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民法(債権法)改正委員会第17回全体会議資料
贈 与
09. 2. 7
第 2 準備会
I 贈与契約の定義
【II-11-1】贈与の定義
民法 549 条を以下のようにあらためる。
「贈与契約とは、当事者の一方が財産権を無償で相手方に移転する義務を負う契約である。」
〔関連条文〕民法 549 条
〔関連提案〕【II-11-3】
提案要旨
1 贈与契約を無償の財産権移転型契約として定義する。現行民法の起草者は、債務免除を贈与と解する余地に言及するなど、贈与を財産権移転型の契約と明確に位置づけていたわけではないが、今日の学説においては、贈与契約を無償の財産移転型契約と理解するのが一般的である。その意味で、本提案は、贈与契約の概念に関する現在の理解に変更を加えるものではない。そして、このように、贈与を財産移転型契約とすることは、贈与契約の外延を明確にするの
みならず、社会的に贈与と理解されている契約が財産の移転を内容とすることにも適合する。
2 贈与の成立要件については、現行民法 549 条の立場を基本的に維持する。ただし、549 条が「自己の財産」であることを贈与の要件としている点については、契約成立時に自己の物でなかったからといって贈与契約は無効にならないとする意味で、自己の財産であることは、贈与の成立要件とはしない。もっとも、他人物贈与について、贈与者は原則として調達義務を負わない(後述【II-11-10】参照)。
贈与の諾成性については、549 条を維持し、贈与は当事者の合意のみによって成立するものとする。549 条によれば、贈与が贈与者の意思の表示と相手方の受諾によって成立することは明らかであるのに対し、【II-11-1】には、贈与契約が当事者の合意のみによって生じることは直接規定されてはいないが、改正案では、契約に関する諾成主義の原則(【II-5-1】)がxxで規定されるので、贈与が諾成契約であるのが、xx上も明らかであることに変わりはない。
II 贈与の予約
【II-11-2】贈与の予約
(1) 贈与の予約は、受贈者による予約完結の意思表示により、当事者間であらかじめ定められた内容の贈与契約を成立させる合意である。
(2) 贈与は、受贈者が贈与の予約を完結させる意思の表示した時からその効力を生じる。ただし、贈与の成立につき特定の方式が必要とされているときは、贈与の予約について、その方式にしたがうことを要する。
(3) 予約が書面によってなされたときは、(2)によって効力を生じた贈与につき、贈与者は、贈与が書面によらないことを理由として贈与を解除することはできない。
(4) 予約完結権に期間の定めがあるときは、予約は、期間内に予約完結権が行使されなければ、その効力を失う。
(5) 予約完結権に期間の定めがないときは、予約者は、相手方に対し、相当の期間を定めて予約を完結させるかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、相手方がその期間内に予約を完結させる意思を表示しなかったときは、予約はその効力を失う。
〔関連条文〕新設
提案要旨
1 売買の予約に関する【II-7-17】1 は、有償契約への準用規定を通じて、他の有償契約に準用されるにとどまり、無償契約には当然に準用されない。したがって、無償契約の予約について別に定める必要があるかどうかが問題となる。
ところで、贈与については、書面によらない贈与は履行が完了するまで解除できることとの関係で、贈与の予約が書面でなされなかった場合の予約の効力がどうなるかについて、疑義が生じうる。したがって、贈与の予約については、別に規定を設けることが適切である。
そこで、本提案では、贈与の予約について売買と同様の規定をおくとともに、受贈者に予約
1 【II-7-17】(売買の予約)
売買の予約に関する現民法 556 条を以下のように改める。
(1) 売買の予約とは、予約完結の意思表示により、当事者間であらかじめ定められた内容の売買契約を成立させる合意である。
(2) 売買は、予約完結権を有する一方当事者または双方当事者のいずれかが予約を完結させる意思を表示した時から、その効力を生じる。ただし、売買の成立につき特定の方式が必要とされているときは、売買の予約についても、その方式にしたがうことを要する。
(3) 予約完結権に期間の定めがあるときは、予約は、期間内に予約完結権が行使されなければ、その効力を失う。
(4) 予約完結権に期間の定めがないときは、予約者は、相手方に対し、相当の期間を定めて予約を完結させるかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、相手方がその期間内に予約を完結させる意思を表示しなかったときは、予約はその効力を失う。
完結権を付与する贈与の予約が書面でなされれば、贈与が書面でなされなくても、贈与者は贈与をそれが書面でなされていなかったことを理由に解除できないことを明らかにする。
2 また、双務契約である売買と異なり、片務契約である贈与において、贈与者のみが債務を負うため、贈与者が予約完結権を有するのは、贈与者が予約によって確定的に贈与に拘束されていることと矛盾する。したがって、売買の予約と異なり、予約完結権を有するのは、受贈者のみとする。これは、負担付贈与を片務・無償契約と位置づける本提案においては、負担付贈与にもあてはまる。
3 なお、【II-7-17】の売買の予約と同じルールを採用している本提案(4)および(5)については、
【II-7-17】(3)・(4)を準用する規定をおくことも考えられるが、【II-11-2】が【II-11-22】によって他の無償契約に準用されることから、準用の準用という形を避ける必要があるかも含め、規定の仕方については、今後の検討によるものとする。
