消費者団体訴訟制度により差止め請求が認められた事例には、定額補修分担金に関する平成21年9月30日京都地判(RETIO78- 118、控訴審あり)があるので、併せて参考とされたい。
最近の判例から
⒁−契約条項の差止め請求−
不動産賃貸事業者による賃貸借契約条項の使用差止め等を求める適格消費者団体の請求が一部認められた事例
(大阪地判 平24・11・12 金・商1407-14) xx xxx
適格消費者団体が、不動産賃貸事業者が使用する賃貸借契約条項の使用差止め等を求めた事案において、賃借人に対する後見開始又は保佐開始の審判や申立てがあったときに契約を解除できる旨の条項について、消費者契約法10条に該当するとして、同法12条3項に基づき、同趣旨の意思表示の差止め、当該意思表示が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙の廃棄は認められたが、従業員への指示を求める請求やその余の請求は棄却された事例(大阪地裁平成24年11月12日判決金融・商事判例1407号14頁)
1 事案の概要
⑴ 適格消費者団体X(原告)は、不動産賃貸事業者Y(被告)に対し、賃借人(消費者)と賃貸借契約を締結するに際し、下記⑵の意思表示を行わないこと及び当該意思表示が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙を廃棄することを請求し、従業員に対し上記意思表示の事務を行わないこと及び上記廃棄すべきことを指示することを求めた。
⑵ Xが差止めを求める意思表示は次の通り。契約条項①(解除条項)
賃借人に、「解散、破産、民事再生、会社整理、会社更生、競売、仮差押、仮処分、強制執行、xx被後見人、被保佐人の宣告や申し立てを受けたとき」のいずれかの事由が該当するときは、Yは直ちに契約を解除できる。契約条項②(損害金条項)
賃借人が、賃貸借契約終了後、直ちに物件
の明渡しを完了しない場合は、契約終了日より明渡し完了に至るまでの間、賃料の2倍に相当する損害金を支払わなければならない。特約事項①(催告手数料)
賃借人が、家賃を滞納した場合、賃借人又は連帯保証人は、催告手数料(通信費、交通費、事務手数料)として、1回あたり3150円をYに支払う。
特約事項②(権原授与)内容省略 特約事項③(残置物処分)内容省略特約事項④(クリーンアップ代)
賃借人は、賃貸借契約終了によって物件を明け渡す際に、クリーンアップ代(面積に応じた金額指定あり)をYに支払い、ペット飼育者は別途消毒費18900円を支払う。
特約事項⑤(防犯対策条項)内容省略
なお、Yは差止め請求前に契約書を改訂しており、改訂後の契約書ひな形には契約条項
①、②と同旨の契約条項が印刷されているが、特約事項は印刷されていない。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示し、Xの請求を一部認容した。
⑴ 契約条項①(解除条項)にいう、xx被後見人及び被保佐人の開始審判や申し立て以外の事由については、賃貸借契約当事者間の信頼関係を破壊する程度の賃料債務の履行遅滞が確実視される事由ということができ、xxxに反するものではなく、消費者契約法(以下「法」という。)10条後段に該当しない。
他方、xx被後見人及び被保佐人の開始審判や申し立てについては、賃借人の資力とは無関係な事由であり、申し立てによって財産の管理が行われることになるから、むしろ、賃料債務の履行が確保される事由ということができ、法10条前段及び後段に該当するから、法12条3項に基づく差止めが認められる。
⑵ 賃借人が、契約条項②(損害金条項)の適用を回避するには、明渡しという基本的義務を履行することで足りる。他方、賃貸人は賃借人の明渡義務の履行が懈怠されている場合には、相当の費用及び時間をかけて訴訟手続及び強制執行手続をとらなければならず、その費用の回収も確実とは言い難く、回収に至るまでの時間を金額的に評価すると相当なものになることは容易に想定され、賃貸人に通常生ずべき損害は賃料相当額にとどまるものではない。
以上によれば賃料の2倍の損害金を損害賠償額の予定として定めることはxxxに反するとはいえず、法10条後段に該当しない。
