1.X1 ~ X4はいずれも実演家グループ「FEST VAINQUEUR」
◆事案の概要
1.X1 ~ X4はいずれも実演家グループ「FEST VAINQUEUR」
(以下、本件グループ)のメンバーであり、Yのマネジメント下でアーティスト活動をしていた。
Yは、複数のアーティストが所属するマネジメント会社である。
2.X1およびX2は、訴外2名のメンバーとともに、平成22年8月1日、Yとの間で、本件グループに係る専属契約を締結し(以下、本件専属契約)、Yのマネジメントを受けながらアーティスト活動をしていた。X3およびX4は、平成24年
7月、本件グループに加入した。
XらとYは同月14日、本件専属契約を更新し、本件専属契約はその後おおむね1年ないし3年ごとに延長継続された。この間、訴外2名のメンバーは本件グループを脱退した。
XらとYは平成30年1月1日付専属契約書(以下、本件専属契約書)により、以下の約定で本件専属契約を更新した。
・XらはYに専属する実演家として実演活動をし、YはXらの実演のための交渉およびマネジメント等をする(本件専属契約書1、3条)。
・Yは本件専属契約期間中、広告・宣伝および販売促進のため、Xらの芸名、本名、写真、肖像等、その他の人格的権利をYの判断により自由に無償で利用開発することができる(本件専属契約書5条)。
なお、本件専属契約書には、本件専属契約終了後のXらの芸名、本名、写真、肖像等、その他の人格的権利の取り扱いに関する規定は存在しない。
Yは本件専属契約期間中、Xらの承諾を得たうえで、Yの運営するウェブサイト(以下、本件Yサイト)に本件グルー
プのメンバーや活動内容等を紹介する内容のウェブページを作成し、Xらの肖像写真およびXらの肖像をイラスト化した画像を掲載していた。
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肖像xxおよびパブリシティ権の侵害がともに認められ、パブリシティ権侵害の損害賠償額算定において著作xx114条3項が類推適用された事例
―FEST VAINQUEURメンバー事件―
知財高判令和5年9月13日令和5年(ネ)10025号裁判所ウェブサイト
近畿大学 教授 xxx x
本件Yサイトには、Xらの肖像、イラスト、グループ名および芸名(図案化したロゴを含む)を転写ないし記載したグッズを販売するウェブサイト(以下、本件グッズ販売サイト)および本件グループのファンクラブ専用ウェブサイト(以下、本件ファンクラブサイト)へのリンクが設けられていた(以上を総称して「本件利用行為」)。
3.XらはYに対して平成31年4月9日または10日付の本件専属契約に係る解除通知書を送付し、本件専属契約は令和元年7月13日をもって終了した。
XらはYに対し、平成31年4月24日付書面により、令和元年7月14日までに、Yサイトを含む一切の媒体(本件ファンクラブサイトも含む)から本件グループ名ならびにXらの肖像および芸名等(以下、Xらの肖像等)を削除するよう求めた。
本件ファンクラブサイトの運営等を担当している訴外会社担当者は、令和元年6月2日、ファンクラブは会員の会費等を当該会員が契約している携帯電話会社の電話料金等と合わせて支払う仕組みを利用しているため、ウェブサイト閉鎖までには次のようなスケジュールになるとのメールをX1へ送信した。
・令和元年6月中 各携帯電話会社に終了申請後受理
・同年8月末 課金停止(現会員向けウェブサイト無料化)
・同年9月末 完全閉鎖
YはXらに対し、令和元年6月12日付書面により、①本件ファンクラブサイト閉鎖スケジュールについて、同月中に
各携帯電話会社に終了申請をした場合の最速スケジュールであるとしたうえで、同年9月末に完全閉鎖予定であると通知するとともに、②Xらは、同年7月13日のファンクラブ閉鎖をSNS等により同年6月14日に告知する予定とのことであるが、強行すれば混乱を招き、関係者やファンに迷惑がかかることから、当該告知を延期するよう求めた。
XxはYに対し、令和元年6月14日付書面により、SNS等での告知を延期する旨を通知した。
訴外会社担当者は令和元年7月8日、Y担当者に対し、ファンクラブに係る決済サービス業者のうち1社について、ファンクラブ会員向け会費決済サービスを終了させるまでに時間を要することが判明したため、ウェブサイト閉鎖までのスケジュールを次のようにしたいとのメールを送信した。
・令和元年9月30日 新規会員登録の受け付け停止
・同年10月31日 会員サービスの課金停止
・同年11月1~ 30日まで 会員サービス無料開放期間
