「そのまま使えるモデル英文契約書シリーズ」は、JCAA が、これまで日本企業が当事者となった仲裁事件を処理してきた経験に照らして、国際取引に不慣れな中堅・中小 企業が契約書を作成する際に参考にして頂くべく発刊しているものである。本シリーズでは、各条項の解説の随所で、その条項の説明にとどまらず、その条項が扱っている事項 はどのような意味があるのかを自覚的に考えることができるように工夫している。異なるモデル契約書に登場する類似の条項例や解説は必ずしも同一ではないが、その趣旨は同...
そのまま使えるモデル英文契約書シリーズ
はじめに
このたび、「そのまま使えるモデル英文契約書シリーズ」の新しいひな型として「実施許諾契約書【被許諾者用】」を出版する運びとなった。2020 年に 12 種類のひな型から成る本シリーズを出版して以来、多くの方々から好評をいただいてきた。また、同時に「実施許諾契約書【被許諾者用】」も出版して貰いたいとのご要望が寄せられたので、今回、新たに出版させていただくこととなったものである。
「そのまま使えるモデル英文契約書シリーズ」は、JCAA が、これまで日本企業が当事者となった仲裁事件を処理してきた経験に照らして、国際取引に不慣れな中堅・中小企業が契約書を作成する際に参考にして頂くべく発刊しているものである。本シリーズでは、各条項の解説の随所で、その条項の説明にとどまらず、その条項が扱っている事項はどのような意味があるのかを自覚的に考えることができるように工夫している。異なるモデル契約書に登場する類似の条項例や解説は必ずしも同一ではないが、その趣旨は同じである。外国企業から提示された英文契約書案にそのままサインするのではなく、自社の立場がより有利になるように英文契約書を作成し、交渉するようにして貰いたい。
なお、本シリーズでは、JCAA ならではのこととして、仲裁条項のドラフティングについて詳しく説明している。国内の取引では紛争解決はいずれかの地方裁判所での裁判により最終的には解決される旨を定めるのが当然と考えてきたかもしれないが、国際取引をめぐる紛争については、外国での裁判を受け入れざるを得ないとすれば、それは外国語で外国訴訟法に基づく手続の末に外国人の裁判官が外国語で判決を下すことを意味する。他方、日本での裁判は相手方の外国企業が拒否することになろう。そのため、国際取引紛争の解決のためには仲裁が用いられることが多いし、それが望ましい。そこで本書では、国際取引から生じる紛争の解決手段として一般に利用されている仲裁についての説明に加え、それを的確かつ有利に行うための様々な仲裁条項例を掲載している。また、JCAA は 2021 年に商事仲裁規則の改正を行った。この改正では迅速仲裁手続がより利用し易い手続になるように、適用される紛争金額の上限額や手続期間についての定めを改めた。本書では、2020 年発刊の本シリーズの記載を修正し、この改正に基づいて「III. 仲裁条項のドラフティング」の内容を更新している。
最後に、本シリーズのモデル英文契約書が実際の契約書作成にあたり参考となれば幸いである。本書の刊行にあたり、丁寧な監修により最新のモデル契約書に刷新して頂いたアンダーソン・xx・xx法律事務所のxxxxx弁護士に厚く御礼申し上げたい。
2022 年 10 月
日本商事仲裁協会(JCAA)仲裁・調停担当執行理事
xxxx
目 次
I. 実施許諾契約(被許諾者用)の概要
1. 実施許諾契約とは 4
2. 本条項例 4
3. 実施許諾契約のポイント 4
II. License Agreement(実施許諾契約)の条項例(英語、日本語)・解説
■ Recitals /前文 5
■ Article 1 Definitions /定義 7
■ Article 2 Grant of License /実施権の許諾 8
■ Article 3 Technical Materials /技術資料 10
■ Article 4 Technical Guidance /技術指導 12
■ Article 5 Technical Training /技術訓練 13
■ Article 6 Other Technical Assistance /その他の技術援助 14
■ Article 7 Royalties and Payments /ロイヤルティおよび支払 15
■ Article 8 Accounting and Report /記帳および報告 18
■ Article 9 Sales Promotion /販売促進 19
■ Article 10 Improvements /改良技術 20
■ Article 11 Treatment of Confidential Information /秘密情報の取扱 21
■ Article 12 Trademarks /商標 23
■ Article 13 Infringement /侵害 24
■ Article 14 Representations and Warranties /表明および保証 27
■ Article 15 Products Liability /製造物責任 28
■ Article 16 Assignment, Sublicense and Subcontracting /
譲渡、xxxxxxxおよび下請 28
■ Article 17 Term and Termination /期間および終了 29
■ Article 18 Effect of Termination or Expiration /終了または満了の効果 31
■ Article 19 Force Majeure /不可抗力 32
■ Article 20 Notice /通知 33
■ Article 21 Waiver /権利放棄 34
■ Article 22 Governing Law /準拠法 35
■ Article 23 Arbitration /仲裁 35
■ Article 24 Entire Agreement and Modification /完全合意および修正 36
■ Article 25 Headings /表題 37
