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公契約条例をめぐる全国の動向
公益社団法人 神奈川県地方自治研究センター
xx研究員 xx xx
公契約条例をめぐる動向については、本誌 2013 年 12 月号(144 号)で報告したが、その後、 2014 年 3 月にxxx区(xxx)、xx市(兵庫県)で新たに条例が成立した。また、「公契約基本条例」が 3 月にxx県、7 月に奈良県で成立している。さらに条例制定に向けた新たな動きが見られる。一方、山形市では公契約条例が否決された。本誌では、全国の公契約条例制定の現状と課題について報告する。
1.全国の動向
(1)山形市
山形県山形市(xxxx市長・3 期目)では、2013 年 9 月市議会に公契約条例を提案したが、同議会で採決にいたらず継続となり、その後の議会においても同様の扱いとなっていた。2014 年 6 月 27 日の市議会本会議において採決が行われ、賛成 15、反対 17 で否決された1。東北地方で初の公契約条例の成立が期待されていたが、残念な結果となった。
この背景には、建設業界が条例に強く反対し、この姿勢が変わらなかったことが挙げられる。市側としては、途中で条例の修正(「元請の責任免除」など)を行うなど対応したが、業界側の態度を変えることができなかった。
(2)xx市
埼玉県xx市(xxxx市長・1 期目)は、 2014 年 6 月 3 日から公契約基本条例について
「パブリックコメント」を行っている。2014
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1 退席者 2 名
年 9 月議会に条例案を提案する予定と聞いている。2010 年に市長に就任したxx市長は、市長選挙のマニフェストに「公契約条例」の制定をうたい、2013 年 4 月に庁内に「xx市公契約条例検討会」を設置し、検討を重ねてきた。今後の動向に注目したい。
(3)xxx区
xxxxxx区(xxxx区長・4 期目)では、2014 年 3 月 19 日の区議会で公契約条例が成立した。2014 年 2 月 13 日の区議会企画総務委員会に初めて条例案が提案され、3 月 19 日には採決という「早さ」で成立した。
しかし、条例案の採択にあたっては、「区側から全てに明快な答弁が行われたという状況ではなかった。また、委員会では事前の情報提供や説明が不十分であった点、提案までの手順手続きについても課題があったことについて、区側は謝罪して今後の調査研究や検討すべき課題などを議会と相談しながら施行するとした本会議報告を受けての採択」となった(連合東京事務局長談話 2014 年 3 月 20
日」)」という異例な対応となった。条例制定にあたっては、条例の内容・運用方法・課題などについて議会、関係業界、労働組合、庁内などの合意形成が必要であることはいうまでもない。xxx区の条例制定については、条例の成立を急ぐ余り、拙速にことが進められた感が否めない。
今後は、2014 年 10 月 1 日の施行日までに、条例に基づいて設置された「xxx区公契約審議会」において規則の整備、契約に盛り込む内容等について十分に審議され、「下請労働者等の賃金が確保されること」など労働者側が求めている諸課題についてはっきりと方向を示し、今後「条例の不備」が指摘されることのないよう期待したい。
また、条例の周知・理解についても関係者はもとより区民にも十分に行われるよう心してほしい。
【条例の要点】
①条例の適用
ア 建設工事 5,000 万円以上イ 業務委託 1,000 万円以上ウ 1,000 万円以上の指定管理
②労働報酬下限額 審議会で審議中
③労働報酬審議会
委員 6 人(学識者 2 名、事業者委員 2 名、
労働者委員 2 名)
(4)xxxx
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xxxxxxx(xxxx区長・1 期目)では、2011 年に外部委員による「公契約検討会」を設置し、条例の検討を重ね、2013 年 2月に「中間報告」、2013 年 8 月に「報告書」が出された。内容は、公契約条例について賛否がわかれ、両論が併記されたものとなった。その後、「条例素案」が出されたが、方針が明確にならなかった。現在、9 月議会に向けて公契約条例案の検討がされていると聞いてい