また、本件損害金条項は契約が終了したものの賃借人が賃貸物件の明渡義務の履行を遅滞している場合の損害に関する条項であって、契約の解除に伴う損害に関する条項ではない。
よって、法9条1号に該当しないから、法 12条3項に基づく差止めは認められない。
⑶ 特約事項①(催告手数料)については、賃貸人は、催告の実費を賃借人に請求するには、回収コストのみならず、その証憑書類を確保及び保存するコストも必要となり、これらのコストは膨大なものとなる。他方、賃借人は基本的義務である賃料支払を履行期までにすれば本条項の適用を免れるし、その金額も不相当に高額とまではいえず、xxxに反するものではなく、法10条後段に該当しない。本件催告手数料特約は賃貸人において催告
が行われた場合に要する費用についての負担を定めたもので、遅延損害金について定めた法9条2号に反しない。
⑷ 特約事項④(クリーンアップ代)が契約書に付加される場合には、賃借人は、クリーンアップ代によって負担される清掃作業及び金額を認識して合意することができ、その金額の程度からしても過重な負担とはいえず、法10条後段に該当しない。
本条項は賃貸借契約終了に伴う原状回復義務の範囲について定めたものであり、解除に伴う損害賠償の予定又は違約金について定めた法9条1号に該当しない。
⑸ 改訂後の契約書ひな形には改訂前の契約書の特約事項が印刷されていない。そして、 Yは、特約事項②、③、⑤については、Yが使用しないとして法9条及び10条の該当性について主張していない。よって、特約事項②、
③、⑤については、意思表示をYが行うおそれはないと言うべきである。
⑹ Yに対して意思表示の差止めとその意思表示が記載された契約書用紙の廃棄を命じるならば、当然その趣旨は包含されるから、改めて従業員への指示を命ずる必要性までは認められない。
3 まとめ
賃貸借契約において契約条項や特約事項の有効性についてトラブルになることが少なくない。本事案は、解除条項、損害金条項、催告手数料特約、クリーンアップ代特約について詳細に判示されており、事例判決として、実務上参考となる。
消費者団体訴訟制度により差止め請求が認められた事例には、定額補修分担金に関する平成21年9月30日京都地判(RETIO78-118、控訴審あり)があるので、併せて参考とされたい。
最近の判例から
⒂−妨害予防請求−
自己の所有する土地の隣地所有者に対し、通路部分の所有権を有するとした主張が否定され、通路部分の妨害予防請求のみが認められた事例
(東京地判 平24・4・26 ウエストロー・ジャパン) xx xx
土地所有者が、自己の所有する土地の隣地所有者に対し、自己所有地の所有権の及ぶ範囲の確認を求めるとともに、土地所有者が、隣地所有者に対し、当該範囲内の土地を土地所有者が使用することの妨害の差止めを求めた事案において、土地所有者の請求のうち、隣地所有者に対し本件通路部分の使用を妨害しないよう請求する限度で認容した事例(東京地裁 平成24年4月26日判決 一部認容(控訴)ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
⑴ 土地所有者X1(原告)は、本件土地につき、昭和63年8月12日にAから、平成8年
5月15日にBからそれぞれ相続し、加えて本件土地上の建物(以下「本件建物」という。)もBから相続し、これを現在所有している。
⑵ 本件建物は、昭和45年12月5日にBが建築し、賃借人X2(原告)は、昭和63年2月 15日、本件建物東側部分をBから賃借し、X
1は、X2に対する賃貸人としての地位も承継した。
⑶ 隣地所有者Y(被告)は、昭和52年8月 31日、本件土地に隣接する土地(以下「隣地」という。)及び隣地上の建物(以下「隣地上旧建物)を前所有者であるCから取得した。
⑷ X1は、平成20年12月、Yを相手方として、本件土地と隣地との境界の確認を求める調停を申し立てた。しかし、同事件は平成21
年10月20日、調停不成立により終了した。
⑸ Yは、平成21年11月4日、本件通路部分 の南南西側前面道路との接道部分に鉄柱(以下「本件鉄柱」という。)を設置した。また、同月13日、本件鉄柱の傍に2つの穴を開け、逆 U字型の柵を建てるための金属製の筒をそれぞれ埋め込み、これをコンクリートで固めた。このため、X2は、同月18日付けで東京地