■ Article 26 Language /言語 37
■ Article 27 Severability /分離独立性 38
■ 末尾文言および署名欄 39
III. 仲裁条項のドラフティング
1. 仲裁とは 40
2. 仲裁条項のヒント 41
(1) JCAA の 3 つの仲裁規則に基づく仲裁条項 42
(2) 機関仲裁条項(仲裁機関を指定する仲裁条項) 43
(3) 仲裁規則を規定する仲裁条項 44
(4)「商事仲裁規則」の迅速仲裁手続によって仲裁を行う場合の仲裁条項 46
(5) 仲裁人の要件や数を規定する仲裁条項 46
(6) 仲裁手続の言語を規定する仲裁条項 48
(7) 仲裁費用の負担を定める仲裁条項 49
(8) 多層的紛争解決条項 50
(9) 交差型仲裁条項(クロス条項) 51
(10)準拠法条項と仲裁条項 52
CD-ROM:実施許諾契約書(被許諾者用)【英語、日本語】(MS-Word)
I. 実施許諾契約(被許諾者用)の概要
1. 実施許諾契約とは
何らかの権利(とりわけ知的財産権)を有する当事者が、他の当事者に対し、その実施、使用などを認める契約である。対象としては、特許権などの工業所有権、ノウハウ、著作権などさまざまである。
2. 本条項例
本条項例は、外国企業(許諾者;licensor)が我が国の企業(被許諾者;licensee )に対して、特許権とノウハウの実施許諾を行う場合を想定したものである。
実施許諾の方法としては、ある地域においては独占的に、その他の地域においては非独占的にライセンスするという複合的な形にしている。「独占的」とは、許諾者が同一の地域において当該被許諾者以外の第三者に対し、同一の権利を許諾しないという意味である。
3. 実施許諾契約のポイント
実施許諾契約において注意すべきポイントは次のようなものである。
(1) 許諾する「実施」の範囲
特許権、著作権などの権利は、「所有権」のような一まとまりのものではなく、たとえば特許権であれば、製造、販売、輸出などの「……する」権利の集合体である。そこで、どの行為までを許諾するのかを明確にしておく必要がある。
(2) 実施料(ロイヤルティ;royalties)
被許諾者としては、実施料の決め方が重要である。頭金のようなものを要求されたらそれを認めるか、加えて、権利の使用量(製造高、売上高など)に応じた実施料を支払う場合、料率や基準となる販売高をどうするか、さらに、最低実施料(権利の使用量にかかわらず、最低限支払わなければならない実施料)を要求されたらそれを認めるか、などを検討する必要がある。
(3) 被許諾者の付随的な義務
被許諾者の売り上げを挙げるべく、許諾者としてはさまざまな義務を被許諾者に課そうとすることがある。たとえば、競合品の取り扱いを禁止する、などである。もちろん交渉次第なので、要求された義務をすべて負担する必要はない。また、独占禁止法の適用により義務を課すことが制限されたりする可能性もあるので、十分に検討すべきである。
II. License Agreement(実施許諾契約)の条項例(英語、日本語)・解説
■ Recitals /前文
実施許諾契約
本契約は、 年 月 日に、
国法に基づき設立され存続する法人であって、その主たる事務所を に有する (以下「ライセンサー」という。)と、日本国法に基づき設立され存続する法人であって、その主たる事務所を日本国 に有する (以下「ライセンシー」という。)の間に締結され、以下のことを証する。
LICENSE AGREEMENT
This Agreement is made and entered into this day of ,
, by and between
, a corporation organized and exciting under the laws of , having its principal place of business at
(“Licensor”), and , a corporation organized and exciting under the laws of Japan, having its
principal place of business at , Japan (“Licensee”).
Recitals:
WHEREAS, Licensor has been engaged in the manufacture and sale of Products(hereinafter defined) and owns specialized knowledge, information, experience, patents and patent applications relating to the manufacture, use and sale of such Products ;
WHEREAS, Licensee is desirous of manufacturing, using and selling such Products in the Territory ( hereinafter defined ); and,
WHEREAS, Licensor is willing to provide Licensee with the benefit
前 文
ライセンサーは、以下に定義される許諾製品の製造および販売に従事しており、当該許諾製品の製造、使用および販売に関し専門的な知識、情報、経験、特許および特許出願を保有している。
ライセンシーは、以下に定義される許諾地域において、当該許諾製品を製造、使用および販売することを希望している。
ライセンサーは、ライセンシーに対し、当該許諾製品の製造、使用および販売のため、当該知識、情報、経験、特許および特許出願の利益を提供する用意がある。
よって、本契約に定める条件を約因とし
of such knowledge, information, experience, patents and patent applications for the manufacture, use and sale of such Products.