る。
(5)加賀市
石川県加賀市(xxx市長・1 期目)では、 2014 年 3 月 10 日市議会において市側から「公契約条例の制定に向けて取り組む。2014 年度制定、2015 年度施行」との答弁がされた。xx市長は、2013 年 10 月 6 日の市長選挙で初当選を果たしたが、公契約条例についてそれまで言及されておらず、庁内は、急きょ条例
制定に向けて準備を行っていると聞いている。注目していきたい。
(6)xx県
長野県(xxxx知事・2 期目)では、「xx県の契約に関する条例」が 2014 年 3 月 14日に成立し、4 月 1 日に施行された。内容は、
「基本条例」である。県の説明資料によれば
「条例の特色」として、以下の点を挙げている。条例にもとづいて策定される「取組方針」は、7 月 13 日に発足したxx県契約審議会の意見を聞き、おおむね 9 月末頃に策定されるとなっている。
【事業者の観点】
①県内の中小企業者の受注機会の確保が図られること
②県民の安全・安心のために活動する事業者の育成や専門的な技術が継承されること
【労働者の観点】
①地域における雇用の確保が図られること
②労働者の適正な賃金水準などの労働環境が整備されること
【県民の観点】
①県民の安全・安心のために活動する事業者が育成されること
②環境に配慮した事業活動が行われること
③障害者の雇用の促進及び男女共同参画社会の形成に資する取組が行われること
(7)豊橋市
愛知県豊橋市(xxxx市長・2 期目)では、2013 年 4 月 22 日に外部委員による「公契約の在り方に関する懇談会」が設置され、 2014 年 3 月 25 日に報告書が提出された。現在のところ条例化の動きは明らかではない。
(8)四日市市
三重県四日市市(xxxx市長・2 期目)では、2013 年 3 月 6 日に外部委員による「公契約制度検討委員会」が設置された。2014 年 4 月 21 日から「xxxx契約条例骨子案」についてパブリックコメントが実施された。内容は、いわゆる基本条例であるが、「8 検討公契約条例の施行状況の検討 【解説】条例制定後も、より良い条例にしていくために、施行の状況を勘案しつつ、公契約に従事する労働者の適正な労働条件の確保並びに公契約の質の向上を図るため、公契約の受注者等が労働者に対して支払わなければならない賃金の下限の額(労働報酬下限額)を規定すること等、その他必要な施策について検討を加えることを定めます。」とある。今後、この項が活かされることを期待したい。
(9)xx市
兵庫県xx市(xxxx市長・3 期目)では、2014 年 3 月 28 日に条例が成立し、7 月 1日から施行している。
【条例の要点】
①条例の適用
ア 建設工事 5,000 万円以上イ 業務委託 1,000 万円以上
・庁舎その他の建物における清掃、警備、駐車場管理、受付、案内又は電話交換
・道路、公園その他の施設の清掃に関する契約
・給食の調理に関する契約
ウ 1,000 万円以上の指定管理
②労働報酬下限額ア 建設工事
公共工事設計労務単価 90%以上イ 業務委託
高卒初任給 90%以上 820 円
※条例に規定し、改定の際に議会の議決が必要となる(第 5 条第 2 項)
③労働報酬審議会
労働報酬下限額について意見を聴くため委員 6 人
(10)xx市
兵庫県xx市(xxxx市長・2 期目)では、2014 年 6 月 18 日の市議会において、「2015度に公契約条例の制定をめざす」との答弁があった。今後の取組に注目したい。
(11)奈良県
奈良県(xxxx知事・2 期目)では、2014年 7 月 4 日に「奈良xx契約条例」が成立し
た。施行は、2015 年 4 月 1 日。-「2.奈良県条例の成立」参照-
(12)xx市
徳島県xx市(xxxx市長・1 期目)では、2013 年 7 月 21 日に「公契約条例」の制定を掲げたxx市長が当選した。今後の推進に期待したい。
(13)xx市
香川県xx市(xxx市長・1 期目)では、 2013 年 6 月 13 日の市議会で「『公契約条例』について検討する」との議会答弁があった。今後の推進に期待したい。
2.奈良県条例の成立
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奈良xx契約条例は「基本条例」である。当局の資料によれば、以下のような内容とな