・同年12月1日以降 会員サービスの提供終了 Yは令和元年7月14日、本件Yサイトにおいて、「FEST
VAINQUEUR Official Siteならびに月額会員サービス終了に関するご案内」と題して、上記スケジュールとともに、同年12月1日以降、会員サービスの提供および本件Yサイトにおける情報提供を終了する旨を掲載した。
Yは本件専属契約終了後も令和元年11月30日まで、本件ファンクラブサイトにおいて、Xらの肖像写真等を掲載していた。また、本件専属契約終了後も令和3年12月31日まで、本件グッズ販売サイトにおいて、Xらの肖像写真およびXらの肖像をイラスト化した画像を転写したグッズを撮影した写真を掲載するとともに、グッズを販売していた。
4.Xらは令和元年11月9日、東京地方裁判所に対し、Yを相手方として、肖像xx侵害およびパブリシティ権侵害の不法行為に基づく損害賠償を求めて、本件訴訟を提起した。
原判決(東京地判令和5年1月20日裁判所ウェブサイト)は、①本件利用行為のうち、Yが令和元年12月1日から令和3年12月31日までの間、本件グッズ販売サイトにおいて、 Xらの肖像写真およびXらの肖像等を転写したグッズを撮影した写真を掲載し販売した行為について、YがXらのパブリシティ権を侵害したとして、Xらに対してそれぞれ損害額
1万4000円およびこれに対する遅延損害金の各支払いと、
②本件利用行為のうち、本件専属契約終了後から令和元年 11月30日までのYによるXらの肖像等の利用行為について、
XらがYに対して報酬支払請求権に基づく報酬2万2277円およびこれに対する遅延損害金の各支払いを求める限度でXらの請求を認容した一方、③肖像権侵害は否定したうえで、その余の請求をいずれも棄却した。
Xxは敗訴部分を不服として、本件控訴をした。
◆判旨-原判決一部変更-
1.肖像xx侵害の成否について
「人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される(氏名につき最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年
2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁(引用者注: NHK日本語読み事件)、肖像につき最高裁昭和40年(あ)第 1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁
(引用者注:京都府学連事件)及び最高裁平成15年(受)第 281号同17年11月10日第xx法廷判決・民集59巻9号2428頁(引用者注:和歌山毒物カレー事件)、両者につき最高裁平成21年(受)第2056号同24年2月2日第xx法廷判決・民集66巻2号89頁(引用者注:ピンク・レディー事件)各参照)。そして、ある者の肖像等を利用することが、不法行為法上違法となるかどうかは、肖像等の被利用者の社会的地位、被利用者の活動内容、利用の目的、利用の態様、利用の必要性等を総合考慮して、肖像等の被利用者の上記権利の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」
「本件専属契約書には、これらの権利(引用者注:「Xらの芸名、写真、肖像、その他の人格的権利」を指す)についての本件専属契約終了後の取扱いに関する規定は何ら置かれていなかったことが認められ、……本件専属契約終了後、Yは、 Xらの芸名、肖像等の人格的権利について、Yが使用する権原を有しないこととなったといえる」
「Xらは、本件グループのファンクラブの関係者やファンの混乱を招いたり、迷惑をかけたりすることを防ぐため、Yに対し、同ファンクラブの閉鎖時期を、課金システム上の理由から同ファンクラブの会員サービスの課金を停止して同会員サービスの提供を終了することができる時期まで延期することについて黙示の許諾をしたと認められ、また、同ファンクラブが存続する限りは、会費を支払った会員に対し、本件グループのメンバーや活動内容等を紹介する記事を閲覧させ
るために、本件ファンクラブサイト及び本件ファンクラブサイトにリンクする本件YサイトにもXらの肖像等を掲載する必要があったといえることからすると、Xらは、本件ファンクラブサイトの閉鎖が可能となる時期まで、本件Yサイト及び本件ファンクラブサイトにXらの肖像等が掲載されることについても黙示の許諾をしていたと認められる」