方裁判所に対しYを債務者とする通行妨害禁止、妨害物撤去仮処分命令の申立てをした。
⑹ Yは、遅くとも同月19日、上記金属製筒部分に逆U字型のステンレス製柵(以下「本件逆U字型柵)を立てた。
これに対し、同年12月22日、上記仮処分命令申立事件につき、本件逆U字型柵等の撤去等を命ずる仮処分命令が発令され、Yは本件逆U字型柵を撤去した。
⑺ その後もXらとYとの間には、本件通路部分の使用に関し、紛争を生じた。そして、 X1が、自己所有地の所有権の及ぶ範囲の確認を求めるとともに、Yに対し、当該範囲内の土地をXらが使用することの妨害の差止めを求めた事案である。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、X1の請求を一部認容した。
⑴ 本件通路部分の所有権の帰属
① Yが隣地及び隣地上旧建物を取得した
際、前所有者のCないし当該取引の仲介に当たった不動産業者から、目的物である隣地の地積は「宅地 228.16m2 私道含 所有権」とされていたこと、その売買契約書添付の物件説明書には私道負担に関する事項として、負担あり、その面積約23m2とされている。
② また、当該売買契約書に添付されたものと見られる図面には、本件通路部分のxx中央付近から南側中央付近に直線が引かれるとともに、当該直線により仕切られた本件通路部分の東側が本件土地の一部であることを前提とするとみられる本件土地の面積の計算式が上部に手書きで記入されている。
③ Yは、本件通路部分全体が本件土地の一部ではなく、その一部は隣地の一部である旨の認識を有していたことを窺わせる。現に、 Yは、隣地等の購入に際し旧ブロック塀の外側にある本件通路部分が私道である旨の説明を受けた旨供述している。
④ これらの事情等を総合的に考慮すると、その境界は必ずしも分明ではないものの、本件通路部分は本件土地の一部と隣地の一部とから成るものと見るのが相当である。したがって、X1は、本件通路部分全体につき本件土地の一部として承継取得したとはいえない。
⑤ 以上より、本件通路部分の全部につきX
1が所有権を有するということはできない。 X1は、本件通路部分のうち本件土地の一部を成す部分についてのみ所有権を有するにとどまる。ただし、本件通路部分のうち本件土地の一部を成す部分と隣地の一部を成す部分との境界は分明でない。
⑵ Xらの本件通路部分の使用権限
① 本件建物の賃借人らは、かねてより本件通路部分全体を通行及び自動車等の駐車場所として使用してきたこと、その後も本件建物の賃借人による同所の使用が若干態様を変えつつも継続されたことが認められる。これら
の事情を総合的に考慮すると、本件土地所有者と隣地所有者との間では、その所有者をそれぞれ変更しつつも、その時々の各所有者間で、本件通路部分の各所有部分につき、相手方が通路として相互に排他的でなく使用することを許容する旨の使用貸借契約を締結してきたものというべきである。したがって、X
1とYとの間においても、本件通路部分のうち隣地に含まれる部分につき、X1が本件土地のB持分を単独で所有するに至った平成8年5月15日には、Yを貸主、X1を借主とする使用貸借契約が成立したものと見るのが相当であり、Yは、X1に対し、同人による使用を妨害してはならない債務を負う。なお、 X2はX1の賃借人にすぎず、X1が自ら妨害予防を請求している以上、これを請求する権利を有することはない。
② よって、X1の請求のうち、Yに対し本件通路部分の使用を妨害しないよう請求する限度で理由があるから、その限度でこれを認容する。
3 まとめ
本判決は、境界は必ずしも分明ではないものの、本件通路部分のうち本件土地の一部を成す部分についてのみ、土地所有者の所有権を認め、隣地所有者との間では、本件通路部分の各所有部分につき、相手方が通路として相互に排他的でなく使用することを許容する旨の使用貸借契約を締結してきたものというべきであるとして、土地所有者の隣地所有者に対する本件通路部分の妨害予防請求が認められた事例であり、通行権をめぐる一つの事例として実務上参考になろう。