っている。
【基本方針】
[1]社会的価値の評価
公契約の相手方の選定にあたっては、適正な労働条件の確保等社会的な価値の実現および向上に対する寄与度を評価する。
○評価項目の種類
①社会保険の加入、②障害者雇用率、③「奈良県社員・シャイン職場づくり推進企業」登録、④保護観察者雇用
○評価時点と評価項目
業務委託・指定管理
建設工事
業者格付け時/①~④
特定公契約入札時(総合評価方式等)/②
~④
[2]法令の遵守
公契約の履行にあたっては、受注者及び下請負者に対し、最低賃金・社会保険加入その他の法令の遵守を求める。
【特定公契約とは】
・特定公契約の範囲
建設工事 予定価格 3 億円以上
業務委託 予定価格 3,000 万円以上指定管理 予定価格 3,000 万円以上
・遵守事項(契約書に明記)
○最低賃金、社会保険加入の遵守
○条例に基づく諸手続き
①特定公契約履行責任者(事務所又は現場の管理責任者等)の選任・報告
②下請負者への周知及び指導
③労働者への周知(・特定公契約に係る業 務であること・雇用主は最低賃金・社会 保険加入の遵守を約していること・県や 監督官庁等に疑義の申し出ができること)
④定期の支払賃金・社会保険加入状況の報告
⑤疑義がある場合の報告
⑥立入調査への協力
⑦必要な対応の指示・報告
※受注者は、すべての下請から「誓約書」を徴収・保管
「誓約書内容」
・特定公契約の業務であることの了知
・最低賃金、社会保険加入の遵守と遵守状況の定期報告
・労働者から問合せへの対応
・指示された報告や県の立入調査への協力
・下請業者への特定公契約の業務であることの説明と遵守指導
・下請負業者からの誓約書の徴収と写しの提出
【違反措置】
・賃金支払・社会保険加入状況等の報告義務違反
・立入調査への協力義務違反
・必要な対応を講じることの指示等に対する違反
→受注者:過料・入札参加停止
→下請負者:入札参加停止
3.設計労務単価の引き上げなど国の改革の動き
国は、2013 年、2014 年の公共工事設計労務単価2の改定にあたって、1997 年頃をピークとして以降下がり続けてきた単価を 2 年連続して大幅に引き上げた。しかも、2014 年度については、例年よりも前倒しで 2 月から適用することを求めている。また、改定にあたって、建設業界を取り巻く基本認識を明らかにし、自治体や建設業界に対して「改革」課題を示している。
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2 公共工事設計労務単価とは、国交省・農林水産省が公共工事の発注にあたり、予定価格を積算するための単価。毎年 10 月に建設技能労働者約 20 万人を対象に賃金調査を実施して決定。 51 職種・都道府県別に公表。
(1)2 年連続の大幅な設計労務単価の引き上げ
2013 年度の設計労務単価は、全国平均で
15.1%、東日本大震災被災 3 県(岩手、宮城、福島)では 20.1%と大幅に上昇した。また、 2014 年度は、全国平均で 7.1%、被災 3 県で
8.1%の引き上げとなった。2014 年度は、「平成26 年2 月から適用」と前倒し適用となった。
[設計労務単価の引き上げ状況] 2013 年 2014 年 合計
全国平均 15.1% 7.1% 22.2%被災 3 県 20.1% 8.1% 28.2%
(2)2013 年度設計労務単価改定のポイントと関係団体あての要請事項(概要)
[1]設計労務単価改定のポイント
Ⅰ. 基本的認識
長引く労働条件の悪化、若年者の減少
○建設投資の減少に伴うダンピング受注の激化と、下請へのしわ寄せによって、技能労働者の賃金が低下。
○社会保険料も適正に支払われず、法令上の義務があるのに最低限の福利厚生すら確保されていない企業が多数存在。
構造的な労働者不足が顕在化、今後も続く
労働需給のひっ迫
○その結果、ここに来て、労働需給のひっ迫傾向が顕在化。入札不調も各地で増加。
○この傾向は一時的なものではない。いま、適切な対策を講じなければ、近い将来、災害対応やインフラの維持・更新に支障を及ぼすおそれ。
Ⅱ. 単価設定のポイント
①技能労働者の減少等に伴う労働市場の実勢価格を適切に反映
②社会保険への加入徹底の観点から、必要な法定福利費相当額を反映
③被災地等の入札不調の増加に応じ機動的