III 書面によらない贈与の解除
【II-11-3】書面によらない贈与の解除
550 条を、以下のようにあらためる。
「(1) 贈与契約が書面でなされなかったときは、各当事者は贈与を解除することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りではない。
(2) 負担付贈与契約が書面でなされなかった場合において、受贈者がすでに負担を履行したときは、各当事者は、履行の終わっていない部分についても、贈与を解除することができない。」
〔関連条文〕民法 550 条
提案要旨
1 書面によらない贈与の拘束力につき、現行民法 550 条を基本的に維持し、履行が終わらない限り、贈与の解除を認めるものとする。これは、贈与は、しばしば、贈与者の情を基礎に契約が締結され、合理的な意思に裏付けられていないことから、書面の作成を通じて自らが行う意思表示の意味を意識していない贈与については、履行がなされていない限りにおいて、贈与者に贈与の解除を許す趣旨である。
贈与が書面によるかどうかの違いに意味をもたせる理由は、書面の作成が、贈与者の意思を書面で確認するだけではなく、一定の形によって契約を締結することにより、非法の世界ではなく法の世界での契約として贈与を行うことを贈与者に自覚させ、それにより、強い法的拘束力を生じさせるに値する確固たる意思を担保する役割を果たすところにある。
したがって、贈与契約における書面とは、保証契約と同様、「契約が書面による」ことであるとすべきである。すなわち、贈与が書面でなされたとは、贈与契約の当事者間で作成され、贈
与契約の内容を記した書面が作成されていることをいう。
2 贈与契約がその内容を記録した電磁的記録によってなされた場合に、それが書面によってなされたといえるかどうか(保証契約につき、民法 446 条 3 項参照)は、一般論として、契約が電磁的記録によってなされた場合に、それを書面による契約書と同視できるかどうかという問題のほか、贈与において書面を要求する趣旨に照らして、贈与契約がその内容を記録した電磁的記録によってなされた場合にも、書面を要求した趣旨が満たされるかによる。
【II-11-3】の趣旨が、書面を作成することの意義が、贈与者の意思を確認するだけでなく、無償で受贈者に財産権を移転する義務を法的に負うことを贈与者が自覚することにあるということからは、書面による贈与といえるためには、贈与が電磁的記録によってなされたときにも、両当事者が書面を作成したことが必要と考えられる。
3 負担付贈与が書面によってなされなかったときにおいても、負担が履行された後は、贈与者も受贈者もともに贈与を解除できないものとするのが、【II-11-3】(2)である。これは、学説の支配的な見解を採用するものであり、裁判例にも一致する。
IV 忘恩行為(背信行為)を理由とする解除
【II-11-4】忘恩行為(背信行為)を理由とする解除
(1) 贈与者は、つぎに掲げる場合、贈与を解除することができる。
1 受贈者が贈与者に対し虐待、重大な侮辱その他の著しい非行を行ったとき
2 受贈者が詐欺または強迫により、書面によらない贈与の解除を妨げたとき
3 経済的に困窮する贈与者からの法律上の扶養義務の履行請求を受けた受贈者が、その履行を拒絶したとき
(2) 贈与者が死亡した場合、贈与者の相続人は、(1)の解除をすることができる。
(3) 前 2 項により贈与が解除されたときは、受贈者は、解除原因が生じた時に受けていた利益の限度で返還義務を負う。
〔関連条文〕新設
【II-11-5】忘恩行為(背信行為)を理由とする解除の行使期間
(1) 【II-11-4】 (1)および(2)に基づく解除は、贈与者又はその相続人が解除権を行使しうる時から 1 年以内にしなければならない。
(2) 前項の規定による解除は、贈与の履行がなされてから 10 年を経過した後は、履行の終わった部分についてすることはできない。
〔関連条文〕新設
提案要旨
1 現行民法の起草者は、忘恩行為を理由とする解除を認めることは、贈与を他人に恩を売るためのものとみなすのとほとんど同じであって、xx上問題であることを理由に、忘恩行為を理由とする解除を採用しなかった。
しかし、贈与は、xxの意思を不可欠の成立要件とはしないけれども、当事者間の情愛や信頼関係を基礎として、その絆を前提としてなされることの多い無償契約である。そうであるとすれば、受贈者が単にその基礎となる人間関係を破壊しただけではなく、贈与者の身体または人格を著しく害する行為をしたときは、贈与の基礎が失われており、かつ、そのような行為をした受贈者に対する制裁として、贈与の解除を認めることも可能である。
現行民法においても、遺贈につき受遺欠格事由が定められており(965 条・891 条)、学説も、受贈者に重大な忘恩行為があった場合にまで受贈者に贈与の利益を保持させることは、xx的に許されないなどの理由で、忘恩行為による解除を認めるべきであるとの見解が有力である。
もっとも、忘恩行為を理由とする解除については、解除原因が広く認められたり、不明確であると、当事者間の法律関係が不安定になるほか、家族財産の贈与に関しては、贈与者が解除可能性を振りかざして受贈者を支配しようとするおそれもある。
そこで、【II-11-4】では、受遺者欠格事由および相続人の廃除事由を参考に、受贈者の贈与者に対する行為が贈与者に対する背信行為といえる限定的な場合について、贈与者に贈与の解除を認める。
このような解除権は、伝統的に、忘恩行為による解除とよばれているが、本提案が意図とすることころは、「忘恩」行為に対する制裁ではないので、名称については、今後、なお検討する必要がある。括弧書きで背信行為と書いてあるのは、その趣旨である。
2 解除権者は、贈与者である。ただし、贈与者が死亡した場合には、相続人は贈与者の地位を承継し、契約を解除することができる。(【II-11-4】(2))。