NOW, THEREFORE, in consideration of the terms and conditions set forth herein, the parties hereby agree as follows:
て、両当事者は以下のとおり合意する。
解説
標題
契約書の標題は効力などには関係ないので、わかりやすければよい。
冒頭文
①当事者の名称、設立準拠法および住所並びに②契約締結年月日を記載する。
当事者の名称および住所は、登記簿の記載通りに表示するのが望ましい(ただし、日本の会社の場合は契約書を英文で作成する限りローマ字となる。多くの会社はその定款において英文名称を定めている。その場合はこれを用いるのがよい)。登記された本店以外の営業所または他の支店において契約を締結し、履行する場合、契約書上の住所表示を営業所または支店とすることがあるが、この場合はその旨明記しておく。
設立準拠法は、明示するのが一般的な慣行である。国によっては(連邦制の国などにおいては)設立準拠法が州法であることもあるので注意しなければならない。
契約締結場所は、契約書のxxに表示することもあるが、冒頭文に表示してもよい。設立準拠法と共に契約の成立、履行、解釈等の準拠法を決定する場合に意味を持つことがある。
契約締結年月日は契約期間の起算点と解釈されることが多いが、特に起算点を別に定める場合はその旨明確にしておく必要がある(17 条 1 項参照)。
前文
契約締結に至った経緯、契約の目的等契約の前提となる事項について表示する。
最近の契約書では簡単な表現になっており、完全に省略されることもある。しかし、契約作成時点における当事者の立場および意思を明確にしておくという意味で前文を記載した方がよい場合が多い。
従前に存在した契約関係を基盤として新契約が締結される場合や(一手輸入販売契約をライセンス契約に切り換える等)、これに修正を加える場合、あるいは関連する他の契約(例えば合弁契約)がある場合、これらの契約との関係を明確に記載しておくことは、重要である。このこと
により各契約の適用範囲を明確にすることができる。
前文は通常法的拘束力を持たないとされているが、契約条項の解釈に疑義が生じた場合には解釈の指針となるので、十分注意して記載する必要がある。
なお、前文の末尾に当事者による契約締結の意思表示、すなわち申込と承諾または合意の宣言がなされる。
■ Definitions /定義
Article 1 Definitions
In this Agreement, each of the following terms shall have the following meanings, unless otherwise required by context:
(1) “Products” shall mean the products and components and parts thereof set forth in Schedule I attached hereto.
(2) “Exclusive Territory” shall mean the territory of Japan, and “Non- Exclusive Territory” shall mean the territory of .
“Territory” shall mean both Exclusive Territory and Non- Exclusive Territory.
(3) “Technical Information” shall mean all information and knowledge utilized by Licensor relating to the manufacture and use of Products.
(4) “Licensed Patents” shall mean the patents and patent applications which are listed in Schedule II attached hereto and any and
all patents to be granted in connection with such patent applications.
(5) “Effective Date” shall mean the date on which this Agreement
第 1 条 〔定義〕
本契約において、以下の表現は、文脈上他の意味に解されない限り、それぞれ以下の意味を有するものとする。
(1)「許諾製品」とは、添付別表Ⅰに定められる製品、コンポーネントおよび部品をいう。
(2)「独占的許諾地域」とは、日本国の地域をいい、「非独占的許諾地域」とは、
の地域をいう。「許諾地域」とは、独占的許諾地域および非独占的許諾地域をいう。
(3)「技術情報」とは、許諾製品の製造および使用に関しライセンサーにより使用されるすべての情報および知識をいう。
(4)「許諾特許」とは、添付別表Ⅱに記載される特許および特許出願並びにかかる特許出願に関連して付与されるすべての特許をいう。
(5)「契約発効日」とは、本契約 17 条 1項の規定に従い、本契約が発効する日をいう。
(6)「改良技術」とは、特許を受けられるか否かに拘わらず、許諾製品または許諾製品の製造もしくは使用方法に関するすべての改良、修正および変更をいう。
(7)「純販売価格」とは、工場渡し価格か
ら、許諾製品に関する運賃、据付、保険料、消 税、付加価値税、通関 、関税を控除したものをいう。
shall come into effect in accordance with the provisions of Article 17 (1).
(6) “Improvements” shall mean any and all improvements, modifications or variations, whether or not patentable, in or to Products, or methods for
manufacturing or using Products.
(7) “Net Sales Price” shall mean ex- works price, less packing, freight, installation and insurance charges, consumption tax, value added tax, customs charges and customs duties related to Products.
解説
第 1 条 〔定義〕
契約書に繰り返し現れる重要な語句で、その意味を明確に定めておく必要があるものについては、定義条項においてその意味を定義しておく。また、冗長な表現を省略的な表現で置き換えたり、表現の統一性を図るためにも定義は役立つ。
例文においては、許諾製品、許諾地域、技術情報、許諾特許、契約発効日、改良技術、純販売価格について定義を定めている。
なお、「技術情報」すなわちノウハウの許諾も受ける前提にしているが、特許証の許諾のみで十分な場合は、もちろん「技術情報」の定義や許諾は不要である。
■ Grant of License /実施権の許諾
Article 2 Grant of License
(1) Subject to the terms and conditions set forth herein, Licensor hereby grants to Licensee:
(a) an exclusive license to manufacture, sell and use Products in the Exclusive
第 2 条 〔実施権の許諾〕
(1)本契約に定める条件に従い、ライセンサーはxxxxxxに対し、以下を許諾する。
(a)許諾特許および技術情報に基づき、独占的許諾地域において許諾製品を製造、販売および使用する独占的実施権、および