なお、近隣との権利関係の事例として、東京地判平23・12・27RETIO87-110、東京地判平23・6・29RETIO85-110なども併せて参考にされたい。
最近の判例から
⒃−滞納管理費負担義務−
死亡したマンション区分所有者の包括承継人である相続財産法人は、滞納管理費等について支払義務を負うとされた事例
(東京地判 平24・4・18 ウエストロー・ジャパン) xx x
マンション管理組合が、管理費等の支払いを怠っていたマンション区分所有者の死亡によりその包括承継人となった相続財産法人に対し、滞納管理費等の支払いを求めるとともに、同区分所有権の喪失までの間に発生する管理費等の支払いを求めた事案について、その請求が認容された事例 (東京地裁 平成24年4月18日 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
⑴ 原告Xは、Aマンションの管理組合である。被告Yは、同マンションの区分所有建物の所有者で、死亡した亡Bの相続財産法人である。
⑵ 亡Bは、平成13年4月分から管理費等(管理費:月額8,030円、修繕積立金:月額13,500円、駐車場使用料:月額:23,000円)を滞納し始め、それを支払わないまま同年9月4日に死亡した。同人の法定相続人全員が相続を放棄したため、Xは甲家庭裁判所に相続財産管理人(以下「管理人」という。)選任申立を行い、平成23年7月13日、管理人としてC弁護士が選任された。
⑶ しかし、滞納管理費等の支払い等がなされないことから、XはYに対し、529万6,686円及び内289万3,840円に対する平成23年11月
2日から支払済みまでの年15%の割合(本マンション管理規約の定め)による金員の支払いを求めるとともに、平成23年12月から本件区分所有権を喪失するまで、毎月1日限り月額2万1,530円及びこれに対する各支払い期
日の翌日から各支払済まで年15%の割合による金員の支払いを求めて、訴訟を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、Xの請求を認容した。
⑴ 亡Bは管理費等の支払い義務を負うか 亡Bの包括承継人である相続財産法人は、
亡Bが滞納した管理費等の債務を承継する
(本件管理規約24条)とともに、同人の死亡後現在に至るまでの管理費等の支払義務を負うとするXの主張については、前提事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、いずれも認められる。
⑵ 将来請求の可否
① Xの主張 Yは、X代理人に対して、平成23年7月27
日、本件建物には根抵当権及び複数の根抵当権設定仮登記が設定されており、売却が困難であるため任意売却はしない旨告知した。そこでXとしては、本件訴訟の認容判決取得後、 Yに対し、区分所有xx競売請求訴訟を提起し、認容判決取得に基づき競売の申し立てを予定しているが、その間も管理費等の滞納額は増大する一方である。よって、本件建物の Yの所有権を喪失させるまでの間の管理費等の回収を担保するためにも、本件の将来請求は訴えの利益があるというべきである。
② Yの反論 Xの主張に沿う事実はなく、本件の将来請
求について訴えの利益ないしその必要性はない。
③ 裁判所の判断 Xは、履行期未到来の管理費等の支払いを
求めるので検討するに、将来の給付の訴えは、あらかじめその請求をして給付判決を得ておく必要のある場合に限り認められる(民訴法 135条)ところ、前記認定事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件においては、Yの管理費等の支払義務は継続的に月々確実に発生するものであることと、本件マンションは戸数150の比較的規模の大きなマンションであるが、Yの管理費等の滞納によって、Xがその運営や財政に支障を来す可能性は否めず、また、これまでのYの本件に対する対応からすれば、将来分をも含めてYの管理費等支払拒絶の意思は強いものといえるから、将来分の管理費についてもYが即日履行するとは期待できない状況であることなどが認められる。
以上の事実によれば、本件はあらかじめその請求をして給付判決を得ておく必要がある場合といえるから、将来の履行期未到来の管理費等の支払い請求も認められる。