3 贈与契約は片務・無償契約であって、受贈者は、贈与の履行が終わった後は、自己の物としてこれを扱う権限を有するので、贈与が解除された場合、受贈者は、解除時に利益を受けていた限度で返還義務を負うのが原則である(後掲【II-11-12】)。しかし、忘恩行為を理由とする解除については、受贈者は、解除原因である忘恩行為をした後は、贈与者による解除を覚悟すべきであり、解除原因が発生した後解除がなされるまでに利益の消滅が生じた場合でも、贈与者に解除原因発生時に現存していた利益を返還すべきであると考えられる。そこで、【II-11-4】 (3)は、贈与の解除における受贈者の返還義務に関する【II-11-12】の特則として、受贈者は、解除原因の時に受けていた利益の限度で返還義務を負うものとする。
4 忘恩行為を理由とする解除については、当事者間の法律関係を早期に安定させるため、解除権の行使期間を短期に限定する必要がある。とりわけ、忘恩行為については、贈与者が原因事実を知ってから何もしなければ、受贈者を始めとする利害関係人は贈与者が受贈者を宥恕したと理解するのも十分に理がある。そこで、【II-11-4】(1)および(2)を理由とする解除は、贈与
者またはその相続人が解除権を行使しうる時から 1 年内に限ってできるものとする(【II-11-5】 (1))。解除権を行使しうる時とは、原則として、贈与者が解除原因を知った時である。しかし、贈与者が受贈者に虐待されているときなどには、解除原因を知っていても贈与を解除することができない場合もありうるため、解除原因を知った時を基準とすると、贈与者が解除権を行使し得ない場合が生じうる。【II-11-5】(1)が、解除原因を知った時ではなく、解除しうる時を起算点とするのは、そのためである。
贈与者が解除権を行使することができた時から(?)1 年以内に死亡した場合、贈与者の相続人は、贈与者が解除権を行使し得た時から 1 年間に限って解除権を行使することができる。これに対して、贈与者が解除権を行使することができないまま(?)死亡した場合、1 年の期間は、相続人が解除権を行使し得た時、すなわち、解除原因に当たる事実を知った時から起算される。また、贈与の履行が終わって長期間が経過した後に忘恩行為がなされた場合に、それを理由 としてすでになされた贈与の効力を贈与者が解除することは、受贈者の法的地位の安定を不当
に害するものであるといえる。
そこで、忘恩行為を理由とする解除は、贈与の履行がなされてから 10 年を経過した後は、履行の終わった部分についてすることはできないものとするのが【II-11-5】(2)である。10 年という期間は、同じく形成権である取消権について、取り消しうる法律行為があったときから 10 年経過後はもはや取消しができないのに倣ったものである。
2 贈与者の権利移転義務等
【II-11-6】
贈与者の権利移転義務、引渡義務、対抗要件を備える義務などに関するxxの規定はおかない。
〔関連提案〕【II-8-2】、【II-8-3】、【II-8-42】
提案要旨
贈与者が財産権移転義務を負うことは、【II-11-1】から明らかであり、贈与の目的物が有体物である場合には、贈与者が所有権移転義務を負うことは、受贈者がその所有権を現実に享受することができるよう、贈与者は目的物の引渡義務を負うことにつながる。同様に、目的物の権利移転について対抗要件の具備が必要な場合には、贈与者は、受贈者が権利を第三者にも対抗できるよう、対抗要件を具備させる義務を負うことも、贈与者の権利移転義務から導くことができる。
この点、売買に関しては、定義規定の他に、売主の権利移転義務(【II-8-2】)、対抗要件を備える義務(【II-8-3】)、引渡義務(【II-8-42】)を定める規定がそれぞれおかれる予定である。こ
れは、売買においては、売主がこれらの義務を負うことを明確にする必要があり、実際にも、義務違反の有無およびその効果が問題となることが多い。
これに対して、贈与においては、贈与者はこれらの義務を負うことは共通するが、贈与者が義務を履行しない場合の効果については、受贈者はその履行を請求できるものの、贈与者の債務不履行を理由とする損害賠償については故意または重過失の場合を除き、免責される。実際にも、贈与者がいかなる義務を負うかが争われることは少ない。
このように、贈与については、売買の場合のように、売買の定義とは別に、これらの義務の存在についてxxの規定をおく必要は少ない。したがって、贈与については、これらの規定を別に設けることはしないものとする。
3 贈与の目的
【II-11-7】贈与の目的
贈与の目的物が種類のみによって指定されたときは、贈与者が給付すべき物を指定することができる。
〔関連条文〕新設
〔関連提案〕【I-3-5】
提案要旨
【II-11-7】は、種類物を目的とする贈与につき、種類物を債権の目的とした場合に関する提案【I-3-5】2の特則として、贈与者に給付物の指定権を付与するものである。
提案【I-3-5】によれば、種類物を債権の目的とした場合、債務者が契約により指定権を有する場合があることが認められている。このとき、債務者が指定権を行使してその給付すべき物を指定したときは、以後その物が債権の目的物となる。
贈与契約において、契約の内容を決める主導的な役割を果たすのは贈与者であること、贈与の無償性およびその恵与的な性格を考慮するならば、契約の性質上、贈与者に目的物を指定する権利を付与し、それにより、贈与者が目的物を指定した後はその物を贈与の目的とするのが適切である。このことは、贈与の通常の当事者の意思にも合致している。
そこで、契約によって認められていると否とを問わず、種類物が贈与の目的とされた場合、債務者である贈与者は目的物を指定することができるとするのが、【II-11-7】である。