「Xらにおいて、本件専属契約終了後も、Yが、本件グッズ販売サイトにおいて、本件グループの公式ショップとして、 Xらの肖像写真を表示した上で、Xらの肖像写真及びXらの肖像等が転写されたグッズを撮影した写真を掲載するとともに当該グッズを販売し続けることを許諾していたと認めるに足りる合理的な理由はなく、また、同許諾をうかがわせる事情の存在も認められず、同許諾を認めるに足りる証拠は存在しない」
「Xらは本件グループのメンバーとして、……アーティスト活動を行っていること、Yにおいてグッズ販売による利益を得ることを目的としていたこと、Yは、本件グッズ販売サイトにおいて、本件グループの公式ショップとして、Xらの肖像写真を表示した上で、Xらの肖像写真及びXらの肖像をイラスト化した画像を転写したグッズを撮影した写真を掲載して、当該グッズを販売していたこと、Yは、Xらからの肖像等の使用停止を求める要求があることを知りながら、本件専属契約終了後から令和3年12月31日までの相当長期間、 Xらの許諾なく利用し続けたものであることなどを総合考慮すると、これらは Xらの肖像xxの侵害となるものであって、YによるXらの肖像xxの侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものではないとすることはできない」
「本件専属契約終了後から令和元年11月30日までの間、Yが本件Yサイト及び本件ファンクラブサイトにおいてXらの肖像等を掲載した行為は、不法行為法上違法と評価すべきものとはいえない。他方、本件専属契約終了後から令和3年 12月31日までの間、Yが本件グッズ販売サイトにおいてXらの肖像等を掲載し、Xらの肖像等が転写されたグッズを販売した行為は、不法行為上違法と評価すべきものといえる」
2.パブリシティ権の侵害の有無について(原判決引用)
「〈引用者注:ピンク・レディー事件最高裁判決(最判平成 24年2月2日民集66巻2号89頁)を引用したうえで〉グッズの購入及びファンクラブへの入会を促す役割も果たす……本件YサイトにおけるXらの肖像等の利用は、商品販売等の
広告として……、本件グッズ販売サイトにおいて、Xらの肖像等が転写されたグッズを販売する行為は、Xらの肖像等を商品等の差別化を図る目的で……、本件ファンクラブサイトにXらの肖像等に係る写真及び画像等を掲載することは…… Xらの肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用するものというべきである。
したがって、Xらの肖像等を、Xらの承諾なく、本件利用行為により利用することは、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものといえるから、Xらのパブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となる」
3.損害の有無およびその額について
(1)Xらの肖像xxの侵害による損害について
「令和元年7月14日以降令和3年12月31日までの2年5か月18日間という相当の長期間、継続して、Yが本件グッズ販売サイトにおいて本件グループの公式ショップとしてXらの肖像等を掲載した行為により、Xらの意思に反して、Xらの肖像等が利用されていたものであり、Xらは精神的な苦痛を受けたものと推認されるところ、その慰謝料は、Xらの本件専属契約終了までの活動内容……、Xらの肖像等の使用が本件グッズ販売サイト及び販売グッズにおける利用という営利目的によるものであったこと、上記の侵害態様や侵害期間などを考慮すると、Xらそれぞれについて15万円を下らないと認めるのが相当である」
(2)Xらのパブリシティ権の侵害による損害について(原判決訂正引用)
「Yの……パブリシティ権侵害行為によってXらが被った損害の額は、著作xx114条3項の類推適用により、Xらが Yに対し、Xらの肖像等の使用を許諾したとすれば、得られたであろう使用料相当額というべきである。そして、当該使用料相当額は、XらとYとの間の従前の契約内容、同種の他の使用許諾契約の内容、Xらの名声の程度、Xらの肖像等の利用態様及び期間、Yが得た経済的利益の額とそれに対する利用された肖像等の貢献の程度などを総合考慮して算定するのが相当である」
「本件が、将来における使用料について合意する場面ではなく、Xらのパブリシティ権を侵害したYに対し損害賠償を請求するに当たってその損害額を算定する場面であることを考慮すると、パブリシティ権侵害による損害の額はXらそれ
ぞれについて2万6000円と認めるのが相当である」