に単価を引き上げる措置
[2]関係団体あて要請-技能労働者への適切な賃金水準の確保に係る要請
【建設業団体あて】
(1)技能労働者への適切な水準の賃金支払
・適切な価格での下請契約の締結
・労働者への適切な水準の賃金支払を元請から下請に要請
・雇用する技能労働者の賃金水準の引上げ
(2)社会保険等への加入徹底
・元請は、法定福利費相当額を適切に含んだ額による下請契約の締結
・下請は、技能労働者に法定福利費相当額を適切に含んだ賃金を支払い、労働者を社会保険に加入させる。
(3)若年入職者の積極的な確保
賃金引上げと社会保険への加入により、若年入職者を積極的に確保
(4)ダンピング受注の排除
【公共発注者あて】
(1)平成 25 年度公共工事設計労務単価の早期適用
(2)ダンピング受注の排除
低入札価格調査制度及び最低制限価格制度の適切な活用
(3)法定福利費の適切な支払と社会保険等への加入徹底に関する指導
【民間発注者あて】
(1)労務費の上昇傾向を踏まえた工事発注これ以上の技能労働者の減少を招かない
よう、必要経費を含んだ適正な価格による工事発注
(2)社会保険料相当額の支払
労働者負担分及び事業主負担分の法定福利費を適正に含んだ額による工事発注
(3)2014 年度設計労務単価改定のポイント
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Ⅰ. 単価設定のポイント
①最近の技能労働者の不足等に伴う労働市場の実勢価格を適切・迅速に反映(例年の 4 月改定を 2 月に前倒し)
②社会保険への加入徹底の観点から、必要な法定福利費相当額を反映
Ⅱ. 関係団体宛要請-技能労働者の処遇改善・若年入職者増加に向けた関係者への要請
-略-(2013 年度とほぼ同内容)
Ⅲ.今後の取組み
(1)技能労働者の賃金水準の実態を注視
(2)国交省直轄事業の元請・一次下請については、社会保険加入企業に限る方向で検討。地方公共団体等、他の公共工事発注者にも、同様の検討を要請
4.現場賃金はどうなっているか
(1)建設労働者の不足と入札不調
2013 年 7 月以降の新聞記事をみると、公共工事が急激に拡大しているが、資材の高騰と人材不足のために公共工事の入札が不調となっているとの報道が目立っている。
「入札不調、生活に影 首都圏の保育所・高齢施設 計画延期や凍結続々 資材高騰などが深刻(2013 年 12 月 12 日・日本経済新聞)」
「増える工事 減る若手職人 国交省賃
金・社会保険改善促す(2014 年 2 月 3 日・読売新聞)」
「人手不足需要急増が拍車 『入札不調』深刻化 復興事業、五輪に懸念の声 復興住宅の完成に遅れ 入札の不調全国に拡大
(2014 年 2 月 25 日・神奈川新聞)」
「建設職人不足暮らしに影 保育園、プレハブで開園 公共施設の計画白紙に(2014 年 7月 4 日・日本経済新聞夕刊)」
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等々、深刻な人手不足の状況とその影響についての報道が増えている。
(2)労働者に「賃上げ効果」が及んでいない
こうした状況の中で、あたかも建設技能者 の賃金が上がっているように言われているが、
「被災地細る下請-夜通し作業 賃金不払い宮城相談 7 割増(2014 年 5 月 10 日・毎日新聞夕刊)」といった報道にみられるように業者の中には、実際には仕事をせずに「利益だけを取り、他の事業者に丸投げする企業」や、
「社会保険にも加入しない企業」などが存在する。xx総連は、設計労務単価は上がっているといってもピーク時の水準に回復していない。また、いわゆる「ピンハネ業者」もおり、労働者全体に賃上げが及んでいるわけではない、としている。
5.公契約条例こそ最優先すべき
国の設計労務単価の引き上げや、いくつかの「改革」方針を受けて、自治体や議会の中から「公契約条例は、国の施策の効果を見定める必要があり、急がないでも良い」とする声も聞かれる。しかし、実際には労働者の賃上げに確実に結びついているわけではない。また、いわゆる「ピンハネ」や「社会保険 にも加入しない」企業の問題も解消していない。むしろ、発注額が増える中でこうした企業が生き延びているともいわれている。国や自治体は、まず、労働者の賃金をしっかりと確保させる公契約法や条例を制定させること
こそ急ぐべきである。