⑶ 消滅時効の成否
① Yの主張
管理費等の請求債権は、年又はこれより短い時期によって定めた定期給付債権であるから、5年を経過したものは時効によって消滅しているから、Yは、口頭弁論期日において時効を援用する。
② Xの反論
本件において、時効は完成していない。
③ 裁判所の判断
相続財産に関しては、管理人が選任された時から6か月が経過するまでの間は、時効は完成せず(民法160条)、また、管理人の選任ない限り、相続財産に対する権利について時効完成はあり得ない(最高裁昭和35年9月2日判決・民集14巻11号2094頁参照)ところ、
前提事実、証拠及び弁論の全趣旨並びに顕著な事実から、Yに管理人が選任されたのは、平成23年7月13日であること、Xは、それから6か月を経過する前である同年11月26日に本件訴訟を提起したことが認められ、これによれば時効は中断したといえる(民法147条
1号)。したがって、Yの消滅時効の主張は認められない。
3 まとめ
マンションの維持管理において、管理費等の滞納に対する対応は頭の痛い問題である。例えば、バブル期に分譲されたリゾートマ ンション等において、管理費等の滞納額が高額になっている区分所有建物が複数ある一方、競売等による所有者交代が進まず、滞納管理費の件で大変困っているマンション管理
組合があるという話を耳にするところである。本件は、管理費等を滞納した区分所有者が 死亡し、かつ法定相続人が相続放棄をしたため、その包括承継人となった相続財産法人に対し、マンション管理組合がその支払いを求めて裁判を提起した事案である。本件では、滞納した管理費の請求が認容されたのはもちろんだが、滞納者側の対応からすれば将来の管理費等の支払いも期待できないこと等から、区分所有権の競売による所有権喪失までの間の管理費等の回収を担保するための将来請求が認められており、実務において参考に
なると思われる。
最近の判例から
⒄−xxxパネルの撤去請求−
xxxパネルの反射光が受忍限度を超えるとして、隣地建物所有者によるその撤去及び損害賠償請求が認められた事例
(横浜地判 平24・4・18 ウエストロー・ジャパン) xx xx
新築された建物のxx屋根上に設置されたxxxパネルによる反射光のため、建物の所有権を円満に利用できなくなったとして、隣地建物所有者が、新築建物の施主に対して、所有権に基づく妨害排除請求権として同パネルの撤去を求め、同施主及び建物工事を請け負った会社に対して、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において、施主らの責任を認め、xxに設置された全てのパネルの撤去と損害賠償請求の一部を認容した事例(横浜地裁 平成24年4月18日判決 一部認容・一部棄却 控訴 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
X1及びX2(原告、以下「Xら」という。)は、建物(以下「X建物」という。)を所有し、居住していたところ、平成20年4月14日、同建物に隣接してY1(被告)が2階建ての建物(以下「Y建物」という。)を新築し、その屋根上に、xxx発電用ソーラーパネルを南側に7枚、xxに12枚設置した(以下これら19枚のパネルを「本件パネル」という。)。本件パネルは、Y1が、建物の設計・施工等を目的とする会社Y2(被告)に注文し、Y
2がY建物の建築及び本件パネルの設置工事
(以下「本件工事」という。)を請け負い、完成させたものである。
Y建物は、その敷地が南側に傾斜して狭くなっていることから、xx斜線の規制等のため、屋根は、中央やや南側部分に最も高い部分があり、面積は南側よりxxが広く設計さ
れた。そのため、南側よりもxxの屋根に多くのxxxパネルを設置することになった。
Y建物が完成する前にX2はY1に対し、本件パネルによる反射光について説明を求め、Y2の担当者がX建物を訪問して反射光を確認した。
本件パネルによる反射光は、xxの位置により、差し込む場所、時間、程度が異なるものの、ほぼ1年中X建物に差し込み、反射光が差し込む時間は、短い部屋で1日30分~1時間位、長い部屋で3時間位である。反射光の程度は、通常の輝度と比較すると100倍以上(最大4000倍を超える)の輝度となる。