「パブリシティ権は、肖像等の有する顧客吸引力を排他的に利用する権利であるから、パブリシティ権者は、肖像等が付された商品等を市場において独占的に販売することができる。このパブリシティ権者の市場における上記商品等に対する地位は、著作権者の市場における著作物に対する地位と共通するといえる。そうすると、YによるXらのパブリシティ権を侵害する行為がなかったならば、Xらが利益を得られたであろうという事情が存在する場合には、Xらの損害額を算定するに当たり、著作xx114条2項を類推適用することができると解される」
「YによるXらのパブリシティ権を侵害する行為がなかったならば、Xらが利益を得られたであろうという事情が存在すると認めることはできないから、Xらの損害額の算定に当たり、著作xx114条2項を類推適用する基礎を欠くといわざるを得ない」
「パブリシティ権は、人格権に由来する権利の一内容であっても、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、特段の事情のない限り、精神的損害を認めることは困難であり、本件においては、特段の事情は認められず、また、
……肖像xxの侵害による精神的損害として慰謝料が認められるから、パブリシティ権侵害を理由とする精神的損害は認められない」
◆評釈-損害賠償請求を認容した結論に賛成、理論構成の一部に疑問-
1.はじめに
本件は、Yとの間で本件専属契約を締結し、本件グループのメンバーとして活動していたXらが、Yに対し、令和元年
7月13日の本件専属契約終了後のYが管理・運営する各サイトにおける本件利用行為について、肖像xx※1およびパブリシティ権の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
当事者間では、本件グループ名のパブリシティxxについて仮処分やその後の本訴で争っており※2、仮処分抗告審決定については本誌でも論じた※3。本件では、本件グループ名ではなく、メンバー個人の肖像等の利用に関する肖像権およびパブリシティ権の侵害の有無が争われている点で異なる。
原判決が否定した肖像権侵害が本判決では認められた。また、パブリシティ権侵害は原判決を引用する形で認容された
が、知財高裁がその損害額の算定につき著作xx114条3項の類推適用を認めた点が注目される(なお、前述の本訴においてXらは同項の類推適用を主張していない)。
ピンク・レディー事件最高裁判決以降、パブリシティ権侵害の損害額算定事案はまだ少なく、今後の参考となる判決であるといえる。
2.肖像xx侵害について
原判決と本判決はともに、全く同じ4つの最高裁判決を引用しながら、結論が分かれた。
原判決は、Xらの肖像等に係る写真等はXらの承諾を得て撮影・作成され、本件専属契約終了後の本件利用行為も受忍限度を超えるものではないとして侵害を認めなかった。
本判決は、本件専属契約終了後から本件ファンクラブサイト閉鎖が可能となる時期まで、本件Yサイトおよび本件ファンクラブサイトにXらの肖像等が掲載されることについて、 Xらに黙示の許諾があったと認める一方、本件グッズ販売サイトにおけるXらの肖像写真等の表示について、本件専属契約終了後は不法行為上違法であるとした。
各サイトにおけるXらの肖像等の掲載事情の違いを本判決は丁寧に整理し、肖像権侵害が認められる範囲があることを明らかにした。
本件グッズ販売サイトにおけるXらの肖像掲載等が受忍限度を超えるとした判断要素として、XらがYにおいてグッズ販売による利益を得ることを目的としていたこと、Yが本件グッズ販売サイトにおいてXらの肖像写真を表示したうえで、Xらの肖像写真およびXらの肖像をイラスト化した画像を転写したグッズを撮影した写真を掲載してグッズを販売していたことが含まれている。
これらは、ピンク・レディー事件最高裁判決がパブリシティ権侵害の類型として示した商品等の差別化を図る目的での肖像等の商品等への付加や肖像等の商品等の広告としての使用といった、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものに該当すると考えられる。パブリシティ権とは別個のものとして扱われている肖像権の侵害を認めるにあたり、これらを判断要素とすることについては疑問が残る。
また、引用された京都府学連事件最高裁判決は肖像の撮影、和歌山毒物カレー事件最高裁判決は撮影された写真の公表という未承諾でなされた一時的行為について判示したものである。撮影およびその公表についてXらの承諾があった本
件において、両最高裁判決から肖像権侵害を直接導けるものではない。