2【I-3-5】債務の目的物の特定
「物の給付を目的とする契約において、目的物を種類のみで指定した場合には、債務者が契約上義務づけられた、物の給付のために必要な行為を完了し、又は債務者が契約上認められている、給付すべき物の指定権を行使したときは、以後その物を債権の目的物とする。」
4 贈与者の保管義務
【II-11-8】贈与者の保管義務
贈与者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、目的物を保管する義務を負う。
〔関連条文〕新設
提案要旨
1 財産権の移転を目的とする贈与では、目的物の引渡しまでこれを適切に保管することは、受贈者が合意された内容の給付を受けるために非常に重要である。しかし、贈与は、取引行為 ではなく、しばしば親密な関係において締結される無償契約であるため、当事者が贈与者の保 管義務の有無およびその程度について合意により定めることは少ない。また、贈与が無償契約 であることから、その保管義務は、売主のように有償で財産権移転義務を負う債務者のそれと は注意義務の程度が異なる。したがって、贈与者の保管義務およびその程度をxxで規定する ことは、明示的な合意による規律を期待できない場合の多い贈与契約については必要である。
2 体的には、贈与契約の締結により目的物の所有権が受贈者に移転するとしても、贈与者は、贈与契約の無償性から、目的物を、善管注意義務ではなく、自己の財産に対するのと同一の注 意をもって保管する義務を負うものとする。
「自己の財産に対するのと同一の注意」は、無償寄託に関する民法 659 条に定められている。
「自己の財産に対するのと同一の注意」の意味については、学説上、注意義務の程度について、各人の注意能力を基準として注意義務の程度を考えるか、通常人の注意義務を基準として、退 任の物の保管に要する注意義務ではなく、自己の物の保管に要する注意義務で足りると考える かについて見解が分かれている。この点、少なくとも贈与については、その物が贈与者の財産 であり続けた場合と同様の注意義務以上の注意義務を贈与者に課すことは適切ではなく、他方、無償で目的物の権利移転を受ける受贈者は、贈与者の注意能力が通常人のそれよりも低いこと のリスクを引渡しまでの間に負担することは、不当とはいえないことから、贈与者その人の注 意能力を基準とすべきである。
このことを明示するために、新たな用語を作ることも考えられないではないが、「自己の財産に対するのと同一の注意」の解釈としてもそのように解する学説も主張されているところであり、従来も使われてきた表現を用いるのが適切であると考えられることから、本提案においても、「自己の財産に対するのと同一の注意」という表現を採用することにする。
3 なお、【II-11-8】では、贈与者の保管義務の程度が以上の理由により軽減されており、その結果、贈与者に義務違反があったときは、債務不履行の一般原則に基づき、受贈者は贈与者に対して損害賠償を請求しうることが前提となっている。言い換えれば、【II-11-9】で前提とさ
れている贈与者の免責は、この場合には適用されない。これを明示する必要があれば、【II-11-8】 (2)として、たとえば、「贈与者が前項の義務に違反した場合、【II-11-9】は適用されない」旨の規定をおくことも考えられる。
5 贈与者の債務不履行を理由とする損害賠償義務
【II-11-9】贈与の債務不履行を理由とする損害賠償
受贈者は、贈与者の債務不履行がその故意または重過失による場合に限り、贈与者に対し、債務不履行によって生じた損害の賠償を請求することができる。
〔関連条文〕新設
〔関連提案〕【I-7-1】3、【I-7-1-1】(2)
提案要旨
1 贈与者は、贈与契約により、財産権を受贈者に移転する義務を負い、贈与契約も契約である以上、その債務が履行されるべきことは他の契約と変わるところがない。したがって、贈与者が贈与を履行しない場合、受贈者は贈与者に対し、一般原則(【I-4-4】)に従って履行請求をすることができる。ただし、形式的に履行はされたが、目的物に瑕疵があった場合については、贈与の無償性を理由に免責が認められることについては、【II-11-11】を参照。
2 しかし、無償契約である贈与の当事者の通常の意思として、贈与者は、目的物を契約内容に従って給付できないリスクをすべて引き受けているわけではなく、また、贈与者にそのリスクをすべて負担させることが合理的とはいえない。そして、売買など、当事者が合理的な計算に基づいて行う契約においては、契約によって当事者がどのようなリスクを引き受けていたかは、当該契約の解釈によって決まることが多いが、贈与については、当事者の意思は明瞭ではないことも多い。
そこで、贈与に関しては、贈与者は契約内容にしたがった給付を行うべき義務が履行されなかった場合の損害賠償義務につき、贈与者を原則として免責するのが妥当である。
しかしながら、贈与者が故意または重過失により債務を履行しなかった場合まで、贈与者を免責すべきではない。
そこで、本提案では、贈与者の債務不履行が贈与者の故意または重過失による場合に限り、受贈者は、贈与者に対して損害賠償請求をなしうるものとする。このことは、贈与者が瑕疵ある目的物を給付した場合の損害賠償義務(【II-11-11】)についても、共通する。
3 【I-7-1】(債務不履行を理由とする損害賠償)
「債権者は、債務者に対し、債務不履行によって生じた損害の賠償を請求することができる。」
重過失という用語を用いるのは、ここでは、債務を履行しない債務者の故意と同視すべき主観的態様を問題としているからである。
3 もちろん、これは任意規定であるから、当事者が特段の合意により、贈与者に契約の一般原則と同様の責任を負わせる旨定めていた場合には、それによる。
6 他人の財産権の贈与