Xらは、反射光が強いときには、南側を見ることができなかったり、2階のベランダに洗濯物を干す際にはサングラスをする必要がある。また、2階の部屋で洋裁等をすることが困難な場合がある。
Y2は、反射光を防ぐ方法として、本件パネルの撤去費用37万8000円と本件パネルの買取費用233万2050円をXらが負担する、パネルの位置を変更しその費用53万3000円をXらが負担するなどの提案をした。これに対し、 X1は、なぜXらが費用を負担しなければならないのか等の説明を求めるなどしたところ、Y1は、xxxの反射は自然現象であり、 Y1に加害責任があるとは考えていないと書面で回答した。
Xらは、Y1に対し、所有権に基づく妨害排除請求としてxxに設置されたパネルの撤去を求め、Y1及びY2に対し、不法行為に
基づく損害賠償請求権各自110万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めて提訴した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示し、Xらの請求を一部認容した。
⑴ 認定の事実によれば、本件パネルのxx12枚のパネルにxxxが反射し、その反射光がX建物に差し込むこと、その頻度及び程度も曇天でない限り、ほぼ毎日、一定時間継続して生じていること、そのため、Xらにおいて、X建物内でも洋裁等の作業ができなかったり、ベランダに洗濯物を干す際にサングラスの着用が必要となるなどの状態であることからして、本件パネルによるX建物の所有権の円満な利用が妨害されており、その程度はXらの受忍限度を超えるものと認めることができる。
⑵ Y1は、Y2に注文し、本件パネルを設置したものであり、これにより、Xらの建物所有権の円滑な行使を妨害し、Xらの日常生活の平穏を害したものと認めることができる。よって、Y1は、Xらに対し、建物所有権に基づく妨害排除請求権として本件パネルのうち、xxの12枚の撤去義務を負うとともに、不法行為に基づく損害賠償債務の責任を負う。
Y2は、住宅建築の専門業者として、Y建物のxx屋根にxxx発電パネルを設置すれば、そのxx敷地に隣接する住宅に反射光被害が及ぶことを予測することが可能であったにもかかわらず、Y1の注文に従い、本件工事を行い、本件パネルの反射光がX建物に差し込むことにより、Xらの日常生活の平穏を害し、精神的苦痛を生じさせたものと認めることができる。よって、Y2は、Y1とともに、不法行為に基づく損害賠償債務の責任を
負う。
⑶ Y2の解決案について、Xらが、Y1に回答を求め、Y1がこれを拒否又はY2に連絡するよう言ったことが認められるものの、Y1は、書面で誠実に対応しているのであり、Xらの要求に応じないからといって、 Xらに対する違法性が拡大したものとまで認めることはできない。
⑷ Xらが恒常的に受忍できる限度を超えた反射光の被害を受けている事情は認められるものの、反射光被害は、一日のうち一定時間、一定の場所に限られ、また曇天の日は被害が生じないことなどを考慮すると、Xらの精神的苦痛を慰謝するためには、Xら各10万円をもって相当と解する。Xらは、本件訴えの提起を余儀なくされたものであるから、弁護士費用として各自1万円の損害を被ったと認めることができる。
⑸ 以上によれば、XらのY1に対する本件パネルのxx12枚の撤去の請求、Y1及び Y2に対する共同不法行為に基づく損害賠償請求は、Xら各自11万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却する。
3 まとめ
本件は建物新築工事をめぐる事案であり、工事を請け負った会社は、xxxパネルを建物のxxに設置することについて、条例を含む法令上の規制等は存在せず、指導等も行われていない、業界内においても類似事例はなく希有な例であるなどとして、被害の発生について予見可能性がなかったと主張したが、認められなかった。環境に配慮した建物への関心が高まっているところであり、xx業者としても、建売住宅の分譲や媒介等に当たり、念頭に入れておくべき事例といえる。