本判決は、肖像写真の撮影および公表を承諾したとしても、その承諾を基礎づける契約関係が終了した場合、黙示の許諾があると認められる場合を除き、肖像権の侵害となり得ることを示した点に特徴がある。つまり契約関係終了時点を新たな「公表」と捉えたものと解される。
許諾契約終了後、通常実施権者だった者による特許発明の実施が特許権侵害となるのは当然のことであり、契約関係終了後の肖像等の掲載も肖像権侵害となることは当然であるという考え方があるかもしれない。
しかし、肖像権侵害、つまり不法行為となるためには受忍限度を超える必要がある。許諾のない実施が受忍限度を超えない限り特許権侵害とならないということはあり得ないのであって、両者は同等に扱えるものではない。
3.パブリシティ権侵害とその損害額の算定について
(1)パブリシティ権侵害について
本判決は、原判決を引用して、パブリシティ権侵害を認めた。ピンク・レディー事件最高裁判決が示した類型にのっとって判断した結果であり、妥当である。
なお、パブリシティ権侵害については、肖像権と異なり、受忍限度超過要件がない点は注意すべきである。
(2)パブリシティ権侵害の損害額算定について
本判決は、原判決を引用し、パブリシティ権侵害の損害額の算定において著作xx114条2項および3項が類推適用されることを認めた(ただし、本件における著作xx114条2項の類推適用は基礎を欠くとして認められなかった。以下、同条3項を単に「3項」という)。
ピンク・レディー事件最高裁判決は、結論として、パブリシティ権侵害はないとしたため、損害額算定方法については明らかにしていない。
同判決後、パブリシティ権侵害が認められた裁判例において、どのような算定方法が用いられてきたかについて以下、概観する。
①東京地判平成25年4月26日判タ1416号276頁
き そん
「AKB48」
パブリシティ価値毀損の損害について、パブリシティ権の価値を算定する手法がなく、その毀損に係る損害額を算定す
る手法もないとして、民事訴訟法248条を適用した。
3項の類推適用はそもそも主張されていない。
②東京地判平成25年4月26日判時2195号45頁
「嵐・KAT-TUN」
書籍の出版にあたり、写真の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭に相当する額を損害額とした〈控訴審判決(知財高判平成25年10月16日裁判所ウェブサイト)も引用〉。
3項の類推適用はそもそも主張されていない。
③大阪地判平成29年3月23日判時2409号105頁
「Ritmix」
画像の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭に相当する額を損害額とした〈控訴審判決(大阪高判平成29年11月16日判時2409号99頁)も同旨〉。
3項の類推適用はそもそも主張されていない。
④東京地判平成31年2月8日裁判所ウェブサイト
「ジルスチュアート」
原告から3項の類推適用が主張されたが、許諾期間終了以降も肖像等の掲載を継続したことについてパブリシティ権侵害が成立するという事案であり、被告の得た経済的な利益の有無およびその額等を総合的に考慮して検討すべきであるとして、退けられた〈控訴審判決(知財高判令和2年2月20日裁判所ウェブサイト)も同旨〉。
しんしゃく
そのうえで、損害額の立証が事案の性質上極めて困難であるとして、弁論の全趣旨および証拠調べの結果を斟酌しつつ相当な損害額を認定した。明記されていないが、民事訴訟法 248条を適用したと解される。
以上のとおり、ピンク・レディー事件最高裁判決以降のパブリシティ権侵害の損害額の算定において、裁判所が3項の類推適用を認めたことはなく、否定されたことさえある。
原判決では、Xらから主張された3項の類推適用について可能であるかどうかの検討もなく、同項に基づいて損害額が認定されており、本判決も引用した。
たしかに、上述の裁判例において、使用料相当額、通常受領すべき金銭に相当する金額といった形で損害額が認められているものもあり、3項の類推適用との親和性があるようにも思われる。
しかし、ピンク・レディー事件最高裁判決がパブリシティ権を人格権に由来する権利であると判示したこととどのような関係に立つのかは、検討が必要であろう。
著作xx114条は、財産権としての著作xxの侵害に対す
る損害額の立証を容易にするものであり※4、著作者人格権には適用されない※5。