【II-11-10】他人の財産権の贈与
(1) 他人の財産権を目的とする贈与において、贈与者は、その財産権を自ら取得したときに限り、それを受贈者に移転する義務を負う。ただし、贈与者がその財産権を取得すべきことが合意されたときは、このかぎりでない。
(2) 前項本文の場合において、受贈者は、贈与契約が効力を生じた後、贈与の目的である財産を贈与者が取得するまでは、贈与を解除することができる。
〔関連条文〕新設
提案要旨
1 他人の財産権の贈与については、他人物売買の売主と異なり、贈与者は目的とされた財産権を他人から取得する義務を負わないのを原則とする。
他人の財産権が贈与の目的とされることは、贈与者が目的物の財産権が自己に帰属すると思っていたところ、そうではなかった場合に典型的に生じる。このとき、贈与者に目的物の財産権を取得すべき義務を負わせるのは、贈与の無償性からして過大な負担を負わせることになって適切ではない。もちろん、贈与者の意思表示について錯誤が成立する余地はあるが、むしろ、贈与の無償性およびその恵与的性格、さらに、贈与の無償性から導かれる、受贈者のもつべき期待の程度を考慮すると、一般的に、他人物の贈与については、贈与者の自己取得義務を否定するのが適切である。
2 その一方で、他人の財産を贈与する契約も有効であることに変わりがない。したがって、贈与者は、他人から目的物の所有権移転を受けたときは、それを贈与者に引き渡さなければならない。そこで、本提案では、原則として、他人の財産権が贈与の目的とされた場合、贈与者は自らその権利を取得する義務は負わないが、自らその権利を取得した場合には、それを受贈者に移転する義務を負うものとする(【II-11-10】(1)本文)。
3 もちろん、本提案によっても、贈与者が他人物を取得して受贈者に無償で引き渡すべきことをとくに合意していた場合は、通常の贈与者の債務に加えて、目的物を取得する義務を贈与者に課した契約となる(【II-11-10】(1)ただし書き)。実際には、種類物の贈与については、贈与者が調達義務を負う合意がなされたと解される場合が多いであろうと考えられる。
4 もっとも、他人の財産権が贈与の目的とされた場合に、贈与者が自己取得義務を負わない
とすると、受贈者の法的地位を非常に不安定にする。このことは、とりわけ、負担付贈与において問題となる。また、通常の贈与においても、受贈者は、贈与者が目的物を調達するかどうか分からないのであれば、他から同様の物を調達したいと思う場合にも、贈与者との関係が浮動的なままでは、不都合である。
そこで、他人の財産権が贈与の目的とされた場合において、贈与者がその権利の調達義務を負わないときは、受贈者は、契約が効力を生じた後贈与者がその財産権を取得するまでは、書面による場合でも贈与契約を解除できるものとする(【II-11-10】(2))。これは、不安定な地位から解放するために受贈者に認められる解除権である。
なお、このように、債務者に債務履行がない場合であっても、債権者に契約からの離脱を肯定すべき局面は、ほかにもありうる。したがって、そのような場合についてより包括的に規定するか、それとも、個別に【II-11-10】(2)として規定するのかは、今後の検討による。
7 目的物に瑕疵があるときの贈与者の責任
【II-11-11】目的物に瑕疵があるときの贈与者の責任民法 551 条をつぎのようにあらためる。
(1) 受贈者に給付された目的物に瑕疵があったときは、贈与者が目的物の瑕疵を知りながらそれを受贈者に告げずに引き渡した場合に限り、受贈者には以下の救済手段が認められるものとする。
1 瑕疵のない物の履行請求(代物請求、修補請求等による追完請求)
2 契約解除
3 損害賠償請求
(2) 【II-8-27】(a)ないし(c)、および(g)は、前項の場合にこれを準用する。
〔関連条文〕民法 551 条
〔関連提案〕【II-8-24】、【II-8-27】
提案要旨
1 贈与の担保責任について、現行民法 551 条は、贈与者は、贈与の目的である物または権利の瑕疵または不存在について責任を負わないことを原則とする。そのうえで、贈与者が知りながら受贈者に告げなかった瑕疵については、例外的に贈与者の責任を認めている。
現行民法の準則は、贈与の無償性から、担保責任を債務不履行と構成する改正案のもとでも、基本的に維持されるべきである。
2 担保責任を債務不履行責任と構成する改正提案のもとでは、551 条の準則は、次のように整理される。
まず、贈与も契約である以上、贈与者は契約の内容にしたがって、目的物の財産権を受贈者に移転する義務を負う。しかし、贈与が無償契約であることを考えれば、贈与者契約で定められた数量の目的物を受贈者に引き渡すことにより形式的に債務を履行したときは、目的物に瑕疵があったとしても、贈与者は債務不履行に基づく責任を免れるとすべきであるが、免責は、贈与者が故意またはこれと同視すべき重過失により債務を履行しなかった場合にまで及ぶべきではない。
これを目的物に瑕疵があった場合にあてはめると、贈与者が瑕疵の存在を知りつつ故意に瑕疵のある物を受贈者に給付した場合および、贈与者に、これと同視できるような重過失、すなわち、瑕疵の存在を知りつつそれを受贈者に告げることを怠った場合には、贈与者を免責すべきではない。無償契約であっても、故意またはこれと同視すべき態様で債務を履行しないことは、xxxxの原則からして許されないからである。そして、瑕疵の存在を知っていた贈与者が受贈者にそれを告げることを失念していたとしても、これを引渡し時までに受贈者に告げずに目的物を給付することは、故意に瑕疵ある物を給付するのと同視すべき重過失があるといえる。受贈者にとっては、いくら無償契約とはいえ、契約に適合しない物を押しつけられるいわれはなく、贈与者が、瑕疵を知りながらそれを告げずに、受贈者が目的物をそれでも受け取るかどうか選択する機会を奪うことは、許されない。
