(57)破産手続において,破産管財人は,破産者が当事者である双務契約が双方未履行の場合には,契約を解除するか,破産 者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求するか,選択 する権限を有する(破産法 53 条 1 項)。しかしながら,「賃借 権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約に ついて破産者の相手方が当該権利につき…第三者に対抗する ことができる要件を備えている場合」には,破産管財人の上 記権限は制限される(同法 56 条 1 項)。当然対抗制度の導入 により,通常実施権は常に対抗力を有することから,ライセ ンサーである特許権者に破産手続が開始された場合でも,破 産法 56 条 1 項の適用によって,通常実施権者の実施が破産 管財人の解除権行使によって妨げられることはなくなった。 (58)破産者は破産管財人に対し説明義務を負っており(破産法 40 条 1 項 1 号),同義務の履行は刑事罰や免責不許可事由
(後者は自然人の破産者のみ)によって担保されている(同法
268 条 1 項,252 条 1 項 11 号)。破産管財人は,破産者に対し,破産財団についての調査権限を有し,破産者に対し説明を求めたり,帳簿,書類等の検査をすることができる(同法 83 条)。これらの手続の利用によって,破産管財人を通じての情報提供が期待できる。
(59)この点,「破産管財人の実務としては,破産管財人が特許権の譲渡をする際に,譲渡先である第三者とxxxxxxとの権利義務関係を明確にするため,ライセンシーから契約関係の移転に関する同意書を取得し(又は第三者とライセンシー間の新ライセンス契約の締結を行い),破産者とライセンシー間の契約関係を第三者とライセンシー間の契約関係に承継させる場合が多い。」との指摘がある(xx・前掲注(10) 144 頁)。
(60)破産法 85 条 1 項 (61)破産法 85 条 2 項参照 (62)破産法 78 条 2 項
(63)株式会社が特許権者(ライセンサー)の場合,破産手続内で特許権の処分先が見つからないと,破産管財人は当該特許権を破産財団から放棄し,破産手続終結後に清算手続を通じて換価され又は残余財産として株主に分配されることになる
(会社法 475 条以下)。しかし,実際には取締役等の行方不明等の事情により適格の清算人候補がおらず清算手続自体が適切に行われないこともあり,結果的に,ライセンシーは「利害関係人」として清算人の選任を裁判所に申し立てて(同法 478 条 2 項),自ら清算手続を開始に導かなければならず,そのコスト及び労力を勘案すると現実的とはいえない。
(原稿受領 2012. 1. 31)