即ち、UCC §2- 312(3)では、別段の合意のない限り、売主がその種の物品を恒常的に取り扱っている商人であれば、売主は当該物品が権利侵害等により第三者からの適法な請求を受け
取引契約における非侵害保証がない場合の契約不適合責任について
岩坪総合法律事務所弁護士 xx xxx
第1 はじめに
通常の取引契約において、明示的な非侵害保証がない場合に、取引の対象となる目的物が第三者の知的財産権を侵害しているときは、買主は売主に対して契約上の責任を追及することができるのか、民法の条文上は明確ではない。
また、売買契約に関する瑕疵担保責任に関する規定は、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)による民法改正(以下「債権法改正」という。)により見直され、契約不適合責任として改められている。
そこで、本稿では、債権法改正前の裁判例を分析しながら、債権法改正後の民法(以下「旧民法」ともいう。)において、明示的な非侵害保証がない場合に売主の契約不適合責任を追及できるのかを検討する。
なお、取引契約としては、一般的な売買契約以外に請負契約などの典型契約、請負や売買などの要素を含んだ混合契約なども考えられるが、本稿では主として一般的な売買契約を念頭に検討し、また、非典型契約であるライセンス契約に関する裁判例や見解も参考とした。
第2 民法と外国法等の関連規定
1 民法の関連規定
我が国の民法においては、第三者の知的財産権を侵害する製品を販売した場合の売主の責任に関しては、債権法改正前の民法では瑕疵担保責任(旧民法570条)又は債務不履行責任の問題、債権法改正後の民法では契約不適合責任(民法562条)等の問題を検討することとなるが、これらの条文上は知的財産権侵害が明示的に規定されているわけではなく、あくまでこれらの条項の解釈の問題となる。
これに対し、下記2のとおり、比較法的にはデフォルトルールとして第三者の権利侵害がないことを売主に保証させている例もある。
2 外国法等の関連規定
⑴ 米 国
米国の統一商事法典(Uniform Commercial Code、UCC)においては、売主に第三者の権利侵害をしていないことの保証責任が定められており、基本的には各州においても採択されている。
即ち、UCC §2-312(3)では、別段の合意のない限り、売主がその種の物品を恒常的に取り扱っている商人であれば、売主は当該物品が権利侵害等により第三者からの適法な請求を受け
ないことを保証することとされている。
また、買主が売主に対して仕様書を提供している場合、当該仕様書に準拠したことから生じる請求に関しては、買主は売主を免責しなければならないとされている。
⑵ ウィーン売買条約(CISG)
日本も加盟している国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)は、国際的な物品売買契約において、日本法を準拠法とした場合でも直接適用される場合があるが、当該条約においては、一定の範囲内で知的財産権に基づく第三者の権利等の対象になっていない物品を引き渡す義務が定められている。
即ち、当該条約第42条では、売主は、当事者双方が契約締結時に想定していた転売又は使用先の国、あるいは買主の営業所国のものであって、自己が契約の締結時に知り、又は知らないことはあり得なかった工業所有権その他の知的財産権に基づく第三者の権利又は請求の対象となっていない物品を引き渡さなければならないと規定されている。
また、買主の認識や図面等による指定がある場合などは、例外的に売主が責任を負わないとも規定されている。
第3 債権法改正前の民法(瑕疵担保責任等)
1 関連規定の概観
⑴ 瑕疵担保責任
ア 権利の瑕疵と物の瑕疵
債権法改正前の民法では、売買における売主の責任として、債務不履行の一般原則とは別に、売主の担保責任の規定が置かれていた。
そして、担保責任の内容として、①権利の瑕疵(他人の物の売買の場合(旧民法560条~ 564条)、数量不足等の場合(旧民法565条)、権利負担がある場合(旧民法566条、567条 )については追奪担保責任、②物の瑕疵(旧民法570条)については瑕疵担保責任が定められていた。
イ 瑕疵担保責任の法的性質
前提として、瑕疵担保責任の法的性質については、対象となる目的物が特定物に限定され、債務不履行責任とは異なる、法律が特に定めた法定責任であるとする考え方が有力であった。
但し、判例は、不特定物売買の事案で、買主が瑕疵の存在を認識した上でこれを履行として認容し債務者に対しいわゆる瑕疵担保責任を問うなどの事情が存すれば格別、そうでなければ完全な給付請求をなす権利があるとして、不特定物についても瑕疵担保責任の適用の余地を認めており、必ずしも法定責任説を採用しているわけではないとされていた(最判昭和 36年12月15日民集15巻11号2852頁)。
ウ 瑕疵の意義
債権法改正前の民法第570条の「瑕疵」については、一般的には目的物が本来備えるべき品質等を欠いていることであるが、それを確定する際に何を基準とするかによって、学説上は、①契約において当事者が予定していた品質、性状等を欠いていることを瑕疵とする考え