以上のように、【II-11-11】では、551 条同様、贈与者は目的物の瑕疵について責任を負わないことを原則とする。551 条ただし書きについても結論は同じであり、それは、担保責任を債務不履行責任と構成する改正案においては、贈与者の債務不履行責任が免責されない場合と位置づけられる。すなわち、贈与者が瑕疵を知りながらそれを受贈者に告げずに瑕疵ある物を給付したときは、贈与者があえて告げなかった場合には故意の債務不履行として、また、そうではなくてもそれと同視すべき重過失があったものとして、債務不履行責任の免責は排除される。
3 「瑕疵」の定義については、売買に関する【II-8-24】4 が贈与にもあてはまるものとする。そして、瑕疵にあたるかどうかの判断に際しては、当該契約が贈与契約であることも、【II-8-24】の「契約の趣旨」として考慮される。
4 贈与者に対する債務不履行責任の免責が排除された場合、受贈者に与えられる救済手段は
、債務不履行の一般理論による。具体的には、瑕疵のない物の履行請求(代物請求、修補請求等による追完請求)、契約解除、および損害賠償請求である。救済手段の相互の関係については、売買に関する【II-8-27】5が贈与にも準用されるものとする。
4 【II-8-24】
「目的物の瑕疵とは、目的物が備えるべき性能・品質・数量を備えていない場合等、目的物が、契約当事者の合意または契約の趣旨に照らしてあるべき状態と一致していない状態にあることをいう。」
5 【II-8-27】
各救済手段の認められる要件と相互の関係は、以下のとおりとする。
(a) (1)の代物請求は、目的物の性質に反する場合には認められない。
(b) (1)の修補請求は、修補に過分の費用が必要となる場合には認められない。
(c) (1)において、代物請求と修補請求のいずれも可能である場合、買主はその意思にしたがって、いずれの権利を行使するかを選択することができる。
この場合において、買主の修補請求に対し、売主は代物を給付することによって修補を免れることができる。
また、買主の代物請求に対し、瑕疵の程度が軽微であり、修補が容易であり、かつ、修補が相当期間内に可能である場合には、修補をこの期間内に行うことによって代物給付を免れることができる。
5 ところで、現行民法 551 条 2 項は、負担付贈与について、贈与者は負担の限度において、売主と同じ担保責任を負う旨定める。同項の趣旨は、必ずしも明確でないが、贈与によって受贈者に損害を与えるべきではないという贈与の無償性にあり、贈与者の債務と受贈者の負担との対価関係を認めたものではないとされている。そうだとすれば、同じことは、目的物に瑕疵があった場合に限らず、一般的に、受贈者が受ける利益の価額と負担の価額との関係について問題になるはずである。学説においても、出捐の価額が負担の価額に満たないすべての場合に同項を類推適用すべきであるといわれている。
そこで、本提案では、その旨の規定を負担付贈与について定めるとともに(後掲【II-11-14】)、
551 条 2 項はこれを削除する。
8 解除と受贈者の返還義務
【II-11-12】解除と受贈者の返還義務
贈与が解除されたときは、受贈者は、解除時に利益を受けている限度において返還義務を負う。
〔関連条文〕新設
〔関連提案〕【I-8-2】
提案要旨
解除の効果に関する一般原則によれば、契約の一部をすでに履行している当事者は、相手方に対して、原状回復を請求することができる(【I-8-2】(1))。そして、目的物が滅失又は損傷している場合には、当事者は目的物の価額または損傷による減価分については償還義務を負う
(【I-8-2】(3))。
しかし、片務・無償契約である贈与が解除された場合に、贈与者の債務と対価関係に立つ債 務を負わない受贈者に、一般原則と同様の返還義務を負わせるのは、無償で利益を受けること を前提として契約を締結した受贈者に過大な負担を課すものであって妥当ではない。受贈者は、贈与の目的物の所有権を完全に取得しており、本来、解除がされるまでは目的物を自由に処分 する権限を有するのであるから、解除時に受けていた利益の限度で返還義務を負うにとどまる と解すべきである。
そこで、その旨を規定するのが、【II-11-12】の趣旨である。
(g) (1)の追完請求が可能な場合、(4)の救済手段は、買主が相当期間を定めて(1)の追完請求をし、その期間が徒過したときに行使することができる。ただし、期間が徒過したときは、売主は追完請求の時点から損害賠償債務について遅滞に陥るものとする。
VI 定期贈与
【II-11-13】定期贈与の当事者死亡による終了現行 552 条を維持する。
提案要旨
現行民法 552 条は、継続的贈与について、当事者の一方が死亡したときは、相続人はその権利を承継しないことを通常の当事者の意思として定めたものである。使用貸借と同様、定期贈与の継続的効力が、当事者間の特別な人的関係によって支えられていることに基づく現行 552条は、このまま維持するのが適切である。
1 回的給付を目的とする贈与についても、当事者が特別な人的関係に基づいて贈与を行い、その趣旨から、贈与が履行される前に受贈者が死亡した場合に、贈与は相続人に承継されるかどうかが問題となりうることがないわけではない。しかしながら、1 回的給付を目的とする贈与の場合には、契約の趣旨により相続人への承継を認めるべきかどうかが分かれうるので、本提案では、継続的な贈与についてのみ規定をおくこととし、1 回的な給付を目的とする贈与については、契約の解釈に委ねることとする。
VII 負担付贈与
【II-11-14】負担付贈与
「負担付贈与の受贈者は、贈与によって受けた利益の価額を超えない限度で負担を負う。」
〔関連条文〕民法 551 条 2 項
【II-11-15】
553 条は、削除する。