著作者人格権侵害の場合には、精神的損害の額、すなわち慰謝料の額を算定する絶対的基準はなく、その性質上社会的にみて相当と認められる額になるというほかないから、最終的には、裁判所の判断によることとなるとされている※6。
人格権に由来する権利であるパブリシティ権に、財産権である著作xxの侵害に対する損害額の算定に関する規定である3項の類推適用が可能である理由が示される必要があろう。その際、同種の規定である特許法102条3項等についても類推適用が可能であるのか明らかにされるべきである。
また、平成12年改正により、3項において「通常受けるべき金銭の額に相当する額」から「通常」が削除された。これは、使用料額の認定において、一般的相場にとらわれることなく、訴訟当事者の具体的事情を考慮した妥当な使用料額を認定できることを明確にしたものである※7。
前述の判決②③は、同改正後のものであるが、「通常」と記されている。一般的相場にとらわれ、妥当な損害額の認定がなされないおそれがあることを見越して、本判決が3項の類推適用を認めたと仮にするのであるならば、いわゆる「侵害し得」を防ぐために有用な判断であるといえよう。
しかし、そうであるならば、なおさら3項の類推適用がなぜ可能なのかを明らかにしておくべきであった。
この点、本判決はパブリシティ権の法的性質を財産権と考えているように思われる。
なぜなら、「パブリシティ権は、人格権に由来する権利の一内容であっても、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、特段の事情のない限り、精神的損害を認めることは困難」とし、「肖像xxの侵害による精神的損害として慰謝料が認められるから、パブリシティ権侵害を理由とする精神的損害は認められない」と述べているからである。
特に後半部分からは、パブリシティ権侵害を財産権侵害とすることによって、人格権の典型である肖像権の侵害による精神的損害に対する慰謝料と重複させないよう、訴訟物として別個であることを強調する意図が垣間見える。
前述の判決②も「肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、精神的損害を認めることは困難」と同様の判断を示しているが、この事案ではプライバシーに係る損害として慰謝料が別に認められていた。
さらに「パブリシティ権が人格的利益とは区別された財産的利益に着目して認められている権利であることからすれば、現段階で、一律に、パブリシティ権が譲渡等により第三者に帰属することを否定することは困難であるといわざるを得ない」とまで述べる裁判例もある(東京地判令和4年12月8日判タ1510号229頁「xxxx」)。
本判決がパブリシティ権を財産権と考えているのであれば、何らの検討もなく3項を類推適用したことは理解できる。しかし、ピンク・レディー事件最高裁判決はパブリシティ権を肖像権や氏名権と同列に位置づけている。この点を克服できる説明が求められるだろう。
4.おわりに
パブリシティ権が人格権であれば、死亡とともに消滅する。しかし、死者の肖像等が顧客吸引力を有する場合はあり、
その商業的価値の帰属はピンク・レディー事件最高裁判決の理論構成では導けない。
ほ
おそらく今後は、パブリシティ権を財産権としてとらえるにはどうすればよいのかという議論の方向性が強まると考えられ、本判決はその議論における橋頭堡となる可能性がある。今後の裁判例の動向を引き続き注視する必要があるだろう。
(xxx xxx)
※1)「人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)」とし、それらに関する最高裁判決を引用していることから、肖像権および氏名権を指すと思われる。
※2)仮処分につき、東京地決令和元年10月9日判時2486号 47頁、東京高決令和2年7月10日判時2486号44頁。本訴につき、東京地判令和4年4月28日裁判所ウェブサイト、知財高判令和4年12月26日裁判所ウェブサイト、最決令和5年6月14日ウエストロー・ジャパン2023WLJPCA06146001。
※3)xxxx「ヴィジュアル系ロックバンドの名称にパブ
リシティ権を認めた事例-FEST VAINQUEUR事件-」発明2021年5月号44頁。
※4)xxx行『著作xx逐条講義七訂新版』(著作権情報センター・2021年)879頁。
※5)近時の文献でこの点を明記するものとして、xxxxなど『事件類型別不法行為法』(弘文堂・2021年)408頁[xxx]。
※6)xx・前掲注(4)879頁。
※7)xx・前掲注(4)887頁。
2024 No.4 The Invention 51