【II-11-16】贈与者の先履行義務
「負担付贈与の受贈者は、贈与者が受贈者に対して負担の履行を請求したとき、贈与者がその債務を履行していないことを理由に、負担の履行を拒絶することができる。」
〔関連条文〕民法 553 条
提案要旨
1 負担付贈与における負担の性質について、学説は、負担が贈与者の出捐より小さいことを要求しているものの、負担が贈与の目的物の価値を下回る場合を広く負担付贈与とする見解が少なくない。このような見解によれば、負担付贈与は、負担と贈与者の義務とに対価性はあるが、対価の均衡が取れていない契約を広く含みうる。
しかし、負担付贈与を、贈与契約の一類型に位置づけるのであれば、贈与である以上、負担がついていても、全体として片務・無償契約であるといえなければならない。その意味では、負担付贈与において、受贈者が負担を負わなければ贈与はなされなかったという原因関係が存在しても負担付贈与であることを妨げないが、相互の出捐が対価関係にない場合でなければ負担付贈与にはならない。贈与者の財産権移転義務と受贈者の負担が対価関係に立つ場合には、それは贈与ではなく、受贈者の負担が金銭の支払であれば売買、財産権の移転であれば交換、役務の提供であれば、無名契約となる。
したがって、たとえば、家族財産の贈与について、受贈者が贈与者を扶養する、あるいは介護するという負担が付されていた場合であっても、当事者の意思として、双方の債務に対価関係が認められる場合には、贈与とは別の双務・有償契約と構成したうえで、該当する規定を適
用すべきである。
そこで、本提案では、負担が贈与者の債務と対価関係に立たないことを表す意味で、受贈者の債務を「負担」と表現する。負担とは、贈与されたものの使途の制限も含め、広く受贈者が負う債務とする(【II-11-14】)。
2 負担付贈与は、特殊の贈与とはいえ贈与の一類型であり、贈与と負担とは対価関係にないのであるから、負担が贈与によって受贈者が受ける利益を超えることはない。
具体的には、受贈者は、負担の履行前であれば、贈与の価額を超える負担の履行を拒絶することができ、履行後であれば、贈与者に対し、差額につき、不当利得返還請求ができる。
3 負担付贈与が片務・無償契約であることを前提とする本提案においては、つぎに、負担付贈与にその性質に反しない限り双務契約の規定を準用するという現行民法 553 条が適切かどうかが問題となる。
双務契約の負担付贈与への準用については、学説にも、双務契約の規定のうち、双方の債務関係が対価関係に立つことを前提とする規定については、現行法でも「その性質に反しない」とはいえないとして、準用を否定する見解がある。たとえば、同時履行の抗弁権、危険負担がそれにあたるとされている。これに対して、解除については、準用に異論はない。
このうち、改正提案においては、危険負担制度は廃止が予定され、解除については、片務契約も含め、契約からの離脱を認める制度として構想されている。それによれば、負担付贈与についても、贈与者の義務および受贈者の負担のそれぞれについて、解除原因の有無を問題にすればよいことになる。
4 これに対して、同時履行の抗弁権については、受贈者からの贈与の請求に対して、贈与者が負担との同時履行を主張することは、負担が贈与者の債務と対価関係に立たないことから適切ではないが、逆の場合は、同じではない。というのも、負担付贈与において、受贈者が、贈与を受けられるからこそ負担を負ったという関係にあることは否定できないからである。したがって、受贈者は、特段の合意のない限り、贈与者が自らの債務を履行せずに受贈者に対して負担の履行を請求してきた場合には、贈与者が債務を履行しない限り負担を履行しない旨の抗弁を主張することができる。
5 双務契約の規定の準用が問題となるのは、主として上の 3 つであるが、それ以外に、双務契約の規定を負担付贈与に適用すべき場合があれば、個別的に準用すれば足り、一般的に準用する規定は負担付贈与の性質に反し、とりわけ、改正提案を前提にすれば、不必要である。
したがって、現行 553 条は削除し、負担付贈与の受贈者による先履行の抗弁を認めるのが、
【II-11-15】および【II-11-16】の趣旨である。
5 負担付贈与において、贈与の履行と負担の履行は対価関係に立たないが、それぞれの債務について、履行がなされなかったときは、債務不履行の一般理論が適用される。
VIII 死因贈与
1 死因贈与の成立要件
【II-11-17】死因贈与の成立要件
(1) 死因贈与は、xx証書または自筆証書によってしなければならない。
(2) 自筆証書によって死因贈与をするには、贈与者が、契約内容の全文、日付および氏名を自署して押印し、受贈者が自署して押印しなければならない。
(3) 現行民法 968 条 2 項は、前項の場合に準用する。
〔関連条文〕新設
提案要旨
死因贈与は契約であるが、遺贈と同じく死後処分であることから、当事者意思を明確にし、紛争を予防するため、死因贈与契約はxx証書の作成または贈与者による内容の自書および当事者の署名・押印を効力要件とする。
2 遺贈の規定の準用
(1) 死因贈与の能力
【II-11-18】死因贈与の能力
遺言能力に関する現行 961 条は、死因贈与に準用しない。
〔関連条文〕民法 554 条
提案要旨
死因贈与は契約であることを理由として、能力については、遺贈が単独行為に関する規定であるからという理由で、遺贈の規定(961 条)は準用されないというのが多数説である。
また、本提案では、死因贈与は遺贈と異なり、自由に撤回できないことを前提とする
(【II-11-20】)。このように、死因贈与は撤回できないときには、契約であるという形式的な理由のみならず、実質的にも、死因贈与の能力については、契約と同様に考えることが適切である。
(2) 受贈者の死亡
【II-11-19】死因贈与の受贈者の死亡 現行 994 条は、死因贈与に準用する。
ただし、当事者が反対の意思を表示していた場合には、それに従う。
〔関連条文〕民法 554 条、994 条
提案要旨
死因贈与については、遺贈と同じく、贈与契約締結後、その効力が生じるまでに受贈者が死亡することが十分ありうる。そして、死因贈与は、受贈者個人に向けられている点で、遺贈と同じである。したがって、死因贈与において、受贈者が贈与者の生前に死亡した場合、受贈者の相続人が受贈者の地位を承継すべきではなく、死因贈与はその効力を生じないとすべきである。現行民法 994 条は、死因贈与にも準用する。
994 条 1 項は、あくまで当事者の通常の意思を規定した任意規定であるので、当事者が反対の意思を表示していた場合には、それに従う。
(3) 死因贈与の撤回
【II-11-20】死因贈与の撤回
遺言の撤回および取消しに関する遺言の規定は、死因贈与に準用しない。
死因贈与の贈与者に対し、受贈者が【II-11-4】(忘恩行為による解除)に該当する行為をしたときは、【II-11-5】(解除期間の制限)を準用する。
〔関連条文〕民法 554 条、1022 条、1023 条
〔関連提案〕【II-11-4】、【II-11-5】
提案要旨遺贈はいつでも自由に撤回することができる。
これに対して、死因贈与についても同様とすべきかどうかについて、判例は、最判昭 47・5・ 25 民集 26 巻 4 号 805 頁がこれを肯定するが、学説の議論は分かれている。
死因贈与が死後の財産処分であることを強調する見解は、遺贈と同様の方式による撤回を肯定する。しかし、遺贈が遺言によって単独でなされるのと異なり、死因贈与は、贈与者と受贈者との合意によって成立し、両当事者とくに贈与者は契約の拘束力に服し、また、受贈者にも
すでに成立した将来の贈与に対する期待が生じる。したがって、遺言のように、死因贈与も自由に撤回できるとするわけにはいかない。
そこで、本提案は、撤回および取消しに関しては死因贈与に遺贈の規定を準用することはせず、贈与と同じ規律に服することとする。
死因贈与の撤回可能性について、贈与と同様に扱う場合、具体的には、忘恩行為による贈与の撤回が問題となる。そして、死因贈与についても、忘恩行為を理由とする契約の解消を認めることが妥当であるので、忘恩行為を理由とする解除の規定を、死因贈与にも適用することにする。遺贈については、欠格事由が 891 条によって定められているが、忘恩行為による撤回は、これより広い。
死因贈与については、贈与者が死亡するまで契約は効力を生じないので、用語としては、死因贈与の解除ではなく、撤回の語を用いることにする。
これに対して、死因贈与はxx証書または自筆証書によるので、書面によらない贈与の撤回は問題にはならない。
(4) 死因贈与における相続人の義務
【II-11-21】死因贈与義務者の債務
死因贈与によって生じる債務の内容およびその効力については、遺贈の規定を準用せず、贈与の規定による。
〔関連条文〕民法 554 条、991 条ないし 993 条、995 条ないし 1001 条
提案要旨
死因贈与は、贈与を履行する贈与者の相続人が、受贈者と相続財産の配分をめぐって利害の対立する関係にある点において、生前贈与とは状況が異なり、むしろ遺贈と近い。
しかし、現行民法の遺贈義務者の義務内容は、必ずしも、遺贈が死後処分であり、生前贈与とは異なる状況が当事者間において生じることを考慮して規定されているとはいえない。他方、現行民法の遺贈義務者の義務内容は、改正民法の方向性と整合的かどうかについても問題がある。
加えて、死因贈与において、贈与者の債務の内容および効果を贈与者と別異にする必要は、受贈者と贈与を履行する相続人の利害対立の点を除けばとくに存在しない。したがって、現在の状況においては、死因贈与における贈与者の債務の内容および効果については、遺贈の規定を準用せず、贈与の規定によるのが適切である。
IX 無償契約への準用
【II-11-22】無償契約への準用
贈与に関する規定は、その性質に反しない限り、無償契約に準用する。
提案要旨
1 贈与契約には、無償契約に特有の規律が多く存在する。そして、これらの規律は、財産権移転型の贈与のみならず、他の無償契約にも妥当しうるものである。
たとえば、書面によらない契約の解除、忘恩行為を理由とする解除については、使用貸借や、さらには債務免除を契約とするなどにもあてはまる可能性がある。また、これらの無償契約が負担を伴ってなされた場合の処理についても、負担付贈与の規定を準用することが考えられる。また、債務者の債務不履行の場合の責任についても、贈与契約において贈与者の責任が軽減される理由は、その無償性に由来するものであり、同様のことは、委任など特別な場合は別として、他の無償契約についても原則として妥当しうる。
2 さらに、贈与の規定は、典型契約として採用されていない無償契約についてのモデルとしての役割をもちうる。というのも、契約法の一般原則は、有償契約を主として念頭においているが、これを無償契約にそのまま適用することは必ずしも適切ではないからである。債権法の規定についても、同様のことがいえる。したがって、典型契約として採用されていない無償契約については、どのような規律がなされるべきかを決めるにあたり、出発点となる枠組みが必要となる。
同様のことは、債務免除や、無償での担保権設定契約、保証契約など、贈与契約と社会的に類似した機能を果たす無償行為についてもあてはまる。
3 そこで、本提案では、贈与の規定を、他の無償契約についても、その性質に反しない限り準用することにより、非典型の無償契約に対する手当をすることとする。
もちろん、それぞれの契約の性質によって、贈与の規定が準用されるのが不都合な場合は当然存在するから、あくまで、贈与契約の準用は、当該契約の「性質に反しない限り」においてなされるものとする。